.


マスター:STANZA
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/02/04


みんなの思い出



オープニング



 ここ久遠ヶ原島では、昔ながらの商店街が健在だ。
 しかし、だからと言って今風の大型ショッピングモールが存在しない、というわけではない。
 日常の買い物は馴染みの商店街、映画鑑賞などのレジャーも兼ねて家族や友人達と出かけるのがショッピングモールという風に、綺麗に棲み分けが出来ているのだ。

 そして本日、モール内の大型店では冬物衣類の大バーゲンが開催される事になっていた。


「母上、ちょっと買い物に行って来るのです」
 風雲荘のリビング。
 手持ち無沙汰にTVを見ている母に向かって声をかけた門木章治(jz0029)の、続く言葉は――
 一緒に行こう、ではなかった。
「留守番を、お願い出来ますか?」
 その言葉に、リュールは僅かに目を見開く。
 多分それは驚きの表情に分類されるものだろう――普段は余り表情筋を動かさないし、それが動く前に手や足や魔法が出る為、わかりにくいけれど。
「ああ、わかった……楽しんで来ると良い」
 息子の変化に戸惑いを憶えつつも、リュールは快く送り出す。
 本来なら、もうとっくに親離れしても良い歳だ。
 少々寂しくはあるが――

「私もそろそろ、子離れするべきか……」
 ほろ苦い笑みを浮かべて、リュールは呟く。

 大丈夫だ、留守番する際の心得は、この前の一件で嫌というほど叩き込まれた。
 とは言うものの。

 誰か、誘ってくれても良いのよ?



リプレイ本文

 日曜日の午前中。
 風雲荘に立ち寄ったユウ(jb5639)は、日当たりの良いリビングでぼんやりTVを見ているリュールに声をかけた。
「お暇でしたら一緒に買い物に行きませんか?」
 微笑んだその背後で、雪室 チルル(ja0220)と菊開 すみれ(ja6392)が手招きしている。
 更には、同じく誘いに来た星杜 藤花(ja0292)の姿もあった。
 藤花はそろそろ人間界の貨幣経済についての感覚も身に付いて来ただろうかと声をかける。
「せっかくですし、ちょっと出かけてみませんか? 私もママ友として、たまには息抜きのお喋りを楽しみたいですし」
 皆の誘いに、リュールは溜息をひとつ。
「お前達も物好きだな」
 折角の休日、年寄りなど放っておいて若い者同士で楽しめば良いだろうに。
 などと言いつつ、誘われれば悪い気はしない。
 そして一度重い腰を上げればノリは良く、フットワークも軽いのだった。

 まずはユウ達と一緒に若者向けの店が並ぶ一角にやって来たリュールは、物珍しそうに目を輝かせ、あっちにフラフラこっちにフラフラ。
 興味の赴くままに歩き回るその後を、ユウは保護者の様に付いて歩く。
 驚きの声には相槌を打ち、疑問には丁寧に答え、時には皆とはぐれない様にさりげなく誘導しながら。
「春物買うなら今がチャンスね!」
「そうね、ちょっと先取り感があるけど、良い物はすぐに売れちゃうし」
 リュールのお守りはユウに任せ――たわけではないけれど、チルルとすみれは自分の服を選ぶのに忙しい。
「あたい、春物のコートも欲しいわ! 菊開はどんなのが良いの?」
「そうね、大人っぽいのが良いかな…あ、このチュニック可愛いね。チルルちゃん似合うんじゃないかな?」
「そう? じゃあちょっと試着してみるわね!」
 ちょっと子供っぽい気がしないでもないけれど、丈夫で動きやすそうだし、色も良い。
「やっぱり、あたいのイメージカラーって言ったらこれよね!」
 氷の様な明るめの青。
 そう言えば、リュールの瞳も同じ色だ。
「ユウさんとリュールさんは大人っぽいシックなフェミニンな感じかなあ?」
 あれ、二人共どこ行った?
「あ、あそこ!」
 チルルが指差し、すみれを引っ張って行くと、こちらはこちらで盛り上がっていた。
「私はこれにしましょうか」
 ユウが選んだのは白のカーディガンに水色のタイトスカート。
 落ち着いた大人の雰囲気だ。
「やっぱ綺麗系な人は似合うよね。私も大人っぽくなりたいなー」
「あたい、菊開は充分に大人っぽいと思うわ」
 と言うか子供っぽいのはチルル一人だけの様な――多分、本人に自覚はないけれど。
「そうかな? 私はこのワンピース着てみよーっと!」
 すみれは淡い菫色のゆったりとした服を選んで試着室へ。
 しかし、中から聞こえて来たのは大きな溜息だった。
「あれ? …うう、なんか凄く太って見える…」
 言われてみれば、確かに。
 胸が大きめなせいでラインが綺麗に見えない様だ。
「すみれさん自身は素晴らしいスタイルなのに勿体無いですね…ふむ、それならこれを羽織ってみたらどうでしょうか?」
 ユウはワンピースに合うストールを勧めてみた。
「そっか、こういうアレンジもあるんだー、ありがとうユウさん!」
 ところでリュールはどんなのが良いだろう?
 パンツスーツとか、意外と似合うかもしれない。
「小物はあたいが選んであげるわ!」
 チルルお勧めの、カッコ良くてイカす奴!


 モールの中心には、吹き抜けの広場がある。
 その周囲に並ぶベンチに、ぐったりと座り込んでいる者がいた。
「…うん、わかってたさ。俺が方向音痴なのは」
 黄昏ひりょ(jb3452)は、人の流れをぼんやりと眺める。
 少し気分転換に外出でもしてみよう、思い立ったが吉日、早速行動だ――と、意気揚々と出かけたものの。
「何度か行った事あったし、大丈夫かな〜と思ってたんだ」
 しかし自分の方向音痴を甘く見過ぎていた。
 さんざん迷って、どうにか辿り着きはしたけれど。
「誰か誘って来れば良かったかな」
 軽く後悔しつつ、しかしメゲていても始まらないと、ひりょは立ち上がった。
 そのうちに誰か学園の生徒とも顔を合わせるだろうから、その時に帰り道を訊けばいい。
「迷子センターは流石にな」
 そう言えば、今そこでマジックショーをやっているのも学園生ではなかったか。

 タキシードにカボチャマスクの奇術士、エイルズレトラ マステリオ(ja2224)は、頭に乗せたシルクハットを手に取ると、そこから鳩ならぬヒリュウのハートを取り出して見せる。
 それだけで、子供ばかりか大人までもが大喜び。
 出たり消えたり、頭上を飛び回ったり、じゃれついたりすれば、楽しそうな笑い声が辺りに響き渡る。
 カボチャ頭の奇術士は、何も持っていない手を子供の目の前で広げ、それをひらりと一回転。
 すると、掌にキャンディが現れた。
「どうぞ、魔法の味がしますよ?」
 ぼんやりと眺めている、ひりょの手にもキャンディをひとつ。
「ありがとう」
 何だか少し元気が出た。
「ちょっと散策して来るね」
 奇術士に声をかけ、ひりょは歩き出す。
 歩けば多分、何か面白いものに出くわすだろう。
 例えば…ナンパに精を出す人達、とか?


 ここは、とある紳士服店。
「さて、門木先生。男ならスーツを着こなせよ」
 というわけで、ミハイル・エッカート(jb0544)先生の特別授業が始まった。
「…スーツなら持ってる、ぞ」
「それにしたって一張羅じゃ困るだろ」
 それに問題は着こなしであって、何着持っているかという数ではない。
「まずは髪を整え…整わないな」
 何だこの纏まりのない癖毛は。
 まあいい。そこは諦めて、とりあえず服だ。
「知的なイメージに合わせてダークブルーのストライプスーツが良いな」
 40代に相応しく三つ揃えで。
 ストライプの色は目立たない程度に、シャツは白、靴は黒で無難に纏め、ネクタイは髪に合わせて暗緑色だ。
「ああ、ピンは無しだ。最近は付けないのが主流なんだぜ」
「…でも」
 門木はミハイルの胸元を見る。
 ワインレッドのネクタイには、しっかりとタイピンが付いていた。
「これはヒヒイロカネだからな」
 理由があれば良いのだ。
「ジャケットのボタンは上1つだけ留める、ベスト着てる場合は留めなくてもいい、ベスト無しなら留めるのが基本だ。座るときは外す…OK?」
 こくりと頷きながらも、門木はやっぱりミハイルの胸元を見た。
「ああ、俺がいつも外してるのは面倒だからだ(キリッ」
 格好良く見えれば良いのだ。

 店を出たところで、待っていた華桜りりか(jb6883)とシグリッド=リンドベリ(jb5318)、鏑木愛梨沙(jb3903)に合流する。
「どうだ、馬子にも衣装だろう?」
「章治兄さま、すてきなの…」
 ミハイルに言われて、りりかが頷く。
 一方、愛梨沙はふと足元に目を落とした。
「この間何かの本で読んだんだけど、スーツに白い靴下ってダメなんだって。だから別の色の靴下にしてね」
「…何が、駄目なんだ?」
「知らないけど、なんか白靴下なんて狂気の沙汰とか書いてあったよ?」
 しかしそこはミハイル先生、抜かりはない。ある筈がない。
「そっか。良かった」
 じゃあ、次は普段使いの服を――と思ったところに刺客(違)が現れた!
「さぁせっかく男前になったんやから世間に振舞わんとな!」
 ゼロ=シュバイツァー(jb7501)が、お馴染みの悪い顔で笑う。
 その両脇には既に見知らぬ女性が二人ぴったりと貼り付き、他にも何人か取り巻きの姿が見えた。
「何してるんですかゼロおにーさん」
 シグリッドは呆れた顔で溜息をひとつ、だがゼロは悪い顔でニヤリと笑った。
「何て、街に来たらやることは一つやろ♪」
「お買い物ですよね」
「なんでやねん、男の子ならそこはナンパやろ普通」
「普通じゃないのです…! それに、せんせーはぼくがお嫁さんに貰うのでナンパとか必要ないのです…!」
 むぎゅー!
 物理的にしがみついて止めようとするシグリッド。
 だがゼロが連れて来た女性達は、門木の品定めを始めている。
 中には早速乗り換えようとする者も…さあ、どうする!
 しかし、そこに頼もしい助っ人が現れた!
「章治兄さま、あたしたちとお買い物に行くの…でしょう?」
 りりかは女性達に見せ付ける様に門木の腕をとり、仲の良さをアピールしてみる。
 だがその姿はどう見ても親子、いや「兄さま」という呼びかけのお陰で辛うじて歳の離れた兄妹には見えている、か。
 つまり、効果なし。
 門木はこのまま大人の世界に連れ込まれてしまうのだろうか。
 そんな緊迫した状況下、矢野 古代(jb1679)はひとり哲学していた。
「…なんで俺はここに居るんだ」
 人は何処から来て何処へ行くのか…いや、今問題なのはそれじゃない。
 背中を流れる冷たい汗を感じて、古代はぶるっと身震いをした。
 ひとつ言い訳が許されるなら、自分はゼロに巻き込まれただけであり、決して積極的に動いたわけでは…いや、まあ、全くないという事も、うん。
(ヤバいな、これは、ヤバい…具体的にはヒリュウとかダアトとか陰陽師に狙われそうな予感しか…)
 きっと気のせいだ。
 そうに違いないと思い込むことにして、門木に声をかける。
「え? なんだ門木先生。ナンパってなんだって…」
「…知ってる。船が座礁して航行不能になる事だろう?」
「うん、お約束のボケをありがとう」
 でもそれは字も意味も違うな?
「女の子に声をかけて遊びに行く、感じかな…? そうだな、お手本を…」
 はっ、主にゼロに対する殺気!
「右腕…? 門木先生だけならいざ知らず、なに父さんまで巻き込んでるのかしら右腕…?」
 女王陛下、矢野 胡桃(ja2617)―― 降 臨 ――満を持して。
 皆の者、控えよ。陛下の御前なるぞ。
 仁王立ちする陛下の、それはそれは清々しくも禍々しい笑顔に威圧され、ゼロにくっついていた女性達はあっという間に逃げて行った。
 その様子を面白そうに眺めていたミハイルは、門木の大人への第一歩たるナンパデビューを邪魔されてはならじと妨害工作に出る。
 声真似ならお手のもの、門木の声色を使って攪乱――
「は? 妨害工作?」
 効果がなかった。
「女王陛下である私に、そんなもの効く、とでも…?」
 上から目線の冷笑を浴びせる女王様。
 物理的には完全に下から見上げる形だが、良いの、気分の問題だから!
「父さんも。なにしてるの? モモというものがありながら、なにしてるの? 浮気? 浮気なの?」
「いえ、モモ。これは違うんだ。五回なんだ。まだ五回しか声掛けをごめんなさい」
 思わず土下座る古代パパ。
 しかし、そもそも二人は父娘であるわけで、つまりそれを浮気とは呼ばn
「そんな逃げ口実求めてないわね?」
「いや、それは口実じゃなくて事実なのではないでしょうkごめんなさい」
 わかればよろしいmgmg。
 門木にも罰としてmgmg。
「さぁ行くわよ。追加の罰として、今日一日門木先生はシグリッドさんとりりかさんと手をつなぐこと!」
 え、それは罰とは言わないのでは…?
「ああああああああ」
 そして連れ去られる古代パパ。
「え、なんで腕組むn…アッハイ俺がナンパしたからです」
 さあ皆で楽しく買い物の続きをしようねー。
「ゼロさんもお買い物、行きましょう? …です」
 りりかはゼロの袖を引く。
 ナンパよりきっと楽しいよ?
「まあ俺は皆と楽しく騒げればそれでええわ。バラエティスタイルっちゅうやつか?」
 それに多分きっと、この面子なら黙っていても逆ナンされる。
「多分先生の方がモテるやろけど楽しいから問題ない! 先生もいろんな人間と接触せんとな〜」
 でないと知識が偏るからね!
 学園生だけで充分バラエティに富みすぎているとかいう事実は気にしない。


「髪の毛…バッサリ行っちまったンんだな」
 思いきりよくショートカットにしたセレス・ダリエ(ja0189)を見て、ヤナギ・エリューナク(ja0006)は驚きの声を上げる。
「…おかしい…でしょうか」
「いや、似合うケド、さ」
 何か気分を変えたくなる様な事でもあったのだろうかと、少し心配になるけれど。
「そだ! その髪型に似合うような洋服でも見繕いに行かねェか?」
「…服…ですか」
「こう、髪切ったからにはイメチェンとかしてェじゃん?」
 普段は制服でいる事が多いけれど、見繕ってくれると言うのなら、お言葉に甘えてみようか。
 というわけで、やって来ましたお買い物。
「ショッピング…普段は来ないので…誘って頂いて、有り難う御座います…」
「ん、良いって。それより、なんか気に入ったモンあるか?」
 そう訊かれてもセレスにはよくわからず、店内を不思議そうに見まわしている。
 きっとヤナギに任せておけば失敗はない、と、思う。多分。
「これでも無ェ…アレでも無ェ…」
 頼られたヤナギは張り切って探す。
「お、コレなんかどうだ?」
 嬉しそうに手渡したのは、黒系パンクなセット物。
「…ヤナギさんが着そうな服ばかりですね…」
「ああ、確かに俺の趣味、丸出し…だな。嫌か?」
「…嫌では…ないです」
 似合わなくても笑わないでくれると良いのだけれど。
「…如何…でしょうか?」
「…意外と似合うじゃねーか。セレスは元が良いからな」
 笑うなんて事はしないと微笑したヤナギは、何かを思い付いた様に言った。
「あ、ちょっと待ってろ」
 何処へ行くとも言わずに飛び出したヤナギの後を、セレスは目で追う。
 やがて戻って来た時、その手にはヘアピンが握られていた。
「動くなよ?」
 二つのピンをバツ印に留めて、ヤナギは自分の頭を指差す。
「お揃い、だろ?」
「…お揃い、ですね」
 ヤナギの微笑に釣られたのか、セレスも僅かに顔を綻ばせた。
 何となく、嬉しい。
「他にも色々あるかンな、めいっぱい見て回ろうぜ?」
 お揃いの二人は、楽しげな様子で人の波に呑まれていった。


「俺も久しぶりに冬服揃えておきますかねぇ」
 冬物値下げセール中と聞いて、百目鬼 揺籠(jb8361)は財布の紐を少しばかり緩める気になったらしい。
 秋野=桜蓮・紫苑(jb8416)と連れだって、いざ出陣。
「紫苑サンはしっかり手ぇ繋いで、離さねぇでくださいね?」
 大丈夫、心得ている。
 兄さんが迷子にならないように、ね!
 揺籠は着物や派手めな羽織を買い込んで、後は――
「洋服もちっと見に行きますか」
「じゃあこのおれ! 直々に! えらんであげまさっ(どやっ!」
 とは言え。
 バーゲン最前線の様子を見て、紫苑は無言で首を振った。
 あれは近寄っちゃいけない。
 どんな戦場よりもあそこは殺気立っている…。
 ここは賢く戦術的撤退、そして次なる戦場へ。
「兄さん兄さん、ここはあんま人いねぇですぜ!」
 まあ、背中にすごい形相をした鬼の絵が描かれたゴツくて派手な和柄革ジャンとか、多分きっと着る人を選ぶし。
 だが、揺籠の趣味には合った様だ。
「お、かっこいいじゃねえですか。大概のものは似合いますよ、俺ですし」
 そこに黒タートルと程良いダメージのジーンズを合わせて。
「あとグラサンもかけたらカンペキでさー!」
 流石俺、センスありすぎて怖い。
 紫苑は自分もグラサンをかけてポーズを決める。
 しかし揺籠のチンピラ臭の増し具合は半端無く、その格好で幼女を連れて歩くのはややどころか極めて危険な絵面に――ロリコンでもなければ人さらいでもないと弁明する程に怪しく見える程度には。
「しょくしつされたらオニごっこですねぃ!」
 けらけらと笑いながら、紫苑は勝手に走り出す。
「おっと、だからあんまちょろちょろするのはやめて…ああ、髪留めですかぃ」
 どうやら気になるものを見付けた様だ。
 付き合ってくれたお礼に、ひとつ買ってあげようか。
「随分種類あるもんですねぇ」
「キラキラきれいですねぃ…でもカラスじゃねーでさ、オニですしー(そわ」
 散々迷って、手鞠の様に集まった桜の下に小さな桜が房状に連なって揺れる、春らしいデザインを選ぶ。
「兄さん兄さんこれに合いやすか!?」
「あァ、良いですねぇ」
 揺籠はそれを髪に留めてやり、微笑んだ。
「今日はありがとうごぜぇやした」
 でも、まだ終わらないよ?
「パッフェ食べに行きやしょ、パッフェ!」
 普通のでいいから!


「メンズのお店? 何、僕の服見てくれるの?」
 wktkしながら問う砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)に、樒 和紗(jb6970)の冷たい視線が返って来る。
 うん、知ってた。
「…ってそうだよねー、違うよねー」
 選ぶのは、バーテンダーをしている友人へのプレゼントだ。
「俺は和服ばかりで今一つ洋服はよく分からなくて」
「うん、いいよ」
 相手が気に入らないけれど、頼られたからには協力する。
 気に入らないだけで、嫌いというわけではないし。
 ただちょっと、お兄ちゃん寂しいな!
「ハンカチぎりぃしていますが、如何かしましたか、竜胆兄?」
「いや、何でもない。何でもないよ」
 泣いてなんかいないから。
「そうですか。彼は黒と青が好きだという話でしたが…」
「彼ならこういうシンプルなのが良いんでない?」
 取り出して見せたのは、優しい青のカットソー。
「では、それにしましょう」
「あ、このシャツいいデザイン…っと、自分の買い物に来たわけじゃなかったね」
 名残惜しいけど、しまっちゃおうねー。
「で、次はバッグ? ここは和紗でも選べるでしょ、レディースだし」
 それもそうだと、和紗は自分で物色を始めた。
 金髪ツインテの友人は、どんなものが好みだったか――
「好きな色だと…緑か赤、ですか」
「んでやっぱり友達への分な訳ね」
 ジェンティアンは苦笑いを漏らす。
(もう少し自分の物を買ってもいいのよ? なんて言っても、どうせ買わないんだろうけど)
 少しばかり迷って、和紗は春らしく淡い緑のミニショルダーバッグを買った様だ。
「ありがとうございます。良い買い物が出来ました」
「ん、喜んで貰えると良いね」
 そう言って微笑んだジェンティアンの目の前に、紙袋が差し出される。
「気に入っていた様ですので」
「え? 僕に??」
 中身は先程のシャツ。
「何時の間にこの子は…っ」
 お兄ちゃん感涙!
 そんな和紗には、お兄ちゃんからも贈り物だよ。
「バッグ、こんなのはどうかなって」
「俺の分、ですか?」
「どうせ自分の分とか頭になかったでしょ」
「あ…忘れていました。ありがとうございます」
「買い物楽しかったよ」
 また頼りにしてくれると、お兄ちゃん嬉しいな。


「きゃはァ、何して楽しもうかしらねェ…色々あるわねェ…♪」
 黒百合(ja0422)は特にこれといった目的もなく、まったりとモールを散策していた。
 おひとりさまでも気にしないし、特に連れが欲しいとも思わない。
 たまたま誰かと会えば、一緒に食事くらいはしても良いけれど――
「こう、目的も目標も無く自由気ままに遊ぶ渡るのもたまにはいいものねェ♪(くすくす」
 映画の時間をチェックし、待ち時間に美術館を眺め、プラネタリウムを巡り、地下の物産展では試食品を食べ比べ。
 勿論、食費を浮かせようなどというケチくさい魂胆ではない。
 気に入ればちゃんと買う。
「これは良いですね。主張しすぎず、それでいて存在感のある上品な甘さが効いています」
 その声にふと脇を見れば、そこには土産用の和菓子を探す只野黒子(ja0049)の姿があった。
「九条屋の面々にと思いまして」
 大きく膨らんだ紙袋の中身は、ダウンコートの様だ。
 それをきっかけに何となく一緒に行動しながら、二人は女の子らしくファッションの話や恋バナで盛り上がる…筈がなかった。
 会話の中身は、もっぱら先日の大規模作戦での事だ。
 フードコートで九条 静真(jb7992)と行き会った黒子は、カレーを食べつつアドバイスを一言。
「姫扱い、と言うのは能力ではなく思考の問題ですよ。自身が今の能力でできうる最善はなにかを考えるべきです」
 それもやはり大規模関連の話だった様だ。

 黒子達と別れた黒百合は、バーゲン会場の最前線を覗いてみた。
「きゃはァ…下手な格闘技戦より面白いわねェ。まァ、自分自身が参加するのは嫌だけどさァ…♪」
 参加する気はない。だが見物する気は満々だ。
 被害が及ばない程度の距離に陣取って、持って来たドリンクを手に。
 あ、ポップコーンとかも持って来れば良かった…?


 そしてここに、勇者がいた。
「麻夜、ヒビキ! 後は頼んだ…ここは俺に任せて先に行け!」
 盛大にフラグを立てた麻生 遊夜(ja1838)は、決死の覚悟でオバチャン達の大軍に挑む。
「ユーヤ、頑張って」
 その背におぶさったヒビキ・ユーヤ(jb9420)は、ホッペすりすりで気合い注入。
「ボクはあの人だかりに入れそうにないからねぇ」
 来崎 麻夜(jb0905)は大黒柱に全てを任せ、ユーヤと 共に春物選びへと出かけて行った。
「さぁ、俺の生き様を見るが良い! 大黒柱として我が子供達の為、そのバーゲン品は俺が手に入れる!」
 身体能力を活かしてすり抜け、受け流し、流され、肘鉄を食らい、叩かれ、踏まれ、それでも!
「ぐっ…まだまだぁ! おとーさんはおばちゃんパワーに負けはしないのだ!」
 負けそうだけど!

 一方こちらは男5人、女8人分の大仕事。
「ん、責任は重大(こくり」
「んと、あの子にコレとコレ…あの子にはコレがいいかな?」
「コレが、似合いそう…コレも、いいかな?」
「あ、これとかどうだろー」
 勿論、自分達の分も忘れない。
 チア衣装に色っぽい感じのナイティにメイド服。
「今度、お披露目、だね」
「子供達がいないときに、ね?」
 顔を見合わせ、クスクス。

 荷物を宅配で送って待ち合わせのベンチに行くと、そこには変わり果てた遊夜の姿が。
「…先輩が燃え尽きてるー!?」
「…ユ、ユーヤァ!?(おろおろ」
 ぺちぺち、ぺちぺち、二人で頭を抱きかかえて頬をペチる。
「頑張った…俺は、頑張った…」
 あ、気が付いた。
「ごめんな…おれはもう、ここまでだ(がくり」
 しかし、まだ倒れるわけにはいかないのだ。
「この後は映画だけど…大丈夫?」
「まだ、つらい…?」
「え〜と、何だったっけか? 映画だっけ?」
 うん、大丈夫。ふらっふらだけど大丈夫。
 面白い映画なのに内容が全く頭に入ってこないけど大丈夫…じゃない。
「この埋め合わせは、またするから…」
 すやぁ。
「ん…お疲れ様、終わりまで、寝てていいよ?」
「ん…お疲れ様、だよ」
 二人で両側から腕を絡ませ、ホッペにちゅー。
 せっかくのデートだけど仕方ない。
 また来ればいいんだし。
「…大丈夫、待ってるから」
 でも、帰るまでには起きてね、運べないから。


「プラネタリウムか。折角だし、入ってみようかな」
 席に座ったひりょは、さっき貰ったキャンディを口に放り込む。
 星空を眺めているうちに、彼女とそのうちに星空見上げに行けたらいいね、なんて話してた事を思い出した。
 やっぱり誘えば良かったか。
(まぁ、その時は自然の星空を眺めに行くか)
 のんびり二人で星空見上げながら、お喋りするのも良いものだろう――


「ここ雑誌に載ってた美味しいパンケーキのお店なんだって! 入りましょう!」
 すみれに誘われ、チルルとユウ、そしてリュールは午後のティータイム。
「どれも美味しそうで迷うわね! 迷った時には全部食べれば良いって、あたい知ってる!」
 チルルさん、それ違うって言うか無理。
「そういう時には、お店のお勧めが良いそうですよ」
 ユウが言いつつ、自分はフルーツとホイップクリームがどっさり乗ったものを。
「じゃあ、あたいはこのプリンが乗ったのにするわ!」
 リュールはチョコとキャラメルがかかったアーモンド風味を試してみる。
「アイスが乗ってて美味しいね! 紅茶にも合う感じで最高!」
 すみれはお代わりをしそうな勢いで、幸せそうに頬張っていた。
 ダイエット? それはまた明日から!
 ところでリュールさん、ダルドフとの馴れ初めとか聞いてみたいんですけど――
「すまぬ、用事を思い出した」
 あ、逃げた。

 用事があるのは嘘ではない。
 これから藤花と買い物の約束があるのだ。
 しかし、逃げた先でも同じ様な罠(?)が待ち構えていた。
「そう言えばダルドフさんに何か贈り物はしないんですか?」
「またあれの話か」
「あら、いけませんか?」
「そういうわけではないが…」
 言わせんな恥ずかしい、という事らしいですよ?
 その様子を見て、藤花はにこりと笑う。
「夫婦仲が最悪というわけでもないのですし」
 と言うより、寧ろラブラブじゃないですかーやだー。
「人間界にはそういう贈り物を贈る日もあるのですよ? そんな時にはぜひ一緒に、どうですか?」
「まあ、考えては…おく、かもしれない」
 素直じゃないと笑いながら、藤花は息子の写真を見せた。
「私は息子にお土産を買っていこうかと…以前挨拶したあの子です」
 覚えているだろうか。
「ちょうどやんちゃが出てくる頃で…門木先生にもあんな頃はあったのでしょうか?」
「いや、あれは手のかからない子でな」
 聞き分けが良く、我侭も言わず――


 だが、その聞き分けの良い子は最近、そうでもなくなってきた様だ。
「…やだ」
 愛梨沙のチョイスに何か不満があったらしい。
 チノパンにラフなシャツ、暗緑色のセーター、それにスニーカーと揃えたところまでは良かったのだが。
 愛梨沙が自分とリュールの為に、その同じ柄で色違いのセーターを選んだ時だ。
「…つまり、お揃いって事…だよな?」
 それはちょっと恥ずかしいと言うか…いや、別にお揃いでも構わないけどね、小物程度とか、もっとさりげない感じなら。
「んと…あの、じゃあ…きーほるだーとかは、どうなの…です?」
 うん、それくらいなら良いけど。
「じゃあ…これ、部屋の鍵に付けてほしいの」
 りりかが差し出したのは、兄妹記念と買った色違いのキーホルダー。
「えへへ、お揃いなの…」
「…ん、ありがとう」
 その頭を撫でる門木のところに、今度はシグリッドが駆け寄って来た。
 モノトーン系のシャツを何枚か抱えている。
「せんせー小物は結構持ってると思うので、これなら何にでも合うかなって」
 確かに、有難い事に頂き物が沢山ある。
 そんなシグ君には、可愛い猫のキャラ絵が付いたシャツなんてどう?
「せんせー、確かにぼくはねこさん好きですけど…」
 好きだし、絵柄も可愛いけど、でも中三男子としてこれは…
「買うのです(きりっ」
 えっ。
「良かったなシグ坊、先生に選んでもろて」
 ゼロはシグリッドの頭をぐりぐり。
「で、りんりんは何を悩んどるんや?」
「んぅ…このわんぴーす…どっちが良い、です?」
 どうやらロングと膝上丈で悩んでいる様だ」
「んなもん短い方がええに決まっとるやろ、なあ先生?」
「…うん」
 あ、同意した。
「やっぱり先生も男の子やな!」
 ゼロは門木の背中をばしばし叩く。
「そういえば先生俺らもう仲ええよな? かどきっつぁんとかで呼んでもええか? 俺も好きなように呼んでくれてええし♪」
 良いけど、それ長くないですかジスウ的に。
 それを聞いて、シグリッドが何やらもじもじし始めた。
 願い事はこっそり飾ってあったものだから、言いふらしてはいけない気がする。
 でも、その希望は叶えてあげたいし…
(ぼくが名前で呼べば、皆そのうち名前で呼ぶようになるかな。でも何て呼ぼう、ナーシュおにーさん、だとリュールさんとの間の大切な呼び名だし…)
 などと考えていた時。
「…どうした、シグ?」
「章治おにいちゃ…あっ、ち、ちが…! …え、今なんて…?」
「…シグって、呼んでも良いか?」
 こくこくこく、超高速で頷いたシグリッドは願い事を見てしまった事を白状し、言った。
「あの、じゃあ、ぼくは章治おにーさんで…」
 長いな?

 静真はひとり、気ままに歩いていた。
 ぶらぶらと服を見たり、和物を扱う店で最近の流行をチェックして、次の仕入に生かそうとメモを取ったり。
(やっぱり、春は桜やんなぁ)
 雑貨屋では必需品である和柄のメモ帳や筆記用具を買って。
 その視界の隅に、賑やかな一団の姿が見えた。
(あ、門木先生や)
 静真は驚かせないように近付き、口を大きく動かした。
「こ ん に ち わ」
 お辞儀をして、今度は買ったばかりのメモ帳に文字を書いた。
『先生 なにか さがしてる?』
「…いや、買い物は大体済んだかな」
『じゃあ ひとやすみ しませんか?』
 広場を指差し、もう一筆。
『ひとりは つまらない から』
「…そうだな、皆と一緒で良いか?」
 こくり、大きく頷いた静真は先に立って歩き出した。

 広場にはベンチでクレープを食べている藤花とリュールの姿もあった。
「こういう時間も良いものですね」
 まだ続行中のマジックショーを眺めながら、のんびり一休み。
 それを見たモモりりシグのスイーツ班が黙っている筈もない。
「父さん、モモもあれ食べる。皆で食べる」
 その熱い視線に負けて、どうやらここは古代が払う事になった様だ…何故か全員分。
『なにか のみます?』
 門木には静真が冷たいお茶を持って来てくれた。
 目の前ではショーが佳境に入っている。
 最初はトランプやコインを使った大人しいマジックだったのが、次第にエスカレートして今や殆どイリュージョンと化していた。
 アルコールを口に含んでライターで着火し、ファイアーブレス!
 と、スプリンクラーが反応し、天井から水とサイレンが降って来る。
 警備員が飛んでくる中、こっそり逃げ出した奇術士はトイレで着替え、何食わぬ顔で――
「一体何の騒ぎです?」
 犯人は現場に戻るもの、らしいけれど。


 その騒動も一段落、そろそろ帰り支度を始める頃。
 静真は買ったばかりの桜柄のペンを取り出して、門木に差し出した。
「お れ い」
 微笑んで、お辞儀をひとつ。
「…こちらこそ、ありがとう」
 礼を言われる様な事は何もしていない気がするが、有難く頂いておこう。

 さて、皆で帰ろうか。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:15人

Eternal Flame・
ヤナギ・エリューナク(ja0006)

大学部7年2組 男 鬼道忍軍
新世界への扉・
只野黒子(ja0049)

高等部1年1組 女 ルインズブレイド
撃退士・
セレス・ダリエ(ja0189)

大学部4年120組 女 ダアト
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
思い繋ぎし紫光の藤姫・
星杜 藤花(ja0292)

卒業 女 アストラルヴァンガード
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
ヴェズルフェルニルの姫君・
矢野 胡桃(ja2617)

卒業 女 ダアト
リリカルヴァイオレット・
菊開 すみれ(ja6392)

大学部4年237組 女 インフィルトレイター
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
夜闇の眷属・
来崎 麻夜(jb0905)

大学部2年42組 女 ナイトウォーカー
撃退士・
矢野 古代(jb1679)

卒業 男 インフィルトレイター
来し方抱き、行く末見つめ・
黄昏ひりょ(jb3452)

卒業 男 陰陽師
208号室の渡り鳥・
鏑木愛梨沙(jb3903)

大学部7年162組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
シグリッド=リンドベリ (jb5318)

高等部3年1組 男 バハムートテイマー
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
Cherry Blossom・
華桜りりか(jb6883)

卒業 女 陰陽師
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
遥かな高みを目指す者・
九条 静真(jb7992)

大学部3年236組 男 阿修羅
鳥目百瞳の妖・
百目鬼 揺籠(jb8361)

卒業 男 阿修羅
七花夜の鬼妖・
秋野=桜蓮・紫苑(jb8416)

小等部5年1組 女 ナイトウォーカー
夜闇の眷属・
ヒビキ・ユーヤ(jb9420)

高等部1年30組 女 阿修羅