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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
形態:
参加人数:10人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/08/03


みんなの思い出



オープニング


 久遠ヶ原島、住宅街の一角――粗大ゴミ置き場。
 そこは大型の家具や電気製品が山の様に積み上げられている。
 大部分は壊れて使えなくなった物だが、中にはただ飽きただけで捨てられた物や、ちょっとした故障でお払い箱にされてしまった物も多かった。

「……これも、直せばまだ使えるのにな…」
 ゴミの烙印を押された物の中から小さな液晶テレビを拾い上げ、門木章治(jz0029)は製造年が記されたラベルの汚れを拭き取ってみる。
 どこが壊れていたとしても、まだ部品が供給されている筈だ。
「……お前はまだ、頑張れるな」
 門木はテレビの頭と思しき上部の縁をひとつ撫でると、元あった場所にそっと戻す。
 これは回収後に修理に回され、リサイクル品として甦るだろう。
 そうした物は業者に任せておけば良い――と言うかそれを拾って行ったら窃盗罪だ。
 門木は「もうどうやっても直せないガラクタに限り、自由に持ち帰って構わない」という許可を、担当の役所から貰っていた。
 しかし最近は、そんなギリギリまで使い込まれた道具にお目にかかる事は滅多にない。
 結果として、ゴミ置き場の隅々まで丁寧に見て回る事になるのだが――

 その姿はお世辞にもカッコイイとは言い難い。
 はっきり言って「生活に窮した中年男がなりふり構わずゴミを漁っている」としか見えなかった。
 近頃は身なりにもそれなりに気を遣っているとは言え、やっている事がゴミ漁りだ。
 例え身に着けた物が高級スーツだったとしても、その印象が良くなる事はないだろう。
 ましてや今日は普段着にサンダル履き、女子力の高い面々(性別不問)との共同生活のお陰でアイロンはきちんとかかっているものの、好感度を上げる事に関しては殆ど貢献していなかった。

「おい、あれ見ろよ」
 そこに通りかかった、いかにも頭の悪そうな少年達。
 学園の制服を着ているからには彼等も撃退士なのだろうが、門木の顔を知らないところを見ると、装備の強化には熱心ではないのだろう。
 それどころか、撃退士の本分さえ忘れている様だ。
 それでも制服を着ているのは、学園生である事をアピールしておけば周囲が勝手にチヤホヤしてくれるし、様々な特典が受けられるから――といったところか。
 それに値する活動など、これっぽっちもしていないにも関わらず。
「あいつカモじゃね?」
「真っ昼間からゴミ漁りとか笑える」
「もう終わってんの、わかってねーんかな」
 三人の少年は互いに顔を見合わせ、品性の欠片もない笑みを漏らした。
「やるか」
「町の美化も俺ら撃退士の仕事ってね」
「ゴミはゴミ箱へ、だな」
 少年のひとりが、足元に落ちていた小さなネジを拾い上げ、投げる。
「おーい、おっさーん」
「あーそびーましょーってか」
「退屈してンのよ、俺ら」

 最初、門木には何が起きたのかわからなかった。
 頭に何かが当たって振り向くと、そこに三人の生徒達が立っていた。
 制服のポケットに手を突っ込み、くちゃくちゃと口を動かしているのはガムでも噛んでいるのだろうか。
 明らかに未成年なのに、一人は煙草を吹かしていた。
 三人とも、見覚えはない。
「……何だ、お前達」
 声をかけたが、相手はニヤニヤと笑うばかりで返事をしない。
 次の瞬間、門木は首根っこを掴まれ、引きずり倒された。
 眉間に痛みを感じる。
 煙草の火を押し付けられたのだとわかった瞬間、痛みは熱さに変わった。
「おっさんアレだろ? どうせ家族とかいねーんだろ?」
「リストラされて次の仕事も決まんなくて、そんで切羽詰まってゴミ拾いって、もう終わってんのわかんねーかなー」
「だからさ、俺らが終わらしてやんよ」
 勝手な妄想を吐き散らしながら、少年達は蹴りを入れてくる。
「親切だろ俺ら?」
「そうそう、おっさんみてーなゴミ、生きてたって何の価値もねーんだからさ!」
「せめて俺らのストレス解消に役立ってくれよな」
 その痛みには、懐かしさを感じないでもない。
 天界にも人間界にも、こうして他人を痛めつける事でしか自己を保てない輩は存在する。
 こうした連中は、他人を貶めれば自分の価値が上がるとでも思っているのだろうか。
 いや、違う。
 こいつらには、それさえない。
 ただムシャクシャするから、そこにカモがいたから。
(……拙いな)
 そういう連中は手加減を知らない。
 計算高い者なら、服に隠れる部分だけを狙い、かつ本格的な治療が必要になる程の傷は与えないのが常だ。
 証拠を残せば自分達の汚点になるし、殺してしまえば新しい獲物を探す手間が増える。
 だが、こいつらは。
「俺らまだ13歳だしぃ」
「それに、誰も警察になんか届けねーよな」
「弱者は社会の片隅で、誰にも知られずひっそり死んできゃいーんだよ」
 冗談じゃない。
 少し前なら諦めていたかもしれないが、今は違う。
 自分を生かす為に、多くの人が力を尽くしてくれた。
「……くず鉄や変異の怨みなら、一発くらいは殴られてやっても良いがな…」
 だが、お前らはやりすぎだ。
 門木はポケットから何かを取り出して、少年達の足元に投げた。
 それを目にした途端、彼等の顔色が変わる。
「何だこれ、身分証明――えっ?」
「こいつ、まさか……」
「うっそやべぇ!」
 それを知れば却って逆上し、証拠隠滅の為に切り刻んで下水に流すくらい、しかねない連中だ。
 門木は彼等が怯んだ隙に翼を広げ、宙に飛んだ。
「……覚えておけ。どんなガラクタにも…ひとりくらいは、そいつを大切に思う奴がいるもんだ」
 お前達はもう少し、想像力を養った方が良い。


 ――――――


「それで、またお前は黙って我慢していたのか」
 帰宅した門木を出迎えた母リュールは玄関先で仁王立ち、厳しい表情で息子を見据える。
「反撃しろとは言わないがな――」
 そうしたところで、この非力な息子は返り討ちに遭うだけだと、それはリュールにもわかっていた。
「何故その場で助けを呼ばない。何故そいつらを放ってのこのこ帰って来た」
 また同じ事を繰り返すつもりかと、リュールは右目の下に僅かに残る傷跡に触れる。
 それは誰にも言わず、ただ独りで耐えてきた、その結果に残されたもの。
 だが、門木は首を振った。
「大丈夫です、母上。そいつらの荷物に、IDを放り込んで来たのです」
 言われてみれば、いつもの眼鏡がない。
「ふむ、ならば居場所はわかるな」
「なので、これからちょっと、お仕置きに行って来るのです」
 相手は学園生だ。
 そうでなくても、人の道を踏み外した子供をそのままには出来ない。
 教師としても、大人としても。
 既に手遅れかもしれないが――
「その前に、治療だ」
 問答無用でシャツを捲り上げると、至る所に紫色の痣が広がっていた。
「今日と明日は外出禁止だ、馬鹿息子」


 一方、少年達の方は――

 同じ様な頭の中身の、似た様な貌をした者達。
 そんな連中の溜まり場に、彼等はいた。
「おい、これってID付いてるやつじゃん!?」
 仲間のひとりが門木の眼鏡を見付ける。
 彼はそれが何であるかがわかる程度には学園生をしているらしい。
「やべぇよ、居場所バレバレ!」
 だが、他の誰かが言った。
「あいつ、べつにいらなくね?」
「だな、武器とかあいつが作ってるわけじゃねーし…パクって改造してるだけだもんな」
「つか俺らべつに天魔とかと戦わねーし、人類負けてもどーでもいいし」
 決まりだ。
 逆に誘き出してボコってやろう。
 あんな奴、死んだって構うものか。




リプレイ本文

「先生、その傷ですから正座は結構ですので、そのまま聞きなさい」
 話を聞いたカノン(jb2648)は、他の者達と合流する前にまず、厳しい表情で門木に向き直った。
 口調は穏やかだが、声のトーンは今までにないほど低い。
 そして命令形。
 リビングのソファに身を沈めていた門木は、思わずピンと背筋を伸ばした。
 そのままで良いと言われても、きちんと正座して下腹に力を込めずにはいられない。
 ついでにクッションをぎゅっと抱き締めて、迎撃態勢を整えた。
「…はい」
「とりあえず、居場所を知るための手は打っていたのでやられっぱなしでないことは評価しますが」
 思ったより怖くないかもしれないと、門木はそっと顔を上げる。
 が、軽く持ち上げてから叩き落とすのが説教の基本。
 次の瞬間、最大級のカミナリが落ちた。
「そんな連中なら『勢い余って』がいつあるかもわからないんですよ!? もっと自分の安全を考慮に入れて行動なさい!」
「はいぃっっっ!」
 反論したい事も、ないではない。
 が、ここは素直に謝っておくべきだろう。
 心配をかけた事は事実だし、それに今にも大粒の雨が降り出しそうな気配が窺える。
 それはただの思い過ごしか、或いは勝手な妄想かもしれないけれど。
「…ごめん…ありがとう」
 痛みには慣れているし、自分ひとりが我慢すれば済む事だと思っていた。
 しかし、それが他の誰かを傷付けるなら――自分の身を守るのは、自分の為だけではない。
「…俺も、あいつらの事は言えないか」
 想像力が足りなかった。
「まったくだ、この馬鹿息子」
 ばこん!
 背後に立つリュールに、丸めた新聞紙で頭を叩かれた。


 学園にある廃墟。
 そこはかつて、学園生と天魔との壮絶な戦いが繰り広げられた場所だ。
 その深部には今もゲートの跡が残り、力の残り滓でディアボロやサーバントを生み出し続けている。
 だが、場所によってはそうした影響を一切受けず、素行のよろしくない者達の溜まり場となっている事も少なくなかった。
「あの廃校舎も、そうした場所のひとつなのですね」
 物陰から様子を伺い、エルム(ja6475)が小声で囁く。
「先生のID反応、あそこから出てるって係の人言ってましたの」
 神谷 愛莉(jb5345)が指差したその建物は、元は三階建ての鉄筋コンクリート製。
 だが今ではその半分ほどが抉られた様に削れ、残った部分も風化が進んで半ば崩れかけている。
 クズどもは、辛うじて形を留めている一階部分を根城にしている様だ。
「でもエリ達大勢だと、出て来ない気がしますの」
 ああいう輩は多勢で無勢をいたぶるのは好きだが、逆の状況で己を奮い立たせるなどという事はまずない。
 その気概があるなら、そもそも誅伐の対象となる事もないだろう。
「まずは私が一人で出ます」
 カノンが立ち上がる。
「囮ですか。確かに有効そうですが…気を付けて下さいね」
 ユウ(jb5639)が声をかけた。
 が、止めはしない。たかがゴロツキ相手、例え取り囲まれても後れを取るとは思えないし――
「もしもの場合は援護します」
 頷いて、自らにシバルリーをかけたカノンはひとり前に出る。
「…出てきた所で皆で範囲攻撃、ですのね、はいですの」
 デジカメを構えた愛莉が小さく手を振り、それを見送った。

(私の出番は、戦闘がはじまってから…ですね)
 エルムは静かに見守る代わりに、周囲の状況をじっくりと観察する。
 崩れかけた校舎の前には、かつて中庭だった空間が広がっていた。
 向かい側にあったもうひとつの校舎は完全に崩れ、その瓦礫が中庭の全体を覆っている。
 コンクリートに溜まった僅かな土を頼りに雑草が根を伸ばし、それが歩行の妨げになっている様だ。
 やがてこの辺りで良いだろうと見当を付けたカノンが立ち止まり、廃校舎に向き直った。
 隠し持っていたレコーダーのスイッチを入れる。
 怪我の状態だけでも充分な証拠にはなるだろうが、言い逃れをさせない為にも言質を取る必要があった。
「先生のIDを返してもらいに来ました」
 その声に、校舎の中で影が動く。
「んだよあの野郎、女をパシリに寄越したってか」
「クッソサイテーだな!」
 下卑た笑いと共に、数人の少年達が姿を現した。
 数は十人ほどだが、その中に中学生らしき姿はない。
 まずは手下を庇って年嵩の者が出て来た――いや、単に相手が女と見て下半身が疼いた連中だけが出て来たというところか。
 その中の一人が、門木の眼鏡を持っていた。
 片方のテンプルを持ってクルクルと回しながら前に出る。
「よぉ、あいつなんで自分で来ねぇの? 俺らにビビったの?」
「先生は当分動けませんので、私が代わりに」
 多少の脚色はあるが、嘘は言っていない。
「えー、おっかしーなー。うちのガキども、センコーに逃げられたっつってんだけどォー」
 先輩格の少年に背中をどつかれ、三人の子供が転がる様に出て来る。
「ほーれ見ろ、おめーらヌルい蹴りとか入れてっから、逃がした上に余計なモンまで連れて来ちまったじゃねーか」
「でも先輩、あいつ意外と頑丈で――」
 弁解しようと口を開いた三人を制し、先輩は知性の欠片もない笑みを浮かべた。
「良くやったぜ、お前ら…へへ、上物じゃねェか」
 ゆっくりと歩み寄り、あと一歩のところで立ち止まる。
「はーい、おつかいしゅーりょー。つーかもう帰れねー、ぜっ!」
 止める間もなく、眼鏡は地面に叩き付けられた。
 ご丁寧に、それを更に踏みつける。
「器物損壊…罪状追加ですね」
 レンズが割れ、フレームがひしゃげたそれを拾い上げようと、カノンは背を屈めた。
(なんでしょうね。私怨はいけない、と思うのですが、この相手に道理を守って当たる必要があるのかという気分になってしまいます…)
 だが、これはあくまで制裁であり、私刑ではない。
(自分を保たないと)
 そこに少年の手が伸びる。
 髪を掴んで引きずり倒そうとした瞬間。
「恥を知りなさい」
 地中から現れた黒い影が翼を広げ、掲げたその手から凍て付く闇を生み出した。
 常夜の闇へ誘われた少年達は、あっけなく眠りに落ちる。
 だが勿論、それだけで済まされる筈もなかった。

 ユウの攻撃を合図に、待機していた仲間達が一斉に絨毯爆撃を開始する。
「では、教育してやろう…撃退士の戦い方、というものを」
 アスハ・A・R(ja8432)がかざした手から、無数の蒼い槍が生み出された。
 それは天に向けて上昇し、反転、雨となって降り注ぐ。
「挨拶代わりだ、受け取れ」
 無論、敵味方の識別などしないし出来ないし、する気もない。
 巻き込まれたくなければ勝手に避けるか、耐えるしかないのだ。
 降り注ぐ槍の雨を、ユウは透過で遣り過ごし、カノンは銀の盾で耐えた。
 眠りに落ちていた少年達はその衝撃で目を覚まし、しかし直後、このまま眠っていれば良かったと後悔する事になる。
「さて、まだこそこそと隠れている者がいる、か」
 アスハは廃校舎に向かって光の槍を撃ち放つ。
 連続で二発、ただし狙うのはそこに隠れている筈の少年達ではなく、廃校舎そのものだ。
 その衝撃で脆くなっていた壁の一部が崩れ、連鎖する様に天井が抜け落ちる。
 轟音と共に土煙が上がった。
 その中から飛び出して来る者達を魔銃で狙い、脚を潰す。
 機動力を奪われた者の前に、偽神マキナ・ベルヴェルク(ja0067)が立った。
「覚悟なき者よ、何か言い遺す事はありますか」
 右腕に巻かれた包帯が黒焔を纏い、手刀の形に揃えられた指先が喉元に突き付けられる。
 相手は声にならない声で悲鳴を上げた。
 覚悟もなく半端な力に酔い痴れ無為に揮うだけなら、そんな物は無用の長物。
 奪ったところで誰の不利益にもならないどころか、感謝されても良いくらいだ。
 力を持つ限り、望まぬ戦にも挑まざるを得ない事もあるだろう――今、この時の様に。
「その覚悟さえ持てないなら、今ここで終わらせましょう」
 例えクズと呼ぶべき存在でも、相手が人であるというその一点に於いては全てが対等である。
 我も人ならば彼も人、そして対等であるが故に加減も容赦もありはしない。
「聞きましょう、その想いを」
 何もないなら、ただ潰されるのも道理。
 殺す気はないが、結果として死に至るならそれも運命。
 マキナは指先に力を込めた。
 勢いを増した黒焔が腕全体を包み込む様に燃え上がる。
「ま、待てよ、俺らまだ未成年――」
 だが、少年を見下ろす黄金の獣瞳からは何の感情も読み取れなかった。
 目の前の相手が望むものが何であるかを理解しないまま、少年の喉元に紅い花が散る。
 恐らく先程の浅ましい一言が、彼が自分の声で表現した最後の言葉となるだろう。
 と、マキナの無防備な背を狙う者があった。
 しかし、それをアスハの銃撃が襲う。
 まずは腕を狙い、近付いて真っ正面から銃口を押し当て、耳を吹っ飛ばす。
「撃退士なら、この程度で死にはしない、な」
 ちぎれた腕には義手が、抉れた頭には整形手術が必要になるかもしれないが、手術で治るなら手加減は無用。
 植え付けられた恐怖心が消える事はないだろうが、それも自業自得だ。

「誰ぞおらんかのぅ」
 範囲攻撃祭に参加出来ない峯月 零那(jc1554)は、まだ廃校舎に残る者を探して建物の中に侵入していた。
 抜き身の刀を振り回し、獲物を炙り出す様にそこらじゅうをガンガン叩く。
 すぐ近くで人の気配を感じた。
 出所を探り、見当を付けた場所へと瓦礫を飛び越えて行く。
 そこに、こそこそ逃げようとしている少年の姿があった。
「見付けましたよ」
 途端、零那の口調が揺れる。
 身に纏った柔らかな空気が一変し、微笑は嘲笑へ。
「殺しはしません」
 皆と相談してそう決めたから。余程の事がない限りは、多分。
「でも、倒します」
 祭に加われなかった無念を込めて、楽しそうに嘲笑う。
 心を殺してはいけないとは言われなかった。
「身体を殺さない程度に痛めつけて、心を折って、砕いてさしあげますね」
「ま、待て! 俺はあいつらの仲間じゃない!」
 こんな所に隠れていながら、どの口が言うのだろう。
「ええと、その、捕まってたんだ! 助けてくれてありがとうな!」
 少年は慌てて走り出す。
 しかし。
「ならば何故、我の姿を見て逃げたのですか」
 この状況なら普通は助けを求めるもの、それをしないのは即ち――
「敵という事ですね」
 逃げる背に飛んできたアウルの刃を受けて、少年はつんのめる様に倒れる。
 そこに追い討ちのサンダーブレードを放つと、少年の足はその場で凍り付いた様に動かなくなった。
「足は動かなくても戦う事は出来ますよね。抵抗なさい、そして絶望なさい」
 零那は少年が武器を取り出すのを待った。
 ヒヒイロカネから現れたのはスクールソード、入学の時に与えられたそのままの装備だ。
「剣の構え方がなっていませんね」
 この少年に実戦経験はないのだろう。
「ならば教えてあげましょう、本物の、命のやりとりというものを」
 麻痺が解かれて闇雲に襲いかかって来た少年の剣を軽く受け流し、零那はカウンターを叩き込む。
 体勢を崩したところで背中に鞘の一突きを、膝を折れば襟首を掴んで立たせ、正面から斬りかかる。
 相手が対処出来るぎりぎりの力で攻めれば、己の実力を計り違えた相手は強気になって攻めに転じる。
 そこであっさり剣を弾き飛ばしてやれば、勝負は簡単に決した。
「こ、降参だ、助けてくれ!」
 だが零那は頬に嘲笑を貼り付かせたまま、恍惚の表情で囁く。
「汝はそうして命乞いをする者達を、許した事があるのですか?」
 少年の顔が恐怖に歪んだ。

「あらぁ、可笑しいわねぇ、中等部の子もいるのかしらぁ?」
 Erie Schwagerin(ja9642)は破滅の空間を現出させ、それはそれは楽しそうな笑みを浮かべた。
「こんな場所に子供がいたら補導されちゃうって、お姉さん聞いてたんだけどぉ。悪い子が蔓延るわけだわぁ、学園も管理が甘いのよぉ」
 だ・か・ら☆
「代わりにい〜っぱい、お仕置きしてあげる♪」
 形を与えられた深淵が収縮を始め、それは範囲内の全てを押し潰す。
 例えそこから逃れても、第二波、第三波が連続して押し寄せれば、そう簡単に逃げられはしない。
 カエルが潰れる様な悲鳴が、あちこちから上がった。
「悪い子の数が多いんだものぉ、お掃除お掃除♪」
 潰した後は燃やして灰にしましょうか。
「あ、逃げる子は車輪で轢き殺しちゃうわよぉ?」
 殺すなんて言葉の綾だけど、抵抗されたらついウッカリとかヤっちゃうかも♪
「だから良い子にしてなきゃダメよぉ?」
 逃げられても困るから脚は潰すけど。
「大丈夫大丈夫、撃退士だもの、ちゃんと治るから」
 なに? 頭も潰されたいの?
「このババア、児童虐待で訴えてやる!」
 中学生三人組の一人が涙声で叫ぶ。
 しかし訴えられて困るのは寧ろ自分達の方ではないだろうか。
「もう、ヤンチャな子達ねぇ♪ 言ったでしょぉ、これは生徒指導だって♪」
 正式な許可は取っていないが、依頼主は門木――つまり学園の教師公認という事になる。
 命さえ奪わなければ、後は何とかしてくれるだろう。
 だから殺しはしない。
「あ、違うわね。殺してア・ゲ・ナ・イ☆」
 多分これ、死んだ方がマシな事になるから。

「ちょっとおイタが過ぎたようですね」
 エルムは少年達のど真ん中に無影刃・阿修羅斬を叩き込んだ。
 不可視の刃ゆえ直接見る事は出来ないが、彼等の周囲に散る紅い火花の様な血飛沫がその軌跡を教える。
「貴方達のような学園のゴミを処理するために、私達が呼ばれました」
 その声が彼等の耳に届いているかどうか。
 届いていても、聞く余裕はないだろうけれど。
「最近は「恒久の聖女」やらのせいでアウル覚醒者の評判がよろしくないですからね」
 第二波が彼等を襲う。
「ここでさらに、久遠ヶ原学園に貴方達のようなゴミがいると世間に知られてしまっては、都合が悪いわけですよ」
 おわかり頂けただろうか。
「わかってもらえたら、おとなしく処理されてください。抵抗してくれても、私は一向にかまいませんけれどね」
 第三波、どーん。
「…な〜んてね。どうです? あながち、ありえない話でもなさそうですよね」
 エルムは悪戯っぽく「ふふっ」と笑う。
 年頃の少年達の目に、その笑顔はさぞかし眩しく映ったことだろう――もしも、まともな精神状態だったなら。
 だが、彼等の顔は恐怖に歪んでいた。
「おっ、お前ら、こんな事して許されると思ってんのか!?」
「あら、そんな台詞どこで覚えたのでしょう」
 恐らく被害者の誰かが言っていたのだろう。
「ですから、貴方達は今こうして報いを受けているのですよ」
 因果応報、ですね。

「さて、お前らは少々やりすぎたな」
 ティアマットを召喚した詠代 涼介(jb5343)は、瓦礫の山をアイアンスラッシャーで切り裂いた――勿論、その上に立つ少年達も共に巻き込んで。
 命までは取らないが、手加減する気もない。
「仮にも撃退士の端くれなら、この程度は耐えてみせろ」
 この程度とは言え、それが十人分重なれば流石に命の危険があるかもしれないが。
「お前らがやってきたのは、そういう事だ」
 ティアマットが暴れているその間に、涼介自身は相手の退路を断つように戦場の奥へと回り込む。
 右手は崩れた校舎、左手は崩れかけた校舎で塞がれている。
「逃げ場があるとすれば、この奥だな」
 少年達の間を走り抜け、涼介は奥への通路を塞いだ。
 そこで銃を構え、待つ。
「逃げられると思うのか?」
 退路を探す素振りを見せた者の足元で瓦礫が弾けた。
「次は当てる」
 その言葉に尻込みをした瞬間、その身体を仲間の範囲攻撃が呑み込んでいった。

「くず鉄や変異の怨みで豆ぶつけるのは許容範囲ですけど、逸脱しすぎてますの」
 愛莉はストレイシオンのすーちゃんを呼び出して、ボルケーノとサンダーボルトをありったけ叩き込む。
「こんなのが同じ学園生って恥ずかしい…鉄拳制裁ですの!」
 まずは一度痛い目を見ないとわからないだろうし、話を聞く気もなさそうだし。
「撃退士の力に頼って弱い者いじめしてるみたいだし…」
 そういう輩は痛い目を見てもわからないかもしれない。
 それどころか一番小さくて組み易そうな自分を狙って、人質にしようと企むかもしれない。
「すーちゃん、守りはお願いしますの」
 皆の動きを見ていると、そんな余裕もなく叩き潰されそうな気はするけれど。

「不用な存在は、消去する…。死にたく、なかったら…武器を捨てて…」
 そうは言っても、恐らく聞く耳を持たないだろう。
 こちらの言う事に素直に耳を傾けるくらいなら、ここまで堕ちてはいない筈だ。
「本物の、戦闘を…教えてあげる…」
 Spica=Virgia=Azlight(ja8786)はまずグラビティゼロを装備、クレセントサイスで範囲祭に参加、次いで物陰に隠れ、スナイパーライフルR-9D2Cを構えた。
 門木にはくず鉄の怨みもあるが、それ以上に今の火力特化装備の恩がある。
 故に仇を成した者達には温情の欠片もなく、スピカは手加減・容赦一切なしで廃墟の死角から狙い撃った。
「この銃口、からは…逃れ、られない」
 逃がす気も、ないけれど。
「後遺症とか、残ったらどうすんだよ!」
 逃げ惑う少年が叫ぶ。
 だが、元からそれを残すつもりで対処しているのだ。
「傷跡を見る度、不自由に苦しむ度…思い出しなさい。己の愚かさを…」
 そうして常に感じていなければ、すぐに忘れてしまう様な安い頭なのだろうから。

「力を唯の力としか思わず、それを振るうことの意味を考えない…嘗ての私のようですね」
 ユウが見ているその目の前で、少年達が次々に倒されていく。
「先生を傷つけたことは許せませんし、リュールさんの怒りは最もです」
 とは言え、命まで奪って良いとは思わない。
 暴力に対して暴力で恐怖を示すことは彼らにとって必要な儀式だが、殺してしまってはそこで終わりだ。
 門木や彼らの被害にあった人達の為にも、力の意味を再度考えて貰えるようになって欲しいから。
 その為には、生かしておかなければ――例えどんな姿になったとしても。
 止めを刺そうとする者がいれば止めなければと、ユウは戦場に目を光らせていた。
「お仕置きの手は充分に足りているようですし」
 充分どころか、軽くオーバーキル×3くらいは行っていそうな気がする――


 範囲祭が一通り終わった時でも、まだ辛うじて立っている者が何人かいた。
 流石は腐っても撃退士だが、その丈夫さは時に仇となる。
 何故なら、迫り来る恐怖から目を背け、気絶する事さえ許されないのだから。
「雨が降る度思い出せっ!!」
 アスハは得物を雪村に変えて更に魔法攻撃を上げ、その手を天にかざした。
 蒼く輝く微細な光の筋が驟雨の如く降り注ぐ。
 全てのものに平等に、分け隔てなく。
 自分達が対しているものが奥義の使い手である事を今更ながらに知り、まだ動ける者達はその場から逃れようと走り出した。
 だが、逃げ場などある筈もない。

「あらあら、強い子もいるのねぇ、悪い事重ねた結果かしらぁ?」
 相手をダアトと見た一人がエリーに突っ込んで来る――その姿が二つに分かれたところを見ると鬼道忍軍か。
 しかし、その背にスピカが銃口を向けた。
「貴方は、こっち…。脳の、足りていない…愚かなヒト…」
 お粗末な分身などで彼女の目は誤魔化せない。
 それは脚を撃ち抜かれ、エリーの足元に転がった。
「腕や脚の一本じゃ足りないわねぇ…全部貰いましょう♪」
 自分達が襲撃を受ける事など考えてもみなかったのだろう、厄介な空蝉は身代わりの品が用意出来なかった様だ。
「じゃ、車輪の下でお休みなさい♪」
 どうせ元ネタなんて知らないだろうけれど。
 腰の骨でも砕けたのだろうか、その場に倒れて動かない少年の額に、涼介が銃口を押し付けた。
「自業自得、因果応報って奴だ…いっぺん死んでみろ」
 誰かが止めに入る隙も与えず、涼介は引き金を引く。
 銃声と共に甲高い悲鳴が響き渡った。
 が――
「安心しろ、空砲だ」
 厳密に言えばアウルを弾とするV兵器に空撃ちはない。
 だが擬似的にその状態を作り出す事は出来た。
 少年の額にはほんの僅か、赤い跡が残っているが、それだけだ。
「…少しは実感できたか? お前らが簡単に口にした『死』ってやつを」
 答えの代わりに、足元から香ばしい湯気が立ち上る。
「この先、お前らが何も変わらず人を傷つけるなら、もう一度この銃口を突き付けに行くぞ。今度は銃弾入りで引き金を引く」
 涼介はもう一度、少年の額に銃口を押し付けた。
 ゴリッと音がするほどに強く。
「だが、もしお前らが誰かを助けることがあるなら…この銃弾はお前らの味方になる」
 銃口を離し、ヒヒイロカネに納める。
「…どうするかは自分で決めろ」

 もう一人、恐らく阿修羅であろう少しは戦闘慣れした様子の少年は、包囲網を抜けようと縮地で飛び出した。
 狙うのは最も撃破が容易そうに見えた零那、だがその足元にカノンのディバインランスが突き刺さる。
 咄嗟の事に避けきれず、無様に転がった少年は自分が狙った筈の零那に返り討ち、サンダーブレードでその場に釘付けにされた。
 が、今度の相手は先程の下っ端とは違い少々手応えがある。
 零那は距離を取って魔法書で攻撃しつつ、応援を呼んだ。
「貴方達は、手加減しなくてもいいかな?」
 それに応えたエルムが疾風の如き剣閃で足の骨を砕く。
 だが相手は痛みを感じた様子もなかった。
「死活ですか」
 それなら効果が切れるまでは痛みも感じない。
 しかしこの状況で使っても、その効果が有利に働く事はないだろう。
「動けないのですから、どう転んでも手詰まりですよね」
 そう言いつつ場所を空ける。
 その後ろでは、ハリセンを手にしたユウがにこやかな笑みを湛えていた。
「では、お仕置きです」
 パァン!
 たかがハリセンだが、高レベルの阿修羅が持つそれは完全に凶器。
 利き手を潰し、無事だった方の足の骨を砕き、ユウは微笑む。
「ハリセンに撃退士生命を奪われた男、そんな称号はどうでしょうか」
 死活が切れた頃合いを見計らって頭部を強打、昏倒させた。
 もう充分に恐怖を味わったことだろう。

 だが、まだコソコソと隠れている者がいた。
「ならば、全てを吹き飛ばすまでだ、な」
 アスハは残った槍雨と死刃蒼月の無差別絨毯爆撃でそこらじゅうの瓦礫を引っ繰り返す。
 範囲内に仲間がいても、動けなくなった少年達が倒れていてもお構いなし。
 遠慮も慈悲も一切なく、その姿はまるでどこかのヴァニタスそのもの。
 が、その嵐の中を気配を殺し足音を消して近付いて来る者がいた。
「単騎で向ってくるとは、な…その蛮勇には、敬意を表しよう」
 しかしバレている。
 がっつり捕捉されている。
 焦って撃ち込まれた銃弾を刀で受け流し、アスハは対戦ライフルで相手が身を隠した瓦礫ごと吹っ飛ばした。
 距離を詰め、瓦礫の中から引きずり出し、マキナに投げる。
 終焉を司る偽神は、転がされたその身体を見下ろした。
 彼等の更正など端から期待していない。
 そうした機会は、生きている上で幾等でもあった筈なのに、彼等はそれを選ばなかった。
 良心が死んでいたとでも言うつもりなら、殊更に更正など望める筈もない。
「ま、待ってくれ!」
 逃れるすべはないと悟ったのか、少年は命乞いを始めた。
「俺は何もしてない、今度の事だってやったのはガキどもだし、待ち伏せしようって言ったのも他の奴等で――」
 結局は責任逃れか。
 マキナの目に失望の色を見て、少年は方針を変えた。
「悪かったよ、もう二度としないから! ほんと、神かけて誓います、絶対! ごめんなさい!」
 瓦礫の山に這いつくばり、額を擦り付ける。
 だが、少年が伏せた顔の下でぺろりと舌を出している事を、マキナは見逃さなかった。
 彼はこれまでも、こうしてその場しのぎの心にもない謝罪を繰り返し、そして許されて来たのだろう。
 これからもそうして全てを遣り過ごせると、世の中なんてチョロいと、そう考えているのだろう。
 だが、偽神に出会ってしまったのが運の尽き――いや、幸運と言うべきか。

 ――覚悟も責任も持てぬなら、相応の無様さで伏せるが良い。

 身体と心に刻まれる烙印。
 それが不運か、それとも幸運であったのか。
 それは彼自身が決める事だ。


「更生か、死か…選択肢、あげる…。死にたく、なかったら…武器捨てて…」
 一箇所に集めて並べた少年達に、スピカが問う。
 とは言え、全員とうに武器など持てないほどに痛めつけられている。
 後は更生する気があるか否かだが――
 なかったら、殺す。
 この状況で「ない」とはっきり言える者はいないだろうけれど。
「いいことぉ? 悪い事に悪い事重ねちゃうと、こうしてお仕置きされちゃうのよぉ?」
 エリーがほんのり嗤う。
「自分たちは大丈夫だと思った? 御咎めなしになるって?」
 何をどう間違えたらそんな結論に至れるのか。
「なるわけないじゃなぁい♪ もう、お茶目さんなんだから☆」
 しかし目が笑っていない。
 これ以上舐めた態度を取るなら、スピカと一緒にヤッちゃうから――と、そう顔に書いてある。
「お前らゲキタイシじゃねえ、ギャクタイシだ」
 比較的傷の浅い少年が吐き捨てる様に言った。
 せめてもの反抗のつもりらしいが、反骨精神を見せるところを間違えている。
「上手いこと言ったつもりかもしれないけどぉ、撃退士はブレイカーって読むのよぉ?」
 そんな事も知らなかった?
 撃退士のくせに?
「やっぱりヤッちゃおうかしら、ねぇ?」
「あの、流石にそれは…」
 もう実力行使のターンは終了だと、ユウが止める。
「それに、こうしておけば社会的には死んだも同然ですの」
 愛莉がデジカメで撮った証拠写真を見せる。
 ついでに気絶している間に学生証も剥ぎ取っておいた。
「再起不能になっても学園には残れるけど、これを公表したらきっともう居られなくなりますの」
 名前と学年、学生番号など全てメモしてある。
「エリ、お金はないけど後で依頼出しますの。『門木先生を一般の人と勘違いして怪我させた学園生です。彼等の無視・力貸さないように協力お願いします』って」
 それを聞いて、少年達が一斉に青ざめる。
「命までは取りませんよ、被害者のせんせー自身が『どんなガラクタにも一人位はそいつを大切に思う奴がいる』って言ってましたの」
 それに、ひょっとしたら更生する人がいるかもしれないし――とは言え、そう簡単に更生などさせない。
「先輩が言ってた言葉贈りますの、『撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけ』ってね」
 覚悟もないのに力を使ったりするから、こういう事になるのだ。
(こいつらを生かしたところで、更生できず新たな被害者が出てしまうかもしれない)
 仲間達のやりとりを聞きながら、涼介が少年達を見下ろす。
(だが、更生して、それにより助かる命が増えるかもしれない)
 細かい可能性を挙げればキリがない。
 それに正直、どうするのが一番良いのかなんて誰にも分からないのだろう。
「直せば使える物なのか、処分するしかないゴミなのか…それが決まるのはむしろ、これからだ」
 出来れば前者であってほしいものだが――彼等の被害に遭った者達の為にも。
「…生き残りたいなら、ガラクタ同然の貴様らの価値を、教えてみろ」
 アスハが言った。
 これで懲りないなら、次は確実に殺す。
 実際もう殺したくてウズウズしている者は一人や二人ではない筈だ。
 根に持っても構わないし、リベンジを試みても良い。
 それなら堂々と息の根を止められる。
「『前科』があるなら話しなさい。話せば今後の処置を考慮はします」
 カノンの言葉に、何人かが顔を見合わせる。
 その動作だけでもう、前科があると白状している様なものだ。
 彼等は「考慮する」という言葉に何らかの甘い幻想を抱いている風に見える。
 だが、考慮する処置とは即ち徹底的な糾弾、然るべき追求に決まっている――なんて事は言ってやらない。
 勝手に幻想を抱いて勝手に幻滅すればいいのだ。


 通報を受けて、少年達は当局の手に引き渡された。
 本格的な余罪の追及は、専門家に任せられる事になるだろう。
 最終的にどんな処分が下されるのか、それはまだわからないが――

「…そうか。ありがとう」
 報告を聞いて、門木は少々複雑な表情で頷いた。
 話を聞く限り、少しやりすぎだった様な気がしないでもない、が。
 まあ、死者が出ていないなら良しとしよう。
 心と体に深く刻まれてこそ、初めてわかる事もあるのだ。
 彼等は学習の機会を得た――機会を得ただけで、何も学んでいない者もいるかもしれないが。
 何処からか怪我についてのクレームが来たら、強敵との実戦を想定した訓練だったとでも言っておけば良い。
 ただ――
「…その、依頼に関しては…勘弁してやってくれないかな」
 門木はぽんぽんと宥める様に、愛莉の頭に手を置いた。
「いけませんの?」
「…もし本当に更正しようとしている奴がいたら、その妨げになるだろうから、な」
 痛めつけるのは一度で充分だ。
 もしこれで何も変わらなければ、その時にまた叩き潰してやれば良い。
「わかりましたの、先生がそう言うならやめておきますの」
 ところで、と愛莉は何やら期待の眼差しで門木を見る。
「先生のお説教はまだですの?」
「…いや、それはもう、終わったから」
 それともまだ続きが…ああ、うん、ありそうな気がする。
「先生、愛されてますですの」
 こくり、愛莉が頷く。
「あれ? 先生どうして咳き込んでますの?」
 何か変な事を言っただろうか。

 ああ、そうそう――
「…眼鏡は、ちゃんと直すから」
 手放した時点で、もう諦めていたけれど。
 こうして、取り戻してくれたから。
 なかなか派手に壊されてはいるが、細かい手作業は得意だ。

 壊れたままでも、ガラクタではないけれど。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:10人

撃退士・
マキナ・ベルヴェルク(ja0067)

卒業 女 阿修羅
穿剣・
エルム(ja6475)

卒業 女 阿修羅
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
さよなら、またいつか・
Spica=Virgia=Azlight(ja8786)

大学部3年5組 女 阿修羅
災禍祓う紅蓮の魔女・
Erie Schwagerin(ja9642)

大学部2年1組 女 ダアト
天蛇の片翼・
カノン・エルナシア(jb2648)

大学部6年5組 女 ディバインナイト
セーレの大好き・
詠代 涼介(jb5343)

大学部4年2組 男 バハムートテイマー
リコのトモダチ・
神谷 愛莉(jb5345)

小等部6年1組 女 バハムートテイマー
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
冷厳なる誅伐者・
峯月 零那(jc1554)

大学部6年50組 女 アカシックレコーダー:タイプB