.


マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2016/05/15


みんなの思い出



オープニング



 僕がその子を見つけたのは、学校から帰る途中だった。
 友達と三人で歩いてると、どこかから「きゅんきゅん」っていう鳴き声が聞こえたんだ。
 それで探してみたら、ダンボールが置いてあって。
 その中に、三匹の子犬がいた。
 手のひらに乗っかるくらい小さくて、ふわふわの毛はほんのり茶色、目はくりっと大きくて真っ黒。
 体はまん丸で、先のちょっと折れた耳と、くるんと丸まった尻尾が付いた毛玉みたいだった。
「捨てられたのかな」
「かわいそうに、ひどいことするなあ」
 僕達は、その子を家に連れて帰ることにした。

 こういう時、大抵のママは「元のところに返して来なさい」って言うものだけど。
 でも、僕のママは違った。
「ちゃんと自分で面倒見られるなら、飼っても良いわ」
 そう言ってくれた。
 面倒を見るっていうのは、ただ可愛がる事じゃない。
 餌をあげたり散歩に連れて行ったり、うんちやおしっこの世話をしたり。
 あと病気にならないように予防注射とか、病気になったら病院に連れて行くとか、いろいろ。
「今は小さくて可愛いけど、大きくなったらブサイクでブアイソなバカ犬になるかもしれないわよ? それでも捨てたりしない?」
「しない! 絶対しない! 約束する!」
 僕はママと指切りした。
 約束を破ったら、僕が捨てられる。
 でも絶対、そんなことにはならない。
 だって、ふーたは僕の大事な弟分だから。

 あ、そうそう。
 子犬の名前、「ふーた」にしたんだ。
 ふわふわだから、ふーた。
 ふーたはごはんをもりもり食べて、どんどん大きくなった。

 どんどん、ぐんぐん、むくむく――


 最初は手のひらサイズだったのに。
 次の日には大人の柴犬くらい、その次の日にはライオンくらい、その次の日にはゾウくらいになって……

「ママどうしよう、ふーたどんどんおっきくなるよ!」
「ええ、そうね。でも約束したでしょう? どんなに大きくなってもちゃんと面倒見るって」

 でもママ、それはふーたが普通の犬だったら、ってことだよ。
 ふーたは犬なんかじゃない。
 普通でもない。
 ふわふわの毛に黒くて丸い目、先のちょっと折れた耳と、くるんと丸まった尻尾は小さい時のままだけど。
 ふーたはあっという間に僕の部屋いっぱいに大きくなって、壁をぶち破って隣の部屋まではみ出した。

「ママ、二階がふーたでいっぱいだよ!」
「あらあら、元気によく育つこと」

「ママ、二階の床が抜けたよ!」
「まあまあ、どこまで大きくなるのかしら、楽しみねぇ」

 楽しみにしてる場合じゃないよ、ママ。
 笑ってる場合でもないってば。
 ふーたはもう、僕の家いっぱいに詰まってて、外に出すことも出来ない。
 窓ガラスは全部割れちゃって、そこからふわふわの毛とお肉が、ぽにょんってはみ出してる。
 それでもまだ、ふーたの成長は止まらない。
 窓枠がミシミシ言って、家全体がギシギシ悲鳴を上げてる。

 ねえママ、これでも面倒見なきゃいけないの?
 最後までって言うけど、最後っていつ?
 どこまでおっきくなるの?
 捨てちゃダメなの?

 捨てようとしたって、もう動かせないけど。

『きゅぅんきゅぅんきゅぅん』

「ふーたが鳴いてるわよ、お腹が空いたんじゃないの?」
 餌をあげるのは僕の仕事だ。
「でも、これ以上大きくなったら……」
「言ったでしょう、約束を破ったらあなたを捨てるって」
「……うん」
 僕は最後に残ったドッグフードを袋ごと、窓から見える大きな口に突っ込んだ。
 10キロくらい入ったそれを、まるで一口チョコみたいに呑み込んで、ふーたは勝手口からはみ出した尻尾を振った。

「ごはんの後はお散歩でしょう? ほら、ふーたも行きたいって」
「どうやって!?」
「約束したわよね?」
「でもママ!」

 その時だ。
 バリバリバキバキってすごい音がして……僕の家が持ち上がった。
 ふーたが家ごと立ち上がったんだ。

「気をつけて行ってくるのよ? ああ、スコップとうんちの袋も忘れないでね?」
 ママが笑顔で手を振ってる。

 どうすれば良いんだろう。
 このままだと、ふーたはもっと大きくなる。
 大きくなって、町を潰して……最後には地球を潰してしまうかも。

 どすん。

 ふーたが一歩、僕に向かって足を踏み出した。
 踏み潰されると思った。

 怖い。
 逃げなきゃ。

 ふーた、ごめん!


 ――――


「緊急の依頼です」
 久遠ヶ原学園、斡旋所の職員は厳かに言った。
「町を徘徊する巨大なヤドカリを退治してください」
 借り物の巣は二階建ての住宅。
 中身は正体不明の謎の物体、名前はふーた。
「同様の生物は他にも二体の存在が確認されていますが、そちらはいずれも保健所に持ち込まれました」
 二つの家族がそれぞれに持ち込んだ二体はディアボロである事が判明した為、巨大化する前に処分されている。
 残るは通報のあった一体のみ。
「その個体は今、飼い主である少年の後を追う様に移動しています」
 攻撃する様子はない。
 ただその巨体を揺らしながら、のっしのっしと歩くだけ。
 しかしその巨体ゆえ、歩くだけでも被害は甚大だった。
 道路の舗装はひび割れ、遠藤の住宅は壊れ、電線は切れて垂れ下がり――

 一刻も早くその巨体を足止めし、倒す必要があった。





リプレイ本文

「まったくぷくぷくとよくまもまあここまで大きくなりやがったな」
 その姿を見上げて、ラファル A ユーティライネン(jb4620)が呟く。
「天魔が街を練り歩いてるってぇから、押っ取り刀で駆けつけてみりゃ…」
 何だ、このシュールな光景は。

「小さなサイズだったら可愛いかもだけれど…」
 藍那湊(jc0170)は、それが普通の子犬サイズになった姿を想像してみる。
「確かに、飼いたくなる気持ちはわかる気がするな」
 そして飼い始めた以上、その命に責任を持つことは大事だ。
 途中で投げ出したりせず、ここまできちんと面倒を見ていたという、その事自体は賞賛に値するだろう。
「でも、負いきれないと思ったら他の人に頼るのも大事だよね」
 保健所に持ち込んだら殺されると思ったのだろうか。
 確かにその可能性は高いが、そこで他の引き取り手が見付かる可能性もある。
「捨てる以外の選択肢だってあるのに」
 もっとも、それは相手が普通の動物だったらの話だ。

「これが普通の動物なら、まだ動物園に引き取ってもらったりだの出来たんだろうけど」
 礼野 智美(ja3600)が首を振る。
「普通の動物だったとしても、限度ってもんがあるだろ」
 これはどう考えても度を超している。
「言ってみれば猫の子だと思って拾って育てたもんが、ジャガーだの虎の子だったみたいなもんだ」
 現状は、小鹿を保護して世話したら、畑の作物を食べ出したという有名な小説の様な状態だろうか。
「ペットを飼うには人に迷惑をかけないという原則を守るのも責任なのですが…」
 街で熊は飼えませんと仁良井 叶伊(ja0618)が頷いた。

「ったく、何でこんなになるまで放っといたんだよ」
 ラファルとしては正直いい加減にしろと言いたい気分だが――
「いや、天魔知識に乏しい一般人には無理な相談か」
「だとしても、普通はこうなる前にわかりますよね…子供には無理でも、親や周囲の大人には」
 誰か、何か言ってやる者はいなかったのだろうかと、叶伊が首を傾げる。
 まさか母親が一枚噛んでいる、などという事はないと思いたいが。
「実はヴァニタスだった、とか」
 小宮 雅春(jc2177)が呟いた。
 報告によれば、母親はこの状況になっても慌てず騒がず、全く動じる様子がないという。
「一体何者なんでしょうね」
 単に肝が座っているだけであれば良い、とも言い切れない気はするが、それでも何か裏があるよりはマシだ。
「下衆の勘繰りならいいのですが」
「誰にも相談出来ず、追い詰められて思考停止…という可能性もありますしね」
「どっちにしても、せめてもう少し早く警察なり何なりに相談してほしかったぜ」
 湊の言葉にラファルが「やれやれ」といった調子で首を振る。
 まあ、そのへんの説教は地元の警察に言づけておくとして。


「とにかくこのままにしておく訳にはいかないよね」
 湊が行動を促す。
「透過を使わないのが疑問だけど…材料が普通の犬だったから、その感覚残っているとか?」
 それともその巨体で町を壊す事が目的なのだろうか。
「とりあえず『やってみたらできた』とかで地中に逃げられても困るからな」
 智美が阻霊符を発動させる。
「現実は、斯くも悲しき、です、ね」
 アルティミシア(jc1611)が、覚悟を決めた表情で一歩前に踏み出した。
「互いに好いているし、可愛がっていた。ただこの子が、ディアボロだっただけ」
 その事実を伝えても、理解はして貰えないかもしれない。
 でも、それでいい。
「とても心苦しい、ですが、人々の命と、男の子の気持ち、選ばなければ、いけないと、言うのなら…」
 どちらを選ぶか、それは言うまでもないだろう。
「恨まれても、この子を、止めないと。それがボクの仕事、ですから」
 殺さなければ止められない。
 ならばせめて、出来るだけ苦しまない様に、綺麗な姿のままで――

「まずは男の子を保護しないと」
 ふーたの進行方向にいる筈だと、湊が少年の姿を探す。
 名前は先ほど野次馬達に聞いた。
「ハルタくーん、おーい、助けに来たよー」
 見付けた、やっぱりふーたの前を走って――あっ、転んだ!

 撃退士達は急いで少年に追い付くと、ふーたとの間に壁を作った。
「少年、助けに来たぜ…ってことで、まずは俺の出番だな」
 ラファルが進み出て、少年が羽織っていた上着を借りる。
 変化の術で彼と入れ替わろうというのだ。
「ハルタくん、お母さんは?」
 湊の問いに、少年は息を弾ませながら元来た方を指さした。
「まだ、うちに…」
「ってことは無事なんだな」
 ラファルは頷き、少年の姿に化ける。
 同時に湊が本物に細かい氷の粒のようなアウルの結晶を吹きかけ、その気配を消した。
 これで、ふーたは姿も匂いも少年になりきったラファルだけを追いかける筈だ。
 ならば少年を遠くへ避難させる必要もないだろう。
「後はどっか広い所におびき出して、と行きたいところなんだがな」
 学校が近くにあるようだが、途中の道は狭く、沿道の住宅に被害を与えずに通るのは難しいだろう。
「これ以上の被害を出しては場所を変える意味がありません、この場で戦いましょう」
「なら、そこの四つ辻に嵌めるか」
 ラファルはふーたの背後に回り、少年の声色を真似て呼びかけてみた。
『ふーた、こっちだ!』
 その声に、ふーたはよちよちと危なっかしい足取りで方向を変える。
『そうだ、こっちに来い!』
『きゃん!』
 嬉しそうに尻尾を振りながら、ふーたはラファルの後を追った。

 それを見送り、湊が呟く。
「本当、飼い主について来たいだけの無邪気な犬みたいだなぁ…」
 こういう性質や、人の良心や愛情を利用するように造られたのなら…胸が痛む。
 侵略が目的と言うより、ただ人間を苦しませて喜んでいるだけとしか思えなかった。

「ふーたくんは僕たちが『預かる』から」
 少し離れた物陰に座らせ、湊は少年に言った。
「預かるって、何? そうか、ふーたを元に戻してくれんだね!」
 少年は無邪気に顔を輝かせるが、それは無理な相談だ。
 かといって、ふーたを助ける事は出来ないのだと、殺さなくてはならないと告げるのは――
 どうする、適当に誤魔化しておくか。
 心に傷を残さない程度に、柔らかく包んで伝えるべきか。
 それとも包み隠さず伝えるべきか。
「隠しても、誤魔化しても、いずれ、わかってしまうと、思います」
 アルティミシアが震える声で言った。
「本当の事を、知るのは、悲しい、ですが。嘘は、もっと悲しくて、悔しくて、辛いものだと、思うのです」
 だから伝えなくてはいけない。
 本当の事を。
 あのディアボロを殺さなくてはいけないと。
「恨まれても、それで、あの子の心が、少しでも楽になるなら、ボクが、その役を…」
「でも、あなたの方が今にも泣きそうな顔をしていますよ、アルティミシアさん」
 雅春が小声で言った。
「ここは私に任せて貰えませんか?」
 仲間の誰にも辛い役目をさせたくないし、少年にも辛い思いをさせたくないから。
「ちょっと、考えがあるのです」
 だから、試す機会を与えてくれないだろうか。

 雅春は少年の耳元で、子守歌を歌い始めた。
「ふーたはもう、この星にはいられないんだ。だってあの子は――」
 眠りに落ちた少年をその場に横たえ、雅春は一足先にふーたを取り囲んだ仲間達に合流する。
 叩き起こされでもしない限り、少年が目覚めることはないだろう。


「とは言え、なるべく音を立てずにさっさと終わらせたいトコだな」
 同じ場所でグルグル回ってふーたを足止めしていたラファルが動きを止める。
 するとふーたもぴたりと動きを止めた。
 その場に座って尻尾を振っている――まるで「次の遊びは何?」とでも言う様に。
「んむ…見た目は本当に子犬なんだけれど…」
「しかし、見た目は可愛くてもディアボロです。どんな能力を持つかわかりませんし、あくまで『兵器』なのですから、確実に退治しなくては」
 叶伊の言葉に「わかってる」と頷き、湊は片方の前足に氷のアウルを巻き付ける。
「ごめんね」
 標的が大きすぎて、一度に四肢の全てを縛り上げる事は出来ないが、とりあえず移動は封じた形だ。
 その状態で、智美はヒプノララバイの子守歌を歌ってみた。
 天魔に対して効果がない事はわかっている。
 しかし逆に言えば、これで眠らなければ「普通の動物ではない」という証明になるだろう。
 天魔だったと証明出来れば、後で説得の材料にになる。
 勿論、ふーたは眠らなかった。
 そればかりか抵抗も高いらしく、アルティミシアの背筋も凍るような極寒地獄でも全く眠気を催す気配がない。
 眠ってくれれば、まだ楽なのに。
 何もわからないうちに、終わってしまえばいいのに。
 それが必要な処置であるとわかっていても、悪意のない生き物を手にかける事には胸が痛む。
 だからせめて、少しでも苦痛の少ない方法で送ってやりたかった。
「その為には、動きを止めて…他の人の攻撃が、ちゃんと急所に、当たるように…」
 闇色の逆十字架を頭上に落とし、その動きを鈍らせる。
 次いでラファルが掲げた掌から放たれた見えない力が、もう一方の前足を封じた。
「俺式サイキックパワー『デビルズバイス』!」
『きゅぅんきゅぅんきゅぅん』
 ふーたが悲しげな鳴き声を上げる。
 その声を聞くと、思わず攻撃の手が鈍りそうだった。
「悪いな、俺はお前のハルタじゃねぇんだ!」
 垂直に飛び上がったラファルは、ふーたを包む家の屋根を足場にして、ナノマシン集積によって作り出した鋭い刃の一撃を見舞った。
 喉元を突き刺し、抉るように手首を返して切り払う。
「これでもう、その哀れっぽい声は出ねぇだろ」
 直後、横から接近した叶伊がやはり屋根へと駆け上がり、紫焔を纏う斧槍の切っ先を耳の後ろに深く沈めた。
 闘気を解放し、気を練り上げ、意識を刈り取るように振り払う。
 喉から絞り出されたものは悲鳴ではなく、どろりとした赤い液体だった。
「もう一撃――」
 連続で攻撃を叩き込もうとした叶伊はしかし、ふーたの全身から突き出たトゲの勢いに弾かれ、叩き落とされた。
 ヤドカリのように身体を包んでいた家も粉微塵に吹き飛ばされる。
「足場がなくなってしまいまいた…さすがにインド象並みの化け物をどうこうするのは難しいですね」
 着地から体勢を立て直した叶伊が眉を寄せた。
 味方が動きを抑えてくれたお陰で、大暴れからの踏み潰しコンボを喰らう事は避けられたが、ふーたの身体はハリネズミになったままだ。
 近付いて攻撃すれば、あの針に全身を刺されてしまうだろう。
「なーに、そんなもん痛くも痒くもねーよ」
 ラファルが不敵な笑みを湛える。
 無抵抗の敵をいたぶる趣味はないし、痛みと言うなら喉から血を流して蹲っているふーたの方が何倍もの痛みを感じているだろう。
「早いとこ楽にしてやろうぜ」
 蹲ったふーたの首は地上からでも手の届く高さにあった。
「わかりました、そこを狙って一気に行きましょう」
 これだけの巨体なら生命力もそれなりに高い筈だ。
 真っ当に削ろうとすればスキルの方が先に尽きるだろう。
 味方と連携して、最大火力を上手く急所に叩き込むしかない。
「行きますよ」
 叶伊の声に応えて、アルティミシアがクロスグラビティで重圧を与え、ラファルと湊が両前足の動きを封じる。
 次に雅春がパペットの口から吐き出される雷の玉で喉の傷口に一撃、次いで飛び込んだ湊が雪の結晶型に展開した魔方陣でトゲを押しのけた。
 魔方陣が砕けて雪の様に散る中へ、智美と叶伊、そしてラファルが飛び込んで行く。
 智美は血界から徹し、叶伊は闘気解放から練気、そして鬼神一閃。
 ラファルは手の中に作り出した魔刃で一撃、更にもう一撃。

 抵抗はなかった。
 そのトゲはただ身を守る為のもの。
 それさえ役に立たず、黒い瞳は何かを探すように宙を彷徨い――

 やがて、光は消えた。

「いつかは必ず別れの時が来るとはいえ…このような形でのお別れは忍びないですね」
 雅春が呟く。
「子供に全て受け入れろというのは酷です」
 これが任務であり、必要な事だと理解している自分達でさえ、心の底に沈んだ苦くて重い塊を持て余しているのだから。


 ハルタは病院のベッドで目を覚ました。
 身体に異常は見られなかったが、念のために一晩入院することになったようだ。
 母親の検査も行われたが、彼女は正真正銘の人間であり、何らかの精神操作が行われた形跡も認められなかった。
 ただ、ディアボロの背後関係を調べた叶伊によれば、母親は近所付き合いが上手く行っていなかったらしい。
「旦那さんが単身赴任で、他に相談出来る人もいなかったそうです」
 その点は湊の予想通りだったようだ。

『やあ少年、どうした? 浮かない顔をしているな』
 目を覚ましたハルタに、雅春はマッチョで暑苦しい感じのパペットで話しかけてみる。
『察しの通り、ふーたは犬ではない。ヤドカリ星人だったのだ』
 それを聞いた少年の目がすうっと細められるが、気にせず続けるのがエンターテイナーだ。
『ヤドカリ星人の幼体は人間の子供に可愛がられ、その愛情をお腹いっぱいに食べて大きくなるのだ。そして満腹になったその時、彼等は宇宙に帰って行く…そう、かぐや姫のようにな』
「ふーたくんは、彼のあるべき場所へ行ったんだ」
 湊がその話に乗って来た。
「君が世話をしてくれて、幸せだったと思う」
『そう、少年はこの地球を守ったのだ。何故なら邪悪な心を吸い込んだヤドカリ星人は更に巨大化し、地球そのものを自分の家にしてしまうのだからな!』
 あ、ちょっとヤメテ「何この痛いオジサン」みたいな目はヤメテ。
「じゃあ何で黙って行っちゃったの?」
『それはお別れが寂しく辛いからに決まっている! なに、少年も寂しいか! ならば体を動かせ!』
 このパペット、脳筋である。
『ふむ、立ち止まっているからウジウジ考え込むのだ! まずは腕立て腹筋百回だ! おい小宮、お前もだ! 少年と共にその女々しい根性を叩き直すのだ!』
「えっ」
 だが少年の反応は冷たかった。
「ばっかみたい、下手な嘘だし面白くない」
 一刀両断。
 ならば、もうこれしかないとアルティミシアが言った。
「少しでも、恨む気持ちが、あるなら、ぶつけて下さい。ボクは悪魔、ですので、恨まれるのは、一度や二度では、ありませんから」
 だが少年は首を振る。
「いい。わかってた、から」
 ふーたが普通じゃない事も、倒さなきゃいけない事も。
 撃退士達が自分を傷付けまいとして色々考えてくれた事も。
「信じてあげるよ、ヤドカリ星人」
 そして、ありがとう。
「ちょっとだけ、元気出た」
 それを聞いて湊が微笑む。
「よかった。でも、自分たちだけでがんばらなくてもいいんだよ」
 それに、生き物を大切にする気持ちはこれからも失わないでほしいな。
「よかったら、これを」
 叶伊が壊れた家の破片で作ったプレートを手渡す。
 そこには「ふーた」の名が刻まれていた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: ペンギン帽子の・ラファル A ユーティライネン(jb4620)
 愛しのジェニー・小宮 雅春(jc2177)
重体: −
面白かった!:2人

撃退士・
仁良井 叶伊(ja0618)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
蒼色の情熱・
大空 湊(jc0170)

大学部2年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
破廉恥はデストロイ!・
アルティミシア(jc1611)

中等部2年10組 女 ナイトウォーカー
愛しのジェニー・
小宮 雅春(jc2177)

卒業 男 アーティスト