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マスター:STANZA
シナリオ形態:イベント
難易度:やや易
形態:
参加人数:13人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/02/15


みんなの思い出



オープニング



 今年もまた、この日が来た。
 最初は科学室における失敗や突然変異によって深く傷付いたであろう生徒達の心を癒す為に始めた、この豆まき大会。
 この日ばかりは、日頃の怒りや哀しみ、行き場のない喪失感など諸々のマイナス感情を、豆に乗せてぶつけても良いことになっている。
 しかし実際にやってみると、そうして怒りの豆をぶつけて来る生徒は思ったよりも遥かに少なかった。
「最初は相当手酷くやられるだろうと思ってたんだけどな」
 三年前の事を思い出し、門木章治(jz0029)は小さく笑みを漏らす。
 あの頃はまだ、人前に出るのが怖かった。
 正直、生徒達のこともそれほど信頼していたわけではなく――仕返しの機会など与えれば、不満を持つ者達が大挙して押し寄せて来るのではないかと考えていた。
 いや、ほんと、ごめんなさい。

 今や豆まきは、どさくさに紛れて日頃の怒りや鬱憤をぶちまける場ではない。
 勿論その要素も残ってはいるが、メインではない……はずだ。
 皆で楽しく盛り上がって、今年も楽しかったと笑い合う、それが主な目的だ。

 そんなわけで、今年で四回目である。
 毎年の企画はほぼ生徒達に丸投げしている形だが、たまには少し細かいルールを設定してみるのも良いかもしれない。
「マンネリとか言うなよ、俺だってそんな気はしてるんだ」
 謎のカメラ目線をちらりと投げて、門木は廊下に積み上がった炒り豆の箱を見る。
 いつも通り商店街のスーパーで手配したものだが、それは何故か赤と白の糖衣でコーティングしてあった。
 注文と違うと言っても「紅白の豆なんてメデタイじゃないか」と取りあって貰えなかったし、店の人はおろか商店街の皆がニヤニヤと生温かい目で見て来るし。
 なんなんだ、いったい。
 いや、心当たりはあるけれど、ありすぎるけれど――それはともかく。
「せっかく紅白の豆があるんだし、チームも紅白に分けてみるか」
 いつもは門木に豆をぶつける側と、それをガードする側に分かれているが、それだと馴染みのない者は参加しにくいだろう。
 チーム同士の対抗戦にすれば、生徒達だけでも盛り上がれる。
「その上で、俺にぶつけたらボーナスポイントってことでいいかな」
 豆が色分けされているなら、どちらのチームがぶつけたのかもわかりやすい。
 武器はいつもの豆鉄砲か、普通に掴んで投げ付けるか。
 後は遊びやすいように、生徒達自身にアレンジを加えてもらえば良いだろう。
 勿論、遊んだ後のパーティも欠かせない。
「食堂と調理場を一日借り切って……ああ、衣装に凝る生徒もいたな」
 手配の必要があるのは、それくらいか。

 では、今年も存分に楽しもうか。
 天魔の侵攻やら何やら、遊んでいる場合ではないかもしれないが、それはいつもの事だ。
 寧ろこんな時こそ遊びが必要、真っ直ぐ行くのが最短とは限らないのだから――



リプレイ本文

 2月3日、晴れ。
 風もなく穏やかなその日、戦士達は久遠ヶ原学園のグラウンドを埋め尽くした――

「なんて言うほど集まってないけどねー♪ 寧ろスカスカ?」
 目の上に手をかざし、辺りを見渡したクリス・クリス(ja2083)は遠慮なくそう言い放った。
 子供は正直である。
「でも、これくらいがちょうど良いかな」
 だって、あんまり多いと作るの大変だから。
 何が大変かと言えば、これだ。
「じゃーん! フェルトのお手製ワッペンー!」
 柊の葉と鰯の頭をデザインしたそれは、クリスが数日前からこつこつと作っておいたものだ。
 材料は勿論、例の「お・ね・が・い♪」ぱわーで商店街のオジサン達を籠絡し……いやいや、学園のイベントに協賛することのメリットを蕩々と説いた末に快くご提供いただいたものである。
 なお指導と監修は手芸店のおばちゃん。
「はい、赤組の人はこれ付けてね♪」
 クリスは自信作であるそれをチームメイトに配って歩く。
 試合中は赤白を区別する為の目印に、それが終わったら白組の人にも記念品としてプレゼントするから待っててねー。

 その様子をパパ目線で見つめながら、ミハイル・エッカート(jb0544)は用意されたブキを物色していた。
「あの章治がリア充になったんだ! ここは祝わねばならぬ!」
 となれば、ちまちま当てるよりも派手に盛大にブチ当ててやるのが男の友情というものだ。
「だったらこれしかないだろ」
 選んだのはマシンガン型、射程は短めだが一度に100粒連射出来るのが良い。
「覚悟しやがれリア充め」
 どうせ今もそのへんでイチャついているのだろう。
 そう思って視線を向けてみれば。
「章治、なに一人でぼーっと突っ立ってるんだ」
「え、いや……俺は鬼で、中立だから」
 特に普段と変わることのない服装に、申し訳程度の節分要素として頭に小さな角を付けた門木が答える。
「どのチームからも距離を置いたほうが良いかと思って」
「なに言ってるんだ、まだ試合開始前だろうが」
 そういう事は始まってから気にすれば良いんだと、ミハイルは溜息。
「こういう時にこそ、仲の良さを見せ付けないでどうする」
「でも、そういうの……あまり良く思われないんじゃないか? 爆発しろとか言われるし」
「それは愛のある弄りってやつだ、祝福されたと思って素直に喜んでおけばいい」
 本気で爆破したいと考えている者などいない、と思う、多分。
「人付き合いにもだいぶ慣れて来たと思ったが、そういう所は相変わらずだな」
 相手の言葉を額面通りに直球で受け取り、直球で投げ返す事しか出来ない不器用な奴。
 彼に裏読みや深読みを要求するのはガチョウに空を飛べと要求するようなものか――世界のどこかには根性で飛んだ奴もいるらしいが。
 ところで、今回その彼女――カノン(jb2648)は赤組だった。
「なんだ、章治のガードじゃないのか」
「ああ、こういう時には大抵、その……何と言うか、予想を裏切ってくれるから」
 褒め言葉である。
 遊びの時には容赦なく敵に回ったりするし、でも危なくなったらうっかり助けに入ってくれたりして、そこがまた良いとかなんとかナチュラルに惚気てる奴には豆鉄砲を喰らわせてやっても良いですか。
 ぱぱらぱぱらぱぱぱらぱぱー!(豆マシンガンの発射音)
「ちょ、まだ試合始まってないだろ!」
「わかってる、だから足元にバラ撒いてるんだろうが!」
 ぱぱらぱぱらぱぱぱらぱぱー!
「はっはっは、踊れ踊れー!」
 楽しそうで何よりです。
 なお、こういう時には助けに来てくれません。
 どう見てもじゃれているだけですからね。

 その光景から、カノンはそっと目を逸らした。
「毎年のことですが、毎年派手になっていく気もしますね……」
 派手にと言うか、本来の姿から加速度的にかけ離れていくと言うか。
 もう既に節分とは無関係な何かになっている気がする。
「とはいえ、しばらく張りつめていましたし、気を抜くにはちょうどいいタイミングかもしれません」
 何も事件がない時には大体気を抜きっぱなしであるという事実からも、そっと目を逸らしておこう。
 こうして気を抜いてのんびり過ごせるということは、今は問題を抱えていないということでもある。
 勿論、全体を見れば厄介ごとの種には事欠かないし、新たな火種は常にどこかで燻り続けているのだろう。
 だからこそ息抜きは大切だと、カノンは赤い豆が山盛りになった一升枡を手にとった。
 日頃使い慣れない銃タイプを使うよりも、直接掴んで投げ付けたほうが効率が良いだろう。
「大丈夫、あの人の逃げ足はだいぶ鍛えられてる筈ですし」
 自分が手を貸すまでもないという、流石の余裕と信頼でした。

「さ〜て今年もいっちょやりますか〜」
 その鍛錬に一役買ったゼロ=シュバイツァー(jb7501)は、三種の神器(と書いてハリセンと読む)を携えての参戦だ。
 狙撃型ハリセンは、すぱーんと振る度に蛇腹の間に仕込まれた豆が飛び出す遠距離攻撃タイプ。
 巨大防御型ハリセンは扇形に広がり、飛んで来る豆から使用者を守る。
 そしてブーメランハリセンは、その名の通り投げると手元に戻って来るハリセンだ。
 なお、どれも貸出用のブキの中から見付けたものらしい。
 たまに混ざっている変な改造品という奴だ。
「俺、そんなもの作ったか……?」
 門木自身には記憶がないようだが、まあ細かいことはどうでもいいんだコメディだから。
「今年は宿命のライバルもだいまおーもいてへんし、なんや気分乗らへんな〜」
 仕方ないから普通に白組で参加する……とでも思ったか。
 そんな筈がないでしょう、あのゼロさんが普通にゲームとして真面目に遊ぶなんて。
 というわけで、まずは全員の仕込みを事前調査しておきましょうね。
 敵の分だけで良いだろうって?
 いいえ、ここは久遠ヶ原ですから、敵も味方も関係ありません。
「命の危険はできる限り知っときたいからな」
 そう仰るご本人が最も危険な人物である気がするのですが、それは気のせいですか?

「ははーっ、今日の俺は豆タンクだっぜー」
 ラファル A ユーティライネン(jb4620)は学園一のメカ撃退士である。
 普通ならここに「自称」とか「らしい」とか、曖昧な表現を付けないと色々問題があるのだが、コメディだから大丈夫、だと思う。
 さて、そのラファルさん本日はいつもの魔装砲弾を豆まき式の特殊弾頭に変更。
 豆まき特化の重機動メカとして今回の合戦に参加することと相成った次第であります。
 得物は肩に担いだ豆バズーカ、豆マシンガンの変改造品だ。
「これで戦車っぽくなるぜーってな」
 両肩に乗せれば○ンタンク、いや二足歩行だからガンキャ○ンか。
 ついでに衣装はヘソ出しミニスカセーラー服に眼帯と黒マントという、カッコ可愛いコスプレ仕様。
「門木? 知らないねーそんなやつぁー」
 今日の俺はキャプテン・ラファーと呼んでくれ。
 呼ばなくてもいいけど。

 そしてもうひとり、豆バズーカを肩に担いでやって来る者がいた。
「♪節分が今年もやって来る♪」
 歌いながら登場したのはマクセル・オールウェル(jb2672)、ミハイルと共に皆勤賞を狙う歴戦の猛者である。
「ミハイル殿が参加するとあらば、この我輩が黙って見ているわけには行かぬのである!」
 強敵、或いは好敵手と書いて「とも」と読む。
「というわけで、今年も豆まきである!」
 ミハイルが赤組なら、マクセルは当然白組である。
「我輩の豆バズーカが火を噴くのである!」
 いや、豆を噴くのである!
 なおこのバズーカは単発式である!
 よって一発撃つ度にリロードが必要である!
「しかし我輩にはこの身体に巻き付けた給弾ベルト(風に豆を連ねた帯)があるのである!」
 これで一分の隙もないのである!
 ただし全手動だけどな!

「きょうは、みんなでまめまき……なのですね」
 茅野 未来(jc0692)は、どこからともなくふよふよと飛んで来たヒリュウに向かって手を差し伸べる。
「このこが、おにさん……なのです?」
 そのヒリュウは何故か虎縞模様のパンツを穿き、首からホイッスルを下げていた。
「ああ、それは俺のヒリュウだ」
 のそっと現れたのは逢見仙也(jc1616)、ヒリュウにパンツを穿かせた張本人だ。
「ぴゃあぁっ!?」
 途端に未来はぷるぷる震えながら後ずさり。
 だって大きい人は苦手なんだもの、目線が20cm上にあるだけでちょっと怖いのに、殆ど倍の高さとか無理!
 そのままつつつーっと遠ざかり、そして――
 すとーん!
「ぴゃ!?」
 消えた。
 いや、落っこちた。
 それは天宮 佳槻(jb1989)が丹精込めて彫った落とし穴。
「ああ、やっと誰か落ちてくれましたね……」
 上からそっと覗き込み、満足げに頷く。
 今年は大切な物を低レベルで屑鉄にされたとか、そういった恨みは特にない。
 しかし、どうしてもリベンジせねばならぬ理由があった。
「去年もこうやって落とし穴を作ったんですよね」
 ところが誰も落ちてくれなかったのだ。
 完全なる徒労である。
「いえ、べつにそれを根に持ってるなんてことは……ええ、そんなことは……」
 本音は語尾を濁したことでお察しください。
 だから今年は更に気合いを入れて頑張ったのだ。
 参加者が通りそうなルートを予測し、邪念を振り払って鏡の如く凪いだ水面のように心を落ち着かせ、自分が落ちても怪我をしないようにと脚に風神を纏わせ――そこまでして、ひとつひとつ丁寧に作り上げたものだ。
 ひとつとして同じ物はない、まさに匠の技が光る一点物の落とし穴。
 スキルと才能の無駄遣いとか言うな。
 しかしそれでも、小さい子が穴に落ちて涙目で自分を見上げているこの状況は少々心が痛む。
 まだ試合開始前でもあるし、落としたお詫びに良いことを教えてあげようか。
「穴に落ちるのは悪いことばかりでもないんですよ」
 お尻の下を探してみろと言われ、未来はクッション材として敷かれていた藁を掻き分けてみた。
「えと、しかくいはこが、でてきたの、です」
 蓋を開けてみると、そこには美味しそうなナッツケーキが。
「良かったですね、当たりですよ」
「もらっても、いい……です?」
「どうぞ、その為に作ったんですから」
 全部ひとり占めしても良いし、後でパーティをやるそうだから、そこで皆に分けてもいい。
「でも、でられないの、です……」
 そう言われて佳槻が手を差し伸べてみるが、極度の人見知りである未来はすみっこでぷるぷる震えていた。
 怖いわけではない、けれど。動物と子供以外は慣れるまでに時間がかかるのだ――恐らく年単位で。
「ふむ、動物なら大丈夫なのか」
 先程は手を差し伸べていたし、ヒリュウなら問題ないだろうと仙也が命じる。
「ヒリュウ、引っ張り上げてやれ」
「きぃっ」
 ふよふよ、ぱたぱた、ぱたぱたぱたぱたぱたぱた……すとん。
「あ、ありがとう、なの……あとでケーキ、わけてあげる、ね」
 嬉しそうに宙返りをして、鬼のパンツを穿いたヒリュウは仙也のところへ戻って行く。
 未来もまた、ケーキの箱を抱えて白組の控え室(という名の運動会用テント)へ。
 それを見送りながら、佳槻は穴の底に「ハズレ」と書いた紙をひらりと落とし、再び埋め戻す。
 ちなみに他の穴には豆菓子詰め合わせやコーヒー豆チョコ、酒瓶などが仕込まれていた。
「誰が何に当たるか、楽しみですね」
 今年こそ、全部の穴がその仕事を全うしますように。

「三人とも、今日は敵同士だね!」
 シェリー・アルマス(jc1667)は黒咎の三人、サトル、マサト、アヤに向かって豆鉄砲の銃口を向けた。
「ぱぁん!」
 撃つ真似をしながら、口で発射音を出してみる。
 その豆鉄砲はサトルが改造したものだった。
 改造と言っても、彼の技術はまだ分解したものをそのまま元に戻すのがやっとというレベル。
 だからその改造も門木の改造品に少しアレンジを加えた程度のものであり、しかもそれが豆鉄砲という子供のオモチャであることに対して、本人は少々不満な様子ではあるけれど。
「それでも、これが記念すべきサトルの試作品第一号だよね!」
 千里の道も一歩からって言うじゃない、まずは一歩を踏み出さないと何も始まらないし。
「それにほら、先生だってきっと最初からスゴイの作れたわけじゃないだろうし」
「いや、わかんねーぞ?」
 答えたのはマサトだ。
「あれ、頭だけはチートだから」
「そうね、先生なら最初から簡単に出来ちゃいそう」
 アヤが頷くが、二人とも褒めているニュアンスではない。
 どちらかと言うと呆れていると言うか、匙を投げていると言うか。
「俺ら家で時々勉強とか教えてもらってるけどさ、わかんねーこと訊くとますますわかんなくなるんだよな」
「人に何かを教える技術に関しては壊滅的ね。学校で授業を受け持ってないのは懸命な判断だと思うわ」
 よくいるよね、理解は出来るけど説明は出来ないタイプ。
「あれが師匠じゃ、サトルも苦労するよなー」
 しかし、サトルは首を振った。
「いいよ、べつに。教えてもらおうとは思ってないし……見て盗むから、いい」
 この師弟、似た者同士なのかもしれない。
 まあ、それはそれとして。
 シェリーはビデオカメラを取り出した。
「ハージェンさん?だっけ、に映像は生中継できるのかな?」
 えーと、これは誰に訊けば良いんだろう。
「あっ、テリオスさんみーっけ!」
 いや、自分で呼んだんだけどね。
「録画しても見れる環境ないよね……えっ、あるの?」
「あのゲートもかなり改造が進んでいる、日常生活を送るのに支障は無いレベルだ」
 風呂やトイレ、キッチンなどの水回りも整備され、各種電化製品なども一通りは揃っている。
 勿論それを動かす為の発電機も用意されていた。
 ただしゲート内である為、普通の通信は使えない。よって生中継は無理だが録画なら視聴可能、というわけだ。
「そっか、じゃあ録画しておくから後でハージェンさんに渡してね!」
 それで楽しそうだと思ったら、来年からは混ざってくれてもいい……って言える状況になってるといいな。

「今回は存分に楽しみましょうね」
 ユウ(jb5639)が黒咎の三人を手招きする。
「同じ白組として、皆さんのことは私がサポートしますから」



 さて、今回はほぼ時間(という名の字数)無制限ということもあって、前置きが随分と長くなりましたが――
 そろそろ試合開始といきましょうか。
 なお審判はテリオスに。
「聞いてないし、ルールなど知らないぞ」
 大丈夫、当たった豆を数えるだけの簡単なお仕事だから。
 あと撮影と実況はゼロさんが得意だって聞いた。
 何でも出来るゼロさんならカメラ片手に実況しつつ豆をぶつけ、かつ門木に修業を付けるなんて、お手のものですよね(おだてる(
 アドリブなんやら超歓迎って言ってたし(メタ(
「まあそこまで期待されとるなら、しゃーないな」
 こなして見せよう一人三役、いや四役(軽率に乗せられる(

 なおチーム編成は学生番号順に以下のようになります。

 赤組:
 クリス
 ミハイル
 カノン
 シェリー

 白組:
 マクセル
 ラファル
 ユウ
 ゼロ
 未来
 サトル
 マサト
 アヤ

 無所属:
 佳槻
 仙也

 ガード:
 鏑木愛梨沙(jb3903

 調理担当:
 月乃宮 恋音(jb1221

「赤組少ないー」
 その極端な人数差を見て、クリスが思わず頬を膨らませる。
 事前の調査では白の方が少なかった筈なのに、どうしてこうなった。
 ところが、その差を更に押し広げようと企む者がいた。
「ほほう、ワッペン付けとるもんが赤組やねんな」
 ということは、何も目印を付けていないものは全員白組で良いよねと、ゼロがいつものわるいかお。
 そうなると、無所属の二人も白組ということに。
「ならないよー」
「そうだな、大人げないぞゼロ」
 クリスとミハイルが親子で迫る。
「ゲームなんだから! ある程度のルールがあってこそのゲームだから!!」
 それは確かにその通り。
 でもこの場合は何か違うと思うんだ?
「まあいい、この程度の人数差くらい見事に引っ繰り返して見せるぜ」
 それがゲームの醍醐味ってもんだ。
 大番狂わせ、ジャイアント・キリングを起こしてやる!


「あいてチームのまめがあたると、きっといたいの、ですね…」
 未来はパサランの着ぐるみ姿で戦場に現れた。
 着ぐるみのもふもふで衝撃を吸収する作戦である。
「おにさんのやくはかがくしつのせんせい、です?」
 え、違う?
 あれは高得点狙いのただの的?
「ひとつぶあたれば、10ばいなの、ですね…」
 ふむ。
「がんばってなげるの、です…」
 未来は手にした一升枡に盛られた豆を、もふもふの手で掴む。
 掴みにくいけれど、頑張って掴む。
 その頭上には、どうやら懐かれたらしい仙也の虎ぱんつヒリュウがふよふよと漂っていた。
「しあいかいし、なのですね」
 笛の音と共に、未来は手にした豆を上空に向かって投げつけた。
 が、それは目標のはるか手前で失速し、自分の頭上に降って来る。
「むぅ…とんでいるひとにはとどかないの…」
 仕方がないので他の標的を探そうと走り出した。
 そして転ぶ。
 普段なら、すかさず誰かが駆け寄って助け起こしてくれるだろう。
 しかし今は戦いの最中、そしてここは非常な戦場だった。
「悪いな、子供だからって容赦はしないぜ」
 駆け寄ったミハイルは豆マシンガンを全弾発射、赤い豆がもふもふの毛並みにすぽんすぽんと埋もれていく。
 その間に飛んで来る白い豆は盾で防ぎ――
「防ぎきれると思うかー!」
 そこに飛び込んだキャプテン・ラファーが「俺式60mmスモークディスチャージャー」で煙幕を張った。
「展開、俺俺俺式光学迷彩!!」
 煙に紛れて姿を隠し、ミハイルの背後に回り込む。
「本当の豆まきってヤツを、教えてやるよ!」
「だが、当たらねばどうってことはない!」
 ラファルの両肩にセットされた豆バズーカの砲身が唸りを上げると同時に、ミハイルは踊るような華麗なステップで回避を試みた。
「それで逃げたつもりなのか? いっけえぇぇ!」

 ぽんっ!

 拍子抜けするほど軽い音が響いて、豆バズーカが発射された。
 が、飛で出したのは小さな白い豆が一粒。
「見くびるなよ、この太い砲身は飾りだ!」
 発射されるモノ自体は小さな豆粒、豆鉄砲もマシンガンも、バズーカだろうと変わらない。
「だったらボクが作ったコレのほうが強力だねっ♪」
 得物はスリング、そして弾丸はコレだ!
「じゃ〜ん、こぶし大の赤豆の集合体! お砂糖の衣を少し湿らせてギュッと固めたの♪」
 丸く固めたポン菓子のようにも見えるそれは、命中と同時に豆がポンっと弾けて飛び散る予定。
「きっと見た目派手だと思うよー」
 あくまで予想だけどね!
「テストもせずにいきなり実戦投入とはロックだな、嫌いじゃないぜ」
「さあ、かくごしろー」
 スリングをひゅんひゅん鳴らし、発射!
「そうはいくか、撃ち落としてやるぜ!」
 ラファルは迎撃ミサイル(ただし豆)を発射、着弾前にポン菓子弾を撃ち落とす!

 たーまやー!

 空中で弾けて飛んだ豆粒はクラスター弾のように飛び散り、雨あられと無差別に降り注いだ!
「審判さん、今の判定は? 何粒当たったか、ちゃんと見ててくれた?」
 クリスがテリオスに判断を仰ぐ、が。
「さあ、多分10粒くらいは当たっているだろう」
 いいかげんな答えが返って来た。
「えー、じゃあ味方に当たった分はどっちの得点になるの?」
「想定外の事態はノーカウントだ」
「それじゃ審判の意味ないよー」
 って言うか完璧主義はどこいった。
「あれはもうやめた、文句があるならあの馬鹿兄に言ってくれ」
 だめだこのひと。
 いや、人としてはそれで良いのかもしれないけれど、審判としてはダメダメだ。
「誰かー、他に審判やってくれる人いませんかー」
「……あのぉ……では、私にやらせて頂いても、よろしいでしょうかぁ……」
 おずおずと手を挙げたのは、敏腕マネージャの恋音さん。
 因みに今までの得点もしっかりカウントしていました。
「……えぇとぉ……赤が72粒、白が25粒、当てていますぅ……」
 やはりミハイルの無慈悲なマシンガン掃射が効いているようだ。
「……他に門木先生に当てた分がぁ……白の7粒だけになりますぅ……」
 一粒10点だから、72対95で白のリードだ。
「……当てているのはぁ……今のところゼロさん一人ですねぇ……」
 というわけで、少しそちらにカメラを向けてみましょう。

「きっつぁん覚悟せぇや!」
 そこは空中。
 鍛え上げた移動力で門木を追うゼロ、逃げる門木はスピードこそあるものの、姿勢制御に難がある様子。
 と言うかスピードに乗ったら方向転換もままならず、ブレーキをかければいきなり失速して落ちかけるというスリル満点のアクロバット飛行だった。
「ほーれほれ、飛ぶことばっかに気ぃ取られとると容赦なくブチ当てるでぇ!」
 すぱーんと振ったハリセンから飛び出す白い豆。
 それを避ければ今度は飛行が疎かになり、回り込まれて後ろを取られ、頭をぺしぺし叩かれる始末。
 なお盾役は二人のスピードに追い付けない為、ちょっとお休み中であります。
「それじゃ面白くないだろう、と言うか俺にも当てさせろ章治!」
 真上に差し掛かったところを見計らい、ミハイルが星の鎖で門木を地上に引きずり下ろす。
「ついでにゼロも、高みの見物はつまらんだろ?」
 だが抵抗の高いゼロには効果がなかった。
「まあいい、俺の狙いは章治だ」
 リロードを終えた豆マシンガンを乱射!
「リア充め! 末永く永遠に世界が果てるまで爆発しろーー!」
 ぱぱらぱぱらぱぱぱらぱぱー!
「いて! いててて!」
「兄様!」
 盾を構えた愛梨沙がその間に割って入ろうとする。
 だが、門木はそれを手で制した。
「いや、いい……下がってろ」
 これは甘んじて受けるべき祝砲なのである。
「豆くらい、痛くも痒くも……っ」
 あるけど我慢だ男の子。
「男の人って、ほんと馬鹿……って言うか、子供?」
 理解に苦しむと溜息を吐きつつも、本人の意思を尊重した愛梨沙は一歩下がってその様子を見守る。
 ぱぱらぱぱらぱぱ……カチッ。
「ちっ、弾切れか」
 その隙を衝いて猛然と走り込んで来るマクセル!
「ミハイルどのぉぉぉ勝負であるぅぅぅ!」
 しかし弾切れと見せかけて、ミハイルは瞬時に盾を豆撒機関銃に持ち替えた。
「ひっかかったな、こっちの銃は豆満タンだぜ!」
「ミハイル殿こそ油断は禁物なのである!」
 そう言って走りながら、マクセルはずぶずぶと土の中へ消えていく。
 次に姿を現したのは門木の正面だった。
「門木殿、覚悟である!」
「そうはさせないんだから!」
 今度こそ止めると盾を構えた愛梨沙の正面に、ぽんっ!
 白い豆が一粒飛び出した。
 手動でリロードし、再びぽんっ!
 効率が悪い。
 ついでに周囲への注意も疎かになる。
 そこを狙って、カノンは思いきり豆を投げつけた。
「そちらが一粒10点を狙うなら、こちらはその10倍以上の豆を当てるまでです」
 ばらばらばらーっ!
「……赤組に18点追加ですぅ……あ、もう21点……更に14点……」
「む、無念である!」
 かくなる上は――
「ミハイル殿! 今年も、勝負である!!」
「おう、望むところだ!!」
 互いの射線が交差し、豆粒が飛び交う。
 マクセルのバズーカが火を噴き、小さな豆が一粒ぽんっ!
 ミハイルの豆撒機関銃が、ぱぱらぱぱらぱぱぱらぱぱー!
 どちらが多く相手に当てているかは、審判の判断を仰ぐまでもない。
「むう、かくなる上はこれでも喰らうのである!」
 マクセルは対ミハイル型最終兵器ピーマンを投擲!
 しかし!
「そんなものは口に入らなければどうということもない!」
 でも目障りだから消し炭にしてやるぜ。
 ファイヤーブレイク!
 ついでに豆撒機関銃連射!
「鬼は外ぉぉぉ!」
 ぱぱらぱぱらぱぱぱらぱぱー!

「白組が押されていますね」
 これではいけないと、ユウは黒咎の三人と共に反撃を仕掛けた。
「黒咎三連星、いっきまーす!」
 ノリの良いマサトが声を上げる。
 標的はシェリーだ。
「ジェットスクリューアターーーック!」
 まずは先頭のマサトが攻撃と見せかけて上へ、その後ろからサトルがライフル型で狙撃しつつ左へ避け、更にその後ろからアヤがマシンガンを連射する隙に、シェリーの背後に回り込んだサトルが引き金を引いた。
 が、シェリーはそれをジャンプで避け――
「そう来ると思ったぜ!」
 上で待ち構えていたマサトが握った豆を思いきり投げつける。
 相手も銃を使って来るものと思っていたシェリーは慌てて盾をかざして身を守った。
 しかしジャンプで空中にいる間は隙だらけ、格好の的だ。
「けっこうやるじゃない、でも……」
 まだまだ負けるわけにはいかないと、シェリーは下でライフルを構えるサトルに向けて盾を投げ付け、ついでに踏んづけて更なる高みへ。
「ごめんね!」
「僕を踏み台に!?」
 とは言え、翼を持たないシェリーがいつまでも空中に留まることは出来ない。
「地上に降りた時が攻撃のチャンスです、そこを集中的に狙いましょう」
 ユウの指示で黒咎達は着地の予想地点を取り囲むように散開した。
 このままでは着地と同時に集中砲火だが――
「そうはさせないよ!」
 ひゅんひゅんひゅん、空気を裂くスリングの音と共にクリス参上!
「そーれ発射だー」
 ポン菓子弾がマサトの背中に弾ける。
 更にはカノンが無差別投擲で援護しようと近付くが、それは上空のユウに察知されてしまった。
「アヤさん、後ろに気を付けて」
 注意を促しつつ、自身もマシンガン型豆鉄砲で白い豆の絨毯爆撃、ついでに祝福の言葉を浴びせかけた。
「カノンさん、ご結婚おめでとうございます。リュールさんとダルドフさんのように時が経っても互いを想い合ってくださいね!」
 待って、ちょっと待ってユウさん、それはまだ気が早いから!
 結婚はまだだから!
「物事を一段すっ飛ばすのは最近の流行りなのか……?」
 その声を耳にした門木は思わず立ち止まる。
 と言うか、その二人を引き合いに出すのは果たして適切な例なのだろうか。

「きっつぁん、嫁の心配しとる場合やないで!」
「だからそれはまだ早……うわっ」
 ゼロの声と共に飛んで来るブーメランハリセン。
 もっとも素材はただの紙だから、当たっても普通に痛いだけで済むけれど。
 それを避けたところにラファルがバズーカ発射!
「さっきは知らないと言ったが、あれは嘘だ」
 前言撤回、容赦なく撃つべし撃つべし!
「だって高得点だもんなー」
 ぽすん、ぱすん、ぽぽんっ!
 バズーカって、もしかして豆鉄砲界では最弱なのではなかろうか。
 見かけ倒しって言うか、うん。
 それよりも普通に投げたほうがきっと当たる。
「えいっ」
 ぱらぱらー。
 未来はこっそりクリスの後ろに隠れて、豆をぽいぽい投げつける。
「まめまきって、こういうぎょうじ……だったの、です?」
「多分違うと思うけど、これで良いんだよ♪」
 だって久遠ヶ原だからとニッコリ笑いつつ、クリスは未来の肩をがしっと掴んだ。
「ぱぱー、ここに敵のスパイがいるよー」
 折角の紅白戦、勝負は正々堂々と。
「ほう、敵陣に入り込んで来るとは良い度胸だ」
 だが残念だったな、勝負は勝負、子供だからといって容赦はしない。
「消し炭になれ!」
 ミハイルの手から槍状の炎が伸びる。
「ぴゃあぁぁぁぁぁぁ」
 いや大丈夫だから、狙ったのは升の中にある豆だけだから。
 だから泣かないでくれるかなー、おじさんがいじめたみたいじゃないかー。
「おい、誰か何か……甘い物持ってないか」
 子供を宥めるにはお菓子に限る。
「たこ焼きならあるで?」
 しかし、目の前に差し出されても未来はぷるぷると首を振る。
 やはり何か甘い物が必要か。
「……ん? この匂いは……」
 その時、ミハイルの鼻が何かを捕らえた。
「プリンだ」
 どこかからプリンの匂いが漂って来る。
 ふらふらと引き寄せられるミハイル。
 頭の隅で本能が「これは罠だ」と警鐘を鳴らすが、同じ本能なら食欲が勝つと相場が決まっている。
 そして――ずぼぉっ!
 ミハイルは嵌まった、佳槻が全身全霊を傾けて掘った落とし穴に。
 そして、その底にあったものは。
「バケツプリンだ!」
 その瞬間、彼は戦いを忘れた。
 甘味は世界を救う、かもしれない。
「ミハイル殿、何をしているのである! 勝負はまだ付いていないのである!」
「ええい、そこをどけー!」
 バケツプリンを大事そうに抱えて穴から這い出たミハイルは、立ち塞がるマクセルを蹴散らして走った。
「このプリンは誰にも渡さん!」
 あの、何か目的が違っちゃってませんか。

 しかし、他の者達はまだ戦い続けていた。
 落とし穴に獲物がかかった事を見届けた佳槻は、納豆ピザを片手に門木に挑む。
「大丈夫です、きちんとラッピングしてありますから」
 だから逃げずに受けてください、顔面で。
 あとナッツ入りチョコは口の中にぶつけるから、あーんしてください。
「逃がしませんよ」
 陽光の翼で上を取り、執拗に追いかける。
 一度バシッとやったら満足しますから、多分。
 まあ逃げても良いですけどね、そのコースは――
 ずぼっ!
「嵌まっていただいて、ありがとうございます」
 大丈夫、怪我はしないように作ったから。
 まあ身動き出来ずにいるところに納豆ピザをべちっとぶつけるくらいは許容範囲ですよね。
 と、その頭上でヒリュウの甲高い鳴き声が響いた。
 見れば虎縞パンツを穿いたヒリュウが、主人を呼んでいる。
 なお首から下げたホイッスルはただの飾りだったらしい……多分、ヒリュウには吹けないし。
「よし、門木先生を見付けたな」
 それを聞いて駆けつけた仙也は、穴の縁に仁王立ち。
 そして静かに語り始めた。
「先生にはこの半年に成功率9割で5回以上連続で失敗されたり、役立つ魔装を突然変異させられたり、屑鉄欲しい時にただの失敗をされ続けましたから、ええ」
 なお最後の一節が最重要。
「逃げないでくださいね、本気で逃げられたら追い付けないんで」
 スラスターアックスVを装備して移動力を上げてもまだスピードが足りないんですから。
 因みに豆と一升枡は自腹で用意しました。
 恨みを籠めて投げる豆を、その相手から支給されるというのは何か違う気がするから。
「では、いきます」
 恨みと勢いを付けて――
「だから逃げないでくださいと言ったでしょう」
 隙を見て穴を飛び出した門木を追いかけて、仙也は豆を投げつける。
 背中からは卑怯とか、この際どうでもいい。
「当たれば良いんだ、当たれば……」
 よし、当たった。
 これでもう思い残すことはない。
 と言うか他に用事はない。
「やりきったので、大人しくしています」
 じゃあ、そろそろ試合終了で良いかな?
「まだだよ!」
 叫びと共に、シェリーが門木の目の前に飛び出した。
「初くず鉄の恨みー!(光跡の忍術書がぁぁ」
 ぱぁん!
 赤い豆粒が門木の耳元を掠めて飛んで行く。
「当たり判定は?」
「……そうですねぇ……先生の紙が僅かに揺れましたから、当たっているものと判定して……赤組に10点追加させていただきますぅ……」
 それを聞いて、シェリーは構えていた豆鉄砲を下ろした。
「うん、一発当てたら気が済んだかな」
 本当はもう少しちゃんと当てたかったけれど。
(でもさっき、サトルにもらったヘッドショット……けっこう痛かったし)
 自分はわざと直撃を喰らいに行ったのだから、それで良い。
(あんまり痛い思いさせちゃいけないよね)
 もっとも、サトルはそうは思わなかったようだ。
 女の子の顔に直撃を喰らわせておいて「ごめん」の一言もないなんて。
 これは勝負なんだし、豆が当たったくらいでは何ともないだろうと思ったのかもしれないけれど――


「……そろそろ豆もなくなってきたようですのでぇ……ここでゲームを終了させていただきますねぇ……」
 その宣言で、今年の豆まきは終わりを告げた。
「……結果は、1748対965で……赤組の勝利ですねぇ……」
 人数の少ない方が、その少なさゆえに頑張った成果だろうか。
 それともブキの選択が明暗を分けたのだろうか――

 どちらにしても、終わった後は後腐れなく皆で騒ぐのがいつものパターン。
 今年も勿論、そのパターンを踏襲していた。
「……会場と、料理の手配は出来ていますのでぇ……皆さん、食堂にお越しください……」
 用意されていたのは、今や節分の定番となった恵方巻を始めとする料理の数々。
 恵方巻は定番の太巻に海鮮巻、ヒレカツ巻の三種類。
 手巻き寿司は海苔と寿司飯、それに各種の具材を用意して、後は個人のお好みで。
 鶏の竜田揚げは定番の味付けと、味噌と黒胡椒を利かせたスパイシー風味の二種類。
 鰯の天麩羅には山椒塩と抹茶塩を用意して、付け合わせにはちょうど出始めたタラの芽や舞茸などのキノコなど、野菜系も添えて。
「大豆と小魚の甘辛炒めか、酒のアテに良さそうやな!」
 そう言ったゼロは早速一升瓶を持ち込んで、手酌で一杯始めている。
 デザートには福豆を粉にして作ったきなこプリン。
 お茶やジュースのドリンク類は、鳳凰に手伝わせた佳槻が配って回る。
 仮にも神獣様にそんな事をさせて良いのかと思われるかもしれないが、鳳凰のお手伝いは今に始まった事ではない。
 未だにバチが当たったという話を聞かないところをみると、鳳凰自身も楽しんでいるのだろう。
 あ、それと今日はもうひとつ特別に。
「……鏑木先輩のお誕生日だと、お聞きしましたので……」
 どーんと大きなホールのバースデーケーキと、小さく切り分けて種類も豊富なショートケーキを各種用意してみました。
 それを聞いて、当の本人が目を丸くしている。
「なんだ、忘れてたのか?」
 門木に言われ、愛梨沙はこくりと頷いた。
 彼女にとっては誕生日と言うよりも「人間に保護された記念日」的なものらしいから、あまり印象は強くないのかもしれない。
 それでも、その日と決めたなら誕生日は誕生日だ。
「愛梨沙さん、お誕生日おめでとう御座います。これからも宜しくお願いしますね」
 ユウがケーキに挿した小さなロウソクに火を点ける。
 正確には何本必要なのか、わからないので数は適当だけれど。
「ほう、鏑木殿は誕生日であるか。めでたいのである!」
 マクセルはめでたい時にはコーヒーを飲むものと決めているのだろうか。
 豆を煎って轢くところから始めつつ、満面の笑みと共に祝いの言葉を贈る。
「おめでとうであるーっ!!」
 よかった、コーヒー豆を栽培するところから始められなくて。
「あの……よかったら、これ……」
 未来は佳槻にもらったナッツケーキをおずおずと差し出してみる。
「いただきもの、なのです……けど」
 他には自分で持ってきたおやつがあるけれど、この場面でドーナツやいちごオレを出すのは流石に違う気がするから。
「ボクからはこれをプレゼントするね!」
 クリスが商店街の花屋で買ってきたばかりのカスミソウの花束を差し出す。
「今日の誕生花なんだよ」
 花言葉は「清らかな心」と言うそうだ。
「うん。ぴったり♪」
 カスミソウと言うと添え物のイメージが強いが、こうしてそれだけを集めてみるとなかなか豪華で、それでいて清楚な雰囲気が天使のイメージに良く似合う。
「皆、ありがとう……嬉しい」
 自分が忘れていた誕生日を、こうして覚えていてくれる人がいる。
 それはきっと、とても幸せな事だ。
「……それでは、ロウソクを吹き消してください……」
 恋音に言われ、愛梨沙は思いきり息を吸い込み、一気に吹く。
 炎が揺らいで風に溶けていった。

 暫く皆で食べて飲んでお喋りをして、それが一段落した頃。
「改めて、おめでとうございます、お二人とも」
 ユウが門木とカノンのところに挨拶に来た。
「うん、ありがとう」
 でも一応念を押しておくけど、まだ結婚はしてませんからね?
 なおその予定もない模様です。
 婚約しておいて予定がないというのもおかしいけれど……ないと言うより予定が立たないと言った方が良いだろうか。
「何しろ自分でも理解が追い付かないほどの急展開だったからな」
 正直、未だに半分夢心地なのだ。
 具体的な事を考えるのは、もう少し落ち着いて現実味が出て来てから、ということになるだろうか。
 それに今日は、あまり大きな声で言わないほうが良いのかもしれない。
「この席の主役は愛梨沙だ。せっかくの誕生日なんだし、ちゃんと祝ってやらないとな」

 パーティが終わったら皆で風雲荘に帰って、改めて豆まきをしよう。
 今度は普通に、伝統に則ったやり方で。
 ただし「鬼は外」とは言わない。
 鬼も福も、どちらも家の中に居て構わない。
 鬼が悪い奴だなんて、誰が決めた。
 追い出して冷たくするより、迎え入れて温かくしてやったほうが、誰だって嬉しいだろう。
 嬉しい気持ちがあれば、きっと悪いことはしない――
「なんて、甘いかな」

 福は内。
 鬼も内。

 全部まとめて、丸め込んでやる。

 きっと大丈夫。
 ひとりではないから――


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 大祭神乳神様・月乃宮 恋音(jb1221)
重体: −
面白かった!:7人

アルカナの乙女・
クリス・クリス(ja2083)

中等部1年1組 女 ダアト
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
陰のレイゾンデイト・
天宮 佳槻(jb1989)

大学部1年1組 男 陰陽師
天蛇の片翼・
カノン・エルナシア(jb2648)

大学部6年5組 女 ディバインナイト
伝説のシリアスブレイカー・
マクセル・オールウェル(jb2672)

卒業 男 ディバインナイト
208号室の渡り鳥・
鏑木愛梨沙(jb3903)

大学部7年162組 女 アストラルヴァンガード
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
撃退士・
茅野 未来(jc0692)

小等部6年1組 女 阿修羅
童の一種・
逢見仙也(jc1616)

卒業 男 ディバインナイト
もふもふコレクター・
シェリー・アルマス(jc1667)

大学部1年197組 女 アストラルヴァンガード