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マスター:STANZA
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
形態:
参加人数:10人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2017/08/12


みんなの思い出



オープニング


 かつての戦いで捕虜となった天魔が収容されている、撃退署の施設。
 その一角に、黒い翼を持つ大天使メイラスの独房がある。
 独房と言っても囚人を対象とした狭くて薄暗く、固くて小さな寝台と机が置かれただけの、目の前に剥き出しのトイレがあるようなコンクリートの箱ではない。
 室内は明るく、家具調度も揃い、風呂やトイレも別にある、一見すると一般的なワンルームと変わりないような部屋だ。
 ただし、その大部分は外から丸見えで、プライバシーを保てる場所は殆どない。
 独房と外の廊下は、特殊な強化が施された透明な仕切りで隔てられていた。

 その仕切り板に、銃を向けている少年がいた。
 少年はかつて、ただひとりの肉親だった母をメイラスに殺され、自身も彼に騙されて使徒となった経験を持つ。
 その少年、サトルは復讐のため、仕切りを貫通してメイラスを殺せる武器を開発しようと、日々腕を磨き続けていた。
 サトルは仕切り越しにメイラスに狙いを定め、引き金を引く。
 透明な板に蜘蛛の巣のようなヒビ割れが走った。
「あと一撃……」
 サトルは再び引き金を引いた。
 が、銃は手の中で爆発し、粉々に砕け散る。
「バランス調整が上手くいってないんだ」
 その様子を背後で見ていた門木章治(jz0029)が言った。
「攻撃に偏りすぎて、本体が負荷に耐えられない……素材を強化しないと一発が限度だな」
「じゃあ、これをたくさん作ったら?」
 使い捨てのつもりで量産したらどうかというサトルの問いに、門木は首を振った。
「言っただろう、使える武器はひとつだけだ」
 それも自分で工夫し、改良を加えたものに限る。
 しかも襲撃はメイラスが独房内にいる時、門木の監督のもとでのみ許可される。
 それがサトルの復讐に対して門木が付けた条件だった。
 諦めろとは言わないし、赦せとも言わない。
 自分の力でそれが果たせるなら、何をしてもいい。
 ただし、門木は板を強化しそれを全力で防ぐ。
 その中で純粋に強化の楽しさや奥の深さを知り、そちらにのめり込んで復讐のことを頭から追い出してくれれば――と考えていたのだが、今のところその気配はなさそうだった。

「しかし危なかったな……補修のついでに、もう少し強化しておかないと」
 サトルの怪我に応急手当を施し、門木は白い模様を指でなぞる。
 その背に聞き覚えのある声が響いた。
「お前もなかなかやるじゃん」
「え、高松先輩?」
「紘輝か、久しぶりだな」
 高松紘輝、鬼道忍軍。
 かつては天界側と結託し、メイラスに協力したこともある彼も、時折この独房を訪ねていた。
 だが面会時に記録されている範囲では、物騒な相談などは行われていないようだ。
 ただ、高松がさかんに天界の様子を尋ねていることが、少々気がかりではあったが――
「ここまでやる根性は大したもんだが……残念だな」
「何が残念なんですか」
 不満そうなサトルの問いに、高松は口の端を歪めた。
「俺と違って、お前はこの黒ずくめ野郎しか眼中にないんだろ?」
 サトルはまだ引き返せるところにいる。
 それが少し羨ましいと、高松は小さく笑った。
「もっと早く、どっかの誰かみたいなクソお節介なお人好しバカに会ってりゃ、俺も壊れずに済んだのかもな」
 だが、もう手遅れだ。
「門木先生、あんたには感謝してるよ。あんたが無罪放免してくれたおかげで、俺は未だに一点の曇りもない優等生だ」
 高松は一枚の書類を取り出して見せる。
 それは生徒の天界訪問を許可する証明書だった。
「この審査わりと厳しいんだぜ?」
 訪問の目的や期間、行動計画の提示はもちろん、学業成績や素行態度などいくつもの項目の審査を経てようやく発行される、超レアもの。
 本来なら、かつて学園に所属する天使を無差別に襲撃し、人界の侵略を目論む天使と結託し、教師を斬り付けて重症を負わせたこともある生徒が手にできるものではない。
 しかし彼の更生に期待をかけた門木は、その全てを不問に付した。
「でもさ、やっぱり俺は……こんな生き方しか出来ねぇんだ」
「何をするつもりだ」
「決まってるだろ、天使どもをぶっ殺しに行くのさ」
 元々は最上位に近い階級の天使に取り入って使徒にしてもらい、強大な力を得た後に裏切って、天界の全てを壊すつもりだった。
 だが、どうやらその望みは叶いそうもない。
「だからさ、適当なところで手を打つことにしたってわけ」
 天界にも戦闘とは縁のない一般人がいる。
「そいつらが相手なら、今の俺でも充分脅威になるだろ?」
「それがお前の復讐か」
「いや、正直もう復讐なんてどうでもいいんだ。家族の顔だって、もう思い出せない」
「だったら何故……」
「だから俺は壊れてるんだって」
 高松は笑った。
 心の底から溢れ出るような、嬉しそうな笑顔。
「まあ俺ひとりじゃ大したことは出来ないのはわかってる。だから、こいつと組むことにした」
 高松はヒビ割れた仕切りの向こうに佇む黒ずくめの天使に目をやった。
「ほんと、先生には感謝してるよ」
 笑顔のまま、高松は監視カメラに向けて影手裏剣を放つ。
 識別可能なはずの攻撃は、その場にいた門木達にも容赦なく襲いかかった。
 門木は咄嗟にサトルを庇おうとするが、非力な天使的一般人では何の役にも立たず、サトルも使徒としての能力は底辺に近い。
 二人は折り重なるように倒れ、動かなくなった。
 同時に警報が鳴り始めたが、高松は動じる様子もなく仕切りに向き直る。
「ここには特別な許可がないと武器を持ち込めない……さすがに補整がないとこいつを破るのは難しいからな」
 拳を振り下ろすと、脆くなっていた仕切りはあっけなく崩れ去った。

 高松は二人に分身し、その片方が門木に化ける。
 意識のない本物の門木から白衣をはぎ取り、その身体を廊下の隅に転がすと、サトルを抱き上げた。
「騒がせてすまん、連れの子供が無茶をしすぎてな」
 駆けつけた職員にそう言って、偽門木は堂々と出口へ向かう。
 職員が気付く頃には、高松の分身とメイラスは現場から消えているだろう。
 後は何人かの仲間と共に、天界への卒業旅行と洒落込むだけだ。
「なあ、先生」
 サトルを乗せた救急車を見送り、偽門木は呟く。
「あんたは信じたくないかもしれないが、久遠ヶ原にも暗部ってやつがあるんだぜ?」
 どんなに手を尽くしても治らない病。
 それを煩った同類が、この計画に賛同している。
 誰も皆、普段は良い子の優等生ばかりだ。

 戻る予定は、最初からなかった。


 ――――


「久しいな、テリオス……いや、フィリアお嬢さんと呼ぶべきか?」
 東北のとある山中。
 収容施設を抜け出したメイラスは、かつての部下であったテリオスのゲートに辿り着いていた。
「私もお前のことは色々と調べた気でいたが、まさか女だったとはな」
 しかし、そんなことはどうでもいい。
「私は天界に帰る。ゲートを借りるぞ」
「帰って……どうする気だ」
 こちらの家で料理の秘密特訓をしていたテリオスは、包丁を握ったままで対峙する。
 メイラスは答えないが、その笑みは何かを企んでいる証拠だ。
 ここで止めなければ、何か大変な事が起きる。
 しかしたとえ相手が丸腰でも、自分の力ではこの男に敵うはずがなかった。
 それを自覚しているテリオスは学園に急を知らせる。

「では、最後のゲームを始めるとしようか」
 ここで自分を止めることが出来れば大人しく独房に戻る。
 そう言って、メイラスは嗤った。



リプレイ本文

 病院の一角にある会議室。
 臨時の相談所として解放されたその部屋で、十人の撃退士が額を寄せ合っていた。

「高松にメイラス、彼らが動き出したのは今だからこそ…でしょうか」
「大枠で休戦がなったと言っても個々人の心情は別と、頭では理解していたつもりでしたが」
 ユウ(jb5639)の言葉に、カノン・エルナシア(jb2648)は迂闊だったと唇を噛む。
「全てが良い方向へ向かっていると思える時だからこそ、むしろ前よりも気を引き締めているべきでしたね」
「いいえ、嬉しい事が重なれば気が緩むのは当たり前です」
 自分を責めるカノンに、アレン・P・マルドゥーク(jb3190)が首を振った。
 手元の紙に何かを書き付けながら、いつもとは違う重い口調でアレンは続ける。
「責められるべきは、そこに付け込んだメイラスの方ですよ」
 高松が手助けしたということは、彼の計画にはメイラスが必要なのだろう。
 恐らくは武器の手配と、地理に不案内な彼らの手引き。
「メイラスは天界に自分のコピーを残していたのでしょう。コピーの人格は、コピー本人でさえ自分が本物だと思い込む出来だと言いますから――」
 ちらり、部屋の隅で見守る門木に視線を投げる。
 実際にコピーを作られた本人が言うのだから間違いはないだろう。
「本人が天界に残っていた場合と同じ行動を取るはずです」
 それがわかっているから、メイラスは脱獄後すぐに天界に戻ろうとしているのだ。
「復讐か…」
 佐藤 としお(ja2489)は伸びたラーメンを食べた時のような顔で、その言葉を口にした。
 気持ちは分からなくもない。
 しかし、その為に罪もない者を虐げるなんて権利は誰も持ってはいないはずだ。
「思い直して欲しいけど…ここまで周到に準備して実際に行動に移すくらいだから、きっと決意は固いんだろうね」
「そうですね。彼らには彼らの譲れない想いがあるのかもしれません」
 ユウが頷く。
「それでも彼らの行動を見過ごす理由にはなりません。何としても彼らを止めなくては」
「それじゃ僕は高松さん側だね」
 説得の言葉は持たないが、万が一それが不発に終わった時には抑え役が必要だろう。

「それで、事件の報告はもう上に上がってるの?」
 雨野 挫斬(ja0919)の問いに門木が頷く。
「だったら紘輝達の行動計画も手に入るわね」
 ゲートの使用許可も問題なく下りるだろうから、後は現場に向かうだけだ。
 撃退士達は半数ずつに分かれ――
「先生はここに残ってください」
「えっ」
 当然のように高松組に付いて行こうとした門木をカノンが止める。
「危険は言うまでもありませんが、今回は彼等を連れ戻してからも大事になります。その根回しは、私達よりも貴方の方が上手くできるでしょう?」
 と言うか点滴ぶら下げた人が何を言ってますか。
「いや、これすぐ終わるし、念のためだから」
「でしたら根回しに動くことは問題なさそうですね。それを無駄にしないのが私達の仕事です」
 それでも渋る門木に、アレンがびっしりと文字の書かれた紙を押し付ける。
「お願いします」
 切羽詰まった様子でそう言うと、アレンは真っ先に部屋を飛び出して行った。
 残る四人もそれに続き――ふと足を止めた七ツ狩 ヨル(jb2630)が、門木に耳打ちする。
「サトルは他の黒咎とリュールに見張ってて貰うのが良いと思う」
 皆とは距離を取り、じっと床の一点を見つめるサトルの表情は硬く、メイラス絶対殺すオーラが全身から漲っている。
 生半可な説得は通用しそうもないが――
「任せた」
 こっちめっちゃ急ぎだから!

 アレンが残したメモには、この件を個人レベルの暴走として解決するための作戦内容が書かれていた。
 ざっくり纏めると、それは「メイラス一人を悪者にし、高松達は不運にもそれに巻き込まれた善意の訪問者として救い出す(ふりをして連れ帰る」というものだ。
 反乱分子のテロに客人を巻き込めば、休戦協定や今後の和平交渉に悪影響を与えるのは避けられない。
 それを狙って訪問団が襲われる可能性を提示すれば、天界側も保護と送還に協力するだろう。
 捕虜として収監されていたメイラスが学生達の行動を知っていた点に関しては「見所を相談されたため」と答えれば、捕虜の扱いに関する寛容さのアピールにもなる。
 寛容すぎて結果的に脱獄を許したことは責任の追及を免れないだろうが、それは事実として受け入れるしかない。
 ただ、今の技術では天界との交信はほぼ不可能であり、交渉のために誰かが天界に赴く必要があった。
 その「誰か」は天界の上層部と接触が可能な人物に限られるため、どんなに急いでも数時間はかかるだろう。
「その点は大丈夫だと思います」
 カノンが答える。
「優等生を装っているなら、いざという時までは予定通りに行動しているでしょうし」
 一時間や二時間程度で痺れを切らすほど短慮なら、そもそも今まで本当の顔を隠し通せるはずもない。
「高松が先生にだけ計画を話した意図は分かりかねますが、問答無用で計画を成功させる気ならば絶対しないこと…こちらが顔を出してもいきなり戦闘、はないと思います」
 むしろメモにある避難指示や区画の封鎖、戦士の配備などが行われた場合、それが契機になる可能性が高い。
 天界側に動いてもらうなら、こちらの動きとタイミングを合わせる必要があるだろう。
「聞く耳を持たないなら戦うしかありませんが、その場合は勘違いで彼等を止めに来た、と」
 例えばメイラスが流したデマを信じ、高松達が「自分たちの悲劇を天界に訴える意図を持ってきた」と思い込んでいるとしたら。
 たとえ非暴力でも今後の交渉に悪影響を与えかねないと懸念し、阻止するために追って来たと言えば、それなりの説得力はあるだろう。
「事実を知らない学生の暴走、すれ違いによる小競り合いならば問題を大きくせずに止める事も出来るはずです」
 天界の人々を騙すことになるが、今は他の手段を講じる余裕はない。
「連れて帰ってくるから腹はくくれよ」
 蛇蝎神 黒龍(jb3200)が声をかける。
「生徒を叱るんは先生の役目や。高松にも自分にも甘えた考えはもう終わりにしいや」
「…甘え、か」
 そうかもしれないが、これまでの行動が間違っていたとは思わない。
 微苦笑を漏らし、門木はまだ残っている点滴のチューブを引っこ抜いた。
「お説教は後で聞くから、ちゃんと帰って来いよ」

 その間、ユウはダルドフに連絡を取っていた。
「ダルドフさん、無理を言って申し訳ありません」
『いや、同胞の危機とあらば某も看過は出来ぬ。しかし、問題は間に合うかどうかだのぅ』
 ダルドフは今秋田にいるが、そのゲートはとうに破棄され、現状では天界への移動手段がない。
 今ここでゲートを開くにしても三時間ほどはかかるが、それでも久遠ヶ原まで移動するよりは早いだろう。
「時間でしたら大丈夫です。では、向こうで落ち合いましょう」
 天界側の出口は王都の一箇所に集中していると聞く。
 それなら互いを見付けることも難しくないだろう。
『ただ…某が行かれぬ時のことも考えておいたほうが良かろう』
「もし直接来ていただくのが無理でしたら、その根回しだけで構いません」
 天界側に高松達の情報を提供し、戦闘に入ったらできる限り素早く捕らえて強制送還するように頼む、とか。
『いや、某の立場ではそれさえも出来ぬやもしれぬでのぅ』
 出来るだけのことはしてみる――そう言って、ダルドフは通話を切った。



「アレン、テリオスを助けた後も一応気をつけて」
 転移装置に向かって走りながら、ヨルが注意を促す。
「彼もコピーの可能性がある。助けた後も気を抜かないほうがいい」
 具体的には軽く攻撃を当てるだけで判別は可能なはず。
「男やったらグーパン一発で済むんやけどな…つーかテリー女やったんかーい!」
 ゼロ=シュバイツァー(jb7501)が重苦しい空気を混ぜ返すように言う。
「なんや中性的やとは思うとったけどな」
 見抜けなかったとはゼロさん一生の不覚、しかもいつの間にか結婚してるとか何その急展開。
「で、肝心のコアの位置やけど」
 ゼロは記憶の中にあるゲートの見取り図を思い返してみる。
「きっつぁん見付けたんも地下やったし、コアもそのへんにありそうやな」
「まだ入ったことない場所を探せばきっと見付かると思うのだ」
 青空・アルベール(ja0732)が答えるが、とは言え探索にかける時間はない。
 出来れば事前に情報が欲しいところだ。
「今んとこ知ってそうなんはテリーとハージェンだけかい…イラ吉が教えるとも思えんしな」
 しかしテリオスに訊くのは危険だ。
 意思疎通でバレないようにやったとしても、何らかの方法で気付いたメイラスがテリオスに危害を加える可能性がある。
「ハージェンに聞くのが確実やろけど、今どこにおるん?」
「わからない、けど…ハージェンはちゃんと見てると思う」
 青空は彼の性格や行動を思い起こす。
「きっと怖いはずだ。メイラスが帰って来て、自分を殺しにくるのが」
 怖いから、何か起きたら全力で排除しようとするだろう――なりふり構わず、テリオスを巻き込むことも厭わずに。
「だから私達がハージェンを守ると約束するなら、聞く耳を持ってくれると思うのだ」
「約束なら、もうしてるの…ですね」
 華桜りりか(jb6883)が頷く。
 後は居場所さえわかれば――ただし、もし天界なら交信の手段はない。
「これ、試してみようか」
 ヨルが取り出したのは、携帯ゲーム機。
「これで繋がるなら、ハージェンはこっちにいるってことだよね」
 応答がなかったとしても、呼び出しには気付いてくれるはずだ。
「前にカドキが弄って、一方通行だけど天界に通知が届くようにしてあるから」
 ヨルはゲームのフレンド一覧を開き、コールボタンを押した。

 ぴろりろりん♪
 ハージェンが持つ携帯ゲーム機が電子音を鳴らす。
「む、ふれんどからの呼び出し…ぞよ」
 届くのはコール音のみで、相手も用件もわからない。
 ハージェンは四人の部下に椅子を運ばせると、馴染みのゲートをくぐり、コアを通って人間界へ――

 ゲート内部に踏み込んだ撃退士達は思わず足を止める。
 メイラスやそのコピー達が大量に待ち構えていることは想定内だ。
 しかしテリオスまで大量生産されているとは。
 メイラス達はそれぞれに、ぐったりと動かないテリオスを荷物のように抱えていた。
「その人に何をしたのですか」
 低い声で問うアレンに、何人かのメイラスが一斉に答える。
「息はある、死体では人質の価値が下がるからな」
「勝手に新しいゲームを始めるなんていけないの、ですよ。まだまだこまったさんなの…」
 りりかは駄々っ子でも見るような目でメイラス達を見た。
「お話合いをして、おとなしく帰るという選択肢はないの…です?」
「貴様ら人間の間では、殴り合いもオハナシと言うのだろう?」
 それで負けたら、望み通りに大人しく独房に戻る。
 何も無茶な要求ではなかろうと、メイラス達は嗤った。
 ならば仕方がない。
「あ、章治兄さまがけがをする事に関わったのにはおこなの…」
 その分のお仕置きとして、お相手しましょう。
「俺だとレート差が危険だから、リリカ、アオゾラ…テリオスの方を頼める?」
 ヨルが斧槍を構える。
「アレンは本物がいたらすぐに助け出してあげて」
 そうしながら、ヨルは意思疎通でハージェンに呼びかけてみた。
『ハージェン、聞こえてる? 緊急なんだ、聞こえるなら返事をして』
 応答はない。
 だが先程のコールに気付いたなら、今頃はもうゲートのこちら側に来ているだろう。
「急がないと」
 ヨルは地下に向かって走りながら炎の狂想曲を奏でた。
 解き放たれた炎が自由気ままに踊り狂い、コピーを元の姿に戻していく。
「もし本物だったらごめんなさい…です」
 残されたテリオスをりりかと青空が軽く叩いて回るが、どれも皆コピーだった。

「おや、これは思わぬ獲物がかかりましたね」
 コアから現れたハージェンに、メイラスは親しげな様子で微笑みかけた。
「ふれんどと偽って我を呼び出した、ぞよ?」
「まさか…ですが邪魔は困りますね」
「何をする気、ぞよ」
 そもそも何故ここにいるのか。
「ご承知のはず、ですよ」
「ならば我がどうするか、それも承知の上なのだろうな」
 口調を変え、ハージェンは椅子から立ち上がる。
 その時、頭の中に誰かの声が響いた。
 狂想曲から輪舞曲へ、その合間にもう一度試した意思疎通。
『ハージェン、落ち着いて…早まらないで。今どこ? すぐに行くから場所を教えて』
『我は落ち着いておるし、助けも要らぬ。丸腰の大天使ごときに我が後れを取ると思うか』
『思わない。でも、だからこそ今は我慢してほしい』
 声の主はメイラスの思惑を手短に説明する。
『もし戻れるなら今すぐ戻って待機してて。無理ならそこで待ってて、メイラスは俺達が止めるから…攻撃したらテリオスが危ないんだ』
 テリオスは今や自分達や人界側にとって『大事な人』となっていた。
 絶対に失うわけにはいかない。
『とにかく場所を教えて、そこにコアはある?』
『10秒だけ待つ、だがあれが先に仕掛ければ我は全てを破壊する』
 その思念を受け、ヨルは青空に向かって声を上げた。
「場所がわかった、道を空けるから急いで」
「任されたのだ!」
 凍てつく子守歌が流れる中、青空は指示されたルートを脇目もふらずに走り抜ける。
 普段は入れない、まだ入ったことがない場所。
 見覚えのない一角に飛び込むと、正面に見えたドアを思い切り蹴り開けた。

 コンクリート打ちっ放しのような殺風景な空間。
 そこに今までよりも遙かに多いメイラス達が待ち構えていた。
 青空は部屋の奥に向けて白い光の糸を張り巡らせ、友の気配を探す。
「ハージェン、助けに来たのだ!」
 暴風の様な猛射撃を隠れ蓑にして気配を消し、包囲網を抜けて走った。
「10秒はとうに過ぎている、ぞよ」
「ごめん、でも間に合ったよね! 他の皆もすぐに来るから…だってハージェン一人で行くより私達と協力した方が上手くことを運べると思うのだ」
 青空はハージェンを後ろに庇い、背中で語る。
「テリオスだけじゃない。君にだって死んでほしくないし、だから守りに来た…大事なもの1つ助ける為に、他の大事なものを失うのは絶対ダメだ」
 確かに力を解放すれば苦戦はしないだろう。
「でもメイラスのコピーはきっと天界にもいる。ここで力を使わせて、天界でコピーに襲わせるつもりかもしれないのだ」
 だから、ここで止める。
 天界の方も仲間が止めてくれる。
「危ないと思ったら天界に戻ってていいよ。正直、私も私の力が足りるかわからない。けど、ここを押さえたら、仲間がコアを破壊してくれる。それと、言伝が――」
「何かあればあたしたちがお助けするの、ですよ。約束の印わすれないの…だから今は協力をお願いします、です」
 追いついたので自分で言っちゃいましたと、因陀羅の矢でコピーを焼き払いながらりりかが微笑む。
 暫し考え、ハージェンは椅子に腰を下ろした。
「危険な時はすぐさま力を解放する、その時は加減など出来ぬぞよ」
「大丈夫。だって君はお願いを聞いてくれた。だから今度は、私が返す番だ!」
 青空は魔糸を張り巡らせて周囲を警戒しつつ、射程に入ったメイラス達を次々に元の姿に返していく。
 捕虜生活で力が衰えたのか、今のメイラスを元にしたコピーは以前よりも弱体化していた。
「数を減らせば怖くないのだ!」
 きっと簡単に減らされては困るからテリオスとセットにしたのだろう。
 だが、その目論見は当てが外れたようだ。

「メイラスさん、こんな風にもんだいを起こさなくても呼んでくれれば良いの…ですよ?」
 りりかは手近なメイラスを人形で攻撃しつつ、相手の気を散らすように声をかける。
「呼べば脱獄の手引きをするとでも?」
「それは…できないの、ですね」
 でも寂しいならナデナデしてあげるの、ですよ?
 ガラス越しだけど。
「壊れてるって言うけどさ、じゃあ一度壊れたらもうそれ以上は壊れないの?」
 ヨルもまた、範囲攻撃に巻き込みながら声をかけていった。
「メイラスもコウキ達も『壊れた自分』がまた壊れるのを恐れてるだけだ。でもそれは壊れるんじゃなくて、変わるってことだと思う」
 変わらない存在なんて、きっとどこにもない。
 今のメイラスだって、天界に置いてきたコピーとは違っているだろう。
「たとえ後戻りは出来なかったとしても先に進む道は変えられる」
「それが希望になるなら、或いはな」
 そう答えたメイラスもコピーだった。
 どれもこれもコピーばかり。もしや本物はとうに天界へ抜けたのでは――そう思いかけた時。
「アレンさん、きっとあれが本物なの…です」
 りりかが一撃で消えなかったメイラスを指さす。
 コピーの残数から見て本物が本物を抱えている可能性は高い。
「テリオスさんをお願いします、です」

 残るコピーを魔法書が生み出す真空の刃で打ち払いながら近付いたアレンは、メイラスの目の前に巨大な毛玉を喚び出した。
 薄笑いと無表情の二択しかなさそうなメイラスの顔に、僅かな動揺が走る。
 それはそうだろう、鬼気迫る形相で向かって来る相手が出して来るものと言えば、手持ちの中で最強の駒であるはず――なのに、何だこのぼへ〜んとした毛玉は。
 この緊張感のなさはフェイクか、油断させておいて豹変するタイプなのか。
 メイラスの理解を超えた毛玉は、ぱかーんと大きな口を開けた。
 どちらを飲み込むかは気分次第。

 選ばれたのはテリオスでした。

 呆気にとられたメイラスに、りりかの式神が絡み付く。
「少し大人しくしていてください…なの」
 怪我をさせたいわけではないから、素直に攻撃をやめてくれるなら痛いことはしない。
 束縛中はチクチク固定ダメ入るけど、それは仕方ないよね。
「章治兄さまのぶん、なの…ですよ?」
 なお他の人の攻撃も止めません。
 人それぞれに色んな考えがあるからね、それは尊重しなきゃね。
 その隙に、アレンはパサランを庇いつつスレイプニルを召喚する。
 毛玉がぷるぷる震えていた場所には、テリオスだけが残されていた――胃液(?)でべったべたの状態で。
 吐き出すプロセスを経なくても、その有難くないお土産は押し付けられるようだ。
 しかしアレンがそれに気付いたのは追加移動で距離を取った後のこと。
「フィリアさん!」
 呼びかけには応えないが、息はある。
 ベタベタのまましっかりと抱きかかえ、アレンは新たに召喚したフェンリルに攻撃を命じる。
 氷結の鋭爪がメイラスの背を引き裂いた。

「随分雑なゲームやなぁイラ吉…引きこもってると碌なアイデアもでんかったんかいなぁ」
 ボディペイントで潜行したゼロが、身動きの取れないメイラスの前に躍り出る。
「俺ら四人しかおらんと思うとったやろ? 残念やったな、真打ちは最後にええとこだけ持ってくもんや」
 あ、ごめんなさい言い過ぎました。
「真の真打ちはだいまおー様ですよね、俺なんかもう前座もいいところで、つーかお前自分が脱出ゲームしたいだけやんけいい歳して未だに遊びたい盛りかこの野郎」
 自分を思いっきり棚に放り投げつつ、大鎌を振りかざしたゼロは超高温と超低温の嵐を巻き起こす。
 それは周囲に残っていた邪魔なコピー諸共コアを飲み込んで荒れ狂った。
「小細工に対応する方法は2つ、さらに細工するか…真正面からぶっ潰すことや!」
 細工した上で真正面からぶっ潰すっていう手もあるけどね、こんな風に!
 コアは障壁が張られたままらしく、その一撃だけでは壊れない。
 しかし、ゼロは身動き出来ないメイラスに見せ付けるように、二度三度と大鎌を振り下ろした。

「メイラスさんは、何がしたかったの…です?」
 パサランショックから抜けきれないのか、それとも自身の衰えを痛感したのか、目立った抵抗もなくメイラスは身柄を拘束された。
「イラ吉、隠遁生活が長すぎてまともな判断も出来んようになったか?」
 同じ手が何度も通用するはずがないことは、考えなくてもわかりそうなものだ。
「んぅ…」
 りりかは考える。
(「きっと前の温もりがたりなかったの、ですね」)
 だから構ってほしくて駄々をこねて見せたのだろう。
 そうでなければ、こうもあっさり捕まるとは思えない。
「メイラスさん、たくさんお話しをしましょう…です。きちんとしたしょぶんは受けなくてはいけないけど、その間も会いに行くの」
 りりかはメイラスの手を握り、頭をなでなで。
「そうだな、この私はもうそれでいい」
 大人しくされるままに、メイラスは答えた。
 懐柔されたつもりはないが、熱意も力も失われ、復讐など正直どうでもいい気分だ。
 だが天界に残したコピーはその熱を保ったまま、まだ夢を見ているのだろう。
「だからこれは、私自身への手向けだ」
 自身のコピーではあるが自分ではない者のため。
 以前の自分なら決して考えなかったこと。
「向こうには何人送り込んだ? 到底充分な数ではあるまい」
 急いで合流しようにも、コアは破壊されている。
「彼等は逃げのび、私と合流して武器を手に入れるだろう。私は天界の反乱分子を集めて、小さいながらも強固な組織を作っているはずだ」
 天界は異世界からの侵略を受けた経験がない。
 内部の反乱も殆どなかっただろう。
 そんな彼等に、果たしてまともな危機対応が出来るかどうか。

「このゲーム、私の勝ちだな」
 メイラスは心の底から楽しそうに笑った。



 後刻、天界。

「話し合いで何とかなってくれれば良いんだけど…」
 クリアマインドで気配を絶ったとしおは、スナイパーライフルの射程ぎりぎりの位置でなりゆきを見守っていた。
 周囲は人間界で言うなら官庁街といったところか。
 民家らしき建物は見当たらず、この場で戦闘になったとしても一般市民への影響は少ないだろう。
 と言っても、だから派手にドンパチやっても構わない、ということにはならないが。

「やっぱり来たんだ、お前ら」
 撃退士達の姿を見ると、高松は自ら歩み寄ってきた。
 旅先で旧知に会った時のように気さくに話しかけて来るが、腹の内は全く読めない。
 彼等は全部で八人、その他に二人の天使が案内と監視を兼ねて同行しているのは、事前に得た情報の通りだ。
 予定外の訪問者に対してその二人が何も言って来ないのは、根回しの成果なのだろう。
 交渉は残りの三人に任せ、としおとユウは高松達の様子を見張る。
 怪しい行動を見せる者はいないが、ダアトの二人は少し距離を置いて後方に立っていた。
 他にも同じジョブの者が互いに離れた位置にいたり、直線上に並ぶことがないよう立ち位置に気を遣っているようだ。
 表面上は和やかに見えても、既に戦闘モードに入っているということか。
「でも人数少ねぇだろ、それで俺らに勝てると思ってる?」
「私達は戦いに来たわけではありませんから」
 硬い表情でカノンが答える。
「俺らが話し合いで引き下がるとでも? ここまで来てそれはないだろ…で、旦那は?」
「貴方達全員の将来のために、残って活動しています。貴方達のことを、まだ諦めてはいませんから」
「君もまだ諦めたわけやないんとちゃう?」
 鼻で笑う高松に、黒龍が問いかけた。
 サトルを懐柔し仲間にする事も出来た筈なのに置いてきた事と、自分達の情報のリーク。
 そこから思うに、彼は無意識的に止めて欲しかったのではないだろうか――自分だけでなく仲間も含めて。
「なんでリークしたんや? それに、折角サトルに仲間になるチャンスが来たと言うのに何故仲間外れにした?」
「せっかく最期に一花咲かせるんだ、ハードルは上げた方が盛り上がるだろ? あのガキは使えるタマじゃねぇし俺らとは違う…それだけだ」
「君らと、彼、ナニが違う? 同士やないの」
 高松も、他の誰も、聞こえているはずなのに答えない。
「まぁええわ、ボクらは君らを止めに来ました。いや、不毛な連鎖を立ち切りにやな」
 助っ人が来るまでの時間稼ぎと足止めのため、黒龍は道化さながら手足を動かし語らい、高松らの視線と意識を自分に向けさせようとする。
「天使への脅威ってアホか、自分等がしとんは結局一回りして自分と同じ存在産み出すだけやぞ。天使に損害? 相手に大義名分くれてやってるだけや」
「だから?」
「許せとは言わん、けど天使を殺したかったら【天使と人が殺し殺される未来】を殺せ。自分と同じ苦しみを未来の人間に背負わせるな」
「はいはい、ご高説まことに痛み入ります♪」
「茶化すなや。サトルを引き込まなかったのは引き返せると思て希望を託したからやろ」
 そう言いながら、黒龍の目はナイトウォーカーの二人にさりげなく注がれていた。
 奇襲を警戒しダークハンドを準備しておくが、一度で纏めて仕留めることは出来そうもない。
 片方の動きを止めても、もう片方がフリーになるが…さて、どうするか。
 考えながら言葉を継ぐ。
「希望が託せるなら希望が見えるなら、戻れる事を諦めるな。恨み辛みのウロボロスの円環はコレで終わりにしぃや」
 だが、その言葉は彼等の上を滑り落ちて行くだけだった。
「なんか良いこと言ったつもり?}
「そういう美談めいたの、他でやってくれないかな」
「俺ら未来とか関係ないから」
「むしろ皆で不幸になれば良いと思ってるしさ」
 そんな言葉を口にする仲間達を見て、高松は「これでわかっただろう」と肩を竦めた。

 その眼前に挫斬が進み出る。
「久しぶり、紘輝」
「もう忘れちまったかと思ったぜ」
「え、まさか私に捨てられたと思って、自棄になってこんな…なんてね」
 冗談だと笑い、挫斬は続けた。
「私も壊れてるから気持ちは解るわ。でも放っておくと他の人に紘輝が解体される。だから私が先に解体してあげる。フフ、紘輝を解体したら気持ち良すぎて私完全に壊れるかも」
 それとも逆にしようか。
「紘輝に殺されても、完全に壊れて無差別に人を解体した末に誰かに殺される方よりいいしね。殺すのも殺されるのもどっちも素敵ね」
「俺はどっちでもいい、やるなら早くやろうぜ?」
 結論を急ごうとする高松に、挫斬は余裕の笑みを返す。
「そう急がないの、相変わらずお子様なんだから」
 一歩距離を縮め、視線を合わせた。
「もう一つ素敵な選択肢があるの。私と紘輝が一緒になって互いに壊れないよう監視しあうの。私達は壊れて戻れない。でも二人ならこれ以上壊れずに生きれるわ。壊れた二人が必死に支え合って生きるのは無様で滑稽だけど凄く素敵で楽しいと思うのよ」
「それは、プロポーズか?」
「そうよ、女に言わせるなんてどうかと思うけど、私の方がお姉さんだから許してあげる」
 選択肢は揃った。
「だから私と戦うか私と生きるかを選んで紘輝。殺すのも殺されるのも共に生きるのもどれも素敵だから私はどれでもいいわ」
 だが、本人が何かを言う前に周囲から無粋な声が響く。
「おい、お前まさか裏切ったりしないよな?」
「女いるとか聞いてないし」
 そんな雑音を視線で黙らせ、高松は挫斬に向き直ると霞声を使った。
『昔こいつらを誘ったのは俺だ。だから俺が始末を付ける』
 生きる選択肢はない、挫斬にはそう聞こえた。
「OK! 愛し合おうよ、紘輝!」
 死活を活性化し、挫斬は戦槌を振り上げる。
 話し合いは決裂した。

「悪いが俺の方が早い」
 戦槌がまだ頭上にある間に、先手を取った高松は影渡しで挫斬の行動を抑える。
 だがV兵器を持たない高松の攻撃は、防御を固めた挫斬には殆どダメージを与えなかった。
「やっぱ素手じゃこんなもんか」
 何故か安心したように笑い、高松は無防備に両腕をだらりと下げた。
「解体してあげる!」
 反撃の戦槌が高松の首を狙う。
 だが――
「雨野さん、依頼の目的を忘れちゃいけませんよ!」
 としおの回避射撃がその刃を弾いた。
「高松さんも早まらないで、一緒に学園に戻ろう! きっと悪いようにはならないから!」
 だからじっとしていてくれと、としおは次の一手で高松の足を撃ち抜いた。
「これで動けないでしょ?」
 だが、仮に高松がその言葉に心を揺らしたとしても、他の仲間がそれを許さない。
 ダアトのひとりが右手を天高く掲げる。
 咄嗟に漆黒を纏ったユウが常夜の淡い闇で辺りを包み、彼を眠りへと誘うが、その範囲外にダアトがもう一人。
「テラ・マギカ」
 呟きと共にその姿は天に舞い、巨大な魔法陣が撃退士達をロックする。
 降り注ぐ光弾は回避射撃では避けきれなかった。
「たった五人で俺らを止めようとか、舐めてんじゃねぇぞ」
 ふわりと舞い降りつつ、吐き捨てるように言う。
「しかも仲間割れって何やってんの?」
 ナイトウォーカーが何かを仕掛けようとしたところで、黒龍がダークハンドを使った。
 が、束縛を受けても影響のないスキルがある。
 次の瞬間、辺りはテラーエリアが作り出す真の闇に閉ざされ、それを切り裂く眩い光が黒龍を貫いた。
 このままでは全員に逃げられる。
「せめて一人だけでも!」
 サードアイで視界を確保したとしおがナイトウォーカーの足を撃ち抜く。
 気力を振り絞った黒龍が手探りでその腕を掴み、組み敷いた。

 突然の戦闘行為に、周囲の天使達は何事かと騒ぎ出す。
 避難を促す警報が鳴り始めるが、その意味を正確に理解している者はどれくらい居るだろう。
 慣れない周辺区域の封鎖も思うように進まず、騒ぎは大きくなるばかり。
 これではもう、小競り合いでは済まされない。

 闇が晴れた時、高松達の姿はもうどこにも見えなかった。
 残されていたのは二人のお目付役と、ナイトウォーカーが一人、そして点々と続く赤い血の跡。
「高松さん、かな」
 自分が撃った足の怪我だろうかと、としおが呟く。
 今すぐにそれを辿れば追い付くことが出来るかもしれない。
 しかし、予定の時間は過ぎたというのに、頼みの助っ人はまだ姿を見せなかった。


依頼結果

依頼成功度:失敗
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

dear HERO・
青空・アルベール(ja0732)

大学部4年3組 男 インフィルトレイター
高松紘輝の監視者(終身)・
雨野 挫斬(ja0919)

卒業 女 阿修羅
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
夜明けのその先へ・
七ツ狩 ヨル(jb2630)

大学部1年4組 男 ナイトウォーカー
天蛇の片翼・
カノン・エルナシア(jb2648)

大学部6年5組 女 ディバインナイト
Stand by You・
アレン・P・マルドゥーク(jb3190)

大学部6年5組 男 バハムートテイマー
By Your Side・
蛇蝎神 黒龍(jb3200)

大学部6年4組 男 ナイトウォーカー
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
Cherry Blossom・
華桜りりか(jb6883)

卒業 女 陰陽師
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅