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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/07/31


みんなの思い出



オープニング


 神界での最終決戦。
 それはまさに、人類と天魔の総力を挙げての戦いだった。
 戦っていたのは神界に直接乗り込んだ者達ばかりではない。
 地上ではアウルを持つ者も持たざる者も、大人も子供も、人も天魔もダブルもハーフも、それぞれが自分の出来ることで戦っていた。
 ひたすら祈る者、大声で声援を送る者、お祭り騒ぎで盛り上げる者。
 そして、歌で世界を救おうとした者達。

「歌で世界は救えない、なんて諦めかけたこともあったけど……」
 アコースティックギターを担いだ青年――名もなき歌のお兄さんは、すっきりと晴れ上がった夏空を見上げた。
「救っちまったよなぁ」
 あの日、テレビの中継は来なかったけれど。
 彼の住む町にも星祈ノ調を行う撃退士達の姿があった。
 その要請に応え、彼もまた地上の片隅で天に届けと声を張り上げていたのだ。
「俺も少しは役に立てた、かもな」
 かつては彼自身が撃退士に救われ、彼が救いたいと願った人もまた、撃退士に救われた。
 やはり撃退士に救われたらしい、「ボローズ」と名乗るヘンテコなディアボロのバンドと共演したこともある――彼等は寿命が尽きてしまったのか、もう噂を聞くこともなくなってしまったけれど。

 お兄さんは思う。
 戦いが終結した今、撃退士達は何を想うのだろう。
 どんな想いを歌に乗せるのだろう。
 聞いてみたい。
 そしてまた、一緒に歌いたい。

 とりあえず戦争は終わったと言っても、完全に平和になったわけではない。
 規模は小さいが、散発的な襲撃は相変わらずあちこちで起きている。
 復興途中の町もまだまだ残っているし、まだ避難所から出られない人達もいるだろう。
 資金繰りに困っているところもあるかもしれない。

 ひとつ、チャリティコンサートでも企画してみようか――




リプレイ本文

●未来のタネ

「平和になるんですよね…余り実感が無いのですが」
 雫(ja1894)は舞台の袖、という設定のドアの影から教室に集まった子供達の姿を見つめる。
 無邪気に目をキラキラさせたこの子達はまだ、世界で何が起きていたかを理解できる年齢ではないのだろう。
 けれど、わからないなりに不安は感じていたはずだ。
「…この子達が私と同じ道を辿らない様に、武器を取って戦う事が無い様に」
 武器を持つ手に楽器を、鬨の声ではなく歌を。
「スキルを使用した方が効率が良いのは判るのですが…なんとなくですが、この場では力を使う撃退士では無く個人として行動するのが正しい気がしますね」
 特に子供達が相手なら。

 教室にはいつものオルガンの他に、今日だけ特別にアップライトのピアノも置いてあった。
「あたいはピアノを弾きながら歌を歌うわね!」
 なお、雪室 チルル(ja0220)はピアノを弾いたことがない。
 触ったこともない。
 だがこの日のために、血の滲むような猛特訓を行っていたのだ。
 山に篭って滝に打たれ、落石が多発する崖を丸腰で登り、凶暴な人食いヒグマと素手で戦うという昭和の特訓メニュー。
 それでピアノが弾けるようになるはずがない。
 しかし、それが出来てしまうのだから世の中わからないものだな!(弾けるとは言ってない
「大丈夫、だってピアノって叩けば音が出るじゃない!」
 ちゃんとした演奏はオルガンにお任せ!

 美森 あやか(jb1451)は人の多い場所が苦手だ。
 けれどチャリティコンサートの手伝いはしたい、と思っていたところに訪問先には幼稚園もあるという情報。
「子供と一緒に楽しく、なら…何とか、お手伝いできるかな?」
 元々はその方面に進むつもりで、進学先も教育学部に決めている。
 その時のためにピアノやオルガンも習い始め、今では幼稚園で歌う童謡程度なら伴奏も出来るようになっていた。
 木琴やタンバリンは先生がたにお任せしてある。
 子供達にはカスタネットや手拍子で応援してもらおうか。

 拍手と歓声に迎えられ、三人は園児達の前に立つ。
「さあみんな! あたいと一緒に歌を歌おう!」
 チルルが適当に鍵盤を押すと、あやかがオルガンでお馴染みの曲を奏で始めた。
 曲目は事前に打ち合わせ、園児の誰もが知っているものを選んであった。
 そのタイトルは黒板にも書き出してある。
「みんな知ってるよね! さあ元気に歌おう! 元気があればなんでも出来る! 元気だして行くぞー!」
 その声に大部分の園児は素直に盛り上がった。
 音程が外れてもリズムが狂っても、歌詞を忘れちゃったらラララでも構わない。
 なんたってピアノの先生が指一本で適当に鍵盤押してるだけだからね!
「音楽は楽しければいいのよ!」
 それでもクラスに一人は必ずいるのが、皆と一緒にノれない子。
「…大丈夫、恥ずかしくないですよ」
 雫は今回スキル封印を決めていた。
 けれど自分のためでなければ使っても構わないだろう。
 歌謡いのスキルを使い、楽しそうに歌ってみる。
 暫くすると本当は歌が好きな子なのか、小さな声が喉から漏れる。
 雫はそれを励ますように、手拍子を交えて一緒に歌った。
 そもそも歌に興味がない子には創造で手品を見せて、歌わなくても楽しめるように。
 幼稚園の教室に、子供達の歌声と笑顔が溢れた。

 子供達の後ろには保護者の姿がある。
 その人達が未来は明るいと思えるように願いを込めて、あやかはオルガンを弾く。
(「親友があっちこっちに出かけているように散発的な襲撃まだまだあるし、旦那様が島から自由に出られるかどうかもまだ不透明で、わからないけれど」)
 今は、ミライノタネ達が楽しい時間を過ごせるように。
「他に歌いたい歌はありますか? 皆が歌ってくれたら、伴奏つけてみるからね」
 子供達が歌い出したのはアニメの主題歌。
 チルルには聞き覚えがなかったけれど、そこは文明の利器でささっと調べてサビの部分を速攻マスター。
 一番盛り上がるところさえ一緒に歌えれば、後はきっとどうにでもなるよね!
「最近のハイテクって凄いなー。あこがれちゃうなー」
 一体どんな特訓をしたんだろう?



●頑張っている人達へ

「モノとカネも大事だけど、精神的なとこでも役に立てるなら悪くないんじゃない?」
 というわけで、砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)は避難所のひとつにお邪魔していた。
「僕の夢は未だ返事待ちでおあずけ状態だけど、それでもこの世界の憂いを少しでも減らして『立つ鳥跡を濁さず』にしたいね」
 立てるかどうかは別として…!
「ま、気負わず笑顔に出来るようやってみよう」
 ステージに立ったジェンティアンは、リクエストに応えて雫衣を使ったで衣装の早替えも交えつつ、柔らかな声で歌う。
 なお女装である。
 お客様の中で違和感をお持ちの方は…いませんよね、ええ。

 数曲を歌い上げると、次はオリジナルのバラード『Link』を。


不思議ね
笑顔はしあわせ呼び
しあわせは笑顔呼ぶ
幸福の永久連鎖

繋いでいこう
どこまでも
けして枯れない笑顔の花
咲かそう


 最後のフレーズで最前列の老女に微笑みかけ、創造で生み出した真っ赤なバラを。
「…惚れるなよ、お嬢さん?」
 あ、今ジェン子ちゃんだけどね!

 次はパサランの着ぐるみで最登場。
 ケセランをお供に某非公認ゆるキャラの如くキレッキレ激しいダンスで明るく元気に歌う。
 誰も先程の美女と同一人物とは思うまい。
「次の曲は『Special Dream』っしー!!」


永遠に同じではいられない
そんなこと分かってる
今日の僕は 明日の僕とは違うよ
きっと毎日がSpecial
夢をみよう この両手いっぱいに
きっと大きく花咲くSmile

ボタンかけ違えたら やり直せばいい
輝く夢を全部 明日の糧に変えて
さぁ自由に羽ばたこう

難しい話はいらない 隣を見てごらん
ほら皆仲間さ 手を取り笑おう
夜は明けても夢はずっと君の胸で
いつまでも輝く Special Dream


 ゆるーっとたゆたうケセランとの対比で笑いを誘ったら、後はそのまま握手会。
 写真撮影もお子様のキックもどんと来い、レディには花を贈呈するよ――パサランが。


「拙者知ってるでござる」
 エイネ アクライア(jb6014)は厳かに言った。
「こういう時に一番辛いのは、年を召されたご老人でござると」
 子供は適応する生物だし、若者は体力で何とかなる。
「されど老人は、適応力も体力も失っているでござる…無論、例外がある事は承知していてるでござるが」
 例外になれる人達は、きっと自分で元気になる方法も知っているのだろう。
 だから今日は、例外になれない多くの人達のため。
「拙者、そんなご老人たちを励ます事を第一に、和の心、演歌を歌うでござる!」
 演歌は日本の心、そして自分が知る限り最もコブシをを効かせられる、即ち想いを載せられる歌。
 なればこそ、この、人々を励ましたいと、勇気付けたいと、労いたいと想う気持ちは、きっと伝わる。
 ゆえに。
「拙者の歌を聞くでござるよーーっ!!」
 演奏は豪華にフルオーケストラ…の、カラオケ。
 しかも「聞くと元気が出る演歌集」というCDの収録曲からセルフでボーカルを抜いたものだ。
 元の歌い手の声が微かに残っているのはご愛敬、と言うか鐘ふたつギリギリラインの歌唱力には音程ガイドにもなって丁度良い。
 そのせいか、今日は喉の調子も良く、いつもの二割増し程度に上手く歌えた気がする。
 ご老人達の反応も上々だ。
 レパートリーは大都会の人達が輪になったり花になったりする音頭や、いつも歌ってるあの娘が夢を持とうと励ます曲――って、演歌?
「知名度で選んでみたでござるが…ともかく普段演歌を聞かぬ人々も、この歌を聞いて、少しは演歌に興味を持ってくれると嬉しいのでござるよ」
 そして数曲目、寒さを堪えて腹巻きを編む曲の途中。
「む? お主達は…」
 舞台の袖に懐かしい姿を見た。
「行方不明になっていた『ぼろーず』ではござらんか」
 懐かしさに、オイデオイデをしてみる。
「拙者あれから演歌の他にも少しは歌えるようになったでござる、ここはひとつ『せっしょん』でも…」
 しかし彼等は黙って首を振るだけで、出て来ようとしない。
 そのまま抜刀や刀神楽などの「ぱふぉーまんす」を最後まで見届けて――気付いた時にはもう、その姿はどこにも見えなかった。



●久遠エナジー

 グラウンドの特設ステージ。
 そのすぐ脇では水無瀬 文歌(jb7507)が販売ブースを仕切っていた。
「今回は裏方的にもがんばりますっ」
 売っているのは公式パンフレットに、アイドル部メンバーのサイン入り生写真、CDやDVD、タオルや団扇など。
「アイドル部。部長は,プロデュースもカンペキです☆」
 今回はチャリティということで、売り上げはもちろん全額が寄付される。
 それどころかオマケにケミカルライトを付けたりしたものだから、どう頑張っても大赤字。
 しかし、損得の問題ではないのだ。要は心意気。
「演奏中に振ってね!」

 そして今、会場は歌と熱気に包まれていた。

 ステージに立つのは染井 桜花(ja4386)、ステップを踏む度にフリルが揺れるオフショルダーのドレスに身を包み、歌うのは文歌から詞の提供を受けた「紅牙〜華々なる闘剣の舞〜」だ。
 和楽器をメインにした力強い疾走感が聴衆をぐいぐい引っ張っていく。


夜闇 切り裂いて
瞬く 刀の輝き
月夜の女神に 受けし加護

光纏いて 淡い白銀の煌き
赤い雫 血の涙 流して 紅薔薇一輪

明けない夜はない 朝日昇るその刻まで
その月明かりで 導いて

廻れ! そは円舞 その黒き残光 舞い散りて
唸れ! 我が絶技 その業火すべてを 焼き尽くす

紅き牙(薔薇) 燃えて燃えて 今宵 裂きほこれ!


 曲の終わりと共に舞台は暗転し、桜花の声だけが場内に響く。
「…皆様、ようこそ」
「みんな,楽しんでいってね!」
 そこにもうひとつの声が重なり、スポットライトがステージの中央を照らす。
 浮かび上がるのは和服をアレンジしたドレスに早変わりした桜花と、水色のミニスカに赤いネクタイの文歌。
「…新しい未来に …お聞きください」
「二人で歌うよ! 曲は…久遠ヶ原 Graduation Congratulationミ☆」
 これも文歌が桜花のために提供した曲、その歌詞には学園への想いが込められていた。
 オーケストラ風のイントロが流れ、ステージ全体がぱっと明るくなる。


島で巡りあった 青春
ひとつひとつのメモリーが タカラモノ
貼られた コルクボード 眺めて そっと

夢を語り合った 夕映え
ココロゴコロの願い事 ソラに溶け
遠くの トロンボーン 聞きつつ ほろり

ラララ でも これは さよならじゃない!
ルルル そう この広い世界で
また再び 会えるよ
きっと×モット(モット×ずっと)

久遠ヶ原 Graduation Congratulationミ☆
素敵な 想い出をこの胸に
久遠ヶ原 Graduation Congratulationミ☆
未来は 僕達の手でつかむ
それはきっと 大きな夢の は・じ・ま・り だよ☆


 観客席ではケミカルライトが振られ、馴染みのファンから息の合った合いの手が入る。
 その余韻に浸る間もなく曲調が変わり、今度は文歌のソロパートだ。
「皆さんっ,私たちの力で新しい世界を創っていきましょう! 聞いてください、みんなに届け♪HappySong☆」
 ありったけのスキルをフル活用して、最高潮に盛り上がったところでサビに突入!


Happy Song☆ みんなに届け Happy Song☆
みんなで一緒に 輪になって歌おう
Happy end☆ 私の望み Happy end☆
これが私の 夢のカ・タ・チだよー☆


「ありがとうございました! 次は雫さんの登場です!」


 紹介を受けた雫はステージに進み出る。
 歌うのは、失った故郷を甦らせようとする人達の奮闘を即興で歌詞にしたバラード調の曲。
「文才があるかは判りませんが、私は復興に向けて頑張っている人達を見て来ました」
 その姿を、飾ることなくありのままに。
「ですから、それほど的の外れた歌詞にはなっていないとは思うのですが…」
 即興のピアノ伴奏に乗せて、即興の詞が歌われる。
 しんと静まり返った会場に、雫の歌声が静かに染みていった。


「オッケー、いっちょ気合い入れてこか!」
 トリを務めるのは亀山 淳紅(ja2261)だ。
 依頼としての歌謡いは久々だと、淳紅は歌の前に語りを入れる。
「ちょっと前に世界がぐわっと変わったような、何だかいつも通りなような…けれどもこれから受け入れていかなきゃいけないことがたくさんあるのは確かやね」
 だから、撃退士として過ごした数年で育った歌が、少しはその助けになれば良い。
「ほら、後自分知名度もっと欲しくてな…」
 爽やかな顔で言い切り、舞台袖で見ている歌のお兄さんに言い放つ。
「歌好きで上手いだけで成り上がれる程甘ないねん! 一番大事やけどな!」
 自分はそれで家族を養っていくつもりでいる。
 だから。
「歌で生きていくために商売にも繋げてかんとあかんしな!!(しゅっしゅ」
 どこまでも貪欲に!
 淳紅は時に客席に手拍子を促したり、一緒に歌おうと呼びかけながら、アコギ一本で歌い上げる。
 そして曲調を変えてしっとりと――フーコの曲と、妹がボローズに歌った曲のカバーを。
「せっかくやからメジャーデビューってことで」
 淳紅は空を仰ぐ。
「今日もよーけいい天気やから、きっと上まで響く思いますっ」


 そして最後は――
「皆で一緒に歌うで! 瞬間エナジー!!」
 出演者の全員を舞台に上げて、観客も巻き込んで。
「何度も現役時代に歌わせてもうた曲やけど、何度歌うてもええもんやで」
「私もこの曲には思い入れがあるんです」
 文歌が答える。
 星祈ノ調で歌った、あの興奮をもう一度!



●歌で世界を救ったやつら

「今日はありがとう♪ みんなと一緒に歌えてうれしかったよ☆」
 文歌が桜花と共に楽屋に消える。
 その姿を見送って、雫がぽつり。
「本当に強い人達ですね。これからは戦う力でなく、此処の人達が持っている強さが求められるのでしょうね」
 戦う力を求めて来た自分に、彼等の様な強さを手にする事は出来るのだろうか。
 その背に声をかけようとした淳紅の目に、ふと映る小さな影。
「ボローズやないか!」
 駆け寄る淳紅に、ディアボロ達は笑顔を見せる。
「まだバンドやっとるんか? なら自分のバックバンドとして雇うたる!」
 前例がないなら作ればいい。
 ディアボロと撃退士のバンド、ええやん。
「注目度は抜群や!」
 にっと笑った淳紅に、ボローズもサムズアップを返した。

 けれど、目を離した一瞬に、彼等の姿は消え失せる。
 あれは幻だったのか。
 それとも、最後にこうして会うために好きな演奏も我慢して、ぎりぎりで命を延ばしていたのだろうか。
 もしそうなら、きっと願いは叶ったのだろう。

 またいつか、未来のどこかで一緒に歌おう。
 そこはきっと、人も天魔もディアボロもサーバントもない、歌に溢れた楽園だから――


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
花々に勝る華やかさ・
染井 桜花(ja4386)

大学部4年6組 女 ルインズブレイド
腕利き料理人・
美森 あやか(jb1451)

大学部2年6組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
エイネ アクライア (jb6014)

大学部8年5組 女 アカシックレコーダー:タイプB
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師