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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/06/21


みんなの思い出



オープニング


 とある少女(8歳)の手紙


 わたしのお父さんは、とてもやさしくてかっこいいです。
 おしごとがない日には、いつもわたしとあそんでくれます。
 お母さんがだめっていうおかしやおもちゃも、お母さんにはないしょだよって買ってくれます。
 でも、お父さんのないしょはすぐにお母さんにわかっちゃって、いつもしかられてしょんぼりしています。
 わたしは、そんなお父さんがだいすきです。

 でも、ひとつしんぱいなことがあります。
 お父さんは、おなかが大きいのです。
 お母さんは太ってるだけよってわらっていますが、わたしはちがうと思います。
 だって、おなかのほかは、そんなに大きくないのです。

 もしかしたら、おなかに赤ちゃんがいるんじゃないと思ってお母さんにきいたら、男の人は赤ちゃんをうめないよってわらわれました。
 でも、わたしはこのあいだテレビのえいがで見たのです。
 えいがに出てきた男の人は、おなかの中にかいぶつのタマゴがありました。
 それがどんどん大きくなって、男の人のおなかをやぶって、かいぶつの赤ちゃんがうまれてきたのです。

 えいががつくりものだっていうのはしってます。
 でも、てんまとかだったら、そういうことができるかもしれません。
 お父さんのおなかから、てんまの赤ちゃんがうまれてしまうかもしれません。

 わたしは、いもうとがほしいです。
 でも、かいぶつみたいないもうとだったら、かわいがってあげられないとおもいます。
 それに、えいがの男の人はおなかをやぶられてしんでしまいました。

 お父さんがしんでしまうのはいやです。
 しなないように、たすけてほしいです。


 ――――――


「……と、こんな内容の手紙が送られて来たのですが……」
 斡旋所の職員は、ファンシーな便せんに拙い字で綴られた手紙を読み終わると、困ったように生徒達を見た。
「これ、どう考えてもただのメタボですよねぇ」
 とは言え、差出人の少女は真剣だ。
 父のお腹に天魔のタマゴが産み付けられたのではないかと本気で心配している。
「正直、撃退士の管轄ではありませんし、どうにかしてくれって言われてもどうにもならないと思うんですけど……」
 しかし、頼りにされたからには何とかしてやりたいと思うもの。
 メタボ解消という真の意味での解決には父親本人の努力と周囲の協力、そして時間が必要だろう。
 その方面は医療機関にお任せするとして、この場合に撃退士に出来ることは何だろうか。
「この子の気持ちに寄り添いながら、この子なりに納得できる形で安心させてあげられると良いのですが」

 そんなわけで、アイデア募集!



リプレイ本文


「お姉さん、おっぱいに赤ちゃんいるの!?」

 それが、月乃宮 恋音(jb1221)と対面した少女の第一声だった。
 だとすると片方に一人ずつ、双子ということになるが――
「……いいえ、これはぁ……」
 可愛くラッピングした、お土産のクッキーを差し出した形のまま、恋音の動きが止まる。
 どうしよう、おっぱいのインパクトが大きすぎて他に目が行ってない。
 これはもういきなり本題でいい、と言うか本題に入らないと好奇心で破裂しそうだ。
「……あの、実はですねぇ……私も留美さんのお父様と同じなのですよぉ……」
「えっ、じゃあやっぱりおっぱいに赤ちゃんが!?」
「そうじゃないほえ〜」
 同行していた満月 美華(jb6831)が、のっそりと少女の前に屈み込む。
 美華はおっぱいもお腹も大きい、と言うか全体的にデカい。
 その圧倒的な迫力に思わず後ずさりをしつつも、少女はその巨体から好奇心に満ちた目を逸らすことが出来なかった。
「私のこれも、原因は同じなの。イタズラ好きな天魔のおかげで、こうなってしまったのですよ」
「イタズラ?」
「……はい、その天魔は体内のエネルギーを乱して体の出っ張りを誇張させる術を扱うのですぅ……」
「たいない? こちょー?」
 しまった、言い回しが難しすぎたか。
「つまり、膨らみやすいところを膨らませて楽しんでいる、ということですね」
「そっか、だからおっぱいとお腹なんだ! 男の人はおっぱいないから、だからパパはお腹だけ……あれ?」
 納得しかかった少女は、恋音の腹部を見る。
「お姉さんは、なんでおっぱいだけ?」
「……これはですねぇ……その方の体質によって術の影響の出方が変わってくるのですよぉ……」
「んと、お姉さんはおっぱいが膨らみやすかったってこと?」
「……そういうことに、なりますねぇ……」
 でも大丈夫、これ以上は大きくならない……多分。
 恋音の場合はまだまだ成長期の可能性もなくはないけれど、今はそういうことで話を合わせておく。
「……その天魔はとても悪戯好きですが、命の危険を伴うような危ないことはしませんのでぇ……」
「死んでしまうようなことはない、ということですね。赤ちゃんが生まれることもありませんよ」
「ほんと!?」
「……ええ、変化を起こした時点で術の効果も終了していますのでぇ……それ以降の問題は殆どありませんから、基本的に安心してよいかとぉ……」
 ただし、一度効果を発揮してしまったものを元に戻すのは難しい。
 悪い魔法使いをやっつけたら元に戻ってめでたしめでたし、というわけにはいかないのだ。

 そこに、実にタイミング良く現れるボロボロの二人組。
「いやー、ミハイル君、本当に手強い奴でしたねー」
「ああ、妙な悪戯をするだけのくせに、稀に見る強敵だったぜ……」
 袋井 雅人(jb1469)とミハイル・エッカート(jb0544)は、つい数分前まで死闘を繰り広げていた。
 まずは100均ショップで「天魔のもと」を買い漁り、次に特殊撮影の美術スタッフも顔負けの加工を施し――
「でもイタズラ天魔はきっちり退治しましたよ!」
「これがその証拠だ……おっと、触るなよ? 天魔の影響が残ってるかもしれん」
 二人は天魔が身に着けていたという気味の悪い仮面と、ボロボロのマントを掲げて見せた。
 言われなくても、少女は恋音と美華の後ろに隠れて近寄ろうともしない。
 よかった、加工技術に自信はあるが、じっくり見られたら化けの皮が剥がれる危険が……なんたってパーティーグッズの変なお面と、雅人が持っていた戦神の黒衣を加工しただけの代物なのだから。
「安心しろ、奴にはもう何も出来ない。今から撃退庁に届けて褒美を貰ってくるからな」
 そう言って、二人の撃退士は颯爽と踵を返した。

「じゃあ、もうパパは大丈夫? 治る?」
 その背を見送り、少女はおずおずと尋ねる。
「……はい……ただ先ほども言った通り、何もせずに元に戻ることはありませんのでぇ……」
 直後、美華が大きな身体を二つに折り曲げた――と思ったら、あっという間にスレンダーボディに!
「お姉さん、術が解けたの!? じゃあやっぱり、天魔を倒せば……あれ、でも……」
 おっぱいのお姉さんは、そのままだ。
「私、実は悪魔なんですよ」
 スリムになった美華が微笑む。
 本当は正真正銘の人間だが、依頼の円満解決のためなら多少の脚色も必要ということで。
「ですから、こうして瞬時に術を解除することが出来たのです」
「……ですが、私も留美さんのお父様も普通の人間ですのでぇ……」
 付いたお肉は地道に減らすしかない。
「……私もお父様も、状態としては一カ所だけが肥っているのと同じ形ですので……このままでは肥満同様の悪影響が出る可能性がありますねぇ……」
「太ってるのは身体に良くないって、留美ちゃんも聞いたことあるでしょう?」
「……ですから、お父様にはダイエットをしていただくと、より安心でしょうねぇ……」
 そう言って、恋音は渡しそびれた動物型のクッキーを動く乳牛のぬいぐるみに持たせて差し出してみた。
「……例えば、こういうもので……」
「わぁ、美味しそう!」
 喜んで受け取った少女は、そこにおからが入っているとは気付かない。
 こうして、好物の材料をカロリーの低いものに置き換えるだけでも効果はあるだろう。


 一方、雅人とミハイルはその足で少女の自宅へ赴く。
 そこには既に、ユウ(jb5639)と真里谷 沙羅(jc1995)の姿があった。
「留美さんの為にも、お父さんの健康の為にもダイエットを頑張って成功させなくてはいけませんね」
 ユウに言われて、父親は自分の丸くなった腹を見下ろす。
「やっぱり、ちょっと目立つかな」
 だが、それはどう見ても「ちょっと」というレベルではなかった。
「内臓脂肪型肥満か。近い将来に成人病まっしぐらだな、かなりヤバイぜ」
「そんな、脅かさないでくださいよ」
 父親が「大袈裟だなぁ」と微笑んでみせるが、ミハイルの頬は緩まない。
「危機感を持ったほうがいいぞ。まずは病院で半日人間ドックだ」
 難色を示す父親に、沙羅がやんわりと釘を刺した。
「お父様の事を心配する心優しい娘さんですね。そんな娘さんを心配させてはいけないわ……」
 そんな風に言われて心を動かさない父親はまずいない。
「奥様も見た目は気にしないと言っていますが、ダイエットが成功して今よりもっと格好良くなったら、きっと喜んでくれますよ?」
 ますます自慢の旦那様になって、今よりラブラブになるかも。
「素敵な旦那様というのはとても嬉しいですから……」
 ちらりとミハイルを見て微笑む沙羅と、それを受けて満面の笑みを浮かべるコワモテはーふぼいるど。
 この微笑みのためならプリン断ちも辞さない……いや、プリンは食べたいから地獄のブートキャンプも辞さない構え。
 しかし一般人にそれは無理だろうし、父親の苦しそうな様子を娘に見せるわけにはいかない。
「楽しくダイエット出来るように工夫しますから、まずは一度きちんと病院で診てもらいましょう?」
 聖母の如き慈愛の笑みをもって言われれば、ミハイルならずとも断ることは出来なかった。

 さっそく病院に飛んで行き、体重、腹囲、内臓エコー、尿検査、体脂肪率――すぐに結果が出る項目だけでも赤信号は一目瞭然。
「これでわかっただろう。夫婦ともども、重く受けて止めてくれ」
 医師からも減量が必要と言われれば、さすがに呑気に構えてはいられなかった。


 そして始まるダイエット大作戦。
「パパ、頑張ってね! 天魔のイタズラなんかに負けちゃだめだよ!」
 沙羅の提案により、両親とは口裏を合わせてある。
 前に風貌の少し怪しい人に道を聞かれた事があったが、何もおかしな事はなかったように感じたため家族には話していなかった――と。
「いやぁ、まさかあれが天魔だったとはなぁ」
 台詞がいささか棒読みだが、娘は気付いていないようだ。

「さて、まずは何からはじめましょうか!」
 雅人は張り切っているが、実はこれといってやることがないノープラン。
「みんなーなんでも気軽に私に御用を押し付けちゃって下さいなー」
「なら一緒にぼけもん探しにでも行くか、大勢のほうが賑やかで良いだろう」
 ミハイルがスマホの画面を見せながら言った。
「良いですね、私もやってますよ!」
 彼等の言う「ぼけもんGO」とは、今はやりの健康用スマホアプリである。
 普通にゲームとしても楽しめるため、大人から子供まで幅広い人気を集めていた。
「ボケーっとした風貌の愛らしいモンスターを探し歩いて、見付けたらボールを投げてゲットするんだぜ」
 ミハイルはアプリのDLを手伝いながら父親に説明する。
「まずは自分で覚えて、詳しくなったら奥さんや娘にも教えてやるといい」
 夫婦揃って楽しめば会話も増えて一石二鳥、子供も巻き込んで家族で楽しめばダイエットには見えないだろう。
「歩いてモンスターを見つけろ、そして体重を落とせ」
 減った体重の分だけ幸せが増えるぞ!

 彼等が出かけた後、奥さんと娘は台所へ。
 これからユウと沙羅の「ダイエット料理教室」が始まるのだ。
「ダイエットには食事も大切ですからね」
「それに続かなくては意味がないですし、過酷にし過ぎて留美さんが心配してはいけませんから」
 というわけで、まずは沙羅特製カロリー控えめのスイーツの試食会。
 手土産に持参したカッテージチーズケーキと、焼きココアドーナツを、脂肪を落とすと言われるお茶と一緒にいただいてみる。
 ケーキはカッテージチーズとプレーンヨーグルトでカロリー半分、ドーナツは卵と小麦粉を使わず、おからと豆腐、上新粉で作ったヘルシーな一品だ。
「これもおから入ってるんだ、おっぱいのお姉さんにもらったクッキーもすごく美味しかったけど、これも美味しいね!」
 どうやら恋音の呼び名はすっかり定着してしまったようだ。
「でも、おからって何?」
「豆腐を作る時に出る絞りかすのことですよ」
 沙羅は実物を見せてみる。
「え、美味しくなさそう」
「確かに味は殆どありませんね。だから何にでも使えて、色んな味に出来るんですよ」
「後でおからを使ったハンバーグも作ってみましょうか」
 沙羅がスイーツ担当ならユウは毎日の食事担当。
「お肉を使わなくても美味しく出来ますから、ダイエットメニューには丁度良いですね」
 ただ、まず最初に普段の「家庭の味」を知っておきたいところ。
「家族の味やいつもの食事の量から大きく変わり過ぎてしまうと、口に合わないこともあるでしょうし」
 量が足りずにこっそり外食、という危険もなきにしもあらず。
 そうならないためにも、なるべく味を変えずに低カロリーの油や低カロリーの代替品を使った料理を提案したいところ。
「低カロリーの代替品を使うと一言で言っても作る量に合うかもありますし、なかなか大変ですね」
「そうねぇ、計量とかめんどくさいし」
 どうやらこの奥様、料理は目分量で適当に作る派らしい。
 慣れた料理ならそれで構わないだろうが、ダイエットメニューでそれはちょっと困る。
「そこは頑張っていただくしかありませんね」
 メタボが進行して糖尿病にでもなったら、もっと面倒な計算と食事の管理が必要になるのだから。
「仕方ないなー、頑張ってみるかー。あ、でもビールは? やっぱり禁酒?」
「いいえ、そこまでする必要はないと思いますよ。カロリーオフのビールもあるそうですし」
 そんなお喋りを楽しみながら、ユウはレシピを作っていく。
「朝昼晩それぞれのメニューに、お弁当用も……いくらお家で頑張っても、お昼に外食してしまっては効果がありませんから」
 たまには良いけれど、基本的にカロリーと塩分、油分が多い外食はダイエットの天敵だ。
「その分、家計も助かりますしね」
 余ったお金で頑張ったご褒美のちょっと豪華な家族旅行、なんていうのも良いかもしれない。

 ユウが母親と一緒に試行錯誤している間、沙羅は娘に簡単なダイエットスイーツの作り方を教えつつ、自分でも新たなスイーツを作ってみる。
 それが完成したところで、タイミングよく「ぼけもん」組が帰って来た。
「美味しそうな匂いですね! 試食ならお任せください、ピーマンでも何でも喜んで引き受けますよ!」
「待て、沙羅のスイーツは俺が先だ」
 雅人と先を争うように手を伸ばしたミハイルは、カロリーオフのプリンをぺろり。
「こんなに美味い物を食べて体重が減るんだ、天国だな!」
 ちょっと羨ましい。
「まあ、俺のような鋼鉄の腹筋を目指すのは難しいだろうが、そこそこ良い線はいくだろう」
 そうなれば奥さんの旦那を見る目も違ってくるだろうし、夫婦仲も更に良くなるに違いない。
 それを聞いた雅人が言った。
「留美ちゃんは可愛い妹が欲しいそうですよ。留美ちゃんのお父さん、お母さん、頑張って下さいね!!」
 今回は依頼者が子供ということで、空気を読んでラブコメ仮面は泣く泣く封印中の雅人。
 つまり見た目は真面目で実直そうな好青年であり、そんな爽やか系紳士が下ネタを振るはずがない――そう好意的に受け止めるのが人の常だ。
「皆さんは、もし自分が親になったら子供は何人欲しいですか? 家族計画とか考えてます?」
 仲間にも話を振ってみるが、さすがに返事はない。
「あっ、こういう時はまず自分から言うべきですよね!」
 いや、そういう問題でもない気がするんだけど。
「私の理想の家族計画は、愛する妻にその妻の姉と妹に息子二人に娘二人に猫一匹の大家族ですよ!」
 息子二人に娘二人というのは、久遠ヶ原学園を舞台にしたとある小説に登場する、未来からやって来る自分の子供達の設定を元にしているらしい。
 それを聞いていた仲間達は、見事なスルースキルを発揮したけれど――


 かくして、一家をあげたダイエット大作戦が開始される。
 玄関ドアの内側には沙羅の手になる「普段からできるダイエット5カ条」なる紙が貼られていた。

 即ち、
 エスカレーターやエレベーターを使わずに階段を使うこと
 電車に乗ったら立っておくこと
 いつもより早く歩いてみること
 腹式呼吸をすること
 姿勢を正すこと

「簡単な事ですが、積み重ねて行けばきっとダイエットは成功しますよ」
 娘さんの為にも頑張りましょうと、そんな沙羅の言葉を思い返しつつ――



 一ヶ月後
 空き時間を利用して足繁く様子を見に通っていたユウは、父親の様子に僅かな変化を見付けた。
 見た目は殆ど変わらないが、足取りが軽やかになっている。


 三ヶ月後
 見た目もだいぶスッキリ、おまけに奥様までスリムになって若返るという嬉しい副作用。
「あと少しです。頑張って下さい」
「そうだな、これはもう頑張るしかない!」


 半年後
「どうですか?」
 その問いに、母親より先に娘が答える。
「私、もうすぐお姉ちゃんになるの! 妹が生まれるんだよ!」
 まだわからないけれど、絶対に妹だ――そう言って、少女は満面の笑みを浮かべた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
チチデカスクジラ・
満月 美華(jb6831)

卒業 女 ルインズブレイド
Eternal Wing・
サラ・マリヤ・エッカート(jc1995)

大学部3年7組 女 アストラルヴァンガード