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マスター:STANZA
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
形態:
参加人数:25人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/07/15


みんなの思い出



オープニング


 暑い。
 たまらなく暑い。

 エアコンも扇風機もない科学室の一角で、門木章治(jz0029)は手にした団扇をフル回転させていた。
 プラスチック製のそれには、久遠ヶ原商店街に新しく出来た猫カフェなるものの宣伝文句が書かれている。
 どうやら、先日いつもの様に商店街をブラついていた時に、いつの間にか手渡されたものらしい。
「……猫……」
 門木が身近に知る猫と言えば、不良中年部の部室に何故か居座っている野良猫くらいなものだ。
 あんなマイペースで無愛想な生き物を見て和む、しかもそれに対して金を払うというのは、何とも理解しがたい事だが……

 まあ、それはどうでもいい。
 とにかく、誰かこの暑さをどうにかしてくれ。

 夏という季節は暑いものと決まっているらしい。
 そしてきっちり暑くならないと、様々な面で悪影響が出る様だ。
 しかし、去年の夏はこんなに暑かっただろうか。
 去年ばかりでなく、一昨年も、その前も……この地に来て何年になるのか忘れたが、今まではこんなに暑く感じた事はなかった筈だ。
 今年は異常気象のせいで特別に暑いのだろうか。

 いや、違う。
 確か去年も「猛暑」だったと、TVのニュースで聞いた。
 では、自分の感じ方が違うのか。

 ……そうかもしれない。
 去年までは季節の変化を感じる事もなく、ただ与えられた仕事をこなすだけの日々を送っていた。
 誰とも会わず、学校行事にも顔を出さず、ただ校内や商店街を時折ぶらつく程度。
 今にして思えば我ながら怪しさ全開の不審者ぶりだが、それでも声をかけてくれる者や世話を焼いてくれる者がいたのは有難い事だ。




 ――と、長ったらしい前置きはこれくらいにして。

 とにかく暑いのだ。
 この暑さを撃退するには……そう、アレしかない。

 バトルロワイヤル。

 ただし得物は水鉄砲。

 当たっても痛くないし、何より涼しい。
 門木が用意した銃の中には、何やら水以外のものが飛び出すネタ武器も仕込まれている様だが……それとて安全性には配慮してある。
「……生徒達にも、そろそろガス抜きが必要だろうし……な」
 集中攻撃される覚悟は出来ている。
 それに、今回もガードに回ってくれる生徒がいるだろうという淡い期待も。

 さあ、始めようか。
 ルール無用のサバイバルゲームを……!



リプレイ本文

 まだ夜も明けきらないどころか、草木も眠る丑三つ時。
 誰もいない砂浜で、ひたすらにスコップを振り続ける人影があった。
「塹壕・防壁・落とし穴、塹壕・防壁・落とし穴……」
 呪文の様に唱えながら穴を掘るその人影は、黒井 明斗(jb0525)。
 そして、もう一人。
「恋音の為なら例え火の中砂の中ー!」
 アウル全開の熱血褌一丁で頑張っているのは、袋井 雅人(jb1469)だ。
 そう、二人はこのチームの参謀である月乃宮 恋音(jb1221)の計画を遂行する為に、こうして頑張っている次第。
 勿論、この場に本人はいない。背後でゆったりのんびり鷹揚に構えているからこその参謀だ。
 二人で延々と砂を掻くこと数時間。
「出来た……遂に出来ましたよ!」
 夜明けの砂浜に突如として姿を現した、大要塞。
 身を隠す為の塹壕と分厚い防壁は、どの方角から攻め込まれても良い様にほぼ円形に作られている。
 壁には勿論、銃眼が穿ってあった。
 そして周囲を取り囲む恐怖の落とし穴地帯。
 明斗は罠を仕掛けた位置を正確に地図に落とし込むと、一人ほくそ笑んだ。
(完璧です。これで、世の人々は月乃宮先輩が戦略の天才であると思い知る事になるでしょう)
 ああ、何という達成感。もうこれで今日の仕事は終わりにしても良いくらいだ。
 しかし、戦いはまだ始まってもいない。
 えーと、試合開始って何時だっけ?
 ……昼? 今は? 朝の六時?
「砂が乾いて崩れる危険があるかもしれませんね」
「それなら、時間までメンテを頑張りましょう!」
 危惧する明斗に、雅人が胸を張る。
 恋する男に限界はないのだ。多分。



 その向こうでは、不動のダークスーツを着込んだミハイル・エッカート(jb0544)が夜陰に紛れて忙しく動き回っている。
 彼もまた暗いうちから起き出して、図画工作……いや、戦場工作に精を出していた。
 砂浜の広範囲にわたって様々なサイズの防壁を作り、その中にこっそりと遠隔操作タイプのネタ武器を仕込む。
 一見すると手榴弾の様にも見えるそれに、一体どんなネタが仕込まれているのかは想像も付かないが、ネタと言うからには物理的な意味での危険はないだろう。
「まさに地雷だな、色々な意味で」
 さあ、こいつを踏むのは誰だ?
 工作員の青い瞳が、闇の中にキラリと輝いた。



 そしてもう一人、この砂浜に細工を施している者がいる。
「サバイバルとは生き残ることだ」
 大きなスイカを小脇に抱えたパンダこと下妻笹緒(ja0544)だ。
 パンダは何やら沈痛な面持ちで黙考する。
 いや、あの顔の作りで沈痛な表情は無理な気もするが、そこは全身から醸し出される雰囲気で。
(生き残る、即ち必ずしも敵を狩り尽くす必要はなく、安全の確保こそが優先されるべき事項)
 ならば今回最も重要なのは、水鉄砲の選定ではなく、いかにこの砂浜を活かした罠を張るか。
 それに尽きると言っても過言ではない。
(夏、そして砂浜と言えば……そうスイカ割りに他ならない)
 ここで、このスイカの出番という訳だ。
 砂浜のど真ん中に、スイカをセット。ご丁寧に、その脇には目隠しと棒きれまで置いてある。
 これだけならば、ごく普通のスイカ割りだが……ここは久遠ヶ原。
「そして私は久遠ヶ原のガ○○オと呼ばれた男!」
 えっと……呼ばれてましたっけ?
 その辺りの記憶と記録は定かではないが、それはともかく。
 スイカの周囲に落とし穴を掘り、夏の果実を割りに来た者を嵌める恐怖のトラップを仕掛けるのだ。
 さらにその近くに自分も埋まり、首だけ出してその様子を観察することで、状況を見守る。
 まさに完璧な作戦。
 完璧な、筈だった。脳内シミュレーションでは。
 ところが――
「……ん?」
 一心不乱に落とし穴を掘っていたパンダは、大変な事に気付いてしまった。
「…………出られん?」
 どれ位の深さまで掘ったのだろう。
「…………ちょっと待て」
 自力では脱出不可能な高さである事は、間違いない。
「…………だれか」
 お客様の中に空を飛べる方はいらっしゃいませんかー?
「だれかーーーーーー!!!」



「……今、何か聞こえなかったか?」
 制服のスラックスを膝まで捲り上げながら、佐倉 火冬(jb1346)はふと顔を上げた。
「‥‥気のせいか」
 まさか暑さのせいで幻聴が聞こえた訳でもないだろう。
 そうさ、暑くない。暑くなんか、ないんだからな。
 制服の半袖ワイシャツに、ネクタイはきっちり首を締め付けてるけど。
「俺天才ですから…制服でも余裕ですし(きり」
 平気平気……へい、き……
「あづい……あづーい゛っ!!」
 ごめんなさい、嘘つきました。
 タイを緩めたくらいではどうにもならない程に暑い。
 と、その目の前にオアシスならぬ海の家が!
「……こ、今度は幻覚かっ!?」
 いや、幻覚ではない。
 海水浴場でも何でもない人口島の砂浜に、まさかとは思うが……本当にあったのだ、海の家が。
 ただし、それは運動会で使う様なテントに葦簀を張っただけの簡素な外観ではあるが……
 軒先ではためく「氷」の文字と、涼しげな音を奏でる風鈴、そして和装の主人。
 氷の入った大きなクーラーボックスでは、ジュースやお茶、果てはスイカやアイスまで冷やされている。
「いらっしゃい」
 ちょっと無愛想だが根は気さくな好青年、風雅 哲心(jb6008)が出迎えた。
「あまり羽目を外しすぎるなよ。これでも飲んで、一息いれておけ」
 適当なジュースを選んで放る。勿論、お代はいらない。
「え、貰って良いんすか!?」
 地獄に仏、暑さに冷たいジュース。
 礼を言うと、火冬は一気に飲み干した。
 よし、これで戦える。まだ始まってもいないけど!

「悪い、これも一緒に冷やして貰って良いか?」
 そこに声をかけたのは、山ほどの飲み物を抱えた千葉 真一(ja0070)だった。
「ああ、構わないが……」
 十中八九、タダでも売れ残りそうだ。
 そのやたらと緑が眩しい健康アピールしまくりのパッケージは、青汁。
 果たして「まずい、もう一杯」が出来る強者は何人いるだろうか。
 水分補給の準備が整った所で、真一は改めて戦場を見渡してみる。
「砂浜か〜身を隠す場所はないよなぁ」
 ……と思ったら。
 いつの間にやら、そこには立派な要塞が出現しているではないか。
 その反対側には大小の防壁が作られている。絶妙な距離感とサイズで作られているあたり、きっとプロの仕事に違いない。
 その中間にぽつんと置かれた大きなスイカも気にはなるが、ひとまずそれは置いといて。
 そうか、身を隠す場所がないなら作れば良かったのか。
 しかしこの暑さの中、今から作っていたのでは体力を消耗するだけだ。
「とりあえず、サンダルだけは絶対履いておこう」
 この砂の中、何が埋まっているかわかったものではない。
 足元を慎重に確認しながら、真一は各種の得物が並べられた木陰へと歩を進めた。



「今まで銃を使用した事は殆どないが、たまにはライフルを使ってもいいだろう」
 普段と同じ戦闘服で防御を固めた神凪 宗(ja0435)は、ライフルタイプの水鉄砲を手に取った。
 得物を決めた宗は遁甲の術で気配を消すと、水上歩行を使って海に出る。
 陸地から適度に離れたところで、水の中にすっぽりと潜ってしまった。
 鼻から上だけを水面から出して、皆の様子を観察する。
 今、宗の所から見て左手に恋音を中心とした【狩】チーム、そして右手には門木を守るべく集まった者達が陣を張っている様だ。
 そのどちらにも付かない者達は、それぞれに目標を定めて散開している。
 宗にとっては、その誰もが標的たり得た。
「最後に立っている者が勝つ」
 彼等が潰し合い、人数が減った所に出て行けば、勝利の可能性は高くなる。
 それまではこうして、静かに波間を漂うとしよう。
 見た目、ちょっとクラゲっぽいのが難点ではあるが……まさか間違って退治される事はあるまい。



「……ねえ、水鉄砲って何?」
 人界知らず、スイッチオン。
 鏑木愛梨沙(jb3903)は、手にした銃をひっくり返しながら物珍しそうに眺めている。
 どうやって持てば良いのか、それさえわからない様だ。
「これはな、こう持って……」
 銃の扱いに関しては専門家のミハイルが、手とり足とり使い方を伝授する。
「これで、引き金を引いてみな」
「こう?」
 パァン!
 やたらと景気の良い音が響き渡り、銃口から飛び出したのは……小さな万国旗。
 ついでに細かな紙吹雪がヒラヒラと舞う。
「これが、水鉄砲?」
 かくりと首を傾げた愛梨沙に、ミハイルは音速で首を振る。勿論、横方向にだ。
「今のは先生が作ったネタ武器だ。水鉄砲というのはな……」
 これだと、ミハイルは自分が手にした二丁拳銃の片方を地面に向けた。
 引き金を引く。
 ばきゅーん! いかにも合成っぽい発射音の後に――
『テヲアゲロ!』
 銃が喋った。それも、ものすごく安っぽい電子音で。
 もう一発、ばきゅーん!
『オレノウシロニタツンジャネェ!』
「これが、水でっ……」
 間違った知識を擦り込まれそうになった愛梨沙に、ミハイルは再び首を振る。今度は光速を超える速さで……って、無理だけど。
「こんなもん使えるかぁっ!」
 キレた。
 仕込んだ犯人が、向こうでビクッと身を震わせる。
 ダークスーツにサングラスのいかにも「それっぽい」男は、銃を構えたままゆっくりと歩み寄り……
 ばきゅーん!
『アバヨベイベー、ジゴクデアオウゼ』
 ばたり。
 哀れ味方に裏切られ、門木は地獄への片道旅行へ旅立つ事と相成りました。
 いや、撃ってないし撃てないし。
「下手な芝居はいいから、ちゃんと撃てる銃をくれ」
 まともな武器と交換し、愛梨沙にも普通の水鉄砲を手渡し、ついでに。
「水鉄砲なら先生も使えるだろう? 自分の身を守る練習のつもりで頑張れ」
「……はい」
 どっちが先生なのか、よくわからない構図になっているのは……毎度の事か。

 そんなトリオ漫才を眺めながら、カノン(jb2648)は自分の武器に青い色水を仕込んでいた。
「色が付いていれば、女性が濡れてもある程度安全ですよね」
 という理屈らしい。
 まあ、確かに白いシャツよりは色物の方が見えにくくはなる、けれど。
 果たして色水にそこまでの効果があるのだろうか。
 真っ白なドレスを着た愛梨沙で、ちょっと実験してみたい気もするけれど。
 いやいや、自重自重。
(特にルール無用の水のかけあい……なんでしょう、先生が狙われる気がします、凄く)
 と言うか、門木のガードはカノンと愛梨沙、そしてミハイルの三人だけだ。
 後は、全て敵……?
「いえいえ〜、私もいるのですよ〜」
 ふわ〜んと漂って来たのは、相変わらずユルい感じのアレン・マルドゥーク(jb3190)だ。
「この季節の水遊びは気持ちいいですね〜」
 だから、本人がそれで良いと言うなら止めはしないが。
「門木先生は今回もくず鉄の恨みをぶつけられてしまうのでしょうか〜?」
 うん、多分ね。
「明らかにやりすぎな生徒がいたらお守りしましょう〜」
 でっかいバズーカを肩に担いだ温和な天使は、まさに天使の如き微笑みを湛える。
 で、その中身は何?
「とても美味しい水なのですよ〜」
 その正体は、撃ってからのお楽しみだ。



 さて、海の家の隣には、もうひとつテントがあった。
「アレンさんの為に、美味しいカレーつくるよ!」
 勿論、他の皆も食べて良いけどね!
 大きな寸胴鍋に、たっぷりの材料を仕込んで……ぐつぐつ、とろり。
「……あーいい匂い」
 ご飯もたっぷり炊いて……
「……いい匂い……」
 じゅるり。
 炊きたてのごはんって、どうしてこんなに食欲をそそるんだろう。
 もう我慢できない。
「少しくらい味見しないとね」
 ぱくり。
「おいひい〜」
 ぱくぱくもぐもぐ……あれ?
「ご飯が……なくなっちゃった……?」
 ど、どうしよう。



 そんなこんなで、浜辺にカレーの匂いが漂い始めた頃。

 戦いの火蓋は切って落とされた。



「来ましたね」
 こくり、ハンドガンを構えたカノンの言葉に、少し緊張気味の愛梨沙が頷く。
 水鉄砲の何たるかは理解したが、結局それで何がどうなっているのか、その辺りは今ひとつピンと来ない。
 けれど……
「門木センセが狙われてるなら、守るしかないわよね!」
 効果があるかどうかは疑問だが、とりあえず周囲の仲間達にアウルの衣で加護を与えてみる。
「先生の発案ですから、濡れるの上等だとは思いますけれど……」
 寧ろびしょ濡れになって涼みたいのかもしれないけれど。
 ここは敢えて、守りに徹してみる。
 意地悪? いえいえ、例え向けられる得物が無害な水鉄砲であろうとも、その身を挺してでも守り通すのが撃退士たる者の務めなのであります。
 因みに本日の門木は毎度お馴染みいつもの格好。
 もうね、誰かに言われたり世話を焼いたりして貰わない限り、それがデフォらしいですよ?
 まあ、元からあんまり白くない白衣を始めとして、濡れたり汚れたりして困る様なものではないけれど。
 そんな訳で、カノンと愛梨沙は防壁の背後に隠れた門木の左右を守り、ミハイルはその一列前、銃眼を備えた半円形の銃座に陣取る。
 アレンは光の翼で上空に舞い上がった。ヒリュウも飛ばし、監視衛星スタンバイOK。

 そしてこちらは攻撃側。
「夏の日差しに水鉄砲ですか?」
 ふふっ、レイラ(ja0365)は楽しげな笑みを漏らす。
「門木先生も粋な計らいをしてくださるものですね」
 そういう事なら遠慮なく……
「先生を狙わせて頂きましょうか」
 え、そっち!? 狙う方!?
「ええ、狙う方です」
 学校指定のスク水を着たレイラは、にっこりと微笑む。
 胸元に貼られたゼッケンの、起伏に富んだ「3−2 れいら」の文字が眩しい。
「変ではないですよね?」
 ええ、全然。寧ろ一部のマニア的には大歓迎だと思います。
 レイラは機関銃タイプの水鉄砲を手に、闘気解放で強化しつつ弾幕を張りながら走る。
「門木先生、お覚悟!」
 反撃を受けても気にしない。と言うか自分が張った水弾幕に突っ込んで行く訳だから、既に全身しっとり良い感じに濡れそぼっている。
 と、ふと目に入った謎のスイッチ。
(そう言えば、これは改造水鉄砲でしたね……)
 これを押したらどうなるのだろう。
(ああ、嫌な予感がしてなりません)
 しかし、謎のスイッチは押して欲しそうにレイラをじっと見つめている。
 いや、スイッチに目がある訳ではないけれど。
「わかりました、ここは素直に押して差し上げましょう」
 えい、ぽちっとな!

「げへへ…┌(┌ ^o^)┐」
 ウォーターガンにマンガ用墨汁(同人誌執筆用)を入れてエルレーン・バルハザード(ja0889)参上!
 服装はスク水とTシャツで濡れても平気だが、胸のゼッケンは起伏が乏しくて名前が読みやすいのがちょっと悲しいぞ!
 ところで、エルレーンさんは墨汁派なんですね。墨汁だとペン先が錆びやすくなったりしませんか?
 ……という無駄話は置いといて。
「目標、5人は倒すぞ! おー!」
 エルレーンは遁甲の術で気配を消し、無音歩行で敵に忍び寄り……
「くらえ、必殺ベタすぷらーっしゅ!」
 迸る墨汁! しかし!

「楽しむの優先で行かせてもらいましょうか」
 フローラ・シュトリエ(jb1440)は普段と同じ……と見せかけて、実は巧妙にチャイナドレスと重ねて白のホルタ―ネックビキニを着込んでいた。
 パッと見では気付かないかもしれないが、だから濡れても大丈夫なのだ。
 それに、攻撃を受けて濡れてしまってもリタイアにはならないという事だし。
「それなら積極的に仕掛けていきましょう」
 海水を仕込んだライフル型の水鉄砲を構え、ヒップバッグには水風船を忍ばせる。
 明鏡止水でこっそり近付いて、撃つ!
 ところが!

「門木殿とミハイル殿が居て、手元にはバズーカ(型水鉄砲)がある」
 マクセル・オールウェル(jb2672)は、武士褌を風にはためかせて浜辺に仁王立ちしていた。
「となれば、行う事は一つしかあるまい」
 にやり、筋肉天使は口角を上げる。
「即ち、ミハイル殿のガードを抜いての門木殿への喝入れである!」
 どうやら阻霊符を使用している者はいない様だ。
 ならばと、マクセルは担いだバズーカごと地中に潜る。
 このまま敵陣深くまで入り込み、不意打ちを仕掛けるのだ。
「ミハイル殿、覚悟!」
 声と共に砂から飛び出す蛸入道……じゃなかった、筋肉天使!
 だがしかし!

「俺は門木せんせーの事好きだけど」
 火冬、ここでまさかの告白タイム!?
「将来の事考えると狙った方がいいかなって」
 澄んだ瞳で語る。
 将来の事って、いや、そんな家族計画とか、だって男同士だし!
 って、違う?
 くず鉄を喰らう将来?
 なーんだ。
 そんなわけで、ハイドアンドシークで潜行。
「ふふん、当てられまい…!」
 充分に近付いた所で、テラーエリア発動! 自分の手も見えない真っ暗闇が周囲を覆う!
「敵味方分からん状態で同士討ちでもやってろよーっと♪」
 ……あれ?
「…よく考えたら俺も見えないな。まぁいっか」
 これで条件は互角、水を入れた二丁拳銃で撃ちまくる!
「無差別にびしょびしょしてやんぜっ」
 制服が濡れると微妙に困るが、己の濡れ透けせくしーを披露する為なら仕方がない。
 需要はある、きっと、多分。

 闇に包まれた混沌の中で、水飛沫が飛ぶ。
 一部、水じゃない飛沫も飛ぶ。
 しかし、墨汁なんてまだ可愛いものだった!
 レイラが押した謎のスイッチ、その正体は……

 ぼとぼと、でろ〜〜〜ん。

 頭上から何かデロいものが降って来た!
 それは、押してはいけない禁断のスイッチ。
「あぁ、やっぱりこうなるのですね」
 暗闇の発生から一分後、視界を取り戻したレイラは呆然と自分の手元を見つめていた。
 どうやら銃が暴発し、その衝撃で何やら得体の知れないデロデロした薄緑色の物体が飛び散ったらしい。
 それは今、レイラを中心とした半径10m程度の広範囲に容赦なく飛び散っていた。
「なんっじゃこりゃあぁっ!?」
「うおぉぉ、我輩までデロの犠牲に!?」
「いやあぁっ、気持ち悪いーーーっ!」
「俺の濡れ透けせくしーにデロ属性が加わったーっ」
 茶色かったり黄色かったりピンク色だったり、あちこちから様々な色の悲鳴が上がる中、レイラはそっと溜息をついた。
「このような場においてはデロられるのが子女の嗜みと存じております」
 ええ、存分にデロりましょう。さあ皆さんもご一緒に!
 デロデロと纏い付く感触と羞恥に身悶えする、スク水お姉さん。
 その様子には、思わず「18禁」の貼り紙をしたくなる。
 だが、同じ様にデロを被ったスク水女子、エルレーンは……
「あん、いやぁーん(はぁと」
 可愛らしい声を上げて身悶えしてみるも、何かが違う。
 わかってる。わかってるよ。何が足りないのか、そんな事は十二分に承知している!
「ええーい!」
 こうなったら最後の手段、変化の術で「お胸ぼいんぼいん美女」になってやる!
 ばいーん!
 え? 本人とは似ても似つかない?
 そりゃそうでしょ、見破られる様なら変化の術を使う意味がないし!
「そこ、コンプレックス丸出しとか言うなー!」
 ばいんぼいんのぼんきゅっぽんなお姉さんは、それはそれはせくすぃーな感じで悶え苦しむ。
「これは、先生の趣味なのか……?」
 サングラスにくっついたデロデロを拭き取りながら、ミハイルは門木を見た。
 その視線が、ちょっと痛い。
「……いや、その……突然変異だ」
 わざとじゃない、不可抗力。
 ほら、科学室でも良くあるだろう、聖槍が聖褌になるとか……いや、なってないけど。多分まだ。
 あれと同じで、突然変異は人為的な制御は不可能なのだ。
 なんたって突然の変異なのだから。

 そこに、ペンギンの着ぐるみに身を包んだ滅炎 雷(ja4615)が飛び込んで来た。
「やるからには全力で楽しむよ〜」
 という事で、隙あり!
 皆がデロってる今がチャンスだ!
 雷は海水を詰め込んだ水風船を纏めて投げ付ける。
「いつもより多めに用意してみたよ。いつもって、いつ? とは聞かないでね!」
 訊かない、訊かないけど……
「何、この赤いの!?」
 既にパニックを起こして涙目になっていた愛梨沙が、ますますパニクって右往左往。
「それを引くとは運がいいね〜、1個しか用意してなかったんだけどね〜」
 それはただの赤く染めた海水。
 数多くの水風船の中で、一個しか作らなかったレアもの……言わばアタリだ。
 しかし、当たった愛梨沙はちっとも嬉しくない。
 それどころか、純白のドレスは薄緑色のデロデロを被った所に赤い水で染められて、まるでクリスマスツリーの如き有様になっているではないか。
 愛梨沙にとっては災難だが、しかしそれで気付いた事がある。
「これ、水で落ちるんですね」
 自らもデロったカノンが言った。
 確かに、水を被った所はデロが溶けて流れている。
「では、これで洗い流してしまいましょうか〜」
 上空にいた為に難を逃れたアレンが、バズーカを構えた。
 銃口を上に向け、引き金を引く。
 どっぱーん!
 巨大な水の塊が重力に抗しきれずに分解し、雨の様に降って来る。
 しかし、その液体は……
「なんっじゃこりゃあぁっ!?」
 阿鼻叫喚、再び。
 降って来たのは、先程と同じ様な薄緑色をした液体だった。
 しかし、今度はサラサラしている。
 そして何だが……青臭い。
「胡瓜ジュースだよー!」
 給水所にそれを置いた張本人らしい、みくずが言った。
「河童巻きも美味しいですし〜、ジュースになったらさぞかしスッキリと美味しくいただけるのではないかと〜」
 アレンがニコヤカに微笑みながら、もう一発。
 大丈夫、砕いた氷も混ぜてあるから、きっと冷たくて気持ち良い。
 口に入っても砕いた氷のシャリ感が美味しく涼を呼ぶ筈!
「なのに、どうして皆さんそんな微妙な顔をされているのでしょうか〜?」
 いや、どうしてもこうしても。

「ごめんなさい、ちょっと洗い流して来るわね」
 たまらず、フローラは海に飛び込んだ。
「私もっ」
 続いてエルレーンも戦線離脱。
 いや、逃げるんじゃない。必ず戻って来る。今までよりも一回り大きくなって!
 どこが、とは訊かないであげて下さい。
「そ…そのうち、こうなるんだもんっ! 20歳にはぼいんぼいんだもんヽ(`Д´#)ノ!」
 うん、そうだね(ほろり
「あら?」
 と、フローラが何かに気付いて手を止めた。
「何かしら、あれ」
 視線の先には、波間を漂う白っぽい物体。
「まさか、クラゲ?」
 エルレーンも身を乗り出して覗き込んでみる。
 クラゲが出る季節には少し早い気もするけれど。
「刺されでもしたら厄介ね。片付けておきましょうか」
 フローラがクロセルブレイドを抜き放ち、上段に振りかぶる。
 と――
「待て、俺はクラゲじゃ……」
 ざばあっ!
 危機を感じたクラゲ、いや宗が慌てて水中から飛び出す。
 観察するつもりが、波間に漂ったままいつの間にか居眠りしていた事は秘密だ。
 しかし。
「クラゲ怪人、成敗なのっ!」
 ぶしゅーっ!
 エルレーンの銃が墨汁を噴いた!
 頭からモロに被った黒い液体を滴らせた宗の姿は……
「これは、海坊主!?」
 本で見た挿絵にそっくりだと、フローラ。
 だがしかし、それはクラゲでも海坊主でもない。
「そろそろ潮時か」
 海水で墨汁を洗い流した宗は、水上歩行で水面へ。
 そのままスナイパーっぽく身を伏せて、ライフルを構える……が。
「揺れるな……」
 これは、陸に上がるべきだろうか。



 その頃、もう一方の戦場では。

「……うぅぅ……。……は、恥ずかしいですよぉ……」
 囮として前線に立った恋音は、頬を朱に染めながら周囲の視線を気にしている。
 桜色のビキニが恥ずかしいのだろうか。だが、その上からは裾を縛った大きめのTシャツを着ている。
 素肌を直接晒している訳でもないのに、何故?
 あぁ、もしかして、今日はノーサラなんですね?
 ノーサラ、つまりは「さらし」を巻いていないという事で……うん、どうりで胸の辺りが、あの、その、ごにょごにょ。
 確かに、ビキニの下にさらしを巻いたら色々と台無しだけれど。

 そんな胸の辺りが非常に羨ましい事になっている恋音をじっと見つめているのは、グレイシア・明守華=ピークス(jb5092)だ。
 本日の出で立ちはホルターネックのツーピース。真紅を基調に、デコルテ部分が露出しないタイプのトップは横縞、ボトムはフリル付きの水玉風。
 元気いっぱいの水着は、それなりにバランスの取れた健康的なラインに良く似合う。
 胸元は少々残念な事になっているが、大丈夫、まだまだこれからだよ!
 そして本日は、この水着姿をお披露目する場でもある訳なのだが……ギャラリーの、特に男性陣の目は恋音にばかり向けられている。
「あれは、目立ちまくって集中砲火を受けるパターンね」
 ならば、ここは敢えて助ける側に回ってみようか。
「まあ、ある意味夏の風物詩だから。思いっきり楽しむわよ」
 バズーカを担いで、いざ!

「涼しくなる上に楽しめるとあっちゃ参加しないわけにも行くまい」
 不敵な笑みを浮かべた麻生 遊夜(ja1838)は、背後にぴったりくっついた来崎 麻夜(jb0905)と共に要塞へと進撃を始めた。
「濡れるのは嫌だけど涼しめるならいいや。当たったら、だけどね」
 クスクスと楽しそうに笑う麻夜は、腰にパレオを巻いたビキニの上に白いTシャツを着ている。
 白を着るのは珍しいが、これなら当たって濡れれば見た目にもすぐにわかる。
 もっとも当てられるつもりはないし、前を行く遊夜にも当てさせるつもりはないが。
 遊夜の方は全くの普段着、ただしこの暑さでコートは勘弁。
「濡れたくなけりゃ気張っていけってな。さぁ、楽しもうか!」
 目標は特に誰でも良いのだが、まずは向こうの要塞を落としてみようか。
「ああいう難攻不落っぽい空気を漂わせたヤツを見ると、こうムラムラと闘志が湧いてくるぜよ」
 囮に釣られたからではない。断じてない。だって彼女一筋だし。
 釣られた訳ではないが、フリーな相手を見れば勝負を挑むのが礼儀というもの。
「俺らと遊ぼうぜぇ」
 不意打ちしないという縛りに則り、まずは自分達に注意を向ける。
 そして……
「当てられるより先に当てろ!」
 遊夜は真っ黒な色水(ただし水で落ちる)を仕込んだハンドガンの引き金を引いた。

「恋音、危なーいっ!!」
 恋音のナイト(自称)雅人が、遊夜の銃口の前に身を投げる。
 熱血褌一丁で立ちはだかるその胸に、真っ黒な水が飛び散った。
「これが実弾なら、お前さんもう死んでるぜぇ?」
「たとえ死んでも、恋音は僕が守り抜いて見せるっ!」
 本気だ。
「いやぁ、妬けるねぇ」
 そこに黒ビキニが大人な雰囲気を醸し出す、石上 心(jb3926)が飛び込んで来た。
「なら、これはどうだっ!」
 空中から水風船を投げ付ける。
 いや、二人の中を裂こうというわけではない。寧ろその逆。
 敢えて邪魔して盛り上げる、恋のエネミーに徹してやるのだ。
「愛とは障害が多ければ多いほど熱く激しく燃え上がるものっ!」
 その為ならば手段は選ばない。
 空を飛んでからの空襲も、羽を出して夏の日差しを反射させた目晦ましも、邪視による拘束で不自然に倒れ込ませて二人の距離をグッと近づけさせるのもやるさ!
 水風船に怪しい薬品を詰めるのだって遠慮しないぜ!
 まずは惚れ薬、ただし効果は同性限定。同性を惹き付けるフェロモンの様なものを発散させるのだろう、多分。
 案の定、恋音を庇って頭からそれを被った雅人はフェロモンまみれに!
 魅惑の香りが辺りに充満する。
 だが、彼女一筋の遊夜には効果がなかった!
 その代わり……
「明くん、しっかりして! 明くんっ!!」
 自陣の中でせっせと水風船作りに精を出していた明斗の手が、ぴたりと止まる。
 それを手伝っていた草薙 胡桃(ja2617)が肩を掴んで揺さぶるが、明斗は心ここにあらずの様子で雅人を見つめている。
「明くんを誘惑するなんて、許しませんっ!」
 水風船の中身、つまり水が入ったバケツを抱え、胡桃は自陣を飛び出して行く。
 そして、雅人に向けてそれを盛大にぶちまけた。
 怪しいフェロモンはきれいさっぱり洗い流され、明斗はハッと我に返る。
「僕は一体何を……っ」
 薬のせいとは言え、彼女以外の、しかも男に心を奪われるとは何たる不覚!
 まだまだ、愛が足りないのだろうか。
「……後で麻生さんの爪の垢でも煎じて飲ませて貰うべきでしょうか……っ」

 そんな明斗の苦悩を余所に、前線ではバトルが続行中だった。
 新たに走り込んで来たのは、雅楽 彪白(jb1956)とギィ・ダインスレイフ(jb2636)の二人組だ。
 ハンドガンの二丁拳銃を構えた彪白は、ゆったりタンクトップにショートパンツ。
 一見すると女の子に見えるが、自覚はあるので間違えられても気にしない。
 相棒のギィはサーフパンツにパーカを羽織っている。
 二人は前後を入れ替えながらフェイントをかけつつ、標的に近付く。
 狙うのは勿論、恋音……のカバーに当然入るであろう、雅人だ。
 彪白の右手が唸り、爽やかな香りを放つ液体が雅人の目を直撃した。
「し、しみる! 目が、目があぁぁっ!!」
 何だこれ、涙が止まらない! 目を開けていられない!
 それは純度100%のレモン果汁。
「えへー、痛い? なぁ痛い?」
 うきうきと無邪気に尋ねる彪白は、雅人の口を狙ってもう一発。
 更に、それを追って左手の銃からは何やら甘い香りの液体が。
 それは、美味しそうな謎の液体でゆるめた蜂蜜だった。
 二つの液体は口の中で程よく混ざり……
「おいしー?(にへら」
 多分、蜂蜜入りのレモネード味になったよね? ね?
 これでもう、雅人のガード機能は働かない。
「チャーンス!」
 ここぞとばかりに心が投げ付けたのは、繊維質のものを溶かすというギャグかコメディでしか通用しない様な液体が詰まった水風船!
「そうはさせないわよ!」
 明守華がそれを狙ってバズーカをぶっ放すが、僅かの差で間に合わなかったのは別に何かの補正が入ったからではない、と、思う。
 ばしゃっ!
 見事に命中したそれは、恋音が身に纏った衣類の全てを悉く溶かし……
「……きゃあぁぁぁ……っ!?」
 盛大なポロリに、恋音は思わず悲鳴を上げる。
 慌てて両手で隠しても、隠しきれない!
「……か、隠しきれないなら……隠れるしかないのですよぉ……っ」
 恋音は自ら落とし穴に飛び込んだ!
「……くっ、見えない……目が開けられないっ!」
 折角のポロリが……じゃなくて、これでは恋音を守る事が出来ないと、雅人は地団駄を踏む。
 だが、チーム【狩】には頼もしい助っ人がいた!
「女の子を狙うんじゃありませんっ! 成敗っ!」
 そんな恋音が手にしていたハンドガンを奪い取り、胡桃は反撃に転じる。
 空中の心に狙いを付け、引き金を――
 ぽぽぽぽぽ……!
 出て来たのは、七色に輝くシャボン玉だった!
 ここでまさかのネタ武器!
「どうやら反撃の手は尽きた様だな!」
 勝ち誇った心は急降下、雅人の背をどついて……
「いってこーい!」
 どーん!
「うわあぁぁっ!」
「きゃあぁぁぁっ!!!」
 雅人の身体は、恋音が身を隠した落とし穴に真っ逆さま。
 あれ? 邪魔する筈が、煽ってる?
「ま、良っか!」
 これで盛り上がるなら結果オーライだ。
 我ながら良い仕事をした。もうこれで思い残す事はない……という事で、後は傍観に徹してみようか。

 かくして、何が何だかよくわからないうちに前線は突破された。
「この要塞は俺らが頂くぜ」
 遊夜が走り込むその後ろから、麻夜がハンドガンを撃ちまくる。
 明守華がバズーカで応戦するが、二人はそれを巧みに避けて……いる様に見えて、実は落とし穴に誘導されていた!
「先輩!」
 それに気付いた麻夜が、服の裾を掴んで引き戻そうとする。
 が、ちょっと待て。
(これって、先輩へのアピールチャンスじゃ……!?)
 掴みかけた手を途中で止めた麻夜を、遊夜が振り返る。
「どうした、麻……やっ!?」
 踏み出した遊夜の片足が砂に沈み、上体がグラリと揺れる。
「危ないっ!」
 ここぞとばかりに思い切り抱き付いて、引き止めようと一応は頑張ってみる。
 が、どう頑張っても無理な事は誰の目にも明らかだった。
 二人はそのまま穴の底。
 深さはそれほどでもないが、その狭さはどさくさに紛れて密着するには丁度良い。
 他の人からは見られないという所も、お誂え向きだ。
 さりげなく、さりげなく、あくまで不可抗力と見せかけながら……

 残るは一組、彪白とギィのみ。
 しかし肝心な時に明守華のバズーカは弾切れだ!
 落とし穴地帯を抜けた二人が明守華に迫る!
「…安心しろ…顔には当てん」
 至近距離でハンドガンを構えたギィの、それがセルフルール。えげつなく目を狙って来る彪白と比べて、だいぶ優しい。
 ただし中身はサンオイルだが。
「…こんがり日焼けする手間がはぶける、俺の優しさというやつだ」
 オイルまみれの明守華をその場に残し、二人は要塞へと進撃を続ける。
 そこを守るのは、今や明斗と胡桃の二人のみ。
 だが、彼等には時間のあるうちに大量生産した水風船があった。
「はい明くん水風船! はいっ!」
 次々に手渡される水風船を、明斗は次々に投げ付けていく。
 壁になったギィがそれを全て受け止め、その影に隠れた彪白が隙を見て反撃。
「ギィさん、このまま敵陣に突入や……、て、ギィさん?」
 ぴたり、ギィの動きが止まる。
「ああ、お腹すいたんやね」
 後ろを向かせ、彪白はその口に蜂蜜を発射。
 その間にもギィの背後からは容赦のない水風船爆弾が降り注ぐが、彪白には当たらないから気にしない。
 エネルギーの補給を済ませ、これで無事に再起動……あれ、しない?
「まだ足りんのかなー」
「…ん、腹減った…食べ物の匂い…」
 ギィはカレーの匂いにふらふらと吸い寄せられて行った。

「二人はこれでリタイアの様ですね」
 要塞を守りきった明斗が、ほっと一息。
 落とし穴から雅人と恋音を引き上げ、雅人には目薬、恋音にはバスタオルを手渡す。
 穴の底で何があったのか、それは訊かぬが武士の情け(?)というものだろう。
 そして、明斗はもう一組が落ちた穴へ向かった。
「ここでリタイアするか、それとも首だけ出して砂に埋まるか……どちらがお好みでしょうか?」
 にっこり。



 そして、カメラは再び門木達の方へ。

「ほらほら、デロデロを流しに行ってる暇なんかないよ!」
 雷がバズーカを撃ちまくる。
 中身は普通の水だ。出来れば進んで当たりに行き、身体に付いた各種液体を洗い流したいところなのだが……
(勝負である以上、先生にむざと当てさせる訳にはいきませんね)
 カノンはハンドガンを連射して弾幕を張り、雷を正面に釘付けにする。
 バズーカから放たれる水は勢いがあるが、方向さえ限定してしまえば身体を張って守る事も出来る。
 真っ正面から勢いよく水を浴びて、カノンのデロはいつの間にか綺麗に洗い流されていた。
 しかし、背後の門木はデロったままだ。
 流石はディバインナイト、水も漏らさぬ鉄壁の守り。この場合、少しは漏らして欲しい気もするけれど。
 一方の雷は熱くなっていた。心情的な意味でも、物理的な意味でも。
「……熱いっ!!」
 そりゃ、この炎天下でペンギンの着ぐるみに入ってれば……ね。
「何でこんなの着てきちゃたんだろう!?」
 確か、濡れない為だった筈。
 しかし投げ捨てる様に脱いだ着ぐるみの中には、たっぷりの汗が溜まっていた。
 勿論、中の人も汗びっしょり。シャワーを浴びた直後の様だ。
「……ぁ、世界が回ってる……」
 よろよろ、ぱたり。
 はい、リタイアですね。

「援護だよー! 援護にきたよー!」
 昔なつかし竹製水鉄砲を構え、みくずが突撃して来る。
 中身は粉末ジュースを溶かしたものだ。
「門木先生覚悟ー!」
 ばしゅーん!
 ……ぇ?
「みくずさん〜、私達は先生を守る側なのですよ〜」
「……え、違う? ま、いいか!」
 気にしない気にしない。
「そこは、気にして頂いた方が良い気もしますが」
 カノンは戸惑いながらも反撃に出るが、残念、もう水が残っていなかった。
 かくなる上は、小さな盾ひとつでどこまで守りきれるか……!

「どうせならジャングルでサバイバルゲーム的な感じでも良かったんだが」
 薄めたレモン水を詰めた水風船を持った真一が、防壁の陰を伝いながら次第に近付いて来る。
「ま、暑さを吹き飛ばすには良いかな」
 風船の数は21個、科学室でくず鉄と消えたアイテムと同じ数だ。
 因みにレモンはさっき自分で絞ったもの。材料は身体に優しい国産レモン、勿論防カビ剤など使っていない。
 充分に近付いた所で、真一は門木に向けて水風船を投げ付ける。
 そこに追い討ちをかける様にライフル型水鉄砲で狙い撃……あれ、弾けない。
 水風船を撃ち抜くには威力が足りないのか!?
 結果、一発目はあっさりとカノンに防がれてしまったが、二発目はアサルトライフルを活性化させて撃つ!
 勿論、門木を直接撃ったりはしない。狙いはあくまで水風船だ。
 当たる直前で弾けた風船は、その中身を雨の様に降らせる。
 いかなディバインナイトにも、これは防ぎようがなかった。
「……終わりましたね」
 仄かにレモンの香りが漂う中、カノンはそっと戦場を離れる。
 水を使い切った上で、門木が被弾した時点で自分的なリタイアなのだ。

 一人が欠けた所で、守備側はいきなり窮地に立たされた。
「だが、門木先生は残った俺達が守る!」
 ミハイルの辞書にリタイアの文字はない。
 戦場を去るのは指一本も動かせなくなった時だけだ。
「引き金を引く力があれば、最後まで戦う。それが男ってもんだぜ」
 次々と投げられる水風船の軌道を回避射撃で逸らし、スキルが切れれば己の腕だけを頼りに、ミハイルは門木への攻撃を防ぐ。
 だが投げ込む方の真一も負けてはいなかった。
 軌道を逸らされる事も計算に入れて、ライフルを撃つ。
「ふ、なかなかやるな」
「あんたもな」
 激しい攻防の中で、二人の間に何かが芽生えたとか芽生えなかったとか。

 しかし攻撃を加えて来るのは彼だけではなかった。
 物陰に隠れた影野 恭弥(ja0018)が、ライフルで遠くから狙って来る。
 オレンジ色の液体を、愛梨沙は自分の体で受け止めた。
 白かったドレスは既に元の色がわからない程にカラフルな色になっていたが、それでも……透けるものはやっぱり透ける。
 本人は全く気付いていない様だが……さて、どうしよう。
 教えた方が良いのか、それとも黙っていた方が親切なのか。
 しかし、愛梨沙は教える前に気付いてしまった。
(あれ、センセの白衣が透けてる……)
 そうか、白い服って濡れると透けて見えるんだ。
 白い服、白……あれ?
 自分の胸元に視線を落としてみる。
「……」
 下着のストライプ柄が見えた。はっきりくっきり。
「キャーッ?!」
 はい、リタイア。
 これで二人が戦線離脱、防衛側はますます厳しい状況になった。
 その間にも恭弥による狙撃は続く。
 射程距離は普通の水鉄砲と大差ない為、相手の射程外から一方的に攻撃する様な事は出来ない。
 それでも、隠れ場所とする防壁を次々に移動する恭弥の姿を捕らえる事は、なかなか難しかった。
「ここは私達の出番ですね〜」
 スレイプニルを召喚したアレンは、その背に飛び乗ってバズーカを構える。
 ヒリュウの目で見た恭弥の潜伏場所に向けて、防壁を蹴散らしながら猛スピードでまっしぐら。
 その顔を狙って反撃の水弾が飛んで来るが、アレンは気にしない。寧ろ楽しそうだ。
 せーの、どっぱーん!
 飛び散る砂と共に、怒濤の勢いで撃ち出される胡瓜ジュース!
 反撃も虚しく、恭弥は薄緑色の液体を全身に浴びる事になった。


 先に上がったカノンは、後から来る仲間達の為に用意して来た飲み物を取りに、荷物置き場に戻っていた。
 しかし、そこは炎天下。
「あ……ぬるくなって……(汗」
 ――ぽむ。
 がっくりと項垂れたその肩を、バスタオルにくるまった愛梨沙が叩いた。
 人界知識が怪しい者同士、頑張ろう……うん。


「……俺も、そろそろ本気出すか……」
 真一による攻撃が続く中、遂に門木が動いた。
 だって、直衛で貼り付いてくれていた二人はもういないし、攻撃する方も動かない的が相手では面白くないだろうし。
 という訳で、真一の水風船攻撃10回目にして、門木は漸く反撃に出た。
 本気を出せば、逃げ足だけは速い。反撃は全く当たらないけれど。
「先生、どこ狙ってんだ!?」
 ミハイルが少々呆れた風に叫ぶ、が。
「人の心配をしている暇はないぞ」
 その目の前に立ちはだかる、バズーカを担いだ筋肉天使マクセル!
「勝負だ、ミハイル殿!」
「望む所だ!」
 一瞬前までミハイルがいた砂地を、水弾が抉る。
 横っ飛びにかわしたミハイルは、即座に引き金を絞った。
 手強い相手である事は互いに承知している。ならば、正攻法ではなかなか勝負が付かないだろう。
 ここは、頭を使った方の勝ちだ。
 ミハイルは罠を仕掛けた場所までマクセルを誘導すべく、だがそれとは悟られない様に、縦横無尽に戦場を駈ける。
「敵は目の前とは限らない。過信は油断に繋がるぜ?」
 罠にかかった所で、ニヤリと笑ってリモコンをスイッチオン!
 だがしかし。
『ヘン・シン!』
 安っぽい電子音が叫ぶ。
『タコ! トラフグ! バンドウイルカ!』
 ――キュイーンキュイーンキュイーン!
 けたたましく響くサイレンと、チカチカ瞬く赤ランプ!
 だが、それだけだ!
 流石はネタ武器、何の役にも立たないぞ!
「おぬしもな。仕込んだ武器を、過信はせぬ事だ」
 勝ち誇った様に言うと、マクセルは防壁の背後から飛び出した。
「門木殿、覚悟おぉぉぉっ!」
 バズーカ、発射!

「あ、ちょっと待って」
 上陸した宗を、エルレーンが呼び止める。
「倒された人は、これを顔に貼るんだよ」
 差し出された紙には『┌(┌ ^o^)┐さんじょう』と書いてあった。
「待て、俺は倒された覚えなど……」
 しかし、本人に覚えがなくても目撃者がいた。
「墨汁、浴びてたわよね。思いっきり」
 フローラの証言に、エルレーンは「うんうん」と頷く。
 言われてみれば、確かにそうだ。
「倒されたのか、俺は?」
 まだ参戦もしていないのに、もうリタイア? 最後まで立っている事を目的に参加したのに、そんな。
 呆然と佇む宗を尻目に、フローラとエルレーンは意気揚々と戦場に復帰する。
「あと4人は倒すぞ!」
 早速、エルレーンはフローラに銃口を向けた。
「そう簡単にはいかないわよ!」
 走って逃げながら、フローラもライフルで応戦する。
「やられたらやり返す!」
 向こうでは火冬もまだ頑張っていた。
 誰も一度喰らった程度では引き下がらない。
 だったら……
 エルレーンから手渡された紙を丸めてポイした宗は、迅雷を使って戦場に飛び込んで行った。

「そろそろ真打ちの出番ですね」
 明斗の言葉に、チーム【狩】のメンバーが頷く。
 既に戦場は残った者同士で誰彼構わずの撃ち合いになっている。
「ここで残った敵を一気に蹂躙すれば、僕達の勝利です」
 合図と共に、彼等は走った。
 Tシャツに着替えた恋音は、今度はしっかりとさらしを巻いている。
 が、それでも何かと目立つ事には変わりなく……ここでもやはり、彼女は囮役。
 餌に群がる敵を、明守華は後方からバズーカで一気に狙い撃ち。
 びしょ濡れになった所に、恋音が更に追い討ちをかける。
 水風船を真上に投げ上げ、それをエナジーアローで撃ち抜けば、シャワーの様に水が降りかかった。
 ……誰ですか、気持ち良いなんて喜んでるのは。



「結構暑いな。耐えられないほどじゃないにしろ、無理は禁物か」
 いつまで経っても勝負が付きそうもない戦いは、静かに見守っていた海の家の主人、哲心の判断で一応の決着を見る事となった。
「皆、お疲れ。冷たい飲み物にスイカもある。水分補給は忘れずにな」
 野菜不足の向きには、そのマズさが癖になる青汁もあるぞ。
「カレーもあるよ!」
 みくずが言った。
 でも、ごはんは?
 目を逸らしたみくずの表情で、アレンは全てを理解したらしい。
「なるほど〜、ごはんがなくても美味しく頂ける程の自信作なのですね〜」
 そういう事、だったのだろうか。

 かくして戦いを終えた撃退士達は、ライスなしカレーに舌鼓を打つ。
「ギィさん、あーん?」
「あーん」
 ビーチパラソルの下では、仲良く並んだギィと彪白がイチャコラしていた。

 ところで、ずっと気になってたんだけど。
「あのスイカは誰が置いたんだ?」
 戦場の真ん中に、ぽつんと置かれた大きなスイカ。
 皆で食べても良いなら冷やしておこうと、哲心が取りに行く。
 と、その周囲に掘られた穴の中に。

 パンダがいた。

 大丈夫? 生きてる?

 そうだね、程よく冷やした後は、皆でスイカ割りでもしようか――


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:15人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
202号室のお嬢様・
レイラ(ja0365)

大学部5年135組 女 阿修羅
凍気を砕きし嚮後の先駆者・
神凪 宗(ja0435)

大学部8年49組 男 鬼道忍軍
パンダヶ原学園長・
下妻笹緒(ja0544)

卒業 男 ダアト
┌(┌ ^o^)┐<背徳王・
エルレーン・バルハザード(ja0889)

大学部5年242組 女 鬼道忍軍
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
泥んこ☆ばれりぃな・
滅炎 雷(ja4615)

大学部4年7組 男 ダアト
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
夜闇の眷属・
来崎 麻夜(jb0905)

大学部2年42組 女 ナイトウォーカー
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
わんこ系男子・
佐倉 火冬(jb1346)

大学部4年215組 男 ナイトウォーカー
EisBlumen Jungfrau・
フローラ・シュトリエ(jb1440)

大学部5年272組 女 陰陽師
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
にゃんこさんと一緒☆・
雅楽 彪白(jb1956)

大学部4年299組 男 ナイトウォーカー
precious memory・
ギィ・ダインスレイフ(jb2636)

大学部5年1組 男 阿修羅
天蛇の片翼・
カノン・エルナシア(jb2648)

大学部6年5組 女 ディバインナイト
伝説のシリアスブレイカー・
マクセル・オールウェル(jb2672)

卒業 男 ディバインナイト
Stand by You・
アレン・P・マルドゥーク(jb3190)

大学部6年5組 男 バハムートテイマー
208号室の渡り鳥・
鏑木愛梨沙(jb3903)

大学部7年162組 女 アストラルヴァンガード
大いなる月の解放者・
石上 心(jb3926)

大学部2年221組 女 ダアト
ArchangelSlayers・
グレイシア・明守華=ピークス(jb5092)

高等部3年28組 女 アストラルヴァンガード
勇気あるもの・
風雅 哲心(jb6008)

大学部6年138組 男 アカシックレコーダー:タイプB