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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/12/01


みんなの思い出



オープニング


「ブシドーとは! 死ぬ事と見付けまシターーー!」
 雄叫びを上げながら、金髪碧眼の少年が日本刀を掲げて走る。
「いっつブシドー! ビバ、サムライ!!」
 彼が向かう先では、弓を構えた人型の骸骨がずらりと並んで壁を作っていた。
 それを見た仲間の撃退士が口々に叫ぶ。
「うわ、あのバカまた……っ!?」
「なに勝手に飛び出してんだよ!?」
「おい、止まれ! 戻って来い!」
 しかし、彼の耳にその声は届かなかった。
 盾も持たずに特攻をかける少年に狙いを定め、敵の弓矢がギリリと引き絞られる。
 ――ヒュン!
 空を割く音が聞こえ、矢が一斉に放たれる。
 それは狙い違わず、突進する彼の体に吸い込まれていった。


「……俺もうやだよ、あいつと組むの……」
 数日後。
 敵の集団にボコられた少年が運び込まれた病院の中庭に、依頼を共にした仲間達が集まっていた。
 酷い怪我ではないが、とりあえず入院となった彼を見舞った、その帰りらしい。
「同感。俺も無理だわ、もう」
 仲間達は一様に疲れた様子でベンチに座り込んでいる。
「あいつ、この一年で何回入院した?」
「……覚えてねぇ……」
 サムライに憧れ、ブシドーにカブレて日本への留学を決意した、その少年の名はダン・ガイダー。来日して一年になる、高等部二年の阿修羅だ。
 黙って立っていれば絵になる美少年だし、実際この学園に入ったばかりで何も知らない女子生徒は、大抵がぽ〜っと見とれる。女子でなくても見とれるくらいだ。
 だが、その実態を知っている者には「ああ、アレね」と、軽くアレ呼ばわりされていた。
「武士道かぶれもいいかげんにしろってんだよな……」
 サムライに憧れるのは良い。武士道を極めるのも良いだろう。
 ……勘違いさえ、しなければ。
「武士道とは死ぬ事と見付けたり、だっけ?」
「あれは、なんつーか、その……観念的なもんだろ? よくわかんねーけど」
 なのに彼は、その言葉を文字通りに解釈していた。
 戦って死ぬ事こそ、武士の本懐。
 命を惜しむのは武士として恥ずべき事だ。
 自己犠牲こそが至高の美。
 そう考えていた。
 それは、間違ってはいない。と、思う。
 間違ってはいないが……何か違うんじゃないか。
 少なくとも、飛び道具で武装した相手に刀で斬りかかる事は推奨していない筈だ。
 仲間と連携すれば楽に勝てる筈の場面で単身特攻をかけ、集中攻撃を喰らった挙げ句に助けに入った味方を危機に陥れる事も。
「でも、止めたって聞かねぇしな」
「もうさ、死にたいなら勝手に死ねばって感じだよね」
「そうだけど……俺らと一緒の時に死なれるのは、やっぱヤじゃん? それにさ、あいつ本気で死ぬ気ねぇし」
「……それもそうか」
 何しろ彼等が受ける依頼と言えば、最下級Mobが相手の簡単な仕事ばかり。
 いや、簡単な筈なのだ。彼の邪魔さえなければ。
 特に作戦を練ったり仲間と連携する必要もない、適当に叩けばすぐに終わる様な単純な討伐依頼さえ、彼が入ると一気に高難度になる。
 相手が最弱Mobなら寄ってたかってボコられても死ぬ事はまずないから、それはそれで、まあ勝手にやってくれという感じだが……
「でも、それで俺達が巻き込まれるのはなぁ」
「だよなー」
 死ぬ程ではなくても、結構な重傷くらいは負う事もある。
 仲間達とて、いくら迷惑な奴でも目の前で怪我をすれば放ってはおけない程度の人情は持ち合わせていた。
 しかし、彼を助ければ作戦が狂うし、危険も増すし、余計な手間もかかる。
 結果、依頼はいつもギリギリ成功か、運が悪いと失敗する事もあった。
 そんな訳だから、レベルも殆ど上がらない。
 同期の連中は、もう遙か上を行っているというのに……

 だからもう、あいつとは組まない。
 それが、彼等が下した決断だった。


「私、ブシドー極める為ニポン来ましタ」
 やがて無事に退院したダンは、仲間達の考えを聞いて悲しげに言った。
「ニポン、サムライの国。ブシドー、皆正しく理解してる思てまシタ。でも、現実は違いまシタ。誰もハラキリしませんデス」
 日本人は、日本の心を忘れてしまった。
 しかし、それならば……!
「私、皆サンの代わりにニポンのココロ、受け継ぎマス。そして世界にブシドー広めマス!」
 仲間に匙を投げられたというその事実に気付いているのかいないのか、ダンはキラキラと眩しい笑顔で拳を握り締めた。
「そうか、頑張れよ。俺達も応援してるからな」
「お前にはきっと……あれだ、もっと似合いの仲間がいる筈だからさ」
 そう言って、仲間達は曖昧なジャパニーズスマイルを浮かべる。
「じゃあな、頑張れよ」
「ハイ、私ひとりでも戦いマス! 戦って、見事に散って見せマス!」
 いや、ひとりではない。
 この学園にはまだまだ沢山の撃退士がいる。その中には自分の考えに共感し、共に歩む同士となってくれる者もいる筈だ。きっといる。
「神様、私見捨てたりしまセン!」
 その神様は日本の神ではない気がするが……まあそれは置いといて。
 新しい仲間と共に、ブシドーを極めるのだ。
「いっつブシドー!」
 使命感に燃えたブシのタマゴは、右手の拳を高々と突き上げて、叫んだ。


――――――


 そして、数日後。
 ダンは新しい仲間と共に依頼に臨んでいた。
 敵に気付かれない様に接近し、仲間と共に様子を伺う。
 相手は先日惜しくも取り逃がした、あの弓矢で武装した骸骨……アーチャースケルトン。
 戦場もあの時と同じ、郊外の荒れ地だ。
 ガラクタを積み上げたバリケードが、あちこちに作られている。その背後には、それぞれ五体程が隠れている様だ。更に後方には、長い塹壕が掘られている。そこには十体以上が潜んでいそうだ。
 前よりも数が増えた様だが、相手にとって不足はない。
 今度こそ、見事に散る事が出来そうだ。
「ブシドーとは! 死ぬ事と見付けターーーリ!」
 日本刀を高く掲げ、ダンは雄叫びを上げる。
 と、その時。
 ――みゃあぁぁーっ!
 猫の鳴き声が聞こえた。
 声の様子からすると、まだ子供の様だ。
「オー、にゃんこ! にゃんこサン、何処いますカ!? ここ戦場、危ないデス!」
 ダンは猫を探しておろおろきょろきょろ。
 声は、敵陣の真ん中辺りから聞こえる様だ。
 その周囲に掘られた落とし穴にでも落ちたのだろうか。
 ――みゃー! みゃー! みゃー!
 いつまでも鳴き止まない、それどころかますます大きく響き渡るその声を鬱陶しく感じたのだろうか。スケルトン達が動き出した。剣を抜き払った何体かが、発生源を探しに出る。
「オー! ノー!」
 見付かってしまう。見付かった殺される。
 彼等より先に見付けて保護しなければ!
 ダンは仲間の制止を振り切って走り出した。
 その動きに気付いた残りの敵が、戦闘態勢に入る。
 しかし、彼は足を止めなかった。
「にゃんこサンの為に死ぬ、本望デス! アッパレ自己犠牲!」
 猫の声がする方を目指して走る。走る。走る。
 仲間の声?
 そんなものは聞こえない。
「いっつ、ぶしぃーどぉーーーーーっ!!」


 果たして、彼を止める事は出来るのか……!?
 そして、にゃんこの運命や如何に!?


リプレイ本文

「ダンさんは日本の事をまだ知り尽くしていませんっ!」
 黒瓜 ソラ(ja4311)は力説していた。
 先に立ってずんずん歩くサムライの前へ回り、後ろに付きながら、真のジャパニーズマインドとは何たるかを説いていた。
 この国には侍や武士道よりも、もっと素晴らしいものがあるのだ。
「それは……ニンジャですっ! ニンジャソウルをもったニンジャは実際無敵! 末法めいたこの世をカラテと術で生き抜くヒーローなのですよっ!」
 忍者じゃなくてニンジャ。これ大事。
 どうやらソラは「何か」の影響を受けているらしく、他の単語も独特のカタカナ語で発音されているのだが……しかし、その「何か」を知らないダンには普通の日本語にしか聞こえなかった様だ。残念!
(BUSIDOUですか……)
 そのやりとりを見ながら、仁良井 叶伊(ja0618)は自分なりの考察を纏めてみる。
(今から150年程前に若い武士がニューヨークに渡って人気を博した事で、色々と誤解を招く事態になったのも……あるのでしょうね)
 騎士は日本に来ていないらしいのと、日本人の性質から、日本人の騎士に対する誤解はそこまでではないと思うが。
 いずれにしろ、この誤解には長い歴史がある。多少の説得では、その修正は難しいだろう。
 そうこうしている内に、一行は現場に到着した。バリケードの向こうに、ホネホネの姿が見え隠れしている。
「説法中だったんですがね……しょーがないです。天魔殺すべし、慈悲は無い。サツバツ!」
 討伐が先だと、ソラはスナイパーライフルを構えてスケルトンに狙いを定めた。
 だがその時、助けを求める子猫の声が!
 仲間の制止も聞かずに飛び出すサムライ! その背中はソラの射線を思いっきり塞いでいた!
「……猫好きの人に悪い人はいないと思うけど……、まずはこの状況をどうにかしないとね……」
 紅 アリカ(jb1398)がその着物の襟首をむんずと掴んで引き戻そうとするが、火事場の馬鹿力なのか何なのか、ダンはそれを振り切って突っ走る!
「これだからアメリカ人は……」
 それを見て、英国紳士カーディス=キャットフィールド(ja7927)は軽く肩を竦めつつ、余裕の笑みを浮かべた。
(侍? ブシドー? ……そんなものよりも私がもっとイイモノを教えて差し上げましょう……)
 大体、自分で見つけた訳でもない武士道を派手にかざしてもかっこ悪いだけだ。
「本当に格好いいのはジャパニーズニンジャ! シノビデース! HAHAHA」
 おかしな口調が空気感染したらしい。日本と忍者が大好きな英国紳士は、高らかに笑いながらサムライの膝に背後から跳び蹴りをカマした。所謂、膝カックン。
「ぉオウっ!?」
 しかしサムライは挫けない。不屈の闘志で転倒を阻止して走り続ける。
 かくなる上は投網で捕獲。大丈夫、投げ方は時代劇で見た事がある。ここをこう持って、こう……シュート!
 勢いよく投げられた網は華麗に広が……らなかった。塊のまま飛んで行き、ダンの背中を直撃する!
「ぉオウっ!?」
 今のはちょっと効いた。
 その隙に、犬乃 さんぽ(ja1272)がニンジャの俊足で追い抜いて行く。
「ブシドーとは死ぬ事と見つけたりか、ガイダーくん天晴れ……」
 ブシドーは正に日本の神秘。サムライとニンジャ、共に日本を愛する者として、それを極めんとする志は全力で応援しよう。
 しかし、ニンジャ道(みち)とて負けてはいない!
「でもごめん、ニンジャ道はヒーローの道、誰かを生かし笑顔を守るものなんだ」
 キラリ、笑顔が光る。
「英雄燦然ニンジャ☆アイドル! 虚ろな視線もボクに釘付け☆」
 闇を切り裂くスポットライトが、歌って踊れるアイドルニンジャの姿をくっきりと照らし出す!
 敵の視線はさんぽに釘付けだ!
 おまけにダンまで釘付けにした!
「これが、ニンジャ……!」
 青い目から、巨大なウロコが剥がれ落ちる。
 その背後から、そっと近付く影ひとつ。ハリセンを握り締めた、賤間月 祥雲(ja9403)だ。
(あの人……いじられ……キャラに……するか……。それは……それで……いいかも……)
 ふふふと笑いながらハリセンを振りかざし……
 ――スッパーーーン!!
 後頭部にスマッシュ込みの全力ツッコミが炸裂した!
「気絶……した?」
 祥雲はその枕元にしゃがんで、顔を覗き込む。指先で頬をツンツンしてみる。動かない。
「うん……したね……」
 ふふふ。
 じゃ、これは縛ってそこら辺に転がしておこうか。
「後で……きちんと……話し合い……しましょうね……」
 この場合、話し合いと書いて洗脳と読むんだけど。
 猫の素晴らしさを頭に叩き込んであげよう。


 さて、これで邪魔者は片付いた。
「あー迷惑な阿修羅っ! 絶対葉隠読んだ事ないわね」
 ぶつぶつと文句を言いながら、礼野 真夢紀(jb1438)が飛び出す。
「でも、にゃんこ保護の為にまずは敵殲滅!」
 その苛立ちをぶつけるかの如く、スケルトンの集団に向けて炎陣球をぶちかました。続けて炸裂符を投げ付けると、骨の体が弾けてバラバラになる。
「まあ……良くその程度で生き残っていた物で……」
 呆れ気味に呟くと、叶伊は飛んで来る矢を白銀の杖で叩き落としながら、接近戦を挑める間合いまで距離を詰める。
 敵を射程に捉えると、叶伊は神速で踏み込むと同時に巨大な戦斧に持ち替えて……バックスイングから、強振!
 ――カキーン!
 良い音がして、打球はライナーでバックスクリーンへ一直線。
 名付けてスケルトンでフルスイング。
 そしてホームランの勢いそのままに、叶伊は体を軸にして回転を始めた。
 人間独楽か、はたまた鋼鉄の竜巻か。スラッガー叶伊はカランカランと音を立て、スケルトンを粉砕しながら竜巻の中に巻き込んで行く。
 見える筈もないのに塹壕や落とし穴を巧みに避けながら進むその技は、まさに達人!
 残る集団に、祥雲がいそいそと近付いて行く。打刀を思い切り振り切ると、乾いた音がして骨が散らばった。
「ばらばらりん……ばらばらりん……これ……楽しい……」
 からーん、ころーん、ばらばらりーん。
「いい音だ……」
 うっとりしつつ、ばらばらりん。片っ端から、ばらばらりん。
 散らばった骨をザクザク踏みながら、次の目標に向かって……ばらばらりん。
 別の場所では、纏まっていた所をアリカの大剣グランヴェールで豪快に薙ぎ倒され、バリケードごと纏めて吹っ飛ばされている。
 飛んで来る矢は剣の腹で弾き返し、そのまま横にスイング。
 念の為に魔法攻撃の準備もして来たが、どうやら大剣一本で事が足りる様だ。
 事前に聞いた「無効な攻撃」以外なら何でも効くし、特に弱点を衝く必要があるほど強くもない。と言うか、弱い。
 そう、効果が無いのは銃撃や刺突のみ……
 と、思ったのだが。
(隙間だらけで銃は無効?)
 狙撃銃を構えたソラが、ふふりと笑う。
(何時から錯覚していた……? 細い骨を狙うと)
 ソラは知っていた。スケルトンの弱点……それは、骨盤であると!
「胴体と下半身を分離させてやります! 屍が動くな、地に還れ!」
 カッシャアァァン!
 良い音を立てて、骨盤が砕け散る。何が起きたのかわからないまま、スケルトンの体は上下に分断された。
 ……その発想はなかった……!
 恐らく、撃たれた方もそう思っている事だろう。その場に立ち尽くす下半身を残し、上半身が必死の思いで這いずりながら逃げて行く。
「タツジン! 次!」
 逃げる半身は追わず、ソラの銃口は次の獲物へと向けられた。
 しかし、逃げたスケルトンがほっとしたのも束の間。その体は、まだ回っていた叶伊のトルネード打法に巻き込まれ、砕け散る!
 撃退士達の容赦無い攻撃に晒され、残り僅かとなったスケルトン達は、全身の骨をカクカク震わせながら逃げ出した。
 しかし、彼等の逃げる先からは子猫の鳴き声が聞こえている。それに気付いた一体のスケルトンが、ふと足を止めた。やられた腹いせに、自分より弱い者をいたぶるつもりなのだろうか――
 しかし、そんな事はさせない!
「だめぇぇ……幻光雷鳴レッド☆ライトニング! ホネホネだってパラライズ★」
 さんぽの指先から迸った真紅の雷光がスケルトンを直撃した。赤い光の中で、ホネホネのシルエットがギャグマンガの様に激しく明滅を繰り返す。そのショックで、スケルトンは痺れて動けなくなった。
 その隙に近付いた祥雲が、ばらばらりんと吹っ飛ばす。
 残りの敵も、竜巻に巻き込まれ、大剣で吹っ飛ばされ、骨盤を粉砕され、吸魂符で生命力を吸われて、その体を大地にバラ撒いていった。
「……子猫は無事でしょうか……」
 アリカが落とし穴を覗き込むと、底の方から「ミャア!」と元気な泣き声がした。
 撃退士達は寄ってたかって子猫を救出し、その無事を喜び合う。
「ほーら……お食べ……」
 祥雲が猫缶を差し出すと、白黒ブチの子猫は顔全体を缶の中に突っ込む勢いで猛然と食べ始めた。
 余程腹が減っていたのだろう。アリカにそっと背中を撫でられても気付かないほど、子猫は食事に夢中になっていた。


 その少し前。
 祥雲のハリセンスマッシュに倒れたサムライは、ロープで縛り上げられ、転がされていた。
「さて……どうもただの説得では効果が薄い様ですからね」
 手足の自由を奪われ、横たわる少年の耳元にそっと唇を近付ける英国紳士。
 のしかかる様にして体の脇に肘を付くと、三つ編みにした長い黒髪が少年の胸元にはらりと落ちた。
(……っ!)
 そんなドキドキの光景に、傍らでスケルトンに炎陣球をぶち込んでいた真夢紀の胸は高鳴る。
 これはもしかして、薄い本が出る展開!?
 ……と、思ったら。聞こえて来たのは、こんな色気も何もない台詞だった。
「闇夜の中を音もなく忍び寄り命を刈り取る無情さ! 陰ながら諜報活動! 渋いデース!」
 カーディスは意識のない相手に向かって語り続ける。
「侍が表で戦っている時、忍者は裏で戦うのデース!」
 シノビはCOOL、サムライはNOUKIN。忍者がいかに素晴らしいものか熱く語る英国紳士。
「それにレベルの高い忍者は素っ裸で首を刈り取りマース! OHチョーカッコイイ! HAHAHA」
 どこの電脳世界のお話ですか、それは。
 しかし、純真なサムライは信じた。彼の夢の中に、気を失う直前に見たニンジャの姿が甦る……

 そのニンジャは降り注ぐ矢を巧みに避けながら走り、無数の棒手裏剣をスケルトン達に投げ付けた。
 そしてトドメは……
「ニンジャ力ならもっと沢山飛ばせるもん……鋼鉄流星ヨーヨー☆シャワー!」
 投げ付けられたデュエルヨーヨーがスケルトン達の骨に絡み付き、切断し、粉砕する!
「これがボクのヨーヨー忍法だよっ!」
 キラーン!

 夢はそこで途切れた。
 サムライの瞼がゆっくりと開かれ……その顔を覗き込むカーディスと目が合う。
 暫し見つめ合う中で、何か通じるものがあっったのだろうか。
 やがて、ダンはぽつりと言った。
「アナタも……ニンジャデスカ?」
 厳かに頷く英国紳士。
「……ニンジャ……素晴らしいデス……!」
 見よ、これぞ睡眠学習の効果!


 やがて、戦いを終えた仲間達が戻って来た。
「おぉ、アナタは……!」
 さんぽの顔を見て、ダンは瞳を輝かせる。
「クノイチ!」
 え? それって、女性の忍者の事じゃ……?
「ぼっ、ボク男だから……」
 真っ赤になったさんぽの言葉に、ダンの目からは再び何かが剥がれ落ちた。
 ニンジャ、奥が深い。
 しかし彼は武士だ。武士たる者、そうそう節を曲げる訳にはいかないのも事実。
 武士道とニンジャ道の間で男心は揺れる。
 そんなダンに、さんぽが笑顔で告げた。
「ブシドーこれからも貫いてね、ボク応援してるから」
「……良いのデスか!? アナタ、ニンジャデスのに!」
 何と心の広い人だ。腕が立つ上に、人間も出来ている。これぞニンジャのカガミ!
 感動に打ち震えるサムライ。
 だが、そこにキツい一言が突き刺さった。
「あんた本当に「葉隠」読んだ事あるんですか?」
 真夢紀が腰に手を当てて仁王立ちしている。相当お怒りのご様子だ。
「武士道とは死ぬ事と見つけたりの後にはねー、目的を達せずに死んだならそれは犬死にだって文があるの! 大事な目的の時には死ぬ事を恐れず行動しろっていうのが本来の意味! 危険依頼に出る人達の心意気よ! 連携すれば仲間を危険に曝す事もない所で特攻やれなんて書いてないのよ、アンタのやってる事は武士道の真逆!! 腹切りなんてね、天魔殲滅という大事の前にやる人いる訳ないでしょ!」
 一気にまくし立てて、ふっと息を吐く。
「第一葉隠って、戦乱の世終わった時期の人が書いた本よ、説教臭いし……」
 それに。
「道なんて各々自分で見つけ出すものじゃない?」
 それだけ言って、ぷいと背を向ける。
 代わってアリカが口を開いた。
「……貴方は、武士道云々を語る前にまず仲間と協調する事を覚えた方がいいわ。昔の武士でも、味方に迷惑をかけてまで死に急ぐ事はなかったでしょうし……」
 あくまで静かに、理性的に。
「……私はね、本当の武士道とは信頼する仲間のために命をかける事だと思うの。貴方にとってその猫が大切であるように、私にとっても貴方や他のみんなが大切だもの……」
 祥雲の手に抱かれていた子猫が、ダンの膝に降ろされる。空腹が満たされた子猫は、安心した様子で毛繕いを始めた。
「『和を以て貴しとなす』って言葉があります」
 襟を正したソラが言った。
「自分の正義を、信念を貫くのはとても素晴らしい事です。でも、独りよがりではダメなんです。相手を敬い、話を聞き、意見を取り入れ、そして自分の伝えたい事も伝える。そうやって調和を保つことのほうが、よほど素敵な事だと思いませんか」
 最初のノリとは打って変わった真面目な様子に、ダンも思わず素直に頷いてしまった。
「にゃんこサン、助かって良かったデス。ありがとうゴザマシタ」
 自分が特攻しても、この猫は助けられなかった。助けたのは仲間達だ。
 命と引き替えに、他の命が無条件に救われる訳ではない。
 助ける為には他の誰かの手が必要なのだ。
 彼の中で、ほんの少し……何かが変わった。
「……あの文章の後には、今におけるビジネスマナーや礼法について書かれているわ。ちゃんと読んでみた方がいいかもね……」
「現代語訳、出てるわよ」
 アリカの言葉を受けて、真夢紀がまだ怒っている様な口調で言った。
 中には彼に読ませるのはどうかと思う様な部分もあるが、まあ、それはそれで。
「ところで、この子はどうしましょうか」
 子猫を入れたケージを大切そうに抱えたカーディスが言った。
 首輪はないが人慣れしている様だし、迷子かもしれない。
 ならば、探して届けてやるのも仕事のうちだろう。


 その後、子猫の飼い主は無事に見付かった。
 そしてサムライはニンジャの心を得て、新たな道を歩み始めたらしい。
 サムニンドーという、前人未踏の険しい道を……!


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

撃退士・
仁良井 叶伊(ja0618)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
インガオホー!・
黒瓜 ソラ(ja4311)

大学部2年32組 女 インフィルトレイター
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
笹かま教教祖・
賤間月 祥雲(ja9403)

大学部4年52組 男 ルインズブレイド
佐渡乃明日羽のお友達・
紅 アリカ(jb1398)

大学部7年160組 女 ルインズブレイド
芽衣のお友達・
礼野 真夢紀(jb1438)

高等部3年1組 女 陰陽師