.


マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2016/08/30


みんなの思い出



オープニング


※このシナリオは「ミッドナイト」シナリオです。
 オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。




 NYAMBO。

 それはは丸っこいツルツルボディに短い四肢と、ピコピコ動く尻尾が付いた四足歩行の猫型ペットロボットである。
 彼等は子猫のような可愛らしい動作と、飼い主であるユーザーとのコミュニケーションによって成長という名のカスタマイズが可能な「死なないペット」として、爆発的な人気を得ることとなった。

 しかし、それも今は昔の話。
 今ではブームは去り、メーカーも製造を終え、修理や部品の提供も打ち切られた。

 それでも大切に飼い続けている者はいる。
 機能を停止してもなお、傍に置いて可愛がっている者もいる。
 しかし多くのNYAMBOが燃えないゴミとして捨てられる運命にあった。



 ここ、久遠ヶ原島のゴミ集積場にも、そんなNYAMBO達が集められて来る。
 普通ならそれは、プレス機にかけられスクラップにされるのを待つだけ、なのだが――


 ある日、彼等の存在が門木章治(jz0029)の知るところとなる。
 知ってしまったら、それを黙って見過ごすことなど出来るはずがなかった。
「このまま潰されるなんて、可哀想じゃないか……まだ、生きてるのに」
 純正の部品はないし、故障の程度によっては元通りにすることは不可能だろう。
 だが新しく生まれ変わらせることなら出来る。
 ついでに外見や中身のカスタマイズや、本来はなかった機能を付けることも可能だ。

 というわけで。
 誰かNYAMBOの新しい飼い主になってみませんか?



リプレイ本文

●四季

 礼野 智美(ja3600)の家に新しい家族が増えた。
 季節にあやかった名前を持つ四匹の先輩猫に因んで「四季」名付けられたトラ柄の子猫だ。
「四匹も五匹も大して変わらないだろう、本物の猫と違って病気とかならないし」
 年一回のメンテを兼ねた健康診断は欠かせないが、ノミ対策も爪切りも予防接種も必要ない。
 人間と同じ食事をエネルギーに変換できるようにして貰ったから、食事係の負担が増えることもない。

 その日から、礼野家の食卓には四季専用の食事スペースが設けられることとなった。
 人間の赤ん坊が使う椅子にちょこんと座り、前足をテーブルに付いて、皆から少しずつ食事を分けて貰う。
 誰かの皿から掠め取るなんてお行儀の悪い事はしないが、じっと目を離さずに人間の手元と口元を交互に見つめれば、根負けして自ら進んで分け与えてくれるのだ。
「美味いか?」
「みゃーん」
 人の言葉も理解しているようで、良いお返事が返って来る。
 ところが、四季の能力はその程度のものではなかったのだ。

 ある日、パソコンで作業をしていた時のこと。
 机に飛び乗ってその様子をじっと見ていた四季は、徐に手を出してキーボードを叩いた。
「こら、悪戯するんじゃないぞ?」
 そっと押しのけると、四季は不満そうに「みぃ」と鳴き、傍らのマウスに手をかける。
 カチ、カチカチ。
 画面を見るとメモ帳が起動していた。
『いたずらじゃないもん』
 四季の肉球がキーを叩くと、そんな文字が現れる。
『これで、おはなしできる』
 キーを叩く様子はとても楽しそうだ。
 人に言葉を伝える手段を発見した事が嬉しくて仕方ないのだろう。
『あのね、にぃとねぇも、ひとのごはんたべたいって、ゆってる』
 猫と人、双方の言葉がわかる四季は、その日から両者の間を取り持つ通訳となった。
「残念だが、それは応えられないな」
『なんで? どーして? ねえねえねえ!』
 と、そんな具合に。

 そして何年かが過ぎて家族の形も変わり、四季は今、弟夫婦のもとで暮らしている。
 死ぬことがない四季は、死別に対するトラウマを持つ義妹にとって最適のペットだった。

 やがて彼等に子供が生まれる。
 その同じ年のメンテで突然変異が発生し、四季の姿は翼のある白い獅子となり、知能面でも成長を遂げた。
 子供はその後、四季をパートナーに撃退士達として活躍する事になるのだが――それはまだ、先のお話。


●ミハイル

『俺はミハイル。ただの猫じゃない、猫エージェントだ』
 自分はとある組織の秘密工作員だと、その二足歩行の猫は言った。
 メモリが残っている様だが、何の記憶だ?
『知らねえか? 俺は天儀ではちょっとは名が知られた猫又だぜ』
 ドヤ顔でふんぞりかえるそいつは、元は舵天照というアニメのグッズとして作られたらしい。
 それならよく知っていると、俺、ミハイル・エッカート(jb0544)は「もふらさまバッグ」を取り出して見せた。
『おっ、良いモン持ってるじゃねえか。よし、そいつは俺が貰ってやるぜ』
 ミハイルと名乗った白黒ハチワレ猫は、真っ白なもふもふバッグを襷にかけて二本の尻尾をピンと立てると、サングラスをくいっと上げて青い目をキラリと光らせる。
 それにしても自分と同じ名前というのも都合が悪い。
 俺はそいつを「ネコイル」と名付けた。しかし。
『センスねえな、却下だ。お前の方こそ俺の名前をパクってんじゃねえ』
 スクラップの運命から救ってやった恩人に何という態度、突然変異でも起きたのだろうか。
 結局、俺は「ヒトイル」という名前にされてしまった。

 俺はこいつと旅に出る、アヤカシマスターになる為に。
 メンテ要員としてカーキド博士も一緒だ。
 カーキドは小麦色の毛並みと黒い瞳がやたらと色っぽい、セクシー系雌猫ロボを連れていた。
 名前はアグネスと言うらしいが、喋らないし二本足で歩く事もない、普通の猫だ。
 ミハイルはどうやら、そいつに一目惚れしたらしい。
 鋭い爪を使った攻撃や、体毛を針のように飛ばす針千本を見せびらかし、気を引こうとしている。
 彼女に良い所を見せたいのは、人も猫又も同じようだ。
『アヤカシなんざイチコロだ、俺がお前を守ってやる』
 だが残念だったな、ここは天魔が跋扈する現代日本だ、自慢の爪も役には立たないぜ。
 おっ、何だ、全部俺が倒しちまったからイジケてるのか?
 仕方ない、ここはコイツの為に一肌脱いでやるか。

『何、アヤカシが出た!?』
 ミハイルは俺がカーキドに頼んで作って貰ったアヤカシロボに嬉々として向かって行く。 
『俺はこの戦いが終わったらアグネスにプロポーズするぜ!』
 立派な死亡フラグを立てたミハイルはしかし、そいつを見事にへし折った。

 それから…二匹はふらっと何処かへ行っちまった。
 きっと天儀へ戻ったのだろう。
 いつかまた、ふらっと俺たちの前に現れるさ。


●名前はまだない

 その猫には名前がなかった。
 黒いつるつるボディは色褪せ、細かな傷が沢山ついている。
 古ぼけて地味な、目立たない子。
 しかし、Robin redbreast(jb2203)は何故か、その猫が妙に気にかかった。
「捨てられちゃったの?」
 返事はない、けれどその瞳が悲しげに潤んだ様に見えた。

 下手に弄ってはいけない気がして、改造はしなかった。
「じゃあ、何しよっか…」
 家に連れ帰ったロビンは猫に尋ねた。
 マニュアルはとうに紛失し、本物の猫の飼い方を記した本は役に立ちそうもない。
 こんな時は本猫に訊いてしまうのが一番だ。
「あたしはあんまり遊び方を知らないから、教えて?」
 すると猫はゆったりとした動作でロビンの膝に乗り、くるりと丸まった。
 それがこの猫が学習した「遊び」であるらしい。
 前の飼い主はよほど活動量が少ない人だったのだろうか。
 しかし猫はどうにも勝手が違うとでも言いたげに何度も座り直し、挙げ句に「やっぱり違う」と言う様にひょいと降りてしまう。
 そして窓辺に歩み寄り、かしかしと窓ガラスを引っ掻き始めた。
「外に出たいのかな? それとも…おうちに帰りたいの?」
 かしかしかし。
「じゃあ、帰ろっか」
 きっと元の飼い主が恋しいのだろう。
 捨てられていたという事実からして、それが幸福な結末に至る可能性は低いだろう。
 けれどロビンは、好きにさせてやりたいと思った。

 手がかりは何もないが、集積場の担当地区や収集ルートを調べ、地域を絞り込んで、後はひたすら――歩く。
「ここは見覚えある?」
「ここは?」
 その度に悲しげに項垂れる猫。
 しかし、ある日の事。
 古い住宅地を歩いていると、猫の様子が変わった。
 ヒゲ代わりのランプをピカピカ光らせて走る、脇目もふらずに、目的地が見えているかの様に。
「…ここ?」
 立ち止まったのは、雑草が生い茂る更地の「売地」と書かれた札の前。
 と、背中から声をかけられた。
「あら、ハナコちゃんじゃない?」
 その人によれば、飼い主の老婦人はハナコをとても可愛がっていたらしい。
 けれど別れの時が来て、ハナコもその後を追う様に動かなくなり、廃品として処分されたのだという。

 今、ハナコは無縁仏の眠る共同墓地で、永代供養係の職務に就いている。
 誰も飼い主の安らかな眠りを妨げる事のないよう、墓の前に座ってじっと見守り続けているそうだ。


●夏緒

「夏緒、おいで?」
 シルバーブルーの短毛ふわもこボディに緑の瞳、少し頭でっかちなその猫は、照葉(jb3273)に名前を呼ばれると嬉しそうに尻尾を立てた。
 二本足で立ち上がり、ショートブーツを履いた足を不器用に動かしながらトコトコ近寄って来る。
「まだ少し調整が必要か」
 門木に助言を貰いながら、出来る所までは自力で頑張った。
「自分でやった方が親しみもわくだろう?」
 大食漢になってしまった突然変異はともかく、我ながらよくできたと思う。
「人は面白い物を作る。良い相棒になりそうだな」
 夏も終わりの頃に生まれたから、名前は夏緒。
「これからよろしくね、夏緒。なでても良いか?」
 そう言うと、頭突きの勢いで頭を差し出して来た。
「そうか、撫でて欲しかったのか、よしよし」

 今日はお祭り、夏の終わりの花火を見に行こう。
 背中に付けた小さな翼で、夏緒は照葉と一緒に空を飛ぶ。
「街の夜景、綺麗だろう。花火はもっと綺麗だぞ」
 祭り会場の真ん中にふわりと降りて、これから屋台の食い倒れ。
「綿あめ、こんぺいとう、りんご飴…いや、お菓子ばかりでは栄養のバランスが悪いか」
 夏緒の胃腸は何でも消化し駆動エネルギーに変換する事が出来るし、カロリーさえ摂取できれば栄養素の種類は問わない。
 だからこれは気分の問題――そして一緒に食べる照葉の為の配慮だ。
「やきそば、たこ焼き、いももち、五平餅…夏緒は何が食べたい?」
「ぜんぶ!」
 子供っぽく甲高い声が答える。
 リアル長靴を履いた猫の出現にも、周囲の誰も驚く気配がないのは流石に久遠ヶ原。

 食べ物屋台を全制覇したら、次はゲーム系だ。
「射的は得意か? …いや、金魚すくいはやめておこう」
 金魚は爪で掬うものではないし、食べ物でもないと納得させるのに随分と労力を使った気がする。
「お面はどう?」
 人間の子供に化けてみようか、それとも伝統的な狐のお面?
「なんだ、トラになりたいのか」
 それは人の子がヒーローに憧れる心境と似ているのかもしれない。
「よく似合ってるよ」
 そう言われて、夏緒は「がおー!」と叫びながら嬉しそうに走り回った。

 夜空に大輪の花が咲き始めた頃、ふたりは丘の上の木の梢に並んで座っていた。
 夏緒の手には大きな綿飴が握られている。
 手と口の周りをベタベタにしながら、打ち上がる花火に歓声を上げる夏緒。

「今日は一日楽しかったな」
 次は何をして楽しもうか。


●てまりさん

 猫の「れてこ」はクリーム&ホワイトのスコティッシュフォールド。
 人に飼われていた時にはレティシア・シャンテヒルト(jb6767)という立派な名前だったけれど、今はれてこと呼ばれている。
 ある日、れてこはゴミ捨て場でぼろぼろのNYAMBOを見付けた。
 それはもう、どうやっても動かないように見えたけれど、母性本能のスイッチが入ったれてこは諦めなかった。

 れてこは知っているのだ、かがくしつという場所に行けば、お人好しの下僕が何とかしてくれる事を。

 NYAMBOをそっと床に置いたれてこは、何かを訴えるように下僕を見つめた。
 真顔で、じーっと。
 それはもうじーっと。
(上手に直してくれたらにくきうぷにぷにしてもいいのよ?)
 その思いが通じたのか、数時間後にはちっちゃくてふあふあでまんまるなまっしろい毛玉ちゃんが、れてこの家族になっていた。
 なおカスタマイズの注文はキーボードをふみふみして伝えました。
 イマドキの賢い猫は、それくらい朝ごはん前なのです。

 そして始まる、れてこママの子育て生活。
 名前はてまりさん。
 生まれ直したてまりさんの好奇心は旺盛で、短い手足でよちよち進む――どこまでも、どこまでも。
 れてこママはその度に優しく咥えて巣に連れ戻し、獲物を狩って与え、時には一緒に下僕のもとへ赴いてごはんをおねだりしつつ、その便利さと利用法を伝授する。
 イヌやクルマ、下僕以外のヒトや、ヒトの子供には近付かないこと、猫社会のルールや集会の重要性など、もうこの世界で哀しむ事の無いように、色々な事を教えていった。
 ねんねの時は温めるように寄り添い、不安げに鳴けばぎゅーっとして。
 ただただ惜しみない愛情を注ぐれてこママに対して、最初はおどおどびくびく、時には唸り声を上げる事もあったてまりさんの心は少しずつ癒やされていった。
(きっと、生まれ変わる前に哀しい思いをたくさんしたのでしょうね)
 れてこはゴミの中で見付けたNYAMBO達の事を思い出す。
 この子ひとりしか、助ける事は出来なかった。
 時折ゴミ集積場に赴いては、れてこは哀しげに鳴き続ける。
 NYAMBOの残骸に向かって、この残酷な世界で無力な自分を責めるように何度も。

 けれど、その残骸もいつしか姿を消していた。
 彼等は救われたのだろうか。
 それとも跡形もなく潰されてしまったのだろうか。


●コロネ

「……」
「……」
 無言で見つめ合う一人と一匹。
 その猫は、たった今改造が終わったばかりの生まれたてだった。
 リベリア(jc2159)はその顔をじっと覗き込む。
 さらさらショートヘアのボディは真っ黒で、耳や尻尾の先だけが少し赤い。
 名前はコロネ。

「…にゃあ」
 リベリアが鳴く。
「…?」
 首を傾げるコロネ。

「にゃあ」
 さらに鳴くリベリア。
 だって猫には猫語でしょう?
 しかし。
「…ごめん、ご主人。何言ってるか分かんない」
 コロネが言った。
 人間の言葉で。
 しかしボケボケな主人は頓珍漢な答えを返して来た。
「…? にゃあ、って言ってる」
「それは分かってるよ!?」
「…喋った!?」
 気付くの遅いよ!

 ともあれ、今日からコロネはリベリアの相棒だ。
「…まずは、何する?」
「ご主人の命令なら、何でも」
「…命令とか、やだ」
 そうだ、まずは隠密行動のレクチャーをしよう。
「何故?」
「…私達は相棒、バディ。…バディものと言えば、隠密調査」
 よくわからないが、リベリアにはよくわかっているらしい。
 では始めようか。
「隠れてるときに見つかったら…、猫の鳴き真似をすればいい」
「こうですか? …にゃあ」
「グッド。なんだ、ただの猫か…、となる」
「でも、ボクの場合、見たまんま猫だし隠れる必要ないんじゃ?」
「……。…その発想はなかった」

 では次、習った事を外で実践してみよう。
「…ほら、向こうから猫ロボを連れた人が」
「でも別に隠れる必要ないんだよね?」
「…そうだった」
 普通に歩いて近付いて、すれ違いざま――
「…可愛い」
 挨拶も忘れ、相手の猫ロボに見とれるご主人。
「ご主人? 挨拶すべきでは」
 そう進言したコロネの声が、何だか少し尖っている。
 見れば頬も少し膨らんで、目も僅かにジト目になっている様な。
 嫉妬か。
 それとも独占欲か。
「…可愛い」
「…ご、ご主人?」
 黒い毛皮の赤い部分が、一気に増えた。

 そして向かった本屋で今日の新刊を買い込んだリベリアは、部屋に籠もって読書三昧。
 手元を覗き込む様にコロネが肩に乗って来ても、ちらりと一瞥するだけで無言で文字を追い続ける。
 コロネもまた一緒に読んでいるように、黙って主人の手元を見つめていた。
 静かな呼吸とページを繰る音だけが支配する空間で、ふたつの尻尾がリズムを取る様に揺れていた。


●NYAMBO

 再び命を吹き込まれた彼等は、それぞれに新しい猫生を歩み始めた。
 どうやっても直せない程に壊れてしまったものも、修理用の部品となって新しい身体の中で生きている。
 メンテや修理、新たな改造も、引き続き可能な限り行われるだろう。

 生まれ変わった彼等に、幸多からん事を。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:13人

凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
籠の扉のその先へ・
Robin redbreast(jb2203)

大学部1年3組 女 ナイトウォーカー
仲良し撃退士・
照葉(jb3273)

大学部6年110組 女 ディバインナイト
刹那を永遠に――・
レティシア・シャンテヒルト(jb6767)

高等部1年14組 女 アストラルヴァンガード
忍者マニア・
リベリア(jc2159)

高等部3年21組 女 アカシックレコーダー:タイプA