「久遠ヶ原にこんな祭りがあったんですね。褌の神様でも祀っているのでしょうか?」
ここは男子更衣室。
漢の戦闘服、つまり褌に着替えながら、楯清十郎(
ja2990)が呟く。
「Oh! ジャパニーズソウルの褌祭りエクセレントデース☆ 拙者が参加せぬ訳にはいかぬデース☆」
何故にそうなるのか、その理屈はよくわからないが、マイケル=アンジェルズ(
jb2200)はとにかく乗り気だった。
「エッチュー褌…褌のエチュードデスネ〜」
見よう見まねで褌を装着、無論その下に水着など邪道な事はしない。
「褌を巡る争奪戦はいわばブレイカーズのエチュードなのデスネ〜、理解したデース☆」
その理解は誤解だと、誰も突っ込まないのは優しさなのか何なのか。
「ぶつける祭に剥ぐ祭と色々あるのだな」
祭と聞いてとりあえず参加を決めたランベルセ(
jb3553)は、褌を片手に裸で突っ立っていた。
男同士、何が見えても構わない筈なのだが…何故か誰もが目を背けているのは、その痛そうなボディピアスの故だろうか。
「ところでこれはどうするんだ…?」
「褌は下着の一種じゃよ」
その様子を見て、千 庵(
jb3993)が声をかけた。
「ほれ、裸で居るでない」
褌を手に取り、ランベルセの腰にしっかりと装着しながら、庵は語り始める。
「この越中褌は別名をサムライバンツと言ってな、医療用下着も越中褌の一種なのじゃ。そもそもの起源は(中略)本格的な普及は明治時代、全盛期は大正時代になるのう。この虚飾性を廃し一枚の布で構成するシンプルさは、日本人の潔さを示すものとは思わんか」
迸る庵の褌愛。
「褌は日本人そのもの、つまり褌は日本男児そのものよ!」
時間が許せば三日三晩でも余裕で語れるが、今はここまで。
開始の合図と共に、戦士達は一斉に波打ち際へと走った。
しかし、その中に一人ふらふらと足取りも覚束ない様子で歩く者がいる。
その名はラグナ・グラウシード(
ja3538)、先の戦いで重体となった身に鞭打っての参戦だった。
「あの忌まわしい日を『ふんどしの日』に変えるためにも、負けられない!」
世間一般にはバレンタインデーと認知されている2月14日。
あの日は、実は「ふんどしの日」だったのだ。
それをアピールする為に、彼はこの戦いに挑む。
「私は退かない! 例えこの身は砕けようとも、褌の為に勝つ所存!」
しかし彼の足取りは重い。戦場はまだ遙か遠く…そして足元の砂には地雷が埋まっていた。
「かかったで御座る!」
がばあ!
砂の中から飛び出したのは、静馬 源一(
jb2368)忍者で御座る!
「食らってくたばるで御座るよ! 必殺・源一褌落としぃ!」
下から伸ばされた手がラグナの褌を引っかけ、引っ張り上げる!
咄嗟の防御も間に合わず、食い込む褌。こうなったら飛んで逃げるしかない!
「うおおおお(;´Д`)!」
ラグナは小天使の翼で空に舞い上がる。
しかし源一は離さなかった。
「目指せ聖褌帝で御座るうぅ!」
そして遂に――ぶちっ!
褌の紐が切れた。
戦利品を手に、勝利のサムズアップと共に落下する源一は再び砂に消える。
そしてラグナは…褌の紐と共に、何かが切れちゃったらしい。
「美しい私を見ろおおおッ!」
宙に浮かんだまま、シャイニング非モテオーラ、発動!
褌という鞘から解き放たれて自由奔放に跳ね回る伝家の宝刀が、黄金色のオーラを放つ!
しかし、それも束の間。
恍惚の表情で陶酔する彼は、黒服の天使達によって何処ともなく連れ去られてしまった。
後に語られた所によると、それは大層な美品だったそうである。
しかも未使用であるとか。
その希少価値はきっと、計り知れない。
「褌は日本の文化と聞きます。お祭りを精一杯楽しみましょう♪」
文化の解釈を微妙に間違えている気がしないでもないアーレイ・バーグ(
ja0276)は、素肌に褌を装着。上半身は…え、のーぶら?
「残念、これは肌色のビキニなのですよ♪」
雁久良 霧依(
jb0827)に至っては、肌色に塗ったスクールアミュレットを胸に貼り付けただけという代物だ。
よく見れば、半ば透けて見える褌の下にも護符が張られている様だ。
いずれにしても、紳士を自負する男子にしてみれば狙いにくい事この上もない。
そして別の意味で狙いにくいのが、このお方。
「褌の奪い合い…。祭りを思い出すね」
齢80の鯔背な婆さん、阿東 照子(
jb1121)の胸に巻かれた真っ白なサラシが目に染みる。
その下半身にたなびく褌を奪うには、心理的に非常に高いハードルを飛び越える必要がありそうだった。
「さあ、褌を取られたい子はいるかい?」
褌を求めて与しやすそうな相手を探し、彷徨うその姿はまさに鬼婆。
取るのも取られるのも、全力で遠慮したい。
だが、そのハードルを飛び越えてまで禁断の領域に踏み込もうとする猛者がいた。
「ウシシシ! みんな裸になればいいんだぞ! 俺、頑張ってみんなの布切れ奪うんだぞ!」
相手が誰でも気にしない、その名は彪姫 千代(
jb0742)!
「おや、威勢の良い坊やだねぇ」
孫の様な千代に、照子は思わず相好を崩す。
しかしこれは真剣勝負、心を鬼にして…いや、心ばかりではなく外見までも鬼と化して、照子は千代に飛び掛かった!
「その褌よこしなー!!」
両手を伸ばして獲物に飛び掛かる、その姿は鬼婆以外の何者でもない!
しかし千代はタックルを素早くかわし、照子の背後に回った。
間髪を入れず振り返る照子、しかしその視界に千代の姿はない。
「坊や、どこに隠れたんだい? 出ておいで…」
こっそりと気配を消した千代は、隙を衝いて飛び掛かった。
「おー、褌取ったんだぞー!」
「うっかりして取られちまったよ、いやん」
ぶくぶくぶく。
何故かセクシーポーズで海に沈む照子。
誰も嬉しくないどころか、ダメージを受けそ…げふん。
しかし照子は諦めない。
「わしはまだ負けてないよー!!」
海中から鮫の如く敗者復活を狙う。
一方、勝者の千代は…何と、折角奪った褌を惜しげもなく捨ててしまった!
それは波間を漂い――
(…バカやったもん勝ちだね…これは…、…む?)
シュノーケル装備で海中に潜んでいた、ジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)の目の前に流れて来た。
さあ、どうする。
これに手を伸ばせば、折角の潜航が暴かれてしまうかもしれない。
(我慢、我慢だ…目先の一枚より最後の五枚、十枚!)
そう、今は耐えるのだ。最後に笑う為に。
「これは…幸運でしたね」
それを拾い上げたのは、イリン・フーダット(
jb2959)だった。
彼は褌の神に愛されているに違いない。
用意した目隠し用のタオルを隠そうと岩場にやってきた、その目の前に褌が流れて来たのだから。
それを有難く頂戴し、イリンは物質透過でタオルを岩の中に隠す。
「多分、スキル使う人は使うんでしょうね」
多分どころか、既にあちこちで使いまくっている。
イリンは光の翼で空に舞い上がり、地上の喧噪から離れた。
今、空を気にする者は殆どいない。暫くはこのまま誰にも気付かれず、褌を死守する事が出来るだろう。
「今回は観察…ともいかないか。乱痴気騒ぎ、というやつだな」
その騒ぎを暫し傍観していたランベルセは、その中に見知った顔を見付けた。
「彪姫もいたか。久しぶりだが相変わらずだな」
主に布面積が。
「おー! ランベだぞー!」
声をかけられた千代は嬉しさの余り抱き付いて…ついでに褌を狙う!
「服着なくていい祭りだって聞いたんだぞー! ランベもその変な布取るんだぞー!」
「おい待て、変な布ではない。これを取られてはいけないルールだ」
「一緒にみんなを裸にするんだぞー!」
しかし、庵の手できっちりと締められたランベルセの褌は、そう簡単には外れなかった。
「だから、やめろと言うのに」
その手を押さえ、逆襲に転じるランベルセ。
意外にあっさりと褌を奪われた千代は、途端に水を得た魚の如く破竹の勢いで動き始めた。
「布が無いから動きやすいんだぞ!」
案外、これを狙っていたのではないだろうか。
影鯱を遠慮無く使いながら、千代は手当たり次第に褌を奪っては捨てて行く。
その姿を呆然と見送ったランベルセに近付く者がいた。
「褌のいろはも知らぬ者が聖褌帝の称号を欲するなど…!」
それは藍染の褌を競技用の締め方できっちりと装着した矢野 古代(
jb1679)の姿。
「いや、俺は」
そんなつもりはないと反論しかけたランベルセの褌に、問答無用で手が伸びる。
先程の揉み合いで緩んだ褌は、あっさりと古代の手に渡ってしまった。
「これを付けたのは、あの男か」
きちんと締め直されていれば、奪うのは難しかっただろう。
彼とは是非とも戦ってみたいものだが…
(つまらないミスで自滅するなよ?)
伸びて来た千代の腕を叩き落とし、その顎に容赦のない膝蹴りを見舞うと、古代は戦利品を腹に巻き付けた。
その背後から、清十郎がそろそろと近付いて行く。
参加する以上は優勝を狙う。その為に障害になりそうな強敵は、まず最初に潰しておくべし…彼はそう考えていた。
しかし、気配を察した古代は素早くその場を離れ、代わりに――
ふにゅっ♪
「はうっ!?」
背後から強襲を受けた!
しかも、ふにふにのむにゅむにゅだ!
「こ、これは…っ」
おっぱい!? しかもきょぬー!?
清十郎の背中に取り付いてはぎゅしたアーレイは、そっと手を伸ばし…ふにゅっ☆
余りの展開に、清十郎は身動きが取れない!
スキルを使う余裕もない!
そのまま褌を奪われ…潔く負けを認めた。
今はアーレイの胸に巻かれた、自身の白い褌の様に一点の曇りもない笑顔で相手を賞賛し、リタイア。
彼の青春は終わった。
いや、寧ろここから始まるのかもしれないけれど。
「水着での祭が行われると伺いましてよ!」
一番乗りで颯爽とエントリーを完了した桜井・L・瑞穂(
ja0027)はしかし、次の瞬間…凍り付いた。
褌祭?
何それ?
「わたくし聞いてませんわよ!?」
まさかの事態にびっくり仰天、唖然呆然そして愕然。
しかし、瑞穂の辞書にキャンセルの文字はなかった。
「参加するからには優勝を目指しますわ!」
目立つ為なら褌上等、ただし着用は水着の上から!
意外と女子が多かったのは想定外だが、負ける気はしない。
勝って目立てば良いだけの事!
「楓。手加減しませんわよ!」
初戦相手の焔・楓(
ja7214)に向けて、瑞穂は余裕の笑みを見せる。
だが、楓も負けてはいない。
小麦色の肌にくっきりと浮かぶスク水の日焼け跡はポイント高いぞ!
って、そっちの勝負じゃないですね、はい。
「何か面白そうだし頑張るのだ♪ ふふー、全力全開で行くよ〜♪」
胸にサラシを巻いた楓は、小さな身体を更に屈めて突進した。
「そんな直線的な攻撃が、このわたくしに通用すると思いまして?」
白と水色のビキニの上に装着した同色の褌をなびかせ、瑞穂はひらりと身をかわす。
華麗にリズミカルに。楓の動きは完全に読まれていた。
しかし、それこそが楓の狙いだったのだ。
「いつまでも直線的な攻撃だと思わない方がいいのだぞ♪ えい、猫騙し♪」
パン!
目の前で打ち鳴らされた手に、瑞穂は思わず目を閉じてしまった。
その瞬間――
「とったー!」
むんずと掴んで、思い切り引っ張る。
何か余計な物までがっつりと掴んでいる感触が手に伝わって来るが、気にしたら負けだ。
楓は勝利を確信した。
しかし、その背後から迫る野獣の影!
「幼女の褌、いただきます♪」
ようじょすきー、霧依は楓の尻に手を伸ばし…さわり。
「ひゃっ!?」
「あん、可愛い♪」
と、撫でてる場合じゃなかった。
霧依は慣れた手つきで素早く紐をほどくと、するり――楓の褌を奪い取る。
「――あっ!」
しかし楓は水中に身を沈めながらも、その手に握った瑞穂の褌その他を離さなかった。
渾身の力を込めて――ぶちっ!
「…ぁ」
「如何しました――」
「えっと、ごめんね?」
ぴらり。楓の手の中で褌と共に揺れる、水色の布きれ。
それは瑞穂の下半身を守る、最後の砦だった。
「――の…って、み、み、見ないで下さいなぁー!?」
ばしゃーん!
水飛沫を上げて、瑞穂は水中に危険部位を沈める。
「わ、わたくしとしたことが…屈辱ですわぁ」
しかし瑞穂の戦いはまだ終わっていなかった。
「わたくしは…諦めませんわぁ!」
リベンジを誓い、水中から虎視眈々と次の獲物を探す。
「あたしだって、まだ終わってないよ♪」
奪った水色褌を装備して、楓は再び立ち上がった。
「あたしの褌、返して貰うのだ♪」
「いらっしゃい、望む所よ♪」
霧依は楓から奪った褌を重ねて装備しながら、一見のーぶらにも見える豊かな胸をたぷんと震わせて微笑む。
幼女の褌を二度も奪えるとは、何と美味しい祭なんだろう。
「さっきは油断しただけなのだよ♪」
姿勢を低くして、楓が飛び掛かる。
だが褌の神様はこの時、霧依に味方する事に決めた様だ――
「こんな祭、一体誰が考えたんだ…」
ともあれ、褌愛用者の一人としては全力で挑まなければ嘘だろうと、緋伝 璃狗(
ja0014)は戦場に立つ。
対戦相手は、何故か遠い目をして微笑みながら水平線の彼方を見つめている月島 祐希(
ja0829)だった。
「…俺は知り合いの応援に来ただけなのに、なぜ参加者と間違えられているんでしょうね?」
しかし、こうなったからには折角の機会と割り切るしかない。
ここは男らしく、売られた喧嘩…じゃない、勝負は受けて立とうじゃないか。
(海だから、ってことで念のために水着持ってきといて良かったぜ…)
水着の上から褌を締めた祐希は、いきなり異界の呼び手を使った。
「全力で勝ちにいってやる!」
「勝利の為には手段選ばずか…悪くない」
璃狗は余裕の笑みと共に、影縛の術でカウンターを狙う。
しかし、その時には既に璃狗の足は地面に縫い付けられた様に動かなくなっていた。
「よし、効いた!」
祐希はそのまま一気に璃狗の白い越中褌を奪い取る。
「やった、璃狗に勝てたーっ!」
勝てるとは思わなかった。
マグレでも何でも良い、とにかく勝ったのだ。
珍しく無邪気に喜ぶ祐希だったが、背後にただならぬ気配を感じて振り返る。
そこに立っていたのは、神々しいまでに笑顔が眩しいイケメン天使、エルディン(
jb2504)だった。
ただし褌一丁。
「神は私にこう告げました。聖の称号は私が一番相応しいと!」
だって聖職者ですから。褌一丁だけど。
勝者を狙えば一気に倍の戦利品が手に入ると、聖職者にあるまじき発想で戦いに臨んだ神父様は、満面の笑顔で追い剥ぎの如く獲物に迫る。
(って、何だこの殺気…俺この人に何かしたっけ!?)
祐希は思わず一歩、後ろに下がった。
ニコニコと微笑んでいるのに、すっげぇ怖いんだけど。
しかし負ける訳にはいかない。
「くっ…璃狗を踏み台にして生き残ってんだ、何が何でも勝ってみせる!」
祐希は再び異界の呼び手で相手の動きを封じにかかった。
その気合いが通じたのか、褌の神様は祐希に味方した!
ぶくぶくと海中に沈む神父様。
一方、勝者は…まさかの連続勝利に暫し呆然。
いや、勝ちは狙っていたけれど。
「こうなったら頂点を狙ってみるか?」
なんて野望を抱いてみたりして。
しかし、幸運はそう何度も続かなかった。
「さあ、修行の一環で張り切って行こうね」
清々しい笑顔と磨き上げられた光り輝く頭部をひっさげて、杉 桜一郎(
jb0811)が颯爽と立ち塞がる。
褌状態で行う毎朝の乾布摩擦は気持ち良い。
その状態で頑張り抜く為に、この戦いは負ける訳にはいかないのだ。
桜一郎はテカテカの頭を低く下げて身構える。
そして…
どーん! タックルで押し倒した!
「え、ちょっ」
波打ち際で男子にのしかかられ、下半身に手を掛けられている祐希。このシチュは一体何だ。
するり、褌が解かれる。
その様子を海中から伺う神父様が、何かのインスピレーションを得た…かどうかは定かではない、が。
「…別に褌に愛着とかねぇしな、素直に帰ろう、うん」
別に負け惜しみとかじゃ、ないんだからなっ!
「聖なる祭と聞き馳せ参じたであるが…」
赤い褌を風になびかせた白い人型猫ラカン・シュトラウス(
jb2603)が、波打ち際で仁王立ちしていた。
(何やら違う気が…?)
しかし、細かい事は気にしない!
それよりも今、気になるのは…
「もっふもっふ。さあ、頑張りますよ…!」
兎だ。猫たるもの、兎を見れば飛び掛からずにはいられまい!
と、背後に迫る危険を察知したのか、その兎…兎吊 卯月(
jb1131)は、もふもふの尻を振りながら海に飛び込んだ。
続けて猫も海に潜る。どちらも防水仕様、巧みに泳いで少し沖に出る。
「確かこのような映画を見たのである」
水中から音もなく忍び寄る白い猫。どこからか重低音のBGMが聞こえて来そうだ。
「我が力とくと思い知るが良いわ!!」
しかし、その行動は兎に読まれていた!
「甘いですよ…!」
兎は猫の首根っこをむんずと掴むと、力任せに水中から引き上げ…ぶん投げた!
ついでに褌に手を掛け、引っぱがす、が!
「残念それは我のしっぽである!」
千切れちゃったけど、着ぐるみだから痛くない!
立ち上がった猫は、兎とがっぷり四つに組む。
互いのまわし…いや、褌に手を掛け、水しぶきを上げながら揉み合う白もふ達。
猫は兎の褌を掴んだまま、その背後に回り込む。しかし。
「私の背後に立つと…怪我をなされますよ」
必殺、もっふるヒップアタック!
ついでに後ろ足での強烈な蹴りを見舞った!
「むむ! 貴様やるな!!」
猫がふらりと立ち上がった時、その股間に赤フンはなかった。
でも大丈夫、着ぐるみだから!
「だが負けん! 負けはせぬぞぉぉぉお! 我の屍を越えてゆくが良い!」
仁王立ちで叫ぶ猫の声を背中に受け、赤フンを耳に巻き付けた兎は次なる標的を探して海に潜った。
「漢には、戦わなければならぬ時があるの!」
カッと目を見開き、ガンを飛ばしているのは橘 樹(
jb3833)。
彼は中央に大きなきのこが描かれた小豆色の褌を締めていた。
って…そのきのこ、まさか松茸ではあるまいな? 違う? うむ、なら良し。
その目の前に、ずぶ濡れの白い物体が立ち上がる!
しかし、その攻撃を素早くかわした樹は、兎の耳をむんずと掴んだ。
そう、そこに結ばれた赤フンが格好の目印となって、その居場所を敵に教えていたのだ!
樹は容赦なく赤フンをむしり取り、兎の褌にも手を掛け…
「覚悟だの!」
ずばっと引き剥がした。
「むむ…いたいけな兎から衣を剥ぐなど…!」
しかし兎は諦めない。
再び海に潜り、次の機会を待つ!
奪った褌を漢らしく頭に巻いた樹は、次の獲物を探した。
「何やら視線が痛いの…」
目が合ったのは…彼と同じく角を持つ悪魔、リンド=エル・ベルンフォーヘン(
jb4728)だった。
「人間のありのままの姿を晒した肉体のぶつかり合いか。なるほど…各々から尋常ならざる覇気を感じるぞ」
特にあの、きのこ褌の男から。
アレの数が即ち己の強さの証明ならば、二本も頭に巻いている彼はさぞかし強敵なのだろう。
相手にとって不足はない。
「ならば、俺も最大の礼儀を以って臨むとしよう」
角を持つ者同士、ここで出会ったのも何かの縁と、リンドはその身を屈めて戦闘態勢に入る。
(我が一族の雄は自らの角をぶつけ合い力を競う。よって、俺も角であの下穿きを奪いとる)
樹も同様に構え、ここに角と角との激しいぶつかり合いが…始まらなかった。
背後に回り込み、褌を掴み取ろうと手を伸ばす樹と、それをかわして角できのこを引っかけようとするリンド。
互いに一歩も譲らず、勝負は持久戦になるかと思われたが――
そこで、事故が起きた。
樹の目の前に、すっぽんぽん(に見える)霧依の姿が!
「すまぬ、見るつもりは…!」
予想外の事態に、樹は大慌てで目を逸らし、その場を離れようとして…足がもつれた。
ばっしゃーん!
すっころんだ拍子に、絶妙なタイミングで飛び掛かって来たリンドの角が、樹の大事なきのこを引き裂いた!
「わしの股にあるきのこが大変なことにー!」
しかし、樹もまた角による自覚なしのカウンター攻撃で、リンドの褌を引っかけていた!
「…ほむ。これはらっきーすけべという事かのう?」
いや、らきすけ違うから。
ラッキーには違いないけれど。
「むう、流石は角のある者…!」
しかしリンドは諦めない。戦士たる者、失格となっても戦い続けられる限りは獲物を狙い続けるのだ!
まあ、実を言えば水は苦手だし、早々にケリを付けたい所なんだけど。
そして思わぬ形で勝利を拾った樹は…
「褌は漢の命…ッアー!」
早くも幸運の女神に見放された様だ。
非常に誤解を招く断末魔の悲鳴を上げた所に、霧依のトドメの一撃が突き刺さる。
「…ぷっ♪」
何、今の何!? ナニ見て笑ったんですか!?
哀れ波間に沈む樹は、そのままリタイアと相成りました。ちーん。
勝利者となった霧依は、次の標的にその魔手を伸ばす。
その時、背後から敗者復活を狙う猛牛…いや、リンドが突進して来た!
だが、そこに立ち塞がる金髪碧眼の騎士!
「黒髪美少女が破廉恥な危険に陥ってるデース☆ 拙者が騎士として盾になるデース☆」
マイケルは、タウントで鍛え抜かれたマッスルボディを魅せつける。
だが、興奮した猛牛には効果がなかった!
リンドはマイケルを避けて霧依の背後に回り込み、その捻れて食い込んだ褌に角を引っかけ…つぷん。
「…ッアー!」
なんか刺さった!
シールドかかった護符がローションでツルツルしてるから、角が滑っちゃったよ!
しかしリンドは冷静にそれを引き抜き、改めて褌の紐に引っかけ、引きちぎる。
戦利品を口に咥え、リンドは満足げな笑みを浮かべた。
(この褌とやら、持ち帰っても良いのか?)
因みに、彼にやましい気持ちは全くない。これは戦士としての技とプライドを賭けた真剣勝負なのだ。
一方、取られた霧依も諦めない。
「こういうの初めて?」
胸の護符にシールドをかけ、その身を挺して自分を守ってくれた騎士に全身ですりすり…するん。
「拙者の肉体美が目的なのデスネー☆ 仕方ないデース」
恩を仇で返された騎士はしかし、黒髪美女になら何をされても本望なのだろうか。
自称サーファーのゴッドは、波の加護を受けて下半身を隠しつつポージングを始める。
しかし、彼は気付いていなかった。
己を見つめるギャラリーの中に、黒髪美女の姿は既にない事に…
「悠久の神の声を聞いたらここにいた!」
どーん!
緋ノ鳥 世界(
jb4685)、ここに参上!
「誰彼かまわずふんどしとっちゃえばいいんだな、了解りょーかい☆」
ばばん!
気合いの赤フンをきりりと締めて、いざ参戦!
…とは言え、運動は今イチの自覚がある世界ちゃん、ここはひとつ頭で勝負と行こうか。
という事で、ヒリュウ召喚!
狙うはキャロル=C=ライラニア(
jb2601)。
「おまつりときいて参加いたしますの〜♪ がんばってあそびま〜す♪」
ほわほわと楽しそうにしている、あの子になら勝てそうな気がする。
和気藹々でその場を和ませつつ、世界はキャロルに近付いた。
「あーあっちにピカピカ光るピンク色したディアボロがー」
「え? どこですの〜?」
かかった! 世界の目がキラリと光る。
この隙に足払いをかけて転ばせ、飛び掛かり…
しかし、相手は天使だった。
足を払おうとした瞬間、キャロルはふわりと舞い上がる。
ふと下を見ると、世界が倒れていた。足払いを空振りした勢いで転んでしまったらしい。
「あら? だいじょうぶでしょうか〜?」
ふわふわと舞い降りて、覗き込むキャロル。
その瞬間――世界は起き上がり、キャロルの褌を引っ掴む!
「汚いとか言うな。英雄に敗北は許されぬのだよ」
その黒い笑顔に、キャロルは濡れて重くなった褌の前垂れをぺちぺちと叩き付けた。
「そんなもの、痛くも痒くもないのだ!」
キャロル、絶体絶命!
しかしそこに救世主が!?
「すまんのぅ、女に容赦もかけん性格でのぉ」
ほっほっほ、と笑いながら、庵は世界の褌を容赦なく引っぺがした。
褌愛のなせる技か、彼には褌の付け方が緩い者は一目で見破れるのだ。
「グフゥ…貴様の名は来世まで憶えて忘れぬからな…復讐の時を紡ぐまで…!」
「ほっほっほ、楽しみにさせて貰うかのう」
そして庵の目は見抜いた。
キャロルの褌もまた、ゆるゆるである事を!
「あら〜、キャロもリタイアですの〜♪」
さほど悔しがる様子もなく、キャロルは褌の所有権を放棄した。
「がんばってくださいまし〜♪」
素直に応援と観戦に回り、庵の背に向けて手を振るキャロル。
その声援を受けて、庵は敵のゆるフンを次々に奪い取る。
戦場はカオスの度合いを増していた。
既に己の褌を失った者が大変を占め、今や彼等の意識は如何に多くの褌を手に入れるかに集中していた。
暇を持て余したランベルセによる意思疎通テロが多発する中、褌の奪い合いは続く。
「あーれいさんのおっぱい触りたいんですか? 褌はあげますけど風紀委員に通報しますよ♪」
にっこり。しかし兎に脅迫は通じなかった!
「では、遠慮なく頂きます。私の好みは美兎ですので…」
くるくる。
「あーれー…って、あーれいさんは清楚で健全担当だからなっ! 決してヨゴレとかせくしー担当じゃないぞ! ないんだからなっ!」
はいはい。
「…水中戦もこなせなければシノビは名乗れん」
リベンジを誓う璃狗は、波間に漂う海草を腰に巻いて、そっと狙いに行く。
標的は今だ真っ新な褌を着けた桜一郎。
背後から気配を消して近付いた璃狗は、海中から一気に飛び出してその褌に手を掛けた。
「ボクに触らないで下さいー!」
桜一郎は、その磨き上げたピカピカに磨き上げた頭を振りかざして抵抗するが、既に掴んだ手は離れない!
抵抗虚しく、哀れ桜一郎は海の藻屑に…いや、頬を染めつつ海中にその身を隠した。
褌を奪い取った璃狗は、それをサラシの様に体に巻き付け――ようとして、横から掻っ攫われた!
「おーっほっほっほ! わたくしの勝ちですわね!」
瑞穂が高笑いをしている。
しかし、その褌を華麗に奪い去る楓!
「隙あり、なのだ♪ これでまた戦える〜♪」
それを今度は世界が分捕る!
一方、カオスと化した地上での戦闘を諦めて空中に活路を見出す者もいた。
「貴様の褌貰い受ける!」
空飛ぶ猫、ラカンがイリンの腰に飛び付いた!
抵抗する相手の攻撃を華麗に防ぎ、その褌を手早く奪い取る。
「我の礎となるが良い…」
中に浮いたまま、背中で語りつつ褌を付け…付け方、わかりません。
「それを寄越しなぁーっ!」
海中からジャンプで飛び出したシャーク照子が、それを掻っ攫う!
もはや空中も安全な場所ではなかった。
褌を取られたイリンは岩の中に残したタオルを取り出そうとしたが…取れない。
物質透過は「どこでもロッカー」を実現するスキルではなかった様だ!
それなら最後の悪足掻きと、イリンは発煙手榴弾を投げ付けた。
もうもうと湧き上がる白い煙の中で、褌を取られて身動き出来なくなった者達がリベンジを始める。
腰にワカメを巻いた聖職者は物質透過で砂に潜り…いたいけな少年の褌を強奪した! それで良いのか聖職者!
しかし、少年はメゲない。
「自分に恥ずべき所はないで御座る! 故に隠さない! それにまだ奥の手があるので御座るよ!」
それを見ていた千代からツッコミが入った。
「おー? 生えてなかったらセーフだってばあちゃん言ってたぞ? よく分かんねーけど!」
しかし源一は腕を組み、胸を張って仁王立ち。
「限界を越えて燃え上がるで御座るよ! 自分の小宇宙(アウル)! 最終奥義ゴォォッドフラッシュ!」
なんか光った…気がする。
「うおおぉ! 逝くで御座るよぉぉ!」
その光で股間を隠し……隠せてないし隠す必要もなさそうだけど、とにかくリベンジ開始!
そして煙が晴れた時、その場に無傷で残っていたのは――
真っ当に戦いつつも、今だ一度も己の褌を奪われていない強者。
それがこの二人、古代と庵だった。
「遂にこの時が来たか」
古代は何処か嬉しそうな様子で口角を上げる。
やはり、最終決戦には褌の何たるかを理解し尽くした者同士が相応しい。
果たして褌の神はどちらに微笑むのか!?
庵は素早く背後に回り込み、目にも留まらぬ速さで腕を伸ばす。
しかし、古代はそれを手刀で弾き飛ばし、拳を当てて気絶を狙う。
「インフィが近接苦手だと誰が決めたよ」
だが、庵も本気だった、超本気だった。
レベルの上では遙かに格上の古代に食らいつき、食い下がる。
「その気合いと褌愛は認めてやろう。だが、まだまだ――」
場数が足りないと、そう言いかけた時。
するり、藍染の褌がその持ち主を見放した。
その瞬間。
海中に潜ったまま機会を伺っていたジェラルドが飛び出した!
「フハハ! 最後に勝ったものが正義! 卑怯とは言うまいね!?」
最後の最後に、最も褌獲得数の多い者を襲って美味しい所だけを持って行く!
これぞ頭脳の勝利! 完璧な計画!
しかし!
三月の海は、まだ冷たかった。冷えた手足は思う様に動かず…
「これは貰ったぞ」
古代の手が伸びて、その褌を毟り取る。
「くっ、倍返し…させてもら…」
無理。動けないし。
「いい…勝負でした…」
がくり。
祭は終わった。
庵が至高の聖褌帝の座を射止め、次点の古代は輝ける褌王となった。
そしてリベンジ組のイリンがその幸運に助けられて褌愛貴族に、惜しくも及ばなかった諸氏は褌大名に列せられた。
祭を気楽に楽しんだ者達には褌平民が相応しいだろう。
だが、世の中には下克上というものがある。
今の身分に甘んじるか、のし上がる道を選ぶか――さあ、どうする?