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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/09/16


みんなの思い出



オープニング


 残暑厳しい九月。

 九州の南に浮かぶ種子島に、一つの脅威が訪れた。
 南部の要地である南種子町。総人口六千人弱の小さな街は、ハイビスカスやサンダンカなどの南国特有の花々に囲まれている。
 その穏やかで、静かな街に――一人の使徒が降り立った。
 使徒の名は八塚 檀(やつづかまゆみ)。多数のサーバントを連れた彼は、瞬く間に町の一部を支配。
 そこから島全体へ向けての北上戦を開始したのである。

●久遠ヶ原学園

 集まった生徒達を見渡し、学園教師九重 誉(ここのえほまれ)は淡々と告げた。
「種子島を襲った敵の目的はわかっていない。あるのは島が襲われた事実と、それを阻止せねばらならない現実」
 見た目は三十台前半、と言ったところか。誉の強い視線を受け、一人の生徒の顔が強ばる。まだ戦地に出たばかりの新人撃退士で。
「現在京都、四国、東北での戦線が続いている。今の学園に島へ多くの人数を割けるだけの余力は、存在しない。君たちのような新人が集められたのは、その所以だ」
 そう、種子島特別班として招集されたのは、撃退士になって間もない者ばかり。実戦不足は否めないが、それでもこの人数を何とか集められたのは司令官でもある誉の尽力の結果でも有り。
 誉は言う。
「私はこの地球上に捨て置いていい地域など無いと考えているし、新人の君たちが勝てないとも考えていない」
 つまり、と一旦前置きし。
「この防衛戦、我々だけで勝ち進む。それだけの知恵と作戦を、私は君たちに与えるつもりだからな」
 そう語る司令官の顔には、確信に満ちた笑みが浮かんでいた。

 ※※

 彼方の水平線を見つめる、蒼い瞳。
 憂いを帯びたその視線は、コバルトブルーの海面に溶け込んでゆくかのようで。
「そろそろ……行きましょうか」
 白に近い銀髪が、海からの風を受け微かになびく。額にかかる前髪をそっと抑えながら。
 檀は立ち上がる。
 彼が視線を移した先には、サーバントの群れと集落の家々。
 人を傷つけるのには、未だ抵抗はあるけれど。
「目的を果たすために、手段は選ばないと決めましたから」
 そう呟く表情には、既に決意が宿っていた。

==================


「現在、敵の主力部隊は種子島のほぼ中央にある中種子町に向けて進軍中だ」
 一通りの説明を終えた誉は、部屋の隅で不安そうに身を寄せ合っている生徒達に目を向けた。
 彼等は未だ実戦経験のない、言わば新兵だ。
「……不安か?」
 鋭い眼差しで問われ、生徒の一人は思いきり首を振った。
「そ、そんなこと、ありませんっ!!」
 だが、威勢良く張り上げた声が震えている事は隠せない。
「心配ない。初めての戦いに臨む時は、誰でもそんなものだ」
 それは人としてごく自然な、真っ当な反応だ。
 寧ろ恐怖を自覚している方が、いざという時に冷静になれる。
 無表情のまま、自分もそうだったと誉は付け加えた――本当か嘘か、わからないが。
 それで少し緊張が解れたところで、誉は続けた。
「君達には、主に島民の安全確保に回って貰う」
 島の中央、国道沿いの市街地には既に避難指示が出ており、人々の避難も始まっている。
 だがこの島は農業が盛んな土地柄だ。今この時点でも、戸外で作業をしている者は多いだろう。
 中には防災無線等が聞こえず、敵の襲来を知らない者もいるかもしれない。
「国道から西側が、君達の担当だ。中種子町の市街地から南西方面に進み、逃げ遅れた者がいれば避難を呼びかける」
 今の所、その周辺に敵出現の報告はない。
 周囲に敵の気配が無ければ、避難を促すだけで良いだろう。
「だが、万が一……」
 続く言葉を予測して、生徒の一人が身を固くした。
 しかし誉は構わず続ける。
「敵が現れた場合は、速やかに対処すること。絶対に逃がすな」
 現れたとしても、敵本隊を上回る戦力である事は考えにくい。
 戦闘経験のない者でも、充分に対処は可能な筈だ。
「出来るな?」
 誉の言葉は質問の形を取ってはいるが、その実は殆ど命令に近い。
「はい!」
 例え自信はなくても、そう答えない訳にはいかなかった。



 種子島の現場に到着した撃退士達は、次々に各自の持ち場へと散って行く。
 その中に、去年の冬に小等部三年に編入したばかりの少年の姿があった。
「……ちょっと怖いけど……頑張ろうね、モーくん」
 その少年、粟野まろんは、茶色い牛のぬいぐるみを背中にくくりつけると、仲間達のもとへ走った。
「あの、僕、バハムートテイマーの、まろんって言います。実戦は初めてですけど、足手纏いにならない様に頑張りますから……よろしくお願いします!」
 身体を真っ二つに折る様に深々と頭を下げる。
 頭を上げると、背中で「モォ〜」と間の抜けた声がした。

 彼等の担当は、島の西部地区の警戒だ。
 種子島は起伏の少ない土地に、農地や雑木林が点在している。
 高低差が少ない為、見晴らしは良い。
「えっと、まだ外に残ってる人を探して、避難して貰えば良いんだよね」
 まろんはヒリュウのピーちゃんを呼び出すと、その目に映るものを共有する。
 ヒリュウの飛行能力と視覚共有は、こういった偵察や監視業務にはもってこいだ。

 暫く後、その視界の隅を何かがよぎった。
「あれ、何だろう?」
 真っ白い獣の様な、流線型の身体。
 四つ足で素早く走る姿は、遠目には少し変わった狐か狼の様にも見えた。
 だが……違う。
 撃退士達に気付いたそれは、背中を反らす様に上半身を持ち上げた。
 振り上げた腕には、大きな鎌が付いている。
 逆三角形をした、小さな顔。
 胴体を支える細い足は四本あった。
「……カマキリ……!」
 大きい。
 振り上げた鎌は、まろんの頭上よりも遥か高い所にあった。
 それが5〜6体はいるだろうか。
 と、その時。
「うわあぁぁっ!」
 小さな林の向こうから、誰かの悲鳴が聞こえた。
「たっ、助けて……助けてくれぇっ!」
 声のした方にヒリュウを飛ばすと、サトウキビ畑の外れで尻餅をついている男の姿が見えた。
 その周囲に、真っ白な巨大カマキリが三体。
「早く、助けなきゃ!」
 まろんの声に、仲間達が動いた。



リプレイ本文

 そこにいた敵は、6体。
 眼まで真っ白なカマキリが、一斉に撃退士達を振り向いた。
「早速ですか、厄介ですね…」
 安瀬地 治翠(jb5992)が、小さく溜息を漏らす。
「敵さんは、何故この島にしたんだろうねぇ…ま、考えても仕方ないか☆」
 ジェンティアン・砂原(jb7192)は一瞬考え込む様子を見せたが。
「今は目の前の事に集中!」
 思い直して気合いを入れた。
「カマキリさんをずばっと倒してしまうなの!」
 香奈沢 風禰(jb2286)が阻霊符を展開し、周囲の木々をすり抜けての逃亡を防ぐ。
「…学園に入学して、初の戦闘…。頑張るね…」
 続いて雪月 深白(jb7181)が前に出た。
「…まだ作物への被害、少ない…ここで仕留めたいね」
 光纏と同時にのんびりふんわりした雰囲気が一変、その瞳が禍々しい輝きを宿し、白銀のオーラが全身を包む。
「ここから先へは行かせないよ!」
 口調も変わった深白は忍刀・霧鮫を抜き放った。
「お帰りを。こんな場所まで君たちに明け渡す気はないよ」
 ウェル・ラストテイル(jb7094)が反対側に回り込み、小太刀二刀・氷炎を顔の前で交差させる。
 風禰と山科 珠洲(jb6166)が両脇を固め、敵の四方は撃退士達に囲まれる形になった。
 それを力尽くで突破しようと動く前に、白鳳院 珠琴(jb4033)が彗星の雨を降らせる。
「どんな目的があるのか知らないけど、人を傷つけたり搾取したりするなんていうのはやりすぎだよね」
 第一、それでは量は確保できても質が落ちるし。いや、味と言った方が良いだろうか。
 何の事か、それは秘密だ。
「とりあえずボクとしては嘆かわしい限りだよ、だからこっちに来たんだけどね」
 何体かが重圧を受けて動きを鈍らせる。
 それを免れた敵が慌てて飛んで逃げようとしたが、その前に風禰が動いた。
 呪縛陣で追い討ちをかけ、残った敵を束縛の効果で地面に縛り付ける。
「こっちはフィーたちに任せるなの! 今のうちに、おじさんを助けるなの!」


 風禰の援護を受けて、残る4人は逃げ遅れた島民の方へ急いだ。
「逃げ遅れた人がいるのは、こちらでしたね?」
「はい、あそこです!」
 治翠の問いに、まろんは上空を指差す。そこには目印の様にピンク色のヒリュウが浮かんでいた。
 ひとつ頷いて、治翠は自分が出せる限りの最大スピードで敵の目の前に躍り出ると、腰を抜かしている男を背後に庇い、盾「クリティアス」を構える。
「もう大丈夫ですよ。今、仲間があいつを追い払いますからね」
 その言葉が終わらないうちに、木の葉が刃となって敵の頭上に降り注いだ。
「サーバント、天使勢ですね。でも人の命の脅威になるなら倒すだけです」
 セーラー服にパンツ姿の小さな天使、新田 六実(jb6311)が魔法を放ちながら、敵の頭上、その大きな鎌が届くギリギリの所を飛び回っている。
「よし、新田ちゃんがあいつの気を惹いてくれてるうちに、おじさんを助けるよ。粟野ちゃんもおいで!」
 まろんに声をかけて、ジェンティアンは走った。
「ぶっちゃけ実戦ってこれが初めてなんだけど、200%で頑張っちゃうよ!」
 おじさんの前に跪き、声をかける。
「ん、深呼吸して…足動く?」
「う、動く、が…こ、腰が…っ」
 転んだ時に打ったのか。それならこれで治るだろうかと、ライトヒールをかけてみる。
「おお、楽になった!」
「ん、よかった。僕が護るから此処から逃げるよ?」
 おじさんに肩を貸し、もう片方の手に構えた拳銃で敵を牽制しながら、ジェンティアンは静かにその場を離れた。
 とは言え、避難所までは距離がある。今ここで仲間達と離れるのは危険だ。
 近くの林に身を潜め、この場が片付くのを待った方が良い。
「では、そろそろ片付けさせて貰いますね」
 逃げた二人を追うそぶりを見せた敵を、治翠がサンダーブレードで薙ぎ払った。
「行かせませんよ、私とお相手頂きます」
 と言っても、その息の根が止まる迄のほんの短い間だが。
「手間は取らせませんよ」
 1体の動きを止めると、治翠はすぐさま次の敵へ。
 振り下ろされる鎌の軌道を予測して盾で受け、押し返すと同時にそこに取り付けられた槍で突く。突いた所を更に一歩踏み込んで、再びサンダーブレード。
 これで2匹が動きを止めた。
 残る1体の上空から六実の魔法が飛ぶ。弱点の胴体を刻まれて、カマキリは背中の羽根を広げた。が、魔法はその羽根をも切り刻む。
 更にもう一撃、魔法が飛ぶと、柔らかな胴体から白い体液が飛び散り、それは動かなくなった。
 その間に、まろんのヒリュウがもう1体にブレスで攻撃する。
「六実さん、トドメをお願いします!」
「わかりました!」
 上空から、今度は種子の様にも見える弾丸が降り注いだ。
 これで残りは1体。
 六実は再び敵の注意を自分に向けさせようと、頭の上を飛び始める。翼は小さくても、飛行には殆ど支障はなかった。
(姉様みたいにもっと大きくて綺麗な翼だったら良かったのに…)
 それでも、そんな風に思う事はあるけれど――この翼でも、誰かの役に立つ事は出来る。
「新田さん、そのままお願いしますね」
 六実に気を取られた敵に、治翠がサンダーブレード最後の1回を放った。
 そのまま反撃の鎌をかいくぐり、或いは受けて、盾槍の連続攻撃を加える。
 二人の連携で、周囲に被害を出す事もなく、3匹目も早々に沈黙させる事が出来た。


 一方、こちらは最初の遭遇現場。
 5対6、数の上では敵の方が1体多いが、こちらには相手の足を止めるスキルを持った者が多い。
 重圧と束縛の効果を受けて動きを止め、或いは鈍らせた敵は4体。
 それを逃れた2体が、包囲を抜けようと背中の羽根を広げる。
 しかし、深白の反応は早かった。
「あははは! これで痺れてねっ!!」
 サンダーブレードで足を止め、正面に回る。
 麻痺状態は体が痺れているとは言え、攻撃は可能だ。ただし、その威力は通常よりも劣る。その上、深白には振り上げた鎌の軌道がはっきりと見えた。
「うふふ。──それには当たらないよ」
 避けて、反撃。忍刀でその鎌を切り落とす。
 そこに闇の翼で上空に舞い上がった珠洲が、アルス・ノトリアから生み出した光の羽根を降らせた。
 それを叩き落とそうと、カマキリが片方しかなくなった鎌を振り上げる。
「──じゃあね、ばいばい」
 敢えて弱点の腹ではなく首を、深白は忍刀の一振りで跳ね飛ばした。
 要救助者の方へ向かおうとしたもう1体の前には、ウェルが立ち塞がる。
「そっちがレイズしたんだ。痛い目に遭わせてあげるから覚悟しなよ…!」
 振り下ろされた鎌が腕を切り裂いたが、構わずアウルを燃焼させ加速、二本の小太刀をその胴体に叩き込んだ。
「こんなデカブツに自由に動かれちゃ堪らないからね…!」
 最大威力で、さっさと決着を付ける。
 カマキリはその場に足を折るが、戦闘意欲は衰えていないらしく、鎌を振り上げて威嚇を続けていた。
「流石にもう一撃喰らうと危ないね」
 ウェルは闇の翼で間合いの外に出て、上から飛苦無を投げ付ける。
 その一撃で、カマキリは動かなくなった。
 残る4体のうち、3体が呪縛陣の効果を受けてその場に足止めされている。
 重圧で動きを鈍らせていた1体が、それを撥ね除けて撃退士達に向かって来た。
「先にこっちを片付けるなの!」
 風禰は敵の体を砂塵の渦で包み込む。
 たちまち、その白い体からは生気が失せ、抜け殻の様に固まった。
「今なの!」
 それに応えて珠琴が剣で斬り付ける。
「石みたいに固くなったって、やっぱり弱点は弱点なんだよ♪」
 ルーンブレイドの一撃が無防備な胴体を抉る。
 これで残りは半分。数的有利も得たし、相手は麻痺して動けない。
「これなら楽勝…っと、流石にそこまで甘くはないかな」
 余裕が出来た今のうちにと珠琴の治療を受けていたウェルは、苦笑いと共に武器を取り直した。
 麻痺から回復した1体を、風禰が再び砂塵の渦へ。
 が、今度は効かない。背中の羽を広げ、カマキリは風禰の頭上を軽々と飛び越えた。
 風禰は慌てて追いかけようとするが、その間にも他の2体が動き出そうとしている。
 さて、どちらを優先すべきか――
「そっちはお願いなの!」
 追いかけるなら、翼のある仲間の方が適任だろう。
 それに皆が散った今なら、味方を巻き込まずに呪縛陣を使える。
 風禰は残りの2体を結界で束縛し、仲間の援護を待った。
「じゃ、さっさと逝っちゃってよね!」
 背後に回った深白が胴体を忍刀で薙ぎ払う。
「いつまでも君たちの相手はしてられないんだよ」
 ウェルがトドメの一撃を叩き込み――残りは1体。
 風禰も光陰護符を取り出し、3人で取り囲む。
「これでおしまいなの!」
「さあ、白黒付けるよ」
「──これが最後の、ばいばい」
 一斉攻撃で幕を閉じる。
 一方、逃げた1体は珠琴と珠洲が追いかけていた。
「それでは弱点が丸見えですよ」
 こちらに背を向けて跳ぶカマキリは、格好の標的だ。
 珠洲はアサルトライフルで無防備な胴体を撃つ。
 堕ちた所をアルニラムの銀糸で絡め取り、更にサンダーブレードで麻痺させて自由を奪った。
 そこに、珠琴のルーンブレイドが振り下ろされる。
 更には上空に留まった珠洲のアルス・ノトリアによる魔法攻撃。
「物理も魔法も、同じ程度に効く様ですね」
 要するに、どんな攻撃でも効くのだ――当たりさえすれば。
 そして、大抵の攻撃は当たる。
 切れ味の良い鎌の間合いにさえ入らなければ、無傷で倒す事も難しくないだろう。


 これで、見える範囲の敵は一掃された。
 加勢しようと5人が駆けつけた時には、救助班の方も無事に事が済んでいた。
「カマキリの鎌はどうなっているなの?」
 風禰は興味津々の様子で倒した敵の残骸を覗き込んでいる。
 お持ち帰りは…だめ? ならばせめて写真でもと、使い捨てカメラで記念撮影を。
 その間に、他に潜んでいる敵がいないか慎重に安全を確かめた深白は光纏を解き、ジェンティアンと共に身を隠していたおじさんの元へ歩み寄る。
「…もう大丈夫、だよ」
 その前に跪き、持っていたミネラルウォーターを差し出した。
「はい…これ飲んで、落ち着いてね…」
「あ、ああ…ありがとうよ」
 無事に窮地を脱した事で、最初の恐怖が甦ったのだろうか。
 それを受け取った男の手は震えていたが、冷たい水を飲んで少し人心地が付いた様だ。
「これでみんな揃ったし、僕はおじさんと一緒に避難所に向かうね」
 ジェンティアンが出発時に配られた島の地図を広げる。
「ここから一番近いのは…ここかな?」
 少し南に下った所に学校がある。
「じゃ、みんなで一緒に行こうよ!」
 珠琴が言った。
「歌とか歌いながら楽しく賑やかに歩けば、敵も怖れをなして出て来ないかも?」
 って、熊じゃあるまいし。
「でも、全員で動くというのは良いと思います」
 珠洲が地図を指差す。
「ここから先、南の方はまだ安全確認が出来ていません。それに、多分他にも逃げ遅れた人がいると思われますし」
 珠洲は自前の翼で空から探すつもりだった。
「じゃあ、こっちは粟野ちゃんに頼もうかな」
「はい、わかりました」
 こくり、頷いたまろんは再びヒリュウを呼び出す。
「ただ、僕が呼び出せるのはこれで最後になりますけど」
「その時はボクが交代しちゃうんだよっ」
 ぎゅむむ、珠琴がまろんの首に抱き付いた。
「え、あの、ええっ!?」
「あはは、か〜わいぃ〜、癒されるんだよ〜♪」

 さて、そんなこんなで。
 一行は避難の呼びかけとパトロールを続けながら南へ下る。
 なるべく広い範囲を視界に収めるべく、撃退士達は横いっぱいに距離をとって進んだ。
 その甲斐あって、途中で何人かの逃げ遅れた人々を見付け――ついでに敵も発見。
 ジェンティアンは銃で牽制しながら3人に増えた保護対象を背に庇い、ストリームシールドを活性化、更にシールドのスキルで防御を上げる。
 敵は1体。緊急事態の呼びかけに応えて集まった仲間達が、あっという間に片付けてくれた。
 だが、1匹見たら30匹はいると思え…いや、何かと違ってそこまでは多くないだろうが、近くに仲間が潜んでいる可能性は高い。
 それを裏付ける様に、今度は珠洲から連絡が入った。
『敵3体発見、交戦中』
 位置情報と共に届いたメールには、そう書かれている。
「おじさん達は僕が護るから、皆は敵さんを頼むね」
 そう言ってガードを固めたジェンティアンを残し、仲間達は現場へ急いだ。

 仲間の到着を待つ間、珠洲は空中からの攻撃で敵を牽制していた。
 空からなら一方的な攻撃が出来るが、やりすぎれば敵を逃がしてしまう事になりかねない。
 サンダーブレードは残り2回。上手くすれば2体の動きを封じられるが、射程は短い。CRの関係上、接近にはリスクが伴うが――
「逃げられるよりはマシですね」
 珠洲は上空から急降下、サンダーブレードの一撃を放つ。
 距離を取って、もう一撃。
 しかし、上昇に転じた所で鋭い鎌がその体を捉えた。
 肩口に電流が走った様な痛みを感じ、珠洲はその場に膝をついた。
 それでも武器だけは構え、反撃に移ろうとした――その時。
 全力で走り込んで来た治翠が、その体をかっ浚った。
 同時に、治翠から弓を借りたまろんの攻撃が敵の気を逸らす。
 次いで、上空から珠琴が放った彗星の雨が降り注いだ。
 そして風禰の呪縛陣、最後の1回。
 珠洲が敵を一箇所に纏めていたおかげで、範囲攻撃が決まる。
 動きを止めてしまえば、後はもうボコり放題だ。
「大丈夫ですか?」
 飛んで来た六実が、珠洲の傷を癒やす。
 その間に、3体の敵はすっかり沈黙していた。


 周辺の敵を片付け、新たに増えた避難者を保護しながら歩くこと暫し。
 一行は無事、目指す避難所に辿り着いた。
 おじさん達や先に避難していた人々に何度も礼を言われ、お菓子やジュースで労われつつ、足を止めること暫し。
 周囲の安全をしっかり確かめた一行は、再び南へと進路を取る。
 そこから受け持ち範囲のぎりぎりまで南下した後は西に折れ、今度は海岸沿いに北上――これで全ての範囲を確認、任務完了だ。

「他に、怪しい人影は見当たりませんでしたね」
 治翠が呟く。
 もし敵の首謀者にでも出くわせば、目的などを聞き出せないか試してみたかったのだが。
「うん、理由はボクも知りたかったな」
 珠琴が言った。
 サーバントには容赦しないが、使徒に対しては思う所がある。
「使徒って天界の被害者なんじゃないかって思うんだよ」
 六実が高い空を見上げた。
「ここも余り障害物が無くて見晴らしが良いですね…きっと夜になれば星もキレイに見えるのでしょうね…」
 こんな綺麗な島を戦場にするなんて。
「なんでこの島を襲ったんだろうね」
 ウェルが首を傾げる。
「もし戦争の元手にしようなんて考えてるなら…馬鹿げてるし気に入らないね」

 この島に、一刻も早く平和が戻りますように。
 その為に力を尽くすと、彼等はそれぞれの胸に誓ったことだろう――


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

種子島・伝説のカマ(白)・
香奈沢 風禰(jb2286)

卒業 女 陰陽師
大切なものは見えない何か・
白鳳院 珠琴(jb4033)

大学部2年217組 女 アストラルヴァンガード
花咲ませし翠・
安瀬地 治翠(jb5992)

大学部7年183組 男 アカシックレコーダー:タイプA
弾雨の下を駆けるモノ・
山科 珠洲(jb6166)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
Survived・
新田 六実(jb6311)

高等部3年1組 女 アストラルヴァンガード
High-Roller・
ウェル・ウィアードテイル(jb7094)

大学部7年231組 女 阿修羅
白きに宿る月刃・
雪月 深白(jb7181)

高等部3年17組 女 アカシックレコーダー:タイプB
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード