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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/06/05


みんなの思い出



オープニング



「……種子島ァ?」
 カーテンもカーペットも、壁紙からソファのカバーに至るまで、どこもかしこもピンク色に染まった部屋。
 四方の壁にはいくつもの棚が作られ、そこには様々な種類の可愛らしいぬいぐるみが行儀良く並んで座っている。
 そんなカワイイ部屋の隅、キラキラのラインストーンで飾られた鏡台に向かっていた「彼女」は、マニキュアを塗ったばかりの爪にそっと息を吹きかけた。
「そうね、確か遊びに行った事があるわ……どれくらい前だったか、もう忘れちゃったけど」
 腕を伸ばして、五色に塗り分けられた爪を光にかざす。
 その拍子に、顎と肩の間に挟んでいた携帯電話がゴトリと音を立てて床に落ちた。
「あらゴメンナサイ、落としちゃったわ」
 彼女はそれを拾い上げ、再び同じ場所に挟む。
「それで、何だったかしら……ああ、そうそう、忘れ物の話ね……え、なに? アンタが預かってくれてたの?」
 以前ヴァニタスをひとり、その島に置き去りにした。
 正確にはそのヴァニタスが島でお気に入りを見付けた為、好きにすれば良いと置いて来たのだが。
「で、ピンチになったからアタシにその恩を着せようってワケね?」
 預かってくれと頼んだ覚えはないし、当然何の恩義も感じてはいない。
 けれど、なんだかちょっと面白そうだ。
「いいわよ、手を貸してあげても」
 伝え聞く限りでは、自分ひとりが加勢したところで状況が好転するとは思えない。
 だがそれならそれで、無様に敗れ去る姿を見物するのも悪くなさそうだ。
「良いわよ、ちょっと待ってなさい……そうね、お化粧が終わるまで……二時間くらいかしら」

 通話を切った後、彼女は沈黙した携帯の画面に向かって呟いた。
「……アンタ、友達いないのねェ……シマイちゃん」
 可哀想、とは思わないけれど。

「そうそう、どうせ行くならあの子も連れて帰ろうかしらね」
 あのヴァニタス、名前は何と言ったか――
「あァ、そうね。思い出したわ。リコよ、リコ・ロゼ」
 良い名前だ。
 流石に自分が付けただけあってセンスが良い。
 今の今まで、すっかり忘れていたけれど。

「待ってなさい、リコちゃん。今、お姉さんが迎えに行ってあげるわ」


――――――


 数刻後、種子島。

 今回もリコの任務は、一般人に被害が出ない様に市庁舎周辺を綺麗に「掃除」する事だ。
「これで、終わるのかな」
 終わったら、どうしよう。
 やっぱり皆が言う様に、久遠ヶ原学園で保護して貰うのが良いのだろうか。
「そしたらリコも学校に行けるのかな」
 リコは小学校の卒業式に出ていない。
 中学校には一日も行けなかった。
「もし学校行けるなら……一年生から、ちゃんと勉強したいな」
 そうしたら、今より少しは頭が良くなるかもしれない。
 友達も、もっとたくさん出来るかもしれない。
「そんなふうになったら、良いな」

 これが終わったら、ふー様はきっと自分の手の届かない所へ行ってしまう。
 でも、それが彼の幸せなら、それで良い。
「もう、追っかけはやめるね、ふー様」
 リコは市庁舎の方を見て呟いた。
 楓を追いかけて、楓の事で心を一杯にして。
 そうしなければ、寂しくて死んでしまいそうだった。
 でも、今は違う。
「めいわくかけて、ごめんね。ありがとう……大好きだったよ」
 どうか幸せになってほしい。
 自分も、自分の幸せを見付けるから。

 その時、心の中に誰かの声が響いた。
『あァら久しぶりねェ、リコちゃん(はぁと』
「え、だれ!?」
 リコは慌てて周囲を見回す。
「あら、アタシの声……忘れちゃったのかしら?」
 今度は耳に聞こえた。
 少し離れた建物の陰から、リコにも負けないほどヒラヒラの衣装を身に付けた人物が姿を現す。
「おねぇさん……!」
「そ、アタシよ♪」
 それはリコの主人、可愛いもの好きな悪魔のお姉さんだった。
 実はリコも名前は知らない。
「迎えに来たわよ。さ、一緒に帰りましょ?」
 悪魔は大きなガラスの指輪を嵌めた手を差し出す。
 手首では安っぽいビーズ飾りのブレスレットがジャラジャラと音を立てていた。
「リコ、行かない」
 後ずさりをしながら、リコは首を振る。
「なによ、まだ遊び足りないの?」
 悪魔は大袈裟に肩を竦めて見せた。
「だったらアタシの仕事、手伝いなさいな。そしたらもう少しくらい好きにしても良いわよ?」
 可愛らしい服に包まれてはいるが、その肩幅はかなり広い。
 丹念に化粧を施した顔も、美しくはあるが女性的とは言い難かった。
 細身で長身だが、その骨格はどう見ても男性。

 つまり――彼女は「オネェさん」だった。

 オネェさんは、リコが使うものとそっくりな、ぬいぐるみ型のディアボロを引き連れていた。
 しかし、見た目は似ていても、その性能は全く違う。
 リコ自身も、お供のぬいぐるみも、その力が及ぶ筈がなかった。

 けれど。

 リコには出来ない。
 主人の仕事を手伝う事、それはつまり、人々を傷付ける事だから。
「いや。リコは手伝わないし、帰らない」
「あらあら、暫く見ないうちに随分と生意気になったじゃない?」
 悪魔は嗤う。
 嬉しそうに、楽しそうに。



リプレイ本文

 戦いはまだ終わっていなかった。
「みんな、もうひとがんばりヨロシクね!」
 リコの声に、馴染みの顔が笑みを返す。
 香奈沢 風禰(jb2286)と私市 琥珀(jb5268)のカマキリコンビ、サラ・U(jb4507)、Julia Felgenhauer(jb8170)、浅茅 いばら(jb8764)、鳳・白虎(jc1058)、そして礼野 明日夢(jb5590)。
 年齢も種族も立場も置かれた環境も、何もかも違うけれど、皆リコの友達だ。
「そうだな、年が離れていようが何だろうが、お前がそう思ってくれるなら俺も友人だと思ってる」
 白虎がリコの頭にぽんと手を置く。
(リコの事、娘にも頼まれたし……守ってやらないとな)
 先日漸く、自分が父だと名乗り出る事が出来た。
 その娘の願いを叶えてやるのが、父親としての最初の仕事になるだろうか。
 そうでなくとも、守る事に変わりはないが。
「リコさんまだ戦ってるらしいから、増援になればと思ってきたんだけど…」
 明日夢が敵陣を見る。
「この前の火車っていうの、今回はいないみたいだね」
 その代わりに花魄の数が多い。
「これを先に減らさないと、あのお姉兄さんとは話も出来そうにないね」
 きさカマ琥珀が弓を構えた。
 それに、ここを通したら市役所の方に行かれてしまう。
 リコの願いは自分の身を守る事ではなく、楓や町の人達を、この島そのものを守る事だ。
「だったら、ここを通すわけにはいかないね!」
 お姉兄さんも、それを取り巻くぬいぐるみ達も、まだ動く気配はない。
 ここは一気にコメットで!
「みんな下がって! マンティスふぉぉーる!」
 ずどどどーん! ※セルフ効果音
 花魄だけを巻き込むように彗星の雨を降らせる。
「まーた来たな花魄!」
 前衛の仲間にシバルリーの加護を施したサラが、白く輝く刃の煌めきを見せ付けるようにシャインセイバーを一振り。
「状態異常はヤッカイだからね、動きたい時に動けないといやだし…」
 これが真っ先に出て来るという事は、こちらの動きを封じたところで一網打尽にするつもりなのだろう。
「そうはいかないんだからね!」
 コメットから逃れたものを見付けては、剣を振るう。
「逃がさないよ!」
 建物を透過ですり抜けて逃げようとしたものは、きさカマが阻霊符を使って事前に阻止。
「バスん! ……バスん! ……だよ!」
 これも自演のセルフ効果音と共に、弓でバスバス射貫いていく。
「リコさん、まずは皆に任せてこっちを一緒に減らそう、じゃないと被害が出ちゃうよ!」
「うん、わかった!」
 きさカマの要請に応えて、リコが前に出る。
「あっ、そこじゃなくて……!」
 出来るだけお姉兄さんから引き離そうと考えての事なのに、これでは逆効果。
(やっぱり、ただ守られてる事を良しとしないのね、あの子は)
 やんちゃな子供に対するように、ユリアは小さく微笑んだ。
「なら、一緒に戦いましょう?」
 とは言え、あまり前に出すわけにはいかない。
 こんな時は――
「リコ、背中任せていいかな?」
 サラが声をかけた。
 前に出過ぎないで、という否定や禁止の言葉よりも、この方がずっと良い。
「そうね、それなら私も安心して前だけに集中出来るわ」
「わかった、リコまかされたよっ!」
 お陰でリコは気持ちよく後ろに下がる事が出来た。裏の意図など全く気にせず、気付きもせずに。
「頑張りましょうね」
 声をかけて、ユリアは陽光の翼を広げる。
 花魄の気を引くように飛び回り、味方が範囲攻撃を喰らわないように敵の狙いを分散させて――

(会話をするための時間稼ぎも必要だし……花魄を相手にしている間に、あの人をどうにか出来れば良いのだけれど)
 ユリアは遠方に視線を向ける。
 そこには何とも可愛らしいぬいぐるみの集団が控えていた。
 額の真ん中にふわふわの角が生えたユニコーン、三つの顔が揃って首を傾げているケルベロス、某ドーナツ屋のライオンの様なキマイラ、プテラノドンっぽい翼竜などなど。
「どれも可愛らしい見た目やけど、でも見た目で判断したらあかんな。油断は禁物や」
 飛び回って花魄を蹴散らしながら、いばらが注意を促す。
 しかしそこから能力を推測する事は出来るだろう。
「ユニコーンは突撃、ケルベロスは炎のブレス、キマイラも何かのブレス系やろか」
 翼竜は何となく超音波で攻撃して来そうなイメージだ――しかもバステ付きの。
「特に気を付けなあかんのは翼竜やろな、空も飛べるし」
 だがそれ以上に注意が必要なのが、最後尾に立つ人物である事は間違いない。
「あれも見た目で判断したらあかんのやろうけど」
 ピンクのリボンでアクセントを付けたフリルたっぷりのモノトーンドレスに身を包み、足元は黒のガーターにピンクのハイヒール。
 アップにした銀の髪には紫のメッシュが入り、お化粧ばっちり、爪はキラキラ。
 その外見から中身の能力を推し量る事など、出来る筈がない。
 別の意味でも、中身については知りたくもないし想像も出来なかった。
「下手につついたら、何が出て来るかわからないわね」
 藪蛇どころでは済まないかもしれないと、ユリアが小声で囁く。
 それに今回の第一の目標はリコを守ることだ。
(その為に必要なのはこのオネェさんを止めることだけど――)
 どうも欲求や目的が今回の種子島の問題とはずれているような気がする。
 この人が何をしたいのか、リコをどうするつもりなのか、そもそも何故リコをヴァニタスにしたのか。
 その質問に答えてもらう為にも、まずは落ち着いて話が出来る状況を作らなければ。
「倒しちゃだめなんだよね」
 確認するように明日夢が呟く。
(だってリコさんの御主人なんでしょ? 力の供給断ち切られちゃったらリコさん死んじゃう…)
 それにオネェさんに見えるところでお供のディアボロを倒したら、きっとヘソを曲げるだろう。
(だったら惹きつけとかないと)
 その時、じっと黙って様子を見ていたその彼女(彼?)が動いた。

「ふぅん、あんた達がウチの子のナイトってわけね?」
 オネェさんは口元に手を当てて優雅に笑う。
 その仕草は女性そのもの、いや、今時の女性はもっと男らしいかもしれない。
 だが骨格も筋肉の付き方も、どう見ても男だ。
(なーんかあの悪魔、誰かに似てる気がすんだよなぁ……)
 その特異な姿に記憶を刺激されたのか、白虎の脳裏に遠い記憶が甦る。
(昔……冥界だっけ? あそこに居た頃に友人になった奴に良く似てるなぁ……オネェなのにガタイの良いトコとか可愛いもの好きなトコとか)
 他人のそら似だろうか。
 もう150年は会っていないし、顔も覚えていない。
 名前も……何と言っただろう。
「聞けば思い出すんだが、ま、いくらなんでも奴って事は無いよな」
 苦笑いをしながらガリガリと頭を掻く。
「それはともかく、そこのオネニィサン!」
 白虎は大きく手を振り、悪魔の気を引いてみた。
「問答無用で戦闘突入ってのも無粋だろ? ここはスマートに行こうぜ、スマートに」
 まずは話し合い、それが大人の対応というものだ。
 だがオネェさんは額にかかる髪を払いながら、優雅な動作で首を振る。
「あんた達の話は後でゆっくり聞いてあげるわ……この仕事が終わってからね」
 それまでリコも預けておくと言い、まるでフラメンコでも踊る様な仕草でパンと手を叩いた。
 途端、それまでただの置き物のようだったぬいぐるみ達が動き出す。
「ねえ待ってよ、仕事って何? カッコかわいいおねーさん!」
 サラが率直な第一印象を述べつつ訊いてみる。
 返事がある事に期待はしていない。ただちょっとアホっぽく……と言うかアホ丸出しにしてたら油断して警戒心を解いてくれないかなーとか、うっかりポロっと喋ってくれないかなーとか、そう思っただけで。
「素敵な爪ね、きらきら! お洋服はどこで選んでるの? 敵じゃなければうっかり尊敬s」
「うるさい子ね、質問は一度にひとつだけにしなさいな!」
「え、答えてくれるの?」
「ええ、いいわよ? ただし、アタシの仕事が終わるまで、あんた達が生きてたらね!」
 オネェさんは配下のぬいぐるみ達に突撃を命じる。
「だったら最初のひとつだけ! 仕事って何?」
「そんなの決まってるじゃない。あんた達を片付けて、あの寂しい坊やに借りを返すのよ。こう見えてもアタシ義理堅いんだから」
 しかし、明日夢が首を傾げた。
「それ、誰のことですかぁ? もしかして、陰険シマウマのこと?」
「あら、面白い名前付けるじゃない。良いわねそれ」
「あの人と友達なんですか? でも違いますよね? 可愛いもの好きな綺麗な人が、あんな人と友達なんて」
 嘘は言っていない。
(安物かもしれないけど、きらきらするもの身に付けてるし…)
 骨格はともかく綺麗な人であることは本当だ。
「ま、友達ってほどじゃないけど」
「ですよねー。なのに市役所まで加勢しに行くんですかぁ?」
 市役所まで行くのなら、向こうの担当班に連絡しなければ。
「あんなとこまでは行く義理はないわね」
 ただ、そこに向かおうとする撃退士達を足止めする程度だ。
「一応ウチの子を預かってもらったことだし、そのくらいはするけど」
 建物の中に入ってまで戦う気はない。
「リコさん保護のお礼? そんなことする必要ないですよー」
 明日夢は顔の前でヒラヒラと手を振って見せた。
「少なくとも僕達認識してる範囲じゃ、シマウマ、リコさんの面倒なんかこれっぽっちもみてませんよー、完全に『無料の戦力なら勝手にさせるか―』って感じでしたし」
「あら、そうなの?」
「そうですよー、リコさんに似た偽物で、不細工なぬいぐるみお供にして色々状況引っ掻き回してたしねー、『センス悪い』って見た幼馴染言ってましたし」
 本当はそう不細工でもなかった、と言うより寧ろ可愛かったけれど、ここは方便だ。
「ふぅん?」
 でもねぇ、とオネェさんは頬に手を当てる。
「借りは借りだしぃ? 借りっぱなしのまんま死なれちゃったら、なーんか後味悪いじゃない?」
 シマイの旗色が悪いことは、ここに着いた時にざっと上空から様子を眺めた時に、何となく感じ取った。
 本人に自覚はないかもしれないが、自分にまで加勢を求めて来るあたり、もうかなり切羽詰まっているのだろう。
「最後のお願いくらいは、聞いてあげなきゃねぇ?」
 これが最後でなければ、それはそれで借りを返してスッキリ。
 出来ればそれ以上の成果を上げて貸しを作っておきたいところ。
「だから、あんた達にここで邪魔されるわけにはいかないのよ」
「そう言われても、邪魔するのがフィー達の仕事なの!」
 じゃーん!
 満を持して、カマふぃ登場!

「ちょっと見て見てオネェさん、今回はカマキリだけじゃないのよ?」
 他の皆が花魄と戦う中、カマふぃはぷりぷりケツを振りながら颯爽と登場!
「カマキリは無敵なの!」
「……なーんかまた変なのが来たわねぇ……」
 白いカマキリの着ぐるみに身を包んだカマふぃを、オネェさんは上から下までじろじろと眺め回す。
「さっきのカマキリは緑色だったけど、今度は白?」
「緑のきさカマは、カマふぃの大事な相棒なの! でも今はカマふぃのターンなの!」
 カマふぃの攻撃! ただし言葉で!
「オネェさん、久遠ヶ原には種子島発のカマキリが居るなの! リコさんもカマキリに夢中!」
 え、そうだったっけ?
「フィーはリコさんのカマダチ!」
 うん、それは確かに。
「オネェさんともカマダチとして仲良くしたいなの!」
 カマふぃは丸めた紙をずいっと前に突き出し、びらっと広げる。
「記念にカマぽすあげるなの! サイン入りの超プレミアカマキリグッズなの!」
 種子島でも、このポスターが貼ってある場所は超レアなのだ。
 部屋に飾れば気分は……気分は、何だろう。
 あなたもカマキリになれる?
「とにかく、友情のしるしにプレゼントするなの!」
「いらないわ、アタシの趣味じゃないもの」
 がーん!
 あっさり断られてしまった!

 その間にも花魄は仲間達に襲いかかる。
「ぬいぐるみが動かんだけ、いくらかマシやね」
 いばらは飛び回りながら敵の攻撃を避け、両手の小太刀で切り付けていった。
 一撃の威力は小さくても手数で勝負だ。
(それくらいしかうちの取り柄はあらへんしな)
 リコは大切な友達。
 だから。
 護りたい。
 いや、本当は理由なんていらないのかもしれない。
 ただ護りたい。
 だから護る。
 それだけの事だ。

「オネェさん、第二ラウンド開始なの!」
 カマふぃ、今度はアヒルの着ぐるみに着替えて颯爽と再登場!
「ここまでさせるとはさすがなの!」
 だが、かつてこの第二形態を見た者は皆、今では友達だ! とか言ってみる。
「北京ダックだけど本当は南極生まれな犬なの! 一緒に遊びたいなの!」
「可愛くないわね」
 ずごーん!
 オネェさん、容赦ない!
「だったらこれはどうよなの!」
 とっておきのダイエットセットあげちゃう!
「オネェさんだもの!」
「別に必要ないわね、アタシにはアタシのオリジナル特別メニューがあるのよ?」
 ガチガチのマッチョにならない様に絶妙な加減で筋肉量を維持しつつ、スリムで健康なボディとツルスベお肌を保つ秘訣がね。
「どう、おチビさん。あんたも試してみる? ただしキツいわよ?」
 かつて一世を風靡したブートキャンプがラジオ体操に思える程度には。
「え、遠慮しておくなの」
 次、これはどうよ!
「コスメティックセットなの! お試し用だけど、今ではなかなか手に入らないコラボ商品なの!」
「あら、コレは結構良いわね。貰っとくわ?」
「じゃあ、お礼に攻撃はやめてほしいなの!」
「ちょっとナニ? プレゼントあげた方がお礼を要求するって変でしょ、まったくイマドキの若い子はこれだから」
「オネェさん、因みにお歳はいくつなの!」
「失礼ね、レディに歳を訊くものじゃないって、学校で教わらなかった?」
 それは学校で習うような知識だっただろうか。
 いや、それ以前にレディって誰。
「とーにーかーく、この程度でアタシの気を惹こうなんて百万年早いわね」
「じゃあ、これも付けるなの! もってけドロボーなの!」
 ばあん!
 アロマオイルセットでどうだ!
「へぇ、良いじゃない。他には?」
「オネェさん欲張りなの!」
「当然でしょ、女は欲望に忠実な生き物よ?」
 だから何処に女性が……いえ、失礼しました。

「なんだか妙な事になってるな」
 半ば呆れながら、白虎は銀色の焔に包まれた魔銃を撃ち放つ。
「まあ、これで正面衝突が避けられるなら、それに越した事はないが」
 正直なところ花魄の相手だけで精一杯だ。
「オネェさん、意外に頑固ですよね」
 明日夢は無傷のものにはスターショット、仲間の攻撃で手傷を負っているものには通常攻撃で対処していく。
「あのぬいぐるみ達、戯れで動かすような事がなければ良いけれど」
 ユリアはそちらを気にしつつも、敵の動きを予測して確実に攻撃を当てていった。
 サラはオネェさんの視線からリコの姿を隠す様にしながら剣を振るう。
 今のところは明確にリコだけを狙ったり、特別に殺意を見せるような事はないけれど。
「いつ牙を剥いて来るか、わからないもんね!」
「とにかく今はカマふぃを信じて踏ん張ろう、きさカマの回復技はまだまだあるんだよー!」
 ライトヒール、ぺかーっ!

 そしてカマふぃはまだ最後の変身を残していた。
 再びカマキリの着ぐるみに着替えただけだけとか言わない。
「ここまでの本気を見せるのはオネェさんが初めてなの」
 このモードに突入したら、自分でも制御できるかわからない。
 さあファイナルアタック、まずはまじょねこのぬいぐるみだ!
「うーん、ちょっと可愛くないわねぇ」
 オネェさん、意外と趣味にうるさかった。
「正真正銘これで最後、ミニチュアドールハウスなの!」
「ああ、これねー、悪くないのよー?」
 でも飾るのに場所とるじゃない?
 それに次から次へと新しいセットが出るのよねぇ。
 夏の別荘セットとか、冬の暖炉セットとか、新しいお友達が増えました、とか。
 パパやママのお財布大打撃よねぇ。
「アタシそういうの全部揃えなきゃ気が済まないタイプなのよぉ」
 でもそんなの絶対無理。
 だから、最初から手を出さないことにしてるの。
 つまり――
「いらないわ」
 カマふぃ、完敗。

「カマふぃ、だいぶ苦戦してるみたいだね」
 パスんパスんしながら、きさカマがリコに声をかける。
「リコさんリコさん、多分あのおネェさんリコさんが抵抗したら楽しそうに意地悪すると思うんだ」
「え、そうかなぁ……」
 うん、そうかもしれない。
 よくわかんないけど。
「だからどうしようも無くなったら逆に素直にお願いしてみたらどうかな?」
「ちょっとそこ! 聞こえてるわよ!」
 オネェさん、地獄耳。
「何よあんた、人のこと意地悪ババアみたいに!」
「え、だって、違うの?」
「アタシはリコちゃんに意地悪なんかしたことないわよ!」
 ただちょっと暫くだいぶ放っといて、そのまま忘れちゃっただけで。
「それも大概ひどいと思うけど」
「だから少しは反省して、これからはちゃんと養ってあげようかなって、そう言ってんじゃないのよ」
 オネェさんは腰に手を当ててふんぞり返る。
「でも、リコさんはそれを望んでるのかな?」
 きさカマが呟いたところで、最後の手段である真のファイナルアタック「泣き落とし」にも失敗したカマふぃが泣きついて来る。
 カマのハイタッチで任務を引き継いだきさカマは、改めてオネェさんの前に躍り出た。

「僕はきさカマ……種子島のカマキリで、リコさんのカマダチだよ!」
 わー、どんどんぱふぱふ♪ ※セルフ効果音
「おネェさんも一緒に久遠ヶ原へおいでよ、きっと毎日退屈しないし面白い事もいっぱいあるよ!」
 きさカマはキラキラの謎エフェクトを背負って、両腕ならぬ両カマを広げてウェルカムのポーズ。
 いばらは着流しの裾を綺麗に捌きながら小太刀を振るい、それを見せ付けるようにして問う。
「リコはかわいいしそれは認める。でもリコよりももっと可愛いもの、綺麗なもの……そんなもんもあるんとちゃう?」
 例えばほら、この華麗な裾捌き。
 自慢じゃないけど、容姿だってかなりイケてる筈だ。
 この流れるようなプラチナの髪も綺麗でしょ?
「学園、可愛い子仰山やで?」
 自分が霞んで目立たなくなる程度には、と言っておこうか。
「そうね……確かに面白いわ、あんた達」
 オネェさんもそれは認めた。
 この人間界を気に入ってもいる。
「だったら――」
「でも、ソレとコレとは別問題ね」
 はぐれ悪魔になれば、力の殆どを失ってしまう。
 弱体化した上、反逆者として追われる身になるのだ。
 誰かに保護を求めなければ生存さえ危うい弱者。
「そんな風になってまでココで暮らしたいとは思わないわ」
 今は最低限の義理さえ果たしておけば、後は自由気ままに好き勝手出来る。
 その立場を捨てる気はなかった。

「だったら……お姉さん器大きそうだしー、リコさんもう少し自由にさせてもらえませんか?」
 明日夢が持ち上げてみる。
 だがオネェさんは首を振った。
「今まで充分、自由にさせてたでしょ? その分、これからはバリバリ働いてもらわないとね」
「ほったらかしたまま忘れてただけって、自分で言わなかった?」
 ぽつり、サラが呟く。
「なあ、ここにおるのはみんなリコの友達や」
 いばらが言った。
「リコは種子島で大切なモノを見つけた。お気に入り…ヴァニタスの楓だけやのうて、リコが信頼出来るとそう認識出来る人たちを」
 リコはヴァニタスで、自分達はそれを倒すべき撃退士だ。
 けれど。
「うちはリコの為ならいくらでも身体張るつもりや。せやからリコの意見、尊重してくれへんやろか…?」
 その言葉通り、いばらはリコの前に立ち塞がる。
「リコは私の大切な友達よ」
 その脇にはユリアが。
「あなたがが何者でも、リコに悪いことをさせるつもりなら渡さないわ」
 リコは好きな人のことをとても楽しそうに語っていた。
 その想いを捨ててでも人の為に頑張ってくれるなら、それに応えないと。
「もしどうしても連れていくって言うなら、こっちにも覚悟があるよ!」
 反対側にはサラが立った。
「ねえリコ、これからどうしたい? 本当にしたいことは何?」
「リコは……学校に行きたい。友達と遊びたい。勉強もしたい。普通の子みたいに、普通に恋とかしたいし、お菓子作ったり、食べたり、手芸とか、買い物とか、おしゃべりとか……いっぱい、いっぱい、したいこと……ある」
 したかったこと、出来なかったこと。
 沢山ありすぎて、どれが一番かよくわからないけれど。
「あんた、この子の主人なら保護者も同然だろ?」
 だったら親にも等しいわけだと白虎が言った。
「この子がそうしたいって言ってんだ、親なら子供の望みを叶えてやるもんじゃないのか?」
「そもそも、どうしてリコをヴァニタスにしたのかしら?」
 ユリアが問う。
「さあ、どうしてだったかしら……ああ、そうそう」
 オネェさんは、頭の上に手を上げた。
 そこから何かが落ちる様子を表現するように、手を下げていく。
「ちょうどね、アタシが見てる目の前で落ちて来たのよ、その子」
 高層ビルの屋上から。
「まあ見た目カワイかったし……ずっと死にたくないって叫んでたのよね、心の中で」
 だからつい助けてしまったのだ。
 ヴァニタスとして甦らせる事が、果たして助ける事になるのかどうかは別として。
「リコ、その時の事は……よく、覚えてない」
 何がきっかけで、地上にダイブする事になったのかも。
「だけど今は、まだ終わりたくない」
 終わりたくはないけれど。
「だれかに嫌われるようなこと、しなきゃいけないなら……終わったほうがいい」
 それが本音。

「あんたはリコを死なせたいんか?」
 いばらが悪魔を見据えて言った。
「もしそれでもリコを連れてく言うんやったら、うちも一緒に連れて行き」
 護ると決めた、その事は絶対に曲げられない。
(あのときリコが目に浮かべてた涙)
 あれは、何の涙だったのだろう。
 嬉し涙なら良い。
 でも。
(ごめんな、リコ。うちも我儘やから、あんたをむざむざと奪われたくないんや)
 急に黙ってしまったいばらの様子に、リコは不安げに首を傾げ、その袖を引いた。
(でもそれがあんたを苦しめているなら――うちは手を引く。あんたを苦しめたくないから)
 引かれた袖に視線を落とし、いばらは祈る様に目を閉じる。
 どうか、どうか――
「うちはリコの幸せを願うだけや。その横にうちがいるかいないか……それは、リコが決めたらええ」
 袖を握ったリコの拳が、小刻みに震え始めた。
「リコ、ここにいたいよ。いばらんと、みんなと、一緒にいたい」
 ふー様は大好きだけど。
 でも彼はまるでTVに映るアイドルの様で。
 いつも隣にいてくれる人とは違う。
「リコは、ちゃんとリコを見てくれる人と、一緒がいいよ」
 袖を握った手に力を込めた。

「――ってことだ」
 白虎がぽりぽりと頭を掻く。
「その、なんだ、これを引き裂こうなんて野暮な真似はしないよな?」
「もしそうなら――」
 じゃきん!
 サラがシャインセイバーの切っ先を悪魔に向ける。
「倒すよ?」
 無理だと言われても倒す。
「あたしは男じゃないから、オネェさんのハナのカンバセを散らしたいとは思わないんだよ?」
 狙いたいけど。超狙いたいけど後が怖そうだし。
 顔を避けるなんて面倒臭ぇとか思っても言わない顔に出さない。
(オネェさんのぬいぐるみは正直相手にしたくないけど、そうも言ってられないかしら)
 ユリアは刀の柄をしっかりと握り直す。
 大型のぬいぐるみが全部で十体以上、一斉に動き出したら対処しきれる自信はないけれど。
(でも、何とかするしかないわね)
 暫くそのまま、睨み合いが続いた。
 やがて――

「あっはっはっは!」
 オネェさんが弾かれた様に笑い出す。
「もう、あんた達ってどんだけバカなのよ! ほんと信じらんない!」
 そのまま暫く笑い続けたオネェさんは、目尻に溜まった涙を化粧が落ちないように丁寧に拭いて、大きく溜息を吐いた。
「まったく、なんか拍子抜けしちゃうわね」
「じゃあ、戦いやめてくれるなの? 久遠ヶ原に来てくれるなの?」
 来てくれるならこのバッジをあげちゃうよ、とカマふぃは赤字で「祝」の文字が書かれた白いバッジを印籠の様に見せ付ける。
「いらないわよそんなの、だっさ! それになんか呪いみたいだし」
 と言うか久遠ヶ原に行く気はない。
 ただ――
「あんた達がゴチャゴチャ話しかけてくるから、なんかすごい時間経っちゃったじゃない」
 今更配下のぬいぐるみ達を動かしても意味がない。
 他の撃退士達はもう市庁舎の中だろう。
「そこまで追っかける義理はないわね」
 恩を売り損ねたが、仕方ない。
 生きていればまたどこかで売り付ける機会もあるだろう。
「じゃ、アタシ帰るわ」
 ヒラヒラと手を振って、オネェさんは踵を返そうとする。
「待って、リコは?」
 ユリアの問いに足を止め、片目を瞑って見せた。
「あんた達に預けとくわよ、しっかり面倒見なさいよね」
 今まで通り、エネルギーは供給も続ける。
「でも、アタシにもアタシの都合ってもんがあるのよ。そのうちガチで殴り合う時が来るかもね?」
 今までサボっていた分、最低限の義務を果たす為には結構なハードワークになるかもしれない。
「帰るて、もしかして山梨…?」
 いばらの問いに、オネェさんは頷く。
 やはりこの前のぬいぐるみを餌にしたディアボロは、この悪魔が仕掛けたものだったのか。
「あら、アレ倒したのって、あんた達だったの? まあ良いわ、あの子ちょっとデザインが気に入らなかったのよねぇ」
 手が足りないと言われて仕方なく手伝ったものだし、さほど惜しいとも思わない。
「また、あそこで『仕事』するんか」
「だとしても、その子に手伝えとは言わないわ。安心なさい?」
 再び踵を返しかけたオネェさんを、今度はカマふぃが呼び止めた。
「オネェさん、一緒に記念写真撮るなの!」
 久遠ヶ原行きは実現しなかったし、バッジも受け取ってもらえなかったけれど、友好は深まった、気がする。
「ちょっと、アタシはあんた達のオトモダチじゃ――」
「はいはい、こっちに並んで! お姉兄さんは真ん中で、リコさんはその隣ね!」
「ちょっとあんた、そこの緑カマキリ! 人の話を聞きなさいよ!」
「そう言えばオネェさん、お名前なんていうの?」
 今度はサラだ。
「ネイサンよ、ネイサン! リコちゃんにも言った筈だけど?」
「え、リコ聞いてな……え、お姉さんじゃ、ないの?」
 ネイサンと姉さん、確かに似てはいるけれど。
「リコちゃん、あんた悪いのは耳かしら頭かしら、それとも両方かしら?」
「んーと、頭かなー?」
 あははーと笑うリコに、いばらが真面目な顔で言った。
「リコはバカとちゃう……アホや」
「えーひどぉーい」
 言われて、リコは嬉しそうに楽しそうに頬を膨らませる。
 なんとも和気藹々、どうしてこうなった。

「ネイサン、か――聞き覚えがあるような、ないような……」
 どうも記憶がはっきりしないと、白虎は頭を掻く。
 向こうも自分には見覚えがない様だし、やはり人違いか。
「しかし、あの頃は俺も若かったしな……」
 昔の写真でもあれば確認が取れるかもしれないが。


 やがてオネェさん――いや、悪魔ネイサンも引き上げた頃。
「リコさんはこのまま学園に来るなの?」
 カマふぃの問いに、リコは市庁舎の方へ目を向ける。
 あの場所で決着が付いていれば、それも可能かもしれない。
 いや、主人たる悪魔が未だ敵側に在り、縁も切らずにいるうちは、まだ無理だろうか。
 出来ればリコも皆の様に学園に所属して、必要な時にだけ島に渡れるようになれば良いのだけれど。
「リコ、約束しない?」
 ユリアが小指を差し出す。
「貴女が頑張るなら、私も頑張るわ。だから一息つけた時には一緒にお出かけしましょう」
 どこでもいいから、楽しく遊んで、美味しいものを食べて。
「うん、約束! ゆびきりげんまん!」
 うそついたら――
「ううん、リコうそつかないよ! ぜったい!」

 いっぱい頑張って、リコは普通の女の子になる。
 友達と遊んで、恋バナで盛り上がって、デートなんかもしてみたり。
 いつかきっと、絶対に。

 だって、まだ14歳だもん。
 ずっとずっと、14歳のままだけど――


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:11人

種子島・伝説のカマ(白)・
香奈沢 風禰(jb2286)

卒業 女 陰陽師
リコのトモダチ・
サラ・U(jb4507)

大学部4年140組 女 ディバインナイト
種子島・伝説のカマ(緑)・
私市 琥珀(jb5268)

卒業 男 アストラルヴァンガード
リコのトモダチ・
礼野 明日夢(jb5590)

小等部6年3組 男 インフィルトレイター
リコのトモダチ・
Julia Felgenhauer(jb8170)

大学部4年116組 女 アカシックレコーダー:タイプB
Half of Rose・
浅茅 いばら(jb8764)

高等部3年1組 男 阿修羅
225号室のとらおじさん・
鳳・白虎(jc1058)

大学部6年273組 男 ディバインナイト