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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:10人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/02/18


みんなの思い出



オープニング




 結論から言えば、その試運転は失敗だった。
 結界の端に設置された祭器は起動する気配さえ見せず、敵に気取られた一行は撤退を余儀なくされる。
「だから言ったんだ、お前じゃ駄目だって!」
 共に戦う仲間であった筈の一人が真っ先に逃げて行った。
 続いてもう一人、笑いながら逃げて行く者がいる。
「助けは呼んでやるよ、それまでせいぜい頑張って逃げ回ってな!」
 残された門木章治(jz0029)は祭器を回収し、その後を追って結界の外に出た。
 しかし。
「源さん!?」
 そこには、この試運転に一般人の試験台として参加した老人の姿があった。
「あの馬鹿共、自分達だけ逃げたのか――!」



 事の起こりは、門木が祭器の試作に関わった事にある。
 敵を攻撃する為の武器ではなく、結界の効果から人々を守る装置を作る為なら協力しても良い――いや、積極的に協力したいと、そう思った。
 頭脳労働と手先の器用さなら誰にも負けない自信がある。
 それに元々、時折ではあるが無尽光研究委員会から依頼を受けて、その仕事を手伝う事もあった為、技術や装置の扱いに関しては全くの素人でもない。
 この機にそれを本格的に学び直し、先日採取した隕石の欠片を使って試作品を作り上げるのに、大した時間はかからなかった。
 そればかりか従来よりも少し小型で、性能も多少はマシなものを作ったのだから、感謝されて然るべき、なのだが。

 出る杭は打ち壊す。
 それがこの国の伝統であり、美徳とされるものだった。

「何だあいつは? 強化担当だか何だか知らんが、それなら自分の専門だけやっていれば良いだろう」
「だよなぁ、俺らの縄張りにまで踏み込んで来るなってんだ、自分で作れもしないくせに」
 そう不満を漏らすのは無尽光研究委員会のメンバーである二人の撃退士。
 彼等はこれまで地道な研究を重ね、漸く祭器の実用化まで漕ぎ着けた開発チームの一員だった。
 自分達が散々苦労して作り上げたものを、脇からひょいと手を出した部外者が横取りし、そればかりか改造を加えるなんて。
 例えそれが上層部の許可を得て行われたものであっても、それどころか上層部が自ら要請した結果であっても、現場のスタッフにとって面白い出来事であろう筈がない。
 門木が以前から手伝いに来ていた事は知っているが、外部の手や知恵を借りる事はそう珍しくない。
 いくら重要なアドバイスを受けようと、最終的に技術を確立させるのは自分達だ――そう思っていたからこそ我慢も出来た。
 我慢してはいたが、その程度でさえ気に入らなかったのに。
「なあ、今度の試運転……ちょっと失敗させてやろうぜ?」
「……いや、流石にそれは拙いんじゃないか? 試運転には一般人の参加者もいるんだし」
 この祭器は、発動に成功すれば支配領域内に及んでいる魂や精神の吸収、通信を乱す妨害電波などの作用や効果、及び結界を無効化する。
 だが吸収を阻害する効果は、一般人を被験者に据えない限り成否の判別が出来ないのだ。
「一般人ったって、委員会の爺さんだろ? 身内みたいなもんだし、それに身寄りのない年寄りの一人くらい、どうってことないさ」
「でも門木は?」
「あれも一応は天使だし、大丈夫だろ。それに、ほっといたって学園の連中が勝手に助けに来る……来なかったら、結局あいつは必要ないってことだ」
 そして彼等は門木の試作品にこっそり手を加えた。
 勿論、本人には気付かれないように、だ。



 装置のテストに被験者として志願したのは委員会で雑用を担当している老人、奥田源太――通称「源さん」だった。
「試運転には危険が伴うのでしょう? でしたら先のある若い人よりも、老い先短いこの老いぼれを使ってくださいな」
 老人はそう言って、穏やかに微笑んだ。
 事情を聞けば、彼は昔、天魔の襲撃で家族を全て失ったという。
 その後、天魔と戦う為に少しでも力になることが出来ればと、久遠ヶ原学園に事務職として勤務する傍ら委員会の仕事を手伝っていた。
「定年退職してからは委員会の雑用が専門で……まあボランティアみたいなものですが」
 万が一の事があっても、年寄りの命なら安いものだと彼は笑う。
「わかった、申し出は有難く受けさせて貰う」
 門木は言った。
「だが、源さんの命は同行する撃退士達が守る。例え実験が失敗しても、危険な目には遭わせない」
 だから安心してくれ――


 そう言ったのに。
 護衛を買って出た二人は真っ先に逃げて行った。
 他の者達はゲートから溢れて来るディアボロを抑えるのに手一杯で、とてもこちらに割く余力はない。
 それどころか、彼等の包囲を破ったものが多数、こちらに向かって来る。
「源さん、逃げるぞ。おぶされ!」
 そう言って、門木は老人に背を向けた。
 しかし。
「いや、お荷物はここで結構。あんた一人なら逃げ切れるでしょう……ほら、行ってください」
 老人はそう言って穏やかに微笑んだ。
 祭器を発動させる為には、天魔がゲートを開く為に使うのと同じ地脈エネルギーが必要になる。
 しかも今はまだ試作段階である為に並のエネルギー量では足りず、強い力を秘めた場所を探す必要があった。
 そんな場所には大抵既に天魔のいずれかがゲートを開き、しかもそこから出現するディアボロやサーバントは地脈の影響を受け、並のものよりも巨大化し、かつ強力になる。
 つまり、今この目の前にいるドラゴンは、かなりヤバイ。
 しかも敵は地上ばかりではなく、空にも現れ始めた。
「飛び上がった途端に狙い撃ちか」
 これは老人の言う通り、一人で逃げるのが利口な手かもしれない。
「だが、悪いな。俺は馬鹿なんだ」
 それに自分で自分の株を下げるような真似は出来ない。
「走るぞ!」
 小型化したと言っても、祭器はまだ持って走るには邪魔な大きさだ。
 それを捨て去り、問答無用で老人を掻っ攫う。
 近くにあった半分崩れかけの建物に飛び込んだ。
 これでとりあえず、空からも地上からも身を隠すことが出来た筈、だが。
「源さん!?」
 ふと見れば、老人が胸を押さえて顔を歪めている。
 心臓発作か。
 意識はあるし、呼吸も脈も乱れてはいるが問題ない範囲に思える。
 だが額にはうっすらと汗が滲んでいた。
 冷や汗が出るということは、狭心症ではなく心筋梗塞――より重度な症状である可能性が高い。
「源さん、今までに発作を起こした事は?」
「いや、これが……」
 初めてか。持病なら薬を持っている可能性があったのだが。
 AEDなど、こんな場所にある筈もないし――
「ですから、置いて……逃げてくだ、さ……っ」
「勝手に諦めるな!」
 あの二人、救援を呼ぶと言っていたが当てにはならない。
 ここはぎりぎり結界の外、通常の電波が届く範囲だ。
 門木は学園に電話を入れ、救急車の手配を頼んだ。
 後は老人の安静を保って待つだけだが――

「こういう時に限って、気付かれるんだよな……」
 ひとつ溜息を吐いて、門木は建物の中から飛び出した。
「こっちだ、トカゲ野郎!」
 今は自分が囮になって逃げ回り、時間を稼ぐしかない。
 幸い相手の動きはそれほど速くはなかった。
 かといって鈍いと言えるほど遅くもなかったが。



 その頃、先に逃げた二人組は――
「おい、このゲートにこんな奴が出るなんて聞いてないぞ!」
「調べたのはお前だろ、何とかしろ!」
 巨大な二体のドラゴンに回り込まれ、進退窮まっていた。
 インガオホー。



リプレイ本文

 彼等が到着した時、現場は怪獣映画のセットの様な有様になっていた。
 上空には数体の翼を広げたドラゴンが舞い、時折そこから光の線が地上に伸びる。
 その着弾点は僅かずつ移動している様に見えた。
 彼等がいる場所からはまだ遠く、地上の様子は見えないが、救援要請の内容から考えても敵が上空に見えるものだけとは思えない。
 その遠くの空には、更に多くのドラゴンが群れ飛んでいた。
「先に来てた部隊は、きっとあっちのたくさん群れてる方で戦ってるネ」
 長田・E・勇太(jb9116)が遠方に目を懲らす。
 となると、手前の小さな群れが門木を狙っている方か。
「章兄に傷付けたら許さないのですよ?」
 シグリッド=リンドベリ(jb5318)が若干病んだ目でその光景を見つめる。
 だが撃退士として優先すべきは、より危険度の高い方――要救助者の源さんだ。
 シグリッドはまず狼型の竜を喚び出し、その咆吼で周囲の仲間達を鼓舞する。
「新しいお友達、フェンリルのふーちゃんです」
 ネーミングセンスに関する苦情は受け付けておりません。
「可愛いと思うのですよ?」
 フェンリルが不満そうな顔をしている?
 気のせい気のせい。
「なんか面倒な状況ねェ、さっさと撤収してこの状況を終わらせてしまいましょうかァ」
 救出担当の黒百合(ja0422)がGPSで位置を確認する。
 門木が学園に連絡を入れた時の発信場所は二つの地点の中間あたり、要救助者はまだそこにいる筈だ。
「あくまで要救助者最優先だ、行くぞ」
 エカテリーナ・コドロワ(jc0366)の声で、撃退士達はそれぞれの持ち場に散った。


「カノン、兄様の事はお願いね」
 鏑木愛梨沙(jb3903)の言葉を待つまでもなく、カノン(jb2648)は既に飛び出していた。
(すんなりいくことばかりではないのが常ですが、こうも畳みかけるようにトラブルとは…)
 この件は機密事項であるらしく、カノンも実験の詳しい内容は聞かされていない。
 一般人が同行していた事も、連絡を受けて初めて知った。
 しかし、それなら普段以上に安全には配慮していただろうし、護衛の撃退士も連れていた筈だ。
 何か不測の事態が起きたとしても、ここまで酷い状況になる事は考えにくい。
 不幸な偶然が重なった結果なのか、それとも――

 先程の咆吼を聞かれたのか、新たな餌の出現に気付いたドラゴン達が彼等の元に集まって来る。
 中には単身で飛び出したカノンを追って行こうとするものもいた。
 それを阻止しようと、雨野 挫斬(ja0919)は自ら囮となって彼等の目を惹き付ける。
「さぁ! 私と遊びましょう!」
 救助の邪魔はさせない。
「こっちよ、ほらほら余所見しないで!」
 タウントに釣られない敵の首にはヴェルデュールの糸を絡め、強制的に振り向かせた。
 しかし、いくら地上で派手な動きをしても、空中の敵には効果が薄い様だ。
 何頭かのドラゴンが誘惑を振り切ってカノンを追う。
 だが彼等は何か見えない圧力を受けたかの様に、ふいにその速度を鈍らせた。
「誰の許しを得てその高みを飛ぶ? …弁えよ」
 上空から降るその声の主はフィオナ・ボールドウィン(ja2611)、竜の血を継ぐ者。
「数だけは多いな」
 フィオナは竜の瞳で眷属――いや、模造品を見下ろす。
「その姿でありながら、群れねばいかんとは…恥晒しが」
 竜とは孤高の存在、故に群れなすものを竜とは呼ばない。
 にも関わらず竜を名乗るとは、なんと烏滸がましい。
「貴様らの恥もろとも、存在を滅してくれよう」
 水平にかざした両刃の刀をドラゴンの群れに向けると、彼等はその威圧感にひれ伏す様に動きを鈍らせる。
 フィオナが手首を返した瞬間、周囲に赤く輝く魔力の球に幾振りもの同じ刀が投影され、目の前の敵に襲いかかった。
 真・円卓の武威――フォース・オブ・キャメロット。
 その刃を受けたものは、じわじわと迫る天蓋に押し潰される様にゆっくりと高度を下げていった。
 しかし相手も竜を名乗る、いや騙るだけの事はあると言うべきか。
 その一撃だけで完全に沈みはしない。
 懸命に高度を保ちながらブレスを吐き、反撃に出た。
「まだわからぬか、この我が貴様らにとって最大の脅威である事が」
 流石は爬虫類、あまり上等な脳味噌は持ち合わせていないと見える。
「ならば無理矢理にでもわからせてやろう…その本能に、消える事のない恐怖と共に」
 狩りは王たる者の嗜みだ。
 もっとも、あまり気乗りのしない余興ではあるが。
「案ずるな、果たすべき事は果たす」
 それが上に立つ者の務めならば。

「これは面倒なことになっているわね…実験で失敗するだけならまだしも、命の危険まで晒されていれば世話はないわ」
 卜部 紫亞(ja0256)はフェアリーテイルの魔法書を手に精神を集中、自らの魔法力を高める。
「こういうのは腹が柔いと相場が決まっているのよ」
 挫斬に気を取られて注意が逸れた一体に向けて、羽根の生えた光弾を撃ち込んでいった。
 が、弱点を狙われていると察したドラゴンは腹を隠す様に四つ足になる。
「弱点を把握して隠す程度の知能はさすがに持っているようね…まあ、私にはあまり意味が無いんだけど」
 意味がないと言うよりも、却って攻撃が当たりやすくなったと言うべきか。
 側面に回り込み、憎しみの腕でその身体を絡め取る。
「良い子だから逃げないでね…逃がさないけど」
 伏せた身体の下から土色の針山が飛び出し、その柔らかな腹を突き刺した。
 耳障りな声を上げ、鞭の様にしなる巨大な尾を振り回して、ドラゴンはのたうち回る。
 周囲の廃屋が粉々に砕かれ、辺りにその破片が飛び散った。

「これ、戦う場所に気を付けないと…もし近くに人がいたら、潰してしまうかもしれないのです」
 シグリッドが注意を促す。
 この辺りには誰もいない筈だから建物が壊れるだけで済むだろうが、要救助者に近い場所では気を付けなければ。
「助けに来たのに潰してしまった、とか…洒落にならないのです」
「わかっている、このままここで奴等を足止めするぞ!」
 エカテリーナは目の前で転げ回るドラゴンの頭にアサルトライフルの銃口を向けた。
 強酸性の消化液に変換された一撃は、その効果で硬い鱗を侵食していく。
 通常弾の追撃を受け、それは漸く動きを止めた。
 エカテリーナはその巨体の影に飛び込む。
「手頃なバリケードが出来たな」
 そこから迫り来るドラゴン達の白い腹に狙いを定めた。
 凝縮したアウルがロケット弾の様に射出され、腹の中で炸裂する。
 この調子で行けば、全てを掃討するのにそれほどの手間はかからないだろうと思われた。
 しかし、それなら先行した撃退士達が苦戦する筈もない。
「彼等も腕は確かだと聞いている」
 そうでなければ重要な実験の護衛を任される事はないだろう。
「油断は禁物だな」
 敵を侮る事のないよう、エカテリーナは改めて仲間達に注意を促した。

「ドラゴン退治…王道…ジャスティス…」
 ベアトリーチェ・ヴォルピ(jb9382)はアサルトライフルの連射で敵の注意を引き、自分に目を向けさせた。
 ドラゴンと言えばお姫様を浚い、その巣には沢山の金銀財宝を隠し持っているもの。
「助ける…勇者…ガンバルゾー…」
 え、助けるのはお姫様じゃなくて、お爺ちゃんと先生?
「…ガンバルゾー…」
 例え相手が誰だろうと分け隔てしない、それが勇者だ。
「救助活動…援護…ジャスティス…」
 向こうでは挫斬がドラゴン達を集めている。
 要救助者がいるのは、そのちょうど反対側だ。
「合流して…叩く…ジャスティス…」

 仲間の援護を受けた黒百合は、一刻も早く送り届けるという彼等の思いを受けて、一直線に要救助者のいる廃屋を目指した。
 送られて来たデータと照合し、場所の見当を付ける。
 物陰に隠れて辺りの様子を伺ったが、感知可能な範囲に敵の気配はなかった。
「崩れかけの建物…あれかしらねェ」
 建物の影から影へ、素早く渡り歩く。
 その途中で見慣れない奇妙な機械の様なものが目に入った。
 恐らくあれが例の、実験に失敗したという祭器だろう。
「余裕があったら、後で誰かに回収して貰うといいわァ♪」
 今は機械より人だと、黒百合は目の前に見えた建物の崩れた部分から中に飛び込んだ。
 人の気配がする。
 奥へ進むとその気配はますます濃くなり――
「あはァ、見ぃ付けたァ♪」
 小声で囁く様に言って、近付く。
 その人は薄暗い部屋の隅で、壁に背を預けて座っていた。
「…お嬢ちゃん…撃退士かな」
 黒百合の姿に気付いた老人は意外にしっかりした声で問いかける。
「あらァ、わりと元気そうじゃない?」
 そう答えた黒百合は老人の前に膝を付き、その様子を観察した。
 息は苦しそうだし、片手で胸を押さえてはいるが、それほど急を要する容体には見えない――というのは素人判断。
 とりあえず安全な場所まで担いで運ぶ程度の負担には耐えられそうだが、救急車はどこまで来ているのだろう。
 黒百合は学園に連絡を入れ、救急車の現在位置を教えてもらうように手配する。
 折り返し連絡が来るのを待ちながら、辺りに散らばる物で即席の運搬具を作り始めた。
 お姫様抱っこで走る事は問題ないだろう――腕力だけに限って言えば。
 しかし身体の大きさから、前では視界が塞がれそうだし動きも妨げられるだろう。
 いざという時に両手が使えないのも不安だ。
「やっぱり背負った方が安心かしらねェ」
 ところで、源さんは寝ていなくて大丈夫なのだろうか。
「ええ…この方が、楽なんですよ…」
 電話で救急隊員の指示に従った上での処置だと言う。
「あの先生、は…」
 大丈夫だろうか。
 動くなと言って飛び出して行ったけれど――

 その少し前。
 瓦礫の隙間から空を見上げていた門木は、敵の動きが変わった事に気付いた。
 どうやら救援が到着したらしいと、ほっと一息――
「そんな暇もないか」
 隠れ場所のすぐ脇で、瓦礫が弾け飛ぶ。
 地上型が邪魔な建物を片っ端から尻尾で壊しているらしい。
 破壊の波に追われる様に、建物の外に飛び出す。
 しかし、その真上に巨大な影が落ちて来た。
 ドラゴンが大きく口を開き、その奥から光が溢れて来る。
 避ける暇はなかった。
 しかし恐怖は感じない。思い出が走馬燈の様に甦る事もない。
 何故なら――
「ナーシュ!」
 声と共に光の波が空を裂き、衝撃波がドラゴンの巨体を弾き飛ばした。
 その隙に門木は声のした方へ走り、まだ形を留めている建物に飛び込む。
 白い翼がそれに続いた。
「カノン、ありがとう…流石、頼りになる」
 息を整えながら、辺りを伺う。
 救援部隊に釣られて離れたものもいたが、まだ上空に二体、地上に三体が残っていた。
「源さんは?」
「大丈夫です、おそらく今回のメンバーで一番実力者の方が向かうことになっていますから」
 今頃はもう安全が確保されているだろうし、援護に当たるメンバーにも手練れの者が顔を揃えている。
 攻撃があまり得意では無い自分が行けば、足を引っ張る事になりかねなかった。
 でも、ここなら自分の存在を最大限に活かせる。
 私情が全く入らなかったとは言えないだろうが、優先順位は間違えていない筈だ。
 間違えていたら、きっと追い返される。
 撃退士として、それは違うと言われる。
「行きましょう、ナーシュ。囮をやるなら一人よりも二人の方がいいでしょ? 片翼よりも両翼になるんですから」
「そうだな」
 ただ、要救助者から目を逸らす為の囮はもう必要ないだろう。
「では他に竜と戦う皆さんの所へ彼等を連れて行きましょう。私一人では捌ききれませんが、かといって放っておく事も出来ませんから」
 仲間達の中に放り込めば、きっと獲物に襲いかかる人食い魚に様に、あっという間に片付けてくれるだろう。
「余裕はないので、ナーシュ、私が注意できないところはお願いします」
「わかった」
 ただ、ひとつだけ良いかな。
「今は仕事中、な」
 その名前は封印しておこう――他には誰も見ていないし、聞いていないけれど。
「帰ったら、いっぱい呼んで?」
 頬におまじないのキスをして、門木はその背を信頼の翼に預けた。

 一方、ベアトリーチェも追い付かれそうで追い付かれない微妙な距離感を保ちながら、地上のドラゴン達を引き連れて走る。
「焦らしプレイ…ジャスティス…」
 たまに炎のブレスを浴びてやるのも彼等の注意を逸らさない為だ。
 決して避け損なったわけではない。ないよ?
「少しは達成感…与えないと…飽きる…」
 焦らして煽って、間違っても要救助者に影響が及ばない場所まで引き離す。
 高速召喚でフェンリル召喚、直後にインパクトブロウで奇襲をかけた。
「本格的…反攻…開始…ヤッチマエー…」
 やる気なさそうなのは口調だけで、本人は多分やる気満々…だと思います、多分。
 不意打ちを受けたドラゴン達は腹部を庇う間もなく攻撃を喰らい、後ろに弾き飛ばされた。
「ぼくも頑張ってあのでっかいトカゲを刻まないと…」
 ベアトリーチェが喚び出したフェンリルの隣にもう一体、シグリッドのフェンリルが並ぶ。
「ふーちゃん、アイアンスラッシャーなのです…!」
 狙いはこちらを向いたドラゴンの腹部、命令と同時に真空波が一直線に走り抜けた。
 しかしベアトリーチェの攻撃で警戒モードに入った彼等は四つ足を付き、背中の鱗でその攻撃を凌ぐ。
「でも全然効いてないわけじゃないのです…! 多分、ですけど」
 いくら硬い鱗でも、何度も叩けば割れる筈。
 割れなかったら引っぺがす。
「わんこ二匹…連携…ジャスティス…」
「じゃあ次は一緒に攻撃するのですよ…!」
 せーの、インパクトブロウ&アイアンスラッシャーで…ファイなるアタック、とか?
 いや、ほらインパクトブロウの攻撃が円形の範囲で、アイアンスラッシャーが真っ直ぐガーッて行くから、丸に縦線でギリシア文字の「Φ」みたいだなーって。
 駄目でしょうか、そんなネーミングは。
「ノット…ジャスティス…」
「ぼくのセンスも自分で酷いと思いますけど、もっと上がいたのです…」
 おっと、シリアルに足を突っ込んでいる場合ではなかった。
 四足歩行になったドラゴン達が、頭を低くした姿勢で突っ込んで来る。
「体当たりする気かしら」
 紫亞は間近に迫る一体の突進を素早くかわした。
「でも当たらないわよ、そんなもの」
 その直後、死角から飛び出した一体が炎のブレスを吐く。
 だが、紫亞はマジックスクリューの風に巻き込み、それを吹き散らした。
「その頭、少しは中身も入ってるのね。頭突きに使うしか能がないのかと思ってたわ」
 とは言え、それ以上の複雑な思考が出来るとは思えない。
 その足元にフェアリーテイルの光弾を撃ち込みつつ、隙を狙って束縛を試みる。
 動きを止めたらアーススピアで下から一撃。
「それにしても数が多いわね」
 一対一ならさほど苦戦する事もないだろうが、こちらが一手打つ間に三手も四手も打たれては流石に消耗も激しくなる。
 もう少し手が欲しいところだが、上は上で飛行型の対処に手一杯だった。

 スレイプニルのカチューシャを喚び出した勇太は、その背に乗って地上10mの高さに浮かぶ。
 そこからショットガンで上を飛ぶドラゴンの腹を狙った。
「ユー達のウィークポイント、丸見えだネ」
 上から降って来る光線の回避はカチューシャに任せ、勇太は射撃に専念する。
 とは言えスレイプニルの飛行能力とショットガンの射程では、相手に高度ぎりぎりの高さまで飛ばれたら手が届かなかった。
「あたしが引き付けるから、攻撃をお願い!」
 その声に上を見れば、盾を構えて防御を固めた愛梨沙がドラゴンの鼻先を掠めて飛んでいる。
 吐き出すブレスを真っ正面で受け止め、挑発しながら高度を下げる。
「いいよ、もう少しネ」
 射程に捉えたところで、勇太が下からショットガンを放った。
 更に地上からもアサルトライフルの攻撃が飛んで来る。
 弱点に連続攻撃を受けたドラゴンは、腹を上にしてゆっくりと落ちて行った。
 そこに上から愛梨沙が駄目押しの矢を放つ。
 まだ息があったとしても、後は下の仲間に任せれば良い。
「飛行型は地上じゃ動きが鈍いと決まってるネ」
 というのは希望的観測だろうか。
 しかし、そうでなくても恐らく大丈夫だ。
「下は、おっかねー女の見本市ダナ」
 だからきっと何とかしてくれる。
 いや、おっかねー女は上にもいた、と言うか上にいる彼女が最もおっかねーのではなかろうか。
 フィオナは悠々と飛び回るドラゴン達を煽る様に素早く飛び回っていた。
 上下左右の動きを駆使し、或いはどれか一体の背後に隠れて同士討ちを誘う。
 数を集めたところで惜しげもなく円卓の武威を示し、纏めて地獄の底ならぬ地上へ叩き落とした。
「…ああ、仕留めた竜がどこに落ちるかなどは勘案しておらんからな。避けろ」
 言ったそばからドラゴンの巨体が勇太のすぐ脇を掠めて落ちて行く。
 もっとも非戦闘員がいない方へ誘導してから落とす程度の配慮はするが――下にいるのが戦闘員なら遠慮は無用。
 配慮する暇があれば一体でも多くの敵を落とすべし。
「もう全部あいつ一人で良いんじゃネ?」
 その結論に至った勇太は地上に降りて、おっかねー女達の加勢に入った。
 約一名、男子がいるけど気にしない。
 フェンリルのエーリカを喚び出し、アイアンスラッシャーを命じる。
 これでフェンリルが三体。
 アイアンスラッシャーのデルタアタックとか出来そうな気がするんだけど…あ、はい、横道に逸れてはいけませんね。
「でも三方向から同時に攻撃するのは、かなり効きそうな気がするのです」
 技の名前はともかく、とシグリッド。
「物は試し…挑戦…ジャスティス…」
 ベアトリーチェは使い切ったスキルをアイアンスラッシャーに交換、一回しか使えないが残る二人も状況は同じだった。
「えいえいおー…」
 やる気のなさそうなブレイブロアで士気を上げ、三人はそれぞれのフェンリルに命じる。
 三箇所に散った三体は、鋭い真空波を同時に放った。
 三角の檻に閉じ込められ逃げ場を失ったドラゴン達の鱗が削れ、剥がれる。
 更に、距離を詰めたシグリッドがサンダーボルトの連発で麻痺を狙うが、一発撃ったところで召喚の時間が切れてしまった。
 しかし何体かは動きを止めたものがいる。
 そこを狙ってエカテリーナがアサルトライフルを撃ち込み、紫亞が光弾をねじ込んだ。
 勇太もショットガンでダメージを与えていく――フェンリルの名前、その由来となった軍歌「エーリカ」を口ずさみながら。
 だが彼等もそう簡単に倒れはしない。
「タフだな」
 アウルの銃弾を浴びせながら、エカテリーナが呟く。
「しかも諦めが悪い」
 その資質は戦士にとっては重要なものだ。
 しかしそれが敵に備わっていた場合は厄介な事になる――今がそれだ。
 救出が完了するまでは乱戦にならないように注意していた筈が、既に乱戦どころか混戦模様。
 多勢に無勢な上に、要救助者から注意を逸らす為に派手に立ち回る必要があるというこの状況下では、それも仕方がないか。
 だが、その時――

「加勢します!」
 先行していた八人の撃退士が姿を現した。
「向こうは片付いたの?」
「はい、皆さんの方に大部分が惹き付けられたお陰です!」
 挫斬の問いに答えが返る。
 しかし駆けつけてくれたのは良いが、彼等の多くは満身創痍だった。
「アスヴァンはいないの?」
「いますが、もうスキルを使い切って…」
 こちらのアスヴァン、愛梨沙はまだ空だ。
 彼女が戻るまで、他に回復が出来る者はいない。
「ばらばらに戦ったらやられるわ。纏まって戦いましょう」
 挫斬はタウントをかけ直す。
「こっちに気を取られてる隙に横から攻撃して!」
 攻撃は最大の防御、数を減らせば被害も減る。
「でも怪我が酷い子は無理しちゃ駄目よ、下がって!」

 そこに黒百合からの連絡が入った。
『準備が出来たわァ、通り道は開けておいて貰えたかしらァ?』
「開いてるわ、開いてなくても開けるけどね!」
 挫斬が答え、エカテリーナが先行組に指示を出す。
「彼等が途中で襲われぬよう警戒とエスコートを頼む」
 進路上の安全は確保した筈だし、ここの敵も漏らす気はないが、念の為だ。
「まずは民間人の安全確保よ。届け終えたら戻ってくれたら嬉しいな」
 挫斬が付け加える。
「怪我が酷い子はそのまま救急車で帰っても良いけど…あれ、そう言えば先生とカノンちゃんは?」
 まだ逃げ回っているのだろうか。

「こっちだ!」
 二つの影が廃屋から飛び出す。
 上空で待ち構えていた二体のドラゴンがすぐさま反応した。
 追い付かれ、ブレスの射程に捕らわれそうになった瞬間、二人は別々の方角へ散る。
 カノンはドラゴンの腹の下に潜り込む様に上へ、門木はわざと目立つ様に脇に逸れた。
 それに釣られて方向転換した一体の腹に下から光の波が叩き込まれる。
 続いてもう一体を斜め上から弾き飛ばし、カノンは地上に降りた。
 そこに地上型の三体が近付いて来るが、ここは逃げるが勝ちだ。
 ブレスの射程外ぎりぎりの距離を保ちながら、二人は仲間達の元へ急ぐ。
 体制を立て直した飛行型がその後を追おうとする。
 しかし、直後。
「ほう、まだ飛べるものがおったのか」
 上空から重圧感を伴う声が降って来た。
「下におる者、どかぬと纏めて押し潰すぞ」
 その声が終わらないうちに、周囲には高重力場が形成される。
 殆ど同時に投射された刃が上空から降り注いだ。
 二人の位置は射程からは外れていたが、その代わりに撃ち落とされたドラゴンの巨体が真上から降って来る。
 カノンはいつもの癖で盾を構え、防壁陣を発動するが――
「いや待て、無理だろ!」
 それは重量物を受け止めるスキルじゃない、多分。
 間一髪、門木はカノンを掻っ攫って逃げた。
 良かった、逃げ足だけは鍛えておいて。
 しかし安心するのはまだ早い。
 背後からは未だ無傷の地上型が三体、着実に距離を詰めて来ていた。
「章兄、詰めが甘いのです…」
 その声と共に放たれるバスターライフル、アウルの弾丸が頭の脇を掠めて行く。
 一発、二発、三発、全ての攻撃がドラゴンの腹に命中した。
「今のうちに、こっちに来るのですよ」
 シグリッドが遠くでライフルを構えている。
 その目の病み具合が更に深化している様に見えるのは、きっと距離のせいで錯覚が起きているのだと思いたい。
「ほら早く、こっちは私達に任せて!」
 走り出した門木達と場所を入れ替わる様に、挫斬が飛び込んで来た。
 追撃の火炎をシールドで受け、ワイヤーを足に絡めて移動の阻害を狙う。
「ん〜私じゃお腹は狙えないわね。皆任せた! その代わり盾役は任せて!」
 その後ろから走り込んで来たフェンリルが横っ飛びに回り込み、ドラゴンの脇腹に牙を立てた。
 鱗は硬いが背中ほどではない、フェンリルは牙を突き立てたまま頭を振り、その肉を食いちぎろうとする。
 その隙を狙ってベアトリーチェがアサルトライフルを撃ち込んだ。
 残る一体には紫亞が光弾を連発し、炎をマジックスクリューで吹き散らしたところに、愛梨沙が審判の鎖を放った。
 移動を封じたものはひとまず放っておいて、最後の一体も審判の鎖で縛り付けた。
「これなら私にも狙えるわね!」
 挫斬は背後に回り込み、持ち替えた戦槌を振りかざす。
「硬い鱗って、打撃には案外弱かったりするのよね」
 その言葉通り、ドラゴンの鱗は僅か一撃で粉々に打ち砕かれた。
 こうなれば後はもうどんな攻撃も効くだろう。

「それじゃ行くわよォ♪」
 老人を背に負った黒百合は、予め目星を付けておいたルートを一目散に走り抜けた。
 空を飛ぶ恐怖で心臓に更なるダメージを与える可能性がある為、翼は使わない。
 飛行よりも揺れは激しくなるだろうが、救急車だって相当に揺れるものだ。
「少しの間だから、我慢してねェ」
 仲間達が引き付け、あらかた倒してくれたお陰で、前にも後ろにも敵の影はない。
 ルート上には警戒と目印を兼ねて、先行の撃退士達が誘導灯の様に並んでいた。
 その脇を風の様に駆け抜け、黒百合は救急車が待つ道路脇に辿り着く。
「きゃはァ、学園最速の足に追い付きたいなら天使や悪魔クラスを呼ぶ事だわァ♪」
 もしかしたらこのまま走った方が救急車より速く病院に着けるかもしれない――というのも冗談に聞こえない程の速さだった。
 が、まさか本当にそのまま担いで行くわけにもいかない。
 黒百合は老人を背から下ろし、救急隊員の手に預けた。
「それじゃ、後は任せるわねェ」
 これにて任務完了、お役御免――と思ったら。
「ここはまだ危険地帯ですし、護衛として同乗して頂けませんか」
 そう要請されれば、断る理由もない。
 怪我の酷い二人の撃退士も共に乗せ、救急車は静かに現場を離れて行った。


「救助完了か、これで心置きなく敵を叩き潰せるな」
 報告を受けて、エカテリーナが頷く。
 もう周囲の安全を気にする事も――あれ?
「章に…せんせー、救急車に乗って帰る筈だったんじゃ…」
「あっ」
 シグリッドに言われて思い出す。
 そう言えばそうだったけど、すっかり忘れてましたね。
「どうするのです? 戻って来てもらうわけにもいかないでしょうし…」
「怪我もないし、普通に皆と一緒に帰るよ」
 スタミナは切れかかっているが、多分保つ…いや保たせる。
「では残りを片付けて来る。下がっていろ」
 エカテリーナに言われて素直に下がろうとした時。
 救急車を見送った撃退士達が戻って来た。
「…護衛が八人って聞いたけど、二人ほど足りないじゃない。もうやられたのかしら」
 紫亞が特に興味もなさそうに呟く。
「元は十人? 二人がさっきの救急車で帰った…それでも二人足りないわね」
 え、なに?
「…逃げた? ああ…」
 察した。恐らくはその場の全員が。
「先生はともかく民間人置いて逃げるなんてさいてー。とはいえ置いてくわけには行かないか」
 挫斬はそう言うが、元軍人は流石に厳しかった。
「放っておけ、敵前逃亡者に構っている暇はない」
「そうね、敵前逃亡で不名誉扱いされるより名誉の戦死扱いの方が幸せでしょう。自他共にね」
 紫亞もこの反応である。
 当然と言えば当然だが、それよりもまずは残党の始末だ。
 残ったスキルを使い切り、いいかげん飽きるまで――

「ん〜、もうちょっと解体したいけど食べ過ぎると太るから腹八分目で切り上げましょか。それともコアでも壊しにいく?」
 そこまで言って、挫斬は冗談だと首を振った。
 流石にもうこれ以上は超過勤務だ、残業手当が出ると言われても働きたくない。
「じゃ、帰りましょ!」
「あ、でも…」
 シグリッドが少し言いにくそうに口ごもる。
「無事に逃げたなら良いですけど、もし何かあって…それを全部せんせーの責任にされたら…」
「撤退時…周囲…味方の取り残し…ないのか…チェック…ジャスティス…」
 ベアトリーチェとしては単に「来た時よりも美しく」の精神なのかもしれない。
「敵前逃亡者の生死に興味はないが、確認しておく必要はあるか」
 渋々といった体でエカテリーナが頷く。

 そしてベアトリーチェは見付けて来た。
「ドラゴンの…お宝と…お姫様…?」
 差し出したのは、放置されていた祭器。
「見付けて来てくれたのか、ありがとうな」
 それを受け取り、門木はベアトリーチェの頭を撫でた。
「これを調べれば失敗の原因がわかるだろう」
「先生が強化ならともかくこの手の重要な実験で失敗とは珍しい。猿の川流れって奴ね!」
 挫斬が笑う。
 それを言うなら――と、それは置いといて。
「祭器の開発は未知の部分が多いからな、一度や二度の失敗は想定内だ」
「その原因…これかも…メイビー…?」
 彼女が見付けて来た、もうひとつ…いや、ふたつのモノをどさりと投げ捨てる。
「これだけの恥を晒しておきながら、まだ生きていたのか」
 エカテリーナは嫌悪感を隠そうともせずに二人を見下ろした。
 フィオナに至っては既に死体扱いどころか、この場に存在しない扱いだ。
「折角だから名誉の戦死にしてあげましょうよ」
 紫亞の言葉に震え上がった二人は、ついうっかり余計な事を口走った。
 自分達が祭器に細工をしたのだと。
 謝るから許してくれと。
「謝罪すれば済む事だと思うのですか」
 カノンが静かに切れた。
「邪魔する奴は死あるのみだ、引っ込んでいろ!」
 エカテリーナは激しくブチ切れた。
 強制的に引っ込ませるべく、銃口を突き付ける。
 だが、門木がそれを制した。
「愛梨沙、こいつらを治療してやってくれないか」
 助ける為ではなく、こんな所で楽に死なせない為に。
「パサランの実験台になって貰うのはいいですか」
 シグリッドがますます深く病んだ目で言った。
「止める理由はないな、存分にやってよし」
 お許しが出た。
 いっそ呑み込んだまま連行してやろうか。
「ほら、お前もそんな怖い顔しない」
 表情を強張らせたままでいるカノンの前に立ち、門木はその両頬をぷにっと摘んだ。
「大丈夫、俺は…俺達は、あんなチンケな悪意に負けはしないから」
 そう言って笑う門木の姿を、愛梨沙は少し離れた所で見守っていた。
 二人の仲睦まじい姿を見るのは、ほんの少し胸が痛い。
(けれど、それ以上に嬉しいの。兄様に笑顔が増えるのなら…)
 無事で良かった――その声を伝えるタイミングを掴めないまま、愛梨沙はその場に立ち尽くしていた。
「にしてもここにこんな強い敵がいるなんてね。調査不足なのかそれとも他の原因か。ん〜、今度の紘輝とのデートも兼ねて調査にでも来ようかしら」
 挫斬が首を傾げるが、個人的な調査は危険すぎるか。
「ゲンタ…大丈夫だといいね…」
 ベアトリーチェがぽつりと呟く。
「きっと無事なのですよ」
 シグリッドが頷いた。
(後でお見舞いに行くのです…章兄には内緒で、こっそりと)
 でもそれ多分、病室で鉢合わせするフラグだから――


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

原罪の魔女・
卜部 紫亞(ja0256)

卒業 女 ダアト
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
高松紘輝の監視者(終身)・
雨野 挫斬(ja0919)

卒業 女 阿修羅
『天』盟約の王・
フィオナ・ボールドウィン(ja2611)

大学部6年1組 女 ディバインナイト
天蛇の片翼・
カノン・エルナシア(jb2648)

大学部6年5組 女 ディバインナイト
208号室の渡り鳥・
鏑木愛梨沙(jb3903)

大学部7年162組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
シグリッド=リンドベリ (jb5318)

高等部3年1組 男 バハムートテイマー
BBA恐怖症・
長田・E・勇太(jb9116)

大学部2年247組 男 阿修羅
揺籃少女・
ベアトリーチェ・ヴォルピ(jb9382)

高等部1年1組 女 バハムートテイマー
負けた方が、害虫だ・
エカテリーナ・コドロワ(jc0366)

大学部6年7組 女 インフィルトレイター