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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:10人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/02/08


みんなの思い出



オープニング




 鳥海山、トビトのゲート内。
「人間の世界も、なかなか面白いところだよね」
 土産に貰った料理をつつきながら、トビトは屈託のない笑顔を見せる。
「それに、あのオモチってやつ……使えそうだ」
 餅は搗きたてが美味いのは勿論だが、乾燥させたものも煮たり焼いたりと手を加えれば元通りに柔らかくなる。
「ヒトもあんな風に捏ねて丸めれば収納に場所を取らないし、携帯燃料みたいに手軽に使えそうじゃない?」
 人間から必要なものを搾り取るには、身体ごとゲートに運ぶのが最も効率が良い。
 しかし、襲撃したその場で搾り取ったものをコンパクトに纏める事が出来れば、身体という廃棄物を処理する手間も、保管場所も不要になる。
「くくく、たまには他の世界に遊びに行ってみるもんだよね」
 良い刺激になるし、こうして思わぬアイデアが拾える事もある。
「じゃあ早速、実験を始めようか」
 その為には実験場となる支配地域と材料が必要になるが――

「そろそろ新しいゲートも欲しいところだし、ちょうど他の計画も進んでるとこだし」
 トビトはヴァルツにゲート作成を命じる。
「今度こそ失敗しないでよね」
 いや、失敗しても構わないか。
 この罠を見破って引っ繰り返して来るなら、それはそれで面白い。
 本気で手を組む事も考えても良いかもしれない。
「そうでなければ――やっぱりただの家畜だね」
 そう言って、トビトは嗤った。


 ――――


 秋田県、某所。
 トビトという予想外の珍客を迎えて行われた新年会から、半月ほどが過ぎた頃。

「オーレン先輩、今日も特に異常ありません」
 周辺の見回りに行っていたカルムがオーレン・ダルドフ(jz0264)に告げる。
「あれ以来、鳥海山の方にも動きはありませんし、冬の間は動かないと見ても良さそうな気がしますね」
「そうさのう、この雪では双方とも動きに支障が出る。何かが起きるとすれば、雪解けを待ってからという事になるかのぅ」
 ダルドフはそう答えたが、あのトビトがそんな誰でも予想するような常識的な行動を取るとは思っていなかった。
 新年会への参加にしても、必ず何か下心がある筈だ。

 周辺からの移住者が集中しているお陰で、この街は今や東北でも有数の人口密集地となりつつある。
 トビトには神樹というエネルギーの貯蔵庫があるが、そこに溜められたエネルギーは日常的に使える性質のものではない。
 いざという時の切り札、人間界の貯蓄システムで言い換えれば定期預金といったところか。
 運転資金として使われる普通預金は、各地のゲートで集められるエネルギーで賄われているのだろう。
 トビトのところでは今、その運転資金が少々心許ない事になっている筈だ。
 北の方では冥魔の軍勢が侵攻の機会を伺い始めたとの噂も聞く。

「そろそろ新たなゲート展開を画策し始める頃合いかのぅ」
 カルムが去った後、思案を巡らせたダルドフはしきりに顎髭を捻る。
 自分に向けられた「戻って来い」という言葉から考えても、標的がこの街である事はまず間違いないだろう。
 ここはダルドフの旧支配地、その主が天界に戻れば、トビトは労せずして広大な領地を手に入れる事が出来るのだ――しかも増えに増えた人間達と共に。
「トビトが某を放置しておった理由はこれか」
 しかし、それは予想通り。
 その計画を確実なものとする為に、自分の息がかかった者を送り込んで来るだろう事も予想していた。
「だが、某が戻れと言われて素直に戻る筈がない事も知っておろう」
 そんな事を考えながら、窓から見える雪景色をぼんやりと眺めていた、その時。

 撃退署の黒田から緊急の連絡が入った。

『すまん、ダルドフ』
 切羽詰まった声。
『油断していた、まさかこっちが本命だったとは――』
「落ち着け勝の字、何があった」
『沙耶が……娘が浚われた』
「なんと!?」
『浚ったのは……ネージュだ』
 油断していた。
 完全に虚を衝かれた。
『今日、娘はネージュと遊ぶ約束をしてたらしい。娘もあの子に懐いてたし、近頃はよく二人で出掛けてたし……まるで歳の離れた姉妹のように仲が良いと――畜生っ!!』
 マイクが大きなノイズを拾う。
 黒田が机か何かを叩いたのだろう。
「それで、二人は今どこにおるのだ、ネイの字は何と?」
『わからん、沙耶はまだ何も気付いていないようだ……いつもと同じように、ネージュに遊んで貰ってると思ってるらしい』
 ネージュの方は電話で「ごめんなさい」と繰り返すばかりで、まるで話にならないという。
『GPSで場所は突き止めた。新しく出来たショッピングモールだ』
 しかし目的も要求もわからないのでは、こちらも動くに動けなかった。
 まして浚われた本人が誘拐に気付いていないなら、気付かないまま穏便に事を収めたい。

 その時、ダルドフの背後で声がした。
「オーレン先輩!」
 見れば、カルムが血相を変えて飛び込んで来たところだ。
「先輩、大変です! 今、ネージュから連絡があって――!」
 それを聞いて、ダルドフは通話をスピーカーモードに切り替えた。
「して、ネイの字は何と?」
「それが……黒田さんの娘を返して欲しければ、オーレン先輩、あなたに……トビトの元に戻るようにと」
 カルムは悔しさの滲む声で続けた。
「従わなければ子供を殺す、とも。……私が愚かでした、まさかあの子が……トビトと通じていたなんて……!」
「……ふむ……」
 その様子を見下ろし、ダルドフは顎髭を捻る。
「では、従うより他にあるまい」
 のっそりと立ち上がったところで、黒田が再び口を開いた。
『ダルドフ、もうひとつ悪い報せだ』
「むぅ?」
『性懲りもなく、またバルスの野郎がゲートを開こうとしてやがる』
 場所はネージュ達がいるのと同じショッピングモールの地下駐車場。
 利用客の多い休日にしか解放されない最下層を閉鎖して、そのど真ん中で詠唱を始めたらしい。
 完成すれば街を丸ごと包み込む結界が出来上がる。
『そっちもお前さんがトビトの所に戻れば詠唱を中断してやる――だとよ』
「やれやれ、人気者は辛いのぅ」
 バリバリと頭を掻いて、ダルドフは言った。
「某が要求に従ったとて、あのヴァルツが素直に詠唱をやめるとも思えぬが……ネイの字は信じてよかろう」
 それは恐らく、自ら望んでした事ではない。
 この件には黒幕がいる。
 トビトが絡んでいるのは勿論だが、他にも――

「黒の字、世話になったのぅ」
 ダルドフは受話器の向こうにいる黒田に向けて軽く頭を下げた。
「向こうに戻ったが最後、某は某のままではおられぬであろう」
 恐らくは人格を破壊され、トビトの傀儡となる。
「再び相まみえる際には遠慮は要らぬ。斬れ」
『馬鹿野郎、なに言ってやがる!』
 黒田が吠えた。
『待ってろ、早まるな、俺が……俺達が何とかする!』
 娘を無事に取り戻し、ゲート展開を阻止し、ダルドフも渡さない。
 どれひとつ、諦めはしない。
『方法はわからん。しかし、絶対にどうにかなる!』

 黒田はその場で久遠ヶ原学園の斡旋所を呼び出した。


 ――――


「ネイお姉ちゃん、どうしたの? 楽しくない?」
 心配そうに見上げる沙耶に、ネージュは「いいえ」と首を振った。
「ごめんなさい、少しぼんやりしていました……次はどこに行きましょうか」
「さや、ざっかやさんに行きたいな」
 頷いたネージュは小さな手を取って歩き出す。
 その姿は、傍目には仲の良さそうな姉妹にしか見えなかった。




リプレイ本文

「やはり碌でもない事をやってくれたなトビト」
 通報を聞いて、黒羽 拓海(jb7256)は腹立たしげに吐き出した。
 だが、それ以上に。
「あの熊はまた勝手に…!」
 覚悟を決めている、などと言えば聞こえは良いが単なる諦めだろう。
「その選択が誰を泣かせるのか分からん訳では無いだろうに」
 ちらりと視線を投げた先には秋野=桜蓮・紫苑(jb8416)の姿があった。
「大じょうぶでさ、黒羽の兄さん」
 それに気付いた紫苑はそう言って笑って見せる。
「ないてる場合じゃねぇですし、もうないてばっかもいられやせんからねぃ」
 無理をしている事は明白だ。
「しーた、キョーカもいっしょにがんばる、だよ?」
 キョウカ(jb8351)が親友の手をぎゅっと握る。
 彼女とて平気である筈がなかった。
「これはやはり、あの熊を一発殴ってやらねば収まらんな」


 その言葉通り、拓海は出会い頭に拳を一発、ダルドフの顔面に叩き付けた。
「何を敵の言葉を鵜呑みにホイホイ付いて行こうとしている。少しは落ち着け」
 渾身の一撃も余り堪えた様子には見えなかったが、別に殴り倒す事が目的なわけではない。
 ただ、その寝惚けた頭に活を入れてやろうというだけだ。
「命の賭け所を間違えるな。その選択が誰を泣かせるのか…分かるだろう? それに…二度も斬らせるな」
 ついでに言えば、殴らせるな。
「知っての通り俺は欲張りだ。だからどれも諦めん。お前も偶には義じゃなくて欲で動いてみろ。あまり情けない様だと、娘からの株も下がるぞ。それだけだ」
 いや、既に下がっているかもしれない。
 いつもなら真っ先に急降下爆撃を仕掛けて来る紫苑が、じっと黙ったまま隅の方で睨みをきかせているのだから。
「いや、参ったのぅ」
 ダルドフは困った様に頭を掻くが、参っている場合ではなかろう。
 それに他にも、ダルドフの行動如何で未来が変わってしまう可能性のある者がいた。

「――涼子は最近、ゲームに熱中してるようでな」
 見かけない顔の男が声をかけてくる。
「おぉ、ぬしは……さて、名は何と言ぅたかのぅ」
 そう、赤坂白秋(ja7030)だ。
 ダルドフの使徒である真宮寺 涼子 (jz0249)に手を差し伸べ、救い上げた恩人。
「はっ、そんな格好いいモンでも……あるけどな!」
 そこは否定せず、白秋は続けた。
「ゲームしたり、水着選びに悩んだり……雪合戦をしたり……友達作って楽しんでんだ」
「そうらしいのぅ、ぬしには何と礼を言えば――」
「礼はいらねぇ。そんな事より……俺達に賭けろよ、ダルドフ」
 絶対に損をしない賭けが、ここにある。
「何度敵が攻めて来ようが、俺達が全ッ部救ってやる。救ってまた笑顔を咲かせてやる――涼子のように。だからダルドフ」
 そう告げながら、猛銃は自信に満ちた笑みを浮かべた。
 交差させた両手の中に銀の双銃を顕現させる。
 その銃口はダルドフの胸にぴたりと向けられていたが、引き金を引く相手は更にその先、鳥海山で胡座をかいている筈だ。
「もっぺん、俺達にベットしとけ」
「むぅ? 某は寝ておればよいと?」
 ああ、ベットの意味がわからなかったか。
「ベッドじゃねぇ、賭けろって事だ」
 それだけ言うと、白秋はくるりと踵を返した。
「答えはその行動で示してくれ。じゃ、先に行ってるぜ」
 エイルズレトラ マステリオ(ja2224)とアスハ・A・R(ja8432)の二人は既に現場に向かっている。
 いつまでも、ここでのんびり話し込んでいる暇はなかった。

「行くぞ、ダルドフ」
 その後に続こうと、ファウスト(jb8866)が促す。
「言った筈だ、『我々と共に足掻け』と。忘れたとは言わせんぞ」
 それでも動こうとしない頑固な熊に、その視線が険しさを増した。
「貴様、大事な娘が奴に家畜と思われたままでいいのか?」
「良い筈がなかろう」
「ならば何故抵抗せぬ、何故諾々とトビトの言に従おうとする」
 らしくない。
 言い込められて下を向くなど、全くもってダルドフらしくない。
「悔しいではないか。奴の思惑を打破して、人は決して家畜ではないと奴に叩き込む。協力しろ」
 そう言われても尚、ダルドフは頑なに首を振った。
「ファウの字、ぬしは奴の力を知らぬのだ。あれが本気になれば、某など足元にも及ばぬ」
 家畜どころか纏めて挽肉にでもされて、神樹の根元にバラ撒かれるのがオチだ。
「貴様、本気で言っているのか」
 ファウストの言葉に、ダルドフは迷う間もなく頷いた。
 しかし、その様子は――

(前に八咫烏に見張られてた時も、こんな感じだったよね)
 そう考えた星杜 焔(ja5378)は、今回も恐らく誰かに見張られているものと見当を付けた。
(拒否したらすぐに人質を殺すとか言われて脅されてるのかも?)
 だとしたら、この頑なな態度にも納得がいく。
 だとしても、トビトの思い通りにはさせないけれど。
「ゲート展開も阻止するし、人質も無事救出するし、ダルドフさんも帰さない。ネージュさんは信じてる」
 焔は今日の献立でも読み上げるような調子で言った。
 材料は過不足なく仕入れたし、レシピも頭に入っている。
 後はもう料理に取りかかるだけだ。
「だから一緒に行こう」
 ヴァルツを倒そう。
 地下にひしめく敵は陽動で、他に本命があるのかもしれない。
 撃退士が出払ってダルドフが一人になった所で、誰かが彼を襲う事も考えられる。
 或いはゲートの展開はヴァルツが行うと見せかけて、実は他の誰かが本命だった、とか。
 誰かと言われて思い当たるのは、大天使たるカルムひとり。
 だから、それを防ぐ為にも目の届く所に居てもらう必要がある――二人とも。
「もしどうしても出来ないって言うなら……いっそダルドフさんがゲートを開いてよ」
 見張られていたとしても、天界の企みに協力する動きなら出来るだろう。
「はっきりと敵に回るなら、俺達も討伐する決心が付くから」
 というのはダルドフを連れて行く為の口実だが、トビトの目である誰かには、そうとはわからない筈だ。
「カルムさんも一緒に来てくれるよね?」
「いえ、私は――」
 そう話を振られたカルムが拒否の色を見せかけたところで、ファウストが口を挟んだ。
「犯人の説得を親が行うのが、この国の定番だ」
 それを渋るなら、裏で何かを企んでいるという事になるだろう。
 しかし答えは予想外のものだった。
「ええ、勿論です。ですからオーレン先輩と一緒には行けません。先輩は地下に行かれるのですよね?」
 戦闘は地下、説得は地上だ。
 しかし、そうなるとカルムに付ける監視の目が不足する怖れがある。
 従順なふりをして、実はそれが狙いか?

「なに隠しとるんかいってみ?」
 それまで黙して成り行きを見守っていた蛇蝎神 黒龍(jb3200)が口を開いた。
 いつもの糸目が見開かれ、紅い瞳がカルムを見据える。
「ダルドに熱心なのはええけど、自分とあの子の生を犠牲にすることだけはするなよ?」
「すみません、仰っている意味がわからないのですが」
「それはほんまにわからへんのか、それともわからんフリをしとるだけなんか……どっちにしても、なんか口に出せへん事があるんやったら、これに書いてみ?」
 黒龍は紙とペンを渡す。
「気が晴れるまで書くとええよ」
「いいえ、あなたがたに隠さねばならない事は何もありませんから」
 カルムはそれを、そっと押し返した。
 全く動じない様子を見ると疑いは見当違いだったか、それとも役者が何枚も上手なのか。
(カルムが紐ねぇ…いやいや物語好きが高じると変に悪い方に考えてまうなぁ)
 ただの妄想なら、それはそれで良し。
 トビトの目的がネージュである可能性も考えたが、確証はなかった。
「なんや秘めた力やら何やらあるかもしれへんし、身柄を確保した後もネージュの動向は見張っといた方がええな」
 ネージュの精神状態の如何によっては、何からの力が覚醒しそうな気がする。
 その為にも、人質を無事に保護した後は全員をモールの外に避難させた方が良いだろう。
「上だろうが下だろうが、建物が崩れる危険があるしね」

「それは問題ない。焔の思いつきを使わせて貰った」
 ファウストが答える。
 モールでは然るべきタイミングで避難訓練が実施される事になるだろう。
「二人の監視も我輩とキョウカが引き受けよう」
「私も出来る限り注意して見ておきますね」
 星杜 藤花(ja0292)が言った。
 しかし、まずは一刻も早く人質の安全を確保しなければ。
「地下に向かう皆さんには、それが済むまでは出来るだけ自重して頂くようにお願いします」
 攻撃したら人質を殺す、とは言われていない。
 しかし、わざわざこちらから新たな口実を与えてやる事もないだろう。
 何より子供を人質に取られた親の気持ちになってみれば――
 藤花は友人に預けてきた息子の顔を思い出し、思わず身震いをする。
 平静を装ってはいるが、内心では「激おこぷんぷん丸」だった。
「ついこの間新年会をやったのに…なんだかとても悲しいです」
 誰も傷つくことがないように。
「わたし達で何とかしないと」
「ねぃねーたは、きっとわるくない、なの」
 キョウカが頷く。
「だって、かつおじたん言ってたの」
 沙耶は誘拐された事に気付いていないと。
 それはきっと、怖い事や嫌な事をされていないからだ。
「ねぃねーたも、さーたも。いなくなるのはヤなの。ママみたいにいなくなるのもヤなの」
 だから、きっと助ける。
 でも、その為には闇雲に突っ込んでも駄目だ。
「かるむたま、おしえてほしいの。ねぃねーた、どれくらいつよい、なの?」
 能力や戦い方、ついでにカルムに関しても教えて欲しい。
 そう頼んだキョウカにカルムは答える。
「ネージュは大天使とも互角に戦える程度の力があります。逃亡した時に私を守ってくれた事からも、おわかり頂けると思いますが……」
 そうでなければ、ここに辿り着く前に二人とも命を落としていただろう。
「その時にも言いましたが、私の方は戦いは全く駄目で」
 その真偽は不明だが、人質の安全の為にも出来るだけ言葉で説得した方が良いだろう。
 それに、自分達はまだ二人の事を何も知らなかった。
 少なくとも、それが真実であると確証が持てる事は何も――


 休日でもないのに、ショッピングモールは多くの人で賑わっていた。
 その多くがこの数ヶ月のうちに越して来て、今まさに天魔の襲撃に怯える事のない日々を満喫しているに違いない。
 その人波を掻き分け、キョウカはネージュと沙耶の姿を探していた。
 表向きは仲の良い女の子同士の買い物という形だから、沙耶が好きそうな店を覗けば――
「あっ! さーた、みーつけたっ、だよっ!」
 まず接触するのはキョウカひとり、藤花とファウスト、それにカルムは物陰に隠れてその様子を伺っていた。
「端から見たら仲の良い姉妹に見えるというというのは本当ですね」
 藤花が小声で呟く。
「なのにどうして誘拐なんて……」

 キョウカの声に振り向いた沙耶は、きょとんと首を傾げる。
「きょーちゃん?」
 手を繋いだネージュがそっと目を伏せた事には気付いていない様だ。
「あのね、キョーカのがっこう、きょうおやすみだったの!」
 だからアポなしで遊びに来たんだけど、ネージュと遊びに行ってるって聞いて――という設定。
「しーたもいっしょだけど、さきにだるどふたまのとこに行くって」
 後で来るから、それまで三人で遊んでいよう。
「ねぃねーた、キョーカもいっしょでいい?」
「はい、勿論です」
 そう答える声も笑顔も、明らかに硬い。
 しかしキョウカは気付かないふりをして、右手でネージュの手をとった。
 左手を沙耶と繋いで、モールをぶらぶらと歩く。
「これかわいいの!」
 お値段手頃なアクセサリの店で、キョウカが見付けたのはやっぱりウサギのモチーフ。
「さーたに似合いそうなの!」
「きょーちゃんにも、にあうとおもう」
 二人の様子を見て、ネージュが言った。
「ネイが買ってあげましょうか……紫苑ちゃんの分も、お揃いで」
「ほんと?」
 その言葉に沙耶は目を輝かせる。
 しかしキョウカは素直に喜ぶ気にはなれなかった。
 それは、お別れの時に贈られる最後のプレゼント、餞別というものではないのか。
 そんなの、いやだ。受け取れない。
「キョーカ、それならもっと、ちゃんとえらびたい、だよ?」
 そう言って、二人をあちこち引っ張り回す。
 やがて歩き疲れたという口実で一休み。
「キョーカのにーたがひみつの歌、教えてくれたの」
 疲れが取れる秘密のおまじないだと言って、キョウカはアウルを込めた子守唄を歌い始めた。
「……ぁ……かわいい、うた……」
 目を閉じて耳を傾けるうちに、沙耶は寝息を立て始める。
「さーた、ごめんなさい」
 これでもう、沙耶が巻き込まれる心配はないだろう。

 その直後、買い物客に避難を促す館内アナウンスが流れ始める。
「地下で火災? 事実を隠すのですか?」
 尋ねたカルムにファウストが答える。
「うちの孫娘の案だ、避難させるなら訓練というより地下で火事、等の方が不自然さを感じさせずに出来るだろうとな」
 安心と安全を求めて移住して来た人々に、かつての恐怖を思い起こさせるのも忍びない。
 出来る事なら全てを隠密に、誰にも気付かれることなく、不安にさせる事もなく済ませたかった。
「後で小火だったとでも発表しておけば、大火にならずに済んで良かったと安心して忘れる事が出来るだろう」
 もっとも現場は小火どころの騒ぎではない状態になるだろうが――真実は自分達だけが知っていればいい。
「大丈夫です、落ち着いて。きっとすぐに収まりますから」
 慌てる人々をマインドケアで落ち着かせながら、藤花が非常口を指差す。
 そうしながらネージュの様子にも気を配っていた。
『逃げるな。ゲートが完成すれば、沙耶も死ぬぞ』
 ファウストが意思疎通でそう問いかけるまでもなく、ネージュはその場を動かない。
「ネージュ、お前は何という事を……!」
 前に出たカルムが、いきなりその頬を張った。
 パァンという破裂音がして、ネージュはその場に膝を折る。
「カルムさん、落ち着いて下さい」
 藤花は思わずその前に立ち塞がった。
 カルムにこそマインドケアが必要だったかと思うが、しかし天魔に対してそれは効果を発揮しない。
「ここは私達に任せて頂けませんか? きっと、ネージュさんにも何か事情が……」
 なのに何も聞かずにいきなり暴力なんて。
 そう言われて、カルムは漸く握った拳を緩めた。
「すみません、つい感情的に……」
 そう言って後ろに下がる。
 それを見届け、藤花はネージュに向き直った。
「貴方の行なおうとしていることは、彼女への裏切りにもなりませんか?」
 すぐ脇のベンチで寝息を立てている沙耶に視線を向け、また戻す。
「わたしは人間だから天使の皆さんの真意は分かりかねます。それでも他者を裏切ることは、人間でないからと言って許されないのではないですか?」
 それとも家畜には何をしても良いと?
 いや、そう思っているなら謝罪の言葉など出て来ないだろう。
「黒田に謝罪したそうだな」
 ファウストが問いかけた。
 なるべく怖がらせないように、一応は努力しながら。
「貴様は人も子を思い、親を思う生き物だと知っている。信じてみないか、そんな人間がトビトをも凌駕するのを」
 それとも何かを盾に取られているのだろうか。
「もしそうなら、教えろ。それすらも人は助けようとするだろう。貴様が『友』であるならば」
 言えないか。
「本当はどうしたいのです?」
 藤花の問いかけにも答えない。
『カルムの前では言えぬか』
 ふと思い付いて、ファウストが意思疎通を使ってみる。
 答えはYESだった。


「お父さんや黒田の兄さんが何を考えてるのか、おれにはわかりやせん」
 モールの地下で突入の合図を待つ紫苑は、傍らに立つ大きな存在に向かって言った。
「でも、これだけは言わせてもらいやす。トビトの言うことなんざ、つっぱねてくだせぇ」
 その要求を聞くべきではない。
「おれはもう、お父さんにやいばを向けんのは、しんでもごめんですぜ」
 理屈ではない。
 とにかく、何がなんでも、嫌なものは嫌なのだ。
 その頭上から大きな手が降って来る。
 答えの代わりに、その手が紫苑の頭を掻き混ぜた。
 その意味は――わからない。
 ちゃんと言葉で言ってくれないと、わからない。
 鼻の奥がツンとしかけた時、地上から連絡が入った。
 沙耶は何も知らないまま無事に保護され、ネージュも大人しく投降し、これから撃退署へ連行されるところだ、と。
「聞いての通りぞ、紫苑」
 頭を撫でる手に一段と力が入る。
 箝口令は終わった。
「某が可愛い娘を置いて行く筈がなかろう。さあ、暴れるとしようぞ!」
 それを聞いて、紫苑の表情がぱっと明るくなる。
「目の前の事がらからじゅんにそ止! でさ」
 水切れで萎れていた花が花瓶に挿されて生き返る様に、紫苑は巨大な戦鎚を振り回した。
 が、真っ先に突入するのは彼等親子ではない。

「やっと出番が来ましたか」
 エイルズレトラが大きく伸びをして立ち上がった。
 その隣には恐怖の蒼いアメフラシ、アスハの姿がある。
 複数ある出入口のうち、この場所以外は全て防火扉が下ろされていた。
 一気に突入するには少々狭いが、撃ち漏らしを外に出さない為には必要な措置だ。
 と、そこに突如として虹色に輝く幻想的な花畑が現れた。
 周囲には七人の幻影騎士が並び、彼等がかざす掌から花びらが舞う。
 それは仲間達の身体に溶け込み、その身を守る力となった。
「これが効いてるうちに、少しでも敵の数を減らそう」
 焔の援護を受けて、まずはアスハが飛び出す。
 襲撃に気付いた敵の攻撃をシールドで受けつつ、出来るだけ深く踏み込んで――とりあえず光雨。
「邪魔だな…失せろ」
 中にいるもの全てが敵とわかっていれば尚更遠慮なく潰す。
 そうでなくとも遠慮はしないし、もとより識別する気もないが。
「この地で、天使共に幅を利かせられるのも困るので、な」
 蒼く輝く光の筋が辺り一面に降り注ぐ。
 この中の何処に目当ての大天使がいるのか知らないが、とにかく全部潰せば良いのだろう。
 雑魚と一緒に沈むなら、それはそれで構わない。
 ゲート展開さえ阻止出来れば、後の事には興味がなかった。
 その大天使がどんな奴だろうと、それもどうでもいい。
 光雨の後に続く一手を準備する間、エイルズレトラがトランプ兵団を放ってその隙を埋める。
 標的は主に、雨の直撃を免れた騎士の頭達だ。
「サイズが小さい分、当たりにくかったんでしょうかね」
 頭だけを放っておくと自爆の危険があるが、そんなものはトランプマンを身代わりに立てれば良い。
 いや、それよりも早く他の面子が潰してくれるか。
「はっはー! 相変わらず良い音色だなッ! てめえらッ!」
 続いて「侵入」した白秋が暴風の如き猛射撃を浴びせる。
「さァて、ヴァルツの野郎は何処だ!?」
 弾幕に紛れて敵陣に斬り込み、白秋は大天使の姿を探した。
 敵が多すぎてまだ見えないか。
「ならもう一丁ッ!」
 双銃の銃口がフラッシュの様に瞬き、その残像が目に焼き付く。
 それが消えぬ間に、今度は槍の雨が降って来た。
「死にたくなければ勝手に避けろ」
 ところ構わず降る雨を避けながら、他の仲間達もあらん限りの範囲攻撃を叩き込んでいった。
 とにかく今は敵を選んでいる余裕はない。一体でも多く倒して、数の不利を少しでも減らす必要がある。
 だが敵にもそれなりの頭はある様で、アスハを最も危険な存在と見たらしい。
 雨を逃れた者達がその周囲を取り囲もうとする。
 が、その死角に飛び込んだエイルズレトラがギャンビット・カードを投げ付けて斥け、ついでに誘爆を誘った。
 それでも捌ききれないものは盾を掲げた焔が割り込んで防ぐ。
「アスハさんは稼ぎ頭だからね!」
 出来るだけ守るから、攻撃はよろしく!
「だがそろそろ弾切れだ」
 スキル入れ替え?
 面倒だろ。

 だが流石にその頃には敵の集団にも隙間が目立ち始める。
「少しは動きやすくなりましたか」
 身代わりに散った人形の影から飛び出し、エイルズレトラは隙間を埋めようと押し寄せて来る騎士達にタップダンスを踊らせた。
「さて、定石から言えば最も敵の影が濃い辺りに本命が潜んでいる筈なんですが」
 自身の目線では高さが足りず、敵の分布を見渡す事が出来ない。
「誰か代わりに上から見てくれませんかね?」
「そういう事なら、おれにまかせてくだせ!」
 紫苑が陽光の翼で舞い上がり、敵の上を取った。
「見付けやしたぜ、バルスでさ!」
 指で示す代わりに、紫苑はふらふらと寄って来た騎士の頭をその方向に打ち返す。
「そこか」
 アスハはケーキにナイフでも入れる様に、光槍で邪魔な敵を一直線に切り開いた。
 続いてもう一度、更に切り口を広げる様に。
 それが再び敵で塞がる前に、拓海が楔を入れる。
 立ち塞がる一体の騎士に頭がないと見るや、それを龍覇哮で突き飛ばし、密集地帯に放り込んだ。
「見境なく暴れてくれれば同士討ちが狙える、上手くすれば楽して倒せるというものだが――」
 まあ、そう都合良く事が運ぶとは限らないし、そればかりに頼ってもいられないだろう。
 範囲攻撃に参加出来ない分、それを逃れた敵を確実に始末するのが自分の仕事だ。
 ヴァルツがいると思われる方に向かって、ひたすら道を切り開いて行く。
「――見えた!」
 しかしそれも一瞬の事、隙間はあっという間に黒い影で塞がれる。
「どれだけ居るんだ」
 などと文句を言っても始まらないが――
「お父さん、黒羽の兄さんのえんごたのみまさ!」
「あいわかった! 拓の字、当たるでないぞ!」
 紫苑の要請に応えて、ダルドフが閃破を放つ。
 拓海の鼻先を掠めて衝撃波が敵を切り裂いていった。
 その一撃を放つ間に闘気を解放した拓海は、衝撃波の後を追う様に走る。
「暢気に詠唱していられないようにしてやる!」
 その声が一斉攻撃の合図となった。

「下半身の強化は万全ですかぃ? バルスぅ」
 にたりと笑った紫苑が急降下攻撃を仕掛ける。
 その射線は飛び込んで来た騎士に塞がれたが、凍て付く冷気を撒き散らして突破――したと見せかけて、姿を消した。
 眠りに落ちた騎士の影に隠れて一緒に落下、闇に紛れて身を隠しつつ、ヴァルツの死角に回り込む。
 そこで渾身の一撃を叩き込んだ――筈なのだが。
 ニヤリ、ヴァルツが笑みを浮かべる。
 その瞬間、紫苑の身体は衝撃と共に弾き飛ばされた。
「ちっくしょ、バリアなんて聞いてねぇですぜ!」
 しかも与えたダメージが殆どそのまま跳ね返って来る。
「ならば遠距離はどうだろう、な」
 アスハが蒼月を放った。
 払っても払っても纏わり付いて来る蠅の様な騎士達ごと、蒼い三日月が詠唱を続けるヴァルツを切り刻む。
 反撃はなかった。
 直接攻撃でなければ跳ね返っては来ない様だ。
 流石はバルス、相変わらずの半端な仕様になっている。
「なら、俺の出番だなァ!」
 猛銃が吠えた。
 そのバリアも永遠に攻撃を防ぎ続けるわけではあるまい。
「ならぶっ壊してやるぜ、撃って撃って、撃ちまくってやらァ!」
 宣言通りに双銃を撃ちまくり、そして最後に――
「無粋な野郎は舞台を降りろ。俺とヒロインの大団円のクソ邪魔だ」
 手にした銃が三つ又の銃身を持つ巨大なリボルバーとなる。
 引き金を引いた途端、三つの銀色に光る獄犬の大咢が放たれた。
「――喰い、千切るッ!」
 巨大な顎が閉じられると、その隙間から淡い光が漏れ始める。
 もう一撃、それで砕けるか。
 再度の攻撃に合わせて仲間達がタイミングを計る。
 魔犬がバリアを噛み砕いた瞬間、複数の攻撃がヴァルツに襲いかかった。
 それでも詠唱は止まない。
 しかし。
「顎周りや肺、喉をやられたら声は出せまい」
 拓海は懐に潜り込んで蒼雷を纏う一撃を下から繰り出す。
 スタンは――取れないか。
「ならば、これでどうだ!」
 刀を抱え込むような独特の構えから、全体重を乗せた諸手突きを放つ。
 真っ正面からの攻撃は、普通なら当たる筈もない。
 だが詠唱中の今なら相手は避ける事も出来ない筈だ。
 更に、背後からは霧影に隠れた黒龍が忍び寄り、冥府の風を纏った一撃を叩き込む。
 天使に対する特効を得た白刃は、無防備は背中を深く切り裂いた。
 それでもまだ立っているのは、トビトによる強化の賜か。
 しかし、もう声は出ていなかった。
 足元に淡く光っていた魔法陣がその輝きを失い、消える。

「バルス、もうあきらめなせぇ」
 戦鎚を構えたまま、紫苑が言った。
「おれらがいるかぎり、ここはぜっ対にゆずりやせん。帰ってトビトにそう伝えなせぇ」
 もっとも、このままおめおめと逃げ帰る事が許されるとは思えないが。
「それでもまだやるってぇなら、ようしゃはしやせんぜ……そこのあおい兄さんが!」
 丸投げである。
「それともこれで攻撃されてみたい?」
 焔が超大型ライフル「アハト・アハト」を構える。
 しかし、その武器の真の怖ろしさは攻撃力ではない。
「何が怖ろしいかは……まあ、攻撃を受けてみればわかるよ」
 そう言い放つ焔は死んだ目で笑った。
 それは学園を去った友に託されたもの――と言えば聞こえは良いが、その実体はシリアスなシーンで使う事が憚られる様な代物だった。
 ねえ、白銀に輝く┌(┌ ^o^)┐に襲われてみたい?
 良ければ撃つよ?
 撃つと「ホモクレェ!」って声が聞こえて来るんだって、あはは。

 その説得(?)が効いたのだろうか。
 ヴァルツは撃退士達にゆっくりと背を向けた。
 だが、その顔に敗者の影は見えない。
「なるほど、貴様らは強い……」
 血を吐きながら、ヴァルツは嗤った。
「だが、その強さが仇となるのだ……トビト様が収穫に来られるその時まで、せいぜい増えるがいい……家畜ども、め……」
 その捨て台詞を、騎士達の黒い影が包み隠す。
 アスハが最後に残した蒼月の一撃を叩き込むが、その刃が消えた時、ヴァルツの姿もまた跡形もなく消えていた。

 沙耶を保護した藤花が駆けつけた時、ヴァルツは既に去っていた。
 だが、僅かとは言えまだ残された騎士達がいる。
 最後の一体を倒すまでは、引き上げるわけにはいかなかった。
 怪我の酷い者に治療を施し、彼等は戦い続ける。
 作戦はそれまでと同じ、頭を優先して狙い、本体は落馬させて同士討ちを狙っていく事。
「大丈夫、さっきまでに比べたら全然多くないから」
 心配そうな藤花に、焔は余裕の笑みを浮かべた。

「見てンだろォが! トビトォオオ!!」
 最後の一体に双銃を撃ち込み、猛銃は再び吠えた。
「てめえ、どうやら俺達と手を組むかも知れないような事を言ったらしいじゃねえか」
 今回こうしてトビトの企みを退けた事で、その可能性は高まったのかもしれない。
 しかし。
「別に上の連中が決めた事でも、仲間内で話し合って決めた事でもねえが――独断で勝手に――予め言わして貰うぜ!」

「断る」

 サーバントの残骸が累々と横たわる地下空間に、銃声が一発。
 それは叛逆の狼煙の様に、高く響いた。


 その頃、キョウカはファウストと共に撃退署にいた。
 収容所に入れられ、自由を失ったネージュに向かって窓越しに話しかける。
「ねぃねーた、さーたとねぃねーたは年のはなれた姉妹みたいってかつおじたんが言ってたの。今はまだ、さーたのねーたでいてあげて」
 本当の事を言ってくれたら、また自由の身になれるかもしれない。
 また一緒に遊びに行けるかもしれない。
「ごめんなさいっていうの、ウソじゃないならだいじょぶなの」
 だから、話して欲しい。
「とびとたまにかるむたまのこと、何か言われたの?」
 ここならカルムに聞こえる事もないから。
「或いは逆か。カルムが貴様を脅しているのではないか?」
 ファウストが尋ねる。
 そのカルムは今、娘の連帯責任として捕らわれ別室に収容されていた。
「黒田達はカルムこそが黒幕で、貴様はその命令に従っているだけにすきないと――そう見ている様にも感じられたのだが」
「ほんと? ねぃねーた、やっぱりわるくないの?」
 キョウカが尋ねるが、証拠はなかった。
 白だという証拠も、その逆も。
 戦いに赴く前、残ってカルムとネージュの荷物をこっそり調べた紫苑からも、何かが見付かったという報告はなかった。
 疑いを晴らしたいなら、自ら進んで白状して貰うしかないのだが。
「ねぃねーたははじめて会ったとき、かるむたまののぞむようにって言ってたの」
 キョウカは再びネージュに向き直った。
「かるむたまののぞみってなぁに?」
「それは……」
 ネージュは口を開きかける。
 だが言葉が転がり出る前に、それを閉じた。
「もう少し、時間をいただけますか」
 決意を固めるまでの時間を。
「それから……」
 ひとつ頼みがあると付け加えた。
「んめぇ棒を、用意してほしいのですが」
 取り上げられる事もなかった携帯電話には、紫苑からのメールが残されていた。

『心配かけたお詫びにんめぇ棒3本、俺らに進呈求む』
『絶対助けやす、二人共』

 約束は、守らないと――









 その頃、鳥海山。

「ふぅん、バルスはまた失敗したの」
 報告を受けて、さほど興味もなさそうにトビトは言った。
 それよりも今は、冥魔軍の動きの方が気にかかる。
「ヒトと手を組むって話、ちょっと真剣に考えた方が良いかもしれないね」
 今の状況を考えると、ゲートを増やしてより多くの力を蓄えたいのも事実だ。
 しかし人間と組む事で、その分に相当する力を労せず手に入れる事が出来るとしたら。
「僅かばかりの肥料を増やす為に、奴等を敵に回す事もないか」
 少なくとも、今のところは。
 あれだけのサーバントを斥ける力は勿論、あの二人の扱いを見る限り、頭の方も悪くはなさそうだ。
 とりあえず、使い捨ての道具くらいにはなるだろうか――


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

思い繋ぎし紫光の藤姫・
星杜 藤花(ja0292)

卒業 女 アストラルヴァンガード
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
時代を動かす男・
赤坂白秋(ja7030)

大学部9年146組 男 インフィルトレイター
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
By Your Side・
蛇蝎神 黒龍(jb3200)

大学部6年4組 男 ナイトウォーカー
シスのソウルメイト(仮)・
黒羽 拓海(jb7256)

大学部3年217組 男 阿修羅
娘の親友・
キョウカ(jb8351)

小等部5年1組 女 アカシックレコーダー:タイプA
七花夜の鬼妖・
秋野=桜蓮・紫苑(jb8416)

小等部5年1組 女 ナイトウォーカー
託されし時の守護者・
ファウスト(jb8866)

大学部5年4組 男 ダアト