――ばん!
月島 祐希(
ja0829)は読んでいた本を叩き付ける様に机に置くと、窓の外を見た。
(ドタバタと鬱陶しい…読書の邪魔ったらねえな)
何だ、あれは。
大体の事情を聞いて、祐希は頭を抱える。
(大体いくらこの学園が自由でも、無理やりそういうコトに至ろうとか流石に風紀乱しすぎだっつーの)
快適な学園生活のためにも、ここは彼等に落ち着いて貰わねば。いや、何が何でも落ち着かせる。
頭を抱えた理由は他にもあるが、とりあえずそこには蓋を…蓋を、し損なった。
だって、隣でやはり呆然と見守る東城 夜刀彦(
ja6047)の姿にも、何か同じ匂いを感じてしまったから。
「なんという修羅場…」
夜刀彦にとって、それはわりと他人事ではないらしい。
そしてそれは、祐希にとっても同様だった…認めたくは、ないけれど。
(…別に、低身長で童顔で名前がユウキであだ名がユキってとこに親近感覚えて他人事と思えなかったとかいう理由じゃねーんだからな!)
拳を握り、祐希は誰にともなく釈明してみる。
そんな彼に、夜刀彦が言った。
「混乱が酷かったり追い詰められてたら思考どころじゃないよね…一旦離そっか」
その実体験に裏付けられていそうな説得力のありすぎる言葉に、祐希は頷く。
テイソーハジュンシュスル。きりり。
「おー? よく分かんねーけど、俺も手伝うんだぞー!」
彪姫 千代(
jb0742)がそこに加わり、作戦行動が開始された。
「美味しい…美味しすぎる」
じゅるり。
ゼロノッド=ジャコランタン(
ja4513)は、その光景に血走った目で真剣に見入っていた。
しかし――
「くっ! 静まれボクの本能…!」
とりあえず理性が本能にブレーキをかけ…かけ…
「ほもぉ…」
無駄でした。理性、瞬殺。いや、そんなもの最初からなk(ry
ゼロの身体に眠る腐った魂が今、目覚めた。元から目覚めてはいるが、覚醒のレベルが更に上がった。
┌(┌ ^o^)┐ホモォ
そしてゼロは、仲間と出会ったのだった。
向こうから来る、同じ腐のオーラを纏った者…それは蓮華 ひむろ(
ja5412)だった。
┌(┌ ^o^)┐ ┌(^o^┐)┐
┌(┌ ^o^)/☆\(^o^┐)┐
出会った二人は意気投合。
┌(┌ ^o^)┐ ┌(┌ ^o^)┐ホモォ…
逃げるユキを見失わない様に、ひむろはその身体にマーキングで印を付ける。
その動きから逃走経路を予測して、二人は更に美味しい道へと彼を引きずり込むべく先回り。
「ユキちゃんこっちだよ、こっち!」
逃げるユキにゼロが手招きする。
「助けてくれるの!?」
喜んでそれに従ったユキは、しかし。
「こんな所に逃げ込むなんて、ユキの奴…」
やっぱりその気があるんじゃないか、などと言いつつ京介が迫る。
そこは、袋小路の男子トイレだった。
手招きをした二人は物陰に隠れて展開をじっと見守っている。
「いけっ! そこだ! そこで壁ドン、そして顎クイ!」
ゼロの思考、だだ漏れ。
「ああもうこれは捗るっ! ほもぉ…! ほもぉ…!! ほm(自主規制」
「男性同士の恋愛ですか」
いつの間にやら混ざっていたエリス・バーグ(
jb1428)がそれを冷静に観察しながら頷いた。
「日本には男性同士の同性愛が文化として根付いてると聞いています。お稚児さんを愛でるのは1000年以上前から行われていたと聞きますし、織田信長をはじめとして衆道を嗜んだ戦国武将は数えきれません。昭和には薔薇という言葉が定着し、最近ではボーイズラブと呼ばれる美少年同士の恋愛ものが一大ジャンルを築いていると言われています。池袋のお店で店中BL本ばかりだったのは圧巻でした…女性同士の同性愛も多く日本の少子化は同性愛者の激増が原因と聞いています」
「ち、ちが…っ!!」
じたばた暴れながらユキが首を振る。
って言うか、どこからそんなトンデモ知識を!
「姉からですが、何か?」
「違うから! 僕ホモじゃないし!」
「あら。異性愛者だったのですか? そして男の人に迫られたくないと…」
なーんだ、そうだったんだ。
どうりで必死で逃げ回っていると思った。
「確かに意に沿わないお相手とお付き合いを強要されるのは好ましくないですね。異性愛者に同性愛を迫るのも良くないと思います」
事態を把握し、一転して常識人っぽい意見を述べ始めたエリスさん。
「さて、困りました…非常手段を採用しますか」
ひょいとユキを横取りすると、エリスは手際よくその唇を奪…おうと、したのだが。
「ちょっと待て、それは…っ」
祐希が止めた。
「何故ですか?」
「いや、ここは日本だし」
いくら相手が女の子でも、日本人に初対面ちゅーはハードルが高すぎるだろう。
まあ、一部例外もいる様だが。
「おー? よく分かんねーけど、キスは挨拶じゃねーのか?」
千代が首を傾げる。
ただの挨拶なのに、皆どうしてそんなに大騒ぎするのだろう?
「そうそう、ただの挨拶だよな!」
思わぬ援護射撃に気を良くした京介は再びユキに迫る。
しかし――
「特急ハムスター便入りまーす」
壁走りで天井を駆け抜けた夜刀彦がユキの身体を掻っ攫い、お姫様抱っこで逃走した。
「あぁっ、俺の嫁!」
「お前のじゃないし、嫁でもないだろ」
溜息をつきながら視界を塞いだ祐希は、問答無用で異界の呼び手を発動して京介の足を止める。
その隙を狙って、礼野 真夢紀(
jb1438)が奇門遁甲の術を発動した。
「嫌がる人に迫って襲うのが許されるのは2次元だけ!」
個人的にはリアルBLにも興味津々だが、ここは心を鬼にして個人嗜好を脇に置く。
(このままじゃ勇紀さん可哀相だし)
一度引き離して、第三者がいる所で落ち着いて話した方が良いだろう。
頭に血が上ったせいか、抵抗に失敗した京介は途端に剣を抜き放ち、「俺だって抱っこまだなのにー!」などと喚きながら相手構わず斬り付け始めた。
完全に錯乱している。いや、術にかかる前から半分くらい錯乱していた気がしないでもないが。
「おー、これじゃ近付けないんだぞー?」
困った千代は氷虎で凍てつく世界を作り出し、その身体を凍てつく眠りへと誘った。
「これで安心なんだぞー」
そのまま担いで、何処かに浚って行く。
「よく分かんねーけど、京介は頂いた! なんだぞー」
「え? え?」
「返して欲しくば屋上まで来い! なんだぞー!」
そして彼等は、すっかり眠り込んだ京介と共に消えた。
「何がどうなってるの!?」
その姿を呆然と見送りながら、ユキは夜刀彦の顔を見る。
「仲間が足止めしてますから、今の間に気持ち落ち着けてくださいね」
トイレから出た夜刀彦は、近くの教室でユキを降ろして言った。
「ところで勇紀さん、京介さんのことどう思ってます?」
「どどどうって!? どうって何!?」
真顔で訊ねる夜刀彦に、ユキは落ち着くどころではない様子で答える。
「まずは一度、深呼吸しましょうね」
「…う、うん」
すーはーすーはー。
「いきなり恋愛とか言われると混乱するでしょうけど、今、真面目に考えてどんな気持ちです?」
「困ってる」
いや、そうじゃなくて。
「もう顔も見たくないぐらい嫌い? それとも、いつもみたいにまた話したり遊んだりしたいぐらいには好き?」
「…」
考え込んでしまったユキに、夜刀彦は慈母の微笑みとママボイスで優しく語りかけた。
「難しく考える必要は無いと思いますよ。今答えが出ないなら、違う時に出せばいい。まだお若いんですから」
いや、そう言うキミも充分若いでしょ、というツッコミはひとまず置いといて。
「向こうは屋上で待ってると言ってましたから…時間稼ぎになるかどうか分かりませんけど、ちょっとお姿借りますね」
そう言って、夜刀彦はユキそっくりの姿に変化。
この会話の間にしっかり観察しておいたから、仕種や口調も完璧だ。
「まぁ、本当に好きなら偽物だってバレちゃうだろうけど」
って言うかバレろ。
「その間に気持ちが固まる様なら、後から来てください」
そう言って、ユキ…に化けた夜刀彦は屋上へと向かった。
「私は先輩がお友達と楽しく過ごせるようにできたらいいなって思うの」
それを見送り、┌(┌ ^o^)┐な本音を隠したひむろはニコヤカに言う。
「友達なら嫌いではないんでしょ?」
「…うん、多分」
嫌いじゃない=好き。好きなら何も我慢する事なんてないのよ?
と、それが┌(┌ ^o^)┐の思考。
「初めてが男はイヤ、なら私で済ませたらいいよ!」
「…え!?」
「私もう経験済だし彼氏いるし何にも減らない大丈夫!」
「いいえ、それなら私が」
さっきは良い所で邪魔されたエリスが割って入る。
「男の方は大体胸が好きと聞きました」
豊満すぎるその胸に、ユキをぎゅうっと抱き寄せた。
「無理に付き合えとは言いませんが…私は年下の男の子好きですよ?」
「ちょ、ちょっと待って何の話!?」
「高等部にいる兄貴分なんか鯖の味噌煮味ガチムチ髭おっさんと事故ってるのよ! それに比べたらマシだと思うの」
負けじとひむろも反対側から身体を押し付け、唇が触れるぎりぎりまで顔を近付ける。
「彼氏は役者だからこういうの理解あるし大丈夫大丈夫!」
「だ、大丈夫じゃないー!」
ユキは逃げ出した。ちょっと前屈みになって…どうやらトイレに駆け込んだ様だが。
さっさと済ませて(何を)お友達と仲直り(という名のキス)してくるといいよ!
「おー? 起きたのかー」
屋上では、目を覚ました京介に千代が屈託ない笑顔で語りかけていた。
「京介は勇紀の事が好きなのかー?」
「そう言ってるだろ」
「勇紀のどこが好きなんだー?」
聞いてもよくわからないが、とりあえず聞いてみる。
何しろ千代の好きは、友達が好きーとか、お父さん大好きーとか、そういったレベルなのだから。
「全部だよ全部!」
それを聞いて、物陰に隠れて様子を伺っていたひむろが姿を現した。
教室からここまで、偽ユキよりも早く着いたのは、┌(┌ ^o^)┐特有の驚異的な機動力と言うより他にない。
無論、そこにはゼロとエリスの姿もあった。
「女の子っぽくて可愛いから、とかじゃなくて? 筋トレしてガチムチになっても好き?」
(それでも迫ってくるならヤツは本物ね…)
┌(┌ ^o^)┐
(真の愛には真摯に応えるべきだと思うの)
┌(┌ ^o^)┐
その期待に違わず、京介はきっぱりと頷いた。
「でも好きなら迷惑かけたらダメなんだぞー」
千代の言葉に「迷惑なんか…」と言いかけた京介を制し、祐希が説教を始める。
「客観的に考えてみろ。お前がしようとした行為はどう考えてもセクハラ、下手すりゃ通報もんだぞ!」
しかし何故こんな無茶を…まさか恋愛下手? 同性愛故にどうしたらいいか分からずに? だとしたら可哀想な奴、かも…?
それか単にイケメンの俺が強引に迫れば男だってイチコロとかいう思考だったんですかね、はいはいイケメン様はモテモテで自信満々でようございましたねー爆発しr(略
「セクハラってのは、その気のない奴に迫る事だろ?」
京介が言った。
「ユキは絶対、俺に気がある。ただ恥ずかしがってるだけでさ」
「どんだけ自信家だよ!」
殴りたい。殴っていいですか。
「真っ当な恋愛なら、まずは真摯に想いを伝えて、OKが出たら映画館での初デートで手を繋ぐとこからゆっくりじっくり進展するのがセオリーだろうがっ!」
全部漫画の受け売りなのが哀しいけど!
(…あれっいつの間に俺、アドバイスしようとしたみたいに…?)
なんか良い人っぽくなっている自分に気付いて、祐希は再び頭を抱えたくなった。
「とりあえず、きちんと話し合った方が良いんじゃないの?」
真夢紀が言い、何故かロープを取り出す。
「ゆっくり話し合う為にはこっちが折れるのも手ですよ?」
「だからって縛るかオイ!?」
「ユキさんが怯えないように、です」
真夢紀、容赦ない。
(ユキさんとしては初キスが同性とは嫌。親友だと思ってた人にせまられて裏切られたショックで気が動転している。京介さんの方は昔から好きだったって言ってるけど…)
「なんで今になって言う訳?」
まぁそういう事意識する年頃ではあるんだろうけど…とは、何と老成円熟のお考えか。
「そりゃ、我慢出来なくなったからに決まってるだろ!」
京介が胸を張って答えた所に、偽ユキが現れた。
「おー? 勇紀は京介嫌いなんだろー? 何で来んだー?」
千代が不思議そうに首を傾げる。
が、偽ユキが何かを言う前に、京介が口を開いた。
「愛だよ愛! な!」
手足を縛られながらぴょんぴょん跳ねて迫り来る京介に、偽ユキは心の中で祈る。
(…バレるよね? バレろよ? バレろって…言ってるのに!!)
「好きだ、ユキー!」
「ぎゃぁああっ!!」
変化を解いた夜刀彦は、涙目で裏拳+金的蹴りの凶悪コンボを叩き込んだ。
「惚れてるなら見分けろーッ!」
――ぐぼしゃっ!!
そして暫く後。
「京介さん…自分の気持ち押し付けすぎないようにね?」
「…悪かった」
涙目で言う夜刀彦に、京介は素直に頭を垂れた。偽物を見破れなかった事が自分でもショックだったらしい。
「だったら、追いかけるのは諦めたんだな?」
祐希の問いに、しょんぼりと頷く京介。
しかし…それは困ると四足生物達が蠢き始めた。
(我が腐魂の為ならば仲間すら切り捨てる覚悟があるッ!)
ゼロの中で何かが弾ける。とっくに弾けているが、更に。
「性別なんて関係ないよ! だって…彼は君のことをこんなにも思ってるんだよ…」
言われてユキは京介を見た。
普段の自信満々な姿は見る影もなく、何だか可哀想になる。
こういう時には何と声をかければ良いんだろう。
と、ユキの耳元でゼロが何やら耳打ちした。
「え…、すごく…大きいです…?」
って、何を言わせる!
「とにかく、僕は今まで通りに…親友でいられるなら、それで良い」
ユキの言葉に、千代が満面の笑顔で二人の肩に手をかけた。
「おー、よかったんだぞー。それじゃ仲直りのキスするんだぞー」
「え?」
待て、そこは握手だろ普通!?
しかしいつの間にか二人の背後に忍び寄った┌(┌ ^o^)┐達が、思いっきりその背中を押した!
んちゅー!
「じゅるり、ほもぉ…」
ゼロは暗黒面に堕ちたその内面を隠そうともせず、ひむろはその瞬間をすかさず写真に収める。
そしてユキは、ぽわーっとしていた。
ちょっと気持ち良いと思ってしまった自分に驚いていた。
「ま、お互い好きなら勝手にすれば良いさ」
俺は遠慮したいけど、と祐希が溜息をつく。
「両想いなら応援しますよ」
真夢紀も笑顔でそう言い切った。
え、そうなの? これってそういう事なの?
「そういう事に決まってるじゃない!」
ゼロはリアルホモォに出会えた感動に打ち震えている。
「よく分かんねーけどみんなが幸せになれたらそれでいいんだぞー」
千代が笑う。
まあ、つまりはそういう事でめでたしめでたし…で、いいのかな。うん。
…ね?