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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/07/20


みんなの思い出



オープニング


「オネェさん! オネェさん!!」
 リコ・ロゼ(jz0318)は主である悪魔、ネイサンのもとを訪ねていた。
「もォ、リコちゃんったら何よォ、そんな大きな声出さなくたって聞こえるわよ狭いんだから」
 そこはごく普通のワンルームマンションの一室。
 ネイサンは今、管理を任されていたゲートをさっさと開放して、人間界で自由を満喫していた――と言っても、はぐれたわけではない。
 もう戦う必要もなさそうだし、好き勝手をしても咎める者がいないから存分に好き勝手している、という次第だ。
 小さなワンルームを大好きなカワイイモノで埋め尽くしたネイサンは、見るからに幸せそうだった。
「それで、何? わざわざ来るなんて、電話じゃ話せないこと?」
「そういうわけでもないけど……なんとなく」
「ふぅん?」
 リコらしくない曖昧な答えだ。
「ま、いいわ。とにかく上がんなさいな、ちょうどお茶にしようと思ってたとこだし」
 そう言って、ネイサンはリコをどこもかしこもピンク色のやたらと女子力高そうな部屋に招き入れた。

「あのね、オネェさん。ひとつ訊いても良い?」
「なあに?」
 出された菓子に手も付けずに、リコは真剣な表情で切り出した。
「リコ、やっぱりずっと……このままなのかな」
「このままって?」
「……リコの時間、もう動かないのかな……って」
「動くわよ?」
「え?」
「アンタ、大人になりたいんでしょ?」
「なれるの?」
「ええ」
「ほんとに?」
「ウソついてどうすんのよ」
 その言葉を反芻したリコの頬に、ゆっくりと赤みがさしてくる。
「じゃあ、お嫁さんにもなれる?」
「お相手がいればね」
 大丈夫、それは問題ない。
「ああ、でも急にってわけにはかないわよ? 一時停止を解除するようなものだから、たとえば五年分大きくなりたいならきっちり五年かかるわ」
 また、適当なところで止めないと成長はやがて老化となる。
「それでも……リコ、ちゃんと大きくなれるんだね。ありがとうオネェさん!」
 リコは満面の笑みを見せると、出されたケーキに勢いよくかぶりついた。
「おいしい!」
「でしょ? アタシが作ったのよ?」
「すごーい、オネェさん女子力たっかーい!!」

 そんなお喋りがふと途切れ、リコは再び何かを思い悩むような表情になる。
「……あのね、オネェさん」
「なぁに?」
「こないだ、学園にね……パパとママから連絡があったんだって」
 最終決戦の際、リコは種子島で仲間達と共に祈りを捧げていた。
 その姿がTVで中継され、両親の目に留まったらしい。
「リコに、会いたいって」
「良かったじゃない、会ってきなさいよ。それで思いっきり甘えてらっしゃい?」
「うん……そうだよね。会っていいんだよね。……リコ、死んじゃったから……親不孝、しちゃったから。もう会えないって思ってたけど……」
 普通の人と同じように、これから成長していけるなら。
 子供は望めないけれど、結婚して家庭を築くことが出来るなら。
「パパとママね、リコは悪魔に殺されたんだと思ってたんだって。でも、ほんとのこと……ちゃんと言わなきゃね」
 そして、ごめんなさいと、ありがとうと、会いたかったと、それから、それから――


――――


 次の日曜、リコは待ち合わせ場所として指定された、とある駅前にいた。
 ネイサンのアドバイスを受けて、少しでも大人っぽく見えるように軽くメイクを施し、服もいつもより少し落ち着いた感じのものを選んで、ピンクの髪もハーフアップに結い上げている。
「五年ぶり、くらいかな……」
 リコは心を落ち着けようと、胸元のブローチにそっと手を置いた。
 もう二度と会えないと思っていた。
 会ってはいけないと思っていた。
 でも、もうすぐ――

「パパ! ママ!」
 改札から現れた懐かしい顔に向けて、リコは大きく手を振った。
 気付いた両親が真っ直ぐに近付いて来る。
「……莉子ちゃん……!」
 最初に口を開いたのは、母親の方だった。
「莉子ちゃん、あなたやっぱり……変わらないのね」
 その口調に哀れみと嫌悪を感じ、リコは身体を硬くする。
「……うん、ごめんねママ。でもリコは――」
「やはり、ヴァニタスなのだな」
 父親の声には敵意が感じられた。
「……生前の莉子にそっくりだが、所詮はよく出来た人形だ……お前は私の娘ではない」
「パパ?」
「ヴァニタスというのは、死体から作るそうじゃないか。作った悪魔の好みや必要に応じて、その姿や人格、記憶までも自由に書き換えることが出来るという」
「パパ、なに言ってるの? リコはリコだよ、ちゃんとパパとママのことだって覚えてる」
 最後の朝食が冷めたトースト一枚だったことも、リコの「行って来ます」に、新聞を読んでいた父親が返事をくれなかったことも。
 出来の悪いリコよりも、優秀な姉を可愛がっていたことも。
 でも、それでもリコは両親が大好きだった――そのために、マンションの屋上から飛び降りることを思い止まるほどではなかったにしても。
「ああ、わざとそのままにすることも出来るらしいな。だが、やはり作り物だ……お前は五年前と全く変わらない」
「作り物なんかじゃない!」
 リコは反抗をしない子供だった。
 自分はダメだからと諦めて、何でも素直に受け入れてきた。
 でも、今は違う。
「リコは生きてるよ。これから、ちゃんと大きくなれるんだよ。お嫁さんにだって、なれるんだよ?」
「何を馬鹿な」
「ばかじゃないもん!」
 リコはバカじゃない。
 王子様がそう言ってくれたから。
「パパ、ママ、なんでリコに会いたいって思ったの? そんなこと言うため?」

 リコは本当に嬉しかったのに。
 やっとリコをちゃんと見てくれると思ったのに。
 でも、やっぱり何も見てないんだ。
 パパもママも、リコが学校でいじめられていたことを知らない。
 リコが何も言わなかったから。
 目に見えることしか見てなかったから。
 でも今は、目に見えることも見えてない。
 リコはちゃんと、ここにいるのに。
 がんばって生きてるのに。

「お前を、成仏させるためだ」
 父親は言った。
「お前の存在は自然の摂理に反する。死んだものは二度と生き返らない。再び動き出すとしたら、それは……ゾンビだ」
「さようなら、莉子ちゃん。紛いものでも……最後にお話できて嬉しかったわ」
 そう言うと、両親は脇に退くように一歩下がった。
 その背後から、あまり人相がよろしくない三人の男が現れる。
「ちぃーっす、俺らご両親に頼まれてさ」
「お嬢ちゃんを退治しに来た、みたいな?」
「不要な存在を狩るのが俺達の仕事でね」
 天使や悪魔とはケンカをしないことに決まったようだ。
 しかし、世の中にはそれを不服とする者も少なくなかった――特に、天魔との戦いで多くを喪った人々が休戦協定を受け入れる気になれないのは、当然と言えば当然だろう。
 さすがに天使や悪魔を相手に鬱憤を晴らすのは難しいが、その配下であるサーバントやヴァニタスならハードルも下がる。
 特にヴァニタスは死者を元に作られた存在ゆえに人々の嫌悪感を煽りやすく、何かと罪状をこじつけて狩るには格好の存在だった。

「瑠依子も悪魔に殺された。お前が姿を消した次の年に」
「お姉ちゃんが……!?」
 ぽつりと呟いた父親の目からは、光が消えていた。
「もう、私達には喪うものなど何もないのだよ」
 たとえ罪に問われたとしても、もうどうでもいい。
 そう言って、両親はリコに背を向けた。



リプレイ本文

「リコさんからSOSなの?」
 どういう事だろうと、香奈沢 風禰(jb2286)――カマふぃはカマ首を傾げた。
「リコさん、パパとママに会いに行くって言ってたなの」
「うん、とても嬉しそうだったんだよ?」
 私市 琥珀(jb5268)――きさカマも、首の代わりに緑色のカマを縦に振って同意を示す。
 リコは友達に会う度にその話をしていたらしい。
「よっぽど楽しみにしとったんやろな…」
 浅茅 いばら(jb8764)は応答のない携帯端末に視線を落とした。
 何が起きているのか見当も付かなかいが、とにかく急いで現場に向かう必要がある事だけは確かだ。
「…確か彼女自身、戦闘力低いんじゃなかったっけ?」
 身内や後輩から代わりに行ってほしいと頼まれた、礼野 智美(ja3600)が心配そうに呟く。
 リコの友達である三人は、詳しい状況がわからない所へ飛び込んで行けるだけの力はなかった。
「こういう場合は俺が行くのが確実だろうし、俺も知らない人じゃないし」
 もっとも、人助けに理由はいらない。
「ロゼさんはよく知らないけど、それは助ける理由には関係無いことよね」
 蓮城 真緋呂(jb6120)は、読みかけの本と食べかけの食事を置いて飛び出して来たようだ。
「救いを求める手を私は拒んだりしない」
「そういうことだな」
 アンジェラ・アップルトン(ja9940)が頷く。
 彼女もリコとは直接の面識はなかった。
 しかし種子島での戦いではその名を何度も耳にしたし、かつてはその瞳に同じ姿を焼き付けていた同志でもある――リコは気付いていなかっただろうけれど。
「彼女には未来がある。それを…どんな形であろうと潰えさせるわけにはいかない」
 懐に忍ばせた写真に手を置いて、そっと呟く。
「必ず救う」


 転移装置で空き地の真ん中に放り出された六人は、胸元まで伸びた草むらに身を潜めた。
 リコのIDが示す位置を確認すると、その方角にピンクの髪が揺れていた。
 それを両側から押さえ付け、引きずるように歩く男が二人。
 少し離れて歩く一人は、手にした槍をリコの背に向けている。
 どう考えても、友好的なお誘いでは有り得なかった。
 空き地の外れに中年の男女が立っているが、その様子から共犯と見て良いだろう。
「喜んでたのに何でこんなことに!?」
 きさカマが声を潜めてカマを震わせる。
「とにかくリコさんを助けるんだよ!」
 オハナシは、まずリコの安全を確保してからだ。

 気付かれないように相手との距離を縮め、あと一手で掴みかかれる位置で足を止める。
 カマふぃがリコをその範囲に捉えるように四神結界を張った。
「何だ!?」
 足下から突然湧き出した結界の光に、男達は慌てて周囲を見る――が、その時にはもう身体に衝撃が走っていた。
 智美が槍の男に素早く近付き、その背に軍刀を振り下ろす。
 何が起きたのか理解しないまま、男は膝を折った。
「ってぇっ!?」
 振り向いた時には全力の追撃が目の前に迫っていたが、男はそれを銀色に光る障壁で受け止める。
「銀の盾…ディバか」
「くっそ、背中とか卑怯だろ!」
「どの口が言う」
 体勢を立て直した相手に、智美は冷たく言い放った。
「学園生狙ってる以上お前らは敵だ」
 正々堂々など野良ディアボロにでも食わせておけと、智美は容赦なく攻撃を続ける。
 智美の初手と同時に、アンジェラが掲げる銀のシンボルからは無数の星屑が光の奔流となって迸っていた。
 それはリコをすり抜け、二人の男だけを確実に捕らえる。
「行くなの!」
 殆ど同時に、鳳凰を従えたカマふぃが片方の男に蛇の幻影を絡み付かせた。
「リコさん! 今助けるなの!」
 予期せぬ衝撃に、リコを掴んでいた手が緩む。
「リコさんに何をするんだよー!?」
 きさカマはカマを振り回しながら突進、リコを神の兵士の範囲に入れた。
 傷付けさせはしないけれど、万が一の保険の為――そして男達の注意を惹く為に。
 案の定、きさカマを振り返った男達はリコを盾にしようとするが、もう遅い。
「助けに来たわ、ロゼさん。走れる?」
 死角からふいに姿を現した真緋呂がリコの手を引くと、拘束はあっけなく解かれた。
 そのまま、男達の手が届かない所まで走る。
「大丈夫? 怪我はない?」
 距離を置いて一息吐く頃には、男の手を離れたワイヤーも消え失せていた。
「ありがと、リコは大丈夫だよ!」
 口ではそう言うが、ワイヤーの跡に血が滲んでいる。
 だが処置に急を要するものではないと判断し、真緋呂は再びリコの手を引いた。
「皆と合流するまで、少し我慢してね」
 男達は二人に追いすがろうとしたが、真緋呂はその片方をフォースで突き飛ばして走る。
「リコさんに手は出させないなの!」
「どのみちリコさんいじめるつもりなんでしょ? そういう脅しは意味ないんだよ」
 残る一人にカマふぃが蛇を絡み付かせ、きさカマが行く手を塞いだ。
 白いカマで霊符を振りかざす白カマキリと、緑のカマをぶん回す緑のカマキリ。
「怒りのカマァァァ!」
 人は理解の及ばない事象に対して恐怖を感じるものだという。
 思わず逃げ腰になる男達、その目の前に、上空からいばらが降り立った。
 着地と同時に帽子を投げ捨て、二本の角を露わにする。
「大の男が三人もよってたかって…女の子一人に何するつもりやってん?」
 抑えた声で語りかけるが、トーンは別人のように低かった。
「こっちは久遠ヶ原や、あの子もきちんと手続きをして学園所属しとる。学園を敵に回してもええん?」
 どうやらそこは知らされていなかったらしく、男達の顔に動揺が走る。
 その背後で、カメラのシャッター音がした。
「彼が言う通り、その子の潔白は学園が保障済だ。種子島でも人類を守り、島民らも彼女と親しい。討てば貴様達は悪者だ」
 アンジェラは男達の姿を撮影したスマホを胸元でちらつかせる。
「このデータを学園に提出した瞬間から、貴様達は社会的な制裁を受ける前科者となる。私達の個人的な鉄拳制裁だけで済むうちに、手を引いたらどうだ?」
 だが、その挑発を一人の男が挑発で返した。
「だったらてめぇら全員ぶっ倒しゃ済むこった。そいつのご主人サマにヤラレたって事にすりゃ、和平とかホザいてる連中も目が覚めるだろうぜ」
 男は少なくとも魔法攻撃力ではアンジェラを上回っているらしい。
 相手から視線を逸らす事が出来ないまま、アンジェラは封砲を警戒して身構える。
「やってみろ、出来るものならな」
 だが直後、別方向から身も凍るような冷気と突風がアンジェラを襲い、咄嗟に防壁陣を張ったその身体を吹き飛ばした。
「後輩ちゃんがOBナメてんじゃねーっつの」
 その口ぶりからすると、彼等は久遠ヶ原の卒業生か。
 今の攻撃は恐らくダアトの「北風の吐息」――すると三人の専攻もこれで明らかになる。
「話し合いは決裂やね」
 いばらが一歩も退かない決意で前に出る。
 その間に、リコを連れた真緋呂は仲間達の後方に退いていた。
「もう遠慮はいらないなの! ボッコボコにするなの!」
 カマふぃは四神結界を張り直し、霊符で魔法を連発する。
 きさカマはまずリコの治療を終えてから、カマを振りかざしてガスガス攻撃。
 数の差と怒りのパワーに、三人はじりじりと追い込まれていった。
 逆転を狙ってリコを取り戻そうとしてみるが、それも真緋呂の薔薇の城塞で防がれ、毒の反撃を喰らう。
「手出しはさせない」
 そこに、アンジェラが手加減をしつつ追い討ちを掛けた。
「無害な者を害する暇があるなら、野良ディアボロやサーバントから守る戦いをしたらどうだ」
 別に慈悲の心が芽生えたわけではない、むしろ逆だ。
「気絶すれば痛みから解放されると考えたか?」
 薔薇の鞭が、躾のなっていない男どもを打ちすえる。
 反撃や逃亡の望みを根こそぎ奪った上で、智美が仕上げに一纏めにワイヤーで縛り上げ、タオルを口に突っ込んだ。
「舌を噛む程度の体力はあるかもしれないからな」
 そんな度胸はないだろうが、念の為だ。


「彼女は貴方達が力を振るって良い相手じゃないわ」
 何故こんな事をしたのかと、真緋呂が転がされた男達に尋ねる。
 発言を許された彼等が渋々答えている間に、アンジェラが共犯者を連れて来た――物腰はあくまで丁寧に、しかし決して逃がさないという無言の圧力と共に。
 二人の姿を見て、リコはいばらの背に隠れて身を固くした。
「大丈夫や、心配あらへん」
 リコにそっと声をかけて後ろ手にリコの手を握ると、いばらは一歩前に出る。
「リコのご両親ですね」
 それを聞いて、アンジェラは思わず息を呑んだ。
「何故だ、親は子を守るものだろう」
 それがあろうことか殺害を依頼するなど、常軌を逸している。
 だが、とりあえずこの場はリコと縁の深い者に任せ、アンジェラは沈黙を守った。
「な、何だ、お、お前達は」
 父親が震える声で問いかけて来る。
 雇った刺客をあっさり倒した者達に囲まれ、厳しい視線を向けられているこの状況では、恐怖を覚えるのも無理はないだろう。
「お騒がせしてごめんねなんだよ!」
 緑色のカマキリが、お願いポーズをしながらひょこひょこ近付いて来る。
 その絵面も別の意味でちょっと怖いかもしれないが、カマキリは気にしなかった。
「でも、落ち着いてお話を聞いて欲しいんだよ!」
 白のカマキリも加わって不思議な踊りを踊ると、心を癒やす暖かなアウルが辺りに満ちる。
 そのおかげか、両親はいくらか平常心を取り戻したようだ。
「うち、浅茅いばらっていいます」
 人前では決して脱がない帽子を手に持って、いばらはリコの現在を語って聞かせた。
 今は学園で高校生活を楽しんでいる事、毎日笑顔で生活している事…そしてリコが自分にとって大切な存在である事も。
「ご両親にお伺いさせて貰うけど、貴方たちの娘の「莉子」は、笑顔でしたか、幸せでしたか」
 リコは両親の前では明るく振る舞っていたという。
 彼等はその芝居を見抜けなかった。
 見ようとしなかった。
「行方不明になった時、どうして帰ってこないか、どれだけ探したんですか」
 今も見ていない。
「学校での話などをきちんと聞いてあげていましたか」
 会話は大事なコミュニケーションなのに、それすらも成立していなかったら――
「過ぎた事だ。もう取り返しは付かん」
 父親が答える。
「娘は死んだのだ」
 その言葉に、カマふぃが爆発した。
「リコさんはリコさんなの! 魂は本物なの! 前のリコさんと違うように見えるのならそれはリコさんが色々な事を経験して成長したからなの!」
 カマふぃは今まで撮り溜めてきた記念写真を見せる。
「パパさんとママさんはリコさんを愛していないなの? 愛しているのならどんなだって愛せるのが親なの!」
「だからこそ、こうして成仏させてやろうと――」
「それは違うんだよ!」
 今度はきさカマが爆発する。
「リコさんは確かに一回死んじゃったけど今こうして生きてるんだよ」
 穏やかな青い光をたたえていた瞳が金色に染まった。
「娘の莉子さんとは違うって言うなら貴方達にリコさんをどうこうする権利は無いんだよ。それでもリコさんをどうにかしたいって言うなら僕はそんな傲慢な事は絶対に許さないんだよ!」
 これ以上リコを傷付けるならたとえ両親でも容赦はしない、金色に光る瞳がそう語る。
 しかし両親は心の耳を塞いだまま、誰の話も聞こうとしなかった。
「リコは生きている」
 ならば本人の口からと、アンジェラがリコの背を押す。
「リコ、今までの事全部話してやるんだ、主が知る由もない遠い昔まで」
 そうすれば、その記憶が確かに本人のものであり、ここにいるリコが本人だと知れるだろう。
 しかし、リコは首を振った。
「ありがと。でも…もういいよ。ほんとのこと知ったら、ママ倒れちゃいそうだし」
 両親は全てを悪魔のせいにする事で、自分達の心を守って来たのかもしれない。
「成仏って、別の世界で幸せになることでしょ? だったらリコはちゃんと成仏したよ」
 だから、もういい。
「今のリコを認めてくれなくても、そっとしといてくれるなら――」
「本当に、それでいいの?」
 真緋呂の声が刺さった。
 リコがヴァニタスになった理由。
 両親への本当の気持ち。
 全て吐き出して互いにぶつけ合い、本音を知り合わない限り、その解決はその場凌ぎでしかない。
 とは言え、ここで急に腹の底までさらけ出せというのも互いにとって酷な話だろう。
 だから、今は「いつか」の為に。
「大切な人を取戻せるなら、私はゾンビだって構わない」
 真緋呂は誰にともなく呟いた。
「想い出を抱いて、私を、未来を想ってくれるなら…それは“大切な人”そのものに変わりないもの」
 本当に、大切な人ならば。
「貴方達は嬉しいという気持ちは無いのですか?」
 真緋呂は両親を正面から見据えた。
「未来を想い生きようとする彼女を、紛い物だと片付けてしまうのですか?」
「しかし、それは悪魔の手先なのだろう!?」
 父親の言葉は一般的には正しい――が、リコには当て嵌まらなかった。
「駒にする為ならリコの手はとっくに血で汚れている」
 アンジェラが首を振る。
「種子島はリコがいなければ違った結末だったかもしれない。彼女のお陰で先手を取り、敵戦力も殺ぐ事ができた。世に誇れる立派な娘さんだ」
 それでも誇る事が出来ないと言うなら、その原因は自分達にあるのではないか。
「そもそも、リコをちゃんと見てやった事があるのか?」
 娘という記号ではなく、莉子という一人の人間として。
 人ならざる者も、きちんと知れば人と変わりないとわかるし、愛する事も出来る。
 彼等に欠けているのは愛情ではなく、知ろうとする努力なのではないだろうか。
「娘が天魔になっていたら…確かに世間体に響くやろねぇ」
 いばらがぼそりと呟く。
 世の中には子供を装飾品か何かのようにしか見ていない親もいる。
 残念ながら、彼等もそうなのだろう。
「でもだからって、退治していい理由にならん。娘の幸せを一番に願ってあげて欲しい…成仏ではなく、幸せを」
 それが出来ないなら、もう関わらないでほしい。
「うちがリコの家族になりますから」
 いばらの指にはリコとお揃いの指輪が光っている。
 それはリコが肉親と結ぶ事が出来なかった、絆の証。
「リコはずっと独りのこと多かったから、本当に嬉しそうに出かけたんです」
 最後にそれだけ知っておいてほしい。
 そう言い残して、いばらはリコの手を引いた。
 もう片方の手を白いカマがそっと握る。
「受容れるのが難しくても、彼女の未来を奪わないで下さい」
 軽く会釈をして、真緋呂が言った。
「ロゼさんは生きているのだから」
 冥魔によって家族と故郷を喪った自分も、ずっと冥魔を憎んでいた。
 けれど、冥魔全てが憎むべき相手でないとも知った。
 知る為には多くの時間と経験が必要である事も。


 いつかまた、家族になれる日が来るだろう。
 リコがリコである事を、彼等が知ろうとするならば――


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
華麗に参上!・
アンジェラ・アップルトン(ja9940)

卒業 女 ルインズブレイド
種子島・伝説のカマ(白)・
香奈沢 風禰(jb2286)

卒業 女 陰陽師
種子島・伝説のカマ(緑)・
私市 琥珀(jb5268)

卒業 男 アストラルヴァンガード
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
Half of Rose・
浅茅 いばら(jb8764)

高等部3年1組 男 阿修羅