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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:10人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2015/01/28


みんなの思い出



オープニング



「ねえ、ヴァルツ」
 敬愛する上司である力天使トビトに声をかけられ、大天使ヴァルツは姿勢を正す。
 ゲート展開に失敗し、満身創痍で逃げ帰った彼を待っていたのは、子供の様に無邪気な微笑だった。
「今の僕の気持ち、当ててみてよ」
 つるんとした滑らかな喉が、くっくっと鳴る。
「当てられたら……そうだね、今度の失態は大目に見てあげる」
 それを聞いて、ヴァルツは喉から絞り出す様な声で答えた。
「トビト様には、このヴァルツめに対し、さぞやお怒りになられ、かつ失望なされた事でございましょう。かくなる上は――」
「だめ、全然わかってないじゃん」
 ヴァルツの言葉を途中で遮り、トビトは大きな欠伸を漏らした。
「ねえ、失望っていうのは、期待を裏切られた事に対して湧き上がる感情だよ? それって、僕がお前に期待してたって前提で話してるよね?」
 トビトの表情から笑みが消えた。
「お前、ナニサマ?」
「も、申し訳ございませんっ!!」
 ヴァルツは大きな身体を二つに折り曲げると、くたびれた座布団の様にその場に這いつくばった。
「出過ぎた思い上がりを……っ!」
「そう、思い上がりも甚だしいよね」
 額を床に擦り付ける部下に一瞥もくれずに、トビトは続けた。
「お前、自分はダルドフのライバルだとか言ってるみたいだけど、どこがライバルなの? ライバルっていうのはさ、実力が拮抗している者同士の事を言うんだよ?」
 ダルドフは一見ただの脳筋だが、実は頭脳派であり緻密な作戦立案や臨機応変な現場対応を得意とする。
 義をもって事に臨むその態度は周囲の信頼を集め、支配下に置いた土地の「獲物達」でさえ手懐けてしまう程だ。
 それが昂じて天界を裏切る結果となったのは皮肉なものだが――それはそれで、使い途がある。
 しかし、この男は。
「お前さ、あいつらに何て呼ばれてるか知ってる?」
 トビトの瞳に再び笑みが宿った。
「自分で調べてみると良いよ……その意味と一緒にね」


 そんな会話を交わしたのが、三ヶ月ほど前の事。
 それ以来ヴァルツは煮えくりかえるハラワタを宥めすかしながら、雌伏の時を過ごしていた。
 至福ではない。
 そんなんだったら残念な人に留まらず、完全に危ない人だ。完膚無きまでに○ルスだ。

 傷を癒し、失った力を補充し、ヴァルツは再び立ち上がった。
 汚名を雪ぎ、名誉を挽回し、トビトの将として返り咲く為に。




 正月。
 オーレン・ダルドフ(jz0264)にとって、この世界で迎える新年はこれが初めてではない。
 だが、今年の正月は一味も二味も違う。
 それどころか、去年までと同じものとは到底思えなかった。
 大晦日には工場の者達と共にTVを見て過ごし、一夜明けた今日は朝から酒を呑み、お節料理を食べ、またTVを見てダラダラと過ごす。
 そして午後、この日の為に誂えた紋付袴に袖を通し、ダルドフは雪を踏みしめて最寄りの駅へと向かった。
 正月休みを使って遊びに来る者達を出迎える為だ。
 彼等と合流し、初詣を終えたら、伝統的な正月遊びを楽しんで、翌日は書き初めと、それから、それから――
 沿道の家々には門松が飾られ、商店街のスピーカーからは雅な和楽が聞こえて来る。
 店はどこもシャッターが降りているが、寂れて閉店した訳ではない。
 元日は一切の仕事を休むのが、この国の伝統なのだ――近頃では例外の方が多い様だが。
「正月とは、のんびりと良いものだのぅ」
 ダルドフは目を細め、振袖姿の女性達にちょっぴり心惹かれたりしながら、顎髭を捻りつつ大股にゆっくりと歩く。
 どこを見ても、平和そのもの。
 天魔との争いなど、何処か遠い世界での出来事の様な気がして来る――

 ――が、勿論それは、気のせいだった。


 平和に微睡む街の眠りを吹き飛ばす様な、サイレンの音が鳴り響く。
 久しく聞く事のなかった、天魔に対する警戒警報だ。
 それとほぼ同時に、ダルドフの目に何か黒いものの姿が飛び込んで来た。
 黒衣に身を包み、漆黒のペガサスに乗った首なし騎士。
「あれは、ヴァルツの……!」
 ダルドフは撃退士から譲り受けた阻霊符を発動させ、こんな時でも持ち歩いていた偃月刀を抜き払う。
 警報が出たという事は、撃退署や学園には既に出動要請が出ている筈だ。
 ならば、その到着まで持ち堪えれば良い、わけだが――
「少々、数が多すぎるのぅ」
 目に入るだけでも、黒い集団は町の至る所に溢れている。
 いかにダルドフが一騎当千と言えど、その全てに対処するのは物理的に不可能だ。
 となると、ここは最も人が多く、かつ避難先を確保しにくい場所を優先すべきだろう。
 元日の昼過ぎに最も人出の多い場所と言えば。
「神社か」
 ダルドフは途中の首なし騎士達を首ごと切って捨てながら、下駄を鳴らして神社へと急いだ。

 案の定、神社の参道には立錐の余地もない程に人々がひしめいていた。
 その上空を舞う、無数の黒い影。
 ダルドフは全体の様子を把握しようと、自らも宙に舞った。
 地上に降りた騎士達が、参道の両脇と出口を塞いでいる。
 その向こう、大鳥居をくぐった先の境内に――奴がいた。
 角材の様な分厚い大剣を地面に突き刺し、その柄を両手で握り締めている。
「ヴァルツ……!」
「ダルドフか、待ちかねたぞ」
 ヴァルツは「降りて来い」とダルドフを手招く。
「ダルドフよ、久々に一騎打ちと行こうではないか」
 大剣を抜き放ち、ヴァルツはその切っ先で上空のダルドフを指した。
「貴様に拒否権はない。いや、拒否しても構わんが、その場合……この人間共がどうなるか、言うまでもあるまい?」
 従うより他にあるまい。
 だが。
「ヴァルツよ、某は逃げも隠れもせぬ。人質など取らずとも勝負には応じよう」
 だから、場所を変えてはくれないだろうか。
「ここは神聖な場ぞ。血なまぐさい行いは好まれまいて」
「問答無用、怖じ気付いたか裏切り者!」
 ダルドフが地上に降り立つや否や、ヴァルツは大剣を一振り。
「逆賊の言葉なぞ聞く耳持たぬ!」
「聞けぃ!」
 その刃を偃月刀の柄で受けて、ダルドフは相手を弾き飛ばした。
「某は裏切ってなどおらぬ」
「言い訳など見苦しい!」
 だが、ダルドフは言い訳ではないと言い切った。
「某は全ての始まりより、常に己が心にのみ忠実であったわぃ」
 その事に一点の曇りもないし、勿論のこと後悔もしていない。
「ヴァルツよ、ぬしはどうだ? 己を偽ってはおらぬか?」
「黙れ!」
 風を切った一撃が、羽織の袖を落とした。
 一瞬遅れて血飛沫が弾ける。
「貴様と俺は、ほぼ互角……だが、それは物理攻撃のみに限定した場合だ」
 これまでの戦いでは勝負を楽しむ為に、敢えて魔法攻撃を封印していた。
 だが、これは遊びではない。
「貴様の首、貰って行く」
 それを土産に、トビトに許しを請うのだ。

 魔法攻撃を交えても、ダルドフがそう簡単に落ちるとは思えない。
 だが、長引いても構わない――いや、寧ろその方が都合が良い。
 戦いが長引くほど、回復手段を持ち合わせてないダルドフは窮地に追い込まれるのだから――



リプレイ本文

 雪景色の中を、僅か二両編成の電車はガタゴト走る。
 日頃は地元の人々しか利用しないローカル線に、この日は何人かの撃退士達が乗り合わせていた。
 いずれもダルドフの所へ新年の挨拶に行こうという面々だ。
「そろそろ着きますよ、二人とも降りる準備なせぇ」
 網棚から荷物を降ろしつつ、百目鬼 揺籠(jb8361)は窓に貼り付いた二人の子供達に声をかける。
 キョウカ(jb8351)はスケッチブックをランドセルに仕舞い、秋野=桜蓮・紫苑(jb8416)は殆ど空になったお菓子の袋を無造作にリュックに突っ込んだ。
「忘れ物ねぇですかい? 切符はちゃんと持ってますか?」
「だいじょぶ、なの!」
 キョウカが元気に答える。
「兄さんこそ、ほら、ちゃんと持ってくだせ?」
 紫苑は風呂敷に包まれた一升瓶を両手で抱え、揺籠に手渡した。
「それとも、おれが持ちやしょうか? 兄さん滑って転んだりしそうですしねぃ」
「紫苑サン、人をドジッ子みたいに言うもんじゃありませんよ」
 にししと笑う紫苑に軽くデコピンを喰らわせて、座席を離れた揺籠はドアの前へ向かう。
 その後に、見知った顔がいくつも続いた。
 ここで降りる者は全員、久遠ヶ原の生徒――勿論、目的も同じだ。


 彼等が駅の改札を抜けた直後。
 すぐ近くに設置されたスピーカーから、大音量のサイレンが鳴り響いた。
「これは…天魔の襲撃か。年初めなのに忙しない事だな…!」
 志堂 龍実(ja9408)が辺りを見回す。
 駅の周辺に敵の姿はなく、人々の様子も比較的落ち着いている様だ。
「襲われてるのは何処だ?」
「待って下さい。今、撃退署に――」
 スマホを手にしたユウ(jb5639)が「繋がった」と手で合図を送る。
「…はい、はい。わかりました」
 黒田隊には既に学園側からの援護要請が出ている様だ。
 他に何か伝えたい事があるかと目で問うたユウに、ミハイル・エッカート(jb0544)が軽く手を挙げる。
「神社が集中して狙われてるんだな? だったら、まずは参道にいる人質を逃がすのが先だ。何人か手を借りて、護送用のバスを回して貰えないか?」
 それに対する答えは、可能だが充分な数を確保出来る保証はない、というものだった。
「ああ、それで構わん」
 人質の数が少しでも減るなら、それだけ守りやすくなる。
 敵がバスを追いかけて行く危険もあるが、黒田達もプロだ。
「かつおじたん、やるときはやってくれる、なの!」
 キョウカの中では、随分と黒田の株が上がっている様だ。
「あとね、おそとにいるひとに、たてもののなかにはいってくださいって、おねがいしてもらうといいとおもった、だよ?」
 防災無線の放送がくり返し流されてはいるが、聞こえにくい場所があるかもしれない。
 彼等に町の守備を頼むなら、そこも気に掛けて貰うのが良いだろう。
「大切な年初めに、こんな事件を起こすなんて…ダルドフさんも動いているはず、何としても食い止めなくては」
 ダルドフは神社へ向かうとの連絡が入ったきり、撃退署からの無線での呼び出しにも応じていない様だ。
「お父さん、ケータイも持ってやせんからねぃ」
 連絡を取りたければ、工場の固定電話経由の呼び出すしかない。
 いくら文明の利器に弱いとは言え、いいかげんそろそろ携帯電話くらい使える様になって欲しいところだ。
 通話だけに機能を絞った子供向けで良いから――いや、それでは小さすぎて操作が出来ないか。
 確か携帯音楽プレイヤーは誤動作が多くて困ると言っていた。多分、ボタン三つくらい同時に押してしまうのだろう。
「あれ、ちっせぇーですからねぃ」
 だが、神社が開放されたという情報がない以上は、今もそこにいる筈だ。
 それだけ確認すると、紫苑を道案内に彼等は走り出した。
「こっちでさ!」
 既にこの辺りは探検済みだ、裏道から私道、果ては余所のお宅の庭先まで横切って。
「しつれーします、なの!」
 ショートカットを駆使して神社の参道へ――


「新年早々にお礼参りとはご苦労な事だ」
 学園で報せを聞いた黒羽 拓海(jb7256)は、取る物もとりあえず転送装置へ走る。
「お陰で彼女の御節を食い損ねた。どうしてくれる?」
 という冗談はともかく、敵襲があれば盆も正月も関係なく駆けつけるのが撃退士。
 敵の狙いがダルドフだと聞けば尚更、放ってはおけない。
(並び立ちたい、認められたいと思う相手が一人逝ったんだ。もう一人まで死んで堪るか)
 転送された先は、神社のすぐ近くだった。
 駆けつけた先行組と参道の手前で合流し、早速敵の排除にかかる。
「せっかくダルドフのところで酒盛りしようとツマミ買ってきたのに、ニシンのパイも冷めちまうぞ」
 文句を言いながら、ミハイルがPDWを構える。
 因みにパイは元々とっくに冷めているが、そこはちょっとした洒落っ気という奴だ――多分、ニシンのパイと聞いてピンと来た者には通じるだろう。
「さっさと片付けて一杯やろうぜ」
 だが人質の元に辿り着く前に、斥候として放たれていた首達に見付かってしまった。
 撃ち落とそうとする撃退士達の動きよりも速く、首達は駆けつけた本体と合体し、壁を作る。
「参拝にいらっしゃった方々を襲うとは。撃退士として、そして神職を目指す者として。決して許せません!」
 或瀬院 由真(ja1687)はその脇に回り込み、脇に弾き飛ばす様に心象剣『草薙剣』を放った。
 空いたスペースから壁の背後に抜け、人質との間に立ち塞がる。
 オーラで能力を底上げする事で自爆に備えつつ、更に遠くへ突き放す様に盾で押し返した。
 自然、敵は一ヶ所に固まる。
 そこを狙って、ユウが氷の夜想曲で周囲の空気を凍てつかせた。
 睡魔に襲われた騎士達は、地上にいたものはその場で頭を垂れ、飛んでいたものはゆっくりと地上に降りて来る。
「由真さん、下がってください」
 間髪を入れずに上空へ飛び、由真が距離をとった事を確認すると、無数の影刃を無差別に叩き込んだ。
 だが、それでも撃ち漏らしが出るのは避けられない。
 盾を金剛布槍に持ち替え、分離したパーツを危険度の高いものから仕留めて行った。
 爆発されると被害が大きい頭を優先的に、しかしその本体が近くにいる時は布槍でそれを押さえ込む。
 ここで本体に暴れられては、自爆と同程度に危険だ。
「今のうちに頭をお願いします!」
 それに応えて、キョウカが上空から飛び込んで来た。
「おしょーがつにたのしくないのはだめ! なの!」
 手にしたウサギの人形から頭を狙って火の玉を撃ち出す。
「せーぎのみかた! キョーカさんじょー! なの!」
 仕留めた事を確認すると、某日曜朝の女児アニメ風にポーズを決めた。
「みんなをこわがらせるわるいこは、ゆるさない! なの!」
 桃色のうさぎのぬいぐるみを大事そうに抱え、うさぎ飾りの付いた杖を振り回す、うさぎの妖精。
 あまり強そうには見えないが、それが却って人質達の恐怖や緊張を和らげた様だ。
 人々の間に少しだけ安心した様な、ほっこりとした空気が広がる。
 だが、その行動は敵の目をも引き付けてしまった。
 余計な事をする邪魔者を排除しようと、騎士達が四方八方から集まって来る。
 しかし彼等が攻撃に移る前に、揺籠が動いた。
「お前らはめでたい日にこんな場所でなにやってんですかぃ…」
 呆れ顔で溜息を吐いた揺籠は、大きく息を吸う。
 何だかちょっと恥ずかしい気もするけれど、ここは腹を決めるしかない。
(子供に怪我させるわけにゃ、いきませんからねぇ)
 高らかな咆哮と共に跳躍し、くるりと一回転。
「百・々・目・鬼ィーーーック!」
 足に纏った紫の鬼火が大きな軌跡を描き、黒いペガサスの脳天に踵落としが決まった。
 派手だ。とんでもなく派手だ。
 敵ばかりか、人質に取られていた人々さえも思わず見入ってしまう程に。
「おめめのにーた、とってもかっこいーなのー!」
 わー、ぱちぱちぱち。
 キョウカが拍手と歓声のフォローを入れる。
 大丈夫、怖くない。
「みんなキョーカのおともだち、なの!」
 すぐに道を開けて逃がしてあげるから、もう少し待っててね!

「それで、ダルドフさんは何処にいらっしゃるのでしょう?」
 御堂・玲獅(ja0388)は生命探知で参道の敵や人質の配置を調べるが、射程の中に全ては収まりきらなかった。
 参道と、その周辺に広がる鎮守の森に反応が集まっている事はわかるが、その先は目視で確認するしかない様だ。
「おれがちょいと見て来まさ!」
 馬達が揺籠に夢中になっている今なら、飛び上がっても目を惹く怖れは少ないだろう。
 紫苑は陽光の翼で高く舞い上がると、社殿の方へと視線を移す。
「いやしたぜ!」
 大剣を構えた男の前で、どっしりと構えていた。
 あの男は…忘れもしない、バルス(違)だ。
「せっかくの正月だってぇのに、なんてことしやがンでぇ! お年玉のかわりにお前の玉おとしてやろうかバルスゥウウ!」
 せっかくの父との逢瀬と正月休みをふいにされて、子供はまじおこである。
 ここはひとつ、日本の由緒正しき正月の過ごし方、及び子供の特権というものについて、じっくりと語って聞かせる必要があるだろう――勿論、拳で。
 だが個人的な怨みは後回し、今は人質となっている人々を無事に逃がすのが先だ。
 彼等の安全が確保されるまで、きっとダルドフは動かないし、動けない。
 例え満身創痍になろうとも。
「まずは治療の必要がありそうですね」
 紫苑の様子を見て、玲獅が言った。
「私が先に参ります。何処かに迂回可能なルートはありませんか?」
「わきの林ん中、つっ切って行けやすけど…」
 ここから見る限り敵の姿はない様だが、生命探知ではそこにも敵の反応があった。
 阻霊符は使ってあるから地中で待ち伏せという事はないだろうが、恐らく木の陰にでも隠れているのだろう。
「いちいち相手にしている時間はないな、空から行こう」
 龍実が小天使の翼を発動、玲獅に手を差し伸べる。
「危険な事をお願いして、申し訳ありません」
 玲獅は龍実にアウルの鎧を纏わせ、自分は被弾する事を覚悟で身を預けた。
 しかし龍実にしても、自分を信じて託された命に傷を付けるわけにはいかない。
「大丈夫だよ、女性ひとりを抱えたくらいで動きが鈍るほどヤワじゃない」
 それに、援護してくれる仲間もいる。
「行くよ!」
 二人はすし詰めになった人質達の頭上を越えて行った。
 小天使の翼は飛翔高度が4m程度と低く、騎士の槍なら地上からでも充分に狙える距離だが、これなら真下から槍衾に突き刺される事だけは避けられる。
 だが相手は射程の長い魔法攻撃をも備えていた。
 側面から集中攻撃を浴びた場合の危険度は、さほど変わらないかもしれない。
 しかし。
「おう、俺たちの相手をしろよ。そっちには行かせないぜ」
 二人の行く手を塞ぐ様に宙に浮いた敵に対し、ミハイルがPDWを向ける。
 赤と黒の二本の鎖が絡み付き、ペガサスの翼を締め付けながら引きずり下ろした。
 が、その真下には人質達が!
「っと、やべぇっ!」
 上空から突っ込んで来た揺籠が、それをボレーシュートの如く思いきり蹴り飛ばした。
 人質を巻き込む危険のない場所まで蹴り出された黒騎士は、待ち構えていた由真が金剛布槍で絡め取り、まずは頭を破壊する。
 続いて残った本体や馬が暴れない様に抑え込みつつ、まずは本体に一撃。
 最後の一手で馬を封じ、由真は次の標的を探した。
 それを見た龍実は飛行ルートを変更、人質の上を避けて騎士達の頭上を飛ぶ。
 だが、覚悟していた槍での一斉攻撃が来る気配はなかった。
「釈然としないが、見逃してくれるなら有難いな」
 敵の気が変わらないうちにと、龍実は全力で飛ぶ。
 騎士達は攻撃をして来ない代わりに、その行く手を阻もうと宙に舞い上がった。
「お前らとは、おれらがあそんでやりやすぜ!」
 紫苑が持っていたクラッカーを鳴らし、敵の注意を引き付ける。
 気が逸れた隙に、キョウカが頭を、本体を紫苑が狙い撃ち。
「いっしょにたおさないと、あぶない、だよっ!」
 一方、拓海は敢えて敵の待ち構える鎮守の森に踏み込んで行った。
 縮地で駆け抜けつつ森の中からスナイパーライフルを放ち、龍実達の進路を拓く様に援護射撃を繰り返す。
 森に潜む敵に追い付かれたら得物を刀に持ち替えて走り、社殿を目指す。
「雑魚を相手にしている暇はないんだ」
 ダルドフと合流したら、好きなだけ相手をしてやろう。


 頭上を越えて行く二人を追う事を諦めた騎士達は、再びその役割を人質の包囲へとシフトする。
 いや、彼等は単に「人質を逃がさない様に」という命令を忠実に守っていただけなのかもしれない。
 逃げる二人に対しても追いかけたり道を塞いだりするだけで、攻撃する素振りを見せなかったのは、彼等を人質だと勘違いしていたせいか。
「もしそうなら…人質は殺さない様にと命令していたのだとしたら。ヴァルツもダルドフと同じく武人であるのかもしれませんね」
 ユウが呟く。
 同時に、決闘の為に人質を取る様なやり方に、焦りや揺れを感じてもいた。
「追い詰められているのでしょうか」
 早まった事をしなければ良いのだがと思いつつ、ユウは攻撃を続ける。
 例え相手に攻撃の意思がなくても、排除しないことには人々を安全に避難させる事は出来なかった。
 注目を集めた揺籠が敵を引き連れて来たところで影の刃を放ち、無差別に切り刻む。
 何もしなければただ道を塞ぐだけの騎士達も、攻撃や邪魔をして来る相手は敵だと判断する様だ。
 一度で仕留められなければ手痛い反撃が飛んで来る。
 パーツの何処かが先に潰されて残ったものも厄介だが、生きたまま分離しただけのものは単純に戦力が三倍に増えるという以上に厄介だった。
「どれがどいつの頭なんですかぃ、名札くらい付けときなせぇよまったく」
 この浮いている頭は単なる斥候なのか、それとも自爆のタイミングを狙っているのか。
「どちらであろうと、蹴り飛ばして排除するだけですがね」
 注目の効果が切れたところで、再びの百々目鬼ック!
 引き付けて、集めて、集まらなければ強引に蹴り込んで、味方の範囲攻撃エリアに押し込む。
「数が多いとあっちゃ、効率的に攻めるしかねぇ」
 必要な部分だけを削って、人質を無事に逃がしたら、もう後は構う必要もない。
「…無事でいてくだせぇよ、ダルドフさん」
 揺籠は上空の紫苑に目を向ける。
 本当はすぐにでも飛んで行きたいのを、必死に我慢しているのだろう。
 ならば、せめて怪我なく送り届けるのが自分の役目だが――あの二人なら、この程度は軽く蹴散らしてしまいそうな気も、しないでもない。

「なるほど、ちょっかい出しゃ頭に来て、おっかけて来るってワケですねぃ?」
「だったらみーんなこっちにきちゃえばいい、なの!」
 紫苑とキョウカは上空からミカエルの翼やパペット・ヘアで攻撃を仕掛け、挑発してみる。
 釣れた釣れた、大漁――って釣れすぎ!?
「もうちょいエンリョしても良いんです、ぜぃっ!」
 てやっ!
 紫苑は集めすぎた注目を解除しようと、花火に火を点けて遠くへぶん投げる。
 しかし騎士達は騙されなかった!
「しーた、にげるなのっ」
 キョウカが紫苑の袖を引っ張る。
 だが、上空を飛ぶ敵は狙撃手にとっては格好の的だった。
 由真がPDWで援護射撃、更にはミハイルがその真下に入り込み、ピアスジャベリンを放つ。
「俺の弾道計算に狂いは無い。ここだ!」
 撃ち出された白い光が次第に黒く染まりながら、馬と本体、頭を串刺しにする様に貫く。
 立て続けに、二体、三体。
「これで打ち止めだ、後は自分達で何とかするんだな」
 言われて、ぴたりと止まった紫苑は氷の夜想曲で周囲の空気を凍て付かせる。
 眠りに落ち、浮力を失った敵はゆっくりと地上へ落ちて行ったが、下に誰もいない事は確認済みだ。
 それでも残ったものを二人がかりでボコっていく。

「ここは、不埒な輩の手で汚して良い場所ではありません。退きなさい!」
 尚も道を塞ごうとする敵を、由真は草薙剣で弾き飛ばした。
 即座に間合いを詰めて速攻で頭を潰し、上空からの援護射撃も得ながら本体を、そして馬を。
 その時、参道の入口に面した道路からクラクションの音が鳴り響いた。
「バスの用意が出来た様ですね」
 既に出口に向かう通路は確保してある。
 由真は残った敵が押し寄せて来ない様に抑えつつ、人々に避難を促した。
「大丈夫ですから、ゆっくり落ち着いて。走らないで下さいね」
「避難のおはしは、おっすオラひリア、はつもうで一人で来たけどないてないし、しねリア充 、の三本ですぜ」
 紫苑ちゃん、それって「押さない・走らない・喋らない」じゃなかったかな。
 うん、まあ、皆の不安と緊張を和らげようと思って、頑張って考えたんだよね、きっと多分。
「押さないで下さいね、転んだら折角の晴れ着が台無しですよ?」
 ユウは参道脇を飛びながら、側面からの奇襲に警戒しつつ人々に笑顔を向ける。
 まずは安心して貰う事が第一だ。
 敵の攻撃なら自分達で防ぐ事も出来るが、パニックに陥った人々を鎮める事は難しい。
 後は敵を近付けさせない様に、その動きを見て仲間に声をかけつつ、危険な動きを見付け次第、狙撃銃で撃ち落とす。
 撃退士達が通路を確保する中、人々は次々とバスに乗り込んで行った。
 その最後尾に騎士達が追い縋ろうとするが。
 オニキスセンスで草薙剣を回復させた由真が、その前に立ちはだかる。
「ここは通しません!」
 草薙剣で弾き飛ばし、再び近寄る前にPDWを連射、弾幕で足止めしつつ近寄り金剛布槍で一突き。
 人質全員の無事を確認するまでは、一歩たりとも退かない覚悟だった。


 その頃、社殿の前ではヴァルツが猛り狂っていた。
「何故だ、何故貴様は反撃して来ぬ!?」
 対するダルドフは仁王立ちになったままピクリとも動かない。
 黒い羽織は切り刻まれて見る影もないボロ布となり果て、僅かに残った白い羽織紐は真っ赤に染まっている。
 それでも、ダルドフは丸腰のまま立っていた。
「ヴァルツよ、ぬしも堕ちたものよのぅ」
 胸元を袈裟懸けに切り裂いた一撃を甘んじて受け、その傷口を気合いで塞ぐ。
 噴き出した血飛沫がぴたりと止まった。
「ぬしが人質を盾に勝負を要求するなら、某はただ、ぬしの刃を受け続けるのみ」
 卑劣な勝負には応じない。
 殺したければ殺せば良い。
「ならば望み通り、その首は貰い受ける!」
 渾身の一撃がダルドフの肩口に振り下ろされる。
 だが、ヴァルツはその手応えに違和感を感じた。
「むうっ!?」
 まるで一瞬にして、刃がナマクラになったかの様な感覚。
 おかしい。
 もう一撃、今度は頭上から脳天をカチ割る様に。
 しかし。
「済まない、ダルドフ…遅くなった!」
 その刃を、龍実のシールドが受け止めた。
 違和感の正体は、龍実が放った堅実防御の効果だった。
 ダルドフの背後では、一足先に飛び降りた玲獅がヒールをかける。
「おぉ、二人ともすまんのぅ」
 助けが来る事を予想していた様に、ダルドフは驚きもせずに二人を迎えた。
「この周囲にも生命反応があります」
 恐らくは騎士達に囲まれていると、小声で囁く。
 そして三人目。
「無事か? ダルドフ」
 飛び込んで来た拓海が、ヴァルツに不意の一撃を喰らわせた。
「まあ、無事には見えないが…その程度なら大した事はないな」
 回復スキルで治せない程の深手はないという意味で。
 相手が急襲からの立て直しを図る隙に、拓海はスキルを入れ替えてダルドフの前に立つ。
 治療を終えた玲獅も、ダルドフにアウルの鎧を付与すると白蛇の盾を掲げてその前に立った。
「わからん。貴様らは何故、そいつに手を貸す?」
 寝返ったとは言え、元は侵略者だ。
 なのに何故、人間は誰も討とうとしないどころか逆に守ろうとするのか。
「共に戦える仲間は護り、それを拒む者は振り払う。そうなった以上、殺したくないのは必然だろう」
 答えたのは龍実だった。
 自身には既に、人や天魔などの分け隔てはない。
 望むのはただ、戦いの無い平和のみ。
 だが、ヴァルツはその考えを鼻で笑った。
「貴様らが手を貸した以上、一騎打ちは無効――貴様らは人質の命を見捨てたという事だな?」
 ヴァルツは配下の騎士達に命令を下す。
「人間共を殺せ」

 だが、その言葉を聞いてもダルドフは笑っていた。
「ぬしはまだ、わかっておらぬ様だのぅ」
 顎髭を捻りつつ、ヴァルツに向かって片眉を上げる。
「こんな時には何と言うのだったか…ああ、そうであった。ヴァルツよ――」
 楽しそうに喉を鳴らしながら言った、その言葉は。
「空気嫁」
 そこに飛び込んで来た、ちみっこ二人。
「ばるつたま! だるどふたまをいじめちゃメーッ! なのー!!」
「おっとしだまぁぁぁぁっ!!」
 どーん!
 不意打ちの体当たり&頭突きによるダブル攻撃!
「んぐぉっ!?」
 ヴァルツにとって、ちみっこ二人は鬼門である。
 特に鬼っ子の方は――鬼だけあって。
 思わずたたらを踏んだヴァルツに、腰に手を当てて仁王立ちした紫苑が一言。
「お父さんだったら、このくれぇじゃビクともしやせんぜ!」
 これで勝負あったって事で良いかな?
「参道は既に解放されましたぜ、ヴァルツ!」
 続いて現れた揺籠が、びしっと指差しをキメる。
「ばるつたまがつかまえてたひとたち、みんなにがしてあげた、なのっ」
 良い事をしました、とばかりにキョウカがにこっと笑った。
「つまり、これでぬしの手札は一枚ものうなった、という事よのぅ」
 最後にがっはっは、とダルドフが高笑い。
「ヴァルツ、だったか?」
 拓海が進み出た。
「お前は何の為に剣を振るう? 何の為に人質まで取った?」
 保身の為か。
 旧知の仲であれば、ダルドフがこんな勝負を受けない事など承知しているだろう。
 それとも、まともな勝負では勝てる自信がないのか。
 だからわざと手を出せない状況を作ったのか。
 だとしたら、その目論見は成功だ――ただひとつ、自分達がそれを黙って見ている筈がない事を予測出来なかった点を除けば。
「己が信念の下に卑怯な手でも使うというならまだしも、ただ盲従する相手に媚びる為ならば…俺は認めないし許さん」
「貴様の意思など何の意味も持たぬわ」
 ヴァルツは鼻で笑うと、角材の様な大剣を振りかざした。
 前回はゲート展開という任務の性質上、動く事さえ出来ずに良い様にされたが――今回は違う。
「邪魔だてするなら、貴様らから斬って捨てるまでよ!」
 その声を合図に、周囲の森に隠れていた騎士達が飛び出して来る。
「斬れるものなら斬ってみろ、この刃、お前ごときに折られはしない」
 拓海はダルドフの右で刀を構える。
 思えば、肩を並べて戦うのは初めてだ。
 だが不安は無い。
(互いの癖は何となく分かる程度には刃を交えた相手だからな)
 左側には龍実が立った。
「今回は違う…そうかもしれない。でも、一人で勝てなければ二人、三人と力を合わせれば良い」
 その背後から飛び出した揺籠が、一体の騎士を狙って最後の百々目鬼ックを放った。
「ヴァルツさんとやら。『本気の戦い』の前に、少々保険をかけすぎたんじゃねぇですかねぇ」
 こうなったらダルドフは負けない。
「娘さんの前じゃカッコ悪ぃとこ見せられねぇでしょうしねぇ」
「うむ、確かにのぅ」
 煽られて、やる気満々のお父さん。
「ダルドフ。これが終わったら酒盛りだ。美味いツマミと料理もあるから楽しみにしてろ」
 ところで、とミハイルがニヤリと笑う。
「まず最初に、俺達の息の合った連携を見せ付けてやるのはどうだ?」
「うむ、乗った」
 ダルドフ陣営、敵の目が揺籠に向いている間に何やらコソコソ悪巧み。
 まずは玲獅がフェアリーテイルの光弾を操り、ヴァルツの死角から回り込んで股下から狙う。
 上からはキョウカのアイスウィップが叩き付けられ、その隙に闘気を解放した拓海が飛び出し、鬼剣・瞬獄で紫炎の軌跡を描く。
 同時に龍実は小天使の翼で飛び、背後の上空から干将莫耶を振り下ろした。
 いずれの攻撃も軽々と受け止められ、ヴァルツには何のダメージも与えられなかったが、それはただの囮。
 反撃に転じる直前、ダッシュで背後に回ったミハイルがスキル封じのGunBash。
 気分はアサルトライフルで尻バットすぱーん!
「ケツの穴に銃口突っ込まれないだけでもマシだと思え」
 だが、それもまた囮だった。
 本命は玲獅のガードを受けつつ力を溜めた、ダルドフの烈華――
「と、思いやしたかあぁぁぁっ!」
 スキルがキャンセルされた瞬間に踏み込んだ紫苑がミカエルの翼を投げ付け、更に目の前で残った花火を全部持ちのムカ着火ふぁいやー!
 ファイアワークスもかくやという、その音と火花に紛れて気配を消し、両手持ちの戦鎚に持ち替えて。
「そのタマ、おいてけえぇぇぇっ!!」
 下から上へ、巨大な戦鎚を思いっきり振り上げる!
 そして上からはダルドフの偃月刀が!
 上と下からの渾身の一撃が炸裂し、悶絶の表情のままにヴァルツは固まる。
 烈華のスタン効果で動こうにも動けないのだ。
 やはり鬼っ子は鬼門だった。
 さあ、チャンス到来ボコり放題!
 背後から近付いた玲獅が星の鎖で翼を封じ、更にシールゾーンでスキルを封じる。
「確か魔法を使わなければダルドフと互角と言ったな」
 ならば魔法には弱いのだろうか。
 そう考えたミハイルは得物をラストラスに切り替え、ダークショットを叩き込んでみた。
「そういう訳でもないらしいな」
 ならばやはりPDWでダークショットが有効か。
 だが、チャンスタイムはここで終了!
「きっさまらあぁぁぁっ」
 ヴァルツさん、激おこであります。
 これだけ散々に攻撃を叩き込まれても膝を付かないのは流石と言うべきか。
 ヴァルツは上空に舞い上がると、手にした大剣をぶん投げて来た。
 ブーメランの様に横に回転しながら飛んで来たそれは、まるで意思を持つものの様に広範囲に暴れ回る。
 それを白蛇の盾で弾き返した玲獅は、再びの星の鎖でヴァルツを捕らえた。
 翼を封じられたヴァルツはその手に戻った大剣を振りかざし、ダルドフを狙う。
 同時に首なし騎士達が集団で襲いかかって来るが、守るべき一般市民がいなければ自爆も暴走も脅威ではなかった。
 上空からはキョウカと紫苑が、そして人質の避難を見届けてから合流したユウが、馬を狙って撃ち落とす。
 同じく合流した由真は地上からPDWの狙いを付ける。
「攻撃してくるなら仕方ないな」
 龍実は背後からの攻撃に注意しつつ、基本は守りに徹しながら、隙あらば反撃に転じる形で攻撃を加えていった。
「今後の為に、確認しておいた方が良さそうですね」
 玲獅は地に落ちた本体に止めを刺すと、蒼海布槍でその頭部を絡め取って包んでみた。
「これで爆発を封じる事が出来れば――」
 しかし、魔装ならまだしも魔具に付与される程度の防御力では、爆発の威力に抗しきれない様だ。
 もうひとつ、シールゾーンでの封印も試してみたいところだったが、スキルの入れ替え時には使用回数が減少する。
 残念ながら、今回はもう使い切っていた。
 代わりにフェアリーテイルの光弾を撃ち込みながら、騎士達の掃討に当たる。
 時々は標的をヴァルツに変えて、股間を狙ってみたりして――
 そこは既にかなりのダメージを受けている。
 これ以上は一撃でも喰らうわけにはいかない。
 当然、ヴァルツは必死で避ける。
 しかしそれは、他の仲間に攻撃のチャンスを作る事になった。
 光弾を避けた瞬間、揺籠が背後からの突で体制を崩す。
 直後、突っ込んで来た拓海が闘気解放と練気を乗せた全力の神断を打ち込んだ。
「この刃、止められるものなら止めてみろ!」
 後先を考えない捨て身の一撃。
 それは相手の肉を抉り、骨を断つ。
 だが、それでもまだヴァルツは戦意を失わなかった。
 反撃の手を返す――が。
 それを龍実の剣が弾き返し、残る仲間達の集中砲火が背を抉る。
 勝負は決まった。
「…こ、の、俺が…何故…っ」
 個々の力では、撃退士達はヴァルツに劣るかもしれない。
 だが仲間との連携と協力があれば、その力は何倍にも増加される。
 そこに気付かない限り、どんなに強力で凶悪なサーバントを引き連れて来ても、ヴァルツに勝ち目はないだろう。
「あんたも、一度此方側来て考えてみても良いかもしれませんぜ」
 騎士達を足止めに残して飛び去ったヴァルツの背に、揺籠が声をかける。
 もう、それを引き止める星の鎖は残っていなかった。



「探してみましたが、監視役の烏は見当たりませんでした」
 避難を終えた人々に合流してマインドケアを施しつつ、無事を確かめた玲獅はダルドフに言った。
 彼の行動は監視にすら値しないという事だろうか。
 何にしても、その未来が明るいものでない事は――残念ながら、確かだろう。
「馬鹿な奴よ」
 首を振ったダルドフの表情は寂しげであり…また、悔しさを噛み殺している様にも見えた。

 それはともかく。
 無粋な邪魔が入ったが、今日は元日。
 折角皆が遊びに来てくれたことだし、正月気分を楽しむとしよう。
「この辺はプロ中のプロでさ、まっかせときなってぇ」
 揺籠が張り切って胸を叩く。
「俺は遊びに来た訳ではないが…このまま帰るのも何だ。雑煮ぐらい作ってやろう」
 工場の厨房を借りて拓海が作った雑煮は、鰹出汁の吸物に小松菜が入ったもの。
 それが出来上がるまでの間に、ダルドフは新しい紋付きに着替えていた。
「念の為、替えを用意しておいて正解だったのぅ」
「…やだダルドフさん紋付袴超似合う」
 揺籠さん驚きの余りに言葉遣いまで変わってます。
 そして紫苑とキョウカは、ダルドフが用意しておいた振袖に着替えて。
 皆で記念撮影をしたら、ご馳走を食べて、目一杯遊んで――

 そうそう、お年玉もあげないとね。
 皆学生だから、学業成就のお守りで良いかな?

「む、何か違ぅたかのぅ?」


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:11人

サンドイッチ神・
御堂・玲獅(ja0388)

卒業 女 アストラルヴァンガード
万里を翔る音色・
九十九(ja1149)

大学部2年129組 男 インフィルトレイター
揺るがぬ護壁・
橘 由真(ja1687)

大学部7年148組 女 ディバインナイト
遥かな高みを目指す者・
志堂 龍実(ja9408)

卒業 男 ディバインナイト
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
シスのソウルメイト(仮)・
黒羽 拓海(jb7256)

大学部3年217組 男 阿修羅
娘の親友・
キョウカ(jb8351)

小等部5年1組 女 アカシックレコーダー:タイプA
鳥目百瞳の妖・
百目鬼 揺籠(jb8361)

卒業 男 阿修羅
七花夜の鬼妖・
秋野=桜蓮・紫苑(jb8416)

小等部5年1組 女 ナイトウォーカー