伝説はここから始まった。
今、君は伝説の目撃者になる!
全宇宙の危機(超誇大表現)に駆けつけたのは、選ばれし四人の戦士達。
正確には八人なのだが……その四人、何しろインパクトが強烈だった。
そう、彼等は四色の戦隊、その名も魔法少女戦隊☆マジカルきのこ。
数が何とも中途半端だが、気にしてはいけない。
それぞれのテーマカラーに合わせたパステル調のフリフリミニスカに、きのこ柄のキラキラセーラー服、脚はニーハイ絶対領域、頭にきのこの帽子を被り、手にはお揃いのマジカルステッキだ。
ステッキに付いているスイッチを押すと、キラキラと光が溢れ、軽快なテーマソングが流れ始めた。
「この世にディアボロが現れる時! 久遠の学び舎より現れる! 魔法少女☆マジカルきのこRED参上!」
戦隊物ではレッドがリーダーと決まっている。
その掟に従って、まず最初に霧島イザヤ(
jb5262)がポーズと共に口上を述べた。
「マジきのシルバー!」
銀色の髪をなびかせたヴェーラ(
jb0831)が続く。
「マジきのblack!」
レイ・フェリウス(
jb3036)は、もはや無我の境地に達したかのような表情でポーズを決めた。
「マジきのしめじだの☆」
もう何も怖くない。
橘 樹(
jb3833)は完璧な黒髪きのこ美少女になりきっていた。
全然パステルじゃないし、最後は色でさえなくなっているが、気にしてはいけない。
実は本物の少女は一人もいないとか、それも気にしてはいけない。
年齢なんて飾りだ。性別も飾りだ。
コスメセット、つけま、カツラに胸パッドで、誰でも美女&美少女に変身なんだよっ☆
「「DENSETUの魔法少女戦隊☆マジカルきのこ(ゝω・)爆誕!」」
声を揃えてポーズを決めれば、派手なスモークが湧き上がる。
はずかしくなんか、ないんだから。
すべてはぎゃらりーのため、ぎゃらりーのため。
大事な事なのでry
「け…決してあんたの為なんかじゃないんだからのっ//」
つんでれるのも、ぎゃらりーのため。
そして颯爽と現れた助っ人の五人目、メイド仮面・睦月 芽楼(
jb3773)が高級フリルドレス@メイド服仕様の裾を翻す!
その顔は不気味なマスクに覆われ、何ともホラーな空気を醸し出していた。
「メイドに見えないですか? 身も心もメイドですけど」
しかしマジカルきのこの後ではもう誰も、何も気にしない。気にならない。
そして最後に、魔法少女と言えば付き物なのが可愛らしいお供のマスコット。
「僕と契約してマジカルきのこになってよ!」
白い着ぐるみ姿で現れたのは秋桜(
jb4208)だ。
役者は揃った。
沸き起こる歓声、煌めくカメラのフラッシュ、握手とサインを求める声。
しかし今は大事な決戦の時。
まずは彼等を危険地帯から遠ざけなければ。
「広範囲に高殺戮魔法が展開する可能性があります! 危険ですから皆さんは下がっていてください!」
盾で身を守りながら、ヴェーラが叫ぶ。
マジカルステッキを放棄するのは、魔法少女としてどうかと思うのだが。
でも防御が紙より薄いトイレットペーパーなんですもの、流れ弾でも当たったら取り返しが付かないでしょ!
そう、最後に盛大な命の花火を打ち上げるまでは、何としてでも生き延びる。
それが使命なのだ。
「ふ……あの子がこの依頼にいないのだけが……心の支えだな」
ひらひらと柔らかく波打つフェミニンなスカートの裾を見下ろしながら、レイはそっと溜息を吐いた。
(私、無事に帰ってきたら、大切なあの子に告白……は、まだ無理かな)
よかった、フラグは立たない。
告白に踏み切れない状況を良かったとは言い切れないかもしれないが、生きて帰ればチャンスはある。多分、きっと。
「ここから先は危険です。大規模な爆発が発生する恐れがあります。下がってください!」
こちらもやはり、マジカルステッキは早々にその役割を終えていた。
「親父……世界って……広いんだな」
悟りを開いたかの様な表情と目つきで、イザヤはその光景を見ていた。
気が付けば己も完璧な化粧で別人に変身している。
何がどうしてこうなったのだろう。
(いいんだ! 観客のためならば!!)
足元がスースー寒いけれど、がんばる。
どうせ別人なら何も怖くないし、がんばる。
イザヤは反動を抑える為に攻撃力を極小に絞りつつ、敵の頭を引っ掴み、ぶん回した。
いけ、ジャイアントスイング! これで同士討ちだ!
「世界平和のために……!」
倍返しのダメージは、きっと体当たりをかました敵自身に――!
行かなかった。
引っ掴んでぶん回した敵の身体は、単なる武器と見なされた。
思いっきり返ってきた、倍のダメージ。
これは痛い。
でも、がんばる。
誰にも使って貰えず、危機に瀕したマジカルステッキの存在意義。
しかし、魔法少女の神は彼等を見捨てなかった。
「倍返し…受けて立つの!(かっ」
キラキラ光るマジカルステッキを手に、くるくると華麗に立ち回るマジきのしめじ!
踊りながら殴るのは、魔法少女として当然の嗜みだ!
「ひどいわしのことそんな目で見て! 最低! 見損なったの!」
言葉の暴力も試してみた!
でも敵に目はないから、マジックで書いてみる。
すると、とても記録には残せない程の罵詈雑言と共に、落書きの倍返しが!
目の周りにギザギザ睫毛や極太眉毛、隈取り、眼鏡、果ては口髭まで書かれてしまった魔法少女。
「でも、泣かないんだの!」
因みに泣いても落書きは消えない、流れない。
だって油性ペンだから。
「はいはーい。とりあえず距離を取りましょうねー。メイドさんとのお約束ですよー」
敵が弱いとはいえ、何が起こるかわかりませんしねー。
しかしギャラリーは言われなくても芽楼から離れて行く。
このマスク、そんなに怖いのだろうか。
怖くないし、後でとっておきのサービスしてあげるから。
だから、ちゃんと見ててね?
「悪魔もまぁ、変なディアボロを作るものだね」
マスコットの中の人、いや、中の悪魔は、仲間達の攻撃をきっちり倍にして返していく敵の姿を見ながら呟いた。
「とはいえ、この能力だけ切り取られたりすれば、強大な能力と言わざるを得んね」
放置する訳にはいかないが、まずは避難の手伝いだ。
「つっても、私の見た目でそこまで近寄ってくるとは思えんけどね。見たまま悪魔だし……って、ぇ?」
しかし、秋桜は何故か大人気だった。
しかも子供達に。
サキュバス的には、男の視線を集めるのは納得がいく。
しかし何故……ああ、そうか。
見た目だけは可愛い、マスコットに変身していたのだった。
その実態、もとい中身を知らない純真な子供達は、着ぐるみに纏わり付いて来る。
……どうしよう。
「危険ですから、皆さん近付かないで下さいね!」
ギャラリーにそう声をかけると、日ノ宮 雪斗(
jb4907)はストレイシオンのシーニーさんを呼び出した。
魔法少女達のノリと勢いに圧倒されて目立たなかったが、大丈夫。活躍はこれからだ!
「よ、よよよし! 頑張る! 今日はシーニーさんじゃなくて私が、がんばる…!!(カタカタカタ」
震えながらも、雪斗は追い込み漁のお手伝い。
敵を一箇所に集め、盛大な花火を打ち上げるのだ――いや、打ち上げるのも、打ち上げられるのも自分ではないけれど。
「わ、私がやるんだもん…!」
せめて、その死出の旅……違った、華々しい門出を祝う為の下地作りを。
「シーニーさん、守りはお願いします!」
防御結界で守りを固めつつ、ルキフグスの書を開いた雪斗は、影の刃で敵を切り刻む。
が、結界とマスターガードを付けても倍返しは痛かった。
「でも、負けてはいられません!」
痛みに耐え、シーニーさんにも尻尾で追い払って貰ったりしながら、次第に敵を追い込んで行く。
やがて敵は、押しくら饅頭でもするかの様に肩を寄せ合い、ひしめき合う団子になった。
「行きますか! シーニーさんハウス!!」
場の空気が変わった事を敏感に読み取った雪斗はパートナーを送還しつつ、大きくバックステップでその場を離れ、衝撃に備える。
始まるのだ。
始まる前から伝説となった、闇歩祭が。
「さぁ行こうか。新たなる伝説を作りに」
レイは得物を雷帝霊符に持ち替え、魔力をブースト。
フラグは立てていないのに、生き残れる気がしない。
「見せてあげる! 世界を彩る命を華を!」
代わりにヴェーラがフラグを立てた。
得物はファウンテンハンマー、受防は高いが攻撃力も素敵だ。
「倍返しとか胸熱なのですよ…!」
芽楼は破魔弓を手に、ギャラリーに対して最も見やすい位置に陣取る。
「皆、準備は良いかの?」
ホイッスルを手に、樹が一同の顔を見た。
ナイトウォーカーの中に陰陽師がひとり、でも寂しくなんかない。
散る時は皆一緒だと、閃火霊符をセット。
「三回目で攻撃だの!」
ピッ、ピッ、ピィーーーッ!
「今です!」
「点火!」
「主砲…はっしゃー!」
「きのこにかわっておしおきだの☆」
ファイアワークス×3、プラス呪縛陣。
一斉攻撃を受けて盛大に飛び散る火花と、踊る炎に巻かれて爆ぜる人形達。
「燃え尽きろーなのです!」
芽楼が叫ぶ。
確かに敵は、その猛攻の前に燃え尽きようとしていた。
だが、やられたらやり返す。
倍 返 し だ !!
荒れ狂う劫火は激しい爆音と共に戦士達に襲いかかった。
色とりどりの炎が次々と弾け、火花を散らし、戦士達を呑み込んで空に打ち上げる!
その威力は、ダメージ×2×敵の数×戦士の数。
盛大な花火が地上を走り、空を染め上げ、大気を揺るがす。
ついでに爆発の範囲も倍に広がったが、こんな事もあろうかとギャラリーはしっかり遠ざけてあった。
「これが……範囲攻撃倍返しッッ!!!」
どーん!
耳を聾する爆音と共に、芽楼は吹っ飛んだ。
吹っ飛ぶついでにギャラリーの方に向き直り、カメラ目線でポーズを取る。
あの不気味な仮面は爆発の衝撃で割れ、素顔が見えていた。
ついでに服も破れてサービス満点!
「倍返し……? いや、衣服炸裂(リアクティブ・アーマー)……!」
大事な所のみ僅かに布きれで覆われた状態で、花火と共に舞う美女(自称)。
「もう……だめ……あとは……お願いしま……す……」
たーまやー。
「あとは……まかせた……!」
ちーん。
サムズアップと共に前のめりで倒れるヴェーラを、吹き上げる炎が天に運んだ。
レイは笑顔のまま炎に呑まれ、樹はくるくる踊りながら宙を舞う。
それは見事な花火だった。
夜空に咲くどんな花火よりも大きく、激しく、華やかで、そして哀しい。
「散っていく……あなた達の犠牲は忘れない……!」
爆風にスカートをはためかせながら、イザヤは散って逝った仲間達を悼む。
独りだけ、遺されてしまった。
しかし、戦いを最後まで見届けるのがリーダーの責務。
範囲攻撃を持たない為に、混ざれなかった訳ではないのだ。
決して。断じて。
「彼女達(苦しい)の犠牲を無駄にはしない……!」
冷刀マグロを手に、イザヤはがんばる。
何だかもう祭は終わった雰囲気だけど。
お客さん満足して帰り始めてるけど。
がんばる。
一人だけ魔法少女(男)の格好だけど。
がんばる。
「……なんであんなに楽しそうなんだろーねー」
安全な場所で祭を見物していた恵夢・S・インファネス(
ja8446)は、ぽつり。
悪魔の義姉、秋桜には「戦闘においてダメージに耐える事の訓練」だと聞いていたのに、何がどうしてこうなった。
その秋桜は、いつの間にか着ぐるみだけを残して消えていた。
祭のどさくさに紛れて敵の一体を拉致、近くの藪の中に連れ込んだのだ。
「体を愛撫してみて、快感が倍になって返ってくるのであれば素晴らしいツールだぉ! ネットで売ってたら即買いだろjk」
だが、残念ながら試す前に見付かってしまった!
「あれ、何か変な事しようとしてなーいー、秋桜ー?」
「べつに何もしてないぉ」
邪魔が入った。
秋桜は拉致っていた敵の頭を鷲掴みにすると、渋々といった風に藪から出て来た。
そこにダークブロウを乗せて、腹立ち紛れにもう一体の敵に投げ付けてみる。
「仲間に倍反射が狙えれば御の字かぉ」
だが、やっぱりそれは「ただの武器」と判断された。
倍返しの攻撃が秋桜に迫る。
しかし、こんな時の為の代理盾だ。
「しっかり訓練するのだぉ」
間に入った恵夢が、そのダメージをシールドで受け止める。
残党目掛けて次々と繰り出される秋桜の魔法攻撃、それを受け続ける恵夢のクリアドレスは次第に破れ、引き裂かれ――
「ちょ、ちょっとは手加減してるー?」
してない。
「手加減したら、訓練にならないのだぉ」
というのは建前で。
ドレスが衣服としての役割を放棄するまで、あと少し。
そもそもこれは衆人環視の下、敵のカウンターによって受ける物理的ダメージと、徐々にひん剥かれていくという精神的ダメージの双方に対してどれだけ耐えられるかという、M性の戦いなのだ。
ここで手加減など出来る筈もない。
そうとは知らずに訓練だと信じ込んでいる恵夢は、ひたすら耐えた。
疑いもせずに、跳ね返って来る全ての攻撃を受け止める。
衣服の風通しが涼しくなるどころか、既に素肌の上に鎧を着けた裸エプロンならぬ裸鎧の状態だが、気にしない。
人の目は気になるが、恥ずかしいという意識はなかった。
この訓練を耐え抜けば、きっとまた一回り大きくなれると信じて……
「シーニーさん、もう一度お願いします!」
再びパートナーを呼び出した雪斗は、残った敵の掃除にかかる。
防御結界を使いつつ、今度は確実に仕留めていった。
祭が終わった今、もうギャラリーの目を気にする必要はない。
後片付けは安全確実に、地味でも良いから撃ち漏らしなく。
イザヤは魔法少女コスのまま、残党狩りに勤しんでいた。
花火と散った戦士達にはライトヒールなど焼け石に水より効果がない、その分は生き残った仲間に回して――いや、彼等も死んではいないけれど。
死んでないし、再起不能でもない。
あの状況で生き残れるなんて、奇跡を通り越してギャグとしか思えないけれど。
そして――
戦いは終わった。
「これで……平和な世界に……(主に僕の精神的な意味で)」
空を見上げ、イザヤはぽつりと呟く。
いつの間にか夜の帳が降りた空には、満天の星が瞬いていた。
四人の仲間は、そこにいる。
彼等は空の上でお星様になったのだ。 ※なってません
もう、二度と帰らない。 ※病院に運ばれただけです
けれど彼等はこれからも、この世界を温かく見守ってくれる事だろう。
あの空から、永遠に。
「シルバー、ブラック、しめじ、そしてメイド仮面。あなた達の勇姿は、忘れないよ……!」
伝説は終わった。
そしてまた、新たな伝説が始まる。
それを作るのは、君かもしれない――!