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マスター:STANZA
シナリオ形態:イベント
難易度:やや易
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/10/31


みんなの思い出



オープニング



 秋。
 何故か無性に本が読みたくなったり、ゲイジュツしてみたくなったり。
 かと思えばアウトドアでスポーツに興じてみたくなったり、その反動でやたらと食欲が湧いたり――
 いや、食欲は何もせずにぐうたらゴロゴロしていても勝手に沸いて来るか。
 そして夜には、わけもなく人恋しくなってみたり。

 寂しい夜には親しい仲間と集まって、一緒に過ごしてみるのも良いかもしれない。
 寂しくなくても、仲間と過ごす時間は大切にしたいものだ。

 朝までずっと語り明かしても良い。
 後になって思い返し、話した内容のあまりの青さや下らなさに赤面する事もあるだろう。
 思い出そうとしても全く記憶に残っていないこともあるだろう。
 それでも、とにかく楽しかった事だけは覚えている。
 それは酒のせいで記憶を無くすのとは違う、恐らくは学生時代にしか出来ない経験かもしれない。

 群れる事を好まないなら、ひとり静かに物思いに耽ってみるのも良い。
 深く静かに自らの内に潜れるのもまた、この季節ならでは。

 長い夜は、まだ始まったばかり。

 さあ、何をして過ごそうか――




リプレイ本文

●南瓜祭、前夜

 それは数ヶ月前から周到に準備された、計画的な犯行だった。
「秋といえばハロウィン! そしてこんな日はハロウィン準備☆日よりですね!!」
 毎度お馴染みもふもふ黒猫忍者カーディス=キャットフィールド(ja7927)は、広大な南瓜畑を背景に両手を天に向けて掲げる。
「こんなこともあろうかと南瓜畑を用意しておいて良かったですね緋打石さん☆」
「うむ、流石は久遠ヶ原の催事担当と呼ばれた我等だけの事はあるのう、カーディス殿」
 頷いた緋打石(jb5225)の足元には、今まさに収穫の時期を迎えた大きな南瓜が転がっている。
 この日の為に荒野を切り開き、重機で木の根や石を取り除き、丁寧に耕して、石灰や肥料を撒いて土壌を改良し、苗を植え、蔓を管理し、花が咲けば受粉を手伝い、そして無事に育つように祈りを捧げ続けて来たのだ。
 そしていよいよ収穫を迎えた本日この時、特別ゲストにもお越し頂いております!
「は、はい、今日はよろしくお願いします」
 気合いの入った農ガールファッションに身を包んだ栗歌(jb7135)は、これが農作業の初体験。
「秋といえば栗か薩摩芋か南瓜ですね、まずは収穫がんばります」
 大丈夫、芋は勿論、栗の木だってちゃんとある。
 こんな事もあろうかと三年前から育てていたのだ!
「それでは! れっつ、はんてぃんぐ! ですのー!」
 キャットクローを振りかざし、母なる大地との絆を断ち切ろうとする黒猫忍者。
 しかし。
「まあ待て、そう急くでない」
 緋打石が止めた。
「これより最後の仕上げに入る! 皆の者、唱和せよ!」
 それは古来より伝わる収穫の儀式、それを唱えると収穫物に特殊効果が付与されるのだ(本人談
「むーね! むーね!」
 はい皆さんご一緒に。
「しんちょー! しんちょー! いろけ! いろけ!」
 南瓜の周囲をグルグル回り、いざ収穫!

 その調子で一個ずつ狩るものだから、収穫は一日では終わらない。
 しかしここで手間暇を惜しんでは、プロの農家を名乗る資格はないのだ。
「私はいつプロになったのでしょう……?」
 栗歌が冷静に疑問を呈するが、ここは考えたら負けの久遠ヶ原。
「せっかく彫るのですから南瓜だけでなくて、隣にあった芋にも掘ってみましょうか」
 そう、それで良い。

 南瓜に薩摩芋、季節外れのスイカに土偶、収穫物をずらりと並べて、今度は芸術の秋。
「そういえば彫り物とかしたことないですが…何とかなりますよね。きっとすごいものが作れるはずです」
 栗歌は少し不安そうだが、大丈夫、先輩がお手本を見せてあげましょう。
 大きくて見栄えのする南瓜の中身をくり抜いて、黒猫忍者はキャットクローでチャキチャキっと形を揃えクリアワイヤーで彫刻を施す。
「ムフフフフ! 黒猫忍者ですからこの程度朝飯まえですの!」
 忍者と彫刻とどう関係があるのかなどと、野暮な質問はなしにしようぜ(もふ
 そして完成、モニュメント。
「じゃーん!」

 \猫かぼちゃ/

 猫ですよね、どこからどう見ても。
 ね?
「はい、可愛い猫さんです!」
 芸術は心の目で見るもの、栗歌、覚えた。
「私も頑張ってみますね」
 南瓜には面白い顔や可愛い顔、怖い顔などを掘り、芋はその形を活かしたオブジェに造り替えてみる。

「食用南瓜はパンプキンパイにしますの☆」
 黒猫忍者は猫型に、南瓜魔女に扮した緋打石は削ったオブジェの中に生地を詰めて――
「このパイは胸の成長に効果があるのじゃ」
 パイだけに。
 多分信じる人はいないと思うけど。

 出来上がったら、秋の夜長を楽しむ皆に問答無用でメシテロですの!


●食欲の秋・売り子編

 久遠ヶ原学園は生徒の自主性を尊重する、自由と創造の府である。
 公序良俗に反しない限り、生徒の行動が規制される事はない。
 よって、こんな事も出来てしまうのだ。
「いーしやーきぃーいもぉー♪ やーきたてっ♪」
 黒百合(ja0422)は、校内で焼き芋の屋台を引いていた。
 昔懐かしい手押し式のそれは、とある業者から借り受けたものだ。

「んー…何をして楽しもうかしらねェ、あれもいいしィ、これもいいわねェ…あ、これにしましょうォ♪」
 という事で、何故こうなったのかという思考過程は謎に満ちているが、それはともかく。
 学園には営業許可を貰っている。
 それどころか学習の一環として、その道のプロに付いて講習を受ける手筈を整えてくれたのも学園側だった。
 その代わり売り上げの全てを収めるという条件が付いていたが、もとより金儲けが目的ではない。
「いらっしゃいィ♪ …ふふふ、一度やってみたかったのよねェ、こんな感じのォ♪」
 ねっとり甘い安納芋に紅はるか、ほくほくの紅あずま、産地と品種を厳選し、しかも採算度外視の激安価格とくれば、売れない筈がなかった。

「甘くておいしいー石焼き芋だよぉー♪」


●はらぺ娘の秋

「秋と言えば、食欲の秋!」
 違う、そうじゃない。
 思わず素直に口を衝いて出た本音を引っ込め、蓮城 真緋呂(jb6120)は厳かに言い直す。
「読書の秋よね、当然」
 知的な女子の嗜みですから、ええ。
 はらぺ娘キャラが定着しちゃったから払拭しようとか、そんな事ではないのです。
 ええ、決して。

 かくして24時間営業のファミレスに、持ち込んだのはバッグいっぱいの本。
 適当に取り出した一冊をぱらぱらと捲り――
「はっ!? いけない、このペースじゃすぐ読み終えちゃう」
 ここはじっくり腰を据えて、その為にはまず腹拵え。
「特選牛フィレステーキセット、ライス特盛で。あとこれとこれと…」
 ドリンクバーはお代わり自由、と。
 ゆっくり読んで、もっきゅもっきゅ食べて、のんびり読んで――ぴんぽーん。
「追加注文お願いしまーす」
 じっくり読んで、ごきゅごきゅ飲んで――ぴんぽーん。
「キャラメルナッツパンケーキ、トールサイズをダブルで」
 そして積み上がる読み終えた本と、厚くなる伝票。
「ふーん、この作家さん面白いわね。別シリーズも読んでみよう」
 これで知的読書好きっ娘になれたはず!

「あ、焼き芋屋さん…」
 追いかけなきゃ!


●己を高める秋

 エイルズレトラ マステリオ(ja2224)はただ一人、学生寮の裏で黙々と手品の練習に励んでいた。
 いや、これは戦いの訓練だろうか。
 まるで枯葉を散らす様に、手にしたトランプを空中にばら撒き、それを目にも止まらぬ速さで集めていく。
 一枚ずつ、もちろん地面に落ちる前に。
「31枚……ふむ、まずまずといったところでしょうか」
 それは手品か戦闘か、どちらともつかない謎のトレーニング。
 手にした結果を見て、エイルズレトラは軽く息を吐く。
「しかし、一枚残らず全て集めることができるのは、まだまだ先のことですねえ」
 地面に落ちた残りのカードを拾い集めようと背を屈めた時、やにわに一陣の風が吹き過ぎる。
 それは木の枝を揺らし、何枚かの葉を宙に舞わせた。
「――っ」
 舞い散る木の葉に向けて、エイルズレトラは手にしていたカードを投げる。
 それはナイフの様に木の葉を切り裂いて飛んだ。
 しかし一枚だけ、狙いが逸れたカードが闇の中へと消えて行く。
「……まだまだですねえ、本当に」
 自嘲するように苦い笑みを浮かべ、奇術士は小さく肩を竦めた。


●秋の夜長は女子会でしょ

「風香ちゃん、お喋りしよう♪ お茶しよう♪」
 秋だし、夜は長いし、なんか暇だし!
 というわけで、天宮 葉月(jb7258)と黒羽 風香(jc1325)は話に花を咲かせていた。
 秋の夜長に女二人、葉月の部屋でお茶をチビチビすすりながら、のんびりまったり。
「とは言え…いつもとさして変わらなかったですね。葉月さんらしいですけど」
 くすりと笑い、風香はテーブルの上を見る。
「お茶菓子は、ないのでしょうか」
「出ません」
 きっぱりと言ってから、葉月はぼそりと付け加える。
「…太るし」
 我慢、我慢。
「では私だけ、遠慮なく」
「えっ」
「いいですよね、もう夜ですけど口元が寂しいですし…」
「いいけど、見えないように食べてよね」
「この距離でそれは難しいのではないかと…」
 結局は見せびらかしながら、風香は常備してあったクッキーをもぐもぐ。
「それで、最近どう?」
 ケセランもふもふ。
「半年経ったけど久遠ヶ原には慣れた?」
「はい、もう慣れました。もう大概の事じゃ驚かないんじゃないでしょうか?」
 お煎餅ぽりぽり。
「そう思うでしょ? それでもやっぱり驚かされるのが久遠ヶ原なんだよねー」
 クッキーもぐもぐ。
「あ、脅かすって言えばハロウィンどうする?」
「衣装はもう用意したのでは……」
「うん、でも衣装は用意したけど、お菓子を決めないとね」
「素直にアップルパイとか。兄さんも好きですし」
 ケセランもふもふ。
 兄さんも好きという一言で、ここは決まりかな。
「彼をびっくりさせるような登場も考えないと…う、お菓子の事考えてたら何だか小腹が。我慢しないと…」
「…食べたいなら食べればいいじゃないですか」
 お煎餅ぽりぽり。
「今ダイエット中なの」
「ちなみに、私は食べても太らない派です。兄さんもなので体質ですね」
「く……っ」
 ずるい、どうして二人だけ。
「って言うかお揃い体質なんて卑怯じゃない」
「そう言われても」
「悔しいから食べる」
「今はダイエット中なのでは」
「いいの、明日から頑張るから」
 もぐもぐ、ぽりぽり。
 それで何の話だっけ、そうそう脅かすネタね。
「うーん、パサランが玄関に立ってたら驚くかな? ちょっと衣装合わせてみよう」
 はい、パサラン召喚どーん。
 魔女の衣装を着せて、帽子を乗せてみる。
「どう?」
「…色々、微妙です…」
 ぱっつんぱっつんだし。
「そういえば、ケセランの方がモフモフなんでしょうか?」
 もふもふ。
 話があらぬ方向に飛んでオチが付かないのも、女子会のお約束――


●月月火水木金金、ただし例外もあり

 撃退士には盆も正月もハロウィンもない。
 いや、ある事はあるが――天魔絡みの事件は彼等の都合などお構いなしに発生する。
 そして夜間でも早朝でも、一報があれば緊急招集を受けるのが彼等の日常だ。
「…仲間にアスヴァンいるけど捜索もあるし…夜間戦闘になるからナイトビジョンは一応、後懐中電灯…じゃなくてヘッドライト、防寒具」
 その日の夕刻、のんびりと秋の夜長を過ごすつもりだった礼野 智美(ja3600)は、急な予定変更にも慌てず騒がず
「体を温める物…カイロと、後暖かいお茶…魔法瓶あるし…ここまでか」
 天魔討伐に赴いた新人達からの連絡が途絶えたとの報を受け、仲間と共有している装備を部室に取りに行って、準備を整えるまで約5分。
 転移装置に飛び込んで現場へ向かう。
「やっぱり連絡は取れない、と…倒れてないといいがな」
 智美は仲間達と共に夜の闇を駆ける。
 間に合ってくれと願いながら。

 その頃、彼女の親友である美森 あやか(jb1451)は、ぬくぬくと布団に包まれていた。
 翌日は休みだからと、夫である美森 仁也(jb2552)と共に濃密な時間を過ごし、気が付けばもう明け方に近い。
(少し前までだと夜から朝日が出る前の紫の空が見える頃だったけど……}
 カーテンの閉まった窓を見ても、まだまだ夜の色が濃く居座っていた。
 剥き出しの肩が少し冷えると、あやかは傍にあるぬくもりにそっとすり寄った。
 宿題は昨日のうちに済ましたし、買い出しも特になし。
 この調子だと、今日はどう考えても昼までは動けないだろう。
 いつもなら余韻に浸って朝までぐっすりなのに、この時間に目が覚めてしまったのは――まだ、身体の火照りが治まらないせいだろうか。
(でも……まだまだ疲れていますので、瞼が重く、なりました……)
 すり寄って来た妻が寝息をたてはじめたのを確認し、仁也はほっと一息。
(…まぁ、今もかなりやばいんだけど)
 布団の中に冷気を入れないようにそっと腕を出し、彼女の髪を一撫でる。
(…まだ夜は続くけど、これ以上は回復に時間かかるし)
 年甲斐もなくちょっと頑張りすぎた気もするが、彼女が可愛すぎるのだから仕方ない。
 大事な大事な、掌中の珠。
(彼女は家族が増える事望んでいるけど…まだまだ早いよな)
 今だと子供に嫉妬しそうだし――いや、確実に嫉妬する自信がある。
(参加した依頼の結果読ませるのも実は色々悩んでいるし)
 特に子供や恋人、夫婦の情が絡まるような依頼や結果は、出来るだけ見せないようにしていた。
 本当は斡旋所にも行かせたくないくらいだ。
(戦わせたくない)
 そう思っているのは彼ばかりではない。
 あやかの親友である智美が休む間もないほど依頼をこなしている背景にも、やはり同じ思いがあるのだろう。
(彼女には感謝しなければな)
 どうか今回も無事に帰って来られますように。

 そう願いつつ、妻の肩を抱きながら眠りに落ちる、この背徳感――


●夜のハイキングと天体観測

「十三夜……栗名月ともいいますし、おやつに新鮮な栗で渋皮煮を作って、夜のハイキングに行こうかな」
 天気予報を確認した五十鈴 響(ja6602)は、その二日前から準備を始めていた。
 まずは栗拾いで材料を確保、まずは一晩水に浸けて、熱湯をかけて柔らかくした鬼皮を剥いて。
 それから茹でては水を替える作業を繰り返し、漸く出来上がった渋皮煮は黒くてツヤツヤ。
「私ひとりで食べるのは、ちょっと勿体ないかな」
 もしも途中で誰かに出会えたら、お裾分けしてあげようか。
「空も澄んできて、空を眺めるにも良い季節になったし――でもやっぱり教会でのんびりオルガンでも弾こうかな」
 星が綺麗に見える丘の上、あそこに確か小さな教会があったはず。
 小さな籠に渋皮煮を入れたタッパを忍ばせ、響は星空を見上げながら夜道を歩く。
 夜の教会は明かりも消えて人の気配もないが、その扉は開かれていた。
 蝋燭の揺れる光をお供にオルガンを弾く。
 ふと手を止めて窓から見える星空に耳を澄ませれば、星空の音楽も聞こえてきそうで――
「音階は惑星の音を並べたものだと聞いたけど、こんな夜空の下で聞く音は確かにそんな神秘的な響きがあるかな」

 黒井 明斗(jb0525)は、校舎の屋上にいた。
「この時期ならではの天体ショーは見逃せませんから」
 オリオン座流星群と秋の星座を楽しむべく、レンタルした大型の天体望遠鏡をセットして。
 それに真冬ほどではないにしても夜は冷え込む。
 厚手のフリースを着込み、簡易テントに寝袋、携帯カイロに水と食料、小型のコンロなどを用意して。
 夜半を過ぎれば月もなく、流星の観察には絶好の条件が整う。
 この流星群は他と比べて話題になる事は少ないが、それでも一時間に数個から数十個程度の流星が肉眼で見られる筈だ。
 天体観測を趣味とするからには見逃す手はないだろう。
 ピークに備えて湯を沸かし、カップ麺とお茶で身体を温めながら食事を済ませたら、後はじっと動かない。
 寝袋に入って寝転がり、ひたすらオリオンを見つめる。

 その耳に、遠く微かに聞こえるオルガンの音色。

「あっ」
 視界の端にひとつ。
 またひとつ。
 そのまま寒さと睡魔に抗いつつ、見続けること数時間。
 東の空にひときわ輝く星が昇ってきた。
「クライマックスです」
 明けの明星・金星と木星と火星の大接近に、寝袋から抜け出して望遠鏡を覗き込む。
 三つの光が朝日に呑み込まれるまで、明斗は目を離さずにじっと見続けていた。


●秋の夜空に翼広げて

「綺麗な月…」
 ベアトリーチェ・ヴォルピ(jb9382)は公園の芝生の上で、ぼんやり月を眺めていた。
「…ウサギさん…捜す…」

「…」

「……あ」

 今日の天気はお月様、時々空から紅さんが降る模様です。

 紅 鬼姫(ja0444)は月夜に翼を広げて空中散歩。
 踊る様にステップを踏みつつ星空を舞い――
「ふふふ、とても素敵な髑髏を見つけましたの」
 夜空を見上げるベアトリーチェと、彼女が腕に抱えるモノ。
「こんばんはですの、小さな魔女さん」
「コンバンハー…」
 ふわりと舞い降りた鬼姫は、細い身体をそっと抱き上げる。
「…お?」
「お茶会にご招待して差し上げますわ」
 お姫様抱っこで空へ舞い、月明かりの下でランデブー。
「…嬉しい…ぎゅ〜…」
 お姫様を浚っていった黒い翼は、あっという間にお茶会の席へ。
 月の光が差し込むテーブルで、二人だけの静かなお茶会が始まる。
 紅いルビーの色をしたお茶と、お姫様には焼き菓子を。
 多くを語るのは好きではないし、今はその必要もない。
「綺麗な月と美味しいお紅茶…それに鬼姫とビーチェ…ふふふ、十分ですの」
「…紅さんと…一緒に幸せなひととき…ジャスティス…」
 ベアトリーチェは出されたお菓子を遠慮なく頬張り、幸せそうに目を細める。
 今度は自分も持ってこよう。
 もっと美味しいお菓子を持ってこよう。
 でも、これ以上に美味しいものは思い付かなくて――
(静かだけど…紅さんとのひととき…暖かくて…好き…)
 時は静かにゆったりと流れている筈なのに、何故かいつもより早く感じる。
 うとうと、とろとろ……夢の欠片を捕まえては、その手から取り零し――
「温まったら眠るとよろしいですの」
「寝る時間は…過ぎてる…ギルティ…」
 けれど眠ってしまうのは勿体ない気がして。
「…うー…」
 頑張ってみる、けれど。
 優しい言葉が身体の中に染みていく。
(…なんて、言ってる…? わからない…でもきっっと…ジャスティス…)
 泡沫の夢、目覚めれば温かいベッドの中。
「…オヤスミ…」
「優しい夢を見れる様に…ですの」
 鬼姫はその髪を優しく撫でる。

 さあ、可愛い寝顔をお茶請けに、もう暫くの優雅な時を――


●枯れ逝く季節に

 煌々と照らす月の下、アヴニール(jb8821)とその執事、リアン(jb8788)は静かに佇んでいた。
 何を話すでもなく、ただ、ゆっくりと夜空を渡る月を見ている。
 名残を惜しむ虫の声と、草木を揺らす風の音だけが耳に聞こえていた。

「お嬢が…お二方の御無事を願い、再会を信じていた事」
 やがてリアンが静かに口を開く。
「然れど。ご主人様方への再開はもう叶わない。全てはこの私めの不徳。お二方を屠ったも同然に御座います」
 それでも。
「お嬢は私めのことを大切な家族だと仰られますか?」
 アヴニールは、それに沈黙で答える。
 その答えはもう、再会を果たした時に告げた筈だ。

『もう、我は一人では……ないのじゃな』

 その一言に、全てが詰まっている。
 それでも――確たる答えが欲しいと言うなら。

「我はのう、リアン。何時かは家族と再会できると信じて過ごしてきたのじゃ」
 その想いだけを杖に、独りで。
「然し、お父様とお母様にはもう会えぬ」
 その報せをもたらしたのが、別の誰かであったなら――もう、立ち上がる事は出来なかったかもしれない。
「でも、のうリアン、我はリアンとだけでも会えて嬉しいのじゃ」
 少女は精一杯の笑顔を作ろうとした。
「我にとっては、リアンも大切な家族じゃ」
「お嬢……」
 作ろうとして、失敗した笑顔が哀しい。
 けれど涙は見せなかった。
「…リアン、これからはずっと一緒じゃ。だからもう独りではないのじゃ」
 やや間を置いて、尋ねる。
「リアンは、お父様とお母様と、最後に会えたかの?」
「……はい」
「…その時、お父様とお母様は何か言っておったか?」
「…お嬢と共に生きよ、と。…お嬢を頼みます、と」
 それが最後の言葉。
「私は。お嬢、貴女様に…貴女様だけの為の存在。お赦し頂けるならば…もう決してお独りには致しません」
「…赦すもなにもなかろう」
 呟いて、アヴニールは月を仰ぐ。
「…喪った者は帰っては来ぬ。それは解っているつもりじゃったが……」
 その事実を独りで受け止めるには、その心はまだ幼すぎた。
 それでも、二人なら――
「…全ては何時か枯れ行く定めなのじゃろう…」
 色を失いつつある風景は、死を予感させる。
「…秋は、枯れ逝く季節じゃの……」
「枯れ行く季節。永遠の眠りに就いた者は帰って来ない。ですが――」
 リアンは小さな主人の手を取って、そっと両手で包み込んだ。
「お嬢や私めの心では、今も在り続けられていらっしゃいます。ご主人様も、奥方様も」
 季節はやがて冬に向かう。
 けれど、その先には必ず、生命溢れる春が待っているから――


●南の島と、芋掘りと。

 種子島、西之表港のフェリー埠頭に鳳一家が上陸する。
「来たなの! 種子島なの!」
 お馴染みカマふぃ、香奈沢 風禰(jb2286)が真っ先に船から降り立ち、きさカマ私市 琥珀(jb5268)がそれに続く。
 白と緑のカマキリは、出迎えたリコ・ロゼと涼風 爽に向かってよくわからないカッコイイポーズを決めて見せた。
「祝☆種子島非戦闘区域なの! 良いカマキリは悪いカマキリを退治したからもう大丈夫なの! 平和にみんなでお月見が出来るなの!」
 停戦協定が締結されて、既にひと月ほどが経とうとしている。
 最初の頃は目に付いたディアボロやサーバントなどの残党も、近頃では殆ど現れなくなった。
 ゲート内に取り残されていた爽や他の人々も、今ではすっかり回復していた。
「……カマふぃたちが種子島ではかなりお世話になったのですよぅ☆」
 のんびりと船を下りてきた鳳 蒼姫(ja3762)が、リコや爽に挨拶をする。
「ううん、お世話になったのはリコ達のほうだよ。ね、そーちゃん?」
「そうだな、あの二人はもう、この島を語る時には欠かせない存在だし」
 爽が目を向けた先には、先日カマふぃ達が片っ端から貼っていったカマぽすが、異様な存在感を放っていた。
「ところで、頼んでおいた芋掘りの手配は出来ているかな」
「ああ、いつでもどうぞ」
 鳳 静矢(ja3856)の問いに、爽が頷く。
「じゃあ早速、みんなでレッツ安納芋掘りなの!」
 ただし夜中に。

「秋の種子島といえば,安納芋だね♪」
 だが、それはそれとして。
「どうして夜に芋掘り?」
 くすくすと笑いながら、川澄文歌(jb7507)が思ったままに疑問を口にする。
 しかし発案者はカマふぃだ、それだけでも答えになっている――答えなどない、という答えに。
「夜中に掘るのが悦なの!」
「……よく解らないけど掘っておく、よ」
 謎の説得力を持った答えを得て、水無瀬 快晴(jb0745)は軍手を嵌めた手で土を掘り返す。
「……よく、見えないんだ、けど」
「はーい、じゃあ手元を照らすねー♪」
 その代わり芋掘りはよろしくと、文歌は手持ちのフラッシュライトで周囲を照らした。
「……うん、ありがとう……頑張る」

 その隣の畝では、カマふぃときさカマが見事な連携で芋を掘り出していた。
「がっつり掘るなの! リコさんも掘るなの!」
「きさカマは掘る、安納芋を掘る……」
 手元が見えないとか、カマキリーズには関係ない。
 カマで周囲の土を掘り、蔓を引いて、芋蔓式に一気に掘り出す!

「……夜中に芋掘りなんて何がどうという感じですが、まぁ楽しければ良いのです☆」
 何と言ってもカマふぃが言い出した事だからと、蒼姫はごく普通の真っ当な手段で芋を掘っていった。
「人数が多いから多めに掘らないと拙いかね?」
「数は心配ないと思うのですよぅ、ほら、あの勢いですし☆」
 蒼姫に言われて、静矢は納得の表情で頷いた。
「なるほど確かに、あの勢いなら数には困らないな」
 寧ろどうやって消費するか、そちらの方が問題になりそうな気がする。

「ふんふん、ふんふん」
 支倉 英蓮(jb7524)は持ち前のなんやかんやの動物的嗅覚で、あま〜〜〜〜〜い芋の蔓を探し当てた、らしい。
「ここほれにゃんにゃん、にゃ!」
 まあ、安納芋は大抵どれもあま〜〜〜〜〜いんだけどね!
 それでも、野生の勘を研ぎ澄まし、嗅覚を尖らせて、英蓮は芋を掘る。
 いや、掘るのは引っ張り出された爽の仕事、英蓮はただ指示を出すだけだ。
「ええと、ここで良いのかな……って、あれ?」
 英蓮さん、どこ行った?
「あの子なら大丈夫なのですよぅ☆」
 慌てる爽に、蒼姫がのんびりと言う。
「きっと嗅覚を尖らせているうちに、マタタビの匂いでも嗅ぎ付けたのだろう」
 静矢も至って落ち着いていた。
 つまりそれは、いつもの事。
「そのうちきっと、何かお土産を持ってひょっこり帰って来るのですよぅ☆」

 掘った芋いじくるな、じゃなくて。
 収穫した芋は、さっそく蒸かして芋団子に。
「たくさん作るなの! 月見には甘いものが必要なの!」
 ただしカマふぃは見てるだけ、作るのは主に蒼姫の役目だ。
 蒸かした芋を潰したものに砂糖と白玉粉を加えて、そのまま丸めていく。
 お好みで中に小豆餡を入れても良いし、外側にきなこや胡麻をまぶしても良い。
「胡桃団子も美味しいのですよ」
 やっぱりいつの間にかしれっと戻っていた英蓮が、拾った胡桃や様々な木の実で団子のバリエーションを増やしている。
 その実が食用かどうかは――まあ、一般人は胡桃以外は食べない方が安全かもしれない。
 撃退士なら問題ないだろうけれど。
「これだけの量をどうする気なんでしょうかねぃ;」
 際限なくコネコネしながら、蒼姫が蒸かした芋の山を見る。
 それを全部団子にしたら、ギネスブックにも載りかねない量に思えた。
「まぁ、余ったら持ち帰ったり配っても良いしね」
 とは言うものの、次々と出来上がっていく団子の数は半端ない。
「これだけの数では普通の台には乗りきらないだろうしな」
 静矢はその全てを乗せきれるほどの特大サイズ、かつ頑丈な三宝を作りにかかった。
「きさカマは作る、団子を作るよ!」
 手先のカマを器用に使って団子を丸める。
「これぞカマキリ特製種子島団子、カマァ!」
 丸い団子に小さなカマが付いた、カマ団子カマァ!

 団子作りが行われている間に、文歌は快晴と共に月見会場の準備に当たっていた。
「南の方とはいえ秋の夜は少し寒いかもだし」
 焚き火を用意し、ついでに焼き芋を作る。
「時間をかけて上手に焼くと糖度が40度くらいにまでなって,とっても甘いんだよ!」
 焼くとまるでクリームのようにネットリとした食感になるのです♪

 そして大量の月見団子をお供えし、リコや爽、芋を掘らせてくれた農家の人は勿論、宇宙センターの職員達や孤児院の子供達、更には近所の住民まで呼び集め、種子島大月見会の開催となった。
「みんなでお月見なの!」
「種子島に平和が来たよ! お祝いだよ!」
 れっつぱーりぃ!

 まずはカマふぃときさカマが、華麗なカマキリダンスを奉納するよ!
 緑と白のカマキリが、カマをフリフリ尻を振り、アグレッシヴに飛び跳ねる。
「カマァァァァ!」
 しかしそれは余りに前衛的すぎて、古風な月の女神様にはご満足頂けなかったかもしれない。
 そこに、ふらりと立ち上がる白い姿。
「奉納の舞いとは、優雅に風流に舞うものぞ。なんだえ、そのガサツで騒々しい乱痴気騒ぎは」
 白髪に白い猫耳、二股の猫尻尾、背に負う翼は蓮の花――英蓮だ。
 しかし通常の光纏状態とは微妙に違う。
 なにより、普段より格段に偉そうな態度に古風な口調、おまけになんだか神々しい。
 それは英蓮に受け継がれた母側因子、白獅子の獅子神様人格であるらしい。
 団子を肴に、どこかに隠していた一升瓶の酒をパーッと開けて皆で飲もう!
 と思ったら、酒に釣られて出て来ちゃったよ!
 ――という事のようで。
「どれ、わらわが手本を見せて進ぜよう」
 偉そうに言うだけあって、月の光を身に纏い、ゆったりと舞うその姿は、見る者を惹き付けた。
 何か古代の儀式でも見ているような、そのまま何処か別の世界に連れ込まれてしまいそうな――

「漸く訪れた平和だ、こういうのもたまには良いだろうさ」
 その姿を眺めながら、静矢はゆったりを杯を傾ける。
「たまにはこういう風にみんなと一緒ながら静矢さんともまったりするのは良いですねぃ☆」
 隣では蒼姫が静矢にお酌をしながら、自分は種子島特産の海産物に舌鼓。
 え、芋団子?
「あれは作っているだけでお腹一杯になっってしまったのですよぅ〜」
「でも、同じ芋でもこれならいけるんじゃない?」
 そこに差し出された、ねっとりもっちり黄金色の焼き芋。
 文歌が焚き火で焼いていたものだ。
「美味しく焼けたよ、はいどうぞ♪」
 お茶と共に配られたそれは、まるでスイートポテトのようで――
「これならいくらでも食べられるのですよぉ☆」
 どうしよう、太っちゃう?

 焼き芋を皆に配って歩いた文歌は、最後に快晴のところに戻って来る。
 ところが、少し目を話した隙に恋人はなんだかブルーになっていた。
「俺は、この場所にみんなと一緒に居てて良いのだろうか……」
「どうして、そんなふうに思うの?」
 文歌が尋ねるが、それは答えを求める為の問いではない。
「居ちゃいけない人なんて、いないよ」
 文歌は快晴の隣に座って、半分に割った焼き芋を差し出した。
「はい,あ〜んして?」
 大切なのは過去ではなく、今。
 彼が自分で言っていた事だ。
「ねっ,とっても甘いでしょ?」
「……ありがとう」
 そう、ここに居ても良いのだ。
 誰が何と言おうと、この命がある限り。

 種子島の夜は更けていく。
 静かに、ゆったりと。

 一行は暫くそのまま島に滞在し、食べて、遊んで、存分に種子島ライフを楽しんだ。
 そして最終日。
「新しいverのカマぽすなの!」
 カマふぃときさカマは新しく出来たカマぽすを配り歩いて普及活動に励む。
 新作はデフォルトでラミネート加工仕様だ。
「これで半永久保存可能だね!」


● 南瓜祭、再び

 黒猫忍者と緋打石、栗歌の努力の甲斐あって、久遠ヶ原島はハロウィン本番を前にして南瓜と芋で埋め尽くされた。
 学園に、商店街に、その他何処にでも、それは目に付く場所ばかりではなく――
「いや、例のパイを少しばかり作りすぎてしもうてのう」
 勿体ないからラップをかけて冷蔵庫に入れといたんだけど。

 その後、久遠ヶ原のありとあらゆる冷蔵庫から、不気味な南瓜のオブジェ(実はパイ)が発見されたのは、また別のお話である。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:25人

赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
暗殺の姫・
紅 鬼姫(ja0444)

大学部4年3組 女 鬼道忍軍
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
蒼の絶対防壁・
鳳 蒼姫(ja3762)

卒業 女 ダアト
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
幻想聖歌・
五十鈴 響(ja6602)

大学部1年66組 女 ダアト
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
撃退士・
夏木 夕乃(ja9092)

大学部1年277組 女 ダアト
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
紡ぎゆく奏の絆 ・
水無瀬 快晴(jb0745)

卒業 男 ナイトウォーカー
腕利き料理人・
美森 あやか(jb1451)

大学部2年6組 女 アストラルヴァンガード
種子島・伝説のカマ(白)・
香奈沢 風禰(jb2286)

卒業 女 陰陽師
最愛とともに・
美森 仁也(jb2552)

卒業 男 ルインズブレイド
新たなる風、巻き起こす翼・
緋打石(jb5225)

卒業 女 鬼道忍軍
種子島・伝説のカマ(緑)・
私市 琥珀(jb5268)

卒業 男 アストラルヴァンガード
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
撃退士・
栗歌(jb7135)

大学部2年61組 女 ダアト
この想いいつまでも・
天宮 葉月(jb7258)

大学部3年2組 女 アストラルヴァンガード
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
雷閃白鳳・
支倉 英蓮(jb7524)

高等部2年11組 女 阿修羅
明けの六芒星・
リアン(jb8788)

大学部7年36組 男 アカシックレコーダー:タイプB
家族と共に在る命・
アヴニール(jb8821)

中等部3年9組 女 インフィルトレイター
揺籃少女・
ベアトリーチェ・ヴォルピ(jb9382)

高等部1年1組 女 バハムートテイマー
少女を助けし白き意思・
黒羽 風香(jc1325)

大学部2年166組 女 インフィルトレイター