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マスター:STANZA
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/12/14


みんなの思い出



オープニング



 季節は秋。
 空は青々と高く、吹く風は肌に心地よい。
 暑くもなく寒くもなく、身体を動かすには丁度良い季節だ。

 こんな季節は、ふらりと何処かに出掛けてみたくなる。
 折しも、東北地方は見事な紅葉に彩られていた。
 赤とんぼが舞う川原で、賑やかにバーベキューを楽しむのも良い。
 でも、折角だから手作りのお弁当を持って、のんびり紅葉狩りはどうだろう。

 場所は例年と同じ、東北地方のとある山中にひっそりと佇む小さな湖。
 底が見える程に澄み渡った水面は、風のない時には鏡のように周囲の紅葉を映し出す。
 その鏡は時により、また季節や天候によって様々に表情を変える。
 ある時は海底のような深い藍色、またある時は空を映したような青から鮮やかなコバルトブルーに移り変わり、時にはエメラルドグリーンに輝く事もある。
 夕刻にはオレンジ色に染まり、日没前の一瞬には黄金色に輝く姿が見られる事もあった。
 運良くそれを目にした者には幸せが訪れるという言い伝えもあるそうだが、以前ここに遊びに来た者達は今、どうしているだろうか。

 湖のほとりには広く平坦な広場が続き、そこでは食事を楽しむことはもちろん、鬼ごっこやスポーツなどで汗を流すことも出来る。
 湖の周囲を取り囲む色とりどりの木々の下を、のんびり散歩するのも良いだろう。
 今年は天候によっては紅葉と雪景色が同時に楽しむことも出来るようだ。

 秋の佳き日に、ちょっと出掛けてみませんか?





リプレイ本文

「秋晴れの日にのんびり紅葉狩りですか。良いですねぇ」
 Rehni Nam(ja5283)は赤い花丸が付いたカレンダーに目をやった。
「でも雪見紅葉狩り、というのも素敵です。今度のお休み、どんなお天気でしょう」
 予報は見ていない。
 朝起きて、窓を開けてみてのお楽しみだ。
 真っ先に目に飛び込んで来るのは空の青か、それとも雪の白か――




「リュールさん、紅葉狩りに行きましょう」
 ユウ(jb5639)の誘いは有無を言わせぬ単刀直入、しかし怠惰なツンデレにはそれが良い。
「一緒にお弁当を作りましょうね。素敵な景色の中で食べるお弁当は格別なものですよ」
 面倒なら冷食を詰めるだけでもいいけれど、せめて何か一品だけでも何か手作りをと、ユウはあの手この手で機嫌を取り、持ち上げて、やる気スイッチを探してみる。
「近頃はお嫁さんもお弁当作りを頑張っているようですし、お義母さんも先輩として負けていられませんね」
 などと言えば…ほら、釣れた。

 そのお嫁さん、カノン・エルナシア(jb2648)は数日前からお弁当作りのことで頭が一杯になっていた。
 目下日々挑戦中ではあるが、日常のお弁当作りなら多少は慣れてきた、と思う。
 しかし、こういった行楽用のお弁当は別のものであるべきだと思うのだ――具体的にはこう、おにぎり多めの単調気味ではないものが!
「となれば品数は多い方が良いでしょう」
 とは言え自慢ではないが手際がいいわけではないと言うか、ドジを踏まないことに神経を使うので精一杯。
「ここは地道に一つずつ丁寧に仕上げましょう。かかる時間から逆算すれば起床時間は…(ぶつぶつ」
 かくして、夜中の三時にベッドを抜け出したカノンは、キッチンで食材との戦いを始めるのだった。

「風雲荘に入って、初めてのお出かけやな」
 浅茅 いばら(jb8764)の言葉に「そこはデートって言おうよ」と笑いつつ、リコが訊ねる。
「お弁当なにがいい?」
「せやな、なんか気持ちが伝わるもんが食べてみたいわ」
「気持ちが伝わるもの?」
 何だろう、ハート型のおにぎりとか?
 え、そういう意味じゃないけど、別にそれでも構わない?
 うん、わかった!

「美しい紅葉を愛でる事を紅葉狩りと呼ぶのですよー♪」
 アレン・マルドゥーク(jb3190)は、相変わらずのニコニコ笑顔で言った。
「というわけでテリオスさん、お弁当作って紅葉狩りに行きませんかー? 良い場所を知っているのですよー」
 日没の時に湖が黄金色に輝く、とても素敵な場所。
「一生の思い出になりますから一緒に眺めましょうー」
 そして気が付けばテリオスは女の子リハビリの一環として、お弁当作りに挑戦することになっていた。
 しかし。
「弁当籤? 他の誰かと交換?」
 無理、それ無理!
「まあまあそう言わずにー、冷凍食品とサンドイッチと果物でも、盛付やラッピングを可愛くしたら完成度高くなるのですよー」
 だから大丈夫、近頃はお弁当を飾る為の便利な道具もあるし、手取り足取りサポートするし。




 品のある男のお洒落で本気を出したアレンは、どこからどう見ても立派に男性だった。
「女性のお洒落の方が飾り甲斐があって楽しいのですよねー」
 でも先日、本当に男だったのかと言われた事が気になっているらしく、自分のお洒落は暫し封印。
 代わりに――
『テリオスさんを心置きなく可愛くできる時が楽しみですね』
 意思疎通でそう伝えたら何故か槍が飛んで来たけれど、気にせずお出かけしましょうねー。

「あけび、弁当は持ったか? シートは?」
 不知火藤忠(jc2194)は、妹分である不知火あけび(jc1857)の隣に部屋を借りている。
 それは単に仲が良いからという事もあるが、常に近くで守る為という理由もあって…それが彼の心配性に拍車をかけている気がしないでもない。
「火の始末は? 戸締まりはちゃんとしたか?」
「大丈夫だよ、姫叔父こそ忘れ物ない?」
 そう声をかけ、あけびは先に立って歩いて行く。
 今日は不良中年部の仲間達と楽しい紅葉狩り。
 天気も良いし、ぽかぽか暖かいし、良い行楽日和になりそうだ。

(紅葉ハント?)
 聞き慣れない言葉に、長田・E・勇太(jb9116)は内心で首を傾げた。
(落ちてくる紅葉を打ち抜けばイイノカ?)
 というわけで、本日の勇太は迷彩柄の戦闘服に米軍使用のブーツ、その上に長袖パーカを羽織り、腰にはハンドガンとコンバットナイフ。
 しかし部活の皆で行くのだから本格的なハントではなくサバゲーの様なものだろうと解釈し、記念撮影用に一眼レフのカメラも携行する。
 同じ理由から、糧食もレーションではなく手作りのBLTサンドを用意してみた。
 だが勿論、そういう事ではない。
 勘違いに気付いた勇太は、最初から普通に紅葉狩りのつもりで来たふりをしてカメラを構える。
「帰ったらアイツにも見せてヤルか。きっと大はしゃぎダナ」
 来られなかった彼女の為に、今日はこのカメラで紅葉を狩ろう。
 楽しそうな皆の姿も。
「まずは紅葉をバックに皆で記念撮影するヨ!」
 はい、並んで並んでー。
「プチ旅行みたいだね!」
 最近学園が不穏だから余計に嬉しいと、あけびがはしゃぐ。
 ついでに勇太にカメラ向けてパシャッと一枚。
 彼女の為なら、自分の姿も撮らなきゃね!

 暫く散策を楽しんだ後、陽が高く昇った所で絶景ポイントにシートを広げる。
「よし、籤引き弁当交換会を始めるぞ」
 皆、用意は良いな?
 食べ物以外は不可だぞ!
「心配すんな、ちゃんと食えるモノ作って来たぜー」
「俺も料理の腕はそこそこだし、大丈夫だと思うよ。一応これでも一人暮らししていた時期もあるからね」
 発案者ミハイル・エッカート(jb0544)の問いかけに、ラファル A ユーティライネン(jb4620)と黄昏ひりょ(jb3452)が頷く。
(ということは、上手くすれば女子の手作り弁当が食べられるわけだ))
 そんな下心と共に参加した龍崎海(ja0565)は、籤引き開始の前にちょっとした庭園を。
「誰がどの弁当か分かるようにしておいた方が良いんじゃないかな…弁当に名札を付けるとか。誰がどの弁当なのかってわかったほうが、その後に話題にできるだろ?」
「それもそうだな」
 弁当に名札を付け、適当な紙を切って籤を作り――さあ引け!
 なお発案者は最後に残ったものということで、ミハイルは手の中に握り締めた真里谷 沙羅(jc1995)の名前が誰かに引かれる事のないように念を込める。
 それは籤が残り二本になるまでは順調に効果を発揮していた。
 しかし。
「すまない、私が当ててしまった様だ…交換するか?」
「テリオスか…! いや、結果は潔く受け入れよう。俺がどれだけ果報者か堪能するがいい」
 だが正直羨ましい。
 我ながら未練たらしいとは思いつつも「俺の弁当分けるから、少し交換しないかオーラ」を醸し出してみる。
「ミハイルさん仙也君のお弁当当てたんだ! いいなー」
 あけびの言う通り、逢見仙也(jc1616)の作る料理はいつも最高に美味しい。
 今回も二段重ねの大きめな弁当箱には、焼鮭に小さな白身魚の天婦羅、かぼちゃの煮つけ、きんぴら、アスパラベーコン巻きがぎっしり、そして白いご飯の上には牛そぼろと炒り卵。
 別容器で豆腐とわかめの味噌汁まで付いているという豪華版だ。
「すごい手間かかってそうだよね」
「そうでもありません、前の日の昼や夜食用に作り置きしておいたものですし…まあ、食材選びも調理も手は抜いていませんが」
 良い物を美味しく頂く、それが食材となってくれたもの達にに対する礼儀でもあるのだ。
 だから結果としては大当たりなのだが…そういう問題ではないのだ。
 なお、あけびの手にはミハイルのサンドイッチ。
 ローストビーフや野菜、ハム、チーズをスーパーで調達し、マヨネーズをかけてパンに挟んだだけのそれは、シンプルかつボリュームたっぷり。
「あっ、別にハズレとか思ってませんよ!」
 それはそれで、沙羅が羨ましそうに見ているし。
「とても美味しそうに出来ていますね」
 当たらなかったのは残念だけれど、今度また作ってほしいとお願いしてみようか。
 そう思案していた沙羅の前に、そっと差し出されるミニサンド。
「こんな事もあろうかと、予備に作っておいたんだぜ」
「私も…おにぎりを余分に作って来ました」
 爆発しろって言っても良いかな?

 勇太のBLTサンド――ベーコン、レタス、トマトで作るお馴染みのサンドイッチは仙也の手に。
 あけびが作った鮪の竜田揚げメインの和風弁当はアレンが引き当てた。
「お勧めは卵焼きです、砂糖とみりん多めにしたから冷めてもしっとりしてて、ケーキの様な甘さなんですよ」
「なるほどー美味しいのですー」
 アレンの味覚許容範囲は広大だが、美味しいものは美味しいと感じる事も出来るのだ。
 そんな彼の特製弁当はラファルの手に。
「何だこりゃ、カッパ巻きと納豆巻きしか入ってねーぞ?」
 それは多分、テリオスの指導で手一杯だったせい…だと思いたい。
 でも心を込めて巻いた手作りだよ!
「ま、食えるモンなら文句は言わねーけどな」
 そんなラファルが用意した世界の車窓からもとい、世界の炊き込みご飯おにぎりの詰め合わせは沙羅の手に。
 カレーピラフにアクアパッツァ、パエリア、中華おこわ、栗ご飯の五種類をこぶし大のおにぎりにして、竹の皮で包んだものだ。
「女の子にはちょっと多すぎたかもしんねーな」
「いえ、そんな事は…」
 ないと言いたいけれど、やっぱり少し多いかも。
「良かったら俺が手伝いましょうか?」
 基本好き嫌い無しの腹ペコさん、ひりょが声をかける。
「食べきれない分は皆で分ければ良いと思うよ、俺のもそう考えて作って来たし」
 ひりょの弁当はおかずの種類を盛りだくさんに、ただし女性に当たる事も考えてそれぞれの量は少なめに。
 とは言っても当てたのは藤忠だから、寧ろ足りないかもしれないけれど。
「色とりどりで綺麗に出来てるな」
「だろ? ご飯の部分は桜でんぷと卵、そぼろを使って紅葉を模してあるんだ」
「で、俺の弁当はひりょの所に行ったのか。交換だな」
 藤忠はこう見えて自炊もするし、その腕も中々のもの。
「メインは肉巻きお握りだがお勧めは南瓜の茶巾絞りだ、簡単だが美味いぞ」
 ブレない南瓜スキーは、ひりょの弁当に入っていた南瓜のサラダに舌鼓を打つ。
 沙羅が作った弁当の蓋を開けたテリオスは、その彩りの良さにまず驚いた。
 キノコ炊き込みご飯の俵おにぎり、海老ハンバーグ、だし巻き卵、ほうれん草の胡麻和え、かぼちゃの鶏そぼろ巾着、プチトマト。
「すごいな、宝石箱みたいだ」
「ありがとうございます、今回は和風に纏めてみました」
 彩りの良い弁当は栄養のバランスも良いらしい。
 味付けも文句の付け様がなかった。
 それに比べて自分の弁当はと、テリオスは少し申し訳なさそうに海を見る。
(やっぱり下心をもって臨むと碌な事がないな)
 様々な努力の跡が見える弁当を前に、海はひっそり溜息を吐いた。
 だが彼は知らない――それが念願の「女の子の手作り弁当」である事を。
 その海が作った弁当は勇太の手に渡っていた。
 一段目には白いご飯、二段目にはエビフライとアルミケースに卵を入れて茹でた変則目玉焼き、そして椎茸、もやし、キャベツ、ネギの炒め物。
「茶、白、緑って感じで彩は悪くないはずだよ」
 皆で一緒に食べられるように大根の千切り水菜のサラダと林檎もあるから、足りなかったらどうぞ!

「私もお弁当とは別にデザートも作ってきました。こちらは皆さんでどうぞ」
 沙羅は定番となったプリン、それにスイートポテトとバナナのパウンドケーキを。
「どれでも食べて下さいね」
 そう言われる前に、ミハイルは早速プリンに手を伸ばす。
 いつもの味、安心の味。
「いいか、男は胃袋で捕まえられると幸せだ」
 もちろん胃袋だけじゃないけどな!
 そんな惚気を聞きつつも、あけびの意識は仙也が出したお菓子に吸い寄せられる。
「これ貰っていい?」
「どうぞ、お弁当のおまけみたいなものですから」
 芋羊羹とカステラは作り置き、胡麻とみたらしの団子は作りたてだ。
「和菓子があるとやっぱりお茶が欲しくなるねー」
「そこまでは面倒見切れませんね、自分で用意して下さい」
 ですよねー。
(こうやって皆でわいわい弁当をつつくなんて、一般の学校に通っていた頃を思い出すな…)
 今のひりょにとって、あの頃の日々はずっと遥か遠くの記憶に思える。
 それだけここでの生活が、自分にとって大事なものとなった証拠なのかもしれない。

 お腹が一杯になったら、後は自由時間。
「折角だし森林浴でもして行こうかな」
 自然から元気を貰ってリフレッシュしようと、ひりょは周囲の森の中に入って行く。
「俺はそこらで釣りでもしてくるぜー」
 ラファルは例によって義体研究所のテスト任務を兼ねての参加だった様だ。
 今回は義体関連の余った資材で試作したハイテク釣竿を試して来いとのお達し。
 一応は穴場を探して真面目にやるつもりだが、釣果はさほど気にしない。
「何なら誰か付き合ってくれても良いんだぜー」
「じゃあ後でバトミントンやろうよ! やり方知らないけど!」
「知らねーのかよ!」
 あけびとラファルの漫才を横目に、藤忠は貰ったお菓子をポケットに忍ばせて散歩の準備。
「そう言えば章治の奴はどこにいるんだろうな?」
 散策がてらに探してみるかと、紅葉の下をのんびり歩き出した。




「こんな良い日は外でお弁当に限るわね!」
 雪室 チルル(ja0220)は早起きをして作ったお弁当を手に、意気揚々と山道を登る。
 なお早起きした割りには既に陽が真上にあるのは、お弁当作りに手間取ったからではない、と思いたい。
「いいのよ、今日の目的は外で楽しくお弁当を食べる事なんだから!」
 時間帯とか気にしない、のんびりマイペースが一番。
 それに第二の目的、夕方に見られるという光景が現れる時間までには充分な時間がある。
 ありすぎて暇を持て余してしまう程に。
 眺めの良い場所にレジャーシートを広げ、のんびり寛ぎながらお弁当を味わって、お腹が一杯になったら――待つ。
 そのままじっと、じーっと、日没を待つ。
 遠くで誰かが楽しそうにはしゃいでいる、その声が時折風に乗って微かに聞こえて来るけれど、今はこうしてのんびりと、夕暮れを待ちながら静かに思索に耽りたい。
「だってあたいはかしこいから!」
 日差しはぽかぽか、お腹はぱんぱん、耳に聞こえるのは小鳥の囀り。
 後はどうなるか…わかるね?

「きゃはァ、いい天気ねェ…ゆっくり魚釣りでも楽しみましょうかァ♪」
 黒百合(ja0422)は朝早くから、湖の畔でのんびりと釣り糸を垂れていた。
 いや、余りのんびりしている余裕はないかもしれない…何しろ本日のお弁当は全て現地調達なのだから。
 釣りに飽きたら森に入って熊と縄張り争いをしながら木の実を拾い、それをぽりぽり囓りながらまた釣り糸を垂れて。
 調理? 一応、簡単な料理道具や調味料は持って来てるけど、たまには良いじゃない、こういう普通じゃない食べ方も。
「こんな食べ方出来るのも撃退士の特権よねェ、一般人なら腹痛一直線だものォ♪」
 黒百合は釣り上げたばかりの魚に豪快にかぶりつく。
 何の魚かなんて、そんなの知らない。
 知らなくたって美味いものは美味いし、超新鮮な刺身さいこー。
「自然のままの味って良いわねェ♪」
 え、淡水魚には寄生虫がいる?
 大丈夫、だって撃退士だから(撃退士万能説(

「たまには二人っきりもええやろ?」
「うん、そうだね♪」
 いばらとリコは日当たりと眺めの良い湖畔にシートを広げる。
「お弁当、持たせちゃってごめんね?」
「ええよ、こんくらい彼氏の役目やし、作って貰ったんやしな」
 リクエストは唐揚げ、卵焼き、茹でたブロッコリーに、タコさんウィンナー。
 それ以外にも色々入って、そして肝心な「気持ちが伝わるもの」は――
「コレだよ、じゃーん!」
 そう言って蓋を開けた弁当箱に入っていたものは、所々に海苔がくっついた白いごはん。
「え? あれ? あっ、蓋にくっついちゃってる! しかも崩れてるし! やだもぉ!」
 どうやら刻み海苔でメッセージを書いたらしいのだが、何と書いたのだろう。
「…だいすきって」
「ん、おおきにな」
 その気持ちだけで充分だし、可愛いから許す。

「すごい偶然もあるものですね」
 ふらりと現れたダルドフに、ユウは何食わぬ顔でしれっと言ってのける。
 ラブラブ大作戦は新しい段階に突入したのだ。
 今回は敢えて二人きりにはせず、皆がいる中で互いに意識して微笑み合う事を目標にしている。
 とは言え、具体的なプランはない。
 ひとまずは散策中に意気投合したレフニーも交えて絶景スポットの情報を交換をしつつ、お弁当を食べてまったり過ごしていればどうにかなるかなーという希望的観測。
「うーん、我ながら良い出来ですねぇ」
 レフニーは自作の弁当を食べつつ、その出来映えに満足そうに頷いた。
「皆さんも良かったらそうぞー」
 ご飯は二段で、それぞれにおかかと海苔が敷いてある海苔弁風。
 おかずは竹輪の磯辺上げ、鮭の塩焼き、里芋の煮っ転がし、金平人参、それに魔法瓶に入れたジャガイモと玉葱の味噌汁という純和風のお弁当だ。
「熱い緑茶もありますよー」
「ありがとうございます、美味しそうですね」
 ユウも料理は得意だから、二人の弁当を並べると豪華饗宴といった風情だ。
 リュールの弁当も見栄えだけは負けていない筈だ、ただし99%冷食チンだけれど。
 残る僅か1%の手作り品はカブの浅漬けという有様、でもダルドフが嬉しそうに食べているから無問題。
 それにスイーツ以外にやる気を出しただけでも相当な進歩だと思いませんか?

「紅葉が綺麗ですね…」
 日頃の疲れを癒す為、雫(ja1894)は湖畔の岩場に腰を下ろしてのんびりと釣りを楽しんでいた。
「偶には、何も考えずに釣り糸を垂らすのも良いですね…」
 おにぎりとお茶もあるし、釣れなくても気にしない。
 お陰でたまに浮きが沈むのにも気付かずに餌だけを取られてしまうけれど、それもまた良し。
 まあ、出来れば釣れた方が嬉しいけれど。

 和気藹々と食事を済ませ、最後にお茶を啜ったレフニーはゆっくりと立ち上がる。
「ご馳走様でした」
 食後の運動にと紅葉を愛でながら湖畔や木々の間を歩き、お腹がこなれた所で教えられた絶景ポイントに足を運んでみる。
 湖の全体を見下ろすその場所からは、雪を頂く遠くの山々まで見はるかす事が出来た。

「釣果が芳しく無いなら、山に栗や銀杏を採りにでも行こうかな…」
 釣りに見切りを付けた雫は、森の中で熊さんに出会った。
「ダルドフさん?」
 どうやらフラフラと散歩に出た様だ。
「暇なら魚釣りでもどうですか?」
 釣れない釣りでも誰かと一緒ならそれなりに楽しいものだ。
 ついでにぼ〜っと釣り糸を垂らしながら近況でも訊ねてみようか。
「そうさのぅ、まあ相変わらずといった所か」
 ダルドフがふらりと遊びに出られる程度には平和だが、恐らくそれも長くは続かないだろう。
 だからこそ今は、こうしてのんびり出来る時間を大切に――などと、口に出しては言わないけれど。

 鶏の唐揚げに卵焼き、ポテトサラダ等々の定番が並ぶ弁当箱、それがカノンの戦果だった。
 今はこれが精一杯だけれど、それでも喜んで貰えるなら早起きして頑張った甲斐があるというもの。
 とは言え、流石に眠い。眠いけれど。
「カノン、大丈夫か?」
「はい、折角の章治さ…ナーシュとの時間ですから」
 睡魔に負けている場合ではない。
 でも日差しは暖かいし、お腹は一杯だし――

 気が付けば、時間がワープしていた。
 しかも二人で爆睡かと、探しに来た藤忠が苦笑いを浮かべている。
「章治は仕事で疲れてるのか、最近科学室に来る奴が多くて大変だろう」
 え、違う?
「手伝おうかと思ったんだけど、俺あんまり役に立たないし。だからせめて一緒に起きてようかなって」
「意味あるのか、それは」
「ないと思う」
 でもいいの、気持ちの問題だから。




「紅葉の季節ももうそろそろ終わりやね」
 手を繋いで湖畔を歩きながら、いばらが呟く。
 終わりかけの紅葉の色に、終わりかけの昼が溶け込もうとしていた。

 その同じ光景を、あけびは藤忠にお酌をしながら静かに眺める。
「…最近お師匠様の事ばかり考えるよ…無事だと良いなって」
 黄金の湖が見られたら幸せになれると言うけれど。
「私は皆といられて、あの人がいたら幸せだと思う」
「…あいつは強い。そう簡単に死なないさ。俺も三人で仲良く暮らせたらといつも思ってる。多分、あいつもな」
 生きている限り、自分が「幸せ」を諦めることは無いだろう――藤忠はそう言ってあけびの頭を撫でる。
 その瞬間、目の前に黄金色の光が弾けた。

 空も湖も、周りの空気までもが黄金色に染まる。
 それはほんの一瞬の出来事だったが、見た者の目には一生忘れられない光景として永遠に刻み付けられるのだろう。

 夕方までのんびり釣り&むしゃむしゃうぇを堪能した黒百合は、帰り支度を始めた所で気が付いた。
「あらァ、まだお昼寝してる人がいるわねェ?」
 流石に起こした方が良いだろうと、声をかけてみる。
「…はっ! あたい寝てた!?」
 辺りは既に暗く、当然ながら湖も闇に沈んでいた。
 がっくりと肩を落としたチルルはしかし、立ち直りも早い。
「来年こそは絶対に見るわ!」
 今度こそ寝ないで頑張るとリベンジを誓うのだった。

 帰り際、大事な簪がなくなっている事に気付いたあけびは慌てて探しに戻る。
 バドミントンで遊んでいるうちに落としたのかと思ったが、それは何故か岩の上に置かれていた。
 夕暮れ色の薄絹に包まれて――





 その日は朝から曇りがちの、すっきりとしない天気だった。
 しかも寒い。
「夕方には雪になるかもしれませんね」
 向坂 玲治(ja6214)としっかり手を繋ぎ、山道を登る葛城 巴(jc1251)は鈍色の空を見上げて呟く。
「ああ、でも雪景色と紅葉を一緒に見られるなら、それも良いだろ」
「そうですね」
 巴はそう答えたものの、実のところ天気などさほど気にしてはいなかった。
 晴れでも雪でも嵐でも、玲治と一緒にいられるなら、それは「良い天気」なのだ。
 二人の荷物には途中の道の駅で買った弁当が入っている。
「折角の遠出ですから、その土地ならではの物が食べたいですよね」
 湖に着いたらまずは昼食。
 お揃いでも良かったけれど、別々にすれば交換する楽しみも味わえる。
 食べ終わったら山に入って、紅葉狩りならぬキノコ狩り。
「えーと、このキノコは…どっちだと思う?」
 玲治はポケット版の図鑑を取り出して調べてみる。
「さっきの弁当に入ってた奴だと思うんだが、似た様な毒キノコもあって…」
「どちらでも良いのではないでしょうか、撃退士に毒は効かないと言いますし」
「いやダメだろ、万が一って事になったらどうすんだ」
 キノコ意外にも珍しい野草や、何だかよくわからないものがあれば写真に撮って。
「採っちゃダメですよ。やはり野に置け蓮華草、です」
「わかってるよ」
 でも正体は気になるから図鑑で調べ、名前がわかればデータにメモを書き添える。
 そうして夢中で調べるうちに、いつの間にか夕暮れが迫って来た。
「あ、雪…」
「降って来たか。そう言えばさっき見た東屋に足湯があったな」
 冷えた身体を温めようと、二人は寄り添って座る。
 左隣に座った巴がそっと指を絡ませると、玲治も自然に手を握り返してきた。
「寒いですね」
「確かに冷えるな…だけど、こうしていたら温かくなるだろう?」
 こくりと頷いて、巴は玲治に身を寄せる。
 足元を流れる熱い湯よりも、肌の温もりの方が暖かい気がした。
 東屋に灯った明かりが湯気を照らし、外に漏れた光が雪を被った紅葉を照らす。
 その様子は幻想的で、まるで何処か別の世界に迷い込んだ様な気がした。

「別に俺に構わずとも1人で良かったのに」
 スケッチブックに向かって忙しく手を動かしながら、樒 和紗(jb6970)は特に何をする事もない様子の砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)に声をかける。
「そんなこと言って、集中すると周りとか時間とかご飯とか忘れちゃうでしょ」
 そう答えて、過保護なはとこは「やれやれ」といった表情で肩を竦めた。
「ただでさえ食が細いんだから心配なんだよ」
 そう言われれば自覚もある身とて反論し難い和紗は、とりあえず気を取り直してスケッチ再開。
 最初のうちこそ彼が口ずさむ柔らかな歌声に包まれる感覚に心地良い安堵感を覚えていたが、やがて集中し始めるとそれさえも意識の外に追いやられてしまう。
 紅葉を映す湖、湖面に反射する光、空から舞い落ちる雪。
 風の流れさえも描きとめようと、夢中で手を動かす。
 そんな様子を眺めながら、竜胆はぼんやりと『この先』の事を思う。
 自分が選びたい道へ進む前に、和紗を託せる相手…気に入らないあの男に、託せたらいいのになぁ、と。
「…と、そろそろ頃合いかな」
 空腹や寒さを訴える身体の声には耳を貸そうともしない和紗に声をかけ、その細い肩にショールを巻いてやる。
「冷えてる。かけてなさい」
 夢中になるのはいいけど、女の子は体冷やしちゃダメなんだからね!
「ありがとうございます…」
 保温ジャーに用意してきたほかほかのシチューと焚き火で炙ったパンで身体を芯から温めたら、仕上げに熱々のコーヒーを流し込んで、和紗は再びスケッチブックに向き合う。
 これでもう三冊目だが、以前の経験から学習した竜胆は十冊分のストックを用意していた。
「好きなだけ描くといいよ」
 その言葉に甘えて、和紗は夕暮れまで描き続け――ふと思い出す。
「そう言えば、この湖には不思議な言い伝えがあるのでしたか」
 黄金に輝く湖、それを見る事が出来た者には幸せが訪れるという。
「見られるといいですね」
「うん、二人で一緒にね」
「俺は別に…竜胆兄が見られれば、それで」
「つれないなあ、そんなこと言わずに一緒に見ようよ」
 雪は積もっているけれど、空は綺麗に晴れ上がっている。
 この分なら、きっと――





「三人で紅葉狩りに、か。確かに、共通の思い出というのも悪くないな」
 随分賑やかになりそうだと思いつつ、黒羽 拓海(jb7256)は恋人の天宮 葉月(jb7258)から持ちかけられた提案を快く受け入れた。
「そういえば…ちょっとした事ならともかく、三人で遠出って久しぶりですね」
 最後に出かけたのはいつだったかと、妹の黒羽 風香(jc1325)は記憶を辿ってみる。
「普段は何となく葉月さんと譲り合ってましたし。お弁当を一緒に作ったのも思えば随分前でしたっけ」
「そうだよ、だから一緒に行こ♪ 二人きりのデートもいいけど、共通の思い出っていうのもやっぱり大事かなって」
 そんなわけで、秋も深まった頃、良く晴れた日の昼下がり。
「うん、湖と紅葉の対比が凄く綺麗。天気も良いし紅葉狩り日和だね」
 読書とかしたら様になりそうだと葉月が笑う。
「でも、そういうのは私よりも風香ちゃんの方が似合うかな? 落ち着いてるし」
 そうだろうかと首を傾げ、風香は周囲に目を向けた。
「確かに長閑な場所ですね…時間を忘れてしまいそうです。でも、どこか切なくもなる景色で…」
「まあ、景色と雰囲気を楽しむものなんだが…こう静かだと余計な事を…って、前にもこんな事があったな」
 また気を遣わせているのだろうかと拓海は二人を見る。
 葉月は確かに心配そうな様子だが、風香のくすくす笑いは一体何を企んでいるのやら。
(さて、両手に花で拓海はどういう反応を見せてくれるでしょう? 今日はからかい甲斐がありそうですね)
 という訳で、拓海にくっ付いてみました。
「うん? 風香ちゃんてばちょっと目を離した隙に!」
 抜け駆けはズルいよ?
「ズルいと言うなら、葉月さんもすればいいんですよ」
 風香は純粋に甘えたい気持ち半分、二人をからかう意味が半分。
 さて、二人に挟まれた拓海の反応や如何にと思ったら、意外に冷静だった。
 素直に受け入れるどころか寧ろ自分から手を握り返す勢いで。
「離れないように、な」
(…拓海ってば最近何か悩んでるみたいだけど、ちょっとは元気出たかな?)
 もっと頼ってくれていいのにという心の声が聞こえたかの様に拓海が答える。
「二人ともありがとう。大丈夫だ、一人で無理そうならちゃんと頼る」
「うん、約束だよ?」
「…ずっと、こんな風に楽しく過ごせたらいいですね」
 二人の言葉にこくりと頷き、拓海はカメラを取り出した。
「記念に写真を撮っておこう。三人でこんな事もあったと振り返れるように」
 きっと未来でも同じように笑えるだろう。
 笑っていられるだろう。
 三人で、いつまでも。

 ある晴れた暖かい日、湖はエイルズレトラ マステリオ(ja2224)と召喚獣達の貸切だった。
 今日は彼等を労い、親睦を深めるためのピクニック。
 ビニールシートの上に肉料理をどっさり詰め込んだ弁当をどーんと広げて、召喚獣を喚び出していく。
「と言っても一度に全員を喚べないのは不便ですねえ」
 召喚時間が短いのも困りものだが、その時間が許す限り精一杯のおもてなし。
 ストレイシオンのダイヤにスレイプニルのクラブ、ティアマットのスペード、そして最後にヒリュウのハート。
 特にハートはいつも一緒の相棒だし、召喚時間も長い。
 お弁当を食べ終えたら、残りは全て遊びの時間だ。
「さあ、今日は存分に遊びますよ」
 膨らませた風船を見せると、ハートは嬉しそうな声を上げる。
「キィッ」
「割っても良いかって?」
 勿論、その為に用意したものだ。
 ハートは風船を爪で突いて割るこの遊びが大好きだった。
 まるでフリスビーを追いかける犬の様に、ハートはロケット風船を追いかけて行く。
 そうして一人と一匹は、時間の許す限りいつまでも遊び続けるのだった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:17人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
天蛇の片翼・
カノン・エルナシア(jb2648)

大学部6年5組 女 ディバインナイト
Stand by You・
アレン・P・マルドゥーク(jb3190)

大学部6年5組 男 バハムートテイマー
来し方抱き、行く末見つめ・
黄昏ひりょ(jb3452)

卒業 男 陰陽師
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
シスのソウルメイト(仮)・
黒羽 拓海(jb7256)

大学部3年217組 男 阿修羅
この想いいつまでも・
天宮 葉月(jb7258)

大学部3年2組 女 アストラルヴァンガード
Half of Rose・
浅茅 いばら(jb8764)

高等部3年1組 男 阿修羅
BBA恐怖症・
長田・E・勇太(jb9116)

大学部2年247組 男 阿修羅
永遠の一瞬・
向坂 巴(jc1251)

卒業 女 アストラルヴァンガード
少女を助けし白き意思・
黒羽 風香(jc1325)

大学部2年166組 女 インフィルトレイター
童の一種・
逢見仙也(jc1616)

卒業 男 ディバインナイト
明ける陽の花・
不知火あけび(jc1857)

大学部1年1組 女 鬼道忍軍
Eternal Wing・
サラ・マリヤ・エッカート(jc1995)

大学部3年7組 女 アストラルヴァンガード
藤ノ朧は桃ノ月と明を誓ふ・
不知火藤忠(jc2194)

大学部3年3組 男 陰陽師