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マスター:STANZA
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:25人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/12/09


みんなの思い出



オープニング



「……こんな所に……えぇと、これは……」
 久遠ヶ原の人工島、その一角。
 小春日和に誘われてぶらぶらと散歩に出ていた門木章治(jz0029)は、目の前に聳え立つ大きな木を見上げて立ち止まった。
 全体の形は細長い円錐形。
 細く尖った葉は、冬だというのに青々としている。
「……モミ、か」
 頭に詰め込んだデータベースと照らし合わせ、木の種類を特定した。
「……確か、クリスマスツリーに使われるのも……この木だったな」
 クリスマスという行事に関する知識も、頭の中にある。
 だが、あるのは知識だけで、実際に経験した事はない。
 木に何かを飾って楽しむ行事には七夕があるが、あれとはどう違うのだろう。

「……この木に、飾り付けをしたら……すごいだろうな」
 幹は一人では到底抱えきれない太さだ。
 高さは20mほどあるだろうか。
 ここまで大きくなるには、相当な歳月が必要だろう。
 だが、ここは人工島。
 島が出来た当初に植えられたものだとしても、その頃には既に苗木と呼べるサイズではなかっただろう。
 成長した木が何処からか運ばれたのだろうか。
 だとしたら、何の為に?

 周囲に他の木はなく、芝の生えた平坦な地面が広がっている。
 まるで、その木を中心に作られた広場の様にも見えた。

 この木は元々、クリスマスツリーとして植えられたのかもしれない。
 門木が知る限り、この木が電飾で飾られた事も、広場でパーティが行われた事もない様だが。
「……お前、もう一度……着飾ってみるか?」
 クリスマスまで一ヶ月余り、もう飾り付けを始めても良い頃合いだ。
 飾りは手作りでも良いし、リサイクルショップで安く手に入れる事も出来るだろう。
 だが、流石に一人は難しい。
 と言うか無理。
「……生徒達に、頼んでみるか」
 そして、クリスマスイヴには皆でパーティを。

 門木は鱗の様にヒビ割れて重なったモミの木肌にそっと手を当てる。
 それは、ひんやりと冷たく……しかし、ほんのり温かい様な、不思議な手触りだった。




リプレイ本文

●まずは現場の下見から

 その木は遠くからでも良く見えた。
「うわぁ、大きなモミの木!」
 思わず駆け寄った蓮城 真緋呂(jb6120)は歓声を上げる。
「これをクリスマスツリーにしちゃうなんて、門木先生偶には良いこと考えるわね」
 笑いながら言った言葉は一言余計な気もするが、聞こえてないから大丈夫。
 聞こえてても言っちゃう気はするけれど。
「立派なモミの木ですね〜」
「ここまで大きなモミの木を飾り付けするのは初めてです」
 感嘆の溜息を吐くアレン・マルドゥーク(jb3190)の隣で、鑑夜 翠月(jb0681)がこくりと頷いた。
「立派なクリスマスツリーに出来る様に、綺麗に飾り付けをしたいですね」
「そうですね〜、クリスマスに向けてうんとおめかししなくちゃですね〜!」
 アレンはそう言うと、木肌にそっと手を触れた。
「モミの木さん、あなたはどんなおしゃれがしたいですか?」
「木の言葉がわかるんですか?」
 目を丸くして見上げる翠月に、アレンはにこやかな笑みを返しつつ、さも何かが聞こえる様に「うんうん」と頷いた。
「皆さんのセンスにお任せするそうですよ〜」
 冗談とも本気ともつかない返事。
「よし、いっぱい飾って素敵なツリーにしちゃおう♪」
「どの様なクリスマスツリーになるか、今から楽しみです」
 気合いを入れた真緋呂に、翠月が頷く。

「また随分と立派なものを拵えたものだ…これじゃサンタも迷えないな」
 ディートハルト・バイラー(jb0601)は、元気で賑やかな仲間達の姿に目を細めていた。
 記憶の底に焼き付けた、遠い昔の光景がふと蘇る。
 そうだ、確か屋敷の倉庫に埃を被った木のオーナメントがあった筈だ。
 ああいった物に流行り廃りはないし、今でも充分に使えるだろう。
 一度、取りに戻ってみようか。

「うおお、でっかいな―…!」
 亀山 淳紅(ja2261)は木を見上げつつ、背後をチラリ。
 視界の隅に慌てて隠れる小さな影を見つけて、内心でにんまりと笑う。
 あれは妹の亀山 幸音(jb6961)だ。
 こっそり後をついて来て脅かす魂胆なのだろうが、あれで隠れているつもりだろうか。
 可愛いなぁ。
 よし、それなら。
「あれ、お兄ちゃん?」
 大きなモミの木に見とれて目を離した、一瞬の隙に消えた兄の姿。
 と、背後から――
「わっ!!」
「きゃっ!」
 脅かすつもりが脅かされ、幸音は驚いて飛び上がる。
「…ふふー、驚いた?」
 こくんと頷き、一瞬だけぷぅっと頬を膨らませたが、すぐに笑顔になって兄の首に抱き付いた。
「見つかっちゃったの、さすがお兄ちゃんなの」
 でも、ちょっと元気ない?
 淳紅は首を振ったものの、実は大分沈み気味だったりするのだが。
 その辺り、流石に鋭い。
 しかし幸音は、それ以上追求しなかった。
「モミの木とてもおっきいの。おじいちゃんなの…?」
 見事な枝ぶりを見上げながら、木肌を撫でている。
「そやね」
 枝が傷まない様に、そっと飾り付けてあげよう。

「これ、飾り付けるだけでも大変ですよね…」
「そうですよねぇ…上の方だとオーナメントは相当大きくしないと目立たないでしょうし…」
 天川 月華(jb5134)と礼野 静(ja0418)は木を見上げ、次いで困った様に顔を見合わせた。
 去年まで、月華は仲の良い友人の家でパーティを楽しんでいた。
「そこでは、毎年1日の為に木を切るのは可愛そうだからという事で、いつも鉢植えを用意していたのですが…」
 それは、せいぜい脚立を使えば天辺に手が届く程度の高さだった。
「それなら」
 と、美森 あやか(jb1451)が美森 仁也(jb2552)を見上げてニッコリ。
「お兄ちゃんだったら、空飛べるから大きな木の上の方も飾り付け出来ると思うの」
「仰せのままに、俺のお姫様」
 姫の言葉に、ナイトは恭しく頭を下げる。
 お兄ちゃんと呼ばれてはいるが、実際は恋人同士。彼女の希望とあらば、喜んで何でも手伝おう――出来る事であれば。
 という訳で、手段は確保出来た。
 後は何を飾るか、だが。
「雪に見立てた綿を飾りたいけど…白い布なら代用出来るかしら」
「綿、ですか」
 月華の提案に、静は暫し考え――
「そういえば、お婆様そろそろ今年の布団も綿を入れ替える時期でしょうし…もしかしたら、古い綿を送って貰えるかもしれません」
 実家に連絡してみよう。
「じゃあ、私も廃品回収に出ていないか探してみますね」
 月華が頷く。
 外側は汚れていても、中の綿だけなら洗えば綺麗になりそうだし。
「赤いリボンも飾りたいな、上の方でも飾りつけしてるなってわかるように幅が広いのを」
 あやかが言った。
「雪と、後クリスマスカラーの緑と赤で、モミの木が緑だから」
 リボンのお金は四人で出し合う事に決めた。
「今年はシュトーレンやジンジャークッキーは飾り付けに使わないのかい?」
 訊ねる仁也に、あやかは首を振った。
 今年のツリーは屋外だし、まだ日にちもある。
「お菓子はパーティ前日に焼く事にしたの」
 当日は、まだ参加出来るかどうかわからないけれど。


●準備いろいろ

 日ノ宮 雪斗(jb4907)は、雑貨屋の店先で値札と財布の中身を睨めっこしていた。
 目を付けたクリスマスオーナメントのセット品は丁度三千久遠。
 財布の中身は、いち、にぃ…あった!
「丁度依頼の分の入金があってよかった…!」
 雪斗はいかにも嬉しそうに、天を仰いで何かに感謝している。
「すいません、これください」
 その様子が琴線に触れたのか、店主はオーナメントをひとつオマケしてくれた。
「ありがとうございます!」
 流石は久遠ヶ原と言うべきか、それとも雪斗の召喚獣スキーを見抜かれたのか。
 それはヒリュウそっくりの小さなぬいぐるみだった。

 隣の手芸店ではソフィア・ヴァレッティ(ja1133)が金色のリボンを探していた。
「大きな木につけるから、なるべく太いのが良いな。同じデザインの物を大量に欲しいんだけど」
 しかし太いものとなると値段も良い。
 ましてや金リボンは、お値段の上でも他とは違う輝きを放っていた。
「こちらで用意するのは程々で、後は元から用意されているのを利用させてもらおうかな」
 その呟きを聞いて、店主が奥から何やら引っ張り出して来る。
「使い古しで良ければ、商店街のイベントで使ったのがあるよ。持ってくかい?」
 金銀のリボンやモールなどが大きな段ボールにぎっしり詰められいた。
 多くは絡み合い、シワになっているが、丁寧にほぐしてアイロンをかければ充分に使えるだろう。
「貰って良いの? ありがとう!」
 これは思わぬ拾い物だ。

 一方で真緋呂は積極的に寄付を集めていた。
 まずは学園の美術部から余った紙粘土や絵の具を調達し、商店街では廃棄予定の売れ残りやイベントの使い古しなど、使えそうな物は何でも貰って来る。
 しかし、商店街では何処に行ってもやたらと反応が良いのは何故だろう。
「ああ、生徒さんの一人が面白い事を考えてくれてね」
 一人の店主が答えた。
 それは『みんなの願い事でツリーをいっぱいにしよう!』という、学園と商店街の合同企画。
 それを考えたのは――

「門木先生! 飾りつけするって聞いたからいっぱい買ってきましたよ!」
 フリースペースを兼ねた食堂の一角に、レグルス・グラウシード(ja8064)が小さな子供の様にはしゃいだ様子で駆け込んで来る。
 両手には大きな紙袋にいっぱいのオーナメントを提げていた。
「ひゃくおんしょっぷ、ってすごいですね! なんだかんだ言っていっぱい買っちゃいました(*´∀`)!」
 嬉しそうに、そしてちょっと得意げに、レグルスは紙袋を門木に手渡す。
「それと、これはサービスだって貰っちゃいました」
 続けて取り出したのは、色とりどりのプラ板と油性マジック。
 プラ板を短冊形に切り分けながら、レグルスは説明を続ける。
「このプラ短冊に願い事を書いて、ツリーに飾るんです。せっかくだから、商店街のイベントになればと思って提案してみたら皆さん喜んでくれて」
 そう、あれは彼の発案だったのだ。
「一定お買い上げ金額ごとに1枚お客さんにプレゼントすれば、商店街との合同企画として盛り上がるかなって」
 どうやら「七夕じゃないんだから」というツッコミを入れる者は誰もいなかった様だ。
 そして学園にも――少なくとも彼の周囲には、それを指摘する者はいない。
 みんな優しい、というのもあるが…だってここは久遠ヶ原だから。

「くりすます?」
 かくーり。
「よく判らないけど楽しそう♪」
 というわけで、鏑木愛梨沙(jb3903)もお買い物。
「ひゃくおんしょっぷ? あたしもそこにすれば良かったかな」
 テーブルに置いた小さな袋には、ちょっと高級そうな店のロゴ。
 均一ショップなら、この何倍もの数が買えたかもしれない。
「でも良いの、すごく可愛いのばっかりだったし…それにほら」
 愛梨沙はお気に入りの一品を取り出して見せる。
 それは透明な天使の輪に白い翼が付いたオーナメント。
 輪から下がった銀色の小さな鈴が、揺らす度に可愛い音を立てた。
「これ、願い事を書くのに丁度良いでしょ」
 確かに、翼の部分は平板なプラスチックだ。
「…何を、書くんだ?」
「内緒♪」
 門木の問いに、愛梨沙は悪戯っぽく笑いながら答える。

 そんな様子を――と言うか主に門木を、レイラ(ja0365)は熱の籠もった目で眺めていた。
(門木先生…)
 次第に顔が火照って来る。
(…好き)
 点火。
 レイラは顔を覆ってテーブルに突っ伏した。
 と、そこに当の本人が――
「…どうした、熱でもあるのか?」
「きゃっ!」
 思わず上がった叫び声。
 さっきのあれ、声に出てた? 出てないよね?
「な、何でもありません、大丈夫です! …え、えっと…皆さんが楽しめるクリスマスになるよう頑張ります!」
 レイラは色とりどりの毛糸や折り紙を取り出した。
「先生、折り紙は知ってますか?」
 ふるふると首を振る門木に、レイラは心の中で親指を立てる。
 教えながら一緒に作れば、暫くは独占状態だ。
 ついでにこっそり採寸も出来るだろう。
「では、まずは基本的な折り方から…」
「…こう、か?」
 得意げに見せた「やっこさん」は、どう見ても潰れたヒキガエルだったけれど。
「慣れればこんなのも作れるようになりますよ」
 レイラは金銀の紙で立体的な星を作って見せた。
「…すごい、な」
 たった一枚の紙から広がる無限の可能性。
 それはナマモノからくず鉄を作り出すよりも神秘的で、高度な技術に思われた。
「…俺にも、出来るだろうか」
「はい、きっと」
 でも今は、もっと簡単に作れるカラフルな鎖や毛糸のポンポンにしておくのが無難な気がする。

「門木先生、科学室に何か無いっすか?」
 なかなか思い通りに折られてくれない折り紙と格闘する門木に、平賀 クロム(jb6178)が声をかけた。
「いや、これなんすけどね」
 クロムは電飾の故障部分と、修理に必要な材料や部品をリストアップしたノートを見せる。
「おかしくなってるとこ、直そうと思って。科学室なら使えそうな部品とか転がってないっすか?」
 材料探しのついでに、面白科学室をじっくり見学したいだなんて下心はない。
 いや、本当に。
 目を逸らしてなんか、ナイデスヨ?
「…ああ、勝手に見て良い。何かしらあるだろ…多分」
 足りなければ、リサイクルか電気店のおっちゃん達に頼めば融通してくれるだろう。
「…悪いが、俺は今、その…」
 うん、わかる気がする。何か新しい事に興味を惹かれると、見境なくのめり込む…科学者や技術屋って、多分そういうものだよね。
「大丈夫、機械弄りならおまかせっす!」
 よし、任せた。

「でけーツリー飾れるとかテンション上がるくね?」
 梅ヶ枝 寿(ja2303)は、部屋の隅で謎のカメラ目線と共にオーナメントを作っていた。
「まず用意するのはペットボトルな。それと、そこに入るサイズの廃品のおもちゃに松ぼっくり、布の切れ端、リボン、モール、綿、ビーズ…」
 まあ、見た目綺麗っぽければ何でも良い。
 材料だけ見れば万華鏡でも作るのかと思われそうだが、さにあらず。
「ペットボトルの下の方を一回切り取り取るだろ?」
 はい、ちょきちょき。
「そこに綿敷いて松ぼっくりとかおもちゃとかいー感じに並べてデコって固定するだろ?」
 はい、置きました。
「んーでペットボトルの上部分被せてくっつけて、繋ぎ目わかんねーようにデコると…」
 はい、デコデコ。
「じゃーんエコオーナメントの完成! 俺天才!」
 おお!(ぱちぱち
 以上、講師はみんなのアイドル寿先生でした!
 と、ここで先生はふと我に返る。
「…ってもしかしてこれ、アレか。これぼっち参加ってアレな感じか」
 いや、そんな事ないから。まだ準備段階だしね。
 本番になったら確かにアレかもしれな…いや、そんな事ない、きっと、多分。
「ま、まあ気にしてねーですし。涙なんて出てねーですしね…!」
 これは目から友達汁が出ただけなんだぜ、スキル取得してないけど!

 汁の効果が現れたのか、寿に話しかけてくる者がいた。
「そのアイデア、もろてもええかな?」
 妹を後ろに従えた淳紅だ。
「これ、入れるのに丁度良いなって思ったの」
 兄も後ろから、おずおずと声をかける幸音。
 その手には、小さな木彫りのサンタや羊毛で作った雪だるま人形がちょこんと乗せられていた。
「おー、構わねーよ。どーせなら一緒に作っか?」
「いいの?」
 幸音は寿を見て、兄を見て、そしてまた寿に視線を戻し…ふわっと微笑んだ。
「ありがとうなの」
 そうと決まったら、もっと沢山ペットボトルを調達して来なければ。

 地領院 恋(ja8071)と地領院 夢(jb0762)の仲良し姉妹は、大きなプレゼントBOXを作っていた。
「TVで見たの。海外ではモミの木の下にプレゼントを置くんだって」
「む。夢ちゃんは物知りだな。折角だし沢山作ろう」
 正方形に近いダンボールを、ギフト用のラッピング用紙でカラフルに変身させる。
「大きなプレゼントBOXってなんだかドキドキするね。いっぱい作ってモミの木の下に並べるよっ」
「そうだな」
 楽しそうな妹の様子に、恋は目を細める。
「クリスマスカラーな赤や緑、雪の様な白、寒さに負けないオレンジやピンクや黄色!」
「夢ちゃんが作る物はカラフルで可愛いな」
 だが、それを木の根元に並べた様子を想像すると、何となく物足りない気がしてくる元美大生。
「何かアクセントになる色も欲しいな」
「アクセント?」
「青や紫メインとか、暖色系の要所要所に配置すればメリハリが付くんじゃないか?」
「さすがお姉ちゃん!」
 キラキラ、尊敬の眼差し。
 夢はアドバイスの通りに配色を考え、出来た箱にリボンをかける。
「あれ、このリボン美味しそうな匂いがする」
「ちょっとね、これを付けてみたんだ」
 恋が取り出したのは、バニラ系のフレグランス。
 近付くと少し香るくらいの仄かな香りが食欲をそそる。
「家内のツリーにはクッキーを飾る国もあるそうだが、これは外にあるからな」
 せめて香りだけでもお菓子っぽく。
「さすがお姉ちゃん!」
 キラキラ、尊敬の眼差し再び。


●クリスマスツリーを飾ろう

「クリスマスツリー、すごいよね! ボクもお手伝いするよ!」
 ふたば(jb4841)が用意したのは、科学室に転がっていたらしいくず鉄に紐を付けた物。
 くず鉄と言っても種類は多種多様、中には前衛芸術の様な形をした物もあった。
「でも、ボクの背じゃ届かないや」
 一番下の枝でも、ふたばの遥か頭上にある。
「私がお手伝いしますよ〜」
 ふわり、アレンがその身体を抱えて宙に舞い上がった。
「ありがとう、お姉さん!」
 いや、お兄さんなんだけど。
「樅の木はずっと緑だからクリスマスツリーに使われるって聞いたなあ」
「そうなのですか〜、ふたばさんは物知りなのですね〜」
「でも、いつ聞いたんだろ?」
 くず鉄を飾りながら、ふたばは首を傾げる。
 その手がかりはきっと、失われた記憶の中にあるのだろうけれど…
「思い出せないや」
 ふたばは屈託なくニコッと笑った。

「今年のクリスマスにはカマキリさんがプレゼントを持ってくるなの!」
 香奈沢 風禰(jb2286)は、今日もカマふぃだった。
 そして今日は相棒の私市 琥珀(jb5268)も、お揃いの着ぐるみに身を包み「きさカマ」になっている。
 二人が飾り付けるのは、勿論カマキリ関連のアレコレだ。
 カマキリ型の薄緑のプレートに、カマキリのオーナメント、そしてカマキリの小さなヌイグルミ。
 いずれもビニールに入れて雨対策も万全だ。
 しかし、カマふぃの鎌…じゃなくて腕は枝に届かない。
「僕が代わりにするよ、カマふぃ!」
 きさカマもそう背が高い方ではないが、大丈夫。
 彼には脚立という強い味方がいるのだ。
 でも、危ないから押さえててくれると嬉しいな…って、あれ?
「悦なの」
 愛読書『カマキリと私』を『考える人』のポーズでカッコよく読みふける、カマふぃ。
 どうやら手伝う気はなさそうだ。
 そう言えば、カマキリの雌って女王様っぽいよね。
 仕方なく、脚立の上でちょっとユラユラしながら飾り付けを頑張るきさカマ。
 ふと手にしたプレートを見ると、そこにはカマふぃの字で『今年のうちにカマキリを卒業』と書かれていた。
「へぇ、今年で卒業なんだぁ…え、卒業!?」
 思わずツッコミを入れると同時に、脚立から落ちそうになった。
 卒業しちゃうの?
 種子島にはきっとまだ、強化型とか出ると思うんだけど、多分。
 次はどんなブームが来るんだろう。
「そんな事より」
 カマふぃ女王様が指差す。
「向こうに困ってる人がいるなの」
「うん、ちょっと行ってくるね!」
 きさカマ、大忙し。

「ツリーの飾りつけとかわくわくしますね…!」
 シグリッド=リンドベリ (jb5318)は、雨避けビニールを巻いたオーナメントやキラキラモールなどを腕いっぱいに抱えて上を見上げる。
「シグリッド殿! 飾りは持ったか?であるー飛ぶであるぞ!」
 ばっさ!
 シグリッドの身体を抱え、大きな白猫ラカン・シュトラウス(jb2603)が飛んだ。
 まずは何本も繋げて長くしたキラキラモールから。
 片方の端を下の枝に固定し、残りの束をシグリッドが持つ。
 ラカンに木の周囲をくるくる飛んで貰い、少しずつ繰り出したモールを螺旋状に巻いていった。
「次は願い事を飾るであるな!」
 赤い靴下にプレゼントならぬ短冊を入れて、上の方の枝に飾る。
『立派な猫さんになれますように:シグリッド」
『美味しいものをいっぱい食べたいのである!:ラカン」
 サンタさんは見てくれるだろうか。
「僕も立派なねこさんになれるかな…!」
 こくり、シグリッドの言葉にラカンが頷く。
(願い事叶うといいのである)
 残りのオーナメントをあちこちに飾り、後は一番上の大きな星を飾るだけ。
「しかし、これは最後の仕上げと決まっているのである!」
 皆の飾り付けが終わるまで、暫し地上で休もうか。

 ディートハルトは大きな木箱にいっぱいのオーナメントを運んで来た。
「わぁ、可愛い!」
「なんか本場っぽい!」
 忽ち周囲に人だかりが出来る。
「気に入ってくれたなら喜んで譲ろう。俺が持っていても仕方ないんでね…こういう美しい物は、相応しい人が持つべきだ」
 倉庫で埃を被っているよりも飾って貰った方が、このオーナメント達も喜ぶだろう。
「Mrカドキも一つどうだい、ほら、この天使のなんかお似合いだ」
「…ありがとう」
 恐らく様々な思い出が詰まっているのであろうそれを、門木は両手で受け取った。

「ほら、センセもいこ?」
 少々強引に門木の腕を引っ張り、愛梨沙は高く舞い上がる。
 しかし門木は飛べない豚。
 普通に浮かんでいる位ならまだ良いが、同時に他の事をやろうとすると途端にバランスを崩すのだ。
 つまり、飛びながら飾り付けなんて無理。
「…頼んで、良いか?」
「ん、貸して」
 ビニールに入れた天使を受け取り、愛梨沙はなるべく高い場所に飾り付けた。

「門木先生!」
 下で呼ぶ声がする。
「上の方にも飾り付けしたいから、飛んで私を運んで☆」
 見ると、真緋呂が手を振っていた。
「…いや、俺はちょっと、その」
「抱えて飛ぶくらい出来るでしょ? ほら、あんな風に」
 真緋呂は上空を飛ぶラカン達を指差した。
 まあ、それくらいなら出来ない事もない、が。
 問題がひとつ。
「…何処を掴めば、良いんだ」
 胸に触ったとか、言わない?
「言わない言わない、本当に触ったら肘鉄だけど」
「…気を付け、る…」
 そして真緋呂は紙粘土に絵の具を塗って作ったホールケーキにショートケーキ、ドーナツにローストターキー等々を飾り付けていく。
「見事に食べ物ばかりたけど、これも私らしさよね」
 雨で崩れない様に、ちゃんとビニールに入れて。
「もう少し右。んーと次は上、行き過ぎー」
 よろよろ、ふらふら。
「もー、そこじゃないってばー」
 本人は楽しそうだが、見ている方はスリル満点だ。

「綺麗になっていくね〜。あ、次これ飾ろうか♪」
 雪斗はヒリュウのロセウスに例のオマケで貰ったオーナメントを手渡した。
「ほら、ロセウスちゃんにそっくりでしょ?」
 それを持ってふよふよと舞い上がると、ロセウスは目立つ場所にちょこんと引っかける。
 家庭用のツリーなら充分な数があったセットも、もうそれで最後だ。
「ロセウスちゃんお疲れ様、次はアーテルさんお願いします!」
 現れたスレイプニルに乗って10mの高さに上がると、雪斗は自宅から持って来た色とりどりの綿を飾っていく。
「よ〜し、綺麗にしようねアーテルさん!」
 それより上は、他の人にお任せだ。

「高い所だとオーナメントとか見えにくいし」
 少し下がって全体像を見ながら、あやかは電話で指示を出す。
『そこだと電飾と被るからもう少しあげて』
「はいはい、お姫様」
 その指示に従い、仁也はリボンの位置を微調整。
「すみませんね、手伝って頂いて」
「いいえ〜、良いんですよ〜」
 助っ人のアレンと共に、半分以上の高さを中心にリボンや綿を飾っていく。
 仲間内で用意した赤いリボンと、ソフィアから託された金色のリボン。
 色や形のバランスも考えつつ、電飾の邪魔をしない様に――

 電飾の方はクロムが直してくれたお陰で殆ど新品同様に甦っていた。
 それでも不具合が残る部分は、ソフィアが他の飾りに隠れる様な位置にそっと隠す。
「やっぱり綺麗なクリスマスツリーに電飾は欠かせませんよね」
 翠月は自分でも買って用意していた。
「普通に取り付けるのも良いですけど、ちょっとやってみたい事があるんです」
 今の久遠ヶ原学園の様に、人間と堕天使とはぐれ悪魔が手を取り合っている姿に見える、そんな風に飾る事は出来ないだろうか。
「他と見分けが付く様に、暖かい電球色のを用意してみたんですけど」
 デザインはこんな感じでと、スケッチを見せる。
 それは人の形をしたものが手を繋いで、木を囲んでいる様に見えた。
「いいですね〜」
「でも、これじゃ電球足りなくないっすか?」
「…追加で、買って来るか」

 その頃、下の方では。
「木につける、由緒正しい日本の飾りって言ったら、これだよね!」
 ジャーンというセルフ効果音と共に犬乃 さんぽ(ja1272)が取り出したのは、藁人形と五寸釘。
 いや、それは違うと思うんだ、激しく、限りなく。
 しかし、さんぽは聞く耳持たない。
 藁人形を木の幹に押し当て、五寸釘をあてがい、金槌を振りかざす。
「だめなの、おじいちゃんが怪我しちゃうの!」
 叫んだ幸音に兄と寿が反応、力尽くでさんぽを引っぺがした。
「気持ちはわかえらんでもないわ、うん」
 恐らく、さんぽも同じ依頼でのダメージを引きずっているのだろう。
「そやけど、ほんまの流儀は…これや」
 淳紅が取り出したのは、かまぼこ板。
 これに打ち付けて木に吊すのが本物の流儀なのだと、しれっと嘘を教えた。
 そしてさんぽは信じた。
 一転能面のような表情で、一心不乱にその心臓の位置に釘を打つ。
 ただひたすら、打つ。
「(…ブツブツブツブツ………)」
 うん、今はそっとしておいてやろう。
「おじいちゃん、大丈夫だった? 痛いところない…?」
 幸音は樹医の本と睨めっこしながら、傷んでいる所がないか探してみる。
 どうやら大丈夫の様だ。
「おじいちゃん、綺麗になってねv」
 幹を傷付けない様に、まずは自作のペットボトルから。
 とは言っても自分では届かないから、お兄ちゃんにお願い。
「隅っこのちっちゃい所でいいから飾ってくれると嬉しいの…」
 しかし淳紅がそれを隅っこなんかに飾る筈がない。
 一番目立つ所にどーんと!
 それから市販のオーナメントも飾って――
「お兄ちゃんは何作ったの?」
「これや」
 淳紅が取り出したのは、音符や星、柊の葉や実、雪の結晶やベルなどを象ったステンドグラスの細工だった。
「ガラスやったら雨濡れても大丈夫やしねー」
 シーグラスやゴミ捨て場で拾った色ガラスが、華麗に変身。
「あんま重くしたら木痛むから、小さいのな」
 あ、学校の技術室からかっぱr…借りた道具はちゃんと返すから!

 脚立に乗って頑張るその下から、恋と夢が置いたプレゼントBOXがバニラの香りを立たせていた。
「お姉ちゃん、これお願い」
 夢はオマケで作った小さなBOXを手渡そうとするが。
「はいよ」
「えっ!?」
 恋は妹の身体をひょいと抱き上げてしまう。
「こういうのは自分で飾った方が楽しいだろ?」
「重くない? 大丈夫?」
 心配する妹の下で笑いが弾けた。

「ここかな? もうちょっと右かい」
 その反対側ではディートハルトが飾り付けを手伝っていた。
 希望者がいれば肩車でもしてやりたい所だったが、流石にそれは遠慮されてしまったので、脚立に乗って頑張っている。
「綺麗にバランス良く飾りたいね」
 ソフィアは他の飾りの邪魔にならないように、残りの金リボンを飾っていった。
 時々下がって全体を見ながら、それぞれの装飾がしっかりと見えるように微調整を繰り返す。
 アレンは赤地に金糸の刺繍を施したリボンでおめかしさせたヤドリギを、あちこちに吊るしていた。
 古来、ヤドリギは再生や永遠の命のシンボルとされている。
「この下を通る皆さんが幸せになりますように〜」

 さて、そろそろ皆の飾り付けも終わっただろうか。
「えっと、後は願い事ですね…」
 レグルスはプラ短冊に『兄さんや彼女と一緒に、来年も幸せに暮らせますように!』と書いて、手近な枝に飾った。
「カマふぃ、終わったよ!」
 きさカマが、まだ『考えるカマキリ』状態で本を読んでいるカマふぃに声をかける。
「終わったであるか!」
 その声を聞いて、ラカンがすっくと立ち上がった。
「一番上の☆を飾るのである!」
 シグリッドと共に、木の天辺へ。
 大きな金色の星を飾って――

 完成!


●点灯式

「3、2、1…点灯!」
 空が暗くなった頃、カウントダウンに合わせて巨大ツリーに灯りが灯された。
 溜息とも歓声ともつかない声が一斉に漏れる。
 全体を覆ったカラフルな電飾の不規則な瞬きと、手を繋ぐ様に飾られた電球色のゆっくりとした点滅。
 それに照らされて、リボンや綿、様々な素材で作られたオーナメントがキラキラと輝いた。

「綺麗です…!」
 シグリッドはラカンに抱えられ、その眺めを空から楽しむ。
「クリスマス、楽しみですね!」

「先生が天界にいた頃には、クリスマスのようなお祝い事はどうだったのですか?」
 レイラの問いに門木は首を振る。
 クリスマスも正月も、人界に来て初めて知ったものだ。
「クリスマス楽しみですね〜」
 アレンが笑いかける。
「サンタさんが良い子にはプレゼントを夜中にこっそり配ってくれるのです〜」
「…良い子に、だけ?」
「そうだよ、プレゼントは良い子しか貰えないんだ」
 首を傾げた門木に、ふたばが答えた。
「そう言えば、サンタさんの仲間でブラックサンタっているんだよね。悪い子に罰を与えるって聞いたなあ。どんな罰なのかなぁ…怖いなあ」
 何だかちょっとなまはげみたいだ、悪い子はいねがぁ〜って。
「怖くはありませんよ〜」
 アレンが笑顔で首を振る。
「悪い子には石炭を配ってあるくのだとか〜。悪い子にも寒い冬を越せるように燃料を配ってくれるというのは、懐が深いと思うのです〜」
「…そうなのか」
 素直に信じる、約一名。
 その白衣の後ろ襟には、ステンドグラスの小さなサンタがぶら下がっていた。
「しー、な。しー」
 淳紅のヒソヒソ声に頷き、ディートハルトは携帯用のボトルを傾ける。
「飾り付けを手伝った後は一杯。これだけ働いたんだ、構わないだろう?」
 一人で飲むのも嫌いではないが、寒い時期は誰かと飲むに限る。
「…今年も、楽しい冬になりそうだ」

「カマキリのサンタさんが来ると良いね」
 きさカマの言葉に、こくりと頷くカマふぃ。
「何事も起こらなかったら、パーティも参加しようね」
 仁也に言われ、あやかもこくりと頷いた。
「…楽しんで、欲しいですものね…」
 その様子を見て、静が小さく微笑む。
「クリスマスパーティも来れたらいいねっ。お姉ちゃんを着飾るのっ、楽しみっ♪」
「うん。楽しみが先にあることは良いことだ」
 でも何を着飾られるんだろうと、恋は不安げな眼差しを妹に向けた。
 まさかツリーの様にピカピカにされるのでは…?

 クロムは皆とは少し距離を置いた場所で、その光景をひとり眺めていた。
 故郷で昔、家族と見た大きなツリーの記憶が重なる。
 そこにいた誰もが笑顔で、ただただ幸せだった頃の記憶。
 もう二度と戻れない日の、遠い思い出――



 そして、真夜中。
 灯りの落とされたツリーに近付くひとつの影。
 その影は、願い事を書いた白い翼を天辺近くの葉陰にそっと吊るして祈る。
「大好きなセンセの、笑顔をもっと見たいの。だから…お願い」

 そこには、こう書かれていた。

 ――エルナハシュとリュールが幸せな親子に戻れます様に――


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:14人

202号室のお嬢様・
レイラ(ja0365)

大学部5年135組 女 阿修羅
祈りの胡蝶蘭・
礼野 静(ja0418)

大学部4年6組 女 アストラルヴァンガード
太陽の魔女・
ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)

大学部4年230組 女 ダアト
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
哀の戦士・
梅ヶ枝 寿(ja2303)

卒業 男 阿修羅
『山』守りに徹せし・
レグルス・グラウシード(ja8064)

大学部2年131組 男 アストラルヴァンガード
女子力(物理)・
地領院 恋(ja8071)

卒業 女 アストラルヴァンガード
夢幻に酔う・
ディートハルト・バイラー(jb0601)

大学部9年164組 男 ディバインナイト
夜を紡ぎし翠闇の魔人・
鑑夜 翠月(jb0681)

大学部3年267組 男 ナイトウォーカー
絶望に舞うは夢の欠片・
地領院 夢(jb0762)

大学部1年281組 女 ナイトウォーカー
腕利き料理人・
美森 あやか(jb1451)

大学部2年6組 女 アストラルヴァンガード
種子島・伝説のカマ(白)・
香奈沢 風禰(jb2286)

卒業 女 陰陽師
最愛とともに・
美森 仁也(jb2552)

卒業 男 ルインズブレイド
はいぱーしろねこさん・
ラカン・シュトラウス(jb2603)

卒業 男 ディバインナイト
Stand by You・
アレン・P・マルドゥーク(jb3190)

大学部6年5組 男 バハムートテイマー
208号室の渡り鳥・
鏑木愛梨沙(jb3903)

大学部7年162組 女 アストラルヴァンガード
笑顔を贈る者・
ふたば(jb4841)

高等部2年5組 女 鬼道忍軍
温和な召喚士・
日ノ宮 雪斗(jb4907)

大学部4年22組 女 バハムートテイマー
撃退士・
天川 月華(jb5134)

高等部1年19組 女 アストラルヴァンガード
種子島・伝説のカマ(緑)・
私市 琥珀(jb5268)

卒業 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
シグリッド=リンドベリ (jb5318)

高等部3年1組 男 バハムートテイマー
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
種に灯る送り火・
平賀 クロム(jb6178)

大学部3年5組 男 アカシックレコーダー:タイプB
煌めき紡ぐ歌唄い・
亀山 幸音(jb6961)

大学部1年241組 女 アストラルヴァンガード