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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
形態:
参加人数:12人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/05/19


みんなの思い出



オープニング



 東北の春は遅い。
 だが、遅れた分だけ駆け足でやって来て、瞬く間に全てを春の色に染め上げる。
 冬の間は裸の枝に雪を被って寒そうにしていた桜の木にも、ふわりと開いた五弁の花が咲き誇っていた。

「雪が溶けても尚、この地には雪が降るのですね……」
 大きな桜の木の下に立って、ネージュは天を仰ぐ。
 その白い髪に、細い肩に、差し出した掌に、ほんのりと淡い桜色が舞い降りた。
 冬の間は気付かなかったが、この桜という木は至る所に生えている。
 民家の庭に、公園に、神社の境内や参道に――そしてここ、撃退署の施設内にも。

 二ヶ月ほど前の、まだ大地に雪が降り積もっていた頃。
 ネージュはその保護者カルムと共に、この地に堕ちて来た。
 以来、二人はこの撃退署の一角で囚われの身となっている。
 とは言え、敷地内であれば監視も付けずに出歩く事が出来るし、その狭い範囲でさえ狭さを感じさせないほどに、この世界にはネージュの興味を惹くものが多かった。
 例えば、この桜。
「雪と同じ様に白いのに、冷たくはないのですね」
 ネージュは掌に乗せた桜の花弁に、そっと唇を寄せてみる。
 仄かに甘い香りが鼻の奥に広がった。
 誰が手入れをしているのか、施設の庭には大きな花壇があり、そこにも色とりどりの花が咲き乱れている。
 花はただそこにあるだけで、食べられるわけでも、何かの素材になるわけでも、ましてや金に替えられるわけでもない。
「ヒトは、お金というものが大好きだと聞いたのですが……」
 ただ咲き、そして散るだけの、何の生産性もない、ただの無駄だ。
 なのに何故、ヒトは花を植えるのだろう。
「ネイは……この花を見ているだけで、上質な感情を吸収した時の様な、満たされた気持ちになります……」
 もしかしたら、ヒトも自分と同じ事を感じているのだろうか。
 ヒトには、感情を摂取して生命機能を維持する機構は存在しない筈なのだけれど。

 もしもヒトという種族が、自分と同じものを見て、同じ事を感じるなら。
 天界の眷属達が次々とこの地に堕ちるのも、わかる気がする。
 かつてはこの地を攻略する為の先鋒を担っていた、あの大天使さえも魅了してしまうのだから。
 その大天使オーレン・ダルドフ(jz0264)は今、撃退署の敷地を囲む電線に提灯を結びつけているところだった。
 ずらりと並んだ紅白の提灯には「さくらまつり」と書かれている。

 明日、人間達が桜の花を見て楽しむという祭が行われることになっていた。



 ――その、ひと月ほど前のこと。

 撃退署内、会議室。
 広い部屋の一角で、ダルドフとカルム、ネージュ、そしてもうひとり――この辺りの治安維持を担当する撃退署員、黒田が何やら話し込んでいた。
「もう雪が消えて暫く経ちます。そろそろ大規模な建設計画に着手しても良い頃合いだとは思いませんか、先輩?」
 ダルドフと旧知の間柄であるカルムは、彼の事を昔から「オーレン先輩」と呼んで慕っている。
 その態度は数百年の時を経て、互いの立場や置かれた状況が変化した今でも変わらなかった。
「なのに何故、工事が殆ど進んでいないのでしょうか」
 カルムはテーブルに広げた地図を指差す。
 そこに書かれた「復興住宅建設予定地」のうち、実際に計画が進んでいるものは、まだ一割程度に過ぎなかった。
「復興が必要な土地は、ここばかりではないからのぅ」
 ダルドフは困った様に苦笑を浮かべつつ、顎髭を捻る。
 家を建てるには、それなりの知識や経験のある人材と、資材が必要だ。
 今はどこも需要が多く、人も資材も慢性的に不足している。
 それらが全て足りていたとしても、空いた土地に勝手に家を建てるわけにもいかない。
 きちんとした都市計画が必要なのだ。
「小屋の様なものであれば、そう時間をかけずとも出来上がるであろうが……冬場には雪で潰されるのが目に見えておるしのぅ」
 どうせなら、何世代にもわたって住み続けられる様な丈夫で居心地の良い家を建て、この地にしっかりと根を下ろして欲しい。
 その為には家を建てるばかりではなく、ライフラインの整備や商業施設の誘致、学校や病院の建設など、やるべき事は山の様にある。
「我らの様な素人はただ、黙って見ておるのが最大の手伝いというものよ」
 ダルドフの場合は特に、どうせ借りるなら猫の手の方が遥かにマシだろう。
 何か出来る事があるとすれば、未だに時折ゲート跡から現れるサーバントを始末する、くらいなものだろう。
「しかし私は、戦闘面では殆どお役に立てません」
 カルムは心苦しくて仕方がないといった風に頭を垂れた。
「保護して頂いた事、生かされている事……そのご恩に報いる為に、私も何かお手伝いがしたいのですが……」
「そういう事なら、ひとつやってみるか?」
 黒田が一枚の紙を差し出す。
 そこには満開となった桜の写真と共に、大きな字で「さくらまつり2014」と書かれていた。
「ま、こいつは去年のチラシだがな。ウチじゃ毎年この時期、庭の桜を一般に開放してるんだよ」
 地元との交流や住民サービス、或いは撃退署のイメージ向上の為に行われる、ちょっとしたイベントだ。
 祭と言ってもそう大がかりなものではなく、屋台が並んだり抽選会があったり、撃退署の見学が出来たりという程度だが、毎年そこそこ人は集まっている――見学ツアー以外は。
「今年もそろそろ祭の季節なんだが、こいつの運営をやってみるってのはどうだ?」
「私が、ですか? でも私はまだ、こちらに来て日も浅いですし……何をどうすれば良いのか」
「だから良いんだよ」
 狼狽えた様子のカルムに、黒田は答えた。
「わからなけりゃ誰かに訊けば良い。お前さんらがこっちに慣れるにも、こっちがお前さんらに慣れるにも、丁度良いだろ?」
「ふむ、ぬしらにとっても良い勉強になるであろうしのぅ」
 ダルドフも頷く。
 それに、彼等が天界と決別したというのは本当なのか、堕天を装った諜報員ではないのか、そういった疑いを持つ者は撃退署員にも多い。
 その疑いを晴らすには――或いは逆に、疑いが確信へと変わる結果になるかもしれないが――共に何かの作業を行ってみるのが一番だ。
「わかりました、先輩がそう仰るなら……やってみます」
 カルムは去年のチラシを手に取って、そこに書かれた文字に目を落とす。
 のど自慢、輪投げ大会、ふれあいミニ動物園、夜桜ライトアップ、撃退署内見学ツアー……それが一体どんなものなのか、カルムには見当も付かなかった。
 恐らくダルドフにも、半分くらいは意味不明なのではないだろうか。
 まずはそれらの内容を知り、残すべきは残し、新しものを加えていけば良さそうだ。
 計画が決まればチラシやポスターを作って配り、宣伝をし、業者等と連絡を取り、会場をセッティングし――

 今年の桜まつりまで、あと一ヶ月ほど。
「忙しくなりそうですね」
 チラシを眺めつつ、カルムは嬉しそうに、穏やかに微笑んだ。



リプレイ本文

 祭の数日前。
 桜で飾ったうさぎの着ぐるみに身を包んだキョウカ(jb8351)は、駅前の広場でチラシを配っていた。
「さくらまつり、ことしもやります、なの!」
 頭の上にはまん丸いうさぎの様に見えるケセラン、キーがほよほよと浮かんでいる。
 その隣では翼に色とりどりの花を咲かせた秋野=桜蓮・紫苑(jb8416)が、チラシを受け取った人に一輪の造花を手渡していた。
「みんなであそびに来てくだせ!」
「花より団子なら、美味しいたこ焼きはいかがですかー」
 風情とか情緒といったものには興味がなさそうな人々には、黒猫忍者カーディス=キャットフィールド(ja7927)がアツアツのたこ焼きを差し出してみる。
「美味しいのですよー」
 でもサンプルは一人一個、もっと食べたかったらお祭に来てね!
 当日は他にも色々な屋台が出るよ!
 そして葛城 巴(jc1251)は和装のリアルキャラ「桜沢春姫(さくらざわ はるき)」に扮していた。
 紺の袴に赤地に桜柄の着物、髪は編み込みのアップスタイルに桜の簪。
 顔出しのコスプレの様なものではあるが、厚化粧と付け睫毛のせいで中の人は誰かわからない――多分。
 春姫は名入りの襷をかけ、『さくら祭りマスコットキャラクター総選挙』という自らの企画をアピールする。
 ただし喋らない、喋ってはいけない。
(来年も私が演じるとは限りませんし、声が違っては興醒めでしょうからね)
 極端な厚化粧も、誰が演じても同じに見える様にという配慮からだ。
 それなら着ぐるみにすれば良かったのではないかと思わないでもないが。
(着ぐるみには入れないし、仮に入れたとしても、更にデカくなって怖いし)
 と、本人はそう思っている様だ。
(それにしても、着物で動きにくいのもキツイけど、しゃべらないでサービスするのもキツイわ)
 チラシを渡す時にも無愛想にならない様に、精一杯にニッコリと。
 後は身振り手振りでどうにか――動きにくい分、いつもより淑やかで女の子らしい仕草が出来ている筈だから。


 時は更に、数日前に遡る。
 撃退署内の会議室には、祭の実行委員を買って出た撃退士達が顔を揃えていた。
 彼等の他には黒田やその配下の職員達、ダルドフ以下の天界勢の姿も見える。
「ダルドフさんお久しぶりですのー」
 もふもふ黒猫さんが、手をぶんぶん。
「おぉ、ぬしはいつぞやの猫!」
 もふっていい? ねえ、もふっていいよね?
 もっふー!
 大丈夫、夏毛仕様だから暑苦しくないよ!
 えーと、それで何しに来たんだっけ。
 そうそう、お祭!
「カルムさん! ネージュさん! 素敵なお祭りにいたしましょうね!」
 もっふもふ!
「おぉ、なんやダッさん! 祭がしたいんか!」
 どーん!
 ゼロ=シュバイツァー(jb7501)がダルドフの背を思いきりどつく。
 実はあんまり喋ったことがない気もするが、渾名を付ければその瞬間からオトモダチ。
「そうか祭りか! お祭り男の出番やな!」
 呼んでないとか言うな、呼ばれなくても楽しい所にはどこでも現れるのがゼロさんです。
 大丈夫、祭の手筈は完璧だ。
 ほらこの通り、既に気分もお祭りモードでシグ坊ワッショイ!
「ちょ、ゼロおにーさん、ぼくはお神輿じゃないのです…!」
 頭上に高々と掲げられ、クルクル回されながら、シグリッド=リンドベリ(jb5318)は抗議の声をあげてみる。
 でも知ってる、そんなの無駄だって。
「お? この前の二人か? 元気しとったみたいやなぁ〜♪」
 ワッショイしながらカルムとネージュに声をかけ、問答無用で引っ張り込む。
「よっしゃ、二人をたこ焼き教室の助手にしたるわ」
「はい、ありがとうございます」
 素直に喜んだカルムはしかし、目の前の光景に首を傾げた。
「あの、その方は何故担ぎ上げられているのでしょうか…?」
「ん、これか?」
 ワッショイ!
「これはな、最大級の敬意を示す神聖な行為なんや」
 ワッショイ!
「あ、助手のリーダーはこのシグ坊やからな? ちゃんと敬わなあかんで?」
「わかりました、私達もこの方を担げば良いのですね!」
 ワッショイ!
「ち、違いますカルムさん、ネージュさんも…! ゼロおにーさん、間違った知識を教えうわあぁぁぁ」
 さて、一部カオスは置いといて、真面目な会議をしましょうか。
「俺はいつでも大真面目やでぇ!」
 はいはい、真面目に不真面目かいけつゼロり。
「たこ焼き教室の助手ですか…材料の準備とかすればよいのですね…! がんばります」
 お神輿状態から解放されたシグリッドは、ぐっと拳を握る。
「私もお手伝いしますのー☆」
 黒猫さんも、たこ焼きに魅せられたらしい。
「当日は門木先生とリュールさんもお誘いいたしますの!」
 美味しいたこ焼き屋台をやるのでぜひ食べに来ていただきたいですー!
「! ねこさんも一緒にたこ焼きなのです!」
 はぐはぐ!

 で、たこ焼きはひとまず置いといて。
「んー? ボクらと繋がる。じゃなくって、ヒトがヒトと繋がるように、やね」
 蛇蝎神 黒龍(jb3200)がコンセプトを提案。
 そう、続いてこそ意味がある。
 継いで行く事にこそ意義がある。
「人間と天魔が手をとりあう時代がくるかもしれないその時まで、続いていく、紡いでいく事が大事やないかな」
 キャッチコピーは「桜が繋ぐ、人と人」とかどうだろう。
「あとは募金の募集でもしたらええんとちゃうかな」
 祭のシンボルであり、最大の見どころでもある桜の木。
「保全は大事やし、増やしていく事も大事やと思うんや」
 他には何があるだろう。
「復興にはまず何よりも知ってもらうことが大事ですわ。そして多くの人に来てもらうことですの」
 というわけで、紅華院麗菜(ja1132)の提案は二つ。
「まず一つは『キッズファッションショー』ですの」
 桜をテーマとした小学生以下限定のファッションショーだ。
「子供主役の企画はその両親のみならず父方母方双方の祖父母の動員望めますの。上手くいけば3倍ほどの効果計算できますわ」
 それに祖父母は孫の為なら財布の紐も簡単に解いてしまう。
 来場者数だけではなく、屋台の売り上げにも貢献してくれることだろう。
 更には衣装を準備する為に地元の商店も潤う、かもしれない。
「後、上位の賞品としてプロカメラマンによる撮影なども入れたいですわね」
 それを来年度以降の宣伝素材として使う事が出来れば一石二鳥。
 勿論ちゃんと許可は取るし、肖像権等の問題もクリアしてからだけれど。
「同時にそのカメラマンさんにお願いしてご両親に写真撮影の指導なんかしてもらえますといいですわ」
「その写真家さんに、夜中でも手軽に夜桜を美しく撮るコツを教えてもらう撮影会なんかもええな」
 黒龍が頷く。
「夜には『夜桜酒宴』も予定していますわ」
 地元酒蔵各社との夜間限定コラボ企画だ。
「ワンコインくらいの金額払えば夜桜見ながら試飲し放題、地元特産品の中でも酒のつまみになりそうなものを見繕って屋台で提供して行きますの」
 勿論、飲酒運転は厳禁だから最寄り駅とのシャトルバスも用意して。
「お近くの方には公共交通機関をご利用いただいた方が良いですわね」
 そこは最初から周知を徹底し、バスの増便なども手配しておけば問題ないだろう。
「来場者に何かプレゼントをあげるのはどうかしら」
 地堂 灯(jb5198)が言った。
「撃退士と記念撮影とか、ロゴ入りのバッジ配布とか」
 経費削減の為、バッジは手作りで。
 大丈夫、弟やその友人に頼めばきっと泣くほど喜んで手伝ってくれるに違いない。
「それでも手が足りなかったら、撃退署の方にもお手伝いしてもらおうかしら?」
 あ、皆さんにはサボったからってヌンチャクでお仕置きとか、そんな事しませんから。
「そう言えば撃退署の見学ツアーはあんまり人気なかったみたいだねー」
 去年の祭に関してお客様の反応をリサーチしてきた星杜 焔(ja5378)が言った。
「このへんは少しテコ入れが必要かな?」
「ツアーに模擬戦を組み込んでみたらどう?」
 灯が応え、黒田に問う。
「特定時間にデモンストレーションとして私と模擬戦でもしてもらえないかしら?」
 互いに『ある程度手加減+周りへの被害なし』の想定で立ち回り、格好良い戦いを見せれば子供達も興味を持ってくれるかもしれない。
「それなら私も、盛り上げのお手伝いをさせて頂きますわ」
 麗菜が申し出る。
「じゃあキョーカはあんないのひとする、だよ?」
「私もお手伝いしますね」
 星杜 藤花(ja0292)が申し出た。
 二人で可愛いうさぎのコンパニオンに扮して「ウサギさんが撃退署のことを教えます」的な事になれば、小さい子も興味を持ってくれるかもしれない。
「後はこういうのも必要でしょう」
 巴が机の上にダルドフのブロマイドを置いた。
「マスコットキャラクターと言いますか、何か祭のシンボル的なものがあれば、と」
 いや、別にダルドフをマスコットにしようとか、そういうわけではない。
 そのままで充分いける、なんて事も思ってない。多分。
「選挙で一位になったキャラは、来年から公式マスコットとして採用されるとしてはどうでしょう」
 自分でもひとつ用意してみるが、他にいくつか対抗馬が欲しいところ。
「なら、ボクも考えてみるわ」
 黒龍が言った。
 早めに告知して、一般からのエントリーも可能にしても良い。
「キャラ選挙のゲストコメンテーターに、もふらさまとか呼べたら盛り上げてくれそうだね〜」
 焔が言う「もふらさま」とは、最終回を迎えたばかりの人気アニメ「舵天照」のキャラだ。
 他にはダルドフの勤務先でもある例の工場にも協力して貰おう。
「地元の食材使った軽食の提供や、お土産にできる食材や加工食品の販売が出来ないか、お伺いを立ててみるねー」
 他には何か――
「観光地によくあるスタンプラリーを行うのはどうだろうか?」
 聞き役に回っていたファウスト(jb8866)が漸く口を開いた。
「会場の多くの場所を回る、1つの切っ掛けにはなるのではと思ってな」
 不人気らしい撃退署ツアーの近くにも1つ設置すれば、少なくとも近くには来る事になるだろう。
「内容を改善する事は承知しているが、去年までのイメージで客足が伸びない可能性もある」
 近くまで来てくれれば、後はウサパニオンの二人が上手くやってくれるだろう。
「出店の買い物や催し物参加でスタンプ集まると良いよね〜」
 焔も同じ事を考えていたところだ。
「ご褒美は何が良いかな?」
「全てのスタンプを集めた者には屋台の品を1つサービスする、とかか?」
「景品の抽選に応募できるとか。たとえば名産物があたるとか久遠ヶ原観光ツアーとか」
 久遠ヶ原ツアーは安全管理上の問題がありそうだから、名産品のお土産が妥当だろうか。
「これも工場にかけあってみるねー」
 自分が作った桜のお菓子でも良いかもしれない。
「ほな後はチラシのデザインと、企画書も作らなあかんね」
 皆のアイデアを書き取っていた黒龍が言った。
 今回が上手く行ったら、来年以降は人を選ばず運営出来るように改良を加えて。
「せや、ネージュにはこれを渡しとかんと」
 取り出したのは黒さんお手製のぬいぐるみ。
 カルムに似せて作ったそれには勿論、IDが仕込んであった。


 そして祭の前日。
 紫苑はおこであった。
 運営? お仕事? 知らなーい!!
「大体いつぶりだと思ってんですかぃ二か月ぶりでさわかってますかぃ!!」
 ダルドフを捕まえて、ぎゃんぎゃん吠える。
「今日の! お父さんのしごとは! おれとあそぶこと!」
 とは言っても何もしないのも忍びない。
 第一、働かざる者食うべからずとも言う。
「知ってやすかぃ? はたらかざるもの食うねるあそぶじゃねぇんですぜ!」
 お子様の金銭感覚は身近な誰かに酷く影響されている様だ。
 という事で、遊ぶのは明日までお預けだ。
 ぼんやり桜を眺めていたネージュに突撃、問答無用で引っ張り込む。
「今日中に一しょにはたらいて明日あまざけでものみながらぱーっとあそぶ計画にしやしょう」
 さあ、『お花地図』を作りに行こう。
「さくらまつりって言っても、さくらいっぺんとーじゃげいがねーでしょぅ」
 きっとネージュは花の名前なんか知らない。
 だから教えてあげるのだ、この世界には綺麗なものが沢山あるという事を。
「ツツジは早くさくひんしゅはもうさいてやすし、チューリップにスミレ、マーガレットにユキヤナギ!」
 はい、写真撮って!
 プリントしたら大きな模造紙に地図を作るよ!
「キョーカもおてつだいする、だよ?」
 紫苑が地図と解説を、まだ花が咲いていないものは写真の下に開花時期と、キョウカが花の絵を描いて。
 出来上がったものは会場案内図の隣のぺたり。
 まるで壁新聞の様だが、この手作り感がまた良いのだ――特に保護者には受ける。
 明日はきっと、どんな我侭も許される筈ですよ、ね?


 当日の朝、事前の宣伝が効いたのか、会場には大勢の人が詰めかけていた。
「さくら…! 桜のお祭りなのです、リュールさん章治おにーさん…!」
 シグリッドは着いたばかりの二人の手を引いて、造花で彩られた入口のアーチをくぐる。
「いらっしゃい、先生達にも記念のバッジ差し上げますね!」
 待ち構えていた灯が「さくらまつり2015」とロゴの入った記念バッジを手渡してくれた。
 バッジは皆が頑張ってくれたお陰で、かなりの数が用意出来た。
 もしかして、これなら全員に行き渡るかも?
「小さい子には風船のサービスもありますよ」
 それに、ご希望なら記念写真も。
「欲しい方は帰りに寄って下さいね!」
「こちらもお忘れなく、お受け取りくださいませ」
 その脇では麗菜がスタンプラリーのカードを配っていた。
 更に向かい側にはピンク色の学園制服を着た、全身桜色のもふもふうさぎが立っている。
 耳の根元に桜の花をあしらったそれは、癒しゆるふわ愛され系のマスコット候補、その名も「うさくらちゃん」である。
(楽しい思い出もヒトを呼ぶ。其の為に頑張ろうかな)
 因みに中身は黒龍さん、声のイメージが合わないのでお喋りは出来ません。
 代わりに並んで立った子うさぎキョウカが呼びかけます。
「さくらのほごに、ごきょーりょくおねがいします、なの!」
 うさくらちゃんが持っている募金箱にお金を入れてくれた人には、黒龍さん特製のぬいぐるみを差し上げますよー。
 リボンに祭の開催日が書かれた桜型の飾りが付いているので、今日の記念にもなりますよー。

 そこから少し行ったところでは、焔が桜づくしの屋台を切り盛りしていた。
 今の時間帯は藤花が手伝いに入っている。
「桜と皆と…きっといい思い出になります。ね?」
「うん、家族でもぼっちでも楽しめるお祭りにできるといいな」
 屋台のメニューは桜の塩漬けを使った料理と、さくら染めの展示販売だ。
「あっ、門木先生いらっしゃいませー」
「リュールさんも、ようこそいらっしゃいました。お味見いかがですか?」
 美味しいですよ、何と言っても旦那様が腕によりをかけて作ったものですから。
「桜の葉で巻いた桜おこわに、桜饅頭、桜ソフトクリーム、桜シフォンケーキ…桜茶もありますよ」
「門木先生には工芸品の方が良いかな〜」
 ほんのり淡い桜色に染まったハンカチやストールは、桜の育成過程で剪定した枝や落ち葉等で染めたものだ。
「ほんのり桜の香りがするでしょ〜、さくら染めで作ったような装備とか作る参考にならないかな?」
 それに、お土産にも。
「自然な優しい色合い、お母様にも似合うと思うんだよ」
 こっそり耳元で付け加えてみる。
 そこに藤花とリュールの遠慮のないママトークが聞こえて来た。
「子どもは成長するのが早いですよね」
「まったくだな、しかしうちの息子は図体ばかり一人前でうんたらかんたら」
 息子や旦那の愚痴を言い始めると止まらない、それがオカン。
「この間も私の誕生日をすっかり忘れておってな」
「あらあら、それは…」
 わかった、わかりました、何でも好きなもの買うから暴露しないで!

 その先に現れたのは、鴉印の神のたこ焼き屋台。
「神の技を存分に見せつけたこ焼きの素晴しさを普及し世界を幸せにするんや!」
 ただし、その看板を作ったのは黒猫さんだった。
 ゼロさんをミニマム可愛くデフォルメしたたこ焼き神様マスコットのイラストをふんだんに使用し、ついでにマスコットの着ぐるみも作っちゃいました!
 肖像権? 何それ美味しいの?
「ゼロさんじゃありません! ゼロたこ焼き神さまですの! だからだいじょーぶ☆」
 というわけで、シグリッドに着ぐるみオン!
「えっ、ぼくが着るのです…!?」
 と言うか看板の端っこに「裏メニューロシアンたこ焼きこっそりやってます」って書いてあるんですけど、これは一体。
「お花見ですよー! お祭りですよー! ひゃっはー(*゜∀゜*)!」
 あ、だめだこの猫、聞いてねぇ。
(ろしあん…たこやき…? ゼロおにーさんじゃなくねこさんがやるのは予想外でした…)
 ゼロさんは全うに正統派の神のたこ焼きですね。
「ゼロおにーさんとねこさんは焼くのですね…じゃあぼくは売り子します」
 こくりと頷き、シグリッドは手招きしてみる。
「リュールさん章治おにーさんも一緒に売り子しませんか」
 ああ、うん、リュールさんはめんどくさいって言うと思ってました。
「じゃあ、一緒にダルドフさんの所に行くのですよー」
 手土産のたこ焼きを持って。
「ダルドフさんはきっとこのあたり詳しいのです。案内してもらうと良いのですよ…!」
 他意はない。下心もない。
 純粋に、素直に、そう思っただけだ。
 しかし困ったことに大人は純粋でも素直でもないのである。
「だが断る」
 どこまでも素直じゃない。
 と言うか、ほら、邪魔しちゃいけないし?

「せん言通りあそびやすぜー!」
 ダルドフに肩車をして貰った紫苑はご機嫌だった。
「お父さんにひっつきむししてあっち行きたいこっち行きたいするのがしごとでさ!」
 まずは食べ物屋台の制覇に邁進するのです。
 神のたこ焼きは勿論、テキ屋の屋台から工場の直売所まで、全てを分け隔てなく平等に。
 こうして祭のお金をよりよく回すお手伝いをするのです。
「やだ…俺まじ仕事熱心…」
 今日はでっかい財布もあるし、良い仕事が出来そうだ。
「いらっしゃい、ダルドフさん。桜おこわ食べて行かない?」
 向こうで焔が手招きしている。
「おれアイス! さくらアイスがいいでさ!」
「これ、いい加減にせんと腹を壊すわぃ」
 それより、そろそろキッズファッションショーが始まる時間だ。
「某が出場の申請をしておいたでな、キョウカと二人で行って来るが良い」
 桜色のお揃いふりふりワンピも用意した。
 高性能のデジカメとビデオカメラも買った。
 後はプロの写真家にアドバイスを受ければ撮影もバッチリだ。
 親馬鹿上等、お陰で麗菜の狙い通りに財布の紐はガバガバ、地元の経済は潤いまくり。

 昼過ぎに始まったファッションショーは、さりげなく配置された私服警備員が目を光らせる中、滞りなく進行して行く。
 プロデュースと司会進行は勿論、麗菜が自ら行った。
 どの子も皆可愛くて、どの親も皆うちの子が一番だけれど、最も拍手が大きかったのは――?

「…なんというか、平和だな」
 当然の如く二人に一票を投じたファウストは、警備がてら会場をぶらぶらと歩いていた。
 だが、今の彼は知人から借りたくまの着ぐるみを頭から被り、ついでにケセランを頭に乗せている。
 その中身に気付く者はまず居ないだろう…口を開きさえしなければ。
「貴様、迷子か」
 ものすごーく偉そうな低音ボイス、だが見た目は可愛いくまさんだ。
「そこの貴様、まさか枝を折る気ではあるまいな」
 ドスの効いた低音ボイス、だが見た目はry
「その声は、ファウの字か」
 振り向けばそこに、もう一頭のくまさんが立っていた。
「ぬし、何故その様な出で立ちを…」
「我輩が素のまま迷子の手を引いたりすれば、別の事案になりかねぬだろうが」
 高い枝に引っかかった風船を外しながら、ファウくまは言う。
「折角の花見にトラウマを作る事もなかろうよ」
 いや、でも、風船を取って貰ったその子、泣きそうなんですけど。
「何故だ」
 こんなに可愛いのに。
 解せぬ。

 と、そこへファッションショーを無事に終えた麗菜が現れ、ファウくまの腕を取る。
「マスコットキャラの方ですわね? そろそろ中間発表の時間ですので、ステージまでお越し下さいませ」
「いや、我輩はその様なあれでは…」
 しかし何という事でしょう!
 その姿と声のギャップが受けて、名もなきくまさんは人気投票の上位に食い込んでいたのです!
「これは負けてられないわね」
 和装のリアルキャラ桜沢春姫に扮した巴は、思わぬライバルの出現にそっと闘志を燃やす。
 ただ、大切なのは皆がこのイベントを楽しめる事。
(結果よりも、皆の笑顔だよ!)
 個人的には空の上に居る父が、母の名であるキャラ名に惹かれて現れないだろうかと、それも気にはなっているけれど。
『お名前は何と仰るのですか?』
 他のキャラ達と共にステージに上がった「春姫」は、そう書かれたボードをファウくまに見せる。
「我輩の名前か」
 そう言えば何も考えていなかった。
 当然だ、エントリーする気など全くなかったのだから。
「そうだな…さくまもん、とでも呼ぶが良い」
 身の丈は2mを越すにも関わらず、造形は可愛らしく、しかし態度は偉そうで、おまけに魅惑の低音ボイス。
 明るく華やかな「さくらまつり」のマスコットとして、それはどうなのか。
 だがそこが良いと、ハートを鷲掴みされる者は多かった様だ。
 世の中、何が受けるかわからないものである。

 といわけで、さくらまつりのマスコットは「さくまもん」に決定しました!
 ぱんぱかぱーん!

 そしてこちらは撃退署見学ツアー。
 灯と巴によるチラシ配りとスタンプラリーでの誘導の成果か、参加者は順調に集まっていた。
「まずは、うさぎさんといっしょに、げきたいしょのおしごとをけんがくする、だよ!」
 キョウカと藤花は、うさみみメイド&パペットラビットのお揃い装備で見学者を先導して行く。
 オペレータの仕事ぶりを見てもらったり、質問に答えたり、興味のありそうな事を解説してみたり。
「撃退士のお仕事は、戦うだけじゃないんだよ!」
 藤花はぬいぐるみに謎の腹話術で話をさせてみる。
 一般にもわかりやすく噛み砕いた表現を使って解説した台本は、前もって暗記してきた。
 想定外の質問が来た時には職員に丸投げだ。
 休憩中の職員に突撃インタビューしてみたり、食堂でスペシャルメニューの味見をしてみたり。
「それじゃ、ここでクイズなの!」

 天魔の透過を防ぐ道具は、次のうちのどれでしょう?
 1.それいか 2.それいふ 3.それいぬ

 一番多く正解した人には桜の押し花の栞をプレゼント。
 最終回の人には栞に加えて大地の恵みで出した好きな花を差し上げまーす。

 施設の見学が終わったら、次は模擬戦。
「では、これからお待ちかねの模擬戦デモンストレーションを行います」
 司会は麗菜、主役は灯、主にヤラレ役になるのは撃退署の職員達だ。
 一方が建物の壁になった10m四方のフィールドをロープで区切り、更にその5m外側にもう一本のロープを張って、見学はその外からだ。
「少し遠くなっちゃうけど、安全の為だから我慢してね。その代わり、派手派手な技で魅せてあげるわ!」
 相手は二人、鬼道忍軍と陰陽師だ。
 ヌンチャクを振りかざして迫る灯の攻撃を忍軍が空蝉で回避、そのまま壁走りで垂直の壁に貼り付くと、そのいかにもニンジャな動きに歓声が上がる。
 距離を取った相手に灯がマジックショットを放ち、陰陽師は魔法陣を描いて防御を固め、八卦石縛風で砂塵を舞い上がらせた。
「もぎせんこわいひとがいたら、キョーカたちとあそびましょう、なの!」
 ぬいぐるみ貸してあげても良いし、キーをもっふるしても良いし、折り紙やお絵描きでも良いよ!

 仕事が終われば後は自由時間だ。
 キョウカは紫苑やダルドフ、着ぐるみを脱いだファウスト達と共に祭を楽しみに行く。
 たこ焼き屋台では黒猫さんが張り切って呼び込みをしていた。

 \いらっしゃいませー!/

「神のたこ焼きはいかがですかー☆」
 裏メニューとしてロシアンたこ焼きもありますの!
 チョコやチーズ、キムチなど、皆食べられるものを入れるので体に害はないですよー?
 大丈夫、毛なんか入ってません、ちゃんとコロコロしましたから!
 黒い毛皮に白いエプロンと三角巾が眩しいでしょう?
「はい、お手伝いの門木先生もご一緒に☆」
「…い、いらっしゃい…ま…」
 ごめん無理です、この人基本的に裏方ですから。
「お手伝いなら私が代わりましょうか」
 買って出たのは藤花だった。
「せっかくですし、お祭を楽しんで来て下さい」
 誰もが楽しんで貰える様に、精一杯のおもてなしをするのが藤花の楽しみでもある。
「だから遠慮しないで下さいね。楽しめる時はめいいっぱい楽しむ、これは正義ですから!」
「ありがとうございます、では少しだけお休みを頂きますね」
 シグリッドはロシアンたこ焼きを両手いっぱいに抱え込むと、門木とリュールを伴って桜の下へ。
 三人で写真を撮って、ロシアンたこ焼きを食べて。
 ところで…
「章治おにーさん、やっぱりぼくを弟扱いしてませんか…!」
 弟どころか息子扱い?
 そんな事実は存在しませんね?
「ぼくは弟じゃなくて、こいびととか、そういうひとになりたいのです…!」
 頑張って異議申し立てしてみた少年の想いは、今度こそ――
「…ん、そうか」
 なでなでわしゃわしゃ、門木は嬉しそうにシグリッドの頭を掻き回す。
 通じているのかいないのか、それとも本気にしていないのか。
 或いはいつの間にかスルースキルを身に着けたのだろうか、門木のくせに。
 シグリッドはヤケクソ気味にたこ焼きを口に放り込む。
 それは甘くて苦くてしょっぱくて辛い、青春の味だったとか。

「てなわけで皆たこ焼きの素晴らしさはわかってくれたか? それではみなさんも作ってみましょう! 」
 そして唐突に始まる神のたこ焼き教室。
 ゼロさんが手取り足取り、たこ焼きの作り方を伝授しますよー。
 神の技は門外不出とか、そないケチくさい事は言わしまへんのや。
 もちろん女性は優遇しますが参加は老若男女誰でもOK。
 ところで、カルムとネージュはどこへ?
 シグ坊助手(おもちゃ)にもいろいろ手伝ってもらいつつ、カルムとネージュにいろんな人と触れ合ってもらってみんな楽しくなればいいっていう渾身の企画だったのに!
 三人ともいないってどういう事よ!?
「しゃーない、代わりにボクが盛り上げたるわ」
 黒龍が神のたこ焼きを大絶賛。
「たこ焼き神の…天使の翼(鰹節です)が神々しいぃぃぃ!!」
 ぺっかーん!

 天使達は、ここにいた。
「かるむたまもねぃねーたも、たのしくなりますよーに! なの!」
 キョウカ達と一緒に、屋台食べ歩きツアーの真っ最中。
「おまつりは、みんながにこにこわいわいできるから、キョーカはだいすき、なの!」
「はい、ネイもこの雰囲気は…嫌いではありません」
 その返事に気を良くしたキョウカは、桜の下に走って行って、その枝を見上げる。
「さくらは、はっぱのかわりにおはながいっぱいいっぱいさくの。でも、ちっちゃうのははやいから、きれーなときに、みんなであつまってわいわいするの!」
 それが花見というものだ。
「これは体感だがな」
 ファウストが言った。
「我々天魔と人のものの感じ方は、思ったよりも近いようだぞ」
 互いに同じ物を楽しみ、同じ物を美しいと感じる事が出来る存在。
「だからもしどうしたら良いのか迷ったなら、自分が楽しいを思える事から考えてみればいい」
「はい、ありがとう、ございます」
 相手が悪魔であるせいか、ネージュの声も表情も硬い。
 しかしそれを受け入れる柔軟さは持ち合わせている様だ。
「そういえば、非戦闘員と言っていたがカルムは天界で何の仕事をしていたのだろうか」
「私は、特に何も」
 身も蓋もない言い方をすれば、ヒモの様なもの、だったらしい。


 やがて陽は暮れて、祭は大人が楽しむ夜の部へ。
 灯はトワイライトの光で夜桜を照らしつつ、撮影スポットの案内を。
 麗菜は夜桜酒宴を仕切り、巴はそれを手伝いつつ最後の一人が会場を後にするまで見守っていた。

 全てが無事に終われば、皆を集めて夜桜の下でささやかな打ち上げを。
「祭りといえば神輿やろ! みんな! シグ某神輿を持ち上げろ!」
 違うゼロさん、持ち上げでも担ぎ上げでもない、打ち上げ!
「どっちでもええがな!」
 とにかく色んな御輿でれっつぱーりぃ!
 皆の気合いでダル御輿だって持ち上げ…られるのだろうか。

 ワッショイ騒いで気が済んだら、今度こそ。
 屋台で捌ききれなかったものを持ち寄れば、食べ物や飲み物は充分にあった。
「皆さん、お疲れ様でした」
 藤花が音頭を取る。
「こういう積み重ねがきっと、これからの世界には大事だと思うんです」
 皆が元気になれるように。
 もう二度と悲しい思いをしなくて済むように。
「もし良かったら、みんなで記念写真、とりましょう?」
 夜桜の下で、ちょうどプロの腕と機材もあることだし。

「んっ」
 帰り際、仏頂面の紫苑が一輪の薔薇を突き出した。
「また二か月後なんてなったら過ぎちまいやすから」
 今度は萎れてない。
 それに――
「お父さん、今年も大好きでさ!」
 膨れた頬が弾けて、笑顔の花が咲いた。

 漸く最後に一息吐いて、焔と藤花は桜の下をのんびり歩く。
 いつもと変わらぬ感じでお喋りしつつ、ふんわりまったり、幸せを噛みしめて。
 藤花の肩には桜色のストールがふわりと揺れていた。




 後日、黒田やカルム達の元に一通の葉書が届いた。

『またご一緒できる機会を楽しみにしております――葛城 巴』


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

思い繋ぎし紫光の藤姫・
星杜 藤花(ja0292)

卒業 女 アストラルヴァンガード
さくらまつり2015実行委員・
紅華院麗菜(ja1132)

高等部2年21組 女 ダアト
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
By Your Side・
蛇蝎神 黒龍(jb3200)

大学部6年4組 男 ナイトウォーカー
海のもずく・
地堂 灯(jb5198)

大学部4年1組 女 ダアト
撃退士・
シグリッド=リンドベリ (jb5318)

高等部3年1組 男 バハムートテイマー
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
娘の親友・
キョウカ(jb8351)

小等部5年1組 女 アカシックレコーダー:タイプA
七花夜の鬼妖・
秋野=桜蓮・紫苑(jb8416)

小等部5年1組 女 ナイトウォーカー
託されし時の守護者・
ファウスト(jb8866)

大学部5年4組 男 ダアト
永遠の一瞬・
向坂 巴(jc1251)

卒業 女 アストラルヴァンガード