「ヒーローショー、ねェ」
募集要項をちらりと見た黒百合(
ja0422)は、自分には縁がないと思った。
興味はあるが、ヒーローなんて自分には似合わない。
しかし、他の依頼を探そうと逸らした視界の片隅に、誘う様な文字を捕らえて目を戻す。
そこにはサポートスタッフ歓迎と書かれていた。
「それなら裏方作業でも頑張りましょうかねェ♪」
そして同じ様に、表舞台に立つよりも裏で暗躍――じゃない、皆を支える方が性に合っているというメンバーが、他に三人。
「えーと、これって本番までの全体統括・調整が主な仕事なのかしら」
蓮城 真緋呂(
jb6120)は演出を担当する。
「ヒーローショーのステージ作りは、勿論経験などありませんが…すごく大きな絵が描けるのですよね」
美術担当の樒 和紗(
jb6970)は、DIY職人系女子だった。
「ものづくりをいっぱい出来る…なんて素晴らしい仕事でしょう」
うっとりと目を細め、ほうと溜息をひとつ。
「昨夜は今までに放送されたTVシリーズと、過去のショーの映像に目を通しておきましたわ」
咲魔 アコ(
jc1188)は音響担当、そこで使われたSEやBGMもしっかり聞き込んで来た。
キャストの希望を参考に脚本が固まれば、次は絵コンテやイメージボードの作成だ。
「ここは俺の出番ですね」
和紗は休演中のステージ全体が見渡せる観客席の一角に紙と画材を持ち込んで、ひたすら描く。
「こういうステージって、当たり障りのない背景一枚でやるのでしょうか?」
以前の資料を見て、ふむふむ、なるほど。
「テンポが大事ですし場面転換に時間は取れませんよね」
ステージに上がって実際の構造を確かめてみる。
あれをああして、こうすれば――
「んー、やっぱり子供にも分り易い『明快さ』が大事よね」
真緋呂は出来上がった絵コンテに演出指示を書き加えていく。
「それと観客との『一体感』、後は何より『最後に楽しかったと思える』ように…」
うん、ここは観客席もステージに組み込んで――
各担当が仕上げたプランを元に、黒百合は資材の確認と手配を進めて行く。
「あとは関係業者への手配と、関係者への周知ねェ♪」
素早く漏れなく徹底的に。
「ここって休憩スペースみたいなものはあるのかしらァ?」
楽屋はあるが、ショーの合間にそこまで戻る時間はなさそうだ。
「なら、ステージの裏側にでも何かあった方が良いかしらねェ♪」
カーテンで仕切った所にベンチを置いて、大型の扇風機とクーラーボックスに冷たい飲み物を用意して。
スケジュール表も両方に貼っておいた方が良いだろうか。
次は舞台を使ってのリハーサル。
音響担当のアコはひとり舞台脇の高所に設けられたブースに籠もり、正確なタイミングで音を流すキッカケ練習を入念に行う。
「どのファイルをいつ流すか、それが重要よね」
原作と比べて違和感のない仕事が出来る自信はあった。
「ストーリーや役者が違っても、音が同じなら結構それらしく見えるものよ」
サンプラーには殴る蹴る撃つといった戦闘中のSEを多めに登録してある。
これで戦闘中のアドリブも怖くない――とは言え。
「…でもあんまりアドリブかましやがったら、後でアドリブの数だけブン殴って差し上げてよ?」
因みにサンプラーとは番号毎にファイルを登録することで、番号のスイッチを押すだけで音を流せる機械の事である。
『へぇー、便利なものがあるのね』
演出担当の真緋呂がインカムで声を伝えて来る。
『でも、んーと、そこの音楽少しだけ雰囲気変えたらどうかな?』
「こうか?」
『あ、そうそう、良い感じ!』
「こちらからも少し良いかしら。上から見ると、そこが少しゴチャッっと――」
『このへん? じゃあ、立ち位置この辺でどう?』
「ああ、良いですわね。だいぶ良くなりましたわ」
リハーサルの最中でも、和紗はせっせと背景を描いていた。
特撮のロケ地と言えば、やはり例の採石場。
もう一枚は海岸線、どちらもやたらリアルに仕上げているので時間がかかる。
その上、他の大道具や小道具は勿論、宣伝用のチラシやパンフレットの制作まで一手に引き受けてしまったものだから、もう寝る暇もない。
だが本人はアドレナリン全開、実に生き生きと楽しそうに見えた。
黒百合は宣伝用の素材として、キャスト達に突撃インタビュー。
「大きいお友達用の記事だから、中の人丸出しで良いわよねェ♪」
というわけで、出来上がったのが以下の記事だ。
・クオンライダーZ3:礼野 智美(
ja3600)
『幾らスペシャルバージョンでも、夢を壊すような事はしたくない』
オタクな妹さんに協力してもらい、役作りに励んだという礼野智美。
今回は最初のクオンライダー、でも何故かナンバリングは三番目という難役を演じる。
「妹が、レッドや1号が最後に来るのは珍しくないと言っていた」
緑のスーツに日本刀、クールなバイプレイヤーここに見参!
・クオンライダーZ9:雪室 チルル(
ja0220)
『よーし、これであたいもヒーローね!』
寒い国からやって来た少女は、クオンライダー最後にして最強の戦士。
小粒で辛い氷雪のヒーローには、このショーでしか会う事が出来ない。
この超レアなチャンスを見逃すな!
・正体不明のヒーロー:浪風 悠人(
ja3452)
『小さい頃に憧れたヒーローの様に頑張らないと、な』
物語の開始時点では、まだ正式にクオンライダーとしての能力に覚醒していない、謎の青年。
その不完全変身で、果たして悪の妖怪軍団に立ち向かう事が出来るのか!?
期待の新人、浪風さんの熱い演技を刮目して見よ!
・天拳絶闘ゴウライガ:千葉 真一(
ja0070)
『燃える真紅のヒーロー、ゴウライガ! この力は皆の笑顔を護るために!』
・我龍転成リュウセイガー:雪ノ下・正太郎(
ja0343)
『蒼き覇者リュウセイガー、お呼びとあらば即参上!』
久遠ヶ原では最早お馴染み、本家本元正真正銘のヒーロー達がゲスト出演!
「どんな敵が相手でも、仲間たちと協力して必ず倒して見せるぜ。みんな楽しんでくれな!」
TVのヒーローとリアルヒーロー、この共演は見逃せない!
・謎のクオンライダー:鳳 静矢(
ja3856)
『私は通りすがりのクオンライダー、別に覚えなくて良いがな』
彼の存在は未だに謎だ。
君のその目で真実を確かめよう!
・フンドシ☆ガール:東風谷 映姫(
jb4067)
『輝くフンドシは正義のしるし! キラッ☆』
彼女は一体何者なのか、その正体は我々取材班にも一切明かされていない。
敵か味方か、それとも――真実はこの会場で明らかに!?
・人質の少女:茅野 未来(
jc0692)
『おしばい…おはなししなきゃいけない、です?』
人質役に挑む茅野未来は現役の小学三年生、もちろん演技もこれが初めてだ。
「ひとじちやくならおはなししなくてもだいじょうぶ、です?」
でも、ちょっと怖いけど、頑張って新たな一歩を踏み出してみたぞ!
「…そんなことはなかったの、ですね…」
台本を抱えてショボーンとなってる姿に、キュン死する大きなお友達が続出するのは間違いなしだ。
「…ならってない字がたくさん…かんじ…? こくご、じてん…もってくればよかった、です…え、しゅざい? これ、きじにされてしまうの、です…?」
その初々しい演技に保護欲をそそられるお友達も多いことだろう。
でもみんな、人質を助けるのはヒーローの仕事だ。
君達はそれを信じて見守ってほしい。
クオンライダーとの約束だぞ!
・悪の幹部デスミカエル:ミハイル・エッカート(
jb0544)
『イケ渋ダンディーなハードボイルド悪役なら任せてくれ』
どう見てもマフィアのボスにしか見えない彼は今回、ピーマンネタを封印して挑む!
「ピーマンさえなけりゃ、俺のシリアスは無敵だ」
これは期待出来るぞ!
・悪の女幹部アズーリア:ポーシャ=スライリィ(
jb9772)
『棒読みだと? 勘違いするな、これは演技だ』
・悪の女幹部ドラゴンレディー:七七(
jc1530)
悪の組織と言えば外せないのがセクシー女性幹部。
その露出の多さ故か。世のお母さんがたの評判はよろしくないが、お父さん達からは絶大な支持を得るのが彼女達。
ましてや今回は豪華二本柱、これはもう子供をダシに見に来るしかない!
今なら二人と握手が出来る、この機会を逃すな!
・デビルライオン:天羽 伊都(
jb2199)
『ちょっとたまには悪役でもやってみようかな〜、昔着てた装束が割としっくりくるんだよね〜』
今回悪役を演じる天羽伊都は、敵対者の心情を勉強し、それを実際にの戦闘に活かす考えの様だ。
流石は撃退士、いついかなる時にも実戦への備えは忘れない!
・悪の改造妖怪「猫娘」:六道 鈴音(
ja4192)
『ヒーローショーを楽しみにしてきたちびっこ達をガッカリさせるわけにはいかないわ!』
怒りのパワーで二段変身する超強力妖怪、猫娘に挑むのは六道鈴音。
一体どんな「変わるわよ(はぁと」を見せてくれるのか、その変身シーンには期待が高まるぞ!
・戦闘員ギニョール:ローニア レグルス(
jc1480)
『報酬は燃料で頼む…オリーブオイルだ』
ギニョールは生を得たマネキン人形、きっとそれは彼にしか出来ない。
彼が命の他に求めるものは一体何か、その胸にしかと刻め!
・改造人間マスキプラ:咲魔 聡一(
jb9491)
『今回は脚本も担当させてもらってます。皆さん、是非見に来て下さいね!』
脚本家と俳優の二つの顔を持つ男、咲魔聡一。
果たして彼はどんな演技を見せてくれるのか、そしてどんな物語を魅せてくれるのか!
・謎の第三勢力「ミスター・ハロウィン」:エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)
『僕はただの子供ですよ。そう、害のない、ごく普通の…』
戦いの場にふらりと現れた謎の少年、果たして彼の正体は!?
それを知る事が出来るのは、会場に来てくれた君達だけだ!
和紗はそのインタビュー記事と写真を組み込んで、パンフレットとチラシ、それにポスター、ついでに看板まで作る。
表紙は手書きのイラストと写真をコラージュした、ポップなものに仕上がった。
頭に乗せたケセランと共に、和紗は出来たばかりのチラシを配って歩く。
そして当日。
客席の間では、鴉乃宮 歌音(
ja0427)が売り子をしている。
「よく冷えた缶ジュース、ペットボトルのお茶に、アイスキャンディーは如何ですかー?」
この暑さの中、こうして売りに来てくれるのは有難い。
「お買い上げのお客様には、クオンライダーのコースターを差し上げますよー?」
子連れの客を中心に、商品は飛ぶように売れて行く。
――が、何かおかしい。普通じゃない。
喋りは女の子っぽく可愛らしい。
ワゴンを押して歩く動作も物腰柔らかく淑やかで、仕事も真面目にやっている様だ。
それでも、やっぱりおかしい。
何がおかしいのかと言えば、戦闘員のスーツにサンバイザーとエプロン、顔にはマスク。
怪しい。
どう見ても怪しいが、本人は素知らぬ顔で売り子を続けていた。
やがて開演の時刻。
会場に主題歌が流れ、舞台上に色とりどりのスポットライトが踊り始める。
足元からは七色のスモークが立ち上り――
「みなさーん! こーんにーちはーっ!」
MCのおねえさん雁鉄 静寂(
jb3365)は、光沢素材で作られたノースリーブのミニスカワンピに革のニーハイブーツ、頭にはピンクのカツラという「いかにも」な格好で舞台に躍り出た。
事前に何度も確認しただけあって、マイクの調子も良好だ。
それを確認し、おねえさんは返事を期待する様に片耳に手を当てて観客席に身を乗り出す。
すると、まるできちんとリハーサルを行ったかの様に元気な返事が返って来た。
「「こーんにーちわーっ!」」
「はーい元気ですねー!」
簡単に自己紹介を済ませ、おねえさんはステージ脇へと身を寄せる。
「さあ、いよいよ始まります、本日のヒーローショー!」
スモークがますます濃くなり、舞台の上には何も見えなくなった。
「みなさん拍手をお願いします!」
わー!
ぱちぱちぱちぱち――
●第一幕
「ふふふ…はぁーっはっはっはっは!」
霧が払われる様に風に吹かれて消えるスモーク。
その背後から現れたのは、ダークスーツに身を包んだ悪の幹部デスミカエル。
背景の絵は何故か波打ち際、その前にはベニヤ板に描かれた岩がいくつか置かれていた。
「遂に、遂にこの時が来た!」
大袈裟なジェスチャーで両腕を広げるデスミカエル。
そこに二人の女幹部が現れた。
「いよいよ我らの時代が来るのだな」
アズーリアはその名の通りに真っ青な顔に、冷たい笑みを浮かべる。
台詞が若干棒っぽいのはわざとだ。わざとと言ったらわざとだ。
ミステリアスなセクシーさを醸し出す為の演技なのだ。
スリットの深いロングスカートに漆黒のストッキング、そして顔以外では唯一の露出である胸の谷間。
このセクシーさは、お子様にはまだ早い。
一方のドラゴンレディーは黒スーツに黒ネクタイ、出で立ちこそお堅いOLといった風情だが、その顔はヒトのものではなかった。
「さあ、始めるわよ。最高の宴を…フフフ♪」
MCのナレーション:
彼等、悪の妖怪軍団の幹部達は、この地球を標的に決めた。
その為にまず最初に狙われたのが、ここ――久遠ヶ原島。
しかし怖れる事はない。
僕達にはクオンライダーがいる!
「さあ皆さん! 大きな声でヒーローを呼びましょう!」
せーの!
「「くおーんらーいだーっ!!」」
吹きすさぶ風の効果音と共に現れた緑の影。
「クオンライダーZ3、見参!」
因みにこれは、今までの放送から抜き出した本物のライダーの声だ。
よって彼が声を出すのは定番の台詞か技名のみ。
残りはナレーターの解説によって補完する事になる。
「悪の妖怪軍団め、貴様らの悪行は例え天地が許しても、このクオンライダーが許さん!」
「よく来たなクオンライダー…私は悪の女幹部アズーリア」
アズーリアが前に出た。
「どーもクオンライダー=サン。ドラゴンレディーデス」
ドラゴンレディーがぺこりと頭を下げる。
「だが、たった一人で何が出来ると言うのだ? ここが貴殿らの墓場だ」
アズーリアの指摘に、客席がざわめく。
そう、クオンライダーは五人いる筈――なのに他の四人の姿が見えないのは何故?
MC:
これはまだ、クオンライダーが五人揃っていなかった時のお話。
最初に選ばれたのは、緑のライダーZ3。
けれど、他の仲間はどこにいるのか――
「ひとりきりのライダーなど恐るるに足りず! さあ、やっておしまい!」
アズーリアは部下の戦闘員を呼び出した。
その声と共に、舞台下からせり上がって来る黒い影。
「我が名はデビルライオン。我らの邪魔をする者は、この大剣の露と消えるが良い!」
黒い獅子男が担いだ大剣を一振りすると、雷鳴が轟きステージが眩い光に包まれる。
「「きゃーっ!」」
客席から子供達の悲鳴が上がった。
「悪のデビルライオンさんです! 怖いですね! 皆さん気をつけてくださいね!」
でも大丈夫、クオンライダーがきっと倒してくれる!
「貴様の相手はこの俺だ!」
Z3は華麗なバク転キックでデビルライオンの目を惹き付ける。
「一騎打ちか、望むところよ! 行くぞ、獣王咆哮波!」
ドオォォン!
腹に響く重低音が鳴り響き、黒い大剣が振り下ろされた。
「ぐぅっ」
その一撃を辛うじて耐え、手にした刀で反撃に出るZ3。
しかし圧倒的なパワーを誇るデビルライオンに対し、力よりも技に勝るZ3は一歩及ばない!
だが、そこに謎のライダーが!
「俺は原初にして最後のライダー」
紫のスーツに身を包んだそのライダーは、ZO(ゼットオー)。
TV版には出て来ないラストナンバーだ。
「戦士よ、共に悪を滅ぼしましょう」
Z3とZO、二人のライダーは固い握手を交わすと、共にデビルライオンへと刃を向ける。
「くっ、二人がかりとは卑怯なり! 真の強者とは決して友を持たず、群れぬもの!」
追い詰められるデビルライオン!
しかし!
「そうはさせない、猫娘!」
「にゃん!」
呼びかけに応えて、ベニヤ板の岩陰から飛び出す猫娘!
「はっはっはっ! よく来たな、よいこのみんな!」
猫娘は会場に向かって陽気に手を振る。
「残念ながら、クオンライダーの活躍もここまでニャン! 私がやっつけてやるニャン!」
ちびっこ達の「だめぇー!」という声には耳も貸さず、猫娘はライダー達の背後に回って――
「ねこぱーんち!」
にゃにゃにゃにゃにゃーっ!
弱そうだ。すごく弱そうだ。
おまけにデビルライオンからは「助太刀など要らぬ、俺は孤高の獅子!」などと言われて追い払われる始末。
「やれやれ、どうやら僕の力が必要な様だね」
その時、学ランを着た少年がスモークの中から現れる。
「変身、魔性開花!」
掛け声と共に木の葉が風に舞い、少年の身体を包み込む。
木の葉の乱舞が収まった時、彼の姿はクオンライダーそっくりに変貌していた。
その名はマスキプラ。
MC:
これは一体どうした事か。
悪の一味に味方するものが、何故クオンライダーそっくりの姿をしているのか――
「しかし我ら人類に敵対する者なら、誰であろうと滅ぼさねばなりません」
ZOが光り輝く太陽の槍を構える。
ところが。
「そうはいかないぞ、クオンライダー」
アズーリアの声が響く。
「これを見ろ」
青い腕の中に囚われた、小さな影。
「人質がどうなってもいいのか?」
そっと抱き込み、楽しそうに喉を鳴らす。
「きたないぞー!」
「よーかいめ、おんなのこをかえせー!」
会場から湧き上がる抗議の声。
しかし。
「卑怯? それはそれはお褒めのお言葉ありがとうゴザイマス…フフフ」
ドラゴンレディーが嗤った。
「この子の命が惜しけれバ、大人しく言う事を聞くのデスね――さあ、この二人を捕らえるのデス!」
「…っふぇ…っ、ふわぁぁぁ…っ」
ガチで泣き出す人質の少女、その命を危険に晒す事は出来ない。
ライダー達は捕らえられた。
彼等の、そして人質の運命や如何に!?
●第二幕
場面は変わって、ここは秘密基地の中。
ロール式のスクリーンに描かれたメカニックな壁の模様に赤いライトを当てて、基地の奥深くであるかの様に見せている。
その隅に置かれた鉄格子の向こうに、ライダーの二人が座っていた。
MC:
人質は敵の手の中、抵抗すればその命はない。
しかし、こうしている間にも妖怪軍団の地球侵略計画は着々と進んでいた。
檻の傍には見張り役としてマスキプラが立っている。
ZOは、自分達に似た姿を持つ彼に尋ねてみた。
「あなたは我々の兄弟である様に見えます。なのに何故、妖怪軍団に味方しているのですか?」
「…人を探してるんだ」
自分を改造した技術者。
「協力すれば、それを教えてやると言われた」
「それを信じているのですか?」
しかし、マスキプラはそれには答えず、黙ってその場を立ち去った。
見張りがいなくなった直後、舞台の袖から一人の少年が現れる。
人目を憚る様に折りに近付いた少年は、不思議な力で檻の鍵を外した。
「僕は妖怪軍団を憎む者。手を貸しましょう…大丈夫、人質も助けます」
その声が終わらないうちに――
客席の最後部にスポットライトが当たる。
「世界の平和より女の子とのスキンシップを楽しむ正義(女の子限定)のヒーロー! フンドシ☆ガール! ここに参上!!」
褌とサラシだけという姿の謎の美少女が、マジカルステッキを振り回しながら通路を走る!
巻き上がる旋風が通路脇に座った女の子のスカートをふわりと浮かせ、謎の販売員の頭上を飛び越えてステージへ一直線。
観客がその動きに気を取られている間に、場面は幹部達の部屋へと早変わりしていた。
「世界の平和とかどうでもいい!! 私はただ! 女の子たちが笑って暮らせるそういう時代を作りたい!!」
人質も女の子、よって助ける!
しかし人質を押さえ付けているのは女幹部のアズーリアだ。
「しまった、手が出せない…!」
かくして一方的にボコられるフンドシ☆ガール!
「くっ…強すぎる…」
危うしフンドシ☆ガール!
「待て!」
しかし、そこにクオンライダーが現れた。
「そこまでだ妖怪軍団!」
「人質は返して貰います!」
スポットライトが二人を照らす。
「くっ、貴様ら何故ここに!?」
部下に排除を命じるアズーリア、それに応えて三人の部下が立ち上がった。
「デビルライオン、参る!」
「猫娘、行くニャン!」
「マスキプラ、魔性開花!」
そしてもう一人。
「起きろ、ギニョール」
アズーリアの号令と共に、つい先程まで舞台の片隅に打ち捨てられていた人形が命を得る。
「敵、排除する。命令、実行」
立ち上がったそれは関節をカタカタと震わせながら、ぎこちなく腕を上げた。
「ロケットパンチ、発射」
殆ど同時に、派手な爆発音と共に閃光が閃き、ライダー達の身体は宙に舞い、そして地面に叩き付けられる。
「良いザマだなクオンライダー」
アズーリアが思いっきり上から目線で言い、嗤った。
「我々幹部を含めれば七対二、しかも貴様らは既に満身創痍。多勢に無勢、諦めて降伏しろ。そして我らに従え」
しかし、その時。
「七対四ならどうかな?」
舞台袖から声がした。
重苦しかったBGMが軽快なマーチに変わる。
飛び込んで来たのは二人の青年。
「俺達が助太刀する!」
「勇気がまだその胸にあるなら、逆境を超えて立ち上がれ。クオンライダー!」
舞台の真ん中に並び立った二人は、声を揃えてダブル変身!
「「変身!」」
「天・拳・絶・闘、ゴウライガぁっ!!」
その足元から真っ赤な炎が噴き上がる!
「蒼き覇者、リュウセイガー!」
キラキラ光るダイヤモンドダストがその身を包み込んだ!
二人の新たなヒーローは、ライダー達に代わって敵に突っ込んで行く。
「IGNITION!」
「ドラゴンスラッシュ!」
地面に這いつくばり、歯を食い縛りながら、それを見送るクオンライダー達。
「皆さん、クオンライダーを応援しましょう! 頑張れ、クオンライダー!」
おねえさんの掛け声に合わせて、会場のちびっこ達が声援を送る。
「もっと大きな声で! 皆さんの思いが力になります! さあ、大きいお友達も!」
がんばれー! くおんらいだー!!
「うおぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!」
立った!
クオンライダーが立ち上がった!
「皆さんの思いが通じました! 拍手をお願いします!」
「ヒーローってのはそうでないとな」
サムズアップでエールを送るゴウライガ。
拍手と歓声の中、四人のヒーローは敢然と悪に立ち向かう。
その力は妖怪軍団に勝るとも劣らない、いや、ヒーローが押しているか!?
しかし不利を悟ったマスキプラは人質の少女を腕に抱え込んだ。
「動くな! …僕が引き金を引き、こいつを殺すのは一瞬だ。嫌なら渡してもらおうか…クオンライダーの力の源全てを!」
だが、デスミカエルがそれを制した。
「無駄だ、こいつらは何も知っちゃいない、生かしておく価値もあるまい」
人質の腕を掴んで引き寄せる。
「さあ、念仏でも唱えるが良い。死ね! クオンライダー!!」
マシンガンの銃口がライダー達に向けられた。
しかし。
「もう大丈夫だ、行け」
デスミカエルは人質の手を離し、ライダー達に向かってその背を押す。
「え…っ」
転がる様にZ3の腕に飛び込む少女、その姿を見届けたデスミカエルは――くるり、後ろを向いた。
「くくく、この時を待っていたぜ。お前ら全員皆殺しだ!」
デスミカエルの周囲を取り囲む、いかにも強そうな赤鬼、一角の馬、金の角の山羊、毒蛇の怪物、ドラゴン、地獄の番犬の幻影。
その全てが妖怪達に一斉に襲いかかる。
「俺の名はミハイル、貴様らに殺された妻子の仇をとらせて貰う!」
「…裏切り者か。ままあることよ」
アズーリアは斃れた。
ストッキングが破れ、肌が露わになった脚をスリットの間からチラ見せしつつ、たおやかに。
「違うな、俺は最初から――ごふっ」
しかし、アズーリアの魔法もまた、ミハイルの心臓を貫いていた。
「ふっ、ここまでか。クオンライダー…、子供達の未来を…守ってくれ」
がくり。
●第三幕
『おのれ妖怪! ゆ゛る゛さ゛ん゛!!』
ZOの血は熱く燃えた。
志半ばに散った同志の無念を想い、太陽の槍を携え敵陣へ突っ込む。
ここで舞台は早変わり、ロールスクリーンが引き上げられると、そこはいつもの採石場だった。
怒りに燃えたZOはデビルライオンを一閃、その大剣を真っ二つに叩き折る。
「くっ、これでは戦えぬ…お、覚えておれ。この次は必ず!」
負け獅子の遠吠えを残し、デビルライオンは舞台から飛び降り、そのまま観客席を突っ走った。
しかし、その行く手に立ち塞がる怪しげな売り子!
「む、もしや貴様も妖怪!?」
「いいえ、とんでもない。そんな事より、冷たいジュースは以下がです?」
「そうだな、ひとつ貰おう」
良いのか、それで。
「あーっ! ずるいニャン! 私もジュース飲みたいニャン!」
猫娘は怒った。
「もうゆるさないニャン! ちょっと2分待つニャン!」
舞台袖に引っ込んで、妖怪っぽい着物から虎縞ビキニに衣装チェンジ、メイクも虎っぽくして――
「待たせたガオ! 虎娘だガオー!」
しかし、そこに無情にも手鏡を突き付けるZ3!
そこに映った男らしい極太眉毛!
「なによこれ!」
特殊メイク失敗?
「ぜったいに許さないガオ! ライダー覚悟するガオ!」
自爆した上の八つ当たり、しかしそんなものにヒーローは負けない!
Z3の身体に真っ赤な紋様が浮かび上がり、金色の炎がその身を包む!
「秘剣・翠焔!」
哀れ虎娘は真っ二つ!
「む、無念だガオ…」
がくり。
「何故立ち上がる、クオンライダー」
アズーリアの魔力で仮初めの生を得ていた人形、ギニョールは問いかける。
ヒーロー達へ。
そして観客席へ。
「何故お前たちはそのような顔をする」
かくり、かくかく。
主を失った操り人形は、もうその命を繋ぎ止める事が出来ない。
「私は何故戦うのだ」
かくかく、かたん。
「生を受けるならばお前たちのように生きたかった」
ぷつり。
人形は糸が切れた様に、その場に頽れる。
「行け、クオンラ、イダー。私のよう、な、物を増やし、ては、な、らない…」
動かぬモノとなったその目は、じっと観客席を見つめていた。
「さあ、トドメだクオンライダー!」
リュウセイガーに促された二人は槍と剣を合体させ、必殺技を繰り出す。
天に向かって振りかざした武器の先端から、太陽光の様な赤い柱が立ち上がった。
「「最終奥義、無双流星斬!!」」
とっておきの効果音と共に、マスキプラの身体は炎に包まれる。
「くっ、こんな筈では…!」
炎の中でがっくりと膝を付いた改造人間は、虚空に向かって手を伸ばした。
「僕はただ、この身体を改造した…技術者、に…」
何をしたかったのか、それはもう永遠にわからない。
マスキプラの肉体と共に、炎の中に消えてしまった。
「この世の中は弱肉強食。食われた者がワルい」
遂に最後の一人となったドラゴンレディーは、その光景を冷ややかに眺めていた。
逃げるか、それとも最後まで戦うか――しかし、その判断を下す前に、彼女の思考は途切れた。
「さようなら」
背後で聞こえたのは、ライダー達を檻から逃がした、あの子供の声だった。
「今回食われたのは私様の方でしたか…」
がくり。
「昔々、ある所に…悪の秘密結社に身体を改造された、二人の少年がいました」
二人は親友だった。
けれど怪人軍団に使い捨てにされて。
「僕の親友は、殺されました。あなた方の様な、正義の味方にね」
そう行った途端、子供の姿はタキシードにカボチャマスクの怪人へと変わる。
「妖怪も、ヒーローも、僕にとってはどちらも敵です」
戦いに疲れたヒーロー達に、カボチャ怪人が襲いかかった!
ナイフの様に切れ味鋭いトランプが、隊列を組む撮りの様に宙を舞う。
ヒーロー、絶体絶命のピンチ!
しかし、そこに最後の希望が舞い降りた!
「あたい降臨! 満を持して!」
それは幻のクオンライダーZ9、自称さいきょーの戦士。
「真の英雄はあとからやってくるのよ!」
Z9はカボチャ怪人が生み出した分身という設定のエキストラをバッタバッタと薙ぎ倒す。
「あんたの境遇には同情するわ、でも、だからって悪の道に踏み込んだら、それはもうあんたを改造した組織と同じ!」
悪人は倒す。慈悲はない。
「正義は! 必ず! 勝ぁーつ!!」
ずばぁん!
氷の結晶と共に空へ還って行くカボチャ怪人。
こうして、戦いは終わった。
最後に全員揃って勝利のポーズ!
せーの!
「クオンライダーZ!」
●終章
「私は幾つものライダー達の戦いを見守るクオンライダーフェニックスだ」
金色のスーツと仮面を纏い、背中に翼のある騎士が上空から現れる。
それは時の監視者。
「今皆が見たライダー達の戦いは沢山あるパラレルワールドの中のライダー達の過去の戦いの一つ…」
「夢でもあり現実でもある世界…それは君達が信じれば現実になるのだ。だからこれからもライダー達の勝利を信じ応援してほしい」
「そうすればライダー達も君達の応援に元気をもらって悪に負けず戦い続けられるのだ」
騎士は現れた時と同じ様に、上空へと消えた。
「それではまた会おう皆!」
こうして、ショーは盛況のうちに幕を閉じた。
「ちゃんと並んでくださいね」
「最後尾はこちらになる、二列横隊でお願いしたい…ん?」
静寂と共に握手会や撮影会の整理をしていたポーシャの袖を誰かが引っ張る。
見れば小さな子供がじっと見上げていた。
「…握手? 構わないが、悪役相手でいいのか?」
こくり。
「…ふむ、では…」
ぎゅ。
「ありがと!」
子供は嬉しそうに笑った。
あ、そうそう。
追加公演の依頼も来ましたから、終わっても遊んでいる暇はありませんよ?