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マスター:STANZA
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
形態:
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/05/11


みんなの思い出



オープニング




 遠足とは、主に学校行事として教師の引率のもとに行われる、体力作りや社会科見学などの校外学習を目的とした小旅行のことである。
 目的地は基本的に徒歩で移動が可能な近場に設定される。
 或いはバスなどの交通機関を使うにしても、日帰りで行われることが一般的である。

 ――と、一般的な辞書には書かれていた。

 だが、ここは久遠ヶ原学園だ。
 一般的という言葉とは縁遠い、寧ろ対極の位置にある生徒達が通う学園だ。
 よって遠足の目的地も、その内容も、およそ一般的とは言い難いのが当然だろう。

 しかし、だからこそ。
 ここは敢えて、ごく普通に一般的な遠足を楽しみたい。
 そんな需要もあるだろう、いや、きっとある、あるに違いない。

 というわけで。



「お前達の中で、この島の地理を全て把握している者はいるか?」
 生徒達を集めたオリエンテーションで、門木章治(jz0029)は尋ねた。
 だが、いたら手を挙げろ――と、そう言われても誰も動かない。
「そうだろうな。生徒達の中には島じゅうをくまなく歩いて詳細な地図を作っている者もいるようだが、それでも年に何度か……いや、場合によっては毎日のように新しい発見があるくらいだ」
 この久遠ヶ原島は巨大な学園都市がすっぽり収まる程度には広いが、前人未踏の地が残されるほどの広さではない。
 そもそも人工的に作られた島なら設計図があるはずだ。
 そこには地形も建物の配置も、植生さえも細かく書かれ、未知の要素が入り込む隙はない。
 ないはず、なのだが。
 そこが久遠ヶ原の、七つどころではない七不思議。
 学園に来て日の浅い者にはもちろん、学園生活が長い者にとっても、この島は謎と不思議に満ちた空間なのだ。
「で……俺が引率を担当するのは、これだ」
 門木は黒板にチョークを走らせる。

『探検・発見、久遠ヶ原!』

 読んで字の如く、この島を好き勝手に探検してドキドキワクワクを楽しもう、という企画だ。
 ただし遠足という企画の性質上、多少の学習的な要素は必要だろう。
「そこで今回は、探検の結果をレポートの形で提出してもらうことにした」
 ここで生徒達からの「えーーーーーっ」というブーイングの嵐が巻き起こる。
 だが安心してほしい、レポートを書くのは生徒達ではないのだ。
「行動は基本的に数人のグループ単位になる。そのひとつずつに専属の記録係が同行することになる」
 つまり生徒達は好き勝手に動き回れば良いだけで、その過程で見聞きした事物や成果については全て彼等が記録し発表してくれる、ということだ。
「ただし記録は忠実に行われる。お前達の行動や選んだものが面白くなければ、記録の結果としてのレポートも面白味に欠けるものになるだろう」
 と言っても、特別に受けを狙う必要はないだろうし、狙わなくても面白いことになるのが久遠ヶ原の常ではあるが。
「行き先は自由に決めていいし、一晩程度なら泊まりがけでも構わない」
 ただし場所によっては寝袋やテントを持参することになるだろうが。
 何かの教育番組のように探検地図みたいなものを作ってみてもいいし、ただ普通にピクニックを楽しむだけでもいい。
「学校行事ではあるが、学業の評価には一切関係しない。そこは安心してくれ」
 特にレポートを意識する必要もない――ただ、面白いものが出来た場合は何かしらのご褒美がある、かもしれないが。
 皆が楽しめれば、それでいいのだ。

 身近な存在を見直すことによって、新たな発見があるかもしれない。
 見慣れたものも角度を変えれば意外な顔があるかもしれない。
 近場だからこそ楽しめることもあるだろう。

 なお、門木は引率ではあるが、特別な事情がない限り同行はしない。
 なにしろ天使的一般人ですから、撃退士のバイタリティについて行くのは多分無理だし。
 よって常に連絡はとれるようにしておくが、基本的にトラブルは各自の責任で対処すること。
 特に暴力沙汰になった場合は全く役に立たないので、ね。

「皆が戻るまでは科学室か職員室、日中は屋上あたりで昼寝でもしている予定だ」
 それに付き合いたければ、それでも構わないが――
「多分、面白くないぞ?」


 では、質問がなければこれで解散、各自で準備に移るように。
 後で何か疑問が生じたら、質問に来ても構わない。

 まあ大抵のことは問題ないだろうから、そのまま好きなようにやってもいいけれど。





リプレイ本文

 その日、久遠ヶ原島は大爆発を起こした――ただし、ごく局所的に。
 轟音が轟き大地は震え、島を形作っていた質量の何分の一かが吹き飛び、消えた。

 しかし、その程度の天変地異で驚く者は、この島にはいない。

 かくして、今日も久遠ヶ原島の平和な一日が始まる。


●はじめまして

「ここが久遠ヶ原学園、なりか」
 平野 譲治(jc2263)にとっては、これが転入後初めての登校だった。
 校門の前に立ち、そこから見えるグラウンドや校舎の風景に暫し見入ってみる。
「うむ、ここはあれかな」
 片手を握り、もう片手の掌に合わせ――
「卑しながらに世話になるっ!」
 うん、収まりいい感じっ♪

 それはそうと、今日は遠足。
「遠足といえば学園の華なりね!」
 どこに行こう、皆はどこに行くんだろう。
 でも新入生としては、まずこの学園を知るところから始めるのが良いだろうか。
「何しろオリエンテーリングもまだなりよ」
 入り口にある校内案内図を見ても、広すぎる上に複雑すぎて、何が何やら。
 今回の遠足、探検がテーマだと聞いた。
 それなら――
「決めたなり! おいら学園を探検するなりよ!」

 校内を回るだけだから、持ち物は特に要らないかな。
 え、遭難する危険があるの?
 ところで君、誰?
 記録係?
「なるほど、引率の先生が付かない代わりに、取材班として同行する決まりになっているなりね」
 それじゃ、コンパスに携帯食料、着替えに寝袋、ザイルにピッケル…ってそんな物まで要るなりかっ!
 天界とは色々違うなりしっ!

「出発進行! 今日はよろしくなりねっ♪」
 どこに行きたいかって?
「学園内を色々と、後は今までの戦歴が見てみたいぜよ!」
 あ、書物以外でお願いします。

「食堂、広いなりな!」
「クラブ活動、バラエティに富んでるなり!」
「科学室、何か怨念が籠もっていそうなのだ…」

 屋上、購買、斡旋所、それに廃墟。
 譲治はどこへ行っても何を見ても、いちいち大袈裟なリアクションを返す。
 どうやら本気で驚き、感じ入っている様だ。

 ところで、これ今日中に全部見て回れるなりか?
 え、無理?


●速度を極める者

「きゃはァ、どれくらいでこの島を回れるのかしらねェ…楽しみだわァ♪」
 黒百合(ja0422)は今、恐らくこの学園で最速を誇る。
 何しろ移動力49だ。
 そんな彼女が選んだのは、その移動力を活かした島の海岸線全周囲完全踏破への挑戦。
 しかし、ここで問題が生じた。
 彼女の走りに付いて行ける者など記録係の中には勿論、全生徒の中にもいないのだ。
 ましてや全力移動なんて無理無理無理。

 というわけで。
 黒百合は自らカメラを担いで走った。
 レンズに映る景色は画面に留まる暇も与えられず、次々と後方に流されて行く。
 マイクが拾うのは轟々と唸る風の音のみ。
 見よ、これがクロックアップの世界だ!

 砂浜を走り、邪魔な崖や巨大な岩を透過ですり抜け、抜けられなければ翼で飛び越え、ひたすら走る。
 途中で誰かとすれ違った気もするが、それさえ気付かない程のスピードで走る。
 そしてあっという間に――正確な時間は機密保持の為に公表する訳にはいかないが――黒百合は目標を達成してしまった。
「あらァ、意外に狭いのねェ♪」
 いいえ、あなたが速すぎるんです。

 だが、黒百合の遠速(誤字にあらず)はまだ終わらない。
「せっかくお泊まりの用意をしてきたんだもの、めいっぱい楽しまなきゃねェ♪」
 今度は島の内側へ、道路に沿って、或いは道なき道を。

「はァい、こちらグルメリポーター黒百合よォ♪」
 今日はとっても美味しいラーメン屋さんを紹介するわねェ♪
 え、場所?
 さあ、どこかしら。
 GPSで確認しようと思ったけど、電波が入らないんですもの。
 でも迷子じゃないわよ、走ればきっと、どこか知ってる場所に出る筈だから!


●新・久遠ヶ原の七不思議、その1

 雫(ja1894)は前々から疑問に思っていた。
「この島にある森って外見の大きさの割に異様なまで深いんですよね」
 そして今回、遠足のテーマは探検。
 今こそ謎を解くチャンスと、雫は机の上に島の地図を広げた。
 そこに示された森の大きさを測り、横断にかかる時間を割り出してみる。
「ふむ…私の歩く速度から考えて1時間位ですね」
 軽い散歩程度の時間だが油断は禁物、何しろここは久遠ヶ原だ。
 不測の事態に備えて救急箱や防護マスク、暗視ゴーグル、テント、発煙筒にフラッシュライトも用意して。

 そして雫は森の入り口に立った。
「そう言えば、何年か前の節分の時に待ち伏せをしに入った事がありましたね」
 森の中には新緑の鮮やかな色を通して木漏れ日が降り注いでいる。
 足を踏み入れると、若葉の匂いが鼻腔を満たした。
 それを一息吸い込むだけで、なんだか健康になった気がする。
 そこでふと思い出した。
「あれ? あの時は森の中心に行くまでに1時間以上掛かってた気が…」
 一抹の不安を胸に、歩くペースを一定に保ちながら真っ直ぐに突き進む。

 結果、かかった時間は2時間48分。
「おかしい…多少の誤差はあっても此処まで差がでるなんて」
 ここは確かに地図で示されていた、そして以前にも入った事のある、あの森である筈だ。
 おかしくなっているのは地図か、自分の記憶か、それとも時計、或いは――
「もう一度、今度は逆に抜けてみましょう」
 来た時と同じペースでもう一度歩いてみる。
 結果は1時間36分。
 そんな筈はない。
「まさか、内部にゲートが展開されてるのかも!?」
 だとしたら、これは今までにないタイプだ。
 この森自体がゲート内部の様に丸ごと異界になっているとしか思えない。
 しかし、そんな事が可能なのだろうか。
「これは引き続き調査する必要がありますね…」


●ユウさんの悠々散歩

「久遠ヶ原を良く知る折角の機会ですし、確りとした調査とレポートを作りましょう」
 ユウ(jb5639)はデジカメを片手に海岸線を歩いていた。
 砂浜に岩場、波に浸食された洞穴など、自然に出来たものとしか思えない光景が広がっているかと思えば、いかにも人工島らしく分厚い鉄板が切り立った崖の様に連なっている場所もある。
 この学園に来てもう随分になるし、島内の事なら大抵は知っている様な気がしていたけれど。
「こんな風に久遠ヶ原を歩いたことはありませんでした」
 まだ歩き始めて一時間も経っていないのに、もうノートの見開き1ページがメモで埋まってしまった。
「とても新鮮で新しい発見にドキドキしますね」
 島外から帰る時には必ず使う港でさえ、裏手に回れば全く違う顔を見せたりする。
 倉庫街の隙間に挟まる様にして怪しげな店が軒を連ねていたり、何処か異界にでも通じていそうな小路がひょっこり現れたり。
 海岸沿いに建ち並ぶリゾート施設では、島外から来た客には土産として阻霊符が人気なのだという話を聞いた。
 しかも天魔除けのお守りとして買って行くのだとか。
「実際の効果はないと思いますが、信じる人にとっては有難いものなのでしょうね」
 実用性はともかくとして、撃退士としての思考に慣れてしまった頭ではとても考えつかない、新鮮なアイデアだ。
 他にも立派な鳥居だけで社殿がない神社や、地面に埋め込まれた謎の扉、珍しい植物の群生等々――
 たまにはこうして、普段とは違う角度から物事を見てみるのも良いものだ。


●海岸踏破、潮干狩り編

 遠足というのは、不慮の事態に備えて教師が引率するのが一般的である。
 が。今回の遠足は全て自己責任。
「二人だけで行かせるのは心配だな」

 というわけで。
 礼野 智美(ja3600)は、神谷 愛莉(jb5345)と礼野 明日夢(jb5590)、二人のお供をする事になった。

「遠足? 幼稚園以来なのー、アシュ、行こ行こ♪」
「行くよ、行くからそんなに引っ張らないでエリ」
 島の中だし、危険な場所に行く事も考えていないし、二人だけで大丈夫、とも思ったけれど。
「姉さんがついてきてくれて助かりました、他の人初等部1人だけですよ…」
 そんな中、子供だけで行動するのは…何と言うか、ちょっと勇気が要る、ような。
「でもエリ、どこで何するか決めた?」
「ううん、まだですの」
 自由行動と言うからには何をしても自由なのだろう。
 とは言え丸投げされると何をすれば良いのか、色々ありすぎて迷ってしまう。
「島の海岸線全周囲完全踏破…だけじゃ面白くないですの」
 それに他にもやる人がいるみたいだし。
「ねー、前潮干狩り行ったよね」
「うん、行ったけど…また行きたいの?」
 問われて愛莉はこくこくと頷く。
「海岸線調査がてら『島の潮干狩りスポット調査』をするですの!」
 はい、わかりました、付いて行きます。

 島の航空写真をコピーして切り取り、多めに余白を取った紙に貼り付ける。
「一番大きな港を起点にして、ぐるっと一周してみますの」
「でも、前行った所はもういいよね」
 どこだっけ、場所忘れてない?
「大丈夫、俺が覚えてる。もうひとつの方もちゃんと聞いて来た」
「そうか、どっちも保護者同伴でしたっけ」
 その場所には印を付けておいて、と。

 当日は朝早くから、家族に作って貰ったお弁当をリュックに入れて、水筒を提げて、それに潮干狩り用のバケツや熊手も用意して。
「夜になったら帰るからな」
「えー、智美さんついてきてるから門限高校時間でいいよね?」
「まあ、良いだろ。一応はテントも用意して来たけど」
 お金も多めに持って来たから、食事や宿泊にも対応出来るし。
 でも基本は日帰り、日没まで。
「わかったらさっさと歩く、荷物くらいは持ってやるから」

 スパルタ気味の保護者に急き立てられて、二人は早足で海岸へ向かう。
 まずは砂浜を探して、試しに少し掘ってみて。
「そう言えばお姉ちゃんが聞いた事あるって言ってたから調べてみたんだけど」
「何ですの、アシュ?」
「こういうの、昔テレビでやってたんだって。小学3年向けの教育番組だったみたい」
 その番組では絵の上手いお兄さんが町の人に話を聞いたりして、その結果を手書きの地図に纏めていたらしい。
「社会科の番組だよね」
 お兄さんと言えば――
(エリ、今回は「あのお兄さん達を探しますの!」とか言わないんだな)
 良かった、大学部の教室片っ端から調べる事にならなくて。
 でも、うっかり思い出させないようにしないと。
(気が変わって「そっちが良いですの!」とか言われそうだし…)
 探すもなにも、学生かどうかもわからないのに。
 そもそもあの人達、別の世界の住人じゃ…?

 明日夢がそんな事を考えている間に、愛莉はどんどん掘って、どんどん移動して。
「ここは収穫なしですの、アシュ、次行きますの!」
 海岸線を歩いて歩いて、行き止まりはひーちゃん達、飛べる召喚獣にクライムで運んで貰って。
 砂浜を見付けたらまた掘って。
「ここにもいませんの…」
「でもエリ、今って満潮だよね?」
 潮干狩りって干潮の時にしか出来ない気がするんだけど。
 うん、それは…いくら掘っても出て来ないよ、多分。
「ここで待ってても仕方ないから、満潮の間は地形とか調べながら歩く?」
 潮が引いて来たら貝を探して、探せなかった場所は後でもう一度来れば良い。
 三周くらい回ったら全部調べられるんじゃないかな…どれくらい時間がかかるのか、見当も付かないけど。
「正直道中一泊挟んでも回り切れるか不安な所だが」
 智美が軽く肩を竦める。
「ここで潮が引くのを待ってても仕方ないだろう、行くぞ?」
 後で疲れたら肩車でもしてやるから。

 歩いて、掘って、歩いて、掘って。
「島を回るって楽しいかも」
 でも、時間はあっという間に過ぎて行く。
 やがて日は落ち、町の明かりが届かない海岸線は深い闇に閉ざされる。
 ペンライトで足下を照らしても、そろそろ限界だった。

「途中切れが気になるならGWか夏休み再挑戦しろな」
 潮干狩りマップの完成は、まだ先の事になりそうだ。


●新七不思議、その2

 学園の敷地内、そのどこかに不思議な木があると言う。
「それが、この木だ」
 詠代 涼介(jb5343)は何の変哲もないその木を見上げ、語り始めた。
 聞き手は引率をサボった――いやいや生徒の自主性に任せて後方支援に徹する門木と、その後ろで金魚のナントカ状態になっているシグリッド=リンドベリ(jb5318)の二人だ。
「これの下で告白すると必ず成功すると言う伝説が…ないか」
 ないのか!
「いや、以前たまたま、転入生に学園の紹介を頼まれて…」
 その時は彼自身も新入生で、学園の事など殆ど何も知らなかった。
 とは言え、折角…恐らくは勇気を振り絞って声をかけた相手に対して、他を当たってくれとは言いにくい。
 それで仕方なく適当に想像でデタラメを並べてみたのだが。
「まあ、軽い冗談でな」
 え、断るよりもタチが悪い?
 まあ確かに周囲のウケは悪かったし、総ツッコミを喰らったけれど。
 しかし当の本人は喜んでいた、と思う、多分。
「他にも学園の地下に人造撃退士の研究施設があるとか、どこかに異界に通じるゲートがあるとか、色々あったんだがな」
 しかし全てがデタラメではない。
 その中のひとつ「異界に通じるゲート」は恐らく実在する。
「その場所で居眠りした奴が異界に飛ばされる夢を見てな。目が覚めたら夢で手に入れた物を実際に持っていたそうだ」
 それは実在の証拠になると思わないか?
「ひとつでも本当の事があるなら、実は全部本当かもしれないだろ?」
 ならばそれをコンプできないかと探しているのだが。
「門木先生、人造撃退士に興味あったりは…?」
 ないないない。
「そうですか…仕方ない、他を当たってみるか」
 そして彼は旅立った。
 果てない浪漫を夢見て。

 その後、学園で彼の姿を見た者は――いや、ちゃんと帰って来ましたので、ご心配なく。


●TERRIBLE MEMORIES

 長田・E・勇太(jb9116)は普通にピクニックを楽しんでいた。
 楽しんでいるつもり、だった。

 しかし。

(ピクニックとは、行軍演習のことネ)
 軍隊脳である。
 故に軍隊装備一式を持ち込んで行軍を開始する。
「エーリカ、ユーも一緒に来るネ」
 フェンリルをお供に、重い背嚢を背負い、V兵器ではない無骨な銃を捧げ持ち、道なき道をひたすら歩く。
 アメリカ陸軍の公式軍歌を口ずさみながら(ただし大人の事情につき、残念ながらその歌声は収録出来ませんでした)、藪をかき分け、川を渡り、泥の中を匍匐前進し――

 そうしているうちに、かつての記憶が脳裏に蘇って来た。
 訓練という名のシゴキ、口の中に広がる血と泥の味。
 歌声が止まる。
 その瞳に映るのは、今目の前にあるこの現実ではない。
 膝が震え、腰が砕けた。

「ちっ まだ忘れキレていないのか…嫌な記憶ほどメモリーに残りやがる…」

 呟いて、それを振り落とす様に頭を振り、立ち上がる。
 震える膝に活を入れ、下腹に力を込めて再び歌い出した。

 そして歩く。
 ひたすら歩く。

 帰り着いたら、精神安定剤の世話になる必要があるだろう。
 もう、縁が切れたと思っていたのに――


●新七不思議、その3

 ジョン・ドゥ(jb9083)は島に生息する動物達と戯れに来た。
 しかしそんな動機では遠足への参加を認められないかもしれない。
 そこで。

「実は俺には『地球をどうぶつ王国で征服する計画』という恐ろしい野望があったのだー」
 棒読みである。
「そしてこの計画の土台を磐石にする為、久遠ヶ原内でどうぶつ王国を作れるか下見に来たのだー」
 実に清々しい程の棒読みっぷりである。
「…みたいな建前にしておけば良い?」
 え、そんな怖ろしい野望は断固阻止する?
 普通に「もふもふと戯れたい」で良いの?
 なーんだ。

 ではまず手始めに、近所の野良猫逹と触れ合ってみよう。
「ほーら高級猫缶だぞー」
 身の丈ゆうに2mを超す獅子のごとき紅い悪魔が、背中を丸めて猫達を手招きする。
 お散歩中のわんこも、スズメもカラスも寄っといでー。

 しかし、そんな身近な動物達も良いが、まだ見ぬ珍獣を探す浪漫も捨て難い。
「未踏の地にこそ何かいる、道無き道を突き進んでこそ遠足!」
 道なき道には道を作り(物理)邪魔するものは透過で抜けて、深い谷も翼でひとっ飛び。
 そして見付けた。
「む、この足跡は!」
 もしや島の最深部、前人未踏の密林にのみ生息するという誰も見た事がない珍獣、クオラーのものでは!?
 誰も見た事がないのに何故わかるというツッコミはナシだぞ!
「記録係、これを映像に――」
 あれ、いない。
 置いて来ちゃった?
「つまり今、俺は自由だ!」
 偶には良いよね、こういうのも。
「クオラーを探すぞ、そしてこの久遠ヶ原の全動物と触れ合うのだ!」

 その念願が叶えられたかどうか、それはわからない。
 ただ、久遠ヶ原の不思議として「謎の紅い獣王」の存在が書き加えられた事をここに記しておく。


●楽しい遠足

「探検♪ 探検♪」
 白野 小梅(jb4012)はオレンジ色のジャンパーに颯爽と袖を通した。
 その背中には黒い極太マジックで「○曜エンターテイメント」と書かれている。
 服に落書きするなって? 安物だから気にしない!
「いざ出発しんこー!」
 だが目的地はない。
 強いて言えば何か面白いものがある所、それが目的地だ。
「迷わずいけよ、行けばわかるさなのぉ!!」
 まずは散歩中のどこかの猫の後を付いて行ってみる。
 道を渡って垣根の隙間から民家の庭に入り込み、塀に上がって屋根を伝い――
「あれ、見えなくなっちゃったの」
 仕方ないから下に降りて、足の向くまま気の向くままに、ずんずん歩く。
「んー、どっちに行こっかなー」
 さっき拾った棒きれを投げて、倒れた方へずんずん歩く。
「あーるーけー♪ あーるーけー♪」
 大人の事情につき一部改変された歌を高らかに口ずさみながら、どこまでも。
 ここがどこかなんて、そんなの気にしない。
 きっと先には面白いことがあると信じて迷わず迷う!

「不思議たくさん、島を探索するのですー」
 逸宮 焔寿(ja2900)はウサミミにアリス衣装、マジカルステッキをぶんぶん振って元気に歩く。
 手にしたカゴにはおやつとお弁当。お気にのうさぬいちゃん――ホワイトラビットのぬいぐるみポシェットも、もちろん一緒だ。
 学校行事に参加するのは去年の冬に海に行って以来かも?
 冬に海、うん、間違ってない。だってここは久遠ヶ原だもの。
「久しぶりだけど、全然変わってないのですー」
 足取り軽く、ピョコピョコピョン☆
 学校を出て商店街を抜けて、ここはどこ? 森の中?
「緑が綺麗なのですー」
 鳥の囀りに囲まれて、新緑の香りがする空気を胸一杯に吸い込んで。
 暫く歩くと視界が開け、空の青さが目に飛び込んで来る。
 目の前には丈の低い草が生えた草原が広がっていた。
「お花畑なのですー」
 と、視界の隅を真っ白なもふもふが素早く横切って行く。野ウサギだ。
「うさぬいちゃん、お友達ですよ?」
 脅かさないように、そっと後を付いて行ってみようか。
「何処かにふしぎの国への入り口が、あるかも? ないかなぁ?」

 ふしぎの国は見付からなかったけど、ふしぎな子には出会ったよ!
 ピョコピョン跳ねて、出会い頭にぶつかったのは変なお面を被った女の子。
「あっ、ごめんなさいー、大丈夫ですかー?」
「ボクの方こそゴメンなのね、うん大丈夫!」
 お面の下は小さな可愛い女の子。
「これ、そこでお面の絵付け体験やってたの」
 じゃあ、それってお手製?
 ごめん変なお面とか言っちゃった。
「ちょうど良かったのです、お昼をご一緒しませんかー?」
「そうだね、ボクもお腹ぺこぺこなの!」
 お弁当は持って来てないけどね!
「じゃあ半分こしましょ、いっぱい作って来たのですよー」
 おにぎりにサンドイッチ、おかずも色々盛りだくさん。
「ならボクはお菓子を提供するのよ」
 じゃんけん大会で貰ったキャンディと、なわとびの世界記録に挑戦した参加賞のチョコ、季節外れの肝試しで取って来たお供え物のおまんじゅう、潮干狩りで採ったアサリ…はこのままじゃ食べられないか。
「今日はあちこちで、色んな楽しいことに出会ったのよ」
 一緒にお昼を食べて、暫くお喋りを楽しんだら、二人は再び別々の方向に歩き出す。

「あの子、もしかして妖精さんだったのかな?」

「あのお姉さん、またどこかで会えるといいな」

 お互い名前も訊かなかったけれど――


●新七不思議、その4

 不良中年部の部室として使われているプレハブの建物。
 そこには、かつて部の設立時に発掘された謎の設計図が眠っていた。
「いよいよ、こいつが日の目を見る時が来たな…」
 部長、ミハイル・エッカート(jb0544)は厳かにその図面を広げる。
「こいつを見つけてから三年半、俺もこの学園の地理にはずいぶん詳しくなったと自負しているが…それでも、こんな建物は見た事がない」
 よって、実在したとしても学園の地図には載っていない可能性が高い。
「これは…高校の部活棟か大学の研究棟に似ているな」
「学生寮っぽくも見えるけど」
 不知火藤忠(jc2194)と不知火あけび(jc1857)がミハイルの左右からそれを覗き込み、鏡に映った様に同じ角度と向きで首を傾げる。
「図面のどこかに承認欄はないか? それがあれば、作成者や承認者の印がある筈だが」
「んー、これかなあ?」
 あけびが指さした所には、薄れて消えかけた日付印が押されていた。
「2、0、0…?」
 それ以上は読めない。
 しかし、その図面が2000年代に書かれたものである事は間違いないだろう。
「この時期に学園の工事を請け負っていた業者を探せば、何か手がかりが見付かりそうだな」
「おお、さすが姫叔父あったまいい!」
「その名で俺を呼ぶな、と言うか何か馬鹿にされている気がするのだが?」
「そんなことないよ、気のせい気のせい」
 と、掛け合い漫才は置いといて。
「ちょっと二人で調べて来ます! 場所の見当も付かないんじゃ、さすがに見付けにくいですもんね!」

 というわけで、建物の大体の位置が判明した。
 やたら早いのは時間の都合だ。

「やはり養成学園時代の物だったか」
 ミハイルは校舎の屋上に上がり、廃墟の方角に目を凝らす。
 例のゲート出現とその後に続いた悲劇がなければ、学生寮として使われる予定だったらしい。
 だが建設は途中で放棄され、今その場所がどうなっているのか誰も知らないと言う。
「探検にはもってこいの場所だな」

 場所の当たりを付け、部室に戻ったミハイルは部員達に招集をかけた。
 集まったのは好奇心溢れる四人の仲間達。
「廃墟探検…これはいくしかないの!(かっ」
「探検だなんてわくわくしますね、楽しみましょう」
 橘 樹(jb3833)は未知なるキノコを求め、真里谷 沙羅(jc1995)はちょっぴり引率気分で。
「あ、そうか。沙羅さんは元先生ですもんね!」
 あけびが声を弾ませる。
 沙羅がいてくれれば心強いし、メンバーは気心の知れた仲間達。
 これは楽しい事になりそうだ。

「わしはちょっと、上から調べてみるんだの」
 樹は空に舞い上がると、持って来た設計図と地表を見比べて、それらしい建物――の跡を探す。
 それに、敵がうろついていないかも確認する必要があった。
 廃墟のゲートは未だ沈黙せず、時折思い出した様に天魔の眷属を吐き出して来る。
「不意打ちは勘弁なんだの」
 しかし上から見る限り、今のところ敵の姿は見当たらない。
 やがて前方に――

「あれか」
 半ば木々に埋もれる様にして、鉄骨の枠組みが空に聳えている。
 近寄ってみると、それは建築用の足場だった。
 内部の建物は一階部分のみ、型枠にコンクリートが流し込まれている。
 二階の床となる天井部分までは出来上がっているが、それは既に半分ほどが崩れて抜け落ちていた。
 そこから上はただ、鉄骨が剥き出しになっているだけだ。
「まるで巨大なジャングルジムだな」
 ミハイルは定礎板を探してみるが、見当たらない。
 その工程に至る前に工事が止まってしまったのだろう。
「ど、どうするんだの、入ってみるんだの?」
「当然だろう、探検しに来たんだからな」
 しかし、その前に。
「天魔の犠牲になった俺たちの先輩に敬礼だ」
 工事が完成していたら、ここは楽しい学園生活の舞台となっていた筈だ。
「無念は晴らすぜ」
 皆それぞれに祈りを捧げ、薄暗い一階部分に足を踏み入れる。

「生命探知に反応はありませんでしたが、気を付けて下さいね」
 沙羅が声をかける。
「どこか射程外に隠れているかもしれませんから…」
 その可能性を肝に銘じ、一行は慎重に歩を進める。
 建物の周囲には木や草が生い茂り、それに遮られて日光は室内まで届かない。
 暗視装備が必要なほどではないが、物の形が影に溶け込んで判別しにくかった。
「中は小部屋に仕切られてるのか」
 周囲の物音に耳を澄ましながら、ミハイルが闇に目を凝らす。
 中央に長く伸びた廊下の両側に、ずらりと個室が並ぶスタイルだ。
 内装はまだ手付かずの様で、出入り口にはドアもなかった。
 一行はそのひとつひとつを覗き込んでいく。
「暗いんだの…みな、絶対押さないでほしいんだの! 絶対であるよ!」
「わかりました、押せば良いんですね!」
 どーん!
「なんて、冗談ですよ?」
 押してないし触ってもいないと、樹の前に回ったあけびはその顔を覗き込む。
「お、驚いたんだの、心臓に悪いんだの」
 がくがくぶるぶる。
 あれ、もしかして腰が抜けちゃった?
「あけび、調子に乗るんじゃない」
 藤忠に言われ、あけびはひょいと肩を竦める。
「探検ってわくわくするね! 子供の頃を思い出すなー」
 小言に堪えた様子もなく、あけびは足取りも軽くさっさと奥へ進んで行く。
「うちが忍者屋敷だから、こういうの慣れてるんです」
「その油断が命取りになると、いつも言っているだろう」
「大丈夫ですよ藤忠さん」
 心配のあまり小姑の様に口うるさくなる藤忠に、沙羅が微笑みかけた。
「あけびさんも立派な大人ですし、私達も気を付けて見ていますから」
「ああ、すまん…」
 だが、それでもまだ心配そうにあけびの後ろ姿を目で追う様子が何とも可愛らs(げふん

 そのまま少し行った所で、あけびが立ち止まった。
「あれ、行き止まりだ」
「おかしい、図面ではまだこの先に何かある様子なんだが」
 ミハイルは沙羅が書き進めていた内部の地図と、手元の図面とを見比べてみる。
「この建物ではなかったのかの?」
 樹が首を傾げるが、他にそれらしい建物は見当たらなかった。
「でもこの壁、何かおかしいんです」
 あけびが言った。
「他とちょっと違うって言うか…作りが雑?」
「慌てて塞いだ可能性もあるな」
 藤忠が頷く。
「壊すか」
「そうですね、でもその前に…」
 沙羅が、その場にさっさとレジャーシートを敷き始める。
「少し休憩にしましょう、気が急く時ほど一旦落ち着いてみる事が大事だと思いますよ?」
 荷物の中から手作りのクッキーやカップケーキ、温かいお茶を取り出して。
「お腹がすいては何とやら…と言いますしね」
 流石の聖母様だった。

「廃墟ってなんか好きだなー…栄枯盛衰、みたいな?」
「しかし、ここはただの廃墟ではなさそうだぞ」
「人の手が入っているのは間違いないな」
「あの向こうには何があるのでしょう、何かに使えるような場所だと良いですね」
 そんな話をしながら期待に胸を膨らませつつ、腹拵えを終えた一行は奥の壁に向き合った。
 不意の襲撃に備えてミハイルが背後で銃を構える中、藤忠が壁を蹴り崩す。
 途端、カビ臭い匂いが溢れ出して来た。
「これは…!」
 樹の目がきらりと輝く。
「ここだけ全部、木造なんだの!」
 古い小さな建物が、コンクリの壁に塗り込められる様にして残されていた。
 何故? 何の為に? それをこれから調べるのだ。
 だが樹の意識は別の所に飛んでいるらしい。
「きのこは腐りかけた木に生えるんだの…」
 足を踏み出す度にミシミシと不気味な音を立てる床。
 部屋の中には何もない。
 ミハイルのサーチトラップにも何も引っかからなかった。
「何なんだ、ここは」
 藤忠も中央付近まで進み出てみる。
 と、そこに無音歩行で近付いたあけびが背後から――
「何をしている」
 あ、バレてた。
 しかし振り下ろされる手刀を、あけびははっしと両手で止める。
「真剣白刃取り!」
「くっ、いつの間にそんな技を――」
 しかし、その時。
「この匂い、これは…っ」
 くんくん、くんくん。
「間違いないんだの、幻のきのこキリノミタケなんであるのおぉぉぉぉっ!」
 ズボぉ!
 床が抜けた。
 樹は咄嗟に支えを求めてミハイルにしがみつくが、床の崩壊は止まらない。
 全てを巻き込み、闇の中へと崩れ去って行く。
 ただひとり、入り口付近で様子を見ていた沙羅を除いて。

「皆さん、大丈夫ですか?」
 沙羅の声に、ミハイルは上に乗っかった樹の身体をぺりっと引っぱがす。
「ああ、大丈夫だ…というか樹は飛べるだろう、何故俺を巻き込むんだ」
「はっ! そうだったの!」
 うっかり忘れてました、てへっ☆
「ここ、今までとは違いますね」
 あけびが周囲を照らすと、そこには机や椅子、本棚などが整然と置かれていた。
「誰かの研究室の様だな」
 藤忠の言葉に、樹は机の引き出しや戸棚を探ってみる。
「日誌等が見つかれば、当時のことがわかるかもしれないしの!」
 家捜しを初めて数分。
「ん? 何だこれは…」
 ミハイルがいかにも怪しげな装置に手を触れる。

『諸君、よくぞここまで辿り着いた!』
 装置から聞き覚えのない男の声が響いた。
『君達がこの音声を聞いている頃、私はもうキュルキュルガガガ――』
 ぼんっ!
 壊れた。モジャモジャになったテープが機械から飛び出している。
「ってカセットテープかよ!」
 時代を感じるな!

 結局、伝言の主は何を言いたかったのか、さっぱりわからなかった。
 しかし更なる家捜しの結果。

 一行は新たな設計図を発見した!

 詳細は待て次回!(あるのか


●久遠ヶ原どうでしょう

 さて皆さんお待ちかね、週に一度のお楽しみの時間がやって参りました!
 特設スタジオからお送りする久遠ヶ原どうでしょう、今週もいよいよスタートです!

「待って、何それもう恒例なの?」
 矢野 古代(jb1679)が助けを求める表情で仲間達を見る。
 でも知ってた、このメンツが集まった時点で正直ろくなことにならないって。
 矢野 胡桃(ja2617)、華桜りりか(jb6883)、アスハ・A・R(ja8432)、ゼロ=シュバイツァー(jb7501)…ほら、君にも見えるだろう楽しい未来が。
 特に後半の二人、彼等が揃うと大抵ヒドイ事になる――主に周囲が。

「さぁやってきました久遠ヶ原スイーツの旅…ってそんな訳あるかー!」
 ゼロの司会で始まった全国放送――って、これ電波に乗ってるの?
 しかも全国ネットって何?
「そりゃゼロさんのネットワークですから」
 はいはい細かい事は気にしない、気にしてると怖い人達に浚われちゃうよー?
 用意されたのは巨大な六面ダイスと、ホワイトボードに色々と書かれた判定表。
「待って、ねえ待って右腕」
 くいくい、胡桃はゼロの袖を引っ張る。
「どういう事? とりあえず、甘いものを食べさせてもらえるって聞いたのに」
 何故にこんなダイス旅になったかな?
「解せぬ 」
「これは中々にたいへんな気がするの…です」
 こくり、りりかも神妙な顔で頷いている。
 だがしかし。
「どないもこないもないやろ、どっからどう見てもスイーツの旅やで!」
 ゼロは揺るぎない態度でボードを指さした。
 そこに書かれているのは――

1:カレー(激辛
2:カカオ(調理時間5分
3:水
4:わんこそば45杯
5:マンゴータルト
6:大福

「このメンバーでスイーツを紹介、か…ふむ…」
 それを見て、どこからともなく胃薬を取り出すアスハさん。
 でもちょっと待って、それで良いんですか、これも見ても尚スイーツ紹介って言えるんですか。
「甘い物が三分の一もあれば充分、だな」
 寧ろゼロが主犯なのに、たこ焼きがない事の方が気にかかる。
「残念やったな、俺はたこ焼きだけの神やないんやで」
 他の神資格に関しては、目下絶賛取得を目指して検討中ということで。
「説明続けるで?」
 みんな大丈夫が、付いて来れてるか?
 ここからもっと加速するからな!
「1回目のダイスで食べ物を決めるやろ、で、2回目で誰が食べるかを決めると、こういう訳や」

1.ゼロ (訂正線)アメフラレ
2.へーか
3.アスハ (訂正線)アメフラシ
4.だいまおー
5.褌王
6.振直し

「って誰やこれ書き直したん!」
 記録係か、お前か。
 よーし、後で体育館の裏な?
 とりあえず今は説明を続けよう、何か質問は?
「ダイスは誰が振るのかしら、ね」
 それに順番も。
「そこはほれ、そこにおる記録係の仕事やな」
 だからどんな目が出ても、恨むなら記録係を恨むように。
「んむぅ、それじゃ狙った目を出すことは出来ないの、です…?」
 ダイスに細工してはいけない事になっているから、代わりに受け皿に細工したり、投げ方を工夫してみたりしてゼロさんを集中攻撃しようと思ったのに。
 それに何ですかこの大きなダイス。
「それはあれや、テレビ的な演出の都合やな」
 ちんまいダイスを手元でコロコロやっても映像的に地味ですから。
「なるほど…つまり、運否天賦…」
 せんせーアスハさんがなんかムズカシイこと言ってますー。
「運を天に任せるという事だ、な」
 ありがとう、べんきょーになりました!

 そして始まるガチバトル。
 まず最初のダイス目は――2のカカオだ。
 どこからどもなく湧き起こるゼロコールに、ダイスが空気を読んだ。
「二度目のダイスは1…って俺やな」
「カカオの調理なら、あたしが…なの」
 プロ級ですから、ええ。
 でもごめんなさい、どんなに良い腕をもってしても、調理時間が五分ではどうにもならないの。
 中途半端に加熱したから生より苦いかもしれないけど、いいよね?
「いや、りんりんの手は借りんで」
 悪魔力で良さげなカカオドリンクに――なりませんか、無理ですか。
 でも仕方ありませんね、自分で決めたルールですから、守りますよ、ええ。
 司会がズルしたら場がおかしくなりますからね?
 で、司会がルールを厳守するんですから、当然参加者の皆さんも…ね?

 はい次、マンゴータルト!
「甘いもの、ね」
「女の子に当たりますように…」
 胡桃とりりか、ついでにアスハが祈りを捧げる。
 アスハさんは甘い物が苦手なのだろうか、それとも女の子に食べさせてやりたいというヤサシサなのか。
 しかし甘味を避けたら残りは碌なものがない気がするのだけれど。
「当たらなければ、どうという事はない、な」
 レポート? 犠牲者の観察で充分だ。
 ダイスの結果は――2の胡桃さんでした!
「どうよ、これが日頃の行いの成果、ね?」
 ふふんと鼻を鳴らし、胡桃は甘いタルトをりりかと半分こ。
「分けてはいけないなんて、そんなルールはなかったわ、ね?」
 盲点だった。

 次、激辛カレーにアスハさん!
「…ちっ」
 何故だ、古代に当たるよう祈っていたのに、寧ろ大っぴらにコシロコールをかけていたのに。
 ノートに「ゼロ、+1」と謎のメモを残したアスハは、目の前に置かれたカレー皿を見下ろした。
「ふむ、見た目は普通に…カレーだ、な」
 匂いもカレーだ。
 具材は見えない。煮込みすぎて溶けたのか、最初から入っていないのか。
 それとも何らかの作用で分解されたのか。
 だが所詮はカレーだ、激辛と言ってもたかが知れて――
「…痛い、な」
 それが彼の、最後の言葉だった。
 味覚は死んだ、痛覚も死んだ、声帯も思考力も判断力も、クールなビジュアルも、全てが死んだ。
 そして全てが赤かった、あの頃のアスハが帰って来た。
 髪が赤く染まり、顔も真っ赤に、ついでに口の周りが倍ほどにも腫れ上がった状態で、再臨アスハはその手を天にかざす。
 炎の雨が、スタジオじゅうに降り注いだ。

 が、撮影は何事もなかったかの様に平気で続けられる。

「――碌な事にならなかった」
 やはりか。やはりそうなるのか。
 テーブルの下に身を隠した古代は、半ば捨て鉢な気分で開き直る。
 半分以上甘い物がないダイス表。
 女子勢は露骨にダイス目の捏造を狙ってるだろ、だって次もカレーだよ、当たったの俺だよ?
 ゼロはワサビのチューブ構えてるし、なにそれ罰ゲーム?
 雨が降らないかと上方を警戒していたのにやっぱり降られてるし。
「もうだめだ、こうなったら鼻からワサビを食うしかない、あのカレーよりはきっとマシひょばああああああああああああ辛さよりもツンとくる刺激臭の方がしんどおおおおおおおおああああんほおおおお!!!!!」
 古代は祈った、褌の神に祈った。
 どうかこれ以上の惨劇が起きませんようにと。
 罰ゲーム受けたんだから、もういいじゃない、古代さんのHPはもうマイナスよ!
 しかし無情にも、次のダイスも1−5だった。
 つまり古代にカレー。
「あ、食べなきゃダメですか、逃亡は認められませんか…」
 神は死んだ、もういない。

 でもこのダイスの出目、何かおかしくないですか?
 さっきから男性陣ばかりにヒドイものが当たってる気がするんですけど。
「気のせい、よ」
「なんやて、へーかがダイスに細工?」
「してない、わ」
 ゲームが始まってからは、ね。
「始まる前に仕込んでいれば、ルールの適用外よ、ね」
「そない屁理屈が通用すると思うんか?」
 鼻からワサビの刑やな!
「いや」
 右腕、殴られたい?
「それに、ここでは私がルール、よ」
 なんたって陛下ですから。
 そして大魔王という強い味方も付いているのです。
 しかし、その理屈は通じなかった。
「ワガママ言うんじゃありません!」
 インチキしたら「どうでしょう」の名に傷が付くでしょ!

 なお鼻からワサビは都合により放送出来ませんでした。
 だってほら、嫁入り前の娘さんですし?
 代わりに先ほどの古代パパの映像を流しておきますね!

 そんなわけでダイスを交換。
 はい次、わんこそば45杯はりりかさんですね!
「…がんばって、みるの…です」
 一杯にお蕎麦一本とかなら、行ける気がする、けれど。
「そんなんあるわけないやん?」
 ですよねー。
「…ごめんなさい、なの…」
 三杯目にして早くもギブ、しかしゼロは容赦ない。
「…(えぐ」
 誰か助けてと無言で訴えてみるけれど、皆の生温かい視線が痛いだけだった。
「あ…でも、おつゆをちょこそーすにしてはいけないとは、言われてないの…」
 ほら、これで蕎麦も立派なスイーツに!
「これなら、たくさん食べられるの…」
 それで良いのか。
 うん、良いなら良いんだ、それで。

 その後も収録は続きます。
 しかし残念ながら、そろそろお別れの時間となりました。
 今回お伝え出来なかった部分やNG集など、お宝映像をWEBで配信中!
 アクセスはこちら!(ありません


●留守番組の風景

 ここは科学室。
 普段なら昼夜を問わず、強化や改造を求める生徒達で賑わっているその部屋も、今日ばかりは訪れる者も少なく、しんと静まりかえっていた。
 今、部屋にいるのは門木とシグリッド、そして月乃宮 恋音(jb1221)の三人。
 恋音がここにいるのは緊急事態に備える為、言わばここが遠足のベースキャンプだ。
 どんな不測の事態が発生しても万全の対応が可能となるよう、あらゆる可能性を考えて準備を整えるのが彼女が選んだ遠足の過ごし方だった。
 それ以外にも各種手続きの窓口となったり、各人各グループの行動や行程に適した記録係を配属したり。
 参加に費用が必要なイベントも無料で楽しむ事が出来たのは、彼女が事前に支払い契約を結んでくれた為、らしい。
 イベント主催者は、後で学園に対して実費を請求する事になっていた。
「なるほど、だから潮干狩りとかも無料で出来るのですね」
 流石は月乃宮おねーさんと、シグリッドは尊敬の眼差しと共にお茶とお菓子を差し出した。
 今の所はどこからも連絡はないし、少しのんびりしても構わないだろうという配慮だ。
 これまでの中継を見るに、どう考えても緊急事態に該当する案件が二つや三つどころではなく発生している様だが、どの現場も沈黙を守ったままだった。
「トラブルは基本、自己責任で処理するように言ってあるからな」
 のんびりお茶をすすりながら、門木が言う。
 それに、いくら撃退士でも軽く死んでいそうな映像や、スキルに関する有り得ない効果を映したもの等には、演出として加工が施されているのだろう――と思いたい。

「…あのぉ…」
 午後まで待っても何もないと見て、恋音は遠慮がちに申し出た。
「…少し出て来ても、良いでしょうかぁ…連絡は取れるようにしておきますのでぇ…」
「ああ、構わないぞ、好きに遊んで来ると良い」
「…ありがとうございますぅ…何かあったら、すぐに呼んで下さいねぇ…」
 そう言い残して、恋音は図書館巡りの旅に出た。
 学園の図書館は、いくつかの分館から成る建物の集合体だ。
 その規模も学級文庫並から大きなビル丸ごとまで様々、蔵書の種類も多種多様。
 恋音の目当ては、その中でも希少価値が高い社会学系の資料、平たく言えば、他では滅多に手に入らない様な珍しい料理のレシピだった。
「…世に名の知れた料理は、殆どマスターしてしまいましたのでぇ…」
 遠くまで出かけるという点では、活字の世界を渡り歩くのも一種の遠足と言えるだろう。
 やがて恋音は一冊の本と運命の出会いを果たす。
 それはかつて、人間界の料理にハマって堕天したという、とある天使が書いたオリジナルレシピ集だった。

「で、お前はいいのか?」
 門木に問われてシグリッドはこくこくと頷く。
 花より団子、遠足より門木。
 やっぱり、ここがいい。
「お花見の時のお弁当ありがとうございました…すごくおいしかったのです」
「ん、そうか…良かった」
 ほぼ挟んで切って丸めただけだけどな!
「あの、邪魔でなければ、仕事のお手伝いしてもいいですか?」
「邪魔とか迷惑とか、言った事あるか?」
 そうなのだ、多分この人は本気でそう思っている。
「章兄の傍に居られるのが、ぼくはやっぱり一番楽しいです」
 顔を見たらふいに泣いてしまいそうで、最近避けていたけれど。
 でも、自分よりもっと泣きそうな顔に見えたから。
「嫌われたんだと、思ってた」
 ぶんぶんぶん、シグリッドはそうじゃないと首を振る。
「章兄と同じ「好き」になれるように、ぼくがんばりますから…」
 だから、ここに居たい。
「…ぼく、大人になったらせんせーと同じ仕事がしたいです」
 そうすれば、ずっと一緒に居られるから。
 具体的に何をどれだけ勉強すれば良いのか、そもそも募集枠があるかどうかもわからないけれど。
「戦いが終わったら、この仕事もなくなるかもしれないぞ?」
「ええっΣ」
 そ、その時はその時で…また考えます!


●新七不思議、その5

「はっ、ここは…」
 眩しい光に瞼をくすぐられ、ラファル A ユーティライネン(jb4620)は目を覚ました。
 しかし、自分の置かれている状況がわからない。
「俺は確か遠足に来ていて、そして…ず、頭痛が痛い」
 ここはどこだ?
 剥き出しの土には同心円状に波紋が広がり、その先には山が見える。
 いや、土が盛り上がって壁を作っているのか。
 すり鉢状の穴の底にいるような感じだが、学園にこんな場所があっただろうか。
「え、え、えー? なんっじゃこりゃー!?」
 いや、落ち着け。とにかく落ち着け。
 まずは見晴らしの良い所まで移動して、この全体像を把握――

「…って、これは…っ!」
 知ってる、月の表面にあるやつだ。
 クレーターって言うんだぜ――って、何で!?
 何が起きた!?

 ふと胸をかすめた嫌な予感を確かめようと、ラファルは義体のスキルメーターを確認する。
「自爆スキルが減ってるじゃねーか!」
 するとつまり、これは自分がやらかした?
 何一つ覚えてないんですけど。
 もしかして寝ぼけてた?

「よし、何があったか知らねーが、これを学園7不思議の一つ謎のクレーターに認定するぜっ」
 お前の仕業じゃねーかって言うツッコミは禁止だ。
 ついでに残り二つの七不思議も募集中だぜ!


●集合、そして

 それぞれに自分のミッションを終えて、生徒達が続々と学園に戻って来る。
「今朝の爆発、ラファルちゃんだったんだ! すごかったねー」
 そこでラファルの顔を見たあけびは、そう言って笑った。

「案内、ありがとだったなりねっ!」
 向こうでは譲治が記録係に礼を言っている。
 いいえ、どういたしまして。
「また、なのだっ!」

 食堂では、恋音が皆の夕食を用意して待っていた。
 メニューは勿論、例のレシピを再現したものだ。
「…お口に合うかどうか、わかりませんけれどぉ…」
 どうぞ食べていって下さいな。
 良かったら感想を聞かせて貰えると嬉しいのだけれど――


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:25人

赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
ヴェズルフェルニルの姫君・
矢野 胡桃(ja2617)

卒業 女 ダアト
W☆らびっと・
逸宮 焔寿(ja2900)

高等部2年24組 女 アストラルヴァンガード
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
撃退士・
矢野 古代(jb1679)

卒業 男 インフィルトレイター
きのこ憑き・
橘 樹(jb3833)

卒業 男 陰陽師
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
撃退士・
シグリッド=リンドベリ (jb5318)

高等部3年1組 男 バハムートテイマー
セーレの大好き・
詠代 涼介(jb5343)

大学部4年2組 男 バハムートテイマー
リコのトモダチ・
神谷 愛莉(jb5345)

小等部6年1組 女 バハムートテイマー
リコのトモダチ・
礼野 明日夢(jb5590)

小等部6年3組 男 インフィルトレイター
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
Cherry Blossom・
華桜りりか(jb6883)

卒業 女 陰陽師
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
大切な思い出を紡ぐ・
ジョン・ドゥ(jb9083)

卒業 男 陰陽師
BBA恐怖症・
長田・E・勇太(jb9116)

大学部2年247組 男 阿修羅
明ける陽の花・
不知火あけび(jc1857)

大学部1年1組 女 鬼道忍軍
Eternal Wing・
サラ・マリヤ・エッカート(jc1995)

大学部3年7組 女 アストラルヴァンガード
藤ノ朧は桃ノ月と明を誓ふ・
不知火藤忠(jc2194)

大学部3年3組 男 陰陽師
開拓者・
平野 譲治(jc2263)

大学部3年326組 男 陰陽師