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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/11/07


みんなの思い出



オープニング


「……もういいよ、俺……逃げない」
 町にディアボロが現れた時、少年はそう言って首を振った。
「なに言ってるのタク! 逃げなかったらどうなるか、あんたもわかってるでしょ!?」
 母親が青ざめた顔で叫び、少年に手を差し伸べる。
「……そうだよ、わかってる」
 少年は焦点の定まらない目で母親を見返すと、ゆっくりと首を振った。

 わかってるからこそ、逃げないのだ。
 もう、これで二度目だから。

 少年が住んでいた町は、つい先日ディアボロの大軍に襲われたばかりだった。
 ディアボロは町を壊し、火を点け、逃げ惑う人々を狩りたてて……殺した。
 少年の親友も、その犠牲になった。

 家は少し遠かったけれど、幼稚園の頃から一緒だったアツシ。
 小三で野球を始めて、小五でバッテリーを組んだ。
 少年がピッチャーで、アツシがキャッチャー。
 六年の時には小学生の地区大会で優勝した。
 中学では、もう少しで全国大会という所まで行って――準決勝で負けた。
 悔しかった。
 だから、高校に入ったら今度こそ絶対に優勝すると、二人で誓い合った。

『甲子園、行くぞ』

 そう約束した。
『俺が絶対、お前を甲子園の優勝投手にしてやる』
 アツシは自信満々にそう言った。
『でもお前アホだからなー。だいじょぶか? 俺と同じ高校、入れるんか?』
 そう言って、鼻で笑っていた。
 名門校じゃなくていい。
 寧ろ弱い方がいい。
 ダメダメな野球部を、二人の力で最強にするんだ。
 そんなマンガの様な浪漫を語っていた。
 受験の為に引退したこの夏は、自主トレの傍らせっせと塾通いをして……
 漸く合格ラインに手が届いた、その矢先だった。

 志望校に合格しても、そこにアツシはいない。
 もう、どこにもいない。
「俺の球を受けてくれる奴は、もう……」
 トロフィーも、盾も、優勝旗も……二度と手にする事はない。
 なのに、全部燃えてしまった。
 家が火に呑まれた時、それを取りに戻ろうとした少年を父親が止めた。
『また二人で頑張れば良い、お前とアッ君なら、またすぐに戸棚一杯に並べられる』
 そうだ、アツシと一緒なら――そう思った。
 何度でも獲れると。

 でも、夢は壊れてしまった。
 いくら頑張っても、もう叶う事はない。

 そりゃ、キャッチャーだったら他にもいる。
 中学の部活にも、ずっと補欠だったけど……頑張ってた奴がいた。
 でも、そいつじゃダメなんだ。
 これは俺とアツシの夢で、約束で……でも、もう叶わなくて。

 だったら……生きてたって、しょうがないじゃん。

「……いいよ、俺。いっぺん死んで、もっかい……アツシと一緒に生まれ変わるから」
 そしたら、また一緒に野球が出来る。
 今度こそ、二人で甲子園に――

 その時、少年の頬が破裂する様な音を立てた。
「この馬鹿野郎!」
 何が起きたのかわからないまま、尻餅をついて頬を抑えた少年の前に、父親が仁王立ちしていた。
 父親は息子の左腕を掴むと、その身体を乱暴に引き上げた。
 大事な利き腕、ピッチャーにとっての財産であり、商売道具である、その腕を。
「何すんだよ! 触るなって、いつも――」
「もう投げないんだろ? だったら、折れようが何しようが構わないじゃないか」
「……っ!」
 そうだ、俺はもうピッチャーじゃない。
 もう投げないなら……
 もう、投げないけど……
 それでも。
「触るな!」
 少年は強引に父親の手を振り払った。
 一瞬、驚いた様に目を見張った父親は、僅かに口元を綻ばせた。
「その元気があるなら大丈夫だな。ほら、母さんに手を貸してやれ」
 そう言うと、仮住まいの狭いアパートの玄関に向かう。
 だが――

 外にはもう、敵が溢れていた。
 このまま、ここで救助を待つしかなさそうだった。



リプレイ本文

「また救助かぁ…」
 その掲示を見た並木坂・マオ(ja0317)は、何か重い荷物でも負わされた様な溜息をついた。
 正直、こんな毎日がいつまで続くのだろうと思う事がある。
 終わりが見えない事もしんどい。
「でも、今戦わなきゃ明日が来ないんだ。そのための力がアタシにはあるんだから」
 弱音を吐いている場合ではないと、マオは自分の頬をバシバシ叩いて気合いを入れ直した。
「よっし、ガンバるぞ!」
 マオは仲間達と合流し、現場へと急ぐ。


 そこには、道路を埋め尽くすほどに子鬼が溢れ、ひしめき合っていた。
 だが、まだ火の手は上がっていない。
「前の街は、それでなくなっちゃったんだよね」
 それだけは絶対に阻止しなければと、マオは拳を固めた。
「だって悲しいじゃん。自分が今まで住んでた街がなくなっちゃうなんてさ」
 とは言え、逃げ遅れた人がいるなら優先すべきはその救助。
「そうね、まずは早めに取り残された人達の所に行かないと」
 フローラ・シュトリエ(jb1440)が指差したアパートは、子鬼の海の向こうにあった。
「アタシ、先に行ってるね!」
 マオは美味しいゴハンを見せられた猫も真っ青な勢いで飛び出して行く。
 その進路を切り開こうと、フローラは行く手に氷の槍を撃ち放った。
 敵が次々と倒れる中を、マオは全力で駆け抜けて行く。
 フローラとしては、出来ればその先の敵も排除したい所だったが――流石にマオのスピードには付いていけない。
「いくら雑魚とは言え、これ以上の突出は危ないわね」
 フローラはそこで立ち止まり、マオの背を見送った。
 あの勢いなら、まず大丈夫だろう。
 その読み通り、マオは行く手を塞ぐ邪魔者を突き飛ばしながらアパートにまっしぐら。
「助けに来たよ! 残ってる人がいるなら、そこから動かないで待ってて!」
 ついでに、他にも逃げ遅れた者がいるかもしれないと大声で叫ぶ。
「すまんが、私も先に行くぞ」
 谷崎結唯(jb5786)も、闇の翼で敵の頭上を越えて行く。
「助けに来た」
 アパートの薄っぺらいドアを叩くと、向こう側で安堵の息が漏れる気配がした。
「だが、暫し待て。私の同行者がこちらへ向かってるんでな」
 ドアに背を向けて仁王立ちした結唯の元に、マオが転がり込んで来る。
「ここは私が守ろう。お前は後ろにくっついて来た子鬼どもを頼む」
 結唯に言われ、後ろを振り向いたマオは獲物に飛び掛かる猫の様に身構えた。
「丁度良かった、アタシ誰かを守りながらの戦いって実はちょっと苦手なんだ」
 背後を任せられるなら、存分に戦える。
 マオは寄せ来る波の様な子鬼達を蹴散らしにかかった。

「被害もしっかりと抑えないとならないわね」
 二人がアパートに辿り着いた事を確認したフローラは、自分もその後を追った。
 だが、もうそんなに急ぐ必要はない。
 後は着実に、残った敵の息の根を止めていけば良い。
 フローラは仲間の死角を埋める様に動きつつ、アパートとの距離を次第に縮めていった。

「好き放題暴れているといった感じだな。怖いものなど無い…そんな気分か?」
 周囲を見渡し、梶夜 零紀(ja0728)が呟いた。
 その光景が、脳裏に刻まれた忌まわしい記憶と重なる。
 だが、この町を故郷の二の舞にはさせない。
 冷静に、確実に…怒りで熱くなっても、良い結果は生まれないのだから。
「一匹たりとも逃す訳にはいかない。殲滅する…必ず」
 零紀は先頭に立って封砲を一発、子鬼の群れに楔を入れた。
「これ以上、好き勝手できると思うな」
 海が割れる様に、道いっぱいに広がった子鬼達が薙ぎ倒されていく。
 続けてもう一発。
 それが切れれば、後は力押しだ。
 零紀はスピンブレイドで命中を高めると、子鬼達の只中に躍り込んで、双剣ホワイトナイト・ツインエッジを振るう。
「…消えろ、目障りだ」
 白く輝く兼が閃く度に、赤い飛沫が舞い散った。

 その後方からは、神喰 朔桜(ja2099)の魔具アビスから放たれた鎖が敵を捕らえる。
「さあ、おいで。存分に愛してあげるから!」
 鎖が消えると同時に、子鬼の身体が崩れ落ちる。
 朔桜は余裕の笑みを湛えながら、容赦ない攻撃を加えていった。
 愛とは即ち破壊。
 恋が焦がれる物ならば、愛とは焼き尽くすもの。
 五つの黒い雷槍が、一体の小さな身体に突き刺さる。
 毒を孕んだ魔炎は焼き尽くすどころか、燃え滓を残す事さえ許さぬかの如き威力。
 近付く事は許さない。
 総てを轢殺する飛翔こそ、超越の羽撃きなれば――

「敵の数が多い上に自暴自棄の救出対象者か。ちょっとばかし厄介だな」
 皆と一緒に転送されて来た蒼桐 遼布(jb2501)は、しかし、敵が溢れて来る方向に背を向けて走り出した。
 しかし子鬼達には、その姿が逃げようとする一般人に見えた様だ。
 逃げる獲物は追いかけるのが捕食者の本能、子鬼達は回り込んで行く手を塞ぐ。
「お前達の相手をしている暇はない」
 あの少年は、恐らく言葉だけでは動かないだろう。
 避難所に引きずって行く事は出来ても、そこから先には進めない。
 だから何か――キャッチャーミットでも持って来てやりたい。
(仕方がない、上を越えて行くか)
 と、そう考えた時。
「早う届けてやりたいと、気が急くのはわかるがのぉ」
 低い位置から声がした。
「見ての通りの状況じゃ、まずは討伐を手伝ぅてくれんかの?」
 声の主は風花 梓(jb7205)、これが初仕事となるバハムートテイマーだ。
「わかった、そうしよう」
 仲間達の戦いぶりを見る限り、苦戦する事はなさそうだったが…流石に全てを任せきりにする訳にはいかない。
「うむ、頼んだぞ。わしは松明持ちを狙うでの」
 そう言って、梓は和弓「残月」の弦を引き絞る。
「ディアボロ相手なら存分に腕を振るえるでな!」
 火災さえ起こらなければ、貧弱な子鬼どもが引き起こす破壊など大した事はないだろう。
 放たれた矢が身体に当たると、子鬼は松明を取り落とす。それは他の子鬼に踏まれ、火は自然ともみ消された。
 そこに乱入した遼布が削竜「ゾロアスター」を振るうと、子鬼達は肉片となって散る。

 そんな仲間達の様子を横目で見ながら、ヒース(jb7661)は黙々と子鬼の首を刈り続けていた。
 敵の密集地に、三日月の様に鋭い無数の刃が飛ぶ。
(語る夢は持ち合わせておらず、少年の想いを理解する心もない)
 刃の乱舞が収束すると、ヒースは敵集団の真ん中に歩み寄り、恭しく一礼。
 近寄って来た敵の首を狙って、大鎌ラディウスサイスを振るう。
(私は堕ちた悪魔だから)
 一匹。
(私は無様な道化だから)
 二匹。
(私は哀れな残骸だから)
 三匹。
(だから、邪魔なモノを殺しつくしましょう)
 大鎌を振っている間、敵は攻撃の間合いに踏み込む事さえ出来なかった。
(選んだ道を阻むモノの首を狩りつくしましょう)
 踏み込もうとすれば、武器を振りかざす前に自らの首が落ちる。
 中には自分の首がなくなっている事にも気付かずに、武器を持つ腕を振り上げているものもいた。
 だが、その攻撃がヒースに届く事はない。
 髪を結んだ藍色のリボンに返り血が付く事もない。
 道化の舞は続く。
 刈り取るものがなくなるまで。


「どれ、もうそろそろ数も減って来た様じゃのう」
 梓は光の翼で宙に舞い上がり、そこから残った敵の姿を探す。
「撃ち漏らしがないように、しっかり確認しないとね」
 地上ではフローラが、路地の隅々にまで目を光らせていた。
 何かを見つければそのまま弓や魔法の餌食に、数が多ければ応援を呼んで一気に片付ける。


 やがて敵の殲滅が確認され、身を隠していた人々が撃退士達の呼びかけに応じて姿を現し始めた頃。

 遼布と梓、フローラの三人は、壊れたアツシの家で探し物をしていた。
「何か形見になる様なもの…やっぱり野球道具が良いわよね」
「ああ、俺はキャッチャーミットを探してるんだが」
「男の見つけて欲しくない物はベッドの下と相場が決まっているのじゃー」
 しかし肝心のベッドが何処にあるのかわからない。
「ヒリュウ、ちっと奥の方を見てきてくれんかの」
 梓は崩れた家の奥にヒリュウを飛ばしてみる。
 その視覚を共有し、見つけたものは――


 そして、こちらは例のアパート。
「もう大丈夫だよ」
 マオの呼びかけに応じて、軋んだ音を立てながらドアが開く。
「助かった、のか…?」
 少年、タクが父親の後ろに隠れながら恐る恐る顔を出した。
 死んでも良いと言っていた割には、随分な怯え方だ。
(先の襲撃とは恐らく、この子鬼の仕業だろうな)
 その姿を見て、結唯は思う。
 忌まわしい記憶の中にあるのと同じ敵の姿を見て、恐怖が甦ったのだろう。
 その時に死んだのはアツシと言ったか。
「…タク、と言ったな」
 結唯は少年に声をかけてみた。
 自分には関係ないと放置する事も出来たが、その不安そうな、今にも消えてしまいそうな寂しげな表情を見たら、どうにも放っておけなくなってしまったのだ。
「話には聞いているぞ、親友と友に野球をしていた、と」
 ぴくり、少年の顔が強ばる。
「親友の死で野球を辞めた、ともな」
「何だよ、説教しに来たのか!?」
 今度は睨み付けて来る。
 だが、結唯は構わず続けた。
「私はお前とお前の親友を詳しくは知らん。だがな、お前はそれで果たしてよかったのか? お前の心はそれでよかったのか? 自分で考え、納得し、そして決めたのか?」
 返事はない。
「私にはそうは見えんがな」
 タクとアツシ、二人の間に交わされた約束。
 破られたからといって、死人が怒る筈もない。しかし、タクにとっては蔑ろにしてもいいと、その程度のものだったのだろうか。

「別に死にたいって言うなら、私は止めないよ?」
 別の声が、そう言った。
「それがキミの選択だって言うならね。何なら私が殺してあげても良いし。本当に心の底からの望みなら、私が叶えてあげる」
 無邪気な笑みを湛えながら、朔桜は怖ろしい事をサラリと言ってのけた。
「――でも良いのかなぁ。本当に」
「何だよ?」
「いやね、死んだ所で生まれ変われるとは限らないんじゃないかなぁってさ。ついでに言うと、その友達は死んだ時点で生まれ変わっているんだよね」
 因みに輪廻転生の定義だと、人として生まれ変われるかどうかもわからない。
「何が言いたいかって言うと、二人同じ場所に、同じ夢を抱いて――なんて、偶然と呼ぶには都合が良過ぎるって事」
「そんなの…っ」
「試してみなきゃ、わからない? 良いよ、それでも」
 ただし失敗してもやり直しはきかない。
「曰く死を願望するのは惨めだってね。と言うか四半世紀も生きてないのに生意気。死を想うには早いよ」
「自分だって俺と同じくらいじゃないか!」
「残念。私は大学生だよ、坊や」
 ぺしっ!
 朔桜は生意気な鼻の頭を指先で弾いた。

「ほー。ほいじゃ、己が死んでアツシが生きとったらアツシに死んで欲しいんか、坊は」
 それでもまだはっきりと死を否定しない少年に、梓が言った。
「そんなこと、ないけど…」
「けど、何じゃ! 童っぱ以外とバッテリーを組むんは、童っぱを裏切る事にはならんじゃろ!」
 梓はその煮え切らない顔面に、開いたノートを押し付けた。
「何だよ、何すんだ!?」
「よう見てみぃ、それはアツシの日記じゃ。流石はバッテリーじゃのぅ、坊の練習メニューからその日の体調、球の走り具合、果ては機嫌の善し悪しまで事細かに書かれておる」
 これを見てもまだ、死にたいと言うのか。
 野球などやめると言うのか。
「君の親友の家で回収してきたんだが…君には無用の物だったか」
 遼布が使い込まれたキャッチャーミットをちらつかせながら言った。
「だってそうだろう? 君の心に中に生きる親友と交わした約束を果たさずに、その絆を放棄しようとする君に…親友『だった』やつとの思い出の品など無用の長物だからね」
「それ…どうする気だ」
「さあ、どうしようか。俺が持っててもしょうがないし…ディアボロの死体と一緒に燃やしちまうか」
「やめろ、返せ!」
 飛び掛かって来た少年をあっさりとかわした遼布はしかし、それを少年に投げ渡した。
「じゃぁ、何があってもあきらめるなよ」
「一緒に甲子園に行くのが夢だったのよね? だったら…連れて行ってあげて」
 手にしたミットをただ呆然と見つめる少年に、フローラが声をかける。
 しかし少年は頷くでもなく、首を振るでもない。
 その様子を見て、梓が馬鹿にした様に鼻を鳴らした。
「まー。自主練も勉強も投げだした己が、甲子園へいけるとは思わんけどの」
 さあ、言い返せ。
 何か言い返してみろ。
 しかし、投げたボールは返って来ない。
(これはかなりの重症じゃのう)
 煽って奮い立たせる作戦は失敗だったか。
「時間はまだまだあるわ。焦らずにじっくり考えて答えを出すのもありだと思うわよ」
 フローラが言った。
 急ぐ事はない。今はただ、生きる気力さえ取り戻してくれれば、それで。
 魂が抜けた様なその様子を、零紀はただ静かに見守っていた。
 その状態は、零紀にも覚えがある。何も考えられなくなるのも無理はない。
 けれど…このまま放っておく事も出来なかった。
「…試合の時のアツシを覚えてるか?」
 少年が顔を上げる。
 返事はないが、その顔にはイエスとはっきり書かれていた。
「なら、よく思い出してみろ。負け試合に自暴自棄なお前を見て、どんな顔をするのか…それが答えだと、俺は思うがな」
 俯いた少年の頭に、マオが自分の大切な帽子を乗せた。
 鍔を目深に降ろし、顔を隠してやる。
「これで誰にも見えないよ」
 だから、泣いても大丈夫。
「落ち着いたら、その親友の家に行ってみるか、タク」
 結唯がその震える肩にそっと手を置く。
「墓参りに、な」
「他にも何か必要な物があるかもしれん」
 遼布が言った。
 今なら自分達が一緒だから、立入禁止区域にも入れる。
「何か持って行きたいものがあれば回収には協力するよ。そういうのって大事だよね。積み重ねた思い出の証なんだから」
 マオの言葉は、ふいに湧き上がった少年の血を吐く様な叫び声に半分ほど掻き消されてしまった。
 大粒の雨が抱き締めたミットに降る。
 それは親友を亡くして以来、初めて見せた涙だった。


『貴方はまだ死を望みますか? それとも生きる事を選びますか?』
 別れ際、ヒースの問いに少年ははっきりと首を振った。
 その腕には、大切な思い出の数々が抱えられている。
 もう、死の世界に惹かれる事はないだろう。
「ほったら、テレビで顔見るのを愉しみにしておこうかの〜♪」
 せせら笑う様に、梓が先程投げ損ねた球をもう一度投げてみる。
「ああ、来年の夏を見てろ!」
 今度は即座に、ど真ん中の直球が返って来た。
 一年生で甲子園に出るとは、また大した自信だが――
 煽った甲斐があったのか。
 それとも、この大見得は彼なりの恩返しのつもりか。

 ともあれ、壊れた夢は再び接ぎ合わされた。
 次の夏を楽しみに待つとしようか。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 撃退士・風花 梓(jb7205)
重体: −
面白かった!:8人

魔に諍う者・
並木坂・マオ(ja0317)

大学部1年286組 女 ナイトウォーカー
不器用な優しさ・
梶夜 零紀(ja0728)

大学部4年11組 男 ルインズブレイド
愛すべからざる光・
神喰 朔桜(ja2099)

卒業 女 ダアト
EisBlumen Jungfrau・
フローラ・シュトリエ(jb1440)

大学部5年272組 女 陰陽師
闇を斬り裂く龍牙・
蒼桐 遼布(jb2501)

大学部5年230組 男 阿修羅
天使を堕とす救いの魔・
谷崎結唯(jb5786)

大学部8年275組 女 インフィルトレイター
撃退士・
風花 梓(jb7205)

中等部2年2組 女 バハムートテイマー
黒鴉より暗き翼の・
ヒース(jb7661)

大学部7年101組 男 ナイトウォーカー