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マスター:STANZA
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:19人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/12/10


みんなの思い出



オープニング




 久遠ヶ原の人工島、その一角に大きなモミの木がある。
 幹は一人では到底抱えきれないほど太く、高さは20mほどあるだろうか。
 それが生徒達の手によってクリスマスツリーとして飾られるようになってから、今年で三年。
 もちろん今年も、それは綺麗に飾り付けされることになっていた。

 ただし、今年はそこに主催者――門木章治(jz0029)の姿はない。
 天界勢のゲートに囚われた彼は、まだ暫くは戻れないだろう。

「だが案ずることはない」
 腕を組み、鷹揚に頷きながら、その母リュール・オウレアル(jz0354)が言った。
「今年は私が主催してやろう」
 有難く思うのだな、などとやたら偉そうな上から目線だが――

「毎年の恒例なら、ここで絶やすわけにもいくまい」
 それに、息子は必ず帰って来る。
 クリスマスの本番に間に合うかどうかは……いや、間に合う。
 彼が信じた仲間達が、絶対に間に合わせてくれる。
 だから――などと口には出さないツンデレブラックオカンだった。

「クリスマスとは確か、ツリーを飾り立てて願い事の短冊を飾り、当日には仮装をしてプレゼントの交換をするのだったな」
 色々と混ざりすぎている気がするが、機嫌を損ねても面倒なのでそっとしておこう。
 触らぬオカンに祟りなし、だ。
「後は何か企画があれば良いのか」
 去年は皆で編んだマフラーを幹に巻いた。
 マフラーからランクアップするならセーターか。
 いやいや、それは貰って嬉しいプレゼントの話で、そもそもモミの木に着せるセーターって何だ。
「ここは編み物から離れたほうが良いな」
 それに、そういった細かい作業は自分が苦手だ。
 誘われたり、ましてや元旦那に編んでやったらどうだ、などと言われては藪蛇もいいところ――

「よし、今年は雪だるまを作るぞ」
 どうしてそうなるのかと?
「要は賑やかになれば良いのだろう」
 なに、雪がない?
 そんなものは根性で降らせろ。
「人間界には雨を降らせる祈祷の舞いとやらがあると言うではないか」
 雨が降るなら、雪だって。

 そうと決まれば善は急げ。

「準備は整えておくからな、さっさと帰って来い馬鹿息子」
 ゲートの方角に向かって、リュールはぽつりと呟いた。
 出来れば、クリスマス本番は彼の帰還を祝うパーティも兼ねたいものだが――


 といわけで。
 今年も皆でツリーを飾りませんか?



リプレイ本文

「さて、ボクにも出来ることは…」
 その前日、クリス・クリス(ja2083)は風雲荘のリビングで去年のアルバムをパラパラと捲りながら難しい顔をしていた。
「冬場のイベントで嬉しいのは甘酒と豚汁だねー」
 それにユーラン・アキラ(jb0955)が皆で記念撮影したいと言っていたし。
「どうせなら皆で一緒に写りたいよね」
 撮影担当の人だって皆と一緒が良いだろうし。
 タイマーという手もあるけれど、ここは折角だから――
「よしっ」
 ポンと手を叩いて、クリスは外に飛び出して行く。
 目指すはお馴染み久遠ヶ原商店街だ。

「組合長さんいるー? 商店街の愛娘(自称)からお願いがっ」
 かくかくしかじか、こういうわけで。
「ツリー目当てのお客さん増えるし商店街も潤うし、ちょーっと協力して貰えないかな♪」
 ただし当方学生の身で、軍資金は三千久遠しかありません。
「可愛い娘の頼みだと思って、これでなんとか!」
 しかし、差し出された現金はそっくりそのまま返された。
「おいおい、嬢ちゃん商店街の愛娘なんだろ? だったら可愛い娘から金なんざ取れるかい」
 嬢ちゃんの言う通り儲け話に繋がるなら、それくらいは宣伝費と思って自腹を切ると、組合長はその太鼓腹を叩く。
 まあ儲けにはならなくても、そこは大人の心意気というやつだ。
「ありがとう、さすが太っ腹だね♪」
 では早速、甘酒の手配は酒屋さん、豚汁は肉屋と八百屋に頼むとして。
「記念撮影は写真館さんにお願いして良いかな。ほら学生証用の写真の仕事に繋がるしっ」
 あとは何か、商店街の方で是非とも提供したいなー、なんていうのがあったら遠慮なく申し出てくれて良いのよ?
 例えば新米で搗いたお餅とか、鍋物に最適な食材とか。
 あ、闇鍋はナシでお願いしますねー。

 というわけで、これで仕込みは完了。
 意気揚々と引き上げるクリスは、酒屋の前でミハイル・エッカート(jb0544)にばったり出くわした。
「あ、ぱぱー」
「おう、クリスか」
 ミハイルはこれから酒屋で大吟醸を仕入れるところ。
「一緒に来るか?」
「うん、行くー」
 なお支払いは門木のツケということで。
「帰ってこないとツケが溜まるぞ」
 だが支払い期限を引き延ばすにも限度があるし、帰って来ないからといって踏み倒すわけにもいかない。
「そうなったら俺が払う羽目になるじゃないか」
 だから、さっさと帰って来い。
「なんて言いつつ、門木せんせーが好きそうなお酒とか買ってるし」
 クリスが笑う。
 ミハイルが自分では飲まない度数の低い甘い酒。
 それが風雲荘のキャビネットにたっぷりストックされていることを、クリスは知っている。
 その全てがミハイルのポケットマネーで賄われたものであることも。
(もー、ぱぱったらツンデレなんだから♪)

 そしてもう一箇所、クリスマス関連のグッズを扱う雑貨屋の前には、神谷 愛莉(jb5345)と礼野 明日夢(jb5590)の姿があった。
「今年は準備から参加するのです!」
 張り切る愛莉に引きずられ、明日夢は早くもお疲れ気味。
「エリ、一昨年参加した姉さん達から使った色々預かってたよね?」
「ええ、リボンと雪代わりの綿、ちゃんとお洗濯して託されましたですの」
「じゃあ、べつに他はいらないんじゃ…」
 しかし愛莉は断固として首を振る。
「それだけじゃつまらないですの」
 そして見付けたのがこれ、ポケットに入る位のクリスマス仕様動物オーナメントシリーズだ。
 赤猫、赤い親子熊、黒蒼猫、金色犬さんに目つきの悪い金色猫さんエトセトラ。
「はいはい、それが全部欲しいんだね。でもお金足りる?」
 その言葉に無言で首を振った愛莉の顔には「だからアシュのお小遣いも貸してもらうですの!」と書かれていた。
「やっぱり、そうなるよね」
 財布の中に多めに入れておいて良かった。
「…これ何か見覚えある気がするんだけど…見た事なかったよね」
 愛莉だって見たことはない筈だ。
 なのに何故か懐かしく、思わずオーナメントに向かって「久しぶり」なんて声をかけたくなるのは何故だろう。
「…でもこれ、濡らしちゃいけないって気が凄くするですの」
 というわけで次は文具店、ディスプレイ用のビニール袋とリボンを予算ぎりぎりで購入。
 後は一旦家に帰って、一匹ずつ袋詰めだ。


 そして当日。
「祭りは! 準備から楽しむものだ!!」
 ゼロ=シュバイツァー(jb7501)は、いつものアレだった。おわり。
 あ、嘘です冗談ですちゃんと描写しますから!
 と言っても今日のゼロは映される方ではなく映す方――かと思ったら、やっぱり映される方だった。
 何を言ってるのかわからない?
「きっつぁんが参加でけへんのなら、後で気分だけでも味わってもらおうと思ってな!」
 会場の様子をバッチリ映像に収めておくよ、たこ焼きで買収したビデオ班が!
「俺は勿論、オモロイとこには随時参加するスタイルや」
 つまり、いつもの。
 というわけで、カメラ入りまーす。
 なお、このビデオは編集後ゼロさんの実況を付けて全国放送されます。
 え、全国は無理?
 ならせめて久遠ヶ原…え、出演者の許可が取れない?
「しゃーない、きっつぁんに送り付けるだけで我慢したるわ」
 それでは皆さん、カメラは意識せずに普段通り、リラックスしてまいりましょー。

 誰よりも早くモミの木の前に来たアキラは、幹に長い梯子を立てかけた。
「クリスマス準備は気合入れるぜ!」
 自前のクラフトを手に梯子を登り、手近な枝に次々と下げていく。
 残った時間で氷の彫刻を作るため、飾り付けは手早く終わらせるつもりだった。
「梯子はそのままにしておくから、使いたい奴がいれば勝手に使って良いぜ」
 あ、それから。
「てっぺんの星は全部終わってから最後に付けるんだったよな」
 用意はしてあるから、準備が出来たら声をかけてもらえるだろうか。
 それまではひたすら、氷を削って削って削りまくる!

「そう言えば去年も参加したなー」
 そんなことをぼんやりと思いつつ、今年も何となく参加してみた天宮 佳槻(jb1989)は、主に高い所への飾り付け担当だ。
「手伝いが欲しかったら遠慮なく言ってください」
「あ、じゃあこれをお願いして良い?」
 声をかけたのは蓮城 真緋呂(jb6120)、今年で三年目のベテランツリーコーディネイターだ。
 その手に持っているのはパッチワークのように色とりどりの布きれが接ぎ合わされた長い布。
 幅はタオルと同じくらい、長さは…重い。ずっしりと重い。
 だから多分、相当な長さになっている筈だが、それはこの布達が生きてきた時間の重さでもある、なんて。
「これ全部、商店街で集めた使い古しの端切れや古着で作ったの」
 だから店のロゴが入ったタオルや、色褪せたのぼり旗、カーテンの切れ端など、歴史が染み込んだものが多く連なっている。
「去年のマフラーの布版ってところね」
「ああ、そう言えば去年は皆でマフラーを編みましたね」
 自分はそちらには参加しなかったが、覚えていると佳槻が頷く。
「古布ばかりだけど、色柄いろいろで綺麗でしょ?」
 それを受け取り、佳槻は下から上までぐるぐると巻き付けていった。
「ありがとう。うん、これで今年も寒くないかな」
 真緋呂はツリーの真下に立ってそれを見上げる。
「…気がつけば、久遠ヶ原に来てからずっと参加してるのね」
 毎年、違った気持ちでこの木を見上げている…そんな気がする。
 最初の年は見事に食べ物ばかりのオーナメントを作って飾り付けたっけ。
 思えばあの時既に、はらぺ娘キャラが出来上がっていたのだろうか。
 去年は心を真っ白にしたいと願いつつ、そして今年は――

「ひとまず、温かい飲み物で休憩しませんか?」
 佳槻に声をかけられて、真緋呂は振り向く。
 そこにはいつの間にか、ホットドリンクの屋台が出来上がっていた。
 そう、佳槻としては飾り付けよりもこちらがメインなのだ。
「外で動けば飲み物も欲しくなるだろうし」
 商店街の甘酒に負けじと、豊富なメニューで勝負を挑む――いや、別に競うつもりはないけれど。
 メニューは適度に温めたコーラに生姜を加えたホットコーラ、紅茶に生姜と蜂蜜、そして牛乳を加えたハニージンジャーティ。
「どちらも生姜の効用でぽかぽか温まりますよ」
 生姜が苦手なら、牛乳に苺ジャムを加えたホット苺ミルクカクテルや、柚子果汁に蜂蜜を加えてお湯で割った柚子のホットカクテルはどうだろう。
 ただし、この二つは見かけは普通のソフトドリンクだが、実はどちらも日本酒入り。
「未成年にはアルコール抜きで作りますから、大丈夫ですよ」
 ただし風味は変わるかもしれないけれど。
「じゃあ、とりあえずハニージンジャーティが良いかな」
 勿論あとで一通り全部試してみるけれど――未成年なのでアルコールは抜きで。
 注文を受けて、佳槻はさっそく簡易コンロに火を点ける。
 材料を湯煎で温め、分量を量ってカップに注ぎ、冷めないうちに召し上がれ。
「ありがとう、いただきます」
 身体も心も温まるホットドリンクで一息吐いた真緋呂は、足元の真っ白い雪をそっと掌で掬った。
「雪うさぎ、作ろうかな」
 大きいのと、中くらいのと、小さいの。
「お父さんと、お母さんと、私」
 それを低い枝の上に並べ、語りかけてみる。
「…最近、色々と迷いが多いの」
 二年前には考えもしなかったこと。
「受容れられなかった冥魔にも信用出来る人がいるのかな、とか…失っても憎まずにいられる人もいて何故、とか」
 うさぎ達のすぐ上に結ばれた星型の短冊には『道を見つけられますように』と書かれていた。

「きゃはァ、少し早いけどクリスマスタイムだわァ。素敵に飾り立てましょうォ♪」
 黒百合(ja0422)はスイッチを入れると歌い出すサンタや、ゆっくりと翼を動かす天使など、電池で動くギミックが付いたおもちゃを飾っていく。
 リモコンのスイッチひとつで一斉に歌って踊り出すような仕掛けが出来ればもっと良かったのだが。
「いちいち手動っていうのも、それはそれで良いかしらねェ」
 あとは保存が効くお菓子を詰め込んだ、防水加工の大きな赤い靴下をぶら下げたいのだが。
「これは子供達でも手が届く高さに飾りたいわねェ」
 しかし一番低い枝でも黒百合の遥か頭上、思いきり手を伸ばして漸く触れる程度だ。
 紐を長くして吊そうか、それとも――
「良い感じのマフラーが出来上がったわねェ♪」
 真緋呂に許可をとって、そこに安全ピンで留めさせてもらおうか。
「良いじゃない、ますますカラフルになりそう」
 快諾した真緋呂は黒百合を手伝って太い幹の周りを靴下で埋めていく。
 不揃いに並んだ靴下は、マフラーの五線紙で踊る音符のようにも見えた。
 枝に巻いたLED電球のイルミネーションはソーラー充電式、辺りが暗くなると勝手に点灯してくれる。
 なお消灯スイッチはありません。電池が切れるまではピカピカ点きっぱなしですので悪しからず。

「まっかな、ふん・ふん・ふん・のぉ、トナカイちゃんはぁ〜♪」
 白野 小梅(jb4012)はテキトーにうろ覚えの歌を歌いながら、倉庫を漁っていた。
「んー、なんだっけ。まっかな…お・し・り?」
 それはサル。
「そうだ、おへそ! まっかな、お・へ・そ・のぉ〜♪」
 なお歌詞がおかしいのは大人の事情です。
「お・へ・そ・の、ヘッドライトぉ〜♪」
 歌いながら見つけ出したのは、各種オーナメントに電飾、そして門松。
 門松…?
 まあいいか、クリスマスと七夕が一緒になってるくらいだから、そこに正月が乱入しても違和感はない、はず。
「いっくよぉ〜♪」
 光の翼で舞い上がった小梅は、螺旋を描くようにツリーの周りを飛びながら電飾を巻き付けていく。
 それから高い所にオーナメントを吊したり、皆の手伝いをしたり。
「高いところはボクにお任せだよぉ〜」
「じゃあ、これは小梅ちゃんに頼もうかな」
 黄昏ひりょ(jb3452)が銀色の雪の結晶を象ったキラキラモールを差し出した。
「なるべく高いところにね」
「おっまっかせー♪」
 電飾と重ならないように、間をぬってクルクル巻き付ける。
 飛べるって、楽しい!

「ほらほら璃狗、ぐずぐずしないの! 寒いからって炬燵にばっかり入ってると猫になっちゃうよ!」
「それは初耳だな」
 緋伝 璃狗(ja0014)は、双子の姉である緋伝 瀬兎(ja0009)に引きずられるようにしてツリーの前にやって来た。
「猫になれるなら寧ろ本望なんだが」
「だって最近中々二人一緒に遊ぶ事ないじゃない!」
 あ、聞いてない。
 大学生にもなって双子の姉弟が一緒に遊ぶというのも、あまり聞かないが。
「鍛錬にもなりそうだし、まぁいいか」
 で、この木を飾りつければいいのか。
 でかいな、と璃狗はその幹を見上げる。
「雪も積もってるし、なんだか寒そう…セーターとか着せてあげられないかな?」
「モミの木に着せるセーター…一応「こも巻き」という物はあるが」
 と思ったら、幹にマフラー巻いてる人がいた。
「よかった、これで寒くないね!」
「この木が寒がっているかどうかは疑問だが」
 モミの木は元々寒い地方に自生するもので耐寒性も強く…あ、聞いてないよね、うん。
「それじゃ、飾り付けやろっか!」
「任せろ、飛べる奴程ではないが、こちらも伊達に忍者はやっていない」
 壁走りを使えばどんな場所にも行けるし、高い所はお手のものだ。
「んー、でもそれだけだと地味かな…」
 首を捻った璃狗は、ぽんと手を叩く。
「そだ、手裏剣みたいにオーナメントをシュシュッとつけられたら格好いいかも!」
「瀬兎姉、言っておくが手裏剣を画鋲代わりに使うのはNGだぞ」
「わかってるわよ、それくらい」
 だから、こう…シュッと投げたら紐がピッと枝に――
「かからない? 駄目?」
「駄目だろ、そりゃ」
 やってみなくてもわかりそうなものだと、璃狗はそっと溜息を吐く。
「そんな睨まなくたっていいじゃない」
「別に、睨んではいない」
 元からこういう目つきだ、などと軽口を言い合いながら、二人はごく普通にツリーを飾り付けていった。
 それが終わったら次は雪遊び、じゃなくて雪像作りだ。
 瀬兎はこういう事が得意らしく、雪を固めて作った兎は妙にリアルな造形をしていた。
 他には手裏剣やクナイなどの忍者アイテムを作っていく。
「さっきは使えなかったから、これで」
 雪で出来たミニツリーを作って、手裏剣を刺して。
「天辺の星も手裏剣にしちゃおう!」
 その隣には獣耳と羽根が生えた雪だるまが鎮座していた。
 さて弟はどんなものを作っているのかと見てみれば――
 そこに並んでいるのは教科書に出て来そうなほどノーマルな雪だるまや雪うさぎ達。
「北国出だからな、こういうのは懐かしくて悪くない」
 作った本人は満足そうだが…
「んー、璃狗ももっと個性的で自分らしいの作ろうよー」
 それ普通すぎ!
「こ、個性を出せと言われてもな…褌でも履かせるか?」
 それは、個性なのだろうか。

「…大きな木ですね」
 北條 茉祐子(jb9584)は、ほぅっとため息を吐きながらツリーを見上げた。
 これを飾り付けるのは、やりがいがありそうだ。
 持って来たのは手作りのジンジャーマンクッキーと、紅茶の入ったポット。
「これは寮で焼いてきたものです。ポットは後で休憩の時にでも、皆さんと一緒にお茶を楽しめたら良いなと思って」
 クッキーも半分ほどはおやつとして持って来たものだ。
「飾り付け用には、こちらのビニールに入れたものを使います」
 遠くからでも見えるように、サイズは普通の倍くらい。
 燐光を放つクサカゲロウのような翅を広げ、茉祐子はツリーの周囲を飛び回る。
「ひとりでは寂しいでしょうから、いくつか纏めて飾ってみましょうか」
 先に飾ってあったキャンディケインやプレゼントボックスの近くに置いてあげるのも良いかもしれない。
 それが終わったら、他の人の手伝いも――

「エリ、僕達空飛べないよ?」
「大丈夫、ひーちゃん達に上に運んでもらいますの」
 愛莉と明日夢はヒリュウのひーちゃん達に手伝ってもらいながら、動物達のオーナメントを飾り付けていく。
「そう言えば、こういう奇跡が絡むイベントとか、お盆とか…出没する人達がいるんだよね」
 作業の様子を見守りながら、明日夢が呟く。
「でも今日は準備だし、来れないと思うけど――え?」
 最後の二匹を手渡そうとした時、どこからともなく大きなビニール袋が手渡された。
「あ、それ一緒にして飾るの? まぁ良いけど…って、誰!?」
 周囲を見渡しても誰もいない。
 愛莉でもないし、一体誰が…やはり、いつもの「あの人達」だろうか。

「サトル、マサト、アヤ! 元気にしてた?」
 シェリー・アルマス(jc1667)に声をかけられ、三人は曖昧に頷く。
「最近、めっきり寒くなったね。体調は大丈夫?」
「大丈夫、身体の方は元気よ」
 アヤの答えは、何だか少し意味深だった。
「身体は…っていうことは」
 もしかして頭の方が風邪を引いたりしているのだろうか。
「進級試験、どうだった?」
「ふん、らくしょーだぜ」
 マサトが鼻を鳴らすが、アヤが真相をバラしてしまった。
「あれは見事な土下座だったわ」
 なるほど、留年候補だったわけか。
 ともあれ三人とも進級は出来たようだ。
「じゃあマサトは高校生ね」
 勉強でも何でも、わからない事があったら何でも訊いてとシェリー先輩は胸を張る。
「それで今日は何するの?」
「何って、普通に飾り付けですけど」
 まだ微妙に態度の硬いサトルが答える。
「うん、じゃあ頑張ろうか。私も手伝うから」
 この三人、特にマサトは途中で遊び始めそうな気もするけれど。
(それはそれで、テリオスさんへの良い土産話になるかな)
 個人的には彼の状況も気になるところ。
 黒咎達にはそれなりに責任を感じているようだし、三人が元気にしている様子を見せれば少しは負担も軽くなるだろうか。
 そんな事を思いつつ、シェリーは楽しそうな様子を写真に収めていった。

「モミの木さん、今年もよろしくお願いします」
 シグリッド=リンドベリ(jb5318)は、モミの木に向かってぺこりと頭を下げる。
 思えば彼も、これで三年連続の参加となる。
「章兄と初めて会ったのがここなのです」
 科学室では何度か会っていたけれど、それ以外、プライベートでは。
「だから、ぼくにとっては年末よりこっちの方が一年の一区切りに感じます」
 しかし今年は、肝心の門木がいない。
 シグリッドはそのまま雪に埋もれてしまいそうなほど、しょんぼりと元気がなかった。
「しぐりっどさん、そんな顔をしていると章治兄さままで元気がなくなっってしまうの」
 華桜りりか(jb6883)が、その口にチョコを放り込む。
「兄さまにもあげた幸せの味…なの」
 自分も寂しいけれど、たまには年上らしいところを見せようと頑張ってみました。
 年上ですよ?
 お酒も飲めるんですよ?
「章治兄さまが早く帰って来るように綺麗に飾って見せましょう…です」
 それにほら、しょんぼりしていると――
「しーぐーぼー!」
 ほら来た。
「あーそーぼー!」
 お馴染みゼロさんのご登場です。
「なんや元気ないな! 打ち上げるか!」
 物理的に持ち上げれば気分も上がる、みたいな?
「だ、大丈夫なのです、ぼくは元気なのですよ…!」
「せやかて高い所には手が届かへんやろ?」
 だから、そーれどっかーん!
「俺、親切やろ?」
「それは多分、ちがうと思うの…」
 でもゼロさんだから仕方ないと思いつつ、りりかは手の届く場所に防水加工を施した写真を飾る。
 季節ごとの沢山の思い出が、その中に詰まっていた。
「まだまだ、新しい思い出を増やしたいの…」
 だから、早く帰ってきて。
「章兄が何か無茶しないかがすごく心配なのですよ…テリオスおにーさんもそのうち倒れるんじゃないかと…」
 途中の枝に引っかかったシグリッドは、去年も飾ったフィンランド土産のオーナメントを吊るしながら少しずつ下りて来る。
 なお本日は男装()につき、見上げてもラッキーなことにはなりません。
 その下で、ゼロはせっせと雪像作り。
 乙女なシグリッドに、可愛い系のリュールを様々なバージョンで――甘ロリ、パンク、メイドにスク水、いずれもリアルな塗装を施して。
「勿論シグ坊と姉妹でセットや、撮影用にきっつぁんも作るで!」
 しかし、ここでリュール本人から待ったがかかる。
 どうやら可愛く作りすぎたのと、その服装がお気に召さないらしい。
 気に入らないと言えば、ミハイルの力作も然り。
 いや、可愛くデフォルメされた石像自体に文句はないのだ。
 ただ、それがダルドフの像と仲良く並んでいるのが恥ずかs(訂正線)気に食わないだけで。
「構わんよな?」
「構う」
 しかし、そこでゼロが逆ギレした。
「いつまでも無怪我で怒ればいいと思うな!」
 バラエティ的な意味で。
「今のうちにイメージアップせなアカンでしょうが!! これを機に! もっとちゃんとこっちの人と交流しときなさい! みんなええやつやねんから!」
 どうしたんだろう、ゼロさんが何かまともに良いこと言ってる。
 熱でもあるのかな?
「俺はいつでもシリアス枠や! で、オカンがバラエティ枠な?」
「却下」
 しかしリュールは気付いていなかった。
 その会話が既に漫才であることに。

 まあ、それはそうと。
「沢山遊んだからお腹空いた!」
「ああ、そろそろ言い出す頃だと思ってた」
 だから瀬兎が雪遊びに夢中になっている間に、お汁粉を作っておきました。
「食いたい奴は好きに食え、量はある」
「汁粉か、美味そうだな」
 巨大な雪だるま型のカマクラを作り上げたミハイルが声をかける。
「丁度良い、そろそろ休憩にしようぜ」
 場所は用意したから、中身はよろしく。
 大きな丸いお腹に開いた入口の周囲は赤や黄色の電飾で飾られ、まるでネオンサインのようにピカピカ光っていた。
 中の空間は一度に10人程度が入れるほど広く、既に豚汁と甘酒の鍋も持ち込まれている。
 しかも中央には炬燵が設置されていた。
 それは不良中年部の部室に棲息する炬燵犬「しいたけしめじえりんぎ」略して「しめりん」だが、本日は夢オチではない為に、ごく普通の炬燵のふりをしている。
 間違っても走り回ったり尻尾を振ったりはしないので悪しからず。
「おー、暖かい…」
 クリスは早速そこに潜り込んでぬっくぬく。
「でもグリル機能は使えるんだよね。ほらほら、新米で作ったお餅だぞー。上手に焼いてね、しめりん♪」
 炬燵は嬉しそうに尻尾を振――らない。振らないよ!
 ミハイルは持ち込んだ大吟醸で雪見酒、お相伴にあずかったリュールもどうやら機嫌を直したようだ。
 そこに持ち込まれる料理の数々は、月乃宮 恋音(jb1221)が本番のために準備したもの。
「…本番前の、予行演習といったところでしょうかぁ…」
 メインディッシュは色鮮やかに焼き上げたタンドリーチキンに、同じ味付けにした豚バラブロック。
 副菜にはキャベツとキュウリの浅漬けに、燻製のイカを使ったマリネ。
 他にも一口サイズに巻いたミートローフのベーコン巻きや、小海老としめじのクリームパイなどなど、多種多様。
「…当日、もし私が来られなくても大丈夫なように…レシピを纏めておきましたのでぇ…」
 だがしかし、それは全く大丈夫ではなかった。
 何故なら渡した相手が――
「私に料理が出来るように見えるか?」
 リュールさん、そこ威張って開き直るところじゃありません。
「月乃宮おねーさん、ぼくが預かっておいてもいいのです…?」
「…なら、お願いしますねぇ…」
 大事なレシピを託されたシグリッドだが、今日は料理を恋音に任せてドリンク担当。
 それぞれの好みに合わせて温かい飲み物を配っていく。
「華桜さんはホットチョコレートですよね」
 外でドリンクバーを開いている佳槻に倣って、少し生姜を利かせてみるのも良いかもしれない。
 りりか持参のおやつもチョコ系ばかりだけれど、チョコにチョコでもチョコ娘ならきっと大丈夫。
「あの…オウレアルさんも召し上がりませんか?」
 茉祐子に声をかけられ、リュールは一瞬「誰のことだ」という顔をした。
「その名で呼ばれたのは初めてだな」
 こちらの世界では、それは恐らく名字に当たるのだろうが――
「リュールでいい」
「では、リュールさん…」
 茉祐子は改めて尋ねてみる。
「生姜は体を温める効果がありますから。その、甘いものがお嫌いでなかったら、ですが」
「ありがとう、ひとつ貰おうか」
 差し出された紅茶と一緒に、ジンジャーマンクッキーを頭からぱくり。
 なお甘い物は大好物、寧ろ甘味だけで生きていきたいリュールさん、多分一枚では足りないと思います、はい。

 ぬくぬく温かいかまくらの中で腹を満たし、人心地ついたアキラは再び戦場へ。
 何しろ参加者の容姿を象った氷の彫像を全員分、プラス門木の分まで作り、更には完成予定のツリーの姿まで作ってしまおうというのだ。
 休憩は必要だがのんびり休んでいる暇はないと、真剣な表情で一心不乱に取り組んでいた。

 その隣では黒百合が、彫刻刀やノコギリ、チェーンソーまで駆使して氷を削っていた。
 題材はムキムキマッチョなサンタクロース。
 等身大で作られたその姿は、どこか見覚えがあるような、ないような。
 もしかして、モデルはダルドフだったり…?
 黒百合は制作に伴って大量に生み出された副産物、すなわちカキ氷も無駄にはしない。
 持ち込んだ各種シロップをかけて、味見をして見る。
「あらァ、良い感じに出来てるわねェ♪」
 皆にも勧めてみよう。
 大丈夫、雪を食べるわけじゃないし――もっとも、この氷も食用に作られたものではないけれど。
「撃退士なら大丈夫でしょォ♪」

「なんだか異様に雪が積もっているし、使わないのは勿体無い! よし雪像を俺も作るぞ!」
 と、ひりょは意気込んではみたものの。
 なんですか、それ。
「やべぇ…俺、芸術センスないのをすっかり忘れてた」
 うん、自分で見ても謎の物体だね!
 謎すぎて、何を作ろうとしていたのかも思い出せないよ!
「これ、陶芸家なら床にガシャーンってやってるんだろうな」
 そんなシーンを脳裏に思い浮かべながら、謎の物体を砕いて雪に戻す。
 結局、落ち着いたのはごく普通のシンプルな雪だるま。
(あぁ、これなら誰が見ても雪だるまだってわかるよな)
 よし、要領は掴んだ。
 これより量産体制に入る。
 皆が凝った作品を作っている中、普通の雪だるまは却って貴重で新鮮だと思うのだ。
 ころころ、ころころ、ひりょはひたすら雪玉を転がしていく。
(他の雪像達を守る護衛みたいだな、この構図。まぁ、賑やかな方が楽しそうだし)
 時間の許す限り、めいっぱい作ろう。


 ツリーの飾り付けが大体終わったら、後は――
『章治、早く帰って来い』
 ミハイルは直球で願いを書いた短冊を吊るす。
『いつまでもみなさんと一緒に仲良く』
 防水加工されたプラ板に書かれたこちらは、りりかが書いたものだ。
 皆がそれぞれの願いを飾ったら、最後に天辺の星を飾って完成だ。
「小さい子がやりたいなら、俺は遠慮しておくかな」
 アキラはその代わり、用意していた星を小梅に託した。
「ありがとぉー、じゃあボクがかざらせてもらうの〜」
 小梅は光の翼で飛んで行き、金色の大きな星を飾る。
「てっぺんとったよぉー!」
 その瞬間、ツリーの両脇に立てられた門松の中からロケット花火が飛び出した。
 ひゅるるるる、ぱーん!
「よし、大成功!」
 小梅に頼まれて点火スイッチを押したひりょは、思わずガッツポーズ。
 花火のオレンジ色の光に彩られ、綺麗に飾り付けられたモミの木は誇らしげに、そして嬉しそうにその枝を伸ばしているように見えた。

「よーし、じゃあ皆で記念撮影するぞー!」
 アキラが皆を集め、写真館のスタッフがカメラを構える。
 ツリーをバックにずらりと並んでいるのはアキラが作った雪像、参加者達はそれぞれ自分に似せて作られたものの前に並ぶ。
 一箇所、門木に似せた像の前には勿論、誰もいない。
 これは『皆でお帰りまってますー』というメッセージだった。
 他にも何枚か場所や構図を変えて撮ってもらい、後で纏めて門木の元へ届けるのだ。
 ミハイルは門木と自分が肩を組んでいるデフォルメ像を作り、その前に立つ。
 りりかは眼鏡を付けて白衣を羽織らせた雪だるまを、シグリッドとさんどいっちして。
「大きく引き伸ばした写真は、今度行った時に渡してくるのです」
 その時には金平糖をお土産に持って行こう。
「金平糖ってお星さまみたいです…」
 でもその前に。
 りりかはプライベートで撮ったスマホの写真をデータで送る。
「章治兄さま、きっと楽しみにしてるの…」
 そこには『早く一緒にパーティをするの、ですよ』とメッセージが添えられていた。
 シェリーは楽しそうにしている黒咎達の写真を選んでテリオスへ。
「先生宛のデータに紛れ込ませたら驚くかな?」
 えい、ぽちっとな。
 あ、勿論ゼロさんのビデオも送りますよ。
「きっちり編集して、オモロイ実況とかテロップ入れてからやけどな!」
 だからもう少し待っててねー。

 その後はキラキラ光るツリーの前で雪合戦をしたり、雪だるまの数を更に増やしてみたり、一足早いパーティ気分に浸ってみるのも良いだろう。
 かまくらの中は温かいし、料理も飲み物も豊富にある。
「いっそ本番まで、ここでツリーを眺めながら酒でも飲んでのんびりするのも悪くないな」
 ミハイルはここに生活用品を持ち込むことを本気で考え始めた――かもしれない。
「来年は一緒に準備出来ると嬉しいのですよ…」
 遠くの空を見つめ、シグリッドが呟いた。
 少し気を抜くとしょんぼりになってしまいそうだけれど、頑張る。

 ひと月後に、ここでもう一度、皆が揃った写真を撮るために。
 笑顔でツリーを見上げるために。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:13人

鏡影・
緋伝 瀬兎(ja0009)

卒業 女 鬼道忍軍
執念の褌王・
緋伝 璃狗(ja0014)

卒業 男 鬼道忍軍
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
アルカナの乙女・
クリス・クリス(ja2083)

中等部1年1組 女 ダアト
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
『久遠ヶ原卒業試験』参加撃退士・
ユーラン・アキラ(jb0955)

卒業 男 バハムートテイマー
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
陰のレイゾンデイト・
天宮 佳槻(jb1989)

大学部1年1組 男 陰陽師
来し方抱き、行く末見つめ・
黄昏ひりょ(jb3452)

卒業 男 陰陽師
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
撃退士・
シグリッド=リンドベリ (jb5318)

高等部3年1組 男 バハムートテイマー
リコのトモダチ・
神谷 愛莉(jb5345)

小等部6年1組 女 バハムートテイマー
リコのトモダチ・
礼野 明日夢(jb5590)

小等部6年3組 男 インフィルトレイター
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
Cherry Blossom・
華桜りりか(jb6883)

卒業 女 陰陽師
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
守り刀・
北條 茉祐子(jb9584)

高等部3年22組 女 アカシックレコーダー:タイプB
もふもふコレクター・
シェリー・アルマス(jc1667)

大学部1年197組 女 アストラルヴァンガード