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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2016/08/17


みんなの思い出



オープニング



 多くの作物にとって、雨は天の恵みだ。
 雨粒が土を潤し、葉の汚れを落とし、そして雨上がりの太陽が実を太らせてくれる。

 しかし、何事も度を超してしまえば害になるものだ。
 この季節の雨ときたら朝から晩までダラダラと降り続き、止んだと思っても空に晴れ間が覗くことは滅多にない。
 湿り気をたっぷりと含んだ重い空気が地表の熱を閉じ込めて淀み、人も動物も、まるで頭の上までぬるま湯に浸かっているような息苦しさを感じるだろう。
 それは大抵の植物にとっても快適であるはずがなく、病気が出たりカビが生えたり、根が腐ったり虫が大量発生したり――

 と、それは何も対策を取っていない場合の話だ。
 風雲菜園の場合はそれぞれの管理者が事前に対策を施しているので、余程のことがない限りは問題は起きないだろう。
 まあ、こと農作業に関して言えば、その「余程のこと」や「予想外、想定外」の出来事は、わりと頻繁に起きるのだが。

 もうひとつ、梅雨時に困ることと言えば、あっという間に伸びる雑草の扱いだ。
 世の中に雑草という草はないと言われるし、邪魔にするのも可哀想だとは思っても、やはり草ボウボウの庭というものは見た目がよろしくない。
 いや、見た目の影響だけならまだしも、雑草は虫の隠れ家や産卵場所となり、結果として作物に悪影響を与えてしまうのだ。

 よって、この季節の作業として草刈りも加えておいたほうが良いだろう。
 その他は状況を見て臨機応変に。

 そうそう、曇っていても紫外線は意外に多く降り注いでいるらしい。
 その対策と、熱中症に対する注意も怠りなく――




リプレイ本文

「んー、私の植えた植物達はどんな感じに育ったかしらねェ♪」
 梅雨前のひととき、黒百合(ja0422)は自分の畑を見て回っていた。
 トリカブト、ゼラニウムは順調、ヒガンバナは…まだ芽が出る季節ではない。
「蟲も付いてないみたいだし、病気もなさそうねェ♪」
 そもそも毒草だから蟲が寄り付かないのかもしれない。
「管理が楽で良いわァ」
 後は前回設置した鳥除けワイヤーなどの固定を確認し、台風の季節に備えて補強して、周りの雑草を引き抜いて。
 だが、仕上げに水を撒いた所で気が付いた。
「あらァ、なかなか水が染みていかないのねェ…」
 畑の周囲に水溜まりが出来ている。
 そう言えば、この辺りは元駐車場。耕した部分の他はしっかりと固められて、水はけが悪くなっている様だ。
 これは、ちょっとした土木工事が必要だろうか。

 まずは溝を掘ってU字溝を埋め込んで側溝に流す水路を作り、特に水捌けが必要な場所には細かい穴を開けた塩ビ配管を埋める。
「ヒガンバナは水はけが悪いと球根が腐るって聞いたのよねェ」
 逆にトリカブトは半日陰のジメジメした場所が良いというし、一緒に育てるとなると管理が大変そうだ。


 その作業中、菜園に新たな訪問者があった。
「こーんにーちはー! バイト先の集客アップのため副店長自ら食材等調達しに来たよ♪」
 というわけで、グラサージュ・ブリゼ(jb9587)参上!
「あ、これレモネードの差し入れです! はいどうぞ! さあどうぞ!」
 半ば押し付けるように勧められて、作業をしていた者達はそれを中断して集まって来る。
「丁度良かったわァ、そろそろ休憩にしようと思ってた所だしィ♪」
 そう言いながら、黒百合は後ろ手に何かを隠したが…まあ、見なかった事にしよう。
 休憩用のテーブルには、ピンクの葱坊主の様な花が飾られていた。
「それ、チャイブの花なんですよ」
 五十鈴 響(ja6602)が育てているものだ。
「花を摘まないと茎が固くなってしまうので…でも、こうして飾っておくのも素敵だと思いませんか?」
 カモミールとゼラニウムも丁度今が花盛り。
「茶葉と一緒に水出しのお茶を作っておきますね」
 もう少し株が大きくなれば、化粧水やシャンプーにも使える程の収穫が望めるだろう。
「茉莉花もお茶の香り付けに使えますね、花が咲くにはまだ少し早いですけど」
「へぇ〜、野菜以外にも色々作ってるんですね! さすが農園!」
 グラサージュはまず先輩達の作業を見学して、基本的な技術を学んでみることにした。
「あ、勝手に見させて貰いますから、どうぞ先輩がたは遠慮なくご自分の作業を!」
 でも気が向いたら時々アドバイスとか頂いても良いのですよ?


「食べる専門の俺が来た!! さてと、フルーツトマトはできたか?」
 ミハイル・エッカート(jb0544)は弾む足取りで自分の区画へと向かった――が。
 気が早いよ、まだ花が咲いたばっかりだよ!
「そ、そうか、そう言えば植えたのはついこの間だった気がするな!」
 ところでリュールはちゃんと菜園の世話してたか?
 なに、これを見ろ?
「なんだこれ、なぜこんなにひしめき合っているんだ」
 そこに、虫がいた。
 直視する事も憚られる数の虫が。
「ここは東京でいう繁華街か、それとも通勤列車か、浦安にある某ランドか」
 いいえ、リュールさんちの畑です。
 他の畑は無事なのに、ここだけどうしてこうなった。
 いや、言うな、言わなくてもわかる。
「最初のうちは面白がって真面目に世話してたんだがな」
 門木がそっと溜息を吐いた。
「飽きたのか」
 まあ、そんな事じゃないかとは思っていた。
「それに比べて、見ろ、この虫ひとつ付いてない俺の美しいフルーツトマ…」
 いや待て、なんかいる。
 枝葉に残る銀色の筋、そしてコレは。
「虫は多少付くのはしょうがない。だがナメクジ、お前は許さん」
 だって見た目がアレすぎるだろ!
「ってわけで章治、退治を任せた」
「おい!?」
「別に怖いってわけじゃないぞ、普段からもっと気持ち悪い天魔を退治しているのだからな」
 だからせめて日常生活は平穏無事に過ごしたい。
「大丈夫だ、こいつらは一般人でも倒せる」
 あ、ついでに毛虫もよろしく!

「ナメクジなら、空き容器にビールを入れて置いておけば、ビールの中に入るって聞きました」
 響の提案により、各所にビールトラップが配置される。
「殺生は良くないですけど…」
 これは作物を守る為の戦いだ、敗者が命を落とすのはやむを得まい。
 見た目で差別するのは良くないと思いつつ、出来ればカタツムリは助けたい気もするけれど。
「なら、ここは虫天国にしておくか」
 既に手遅れとなったリュールの畑を見て、門木が言った。
 殺すに忍びないものはここに移して好きなだけ食わせ、その代わり他の場所では徹底駆除。
「そうですね、そうすれば虫を食べてくれる益虫も集まって来るかもしれません…ほら」
 響がテントウムシを摘んで見せた。
「この子はアブラムシを食べてくれるんですよ」
 食べきれない時は牛乳スプレーで退治して、後はこまめに見回っておけば手遅れになる事もないだろう。
「ハダニは葉っぱの裏に霧吹きで水をかけるだけで良いそうです」
 ミニヒマワリに虫害は殆どないから、適当に間引いて風通しを良くし、残したものは脇芽を出す為に芯を摘んでおく。
 こうしておけば花を沢山付けてくれる筈だ。
「ミニバラはまだ芽が出ないかな?」
 ポットに蒔いて軒下の半日陰に置いた種は、まだ何も変化がない。
 土の中で腐っていたりはしないかと心配になるけれど、ここはじっと我慢だ。

「メロンもだいぶ蔓が伸びて来ましたね」
 雫(ja1894)は地面に伸びた蔓を見下ろして、満足げに頷いた。
 今日の作業は剪定と支柱立て、まずは脇から子蔓を出させる為に親蔓の先を切って、支柱を立てて絡ませる。
 子蔓もある程度伸びたら剪定が必要だ。
「一本の子蔓に一個の実を付けさせるのが基本です」
 欲張って沢山収穫しようと思っても、栄養が分散し、株も疲れてしまう為、大きくて甘い実にはならないのだ。
 折角付いた蕾も数を減らし、更には人工授粉で実を付けさせても形や成長の悪いものは容赦なく間引く。
「一個の優秀な実を残す為に、他の全てを犠牲にする…何と業の深い」
 メロン栽培、侮れない。
 しかし間引かれた小さな実にも漬物にするという活躍の機会がある。
「作業の合間の塩分補給に良さそうです」
 枝豆は防虫ネットで囲い、花が咲く頃に追肥を施し、暑い日が続けば水やりを頻繁に行い、病気のチェックも怠らず、手塩にかけて大事に育てる――全ては美味しく頂く為に。

 礼野 智美(ja3600)は薩摩芋用の畑をせっせと作っていた。
 水はけを良くする為に畝を高めにし、黒マルチを張る。
「保温と保湿、雑草抑制効果があるから…玉葱やニンニクでもマルチ使えば雑草抜き多少楽になるな」
 小芋の方が使い易いだろうからと、葉の部分を多く植えてみた。
「梅雨時期は水吸って膨らんだり割れる物多いから1日1回は見回らないと」
 7月になったら蔓を返して余分な根を切って、葉が多すぎる様なら少し切って煮物にしてみるのも良いだろう。
 葉柄の皮を剥く手間はかかるが、繊維質が豊富で緑の野菜が少ない時期には重宝する。
 それから、実がほどよく付いたブルーベリーの鉢植えを二つ。
「屋上菜園の物から選んできました。植え付けはまだですけど7月上旬辺りから収穫は可能ですよ」
 多く採れればジャムにして、少なめだったらそのまま食べても良い。

「後は草刈りだな。お月見用にススキは少し残すとして…」
 作物の間に生えた雑草は頑張って引くとしても、何も植えていない場所に茂った草は手強そうだ。
「草刈り機を購入しても良いでしょうか? 果樹の下は実家も草刈り機使ってますし」
「いや、ここは撃退士パワーの見せ所だろう」
 智美の提案を制し、鎌を手にしたミハイルがシャツの袖を捲り上げる。
 ダークスーツの上着さえ脱げば、夏の暑さごときに負ける筈が…あ、スラックスと革靴に熱が篭ってきた、やばい下半身やばい!
 前言撤回、草刈り機買おう。
 暑さに負けた訳じゃないぞ、これは健康に対する正当防衛だ。


「なるほど、こうやって手入れをするんですね!」
 皆にくっついて手伝いながら知識を吸収していたグラサージュは農作業の楽しさに目覚めた様だ。
 野菜達を心配するあまり毎日の様に農園に出入りして様子を見、過保護なまでに手入れを行い、そして遂には――

「見付けましたよ、メロン泥棒」
「えっ!?」
 とある夜中、突然心配になっ見に来た所を雫に見付かってしまった!
「私が精魂込めて作った物を盗むとは…命が要らない様ですね」
 鳥や虫に対する防衛は充実していたが、野菜泥棒に対しては杜撰だった。
 いや、そんな不届き者が存在するとは思いたくなかった。
 しかし実際に被害が出たとあっては看過出来ぬと、ワイヤートラップを仕掛けておいたのだ。
「違います違います、私そういうアレでは!」
 ただ心配で見回っていただけで!
 これもうココに住んじゃったほうが心身ともに負担が減るのでは、主に住人達の。
 と、その時。
 本命がトラップに引っかかった!
 雫は闘気解放と共に不審者に飛び付き、飯綱落としで頭から地中に埋める。
 自分で食べる為なら手伝いだけで許そうと思ったが、外に軽トラが停めてある所を見ると、ごっそり盗んで転売するつもりだった様だ。
「ふふ…良い堆肥になると良いです」
 そのまま埋まってなさい、頭だけは出しておいてあげるから。
 農作業は戦い、グラサージュ覚えた。

「折角だし私も何か植えたいな、誰でも出来るっていうやつ…」
 園芸書をパラパラ捲ってみる。
「あ! これにしよう♪」
 水をやり忘れない限り枯れないというペチュニアと、降雨のみでも咲くというオジギソウ(フラグ
 苗を買ったら手付かずになっている区画の草を刈って。
「ん? 草まみれ?」
 それに汗びっしょりだし。
「すみませーん! お風呂貸してくださーい!」
 響に手伝って貰いながら耕して、肥料を入れて、水を撒いて。
 気が付けば足下には水溜まり、顔をあげると絵に描いたような泥まみれ。
「すみませーん! 今日もお風呂貸してくださーい!」
 もうココに住n(二回目


 そして時は移り、間もなく梅雨も明けようという頃。

 立体的なうさぎの形に組まれた支柱に絡んだ茉莉花は白い花を咲かせ、漸く芽が出たミニバラは一回り大きな鉢に移植され、多くの作物は収穫期を迎えた。

「美味い! これが採れたてのフルーツトマトか!」
 ミハイルは真っ赤に熟れたトマトにかぶりつき、ハードボイルドが尻尾を巻いて逃げ出す笑顔を見せる。
「野菜じゃないな、果物だ」
 フルーツの看板に偽りなし、なおまだほんのり青いうちに食べたトマトは渋くて不味かった、なんて事は秘密だ。
 命が惜しくば俺のために美味くなれと、銃を突き付けて脅したのが効いたのだろうか。
 次にピーマンの畑を見て一言。
「ちっ、育ってやがる」
 隣のパプリカはまだ色づいておらず、ピーマンと殆ど区別が付かなかった。
「まさか隣に浸食されて俺のパプリカまでピーマンになっちまったわけじゃないだろうな?」
 なに、色づくには時間がかかる?
「しょうがないな、待ってやる。いいか、ピーマンのままだったら許さないぜ」
 そしておとなしく俺に食われろ、だがピーマン、お前はダメだ。
「皆が食べるのは許すが俺は食べないからな!」
 間違っても俺の皿に混ぜるんじゃない、混ぜたら撃つぞ。

「始めての割には豊作と言った所ですかね」
 雫は枝豆を半分とメロンを収穫。
「残りは大豆まで成長させて、味噌か醤油でも作ろうかな…」

「カゲンッテ ムズカシイネ」
 風雲荘の住人となったグラサージュは、降雨任せで半分枯れたペチュニアと、水と肥料の上げ過ぎで半分枯れたオジギソウの前でがっくりと項垂れていた。
 それは加減の問題ではなく、単なる見事なフラグ回収、だった様な。
 それでも僅かに咲いた花をリビングに飾っておきました。
「いつものお詫びです…!」

 そしてお待ちかね、収穫した野菜を使った料理で食事会。
 響はチャイブとジャガイモで作った冷製スープに、カモミールとゼラニウムのお茶、そしてジャスミンティーを。
 智美は茹でたオクラをえのきと梅干しで和えたものと、ゴーヤと卵にベーコンを加えた炒め物、それに一見するとごく普通に見える中華風サラダ。
「珍しいかな? 春雨の代わりに素麺瓜を使ってあるんだ」
 元はこれだと示されたのは、黄色い南瓜の様な瓜の様な、これを茹でると素麺みたいに解れるのだ。
 まくわ瓜は冷やして皮をむいてデザートに、ズッキーニは味噌汁に入れたり、素焼きにしてミートソースの色取りしたり。
「私もお店のメニュー試作も兼ねて作ってみました♪」
 グラサージュが作ったのはトマトとナスとバジルとパプリカ…はまだ赤くならないので代わりに未成熟なパプリカを使った冷製パスタ。
 トウモロコシは生クリームと合わせてアイスクリームに、スイカは色鮮やかなゼリーにして。
「おい、俺の皿にはピーマンを入れるなと言っただろう」
 撃つぞ、ただしピーマンを。
「違いますよ、これは未熟なパプリカですよ?」
「いや、俺にはわかる、こいつはピーマンだ」
 騙されないぞ、騙されるものか。
 そんなミハイルが作ったのはフルーツトマトのサラダ。
「これくらいなら俺でも作れるさ」
 そして雫は塩茹でしただけの枝豆と切っただけのメロンを。
「味には自信がありますから、シンプルに味わって頂くのが一番かと」
 枝豆は取れたて、メロンは十日前から水を減らして糖度を上げたものを、収穫後に数日寝かせて熟成させた。
 これで美味くない筈がない。
「農作業後に食べるデザートは美味しくって幸せ…♪ スイーツ最強!」
 最後に黒百合特製のお茶を頂き、ご馳走様でした!

「さて…次は何を植えましょうか」
「俺は白菜と人参の種を蒔くぞ、冬になったら鍋の具にしようぜ!」
 え、まだ早い?
「金時人参も植えましたが、収穫はまだですね」
「先生、桃の木一本植えてもよいですか?」
 定植は冬場になるけれど。
「それは構わないが…」
「桃の葉湯って赤ちゃんのあせも対策に効果あるんですよ」

 などと食後の雑談に興じている所に、黒百合による衝撃の一言。
「ところで誰も具合悪くなったりしてないわよねェ?」
 さっきのお茶にトリカブト入ってたんだけど。
 そう、嘔吐や呼吸困難、臓器不全などから死ぬ事も珍しくない猛毒のアレだ。
 皆が一斉に青くなるが、黒百合は涼しい顔。
「大丈夫よォ、漢方薬にも使われてるものだしィ♪」
 加熱、乾燥などの毒抜き処理をすれば問題はないし、撃退士なら毒抜きしなくても大丈夫。
 自分を実験台に効果を試したのだから、間違いはない。
 それに即効性だから、死ぬならとっくに死んでいる。

 皆、撃退士でヨカッタネ!


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
幻想聖歌・
五十鈴 響(ja6602)

大学部1年66組 女 ダアト
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
『楽園』華茶会・
グラサージュ・ブリゼ(jb9587)

大学部2年6組 女 アカシックレコーダー:タイプB