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マスター:STANZA
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
形態:
参加人数:15人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2015/04/15


みんなの思い出



オープニング



※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。
 オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。



●これまでのあらすじ

 福島県会津地方、レドゥと名乗る悪魔によって侵略を受けたこの地は、撃退士の活躍によって救われた。
 しかし、その犠牲は余りにも大きかった。
 会津のシンボルであり、会津人の魂である鶴ヶ城が、何と、ガラガラと崩れ去ってしまったのだ!

 そこに再び襲い来る悪魔。
 倒した筈の八岐大蛇がメカオロチとなって甦る!

 人類側にはもう、対抗する手段はない。
 さあ、どうするどうなる、会津はこのまま悪魔の手に落ちてしまうのか!?

 と、誰もが絶望に打ちひしがれ、一欠片の希望も見出せずにいた、その時だった。
 瓦礫と化した鶴ヶ城の上空から謎の光が降り注ぐ!

 あの光は何だ!?
 そして光の中を舞い降りて来た片翼の天使は何者なのか!?

 待て次回!!



●そして、ものがたりはつづく

 光の中を舞い降りた神々しくも今イチ頼りなさげな、かつ微妙に胡散臭い天使。
 彼は言った。
「……今、この鶴ヶ城の残骸に復活の魔法をかけた」
 この魔法が効いている限り、撃退士達は城を好きな様に修復する事が出来るのだ。
 普通に元通りにしても良いし、魔改造を施しても良い。
 チートな超巨大お城ロボだって作れるぞ。
「……制限時間は特にない。納得のいくものが作れるまで、周囲の時間を止めておいたからな」
 なにげにスゴイ事をあっさりと言い放ち、天使は桜の下に敷かれた緋毛氈に腰を下ろす。
「……俺の仕事は、これで終わりだ。後は適当に頑張ってくれ」
 何が出来るかは、撃退士達の想像力次第だ。
 迫り来る悪魔の軍勢、メカオロチに勝てるかどうかも、撃退士達の想像力次第だ。
 どんな戦いになるかも、撃退士達の想像力次第だ。
「……俺はここで、のんびり見物させてもらう」
 あ、誰かお酌とかしてくれても良いのよ?


●そのころ、あくまのじんえいでは

「呂号、この裏切り者め……!」
 地下から地上へと伸びる、秘密の通路。
 レドゥ配下のヴァニタスである以号が、脱走を図った同僚、呂号の前に立ち塞がっていた。
「私は、そんな記号の様な無機質な名前ではない」
 呂号は首を振る。
「私には、未来(ミク)という名があるのだ」
 撃退士に貰った名前が。
「裏切り者のそしりを受けようと、私は彼等のもとへ行く。彼等と共に戦う!」
 それを聞いて、以号は頷いた。
「わかった。だが、せめてもの武士の情だ。その背に担いだ布団だけは置いて行ってくれ!」
 呂号は、その背にお子様用の小さな布団を担いでいた。
 そこには、ほんのりと香ばしく香り立つ大きなシミが出来ている。
 言うまでもなく、オネショの跡だ。
「後生だ、そんなものを敵に見られたら、レドゥ様は二度と立ち直れなくなってしまう!」
「それこそ、私が望むものだ!」
 オネショ布団を背に、呂号は真剣な眼差しで拳を握る。
「この布団さえあれば、戦いは終わる。もう誰も傷付ける事はなくなるのだ!」
 正論だ。
 正論だが、なんか哀しい。
「そこまで言うなら、仕方あるまい……」
 以号は諦めた様に首を振った。
「ならば私も、力ずくで奪い返すのみ!」
 片手を天にかざし、呼ぶ。
「いでよ、ダルどん!!」
 呼ばれて飛び出て某参上!
 なんと、現れたのはダルドフだった!
 しかも敵に操られている!
「ふふふ、こいつは天界の超強力天使だ。今朝、網にかかったところを生け捕りにしてやったのよ!」
 以号、いつの間にか口調が変わっているが、気にしてはいけない。
「この耳栓型超音波発生装置から発生する怪電波によって、こいつは我々の思いのままに動く人形も同然!」
 はい、説明ありがとう。
「つまりのその両耳に突っ込まれた耳栓を引っこ抜けば良いのだな?」
「くっ、貴様なぜそれを!?」
 いや、あんた今自分で言うたやん。
「しかし、そう簡単ではないぞ! 何しろこいつは天界でも指折りのタフさを誇る――」
「だが、網にかかって捕まる程度のチョロさだ。そんなもので、この私の決意を折れると思ったか!」
 必ずやこの天使を斥け、レドゥのオネショ布団を撃退士達の元へ届けるのだ。
 でも、誰か助けに来てくれても良いのよ?




リプレイ本文

●その時、世界に魔法がかかった

 鬼道忍軍の奥義に『幻影・影分身』という自身の分身を作り出す技がある。
 しかしナナシ(jb3008)は血の滲むような努力の末に、それを超える究極の奥義を習得する事に成功していた。
 その名も『コピー&ペースト分身の術』、略して『コピペ』という。
 影分身で作り出せるのは己の分身のみ、しかも分身にはスキル使用不可などの制約がかかる。
 しかしコピペは違う。
 コピー元となる存在を自由に指定し、それを無限に増やす事が出来るのだ。
 勿論デジタルゆえに劣化も制約もない。
 やろうと思えばこの世界をまるごとコピーし、幾重にも重なった多重世界を作る事も出来るのだ。
 そう、それはまさしく神の所業。
「でも今回は、そこまで大がかりな事をする必要はないわね」
 ただこの鶴ヶ城を増やすだけで良いと、ナナシは手にした巨大なピコピコハンマーを一振り。
「ペースト!」

 ポキュ☆

 気の抜けた何とも可愛らしい音と共に、叩かれた地面に巨大な魔法陣が描かれる。
 それが光に包まれたかと思うと、円環の中心からにょっきり城が生えて来た。

 ポキュ☆
 ポキュ☆
 ポキュ☆

 魔法陣の数だけ城が生え、どんどんどんどん増えていく。
「これで人数分は揃ったかしら」
 皆それぞれ、独自の拘り改造プランを胸に秘めていることだろう。
 だが城が一つしかないのでは、誰かが諦めるより他にない。
「でも、これなら城にどんな改造や破壊をしても問題無いわよね」
 だって沢山あるし。
 何なら一人で一国一城どころか一国二城三城の主になっても構わない。
 夢の中でまで他の仲間に気を遣う事が出来るなんて、何と素晴らしくも気高い魂の持ち主なのでしょう!
「べつに、私はただ自分が好き勝手やりたいだけよ」
 というわけでナナシ作『天空の城鶴ヶ城』発進!


「おかしい…確かにあの時崩したはずなのだが…」
 ゴゴゴと音を立てて天空へと飛翔する城を仰ぎ見るアスハ・A・R(ja8432)の額には、「解せぬ」という文字が白抜きで浮かび上がっていた。
 崩した城が元通りに復元されているばかりか、それがぽこぽこ増えている。
 おまけに空まで飛ぶとはどういう事だ。
 しかもその城は飛翔しながら巨大化している様で、遠ざかっている筈なのに見た目の大きさが全く変わらない。
 他にもあちこちで、それぞれに個性的な鶴ヶ城が出来上がりつつあった。
「まあいい」
 城を復元するのが皆の総意ならば、自分も喜んでそれに協力しよう――などと言うと思ったか。

 直る度 壊してしまえ 鶴ヶ城

 不死鳥が灰の中から甦るなら、その灰を雨に流してしまえば良い。
 何度でも甦ると言うなら、何度でも壊してやろう。
 という本音は、そっと胸の奥に隠しておいても多分だだ漏れだが、それならそれで。
 バレても構わず協力するふりを貫き、アスハは皆の城に細工を施していく。
 勿論、天空の城にも既に細工済みだ。
 何が起きるかは、このボタンをぽちった時のお楽しみ。


 そして各自、好きな様に魔改造を施して行くわけだが――
 その様子はわりと地味、かつ映像的にも盛り上がりに欠ける事は否めない。
 固定カメラの24時間ライブ放送が睡眠導入剤に最適であるのと同様に(意見には個人差があります)、尺があるからといって全てを事細かに逐一映し出しても視聴者は退屈なだけである。
 貴重な歴史的記録である原本をそのまま残すのは当然だが、一般の視聴者に供するものには大胆な編集が必須となるだろう。

 というわけで、ここは一気に完成品をどーんと!


 ラファル A ユーティライネン(jb4620)は学園最凶のメカ撃退士だ。
 夢じゃなくてもメカ撃退士だ。
 それが夢ならチート性能盛り放題、自主規制も限界も全て吹き飛ばし、文字通りの最凶メカ撃退士になる事も夢じゃない。
 いや、夢だ。
 夢だけど、夢じゃない。
 まずはみんなの憧れぼくらの鶴ヶ城を大改造、その名を呼べば大地を割って現れる!
「来い、鶴ヶ城ぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 地響きと共に姿を現した麗しの城は、天守閣から謎の牽引ビームを発射、その光に包まれたラファルの身体が天守閣へと吸い込まれて行く。
 天守閣と一体化したラファルは自らも機械化チェンジ、城の頭脳を兼ねた武装の一部となった。
「ネオクレーンキャッスルインラファル、発進!!!」
 その声と共に土台の石垣が二つに割れ、その上に乗った第一層から蛇腹の様な脚が生えて来る。
 走長屋が左右に分かれて腕となり、両肩には鯱ミサイルランチャー、背中にはロケットエンジン、天辺の天守閣にはペンギン帽子がちょこんと載っていた。
 どっしりとした重量感のある巨大人型ロボは、石垣をばらばらと崩落させつつ巨大な一歩で大地に立つ。
「さあ、どっからでもかかって来やがれ!!」


 黒百合(ja0422)の城は研究機関と一体になった複合型だ。
 本丸となる城の周囲を取り囲む12基の武装ビルが、大地に刺さった巨大な杭の如くに聳え立っている。
 何の飾り気もない真四角なデザインは優雅な城には不釣り合いだが、見た目よりも機能を重視した結果として目を瞑って貰おう。
 その全体を、巨大なドーム型バリアが覆っていた。
 城の地下に設置された管制室には全方位の映像が映し出された複数のモニタと、同じ数だけの熟練オペレータが配置されている。
 更には敵の戦力を解析する専門の分析官や、レーダーの監視員、メカの整備員、ドクターにマスコット要員、それら全てが黒百合のクローンで構成されていた。
 司令官は勿論、オリジナルの黒百合である。
「さァ、始めようかしらァ♪」
 鶴ヶ城ロボ、発進!
 と言っても、城そのものは動けない。
 代わりに各所に配備された兵装や、侵入者対策として無数に設置された身軽な小型城ロボ、更には武装ビルから射出された戦闘機で応戦するのだ!


「くっ、俺も負けてられへんな」
 ライバル達の城を見て、ゼロ=シュバイツァー(jb7501)は闘志を燃やす。
 燃やす対象が違う気がしないでもないが、ここはハジけた者が勝つ弱肉強食の無法地帯、敵も味方も関係ない。
 寧ろ最大の敵は自分自身。
 恥も外聞も理性も捨てろ、ブレーキなんざ叩き壊せ、アクセル全壊でGO!
「っしゃ、可変機動兵器『鴉』発進!!」
 白壁は黒く、赤瓦も黒く、石垣も黒く、鯱は二羽の戦闘機鴉となって天守閣の周囲を飛ぶ。
 黒くてスリムな人型ロボ鴉、しかし操縦はリモコンだ!
「行け、鴉!」
 ぽちっとな。


「何が始まるかって? 第三次大戦だ!」
 しかもスーパーなロボットの。
 エカテリーナ・コドロワ(jc0366)は城の残骸を各種兵装に改造していた。
 ショットガン、ロケットランチャー、手榴弾、スペツナズナイフ、クレイモア地雷、その全てを身に着けたその姿はまさに完全武装の人間武器庫!
「私に触れるな、爆発するぞ」
 それは比喩や脅し文句ではない、兵器とは意外にデリケートなのだ。
 並み居る巨大ロボの間を縫って最前線に駆け上がり、迎え撃つのはメカオロチ。


「この状況、多勢に無勢やね」
 亀山 淳紅(ja2261)はメカオロチの頭部に仁王立ちし、ハイライトの消えた目で戦場を見下ろしていた。
「ええやん、結局崩れんかったんやし」
 ぶつぶつ。
「そら確かに反省文は免れたわ」
 ぶつぶつぶつ。
「けど、そんかしきっちりお叱り受けてもうて……」
 ぶつぶつぶつぶつ。
「叱らんかてええやんもぉ、ネチネチやかましわホンマ」
 根に持っている。
 めっさ根に持っている。
 彼は常日頃から、そうしたマイナス感情とは上手く折り合いを付けて、表には極力出さないように頑張っていた。
 しかし、そのせいでストレスがマッハになっていたのだろう。
 B型のはずだが自己中になりきれない亀山淳紅(20)は、かくして悪魔側につく事となったのである。
「行くでメカ大蛇! 発進!!(かっ」
 本人曰く、ぷち反抗期。
 しかしその規模はプチなんてものじゃない、ガチだ。
 普段は真面目で融通が利かないとは本人の談だが、そういう人間はキレると怖い。
「自分が考えたメカおろちの能力首八本分や、喰らっとき!」



●生身だって負けちゃいないぜ!

「こちらの方に要救助者がいると聞いたのですが……」
 水無瀬 雫(jb9544)は、迷子になっていた。
「ここは一体、どこなのでしょう」
 気が付けば何やら地下の秘密基地めいた場所に立っている。
 と、通路の奥から子供の泣き声が聞こえて来た。
「あの部屋でしょうか」
 要救助者が子供であるとは、誰も言っていなかった気もするが。
「緊急時ですから、情報が錯綜するのも無理はありませんね」
 部屋の前に立つと、自動的に扉が開いた。
「以号、着替え持って来てくれたの!?」
 可愛らしいパステルピンクに彩られた部屋の奥で、毛布にくるまった子供が顔を上げる。
 だが、待ち人ではない事を知ると、子供は「きゃあぁぁぁっ!!」と叫んで毛布の中に顔を突っ込んでしまった。
「あの、つかぬ事をお伺いしますが」
 雫の声に、子供は毛布から目だけを出す。
「この辺りで誰かが助けを求めていると伺ったのですが、もしやあなたが……?」
「そうだよ、ボクだよ! シャワー浴びたのに、着替えがないんだ! おふとん干したら持って来てくれるって、以号が言ってたのに!」
 どうやら、その以号というのはこの子供の世話係である様だ。
 そしてこの子供は、専属の世話係が付くほどの身分であるらしい事もわかった。
「なるほど、着替えを持って来れば良いのですね? それは何処にあるのですか?」
「知らない。いつも以号が全部やってくれるから」
「わかりました、探して来ます」
 廊下に並んだ部屋を片っ端から覗いてみれば、きっとすぐに見付かるだろう。
「日常的に必要な衣類など、そう遠く離れた場所にあるとは思えませんし」
 まずは隣の部屋を覗いてみる。
 が、そこは本がびっしり並んだ図書室らしい。
 その隣は武器庫、向かい側はゲーム機とソフトだらけ、その隣は食料庫。
「この通路は何でしょう?」
 幾つか部屋を回るうち、廊下の奥にいかにも怪しげな隠し扉を発見した雫は、恐る恐る足を踏み入れてみる。
 狭い通路を辿り、やがて見えて来たのは――


「例のブツを引き取りに来たぜ」
 向坂 玲治(ja6214)は通路の出口に立ち塞がる。
 目の前には正気を失ったダルどんが、その後ろには「例のブツ」を背負った呂号――未来の姿があった。
「俺がこいつを食い止めてる間に、そいつを外に運び出せ」
「助太刀感謝する」
 未来は玲治に礼を言うと、ダルどんの脇をすり抜けて一気に駆け抜けようとする。
 しかし、そこにもう一人、新たな敵が現れた!
「俺はミハイル。レドゥ配下、三人目のヴァニタスだが、波号とか変な名前で呼ぶなよ?」
 ダークスーツにワインレッドのネクタイ、そしてサングラス。
 元の名をミハイル・エッカート(jb0544)という。
「ミハイル? あんた学園の撃退士じゃなかったのか?」
「ああ、ついこの間まではな」
 玲治に問われ、ミハイルは黄金の髪を掻き上げながら口元を歪めた。
「俺だって、本当はヴァニタスなんぞになりたくはなかったさ。だがな……」
 全ては、あの緑色をした悪魔、ピーマンのせいだ。
「奴にかけられた呪いのせいで、俺は! 俺はピーマンしか食えない身体になっちまったんだ!」
「ん? 嫌いなものが食えるようになったなら、良かったんじゃないか?」
「良い筈がないだろう!」
 嫌いなものが好きになったわけではない。
 嫌いなものが嫌いなまま、それ以外のものが全く食べられなくなってしまったのだ。
 勿論、大好物のプリンもだ。
「お前にこの苦しみがわかるか!」
 これならご立派様のご開帳画像をネットでバラ撒かれた方がまだマシだったぜ!
 何しろ自慢できるほど立派だからな! ※個人の感想です
 尻は既にCMやポスターで晒されまくっているし、今更それが前に回ったくらい、どうという事もない! 多分!
「だから俺は、ヴァニタスになる道を選んだ。人間を捨てれば食事を摂る必要もないからな!」
 食事が不要なら、例えピーマンしか食えないままでも問題はない。
「レドゥ様は俺を快くヴァニタスにしてくれたばかりか、ピーマンの呪いを解いて下さったのだ! 俺は一生、レドゥ様に付いて行くぜ!」
 もう死んでるけどな。
「そんなわけで、レドゥ様の邪魔をする奴はこの俺が許さん」
 ミハイルは未来に向き直り、銃口を突き付ける。
「おう、未来」
 じりじりと壁際に追い詰め――
「その布団を置いて降伏するか、ここで俺に撃たれるか、俺とデートするか」
 どん!
「選ぶがいい」
 女子の憧れ、壁ドンである。
 ただし、ミハイルが叩いたのは未来が背負ったオネショ布団。
 ドンと叩けば、もわんと広がる香ばしい香り。


「これは、どちらを助けるべきなのでしょう」
 雫は悩んでいた。
 目の前のやりとりは余りにもアホらしく、もう呆れるしかないレベルだ。
 しかし手段はアレだが、あの布団が戦いを終わらせる切り札であるならば。
 そしてあの大きなクマが洗脳されているというのであれば。
「どうやら加勢すべきは、追い詰められている女性の方である様ですね」
 雫は覚悟を決めて前に出る。
「おう、手ぇ貸してしてくれんのか!」
 向こう側から玲治が声をかけて来た。
「俺はダルどんを食い止める、そっちはミハイルを頼むぜ!」
「わかりました」
 通路の両側から挟み撃ちだ。
 雫は未来の逃げ道を作るべく、ミハイルにスナイパーライフルの狙いを付けた。
 え、体術を使った接近戦がメインじゃないのかって?
「いやです、近寄りたくありません」
 布団にも、それを背負った未来にも、ドンしたミハイルにも、絶対に。



●大惨事スーパーメカ大戦

「章治おにーさんは魔法使い…!」
 シグリッド=リンドベリ(jb5318)は、きらっきらの眼差しで門木を見る。
「すごいのです、かっこいいです…!」
 こんなすごい事をあっさりやってのけるくせに、本人はいつもと変わらぬボンヤリさんなのがまた良い……らしいです、はい。
 シグくんの目には、一体どんだけのフィルタがかかっているのでしょうか。
 まあ、それはともかく。
「ぼく桜だいすきなのです…! 綺麗ですね…!」
 シグリッドと華桜りりか(jb6883)は、門木を挟んで桜の下に。
 レジャーシートにお花見弁当を広げ、のんびりと満開の桜を楽しんでいた。
 すぐ傍で怪獣大戦争が繰り広げられていても気にしない。
 気にしていたら身が持たない。
 何か巻き込まれそうな嫌な予感はひしひしと感じるけれど、きっと気のせいだ。
 誰かの「シーグーぼー、あーそーぼー!」という声が聞こえた気もするけれど、それは幻聴に違いない。
 きっと疲れてるんだ、うん。
 疲れを癒すには、のんびりお花見が一番ですよねー。
 門木と一緒なら尚良し、いや寧ろ花より門木。
「めいっぱい楽しむのです…!」
 シグリッドは子猫のマシュマロを頭に乗せて、門木の杯にせっせと酒を注ぎまくる。
「章治兄さま、これもどうぞ、なの」
 りりかが差し出したのは、桜の塩漬けを乗せたお手製クッキーと、桜パウダーを混ぜ込んだパウンドケーキ。
 どちらも淡いピンク色に染まり、鼻を近付けるとほんのり桜の香りがする。
 甘い中にも塩味が効いたそれは、酒の肴に丁度良かった。
 通常ならチョコ以外にはやる気を見せず、やる気が出来映えに比例するというりりかさんだが、これは夢。
 夢なら何だって上手に作れてしまうのだ。
「もちろん桜のチョコもあるの……」

 しかし、そんな平和なひとときは長く続かないのがお約束。
「シーグーぼー、あーそーぼー!」
 今度は幻聴ではない。
 と言うか最初から幻聴ではなかった。
「さあ行くで! 俺らも超ロボット大戦に参戦や!」
「ちょ、ゼロおにーさん!? ぼく聞いてないです、ロボとかメカとか苦手ですし…!」
 だがしかし、ゼロは問答無用でシグリッドの首根っこを引っ掴み、猫型ロボットの口の中にぽーいと投げ入れた。
 ぱっくん!
 呑み込まれたシグリッドは、猫ロボのお腹の辺りにある操縦席に強制セット。
 上から降りてきたネコミミ付きヘルメットが頭を覆い、両手には猫の手グローブが装着される。
「シグ坊ネコ好きやろ!」
「好きですけど、好きですけど…!」
 違う、これは違う。
「心配いらんて、すぐにかどきっつあんも――」
 巻き添えにしてやる、と思ったけれど。
「させないの、ですよ?」
 立ちはだかる中魔王様、いや、既に大魔王様でいらっしゃいましたか?
 何だろう、夢補正が加わっているのだろうか、いつもの一万二千倍くらい迫力がある気がする。
(これは逆らったらアカンやつや!)
 本能的に察したゼロは素早く身を引いた。
「残念やったなシグ坊! でも大丈夫や、お前ならなんとかなる!」
 猫ロボをがっしり抱え込んだ鴉ロボは、そのまま戦闘機モードに変形、アクロバット飛行でれっつぱーりぃ!
 ジェットコースター?
 そんなん遅すぎて蠅が留まるわ!
 オロチとの戦いはどうした?
 うん、シグ坊「で」遊んでからな!

「しぐりっどさん、章治兄さまは、あたしが守るの…です」
 子猫のマシュマロは、門木がしっかりキャッチして膝に乗せている。
 だから大丈夫。
 安心して、心置きなくゼロさんと遊んであげてください。
「ふふ…章治兄さまとお花見するの」
 しかも独り占めです。
 膝に子猫はいるけれど、この子はカウントしなくても良いですよね。
 あ、でも。邪魔者がいなくなったよ、やったね、なんて思っていません。
 そこまでは思っていないけれど、ちょっとラッキー、くらいには思っても罰は当たりませんよね。
 それに、せっかくのチャンスを棒に振る手はないのです。
 お酌をしたり、あーんをしたり、されてみたり。
 普段は恥ずかしくて甘えにくいけど――
「ぎゅ、なの…ですよ?」
 自分から抱き付いてみたり。
「……今日はずいぶん、甘えん坊だな」
 頭を撫でられ、りりかはくすぐったそうに身を捩る。
「だって、夢なの…です」
 覚めないうちに、思いきり楽しんでおかないと。

 その様子を見て、シグリッドは涙目。
 しかし今はまだ戻れない、ゼロの気が済むまでは――
「しょ、章治おにーさん、待っていてくだきゃぁぁぁーーーこ、これが終わったらぼく、ぼくわあぁぁぁーーー」
「シグ坊、言うたらあかん、それフラグや!」
 そーれ全力回避!
「なんも言えんように、もっと派手にブン回さんとな!」
 まあゼロさん、なんてお優しいのでしょう!


 さて、ここからは真面目な(?)スーパーメカ大戦。
 実況はいつの間にか花見の席に紛れ込んでいた、アスハさんにお願いします。
『えー、いよいよ始まりました、第三次……大惨事? まあ何でもいい、勝手にやってくれ』
 アスハとしては酒が不味くなりさえしなければ、後はわりとどーでもいい、らしい。
 しかし、そんなやる気のない実況に対して、メカオロチ上の淳紅からダメ出しが来た。
「アスハさん、せめて自分の渾身のアイデアくらい解説したってや」
 ヒラヒラとメモが飛んで来る。
『ふむ、第一の首は草薙の剣を吐くカッコ昨日飲んだお酒カッコガソリンカッコトジにまみれててちょっとくさい』
「アスハさん」
「何だ」
「もうちょい臨場感とか、なんかスゴイ感とか、出してくれてもええのよ?」
 それただメモ読み上げてるだけ、しかも棒読みじゃないですかやだー。
「注文の多い奴だな」
「えらいすんません、でも自分、他に活躍の場がないんで……!」
 ネタだけ出して、力尽きました。
 それを生かすも殺すも実況次第なんです……!


 というわけで、ちょっと気合い入れて実況いきまーす。
「俺は最強だぜヒャッハー!」
 ネオクレーンキャッスルインラファルの両目――多分、帽子の下にあるから、あれが目なのだろう――が光り、灼熱のビームが大地を払う!
 しかし迎え撃つメカオロチは口から無数の草薙の剣を吐き出して応戦、昨日飲んだガソリン酒にまみれてちょっと臭いぞ!
「こう言えば良いのか」
「せや、その調子で頼むわ!」
 しかしネオクレーンキャッスルインラファルは背中のロケットエンジンに点火、爆音と共に宙へ飛び、そこからホーミングミサイルを撃ち放つ!
 ミサイルのひとつが口中に飛び込み、ひとつめの首を木っ端微塵に打ち砕いた!
「あかん、まともに戦える唯一の首が!」
 焦る淳紅、しかしネオクレーンキャッスルインラファルは追撃の手を緩めない!
「全砲門、開け! 多弾頭式シャドウブレイドミサイル、対天使戦術核バズーカ『エンジェルダストメモリー』、スーパーコロサス光学迷彩ミサイル『プラネットディザスター』、十連魔装誘導弾式フィンガーキャノン、とにかく全部まとめて掃射!! ついでに唸れ、俺のサイコブラスター!! そして最後に、俺の名前を言ってみろぉォォォ!!!」
「え、ええと、ラファルさんや! せやろ!?」
「誰が本当に名前を言えと言ったぁァァァ!!!」
 ずごーーーん!
「ま、まだや! まだメカオロチは能力の八分の一しか紹介されてへん!」
 出したアイデアが全て採用されるまで、倒れるわけにはいかないのだ!
「いっけえぇ、第二の首! あのロボを口説くんや!」
 第二の首は女の子を口説き落とす事に全てを賭けたナンパ首!
 男の夢と希望を乗せた渾身のアタックは――

 じゅっ!

 あ、なんか一瞬で蒸発したね。
「こうなったら第三の首、ロボ掃除機ル○バにトランスフォームや!」
 分離した首がトグロを巻いて、グルグル回りながら大地を走る!
 ロボ掃除機は地上に存在する全てのゴミを呑み込み、自分のエネルギーとする事が出来るのだ!
 これは空を飛べない黒百合城が圧倒的に不利か!?
 しかし、ロボ掃除機の行く手には巧妙に仕掛けられた地雷が!
「お前は最後に倒すと言ったな」
 地雷を呑み込んでゲホゲホ咽せているロボ掃除機に向けて、エカテリーナは機関銃を掃射!
「あれは嘘だ。いや、そもそも何も言ってはいない!」
 トドメのロケットランチャーに、ロボ掃除機は見事玉砕!
 しかし勝利に酔うのはまだ早かった。
 エカテリーナの頭上から迫るメカオロチの巨大な首!
「さあ、頭から呑み込むんや! 魔法少女(男)にしたれ!」
 だがしかし、その攻撃は男性にしか効果がなかった!
「残念だったな、Hasta la vista, baby」
 内部からロケットランチャーの攻撃に晒された第四の首は四分五裂、縦に裂けるチーズの様に、細かく裂けて吹き飛んだ。
 残る第五の首はしかし、クネクネと妙によくシナる腰つきで攻撃を避けまくり、第六の首は迫り来る城ロボ達を完全に無視して花見の会場へ!


「ロボさん、凄いの…です」
 自分達が標的にされているとも知らず、りりかはロボ大戦を肴にのんびりと花見を楽しんでいた。
「ふむ、章治兄さまの魔法は凄いの…ですね。あたしもひとつ、作ってみるの……」
 城の残骸から小さな欠片を取ってきたりりかは、さて、これで何を作ろうかと思案する。
「チョコのお城にしたら美味しそうだけど、きっとたたかいにはむかないの……」
 しかし、世の城が全て戦う為だけに存在するわけではない。
 城ロボにも「戦いたくないでござる」と言い出すものがあっても良い筈だ。
「みにちゅあのお城を作ってみるの……」
 出来上がったミニ鶴ヶ城は、小さいながらも変形機能付きで大砲も打てる高性能、更にはほんのりとチョコの香りがする。
 それもその筈、大砲の弾はチョコの塊だ。
 丸いチョコ砲弾の中身は、キャラメルにピーナッツに、イチゴ。
「はい、兄さま。あーん、なの……」
 狙って撃てば、チョコ砲弾はぽーんと飛んで口の中。
 未だかつて、これほど平和な大砲の利用法があっただろうか。
 しかし、そこに平和とは縁遠い怒濤の連続攻撃が!
「行け、リア充殲滅や!」
 メカオロチ第六の首は、リア充のみ鬼気迫る勢いで攻撃する!
 兄妹だって、仲が良いならリア充認定で問題ない筈だ!
 血走った両目から迸る血涙ビームがリア充を薙ぎ払い、嗚咽と共に吐き出される嫉妬弾は千々に分かれて雨の如くに降り注ぐ!
 しかし、りりかは慌てず騒がず。
 ふわりと立ち上がると、手にした扇をパチリと鳴らした。
「せっかく桜が満開なので一指し舞いましょう、です」
 桜の香りを身に纏い、りりかは優雅に舞い踊る。
 降り注ぐ砲弾は舞い散る桜の花弁の如く、扇の一振りではらりと地に落とし、血涙ビームは狭霧の如く、ふわりと風で吹き散らす。
「あかん、全然効いてへん!」
 と言うかですね、淳紅くん。
 そもそもキミも立派なリア充ですよね?
「あ」
 どどーん!
 第六の首は自爆した!
「まだや、まだ手はある!」
 行け、第七の首!
 その口中で飼っているもふもふ猫の親子を見せ付けてやるのだ!
 その攻撃は、猫好きには効果抜群!
「だ、だめです! ぼくにはとても、攻撃なんて出来ないのです…!」
 シグリッドは猫型ロボットの自爆装置を押した!
「ゼロおにーさんなら、きっと脱出装置を用意してくれてるって信じてるのです…!」
 3、2、1、シグ砲発射!
「えっ、はっs――うわああぁぁぁぁ」
 猫ロボの腹から飛び出したシグリッドは、蛇の口を目掛けて一直線!
「ねこさん逃げてえぇぇぇっ」
 ばっくん。
「シグ坊、呑み込まれてもーたわ」
 ま、ええか!
 良くない?
「しゃーない、適当に助けたるわ。来い、猫ロボ! 合体や!!」
 その声と共にパーツに分解された猫ロボが鴉の手足となって合体、最後に二羽の戦闘機鴉が組み合わさって頭部にオン!
「巨大ロボはやっぱ合体せんとな!!」
 完成、アルティメット鴉!
「喰らえ、フェザーミサイル!」
 外壁の装甲が剥がれ、黒い羽根の様なミサイルとなって飛んで行く!
 ちなみにアルティメット鴉の代謝能力はめっちゃ高い。
 剥がれた装甲は三秒で最装填が可能だ!
 しかし、もう使う必要はなさそうだった。
「トドメのドリルビークや!」
 キリモミ回転を始めるアルティメット鴉、回転しながらメカオロチに向けて飛ぶ!
 嘴の様に尖った頭の先端で――
「俺のドリルが蛇を裂くでぇぇぇッ!!」
 因みにこれ、操縦士が乗ってたら蛇の前に意識が引き裂かれている事でしょう。
 でも大丈夫、リモコンですから!
 哀れ第七の首は風穴を開けられ雲散霧消。
 降り注ぐ残骸と土煙の中から、猫達を腕に抱えたシグリッドが姿を現した。
「お、シグ坊。無事やっったんか、えらい丈夫やな!」
 もしかしてメカオロチよりも頑丈なのではなかろうか。
「だ、大丈夫です……まだ、死ぬわけにはいきませんから…!」
 諦めないよ、良い返事を貰える可能性が、微粒子レベルでも存在している限り!


「うん? これは……ああ、そうか。これは夢ですね」
 エイルズレトラ マステリオ(ja2224)は、ここに至って漸く全てを理解した。
「夢ならば、好きにさせてもらうとしましょうか」
 理解したなら行動は早い。
 エイルズレトラはお馴染みのカボチャマスクにシルクハット、タキシード姿の怪人に――と、ここまでは普段と変わらない。
 だがしかし、今日のカボチャ怪人は一味違った。
「パンプキンパワー、最大出力! 巨大化機構、オン!」
 戦場を覆う謎の霧(スリープミスト)を打ち払い、身長57メートル、体重550トンの巨大怪獣、現る。
 でも巨体の割には軽いからね、身軽だし空もスイスイ飛べるよ!
「さて、暴れますか」
 手にしたステッキを振り回し、黒百合基地から発進した戦闘機を叩き落とす。
「手応えのない、まるで蠅の様ですね」
 小型城ロボを蹴散らし、踏み潰しながら、巨大エイルズは黒百合基地に向かって進んだ。
「ふむ、バリアですか。でも、こんなものは――」
 割れるのがお約束、割れないバリアに浪漫はない!
 カボチャマスクの目が光り、謎のビームがバリアを襲う!

 カッシャアァァン!

 繊細なガラス細工が割れる様な音と共に、黒百合基地を覆っていたドーム型バリアが砕け散る!
「あらァ、これで勝ったつもりかしらァ?」
 ここからが本番だ、いや寧ろこの時を待っていた!
「鯱型サポートメカ、発進しちゃってェ♪」
 はい、ぽちっとな。
 地下格納庫から南鯱と北鯱、二体のサポートメカが発進、鶴ヶ城ロボと合体だ!
 武装ビルを両腕とし、鯱メカを両肩に乗せ、城が地響きを立てて立ち上がる!
「動けないと思ってたでしょォ? それはフェイクよォ♪」
 馬鹿め、引っかかったな!
 しゃきーんと立ち上がった鶴ヶ城ロボは、巨大エイルズとがっぷり四つに組んだ!
 組み合ったまま一進一退、どちらも譲らない!
「お、お、エイルズさん自分の味方してくれるんやね!」
 既に六つの首を失ってジリ貧状態の淳紅は大喜び。
 しかし、そんな筈はなかった!
「邪魔です!」
 カッ!
 巨大エイルズは鶴ヶ城ロボと組み合ったまま、鬼気迫る形相でオロチを睨み付ける!
 次の瞬間、口からよくわかんない謎のブレスを吐き出し、更に――
 げしっ!
 メカオロチは軽く蹴り飛ばされ、会津磐梯山の火口にドボン。
 説明しよう、会津磐梯山は活火山である。
 その煮えたぎるマグマの中に飛び込んだメカオロチは、双頭の灼熱竜として甦った!
 ただし片方の首はオカマである。
 もう片方の首には――
「これを倒してみぃ、自分ら皆、元の世界に帰られへんようになるで!」
 そう、そこには現実世界へ戻るためのゲートがあったのだ!
 だがしかし、もはやこの夢から覚める事など誰ひとりとして望んではいない!
「それがどうしたのよ!」
 天空から聞こえるナナシの声。
「さぁ、ひれ伏しなさい。貴方達は鶴ヶ城城主の目の前に居るのよ!!」
 空を覆い尽くす巨大な城の底部に無数の穴が開き、そこから雷の矢が雨あられと降ってくる!
 勿論、敵味方の区別などしない。
 その規模はアスハの蒼刻光雨がジョウロの水撒きレベルに見えるほど!
「やってくれるな」
 わざわざ盛り上げなくても、スーパーメカ大戦は勝手に盛り上がっている。
 しかしアスハにはまだ切り札が残されていた。
 最後に笑うのは誰か、それは――



●掲げよ、勝利の旗印を!

「そんじゃま、削り合いといこうぜ」
 白銀の槍を掲げ、玲治は真っ正面からダルどんに突っ込んで行った。
「まぁ、足止め程度にしかならんが、どこまで行けるか試してやるぜ!」
 通路は狭く、普通なら長さ4mの槍を振り回すのは不可能。
 だが、これは夢だ。
「出来ると思った事は何でも出来る!」
 玲治はダルどんが大上段から振り下ろす偃月刀の刃を、避けもしないでまともに食らう。
 だが狙い通りだ!
「肉を切らせて骨を断つ! ついでに見ろ、これが火事場の馬鹿力だ!!」
 カウンターからの渾身の一撃!
「んぐおぉぉっ!?」
 当たった。しかも結構効いてる。
 しかし力を出しすぎた反動で玲治は動けない!
「と思うだろ?」
 だがこれは夢だ。
「動けると思い込めば、動ける!」
 槍を引き戻し、上段から振り下ろす!
「ぬうぅぅん!」
 しかし今度は偃月刀の柄に阻まれ、逆に槍を絡め取られてしまった!
「やっぱ強ぇな。だが、こんだけ激しく動いてりゃ耳栓も自然と落ちたりするだろうぜ!」
「いや、駄目だ!」
 しかし、未来が叫ぶ。
「よく見てみろ、そいつは接着剤でくっつけてある!」
「何だと!? また面倒くせぇ事を……!」
「これを使え!」
 未来が投げて寄越したのは、シール剥がし。
「それを耳の穴にぶち込むんだ!」
「お、おう!」
 しかし、出来るのか?
 ダルどんにそこまで接近するには、誰かのサポートが欲しいところだ。
 と、そう考えたまさにその時。
「待たせたな!」
 エカテリーナ、参上!
「話は聞いた。ダルどんは私が引き付ける、その隙にシール剥がしを!」
 流石は夢、都合良く出来ている。
「来いよダルドフ、耳栓なんか捨ててかかって来い!」
 抜刀・蒼波を抜き放ち、エカテリーナはダルどんと切り結ぶ!
「見上げた忠誠心だな。だが貴様が命を張るほど値打ちのある相手か? 頭を冷やしてよく考えてみろ!」
 しかし、今のダルどんにはどんな言葉もただの雑音でしかなかった!
「ぐおぉぉぉ!」
「くっ、やはり耳栓を取らねば説得も効かぬか」
 その隙に、玲治はダルどんの背後に回り込む。
 だがしかし!
「そうはさせん!」
 その背に向かってミハイルのPDWが火を噴いた!
「ダルどんは渡さないぜ 、くたばれ撃退士!」
 ミハイル、殺る気満々。
 だがその意識がダルどんの援護に向けば、未来に対する注意は疎かになる。
「今のうちです、早く!」
 雫は未来を出口に向けて促した。
 しかし。
「ふっ、甘いぜ!」
 今のミハイルはヴァニタス、撃退士時代には出来なかったPDWとカルタゾーノスの二丁拳銃で同時攻撃、しかも両方に別々のスキルを乗せて、なんて事も出来るのだ。
「くくく、俺は元学園生だぜ。お前らのやることはマルッとスキッとサクッとお見通しだ!」
 だが雫も負けてはいない。
 銃撃を氷の壁で防ぎながら、ミハイルに向けて突っ込んで行く。
「これが夢なら、現実とは違うスキルの使い方も出来る筈!」
 目の前に作り出した氷の障壁が攻撃を受けて粉々に砕け散った瞬間、その破片が鋭い刃物となってミハイルに襲いかかる!
 ミハイルはシールドを展開、だがそれで玲治への攻撃が手薄になった。
「今だ、シール剥がし注入!」
 ぶっちゅうぅぅぅ!

 ぽろり。
 ダルどんの耳栓が落ちた。
 ついでに憑き物も落ちた。
「そ、某は一体何を……!?」
「ちっ、正気に戻っちまったか。なら遠慮なく始末させてもらうぜ!」
 ミハイルはダルドフに向けてダークショットを撃ち放つ。
 だが、ダルドフはそれを気合いで跳ね返した!
「裏切り者の刃など、某を貫けはせぬわ!!」
 どうやら状況は理解しているらしい。
 ついでに何故か、敵の機密も知っていた。
「ミハイル、ぬしの新たな弱点は――」
 くらえ!!
「このニンジンが目に入らぬか!」
 意義あり!
「入るわけないだろう、そんなデカいもの!」
「ならばこうしてやる!」
 ぐっしゃぁ!
 自慢の握力で握り潰し、ニンジン100%ジュースをぶちまける!
「くっ、ぐわあぁぁぁ、目が! 目があぁ!!」
 それはミハイルにとって、バルスの呪文にも等しい効果を発揮した!
 いつの世も、裏切り者の末路は悲惨なものである。
 ちーん。


 一方こちら、まだまだ続くスーパーメカ大戦。
 今や状況は混沌を極めていた。
 巨大エイルズは手当たり次第に暴れ回り、メカオロチの尾から生み出された無数の小型飛行オロチと、天空のナナシ城から飛び出した百万機の小型鶴ヶ城(飛行形態)がドッグファイトを繰り広げ、死亡フラグを叩き折ったシグリッドは門木の手を取って――

「好きです、愛してます、結婚してください!!」

 毎回いまいち通じてない気がするし、これが夢なら言っても意味は無いかもしれないけど!
 振り向いてもらえるまで少年は諦めないのだ、目指せ脱・弟ポジション!
 さあ、門木の返答は如何に!?

「……無理だな。レベルが足りない」
「えっ」
 って言う事は、なに?
 強くなれば、もしかして!?
「あ、あのっ! どれくらい強くなれば…っ!?」
「……99」
 え?
「……レベル99と、書類一式と、指輪…だったか」
「待ってください、そんな、レベル99なんて辿り着ける人…っ」
 いや、待てよ。
 それってもしかして。
 カッコカリのやつ、ですか?
「章治おにーさん、それ世界が違――」

 だが、シグリッドは最後まで言う事が出来なかった。
 世界の終わりがやって来たのだ。

 徐々に高度を下げた天空の城が、その質量で全ての存在を押し潰す!
 だが、ネオクレーンキャッスルインラファルがそれを受け止め、支えた!
「官軍の攻撃にも耐えきった強固な城壁をナメんなぁっ!!」
 いくぜ反撃!
「トドメだ!! 会津磐梯山ダイナミーーーック!!!!!」
 まさに山の如き超質量の天空城を投げ飛ばし、メカオロチの真上に逆さ落とし!
「俺様最強!!! 」
「だと思うだろ?」
 満を持して、アスハ登場!
 いや、ただ自爆装置のボタン押すだけなんだけどね。
「全てをくず鉄に戻すんだ、鶴ヶ城!!」
 ぽちっとな。

 その瞬間、全ての鶴ヶ城ロボとメカオロチに仕込んであった自爆装置が一斉に爆発した。
 生き残ったネオクレーンキャッスルインラファルも、黒百合城も、ひっくり返った天空城も、巨大エイルズも、鴉も、メカオロチも、オネショ布団を勝利の旗の如く掲げて走って来る未来の姿も、桜も花見客も、全てを呑み込んで――

 世界は消えた。








●それでも世界は続いている

「片翼天使さん達と一緒に、のんびりお花見しようと思ってるうちに……何だか全部終わってましたの」
 神谷 愛莉(jb5345)は夢でも見ていたのだろうかと、傍らの礼野 智美(ja3600)を見る。
 いや、これもまだ夢の続きなのだろうか。
 ついさっき、会津盆地全滅規模の大爆発があって、全てが無に帰した様な気がするのだけれど。
「普通なら死んでる、でも多分……いや、実際に生きてる」
 全てを破壊した張本人、アスハが少し残念そうに呟いた。
「これがコメディ、か」
 壊れた筈の鶴ヶ城は元通り、しかもコピーで増えた各種バージョンどころかメカオロチまでもが合体し、もう何だかわからないものになっている。
「……城の自己主張が激しくて桜どころじゃねぇな」
 玲治は何とも言えない表情で城を見上げた。

 でも花見はするよ!
 こうなったらもう、敵も味方も関係ないし!
 辺りを見回せば、世話係達に囲まれたレドゥの姿もあった。
 どうやら着替えも無事に済ませた様だ。
 例のオネショ布団も、公衆の面前に晒される寸前に世界の消滅という形で「なかったこと」にされたらしい。
 何はともあれ、めでたしめでたし。


 え、元の世界への帰り方?
 それは復元されたメカオロチ第八の首に――

 あれ、首が七本しかない。
 現実世界に帰るゲートは、一体どこに……?


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
誓いを胸に・
ナナシ(jb3008)

卒業 女 鬼道忍軍
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
撃退士・
シグリッド=リンドベリ (jb5318)

高等部3年1組 男 バハムートテイマー
リコのトモダチ・
神谷 愛莉(jb5345)

小等部6年1組 女 バハムートテイマー
Cherry Blossom・
華桜りりか(jb6883)

卒業 女 陰陽師
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
天と繋いだ信の証・
水無瀬 雫(jb9544)

卒業 女 ディバインナイト
負けた方が、害虫だ・
エカテリーナ・コドロワ(jc0366)

大学部6年7組 女 インフィルトレイター