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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/01/01


みんなの思い出



オープニング



 ここは、BARサイレントナイト。
 粋な大人の為の憩いの場だ。

 今年もまた、クリスマスとやらいう賑やかな祭がやって来る。
 だが、俺の店にゃそんな馬鹿騒ぎは関係ねぇ。

 ここは静けさを愛する者が集う場所だ。
 騒ぎたけりゃ、どっか余所に行きな。
 だが静かに良い子でいられるなら、お嬢ちゃんでも坊やでも、好きに入って良い。

 照明を落とした室内と、静かに流れるジャズ。
 ここでは、時の流れも緩やかになる。
 静かな酒と、ちょっとした会話を楽しならカウンター席。
 誰にも話しかけられたくなければ、奥のテーブル席が良いだろう。
 煙草も奥の席で頼むぜ。

 ああ、そこの席か。
 見ての通り、予約席だ――無期限の、な。

 常連客のな、指定席みたいなモンだったんだよ、そこは。
 いや、今でも指定席だな。
 その客が入院したって聞いたのは、半年くらい前の事だったか。
 詳しい事は聞いちゃいない。
 その後、どうなったのかも知らん。
 だが、まあ……またいつか、フラッと立ち寄った時に……そこが空いてないと困るだろ。
 だから、空けてあるのさ。
 別に待ってるわけじゃないけどな。

 あんたらにも、あるかい?
 家の中にでも、どこかの店でも……心の中にでも。
 誰かの為に空けてある、そんな場所――

 なあ、良かったら聞かせてくれないか。
 良い話なら、飲み代はチャラにしてやるぜ?



リプレイ本文

 ここはBARサイレントナイト。
 今宵もまた、静けさを求めてやって来る者達がいる。
 暫し彼等の話に耳を傾けてみようか――


 ドアに取りつけられた小さなベルが控えめな音を鳴らす。
 思考の妨げになるほどの主張はせず、かといって店内に流れる音楽にかき消される程か弱くもない。
 その音と共に顔を覗かせたのは――大きな花束、いや、アレンジメントフラワーと言うのだろうか、これは。
 お昼の定番番組の様な盛り籠のアレンジに「祝三周年」と書かれた札が差してある。
「いつか知り合いが呼ばれたとき、送ろうと思ってたんだが、俺も呼ばれることもないままに番組自体がなくなってな」
 アレンジの背後から、天険 突破(jb0947)が姿を現す。
「せっかくだからマスター、もらってくれ」
「ほう、良いのかい?」
 では、遠慮なく頂いておこう。
「俺の店も、まあ三年くらいだからな…丁度良い」
 三周年の札もそのままに、それをカウンターの隅に飾る。
「で、何にする?」
「牛乳を手放さないと言ったが飲めないとは言ってない――というわけでホットを、ミルクじゃなくて、せっかくだから流行りもののウイスキーにしよう」
 流行りと言えばスコッチか。
 見たところ、酒を飲める歳になったばかりの様だ。初心者向けのチョイスで良いだろう。
「そうだ、これも後ろに貼っといてくれ」
 突破が取り出したのは、イベント「SNOW CRYSTAL」開催中のポスター。
「俺はまあ、しばらく疎遠だった久遠ヶ原にもなんとなく戻ってきたが、今年はまた戻ってこなくなった者も多いな」
「そいつは寂しいな」
「ああ…トモダチノワに、乾杯」
 グラスを合わせる相手はいないけれど。
「誰かのためじゃないが、故郷は結局無事で育った家もそのままあるんだよな」
 撃退士になって今はここにいるが、そこには、自分の部屋もある筈だ。
「全てが終わって平和になれば、またそこで暮らせるようになるといいなと思ってる」
「そうか。帰る場所があるってのは、良いもんだな」
「マスターには、帰るところはあるのかい?」
「俺か? 俺にとっちゃ、この店がそうさ。同時に他の誰かにとっても、疲れた時に帰る場所になれたら良い…なんて思っちゃいるがね」
「そうか。そいつはいいな」
 突破はグラスの酒をゆっくりと味わいながら、音楽に紛れて聞こえて来る言葉の断片に耳を傾ける。
「ひとつリクエストしても良いか?」
 それに応えて、ピアノとアルトサックスの音色が静かに流れ始めた。


「素敵なお店…ですわね」
 静かに飲むにも、色々と想いを巡らせるのにも良さそうだと、ロジー・ビィ(jb6232)はカウンター席に着いた。
「マスター、天使の涙を頂けますでしょうか…」
 グラスの縁にミントチェリーを飾った、少し茶色っぽい液体を口に含み、ロジーは静かに語り始める。
「天使である我が身。堕天したとは言え、天使であることに変わりはありませんわ」
 天使。冥魔。人間。それぞれがそれぞれの思惑で動いている。
「でも人間は抵抗する一方だと思うのです。天使と冥魔は搾取する一方だと思うのです」
 そう考えていた。
 つい最近までは、殆ど何も疑うことなく。
「あたしが天界を降りた一番の理由…それは天使が弱者だと決め付けている人間の魂を吸収して、為すこと。為されること。そして『その遣り方』――」
 それが、どうしても納得が行かなかった。
 人間は平和に暮らしていると言うのに。
 その平和を乱すなんて、赦されない行為だと思っていた。
 けれど。
「或る友人から人間だって弱肉強食だ、人間同士の戦争だってある。そう聞かされて…」
 ロジーは空になったグラスを見つめ、溜息を吐く。
「あたしは…何も、何一つ、分かってなかったのですわね」
 それはとても哀しいこと。
 それはとても切ないこと。
「でも…人間同士の争いは『何かを護る為』の争いだと思うのです」
 それは「闘い」。
 護るべきモノを護る為の行為。
「天使や冥魔とは全く違ったモノだと思うのです」
 頼んだ覚えのない二杯目のカクテルが、静かに置かれる。
「もう少し、こいつの力が必要かと思ってね」
「ありがとう、ございます」
 ロジーはもう一口、甘くほろ苦い液体を喉に流し込む。
「その話を聞いてからのあたしには迷いが生じました」
 人間とは? 天使とは? 冥魔とは?
「平和な道は無いのでしょうか」
 それを教えた友人は今、この世の全てを呪い、憎み、破滅を望んでいる様子だった。
 きっと、そう考える者は彼だけではないのだろう。
 そんな中で、平和を求める事は…果たして、正しいのだろうか。
 彼等はそれで救われるのだろうか。
「道は、あるさ」
 マスターが静かに言った。
「探す事を諦めなきゃ、何処かにはな。俺はそう思ってるぜ」
「諦めない…そうですわね」
 頷いて、ロジーは小さく微笑んだ。


「私は、そうですね…何かカクテルを頂けますか?」
 フィルグリント ウルスマギナ(jc0986)は、最近この学園に来たばかり。
 来たばかりという事は、毎日の様に新しい出来事に遭い、新しい友人に出会い、新しい自分を発見し――
 という事で、マスターが話を聞いてくれると言うなら話題には事欠かない。
 もう寒いというのに水着でアイスを食べたり、来年のニュースを語ったり、クリスマスパーティを楽しんだり。
「その中で、大勢の方とお友達になれました」
 もしかして、もしかしなくても、遊んでばかりだった気がするけれど…そこは気にしてはいけない。
 学生たるもの、遊ぶ事も仕事のうちなのだ。多分。


「ういっす! ちょっと避難さしてな〜♪ いや〜人気もんは辛いなぁ〜」
 これでも自分では声を潜めたつもりだっったが、カウンター席に座ったゼロ=シュバイツァー(jb7501)に向かって、マスターは人差し指を口の前に立てて見せた。
 あ、電話もマナーモードでね?
「っと、悪い、堪忍な」
 片手で手刀を切る様に詫びて、ゼロは更に声を潜める。
「ブランデー頼むわ。セプ・ドールあたりがええな」
 クリスマス、それはゼロにとっての書き入れ時――何の、とは敢えて訊かないのが身の為だろう。
「いや、今日はめちゃめちゃ忙しくてな。せやけど、こうしてゆっくりと飲む酒もええもんやなぁ」
 ブランデーの芳醇な香りを楽しみながら、ゼロはゆるりと問わず語り。
「あ、せや。マスターには言ってなかったっけかな。俺天魔ハーフやねん」
 今までずっと、学園でこっそりと研究していたのだが――漸くそれが公に認められる所になった、という具合だ。
「ま、これで実家の方の問題もどうにかなりそうやしな…あ、これは秘密な♪」
「安心しろ、客の秘密は守る」
 それに、特に驚く様な事でもない。
 何しろここは、久遠ヶ原なのだから。
 それもそうだと頷き、ゼロはゆったりと店内を見渡した。
「あそこの席いっつも予約やな? 常連さんか?」
 随分前から、あのままになっている気がするが。
「なるほどねぇ。んじゃその人が来たら、俺からも一杯おごらせてくれな♪」
「ああ、彼も喜ぶよ」
 そこで、懐のスマホが震えた。
 席を立ったゼロは、トイレの前で声を潜める。
「ん? あぁちょっと一休みしてた。…わかったわかった。すぐ行くがな」
 さらば安息の時よ。
「悪いなマスター呼び出しやわ。んじゃちょっと行って来るかいな〜。ま、電話の相手のとこに行くかは分からんけどな〜。可愛い子がおったら寄り道してるかもな♪ ほな、また来るわ〜♪」
 っと、忘れ物。
「マスターにも、クリスマスプレゼントや」
「俺に?」
 差し出された箱の中身は蝶ネクタイ。
「ま、使うか使わんかはお任せしますわ。メリークリスマス♪」
 ありがとう、使わせて貰うよ。


 入れ替わる様に店に入ってきたのは、和装にコートを引っかけた若い男。
「へぇ、へぇ、感じの良い店ですねぇ」
 仕事帰りにふらりと立ち寄った百目鬼 揺籠(jb8361)は、予約席の方にちらりと視線を向けながら、マスターの前に座る。
「どうせ今日びも宴会後でしょうから、少し飲んで帰ってもバチは当たんねぇでしょう。強いの一つくださいよ、マスター」
「日本酒は余り置いてないんだが――」
「あァ、こんなナリですがね、日本酒じゃなくても良いんで」
 それならオールドパーの12年物はどうだろう。
「あ、煙草はこっちじゃ駄目ですかぃ」
 取り出しかけた煙草を懐に仕舞い、揺籠は予約席に視線を投げる。
「長く生きてると如何しても、空けたままになっちまう席が増えちまってかなわねぇや」
 色々な人がいつの間にかいなくなって、席だけがぽっかりと残されて。
「だからもう、あんまり空けておくのはやめようって、思ってるとこではありまさぁ」
 自分一人が残って空席が沢山というのは、結構笑えない話だ。
「特に最近は寒ぃですからねぇ、こんな時は無性に人恋しくなっていけませんや……そのうち嫁さん貰って落ち着きてぇ気持ちも、無いわけじゃぁねぇですけども」
 苦笑いと共に、こみ上げて来る思いを黄金色の液体で押し流す。
 いなくなった誰かと聞いて、最初に浮かぶのは初恋の人。
 強くて綺麗な人で、好きだったけれど、10年ほどの間で変わってしまって――心が通わなくなってしまった。
 自分だけが、何も変わらなかったから。
 そんな風に忘れられるのも、置いていかれるのも悲しいから、出来るだけ距離を置こう。
「なぁんて思ってんのに、わかってんのに、如何してこう…」
 音を立ててグラスを置き、揺籠は溜息を吐く。
「離れ難いものが出来るのは、俺が甘ぇからでしょうか」
 兄貴分と慕ってくれる子鬼だったり、旅館の皆だったり――
「久遠ヶ原がすっかり居場所になりつつあるのは、怖いことでさ」
 空席が出来るのが怖いなら、いっそ席など作らなければ良い。
 誰も座らせなければ良い。
 なのに、気が付けば今も、新しい席は増え続ける一方で。
「なんて、飲みすぎましたね。忘れてくだせぇ」
 残った酒を一気にあおり、揺籠はその場に倒れ込む様に突っ伏した。
 忽ち、軽い寝息が聞こえて来る。
「そんな甘さは、嫌いじゃないがね」
 呟いたマスターの一言は、恐らく聞こえてはいないだろう。


 カウンター席の最も端、誰の声も届かない程に離れた場所で、鳳 静矢(ja3856)は一人静かにグラスを傾けていた。
「…予約席、か…」
 話を振られ、語り始める。
「あの時は…自分が直接関わって死ぬ者が出る等思わなかった」
 自分が加わった戦いの中で、ある人の命が消えた。
 いや、その人ばかりではない。学園の精鋭が28人も。
「完全な力量不足、目論見の甘さ…若さ、と言うには過ぎた過信もあった」
 力及ばず救えなかった命もある。
「故郷を悪魔に奪われ、昔は天魔…特に悪魔に対しては敵意に似た物があってね」
 しかし、とある悪魔との出会いによって、その意識に変化が現れた。
「…驚いた、あんな変わった悪魔も居るのだなと。人間より人間らしい悪魔、そんな知人がいてな」
 だが、その悪魔が命の危機に瀕した時、救い出す事が出来なかった。
「それらの事が立て続き悩んでいた時、ある人に『故人の志を抱くのは良いが、死者に囚われるべきじゃない』と、そんな風な事を言われてね」
 そう言ったのは、故人の友。
 最も悔やみ、嘆き悲しんでいるであろう筈の人物だった。
「故人の遺志を汲みながら私自身がしたい事…愛妻をはじめ周りにいる人を失わない様に戦い生きる…そんな生き方に導いてくれたのだなと、今はそう思う」
 それきり口を閉ざした静矢は、ひとり静かに杯を重ねる。
 やがて、ふいに思い出した様に呟いた。
「多分私は席を空けてもらっている側なんだと思う」
 マスターがグラスを磨く手を止める。
「二人…それ以外にも、縁し、先に逝った者達に」
 天国か、地獄か。
 そこが何と呼ばれる場所なのか、それは知らないが。
「その予約席に向かった時『頑張ったな』と言われる生き方が出来れば…な」
 例えば今、この瞬間に呼ばれたとしたら、どうだろう。
 彼等は静矢に対し、何と声をかけて来るのだろうか――


「マスター、スコッチウイスキーのロックとお勧めのおつまみ、お願い」
 クラガンモアの12年ものだと嬉しいんだけどな、そう言ってカウンター席に座ったのは、砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)だ。
 塩味のナッツと共に供されたグラスからは、ほんのりと紅茶の様な香りが漂ってくる。
「クリスマスは…まぁ毎年一人だよね」
 家族を大切にするはとこは、大阪の実家に帰ってしまった。
 今頃は可愛い弟君と仲良くしているのだろう。
「僕も帰れば良いのにって言われるけど…神戸の実家は居心地悪くて」
 別に不仲という訳ではない。
 ただ、自由さが無いというか――
「うん、真面目な家なものでさ、肩こっちゃうんだよね。見ての通り、僕、堅苦しいの嫌いなもんで」
 苦笑いを漏らしながら、ジェンティアンはグラスを揺する。
「だから久遠ヶ原は楽しいわ」
 卒業したくないと思うのも無理はない、うん。
「んー…誰かの為の席? 可愛い女の子なら、いつでもウェルカムなんだけど」
 そう茶化してから、少し真面目な表情になる。
「まあ、強いて…強いなくても、受け止めたい、待ってるよと思うのは、さっき言ったはとこかなぁ」
 自分の祖母と彼女の祖父が兄妹で、それなりに小さい頃から交流あった。
「小さい頃は体が弱くて、遊びに行っても寝こんでる事が多かったっけ。冬に外なんて出られるはずもなかったから、雪が降ったら僕が雪うさぎを部屋に持って行ったり…目輝かせて可愛かったよ」
 懐かしむ様に、くすりと笑う。
「甘えるのが下手で…それは今でも変わらないな」
 だから心配になる。
 背筋を伸ばし過ぎて、ぽっきり折れてしまわないかと。
「だから僕が傍にいて見守って、いつでも休める場所になりたいなって…そんな自己満足というか自意識過剰なこと思ってる」
 大切な大切な、妹分。
 今では随分と強くなったけれど、その思いは変わらない。
「思う分には自由だよね?」
 返事の代わりに、マスターは新しい酒を注いだ。
「そうだ。良ければ1曲、歌わせてくれる?」
 この空気を壊す事のない様に――それは勿論、充分に心得ている。
「こう見えて、天使の歌声って言われてるんだよ?」
「ほう、そいつは是非とも聞かせて貰いたいもんだな」
 許可を得て、ジェンティアンはとある楽曲のオフヴォーカルバージョンをリクエスト。
 流れて来たメロディに乗せて、静かに歌い始める。

 その曲は、フィルグリントにも聞き覚えがあった。
 某有名動画投稿サイトの歌い手としては、ここは黙ってなどいられない。
 と言うか、もう勝手に歌声が零れ出てしまう。
 遠慮がちにハミングを始め、やがてその声はコーラスとなって唱和する。
 ジェンティアンは思わず声の主を見た。
 思いがけないデュエット、しかも相手は若くて美人。

 これはもしかして、素敵な夜が始まる予感――?


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
久遠ヶ原から愛をこめて・
天険 突破(jb0947)

卒業 男 阿修羅
撃退士・
ロジー・ビィ(jb6232)

大学部8年6組 女 ルインズブレイド
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
鳥目百瞳の妖・
百目鬼 揺籠(jb8361)

卒業 男 阿修羅
御伽の森の魔女・
フィルグリント ウルスマギナ(jc0986)

大学部6年40組 女 ルインズブレイド