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マスター:STANZA
シナリオ形態:イベント
難易度:やや易
参加人数:25人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2016/12/26


みんなの思い出



オープニング



 久遠ヶ原の人工島、その一角に大きなモミの木がある。
 幹は一人では到底抱えきれないほど太く、高さは20mほどあるだろうか。
 それが生徒達の手によってクリスマスツリーとして飾られるようになってから、今年で四年。
 もちろん今年も、それは綺麗に飾り付けされることになっていた。

「今年もよろしくな」
 門木章治(jz0029)は、そのゴツゴツとした幹に手を触れる。
 去年は事情があって不在だったが、今年は何事もなく――いや、ないことはないし、天魔との戦いも大詰めを迎えているのだが。
 門木の周辺に限って言えば、今のところは目立った動きも危険な兆候も見られなかった。

 このまま静かに時が過ぎるのか、それとも嵐の前の静けさか。
 恐らくは後者なのだろうが、ならば尚更、出来る時に楽しまなくては。

「さて、今年はどうするかな……」
 二年目からは、ひとつのテーマを決めて楽しんでいた。
 一昨年は皆で編んだものを繋げたマフラー、去年は雪だるま。
 今年は何が良いだろうか。

「当日はまた雪になりそうだし、この季節は花も少ないし……ここは敢えて花で飾ってみるか」
 生花でも造花でも、折り紙の花でも何でもいい。
 真冬には咲かないカラフルな花たちで首飾りならぬ幹飾りを作ってみるのはどうだろう。
 花のない季節、モミの木に花を咲かせるのも悪くない。


 といわけで。
 今年も皆でツリーを飾りませんか?



リプレイ本文

●前日まで

「あれ? あけびさんに藤忠さん?」
「お二人ともお店のロゴが入ったエプロンを着けていらっしゃいますが…」
 いつもの花屋を訪ねたクリス・クリス(ja2083)と真里谷 沙羅(jc1995)は、思わぬ所で顔を合わせた二人の姿に目を丸くした。
「あっ、クリスちゃん! 沙羅さんもこんにちは!」
「いらっしゃい」
 その二人、不知火あけび(jc1857)と不知火藤忠(jc2194)は、花を買う資金を調達する為に少し前からここで働かせて貰っていたのだ。
「バイト代だけじゃ少し足りないんだけど、お願いしたらオマケしてくれるって。店長さん良い人だよね!」
 あけびは随分と店長に可愛がられているようだ。
 その彼女に「お願い」されれば、首を横に振るのは難しいだろう。
「まったく、お前のコミュ力の高さには毎回驚かされる」
「姫叔父だってエプロン姿が大人気じゃない、それ目当てで買いに来る人結構いるよ?」
 それはともかく、商売商売。

 クリスは大きなポインセチアの鉢植えを指さした。
「聖夜を彩る花って言ったら、やっぱりこれだよねー」
「うん、でも寒さには弱いんだって。温室でも用意できれば良いけど…」
 バイトのお陰で花に関する知識も増えたあけびが答える。
 クリスマスの象徴みたいな花なのに、ちょっと意外。
「それなら、お外に飾るのは可哀想だね…。うん、じゃあ今回は違う方法考えるね。教えてくれてありがとー」
 沙羅が選んだのは、クリスマスカラーのカランコエ、クリサンセマム、プリムラ等の小さな鉢植え。
「パーティが終わったら皆さんに持ち帰って頂こうかと思って…」
 でも少し予算オーバーかな?
「クリスさんと一緒に行けばおまけしてもらえるかしら、なんて思ったのですけれど」
「うん、交渉はボクに任せてー」
 という事で店長さんに突撃、無事にオマケして貰いました!
「じゃあ、お仕事頑張ってねー♪」

 花屋を後にしたクリスは、ミハイル・エッカート(jb0544)に頼まれた電飾を買いにおもちゃ屋へ。
「こんにちはー、この電飾下さいー」
 手渡したメモには、花の形のイルミネーションを作る為のパーツとなる色とりどりのLEDライトの品番が書かれていた。
「え、予算オーバー? そこを何とか…」
 お店の名前イルミネーションでピカピカ光らせるよ、すっごく目立つよ、良い宣伝になるよ!
 広告費だと思えば安いと思いませんか!
「あ…この赤ランプの電飾、ボク買いますー」
 こっちはちゃんと定価で買うから、という事で交渉成立。
 やっぱり可愛い女の子にお願いされたら嫌とは言えないよね♪


 同じ頃、蓮城 真緋呂(jb6120)は大きな袋を抱えて商店街をハシゴしていた。
 サンタさん?
 いいえ、配る側ではありません。
 そう、去年に引き続き、いらない布きれを貰いに来たのです。
「今年は友達と一緒にキルトで花の飾りを作るの」
 樒 和紗(jb6970)は着なくなった着物を解いて持って来てくれるそうだ。
 そうして集めた布きれをパッチワークで長く繋いで、その中にキルトで色とりどりの花を咲かせて。
「布ならば、雨に濡れても壊れる事はありませんしね」
 さて、どんな花を咲かせようか。
「華やかだけど温かい感じにしたいの」
「それなら…冬の花に限らず、四季折々の花を散りばめるのも賑やかで良いかと。この木は四季を通じて島を見守っているのですから」
「そうね、それが良い」
 二人でデザインを決めて、一針一針丁寧に。
 手間はかかるけれど、手作業だからこそ、そこに作り手の想いを込める事が出来る。
 真緋呂の『想い』が、キルトを形作っていく。

 どうかこのまま手を取りあえる未来になりますように
 大切な人達が笑顔でありますように
 『私の未来』が見えますように

(…まだ、どうしたいのか分からないから)

 そんな真緋呂の様子を、和紗は手を動かしながらそっと見守っていた。
 ハロウィンの夜からずっと何か考えている様子だけれど、答えは自分で見付けるものだと思うから。
 口を出さずに信じて見守るのも、友達の務めだろう。


 茅野 未来(jc0692)は例によって悪魔っ子シャヴィを召喚し、一緒に百均へ。
 目当ては赤いポインセチアの造花と金色のリボンだ。
「クリスマスのお花…はっぱ? なの、ですね…シャヴィくんもいっしょにかざりつけしませんか、です…」
「うん、いいよ」
 あっさり頷いたシャヴィは、どうやらクリスマスが何かという事くらいはわかっている様子。
「よかったの、です…」
 ほっとしたように、未来は頷く。
「赤、とってもきれいなの、です…シャヴィくんは何色がすきなの、です…?」
「僕は…んー、黄色とかオレンジとか、ピンクも好きかな」
 どれも魔界では余り見ない色だから、らしい。
 買い物が終わったら、次は短冊に願いを書き入れて。
「おねがいごと、書いてかざるらしいの、ですね…シャヴィくんも書きますか、です…?」
 こくりと頷いてペンと紙を受け取ったシャヴィは、前にも見た未来の知らない文字で何事かを書き入れた。
「…ずっとこっちにいられたら良いなって」
 それは七夕の時と同じ願い。
「叶うかな?」
「かなうの、です…」
 未来の願いは叶ったから、シャヴィの願いもきっと。
 そして今度は料理の上達を願ってみる。
 ご飯は炊けるようになったけれど、おにぎりが三角になってくれない未来さんなのでした。


「学園に来て初めてのクリスマスね」
 華宵(jc2265)は去年までの記録を眺めながら、ツリーのおめかしプランを考える。
「んー、そうね,今年はお花で飾るってことだから…」
 思いついた。
「お誕生日会とかで作るティッシュのお花、あれを作ってみようと思うの」
 丁寧に形を作って、濡れても頑張ってくれるように防水スプレーをかけて。
「…内職仕事っぽくて結構楽しいわね」
 ふふっと微笑んで出来映えを見る。
 暇を見ては少しずつ作っていくうちに、花は大きな段ボールから溢れる程になっていた。


 学園の倉庫では、ユウ(jb5639)がひとり黙々とイルミネーションの点検修理を行っていた。
 昔ながらのペッパー球を使ったものは電球を交換するだけだから、部品さえあれば簡単に出来る。
 LEDは仕組みが違う為に修理が難しいが、そこは秘密兵器(という名の科学室への持ち込み)で対応すれば良いだろう。
「去年のクリスマスは忙しくて参加できませんでしたが、今年は何とか参加できそうですね」
 当日も頑張って参加しなくては…勿論、あの引き籠もりオカンも引っ張り出して。


「はいはーい、願い事を書いた人はこっちに持って来てねー」
 食堂では、大空 彼方(jc2485)が皆の短冊を集めてラミネート加工を施している。
 備品は学校にあったものをちょっと拝借…あ、ちゃんと許可は取りました!
「読まないから安心してね、読んでも良いなら遠慮なく読むけど」
 これで雨や雪に濡れても安心だし、後は各自で好きな所に飾ってね!

 後は藍那湊(jc0170)と一緒に不用品利用の透明キラキラ系オーナメントを大量生産して。
「付き合って最初のクリスマス、楽しもうね! 湊♪」
「そうだねー♪」
 ついでにLEDを仕込む白い造花を、これまた不用品でどっさりと。
「ほら、これ…揺れると綺麗な音がするんだよ♪」
 作った造花を軽く振り、湊がニコッと微笑む。
「あ、中に鈴入れたんだ! 良いね!」
 作り方を教わって、彼方も早速真似してみた。
「これはミハイル氏に提供するとして、後は…」
「こんなのも作ってみたよー」
 湊は甘菜の造花で作ったブーケを取り出し、それを大きな星飾りにセット。
「甘菜ってベツレヘムの星とも呼ばれてるんだよ」
 ベツレヘムの星とはつまり、ツリーのてっぺんに輝く星の事だ。
 それをブーケ状に仕立てて出来上がり。

 さあ、二人で飾りに行こうか。



●そして当日

 他の人達よりも早めに来た天宮 佳槻(jb1989)は、白いロープライトを用意していた。
 白なら他の飾りを邪魔しない、寧ろ全体の飾りを引き立たせる効果があるだろう。
「飛行できるとこういう時に便利だな」
 例によって鳳凰に手伝わせ――仮にも聖獣だとか、そんな事はもう気にしない――具体的には輪にしたライトを首にかけて運ばせ、そこから少しずつ引き出して幹に絡めていく。
 夜でもこの木がわかるように、空から願い事の存在がわかるように。
(僕は特に願い事もなくはしゃぐのも違う気がするけど)
 でも、こうしてひっそりと何かを輝かせて眺めるのは嫌いじゃない。
 まだ時間もあるし、後はどうしようかと下を見る。
 どうやら料理をする人もいるようだが、流石に時間が掛かるだろう。
 飾り付けにも途中で休憩が必要だろうし、ここは例によって温かい飲み物のサービスでもしてみようか。


 月乃宮 恋音(jb1221)は今年も料理担当だった。
 仕込みを終えた食材を会場に持ち込んで、早くからせっせと腕を振るっている。
 作るものはカラフルで可愛い手毬寿司のリースと、花飾りのカルパッチョサラダ、それに去年と同じタンドリーチキンに豚バラブロック、浅漬けと烏賊のマリネ、ミートローフのベーコン巻、小海老としめじのクリームパイも。
「…昨年は参加されていない方もいらっしゃいますので、同じものを再現してみましたぁ…」
 まるでパーティ本番のような豪華な品揃え。
 もしかして本番はこんなものじゃなかったり…します?


 逢見仙也(jc1616)は家にあった廃材のうち、割と綺麗なものを選んで会場に持ち込んでいた。
「眺めつつゆっくりやりますか」
 木の端材は適当な大きさに切り出して、接着剤を付けて組み立て、色を塗って機関車や家のオーナメントに。
 面白い形をした金属片は、磨いて尖った部分を削るだけでキラキラの飾りになるだろう。
 それが一通り終わったら、飾る前に料理だ。
「一服も大事ですからね」
 作るのは本格的な北京ダック…は、この場で作るのは無理だから家で焼いたものを持って来て、皆の目の前で削ぎ切りを披露。
 ケーキも同じく皆が見ている前で作り、一足どころか結構早いクリスマスのイベント的なノリのパフォーマンスで、胃袋だけでなく目も楽しませる。


「大きなモミの木ですね…樹齢はどれくらいなんでしょうね?」
 雫(ja1894)は、ゆったりと落ち着いた表情で樅の木を見上げていた。
 しかし実は、既に一仕事を終えていたのだ――野生の七面鳥を狩るという大仕事を。
 この島にそんなものが棲んでいるのかって?
 そりゃいるでしょう、だって久遠ヶ原ですもの。
「さて、これはどうしましょう」
 雫は片手にぶら下げた肉を見る。
 既に下処理を終えて、後は美味しく料理するだけなのだが――
「花にちなんだ料理ですか…サフランライス?」
 そこにコレを絡めるには?
「…七面鳥のお腹の中に入れる詰め物をサフランライスをメインにすれば良いかな?」
 よし、決まった。
 なおコンロとかオーブンとか、そんな文明の利器は必要ない。
 石を積んだり穴を掘ったり、それが雫のキッチンだ。


 やがて思い思いの飾りを持った者達が、一人また一人と集まり始める。

「やっぱりてっぺんには大きい飾りよね!」
 雪室 チルル(ja0220)は後ろにひっくり返りそうな勢いで、大きな樅の木を見上げた。
 どんなに背を逸らしても木のてっぺんまでは見えないけれど、多分まだ、誰も到達していない筈だ。
「あたいが一番乗りよ!」
 勢い込んでそう宣言してはみたものの――え、てっぺんの飾りは一番最後に付けるもの?
「し、知ってたわよそれくらい、だってあたいはかしこいんだから!」
 大きな星飾りを根元に残し、電飾の束を担いだチルルは枝や幹を傷付けないように気を付けながら、慎重に木を登って行く。
 梯子? 翼? 壁走り? そんなものはない。
 あるのは元気と体力、そして根性!
 かしこさ? 大丈夫、この作業が火気厳禁なのは知ってる!
 てっぺんから下に向かって降りながら、綺麗な螺旋を描くように巻いていく。
 最後にコンセントに挿して、スイッチオン!
「うん、良い感じに光ってるわ!」
 後は皆が飾り終えるのを待って、星を取り付けるだけだ。
 大丈夫、今日は寝ないよ、寒いから!


「決して枯れず、朽ちる事もない仮初の花…命を持たぬその身を、せめてこの老木の為に咲かせなさい」
 桜井・L・瑞穂(ja0027)は多種多様な布の切れ端を使って、色とりどりの造花を作って来た。
 え、防水対策?
「こんなに良い天気ですのよ? 絶対に濡れることはありませんわ」
 今が晴れていれば、この先もずっと晴れるという謎の確信。
「そんな事より、ご覧なさいな。わたくしが視覚芸術や舞台芸術、その他知識を惜しげもなく注ぎ込んで作り上げた、この美しい…」
 美しい、レースの付いた、とっても際どく過激な…ぱんちゅ?
「ファ〜リ〜オ〜!!」
 こんな事をするのはファリオ(jc0001)しかいないと、瑞穂は目尻を吊り上げてその華奢な身体をがっちり羽交い締めにすると、抱え込んだ頭をグリグリ。
「えー知らないですぅー。勝手に紛れていたんですぅー」
「嘘をつきなさい、こんな物が勝手に混ざる訳がないでしょう!?」
 ちっ、バレたか。
「花柄だし、テーマは花だから丁度良いと思ったんだけどなぁー」
 ほら、ちゃんと綺麗に花に見えるように丸めたし。
「知らない? バラの蕾にしか見えないパンティとか」
「知りませんわ!」
 ほんとは知ってるけど、ネットで見た事あるけど。
「油断も隙もありませんわね、まったくもう!」
 悪戯の罰として、この花を全部飾って…いや、それは危ない。
 またこっそり紛れ込ませるどころか、パンティの満艦飾とかされかねないし!
「飾り付けはわたくしがやりますわ」
「じゃあ僕は撮影係するねー」
 被写体は女性中心、勿論ネットで生配信するよ!
「撃退士による飾りつけ…これはアクセス数稼げるよ、ふへへへ」
 あれ、でもカメラをどこに向けても瑞穂さんが映り込むんですけど?
「当然でしょう? わたくしを撮らずに誰を撮ると言うの?」
「えー、それじゃアクセスがー」
「何か仰いまして?」
 いいえ、何も!


「おっ、あっちでも撮影会か」
 ミハイルは手持ちのビデオカメラを門木に託す。
「章治も手伝ってくれ。俺にとって学園における最後のクリスマス準備だ、格好良く撮ってくれよ?」
「最後?」
「ああ、学園を卒業して会社に戻るんだ。おい、そんな寂しそうな顔するなよ」
 来年もクリスマスするなら手伝うし、呼べばいつでも帰って来るぜ!
 ほら、願い事だってこれだ、「I'll be back」!
「沙羅はしばらく学園にいるのか?」
「私は休職中ですしどうしようか迷い中です。ミハイルさんといる事ができると嬉しいですが…」
「そうか。だがまだ時間はある。ゆっくり考えればいいさ」
 今はこのツリーを完成させないと。
 ミハイルは花の形に作ったLEDライトを手に壁走りで幹を登り、その重さを支えるのに充分な程に太い枝を選んで飾り付ける。
 その周囲には沙羅が作った生花の花飾りを添えて、所々にクリスが作ったポインセチアをセット。
「赤ランプの電飾に、花びら模したビニルカバー作って被せたの。それっぽく見えるでしょー?」
「ええ、とても良いアイデアですね」
 作業の様子を見上げながら、手の届く範囲にも花形イルミネーションを飾りつつ、沙羅が目を細める。
「とても綺麗、ミハイルさんはセンスも良いですよね」
「ありがとう。ついでに短冊も飾って来よう」
 沙羅の短冊には「縁を持てた全ての方の幸せを」、クリスの短冊には「樅の木さんがずっと学園の生徒と友達でありますように♪」と書かれていた。
 それをなるべく高いところに吊して――

「あけびは俺が昔本家に持って行った棚に飾る用のツリー位しか見た事ないんじゃないか」
 樅の木を見上げ、藤忠は感慨に耽る。
「…その後庭の立派な松にお手玉やら簪やら飾りまくって怒られていた気がするが」
「そういう事は思い出さなくていいから!」
 他にも余計な事を思い出されないうちにと、あけびはさっさと作業を始めた。
「これは腕が鳴るね!」
 バイト代+αで調達した色とりどりの薔薇で幹を埋めていく。
「恋人と来る人も多いだろうからね!」
「恋人達の気分も盛り上がるだろう。なぁミハイル、章治?」
 そう言って笑いながら、藤忠は大小の白薔薇をさり気なく飾っていった。
 波打つような配置で、暖かな色の電飾も絡めて――
「桜や藤も飾りたかったんだが、流石に生花は無理だからな」
 春になったら実物を見に行くとしよう。
「んー、ちょっと足元が寂しいかな?」
 少し下がって全体を見渡したあけびは幹の部分にも薔薇を敷き詰める。
「電飾のコードも隠せるし、冷たい風にふわっと香るのも良いね 」
 それを取り囲むように沙羅が小さな鉢植えを置いていき、これで根元の方は完成だ。
 頭上には電飾付きの服を着たヒリュウがふわふわ飛んでいる。
 それを呼び寄せた沙羅は、頭に赤や白の花や柊の葉で作った花飾りを留めてやった。
「おう、似合うじゃないか」
 次に召喚したフェンリルのルピナスにはもふらの着ぐるみを着せ、やはり頭には花飾り。
「はいはーい、ボクも撮ってー!」
 クリスはヤドリギの下のキスを真似て、ミハイルぱぱと沙羅のほっぺにちゅー☆
「樅の木の下では誰にキスしても良いんだよー」
 そんなルールはない?
 いいの、今作ったんだから!


「私はこれを飾るよ〜」
 ユリア・スズノミヤ(ja9826)は恋人の飛鷹 蓮(jb3429)と一緒に作ったガラスボールのオーナメントを飾っていく。
 シャボン玉に折り紙を閉じ込めたようなそれは、折り紙をユリアが作り、それを細いチェーンで吊して蓋をしたのが蓮という、二人の合作だ。
「これなら雨も怖くないよね〜☆」
 蓋の部分に結び付けられた花は千日紅。
「それは俺か。折るモチーフも選んだ花も、ユリアの個性が出ているな」
「うん、花言葉は色褪せぬ愛っていうんだよ〜」
「…光栄な花言葉だ」
 少し照れくさそうに、蓮は目を細める。
 他には白のてるてる坊主とストロベリーキャンドルの組み合わせ、青い鳥と撫子、薄紅の桜とルピナス。
 どれも自分と縁を結んでくれた大切な人達をモチーフにしてある。
 そして最後の一つ、薄紫の百合と鈴蘭の組み合わせはユリア自身だ。
 それを中心に、周りを大切な人達が取り囲むような配置で飾っていく。

 自分だけの特別
 想い出詰めて、楽しんで、そっと飾ろう
 皆に幸福が訪れますように

 蓮のオーナメントは手の平サイズの陶器で出来た動物型。
 それをペアにして、ユリアのオーナメントに添うように赤い紐で吊す。
 パンダは赤鷹と、青いハムスターは黒狼と。
「…パンダは強そうだがハムスターは食われそうだな」
 それと、もうひとつ。
 蓮はユリアには内緒で、ジャスミンで彩ったリースを用意していた。
「あ、良い香り〜」
「一緒に飾ろう」
 二人で手を添えて、手頃な枝にそれを飾る。
 その視界に友人達の姿が映った。


「花と聞いて! 実家から霞草をどーんと貰って来ました!」
「藍さんがリースを作ると聞いて、僕も黄色の薔薇を50本ほど」
 木嶋 藍(jb8679)の実家は花卉農家、本人は勿論その幼馴染である夕貴 周(jb8699)もタダ同然の値段で材料を手に入れていた。
「じゃあ早速作ろうか! でもその前にポカポカ生姜ミルクティーで温まろうね!」
「ありがとうございます…温かい、美味しいです」
 カップに注がれたお茶を一口飲んで、周は静かに微笑む。
「あなたはいろいろ知ってる。こういうの、自分じゃ飲まないです」
「そんな物知りって程でもないけど、言ってくれればいつでも作るよ?」
 あ、皆さんも良かったらどうぞ!
 身体が温まったら、作業を始めようか。
「何かを作ることは楽しいですね。丁寧に作りますか」
「くるくるって巻き付けてバランスよく…Σって、周くんはやっ、器用!」
 今丁寧に作るって言ったのに、丁寧にやっててそのスピードかと藍は目を丸くする。
 その間にも周は手を動かし、白い霞草の間に黄色い薔薇を編み込んでいった。
「黄色の薔薇綺麗だね。好きなの?」
 その問いに、周の手が止まった。
 一瞬逡巡し、首を横に振る。
「ただ白に映えるのでは、と思っただけです」
「うん、リースに飾るとかわいいね!」
 その花言葉は嫉妬。
 別にそんなつもりはない…筈だと思うけれど。
「あーちゃん、なんかあった?」
「え?」
「わかるよ、何年傍に居てくれたと思ってるの。大事な幼馴染の心配位させてよ」
 大事な、幼馴染。
 それ以上には、なれなかった。
「そうですね…淋しいのかな」
 敵わないなと言うように小さく微笑み、周は幼いころの呼び名で優しく呼んでみる。
「…。藍ちゃん」
 その髪に薔薇を一輪。
「…さて、惚気てもらいましょうか」
「えっ!?」
「“彼”をどうやって捕まえたんです?」
「の、のろけないし!?」
 しかし口ではそう言っても、真っ赤な林檎ほっぺが雄弁に何かを語っていた。
「姉が嫁いでいくときって、こういう気持ちになるのかな」
 破顔し、揶揄うように言う。
「お姉さんじゃないし嫁いでないし!?」

「雪のように澄んだ友情…素敵だねん」
 二人の様子を微笑ましげに眺めていたユリアが、そっと呟いた。


「色々と大きな節目だったようだけど、その前からずっと貴方は見守っているのね」
 華宵は樅の木に向かって微笑み、そのゴツゴツした幹にそっと手を添える。
「今年は私も宜しくね」
 そう挨拶してから、枝が寂しそうな所に手製の花を咲かせていった。


「こうやって実際に飾っていくと、一層気分も盛り上がって来るよね!」
「そうだね、クリスマスが近いんだなって実感が湧いてくる」
 佐藤 としお(ja2489)に声をかけられ、黄昏ひりょ(jb3452)は微笑みながら頷いた。
「気が付けば今年も残り僅かだなんて、その実感は未だにないけど!」
 言われてみればそうだと、ひりょは再び頷く。
 その手に握った短冊には「周りの皆が自然の笑顔でいられる日々」と書かれていた。
(これはもらえるものじゃなくて、勝ち取るもの・守り抜くものかもしれない。だからある意味願いでもあり自分の意思表示でもあるのかもな…)
 もう片方の手には、その日が来る前に病気で他界してしまった義妹の好きだったヒマワリの花。
 クラフトで作ったそれは、あちこちに苦労の跡が見受けられた。
 出来映えも我ながら不格好だとは思うけれど、苦戦しながらも完成に漕ぎ着けた分だけ想いはしっかり詰まっている。
(あいつの分まで生きるとか、そこまで背負うつもりはないけれど…。天から見守っていてくれよ? この戦い、最後まで必ず生き延びて見せるから)
 そう祈りつつ、高い枝を見上げる。
 なるべく天に近い所に飾りたいけれど、ひりょには翼も便利なスキルもない。
 その代わり――周りの人の手助けを借りる事は出来た。
 一人では無理でも、仲間の力を借りれば乗り越えられる――それは戦いでも日常生活でも同じこと。
 恥と思わず頼れる事も才能の一つと言えるだろう。
「飛行での手伝いが必要な子は、協力するから遠慮なく言ってね」
 その言葉に甘えて華宵の手を借りたひりょは、高い枝先にヒマワリを飾り付けた。
 決して下は見ないように気を付けながら、その近くに短冊も吊す。
 その意思を、天に向かって示すように。
「ありがとう、助かりました」
「いいのよ、困った時はお互い様って言うでしょ? それに私、皆の楽しそうな顔を見るのが好きよ」
 だから寧ろ礼なら自分が言いたいくらいだと、華宵は微笑んだ。
「頼ってくれてありがとうね」


「さあ、リュールさん。ツリーが待っていますよ」
 炬燵の魔力に囚われて動けないリュールを問答無用で引きずり出したユウは、これまた問答無用で修理を終えた電飾の束をその手に押し付ける。
 この人はこれくらい強引にしなければ動かないし、一度動き出せば結構乗り気で何でもやってくれるのだ。
「リュールさんは光の翼と物質透過を使えますか?」
「当たり前だろう」
 これでも元は大天使、基本スペックは高いのだ――やる気さえ出せば。
「では一緒にやりましょうね」
 翼で飛んで、既に飾られている花や飾りの邪魔にならないように位置を調整しながら電飾を巻き付けていく。
 物質透過を使えば樅の木も飾りも傷付けることなくそれが出来る。
「終わったら何か美味しいスイーツを食べに行きましょうね」
 そう言ってご機嫌を取るのも忘れずに――


「学園に来た最初の年から、毎年ツリーの飾り付けをしてきたわね」
 真緋呂は毎年変わらない姿を見せてくれる老木を見上げる。
「高1で入学してから…もう大学2年。早いなぁ」
 この木はいつも変わらずここにあるけれど。
(色々あったし、私も変わった。…でも、もう少し変わらなきゃ…この先も考えなきゃ…)
 そんな事を思いつつ、誰か手を貸してくれそうな人を探す。
 飛べる人に抱えて貰いたいけれど、流石にちょっと男の人は遠慮したいかも。
 女の子で飛べる人は――
「よかったら手伝おうか?」
 きょろきょろしていると、藍が声をかけてくれた。
 その手を借りて、他の飾りと喧嘩しないような位置にゆるく巻き付けていく。
 両端は風で動きが出るように、固定せずにそのまま下に垂らしてみた。
「ありがとう、助かったわ」
「どう致しまして」
 作業を終えて戻ると、和紗が温かいお茶とおにぎりを用意してくれていた。
「お疲れ様でした。お腹空いたでしょう?」
 微笑と共に差し出されたそれに遠慮なくかぶりついたけれど…足りないよね、多分。
 いや、絶対。
 でも大丈夫、そんなはらぺ娘さんの為に有志の皆さんがご馳走を作ってくれましたから。


 そんなわけで、ここらで少し休憩タイム。
「まずは温かい飲み物をどうぞ」
 いつものように鳳凰にトレイを持たせ、佳槻がドリンクを配って歩く。
 未成年者には柚子茶を、大人には梅酒のお湯割りを。
 テント下のスペースには様々な料理が並んでいた。
 仙也の北京ダックとケーキ、雫のサフランライス入りワイルドローストターキーに、としおのクリスマスでもやっぱりラーメン、それに彼方のおにぎりがどっさり。
 恋音の手毬寿司のリースはベビーリーフを敷いた上に鮪、サーモン、ハマチ、海老、いくらの手毬寿司をリース状に並べたもの。
 花飾りのカルパッチョサラダは薄切りのサーモンや生ハム、鯛を花のように巻いたものをそれぞれ小皿に載せ、紫玉葱やレタスなどの野菜類の上に並べてある。
「仙也君、これ紅葉狩りの時のお礼!」
 あけびは今日も美味しい料理を提供してくれた仙也にコーヒーを差し入れる。
「お菓子も美味しかったよ! それに弁当籤楽しかった!」
 だからミハイルさんにも、はいどうぞ!
 藤忠は飲み仲間の華宵に。
「梅酒も配られてるが、笑い上戸だしな。飲むならこっちの方がいいだろう」
 酒はまた後で、存分に付き合おう。
「あら、ありがとう」
 そんなに心配されるほど酒癖が悪かったかと首を傾げつつも、華宵は素直にそれを受け取った。
 未来とシャヴィはいつものドーナツと温かいお茶でほっこりと。


 休憩が終われば最後の仕上げ。
 雫は壁走りで木の幹を駆け上がり、飾りの薄い部分にキラキラのモールやLEDを巻き付けていく。
 途中の枝にポインセチアを飾ったり、他の人から預かった飾りを取り付けたり。
「当日に雪が降るなら綿を飾り付ける必要は無さそうですね」
「え? 当日雪予報?」
 下の方からリースを飾っていた藍の声が聞こえて来る。
「このリース、緑に映えて雪が積もったみたいに見えるかなって思ったけど…大丈夫、きっと」
 根拠はないけど。


 皆の飾り付けが終わった頃合いを見計らって、湊は木のてっぺんに飛ぶ。
 しかし、そこには先客がいた――けれど、大丈夫。
「その星、ちょっと貸してもらって良い?」
 てっぺんの星はいくつあってもいいと、チルルから受け取った星と組み合わせて――はい、より一層豪華で大きな花の星飾りになりました!
 それを二人で頂点に飾り付け、完成!



●点灯式

 ツリーの背後にクリスマスローズ型の花火が上がる。
 それと同時にスイッチが入り、ツリーの全体がまるで命を得たように輝き出した。
 すかさず写真に収めたファリオが、それを早速ネットにアップする。

「上手くできてるか一緒に確認してくれる?」
 湊は彼方をお姫様抱っこして宙に舞い上がり、上空からツリーの出来映えを見せた。
「上から見るのも綺麗でしょ」
 そう言いながらスキルで花火を打ち上げつつ、余った白い花びらを雪のように降らせる。
 そしてツリーの頂点に近付き、大きな星飾りから何かを取り出した。
「てっぺんの星はひとつじゃなくてもいいけど、僕を導いてくれた一番明るい星は君だから」
 それは手製の花飾り。
 彼方の髪にそれを挿し、「似合ってるよ」と微笑んで、そっと顔を近付ける。
 互いの唇が、そっと触れ合った。
 愛しい人を幸せにする、それが湊の願い事。
 その為に何があっても彼女の元へ帰る。
(彼女が僕の居場所だから)

「…世界はこんなにも鮮やかだったんだな」
 輝くツリーを見上げて蓮が呟く。
「ユリアと出逢えたからだ」
 その言葉に頬を染めたユリアは、ここぞとばかりに思い切り甘えてみた。
「…えへ。蓮、ぎゅーして?」
 ぎゅーっ。

「隙ありー!」
 ツリーに見とれる藤忠の髪に白い薔薇が咲く。
「やっぱり白も似合うね。美人!」
「またか、男に花を着けたがるなと何度言えば…」
 溜息混じりに反撃に出た藤忠は、ピンクの薔薇をあけびの髪に。
 なお白薔薇の花言葉は心からの尊敬、ピンクは温かい心。
 ただの悪戯に見えて、実は盛大な兄妹愛の告白だったのかもしれない。


 最後に彼方が持って来た手持ち花火で完成を祝い、きちんと後片付けをして。
「来た時よりも綺麗にしないとね!」
 率先して掃除をしながら、としおが言う。

 クリスマス本番の為にも、折角おめかしをしたツリーの為にも、ね。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:13人

ラッキースケベの現人神・
桜井・L・瑞穂(ja0027)

卒業 女 アストラルヴァンガード
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
アルカナの乙女・
クリス・クリス(ja2083)

中等部1年1組 女 ダアト
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
楽しんだもん勝ち☆・
ユリア・スズノミヤ(ja9826)

卒業 女 ダアト
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
陰のレイゾンデイト・
天宮 佳槻(jb1989)

大学部1年1組 男 陰陽師
繋ぎ留める者・
飛鷹 蓮(jb3429)

卒業 男 ナイトウォーカー
来し方抱き、行く末見つめ・
黄昏ひりょ(jb3452)

卒業 男 陰陽師
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
青イ鳥は桜ノ隠と倖を視る・
御子神 藍(jb8679)

大学部3年6組 女 インフィルトレイター
白花への祈り・
夕貴 周(jb8699)

大学部1年3組 男 ルインズブレイド
神経がワイヤーロープ・
ファリオ(jc0001)

中等部3年3組 男 アーティスト
蒼色の情熱・
大空 湊(jc0170)

大学部2年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
撃退士・
茅野 未来(jc0692)

小等部6年1組 女 阿修羅
童の一種・
逢見仙也(jc1616)

卒業 男 ディバインナイト
明ける陽の花・
不知火あけび(jc1857)

大学部1年1組 女 鬼道忍軍
Eternal Wing・
サラ・マリヤ・エッカート(jc1995)

大学部3年7組 女 アストラルヴァンガード
藤ノ朧は桃ノ月と明を誓ふ・
不知火藤忠(jc2194)

大学部3年3組 男 陰陽師
来し方抱き、行く末見つめ・
華宵(jc2265)

大学部2年4組 男 鬼道忍軍
『久遠ヶ原卒業試験』主席・
大空 彼方(jc2485)

大学部2年5組 女 阿修羅