●雪室 チルル(
ja0220)の現実
「あたい思ったんだけど、合コンってなんだろう?」
しかし疑問に思っても、その場の雰囲気とノリで全てをユルく理解し突き進む。
それがチルルちゃんクオリティ。
結論:合コンとは「みんなで仲良く遊んで友達を作る会」の事である。
「みんなと協力して強い敵をやっつければ良いのね! そういう事なら、このチルルちゃんに任せて!」
●ラグナ・グラウシード(
ja3538)の現実
「何だと?! 合コン…ッ」
非モテ騎士の全身に電流が走る。
「くくく…この好機逃してなるものかっ!」
募集チラシを握り締め、会場へ一番乗り!
「ふんっ、私はいつだって美しいのだ…そう、ヴァーチャル世界でも同様に!」
己の容姿に絶大な自信を誇るナルシストは、脳内イメージでも素のまんまだ。
「見ろ、これが私だ!」
だからモテn(ry
●若杉 英斗(
ja4230)の現実
10日間の絶対安静を命じられた彼の耳に、風の噂が届いた。
「合コン、だと…っ!?」
そうと聞いては、じっとしてなどいられない。
「たとえこの身が砕けようとも、俺は行く!!」
本当に砕けたらイヤだけど、そこはコメディ補正で何とかなると信じたい。
かくして英斗は、松葉杖に縋る様にして会場に転がり込んだ。
事前に顔合わせをしないという取り決め通り、目を閉じたまま席に座る。
「ほぅ、バーチャルリアリティシステム」
なるほど、吊り橋効果というヤツだな。
戦闘のドキドキを恋愛感情と錯覚し、二人は恋に落ちる…という寸法か。
ニクイ演出だぜ!
「さぁ、イイトコロを見せつけてやるぜ!」
仮想空間なら、重体なんて怖くない!
●阿東 照子(
jb1121)の現実
ここは多くを語るまい。
世の中、知らない方が良い事もあるのだ。うん。
●紫 北斗(
jb2918)の現実
「人の夢と書いて…儚い…」
ほろり。
こっそりと参加メンバーを確認した北斗は、そっと涙を縫った。
「目先の誘惑に負けて、理想の君を裏切る所どした」
しかし、このままではいけない。
道を踏み外す一歩手前でその愚かさに気付かせてくれた皆の為にも、ここは一肌脱がねばなるまい。
そう、『リア充候補生に架空の美女へ恋をさせ新リア充の誕生を阻止せんと運営中のお料理ブログ主ゆかりちゃん』として参加し、せめて一時なりとも楽しい夢を。
却って傷口を抉る結果になるかもだけど、ね☆
●鏑木鉄丸(
jb4187)の現実
誰にでも苦手な事はある。
苦手な人だっている。
本能的に危険を感じる存在から距離を置く、それは生物として正しい行いだろう。
しかし、その相手が身近な存在、特に家族である場合は少々厄介だった。
克服出来れば、どんなに毎日が明るく楽しくなる事か。
「保健の先生からアドバイスもらって来たんだけど…」
物陰からそっと様子を伺ってみる。
淡い期待が脆くも崩れ去る、乾いた音が心の中に響いた。
「…何だろうこの面子。俺の克服ぷらすリア充計画、夢に終わりそうだな」
でも、これで全員とは限らない。
もしかしたら、意外な隠し球が――
「よし、俺は敢えてありのままの自然体で行くことにする!」
いつものヘッドホンに釘バット、後は気合いで乗り切る。
だってバーチャルだし!
●菊千田 一(
jb6023)の現実
「合コン? ははっくだらない」
なのに何故参加するのかって?
「この特殊な形式に知的好奇心を擽られただけです」
眼鏡をくいっと持ち上げ、クールな視線を返す。
だがしかし、中身はぼっち救済委員会に釣られた出会い厨。
しかも――いや、これ以上は言うまい。
●仮想空間
「若杉殿も来ていたのか!」
同志の姿を発見した非モテ二人は固い握手を交わす。
「行きましょう、ラグナさん。俺達の真の実力をアピールするときがやってきました!」
二人きりで水杯を交わした出陣式。
決意も新たにモードチェンジ、すると――
サラサラの黒髪を背に流した、ピッチピチの麗しき美女が現れた!
年の頃は二十歳くらいだろうか。
修道女スタイルが良く似合う、まるで天使の様なお姉さんだ。
「お嬢さん、お名前を伺ってもよろしいかな?」
訊ねるラグナに、美女は頬を染めながら答えた。
「照子と申します」
「良い名前だ」
少し古風な感じがしないでもない、が。
「照子さん、私があなたをお守りします!」
「俺も、あなたの為ならどんな危険も厭いません!」
非モテ騎士ズ、鼻の下がすっかり伸びきっている。
と、英斗の袖をそっと引く者がいた。
「ゆかりだょ。英くん、一緒にがんばろぉね☆」
喋る度に外側に跳ねた銀髪が肩口で揺れる。
健康的な小麦色の肌に、エキゾチックな金のアーモンドアイ。
最新の大人女子冬コーデから、眩しい胸元が覗く。
厚着の下でも、官能的にくびれた腰のラインは隠せなかった。
おまけに京料理の心得まであるとは、なんて完璧なんだ。
これは夢か? ※いいえ、バーチャルです
そんなゆかりの姿を、鉄丸もまたじっと見つめていた。
しかし、その視線はちょっと複雑だ。
(ゆかりちゃんの容姿が、どうしても姉貴に見えて仕方ない…!)
膝が震え、額には脂汗が滲み出て来る。
そう、彼は極度の姉恐怖症。
ラスボスと聞けば真っ先にその顔が浮かぶ程に。
克服したい「苦手なもの」とは、姉の事だったのだ。
(でもなんかドキドキする…なんでだろう?)
まさか、まさか…
「鉄くん、どぉしたの?」
振り向いたゆかりが笑いかけると、鉄丸は思わず目を逸らした。
(私を見て目を逸らすのは何故?(*・ω・*)
ゆかりは鉄丸の腕を取り、真っ赤になったその顔を横から覗き込んでみる。
「恋の予感だょ…!」
「え、こ、これが…恋?? でも俺女の子はちょっと…」
とは言え、目の前の美女にトキメいている事も事実。
(ていうか、待てよ?)
これはイメージの世界だ。
(てことは俺、姉貴みたいな女の子が好きってことなのか?)
気付いてしまった衝撃の事実。
苦手は好きの裏返しだったのだ!
「いやいやいやいや!!! 無いわああああああああああ」
※鉄丸はログアウトしました
「あんた見ない顔ね! 最近学園に来た人かな?」
チルルに声をかけられて振り向いたのは、清楚で可愛い妹キャラ。
その頭部にはパステルピンクの角丸フキダシが付いていた。
そこにカタカタと丸っこい文字が躍る。
>ぅちゎ雛菊だょ。。ょろしくね(・ω・)ノ
「変わった子だけど面白そう! 一緒に頑張ろうね!」
そう言えば、戦いに来たんだっけ。
直後、視野の真ん中にどーんと現れた巨大ボス!
その姿は言動が厨二くさいリア充な幼女!
って、どんなイメージや。
>「合コン」ってゅぅのゎ。。英語で「Mixer」。。つまり。。まぜるってゅぅこと。。
雛菊たんの頭上に現れる文字に、皆が注目する。
>だから。。ボスのィメェジもまぜた。。そしたらもう。。ぃみゎかんなぃ。。
なんて言ってるうちに、幼女はリア充ネタでめっちゃ強い精神攻撃を仕掛けてきた!
ぼっちの存在意義を揺るがす言葉の暴力!
だが、それをガードすべく雛菊は仲間を呼んだ!
>でも。。ぁきらめるのょくなぃって。。だから。。松任谷くん。。たすけて。。。!
呼びかけに応えて、松任谷 栄二(
jb6551)が現れた!
ただしアイテム扱いだ!
雛菊は栄二の身体を盾に皆を守る。
>でも。。みがわりにしたこゎ。。たぉれた。。かぃふくできなぃ。。ごめん。。
だってアイテム扱いだから。
>でも。。松任谷くんゎ。。ズッ友だよ。。。!!
その隙に、チルルは猛然と突っ込んで行く。
「一番槍はあたいのものよ! 全員突撃ー!」
黙って立っていれば普通に可愛い少女だが、残念、中身は脳筋だ。
外見が幼女でも、敵には容赦しないぞ!
男性陣の「か弱いヒロインは俺が守る」的な妄想と恋愛フラグを悉く粉砕しながら突撃をかまし、大剣でぶった斬る!
「手応えあったわね!」
なんだ、わりと弱い…と思ったでしょ。
しかし今のは第一形態だ。幼女の頭に角が生え、振り上げた腕がヌルヌルの触手に変化する。
「変身しただと!? くくっ…だが! その方がやりがいもあるというもの!」
ラグナは照子の前に立ち、ドMの極みで触手から守る!
「何と頼もしい殿方なのでしょう」
恋するキラキラ瞳を背中に感じ、気分は最高。
この戦いが終わったらプロポーズしても良いくらいだ。
だが触手は強かった。
しかも増えた。多分10本以上。
流石に一人では守りきれない。
「若杉殿!」
英斗に助力を乞うが…男の友情は脆かった!
「ごめん、ヌルヌル触手とか…俺はパスだな」
代わりに強力な助っ人を用意したよ!
「鏑木君、ここは任せた!」
召喚されて鉄丸が再びログイン、生贄として差し出される。
「触手好きって聞いたから!」
「え、なに? 何がどうなっ…うわあぁぁ」
ヌルヌル触手に捕まった鉄丸は、その感触を思う存分に楽しんで…ない?
でも何だか嬉しそうだけど。あんな事やこんな事、そんな事までキャー!
生贄によって触手は封じられた。
しかし敵にはまだ、めっちゃ強い厨二必殺技が残されている。
具体的にどんなのかって?
多分、禁断の絶対神が空虚な混沌を顕現する的な。
それが炸裂し、周囲の全てを吹っ飛ばした。
「きゃっ!」
清楚な美人は転び方も清楚だ。
しっかりと膝を閉じ、恥じらいながら修道服の裾を押さえる仕種も愛らしい。
「大丈夫ですか!?」
「ええ、このぐらい大丈夫です」
手を差し伸べたラグナに、照子は眩い笑顔で答えた。
この笑顔に応えねば、男が廃る。
しかし今度も、先手を取ったのはチルルだった!
「なんか怪しいわね…まいっか! 早く行こう!」
新たにペアを組んだゆかりの姿に違和感を感じつつ、やっぱり深く追求しない。
それよりバトルだと、幼女目掛けて猛ダッシュ。
必殺技の隙を衝いて触手を断ち切り、鉄丸を救い出す。
触手がなくなり無防備になった胴体を、ゆかりが愛刀(包丁)でメッタ斬り!
「聖愛天使神姫(クリスティラブエンジェル)でざっくざっくだょ!」
トドメは雛菊の虹色シャボン玉攻撃、エフェクトは可愛いが攻撃自体はえぐいぞ!
そして遂に、幼女は最終形態になった。
画面に収まらない程に巨大化し、悪の大魔王の本性を見せる。めっちゃ強い。
だが幼女だ。
画面外からビームを撃つという卑怯な反則技を使われ、英斗はディバインナイトの本領を発揮、近くの仲間を庇う。
>若杉さんガードぁりがと(*>ω<)優しぃ人ってかっこぃぃ///
だが、英斗は。
「菊千田さん、何の真似ですか…」
あれ、バレちゃった?
何故だ、擬態は完璧だった筈なのに。
「そのネカマプレーで、いままで何人の男に貢がせたぁ!!」
滂沱の血涙と共に、英斗はラスボスそっちのけで雛菊を追う。
大丈夫なのか、このチーム。
「いよいよ私の出番か」
ラグナが大剣を構えた。
「ラグナさん、攻撃強化の術をかけます!」
麗しの照子さんにアシストを貰い、いざ!
「私の強さ美しさ、存分に見るがいいッ!」
シャイニング非モテオーラ!
続いてアーマーチャージ!
「喰らえッ! 我が必殺の一撃ッ!」
照子さんの愛と非モテの怨念が籠もった、超強力な一撃が敵を切り裂く!
愛と怨念は強かった。
って言うかラスボスはただデカいだけで、実は中ボスの方が強敵でしたっていうパターンだろうか。
ともかく、敵は倒した。
ボスは憑き物が落ちた様に、ごく普通の真っ当な幼女に戻った。
「ふふ…俺のかっこよさは充分アピールできたはず。この合コン、もらった(くわっ」
英斗がカメラ目線でドヤ顔を決める。
しかし、今現在モテモテなのは――
「鉄丸さん、癒しの術を使います!」
癒しの天使、照子さんがヒールをかけると、触手に蝕まれた鉄丸の身体は心地よい温もりに包まれた。
続いて「ぁ〜ん♪」と差し出されたのは、ゆかりの手作り万能回復スペシャル弁当。
苦手なお姉ちゃんそっくりなゆかりちゃんに介抱されて、鉄丸の苦手意識も多少は改善…されると良いね。
己の深層心理を知ってしまった今、寧ろますます苦手になりそうな気もするけれど。
だが、彼等はまだ気付いていなかった。
ラグナに倒されたかに見えたボスは、まだ最後の、そして真の力を残していたのだ。
その変化に、最初に気付いたのは雛菊だった。
「何だと、幼女が成長…っ馬鹿な、成長が止まらない、だと…っうわあっわああああ」
ネカマの擬態も忘れて叫ぶ。
再び巨大化を始めた幼女は、成長という名の老化を促進させ――
巨大な老女になった!
しかも、なんかどこかで見覚えがある様な!
合コン参加者達は思わず逃げ出した。
だが、巨大老女はギラリと光る出刃包丁を手に追いかけて来る。
しかも速い。デカいくせに。ご老体なのに。
追い付かれたら負けだ。
勝てる気がしない。
例えバーチャルな世界でも!!
●再び現実へ
真のラスボスはどうにか撃退した。
と言うか逃げ切った。
後はリアル世界で、うれしはずかしご対面――
しかし、現実は非情だった。
「あれ、さっきと違う人達がいる?」
チルルが不思議そうに首を傾げる。
彼女は多分、ネットでは自称している年齢性別その他、全てがアテにならないという過酷な現実を知らない。
いや、知らなくて良いのだ。
知ってしまったが最後――
「ははっネカマに釣られる方が悪いんですよ^^」
眼鏡を直しながら、クールに決めた雛菊の中の人。
だがしかし、彼にも知らない衝撃の事実があった。
「な、ゆかりんもネカマだと…いや、想定内、想定内です…」
内心の動揺を必死に取り繕うが、そこには更に過酷な現実が。
「くそっ阿東さんだけは大丈なはz…」
「おや、どうしたんだい。わしをじっとみたりして。ひょっとしてホレちゃったかい?」
その顔を覗き込み、せくすぃーなウィンクを飛ばす元美女。
「…っうわあっわああああ」
その姿はまさに、真のラスボスそのものではないか!
「あれ!? 黒髪のきれいなお姉さんはどこいった!?」
そうとは知らずに周囲を見渡す英斗に、元美女は投げキッス。
「え…このお婆さんが…ウソでしょ!? ウソでしょーーー!?」
「く…ど、どうせ、期待なんかしていなかったしな」
がっくりと膝を付く英斗と、負け惜しみで虚勢を張るラグナ。
「ああしていなかったともさ( ゜д゜ )クワッ!!」
言葉とは裏腹に、迸る血涙。
だが衝撃の事実が更にドン。
ゆかりの正体は北斗だったのだ。
「紫殿…そんなシュミがあったとは( ゜д゜ ;)」
ラグナはまだ余裕があった。
しかし英斗は――
現実を受け止めきれなかった。
石化し、風化し、塵となって崩れ去る淡い期待。
「…剣の道と同じく、合コン道も険しいのだな…なあ、若杉殿( ;∀;)」
そんな中、チルルは相変わらず元気一杯だった。
「楽しかった! またやりたいわね、合コン!」
結局最後まで、合コンの何たるかは謎のままだった様だが――