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マスター:STANZA
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
形態:
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/12/31


みんなの思い出



オープニング



 冬の夜空に輝く、巨大なクリスマスツリー。
 生徒達の手によって精一杯のおめかしをされた老木は、静かにその日を待っていた。

 大きな木の全体を包む様に巻かれた色とりどりのイルミネーション、雪を模したふわふわの綿、そして大きなリボンの数々。
 枝のあちこちに下げられたオーナメントの数々は、市販の物もあれば、それぞれに趣向を凝らした手作り品もある。
 静かに揺れるヤドリギは再生や永遠の命のシンボルだが、その下に立つ女性には誰でもキスし放題という話は本当だろうか。
 それに混じってカラカラ音を立てているのは、願い事が書かれたプラ板だ。
 商店街とのタイアップ企画が奏功し、今では七夕の笹もかくやと思う程に下げられていた。
 木の根元には数々のプレゼントボックス。
 今はカラッポだが、もしかしたらクリスマスの朝にはプレゼントが入っているかも……?

 そして木の周囲の広場にはテーブルや椅子が持ち込まれ、パーティの準備が着々と進められていた。
 開始時刻は夕方の五時。
 ピカピカの巨大ツリーを楽しむには、やはり暗くなってからの方が良い。
 少し寒いけれど、暖かい食べ物や飲み物、そして皆の笑顔があれば気にならないだろう。
 終了時間は特に定めない。
 体力が許すなら、日付が変わるまで騒いでいたって構わない。
 でも余り遅くまで騒いでいると、サンタさんがプレゼントを配れないから……それだけは、気を付けて。

 それでは――

 メリークリスマス!



リプレイ本文

●誰かの為に、皆の為に

 その日の午後早く。
 ツリーの周囲には、既に何人かの生徒達が集まっていた。
(そういえば天気予報は快晴だったな)
 綺麗に晴れた空を見上げつつ、美森 仁也(jb2552)はツリーに巻かれた防水用のビニールを取り外していく。

「うむ、ぱーてぃーの主役はモミの木殿である!」
 ラカン・シュトラウス(jb2603)も、ツリーの上空を飛び回りながら仕上がり具合を確認していた。
「飾り付けが曲がっていたり、雨よけのびにーるが付いていては格好がつかないのである(コクり」
 汚れていたり、曲がっていたりするものを見つけては、綺麗に直していく。
「外したビニールは、これに入れてくださいね!」
 下ではシグリッド=リンドベリ (jb5318)が、大きなゴミ袋を広げて待ち構えていた。
 手の届く所はダスターで汚れを綺麗にふき取り、届かない所はラカンに抱えて貰って、せっせと綺麗にする。
「頂上の星は特にぴかぴかにしますよー!」
 綺麗に磨いて、ちょっと下がって位置を確認して。
「うむ、完璧なのである(コクり」
 完成!(グッ

「クリスマス! サンタさんまだかな!」
 飛べる人達が上の方で頑張る中、雪室 チルル(ja0220)は下の方に飾りを追加していた。
「やっぱりプレゼントはたくさんあった方がいいよね!」
 という事で、キラキラのプレゼントボックスを枝に吊していく。
 根元には少し大きめの箱が所狭しと並べられていた。
「あの時に作ったプレゼントBOXがあるよ、お姉ちゃん♪」
 地領院 夢(jb0762)が、姉の地領院 恋(ja8071)と一緒に置いたものだ。
「これ、プレゼント交換に使わせてもらって良いかな?」
 チルルに訊かれ、夢がにっこりと頷く。
「うん、いいよ。みんなに使ってもらえたら嬉しいな。ね、お姉ちゃん♪」
「そうだな」
 答えて、恋も頷いた。
「ありがとう!」
 チルルは早速、夜なべして作った毛糸の手袋を綺麗な淡いブルーの箱に入れる。
「あたいのプレゼント、喜んでもらえるかな?」
「私はこの箱にしようかな」
 小さなボックスを手に取った夢は、姉へのプレゼントをこっそりと忍ばせる。
 その様子を見ながら、恋は何だか少し落ち着かない様子でそわそわしていた。
 今日の衣装は、ふわふわニットのワンピースにコート。
 色こそ落ちついた紺色だが、普段あまり着ない様な可愛い系のコーディネートだ。
 似合っているだろうか。浮いてはいないだろうか。
「お姉ちゃんに似合うって思って選んだの♪」
 そう言った夢は柔らかなピンク色、色違いのお揃いだ。
「うん、ありがとう」
 妹が選んでくれたものだし、きっと大丈夫…か。
 慣れないせいか、皆の目にどう映るかは少し気になるけれど、お揃いの服が着られる事は嬉しかった。

 幹の周囲にはチルルの企画に賛同した仲間達が続々と集まって来る。
 その集団を微妙に避ける様にして、天原 未緒(jb7657)はこっそりと願い事のプラ板を吊していた。
 いや、特に避けている訳ではない。
 出来る事なら皆の輪に混ざりたいのだが……緊張と人見知りで、少しばかり腰が引けているのだ。
「友達…できるかな?」
 期待と不安を胸に抱きながらも、楽しみに待っていたパーティ当日。
 お菓子も焼いたし、プレゼントの可愛い小物も用意してきた。
 友達が出来ますようにと、願い後も書いた。
 後はほんの少し、勇気を出すだけだ。
 パーティが始まったら、手作りのクッキーを持って声をかけに行ってみよう。

「これがだーりんがアイデア出したってゆーツリーかあ…」
 大きなモミの木を見上げ、新崎 ふゆみ(ja8965)は愛しの王子様に思いを馳せる。
「さっすがふゆみのだーりん、アッタマいいのだっ☆ミ」
 まるで自分の手柄の様に胸を張ってみた。
 そして早速自分もと、願い事を目一杯ぶら下げる。
『だーりんと来年もらっぶらぶでいられますよーに☆(ゝω・)v』
 それはお願いしなくても大丈夫なのでは?
 それとも、今回おひとりさま参加という事は何か二人の間に危機的な状況が……ないか。
『おかぁさんと妹弟が元気でいられますよーに★ミ』
 それから、それから……

 その傍らには、何やら挙動不審な人物が一人。
「クリスマスパーティーって初めてです! ツリーもすっごく綺麗!」
 と、感嘆の声を上げる事自体は怪しくも何ともない、ごく普通の反応だが。
「とと、それはそれとして…えーっと…あれ、どこだろう…?」
 竜見彩華(jb4626)が探している「あれ」とは、藁人形に五寸釘が刺さったカマボコ板の飾りだ。
「師匠が誤解したまま飾っちゃったなら、弟子がちゃんと訂正しないと!」
 一体どこに飾ったのか、人目に触れる前に天使のオーナメントに付け替えをしなければ……だいぶ手遅れな気が、しないでもないけれど。
「あった! って師匠、どうしてあんな高い所に……」
 壁走りでも使ったのだろうか、異様な空気を纏ったブツは遥か頭上で揺れていた。
 これはヒリュウに手伝って貰うしか!
「後でちゃんとごちそう取り分けてあげるから、お願いね!」
 よし、交換完了。
 誰も見てない。見てないよね。
 これで弟子としてのお役目は果たした。
「後はめいっぺぇパーティーさ楽しむすk…楽しみますよ!」

(せっかくの聖夜やし、綺麗な夜空が見られたらえぇな…)
 九条 静真(jb7992)は大きなツリーを見上げ、次いで隣に並んだ志摩 睦(jb8138)の横顔をちらりと伺う。
(…これ、デートとかに…なるんやろうか…)
 その視線を感じ、睦は静真を振り返った。
「願い事するんは、夜がええな。ほら、星に願いをて言うやろ?」
 その言葉に、静真は微笑と共に頷く。
 彼女がそうしたいなら、その通りに。
(まずはパーティーを楽しもうか)
 身振りでそう言い、静真はゆっくりと歩き出す。
 デートなら腕くらい組んだ方が良いのだろうか……そう思いつつ、睦の気配をすぐ後ろに感じながら。


 一方、こちらは調理実習室。
 美森 あやか(jb1451)と礼野 真夢紀(jb1438)は温かいお菓子を作っていた。
 あつあつのプリンと焼き林檎は冷めないうちに出せる様に、時間を見計らって。
 他にも、好きが昂じてついつい大量に作ってしまった、真夢紀特製のシュトーレンがある。
「部室のクリスマス会分退けても結構ありますし、幸せのおすそ分けしましょうか」
 薄く切ったものに前日作ったジンジャークッキーを添えて、小分けにして綺麗にラッピング。
 これだけで立派なプレゼントになるだろう。

 その隣では、星杜 焔(ja5378)が自慢の腕をふるっていた。
「クリスマスのごちそう作るよ〜」
 様々な味のロールケーキは一人分に切り分けて、積み木の様に積み重ね、見た目も綺麗で可愛くなるように。
 孤児施設で子供達が好きだった手作りパイに、あったまれる南瓜スープやココア。
「大勢で食べやすい形式にするね〜」
 骨付きローストチキンにはリボンを飾って、後は……何が良いだろう。
「スープは会場でもあっためられるようにした方が良いかな」
 外は寒いから、鍋ごと持って行ってもあっという間に冷めてしまいそうだ。
「身体も心も、あったかくなれると良いな〜」

 そして、もう一組。
 新柴 櫂也(jb3860)とリラローズ(jb3861)の兄妹も、料理作りに精を出していた。
 魔界から来た二人とって人間界のクリスマスというものに馴染みはないが、人々の様子を見ると余程楽しい行事なのだろう。
 それに、この日の為に作る特別な料理というものもあるそうで――
「しば兄様、兄様の料理、とっても美味しそうv」
「ん、味見して貰えるか、リラ?」
「勿論ですわ、楽しみにしてましたのよv」
 伝統的なクリスマス料理と、外は寒いだろうからと温かい料理を。
「どれも美味しいですわ」
 幸せそうに味わうと、リラローズはヒイラギの飾りを付けた茶色い半球状の物体を差し出した。
「私、クリスマスプディングを作りましたの!」
 それは、この国でプリンと呼ばれるものとは全く異なる本場仕様。
 本を見て、何週間も前から頑張っていたらしい。
「ちゃんと、中にコインも仕込みましたのよ」
 切り分けた中にそれが入っていた人には富と健康、そして幸福が訪れると言われている。
 さて、幸運を射止めるのは誰だろう。



●さあ、楽しもう

 久遠ヶ原の町もすっかり赤と緑のクリスマス一色。
 これが明日になれば一斉に、紅白の正月飾りに取って代わられるのだ。
 そんな事をぼんやり思いながら、天ヶ瀬 焔(ja0449)は妻の天ヶ瀬 紗雪(ja7147)を待っていた。
 久しぶりの、外での待ち合わせ。
 一緒に暮らすようになってからはそんな機会も必要も殆どなかったが、こうして待っている時間もなかなかに楽しいものだ。
 そうして待つこと暫し。
 人混みの向こうから小走りに駆けて来る紗雪の姿が見えた。
「ごめんなさい、待たせてしましました…?」
「いや、俺も今来たところ」
 息を弾ませた紗雪に、焔は定番の台詞と共に微笑みかける。
「よかった、です」
 彼の事だから、きっと30分くらい前には来ていたに違いないと思いつつ、紗雪は笑みを返した。
「買い物、行きましょうか」
 紗雪が横に並ぶと、ほんのりと良い香りが焔の鼻をくすぐる。
「あ、これ…」
「はい、誕生日に貰った香水…つけてみたのです」
 よかった、気付いてくれた。
 でも、いつもより少し沢山お洒落して来た事には……果たして気付いてくれただろうか。
 脇からそっと見上げてみるが、それ以上の反応はなさそうだ。
 二人はそのままクリスマス気分を楽しみながら商店街をそぞろ歩く。
「あの大きなツリー、ここからでも見えるんですね」
 周囲はまだ明るいが、モミの木には既に灯りが瞬いている。
「なんだか、早くおいでって言ってるみたいです」
 シャンパンやスパークリングワイン、未成年にはシャンメリーを手土産に、会場へ急ごうか。


「ほら、大きなツリーきれいですねー」
 星杜 藤花(ja0292)はツリーを見上げながら、腕に抱いた赤ん坊に声をかける。
 くまさんのつなぎを着たその子は、名を望という。
 先頃の依頼で預かり、夫の焔と共にただいま子育て真っ最中。
 今日は子どもの情操教育も考えて、家族での参加だ。
 とは言え、焔は料理の支度で忙しいのか、まだ会場には姿を見せていない。
 代わりに集まって来たのは仲間達。
「うわぁ、可愛い!」
 くまさんになった望、お姉さん達に大人気だ。
「ちょっと抱っこさせて貰っても良い?」
 そう言った鏑木愛梨沙(jb3903)に、藤花は赤ん坊の様子を見ながら「どうぞ」と微笑んだ。
 どうやら大勢の人に囲まれてもご機嫌な様だし、色々な人に構って貰うのも良い経験になるだろう。
 人見知りは……どうやら大丈夫、愛梨沙の腕に抱かれてニコニコと笑っている。
「可愛いなあぁ…ね、センセ?」
 振り返った先で相変わらずぼんやりしている門木に声をかけた。
 その隣にはレイラ(ja0365)がいる。
 二人ともサンタの格好なのは、レイラの提案によるものだ。
 なので愛梨沙もサンタの衣装に身を包み、本日は三人でデートというのは本人の談。
 実際のところは愛梨沙の計画に二人が問答無用で巻き込まれたというのが正しい認識の様だ。
 そんなわけで、門木は現在両手に花という非常に羨ましい状況にあるのだが。
 何とも勿体ない事に、本人にモテているという自覚はない。
 デートと言われても今ひとつピンと来ない残念っぷりっだった。
 そんな門木は、藤花の腕に戻った赤ん坊に目を細めている。
 もしかして子供好きなのだろうか。
「先生も抱っこしてみますか?」
 藤花に言われ、しかし門木はぶんぶんと首を振って後ずさる。
「……こ、怖いから…いい」
 怖いって、何が。
「……触ったら、壊しそうで…落としたり、とか……」
 うん、くず鉄大魔王的にはサワルナキケンかもしれないけれど。
「大丈夫ですよ。ほら、こうして…」
「……こ、こう…か?」
 抱き方を教えて貰いおっかなびっくり抱き上げた様子は、まるで新米パパの様だ。
「……望、か。……うん、良い名前だ」
 この子はきっと、幸せになる。
「……良い所に貰われた、な」
 自分に重ねているのだろうか、一言そう呟くと、門木は藤花の腕に赤ん坊を返した。
「……ありがとう、貴重な経験…だった」
 後でオモチャでも作ってやろうか、などと思いつつ。
「先生、子供お好きなんですか〜?」
 そう声をかけて来たのは、大きな鍋を運んで来た焔パパだ。
 どうやら料理の準備は完了したらしい。
「……うん、まあ…可愛い、よな」
「可愛いですよね〜」
 慣れた様子で赤ん坊を抱き上げた焔は、もう随分とパパらしい顔つきになっていた。
「今日はこの子にもいろんな人のやさしい思いがつまったものを見せておきたいなあと思って、家族で参加したのですよ〜」
「それに、大勢の皆さんに構って頂いて」
 連れて来て良かったと、藤花。
「…ひととの繋がりは何よりも大切だと思いますし」
「赤ちゃんの頃の記憶って残るものなのだよ…」
 楽しいパーティにしよう。
 思い出す度に心がほっこりと温かくなる様な。


 やがて全ての料理が運び込まれ、辺りも暗くなってツリーのイルミネーションがますます輝きを増した頃。
「はい、焼きたてのプリンです。熱いうちにどうぞ、器からそのまま食べて下さいね」
 思い思いの席に着いた仲間達に、あやかと真夢紀がオーブンから出したばかりの焼きプリンを配って歩く。
 それに、焼き林檎も添えて……
「はい、お兄ちゃん。これならお兄ちゃんにも食べて貰えるかなって」
 本来、仁也は甘い物はそれほど好みではない。
 しかしあやかの手料理ならば。
「うん、ありがとう」
 本当は彼女の作った料理、全部を独り占めしたいくらいだ。
 本音を言えば、他の人には食べさせたくない。
 自分の為だけにその腕を振るって欲しい……なんて。
(料理上手で好きな事は知っているから何も言わないけどね)
 持っていた手袋とマフラーを手渡し、その頑張りを応援する。
「夜になると寒くなるからね」
「ありがとう、お兄ちゃん」
 お兄ちゃんと呼ばれるのも、あともう少し……?
 恋と夢は手土産のシュトーレンを、温かいジンジャーティーと共に。
「お姉ちゃんに教えて貰って作ったんだ、皆食べてくれると嬉しいなっ」
 それはそうと。
「夢ちゃん、寒くない? 手袋しようか?」
「大丈夫だよー、お姉ちゃん過保護ー」
 くすくすと笑いながら、夢は恋の手をとった。
「お姉ちゃんこそ冷たいんじゃない? あっためてあげようか?」
 両手でぎゅーっと握ってみる。
「でもね、手が冷たい人は心があったかいんだって」
「じゃあ、あったかい人は心が冷たいの?」
 その問いに、夢は首を振った。
「手があったかい人は、心もあったかいんだよ!」
 どっちにしても、あったかいんだ?
 楽しげにシュトーレンを配って歩く妹の様子を、恋は楽しげに見守っていた。
 そしてクッキー製造マシーンと化したふゆみは、家で作って来た大量のジンジャークッキーをどーんと。
「おいしくできたよっ★」
 人型をしたそのクッキーには色々な表情が付けられていたが、どれも楽しそうに笑っていた。
 リラローズはクリスマスプディングを切り分け、櫂也と共に配って歩く。
 大皿料理は各自で取り分け、スープ類はエプロンを付けたサンタ、レイラが給仕を買って出た。
「お料理を作って下さった皆さんは、ゆっくり休んでいて下さい」
 そしてお揃いのエプロンが手渡されたという事は、門木にも手伝えと?
「はい、お願いしますね」
 スープの皿を各自の席に運ぶのが門木の仕事だ。
 転んでぶちまけないように、気を付けて。
 無事に配り終わったら……
「先生」
 レイラがそっと門木の肘をつつく。
 こういう場合の音頭は年長者が取るものだろう。
「……え、でも、何て言えば…」
 困り顔のところに、レイラがそっと耳打ち。
 入れ知恵を授けられて、門木はグラスを手に立ち上がった。
「……皆のお陰で…モミの木の爺さんも、立派なクリスマスツリーになった。……ありがとう、メリークリスマス」
 乾杯。
「「メリークリスマス!」」
 あちこちでグラスが合わさる音が響く。
 後はもう無礼講だ。
「ぱーてぃーを存分に楽しむのである!」
「はい、楽しみましょうー!」
 ラカンが良い音をさせてシャンパンの栓を開ける。
 あ、シグリッドはノンアルコールでね、未成年だから。

「いただきまーす!」
 彩華が早速ケーキにかぶりつく。
「ううー太っちゃうーても幸せ!」
 さっきまで、ちょっとしおしおになっていた事は秘密だ。
 だって精一杯お洒落して来たのに、皆すごく綺麗なんだもん!
「さっすが都会モンは垢抜けてるなやー」
 しかし、ずらりと並んだケーキやご馳走の山に、気分も急上昇。
 でもでも、この丸ごとローストチキンってどうやって食べれば良いんだろう。
 豪快に丸ごとかぶりついて……うん、ダメですよねー。
「ああ、うん。こうやって切り分けるんだよ〜」
 一家団欒ゆったりのんびりモードに入ろうとしていた焔が立ち上がる。
 料理人は作った料理に最後まで責任を持たなければならないのだ。
 別にそんな決まりはないけれど、今決めた。
 続いてあっちからもこっちからも、切り分けを頼む声が上がる。
 ローストチキンも足一本とか、最初から切り分けてあるものは珍しくないが、まるごと一羽というのは余り馴染みがないかもしれない。
「どれ、ここは俺の出番かな」
 ディートハルト・バイラー(jb0601)が助っ人に入ってくれた。
 流石は肉食文化のドイツ人、獲物の解体には慣れていらっしゃるご様子。
「こういった集まり、パーティ、プレゼント交換。どれも若者たちの遊び場だ。俺のような中年を混ぜてくれるだけでも有難いね」
 その礼と言ってはなんだが、出来る事は手伝わせて貰おうか。
 彩華は早速、切り分けて貰ったチキンをぱくり。
「美味しいっ!」
 こんがり焼けた皮の香ばしい香りに、ジュワッと染み出る肉汁、柔らかで口当たりの良い肉。絶品だ。
 夢中で舌鼓を打つそんな彼女に、そーっと近寄る影ひとつ。
「ぁ、あの……」
 緊張と人見知りの為か、蚊の鳴くような声が囁く。
「ボクと…友達になってください!」
「え?」
 モグモグしながら顔を上げた彩華の鼻先に突き付けられた、クッキーの小袋とプレゼント。
 その向こうには顔を真っ赤に染めて俯いている女の子の姿があった。
 年の頃は彩華と同じくらいだろうか。
「あんた、見ない顔ね。新入生?」
 その向こうからひょいと顔を出したのはチルルだ。
 こちらもやはり、同年代に見える。
「えと、あの…ボク、天原未緒って言います!」
 チルルにも手土産を差し出し、ぺこり。
「ありがとう、あたいは雪室チルル」
「あたしは竜見彩華、よろしくね」
 三人はそのまま同じテーブルを囲んで、女子中学生らしいお喋りに興じる。
 育ち盛りの胃袋に、ご馳走をもりもりと詰め込みながら。

「あそこの女子会、盛り上がってますね」
 ご馳走を楽しみながら、シグリッドはそちらの方をちらちらと気にしていた。
「シグリッド殿も混ぜて貰うと良いのである。皆、丁度年の頃も同じくらいであるぞ?」
「でも、女の子ばかりですし…」
 その様子に目ざとく気付いたチルルが、皆と額を合わせて何やら相談を始めた。
「どうする?」
「ボクは…友達になってくれるなら、男の子でも」
「あたしも構わないよ」
 未緒と彩華の同意を得て、チルルは大きく手を振った。
「ねえ、あたい達と一緒に食べない?」
 声をかけられ、シグリッドはラカンを見る。
「行って来ると良いのである(コクり」
「じゃあ、ラカンさんも一緒に…!」
「我は大人なのである。ここは遠慮しておくのでぁ――」
「大丈夫ですよ、ラカンさんは猫さんですから!」
 何だろう、その理屈。
 でも妙に説得力がある事は事実だ。
 そんなわけで、二人は遠慮なく女子会に混ざってみる。
 そこでは丁度、リラローズに貰ったクリスマスプディングを食べ始めたところだった。
「あれ? あたいのプディング何か入ってる?」
 フォークの先に当たった硬い感触。
 取り出してみると、それは幸運のコインだった。
「おお、チルル殿はラッキーなのである!」
「おめでとう!」
 何か良い事、あると良いな。

「お疲れ様」
 料理を配り終えたあやかの為に、仁也は椅子を引いてやった。
「ありがとう」
 腰を落ち着け、辺りを見回す。
「あれ、真夢紀ちゃんは?」
 さっきまで一緒だった後輩の姿が見えないが……
「彼女ならあっち。気を利かせてくれたみたいだよ」
 仁也の視線の先で、真夢紀が小さく手を振っている
 本当は気を利かせたと言うよりも、仁也の機嫌を損ねたくない一心での行動なのだが。
「悪いことしちゃったかな」
 心の中で真夢紀に詫び、そして感謝もしつつ、でも仁也と二人きりで過ごせる事は素直に嬉しい。
 二人でツリーを見て、ただ寄り添っているだけで幸せだった。

 その真夢紀はラッピングしたシュトーレンとジンジャークッキーのセットを皆に配り歩いている。
「どうぞ、お土産にしても良いですよ」
「ありがとう!」
 受け取った夢は、思わず自分で作ったものと見比べてしまった。
 さて、どっちが美味しく出来ているだろう。
「それ、持って帰ったら喜ぶんじゃないかな?」
「兄さんにお土産…?」
 恋の提案に、夢は首を傾げる。
「両方持って帰って、どっちが美味しいか食べ比べてもらうとか」
「うん…少し勿体無いけど」
 それに、自分が作った方が美味しいに決まってる……と、思うけど、多分。
 自信はあるけど、でもちょっと心配。恋はそんな妹の様子に確かな成長を感じつつ、微笑ましげに見守る。
「皆が飾ったツリー、綺麗だね」
 皆で飾ったから、余計に輝いて見えるのだろうか。
「こんな素敵な事をお手伝い出来てよかったね!」
 こくりと頷き、恋はこの場にいない弟に思いを馳せる。
「あの子も来れば良かったのにね」
 ほんと、勿体ない。

「メリークリスマス。いい子にしてたか?」
 お菓子を配りに来た真夢紀に、ディートハルトはお返しにと飴の小袋を手渡した。
 後はいつも通り、楽しんで飲むことにしよう。
 とは言え、周囲には酒の飲めない若い子が殆どだ。
「どれ、少し邪魔させて貰うとしようか」
 グラスを片手にふらりと立ち上がる。
 ターゲットは勿論――

「センセと、ずっと一緒に居られたら良いなぁ……」
 誰にも聞こえないようにこっそり呟いた愛梨沙は、ちらりと隣の門木を見る。
 彼を挟んで反対側には、せっせと世話を焼くレイラの姿があった。
 しかし世話好きな二人に挟まれ、当の本人は何となく居心地が悪そうな。
 色々と気に掛けて貰えるのは嬉しいが、厳しい母親に鍛えられ、ほぼ放任主義で育てられた彼にとっては、どうにも落ち着かないらしい。
「……あの、な」
 遠慮がちに切り出してみる。
「……俺の事は、もういいから…二人とも、好きなように楽しんで来て、良いぞ?」
 しかし門木はわかっていなかった。
「ご心配なく」
 愛梨沙が微笑む。
 二人とも、今まさに好きな事を存分に楽しんでいる真っ最中なのだ。
「ね、レイラ?」
 言われて、レイラも頷く。
 二人はライバルではあるが、だからといって熾烈な争いを繰り広げている、という訳ではない様だ。
 どちらもマイペースに、自分に出来る事で頑張っている。
 肝心の勝敗についてはどちらも甲乙付け難い……と言うか相手が鈍すぎて勝負にならないと言うか。
(そうだ、良い機会だから……)
 愛梨沙は考えた。
 この際きっちり宣戦布告、と言うほど物騒なものではないが、ライバルに自分の思いを伝えておいた方が良いかもしれない。
 意思疎通で一方的にというのは、少々公正さに欠ける気もするけれど――
(ただ伝えておきたいだけだし、大丈夫よね)
 意を決して、愛梨沙はレイラに思念を送ってみた。
『あたしセンセが……エルナハシュが大好きよ♪』
 気付いたレイラが顔を上げる。
 敵意も悪意もない事を笑顔で示し、愛梨沙は続けた。
『でもレイラの事も友達として好きよ。だからどっちがセンセに選ばれても恨みっこ無しにしよ? もし他の人だったら……それはまたか考えよっか』
 目下、一番の強敵は養母のリュールである気がするけれど。

 と、何となく微妙な空気の漂う中、救世主(?)が現れた。
「やあ、Mr.カドキ」
 ディートハルトだ。
「お嬢さんがた、少しの間Mr.カドキをお借りしても良いかな?」
 言いつつ、門木を隅の席へ誘う。
「飲む相手が欲しいと思ってね。少し付き合ってくれると有難いんだが」
 女の子達には申し訳ないが渡りに船と、門木は二つ返事でいそいそと付いて行った。
 冷や酒で乾杯し、後は適度な距離と会話を保ちつつ勝手に酒盛り。
 うん、落ち着く。
「ところで、君も何か…プレゼントは、頼んだのか?」
 首を傾げた門木に、ディートハルトは言った。
「別に、大人が願い事をしちゃいけないって訳でもないだろうさ」
「……こっそり、願い事は…したが」
 プレゼントは頼まなかったな、そう言えば。
「……ディート、は…何か、頼んだのか?」
 勝手にディート呼びしちゃってるけど、良いかな。良いよね?
「ん、俺かい? 俺はそうだな…とびきり美味い、酒が欲しいよ」
「……だったら…」
 どん!
 門木が取り出したのは、新潟土産の名酒、その名も「越乃乾杯」……って、何か違う?
「やっぱり君は、俺を楽しませてくれる」
 くすくすと笑いながら、ディートハルトは懐から小さな箱を取り出した。
「腕時計だ。君は頓着しないだろうが、時間は貴重だからね」
「……俺、に?」
「なに、使わなければどこかに仕舞いこんでおくと良いさ」
 いや、有難く使わせて貰う。
 何だか少し、大人になった気分だ……いや、見た目は中年だが中身はアレだからね、うん。
 しかし返せるものがない。
 プレゼントなんて何も考えていなかった。
 お返しは、いつかまた別の機会で良いだろうか。



●二人だけの、聖なる夜

 パーティ会場は飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎで楽しく盛り上がっている。
 しかし中には喧噪を離れて静かな一時を楽しむ者達もいた。

「お誕生日おめでとう、黒」
 今日、12月24日は蛇蝎神 黒龍(jb3200)の誕生日。
 七ツ狩 ヨル(jb2630)は大事に持って来たプレゼントを手渡した。
 誕生日の正装はメイド服という盛大な勘違いは絶賛続行中だが、寒さには勝てず普通の格好で失礼します。
 しかし正装は断念しても、祝う気持ちに変わりはない。
「俺のとお揃いだけど、色違いの…アンブレラ」
「ん、おおきに。恋人同士で交換ってのが一番嬉しいけどな」
 それを聞いて、ヨルはかくりと首を傾げた。
「もし恋人になったら、今と何か変わるの?」
 目の前でキラキラ輝くクリスマスツリーのイルミネーションが、いつかの夜に見た煌めく町の灯りと重なる。
「もっと近づける」
 黒龍は自分の胸を指し、次にその同じ手でヨルの胸元に触れた。
「ここと、ここ、ココロとココロが」
 そっと抱き寄せ、ココロを合わせる。
「もっと近づけば皆の知らないボクのココロの箱をヨルが開く」
「ココロの箱…? 黒はそれを開けたいの?」
 感じるのは互いの温もり。
 そして少しずつ速くなり、トクリトクリと奏でるココロの音。
 それがもっとよく聞こえるように、ぎゅっと抱き締めた。
「ボクはヨルに開けて欲しい」
 腕の中に収まったヨルは暫しの間、心地よいリズムと温もりに包まれ、身を任せる。
 こうしているのは、気持ち良い。
「黒の欲しい『好き』とは違うかもだけど…俺、黒の事、好きだよ」
 でも、その『好き』だとココロの箱は開けられないのだろうか。
「ん、ごめんな。焦らんでもええから」
 ヨルを腕に抱いたまま、黒龍はその髪を撫でる。
「これ、和傘風で、濡れると桜の模様が浮き出るんだって」
「雨降るの、楽しみやね」
 この寒さだと雪になるだろうか。
 寒さの苦手なヨルには厳しい季節だが、こうしてくっつきながら暖を取るには最適だ。
「これ、探してた時」
「うん」
「楽しくて、でも少し不安で」
「不安?」
「ん…、気に入ってくれるかなって」
「ヨルくんが選んでくれるんやったら、なんでもええよ」
 こくり、ヨルが頷く。
「黒が俺に何かしてくれる時の気持ちはこんな感じなのかな…って、思った」
「せやな、おんなじかもな」
 お揃いだ。
「せやから、これもお揃い」
 ポンチョの中に引っ込めていたヨルの腕を探り、黒龍はブラックチェーンブレスを嵌めてやった。
「ボクのも嵌めてくれる?」
「…ん」
 二人の名前が刻まれた、お揃いのブレス。
「今日はボクが決めたボクの誕生日なんや」
 冥魔だから、いつ此処に来たかなんて覚えていない。
 けれど楽しそうな日、色んなヒトが賑わう日に決めたかった。
 そう決めた、いつかのイヴと同じ様に、今日も世界は賑やかで楽しい。
 このまま穏やかな日が続けば良い。
『皆、幸せになりますように』
 ヨルが書いた願い事が、イルミネーションの光を反射して煌めく。
「今日みたいに皆で笑い合える日が来ればいいな…って」
「うん、来るとええな」
 来ないなら、引き寄せる。
 ヨルが望むなら、どんな手段を使ってでも。

『いつまでも一緒にいられますように』
 Rehni Nam(ja5283)が枝に吊した願い事を見て、亀山 淳紅(ja2261)は苦笑いを漏らす。
「せやね。…クリスマスは、正直あんま良い思い出もないんやけど」
 それでも。
「傍にいてくれたら、それもちょっとはましな日に思える気もするし」
 淳紅はレフニーを真っ直ぐに見た。
 今日の彼女は小さなレザーフラワーがついたカチューシャを身に付けている。
 それは去年、自分が贈ったものだ。
 一年前にも、同じ時を過ごしていた証。
 一年後には、どうなっているだろう。
「一生なんて贅沢言わんから、とりあえず今日はずっと、隣におってな」
 その言葉に、レフニーはこくりと頷く。
「…一度は私から消えようとしたけれど、もう二度と離れないのです」
 だからどうか、死が二人を分かつまで…一緒にいたい。
 一年後も、十年後も、出来る事なら百年後にも。
「ごめんなさい、ちょっとしんみりさせちゃったですね」
 暗い考えを振り払う様に微笑むと、レフニーはリボンのかかった包みを取り出した。
「お詫びというわけじゃないですけど。私からの、プレゼントなのです」
「おおきに! 今、開けてもええ?」
 嬉しそうな淳紅の問いに、レフニーはほんのりと頬を染めながら頷く。
 早く見たいと逸る気持ちを抑えつつ丁寧に包みを解くと、現れたのは暖かそうな手編みのセーター。
 赤地に白の五線譜マークが入ったそれは、よく見れば音符がハート型になっている。
「気に入って貰えると、良いのですけど」
 答える代わりに、淳紅は早速腕を通してみた。
「似合うやろか?」
「うん、とっても似合ってるのです」
「おおきに、大事に着させて貰うなー」
「それと……」
 レフニーはそっと顔を近付ける。
 ふわり、互いの唇が軽く触れた。
「これが、もうひとつのプレゼントなのです」
 レフニーは少し恥ずかしそうに微笑みながら、そっと離れる。
 それを引き止める様に、淳紅が腕を差し伸べた。
 銀色の柔らかな髪に触れ、髪飾りを留める。
 精巧な作りの小さな花をあしらったステンドグラス製、勿論彼の手作りだ。
「ありがとう、ジュンちゃん」
 その手触りを確かめ、手鏡に映し、嬉し素に微笑む。
 後は二人でツリーを眺めたり、軽く食事をしながら、のんびり過ごそうか。
「クリスマスデート、なのです♪」
 ところで……
「ジュンちゃんは、どんな願い事したのです?」
「…自分が好きな人が幸せでありますように、って」
 今度は、できれば死以外の形で叶いますように、と――
「私は今、ジュンちゃんと一緒にいられて幸せなのですよ」
 身近な所から少しずつ、叶えていけば良い。
 彼女の笑顔が、そう言っている様に見えた。

(クリスマス…家ではやらんしなぁ)
 でも、この雰囲気は嫌いじゃない。
 そんな事を思いながら、静真は『商売繁盛』と書いたプラ板を吊す。
 彼の実家は老舗の呉服店、だからその願いも不自然ではないが……本当の願い事は別にあった。
 しかし、それは黙して語らない。
 傍らに吊した睦のプラ板には『皆の笑顔が沢山見れます様に』と書かれていた。
(…ほんまは、一緒に居れるだけで十分なんやけど)
 と、それも声には出せない睦だけの密かな想い。
(折角のお誘いやから、ワガママになってみよう思う)
 皆の中には勿論、静真も含まれていた。
 と言うか、その筆頭だ。
 そう思いながら静真を見ると、思いがけず柔らかな笑みが返って来た。
 その笑顔を、もっと見たい。
 もっと、沢山お話したい。
 そんな思い込めたプレゼントを、感謝を込めて手渡す。
『あ り が と う』
 嬉しそうな笑顔と共に、静真は首を傾げる。
『開 け て い い?』
「うん、いいよ」
 そう言われて、静真は子供の様にワクワクした様子で包みを開けた。
 中から出て来たのは、和柄のシンプルな手帳とメモ帳のセット。
 受け取った静真は、早速メモ帳にメッセージを書いてみる。
『俺からも、プレゼント』
 メモを添えて渡した小さな袋には、暖かそうな手袋が入っていた。
「…プレゼント、うれしい」
 それを大事そうにぎゅーっと抱き締めた睦に、もうひとつ。
 静真がポケットから取り出したのは、マフラーを巻いた黒猫のマスコットが付いたストラップ。
『こ れ も』
「…可愛い…、ありがとう」
 嬉しそうに微笑んだ睦に、静真は空を指差した。
「うん、星…見ようね」
 二人で肩を並べて、真冬の冴えた星空を見上げる。
『き れ い』
 降る様な星の光に、静真は眩しそうに目を細めた。
「うん、綺麗や…」
(…以前は親に監視されとったから、ガラス越しやない、誰かと一緒の夜空なんて、初めて…)
 それに、すぐ近くに感じる静真の温もり。
「…あったかい」
 うれしくて、しあわせで、こころがあったかい…。
「…静真くん。ありがとう、ね…」
 ふにゃりと表情を崩し、嬉しそうに笑う。
 目が合った静真からも、ふわりとした緩い微笑みが返って来た。

「メリークリスマスですわ、しば兄様♪」
 纏うファーケープもマリアドレスも、クリスマスカラーで華やかに着飾ったリラローズが、ツリーの下で笑いかける。
「メリークリスマス、リラ」
 ふと見上げれば、その頭上にはヤドリギがあった。
「キス、して下さってもよろしいですのよ?」
「な、何言ってるんだか」
 艶やかに微笑み誘いかける妹に、櫂也は頬を紅く染めて狼狽える。
 予想通りの反応に、くすりと笑みを漏らすリラローズ。
「寒いのか、震えてるな」
 照れ隠しなのか、櫂也は自分のマフラーを外して妹の首に巻き付けた。
(これがお返事代わりかしら)
 暖かなマフラーに顔を埋め、リラローズは悪戯っぽい目で兄を見る。
 と、その表情が何か重大な決意をしたかの様に引き締まった。
 何だろうと首を傾げた妹に、兄は「…実は、俺も告白する事が」と切り出す。
「俺はハーフらしい。どうやら、人間と悪魔の」
 その言葉に、リラローズの瞳が僅かに見開かれた。
「純粋な悪魔じゃない俺はリラの兄の資格があるだろうか」
 本人でさえ知らなかった新事実。
 今まですっと、同族だと思っていたのに。
 それを聞いて、リラローズが驚かない筈がなかった。
 けれど――
「…兄様は、リラの大好きな、大事な兄様ですもの。どんな事があっても、不変なのですわ」
 いつもと変わらない微笑を返した妹に、櫂也は安堵の息を吐く。
「ありがとう、リラ」
 微笑みと共に、額に軽く口づける。
「あら、唇にはして下さらないの?」
 まだそんな事を言っているリラローズの首に、櫂也はネックレスをかけてやった。
「俺からのクリスマスプレゼントだ」
 トップに揺れる薔薇の花はピンクゴールド。
 リラローズの髪と瞳に似て、とても良く似合っている。
「ありがとうございます、しば兄様。では、私からはこれを」
 手渡したのはヴァイオリンのドレスアップパーツ。
「また、素敵な演奏を聞かせて下さる?」
「リラが聴いてくれるなら、望みのままに」
 嬉しそうに微笑むと、櫂也は早速パーツを取りつけたヴァイオリンを奏で始めた。
 曲は勿論、彼女が好きな――

 ヴァイオリンの美しい旋律が静かに流れる中、仁也はあやかに声をかけた。
「…早めに帰って、明日早朝に片付けに来ようか」
 疲れただろうと、大勢で騒ぐのが余り得意ではない彼女を気遣う。
 何でもお見通しな仁也に、あやかは全幅の信頼を寄せていた。
「プレゼントは、家に帰ってから渡すね」
 まだ騒がしいパーティ会場をこっそりと抜け出し、二人は帰途に就く。
 盛り上がっている所に水を差しても申し訳ないし、ここは黙って帰るのが良いだろう。

「もう帰る方がいらっしゃるのですね」
 その様子を目にした紗雪が呟く様に言った。
「俺達もキリが良い所で帰るか」
「そうですね…でもまだ、もう少し」
 組んだ腕の先を絡めて繋ぎ、隙間なくぴったりとくっついて。
 紗雪と焔はモミの木の周辺をゆっくりと散策していた。
「寒い、ですしね…? 仕方ないと思うのですよ?」
 本当は温かい料理とお酒で、身体は随分と温まっているのだけれど。
 こんな夜に離れて歩くなんて、有り得ない。
「ツリー、綺麗ですね」
 近くで見る巨大ツリーに、紗雪は感嘆の声を上げる。
 周りの賑やかな声に耳を傾け、イルミネーションに映る焔の横顔を見詰めて。
 幸せを噛み締め、笑みを零す。
「幸せ?」
 その問いかけに、紗雪はとろける様な笑顔を返した。
 見ている焔も、釣られて頬が緩む。
「これ、プレゼント」
 手渡したのは彼女に似合いそうな淡い色合いのタートルニット。
「ありがとう、私からは…これを」
 紗雪は腕時計を手渡す。
 早速それを腕に嵌めると、焔は胸に抱えたプレゼントごと紗雪を抱き締めた。
「何時もありがとう、紗雪。大好きだよ」
「泣いても怒っても…最後に笑顔にしてくれるのは焔だけ…いっぱい大好きです」
 ヤドリギの下、誰の目も届かない場所で、二人は甘い甘い口付けを交わす。
 まるで周囲の空気まで、甘い色に染まってしまいそうだった。

「あの、門木先生」
 レイラが声をかけたのは、パーティも終盤に差し掛かった頃。
(私がこんなにも人を好きになれたのは門木先生がいたから)
 ツリーの下に呼び出して、二人きりの時間を作る。
(だから、大切な想いを伝えたい。いつだって先生を支えてあげたい)
 今日こそ、きちんと伝えたい。
 大切な想いを大切な人に。
「これ、クリスマスプレゼントです」
 まず手渡したのは、コツコツ編んできた手編みのセーター。
 淡いベージュに白で模様が編み込まれている。
「サイズは、大丈夫だと思います」
 この間、こっそり計ったから。
「……ありがとう…すごいな」
 感心しているものの、女子に手編みのもの――しかもセーターを貰うという事の価値を理解しているのだろうか、コイツは。
 商店街のオバチャン達に色々貰うのとはワケが違うんだよ?
 しかしレイラはめげない。
 大きくひとつ息を吸い、思い切って……
「門木先生が好き、大好き」
 言った。
 果たしてその想いは通じるのだろうか。
「……うん、ありがとう」
 門木は少し照れた様な微笑を浮かべる。
「……嫌われては、いないだろうと…思っていた、が。……改めて、言われると…嬉しいものだ、な」
 いや、その好き嫌いとは……多分、種類が違うと思うんだけど。
「……でも、俺…先生、だから。……生徒の事は、みんな好きで…誰が特別とは、言えない。……贔屓とか言われて、虐められたりしたら…」
 門木はレイラの頭をそっと撫でた。
「……だから、卒業するまでは…このまま、な」
 悪意をぶつけられるのは、痛くて苦しい。
 自分を好きだと言ってくれる相手を、そんな目に遭わせる訳にはいかなかった。
 いつか教師と生徒ではなくなる頃、もしもまだ同じ気持ちでいてくれるなら。
 答えは、その時に。
 その頃には「好き」の本当の意味もわかるようになっているだろうから――



●片付けるまでがパーティです

 楽しかったパーティも、そろそろ終わりが近付いていた。
 焚き火が燃える傍の席では、藤花が赤ん坊を腕に抱いたまま、うとうとと船を漕いでいる。
「藤花ちゃん、疲れてるんだろうね」
 慣れない子育てに奮闘している上に、お母さんである事に休業日はないのだから。
 焔は毛布を借りて来て、その肩に掛けてやった。
 自分も早くから料理の支度で忙しく、疲れてはいるが……そこは男の子、そしてお父さんでもある。
「もうひと頑張り、しないとね〜」
 本格的な後片付けは明日で良いとしても、ある程度は綺麗にしておかなくては。
「パーティ、もう終わりなんだね(´・ω・`)」
 ふゆみが名残惜しそうに呟く。
 しかし、そこは元気一杯の女子高生、しかもリア充。
「だーりんにも後で持ってってあげないとっ(*´ω`)」
 自作のクッキーや余ったお菓子を、せっせと袋に詰め始める。
 あ、勿論片付けも手伝うよっ☆

 そして全員の協力で片付けも無事に終わり――
 ツリーの根元に置いた交換用のプレゼントは、明日になればサンタさんが届けてくれるだろう。
 多分、それぞれの好みに出来るだけ合わせた形で。
 個別の交換が済んでいない人は、今のうちに。
「じゃあ、はいお姉ちゃん。メリークリスマス♪」
 夢に小箱を手渡された恋は、お返しにと、やはり小さな箱を手渡す。
「メリークリスマス、だ」
 中身は雪が解けて春が来るのが待ち遠しくなるような、小さい花のついたヘアピンのセット。
「わあ、可愛い!」
 気に入ってくれたなら、何より。
「あたしも…これが、センセの身を守ってくれますように」
 愛梨沙はストーンレザーブレスを門木に手渡す。
「……ありがとう」
 何だか色んな人から貰ってばかりで、申し訳ない。
 お返しはちゃんと考えておくからね。
 最後に、チルルが『来年もみんなで一緒にクリスマスを祝えますように』と書いたプラ板を枝に吊した。
 きっとそれは、皆が等しく願う事。
「願い事、叶うと良いな」
 ここにいる人も、いない人も、誰もがそれぞれの大切な人達と一緒に過ごせる未来。
 来年も再来年も、ずっと……当たり前の平穏が続きますように。



●幸せの取り替えっこ

 その日の夜中、プレゼント交換に参加した皆の元にサンタがやって来た。
 夜なべして作ったチルルの手袋はディートハルトに。
 ディートハルトが選んだ革財布は焔に。シンプルだからこそ誰にでも使えて、しかも丈夫で長持ちだ。
 焔が提供した手縫いの白いテディベアは愛梨沙に。可愛らしいクリスマスモチーフの手作りクッキーが詰まった袋を抱っこした姿が、何とも愛らしい。
 愛梨沙が選んだ天使の手帳はレフニーに。
 レフニーが置いた市販のジンジャーボーイはラカンに。
 ラカン提供のもこもこ可愛い大きな白猫のぬいぐるみはシグリッドに。
「シグリッド殿、我はぬいぐるみではないのであるっ!?」
 もっふもっふ。
 シグリッドの卓上猫カレンダーは淳紅に。
 淳紅が作った星型ステンドグラスのペンダントは藤花に。
 藤花が選んだ可愛らしい犬の縫いぐるみポシェットはチルルに。
 これで全員、交換は無事に済んだだろうか。
 誰に何を渡すかはサンタの独断と偏見で選ばせて貰った、らしい。
 よって返品及び再交換は受け付けませんので、悪しからず。



●また来年

 翌日、ツリーの周囲は再び大勢の人で賑わっていた。

「モミの木の飾りを外す前に、記念撮影しますよ!」
 シグリッドの声に、仲間達が集まって来る。
 飾り付けを頑張った人も、パーティを楽しんだ人も、みんな一緒に。
「プリントが出来たら門木先生にお渡ししますね」
「……ん、ありがとう」
 これでまた、科学準備室の壁に思い出が増える。

 撮影が終われば、本格的な片付けだ。
「リボンは洗えるものは洗ってアイロンをかけておきますね」
 昨日早めに帰ってしまった分と、あやかは早朝から頑張っていた。
 壊れたオーナメントは修理して、汚れたものは綺麗に拭いて。
「また来年宜しくね」
「壊れ物は新聞紙に包んでダンボールへ入れて下さいね!」
 そう声をかけつつ、シグリッドは満杯になった箱にマジックで中身を書いていく。
 こうしておけば、来年も必要なものがすぐに取り出せる。

 最後に淳紅が、モミの木の根本に植物用の栄養剤をぷすっ。
「今年はおおきに。来年まで元気でな」
 その隣でラカンとシグリッドが頭を下げる。
「モミの木殿お疲れ様でしたなのである。来年もよろしくなのである(コクり」
「来年も一緒にクリスマス迎えたいですね、モミの木さん…!」
 風もないのにモミの枝がさわりと揺れた。
 まるで、彼等の声に応える様に――


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:12人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
思い繋ぎし紫光の藤姫・
星杜 藤花(ja0292)

卒業 女 アストラルヴァンガード
202号室のお嬢様・
レイラ(ja0365)

大学部5年135組 女 阿修羅
撃退士・
天ヶ瀬 焔(ja0449)

大学部8年30組 男 アストラルヴァンガード
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
君との消えない思い出を・
駿河 紗雪(ja7147)

卒業 女 アストラルヴァンガード
女子力(物理)・
地領院 恋(ja8071)

卒業 女 アストラルヴァンガード
ひょっとこ仮面参上☆ミ・
新崎 ふゆみ(ja8965)

大学部2年141組 女 阿修羅
夢幻に酔う・
ディートハルト・バイラー(jb0601)

大学部9年164組 男 ディバインナイト
絶望に舞うは夢の欠片・
地領院 夢(jb0762)

大学部1年281組 女 ナイトウォーカー
芽衣のお友達・
礼野 真夢紀(jb1438)

高等部3年1組 女 陰陽師
腕利き料理人・
美森 あやか(jb1451)

大学部2年6組 女 アストラルヴァンガード
最愛とともに・
美森 仁也(jb2552)

卒業 男 ルインズブレイド
はいぱーしろねこさん・
ラカン・シュトラウス(jb2603)

卒業 男 ディバインナイト
夜明けのその先へ・
七ツ狩 ヨル(jb2630)

大学部1年4組 男 ナイトウォーカー
By Your Side・
蛇蝎神 黒龍(jb3200)

大学部6年4組 男 ナイトウォーカー
撃退士・
新柴 櫂也(jb3860)

大学部3年242組 男 鬼道忍軍
砂糖漬けの死と不可能の青・
リラローズ(jb3861)

高等部2年7組 女 ナイトウォーカー
208号室の渡り鳥・
鏑木愛梨沙(jb3903)

大学部7年162組 女 アストラルヴァンガード
想いを背負いて・
竜見彩華(jb4626)

大学部1年75組 女 バハムートテイマー
撃退士・
天原 未緒(jb7657)

高等部2年18組 女 インフィルトレイター
遥かな高みを目指す者・
九条 静真(jb7992)

大学部3年236組 男 阿修羅
宛先のない手紙・
志摩 睦(jb8138)

大学部5年129組 女 ナイトウォーカー