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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:10人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/01/16


みんなの思い出



オープニング



 秋田県、某所。
 正月を目前に控えて、街はすっかり雪景色になっていた。

「そろそろ一年になるのですね」
 湯気で曇った窓ガラスを指で拭き、ネージュは外の景色を眺める。
 部屋の中には古風な達磨ストーブが置かれ、その上に置かれたヤカンからは盛んに蒸気が噴きだしていた。
「カルム様、これを」
 ネージュは同じ部屋で寛いでいた養い親に、一枚の手書きのカードを手渡した。
「何ですか、これは……」
「招待状です」
 可愛らしいピンクのカードを開くと、そこには丸い文字で『新年会のお知らせ』と書かれていた。
「新年会?」
「はい、新しい年を祝うパーティだと聞きました」
 主催は撃退署、勿論オーレン・ダルドフ(jz0264)が警備員を務める食品加工場「天晴屋」も協賛している。
 と言うか会場はその天晴屋の食堂だ。
「撃退士の皆さんにも招待状をお出ししました。皆さん、来てくれると良いのですが……」
 そう言って微笑むネージュの表情は、ここに来た時に比べてずいぶん柔らかくなった。
 未だ撃退署の監視下に置かれているとは言え、その行動に制限を受ける事は滅多にない。
 ほぼ何でも自由に出来ると言って良いだろう。

 しかし、カルムは少し咎めるような声で言った。
「ネイ、わかっていると思いますが……あまり浮かれすぎないように」
 自分達には大切な使命がある。
 受けた恩は返さなくてはならない。
「はい、わかっています」
 頷いたネージュは何かを言いたげに口を開きかけ、思い直したように閉じた。
 それを見て、カルムは表情を和らげる。
「しかし、こうした催しも悪くありませんね。皆さんにもきっと楽しんでいただけるでしょう」
 私も参加しますよ――そう言って、カルムはネージュの雪のように白い髪を撫でた。


 そして、年が明けて新年。
 新年会は工場が操業を再開する前日、一月三日に行われることになっていた。
 その前日――

「さてと、会場の準備はこんなもので良いかのぅ」
 食堂の飾り付けを終えたダルドフは、室内を見渡して満足そうに顎髭を捻った。
 去年の正月は空気を読まないヴァルツの襲撃を受け、なかなかに波乱の幕開けとなったが、今年は何事もなく平和な正月になりそうだ。
 と、思った矢先。
「ちょっと、くまさん! 撃退署のクロちゃんから電話!」
 工場長の姉崎に呼ばれ、ダルドフは事務室へ急ぐ。
 声の調子が何やら尋常ではない様子だったが、まさか――

 その、まさかだった。
『ダルドフ、またあの野郎が性懲りもなく現れやがったぞ』
 受話器の向こうで黒田が唸る。
『あれ、名前は何て言ったか……バルス?』
「うむ」
 正確にはヴァルツだが、もはやバルスの方が通りが良い。
「して、奴は何を……」
『いや、それがな』
 黒田が困惑したような声を出した。
『リヤカーを、引いてる』
 はい?
『でっかい酒樽を三つばかり乗せたリヤカーを引いて、そっちに向かってるんだ』
 そっちとは、この工場か。
『何のつもりかは知らんが……どうするよ、ダルドフの旦那?』
 どうする、と言われても。
『まあとりあえず、悪さをしようって気配はない。街にも他の天使やサーバントの姿は見当たらんし――ああ、そろそろ着く頃だな』
 その言葉が終わらないうちに、工場の正門付近から大音声が響いてきた。

「たのもーーーう!」

 ヴァルツだ。
『そんなわけでな、対処はそっちに任せるから……まあ、なんかあったら連絡頼むわ』
 俺は娘と正月休みを楽しみたいんだ、そう言って黒田は通話を切った。


「ヴァルツ、今度は何を仕掛けて来おった」
 丸投げされたダルドフは、念の為に工場内の人々を下がらせてから正門へと向かう。
 そこには黒田に言われた通り、酒樽を積んだリヤカーを引いた旧友の姿があった。
「それは何のつもりぞ、ヴァルツ」
 問われて、ヴァルツは首を振る。
「ダルドフ、貴様は礼儀を知らんのか。新年最初の挨拶もせぬとは無粋な奴よ」
 何故か勝ち誇ったように胸を反らし、その姿勢のまま大声で言い放った。
「新年、明けましておめでとうでござる!」
「……ヴァルツよ、ぬしに一体何があった……」
 ダルドフは返礼も忘れて、思わずそう問い返す。
 だがヴァルツはそれには答えず、リヤカーに積んだ荷物を指し示した。
「受け取れ、トビト様からの引き出物だ」
 その言葉にダルドフは思わず我が耳を疑う。
「トビトと……そう申したか、ぬし」
「そう言ったが、暫く見ぬうちに耳が遠くなったか、ダルドフ」
「いや、しかし」
 何故。
「風の噂に聞いたのだが、貴様らは明日、新年会とやらを開くそうだな」
 一体どこで聞いたのか。
「これはその為の祝いの品だ、有難く受け取るが良い」
 地元の酒蔵から持って来た高級品だ。
「そして明日、トビト様もその催しにご参加なされる。くれぐれも粗相のないようにな」
「待て、今……何と?」
 トビトが撃退署主催の新年会に参加すると、そう聞こえたのだが。
「俺は確かにそう言ったぞ。これはトビト様ご自身のたってのご希望、断ることは許されぬ」
「ヴァルツよ、ぬしら……何を企んでおる」
「企むとは人聞きの悪い」
 ヴァルツは鼻で笑い、反らした胸をますます大きく反らした。
「トビト様も、ただ武をもってのみ制することに常日頃から疑問を持っておられるのよ。これを機に、和睦の道を探ろうとのお心積もりだ」
「信じられぬな」
 あのトビトが和睦など、天地がひっくり返っても有り得ない。
「要求は何だ」
「だから言っただろうが、人類との和睦だと」
 それ以上は何も答えずに、ヴァルツは去って行った。
 リヤカーと、そこに積まれた酒樽だけを残して――



「やあ、バルス。お遣いはちゃんと出来たかい?」
 戻ったヴァルツに、トビトが声をかける。
「はい、仰せの通りに」
「ふーん、偉い偉い、よく頑張ったね」
 厳つい中年男の頭を撫でて、トビトは楽しそうに笑う。
「じゃ、僕も明日の準備しなきゃ。何を着て行こうかな……ねえ、バルスは僕ってどんなのが似合うと思う?」
 問われて口ごもるヴァルツが何かを言う前に、トビトは言った。
「別にお前の意見なんか聞いてないけどね」
 そして独り言のように付け加える。
「もうそろそろ、帰って来ても良い頃合いだよねぇ……ダルドフ?」

 もう充分に羽を伸ばしただろう。
 ここ鳥海山に、冥魔が興味を示している。
 今は戦力が欲しいのだ。
 奴等に対抗する為なら人類と手を組む事も厭わない。
 だから、戻って来い。

「今までの事は水に流すし、支配地域もそのまま預けておくからさ」
 今すぐに決めろとは言わない。
 まだ少し時間はある。
「まあ、明日の新年会はそういうの抜きにして、普通に楽しくやろうよ」
 他にも差し入れを持って行くからさ。
「僕も近頃、人間の文化に興味を持ち始めたんだ」
 いろんな事を教えてもらえると嬉しいなぁ――そう言って、少年の姿をした力天使は屈託のない笑みを浮かべた。



リプレイ本文

「新年会ときいて! ごはんつくりにやってきました!」
 星杜 焔(ja5378)と星杜 藤花(ja0292)は、夫婦揃って天晴屋の食堂に顔を出す。
 もちろん二歳になる息子、望も一緒だ。
 しかし貰った招待状には書かれていなかった。
 あの天使が同席するなんて、一言も。

「トビー…?」
 エイルズレトラ マステリオ(ja2224)は予想外の出来事に目を見開いた。
 トビトがそこにいる。殺したいほど嫌いな奴が。
 しかもちゃっかり七五三の様な晴れ着を着て。

「バルス…っ」
 秋野=桜蓮・紫苑(jb8416)はもう小さな子供ではない。
 思った事をそのまま口に出さないだけの分別は身に着けていた。
 しかし、それでも言いたかった――「帰れ!」と。
 半泣き顔で相手を睨み付ける。
 楽しみにしていたのに、二年続けて平穏な正月を潰された。
 この恨み、どうしてくれよう。

「トビト…ダルドフさんの上司であった、力天使ですか」
 その姿を見て、ユウ(jb5639)は気付かれないようにそっと眉を顰めた。
 新年早々だが嫌な予感がする。
「何もなければいいのですが」

「トビト…誰だ? ダルドフの子供か?」
 そう尋ねたミハイル・エッカート(jb0544)の前で、ダルドフはこれ以上ない程の渋面を作った。
「あれが某の子なら、このように育てた事を悔いて首でも吊っておるわ」
 いや、こうなる前に厳しく躾ける。
 娘に対する甘やかしぶりを見れば、実行出来るかどうかは甚だ疑問ではあるが。

(しかし、あのトビトが和睦ね…)
 気楽な新年会のはずが、妙な事になったものだと、黒羽 拓海(jb7256)は招かれざる客に目を向ける。
 どうにも信じられないが、かと言って易々と手を出すのも不味い。
 さて、どうしたものか――


「やだなあ、そんな怖い顔で見ないでよ」
 トビトは小さく笑みを漏らした。
「おめでたい祝いの席じゃない、僕も皆と仲良くしたいなぁ」
 しかし、エイルズレトラはどの口が言うかと睨み付ける。
 手品でも披露するつもりで気楽に参加したのに、もうそれどころではなくなってしまった。
「あなたの言う『仲良く』とは何です? 仲良く棺桶に入れとでも?」
 何を考えている。目的は何だ。
「新年早々悪い冗談…いや、まあいいでしょう」
 冗談だとしても、和睦、交流、大いに結構。
 相手が敵対する意思を見せない以上は、こちらもそれに倣うのみ。
「好き嫌いは敵味方関係ありませんが、僕が戦うのは敵だけです」
 気を許したわけではないが、ひとまずは。
「僕はあなたを歓迎しましょう――好き嫌いをグッと抑えて」
 後半は独り言だ。
「ところでトビー、僕のこと、覚えてます?」
「さあ、知らないな。どこかで会ったっけ」
 そう言うだろうと思っていた。
 嘘か本当か知らないけれど。
(いつか刻み込んであげますよ、その記憶に、魂の奥底に)
 けれど今はただ見守ろう、この茶番の行く末を。


「折角の新年会、なら皆平等に楽しみましょう」
 息子を抱いた藤花がやんわりと微笑んだ。
「今日はハレの日…無礼講、と言う奴ですね」 
「…そうだな、小さな子供に怖い思いはさせられん」
 拓海がそれに応える。
「急に珍しい客が来たと思えばいいか。やった事を思うと、一発殴ってやりたい輩ではあるが、な」
 しかし殴る機会なら、いずれまた巡って来るだろう。
 今は二度目があるとも思えないこの貴重な時間を存分に楽しもう。
「なるほど、とりあえず天使のエライ奴ってのは分かった」
 ざっと説明を受けたミハイルが頷く。
「まあ、世間を騒がしているアレを裏で操る悪魔子爵も俺達と飲み会してカラオケしに来るのだから、特にびっくりすることもないか」
 そうと決まれば早速準備だ。

「さ、ごはんの準備が出来るまで、くまさんに遊んで貰いましょうね――ダルドフさん、お願い出来ますか?」
 家族三人揃っての挨拶を済ませ、藤花は息子をダルドフに預けた。
「むぅ、泣かれたりせんかのぅ」
 大丈夫、寧ろ喜んでる。
 紫苑とキョウカ(jb8351)、沙耶も寄って来て、くまさん託児所が開設される。
「とびとたまも、こっちくるといいなの!」
 見た目お仲間のトビトを手招きするキョウカ、流石の怖い物知らずだ。
「おしょうがつは、みんなとなかよくするひ、だよ?」
 大人達の警戒には気付いている。
 もしもの為に戦闘準備もしておいた。
 でも、それはそれ。
「僕はこれでもそこの熊より長生きなんだけどね」
 くすりと笑って、トビトは椅子から飛び降りる。
「レディの頼みなら断れないな。ね、バルスも来る?」
 お誘いの形をとった命令に、ヴァルツも渋々付いて来た。
「…もはやトビトですら『バルス』呼びなのだな」
 ファウスト(jb8866)はその姿を憐れみを込めて見つめる。
 何のつもりかは知らないが、こうして接点を持つのも悪い事ではないだろう。
 警戒はするが、相手が攻撃して来ないなら事を荒立てるつもりはない。
「だから紫苑もそう唸るな、まるで毛を逆立てた猫だぞ」
「だって」
 そう言われ、ダルドフに引っ付いた紫苑は涙目でファウストを見返した。
 と、その視界の端に近付いて来るヴァルツの姿を捉える。
「それ以上近づいたら金的しやすぜ!」
 がるるるる。
 これは警告ではない、やると言ったらやる。
 お父さんにちょっかい出すなら、例えトビトでも。
「ありがとうの、紫苑」
 ダルドフはその頭をぽんぽん叩く。
 気が付けばその手の位置が僅かに上がっている様で、その成長が嬉しい様な寂しい様な。
「ところで紫苑、晴れ着はどうした」
 他の皆はもう着替えているし、紫苑も確か用意していた筈だ。
「あんなもん着たら動きづれぇですし」
 いざという時にお父さんを守れない。
 でも、女の子達と一緒に写真を撮りたいし、お父さんにも見せたいし。
「見たいのぅ、紫苑の振袖姿、見たいのぅ」
「うむ、見てみたいものだ」
 父と祖父に言われ、更には懐からデジカメを取り出され、紫苑はあっさりと陥落した。
「おれ、着がえてきまさ!」
 あれ、でも着方わかんない。
「良かったらお手伝いしましょうか?」
 声をかけてくれたのは、ネージュの着付けを終えたばかりのユウだった。
 折角だから、その言葉に甘えさせて貰おうか。
「ねぃねーた、おふりそできれいなの!」
 キョウカがネージュの周りを飛び跳ねる。
 でも、心なしか顔色が悪いのはトビトが近くにいるせいだろうか。


「さて、食事や遊びで乱れる前に一枚記念に撮っておくか」
 着替えを終えた皆にファウストが声をかけた。
 特に羽根つきなどを始めたらもう目も当てられない。
 天気も良いし、外で撮った方が良いだろうか。
「流石に華やかなものだな」
 子供達の振袖は可愛らしく、大人は可愛いくも艶やかに。
 キョウカの髪には兎と梅のモチーフがあしらわれた髪飾りが揺れている。
「しーたとさーた、さんにんでおそろいなの!」
 紫苑は桜、沙耶は桃、いつの間にか三人で買い物をしていたらしい。
「じーちゃも案外似合ってるじゃねぇですかぃ」
 紋付袴を揃えたファウストを見て、紫苑がにししと笑う。
 その態度は本当に褒めているのかどうか怪しいところだが、可愛いから許す。

 皆で揃って何枚か撮り終えると、今度は焔が大きな臼と杵を抱えて来た。
「せっかくだから、東北のお米で餅つきしませんか〜」
 ついでにここで乾杯の音頭を取らせて貰おうか。
「そいつは良い、丁度そこに酒もあるしな」
 ミハイルはヴァルツが運んで来た酒樽に目をやる。
「バルスの酒、大吟醸か?」
 ああ、答えなくても良い、銘柄を見ればわかるから。
「おお、流石わかってるじゃないか」
 それは地方でも有名な一級品、それが大樽に三つとか、ここは天国か。
 酒樽の栓を抜き、一升枡で皆に配る。
 子供達には甘酒を配り、新年を祝って乾杯だ。
「ぷろーじっと のいえやーれ!」
 紫苑がドイツ語で叫ぶ。
「本場じゃ、ゆかにたたきつけてグラスわるんでさ、アニメで見やしたぜ!」
 だが、本場の人は首を振った。
「えっ、ちがうんですかぃ!?」
「乾杯の度にいちいち割っていたら金もかかるし、何より掃除が大変だろう」
 まあ、ここぞという時には派手にやる事もあるだろうが。
「とびとたま、ばるつたま、あけましておめでとうございます! なのー!」
 キョウカの元気な挨拶に、トビトもきちんと礼を返して来た。
 一方のヴァルツは憮然としたまま微動だにしないが、これが器の違いというものか。
「じゃあ良い子の皆にお年玉配るよ〜」
 焔の声に、子供達の顔がぱぁっと輝く。
 紫苑にキョウカ、沙耶、エイルズレトラ、望。拓海もまだ未成年だったか。
 それに、ネージュにも。
「ネイも頂いて良いのですか?」
「どうぞどうぞ〜、お正月には目上の者が目下の者に喜ばれるものを贈るのですよ〜」
 だからトビトの分はない。
 見た目はアレでも地位の高い大人だからね。
 因みに袋の中身は紅白の丸餅だった。
 不満げな様子をうっかり顔に出す子もいたが、それが本来のお年玉だ。
 現代風のお年玉は、甘々のお父さんやお爺ちゃんが用意してくれてるよ、きっと。
「ほなボクからもお年玉や」
 蛇蝎神 黒龍(jb3200)が可愛い袋に小分けしたお菓子を配って歩く。
 ただしこちらは女子限定だ。
「はいどうぞ」
 と言いつつレコーダーのスイッチを入れる。
 トビトがそれを見咎めた様子だったが、特に何も言って来なかった。
(まあトビトがおるなら記録は普通に取るやろしな)
 記録されている事を承知で交わされる会話に情報としての価値があるかは疑わしいが、録っておけば何かの役には立つだろう。
 うっかりポロリ、という可能性も無いとは言えないし。

 そして臼の中に蒸したばかりの餅米が投入される。
「まずは俺がお手本を見せるね〜」
 星梅鉢の家紋が付いた羽織を藤花に預け、たすき掛けをした焔が杵を握った。
 最初は搗かずにコネコネして、引っ繰り返してまた捏ねて。
 ある程度の大きな塊になったら、いよいよ餅つきの開始だ。
「では私は返しをさせて頂きますね」
 申し出たユウが杵の傍らに膝を付く。
 ぺったんぺったん、小さな子には大人が手を貸して、返し手の動きをよく見て息を合わせて。
「ぬおぉぉぉ!」
 あー紫苑ちゃん、餅つきは力任せにするものじゃありませんよー。
 餅をバルスやトビトに見立てててぶっ叩くものでもありませんからねー。
「トビトもやってみる? 楽しいよ〜?」
 杵を手渡されたトビトは最初は興味なさそうに、だが次第に楽しくなってきた様だ。
「これは何? 相手の口や鼻にくっつけて窒息させるのかな?」
「違う違う、食べ物だよ〜美味しいよ〜?」
 搗き上がった餅を小さくちぎり、甘いきなこに絡めて差し出してみる。
「へえ、面白いね」
 美味しいではなく、面白いか。
 まあいい、タレは甘いものから辛いものまで色々と用意したし、他には雑煮やお節料理もある。
「人間の食事、気に入って貰えるといいな」


 搗きたての餅を存分に味わったら、食堂に戻って本格的な食事の開始だ。
 テーブルの上には既に大きな重箱が並べられていた。
 朱塗りの重箱は焔と藤花が、黒塗りの方は拓海が用意したものだ。
「俺のは実家で出されたものを詰めて来た」
 黒豆、数の子、かまぼこ、伊達巻、栗金団、海老の焼き物、なます、昆布巻き、陣笠椎茸、手綱こんにゃく、梅花にんじん――
「味は保証するが…現役の天使や悪魔は食事を必要とはしないんだよな」
「まあね、でも娯楽として食べる事はあるよ」
 さっきも食べたしと、トビトが答える。
「なるほど、なら問題はないな」
 ダルドフは普通に食べていたから、味覚に関しては大体同じ筈だし。
「…そういえば、カルムとネージュも正月の祝いは初めてか」
 日本の正月とはどういうものか、料理の説明も含めてトビトと一緒に纏めて色々教えた方が良さそうだ。
「それなら私がご紹介しますね」
 重箱に詰められた料理をひとつずつ小皿に取り分けながら、藤花が言った。
「おせちには色んな意味が込められています。昆布巻きは【よろこんぶ】、栗きんとんならその色から【金運上昇】ごまめは田作りとも言い【五穀豊穣】、数の子は【繁栄祈願】など…」
 トビトよりも小学生三人組の方が興味津々の様子で聞き入っているが、それもまた良し。
「面白いでしょう?」
 取り分けた料理をトビトの前に置いて、にっこり。
 興味があるなら後でもっと詳しく教えてあげると言われて頷いた三人組には、焔が子供向けに作ったピンクのお重の方が良いだろうか。
 中身は栗きんとんや伊達巻、黒豆、薩摩芋のレモン煮などの甘いもの、有頭海老の旨煮に野菜の鶏肉巻き、肉団子などなど。
 かまぼこや伊達巻きで動物の顔などを作ったものや、ハンバーグにミニグラタン、鶏の唐揚げなども入っている。
「大人用にはおつまみも作ったよ〜」
 茸のアヒージョや、カイワレや紅たでや紅葉卸を添えた牛たたきなどのピリ辛系をメインに。
「ダルドフさんは甘い物が苦手だって聞いたから」
「うむ、それは有難いのぅ」
 これで酒も進むというものだ。
 ヴァルツが持ってきた酒も美味しく戴こう。
 それが作った人への礼儀だ。
「つまみが足りなければ俺も何か作って来ようか」
 拓海が言うが、しかしまずは酒の前に食事だ。
「雑煮を作っておいたが、他にも色々とありそうだな」
 拓海が作ったのは鰹出汁の吸物に小松菜と餅というシンプルなもの。
 しかし雑煮には地方ごとに様々な種類があるのだ。
 焔が運んで来たのは、きりたんぽを使った秋田風とぜんざいの様な鳥取風。
 他にも作ってみたいものがあると聞いて、ユウが手伝いを申し出た。
「ネージュさんもやっってみますか?」
 興味を示したネージュを誘って、藤花を加えた四人は調理室へ。
「入れるお餅も角餅か丸餅か、それを煮るか焼くかの違いもありますし…それからすまし汁か、白味噌仕立てか、あんこ餅をいれるなんて地方もありますね」
「それは愛媛風だね〜」
 勿論それも作ってるよ!
 醤油味の東京風、鰹節を盛った福井風、鶏がら出汁の岐阜風、白味噌仕立ての京都風、アゴ出汁の具沢山は福岡風。
「そういえばぜんざいも北海道ではかぼちゃを使うと聞いています」
 折角だからそれも作ろう。

 出来上がったものは鍋ごとテーブルへ。
「皆さんのお口に合うものがあればいいですが」
「あ、さっきのお年玉は好きな汁に入れて食べてね〜」
 お年玉は年神様の魂を象徴するもの、それを雑煮に入れて食べることで魂を身体に取り込むのだ。
「はい、貴方もどうぞ」
 藤花は京都風の雑煮をよそってトビトの前に置いてみる。
 最初は彼の姿がある事に少し驚いたし、提案された和睦案はまだ信じ切ることができない。
 でも、もし可能なのであれば素敵だろう。
(少しでも、悲しみの涙をこぼすことが減るのであれば…)
 それに対する協力は惜しまないけれど、今はただそっと微笑みながら見守るのみ。
 難しい事を考えるのは、この宴が終わってからでいい。
 今は気にせず一緒に楽しんでしまおう。

「…ああ、この料理おいしいですよ。おひとつどうぞ」
 エイルズレトラは気に入った料理をトビトにも勧めてみた。
「天界でもこうしてパーティを開くことはあるんですか?」
 などと尋ねながら、人間の文化やマナー、宴の楽しみ方などを少しずつ説明する。
 トビトに対する評価が変わったわけではないし、心の中では絶対よからぬことを企んでいると決めてかかっていた。
 それでも表面上は友好的なふりをしているのは監視のためだ。

「おひとついかがですか?」
 ユウはヴァルツに酒を勧めてみる。
 トビトにはジュースだろうか…いや、これでも大人なのだから、やはり酒で良いのだろうか。
 トビトの傍に寄ると肌が粟立ち、身体が震えそうになる。
 それを懸命に抑え、ユウは笑顔を保っていた。
 こんな時は癒やしが欲しい。
 癒やしと言えば――
「ダルドフさんにお土産です」
 ユウは持参した重箱を差し出した。
 中身はリュール特製のダルドフへの愛が詰まったお節料理だ。
 その真相はパックで売られていたものを詰め替えただけであり、そこに愛があるかどうかも疑わしいものだが――大丈夫、言わなければわからない。多分。
 そしてもうひとつ、晴れ着姿のリュールと一緒に撮った写真を添えて。
 機嫌の悪そうな仏頂面に見えるのは気のせいです、ええ。
「門木先生の周辺も一応は解決して、リュールさんも心配事が一つ解消されて一安心している所です」
 だから気の緩んだこの隙を逃してはならない。
「リュールさんに新年の挨拶と労い、それに着物の感想の電話を入れて下さいね」
 そう釘を刺すユウは、相も変わらず意気込み充分。
「互いに距離を取っていても信頼し合っているのは分かります。しかし、今年こそは何としても二人をラブラブにさせてみせます!」
「お、おぅ…」
 なお電話をかけたら用件を聞くなり速攻で切られたそうですが、それは。

「トビトだったか、俺が鍋料理の食べ方を教えてやろう」
 大きな土鍋を前に、ミハイルが小皿を取り出す。
「俺は知ってるぞ、箸で直接つついてはダメなんだ。大皿料理もこうして自分の分を取り分けてから食べるんだぞ」
 取り分け用の箸がない時は、自分の箸を引っ繰り返して使うんだ。
「そうだ、箸は使えるか?」
 よーし、それも教えてやろう。
 トビトを構いながら、ミハイルは黒田にも声をかけてみる。
「黒田、仮装甲冑以来だな、久しぶりだ」
 あれはハロウィンの時だから、二ヶ月前くらいか。
「どうだ、父親としての株は上がったか?」
 ニヤリと笑ったミハイルは、次いで誇らしげに鼻を高くした。
「ちなみに俺のパパ株は上がりまくりだ」
 そんなミハイルに、黒田は苦笑いを返す。
「まあ、一応はな」
 しかし娘は父親の勇姿よりも新しい友達が出来た事の方が嬉しかった様で、今もパパそっちのけで紫苑やキョウカと一緒に笑い合っていた。
「寂しいのぅ」
 酒をちびりと飲んで、ぽつりと零すダルドフ。
 ファウストは楽しそうな孫達に向けて、黙ってシャッターを切った。
「おいおい、ここは通夜の席か?」
「お前さんにもいずれわかるよ、娘が離れてっちまう寂しさがな」
 寂しいパパず&ジジは、そっと深い溜息を吐いた。

「いただきますはちゃんとしなせぇよ、育ちよさそうなんですから」
 紫苑はトビトに向かってそう言いながら、料理をせっせと口に運んでいる。
 嫌な奴でもご飯を食べている時は喧嘩をしないという鉄則により、ただいま一時休戦中だった。
「おりょうりとってくるの!」
 元々友好的だったキョウカはますます友好的にヴァルツの世話を焼いている。
「ばるつたまはどんなあじがすき? だるどふたまはあまいのがにが手ってゆってたの」
 返事がない。
 だったら勝手に選んで食べさせちゃうよ?
「はい、あーん、だよ?」
 だがヴァルツはやはり微動だにしない。
「ほんと、つまんない奴だよね」
 そう言って笑ったトビトは、キョウカの方を向いて口を開けた。
「それ、僕にくれないかな?」
「じゃあ、とびとたまにあーん?」
 ぽいっと放り込んだのは、自分が大好きな甘い黒豆だ。
 そうしていると、トビトも普通の子供にしか見えないのだが――

「だが、本当にただ正月を楽しみに来たわけでもないだろう」
 トビトには聞こえないようにぽつりと零した拓海は、ダルドフと黒田に尋ねてみた。
「トビトがこっちに擦り寄る理由の心当たりはないか?」
 大方は地脈絡みだろうが、ここに暮らしている者の方が分かる事もあるだろう。
「地脈もそうであろうが…」
「この街は今、人口がどんどん増えてるからな」
 二人は視線を交わし、頷き合う。
「ここにゲートを開く事を、まだ諦めてないのか?」
「恐らくはの」
 この地は東北地方でほぼ唯一の人口密集地となりつつある。
 ここにゲートを開けば、復興途上にある他の都市を狙うよりも遥かに効率良く魂を集める事が出来るだろう。
「ダルドフを手元に戻そうとする理由は?」
 いや、それはトビト本人に訊くべきだろうか。

 その疑問は黒龍が代わりに口に出してくれた。
「なんや、ダルドフの有給休暇でも切れたんか、で戦力取り戻そうと? ちゃうのん?」
 そう問いかけながら、意思疎通を送ってみる。
『有給休暇はまぁたとえやけど、おしてひくというか、多少不利になってもあとから有無をいわせぬような立場に追い込む感じがあんねん。
 温情を掛けておいて、もう十分躍らせたから戻ってこいとかやろか?』
「ボクのゆーてること分かる?」
 どちらの問いにも答えないトビトに重ねて訊いてみる。
「そっちこそ、わかってるなら何でわざわざ訊くのかな?」
 トビトは可笑しそうに喉を鳴らした。
「なら、わからん事を訊いてみよか」
 黒龍は改めて尋ねた。
「天使と人間は共存できると思うとる?」
「無理だね」
「人間に対して思ってるイメージは?」
「肥料」
 餌ですらなかった。
「肥料、か」
 ファウストが肩で息を吐く。
「そういえば。貴様はもしや、植物と対話出来たりするのか?」
 以前の作戦報告を読んだ時に、そんな雰囲気があった。
 それでずっと気になっていたのだが。
 植物から情報を得られるのであれば、この新年会の事を知れた事にも納得がいく。
 しかしトビトの答えは否だった。
「流石に僕もそこまでは無理だね」
 それなら何処から漏れたのかと眉を寄せるファウストを余所にトビトは続ける。
「第一、奴等には会話を成立させるだけの知能がないよ」
 それが本当かどうかはともかく、今こうして会話を交わしているということは――
「俺達には知性があると認めているわけだな?」
 ミハイルが言った。
「トビトにとって人間とは何だ? ただの敵か? 家畜か?」
 先程は肥料と言っていたが、それは収穫後のイメージだろう。
「俺達は牛や豚と遊ぶとしても意志を交わさないし、交わせない。同じ飯も食えない。だが人間と天使、結婚して子供もできる――もちろん冥魔ともな」
 猿よりもずっと近く、元々同じ種族だったのではないか。
 だとしたら。
「そろそろ対等に見て欲しいものだ」
 と言うか、対等に見ていないなら和睦の話など出て来る筈がない。
「人間は一瞬で蹴散らせる石ころだと思ってたけど、そうでないとわかった。少なくとも、冥魔と同時に相手するのは得策ではないと悟った…というところでしょうか?」
 エイルズレトラの言葉を、トビトは否定しなかった。
「休戦でなく和睦と言い出したのはそれが理由か。冥魔側に何か動きでもあるというのか?」
 ファウストが重ねて尋ねる。
「まあね、奴等に対抗する戦力は少しでも欲しいからさ」
 それを聞いて黒龍は思った。
 天使と組むくらいなら、冥魔と組んだ方が良いと。
 組むというよりは、お互いの邪魔をしないギブ&テイクに持ち込める。冥魔となら一時的に利害が一致すれば組める。
 それに基本的に彼等は気分屋だ。手のひら返しによるイラつきは天使より少ないだろう。
 と言っても、この場で実際にそんな提案が出来る筈もない。
「まぁそれはともかく、折角こうして会うたんやし。サインくれへん?」
 黒龍は紙とペンを取り出すが、トビトはそれを受け取ろうとはしなかった。
「それより、お前達って悪魔だよね?」
 トビトはもの問いたげな視線を向ける。
「魔界の事について知りたいのか?」
 ファウストが答えた。
「残念ながら我輩が魔界にいたのは500年程前故、あちらの内情については何もわからん」
 古い情報で構わないなら多少は話せる事もあるだろう。
 地球の事も、まぁそれなりに。
 ただし戦いに支障がない範囲で、だが。
「違うよ、僕が聞きたいのはどうしてはぐれたのかって事」
 天使が堕ちる理由なら想像は付く。
「でも悪魔って僕の想像を超えてるんだよね」
「我輩は悪友との賭に負けた結果であるが」
 それ以上の事を言う必要はないだろう。
「ボクはもう忘れてもうたな。けど、空が綺麗やったとか食べ物が美味かったとか、自分の心のままにはぐれるんが多いんちゃうかな」
 そう言って、黒龍は会話を切り上げた。
 後はひとり静かに酒を飲みながら、無骨な武人であるひとりの女使徒を思う。
 個を得ない使徒に情愛は沸かないが、彼女達に対してはそれなりに友愛を感じる。
(まぁ最愛の者が一番大事やけどな)
 だから絶対に揺れはしないけれど。


 ご馳走でお腹が膨れたら、次は遊びが待っている。
 隣の会議室には、いつの間にかミハイル特製すごろくが用意されていた。
 広い床の一面にすごろくのマス目が書かれている。
 ここではプレイヤー自身がコマとなって進んで行くのだ。
「これは人間の一生をゲームに例えたものだ、人間界を知りたくばこれで勉強するがいい」
 かなり辛口になってるけどな!
「きょ年はばるつたまとたたかったけど、今年は一しょにあそぶのっ」
 キョウカに言われてトビト達も強制参加。
「ほう、これが双六というものか」
 ファウストは興味津々の様子で盤面を覗き込む。
「存在は知っていたが、実際やるのは初めてだ。興味深い」
 まあ、普通とはちょっと違いますけどね、大きさは勿論その内容も。
「お父さんもやるんですかぃ?」
 だったら自分もやると、紫苑はダルドフにひっつき虫。
「おれ、お父さんと二人でひとつのコマになりやす。かまいやせんよねぃ?」
 だっておとーさん守らなきゃいけないし!
 結局は全員参加でふりだしのコマに並び、クッションの様な大きなサイコロを転がす。
 まずは誕生から始まって、小学校に入る辺りまではほぼ順調。
 だがそこから先は試練の連続だった。
 ・中学受験のため塾通い、友達が出来ずぼっちになる
 ・中二病を発症、以後はサイコロを振る度に必殺技を叫ぶ
 ・バレンタインにチョコをひとつも貰えなかった、引き籠もって一回休み
 ・就活に疲れ果て、終活を考え始める
「内定貰えないまま卒業か〜」
 だが焔が進む道には光があった。
「傷心の卒業旅行で酒蔵を見学、杜氏の見習いとなるだって。いいね〜」
「オレオレ詐欺の出し子となるが一斉検挙、懲役三ヶ月で三回休み、だと…?」
 ファウストはその後、ろくな人生を歩めそうもない予感。
「…随分リアルで殺伐としているな、この双六とやらは」
 警察官になった紫苑が止まったマスには「事故に巻き込まれる・任意のプレイヤーに損害賠償を請求」と書かれていた。
「バルスぅ、ばいしょー金よこしなせぇ!」
 思いきりふっかけたら、ちょっと気分が良くなった。
「くっ、地獄の通勤電車にサビ残、株の投資に失敗し、給料減っても住宅ローンの返済か」
 我ながら酷いものを作ったものだと溜息を吐きながら、ミハイルはサイコロを転がす。
「まったく世知辛い世の中だぜ …おう、結婚のマスか」
 脳裏に浮かぶ、好きだった女性の花嫁姿。
「いいや、忘れろ俺。次だ次!」
 頭をぶんぶん振って次のマスへ。
「おっ、順調に子供ができたか。俺、娘がいいな」
 ピンクの人形を抱えて足取りも軽く先へと進む。
 だがしかし。
「ぐはっ! 会社が倒産…なんてこったい」
 おまけに十六で家出した娘が二十歳でどこぞの馬の骨と駆け落ちだ。
「ここはおともだちがいないと、さきにすすめないの…」
 10マス戻ったキョウカはそこで友達募集のSNSに顔写真と個人情報を投下、炎上。
「天魔の襲撃でふりだしに戻る、ですか。やり直せるだけまだマシですね」
 やれやれと肩を竦めて戻って行くエイルズレトラ。
「いいか、天使達。これが人の世の悲喜こもごもだ」
 それでもどうにか、最後には良い人生だったと思えるように、この双六は出来ていた。
「ヒトの生はあなた方に比べはかないですが、その分力強くもあるのかも知れません」
 誰にともなく藤花が呟く。
「この双六などは、それを象徴しているかも知れませんね?」


 宴の〆はファウストの提案で、ドイツ式に花火で新年を祝った。
「本当は打ち上げ花火なんだがな、子供もいる場では危ないし、手持ちでも十分だろう」
 すっかり暗くなった工場の中庭に炎の花が踊る。
「最後にひとつ良いだろうか」
 それを見ながら拓海がトビトに尋ねた。
「和睦の話は本気なのか?」
「さあ、どうだろうね」
「どっちにしても、お父さんはわたしやせんぜ」
 ダルドフの前に仁王立ちした紫苑が言い放つ。
「家族として、おれは大すきなお父さんに人の死体をもてあそんだり部下のあつかいが悪い上しのいるしょく場にいてほしくありやせん」
 和睦だ何だは撃退庁や学園の上が決める事だ。
 過去にそういう事例があることも学んでいるし、利害が一致するなら手を組むこともあるのだろうとは思う。
 ただ、父に復帰しろと言う命令なら誰が何と言おうと断固として阻止する。
「ダルドフ、お前は随分と愛されてるじゃないか」
 トビトは小さく笑みを漏らした。
 その笑みが何を意味するのか――素直な祝福と受け取るのは甘すぎるだろうか。
「今年のお正月はとびとたまとばるつたまとあそべるって、思ってなかったの。だから、また一しょにあそびたいの!」
 キョウカは遊びの合間に描き溜めた絵をトビトに手渡した。
「絵は、今日のなかよしのしるしなの! かざっても、しまってもだいじょぶだよ? もしこれからワボク?できそうになかったら、さびしーけどすててもかまわないの…」
「これもお土産に持って帰ってよ」
 帰ろうとするトビトに焔が重箱を差し出す。
「それとね、こういう時に人間はありがとうって言うんだ」
「ふぅん」
 興味なさそうに応じたトビトだったが、最後にこう言って去った。
「ありがとう、今日は楽しかったよ」


 望むものは皆で手を取り合って平和に暮らせる世界。
 この小さな街で、それはもう現実となっている。
 それなら、それを世界中に広げる事も不可能ではない筈だ。

 宴を終えた食堂の壁には、キョウカの書き初めが貼られている。
 そこには伸び伸びとした書体で『なかよし』と書かれていた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

思い繋ぎし紫光の藤姫・
星杜 藤花(ja0292)

卒業 女 アストラルヴァンガード
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
By Your Side・
蛇蝎神 黒龍(jb3200)

大学部6年4組 男 ナイトウォーカー
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
シスのソウルメイト(仮)・
黒羽 拓海(jb7256)

大学部3年217組 男 阿修羅
娘の親友・
キョウカ(jb8351)

小等部5年1組 女 アカシックレコーダー:タイプA
七花夜の鬼妖・
秋野=桜蓮・紫苑(jb8416)

小等部5年1組 女 ナイトウォーカー
託されし時の守護者・
ファウスト(jb8866)

大学部5年4組 男 ダアト