.


マスター:STANZA
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
形態:
参加人数:20人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/10/29


みんなの思い出



オープニング


 実りの秋。
 ここ風雲菜園でも、様々な収穫があった。

 台風に耐え、高温や水不足に耐え、病害虫の被害にも耐え抜いた作物達。

 その一部は今、キッチンテーブルの上に無造作に山積みされている。
 野菜に芋に果物と、その量は作業に当たった者達が各自で持ち帰っても、まだ余るほど。
 アパートの住人達で消費しようにも、同じ食材ばかりが続けば飽きも来るし、レパートリーにも限りがある。

 そこで――


「収穫祭? ……ほう、庭で野菜を……ふむ」
 オーレン・ダルドフ(jz0264)は、元妻からの電話に「珍しいこともあるものだ」と思いつつも、嬉しさを隠しきれない様子で答えた。
 メールで送られてきた写真を見ると、そこには泥の付いたニンジンやサツマイモ、大きなカボチャなどと共に得意げな顔で写っている元妻、リュール・オウレアル(jz0354)の姿があった。
 本人はこれを自分で育てたのだと言っているが、本当だろうか。
 いや、嘘でもいい。
 堕天してからというもの、すっかり怠惰なオバサン化している彼女が、少しでもやる気を見せているならば。
「では、寄らせてもらうとするか。土産は何が良い?」
 その問いに、受話器の向こうから『どうせお前は酒だろう』という返事が返ってくる。
「違いない!」
 豪快に笑い、ダルドフは通話を切った。
「まあ、何か甘いものでも見繕ってやるかのぅ」
 秋田名物の甘いもの……さて、何があっただろう。


 一方、こちらは風雲荘。
 通話を終えたリュールに、息子――門木章治(jz0029)が話しかける。
「母上、嘘は良くないのですよ?」
「聞いていたのか」
 盗み聞きをしていたわけではないが、隠す気もなく大声で話していたのだから聞こえてしまっても仕方がないだろう。
「多少の嘘は人間関係の潤滑油だぞ」
「ええ、知ってます」
 今のそれが多少かどうかはさておき、害のない嘘であることは明らかだし、それを咎めるつもりはない。
 実際は少し虫が付けば気味が悪いと逃げ、暑いだの蚊に刺されるだのと理由を付けては水やりをサボり、結局ほとんど何の世話もしていなかったのだが……
 無事に収穫が出来たのは、気が付く度についでに世話をしてくれた皆のおかげだ。
 本人もそれはわかっているだろうし、感謝もしているのだろう。
 しかしそれを素直に表現しないのがツンデレというもの、らしい。
「それにしても珍しいのですね、母上が自分からダルドフを誘うなんて」
「悪いか?」
「いいえ、良いことだと思うのですよ」
 いっそこのまま縒りを戻せば良いのに、とも思うけれど、口には出さない。
 出さないのに、バレていた。
「お前の言いたいことくらいわかる」
 リュールは鼻で笑う。
「何年お前の母親をしていると思うのだ」
「そうですね、でも、そろそろ母親以外の何かになっても良いと思うのですよ?」
「何か、か」
 そう呟くだけで、リュールは何も答えなかった。

 これもひとつの夫婦の形、なのだろうか。
 夫婦って、難しい。


 それはともかく、次の休みには収穫祭という名のガーデンパーティが開かれる。
 菜園で採れた野菜や果物ばかりではなく、肉や魚など他の食材も持ち寄っての大宴会だ。
 収穫のために頑張ってきた者達はもちろん、他の誰でも参加は自由、寧ろ歓迎。

 大勢で集まって、思い切り騒ごう。
 収穫に感謝し、美味しいものが食べられることに感謝し、一緒に楽しめる仲間がいることに感謝しながら――



リプレイ本文

「いやー夏は暑いねー」
 まだ暑さも盛りの頃、クリス・クリス(ja2083)は北向きの自室で優雅にカキ氷を食べていた。
 部屋を共有するパパ、ミハイル・エッカート(jb0544)は眼下の庭でせっせと畑仕事に勤しんでいるが、ここは楽園エリュシオン。
 エアコンもない部屋は確かに暑いけれど、炎天下での作業よりは遙かに快適だ。
 なお、それを手伝う気は今のところないらしい――だって暑いもん。
「その代わり、一生懸命に応援するねー」
 パパがんばれ。
 いのちだいじに。


「中々世話にこれず申し訳ないですが、お野菜は美味しそうに育っていますね」
 その同じ頃、ユウ(jb5639)は渋るリュールをおだて上げて、菜園に連れ出していた。
「収穫が楽しみです」
 虫だらけになっていたリュール担当のスイートコーンや甘いニンジンもなんとかリカバリーに成功、今はほぼ順調に育っている。
 作物の世話よりも、放っておくとすぐにサボりたがる怠惰なオカンの面倒を見るほうが遙かに手間がかかる気がする――と言うか全部ひとりでやったほうが何倍も早く、しかも楽に仕事を終えられるだろう。
 しかしユウは頑張った。
 実際にリュールがしたことと言えば、ほぼ「見てるだけ」だったけれど、実際に何をするかよりも、その場の経験を共有することのほうが大切なのだ……と、思っておこう。
 そして最後の収穫を無事に終えたのが、つい先日のこと。
「先生の誕生日も近いですし、その時の料理にも使えそうですね」
「ふむ、そうだな……私は料理など出来ぬし、お前達で好きに使うがいい」
 しかしユウは、その言葉にニッコリと微笑んだ。
「出来なければ出来るようになれば良いのです。料理ではなくても、甘いお菓子を自分で作れるようになったら素敵だと思いませんか?」
 買いに出るのも面倒だったり、誰かに作ってくれと頼むのもやっぱり面倒だったりするでしょう?
「……考えておこう」
 そのとき、ふしぎなことがおこった。
 ユウの目の前で、リュールが電話をかけているではないか。
 しかも相手はあのダルドフだ。
 それどころか、収穫祭のパーティに誘っている!
(「これは……夢ではないのですね……!」)
 ユウを襲った驚愕が、やがて歓喜の波にとって代わられる。
(「ああ、今までメゲずに暗躍を続けていた甲斐がありました……!」)
 そう、リュールとダルドフを再びくっつけようラブラブ大作戦。
 それが遂に実を結んだのか、それとも息子夫婦のラブラブっぷり(推定)にあてられて寂しくなったのか。
 何でもいい、とにかくめでたい。
 当日は是非とも、これまで以上の暗躍によって二人の仲を更に深めるように頑張らねば……!


 風雲菜園は夏までに作っていた作物の収穫も殆ど終わり、今はすっかり秋の装いとなっていた。
 台風や長雨のおかげで収穫し損ねたキュウリが巨大化したままツルにぶら下がっていたり、熟れすぎて身割れしたナスや赤を通り越して黒くなったピーマンなどが所々に残っていたが、それも礼野 智美(ja3600)がさっさと片付けてくれたようだ。
「そろそろ次の準備をしないとな」
 風雲荘で出された菓子や海苔の湿気防止に使われていた石灰を回収して畑に蒔いたのが一週間ほど前のこと。
 その場所にジャガイモとタマネギの苗、そしてニンニクの株を植え付けていく。
 他にはカブ、大根、白菜の種を蒔いて。
「同じ物植える予定の人がいるなら、区分けは近い方が……」
 二階に借りていた部屋は夏季限定のつもりだったが、結局はそのまま借りておくことにした。
「南瓜や冬瓜や唐辛子、後薩摩芋やじゃが芋保管する部屋があった方がいいだろうし」
 そういったものの保管には土間のようなスペースが最適なのだが、流石にこのアパートには備え付けられていないようだ。
 リフォームする機会があれば提案してみるのも良いだろうが、とりあえずは自室を保管場所に充てておこう。
「漬け物置くのなら冷暗所が良いんだけど……まあ冬の間だけなら押し入れにでも入れておけばいいか」
 タマネギが収穫出来たら風通しの良い軒下に吊しておけば良いだろう。

 後は収穫祭の当日を待つばかりだ。


 帰宅時間が不規則な住民達のため、風雲荘の玄関に鍵はかかっていない。
 夜中だろうと早朝だろうと、誰でも自由に出入りが出来る状態だ。
 不用心きわまりないが、それでも泥棒や不審者が入り込むことはなかった。
 何故ならここにはベテラン撃退士ばかりが住んでいるのだから――一部の例外を除いて。
 来る者拒まずウェルカムだが、不審な行動を取ろうものならまず五体満足で出られる保証はなかった。

 だが、収穫祭前夜のこと――


「キッチンで何か物音がするのです……!」
 夜中にたまたま階下に降りて来たシグリッド=リンドベリ(jb5318)は、そっと耳をそばだてる。
「ドロボーさんなのです?」
 気配を感じたザジテン・カロナール(jc0759)も自室から降りて来た。
 今日が入居初日の彼に「寝る」という選択肢はない、と言うよりも色々楽しみすぎて寝るのを忘れていた。
「とにかく、確認してみましょう」
 ただの泥棒なら撃退は容易い、でも天魔だったら二人だけでは厳しいかもしれない。
 場合によっては全員を叩き起こして対処する必要があるだろう。
「もし天魔なら、こっちで気を引いて本命は章兄ということも、考えられるのです……?」
 シグリッドは思わず足を止めて、後ろを振り返る。
「門木先生です? もしそうだとしても、大丈夫なのですよ?」
 だって一人じゃないから、と言うザジテンに、シグリッドは思わず目を逸らした。
 それは多分その通りなのだろうけれど、まだちょっと考えたくないと言うか、もう暫く蓋をしておきたいと言うか。
 そうこうしているうちに、キッチンは目の前。
 真っ暗な中、一部だけに光量を落としたランタンのような、ほんのりとした明かりが灯っている。
 泥棒だとしたら随分と不用心だが――
 と、二人の背後から声がかかると同時に、キッチンにパッと明かりが灯った。
「すみません〜、私がお呼びしたのですよ〜」
 間延びした声は209号室の美容師さん、アレン・マルドゥーク(jb3190)だ。
「ごめんね〜、脅かさないようにと思ってこっそり作業してたんだけど、かえって怪しさ満点だったかな〜」
 星杜 焔(ja5378)がキッチンから顔を出す。
 なんだ、泥棒でも天魔でもなかったんだ、ああ良かった。
「それで、何してるです?」
 ザジテンが遠慮無くキッチンに入って行く。
 大きな鍋が火に掛けられ、中で何かがコトコト煮込まれていた。
「良い匂いなのです」
「明日のために色々仕込んでるんだよ〜」
「そうなのですね、じゃあ僕も明日のために今から芋掘りに……!」
 待ってザジくん、そこはちょっと待って。
 それは朝になってからで良いから、ね?
「ホムラさんもちゃんと寝てくださいですよ?」
「うん、大丈夫〜、これが終わったら空いてる部屋使わせてもらうね〜」


 しかし翌朝、焔は港の朝市で仕入れた新鮮な魚をせっせと捌いていた。
 昨夜はバイトを終えてから来たはずだから、その時点で既に夜中を回っていただろう。
 それから仕込みを始めて、朝市にまで出かけて……もしかして、寝ていないのでは。
「大丈夫大丈夫〜、一段落したら仮眠取るし、好きなことをしてる時には眠いとか疲れたとか感じないものだし〜」
 まあ、それはそうですね。


 一方、ザジテンは夜明けと同時に庭に出て芋掘りを開始。
「がんばるですよ、クラウディル」
「きゅ!」
 胸に「ざじてん」と書かれたゼッケンの付いた体操服にジャージ、両手に軍手という出で立ちで、ヒリュウと共に意気揚々と芋畑へ。
 収穫期の早い品種は既に掘り終えてしまったが、まだ土に埋まったまま、掘り出されるのを待っている品種もあった。
「時期としては問題ないって言われたし、とにかく掘ればいいのですよね、きっと」
 畝をまたいで踏ん張って、両手で土を掻き分ける。
「あ、意外と柔らかいのですね」
 踏みしめられた土しか知らなかったから、ちょっとびっくり。
 暫く掘り進むと、サツマイモの赤い頭が見えてきた。
 その周りに付いた土を削り取るように掘り進み、あともう少しというところで――
「クラウディル、つるを引っ張るです!」
「きゅ!」
 せーの、すぽーん!
 まさに芋づる式で飛び出すサツマイモの行列。
 人生初の収穫体験、大成功!
 なお収穫したばかりのサツマイモは糖度が足りないと言うけれど、それは程度の問題であって、採れたてでも普通に美味しい、らしい。
「大学芋、作るです」
 あとは「いきなりだんご」と、カボチャのコロッケと、夏野菜のフライ。
「いきなりだんごって、知らないです? 熊本の郷土料理って言うか、お菓子なのですよ?」
 むしろ何故それをザジくんが知っているのか、それを問いたい気もするけれど、まあそこは突っ込まずにおいてあげよう。


「ねぇエリ、リコさん誘っていかない?」
 姉の智美に誘われた礼野 明日夢(jb5590)は、「アシュが行くならエリも行く―」と言い出した神谷 愛莉(jb5345)にそう問いかけた。
「リコさん誘う? うんいーよー♪ お菓子好きだよね、きっと」
「うん、それもあるけど、リコさん多分今住む物件色々見ている頃だろうし」
 新学期から学園に通うと言っていたはずだから、そろそろ決める必要があるだろう。
 普通なら学園の寮に申し込むのが手っ取り早いのだろうけれど、リコの場合は特殊な事情もある。
「風雲荘って確か先生が住んでる所だよね……そういう場所なら寮より安心じゃないかなって」
「確かシュトラッサーの子たちも一緒だって聞いたことありますの」
 収穫祭にはアパートの住人も多く参加するそうだし、下見をするには良い機会だろう。

 というわけで。
「やふー! リコ来たよぉー!」
 手をひらひらと振りながら、ピンクのツインテールが待ち合わせ場所に駆けて来る。
「エリりんとアスむん、ひっさしぶりー!」
 智美おねーさんにも会ったことがある、気がするけれど……。
「んと、初めましてだったかな?」
 かくりと首を傾げたリコに、美森 あやか(jb1451)はぺこりと頭を下げた。
「親友の智ちゃんに誘われました、今日はよろしくお願いしますね」
「ん、じゃあトモみんと、あやたん! ……って、あやたんなんかすごいケガしてるよ!? だいじょぶ!?」
 驚き心配するリコに、あやかは小さく笑みを返す。
「お料理するくらいなら、大丈夫ですから」
「うん、ならいいけど……ムリしちゃダメだよ?」
 頷いて、あやかはゆっくりと歩き出した。
 そのペースに合わせて、一行はのんびりと風雲荘へ。

 その庭先には既に椅子やテーブルが並べられ、中には屋外で調理をする者の姿もあった。
 軽く挨拶を交わしてから、あやかは智美に向き直る。
「それで、智ちゃんが作った野菜は?」
「ああ、そこに積んである……あと、これも」
 智美は先日の依頼で貰った小さめの黒いカボチャを三つ、あやかに手渡した。
「これはただ火を通すだけでも美味い」
「じゃあ……」
 材料を見て、あやかの頭の中でメニューが組み立てられていく。
「お菓子は色々あるみたいだし、お料理だけで良いかしら?」
 コンロはキッチンにあるもので足りなければ空き部屋の台所を使っても良いらしい。
 なおキッチンと台所という呼び方は、設備の新しさによって何となく使い分けているとか。
「じゃ、調理は任せたから」
「何を作るか聞かないの?」
「後の楽しみにとっておくよ」
 今は明日夢と愛莉、ついでにリコも連れて、菜園の方へ行きたかった。
 二人を連れて来たのは、自分に何かあった時に面倒を見てほしいから……などとは言えないけれど。

「畑、広いですの!」
 愛莉が弾んだ声を上げる。
 屋上菜園は楽しいけれど、区画が小さいために栽培できる作物や収穫量が限られてしまうことがちょっと不満だったようだ。
「ここなら何でも好きなもの育てられますの!」
 まだ区画はあるし、よかったらどうぞー。
「あれ、姉さん」
 ふと建物のほうに目をやった明日夢が言った。
「ゴーヤー収穫してないんですか? まっ黄色な大きなのがごろごろ……」
 そう言えば夏に作った緑のカーテン、まだ暑いうちは収穫して食べたりしたものの、涼しくなってからは殆ど忘れかけていた。
 裂け目から縦に割ってみると、緑色の時には白かったワタの部分が真っ赤になっている。
「なんかベタベタしてますよ?」
 その赤い部分だけ食べてみろと言われ、明日夢は指に付いたそれを恐る恐る口に入れてみた。
「……え、甘い?」
「え、なになに甘いですの?」
「ゴーヤってすっごく苦いのじゃなかった?」
 愛莉とリコも真似してペロリ。
 なんでも、智美が言うには彼女の祖父の時代にはそれをおやつ代わりに食べていたらしい。
「昔はゴーヤなんて食べる人、本州にはいなかったそうだ」
 だから収穫されずに残ったものがゴロゴロしていたのだとか。
「それ、いつのお話ですの?」
「戦中生まれだから、そのあたりだろ?」
「いつの戦争? 今も天魔とは戦争してるけど……」
「お祖父さんの時代ですから、今じゃないですの。その前に戦争してたのは……受験戦争、ですの?」
 まあ、現代の小学生の認識と言えばこんなものだろう。


 それは昨日のこと。
 門木が科学室に籠もっている間、何人かの生徒達が食堂の隅に集まって何やらひそひそと話し合っていた。
 議題は明日の誕生日パーティについて。

「わかりました。準備が出来るまで、そちらから遠ざけておけば良いのですね?」
 カノン・エルナシア(jb2648)は、まるで今から戦いにでも行くような真剣な面持ちで頷く。
 視線の先には発案者であるザジテンを始めとして、ミハイル、不知火藤忠(jc2194)らの愉快な仲間達が顔を揃えていた。
「門木先生には内緒なのです」
「去年も俺とクリスの誕生日をサプライズで祝ってくれたのだからな、お返しだ!」
「章治を驚かせてやろう、どんな顔をするか見ものだな」
 その一瞬を撮るために、カメラも用意してある――いや、もちろん他のシーンも撮りまくるけれど。


 そして今日。
 収穫物の調理とは別に、ケーキ作りや飾り付けなどの準備が秘密裏に行われることになったのだが――

「こんにちは、門木先生の誕生日パーティするって小耳に挟んだんだけど、確か参加は誰でも自由だったよね」
「……、…………、………………!!」
 アパートの門をくぐったところに設けられた受付で堂々と言い放った龍崎海(ja0565)に、月乃宮 恋音(jb1221)は慌てて手を振って「しーっ」のポーズ。
「え、なに、秘密なの? サプライズ?」
「……はい……そういう事になっておりますのでぇ……ご面倒でも、ご配慮をいただきたく……」
「ああ、わかった。それじゃ、俺も何か手伝おうかな……これ、少しもらっていいかな?」
 海はプランターにわさわさと生えていたベビーリーフやイタリアンパセリに目を付けた。
「生野菜のサラダくらいなら作れるから」
「……はい、よろしくお願いしますぅ……」
「それと、他に何か手伝えることがあればやるけど」
 手が必要なことと言えば、会場のセッティングと……あとは万が一の時に門木を引き留めておくこと、くらいだろうか。
「折角だから、遺跡の調査ぐらいもついでに聞いてみようかな」
 ちょうどいい、少し前に出雲の遺跡調査で一緒だったから、その話でもすれば自然に場を保たせることが出来るだろう。

 続いて姿を見せたのは、淡い緑色の髪をした青年だった。
「……あ……テリオスさん、ですねぇ……? ……初めましてぇ……」
 何度か見かけたことはあるけれど話をするのは初めてだったと、恋音はにっこり笑って頭を下げる。
「……あ……怖くないですよぉ……?」
 噂では、この青年は人間界の殆どあらゆるものに対して恐怖心を植え付けられているのだとか。
 今も何やら驚愕の眼差しを、恋音の胸元にじっと据えている。
 きょぬー好きなのかとも思ったが、どうやらそれは規格外の逸品に対する純粋な好奇心から出た行動のようだ。
 恋音が頭を下げると、胸の重さに引きずられて前につんのめりそうになる。
 身体を起こそうとすると、今度はせーので勢いを付けて持ち上げた反動で、後ろにひっくり返りそうになる。
「……たいへん、だな」
「……はいぃ……なかなか、慣れる暇もありませんのでぇ……」
 重さと大きさに慣れてきたと思ったらいつの間にかまた増えて、しかも未だに成長が止まる気配はないのだとか。
 なおテリオスの場合、見事に隠しおおせた上に今まで殆ど誰も疑いを持たなかったことから、その膨らみ具合についてはお察しください。


「あ、テリオスお兄さん!」
 付き合い長いのに全く疑わないそのいち、シグリッドが呼びに来る。
「ミサンガ作るのですよ……!」
「み……みさ、がー?」
 何だかよくわからないけれど、とりあえず引きずられて行くテリオス。
 そこには色とりどりの刺繍糸を携えた華桜りりか(jb6883)が待ち構えていた。
「そんなに難しくないみたいですし……もしよければお揃いで作りませんか」
「その前に、みさ……とは何だ」
「ミサンガは、願いを込めて手首や足首に付ける、組紐なの……」
 組紐なら、以前にももらったことがある……が、受け取っただけで放置していた、気もするのだが。
「なので、今回はきちんと着けてあげるの、ですよ?」
 りりかのにっこり笑顔がちょっぴり怖いのは気のせいか。
「僕は章兄のぶんを作るのですよ。お兄さんは自分のぶんだけにしますか? それとも……」
「自分のだけでいい」
 テリオスは無愛想に答えたが、それでも一応自分のものだけは作るつもりらしい。
「お兄さん、華桜さんの言うことは素直に聞くのですね」
 もしかして、お気に入りなのだろうか。
 なお、同性ゆえの気安さだという事実には、二人とも全く気が付いていない。
「糸の色にはそれぞれ意味があるのですよ。お兄さんは何色がいいです?」
 そう言われて無意識に黒と紫を選んでみたが、これは「忍耐と魔除け」を意味するらしい。
 もう少し夢と希望に満ちた選択が出来ないものかとは思うが、これはこれで役には立つだろう。
「それなら、楽しいお願いが叶うように……あたしがテリオスさんのぶんも作るの。シグリッドさんのぶんも」
 重ねて着けてもいいものだし、三人でお揃いにしたら楽しそうだし。
「僕と章兄と、お兄さんでお揃いなのです? だったら華桜さんもお揃いにしませんか……!」
 三人よりも四人のほうが、たくさん願いが叶えられそうな気がするし。
 いや、逆に分散して少なくなる……いやいや、それはない。
「じゃあ、あたしは四本作るの……」
 色の組み合わせは「家庭」を意味する茶色と「恋愛・結婚」を意味するピンク。
 だが、りりかの場合、それを茶色とピンクとは呼ばない。
「チョコ色と桜色、なの」
 意味はどちらも「幸せ」なのだそうだ。
 桜色で縁取りをしたチョコ色をベースにし、そこに桜模様を器用に織り込んでいく手元を見つめ、テリオスは言葉もなく呆然としている。
「お兄さん、どうしたのです?」
「あれは何だ、魔法か」
 手元を見れば、どうやら彼は最も簡単な三つ編みさえも上手く出来ない様子。
 無理もない、手芸など生まれて初めてだろうし、髪だって伸ばしっぱなしで編んだことなどないのだろうから。
「ゆっくりでいいのですよ。ここ、僕が押さえてますから……」
 基本は同じことの繰り返しだから、リズミカルに編んでいくほうが編み目も整って綺麗に仕上がるのだけれど、初挑戦は見た目よりも完成させることが大事なのです。
 ヨレヨレでもいい、どこまで不器用ならこんなヨレヨレになるのか不思議なくらいヨレヨレだけど!
「で、出来た……」
「じゃあ僕が着けてあげるのですよ」
 有無を言わせる隙も与えず、シグリッドはテリオスの袖をめくってミサンガを結び付ける。
「あたしも……無事と楽しい事がたくさんあるように、なの」
 りりかも出来たばかりのそれをきゅっと結んだ。
 それにしてもこの手首、近くで見るとけっこう細い。
 指も細くて華奢な感じがするし、まるで女の子みたいだけれど……まさか、ね。


「私は誕生日ケーキを作るよ!」
 不知火あけび(jc1857)はお菓子作り初心者だが、真里谷 沙羅(jc1995)という良い先生がいるからきっと大丈夫。
「章治先生をお祝いしよう!」
 っと、これは大きな声で言っちゃいけないのでした。
「でも、準備は秘密だけどケーキ作りは秘密じゃないからね」
 パーティにケーキは付き物だし、プレートを置いてロウソクを挿すまでは何のケーキかわからないだろう。
 だから作業も、このキッチンで堂々と。
「土台だけ作って、デコレーションはみんなでやろうね」
 その土台作りが初心者には結構なハードルだったりするのだが――
「大丈夫ですよ、失敗しない作り方を教えてあげますから」
「さすが沙羅さん、頼りにしてます!」
 そうそう、他にも色々作るんだったよね。
「林檎パイにスイートポテトタルトを作ってみましょうね」
 手取り足取り、マンツーマンのお料理教室のように教えていけば、多少は難易度を上げても大丈夫だろう。
「はい先生、よろしくお願いします! あ、ラルも一緒にやろうよ!」
 あけびはこっそり参加していた親友、ラファル A ユーティライネン(jb4620)の姿を目ざとく見付けて問答無用で引っ張り込んだ。
「菓子づくりかー……、ふふふ」
 引っ張り込まれて、ラファルは不敵に笑う。
「あけびちゃん、俺には料理なんてできねーしガラじゃねーとか思ってるだろ」
「そんなことないよ? ガラとか関係ないし」
 ただ、今までそんな話を聞いたことがないから知らないだけで。
「知らなきゃ今教えてやるぜ。いつも技師どもに専用食とか称してくそまずい物を食わされてるからな、それなりに料理は出来るんだぜ」
 人に褒められるほどではないにしても、くそまずい物の口直し程度、そしてネタとして仕込む程度には。
「だから俺にはお料理教室は無用だ」
 そんなことより、とラファルは向こうで手持ち無沙汰にしているリュールに視線を投げた。
「あっちに教えてやった方が良いんじゃねーか?」
「……あの人、誰?」
 常に氷の破片を身に纏っているような、凛とした空気を感じさせるプラチナブロンドの美女。
 何度か見かけたことはあるけれど、そう言えばちゃんと挨拶をしたことがなかった気がする。
「え……章治先生のお母さん!?」
 どう見ても息子より若いけど、ああそうか、天使だもんね外見サバ読むの得意だもんね(言い方(
 その声に、藤忠もリュールを見る。
「章治の母親? ……天使か」
 天使と言うと未だ向こう側に属する親友のことが思い出されて、少々しんみり……しようと思ったのに。
 この天使、中身は非常に残念なお方であった。
「と、とにかく、一緒に作りませんか? わからないところは私にもわからないと思いますけど!」
「ダメだろ、それじゃ」
 藤忠がぼそっとツッコミを入れる。
「いいの、一緒に沙羅先生に教わるんだから!」
「はいはい……あ、南瓜の菓子を多めに頼む」
「わかってる」
 その様子を眺めていた門木が小さく笑った。
「仲良いな」
「それはまあ、妹分だからな」
 藤忠が答える。
 何でも遠慮なく言い合えるのが、そうした関係の良いところだ。
「俺はまだ、そんな風にポンポン言い合ったりは出来ないな……嫌われたりしないか、怖くて」
「こんな軽口で嫌われるはずがないだろう?」
「そういうもの、なのか?」
 こくりと頷いて、ふと気になった藤忠はこっそり尋ねてみた。
「章治、まさかお前……伴侶と喧嘩したことないのか?」
「ない」
 それはまた……仲が良いことで。
 いや、仲が良くて喧嘩にならないなら非常に喜ばしいことだが、互いに遠慮し合って喧嘩にならないのだとしたら、それは少々問題がある気がする。
「今のところ……喧嘩の種はない、かな」
「そうか、それなら良い」
「……してみたい、気はするけど」
「贅沢な悩みだ」
 くすりと笑って、藤忠は門木の肩を軽く叩いた。
「とにかく、お袋さんはこっちで面倒見るから。章治は……ほれ、ちゃんと傍に付いててやれ」
 と言うか奥様、ちゃんと手綱付けて見張っててくださいねー。


 というわけで。
「え、と……追い出されたんだけど。どうしよう、か」
「そうですね……何か、作りましょうか」
 なお、既に朝の時点で個人的なお祝いは済ませてある。
 サプライズとは本人が全く期待していないところに仕掛けるものであって、何かしらの期待があるところに仕掛けるものはただの嫌がらせだ。
「作物は沢山ありそうですから、料理は色々できそうですね」
「うん、なに作る? 切るくらいなら手伝えるから」
 こくりと頷いたカノンだったが、そう言われても料理に関する引き出しはそう多くない。
 そこに並んだ食材から連想される料理と言えば、カレーくらいしか出て来なかった。
「それくらいなら、そろそろ主体的にできる、かと。野菜多めのカレーとかいい、ですよね?」
 ちょっと上目遣いに門木を見る。
 あ、やばい鼻血出そう。
 しかしそれはぐっと我慢して。
「……他にも作る人いるけど、それでも?」
「あ……でしたら、得意な方のお手伝いでも……」
「いや、いいよ。ただ、似たようなものばかりでも困るだろうから……これ」
 取り出したのは緑のゴーヤ。
「これで作ってくれる?」
「え、でも……苦い物は苦手でした、よね?」
「うん、でもカレーに入れると……なんて言うか、苦さと辛さのバランスが絶妙で、美味しく感じられるんだ」
 いつもはカレー自体も甘めにしてもらっているけれど、これなら少し辛くても大丈夫。
 いや、辛めのほうが苦みが中和されて良い感じに仕上がるだろう。
「あ、レシピは見ないで」
 作り方を調べようとしたカノンの手を止めた。
「普通のカレーはちゃんと作れてるから、基本は出来てるよね。これは材料を替えるだけの応用だから、そこは自分で工夫してみてくれないかな」
 さすがは先生と言うか、めっちゃ甘いだけに見えて実は結構スパルタでした。
「失敗しても、ちゃんと全部食べるから」
 いや、やっぱり甘いか。
「とにかく、作ってみよう?」
 そう言われて、とりあえずゴーヤを縦半分に切ってみる。
 ワタと種を取り除いて……

「……あ……それは捨てないでくださいねぇ……」
 そこに恋音が声をかけてきた。
「でも、この部分は苦くて食べられないのでは……?」
「……調理方法によっては、美味しくなるのですよぉ……」
 ちょっと実演してみせようかと、恋音はまずボウルに卵を溶いて塩コショウで味を整える。
 そこに取り除いたワタと種をくぐらせて、油を熱したフライパンへ。
 裏表を程よく焼いたら、残った卵液に再びくぐらせて焼く。
 それを何度か繰り返したら出来上がり。
「……ケチャップをかけて……どうぞ、召し上がれ……」
 食べてみると、あら不思議。
「全く苦味がありませんね」
「……でしょう……? ……卵液に粉チーズを混ぜたり……色々と工夫も出来るのですよぉ……」
 栄養価も高いし、ビールのつまみにも最適。
 覚えておいて損はない一品です。
「月乃宮お姉さん料理上手ですよね……今度教えて貰いたいです」
 お裾分けをもらったシグリッドが呟く。
 が、カノンとしては今度と言わず今すぐにでも教えてもらいたい気分だった。
 でも今は、と門木をちらり。
「あ……俺、向こうに行ってようか?」
 珍しく空気を読んで、その場を離れようとする。
 しかし、がしっと腕を掴まれた。
 今日はどこかにフラフラ行かれては困るのだ。
 かといって目の前で教えを請うのも……いや、せっかくの機会だし、ここは背に腹は代えられない。
「あの、月乃宮さん……何というかこう、お弁当のおかずに向いたものなどがあればご教授願いたいな、と……」
「……ええ、構いませんよぉ……先生に作ってさしあげるのですねぇ……」
「いえあのその、出来ることは多い方が良いかと思っただけで、別に作る具体的な予定があるとかそういうことではなくてですね」
「……良いですねぇ……愛妻弁当……」
 恋音さん、聞いちゃいません。
 ええ、聞かなくていいです、ただの照れ隠しですので。
 近頃は男女平等とか役割の押し付けはイカンとか色々と言われますが、愛する奥様に食事を作ってもらうのは、大抵の男にとって永遠の浪漫であり憧れであり、譲れない一線なのでありますよ。
 なお門木は今の一言で「やばい可愛いどうしよう幸せすぎて死ぬ」とか言いながら悶絶していますので、放置しておきましょうね。


「よし、カレー作るぞ!」
 ミハイルは沙羅と並んでキッチンに立つ。
 二人で料理をするのはこれが初めてだった。
 なお沙羅はその傍らでお菓子作り教室の先生役もこなすというマルチな活躍ぶりを見せていたが、ここではひとまずカレー作りだけにスポットを当ててみよう。
 まずは飴色タマネギを作るところから。
「焦がさないように弱火でじっくり炒めてくださいね?」
「おう」
「焦って火を強くしてはいけませんよ?」
「お、おう」
 牛肉は煮込むとコクが出るが、そこに豚のひき肉で甘みを加えるのがコツだ。
 好みに応じて選べるように、肉の旨味が染み出した鍋は甘口、中辛、辛口の三つに分けておく。
「トッピングの野菜は何にします?」
「そうだな、茄子にオクラ、トマト、パプリカ……俺が作ったもの全部だ」
 なお野菜は好きなものを選べるように全てトッピングに。
 煮込んでトロトロになった野菜も良いが、網で焼き目を付けただけの野菜も目先が変わってなかなか良い。
「隠し味は珈琲、チョコ、ハチミツ、ココナッツミルク……これ全部入れるのか? 隠せないレベルになりそうだぞ?」
「ええ、ですから程々にしましょうね。今回は甘口に蜂蜜、中辛にチョコ、辛口にインスタント珈琲辺りにしましょうか」
「ココナッツミルクは?」
「少し個性が強いですから、入れると全部エスニックになってしまうような……」
「なるほど」
 沙羅がそう言うならやめておこう。
「あと、愛情と言う名の隠し味だな!」
 愛をこめると美味くなるというわけで、鍋に向かって愛の告白。
「愛してるぜ」
 もちろん脳内では沙羅の笑顔を思い浮かべている……そうは言っても、グツグツ煮える鍋の中に沙羅の顔が浮かんで見えるわけじゃないぞ。
「ええ、愛情は大切ですね。私もいつも食べてくれる人の事を考えながら作っていますよ」
 技術も大切だけれど、やはり一番はそれだろう。
 そして隣にはその本人がいる。
 相乗効果で料理の味も幸せも倍増ドン。

 なお、この隠し味はどんなに増えても邪魔になることはありませんので、勿体ぶらずにどんどん使いましょう――もちろん鍋ではなく、本人に向かって。
 使ってもらえないと途端に自信をなくしてレベルドレイン状態になる奴もいますので、ね。


「風雲、レフニー城!」
 久々にやって来ました、ていくつー。
 相変わらず意味はないけれど、ここに来ると何となく言いたくなるのは何故でしょう。
 Rehni Nam(ja5283)は自分が作ったスイカにトウモロコシ、それにナスとピーマンを収穫し、来たる収穫祭に備えていた。
 スイカなどは夏の暑いうちに食べきってしまいたいところだったけれど、今年は天候が不順で八月の後半には涼しい日も多くなり、冷蔵庫にはごろんと丸ごとのスイカが寂しそうに残されていた。
「心配いりませんよ、すぐに仲間のところへ送ってあげますからね……」
 ふっふっふ。
 とりあえず、作るカレーは夏野菜を使った甘口と辛口の二種類。
「中辛が好きな片は2つを混ぜてセルフ調整してくださいねー」
 後乗せ用のナスは炒めたものと焼いたもの、素揚げにしたものを用意して。
 その他のトッピングはマンゴーやパイナップル、キウイやメロンなどカラフルなフルーツを揃えて夏らしく。
「カレーにフルーツ、意外に合うのです」
 というわけで、冷蔵庫で永き孤独に耐えたスイカを今こそ使い切る時。
「スイカカレーと言うとネタに聞こえるかもしれませんが、ほんのり甘口で美味しいのですよ?」
 例えるならトマトカレーの、トマトの酸味をなくした感じだろうか。
「あ、ほんとです……!」
 皆が尻込みする中、味見を買って出たザジテンが目を丸くする。
「この白いのもスイカなのです?」
「そこは皮の部分ですね、ちょっと冬瓜みたいな食感でしょう?」
「トウガン……食べたことないですけど、美味しいです!」
 あ、これちょっとクセになりそう。
 なおザジテンはエプロンに三角巾姿、エプロンにも「ざじてん」と書かれたゼッケンが付けられていた。
「これが僕の勝負エプロンなのです……あ、そうだ!」
 ふんすと鼻の穴を広げたザジテンは何かを思いついたように目を輝かせた。
「スイカの皮のフライとか、美味しそうなのです!」
 ものは試し、さっそく作ってみよう。


 さて、カレーは少し寝かせておくとして。
 レフニーは調理台に載せたリンゴとサツマイモに熱い眼差しを注ぎ、気怠げな溜息を吐いた。
 浮気か(違います
「これを使ったタルトも良いですよねぇ……でもちょっと手間がかかるのですよね……」
 手が足りないし、今回は諦めようか。
 しかし何事も諦めなければ道は開けると、どこかの偉い人が言ったらしい。
「お手伝いしましょうか?」
 その声に振り向くと、超ご機嫌な様子のユウが立っていた。
 だって長年の暗躍が実を結びそうな気配が日増しに濃くなっているんですもの! ※ユウ視点
 そしてもうひとつの手が反対側から差しのべられる。
「……よろしければ、私にも何かお手伝いをさせていただけないでしょうかぁ……」
 恋音は傍らでカノンを指導しながらの作業になるが、その程度の掛け持ちはスペック的に何の問題もないようだ。
 なお、このレベルまで到達する必要はありませんので、念のため。
「ではお言葉に甘えて、お手伝いよろしくお願いしますね」
 ユウにはタルトの生地作り、恋音にはスイートポテト作りをお任せして、レフニーはリンゴのコンポート作りに取りかかる。
 全てを揃えてオーブンで焼く間、レフニーは更に焼き林檎を作り始めた。
 初心者さんには難しい芯くりぬき器の寸止めもレフニーならばお手の物、抜ききる前に手を止めて下から包丁を入れ、蓋を出来るように下が細くなる形で切り取る。
 下から押して芯を抜いたら、底側を切って詰めれば入れ物の完成だ。
 え、自分の知っている焼き林檎と違う?
「ふっふっふ、これは焼き林檎の中でも最強の一品、最も手間がかかる作り方なのですよ」
 ちなみに三種類しかないので四天王にはなれない模様。
「砂糖とクリーム、シナモンパウダーを混ぜたものとバターを詰めたら蓋をして、後はオーブンで焼くだけですね」
 時間にはまだ余裕があるし、他には何を作ろうか。
「ピーマンプリン……」
 あ、冗談ですよ?


 しかしここに、それを冗談で済ませるつもりが欠片もない者がいた。
 言わずもがな、ラファルである。
「エカちゃんのために俺が一肌脱いでやるぜー」
 好き嫌いを克服する為には、好物にこっそり紛れ込ませるのが効果的だと聞いた。
 大好物のプリンなら、きっと効果は絶大――なに、トラウマでプリンまで嫌いになる?
 そもそも好き嫌いというレベルではない?
「ま、物は試しって言うじゃねーか」
 なおピーマンプリンというシロモノは、わりと普通に存在する。
 ただしそこで使われるのはカラーピーマンではあるが。
 しかしラファルが使うのはもちろん、普通のピーマン……それどころかししとうと万願寺唐辛子でも作っちゃう。
「だってなんか似てるだろ、形とか」
 そ、そうかしら。
「あ、レシピはごく普通だぜー替えたのはピーマンだけだぜー」
「ラル、多分それが最大の問題だと思うよ……」
 傍らであけびが苦笑混じりにコメントを添える。
 しかしそれが精一杯で、相変わらずの暴走ぶりを見せる親友を止める余裕はなかった。
 今は計量の真っ最中なのだ。
「……忍の薬と一緒で分量間違ったら危険なんですよね?」
 きっと爆発したり副作用で薬が毒になったりするんだと、過去の苦い経験が蘇る。
 あ、なんか手が震えてきた。
「大丈夫ですよ、間違えても修正は出来ますから」
 そんな様子を見て沙羅先生がアドバイス。
「もちろん厳密に測る必要のあるレシピはありますが、それ以外は融通が利きますから」
「そうなんですか? よかった〜」
 それでも緊張気味に、あけびは先生から言われたことをきっちり守って作業を続ける。
 パイとタルトの形を整えてオーブンに入れたら、次は――
「リュールさん、今なら私達だけでも何か作れそうな気がしませんか!」
「……いや、気のせいだろう」
 もー、そんなこと言わないで!
「大丈夫ですよ、沙羅先生のやりかた見てたわけですし、コツも何となくわかった気がしますし!」
「わからん」
「え?」
「見てはいたが、あれは何をしてしていたのだ?」
「何って……」
 ああ、そうか。
 天界に料理はない、そもそも食べる必要がない。
 基礎が全くないところに応用問題の解き方を見せられても、魔法にしか思えないのも無理はないだろう。
「大丈夫、今度は私が教えてあげますから!」
 自分もまだまだ初心者だが、だからこそ初心者の気持ちがわかる、はず。
「南瓜クッキーとプリン、それに焼き林檎に挑戦してみましょう!」
 クッキーやプリンなら小学生でも出来るって聞いた。
「焼き林檎は俺が教えるぜー」
 ラファルが声をかけてくる。
 教えると言っても目の前でやって見せるだけの「勝手に盗め」方式だが、まあ教えるまでもなく簡単なものだし。
「切って焼く、以上」
 丸ごと作る場合はもう少し手間がかかるが、それも大したことはない。
 簡単だし、甘さを控えめにすれば自分でも食べられるので、ラファルはこれが好きだった。
「あ、この一個は俺専用だからな、食うなよ、食われたら泣くぞ」
「食べないよ、そんな見るからに辛そうなの」
 なんか真っ赤だし、とあけびが苦笑い。
「いきなりだんごなら、リュールさんにも出来ると思うですよ」
 ひょいと顔を出したザジテンが言う。
 なにしろいきなり出来ちゃうくらい簡単ですから!
 そんなやりとりを見ていたあやかが、自分の料理が一段落したところで話しかけてきた。
「簡単なお菓子を作りたいのですか?」
 それならと、メニューを提案してみる。
「これは素材にもよりますが、南瓜なら切ってグリルで焼くだけで美味しく出来ますね」
 特にこの智美が依頼でもらって来たという六右衛門南瓜は絶品だ。
「それか、さつま芋と林檎を切って鍋に入れて、ひたひたの水と少量の砂糖で煮たり、でしょうか」
 それを聞いて、リュールがぽつりと呟く。
「しかし、どれも甘そうなものばかりだな」
「それはまあ、お菓子って基本的に甘いものですし……リュールさんも甘い物がお好きだって聞きましたけど?」
 寧ろ甘いものしか食べないのではなかったかと問うあけびに、リュールは何やら曖昧な笑みを返した。
 何でもスパっと一刀両断にしてしまいそうな、この人には珍しい――


 と、後ろから焔の声がした。
「ダルドフさんに食べさせてあげたいのですね〜?」
 本人は否定しているが、ツンデレの否定は肯定である。
 それに何と言っても自ら彼を誘ったのだから、もはや言い逃れは出来まいて、ふっふっふ。
「ダルドフさんって……?」
 何処かで聞いたことがある気がするけれど、とあけびが首を傾げる。
「……そこにデカブツがいるだろう……元、夫だ」
「ええっ、リュールさん結婚してたんですか……って、それはそうですよね、章治先生のお母さんですもんね……あれ、じゃああの人がお父さん……!?」
「いや、そこは少々複雑でな」
 説明するの面倒だから、誰かよろしくぽいっと丸投げ。
「なるほど、そういうことだったんですね……」
「そんなわけで、甘いもの苦手なダルドフさんには野菜スイーツはどうでしょう〜」
 簡単な所で人参パンケーキとか 。
「ホイップバターとメイプルシロップを添えたらスイーツですが、おかずを添えたら食事にできるのでダルドフさんでも食べられるかな〜と」
 要するに、二人で同じものを食べられるよ、ということで。
「混ぜて焼くだけだから簡単ですし〜、あ、でも薄力粉は少しふるいにかけておくとダマになりにくく……」
「面倒だ」
「あー……はい、そうですねー、少しくらいダマになってても問題ありませんよね〜」
 でも少し慣れてきたら、手間をかけることも考えてあげてね!
 きっと泣いて喜ぶと思うよ!


 暫く後、オーブンからクッキーの焼ける香ばしい匂いが漂い始める。
 他のクッキーならスルースキルを発揮できるのだが、こと好物の南瓜クッキーとなれば話は別だ。
「出来たか?」
 匂いに誘われた藤忠は、いそいそとオーブンに近付いて中を覗き込む。
「まだだよ姫叔父、見ればわかるでしょ?」
 あけびに言われるまでもなく、タイマーの表示は出来上がりまで数分を残していた。
 しかし、それでも訊かずにはいられないのがカボチャスキー。
「まだか?」
「まだだよ」
「もういいだろ、焦げるぞ?」
「焦げないってば……もう、それよりちゃんと仕事してる?」
「仕事?」
「姫叔父、撮影係でしょ?」
 ああ、それなら大丈夫、問題ない。
 被写体に気付かれることなく、こっそりと、ばっちり撮ってあるからと、藤忠はデータを呼び出して見せる。
「見ろ、この章治のユルみまくった顔を」
 ミハイルと沙羅の仲睦まじい様子も、ほれ。
 あけびとラファルのお菓子作りという名の仁義なき戦いも、そこに乱入してファンブルを連発するリュールも――

 ちーん!

「お、出来たか!」
 よし、さっそく味見して――
「熱っ!!」
「そりゃそうだよ、火傷しなかった?」
「大丈夫だ、南瓜クッキーはこの焼きたての火傷しそうに熱いやつが一番美味いんだ……もちろん冷めても美味いが」
 うん、なかなかよく出来ている。
「ほんと? 姫叔父の好物だからって多めに作ったんだよ!」
「そうか、ありがとう……プリンもか?」
「プリンもたくさん作ったよ、ミハイルさんの好物だからね」
「……南瓜プリンは?」
「それは沙羅さんが作ってる」
「ということは、数は多くなさそうだな」
 これは、戦争の予感。


「私はカッパ巻きを作るのですよ〜」
 アレンは山のようなキュウリを前に、好物の巻き寿司を作っていた――と言うか、練習していた。
 家政夫歴は長いが、食事は殆どコンビニで買うか誰かに作ってもらうばかりだったため、実は料理に関してはそれほど得意ではない。
 レンチンを料理と称して差し支えないならば、得意だけれど。
 そんなわけで、パックのごはんをチンして寿司酢を混ぜて、酢飯を作っていざ……!
「巻くだけですから、きっと簡単なのですね〜」
 多分あれだ、髪にカーラーを巻くような。
 巻き簀で巻いて、出来上がり。
「美味しいのです〜」
 うん、ごはんが溢れてはみ出てるけど、コンビニで買うのと寸分違わぬ出来上がり、だと思いますけど、どうでしょう?
 そこにふらりとやって来たテリオスに大量のカッパ巻きを押し付けつつ、アレンはお菓子作りに誘ってみる。
「果物や既製のお菓子を飾るだけなら簡単ですよー♪ ほら、後でバースデーケーキに好きなもの飾るって言ってましたし〜」
 ひそひそ。
「私はべつに、あいつの誕生日を祝いに来たわけでは……っ」
 こそこそ。
「そうですねー、そういうことにしておきましょうか〜」
「……むぅ」
 秘密を握られているせいか、テリオスもそれ以上は何も言えなくなる。
「まずは果物の洗い方から始めてみましょうか〜」
 そのままペースを握られて、ナイフの使い方まで優しく指導されてしまった。
「わ、私だってナイフくらい扱える!」
「どんなふうにでしょう〜?」
「……投げるとか、突き刺すとか」
 うん、でもキッチンで必要なのはそういう技術じゃないから。
 と言うかナイフを扱いかねてまごまごしている様子はちょっと可愛いし、もしかしたら何かを気付く人も出て来るのではないだろうか。
「こちらは後回しにして、テリオスさんもおめかしいかがですー?」
「え?」
 リンゴの皮と格闘していたテリオスは、顔を上げた拍子に――さくっ。
「いたっ」
 切らなくていいところが切れた。
「あー、手当てしに行きましょうねー」
 ついでにちょっとお話でも。
『男らしく見せる方も心得てますので』
「えっ!?」
 意思疎通で話しかけられ、今度は何もないところでつまずいた。
 案外ドジっ子かもしれない。
「私の奉公先の息子さんのことは、少しお話しましたよねー?」
 傷の手当てを終え、周りに人がいないことを確認すると、アレンは話し始めた。
 娘として育てられた彼が、家出をした後で色々あって、結局は親と和解して男に戻ったこと……などなど。
 そんな話を聞けば、カミングアウトする気にならないだろうかと考えたのだが。
「例えばテリオスさんの双子の妹としてデビューしてみるのはどうでしょう〜? それならお手伝いしますよ〜?」
「手伝うのは当然だ、責任とれと言っただろう」
 ただし今は、どう頑張っても女の子らしい仕草が出来ない。
「……練習、付き合え」
「はい」
 ふわりと微笑むアレンの方が、やはりどう見ても女性らしかった。


 怪我の治療その他から戻ったテリオスは、再びシグリッドとりりかに捕獲された。
「テリオスお兄さん、野菜のシャーベット作りませんか!」
「一緒に作りましょう、です」
 恐らく拒否権はない。
 あったとしても使わないだろうけれど――その前に、しゃー……なに?
「しゃーべっと、というのは……果物のジュースを凍らせたお菓子、なの」
 それを野菜で作ることも出来るというわけで、今回はカボチャとサツマイモで作ってみましょう。
「カボチャはそのまま器にすることも出来るのですよ」
 横に包丁を入れて中身をくり抜き、タネやワタを取ってから茹でてフードプロセッサーにかけ、そこにシロップを混ぜたらカボチャの器に戻して蓋をして。
 あとは冷凍庫で冷やすだけ。
「とても簡単なの……」
 包丁を使う作業はちょっとやめておくとして、混ぜたり器に入れたり、トッピングを飾ったりするだけならテリオスにも出来るだろう。
「同じようにして、さつまいもでも作れるの……ですよ?」
 サツマイモはミルクを足してクリーミーに、アルミのバットに広げれば均一に冷えて出来上がりも早くなる。
「章兄やテリオスお兄さんは甘めの方が好きですよね……お砂糖足しましょうか」
 どばー。
 サツマイモより砂糖の分量の方が多くなっちゃった気もするけれど、まあ、甘いものが好きなら問題はない、と思う。
「いざとなったら、きっとリュールさんが食べてくれるのですね……」
 冷えたらスプーンで削るようにして取り分けて、ガラスの器に盛ったら野菜チップスをトッピング。
 ミントの葉なども添えると良いかもしれない。
「お料理は、楽しいの……」
 少しずつでも覚えてもらえると嬉しいな。
 特にチョコ関連とか。
「そう言えば、テリオスお兄さんはこっちに来るつもりはないのです……?」
 ちらちらと姿を見かけるリコのことはシグリッドも知っている。
 ヴァニタスが編入を許されるなら、天使だって――と思ったのだけれど。
「学校生活楽しいですよ……僕はテリオスお兄さんが好きなので来てくれると嬉しいです」
「お前の『楽しいは』あてにならん」
 まあ、それはその、うん、そう思われても仕方がない部分はあった、かもしれないけれど。
「か、華桜さんも居ますし!」
「だから何だ」
 え?
 テリオスくんってば、りりかさんに気があるとか、そういうことじゃなかっったの?
 だってずいぶん懐いてるみたいだし……え? 違う?
 なお真実には、まだ当分の間気付かれてはならなかった。
 二人とも暫くは勘違いしたままでいてくださいね。


 さて、そろそろ料理も出来上がり、あとは仕上げを残すのみ。
「門木せんせ、ちょっといいですか?」
 何気ないふりをして、クリスが話しかける。
「ボクも菜園で何か作りたいなって思うんだけど、どの区画が空いてるかわからないんだー。ちょっと一緒に来てくれると嬉しいな♪」
 半ば問答無用で門木の袖を引き、庭へ出て行くクリス。
 途中でそっと振り返り、ウィンクをひとつ――

 今だ、準備を急げ!

 会場は窓を開け放ったリビングと、それに続く庭先の一角。
 ミハイルはティッシュペーパーで花を作って壁に飾りつけようとするが――
「ミハイルさん、そういう時にはこれを使うものですよ?」
 沙羅がそっと差し出したのは、お花紙。
「専用の紙があるのか! 今までずっと、あれはティッシュで作ってるもんだと思ってたぞ」
「基本の作り方以外にも、色々なアレンジの仕方があるんですよ?」
 元は学校の先生をしていた沙羅は学校行事で作る機会も多かったのだろう、手慣れた様子で花を作っていく。
「ほら、こうして端を鋏でカットしてから作ると、カーネーションのようにも見えませんか?」
「おお、すごいな!」
 他には二色の紙を重ねてみたり、半分に切って小さなものも作ってみたり。
 軒下や木の枝にいくつか繋げてぶら下げてみるのも良いし、ピックで地面やプランターの土に挿してみるのも良い。
 それと一緒に、沙羅は自分で育てた花の鉢植えをあちこちに飾っていく。
 ザジテンは徹夜で作った横断幕を、紐を引っ張ると展開するようにして一番目立つ場所に設置した。
「上手く広がってくれると良いのです」
 あとはクラッカーを皆に配って――

「ボクは食用花とか作りたいー、お花でも良いんだよね?」
「ああ、ハーブや何かを中心に作ってる者もいるし……って、お前いつも見てただろ」
「見てたけど、契約する時にはちゃんとした説明が必要なんだよー」
 そんなこんなで色々と理由を付けながら、クリスは門木を連れ回す。
 しかし、そろそろ話題が尽きてきた。
 なのに準備はまだ終わらない。
 誰か、誰か代わって……!

「暫く時間稼ぎをすれば良いのか」
 海が立ち上がり、さりげなく二人に近付いて行く。
「門木先生、あの遺跡の調査って、あれからどうなってます?」
 少しは進展があったのだろうか、それともまだ何もわかっていないのか……わかっていても発表できる段階ではないのかもしれないけれど。
「ヴァイサリスさんは聖獄鎖の準備で忙しかったみたいだったけど、今はどうなんでしょう?」
「ああ、そっちはもう一段落したからな……お陰で俺が、こうして遊んでいられる」
「なるほど、それで成果の方は?」
 あ、そこはやっぱりまだ秘密なんですね。
 えーと、他に何か話題は……

「ケーキの土台、出来たよ!」
 あけびが生クリームを塗ったスポンジを調理台の上に置く。
 ウェディングケーキの時のように、これから皆でそこにデコレーションを施して行くのだ。
「あの時より大きさも控えめだし、一段しかないけどね!」
 しかし、想いは負けずに込めたし、味だって負けていないはずだ。
「よし、まず真ん中にはこれだな」
 ミハイルがイルカの型で作ったプリンを置く。
「可愛いだろう」
 なぜイルカなんだって?
「夢に出てきたんだ、遠い記憶の何かがそうさせたんだろうな」
 その手前に置かれたプレートには藤忠がチョコペンでメッセージを書き入れる。
 焔が作ったマジパンの人形が、その両脇を支えるようにちょこんと置かれた。
「ちょっと二人に似せてみたんだよ〜」
 周囲には南瓜のクッキーをざくざく刺して並べ、その間にテリオスがカットフルーツを並べていった。
 アレンは赤や黄色、ピンクにオレンジなど、色とりどりの薔薇の花の砂糖漬けを飾る。
「お二人も何かいかがですか?」
 ユウに促されて、ダルドフは土産に持って来た丸い小判のようなお菓子を並べてみた。
 中に白餡が入ったそれは、ウェディングの時に飾られたたい焼きを思い起こさせるが……多分、あれよりは違和感が少ないだろう。
 リュールはまん丸の小さなスイートポテトをイチゴのように並べていく。
 なお彼女はさも自分で作ったような顔をしているが、実際に手を出したのは丸く形を作る工程のみであったことをここに明記しておく。
 他にも色々とてんこ盛りに飾り付け、最後にロウソクを挿して。
「五十本なんだ、意外と多い……え、少ない?」
 あけびが驚きの声を上げるが、天使的には五十歳などまだまだヒヨッコである。
 なにしろその十倍生きてもまだ寿命の半分なのだから。
「やっぱりすごいんだね、天使って」
 そう言いながら、やっぱり五十本は多いので太めのロウソクを五本、バランスよく挿していく。
「うん、これで完成かな!」
 あとは主役を呼ぶだけだけれど、呼びに行くのは当然――


「あ、あの……しょ、章治、さん……」
「……え、あ、はいっ!?」
 呼び慣れないし、呼ばれ慣れない。
 何となく互いに気恥ずかしい思いになりながら、カノンは門木の手を引いて来た。
「どうぞ、こちらへ……」
「え、なに?」
 会場の真ん中で立ち止まると、その周囲を皆が取り囲む。
「それじゃ、いくですよ! せーの!」
 合図と共にヒリュウのクラウディルが紐を引っ張ると、がたんと音を立てて横断幕が垂れ下がる。
 そこにはピンクのヒリュウのイラストと共に、カラフルな文字が踊っていた。

『門木先生 お誕生日おめでとうございます』

 同時に四方八方で慣らされるクラッカーの音。
「おめでとうございます!」
 次々に湧き起こるおめでとうコール。

 門木が事態を把握するまでに、たっぷり十秒はかかっただろうか。
 把握してもなお、信じられない面持ちで暫し呆然。
「おめでとう章治」
 ミハイルが目と口を開けっ放しにしたまま固まってしまった門木の肩を軽く叩く。
「付き合いもけっこう長くなるが、皆でこうして祝うのは初めてだな」
 その目の前に置かれたケーキのプレートには「しょうじくん おたんじょうびおめでとう」と書かれていた。
 小学生か。
「章治先生、誕生日おめでとう! このケーキ皆で作ったんだよ!」
 あけびが自分のことのように嬉しそうに笑う。
 その隣に置かれたチョコケーキが誰の作であるかはもう、何も聞かなくてもわかった。
「チョコは譲れないの……」
 視線を受けて、こくりと頷くりりか。
 今回はスポンジにサツマイモを練り込み、更にサツマイモのペーストを間に挟んだ収穫祭特別バージョンだ。
 プレートが猫の顔だったり、表面に猫の絵が描かれていたりする部分はシグリッドが手伝ったのだろう。
「日頃の感謝を込めて、皆でいっぱい頑張ったです」
 にこっとザジテンが笑う。
 やばい、涙腺やばい。
 何か一言でも喋ったら、これ絶対決壊する。
 以前にもサプライズで祝ってもらったことはあるけれど、嬉しい喜びは何度経験しても良いものだし、感動が薄れることもないようだ。
 それどころか、ますます嬉しさが募ってくる。
「章兄、とにかく座るのですよ」
 シグリッドに促されるままに椅子に腰をかけると、二つのケーキに挿されたロウソクに火が灯される。
 誕生日の歌を歌い終わったら火を吹き消して――

 そしてまた、おめでとうの嵐。
 これ幸せすぎて明日辺り死ぬんじゃないだろうか。
「奥様も座ってくださいですよ」
 ザジテンは椅子をくっつけて、カノンを隣に座らせる。
「お二人にプレゼントなのです」
「え、あの……私にも、ですか?」
「夫婦は一心同体って言うですよ! はい、これ!」
 差し出されたのは夫婦茶碗。
「いつまでも仲良く、なのです」
「ありがとうございます」
 感極まって何も言えなくなっている門木に代わって、奥様が丁寧に頭を下げる。
「門木せんせ、お誕生日おめでとー。ボクからは、誕生花の花束とお酒だよ」
 クリスがまず差し出したのは、千日紅とブヴァルディアをアレンジした花束。
「どっちも十月十日の誕生花なんだよ♪」
 千日紅は変わらぬ愛、ブヴァルディアは誠実な愛という意味だ。
「ご結婚されたですから、ご夫婦お2人に向けた花言葉ですねっ♪」
 あとはいつもの商店街で手に入れた金木犀のお酒「桂花陳酒」をどーん!
「白ワインに金木犀の花を漬けたお酒ですって」
 なお金木犀も誕生花のひとつ、花言葉は「謙虚」や「気高い人」などだ。
「もちろん払いはミハイルぱぱのツケですっ(ぐっ」
 事後承諾だけど、構わないよね?
「じゃあ、それは俺からのプレゼントってことにしといてくれ」
「うん、いいよー」
「良いのか!?」
 あっさり承諾されて、言ったミハイルのほうが驚いている。
「いや、冗談だ。俺は娘の厚意を横取りするようなセコい真似はしないんだぜ」
 なおミハイルからのプレゼントはケーキの上に載ったイルカプディングである。
「何となく懐かしい気がするだろ、こう……魂の奥底のようなところで」
 そう言われて、門木は無言でこくりと頷いた。
 まだ声は出せないらしい。
「私からは、これを」
 沙羅が差し出したのは、綺麗にリボンを掛けられたポインセチアの鉢植え。
 花言葉は「幸運を祈る」や「祝福」といったもので、誕生日の贈り物には相応しいだろう。
「章ちゃんおめでとうございます〜♪ 私からはこれを〜」
 アレンが手渡したのはメンズの用スキンケアセット。
 今日もいつものようにおめかしをしてあげようと思ったものの、何か感付かれては拙いということで自重していたのです。
「こんなのはどうかな〜」
 焔からはこれも誕生花であるイングリッシュアイビーを浮き彫りにした手製のフォトフレームを。
 花言葉は「永遠の愛」だそうですよ。
「……これ、自分で彫ったのか……すごいな」
 やっと声帯が機能するようになった門木は、掠れた声でそう言った。
「ありがとう」
 声が詰まって出なかった分も、ひとりひとりに感謝の言葉を返していく。

「自然に切れたときに願いごとが叶うそうですよ……お誕生日おめでとうございます」
 シグリッドは左手の手首に平織りにしたミサンガを結びながら笑いかけた。
 配色は水色に白のライン、意味は「健康と笑顔」といったところだろうか。
「ありがとう、でもこれ以上何かを願ったら、贅沢すぎるって……盛大にバチが当たりそうだ」
「そんなことないのですよ? それと、これもなのです」
 もうひとつ、用意していた腕時計を渡す。
 こちらは箱に入れ、綺麗にラッピングされていた。
「あ、んと……んぅ……」
 わざわざ誕生日を祝いに来てくれたというのに、りりかは上手く言葉が出て来ない。
 こうして会えることは嬉しいけれど、以前のように無邪気に甘えるわけにはいかないと思うと、どう接していいかわからなくなってしまう。
 しかし距離感を測りかねているのは門木も同じだった。
「もう頭撫でたりは、出来ないよな」
「そんなこと、ないの……」
 そう言って、可愛くラッピングした包みを差し出す。
 中身は、やはりミサンガ。
「着けてくれないのか?」
 そう言われて、りりかはそっと門木の腕をとった。
「ずっと幸せが続くように願いを籠めたの、です」
 固く結んで、少しはにかんだ笑みを見せる。
「ん、ありがとう」
 その頭を、門木はそっと撫でてみた。
 かつぎ越しの感触が、なんだかとても懐かしく思える。
 また以前のように気兼ねなく接することが出来るようになれば良いのに――そうだ、願いごとのひとつはそれにしようか。
「ミサンガは二本、あるの……お願いは二つ、叶えられるの……ですよ?」
「ん、そうだな」
 もうひとつは、何にしようか。

「誕生日、おめでとうございます」
 海が声をかけてくる。
 レフニーやユウ、恋音、ラファル。
 そして藤忠は頭を撫でながら微笑む。
「誕生日おめでとう」
 プレートの文字と言い、すっかり子供扱いされている気がするのだが、それも不思議と悪い気はしなかった。
 それどころか、とても居心地が良い。

「……え。先生のお誕生日だったの?」
 予備知識なしで参加した愛莉は、慌てて何かプレゼントになるようなものはないかと探し始める。
 しかしそんな急に言われても、小学生の女の子が大人の男性にあげられる物など持ち歩いているはずもない。
「と、とりあえずおめでとうございますはいいますですの!」
「ありがとう、その気持ちだけで充分だ」

 誕生の瞬間は誰にも祝福されなかった。
 こんな風に皆から祝ってもらえる日が来るなんて夢にも思わなかった。
「大切な先生の誕生日ですから!」
 ザジテンに直球で言われ、一度は落ち着いたものが再び勢いを増して……とうとう決壊。
「章治は意外に泣き虫だな」
「そう言うな、こんな時は俺だってウルっと来る」
 藤忠とミハイルがそれを慈愛の眼差しで見つめつつ、小声で囁き合う。
 門木は袖で顔を拭って、ひとつ深呼吸。
 それでもまだ顔を上げられずに、俯いたまま掠れた声で言った。
「本当に、何て礼を言えば良いのか……」
 自分には過ぎるほどに、良い縁に恵まれた。
 もうひとつは、この幸せがいつまでも続くようにと……そう願っても良いだろうか。


「皆でお祝いしたら、あとは皆で一杯、楽しく食べるよ!」
 あけびは早速、良い匂いを漂わせる各種カレーに突撃する。
「どれも美味しそうで迷うけど、最初はやっぱりミハイルさんと沙羅さんのかな!」
 ごはん、どーん!
 カレー、どばーっ!
 花も恥じらう乙女とは思えない豪快なよそいっぷりである。
「だって頑張ったからお腹すいたし!」
 美味しいものは豪快に食べると余計に美味しくなる気がしませんか。
 こと料理に関する限り、遠慮は美徳ではないのです。

「……どう、でしょうか」
 カノンはゴーヤカレーの出来映えを恐る恐る尋ねてみる。
 他の人達の作業をちらりと盗み見たりして、迷った末にゴーヤは油で揚げてみたのだけれど。
「うん、美味しいよ……これ、新しい我が家の味になりそうだ」
 お世辞ではないし、ただベタ褒めしているわけでもない。
「もう少し自信持っても良いんじゃないかな、うちの嫁さんは」

 レフニーは色々なカレーを混ぜながら皿に盛り、トッピングには素揚げのナスを。
「これが美味しいのですよ」
 サクサクに仕上げて水分を飛ばしてあるから、カレーと一緒に食べても味を薄めることがないし。
 もちろん料理はカレーばかりではない。
 焔が前の晩から仕込んでおいたトマトソースを使ったロールキャベツや、冬瓜の鶏そぼろあんかけ、早朝に港で仕入れた新鮮な魚で作った野菜たっぷりアクアパッツァ、ししとうのチーズフライ。
 里芋は蒸してから、甘い煮物と生姜醤油で頂く二種類に分けて。
「どちらも酒のアテに良いんだよね〜」
 なお本人はザルであるらしい。
「ダルドフさん、飲み比べしませんか〜?」
 そうじゃなくても一緒に飲みましょー。
 おつまみには甘くないジャガイモとチーズのクッキーや、ほんのり赤く染まったトマトとクリームチーズのマフィンもある。
 緑色のものはチンゲンサイ、淡い黄色はサツマイモ、少し赤みの強い黄色はカボチャのマフィンだ。
「これも試してみてくださいですよ」
 ザジテンが作ったスイカの皮フライも、ピリッと香ばしくてビールとの相性抜群。
 他にも色々、野菜を中心にしたフライや天ぷらが皿に山盛りだ。
「そうか、焔とダルドフはイケるクチか」
 嬉しそうに言った藤忠は、一升瓶を抱えていそいそとそちらのテーブルへ。
「章治とミハイルも来い、一緒に飲もう」
 上機嫌で酒を注ぎ、南瓜のお菓子や料理に舌鼓。
「ああ、とても幸せだ……」
 南瓜と酒さえあれば生きていけるかもしれないと、ちょっと本気で思いました。

 ドリンク類は主に恋音が担当ということで、まずは何を置いても牛乳ですよね。
「なるほど、これのせいでそんなに……」
 テリオスは思わず納得しかかるが、多分それ違うから、飲んでも大きくならないから。
「……ご注文があれば、その場でお作りしますよぉ……」
 ミキサーの前にずらりと並んだ各種の野菜や果物。
 トマトを丸のまま搾ったフレッシュトマトジュースはそのまま飲んでも良いし、好みで塩コショウやハチミツ、レモン果汁などを加えても良い。
 カボチャのジュースはレンチンしたカボチャに水とハチミツを加えてミキサーにかけた後、牛乳を加えて出来上がり。
 リンゴ果汁を加えると更に飲みやすくなるかもしれない。
 ちょっと大人な雰囲気の赤紫蘇のジュースは焼酎割りにも良いから、酒呑みの席にも提供してみようか。
「……ダルドフさんも、よろしければどうぞですよぉ……」
 それほど甘くないから、多分いけるんじゃないかな。
 紫蘇ジュースはダイエット効果もあるそうだから、女性にも良いかも……(ただし胸のダイエットには効果がありませんでした)
 あとはおつまみにも出来る夏野菜ビスケット。
 トマトと枝豆は少し塩味を利かせて、カボチャとトウモロコシは自然な甘みを生かして仕上げてある。
「……お土産用にもご用意しましたので……ご希望の方はご遠慮なくどうぞですよぉ……」
 なおテリオスには上司の分も含めて用意してあるそうだ。

「パパが夏の暑い時期に丹精込めてお世話したお野菜……ありがたく頂きます」
 クリスはきちんと手を合わせてから、ひとつひとつの素材をゆっくりと味わっていく。
 料理が美味しいのは、きっと自分が一生懸命に応援したお陰でもあると思うのだ。
 ほら、トマトに音楽を聴かせて育てると甘くなるって言うでしょ?
 それと同じで、きっと応援だって届いている――ミハイルぱぱを通じて。

「ゴチになります」
 自分で作ったサラダはひとまず置いといて、海は目の前に山と積まれた料理を片っ端から平らげていく。
「採れたての野菜は何もしなくても美味いって聞くけど、そこに料理人達の技術が加わったんだから、美味くないはずがないよね」
「ほんとに、皆さんすごいです」
 ザジテンは皆の料理にほっこりしながら、こくこくと頷く。
 学園の依頼や勉強で忙しいはずなのに、皆どうやって腕を磨いているのだろう。
 今度じっくり話を聞いてみたいものだ。

「ふっふっふ、どれがピーマンプリンか見分けが付くめー」
「付くよ、私にだって匂いでわかるもん」
 普通のプリンの中にピーマンプリンをこっそり混ぜておいたラファルだったが、あけびに言われるまでもなくその区別は容易だった。
 ことピーマンに関しては嗅覚測定器にも負けない敏感さを発揮するミハイルの鼻ならば、恐らくもっと巧妙に隠しても気付かれるだろう。
「良いんだよ、別に引っかからなくても」
 仕掛けることに意義があるっつーか、イジラレポイントは弄り倒して差し上げるのが礼儀ってもんだろ?
 なおミハイルの場合、数ある色も形も匂いも大きさも全く同じプリンの中から、沙羅の手作りプリンだけを的確に選び出すことが可能である……え、出来ますよね? ね?

 あやかが作ったのはトウモロコシとジャガイモのポタージュ。
 それにトマトを入れたベーコンとジャガイモ、玉葱の重ね焼きに、カラフルな夏野菜をを使ったペペロンチーノ。
「これ、すごくおいしいね!」
 重ね焼きを一口食べて、リコが顔を綻ばせる。
「こういうのリコも作ってみたいなー、でもきっとむずかしいんだよね?」
 そう言って残念そうに視線を落としたリコに、あやかは笑って首を振った。
「難しそうに見えますが、実はとても簡単なんですよ?」
 グラタン皿にベーコン、ジャガイモ、トマト、玉葱の順に二回ずつ重ねて、弱火でゆっくり焼いたら仕上げにとろけるチーズを乗せてパセリを振るだけ。
 手間はさほどでもないのに味は絶品という、料理上手に見せるには最適の一品だ。
「リコさんにも、誰か作ってあげたい人がいるのでしょうか」
「いますの! ね、リコさん?」
 代わりに答えた愛莉の言葉に、リコはちょっと恥ずかしそうに頷く。
「恥ずかしがることはありませんよ、好きな人のために美味しいものを作ってあげたいと思うのは、女の子なら当然ですもの」
「そうだよね! うん、リコがんばる!」
 そして始まる怒濤の女子トーク。
 その勢いに気圧されながら、そしてエリもいつか自分のために腕をふるってくれるのかなー、なんて淡い期待を寄せつつ、明日夢はちょいちょいと愛莉の袖を引いた。
「ね、盛り上がってるところ悪いんだけど……何か忘れてない?」
「あっ、そうでしたの!」
 言われて、愛莉は荷物の中からごそごそと何やら取り出した。
「これ、お裁縫の上手なあやかさんや、智美お姉さんの彼氏さんから教わって作ってみましたの!」
 差し出されたのは、大きなドラゴンのぬいぐるみ。
「リコさんがいつも一緒だった子を思い出して作ってみましたの」
「わぁ、かわいい……っ!」
 リコはふかふかのボディに顔を埋めてぎゅっと抱きしめる。
 その感触も大きさも、リコが連れていたどらごんのぬいぐるみ(ディアボロ)にそっくりだった。
 見た目はあまり似ていないけれど、そこは敢えてそうしてくれたのだろう。
 今まで自由に動き回っていた子とそっくりな子が、じっと動かないのは寂しいから。
「ありがとう、大事にするね!」
「ところで、部屋は決めたの?」
 明日夢の問いに、リコはまだ少し迷っている風に「うーん」と答えた。
「ここにしようかなーって思ってるんだ。みんな楽しいし、良い人みたいだし」
 でも、とリコは表情を曇らせる。
「リコ、住んでもいいよって言ってもらえるかな……」
「その点は大丈夫だろ」
 智美が答える。
「ここは基本的に来る者拒まずだし、色んなことに理解あるみたいだし」
 リコの新居はこれで決まったようなもの、かな?


 やがて大量に用意された料理の数々もあらかた食べ尽くされ、客人達の胃袋が満たされるのに比例して眠気が周囲に充満し始めた頃。
「リュールさん、慣れないお菓子作りを頑張ったせいで、少し疲れてしまったようですね」
 いつの間にか居眠りを始めたリュールのそばをそっと離れ、ユウは未だに酒盛りに興じていたダルドフにご注進。
「風邪をひいてもいけませんから、お部屋まで運んであげてくださいませんか?」
 天使は風邪をひかないけれど、細かいことは言いっこなしで。
 運んだ後はもちろん、そのまま付き添っていただいて一向に構いませんからね、ふっふっふ。
 本日も恙なく、暗躍大成功?



 新たなメンバーを迎えて、風雲菜園は冬へと向かう。
 白菜や春菊、カブに大根、小松菜、ほうれん草……これからは鍋や汁物に適した野菜が多く採れる季節。
 次の収穫祭は、炬燵で鍋を囲んでみるのも良さそうだ――


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:24人

歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
アルカナの乙女・
クリス・クリス(ja2083)

中等部1年1組 女 ダアト
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
腕利き料理人・
美森 あやか(jb1451)

大学部2年6組 女 アストラルヴァンガード
天蛇の片翼・
カノン・エルナシア(jb2648)

大学部6年5組 女 ディバインナイト
Stand by You・
アレン・P・マルドゥーク(jb3190)

大学部6年5組 男 バハムートテイマー
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
撃退士・
シグリッド=リンドベリ (jb5318)

高等部3年1組 男 バハムートテイマー
リコのトモダチ・
神谷 愛莉(jb5345)

小等部6年1組 女 バハムートテイマー
リコのトモダチ・
礼野 明日夢(jb5590)

小等部6年3組 男 インフィルトレイター
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
Cherry Blossom・
華桜りりか(jb6883)

卒業 女 陰陽師
海に惹かれて人界へ・
ザジテン・カロナール(jc0759)

高等部1年1組 男 バハムートテイマー
明ける陽の花・
不知火あけび(jc1857)

大学部1年1組 女 鬼道忍軍
Eternal Wing・
サラ・マリヤ・エッカート(jc1995)

大学部3年7組 女 アストラルヴァンガード
藤ノ朧は桃ノ月と明を誓ふ・
不知火藤忠(jc2194)

大学部3年3組 男 陰陽師