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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/08/14


みんなの思い出



オープニング


 東北地方の一角。
 天魔による大規模な襲撃から取り残される様に、その村はあった。
「ま、こんな人も少ないトコじゃ、天魔の奴等も骨折り損ってモンだよな」
 朝晩の数往復しか電車が走る事のない、小さな無人駅。
 その駅舎に併設された交番の前に立ち、若い巡査は欠伸をかみ殺しながら呟いた。
 この村での巡査の仕事と言ったら、落とし物の処理や、たまに訪れる村外からの客への道案内、学校の登下校に合わせた自転車でのパトロール……
「それくらいなモンかな」
 事件らしい事件など起きた事もなく、事故と言ってもたまに農業用のトラクターが横転したとか、自転車が田んぼに落ちたとか、その程度のものだ。
 良く言えば平和で長閑、悪く言えば退屈極まりない。
 それがこの村、彼の生まれ故郷だ。

 その若い巡査は、久遠ヶ原学園の卒業生だった。
 とは言え天魔との戦いがそれほど得意な訳でもなく……いや、正直に言えば苦手だった。
 彼は幼い頃から剣道や柔道を習っていた為、近接戦闘に秀でたジョブに適性があると思っていた。
 しかし入学後の検査で判定された適性はダアト。後方支援が主体のジョブだ。
 友人達の中には近接魔法攻撃や物理で殴る事に特化した者もいたが、彼は結局どっちつかず。
 自分のスタイルを決める事が出来ないまま、卒業を迎えてしまった。

 結果、同級生の多くが撃退庁に所属し、或いはフリーになったのに対し、彼は警察官になる道を選んだ。
 撃退士としては余りパッとしなかったが、一般人が相手なら武道の心得も無駄にはならないだろう。
 それに加えて、アウルの力があれば、いざという時には天魔と戦う事も出来る。
 足止め程度にしかならないだろうが、住民と一緒に逃げ回るだけの巡査よりはマシな筈だ。
 生まれ故郷を自分の手で守りたい、それが彼の願いだった。

 そしてこの度、念願叶って故郷の村にある唯一の交番に配属されたという次第だ。
「なーんもないド田舎だけど、それがまた良いんだよなぁ」
 久遠ヶ原や、依頼で訪れた賑やかな町も良い。
 でも自分にはやはり、ここの空気が一番合っているのだ。
 昔ながらの「駐在さん」という呼び名も、耳に心地よく響く。
 赴任して三ヶ月、彼は地元出身の駐在さんとして、しっかりと根を下ろしつつあった。


 そんな折――
『ちゅ、駐在さん! 大変じゃぁっ!!』
 鳴り響く電話を取ると、慌てふためいた住民の声がした。
『ば、ばばば、バケモンが! 子鬼の様なバケモンが、学校の裏山から溢れて来おったぁっ!!』
 今は夏休みで授業はないが、小中学校が一緒に入った校舎には課外活動や部活で登校している生徒もいる筈だ。
 それに、地域のコミュニティセンターとしての役割も果たしている事から、一般人の利用者も多い。
 今日は確か、空き教室でオバチャンコーラスの練習があった筈だ。
「わかりました、すぐ行きます! 皆さんを校舎の二階、一箇所に集めて……静かに、じっとしてて下さい!」
 子鬼には大した知恵はない。透過で校舎の壁をすり抜ける所までは思い付いても、そこから透過を切って階段を上るという頭はないだろう。
 二階にいれば、ひとまずは安心だ。
 駐在さんは、いつも首から提げているペンダント型のヒヒイロカネを確認した。
 そこには現役時代に使っていた武器が入っている。
 ダアトが使う様な物ではなく、拳に装着するタイプの格闘武器だ。
 それに、阻霊符……
「あれ、どこにしまったっけ……」
 机をひっくり返し、中身をぶちまける。
「あった!」
 電話で救援を要請してから、彼は自転車に飛び乗った。

 交番から自転車を飛ばして……普通なら五分ほどかかるが、光纏すれば倍のスピードは出る。
 ハンドルに取り付けた自前のサイレンを鳴らし、赤色灯を光らせながら、猛スピードで突っ走った。
 途中、逃げて行く子供達とすれ違う。グラウンドで遊んでいた小学生だろうか。
 学校の前に差し掛かると、校舎を取り囲む小さな影が見えた。
「……あれか!」
 貧相な子供の様な姿をしたディアボロが50、いや100匹くらい居るだろうか。
 新米撃退士の初戦の相手として選ばれる事の多い、所謂ザコ敵。
 しかし一般人には脅威だし、数が多ければそれなりに侮れない相手だ。
「くそっ、なんだってこんなド田舎に出て来やがる!」
 そのままグラウンドを突っ切り、自転車を乗り捨てて校舎に駆け込む。
 校舎の一階には子鬼達が溢れていた。
 階段の下でぴょんぴょん飛び上がっているものもいるが、足がすり抜けて段を踏む事が出来ない。
(やっぱり馬鹿だな、こいつら)
 駐在さんは鼻で笑うと、取り出しかけた阻霊符を引っ込めた。
 ここで透過を阻止したら、階段を上がられてしまう。
 全員が二階に避難しているなら、このまま救援を待つ方が安全――
「たすけてぇっ!!」
 と、何処かから子供の声が聞こえた。
 二階に上がった奴がいるのか……いや違う、声は下の階から聞こえた。
「どこだ!? どこにいる!?」
 駐在さんは廊下に群がる子鬼達を蹴散らして走った。
 奥にある教室のドアを開ける。
 そこには10匹ほどの子鬼が入り込み、輪を作っていた。
 輪の中心には、4〜5人の小学生が身を寄せ合い、震えている。
 中の一人は子鬼に腕を掴まれていた。
 腕を掴んで引き上げる様にしながら、じろじろ眺めたり、にぃっと笑って見せたり……怯える子供の反応を見て楽しんでいる様子が窺える。
「野郎、手ぇ離せっ!」
 駆け寄った駐在さんは、子鬼の横っ面を思い切り殴り飛ばした。
 その衝撃で、子供の腕を掴んでいた手が離れる。
「大丈夫か?」
 問いかけに、子供は声もなく頷いた。
 見れば手首が赤くなり、食い込んだ爪の跡が残ってはいるが、大した事はなさそうだ。
 それよりも――
 殴り飛ばされた事で、子鬼達は戦闘モードに突入していた。
 棍棒を振り上げ、爪を光らせて、じりじりと迫る。
 子供達を背に庇い、駐在さんは身構えた。
 一人で守るのは難しいが、透過を阻止しない限り、壁や机などの器物は防御の役に立たない。
 かといって阻霊符を使えば、子鬼達は階段から二階に押し寄せるだろう。
「大丈夫だ。こんな奴等、パパッと片付けてやるからな!」
 口ではそう言いつつ、作った笑顔は引き攣っていた。

 頼む、誰か……早く来てくれ!!




リプレイ本文

「急いで助けに行かなくちゃね…!」
 現場に向かって走りながら、まずは電話で状況確認と、鈴木悠司(ja0226)は先程聞いた駐在さんの携帯番号をコールしてみた。
 しかし繋がらない。電話を取る余裕もないという事か。
「きっと、怖がってます。早く助けてあげないと…!」
 子供達を思う御守 陸(ja6074)の言葉に、蒸姫 ギア(jb4049)も真剣な目で頷いた、が。
「ギア別に、人間の事心配してるわけじゃないんだからなっ、人界で騒ぎを起こされるのが嫌なだけなんだからなっ」
 はい、ツン発動。今日も平常運転だ。
「駐在様は話によると学園の先輩とのことですね」
「ああ、しかもなかなか骨のあるお人と見えるぜよ」
 走りながら言うAL(jb4583)に、麻生 遊夜(ja1838)が答えた。
 それならば、尚更――
「足を引っ張らぬようにしたいものです」
 かつ、迅速に。事は人命がかかっているのだ。
(…魔法少女を目指す身としては戦いぶりを勉強させて頂きたいものですねっ)
 という本音は、ひとまず胸の内にしまっておこう。


 やがてグラウンドに走り込んだ彼等は、そのまま校舎の中へ突入した。
 走りながら、陸は目を閉じて意識を集中、その身にアウルの光を纏う。再び目を開けた時、その瞳は狼の様に金色に光り、表情からは感情が消えていた。
「万能たる蒸気の式よ、今我らの下で形を無し、速く駆ける助けとなれ…誕生スチームボード!」
 ギアが唱えると、周囲の仲間達の足元にメカニカルな蒸気機関が現れ――る様なオリジナルスキルはまだ申請していなかった。
 が、移動力が上がるというその効果は変わらない。
 韋駄天の恩恵を受け損ねた者にはフォルド・フェアバルト(jb6034)が磁場形成を使い、救助班は二手に分かれた。
「絶対駐在さんと子供達を守ろうだぞ! みんな頑張ろうだぞ!」
 勿論、頑張る事に異存はない。けれど、学校を傷つけない行動を意識して欲しいと、間下 慈(jb2391)は皆に呼びかけた。
「…明日もここで授業ができるよう…お願いします」
 今は夏休みだが、それ位の高い意識をもって臨むという事だ。
 ギアと悠司、ALの三人は校舎の中から、フォルドと慈は外を回って、目的の教室に向かう。
 残る陸と遊夜、ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)は、校舎内を突っ切る三人のフォローに回った。

「ぞろぞろとまぁ…よく集まったもんだ」
 遊夜は先頭切って突っ込んでいく。
「お楽しみのとこ悪いが、押し通らせてもらうぜぃ!」
 これだけいれば、暴れ甲斐もあるというものだ。
「ハッ、皆諸共に沈みやがれ!」
 ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、全周囲に向けて流れる様な動作でアウルの弾丸を撒き散らす。適当にバラ撒いている様に見えても、それは敵の急所を的確に捉えていた。
 続いて仲間が倒れた穴を埋める様に押し返して来る子鬼達に向けて、ソフィアがFiamma Solareを放つ。
 太陽の様に輝く火球が炸裂し、決して燃え移る事のない炎が小さな影を呑み込み、踊る。
 その後方からは、PDW FS80を構えた陸が邪魔な敵を次々に撃ち倒していった。
 階段の手前まで来ると、ソフィアと陸はそれを駆け上がり、高い位置から子鬼達を狙っていく。
「向こうが動きやすくなる為にも、ここでできるだけ倒しておこう」
 ソフィアはミラージュトリックで威力を上げ、炸裂掌を叩き込んだ。
 今のうちに数を減らしておけば、救助班がここを通る時に突破が容易になる。
 下に残った遊夜は、奥に続く廊下に向けて黒と赤の螺旋を描く弾丸を撃ち出した。
「螺旋れろ、貫き、突き進め…邪魔する奴ぁ穿たれろ!」
 捻れた弾丸は廊下に詰まった敵を貫通し、道を開く。

 彼等の援護を受けて、救助班は走った。
「急ぎの用件につき、邪魔だては無用に願います!」
 ALが生み出した風の刃が、子鬼の群れに楔を打ち込む。
 その裂け目を更に広げる様に、盾を構えた悠司が押し切っていく。今は倒す事を考えず、ひたすら波を掻き分ける様に。
 その後ろから続いたギアは明鏡止水で気配を消して、ドアが開け放たれたままの教室に飛び込んだ。
 飛鷲翔扇を円状に広げ、一つの巨大なギアの様にして投げる。
「…助けに来た、もう大丈夫だよ」

 一方、建物の外に回ったフォルドと慈は、外に散らばる子鬼達を始末しながら、中庭に面した窓に走った。
(平穏な生活…正直少し憧れます)
 走りながら、慈は心の中で呟いた。
(撃退士を選んだ以上、それとは無縁になりますから。でも、他者のそれは守らねばなりませんねー)
 …なんて、かっこつけちゃったりしてみたついでに、窓からダイナミックエントリーなどしてみたら、ちょっとヒーローっぽいだろうか。
 しかし、自分はあくまで凡人ポジション。それに割れた破片で中の子供たちが怪我をするかもしれない。
 敵が廊下側から突入した三人に気を取られているうちにと、慈は閉めきられた窓に近付く。
「凡人でもこれくらい…」
 鍵の周囲だけ、ガラスを割ろうとした時。
 子供の一人がそれに気付いて、飛び付く様に近くの鍵を開けた。
「おお、よく気が付いたぞ!」
 後ろで周囲を見張っていたフォルドが、開けられた窓に飛び込む。
「烈火の騎士! フォルド・フェアバルト見参! これ以上お前達の好きにはさせないぞ!」
 大声で名乗りを上げながら、机や椅子に当たらない高さで大剣を振り回し、周囲の敵を薙ぎ倒した。
 慈としては美味しい所を持って行かれた気がするが、そんな些細な事は気にしない。
 攻撃が止んだ合間に、駐在さんに銃口を向けた。
「とりあえず楽にしてあげますー」
 駐在さんは一瞬息を呑むが、大丈夫、癒やしの弾丸だから。
「お、身体が軽くなった! ありがとう!」
 彼の傷はそれだけで全快するほど軽いものには見えなかったが、それでも精一杯に元気そうな笑顔を見せた。

 駐在さんと子供達の周囲を固めた撃退士達は、彼等を護りつつ脱出のタイミングを計っていた。
「御心配なく。皆様を必ず、御家族や御友人の下へ送届けて見せましょう」
 契約は決して裏切らないと、ALが微笑む。
「二階まで子供たちを護送します」
 慈が駐在さんに言った。
「…後方警戒をお願いしても?」
「それは構わないが、子供達を連れてここを突っ切るのか?」
 言われてみれば、厳しいか。不安げな子供達の目を見て、慈は思う。
「それなら、ギアが運んでやるぞ」
 窓の外を指した。なるほど、窓から飛んで行くなら敵の妨害もない。
 ギアは腰を屈めて、子供達の高さに視線を合わせた。
「今から君達を飛んで2階に運ぶけど、ほんの少しの間だから、怖がらないで」
 子供達は怖がるどころか「空飛べるの!?」「マジ!?」などと興味津々、大喜び。
 そんな事より、悪意を剥き出しに襲って来る子鬼達の方が余程怖いらしい。
「でしたら、僕もお手伝いさせて頂いてもよろしいでしょうか」
 ALの提案は勿論、拒否される筈もない。
「ただ、僕の翼では少し怖がられてしまうかもしれませんが…僕の手を信じて頂けませんか?」
 彼の翼は大きな蝙蝠型、所謂いかにも「悪魔っぽい」ものだが、子供達は気にする様子もなかった。
 そんな中に、今にも泣き出しそうな子が一人。
「高い所、怖い…」
「わかりました、では駐在さんと一緒に行きましょうかー」
 慈がその子の頭を撫で、駐在さんを見る。
「よし、じゃあしっかり捕まって…目と耳を塞いでおくんだ、いいね?」
 その子を抱き上げた駐在さんは、後輩達に目配せをすると、最後に一回分だけ残したファイヤーブレイクをぶっ放した。
「駐在さん凄いぞ! おいらも負けてられないぞ!」
 それを見て目をキラキラと輝かせたフォルドが、負けじと閃滅を使って敵陣に斬り込んで行く。
 両脚に雷のアウルを、身体に風のアウルを纏い、全身を淡い緑色に輝かせ…確かに見た目の派手さは負けていない。
 それに続けて、悠司が発勁で前方の敵を吹っ飛ばした。
「道が出来たよ、駐在さん!」
 それに応えて、子供を胸に庇った駐在さんは走り出す。
 フォルド、悠司、慈の三人がそれを囲む様にして、廊下を突っ切って行った。
「よし、こっちも行くよ」
 ギアとALはそれぞれ二人の子供を抱えて窓から飛び出す。
 二階の人は驚くかもしれないが、ここは緊急事態という事で。

「救助班のお戻りだぜ」
 子鬼達の頭越しに仲間の姿を認め、遊夜は再び螺旋れ穿つ軌跡を撃ち放った。
「お代わりをご所望か? いいぜ、とくと見るがいいさ」
 螺旋状の弾丸が、反対側から放たれた悠司の発勁とぶつかる。
 子鬼の波が割れて視界が広がった。
「走るよ!」
 悠司が声をかけ、再び寄せて来ようとする子鬼の波を押し返しながら、攻撃は最大の防御とばかりに右へ左へと曲刀を振るう。
 廊下の手前まで走りきり、待ち構えていた遊夜と合流した。
「怪我はないか?」
 全員の無事を確認すると、遊夜は必死に目を閉じている子供の頭をぽんぽんと優しく叩いた。
「心配すんなって、俺らに任しとけや」
「大丈夫です、あと少しですからねー」
 そう言って、慈が階段を見上げる。
 その辺りは周辺に比べて敵の密度が低くなっているのは、ソフィア達が懸命に数を減らしてくれたお陰だろう。
 ソフィアと陸による上からの援護を受け、救出班は階段を駆け上がった。
 もう子鬼達の手は届かない。
「駐在さんは、その子を連れて皆の所で待っててくれるかな」
 悠司が言った。駐在さんの外見はかなり若く、目上として敬語を使ったものか迷う所だが…ここはざっくばらんに。
「避難してる人達、怖がってると思うから、その辺のケアをお願い出来るかな」
 今は戦力としてよりも、万が一の場合の保険且つ、皆を安心させる為に動いて欲しい。
「俺達も勿論、頑張るけれども、ここまで皆を護れたのは駐在さんのおかげだしね」
 それに、皆も気心の知れた駐在さんが傍に居てくれる方が心強いだろう。
「わかった」
 その場を離れた駐在さんと入れ替わりに、子供達を無事に送り届けたギアとALが戻って来た。
「あとは敵を全て撃退するのみで御座いますね」
 ALが静かな笑みを湛えて眼下を見下ろす。
 もう遠慮はいらない。スプラッタ上等。
 各人の配置と二階の安全を確認すると、撃退士達は阻霊符を発動させた。


「さあ、本格的に敵討伐を始めるよっ!」
 階段の上から、悠司がショットガンの弾をバラ撒く。
 子鬼達は透過を阻止され、漸く階段が何の為にあるのかという事に気付いたらしい。
 まだ階下にいた遊夜の存在を無視して、子鬼達は階段に押し寄せた。
 しかし――
「素通りとは、つれないねぇ。少しくらい遊んで行けよ」
 遊夜は双銃を手に、その両腕を広げる。ちょっとカッコつけつつ、キリッと決めてみた。
「我が理想の体現…その身で味わうがいいさ」
 銃口が火を噴き、一瞬にして全周囲の敵を薙ぎ倒す。更に踏み込んで蹴り上げ、銃把を叩き付け、或いは銃口をメリ込ませたまま引き金を引く。
 相手の抵抗など、この近接型拳銃術の前では無きが如し。
「反撃開始ですよー」
 慈はリボルバーCL3で狙いを付ける。
「一体に一発で十分ですー」
 下方に群がる子鬼達は、飛び道具には格好の的だ。
 ギアは階段を駆け下りると、まだ敵の残る廊下へ走り込んだ。
 飛鷲翔扇を広げ、舞う様に攻撃を加える。
「こっち来んな!」
 フォルドは階段の上で大剣を振り回し、蟻の子一匹通さない勢いだ。
「逃がすと後が大変そうだから、確実に倒したいね」
 ソフィアはスキルの続く限り、範囲攻撃で纏めて葬っていく。
「…今まで受けた分はしっかり返させて頂きましょう」
 ALはまだ距離が遠いうちから、風花護符で撃ち倒していった。
 陸は反対に、至近距離まで引き付けてから反撃に出る。
「怖がらせて、追い詰めて…楽しかったか?」
 その眉間に銃口を押し当てた。返事は聞かない。
「次は、お前たちが恐怖する番だ」
 そのまま引き金を引く。さほどの質量もない頭の中身が噴き出し、周囲の子鬼を赤く染めた。
 怯えさせて敵の勢いを削ぐ為に、出来るだけ無残に倒す。
 零距離射撃や格闘術、グルカナイフを突き立てて眼球を抉り出してみたり。
 すると、狙い通りに子鬼達は後退を始めた。だが。
「…逃がさない」
 その背に、容赦なく弾丸を浴びせる。
「一体も逃がしませんよー」
 くるくるくる、慈はリボルバーを三回まわして…
「わん」
 そのアクションで何故か射程が伸び、逃げる子鬼を撃ち倒した。
 もっとも、出口の前には遊夜が陣取っている。
「他の場所で暴れられる訳にもいかんからな」
 そう簡単に抜けられる筈もないが、中には何処かの抜け道から外に出るものもいた。
 陸はそれを直接は追わず、スナイパーライフルを持って屋上へ上がる。
 そこから狙いを付け、裏手にある木々の間に紛れようとする子鬼を一匹残らず仕留めていった。
 子鬼の数が目に見えて減り始めた頃、ソフィアは慈を誘って二階の突き当たりへ。
 そこには非常階段に通じる出口があった。
「鍵、開けて貰える?」
 言われて、慈は先程使い損ねた解錠スキルを使う。
 外に出ると、案の定そこにも子鬼が隠れていた。
「残念だったわね」
 太陽の様に輝く炎球が、花びらを舞い散らせながら子鬼の背を撃つ。
 何処に隠れようと、彼等の目から逃れる事は出来なかった。


 やがて全ての敵を倒し、安全を確認した撃退士達は二階の教室へ向かった。
「良かった…」
 皆の無事な姿に、陸は表情を緩める。
「よく頑張った」
 ギアは子供達の頭を撫でてにこっと笑い…次の瞬間、ぷいとそっぽを向いた。
「…あっ、いや別にギア、心配したわけじゃ」
「ツンデレだー」
「かわいー」
 子供達に弄られ、ギアはますます頬を染める。
「しかし流石は駐在さんであるな」
 うんうんと頷きながら、遊夜が言った。
「俺の理想とする姿の一つ、良い信念だ」
「いや、そんな」
 駐在さんは恥ずかしそうに鼻を擦る。その手には沢山の古傷が残っていた。
「おいら達が来るまで子供達を守ってくれてありがとうだぞ! 騎士と警察官って似てるって思った程だぞ!」
 フォルドは礼を言うと、子供達に向けてカッコいい騎士のポーズを取った。
「烈火の騎士とその仲間達がいるかぎり人間は天魔に屈しはしないぞ!」
「そうだな。頼もしい後輩達がいて、俺も心強いよ」
 そう言った駐在さんの胸には、まだ男の子がしがみついていた。
 飛ぶのが怖いとべそをかいていた子だ。
「君も偉かったよ」
 頭を撫でた悠司を、男の子は不思議そうに見上げる。
 あんなにカッコ悪かったのに、何が偉いんだろう?
「怖いものを怖いと認めるのは、とても勇気の要る事なんだ」
「己の弱さを知る、それこそが勇者への第一歩だぞ!」
 フォルドもさっきのポーズをもう一度。
 少し恥ずかしそうに頷いた彼の顔に、もう恐怖の色はなかった。
「では、僕達は後始末と掃除をしてから帰りましょうか」
 慈がイイ笑顔で言った。
「使った教室は、使う前より美しく…って先生に言われませんでした?」


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

撃退士・
鈴木悠司(ja0226)

大学部9年3組 男 阿修羅
太陽の魔女・
ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)

大学部4年230組 女 ダアト
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
冷徹に撃ち抜く・
御守 陸(ja6074)

大学部1年132組 男 インフィルトレイター
非凡な凡人・
間下 慈(jb2391)

大学部3年7組 男 インフィルトレイター
ツンデレ刑事・
蒸姫 ギア(jb4049)

大学部2年152組 男 陰陽師
正義の魔法少女!?・
AL(jb4583)

大学部1年6組 男 ダアト
自慢の後輩・
フォルド・フェアバルト(jb6034)

高等部3年23組 男 アカシックレコーダー:タイプA