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マスター:STANZA
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
形態:
参加人数:40人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2016/08/29


みんなの思い出



オープニング



 臨海学校、それは海を身近に体験することを目的として行われる学校行事である。
 よって普段から海を身近に感じて生活することの出来る地域、例えば海のすぐ近くに学校がある場合などで行われることは滅多にない。
 その例で言えば、久遠ヶ原学園は海に囲まれた島にある。
 よって、これ以上に海を身近に感じる必要はない、はずなのだが――

「先生、臨海学校には普段の学校生活では学べないことを集団生活を通じて学ぶという意図もあるんですよ?」
「特別活動の学校行事として必要なことだって、学習指導要領にも書かれてますよね?」
 そんな声が、生徒達の中から湧き上がって来た。
「身近にある海と出かけた先で出会う海とは別モノなんですよ!」
 海は繋がってるとか気にしない。
「それに学校行事なら参加費とかタダですよね!」
 多分、それが本音。


 そんなわけで、海に行きます。
 引率は門木章治(jz0029)――と言っても、最低ひとりは教師が同行しなければ学校行事とは認められないから付いて行く、というだけのことだ。
 何しろ久遠ヶ原学園は生徒の自主性を重んじる校風である。
 よって移動手段の選定から宿の確保、現地での活動内容に至るまで、全ての計画は生徒達が自分達の手で作り上げることになる。
 教師はただそれを見守り、必要な時に責任を取るだけ。
 でも大丈夫、責任を取らされるような事態にはならないって信じてるから!

 しかし初めから何もかも丸投げされても、何をどう組み立てれば良いかわからないという生徒も多いだろう。
 よって、以下にスケジュールや出来ることの例を記載しておく。


 日程:二泊三日

 一日目:移動→ひたすら海で遊ぶ
 二日目:地引き網体験→フリータイム→BBQ大会、花火、肝試しなど
 三日目:フリータイム→お土産選び→帰宅


 ☆マリンスポーツ系

・海水浴【海】
 とにかく泳ぐ、波打ち際で遊ぶ、ビーチで優雅に昼寝、など
・遠泳【泳】
 ひたすら遠距離を泳ぐ、だけ。限界に挑戦したいストイックなアナタに
・サーフィン【波】
 サーフボードを使っても良し、誰かをボードにしても良し
・ドルフィンスイム、ホエールウォッチング【鯨】
 専用の船で沖に出て、イルカやクジラを観察。一緒に泳ぐことも出来る
・ビーチバレー【バ】
 撃退士なら、やっぱりルール無用の無差別バトルでしょ


 ☆定番系

・スイカ割り【割】
 普通にやっても良いし、撃退士ならではのスイカ(或いは他の何か)割りでも良い
・砂遊び【砂】
 やたら凝った砂像を作ってみても、ひたすら穴を掘っても、砂風呂でのんびりしてみても
・BBQ【B】
 漁などで調達に成功した食材次第でメニューが変わる、商店などでの買い足しも可
・花火【花】
 手持ちでも打ち上げでも、自分が打ち上がっても、スキルでも
 近くの浜では本格的な花火大会が行われるらしい
・肝試し【肝】
 海岸沿いの防砂林には本物が出る、とか……
 誰かが脅かし役になってもいい


 ☆食料調達系

・地引き網体験【網】
 ここでの成果が夕食のBBQに影響を与える、かも
・ダイビング【潜】
 別名、狩猟採集。豪華な夕食のために頑張ろう
・釣り【釣】
 こちらも夕食のため。磯釣りでも、砂浜での投げ釣りでも、船を調達して沖まで出ても


 ☆癒やし系

・温泉【湯】
 宿によっては部屋風呂もあり、大浴場や露天風呂、地元の共同浴場などで楽しんでも良い
 自分で掘ってカスタムメイドのマイ温泉を作ることも出来る
・夏祭り【祭】
 地元の祭に参加して盆踊りの輪に加わってみる

 ※いずれもスキル行使は自由、ただし地元の人や一般人に迷惑をかけないように。


 なお学校行事と言ってもレポート提出などの義務はない。
 その代わり、参加したからといって宿題の一部が免除になったりもしないので、遊びすぎには気を付けるように。


 では、楽しい旅行を!




リプレイ本文

 久遠ヶ原島にも海はある。
 と言うか、島なのだから周りは全て海だ。
 だから生徒達にとっては、海など珍しくもなんともない。

 しかし。

 普段から慣れ親しんだ海と、わざわざ出かけた先で出会う海とは、同じ海でも違って見えるものだ。
 気の合う仲間達と出かける臨海学校ともなれば、特に。


 海岸沿いに広がる温泉街の一角に、大型の貸切バスが止まった。
 乗っているのは久遠ヶ原学園の生徒達。
 本来は現地集合、現地解散なのだが、どうせ目的地が同じなら皆で一緒に行ったほうが楽だろうということで、殆どの者がこのバスに乗り合わせていた。
「はい、お疲れ様でした。忘れ物のないように降りてくださいね」
 発案者であり、運転手も買って出た龍崎海(ja0565)が、バスを降りるひとりひとりに声をかける。
「……宿の手配が済んでいない方はぁ……決まり次第、ご連絡をお願いしますねぇ……」
 その脇では、添乗員こと「いつもの敏腕マネージャ」月乃宮 恋音(jb1221)が点呼を取りつつ自分の連絡先を書いたカードを手渡している。
 こうした事は本来、引率の教諭がすべきなのだろうが――恋音に任せたほうが確実、かつ頼りになるのだから仕方がない。
「いつも悪いな」
 最後にバスを降りた門木が声をかける。
「……いいえ……これもスキルアップのためですしぃ……好きでさせていただいていることですからぁ……」 
 本来なら宿の手配も一手に引き受けたいところだったが、今回は各自の自主性を尊重するという「臨海学校の精神」に則り、そこは手を出さないことに決めていた。
 その代わり、安全確保のための行動は手を抜かない。
 全生徒の行動予定を把握しているのはもちろん、期間中はほぼ全日、緊急連絡先として宿に待機する予定だった。
「……それに、暇を見てきちんと楽しませていただきますのでぇ……」
「ありがとうな。その埋め合わせと言ってはなんだが、良い部屋を押さえておいたから」
 そう言って、門木は一枚のメモを手渡した。
「各種回線フル装備の執務室が付いた、眺めの良いVIPルームだ」
 殆ど一日中部屋で待機しているなら快適に過ごせるほうが良いだろう。
 気に入らなければ変更も可能だ。
「……お気遣い、ありがとうございますぅ……でも、先生はどこに……?」
「俺はすぐそこの――」
 指さしたのは、いかにも学校行事での利用が多そうな、お世辞にも上等とは言い難い年季の入った和風旅館。
 一方、VIPルームのあるホテルはそこから少し離れた区画にあった。
「……そうしますと、残念ですが……私もそちらの旅館のほうに移らせていただくことになると思いますぅ……」
 同じ引率者枠としては、何かあった時にすぐ対応出来るように、宿はなるべく近いほうが良いだろう。
 ところが。
「大丈夫です、それなら問題ありませんよ!」
 やたら楽しそうなニコニコ笑顔の不知火あけび(jc1857)が声をかけてきた。
 その隣にはニヤニヤ顔の不知火藤忠(jc2194)が立っている。
「章治先生も同じホテルですから!」
「ちょっと待て、意味がわからないんだが」
「実は宿の手配でちょっとした手違いがあったんです」
 うっかりミスと言うか、不可抗力と言うか。
「ですから、章治先生のお部屋はこちらのスイートルームになります! もちろんご夫婦で!」
「心配するな章治、俺も手配ミスで同じホテルだ」
 うっかりは誰にでもあるものだと、ミハイル・エッカート(jb0544)がイイ笑顔で親指を立てた。
「今さらキャンセルだ何だとバタバタしても迷惑がかかるだろう?」
「それはそうだが……」
「最高級だぞ、料理は豪華フルコースだ。遠慮なく楽しめ、俺も楽しむ!」
 寧ろ責任を持って堪能せねば、何の責任かよくわからないが。
 うっかりじゃない、それ絶対うっかりじゃない。
 けれど、その厚意は素直に嬉しかった。
「そういうわけですので、ごゆっくりどうぞ!」
 さすが高級ホテルだけあって、送迎のマイクロバスも完備してある。
「ささ、どうぞどうぞ!」
 あけびに勧められ、先に立ったミハイルが真里谷 沙羅(jc1995)を伴って意気揚々と乗り込んで行く。
 なお、二人が同室か否かは詮索しない。
 学校行事と言っても大人が互いの合意の上で決めた事なら、それは学校側が関知するところではないのだ。
 ましてや夫婦なら同室は当然、別室だったら離婚の危機を疑われても仕方がない。
「新婚旅行、行ってないんだろ?」
 藤忠が門木の肩に手を置いて、耳元で囁いた。
「頑張れよ」
「何をだ!?」
 いや、わかるけど、通じてるけど!
 頑張っちゃったら仕事に差し支えるから!
「……まあ……一応、気遣いには感謝しておく。ありがとう」
 折角だから、ほどほど、くらいには……頑張ってもいいかな、とは思う、けれど。
「……ところで、お二人はご一緒ではないのでしょうかぁ……?」
 恋音に問われ、不知火ズは首を振った。
「俺達は隣の高級旅館だ」
「やっぱり畳の部屋が落ち着くんですよね」
 こちらもやはり手配ミスということで。
 部屋は別ですけどね!

 そして全員が宿も決まり、荷物を置いて――



●海で遊ぼう!

「臨海学校なんて今は本当に学生なのですね」
 素肌を惜しげもなく晒したビキニスタイルの水着に着替えた沙羅は、あけびと共に波打ち際で打ち寄せる波と戯れていた。
「不思議な気分だわ」
 うっかりすると、つい先生としての顔が出てしまいそうになる。
 けれど、もし自分が今でも現役の教師だったとしても、この臨海学校では殆どやる事がなさそうだ。
 自由と言うか投げっぱなしと言うか、流石は久遠ヶ原学園と言うか。
「沙羅さん、さすが大人の女性って感じですね。スタイル良いし、羨ましいです」
 あけびはこの前の海水浴で少しは慣れたものの、やはりまだ「私を見てー!」という気にはなれない。
 今日もまずは上にパーカを羽織ってのスタートだった。
「褒めてくれるのは嬉しいけれど、もうそろそろビキニは厳しいかしら」
 照れる沙羅に、あけびはぶんぶんと首を振った。
「そんなことないですよ、今だってほら、ビーチの注目を一身に集めてますし!」
 ミハイルはもちろん、藤忠まで視線が釘付けになっているのが、なんか悔しい。
 そればかりか、小学生女児の視線までかっさらっていた。
「はあ、やっぱり沙羅さん綺麗……」
 クリス・クリス(ja2083)はその姿を少し遠目に見ながら、ひとり砂浜にののじを書いていた。
 ドレスでも水着でも綺麗って、なにそれずるい。
「目指せビーチ一番の夏娘!」
 そう意気込んで乗り込んだ臨海学校、悩殺せくしぃ水着で殿方の視線を釘付け! するはずだったのに。
 荷物に忍ばせた数着の悩殺せくしぃ水着を見せて、どれが良いかと意見を訊いたところ――
 黙って学校指定の水着を差し出された次第。
「お前はこっちのほうが需要があるとか、なにそれ?」
 まさかのスク水押しである。
「……いいもん泣き濡れて蟹と戯れてやるー」
 そして現在に至る。
「今はスク水少女に視線を向けただけでタイホされる世の中なんだからね、犯罪者を増やしたって責任とらないんだから」
 ふて腐れる未来の悩殺せくしぃ水着美女の前に差し出される、かき氷のカップ。
「悪かった、クリス。これでも食べて機嫌直せ、な?」
 新手のナンパかと思ったら、ミハイルぱぱだった。
 大事な娘に悪い虫を寄せ付けないようにとの親心だったのだが、せめて沙羅が言うように可愛い水着を勧めれば良かったかと反省している……らしい。
「今から手配に行ってくるから、明日は専任コック付きの豪華クルーザーで特製ランチ食べ放題だ」
「ほんと? じゃあ許してあげようかな」
 豪華なランチと、このかき氷に免じて。
 木陰でひと休みしつつかき氷のキンとした冷たさを堪能したら、再び波打ち際へ。
 砂浜にじっと立っていると、引き波に足元の砂が浚われていく。
「この感覚、ちょっと好きかも」
 それに機嫌を直したら、カニ以外のものも見えてきた。
「あ、可愛い貝殻みっけ♪」
 ここにも、あっちにも、浅い桜色をした小さな貝殻が落ちている。
「お土産にしようっと……」

 一方、こちらは海の家で休憩中の沙羅とあけび。
 クルーザーの手配に行ったミハイルと藤忠を待ちながら、かき氷を食べていた時。
 夏の海辺に湧く害虫が現れた!
「ねーちゃん達、ヒマそうじゃーん?」
「ねーねーオレらと遊ばなーい?」
 いかにもチャラい身なりと言葉遣いの男が三人、二人の前に壁を作る。
「いいえ、私達は人を待っていますので……」
 やんわりと断ろうとした沙羅の言葉にも耳を貸さず、男達は品の悪い笑みを浮かべながら、ふにゃふにゃくにゃくにゃと蠢いていた。
「いーじゃん、ちょっとくらいさー」
「オレらカノジョいなくて寂しいんだもん、慰めてよー」
 と、その顎に頭突きをかます勢いで、あけびが立ち上がった。
 後ろに沙羅を庇いつつ、ありったけの眼力を込めて相手を睨み付ける。
 だが効果はなかった。
 それどころか――
「俺、この子のほうが好みだなー」
 今まで黙っていたひとりが、あけびの顔を覗き込んでニッと笑う。
「えっ、な、なに、私!?」
 沙羅が目を惹くのはわかる、しかしまさか自分が標的になるとは。
(「もしかして私、無意識にニンジャヒーローとか使ってた……いや、ないないない!」)
 声をかけて来た男は趣味の悪いかりゆしにバミューダパンツ、サングラスにカンカン帽、しかしその顔は誰かに似ているような……?
 しかし男達が良い気分で夢を見ていられたのも、そこまでだった。
「悪いがこの二人は先約済みだ」
 男達の壁の後ろから藤忠の声が響く。
「と言うか沙羅は兎も角あけびを? 気は確かか考え直せ」
 顔は見えないが、同情と憐憫がない交ぜになったその声は真剣そのもの。
 しかし片やミハイルは口より先に銃が出る実力行使型だった。
 ゴリッ。
 何か固い物が、一人の頭部に突き付けられる。
「俺の女に手を出そうとするとは、良い度胸だな?」
 カチリと撃鉄を起こす音が聞こえれば、その固い物が銃口であることはわかるだろう。
「選ばせてやるぜ。ここで脳漿をぶちまけるか、俺の前から立ち去るか、どっちがいい?」
「お、おい!?」
 慌てた藤忠が止めに入ろうとするが、ミハイルは耳を貸さない。
「三つ数える、1――」
 途端、男達はこの世の終わりのような悲鳴と罵声と共に、一目散に逃げて行った。
 が、例の誰かに似たチャラ男だけは平気な顔でニヤついている。
「おっと、自己紹介がまだだったな、俺の名前はチャラファルってんだ」
 カンカン帽をくいっと上げてサングラスを外し、片目を瞑って見せたその顔は――
「ラル!?」
 そう、変化の術で男に化けたラファル A ユーティライネン(jb4620)だったのだ。
「アケビちゃん全然気付かねーんだもんなー」
「だってまさかの展開だもん!」
 そこに、藤忠がぽつりと一言。
「なるほど、ラファルだったのか。どうりで……」
 言いかけて、慌てて口をつぐむ。
 が、遅かった。
「無事で良かっ……待てあけび、あれはナンパを宥める言葉でででぇーっ」
 にっこり笑顔で手の甲をぎゅっと抓られた。
 そりゃね、自分でもまさかとは思ったけど、人に言われると無性に腹が立つんですよ、ええ。
「ミハイルさんも藤忠さんもありがとうございます」
 驚きに強ばっていた表情を崩し、沙羅が嬉しそうな笑みを浮かべてそっとミハイルに寄り添った。
「でも、物騒なことはあまり感心できませんね」
「俺が本当に引き金を引くと思ったか?」
 その問いに、沙羅はきっぱりと首を振る。
「そうか、ありがとう。でもな……」
 ミハイルは何故か水筒のコップに向けて引き金を引いた。
 ジュワッという音と共に、銃口からスープが溢れ出す。
「こいつはスープメーカー、その名の通りスープを作る銃だ」
 殺傷能力はない。
 まあ、せいぜい火傷をする程度だ。
「なんだ、脅かすなよ……」
 藤忠が安堵の溜息を吐いた。
「じゃ、俺はアケビちゃんを借りてくぜー」
 チャラファルはナンパを続行、あけびの手を取る。
「よーよーねーちゃん、茶ァしばこーぜー」
「うん、いいよ! どこでお茶する? あっ、せっかくだから皆で一緒にどうかな?」
 それ、ナンパって言わない気がする……


「これだけ日差しが強いと日焼けが心配だな」
 真夏の日差しを浴びてキラキラと光る海を見つめ、地堂 光(jb4992)は眩しそうに目を細めた。
「そんな時のために、これですよ」
 黒いマイクロビキニ姿の光坂 るりか(jb5577)がにっこり笑って差し出したのは――
「さ、サンオイルか」
「ええ、背中に塗ってくださいます?」
 るりかの瞳が悪戯っぽく光った気がしたのは、多分気のせいではない。
「お、おう……」
 答える光の声が喉に詰まる。
 久しぶりに顔を合わせたこともあって、交流を深める目的も兼ねて海水浴に誘ってみたのだが、少し早まったかもしれない。
 しかし、これも交流の一環と思って覚悟を決めた。
 そうだ、べつに下心のようなものはないし、あるはずもないし。
(「とはいえ、光坂って結構スタイルいいからなぁ……目に毒だぜ……」)
 初心な少年にとって、それは正視するのも憚られるモノ。
 いや、しかし。
(「まぁ、これも光坂の肌を守る為、だな」)
 覚悟を決めてオイルを手に取り、背後に回る。
 前を覆う布の面積も極めて少ないが、背中側に至ってはただのヒモだった。
「ムラなく塗ってくださいね」
「お、おう」
 ムラなく、ということは……目を逸らさずにしっかり見て塗らなければいけない、ということか。
 しかも塗る為にはしっかり肌に触れなければならない、ということで……一体何の拷問だ。
「どうしました?」
「い、いや、何でもない」
 ただ、ちょっと気温が上がってきた気がするだけで。
 いや、上がっているのは自分の体温か。
 ちょっとクラクラするのは、照りつける日差しのせいだけではない気がする。
 それでも頑張って、光はるりかの背にオイルを塗っていく。
「あら、案外手つきが良いのですね」
「そっ、そんなことは……っ」
 少年の初々しい反応を見て楽しむ、お姉様の図。
「終わったら地堂君にも塗ってあげますね」
「お、おう……」
 お願いしたいような、したくない、ような。


「さぁて二人とも、今日中に平泳ぎくらいはマスターしてもらいやすぜ!」
 岩場に出来た大きな潮だまりの縁に仁王立ちして、秋野=桜蓮・紫苑(jb8416)は二人の大人を見下ろした。
 ひとりは百目鬼 揺籠(jb8361)、もうひとりはダルドフ、二人とも全く泳げな――
「なーに言ってるんですかい紫苑サン、言われなくたってちょちょいで泳げまさぁ! 見てろってんですよ、ねぇダルドフさん」
「う、うむ……」
 揺籠はそう言って胸を張るが、もちろん泳げない。
 プールならまだしも、海は大の苦手だ。
 しかし、あそこの岩に足をかけてふんぞり返っている生意気な鬼っ子の鼻っ柱に、どんなもんだとデコピンを喰らわせるためにも、ここは頑張るしかない。
「人間も妖怪も、天使だって水に浮くように出来てんですから、塩水なら尚更ぷかぷか浮かぶでしょうよ、ねぇ?」
「う、うむ、そうさのぅ」
 ダルドフの返事に、いつものキレの良さはない。
 だって浮かないんだもの。
 水に入ればそのままずんずん、息さえ続けばどこまでも歩いて行ける。
 水中で翼を使えば飛ぶように浮き上がることは出来るが、それは何か違う気がするし。
「んー、お父さんはきん肉がうかないからじゃないですかねぇ……」
 ほら、筋肉は脂肪より重いって言うし。
 お父さん、ムッキムキで体脂肪率低そうだし。
「そんなお父さんに、のっけから泳げって言うのもひでぇ話ですからねぃ、こんなもんをさがしてきやしたぜ!」
 じゃーん、お父さんでも浮かぶ巨大サイズの浮き輪ー!
 空気入れるのは人力でお願いしますと渡される足踏みポンプ。
「へぇ、紫苑サンもなかなか気が利くじゃないですか、でもこんだけのサイズを膨らませるのは大変そうですねぇ……」
 口で吹くよりは楽だろうが、それでも。
「ダルドフさん、手伝いますぜ!」
 ここはひとつ、良いところを見せてポイントを稼いでおかねばと、揺籠が足踏み係を買って出る。
 しかし踏めども踏めども浮き輪はちっとも膨らむ気配を見せなかった、
 しゅこんしゅこんしゅこんしゅこん……もういいかげん疲れてやめたくなってきたころ、浮き輪はようやく二次元から三次元の世界へとやって来た。
「ど、どうです! 見事に、膨らみ、ましたぜ!」
「うむ、かたじけない……が、ぬしは大丈夫かのう?」
 なんだかもう、一日分のエネルギーを使い切ったみたいな顔してるけど。
「な、なぁに、こうしときゃ、余分な力が入らずに、上手く浮き上がれるって寸法でさ」
 確かに緊張して力みすぎることが、カナヅチの原因のひとつではあるらしいが。
「じゃ、そのせいかを見せてもらいやしょうかねぇ」
 岩の上で紫苑がケラケラと笑っている。
 傍らに置かれたバケツには、待っている間にダルドフと一緒に捕まえた小魚やカニ、ヤドカリ、ヒトデやウミウシなどが入っていた。
「あれ、もしかして俺が一生懸命ポンプ踏んでる間に、二人で遊んでたんですかぃ……?」
「だって兄さんあんまり真けんで」
 邪魔しちゃいけない空気だったんだもの。
「まぁいいでしょう、ですが今度はちゃんと見ててくださいよ? 泳ぎますからね?」
 羽織っていたパーカを脱ぎ、サーフパンツ一枚で潮溜まりに足を踏み入れる。
「ほら、ダルドフさんもですよ、泳げるようになりてぇんでしょ?」
「う、うむ……」
 そんなことを言った覚えはない気がするのだが、何故か流れでそうなった。
 ましてや大事な娘に期待の眼差しで見つめられては、それに応えるのが父の務め。
 とは言うものの、天界には水に親しむ文化がない。
 風呂は好きだが、冷たい水はどうも……なんて、言ってる場合ではなかった。
 巨大な浮き輪に身体を嵌めて、ダルドフは恐る恐る水の中へと入っていく。
 なお水着は大方の予想通り、褌一丁だった。

 潮溜まりと言っても深いところは足が届かないほどに深い。
 揺籠は膝上くらいのところでぴたりと立ち止まり、根っこが生えたように動かなくなった。
 一歩先は深く落ち込んでいる。
 恐らく足は付かない。
「あ、誰も来ないよう見張っといてくだせぇよ!」
 周囲の目を気にするそぶりで時間を稼いでみるが、無駄だった。
「兄さん、おーじょーぎわが悪いですぜ!」
 どーん!
 突き落とされた。
「えっ、わっ、紫苑サンなにするんでsうわっぷ」
 どぼん、ばしゃばしゃ……ぶくぶくぶく。
「兄さん泳げるんでしょぉが、早くその見事な泳ぎっぷりを見せてくだせ!」
 ケラケラケラ。
 鬼か。いや、鬼だな、確かに。
 しかしめちゃくちゃに手足を振り回してもなお沈み続ける揺籠に、その声は聞こえない。
 と、その身体がふいに軽くなる。
(「もしや浮けるようになった……!?」)
 そう思ったのは気のせいで、実際は誰かにサーフパンツを掴まれ、引き上げられているのだった。
「大丈夫かのぅ?」
「あ、いや、どうも……みっともねぇとこ、お見せしちまって」
 浮き輪いいなぁ。
「ってぇか紫苑サン、なんでダルドフさんが浮き輪で俺がいきなりドボンなんですかぃ! 差別待遇ってもんでしょうが!」
「ちっちっち、男が細っけぇことにこだわるんじゃねぇでさ」
 いや、全然細かくないと思うんだけど?
「そんなことより、そんなんじゃあっという間にど○えもんですぜ! 俺が先生としてみっちり教えてやりやさ!(べべーん」
 なおスパルタなので覚悟するように。
「い、今のはいきなり突き落とされたからで……!」
「じゃあ泳いで見せてくだせ?」
「の、望むところですよ、見ててごらんなせぇ、この俺の華麗な泳ぎっぷりを!」
 しかし啖呵は切ったものの、勢いだけで泳げるはずもなく。
「ねぇ紫苑サン、塩水ん中で目開けたら痛くねぇですかね……?」
 いやほら、自分の場合は目の数だけダメージが掛け算になるわけで、もし痛むんなら相当な覚悟が……ねぇ?
「痛くねぇですから、しっかり目ぇ開けてくだせぇ、どの目でもいいですぜ!」
 そう言われてもやっぱり怖くて開けられず、泳ぎ方もよくわからない。
 結果、ぶくぶくぶく……
「しゃーなしですねぃ、俺が手本を見せてやりまさ!」
 ドボンと飛び込んだ紫苑は水着の上に七分袖Tシャツ、半ズボンに黒タイツの着衣水泳もーど。
 しかしそんなハンデを感じさせない見事な泳ぎぶりだった。
「あらやだ紫苑サンかっこいい……」

 結果、揺籠はなんとか水に顔を浸けて薄目を開けられる程度にはなったようだ。
 一方のダルドフはスパルタ教師の教え方が良かったのか、一日で平泳ぎからクロール、背泳ぎ、バタフライまでマスターして見せた。
 ただし、浮き輪がないとぶくぶくぶく……


「……やー……海だねー……」
 夏雄(ja0559)は学園指定のジャージ上下に手袋、ブーツといういでたちで、真夏のビーチに立っていた。
 夏を感じさせるものと言えば、その名前と頭に乗せた麦藁帽子のみ。
 彼女を知らない者なら、その服装に「暑くないのか」と驚きの視線を投げることだろう。
 しかし、これが彼女の平常運転であり、特に暑くも寒くもない快適モードなのだ。
「海だよぉ〜」
「うん、海だね! 何して遊ぶ?」
 同行のユリア・スズノミヤ(ja9826)は黒のフレアトップビキニ、木嶋 藍(jb8679)は白いレースビキニ姿。
 人目も日焼けも気にしない、日焼け止めは塗ったけどね!
「夏の海と言ったらー」
 泳ぐ? 潜る? それとも……
「砂遊びでしょー!」
 というわけで。
「パンダを作ろーぅ!」
「……ふむ、ユリア君はそう来るのか……」
 夏雄は暫し考える。
「さて砂で城、も良いけれど此処はあえて寺で行こう……何寺がいいかな……」
 ユリアが何やらタヌキのようなものを作り始めたから、ここは狸囃子の証城寺にしてみようか。
 それとも分福茶釜の茂林寺……はマイナーすぎるか。
「タヌキじゃないですーパンダですー」
「ユリもんがパンダなら、少林寺にしよう! なっちゃん、私も手伝うよ!」
 何故かパンダはカンフーやってるイメージの藍さん、ただしどんな建物なのかは知らない。
「……わかった……少林寺作ろう」
 なお夏雄にも少林寺のビジュアルはわからない。
 ただ何となくすごそうなイメージで砂を固めていく。
 昨今の砂像作りは型抜きでパーツを作ったり、水で固めた砂をレンガのように組み上げたりするのが流行りのようだ。
 しかし三人は道具など持っていない。
 頼りは己の二本の腕のみ!
 掘って固めて積み上げて、出来上がったのは……
「パンダだよーぉ!」
 そう言われても、色がないとクマと見分けが付かないし、片目が星型になってるし、おまけにカボチャパンツだし……それに、見ているとなにやら精神が浸食されそうな歪み具合なんですが。
 一方の少林寺(仮)は、無駄に巨大な何かだった。
「やぁ上手くできた」
 藍はご満悦だが、これは一体……?
「うん、これは本能寺だね、どう見ても!」
 どう見てもそうは見えないけれど、作った本人が言うなら間違いはない。
 そして出来上がる、本能寺を襲う巨大パンダ怪獣の図。
「ああっ、本能寺の攻撃でパンダのお腹に穴がー!」
 という設定で自らパンダの腹に穴を掘るユリア。
「あー、これはもう致命傷だねぇー」
 掘ったそばから崩れていくパンダの腹。
「こうなったら死なば諸共、行けパンダ、敵は本能寺にあり!」
 どしゃぁっ!
 本能寺を焼き討ちという名の突撃で、パンダごと破壊だ!
「あー! 私達の本能寺が!」
 それは誕生から一分の、短い命であった。
「……ふむ……大返しー……」
「えーい、NBの刑だ!」
 NBとはナイスバディ、つまり焼き討ちによって崩れた寺、及びパンダの残骸で焼き討ち犯を埋め、ナイスバディを作る。
「……おぉ……せくすぃーだいなまいと……」
「うみゅ、動けない……これはまさか本能寺の呪いなのー?}
 いいえ、砂の重さです。

 砂に埋もれたユリアを放置して、次は定番スイカ割り。
「おーい、二人とも、西瓜を仕入れてきたよ」
 ここは寝ているユリアの腹に乗せるべきか、それとも。
「夏えもーん、動けない私にそんなまさか」
「ふむ……」
 暫し考え、夏雄は徐に自分の頭にスイカを載せた。
「信じてるよ父さん」
 \ウィリアム・テルごっこ/
「任せなさい!」
 藍が取り出したのは改造水鉄砲。
 インフィだしこの距離なら絶対外さない。
 しかし、夏雄は「下がれ」のサイン。
「……このへん? え、もっと? あの、遠いんですけど……」
 射程外ですよー。
 でも大丈夫、インフィには射程を伸ばすロングレンジショットという有難いスキルが……え、V兵器でしか効果ない?
「大丈夫、V兵器を改造した水鉄砲だから! えい☆」
 ぐしゃ!
 割れた……と言うか潰れました。
「藍ちゃん\インフィー/ 夏えもん赤汁塗れ……」
 問題は、あのスイカに食べられる部分が残っているかどうかだが。
「大丈夫、大部分は帽子で受け止めたよ」
「さすが夏えもんー! さあ、早くそれを私の口へー!」
 大きく開けたユリアの口に、帽子からざーっと流し込まれるスイカの残骸。
 いや、形なんてどうでもいいのだ、スイカの味がするならば!
「スイカうまー」
「私も食べる!」
 藍も流れるスイカの滝から大きめの欠片を取って口に放り込む。
「んーっ、美味しいー!」
 口の周りを真っ赤にして顔を上げると、遠くに見知った姿が見えた。
「門木先生、楽しんでますかー?」
 手を振ってみると、小さく振り返される。
「うん、楽しんでるね」
 そしてなにより、幸せそうだった。


 これはただの散歩でも、ましてやデートでもない。
 職務上の巡回監視業務である。
 だから例え二人で並んで歩いていようとも、あくまで先生と生徒なのである。
 では何故に一緒にいるのかと言えば。
「クジラはテレビで見たり知識はありますが、自然にいる姿を見られるのは貴重ですから、ホエールウォッチングにはぜひ参加したいですね」
 出発前、何をしたいか尋ねた門木に、カノン・エルナシア(jb2648)はそう答えた。
「他には?」
 そう訊かれて、はたと答えに詰まる。
「考えてない?」
「はい、特には……」
 ホエールウォッチングは一日の大半を費やすイベントだから、二日目の予定はそれだけで殆ど埋まるだろう。
 だが他の日は、せっかく海に来たのに暇を持て余すことになりそうだ。
「俺は仕事だから、遊びには付き合えないし……」
 そう、引率責任者としての実質的な業務は全て優秀なマネージャである恋音が引き受けてくれたが、だからといって自分が遊び呆けて良いはずもない。
 かといって大事な奥様を一人で放置するのは論外だった。
「そうだ、仕事頼んでいいかな」
「仕事、ですか? それは構いませんが……何でしょう?」
「俺のボディガード」
 ここは天魔の襲撃が頻繁に起きるような土地柄ではないし、今現在門木が誰か、或いは何かに狙われている、といったこともない。
 ただ、どんなに安全だと思われても、不慮の事故や事件は起きるものだ。
 門木自身には危険がなくても、他の生徒が巻き込まれる可能性もある。
「そんな時は俺が出て行っても……正直、役に立たないし。だから、一緒にいてくれると心強い」
 というわけで、こうなった次第。
「悪いな、付き合わせて」
 そう言いつつ、門木にとってはたとえ仕事でも一緒にいられることが嬉しくて、最高に幸せだった。
 カノンも同じように感じてくれていれば、いいのだけれど。


「……どうした?」
 岩陰にすすっと身を隠したシグリッド=リンドベリ(jb5318)の姿を見て、テリオスは訝しげに目を細めた。
「いえ、なんでもないの、ですよ……?」
 そう言いつつ、何かを避けるようにますます奥へ引っ込んでいく。
 テリオスがその視線を辿ると、砂浜をのんびりと横切っていく二つの影が目に入った。
「何故あれを避ける?」
「べ、べつに避けているわけでは、ないのです……」
 ただちょっと、顔を合わせ難いだけで。
「どう違うのだ」
 突っ込まれて言葉に詰まる。
 そう言えば、ここに来る時もこうして駄々を捏ねて……結果、華桜りりか(jb6883)に引きずられて来る羽目になったのだった。

「テリオスさんと遊びましょう、です」
 にっこり微笑んでそう言われれば、断れるはずもない。
 かく言うりりかも1人では参加する勇気が足りなかったので、シグリッドを引きずって来たということのようだ。
 そして「シグ兄がいくならぼくもいく!」と、くっついて来た天駆 翔(jb8432)に退路を断たれ、いまここ。
 しかし、ここに至るまでもかなりの紆余曲折があったのだ――主にテリオスの関係で。
 今回はりりか発案、テリオスで遊ぼ……じゃなかった、「テリオスさんに楽しんでもらおう計画」が発動中なのだ。
 海と言えば海水浴、海水浴と言えば水着。
 しかしテリオスは素直に水着に着替えてくれるのだろうか。
 そもそも海に入ろうとするのだろうか。
「今までプールも温泉も、みんな断られてるのです」
 濡れると溶けちゃったりするのだろうか。
 いや、濡れることよりも肌を晒すことを嫌がっていた、ような。
「そういえばメイラスも肌を晒す事を断固拒否してたのです……」
 あれは個人的な拘りなのか、それとも。
「肌見せちゃいけない決まりとかあるんです?」
「いや、別に……そういうわけではないが」
 尋ねたシグリッドに、テリオスは首を振る。
「じゃあ、これをどうぞ……なのですよ」
 差し出されたのは水着とラッシュガード。
「これならそんなに肌は出ないのです。僕はテリオスお兄さんも楽しく遊べると嬉しいです」
 どうか、海がトラウマになりませんように。

「で、何故そう避ける?」
 膝上までのサーフパンツに首元まで詰まった長袖のラッシュガードを一分の隙もなく着込んで、テリオスは話を蒸し返した。
 回想シーンを挟んだら忘れてくれるかと思ったのに、どうやら甘かったようだ。
「だって章兄……なんか気が付いたら結婚してたのです」
 ののじ。
「知らなかったのか?」
 こくりと頷いて、ののじ。
「それは……まあ、後でひとこと言っておく」
 なお「本人にとっても急なことだったし、実は未だ状況に慣れずに戸惑っているらしい」などとフォローする気は全くないようだ。
「そんなことより、お前達は私を楽しませるのではなかったのか」
 腕を組んで仁王立ちしたテリオスは、シグリッドとりりかを交互に見比べる。
「それとも、こうしてただ海とやらを眺めているのが、お前達の言う『楽しいこと』なのか?」
「そうではないの、ですよ?」
 パレオが付いた可愛い水着姿のりりかは、テリオスの手をとって波打ち際まで連れて行った。
「まずは波と追いかけっこをして遊びましょう、です」
 寄せてくる波で足を濡らさないようにしながら引く波を追いかけて、また次の波に捕まらないように素早く逃げて。
「それの何が楽しいのだ」
 最初は憮然とした表情でそう言い放ったテリオスだが、やっているうちに楽しくなってきたらしく、やがて真剣に波と戦い始めた。
「この不規則な波の動き、予測が難し……そうか、人間達は普段からこのような鍛錬を……」
 やがて大きな波が来て、くるぶしの上まで水に浸かる。
 引き波がその足下から砂をさらっていった。
「これはっ!? 砂の下に引きずり込もうとする罠か!?」
「テリオスさん、落ち着いてください……です。もう少し深いところまで来れば、気にならなくなるの、ですよ?」
 大丈夫、ほら、あんな小さな子も平気で遊んでいるからと、りりかは波と戯れる翔に目を向けた。

「うおぉぉぉーーーーーっ!」
 翔は雄叫びを上げながら寄せ来る波に突進し、跳ね返されて転がって、ざぶーんと打ち上げられてはまた立ち上がり、向かって行く。
 疲れたらごろんと寝そべって、背中の砂が波にさらわれる感覚を楽しんで。
「あはは、くすぐったーい! ねえねえ見て見て、大のじ!」
 起き上がって砂が削れた跡を見せびらかしてみたり。
「たーのしーーー!!」
 何が楽しいのか、大人には今ひとつよくわからないけれど。
「シグ兄、およごう!」
「あまり深いところへ行っては危ないのですよ?」
「わかってるよー! えいっ!」
 ばしゃぁっ!
 泳ぐと言いつつ水の掛け合いになるのは何故なのか。

「ほら……楽しそうなの」
 だからオイデオイデと、りりかはテリオスを手招きする。
「大丈夫、浮き輪もあるしこわくないの」
 テリオスは渋々ながら、そろりそろりと沖へ向かって足を踏み出してみた。
 腰の辺りまで水に浸かった、その時。
 予期せぬ大波が巨大な壁となって頭上から覆い被さって来た!
 ざっぶーーーん!
 波に呑まれてひっくり返り、上も下もわからなくなって闇雲に手足をバタつかせ――ぎゅっ!
 テリオスは助け上げたりりかに思いっきりしがみついた。
「やだ、もう帰る! 海こわい!!」
 がくぶる。
「はいはい……じゃあ、砂浜で遊びましょう……ね?」
 砂でお城を作ったり、砂風呂を楽しんでみたり、きれいな貝殻を集めたり。
「それなら怖くない……です?」
 こくん、涙目で頷くテリオスには、またひとつ人間界のトラウマが増えてしまったようだ。

「すなぶろ! ぼく、うまりたい! シグ兄、すなかけて、すな! あ、生きうめはやだからね! かおはちゃんと出してよ!?」
「はいはい、わかってるのですよー」
 仰向けに寝転がった翔を砂に埋めながら、シグリッドはふふっと笑う。
「弟が出来たみたいです」
 そして、ふと思う。
 彼も自分のことをこんなふうに見ていたのだろうか、と。
(「弟みたいに思ってる子が、突然いなくなってしまったら……きっと寂しいのですね」)
 そう思うと、何かが胸にチクリと刺さる。
 後でちょっと、顔を見せに行ってみようか……いやいや、でもやっぱりなんか気まずいし、どうしよう、どうしよう……(ぐるぐるぐる


 そんな彼等の様子を物陰から伺う家政婦ならぬ美容師がひとり。
 アレン・マルドゥーク(jb3190)は何かに得心がいったように、こくりと頷いた。
「これは……章ちゃんに確認してみる必要があるのですねー」
 さぁて、ご注進ー!



●波に乗れ!

「やっぱり夏と言ったら海ですよぅ☆」
「キュゥ!」
 ペンギンの着ぐるみに身を包んだ鳳 蒼姫(ja3762)と、ラッコになりきった鳳 静矢(ja3856)。
 毎度お馴染みの二人はさっそく海に飛び込んだ。
 アキペンペンは得意のペンギン泳ぎで水を切り裂き、弾丸のように波間から飛び出して来る。
 そして測ったように正確に、波間に浮かぶシズらっこの腹の上にぴたりと着地を決めた。
 そう、このラッコはサーフボードにもなれるのだ――しかも自走式の。
『アラスカ産ラッコは波乗りも出来る!』
 シズらっこは得意げに、胸に抱えたホワイトボードを掲げて見せた。
「へいへいへいへーい☆ 静矢さん、もっと波に向かって突進なのですよぅ☆」
「キュゥ!」
 足のスクリューを全開に、シズらっこは迫り来る大波に向けて泳ぐ。
『このビッグウェーブに私は乗る!』
 高くそそり立つ波の壁、その内側に入り込み、くぐり抜ける大技チューブ・ライディングを決める!
 波のトンネルを抜けてトップへと駆け上がりジャンプ、そしてターン!
「YeeeeHaaaaw!!」


「やっほー! 海だっー!」
 佐藤 としお(ja2489)イズヒア!
「臨海学校、思いっきり楽しむぞ!」
 派手な大技を見せたペンギンとラッコのタッグは気になるけれど、ここはマイペースにロングボードで優雅に楽しむ!
 ビックウェーブを捕まえて、捕まえ……ようと思ったら、なんか異様にでかい!?
「え? ええぇぇぇーーーーーっ!!?」
 どっぱぁーーーん!
 としおの姿は、突如として現れた謎のゲリラビックウェーブに呑まれて消えた。
 果たして彼の運命や如何に、待て続報!


「ふふふ,今年も一緒に臨海学校だね♪」
 川澄文歌(jb7507)は青を基調にしたフリルつきのビキニ姿。
「サーフィン用にズレにくい水着を新調してきたんだよ。似合う?」
「……みゅ? うん、可愛いねぇ」
 問われた水無瀬 快晴(jb0745)は文歌の頭をそっと撫でながら相好を崩した。
 しかし、可愛いけれど……いや、可愛いだけに、他の男には見られたくないという複雑な男心。
 一方の快晴は水色のサーフパンツに白のパーカを羽織ったスタイルだ。
 いや、寧ろこのパーカは文歌に羽織らせたい、そして周囲の視線から隠してしまいたい。
 とは言え隠せとは言えないし、隠したら自分も見えないし、見せびらかしたい思いもあるし……うん、可愛いから良し!
「さすがにビーチは日差しが強いね」
 文歌は恋人のそんな思いを知ってか知らずか、肌を惜しげもなく晒したままで白い砂の上に立つ。
「日焼け止めもしっかり塗っておかないとね。……カイ,塗るのを手伝ってくれる……?」
 少し恥ずかしそうに、遠慮がちな小声でそう問われ、嫌だと答える男がいるだろうか。
 もちろん、二つ返事で手伝いを申し出る。
「ありがとう、終わったらカイにも塗ってあげるね」
 服の下でも日焼けはするし、白い服は紫外線をたくさん通してしまうのだ――UVカット素材でもない限り。
「それに着たままじゃ泳げないし、ね」
 準備を整え、サーフボードを持って波打ち際へ。
「私サーフィンなんて初めてだよ、上手く乗れるかなぁ?」
「大丈夫、文歌は何でも上手に出来るから、すぐに上達するよ」
「おだてたって何も出ないけど、でもありがとう、カイ」
 頬に軽くキスをして、先生の指導を待つ。
「じゃあ、まずは板に乗って立ち上がるところから始めてみようか」
 波の静かな浅瀬で快晴に支えてもらい、まずは板の上に座る。
 そこからそろそろと立ち上がり……
「立てたよー! 次は!?」
「うん、あの波に乗ってみようか」
 それは波と言うよりただ海面が僅かに盛り上がっただけ、のようにも見えた。
 それでも、波は波だ。
 快晴に手を添えてもらい、タイミングを合わせてバランスを取って。
「わぁ,波に乗れたよ〜」
「うん、上手い上手い。もっと前に重心を乗せると前に進むよ?」
「はい、先生!」
 そして僅か数時間後には、颯爽とビッグウェーブを乗りこなす文歌の姿があったとか――



●もっと遠くへ!

「うーみーでーすー!」
 釣り船の舳先に立って、ビキニにショートパンツ姿のマリー・ゴールド(jc1045)は潮風を胸一杯に吸い込む。
 何しろ育ったところは山奥で、海など死ぬ前に一度でも拝めれば僥倖という土地柄だったものだから(大袈裟)、海を見ると自動的にテンションが上がるのは仕方がない。
「海ですよー、うみー! まわりじゅう全部が水なんですよー! すごいと思いませんかー?」
「ええ、そうですね」
 同行の黒井 明斗(jb0525)は、やんわりと受け流しながら釣りの仕掛けを作るのに夢中になっている。
 狙いは海アメと海サクラ、と言っても海の中に飴玉が落ちているわけでも桜が咲いているわけでもない。
「え、違うんですか?」
「海アメは降海型のアメマス、海サクラは同じく降海型のサクラマスのことですよ」
「あ、そのお魚なら知ってます、故郷の川や湖にもいましたですよー」
 海にもいるなんて、知らなかった。
「ええ、海でアメマスやサクラマスなんて、北国ならではですよ」
 そうか、珍しいんだ?
「ほら、ポイントに着きましたよ。教えてあげますから、僕の言う通りに……」
 本当は一刻も早く竿を降ろしたくて仕方がない。
 けれど、まずはマリーに楽しんでもらうことを最優先に。
「これを投げるんですね?」
 竿を手にしたマリーは、自信満々の様子で頷いて……えいっ!
 ばしゃーん!
 竿ごと海に放り込んだ!
「え? だって今これを投げろって」
「ごめんなさい、僕の言葉が足りなかったようです」
 投げるのは竿そのものではなく、糸の先に付いた仕掛け……いや、手本を見せたほうが早いか。
「……こうです」
「なるほどー、こうですね! えいっ!」
 あっ、何か手応えが! 水に入れる前に釣れるなんて、なんてせっかちな魚……あれ、違う。
「何か見覚えのある布きれが釣れましたよ?」
 あれ、これはもしかして。
「きゃー!」
 マリーさん、自分のブラを釣ってしまいました!
「でもきっと、初心者にはありがちな失敗ですよね」
 そうだろうか。
 まあ、そういうことにして……気を取り直してもう一度、えいっ!
「いいですね、キャストしたらすぐにはリトリーブせずに、そのまま数カウントフォールさせてからリトリーブを……」
「それ、何語ですか?」
「あ、すみません、つい専門用語を……」
 要するに投げたらすぐには糸を巻き上げずにルアーを沈ませて、少し待ってから巻き始める、ということだ。
「その最中にバイトが来たら……ああ、バイトというのは魚が食いついた手応えで……あ、来てますよ!」
 ビギナーズラックか、大物の手応えにマリーの竿がしなる。
「いいですよ、そのまま慎重に巻き上げて……」
「えいっ!」
 ゴボウ抜き!
 かーらーの、びたーん!
「あっ」
 顔面に体当たりされました。
 しかし、とにかく無事に釣れたのだから結果オーライ。
「なかなか良い型ですね、僕も負けてはいられません」
 普段の冷静で大人びた風もどこへやら、年相応の少年の顔で瞳を輝かせ、夢中になって竿を操る。
 釣れた魚は型の大きなものだけキープして、あとはリリース。
 残したものはその場で三枚に下ろし、食べきれない分は明日のバーベキューにでも提供しようか――


「皆それぞれに楽しんでるね」
 海は釣りやサーフィンの邪魔をしないように気を付けながら、水上バイクを飛ばしていた。
 このスピード感はなかなか味わえるものではない。
 速さだけならジェットコースターのほうが上かもしれないが、水上バイクには自分で運転できるという利点がある――そして一歩間違えば天国から地獄というスリルも。
 もちろんそんな無謀な運転はしないが、それでも軽く時速100kmは出るし、同じスピードでも道路と水の上では爽快感が違う。
 何の規制もない広い空間を自由に走り、それでも周りの様子には気を配りつつ。
「こんなところまで泳いでくる人がいるんだな……」
 でも、どこまで行くつもりだろう。
 この先は……多分、アメリカ大陸に着くまで陸地はなかったと思うのだけれど。


 わかっている。沖合で泳ぎ疲れるか、途中で陸に引き返すしか手段がないってことは。
 それでも藍那湊(jc0170)は泳いでいた。
「自分がどこまで泳げるのか……本格的に挑戦だ……!」
 カナヅチを克服して平泳ぎができるようになったけれど、水に入るのはその時以来だ。
 どうやら泳ぎ方は覚えていたけれど、果たしてそれは本当に身に付いているのか。
 海岸から沖に向かって泳ぎ始めてすぐに、後悔の念が頭の隅をよぎったけれど……それでも、男にはやらねばならない時がある。
 上半身にラッシュガードをぴっちり着込んでいるせいか、却って性別不明に見えるかもしれないけれど、男だから!
 水着だってちゃんと男子用だから!
 しかし困った、出来るのは本当に平泳ぎただひとつ、立ち泳ぎや犬かきどころかただ浮かんでいることも出来ないという奇跡の水泳スキルでは、どんなに疲れても休憩をとることさえ叶わない。
 手足を動かすことをやめた途端、身体は浮力を失って鉛のように沈んでいく。
 ここはもう、水深何十メートルあるだろう。
 溺れるか辿り着くか、魚の餌になるか……果たして湊の運命や如何に、待て続報!(またか


 この海域のホエールウォッチングは、シーズン中ぼ毎日のように行われていた。
 ミハイル達が予約したのは明日の便だが、船は今日も別の客を乗せて運行している。
 船と平行して泳ぐスリムで身軽なイルカ達、少し距離を置いて悠々と泳ぐ大きなクジラ、そして彼等と戯れる、ひとりの青年。
 ――え、青年?
 それは波に呑まれて消えた、としおの姿だった。
 見知らぬ見物客が船から見守る中、としおはイルカ達と戯れる。
 実はこのイルカ達、としおの命の恩人ならぬ恩イルカだった。
 イルカにとって、人間は泳ぎの下手な赤ん坊も同然の存在らしい。
 だから彼等は、赤ん坊イルカを水面に持ち上げて呼吸させるように、溺れた人をも鼻先を器用に使って水面まで持ち上げ、呼吸を促してくれるそうだ。
 そんなわけで九死に一生を得たとしおは、イルカ達と楽しくきゃっきゃうふふ……しかし、それがクジラの嫉妬を誘ってしまったのだろうか。
 どっぱーん!
 尾鰭の一振りで、としおは空の彼方のお星様に――きらっ☆
 その後の彼の消息については、再び待て続報!


 一方、志半ばで力尽き、沈みかけた湊は、水上バイクの海に救助されていた。
 ライトヒールとマインドケアを施して、乾いたバスタオルで身体を包み……あとは何か温かい飲み物でもあればいいのだが、それは陸に戻るまで我慢してもらおう。
「それにしても、こんなところまでよく頑張ったね」
 途中で力尽きたとは言え、陸地が水平線の向こうに隠れる程度の距離は泳いだのだから、上等と言って良いだろう。
(「もっとも、水平線までの距離って思ったほどでもないんだけど」)
 浪漫をぶち壊しそうだから、そこは黙っておくことにしようか。



●食料調達!

 臨海学校、二日目。

「よぉ〜し、いっぱいとるよぉ」
 頑張って早起きした白野 小梅(jb4012)は、朝一番で行われる地引き網漁に参加していた。
 もちろん、網を引くのはこれが初めてだ。
「このロープを引っ張れば、お魚が出て来るのねぇ」
 ロープを引く時の掛け声ってなんだっけ、そうだ、確か――
「おーえす、おーえす!」
 え、運動会の綱引きじゃない? じゃあ――
「よーいしょ! よーいしょ!」
 他の学園生や地元の人、一般の観光客に混ざって一生懸命に網を引く。
 やがて海の表面が細かに波打ち始め、続いてキラキラと輝き始める。
「わー、たいりょーなのぉ」
 浜まで引き上げられた網の中では、様々な種類の魚が朝の光にその身体を光らせていた。
 魚ばかりではなく、エビやカニ、イカ、タコ……
 魚の名前はわからないけれど、見た目で種類ごとに分けていく。
「あ、これかわいいのぉ」
 ぷっくり丸く膨らんだ魚を見て、手のひらに乗せてみる。
「手乗りまんまるさんー」
 勝手に名前を付けてるけど、それフグだから。
 調理には免許が必要だし、ペットにするのも難しいので、お持ち帰りは諦めましょう。
「この子はきれいなのぉ〜」
 あ、それはミノカサゴ……身体に毒があるから触っちゃだめですよー。
「……ん……これは……へんなのー」
 小梅フィルタで「へんなの」に分類されたそれは、確かに変なものだった。
 魚ではないし、イルカやアザラシでもない。
 皮膚の色は小麦色で、胸鰭は細長く、尾鰭も細く二またに分かれている。
 人間で言えば尻にあたる部分にはサーフパンツのような模様があり、頭にはサングラス……って、これ人間だ。
 動いた。生きてる。
「……はっ!? 僕はいったい何を……っ!?」
 奇跡の生還者、としおはがばっと跳ね起きた。
 ここはどこだ、お魚の天国か。
 波に呑まれてクジラにぶっ飛ばされたところまでは覚えている。
 そして予定では皆で仲良く網を引いて、沢山取れた魚達に感激することになっていたはず。
 なのに何故、自分が魚と一緒に引き揚げられているのか。
「ほへー、びっくりしたのぉー」
 まさか人間が網にかかるとは思わなかった、と言うか不死身ですかあなた。
「せっかくだから、お魚わけてあげるのぉ」
「それはご親切にありがとう!」
 出来ればトビウオが良いな、アゴ出汁のラーメンは絶品なんだよ!

「……おはようございますぅ……お魚は、たくさん獲れたでしょうかぁ……?」
 その声に振り返ると、両手に大きな荷物を提げた恋音の姿があった。
「あっ、ぱい先生ーすごいお荷物なのぉー」
「……漁港近くの市場で開かれていた、朝市に行っていたのです……」
 水揚げされたばかりの新鮮な海の幸に、お土産用の乾物や日持ちのする加工食品、珍しい缶詰など、あれもこれもと買い込んだら荷物が持ちきれなくなってしまった。
 お土産は既に宅配で送ってあるから、明日の昼までに消費する予定の食材だけでこの量だ。
「ぱい先生すごくいっぱい食べるのぉー」
 さては、そのチチを養うため……え、違う?
 そういえば恋音さんはとても小食なのでした。
「……これは殆ど、皆さんに食べていただく分ですねぇ……」
 今日の夕食はBBQ、参加人数や顔ぶれを考えると、これでも足りないくらいだろう。
 しかし、食料調達係は他にも大勢いる。
 まずは彼等の手腕に期待しておこう。


 地引き網の様子を遠目に眺めながら、鴉乃宮 歌音(ja0427)は夕方に備えてBBQの準備に励んでいた。
「近くに水道があって、ある程度の広さを確保出来て……かつ他の人達の邪魔にならないような場所を探すとなると、やはりそう簡単ではないか」
 それでも何とか条件に合う場所を選び、歌音はレンタル機材を運び入れる。
 早めに来た人が日陰を確保出来るように屋根を作り、その下にコンロを何基か、周りにはテーブルと椅子を並べて。
「後は直前に火を入れるだけだな」
 設営が終わったら、次は食材の確保だ。
 機材を盗もうとするような不埒な輩がいないとも限らないと、視界の隅に現場を捉えられる程度の距離にある岩場を拠点にして釣り糸を垂れる。
「ここは何が釣れるんだろうな?」
 まあ、地引き網も結構な収穫があったようだし、必ず釣り上げなければという意気込みはない。
 のんびりゆったり、釣れればよし釣れなくてもよしくらいの気持ちでいれば、意外な大物が釣れるかも?
「まあ軽く刺身にする程度のものが釣れるといいのだがな」
 ルアーを投げて、待つこと暫し。
 手応えを感じて合わせると、海に引き込まれるような勢いで竿がしなる。
「この手応えは磯の王者イシダイ!?」
 だが仕掛けはイシダイ用のものではない。
 頭の良いイシダイはルアーなどの囮には容易にひっかからないとも聞くし、専用の仕掛けでないと鋭い歯で糸を噛み切られてしまうとも聞く。
「すると、これは……」
 慎重にリールを巻いて糸を手繰り寄せ、網で掬い取る。
「イサキか、煮ても焼いても唐揚げでも良し、刺身も絶品……BBQには最適だ」
 しかも40cmを超える大物、これはなかなか幸先が良い、それとも野球で言うところの隅イチというやつか。
 その場で手早く絞めてクーラーボックスの氷水で冷やし、次の一投へ。
 しかし、やはり最初の大物で運を使い果たしてしまったようだ。
「他は外道ばかりか」
 釣れる端からリリースし、結局はまだ早い時間で釣りは切り上げることにした。
 地引き網の成果は上々だったと聞くし、魚介類が不足することはなさそうだ。
 となると、必要になるのは海では獲れない肉や野菜、果物、それに米。
「酒やジュースも必要だな」
 これは機材のレンタルで一緒に借りた軽トラで出動したほうが良さそうだ。


「今日、僕は海人(うみんちゅ)になります!」
 ザジテン・カロナール(jc0759)は、ラッシュガードの上下にアクアシューズ、ゴーグル、シュノーケルに軍手の重装備。
 そして海人と言えば忘れてならないのが、獲ったものを入れる木製の手桶だ。
 桶の縁に掴まってバタ足で沖へと進み、大きく息を吸い込んで――ぶくん!
「ああ、やっぱり海は良いです! 気持ち良い! 人界最高!」
 暫しそのまま自由に泳いだり、魚と戯れてみたり……っと、遊んでる場合じゃなかった。
「今日は門木先生ご夫婦と、フミカ姉さまカイ兄さまのためにご祝儀をいただきに来たのです!」
 何がいいかな、やっぱりお祝いと言ったら鯛とか伊勢エビとか?
 エビは見付けさえすれば捕まえるのは簡単そうだけど、鯛はどうだろう?
「確か水深30メートルくらいの岩場にもいるはずなのです」
 透過で待ち伏せスタイルなら、ワンチャン?
「見付かるまでは他の獲物を狙うのです。気合いを入れて頑張るですよー!」
 浅瀬の岩礁に棲む生き物の観察という、夏休みの自由研究も兼ねて!
「レイニールは怖いサメが来ないか見張っててくださいねー」
 安全確保のためにストレイシオンを泳がせておくけれど、自分でもきちんと周りを警戒しておく。
 夢中になって潜水の限度を超えないように……と思っても、これがなかなか難しい。
 だって海の中はこんなに綺麗なんだもん!
 太陽の光が降り注ぐ浅瀬には色とりどりの海藻が揺れて、その間に小魚や小さなエビが見え隠れしている。
 イソギンチャクやヒトデ、少ないけれど珊瑚の姿も見えた。
 クラゲは触ると危ないけれど、見ているぶんにはユラユラと涼しげな姿が幻想的で美しい。
(「……はっ! 見とれている場合ではなかったのです!」)
 いけないいけない、目的を忘れるところだった。
 ザジテンは岩の隙間や海草の根元など、普通は手の届かないところに潜む獲物を探す。
(「普通ならもうこれで安心と思うのでしょうが、僕達には物質透過というチート技があるのです!」)
 邪魔なものは全てすりぬけ、大きく育ったアワビを引きはがす。
 サザエにウニ、何だかよくわからないけと、とにかく大きなカニ。
 真っ赤でトゲが生えたみたいにゴツゴツしてて……え、花咲ガニ? わりとレア?
「ラッキーです!」
 そして目当ての伊勢エビも、どんなに巣穴の奥に潜ろうと物質透過には適わない。
 ついでに一緒にいたウツボも捕まえてみたけれど……これって食べられるんだっけ?
「美味しい、みたいですね……びっしり詰まった骨さえ抜ければ」
 捌ける自信はないから、今日のところは逃がしてあげよう。


 海は海に潜って(ややこしい)生命探知で獲物を探していた。
「地面の動かない反応は貝とかだろうね」
 いや、これはヒラメ……違う、カレイか。
「どっちでもいい、待て!」
 砂煙を上げて逃げ出した魚の後を追いかけるが、いくら撃退士でも水中の勝負は分が悪い。
 おとなしく、逃げない獲物を探すとしようか……


「よし、俺らも負けちゃいらんねーな!」
 二本の銛を手にした光はその一本をるりかに手渡した。
 使い方は槍に似てる……はず!
 これだけ形が似ているのに使い方が違うなんてありえない……はず!
「俺の普段の獲物は槍だからな、やってやれねぇ事はないだろ。光坂は何でも使いこなしそうだし、大丈夫だな」
「それは買いかぶりすぎですが……まあ、やってみましょう」
「っしゃ、気合と根性は俺の専売特許だ、美味しい食材の為なら気合入れるぜ!」
「頼もしいですね」
 るりかはその姿を母親のような眼差しで見守りながら微笑む。
「でも無理は禁物ですからね」
「わかってるって! いくぜ、『光』を名前に持つツートップディバイン復活だ!」
 戦闘とは違うけどな!
 ガシガシ海に入っていって、手当たり次第にザクザク銛を突き刺す「数撃ちゃ当たる方式」で突き進む光。
 一方るりかは岩場のホタテやサザエ、アワビなど動かない獲物を狙って堅実に。
 だが、獲物が自分から近付いて来るならば能動的に動くことも吝かではない。
「あ、タコ発見です(グサッ!」
 強い。


 手桶は既に獲物でいっぱい、重さに耐えきれず沈みそうになっている。
 しかしザジテンは諦めきれなかった。
「鯛を……まだ鯛を獲っていないのです!」
 小さくてもいいから、せめて一尾。
 もうボディガードのレイニールは還ってしまった。
 疲れも溜まったし、そろそろ戻らないと体力が保たないだろう。
「あと一回、これで見付からなかったら諦めるのです!」
 その願いが通じたのか、眼下にマダイの影が!
 ザジテンは水さえ透過して抵抗をなくし、気配を感じさせないようにそっと近付く。
 のんびり泳ぐその真下から近付いて……抱き付いた。
 大きい。
 回した腕で抱えきれないほどに大きい。
 おまけに抱き付いた途端、マダイは全身のバネが弾け飛んだように暴れ始めた。
 びちびち、ばたばた、回した腕からすり抜けようとする。
 それでもザジテンは懸命にしがみついた。
「は、離してなるものか、です……っ!」
 ザジテンに組み付かれたまま、マダイは猛スピードで泳ぎ始めた。
 息が苦しくなってくる。
 遂には意識が遠のき始めた。
 それでも――!



●一緒に泳ごう!

「海かぁ……種子島思い出すなぁ」
 旅行案内を受け取った浅茅 いばら(jb8764)は、かつての戦いの日々を……あれ、何故だろう。
 厳しい戦いが長く続いたはずなのに、思い出すのは楽しく遊んだことばかり。
 でも、それで良いのかもしれない。
 辛い思い出をいつまでも引きずっているより、楽しい思い出を糧に前に進もう。
「折角やしリコにもっと学園を知ってもらいたいし、いっしょに遊べるとええなあ」
 リコはどんなことに興味を示すだろう。
 普通に泳ぐだけではいつもと同じだし、せっかくだからデートっぽいこともしたい。
「ホエールウォッチング……せや、これならリコも初めてやろ」
 きっと喜んでくれるはずだ。
「リコの水着が楽しみ……」
 あ、今のなしなし(こほん


「よくこんな豪勢なの借りれましたね」
 目の前の桟橋に停泊している超豪華なクルーザーを前に、黄昏ひりょ(jb3452)は気後れしたように思わず足を止めた。
「なに、ちょっとした手違いだ」
 そう言ってミハイルは笑うけれど、本当だろうか。
「ともあれ、今日はよろしくお願いします」
 そうしている間にも、企画に参加する者達が次々と乗り込んで来る。
「おう、カノンも来たか」
 その姿を認めて藤忠が声をかけた。
 ハーフパンツの上からゆったりしたブラウスを羽織り、裾をリボンのように前で結び、足下は編み上げサンダル。
 ブラウスの下に着た空色のタンクトップ以外は全て白、そして頭には大きな鍔が優雅に波打つ麦わら帽子を被っていた。
 その帽子だけがコーディネートから少々外れて見えるのは、日焼けと熱中症を心配した過保護な旦那が被せたものだから、だろう。
 ところで、その旦那はどうしたのだろう。
「それが……」
 カノンは少し困ったように後ろを振り返った。
 門木は桟橋の手前で立ち止まり、誰かと話し込んでいる。
 相手は女性、まさか浮気――と思ったが、よく見ればアレンさんでしたよ紛らわしい。
「今は仕事中だから、と」
「おいおい、大事な嫁さんをほったらかしにするつもりか?」
 ミハイルも身を乗り出してきて「しょうがない奴だな」と眉間にシワを寄せた。
 教師として公私の区別を厳格に保つこと自体は正しいし、その心がけは立派だと思う。
 だがしかし。


「章ちゃんもやはり、違和感を感じたのですねー」
 こくり、アレンが頷く。
「私も章ちゃんの結婚式の時、テリオスさんにお着替えさせて貰えなくて……」
 何か身体に秘密でもあるのだろうか。
「半分悪魔……は章ちゃんのほうでしたねー」
「ああ、俺は天魔ハーフだが、あいつは生粋の天使だ」
 それに悪魔の血が入っていたとしても、それは特に隠すようなことではない。
 門木もあまり肌を見せないようにしているが、それは背中の痣とあちこちに残る傷跡の見た目がよろしくないからというだけで、見られたら見られたで、まあいいかという程度のものだ。
「テリオスさんの場合、何か悲壮な決意のようなものも感じるのですねー」
 そこまでして隠したいもの、とは。
「私の親友宅だと、息子が娘として育てられてたりしてましてねー。逆もあるのではとー」
「だとしたら……最初に会った時の嫌われっぷりも、わかる気がするな」
 死んだと思われていた兄の代わりを演じるだけでも苦しかっただろうに、ましてや――
「では、確かめてみてもよろしいでしょうかー」
「ああ、頼む。好きでそうしているなら構わないが、そうでないなら、何とかしてやりたいからな」
「わかりました、お任せくださいー」


「話は済んだか?」
 振り返ると、ミハイルと藤忠が立っていた。
 しかも、なんか怒ってる……ような?
「べつに怒ってはいないさ。ただ……ああ、怒ってるのかもしれんな」
「というわけで、章治は俺達が預かる」
 藤忠が門木の腕をがしっと掴んだ。
「お前が来ないと船が出られないだろう」
「いや待て、俺は仕事中……!」
「わかってる、だがそれがどうした」
「引率の教師がどこか特定のグループに所属したり、ましてや個人的に楽しむなんてことは……!」
「それもわかってる、だが俺達が許す」
 正しいのはけっこう、でもなんか見ててモヤモヤするのだ。
「「先生が楽しんで何が悪い!」」
 というわけで、引きずられるように連行された門木は「そーい」と甲板に投げ込まれ……船は無事に桟橋を離れたのでありました。
「手のかかる奴だが……カノン、章治をよろしく頼む」
 藤忠はまだ居心地が悪そうにしている門木の背中を叩いて言った。
 もっとも、門木がめんどくさくて手のかかる大きな子供(そこまで言ってない)であることなど、カノンは百も承知なのだろう。
 まったく、末永く爆発しろ。


 やがて目指す海域に近付くと、遠くの波間に光る黒い背鰭が見え隠れし始めた。
 かと思うと、船はあっという間にイルカの群れに取り囲まれる。
 海面のすぐ下に見える、まるで船の影のような大きな黒い塊はマッコウクジラだろうか。
 他にも大きな影や小さな影、様々な形の影が遠くに見え隠れしているが、近付いてみないと種類の特定は難しそうだ。
「わー、ずいぶん人なつっこいんだねー」
 悩殺計画を阻止されたクリスは「だったら色気より食い気だー」と豪華ランチを目当てに乗り込んで来たクチだ。
 正直、それ以外のことは考えていなかった。
 しかし。
「え、なに? この企画、鯨さんとも泳げたりするの?」
 きらーん、瞳が輝く。
 好奇心が食い気に勝った瞬間だった。
「ああ、だが船が動いてるうちは危ないからな、もう少し先にある専用の海域に着いてからだ」
「でもミハイルぱぱ」
 あれ、とクリスは海面を指さした。
「へへーん、いいでしょー」
 見れば、あけびが水の上を走りながら得意げに手を振っている。
 さすがニンジャ、選んで良かった鬼道忍軍……今だけは!
「あけび、調子に乗ってると海に落ちるぞ」
「大丈夫ですよー、ちゃんと時間は計ってるし!」
 まるで小姑のように口を出す藤忠に、あけびはニヤリと笑って付け加えた。
「姫叔父も一緒に走りたい? 姫だっこしてあげようか!」
「遠慮する」
 寧ろ御免被ると、藤忠はデッキに備え付けられたテーブルに着いて赤ワインを一口。
「昼間から酒? 違うな、ワインなどアルコールのうちに入らん、ジュースも同然だ……と言っても未成年には飲ませんぞ」
 クジラより酒が良いとは言わないが、この景色を肴に飲むのも悪くない。
「クジラと併走なんて、やるじゃない!」
 デッキの柵から身を乗り出し、雪室 チルル(ja0220)がその姿を写真に収める。
「よっし! あたいもクジラに並んでいくよ!」
 船の上から見ているだけじゃ物足りない。
 今はこの船がクジラ達と併走している状態だから……甲板で足踏みすれば良いのかな?
 いや、さすがにそれは違う。
「そうだ!」
 閃いた! 召喚獣に乗れば良いんだ!
「あたいってば、あったまいい!」
 ではスレイプニルしょうかーん! そしてクライムで背中に乗る!
「いけーっ!」
 イルカとクジラを引き連れて、スレイプニルに乗った少女は水平線の彼方を目指す。
「どうよこの疾走感! やっぱりあたいは天才ね!」
 誰か、この勇姿を写真に収めて! この状態で自撮りは無理だから!
「わかりました、撮りますよー!」
 撮影係となったひりょはデジカメのシャッターを切る、切りまくる。
 なお召喚獣の効果時間は……
「え?」
 水上歩行の継続時間も……
「え?」

 どぼーん! ×2

 クジラのツルツルお肌に癒やされていたら、うっかり五分が過ぎてしまった!
「水着で良かったけど忍としては恥ずか……侍だけど!」
 うん、侍だから恥ずかしくない、多分!
「だから言ったのにな……」
 ぽつりと呟いた藤忠の言葉は、きっと耳には届いていない。
 無情にも船は二人を置いて去って行く。
 イルカとクジラ達までもがそれを追いかけて行ってしまった。
 海の真ん中にぽつんと取り残される二人。
「どうしようチルルちゃん、泳ぐ?」
「ううん、スレイプニルはもう一度呼べるわ!」
 再度しょうかーん、そしてクライム!
「あたいが引っ張ってあげるわ! このロープに掴まって!」
 水上歩行をONすれば、板なし水上スキーの出来上がり!
 そのロープはどこから出した、なんて突っ込んではいけない。
「チルルちゃんすごい! 頭いい!」
「ありがとう、もっと褒めてもいいわよ!」
 そして疾走!
「いっけえぇぇ!」
 あっという間に追い付くよ!


「見るだけではつまらん、鯨と泳ぐ!」
 船のエンジンが唸りを止めた直後、ミハイルは海に飛び込んだ。
「クリスと沙羅も来い、俺が受け止めてやるぜ!」
 両腕を広げて「かもーん」状態で波間に浮かぶミハイル、しかし船には水に出入りするための梯子やタラップが付いていた。
 よって、甲板からダイブなんてことはしない。
 まずは海面近くまで降りてイルカ達にご挨拶してから、ちゃぽん。
「鯨と泳げるなんて凄いわ……」
「ボク潮吹きで空中に飛ばされたりしたいー」
 危ないって?
 スキルの緊急障壁もあるから、怪我はしないよ……ね? ね?
「鯨さん、お願いできるかな」
 両手すりすり、小首を傾げてお願いのポーズ。
 すると、それが通じたのか――
 ざっぱーん!
 尾鰭で盛大に跳ね上げられた!
「飛ばされてる! 確かに飛ばされてるけど!」
 でも違う、そうじゃない!
 続いて豪快なジャンプからの、身体全体を海面に叩き付けるブリーチング!
 巨大な水柱に巻き込まれ、巻き上げられて、クリスの身体は再び宙を舞う。
 でも違う、これでもない!
「クリスさん、大丈夫ですか?」
「う、うん、大丈夫だよー」
 心配そうに声をかけた沙羅に、クリスは頭の周りにヒヨコをピヨピヨさせながら笑顔で頷いた。
 ぐらんぐらんしてるけど、なんだかクセになりそう……!

「章治とカノンも来いよ、泳ごうぜ!」
「えっ」
 ミハイルに誘われ、カノンは思わず固まった。
 どうしよう、泳ぐことは考えていなかったというか、こんな巨大な生き物は船の上から眺めるだけで充分な迫力だし、間近で眺めるだけで満足だった。
 しかしもっと近く、手が触れるほどの距離で一緒に泳げると聞けば、心が動かないこともない、けれど。
「カノン、泳げたっけ?」
 門木に問われ、頷くカノン。
 去年までは確か、泳げなかったはずでは。
「練習しました」
「くっ」
 先を越された、自分はまだ立ち泳ぎしか出来ないのに。
「でも、この場で泳ぐとなると多分クジラどころではなくなってしまうといいますか……」
 プールでなら泳げるし、下手ではないとの自己評価もあるが、海は勝手が違うだろうし、泳ぐこと自体に慣れていないし。
「しかし、ご一緒したのに誘いを無碍にするわけにもいきませんね」
 生真面目スイッチ、ON。
「決死の覚悟で臨ませていただきます……! もしも浮かんでこなかったら、その時は――」
「わかった、そうなる前に拾い上げてやるよ」
 そこまで悲壮な決意をしなくてもいいだろうにと、こみ上げてくる笑いを噛み殺しながら、門木が頷く。
「命綱でも付けておこうか?」
「いえ、それには及びません……多分」
 そしてカノンはガチガチに緊張しながら泳ぎ出す。
 その真上を飛びながら、門木は苦笑い。
「……あれ、クジラもイルカも全然目に入ってないだろ……」
 泳ぐことに集中しすぎて、他の一切が意識から抜け落ちている。
 これも一種のドジ属性なのだろうか。
 まあ、その様子を見て「可愛い」などとニヤけている門木も大概アレというか爆発しろ。

「ラルも一緒に泳ごうよ!」
 デッキの柵に寄りかかって皆の様子を眺めているラファルに、あけびが手を振る。
 水上歩行の効果は既に切れているはずなのに、あけびは水の上を滑っているように見えた。
 そればかりかチルルまで忍軍になったように見えるのは、二人ともクジラの背に乗せてもらっているためだ。
 が、手を振った拍子に足が滑る。
「あっ、おっ、落ちる、落ちおち……っ」
 助けを求めてチルルに縋り付くが、結局は二人まとめてどぼーん再び。
「あたいまで道連れに……!?」
「あはは、滑っちゃった! ごめんねチルルちゃん!」
 でもこういうのも楽しい!
 と、そこでふと思い出した。
「あ、ラルは海水だめなんだっけ?」
「いや、全く駄目ってわけじゃねーけど」
 ラファルは海が苦手だ。
 全身ほぼ機械の義体だから本来なら石の様に沈むしかないし、水中稼働限界は20分だし。
 だが20分もあれば上等か。
「よし、せっかくだから俺もドルフィンスイムって奴に挑戦するぜ」
 擬装解除水陸両用モード「ラッガイ」起動、ホバーモードでイルカと競泳、いや競走?
「わんぱく○リッパーってな具合で」
 古い?
 じゃあ海底少年○リンとか。
「あとは額に黄色いV字模様がある白いイルカとかいるか……いねーか」
 新しいところだと七つの海の○ィコ……え、それも古い?

「よし、俺も泳ぐぞ!」
 撮影係を一時中断し、ひりょも海に飛び込もうとしたけれど。
「やっぱり写真はたくさん残したいよね」
 というわけで、ワインを片手に皆を眺めているだけの暇そうな人に声をかけた。
「藤忠さん、お願いします! 使い方はわかりますよね!」
 なんとなく浮き世離れした雰囲気あるけど、まさか文明の利器に弱いとかそんな属性ありませんよね?
「当たり前だろう、俺を何だと思っている」
「ですよね、じゃあよろしく!」
 問答無用で押し付けて、海へドボン!


「ほんまは見せるだけやのうて、鯨やイルカのぬいさんあげられたらよかったんやけど……」
 青と水色で色分けされたサーフパンツ姿のいばらは、少し申し訳なさそうに言って海を指し示した。
「でっかいかも知れへんけど怖いもんちゃうし、な」
 怖がらないだろうかと反応を伺ういばらの心配をよそに、リコは柵から転がり落ちそうな勢いで身を乗り出し、目を輝かせている。
「うわぁ、すごぉい! リコ、本物のイルカさん見たの初めてだよ!」
「リコ、わかった、わかったから、そないしたら危ないやろ、落ちるで!」
 身体を支えてやろうと思っても、どこなら触っても許されるものやら……
 リコの水着はパレオの付いたピンクのセパレートタイプ、どこを触ってもセクハラになりそうで。
 いや、もちろんそんな下心はないけれど……ほんの、ちょっとしか。
「落ちたってだいじょーぶだよ、リコ泳げるもん」
 本当だろうか。
 どう見ても運動神経が優れているとは言い難いし、はっきり言ってしまえば、どんくさい。
 華麗に泳ぐ姿など想像できないのだが。
「でっかい鯨、怖くないんか?」
「うん、かわいい!」
 女の子の感覚は、よくわからない。
「ほな、一緒に泳いでみよか」
 返事より先に、いばらの身体は海の中に放り出されていた。
 慌てて海面に顔を出したところで、背中からリコの細い腕が絡み付いてくる。
「あ、でもやっぱり泳ぐのそんなに上手じゃないから、いばらんちゃんと支えててね?」
 押し付けられた胸は見た目よりもだいぶ成長している感触で。
「リ、リコ、それやったらうちよりもイルカさんに掴まらせてももらい、な? な?」
「やだー、いばらんがいいー」
 クスクス笑いながら、ますますしがみついてくるリコ。
 わざとか、わざとなのか。
 正直、もうイルカと泳ぐどころの騒ぎではなかった。


「泳ぎ、はしないけれど。まぁ、歩こうか」
 夏雄は水上歩行で海の上に立つ。
 足下ではユリアがクジラと、藍がイルカと戯れていた。
「鯨おっきぃ……」
 これは、なにクジラ?
「ミンククジラだね。そう大きいほうではないけれど……食べると美味いらしい」
 それを聞いて、ユリアの喉がゴクリと鳴る。
「……抱きついてもいいですか」
 いや、食べないから! ぎゅってするだけだから!
「いいですよね?」
 返事はないが、逃げないなら多分イエスと解釈して、ペタっと貼り付いてみる。
「みゅ、コバンザメの気分……?」
 それにしても、ミンククジラってミンクの毛皮みたいにもっふもふなのかと思ってたけど。
「ふつーのクジラ肌なんだねぇ−」
 一方、背鰭に特徴的な疵のある一頭のイルカと意気投合した藍は、ひたすら一緒に泳いでいた。
 一緒に遊ぼうと、イルカがボールに見立てたクラゲを鼻先でパスしてくる。
「あ、誘ってくれるのは嬉しいけど、ちょっとそれは……!」
 そうだ、確かビーチボールを持って来ていたはず!
「ちょっと待っててね!」
 急いで船に上がってボールを探し、再び海へ。
「ちゃんと待っててくれたんだね、いいこいいこ」
 鼻先を撫でて、ボールをパス。
 するとイルカは大喜びで打ち返して来た。
「は、ここは天国……?」
 しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎるもの。
 イルカ達の群れが少しずつ移動を始め、今日はそろそろお開きの時間だ。
「……またね」
 イルカの鼻先にキスをして、藍はそっと群れを離れた。


「あっという間だったわね!」
 チルルは遊んでくれたイルカやクジラ達に礼を言って、デッキに上がってきた。
 ずっと水に浸かっていたせいか、身体が妙に重たい。
 それに、おなかもぺこぺこだ。
「この船、何か食べるところはあるのかしら?」
「それならチルルちゃんも一緒にどう?」
 空きっ腹を宥めていると、あけいが声をかけてきた。
「このあと食堂で豪華なランチが食べられるんだ。誰でも自由だから、着替えたらおいでよ!」
 その誘いに二つ返事で乗っかったのは、言うまでもない。


「よし、最後に一泳ぎするか」
 ミハイルは名残惜しそうに、巨大なマッコウクジラに話しかける。
 と、クジラはいきなり頭を下に向けて潜水を始めた。
「なんだ、どうした?」
 エサのダイオウイカでも見付けたのだろうか。
 もしそうなら是非ともこの目で見なくてはと、ミハイルはすかさずそのヒレに掴まって一緒に潜り始める。
「心配ない、気絶する前には戻るさ」
 フラグっぽい台詞を吐いて、ミハイルはクジラと一緒にどんどん潜る。
 10mほど潜ったところで、クジラはその身体で何かを受け止めるようにクルリと回転したかと思うと、一転急上昇。
「お? お? おおっ?」
 海面がぐわっと盛り上がり、クリスの身体は再び上へ――ただし今度はゆっくりと。
 クジラの鼻先に乗っかるように高く上がったかと思うと、今度はそのままストンと落ちる。
 反動で尾鰭が持ち上がったかと思うと、ざばーんと何かを跳ね上げた。
「えっ、ボクじゃないよ?」
 クリスが首を振り、打ち上げられた何かを目で追う。
 それは宙を舞って、ドスンと甲板に落っこちた。
 ビチビチと跳ねる赤く巨大な魚、それをしっかりと抱え込んでいるのは――
「た、助かったのです……!」
 ザジテンだった。


 一泳ぎした後は、ゆったりとクルージングしながらのランチタイム。
 海面下にある食堂の窓からは、気ままに近付いたり離れたりするイルカやクジラ達の姿が見えた。
「ほんとに、ものすごく豪華ですね……」
 これを単なる手違いとして無料で食べられるなんて、まるで夢のようだと思いながら、ひりょは遠慮なく舌鼓を打つ。
 この腹に溜まる感覚は夢ではない。
 その代わり、後でびっくりするような額の請求が来たり……なんてこと、ないですか? ないですね?
 それなら遠慮なく、お代わりも頼んでしまおう。
「ワインと鮮魚のポワレはよく合うな」
「姫叔父ってばまた飲んでる、そのうちブクブク太ったおばさんになっちゃうよ?」
「待てあけび、誰がおばさんだ」
 藤忠はあけびの皿からオードブルをひとつ掠め取る。
「あっ、それ大事に食べようと思ってとっておいたのに!」
「それに俺は太らない、そういう体質だ」
 あけびの文句には耳も貸さず、藤忠は続ける。
「心配なのは章治だろう、幸せ太りしそうだぞ、あれは」
 さりげなく観察していて気付いたことがある。
「カノンと話す時だけ、言葉尻が妙に柔らかい。あれは無意識か、そうか、可愛いな」
 それにミハイルも危ない。
 沙羅はどうやらこの豪華特製ランチの味付けを盗むつもりでいるらしい。
 特にミハイルが美味いと言って喜んで食べているものは入念に味わって丹念に分析しているようだ。
 恐らくこの料理の数々が日常的に食卓に並ぶ日は近いだろう。
 がんばれミハイル、メタボとの戦いは熾烈を極めるぞ。
「はー、おなかいっぱい☆ 美味しくいただきました(げふっ」
 クリスはもう少し、レディの嗜みというものを身に着けたほうがいい、気がする。



●焼いて、焼いて、また焼いて!

 天宮 佳槻(jb1989)は、臨海学校に参加してみたものの、暇を持て余していた。
 これといって、やりたいことが見当たらないし、思いつきもしない。
 現地に行けば何かしらあるだろうと思ったが、それは多分に希望的な観測だったようだ。
 ふと、どこか遠くから祭り囃子が聞こえてくる。
「どこかで祭でもやっているのか」
 その音に誘われるように、佳槻はふらふらと歩き出す。
「祭りと言えば、普段は屋台を出すか警備の手伝いをするかだったからな」
 たまには違う楽しみ方をしてみるのも良いかもしれない。
「今回はゆっくりと屋台を冷やかして回るか」
 ただ、まだ午後も早い時間帯だ。
 本格的に賑わい始めるのは陽が暮れてからのことになるだろう。
 今のうちに下見をして、何の屋台がどこにあるか、それぞれの値段やサービスの質を調べておこう。
 そうすればいざ自分が遊ぶ時に迷わずに済むし、悪質な業者にぼったくられることもないだろう。

 ところが、会場は既に多くの人で賑わっていた。
 家族連れやカップルの姿がやけに目立つ。
 耳に聞こえる言葉に様々な地方の方言や外国語が混ざっているのは、見物客の殆どが観光で訪れているせいだろう。
 水着にシャツを羽織っただけの格好で歩いている者、きちんと浴衣を着こなしている者――佳槻のように普段着のままで歩いている者。
 人波を縫うように歩いて、屋台を端から冷やかしていき――

 気が付いたら設営の手伝いをしていた。
 どうしてこうなったのだろう。
 いや、わかっている。
 ふと見かけた屋台の手際の悪さに、思わず手が出てしまったのだ。
 周囲は全て、とっくに営業を始めているのに、その店だけがモタモタと手間取っていた。
 聞けばいつもは全ての手はずを整えてくれる相棒が急病で来られなくなったとのこと。
 そんな話を聞いてしまったら、そのまま素通りすることは出来ない。
 どこまでも「ただ遊ぶ」事が苦手な体質だった。

 設営を終えて、軌道に乗るまではと売り子も買って出て、ついでに商売のコツを伝授してみたりして――気が付けば、もう夕暮れも近い。
 手伝いの礼だと、大きなスイカと日本酒を渡されたものの。
「流石にスイカ一個丸ごとは食べないし酒は飲むわけにはいかないし……」
 こう見えても未成年である。
「スイカ割りを楽しむ時間でもない……そう言えば、今日は海岸でBBQをやると聞いたな」

 というわけで、BBQ会場の傍らにシートを広げ、日本酒と紙コップ、切ったスイカを並べてみた。
 砂に『ご自由にどうぞ』と書いた立て札を差し込んで……さて、誰か来るかな?
「まずはヒリュウにお運びを手伝わせるか」
 あれ、このパターンはいつもの。
「……結局またこうなるのか。別にいいけど……」


 買い出しから戻った歌音は火を熾し、まずは大量の米を炊いていく。
 出来上がったものは酢飯にして刺身と合わせて海鮮丼に、最初から魚介類と一緒に炊きあげてパエリアを作ってもいいだろう。
「手軽に食べられる焼きおにぎりも作っておくか」
 そして大群で押し寄せるであろう欠食児童共に供するため、肉や野菜の下拵えをして。
 そろそろ狩猟採集班が獲物を持ち帰る頃合いだが、何が持ち込まれても美味しく調理する自信があった。

「これ、ザジが調達したのか、凄いな」
 焼き網から軽くはみ出るサイズの巨大な鯛の尾頭付きを見て、快晴が驚きの声を上げる。
「はい、頑張ったのです! なんといってもお祝いですから!」
 派手なアロハシャツとジーンズに着替えたエプロン姿のザジテンが、ひっくり返りそうなほどに胸を張る。
「門木先生とカノンさん、フミカ姉さまカイ兄さま、ご結婚おめでとうございます!」
「えっ、ちょっと待ってザジ」
 そこで文歌から待ったがかかった。
「私達、まだ……」
「うん、正式には、来月の予定」
 あれ、ちょっとフライングだった?
「でも、ありがとう。正式にはまだだけど、気分的には……ね、カイ?」
「んみゅ」
 だから問題ないし、お祝いは早いほど良いとも聞くし。
 なお波間に漂っていた手桶は、近くで漁をしていたツートップディバインが拾って届けてくれました。親切!
「あっ、今日は僕がお祝いをするのです、だから奥様はどっしり構えててくださいですよ!」
 自分達が祝われていることは理解しつつも、つい手伝いの手を伸ばそうとするカノンを、ザジテンが押しとどめる。
 が、実際に手を引っ込めるまでにはたっぷり1ターン。
 どうやら「奥様」が自分を指していることに気付くまでに時間がかかったようだ。
「フミカ姉さまも、手を出したらだめなのです」
 大丈夫、コツは本とネットで調べた!
 ただし、巨大な鯛の尾頭付きの焼き方は載ってなかったけど……多分なんとかなる、多分。

 その傍らでは、別のコンロからもうもうと煙が上がっていた。
「いっぱい食べてくださいね」
「おう! 動きまくった分ガンガン食うぜ!」
 光は戦利品の数々を、焼き上がったそばから腹に流し込んでいく。
 生焼けでも構わず流し込む。
 必然的にるりかは焼き担当、食材をさばいて串に刺し、垂れやソースで味付けして網に乗せ……
「光坂も遠慮しないでジャンジャン食えよ!」
 いや、遠慮しているわけではないのだけれど。
 光の豪快な食べっぷりを眺めているほうが楽しくて。
「すごい顔ですよ?」
 口の周りから頬に至るまで派手に飛び散ったタレを、るりかは手拭いで拭いてやる。
 が、それはまたあっという間に元の木阿弥で。
 気取った席でもないし、もうこのままでいいかな。

 海から上がって浴衣に着替えた翔は、風に漂う煙の匂いを嗅ぎ付けて鼻をヒクヒクさせる。
「ねえねえ、あっちでバーベキューやってるよ! たべにいこう!」
 シグリッドの服をぐいぐい引っ張ってみる……が、お兄ちゃんは何となく動きたくなさそうで。
「じゃあぼくひとりでいっても――あっ、ひとりじゃない!」
 ともだち発見!
「シオン! ドウメキのにーちゃん! あと……きんにくのひとー!」
 そして一緒にBBQの会場へ。
「いっぱいたべるよ! だって、たべないと大きくなれないもん!」
 良い大人になるためには良く食べないといけないのですと、翔は羨望の眼差しをダルドフに向ける。
 目指せ、むっきむきの大胸筋!
 あの筋肉はきっと、嫌いなものも頑張って食べた結果だと思う。
「だからぼくも、ピーマンがんばってたべるよ!」
 お肉で挟んで目を瞑って食べれば何とか!
 それでも涙目になるけど、これも未来の筋肉のため!
「シオンもすききらいしないで、いろいろたべないとむっきむきになれないよ!」
「おれはだいじょぶでさ、きらいなもんはムリして食べなくても、ちゃーんと大きくなれやす」
 根拠のない自信、だが確かにすくすく育ってはいる――もう少しゆっくりでもいいのにと、大人達はつい思ってしまうのだけれど。
「いやですよ翔サン、これ以上俺の周りに筋肉ダルマを増やさねぇでください」
 溜息混じりに言った揺籠の言葉は、まんざら冗談でもないような。
「きひひ、みんながムッキムキになったら、兄さんおひめ様ポジションですからねぃ」
 遠慮なくお姫様だっこされるといいよ!
 たくさん食べて、最後の仕上げに「どうぞ」と書かれてあったスイカにかぶりついて。
「タネのとばしっこするよー!」
 そろそろ眠くなってきたけど、まだ頑張る。
 楽しいことがいっぱいで、寝てなんかいられないから!

「……うに、美味しいね」
「カイ兄さま、それはウニじゃなくてアワビなのです」
 え、わかってる? そういう意味じゃない?
 そんな会話を楽しみながら、ザジテンは自分もめいっぱいお腹に詰め込んでいた。
 焼おにぎりを片手に、自分で獲ったものや誰かが獲ってきたもの、肉や野菜もどんどん食べる。
「今日はいっぱい運動したのです」
 鯛に引きずられた時は死ぬかと思ったけど、見知らぬマッコウクジラさんが助けてくれました!
「やっぱり海は良いです……!」

 そうしている間にも、歌音は新しい食材を次々に焼いていく。
「俺も手伝おうか」
 海の手も借りて、どんどん捌いてどんどん焼く。
 焼魚に貝のバター焼き、鮮度が落ちないうちに手早く手際よく。
「フードパックも用意してあるから、食材は残さず全部使い切るように」
 一度火を通しておけば日持ちもするし、ものによっては土産にもなるだろう。



●花火!

「テリオスさん、あなたが女性なのは知ってますよー」
 突然の、そして衝撃の告白だった。
 アレンの口からその言葉を聞かされたテリオスの顔色は青を通り越して白くなり、次いで真っ赤になった。
 口をぱくぱく開けて何か言っているようだが、全く言葉になっていない。
 その動きを見るに、どうやら『貴様、何故それを!?』と言っているようだが――
 ということは。
「ああ、やっぱりそうだったのですねー」
 ごめんなさいカマかけました。
「でも誰にもいいませんから安心して下さい♪」
 ぱくぱくぱく、テリオスくん……いや、テリ子ちゃん未だ酸欠の金魚状態。
「事情は訊きません、誰にでも人に言えないことのひとつやふたつはあるものですからー」
 いつか話したいと、聞いてほしいと思うようになったら、その時は存分に聞きましょう。
「それはそれとして、せっかくですから今は女の子のお洒落楽しんでみませんかー?」
 ほら、綺麗な浴衣もあるし、メイクやウィッグで別人にできますよ?
 誰かに弄られて困っているなら、逃げるついでにいかがですかー?
 え、一番弄ってるのは私ですか?
「絶対に、ぜっっっったいに、誰にも言うなよ! 言ったら殺す!!」
「言いませんよー」
「馬鹿兄貴は!?」
「もうとっくに気付いていらっしゃいますねー?」
 それを聞いて、テリオスは頭を抱えてへたり込んだ。
「あいつにだけは、知られたくなかった……!」
 普段は鈍いくせに、どうして妙なところでこう鋭いのだろう。
「それで、どうしましょうー?」
 にこにこと浴衣を捧げ持つアレン。
「……責任、取れ」
 テリオスは腹の底から響くような声で言い放った。

「テリオスさん、遅いの……」
 りりかは空の具合と時計を気にしながら行ったり来たり。
 一緒に花火を見ようと待ち合わせたその場所に、テリオスの姿はない。
「どこかで迷子になっているのでしょうか……」
 きょろきょろとあちこちを見渡すシグリッド。
 しかし、二人とも気が付いていなかった。
 実は彼……いや、彼女が先程からずっと目の前にいることに。

『奴等、全然気付かないな』
 ひそひそ。
『それはそうでしょうー、渾身のメイクですからー』
 こそこそ。
 意思疎通で会話を交わす、美女二人。
 片や淡い緑色の髪を結い上げ、紺地に目の醒めるような鮮やかな青い乱菊が大胆に散る浴衣。
 片や金色の髪をゆるく纏め、黒地に花火のような黄金の曼珠沙華が散るゴージャスな浴衣。
 頭にはそれぞれの花をモチーフにした髪飾りが揺れている。
 緑髪のほうは美女と言うより可愛いと言ったほうが良いかもしれない。
 だがその立ち居振る舞いは、男の子が無理やり女装をさせられたようで……
『テリオスさん、足はもっと内股に歩幅は小さく、肩は無理していからせなくてもいいのですよー』
 もっとこう、ひとつひとつの動作を柔らかく……と言われても、染みついた男の所作はそう簡単に抜けてはくれない。
『アレン、お前のほうがよほど女らしいぞ』
 どうやったらそんなに違和感なく馴染めるのだろうか。
『やはり私は普段の格好がいい』
 疲れた。
『そうですねー、少しずつ慣らしていきましょうかー』
 テリ子ちゃんを可愛くしよう計画第一弾、これにて終了!

「あっ、テリオスおにーさん……!」
「遅かったの、ですね……?」
 何かあったのかと心配したけれど、無事でなによりと、待っていた二人は胸をなで下ろす。
「……すまん」
 実はずっとすぐ近くにいたんだけどね?
「えっと、テリオスおにーさん紺色とか似合いそうです……好きな色とかありますか?」
「べつに、なんでもいい。好きにしろ」
 あれ、今日はずいぶん素直と言うか投げやりと言うか。
 まあいいや、お言葉に甘えて好きにさせてもらいますね!

 どーん!
 遠くに聞こえた音に腹の底を揺さぶられ、翔はぼんやりと目を開けた。
「あれ? ぼく……」
 いつの間に眠ってしまったのだろう。
 気が付けばそこはシグリッドの背中、どうやらおんぶしてもらっているようだ。
「あ、起きたのです?」
「ん……はなび……?」
 寝ぼけ眼を擦って、指さされた方角を見る。
 今いる海岸から岬を回った向こう側に大きな花火が上がっている。
「あたしたちも花火をしましょう……です」
 桜色の浴衣に身を包んだりりかが大きな包みを差し出した。
 背中から降りて中を覗き込んでみると、形も大きさも様々な花火がぎっしり詰まっている。
「わぁ……っ! ねえねえ、はやくやろう!」
 眠気も吹っ飛んだ翔は大はしゃぎ、待ちきれないように目をきらきらさせて、見えない尻尾を振っていた。
 シグリッドはグレーの絣、テリオスは紺絣、それぞれに浴衣を着て、打ちあがる花火を遠目に線香花火や手持ち花火を楽しむ。
「どちらの花火も綺麗なの、ですよ」
 ソフトなものを選んで買って来たから、きっと大丈夫。
 これならトラウマにならない、ですよね?


 少し離れたところでは、いばらとリコが線香花火を楽しんでいた。
 いばらはその名の通り、いばらが鎖のように絡み合った柄の紺色の浴衣。
 リコはいつものツインテールをぼんぼりにまとめ、白地にピンクのバラが咲いた可愛い浴衣姿だ。
「手元、あんま揺らさんようにな?」
 リコにはそう言っておきながら、いばらの手元は揺れまくっていた。
 この前は不意打ちでキスされてしまったし、昼間はやっぱり不意打ちで抱き付かれたし、どうにも主導権を握られっぱなしだ。
 これではいけない、今度こそ自分から……
「あっ」
 ぽとりと火玉が落ちる。
「あっけないもんやね」
「今のはいばらんが揺らすからだよ?」
 それは、そうだけれど。
 線香花火は、どうしてこう人を感傷的にさせるのだろう。
「花火みたいにすぐに燃え尽きるようなんはいやや」
 その心配は、以前に比べれば低くなったと思うけれど。
「リコも消えんといてな」
 よし、今がチャンスだ。今度こそ自分から――
 しかし。
「もー、いばらんの心配性!」
 リコはいばらの頬に素早く口付けをして、ぱっと立ち上がった。
「湿っぽくさせたお詫びにアイスおごってくれる? 三段重ねのがいいな!」
「え、あ……うん」
 ああ、また負けた……っ!


「夏はやっぱり花火だよな!」
 貸衣装屋で浴衣を借りたひりょは、ついでに大量の花火を買い集めて来た。
 去年は花火をした記憶がない……自分が花火になった記憶はしっかりと脳裏に刻まれているけれど。
 だから今年は、今年こそは、花火を「する」側に回るのだ。
「堪能するぞ!」
 とは言っても、ひとり花火ほど虚しいものはない。
 大人になってから花火をやりたいと思っても、ダシにする子供もいなければ一緒に騒ぐ仲間もいない、かといってひとりで遊んでいたら「可哀想な人」だと思われてしまう。
 けれど花火はやりたいし、財力だけはそれなりにあるから、いつかやろうと大きなセットを買い込んで――そのまま部屋のインテリアに。
 そんな経験はないだろうか。
 しかし今なら、呼びかければノリの良い仲間が集まってくれる筈だ。
「みんな、花火やろうよ!」
 なるべく大勢、釣れますように……!


 岬を回る海岸線を歩くザラーム・シャムス・カダル(ja7518)の瞳に、色とりどりの光の輪が映る。
「ほれみぃカーディス、夜空に咲く大きな花じゃなぁ」
「ええ、本当に素敵ですの!」
 並んで歩くカーディス=キャットフィールド(ja7927)は本日、猫ではない。
 いつものもふもふ黒猫着ぐるみは、クリーニングに出してある。
 昼間は着ぐるみを着たまま海で遊んでいたのだが、それはやはり無謀だったようだ。
 水を含んで重くなった着ぐるみは立派な凶器である、これ大事。
「久々に生命の危機を感じましたの(もふ」
 そんなわけで、今日はヒトの着ぐるみを着て……いやいや、中の人が表に出た状態で活動していた。
 そう言えば、ザラームと行動を共にする時には何故かこの「中の人モード」が多いような気がするけれど、それはただの偶然だろうか。
(「不思議なのです」)
 端から見れば不思議でも何でもない、それは明らかに、恋。
 しかし黒猫忍者に女心はわからぬ。
 中の人も、やっぱりさっぱりわからない、スキル鈍感のエキスパートだった。
 とは言えザラームのほうも恋には疎く、自分が絶賛片思いまっしぐらの乙女であるという自覚がない。
 どっちもどっち、似たもの同士。
「ザラームさん、今日はお誘いいただきありがとうございます。浴衣とても良くお似合いですよ」
 普通ならそれは受けてによっては口説き文句と受け取られかねない言葉。
 しかし言ったほうは文字通り何の含みもない事実を述べただけのことで、受け取ったほうもただ真っ直ぐに解釈していた。
「うむ、おぬしもなかなかの男前じゃのう」
 ザラームの浴衣は闇のような黒に、絡み合う運命の歯車が描かれ、そこに太陽光線のような金色の筋が放射状に走っている。
 カーディスのほうは黒無地に猫の瞳のような金色の帯。
 どちらも夜の闇に溶け込んでしまいそうだ。
 歩を進めるごとに、空を覆う花火が少しずつ大きく見えてくる。
 まだ遠いうちは目に映る花火の後を追いかけるように「ドーン」という音が響いていたが、今では目と耳に殆ど同時に届いていた。
「これが風情というものなんじゃのう」
「迫力がありますね」
「うむ、てれびで見るよりずっと良いものじゃな」
 風に乗って硝煙の匂いが流れて来る、これもテレビでは味わえないものだ。
 やがて腹に響く余韻を残して打ち上げ花火が終わりを告げると、辺りは反動のようにしんと静まり返った。
「ふむ、このまま宿に帰るのも何か惜しい気がするのう」
「そんなこともあろうかと」
 カーディスが懐から何やら高級そうな桐の箱を取り出す。
「なんじゃ、それは。朝鮮人参か?」
「そうではありませんの。線香花火用意してまいりましたの」
 しかも高級品!
「おぉ、それは良いのう」
 どれ、さっそく試してみようか。
 波の音を聞きながら、ぱちぱちと爆ぜる線香花火の儚げな光に見入る。
「ふむ、打ち上げ花火の派手さも良いが、これもまた風情じゃのう」
 しかもさすがは高級品、火玉は粘りに粘ってなかなか落ちようとしない。
 それでも、やはり力尽きる時は来る。
「夏が終わるのう。茹る様な暑い季節も過ぎてみれば寂しいものよ」
「そうですね少し寂しいですね。残り少ない夏をめいっぱい遊んで思い出作りま……」
「へっくし!」
 あれ、ザラームさん風邪ですか?
「ニャハハ、ほんに急に冷えるのぅ」
 ぶるると身体を震わせて両腕を抱え込むようにさすったザラームは、そっとカーディスに身を寄せる。
「困りましたね、いつもの着ぐるみならもふもふで暖かいのですが」
 違うそうじゃない、物理的な暖かさを求めているわけではないのだ――とは気付かない朴念仁。
 そして残念なことに、ザラーム自身もそれに気付いてはいなかった。
「そうですの、これを……」
 カーディスは猫の時に巻いているストールを取り出して、ザラームの肩にかけてやった。
「うむ、カーディスの匂いがするのう」
 それを聞いて、カーディスは青くなった。
 きちんと洗ったはずなのに、洗い残しがあったのか。
 これは匂い汚れにも効くという洗剤の購入を検討すべきか。
 いや、その対応も多分、「違うそうじゃない」だと思います――


 静かな波が寄せては返す波打ち際に、四つの足跡が続く。
 ケイ・リヒャルト(ja0004)と藤村 蓮(jb2813)は、手を繋いで夜の砂浜を歩いていた。
「同じ海なのに、昼と夜とではこんなにも表情が違うのね……なんだか、不思議」
「ああ、夜の海は神秘的だねぇ」
 顔を上げれば、夜空には打ち上げ花火が咲き競っている。
 だが、それ以外には明かりが殆どなく、水平線に目をやればどこまでが海でどこから空が始まるのか、曖昧で区別の付かない闇が広がっている。
「このまま海に向かって足を踏み出したら、あの闇に飲み込まれてしまいそうな気がするわ」
 少し怖くなって、ケイは握った手に力を込めた。
「大丈夫、俺が付いてるよってねぇ」
 そう言って握り返した手の温もりを、大切な人が隣に居ることを、ケイは幸せに思う。
 花火に見惚れ、その光に照らされた蓮に見惚れ。
「さて、花火でもやるかねぇ」
 打ち上げ花火を借景に、手元の花が咲き誇る。
 他には人影もない浜辺で、二人きりの時間――



●掘る!

 一日目、宿に着いた早々。
 臨海学校だというのに海には目もくれず、逢見仙也(jc1616)はひとり山へと入って行った。
 適当な場所を掘る、ひたすら掘る。
 べつに源泉を探り当てたわけではないらしい。
 水脈でもなさそうだ。
「いや、穴掘って石縛風やらで固めてしまえば何も無くとも水引いて炎焼で湯出来るし」
 それ、温泉とは言わないのでは……え、もちろんただの風呂だって?
「でもこの辺りは大体どこを掘っても温泉が出るって聞きましたけど……ほら」
 あ、ほんとだ地面から湯が湧いてきた。
 それはそれで良いとしても、八卦石縛風の石化は3ターンしか保たないんだけど。
「だったらビニールシートでも敷きますか」
 いいのか、それで。
「最終的に、風呂に浸かれれば良いんです」
 というわけで、出来ましたマイ温泉。
 お供はティアマット、ヒリュウ、スレイプニルと交代で。
 ストレイシオン? 知らない子ですね。
 ゆっくり浸かって暖まり、労働の汗を流した後はティアマットを相手に体術の練習。
 おかしい、これは臨海学校だった筈なのに、いつのまにか林間学校になっている……?


 温泉街に新しい名所が出来た。
 その名も『アキぺんぺんの湯』と『らっこの湯』、隣り合わせに作られたカスタムメイドの温泉だ。
 アキぺんぺんの湯はペンギンの形をした温泉で、ペンギンがすいすい泳いでいる。
 効能は特にないが、ペンギン好きには癒やし効果抜群だ。
「良いお湯なのですよぅ☆」
 らっこの湯はラッコの形をした温泉で、こちらにはラッコがのんびり浮かんでいた。
『この温泉良くあったまるよ!』
 腹の上に置かれたホワイトボードには、そう書かれている。
 なんでも効能は冷え性改善だそうだ……ラッコが掘っただけに。
 あ、それなら隣同士なんだからアキぺんぺんの湯も効能は同じだろうとか、そういうツッコミはなしでお願いします。


 夏雄は掘っていた。
 無心でひたすら掘っていた。
 そう、私は温泉掘りマシーン。
 機械に感情はいらない、目的もない。
 ただ、時折ヒトに戻って思い出す……いや、思い出せない。
「あれ? 何を掘っていたんだっけ? ……埋蔵金?」
「「温泉だよ!」」
 両側のユリアと藍からステレオでツッコミが入った。
「あー、そうそう、温泉」
「ガテン系で掘りまっしょぃ☆」
「寝そべって入れるようなのが良いよね」
 掘って、掘って、温泉が湧き出て来たら形を整え、小石を敷き詰めて。
「出来たー!」
 なお目隠し等を設置する余力はないので、入浴は着衣のままで。
「ジャスミン精油でアロマバスだよー」
 プルメリアも浮かべようね、すごく良い香りがするんだよー、ただし樹液には毒性があって目や皮膚に悪いって聞いたけど、撃退士なら多分きっと大丈夫!
 そして三人で川の字に寝そべって。
「気持ちいい……横になってお風呂って最高……(うと」

 そして夜、ユリアと藍は温泉で寝ていたから眠くない。
 こんな時こそ女子トーク!
「あれ、なっちゃんは?」
「夏えもんはもう寝ちゃってるねぇ」
 夏雄も温泉でぐっないしていた筈だけれど、温泉掘るマシーンしていたから、よほど疲れたのだろう。
「そっとしておいてあげようー」
「うん、じゃあ何を話そうか……」
 やっぱりここは恋バナかな!
『……怪談だろ……(ぐぅ』
「なっちゃん?」
「寝言だね……」
 では気を取り直して。
「ユリもんにしつもーん、若さの秘訣って?」
『……規則正しい生活とバランスの良い食事……(ぐぅ』
「じゃなかった、仲の良さの秘訣ってなぁに?」
「そうだねー、お互い遠慮しないで甘えるのが大事☆」
「そうかー、うん、そうかも」
 オープンな関係って大事だよね。
「藍ちゃんは気になる人いないの?」
「……うん、いる、かな」
 あれ、頬じゃなくて眼元が赤くなってる。
 もしかして訊いてはいけない質問だったのだろうか。



●肝試し!

 夏の夜は長い。
 いつまで経っても気温が下がらず寝苦しい夜には、いっそ寝るのを諦めてしまうのも手だ。
 そんな時こそ肝試し、ゾクゾク涼しくなって気持ちよく寝られるかもしれない――気絶とも言う、かな?

 ただでさえ「出る」と言われているその一帯には今、大勢の脅かし役が潜んでいた。

「脅すぜー、出ると言われている幽霊だって脅しちゃうぜー」
 ラファルは光学迷彩で姿を隠し、獲物を待ち構える。
「来るやつ全員にちびらせるぜー」

 仙也は格闘大好きティアマットを伴って、パワー系の脅かしプランを立てていた。
「手加減? 遠慮? 運動会の様にダメージを与えない様にも、前回みたく一般人が居る訳でもないのに?」
 知らない子ですね?
「ええ遠慮なく脅かしますよ、トーチ魂や創造なんかだけでなく竜の咆哮も唄も自重しませんとも」
 邪魔するなら戦闘も辞さない覚悟ですので、そこんとこよろしく。
 もっとも自分が矢面に立つことはないけれど。
 だって召喚獣がいるのに、ねえ?

 小梅の得物は釣竿の先に糸でぶら下げたコンニャク・ザ・古典!
 木陰に隠れて待ち伏せて、肝試しルートに来た人にベチャッとやって脅かすのだ。
 古典、それ即ち王道。わかっていても誰もがビビる、シンプルで確実な方法だ。
「いたずらっこ、世にはばかるなのぉ!」

 遠泳のダメージから復活した湊は、いくぶんかやつれた様子でふわりと立っていた。
 スキルを駆使して周囲の体感温度を下げ、何かが出そうな空気を作り出す。
 白い着物を羽織ってふわりと宙に浮けば、立派な幽霊の出来上がりだ。


 そして、カモがやって来た。
「こ、ここ今年こそびびらねぇおれ様ってのを見せてやりやすよぉおおお」
 紫苑の手には除霊用ファ○リーズ。
 前に効かないって言われた気もするけど、ものは試しって言うじゃない。
「い、言っときやすけど、お、おれがびびってるからじゃありやせんぜ! に、兄さんを守るためでさ!」
「それはそれは、お気遣い痛み入りやすねぇ」
 ニヤニヤ笑いながら、揺籠は紫苑の隣を歩く。
「紫苑サン震えてますぜ、手ぇ繋ぎますかぃ?」
「だ、だれがふるえてなんか……っ、ムシャブルイってやつでさ!」
 がくぶる。
「そういや、あの旅館にも何か出るって噂、聞きやしたぜ? まあ何か曰く付きでもなきゃ、今時朝食付きであの値段なんて……」
 その時、遠くから獅子の咆吼のような声が聞こえた。
 ぴたり、足を止める。
「あーここは出そうですね、出そうでさ」
 木々の間にぽうっと明かりが灯り、それが二つ三つと、まるで林の奥へ誘うように増えていく。
 そこに現れたのは――
「う〜ら〜め〜し〜や〜〜〜」
 なんとも古典的な表現とともに、女の幽霊が……
「ぎゃあぁぁゆきおんなぁぁぁっ!!!」
 ○ァブリーズぶしゃあぁぁっ!
「うわっ、く、くさっ!」
 強烈な芳香にたじろぐ幽霊、しかし!
「って言うか誰が雪女だっ! 僕は男だ!」
 別の意味で怨めしい。
 すっ飛んで逃げた紫苑の前に、ラファルが現れた――と思ったら、その頭に角が生え、口は耳元までパックリと裂け、目が真っ赤に染まる!
「ぎゃあぁぁぁっ!」
 ファブリー○をぷしゃーしながら夢中で逃げる紫苑、鳥目の揺籠はその姿を見失う!
 果たして二人の運命や如何に!?

「大丈夫です」
 幽霊なんか怖くないと根拠のない自信と確信をもって、浴衣姿のマリーは肝試しに挑む。
「だいたい幽霊なんて非科学的なものが存在するはずがないのです」
 だから、出て来るオバケは全部ニセモノ、脅かし役が化けているに違いない。
 そうとわかれば怖くなんか……怖く、なんか……
「誰もいないのに、誰かが私の袖を引いてます!?」
 あ、木の枝にひっかけただけでした。
 呼吸を整え、更に奥へ。
「大丈夫、大丈夫」
 あれ、なんかちょっとひんやりしてきたけど、気のせいかな。
 そこに忍び寄るコンニャク・ザ・古典!
 しかし狙いが外れて素通りし、戻って来たところで小梅の顔面にべちゃ!
「きゃっ!?」
 その声に、マリーは思わず飛び上がる。
「い、今のは……なな、なんでしょう……?」
 高鳴る鼓動、そこに――
 ふわりと現れた雪女!
「ひーーー!」
「だから誰が雪女だ!」
 しかしその声もマリーの耳には届かない。
 そう、強がってはいたけれど、実は元来ビビりだったのだ。
 逃げるマリー、しかし行く手に立ち塞がる何体もの幽霊達の姿。
 それはよく見れば仙也が木の幹にスケッチで描いた幽霊の絵と、枝の間に置かれたトーチの人魂だった。
 しかしビビリまくっているマリーには見極める余裕などない。
 走って走って、気が付いたら林を抜けて、砂浜に出ていた。

「あれ、紫苑サン? 紫苑サーン!」
 紫苑とはぐれた揺籠は、目印のように置かれた誘導灯(?)に添って歩いていた。
「これが人魂ですって? そんなことあるはずねぇでしょ」
 とりあえず、冷静である。
 と言うかこの際、明かりなら何でもいい。
 しかし、そんな時こそ意外な不意打ちが効果的だったりするものだ。
 すー、ぴた。
 揺籠の首筋に何かが貼り付く。
 何事かと思って振り向くと、そこには何の気配もない。
 と、また別の方角から何か冷たいものが触れてくる。
 次は尻に……ひたっ。
「ちょ、何なんですかぃ!?」
 誰かの悪戯か、それとも変態か。
 気配を探っても、そこには誰もいない。
 流石に少し気味が悪くなってきた。
 その目の前に現れる、半透明の髪を振り乱した女の姿。
「え、まさか……本物、なんてことは……」
 更に、何をどうやってか、それをおやつ代わりに食べちゃうガブフェイス!
 もひとつ駄目押し、項へのコンニャク攻撃が決まる!
「ぎゃあぁっ!」
 飛び上がった揺籠は一目散、なりふり構わず走り出す。
 そして、どーん!
「兄さん!?」
「紫苑サン、無事だったんですかい!?」
「それはこっちのせりふでさ!」
 帰ろう、もう帰ろう、もう充分だ。
 でも帰り道、どこ?

 砂浜にテントを張った明斗は北国の自然を満喫していた。
 今夜は年に一度の流星群が極大期を迎える。
 それを見るために、昼間の行事はセーブして余力を残しておいたのだ。
 テントの前に望遠鏡を設置し、登山用コンロで珈琲を入れ、ゴロ寝用のシートを敷いて、準備は万端。
 あとは待つだけだ。
「流星群は、そろそろかな?」
 しかし、現れたのは――
「ひいぃぃぃーーーーー!」
 真っ暗な砂浜を鬼気迫る勢いで駆けてくるひとつの影。
 それは一直線に明斗のもとへ近付いてくると、流れ星のような勢いでタックルをかまして来た!
 どすーーーん!
「ぐほ……っ! え、マリーさん!?」
「怖かったです」
 へにょーん。
 マリーは明斗にしなだれかかるように、だらしなくしがみつく。
 ボンキュボンの我儘ボディはなかなかに刺激的だが、自然大好きっ子の明斗はそんなことより空模様が気にかかる様子。
「せっかくですから、一緒に観察しましょうか」
 何がどうしてここに飛び込んで来たのか、よくわからないけでど、これは天体愛好家を増やすチャンスかもしれない。
 明斗は一生懸命に星座や星のレクチャーをする。
 しかしマリーには、それが良い感じの睡眠導入剤となったようで……気が付けば熟睡していた。
「仕方のない人ですね」
 苦笑いをしつつ、明斗はマリーをテントの中に寝かせてやる。
 さあ、今度こそ観測開始だ。
 寝転がって夜空を見上げると、大きな火球が流れ去るのが見えた。
 他にもいくつか、小さな星が流れては消える。
 それを映す明斗の瞳は、少年の様に好奇心に満ちていた。



●最終日!

 一晩中飽きもせずに夜空を見上げていた明斗は、眠い目を擦りながら手近な宿の温泉へ。
 マリーはまだ寝ている、と思ったら、いつの間にか起き出していたらしい。
 その姿は既に、温泉の湯船にあった。
「朝風呂は最高の贅沢です」
 これで熱燗でもあればなお……いやいや、まだまだ未成年でした。
 そこへ、カラリとガラス戸が開いて小さな人影が現れる。
「日やけしてないと思ったのに、なんだかピリピリするのよ」
 その声は小梅か。
 どうやら油断して日焼け対策を怠っていたらしい。
「おふろ、入ったらいたいよねぇ?」
 どうしよう、ここまで来たけどやめようかな。
 しかし、湯気の中から現れた影が、胸と両手で小梅の身体をがっちりホールド、問答無用で湯船に引きずり込んだ!
「一緒にはいりましょです」
「きゃあぁぁぁ!?」
 どぼーん!
 あ、痛い痛い痛い!

「女湯は賑やかだな」
 湯船に浸かりながら、海は壁の抜こうから突き抜けて来る声に苦笑い。
 男湯のほうは人数こそ多いものの、静かなものだ――と思ったら、ガラス戸が開いた途端に「ざわっ」という声にならない声が広がる。
「え、うそ……女!?」
 そんな呟きも聞こえて来た。
 彼、湊は確かに女顔だし、間違われるのも無理はない気がする。
 おまけに胸から下にバスタオルを巻いていたりするから、尚更だ。
「だから言ってるだろ、僕は男だ! 見ろっ!」
 湊はバスタオルを投げ捨てて仁王立ち。
 ああ、うん、確かに……華奢なりに胸板もあるし、うっすらと腹筋もある。
「さっきもフロントで女湯に案内されかかったんだからな!」
 ぷんすこ。
 なおこのバスタオルは背中の火傷跡を隠すためのものだ。
 まあ、それが余計に誤解を生む原因になったのかもしれないが。
「それにしても……熱い」
 温泉って、こんなに熱いものだったんだ。
 なんだか湯船に入る前に、もうクラクラしてきた……


 昨夜も遅くまで書類の整理をしていた恋音は、まだ誰もいないホテルの大浴場でひとり湯船に浸かっていた。
 終了後の申請に備えた各業務の準備も終わり、やっと一息。
 お土産も既に選び終えたし、あとは出発まで自由時間だ。
「……ようやく羽を伸ばせるのですねぇ……」
 少し濁りの入った湯に、ビキニの牛柄がゆらゆらと揺れて見える。
 そう言えば他の人達も朝風呂を楽しむと言っていたけれど。
「……まだ寝ていらっしゃるのでしょうかぁ……?」

 その彼等は、隣の高級旅館の露天風呂にいた。
「朝風呂の爽やかな空気って良いね」
「ええ、とても贅沢な気分になりますね」
 女湯はあけびと沙羅の貸切だ。
 温泉と言えばやはり和風の風情、天然の岩を削って作られた露天風呂はまさにザ・温泉。
 露天風呂と言っても外からは見えないように工夫されているため、水着などは必要ない。
「沙羅さん、やっぱり大人の女性って感じですね、私も見習わないと!」
 その後れ毛を掻き上げる仕草や、タオルで胸を隠す様子。
 どれをとっても艶っぽい。
「そうでしょうか……?」
 恥ずかしそうに頬を染める様子もまた色気たっぷり……と言っても、イヤラシイ感じの色気ではない。
 が、男性が見たらそれはもう夢中になるであろうことは想像に難くなかった。

 そこに突然、静寂を切り裂く茶色い悲鳴が――!
「なんでしょう?」
「何かあったのかな?」
 まあ、何があったとしても、あの顔ぶれなら問題はないと思うけれど……多分。

「のんびり露天風呂、最高ですね!」
 ひりょは目一杯動いた疲れをしっかり取ろうと、湯船の中で思い切り手足を伸ばした。
「ところで……あの方は、その……」
 ちらり、ひりょの視線は湯煙の向こうに霞む金髪美女(?)の背中に投げられる。
 湯に浸からないようアップにした金色の髪、そこから流れる後れ毛、項から肩にかけてのライン。
「俺の目がおかしくなったのかな、それともここは混浴?」
 ひりょは眼鏡を外してゴシゴシと拭いてから、もう一度かけ直す。
 しかし、何度見てもやっぱり……その、女性にしか見えないんだけど。
「ああ、アレンか」
 ミハイルが笑った。
「心配ない、あれでもれっきとした男だ……なあ、アレン?」
「はいー? 私のことで何かー?」
「いや、何でもない。それより、せっかくだし離れてないでこっちに来たらどうだ?」
「はいー、そうしますねー」
 ざぶざぶと近付いて来るそのシルエットを見ると、確かに胸がない。
「なんだか、妙に親近感を覚えるな」
 ぽつり、藤忠がこぼした。
 その後は和気藹々、互いに背中の流しっこをしたりして、のんびり平和に朝風呂を楽しんで……いたのだが。

 その瞬間、空気が変わった。
 がらり、脱衣場に続く戸が開き、現れた三つの影。
「ハァーイ、アタシ達が来たわよォ☆」
 呼ばれて飛び出てリカ、マリ、ミキ、オカマッチョ三兄弟!
「呼んでない!」
 ミハイルが叫ぶ。
 いや、なんとなく呼んじゃった気もするけれど!
「なぜこんなところで!?」
「やーねぇ、アタシ達にだって高級旅館に泊まる権利くらいあるわよォ、ねぇ?」
 宿泊客か、なら仕方ない。
 いや、しかし。
 これは相当に危険な状況ではないのか?
 強引なマッチョを相手に、身を守るものと言えば腰に巻いたタオルが一枚。
 やばい、今度こそ本格的に貞操の危機か!?
「すまん、俺は逃げるぞ! リカ、こいつをやる! マリにはこいつだ!」
 無情にも、ミハイルはリカに藤忠を、マリにはひりょを押し付けて逃げようとする。
 が、悪いことは出来ないもので……腰が抜けた。
「リカと言ったか、あんたの趣味は大人の男だったな」
 裏切り者の首根っこを引っ掴み、藤忠がにっこり笑う。
「認めたくはないが俺は女顔だ、守備範囲からは外れているだろう。だから、こいつをやる」
 すっと差し出されるミハイル。
「おおおお、俺も皆さんの守備範囲からは、はは外れてると思いますすすす」
 ガクブル震えながら、ひりょも必死で首を振る。
 ほら、マリさんはショタ好みだし!
「そうなのよねぇ、可愛い子はみぃんな、すぅーぐ大きくなっちゃうんだからァ」
 マリは悲しげに目を伏せる。
 なお入浴時につき三人ともすっぴんだ。
 下手に厚化粧を施すよりも、このほうがまだ視覚的暴力の程度は低い気がする……まあ、程度の差ではあるけれど。
「だからアタシ、これからは少し上の子も狙っていくことに決めたの☆」
「はい?」
「つ・ま・り。アナタも! アナタも! 生まれ変わったアタシの守備範囲ってコトよ☆」
 マリはぶっとい指をピストルの形にして、ビシッと二人を撃ち抜いた。
 ずきゅんばきゅーん。
 いいから、余計なことするな、生まれ変わらなくていい。
 だから。
「来るなあぁぁぁっ!!」
「助けてぇぇぇっ!!」
「やめろ、俺の身も心も沙羅のものだぁぁっ!!」

 目隠しの壁を越えて響き渡るミハイルの声に、沙羅の顔が真っ赤に染まる。
「まぁ、あちらは大丈夫かしら……?」
「どうだろ、ちょっと厳しいかも……?」
 こうなったら三兄弟の良心と言われる(?)比較的常識のある三男、ミキに期待するしかない、かも?

 しかし、男湯には彼がいた。
 藤忠とひりょがただ腰に巻いたタオルを死守しつつ逃げることしか出来ず、ミハイルに至ってはただ闇雲に手足を振り回すしかないという絶望的な状況の中、彼がおもむろに立ち上がる。
「あらあらあらー、お風呂は静かに入るものですよー?」
 アレンの背後に後光が差した。
 おお、あなたが救いの神か。
「よろしかったら、お風呂上りメイクさせていただけないでしょうかー? 美しくなって夏を満喫しましょうー?」
 そう、彼等はアバンチュールにも目がないが、キレイになることに関しても妥協をしないのだった。
 その妥協点には、大いに問題があるようだが。

 かくして貞操の危機は去った。
 ひとまず、今のところは。
 めでたしめでたし。


「お土産……何かお揃いで身に付けられるもの……」
 うろうろ、うろうろ。
 シグリッドは土産物屋の中を行ったり来たり。
「章兄の分も何か欲しいのですけど……」
 決まらない。
 その点、りりかは決断が早かった。
 お揃いのブレスレットを買って、シグリッドとテリオスに手渡す。
「はい、一緒につけるの……です」
 そして門木の姿を見付けると、少し躊躇った後に意を決したように顔を上げた。
「あ、華桜さん……! だったら、あの、ぼくの分も」
 やっぱり顔を合わせにくいから、代わりに渡して欲しいとシグリッドが引き留める。
 が、肝心のお土産はまだ決まっていなかった。
 それに。
「しぐりっどさん、ここはきちんと、自分で渡すのがいいと思うの」
 さすがお姉さん、言うときはちゃんと言う。
 そして深呼吸をひとつ、門木の袖をくいっと引いた。
「あの、章治兄さま……」
 面と向かって話すのは久しぶりだ。
 それに……大好きな兄の結婚はおめでたいけれど、でもちょっと複雑な思いもあって。
 結果、戸惑い気味でぎこちない会話になった。
「おめでとうございます……です。んと、これ……」
 差し出したのは貝殻で作ったストラップ。
「自分で作ったのか? ありがとう、使わせてもらうな」
 門木はそう言って、お返しに頭を撫でる――少し、遠慮がちに。
 この感触も久しぶりだった。
 これで少しは、ハードルが低くなっただろうか。

「旅の想い出にはお土産が一番なのですねぃ☆」
 蒼姫が選ぶお土産はペンギングッズ。
 自分では見付けられないものも、シズらっこが鋭い嗅覚で見付けてくれた。
『ほら、あそこにもペンギングッズが』
 そのシズらっこが選ぶのはもちろんラッコグッズの数々。
 ありったけ買い込んで、どうするのかと言えば。
『これを恵まれない子供達への寄付にプレゼントしよう』
『皆で広げようラッコの輪!』

「カイ,これほしいよ!」
 別の店ではペンギンの可愛いヌイグルミやキーホルダーにテンションアップした文歌が快晴におねだりしていた。
「文歌は本当にペンギンが好きだねぇ」
 そう言って目を細めながら、お願いを叶えるのも未来の旦那様の特権である。
「はい、どうぞ」
 欲しいものは何でも買ってあげるよ。
 甘やかしすぎ?
 聞こえませんね!

「お土産は何にしようか……」
 夏雄は迷っていた。
「何の使い道もない提灯にペナント……迷うね……」
「なっちゃん、そこ悩むとこじゃないと思うの」
 そもそもその選択肢はどうかと思う。
 とは言え、藍も何にしようか大いに悩んでいるわけで。
「色々ありすぎて目移りするね」
「だったらお揃いのシーグラスのお土産欲しい!」
 ユリアの一言で、大枠が決まった。
 シーグラスを使った物、何があるだろう?
「じゃあヘアゴムとかは? ほら、こんなの」
「あ、それいい! かわいい!」
 色違いのシーグラスが花のようにデザインされたそれは、お値段も手頃だ。
「使い道は、あるね……」

「俺も皆に何か買って帰らなきゃ」
 無事に試練を乗り越えたひりょは、皆と一緒にに土産物屋へ。
「お土産って言ったらお菓子や食材、可愛いアクセだよね!」
 あけびは沙羅と一緒に部活の皆へのお土産選び。
「部員の皆さんにお渡しするなら、やはり食べ物がいいでしょうか……」
「そうだね、みんな甘い物とか大好きだし!」
 でも、なんとかサブレーとかまんじゅうとか、どこでも同じような味なんだよねー。
 パッケージが違うだけ、みたいな。
「何かここにしかないようなもの……わかめまんじゅうって、何だろ?」
 ちょっと買ってみようかな?
 その傍らで、沙羅はこっそりミハイルとお揃いのお土産を選んでいた。
 何が良いだろう、普段使いが出来るもので、何か記念になるような――


 お土産を選んだら、そろそろ帰りのバスの時間だ。
 帰りの運転も海が一手に引き受けてくれるようだが、バスに乗り込むその前に。

「さて、お土産も買ったし、最後は皆で集合写真ですよね?」
 としおが皆を集めてカメラを構える。
 セルフタイマーをセットして――

 パシャっ!


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:23人

胡蝶の夢・
ケイ・リヒャルト(ja0004)

大学部4年5組 女 インフィルトレイター
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
ドクタークロウ・
鴉乃宮 歌音(ja0427)

卒業 男 インフィルトレイター
沫に結ぶ・
祭乃守 夏折(ja0559)

卒業 女 鬼道忍軍
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
アルカナの乙女・
クリス・クリス(ja2083)

中等部1年1組 女 ダアト
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
蒼の絶対防壁・
鳳 蒼姫(ja3762)

卒業 女 ダアト
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
Walpurgisnacht・
ザラーム・シャムス・カダル(ja7518)

大学部6年5組 女 アストラルヴァンガード
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
楽しんだもん勝ち☆・
ユリア・スズノミヤ(ja9826)

卒業 女 ダアト
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
紡ぎゆく奏の絆 ・
水無瀬 快晴(jb0745)

卒業 男 ナイトウォーカー
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
陰のレイゾンデイト・
天宮 佳槻(jb1989)

大学部1年1組 男 陰陽師
天蛇の片翼・
カノン・エルナシア(jb2648)

大学部6年5組 女 ディバインナイト
撃退士・
藤村 蓮(jb2813)

大学部5年54組 男 鬼道忍軍
Stand by You・
アレン・P・マルドゥーク(jb3190)

大学部6年5組 男 バハムートテイマー
来し方抱き、行く末見つめ・
黄昏ひりょ(jb3452)

卒業 男 陰陽師
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
道を拓き、譲らぬ・
地堂 光(jb4992)

大学部2年4組 男 ディバインナイト
撃退士・
シグリッド=リンドベリ (jb5318)

高等部3年1組 男 バハムートテイマー
撃退士・
光坂 るりか(jb5577)

大学部8年160組 女 ディバインナイト
Cherry Blossom・
華桜りりか(jb6883)

卒業 女 陰陽師
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
鳥目百瞳の妖・
百目鬼 揺籠(jb8361)

卒業 男 阿修羅
七花夜の鬼妖・
秋野=桜蓮・紫苑(jb8416)

小等部5年1組 女 ナイトウォーカー
もふもふヒーロー★・
天駆 翔(jb8432)

小等部5年3組 男 バハムートテイマー
青イ鳥は桜ノ隠と倖を視る・
御子神 藍(jb8679)

大学部3年6組 女 インフィルトレイター
Half of Rose・
浅茅 いばら(jb8764)

高等部3年1組 男 阿修羅
蒼色の情熱・
大空 湊(jc0170)

大学部2年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
海に惹かれて人界へ・
ザジテン・カロナール(jc0759)

高等部1年1組 男 バハムートテイマー
UNAGI SLAYER・
マリー・ゴールド(jc1045)

高等部1年1組 女 陰陽師
童の一種・
逢見仙也(jc1616)

卒業 男 ディバインナイト
明ける陽の花・
不知火あけび(jc1857)

大学部1年1組 女 鬼道忍軍
Eternal Wing・
サラ・マリヤ・エッカート(jc1995)

大学部3年7組 女 アストラルヴァンガード
藤ノ朧は桃ノ月と明を誓ふ・
不知火藤忠(jc2194)

大学部3年3組 男 陰陽師