バス停に、一台のバスが停まった。
「やって来たなの! 種子島!」
カマふぃこと香奈沢 風禰(
jb2286)は、出迎えの爽や孤児院の子供達に手――いや、カマを振る。
「みんな久しぶりなの! カマふぃアゲインなの!」
「久しぶりだね、勿論きさカマも一緒だよ!」
白カマのカマふぃと、緑カマのきさカマ・私市 琥珀(
jb5268)は、並んでカッコイイポーズをキメた。
その後ろから、多くの生徒達がぞろぞろと降りて来る。
「こんにちは、初めまして。お芋、楽しみです」
新田 六実(
jb6311)が、にっこり笑って頭を下げた。
島はこれで三度目だが、爽に会うのは初めてだ。
「なんだろー? 種子島ってなんかすっごい懐かしい気がするんだけどなんでかなー…?」
ニナ・エシュハラ(
jb7569)は、回りの景色を見て首を傾げる。
あれは夢だったっけ?
「まいっか! 美味しいお芋掘るよー!」
セレス・ダリエ(
ja0189)、ユウ・ターナー(
jb5471)、ハル(
jb9524)、そして唯・ケインズ(
jc0360)の四人は、正真正銘初めての上陸――だった筈だ。
「ようこそ、存分に楽しんでね」
「いらっしゃいませー!」
「おいも、たくさんほろうね!」
爽と子供達が、その一人ひとりに声をかける。
「お芋…です? それは楽しそうなの…」
華桜りりか(
jb6883)は、笑いかけてきた子供の頭をそっと撫でた。
「よろしくお願いします、です」
ところで。
「爽さん、カマぽすはちゃんと宇宙センターに貼ってるなの?」
「え? ああ…うん」
カマふぃの問いに、爽は曖昧な答えを返す。
もしかして貼ってないのだろうか。
怪しい。
これは是非、自分の目で確かめなくては。
「今から行くなの!」
ここから近いし、芋掘りが始まるまでの休憩がてら、見学しても良いよね?
「見学、出来るんですか?」
その会話を小耳に挟んだ六実が、ぱっと目を輝かせる。
「一般の見学は中止になったままだって聞いたんですけど」
「そうだけど、君達なら構わないよ。でもちょっと待って」
暫く受け入れてないから準備が必要だとか何とか理由を付けた爽は、ちょうど見かけた弟達に後を託して走り去る。
「あ、爽兄ぃ――」
「悪い、皆の案内頼むな!」
「え、ちょ…っ」
再会を喜ぶ暇もあらばこそ。
「なんだよもう、せっかく里帰りしてやったのに…!」
兄のツレナイ態度にぶーたれる上の弟、和幸。
しかし学園で募集の報せを見た時には「なんで俺らに声かけてくれないんだよ爽兄ぃのばかぁ!」と、泣きそうな顔で怒っていた事は秘密…には、しておけないだろう。
何故なら――
「ご心配には及びませんわ」
デジカメを手に、ディアドラ(
jb7283)が微笑む。
「その時のお顔でしたら、しっかりとここに」
そして勿論、今の「兄発見で歓喜→目が合ってのツン発動→肩透かしからの涙目→激おこ八つ当たり」のコンボも撮影済みですわ。
参加できなかった友達の為にも、あらゆるアングルからお二人を激写するのが責務ですもの。
「ななななに撮って…!?」
それに気付いた和幸は、真っ赤になってあわあわするが、もう遅い。
以前、鯖魚人と格闘した時に激写した半裸(どころかほぼ全裸)写真も、ちゃんとプリントアウトしてアルバムに収めてある。
「それも含めて、撮らせていただいた和幸様写真集は全部まるっとお兄様に進呈いたしますわね」
だってお兄様ですもの。
きっとSですもの。
芋掘りはどうした、ですって?
勿論せっせと参加しますわ、ええ、芋堀り中の和幸様のアレコレを撮影する為に。
ディアドラさん、もう立派な和幸の追っかけである。
種子島を訪れる撃退士の名台詞には「カマキリが出たと聞いて!」というものがあるが、彼女の場合は「和幸様がお兄様に会いに行ったと聞いて!」という所だろうか。
間違っている様で、間違ってない。
本人は否定しているけれど。
「お、俺はただ、収穫に人手が足りないって聞いて、手伝いに来ただけなんだからな!」
「うん、そうだね」
二歳下の桂が、よしよし、という感じで兄の背を軽く叩く。
「だから、ほら。皆を案内しなきゃ」
まずは宇宙センターで一休み、作業はそれからだ。
「うん、ちゃんと貼ってあるなの」
センター入口正面にどーんと貼られたカマぽすを見て、カマふぃは満足げに頷いた。
慌てて貼った様子が見え見えだけど、まあ良し。
「合格なの」
皆が帰った後で、すぐに剥がしたりしたらダメだからね?
そして見学希望者はセンターのロビーへ。
その中には木嶋香里(
jb7748)の姿もあった。
「爽さん、よろしくお願いしますね♪」
今日は芋掘りが終わったら、センターの食堂を借りてお菓子作りの体験会を行う事になっている。
「良い想い出を作って欲しいんですよ」
手配は既に済ませたし、後は初心者向けの手順書や必要な道具を用意するだけ。
そこに、日向響(
jc0857)が手伝いを申し出てくれた。
「お手伝いは任せて欲しい…これでも料理は好きだから」
「ありがとう、助かります。楽しい1日にする為に頑張りましょう♪」
他に誰かいないだろうかと周囲を見回した香里は、ロビーの隅に隠れる様に立っていた桂を発見。
「桂君もお久しぶりです♪ 良かったら一緒にどうですか?」
「じゃ、参加させて貰おうかな。兄さんと一緒に」
声をかけられた桂は、背後に隠れた和幸を引きずる様にして歩み寄る。
「ちょ、待て、俺は――!」
爽兄ぃに見付からない様に、こっそり見学しようと思ってたのに!
「何だ和幸、見学したいなら俺がいつでも案内してやるぞ?」
「べっ別に俺、宇宙とか興味ないし、爽兄ぃの仕事見たいとかも思ってないし!」
「そうかそうか、興味津々か、うんうん」
「ちが…っ」
その様子は勿論、ディアドラがしっかりとカメラに収めていた。
「三人揃ったショットなんて貴重ですわ♪ うふふふふ和幸様ってばお兄様に甘えちゃって可愛いですわね♪」
それを見ていたニナが、かくりと首を傾げる。
「なんかディアちゃんが涼風のおにーちゃん&おとーと君にhshsしてる…」(
うん、でも、それもわかる気がするよ!
三人ともそれぞれにタイプの違う美形だし、美形兄弟って目の保養だね!
もっとも、ディアドラは爽×和幸しか目に入っていない様子だけれど。
「え? 血は繋がってない?」
へえ、そうなんだ?
「じゃあ結婚できるね!」(いいえ
「え、ちょ、待って、えぇえっ!?」
言われて、和幸は耳まで赤くなる――って、普通そこは軽く聞き流す所じゃないの?
「よかったね!」
祝福を贈るニナは、超笑顔。
しかし、それを少しばかり面白くなさそうに見つめる目があった。
「どうしたんですかぃ、紫苑サン?」
「べつに、どーもしねぇでさ」
百目鬼 揺籠(
jb8361)の問いに、秋野=桜蓮・紫苑(
jb8416)はぷいっと横を向く。
宇宙センターの外観が何となく秘密基地っぽくて、それに惹かれて来てはみたけれど。
「行きやしょ。やっぱりおれ、外の方がいいでさ」
ぐいぐいと揺籠の着物を引っ張って、出て行こうとする、が。
「あれ、紫苑ちゃん?」
見付かった。
しかも覚えられてた。
「久しぶりだね」
爽に笑いかけられ、慌てて揺籠の後ろに半分隠れた紫苑は、目を逸らしたままこくこくと頷く。
何だか耳まで真っ赤だけど、どうしたのかな…なんて野暮な事を訊いてはいけない。
「良かったら見て行くと良いよ」
探査機を動かすゲームや、ロボットアームのシミュレータなどもあるから、ゲームセンターの感覚で楽しむ事も出来るだろう。
小学校低学年には、少し難しいかもしれないけれど。
そして畑の方では――
「なんやリコも来てるて聞いて」
「うん、来てるよ!」
少し照れた様に笑いかける浅茅 いばら(
jb8764)に、リコは屈託のない満面の笑みを返した。
「また一緒に遊べるの、嬉しいな♪」
「ん、せやな」
折角なら一緒に遊んで、良い思い出を作りたい。
たくさん作れば、もし何かあっても…それがリコを「こちら側」に繋ぎ止める力になるんじゃないか、なんて。
いや、今日は難しい事は抜きにしよう。
「リコさん、こんにちは」
レティシア・シャンテヒルト(
jb6767)が声をかける。
「今日は素敵な一日になると良いですね」
「うん、なると良いね、れっちん!」
リコがにぱっと笑う。
それは良いけど、れっちんって。
変な渾名を付けられて、思わず微妙な表情になるレティシア。
だがリコは構わず続ける。
「でもね、なるんじゃなくて、するんだよ♪」
相変わらず無駄に前向きだ。
「そうですね、素敵な一日にしましょう」
レティシアも笑い返す。
自分達が参加することで、子供達が安心して収穫を楽しめるなら一石二鳥。
いや、収穫の手伝いもすれば三鳥か。
しかし、そこに顔を出した六実は、ちょっぴり警戒モードだった。
それも無理はない――敵として現れた時のリコしか知らないのだから。
「今回はお仕事じゃないんですね?」
「ううん、お仕事だよ?」
その返事に、六実は警戒ランクを一段階引き上げる、が。
「農家さんのお手伝いもするんだもん。ね、いばらん?」
同意を求められ、いばらも頷く。
「…なら良いです」
六実はまだ少し疑いを残した目つきでリコを見た。
が、ひとつ深呼吸をして――にこっと笑う。
「リコちゃんって呼んでも良いですか? 私…ボクの事はむぅちゃんって呼んでくれて良いから」
「いいよ、よろしくね! じゃ、一緒にやろ♪」
「うん、ボク初めてだから、色々教えて貰おうかな」
そこに、少し遅れて来た神谷 愛莉(
jb5345)、礼野 明日夢(
jb5590)、音羽 千速(
ja9066)の三人も加わって、賑やかに。
「おイモって掘るのぉ? スーパーじゃないのぉ?」
初めての経験に、白野 小梅(
jb4012)は興味津々の様子で農家のおじさんに掘り方を教わっていた。
孤児院の子供達に混じって、目を輝かせる。
「そうだよ、都会の子は見た事ないかもしれないねぇ。お嬢ちゃんは島の外から来たのかな?」
「うん、久遠ヶ原から来たの!」
「えっ!?」
という事は、もしかして撃退士?
「うん、そうだよぉ♪」
それはそれは、失礼しました。
余りに自然な感じで溶け込んでいるものだから、てっきり孤児院の子かと。
「いいから早くぅ、おイモどこぉ?」
あ、はいはい。
まずはこの長く伸びている蔓を切って。
「ほら、こうやって土をどけると…ね?」
残した茎の根元をスコップで掘ると、少し白っぽい芋がゴロゴロと顔を出した。
それを更に掘り進め、芋の全体が殆ど見えるくらいになったら、蔓の太い所を持って――
「こう、ゆっくり引っ張るんだよ」
そろり、そろり、ぞぞぞ、ぞろりんっ!
ひとつの蔓に大きな芋が5個くらい、小さなものは数え切れない程にくっついていた。
「すごーい、やるぅ!」
とにかく掘れば良いんだよね!
「おっいも♪ おっいも♪」
土にダイブし、全身泥だらけになりながら熱中で掘る。
いや、そんな深く掘らなくてもね、ゴボウじゃないんだから。
しかも次の穴を掘る時に葉や蔓をポイポイ、前の穴に被せるように放置するものだから、自然と悪意の無い落とし穴が――ずぼっ!
あ、誰か嵌まった。
「なんでぇ、お穴に入ってるのぉ? 楽しい?」
悪意は無い。
大事な事だから、二度。
「芋掘りかぁ…懐かし…くはないよね」
砂原・ジェンティアン・竜胆(
jb7192)は、広い広い芋畑を前にちょっぴり途方に暮れる。
「思い返してみたけど、僕やったことなかったわ」
うん、まあ、あれだ、芋掘りはただの口実?
とりあえず2回目の留年が確定した今、学園にいるはとこの怒りが怖いわけで!
「それで種子島に逃げて来たんだとか言えないよね」
言ってるけど。
そんなわけで、子供達と一緒にのんびりと。
「芋掘りって、結局は力仕事でしょ?」
だったらお任せあれ。
「どれどれ、力が要りそうならお兄さんが手伝うよー」
土から頭を出した大きな芋を両手で持って、うんうん唸っている女の子を見付け、いそいそと近寄る。
「やだっ、じぶんでほるのっ」
あ、拒否られた。
うん、なかなかの根性だ、そういう子も嫌いじゃないよ。
こっちのお嬢さんはどうかな?
なに、手伝って欲しい?
「おお、なかなかのサイズ。はい、どうぞ」
「ありがと、おにいちゃん!」
どういたしまして。
「ねえ、こっちも手伝ってよー!」
ん? 男子は自力で頑張れ。
「天気良いねぇ…留年とか忘れるわ」
この空の大きさに比べたら、留年なんて小さい小さい。
ねぇ? ※よいこはまねしない
「いざ、お芋掘りですー!」
九十九折 七夜(
jb8703)は、子供らしくはしゃいだ様子で畑に足を踏み入れる。
そんな後ろ姿に目を細めた一之瀬 碧(
jb6114)は、これが芋掘り初挑戦。
「七夜ちゃん、教えてください。頼りにしています」
「はい、お任せください碧姉様! この七夜が必ずや、碧姉様を芋掘りマスターの座に導いてさしあげるのです!」
いや、そこまで頑張らなくても良い、気がするんだけど。
でも七夜ちゃんがそう言うなら頑張ってみようかな?
「これを、引っ張ればいいのですね?」
「あ、碧姉様、蔓を素手で引っ張ると痛いですし、土いじりには軍手をどうぞですよ〜」
「え、軍手?」
その名前は聞いた事があるが、実物を見るのは初めてかもしれない。
それは碧が知っている手袋とは生まれも育ちも違う、無骨で朴訥、何の飾り気もない、けれど堅実で頼りになりそうな存在に思えた。
「そうなのですね…」
神妙に頷き、押し戴いた軍手をそっと嵌める。
「それでは七夜がお手本見せますので…いきますよー!」
「はい、お願いします」
碧は芋の蔓を掴んだ七夜の手元を見る。じっと見る。
周囲の土を掘るなんて、そんなちまちまと手のかかる事はしない。
これは芋と人(天魔や妖怪の眷属を含む)との真剣勝負、力と力のぶつかり愛!
「ふんっ、こらっ、せぃ、や…っ!」
気合いと共に、引く!
――と。
「ふわわぁぁぁ!?」
すっぽーん!
芋は、思いのほか根性なしだった。
抜けた芋と一緒に、七夜は後ろにひっくり返る。
「…七夜ちゃんっ、大丈夫ですか!?」
「うう…ちょっと強く引っ張りすぎたのです…しかし七夜の勝利! です!」
じゃーん!
碧に泥を払ってもらい、立ち上がった七夜は地面げに戦利品を掲げて見せた。
「わかりました、私も勝利を掴んでみせます…!」
碧の知識レベルが1上がった!
早速お手本通りに蔓を掴んで――
ぶちっ!
「蔓が切れてしまいました…」
あれー?
「リコさん、カマダチ来たなの! いえーいなの!」
「力の一号と技の二号、そう、僕たちはリコさんのカマダチ!」
二人はそのカマで芋を掘る。
「がっつり掘るなの!」
「きさカマは芋を掘る、皆と一緒に芋を掘るよ!」
自慢の鎌でざっくざっく。
「きさカマの鎌は伊達じゃない!」
でも着ぐるみだから、後で洗うのが大変そうだ――なんて事は気にしてはいけない。
中の人などいないのだ!
自前のカマを持たないリコや子供達は、代わりにスコップで土を掘る。
「腰を入れて引き抜かんと、途中でちぎれてしまうからな」
いばらが蔓を引くと、大きな芋がぞろぞろと、いとも簡単に引き抜かれた。
「な?」
「いばらん、すごーい!」
「大きい芋が出来とる蔓の見分け方もあるねんで、教えたろか?」
それは是非とも。
でも、どうしてそんなに詳しいのかな?
「昔はまあ、こういうのを拝借したこともあるよって」
無断拝借、即ちドロボーさんだ。
「無論、申し訳ないて思ってるけどな」
そんな時代もあったという、それだけの話。
「さ、ぎょうさん掘るで?」
「うん、がんばろー!」
「でも飛ばしすぎには注意して下さいね」
その脇で子供達と一緒に準備運動していたレティシアが声をかける。
「重労働ですから、作業前に身体をしっかりほぐしておきましょうね」
おやつも持って来たし、しっかり栄養補給をしながらのんびり頑張ろう。
特に小さい子はペース配分関係なく全力で頑張った挙げ句にぱったり、なんて事にならない様に。
準備が出来たらスコップを持って。
「お姉さんは収穫初めてだから色々教えてくれるかな?」
お願いされた子供達は、一生懸命にお手本を見せてくれた。
「芋掘りか〜♪ ひっさしぶりやなぁ〜♪」
そう言いながら、ゼロ=シュバイツァー(
jb7501)が意気揚々と出かけて行ったのは…収穫後の畑。
後ろに引いたリヤカーには「火柱製造セット」と称した建築廃材や、火薬を仕込んだ竹竿などが山と積まれている。
「推定5m位までできるでぇ!」
でも、ちょっと待って。
「こらこらこらー! 畑の真ん中で火遊びはイカーン!」
農家のおじさんに怒られました。
「やるなら海岸でやれ、海岸で!」
ですよねー。
「ま、しゃーないな」
では海岸に移動して、心置きなくデカい火柱をブチ上げよう…多分、10mくらいの?
「オレも行くー!」
「そっちのほーが、おもしろそー!」
何人かの子供達が、それに付いて行こうとするが――
「こぉらガキども、お前らは大人しく芋掘りや!」
怖い顔で吠え、追い払う。
しかし。
「ゼロさんもなの、ですよ?」
りりかが、にっこりと微笑む。
これはただの遊びではない。
天魔の襲撃から皆を守りつつ、収穫の手伝いをするという立派なお仕事なのだ。
「せやからこの火柱を魔除けにしてやな…」
え、ダメ? 却下?
わかった、わかりました。
「りんりん、なんや怖いで?」
今日のりりかには逆らわない方が良い気がする。
「ほれガキども、キビキビ働かんと頭と尻掴んで逆さまにシェイクしたるでぇ!?」
例えばこんな風に――と、弄りやすそうな和幸を捕まえてみる。
「え、俺!? って、ままま待ってちょ、やめろくださぃうわあぁぁ!」
「どや、楽しそうやろ?」
すごく悪い顔で子供達を見た。
しかし。
「うん、すっげー楽しそう! おれもやりたい!」
「ぼくも! ぼくも!」
「あたしもー!」
子供達、怖がるどころか大喜び。
「上等や、ならホンマもんの恐怖――」
「ゼロさん?」
あ。
「小さい子もいるの、ですよ? めっ、なの…」
子供達に怪我をさせる訳にはいかない。
ただし速度制限と高度制限、そして年齢制限を設けるなら。
「それを守るなら、遊んでも良いの…」
その結果。
悲報:ゼロ氏、子供達の楽しい乗り物と化す。
いじっていじって煽って最終的に大人の偉大さを見せつけ服従させる計画が、何をどう間違ったのか。
「りんりんに見られたんが敗因やな」
次からはこっそりと…いえ、何でもありません!
そしてりりかは、残った子供達と一緒に芋掘りを続行。
「頑張りましょう、です」
この土の下に美味しそうなお芋さんが埋まっているのだ。
そう考えると、わくわくが止まらない。
「安納芋かぁ…コンビニで芋マン食ったけどすげぇ甘かったな」
その味を思い出し、アルフレッド・ミュラー(
jb9067)は掘り上げた芋をまじまじと見る。
「美味しい芋の見分け方なんてのは、あるのかねぇ?」
後で農家の人に訊いてみようか。
それに出来れば芋料理のレシピも覚えて帰りたい。
「地元の人のほうが郷土料理とかで美味そうなの知ってそうだしな」
多分きっと、地元に伝わる独特の食べ方があるに違いない。
「てゆか皆まるまるしてて美味そうだな…これでスィートポテト作ったらあのチビ喜ぶかねぇ」
その呟きを聞いて、ニナが尋ねる。
「アルフたん、ロリになったってマジ?」
真顔だ。めっちゃ真顔だ。
「ロリ違うな!?」
「え、だって幼女のお婿さんになったって聞いたよ?」
あれは何と言うか、ちびっ子に美味いモン食わせたいと思っただけでな?
「ちびっ子が腹空かせてんのは嫌なんだよ俺は!」
「うんうん、幸せにネ!」
「婿にゃまだなってねぇな!?」
つか人の話を聞け!
「なんかジュンシンそーな弟君とちょっとS入ってるおにいちゃん見てるだけでもけっこうオナカイッパイだけどお芋もおいしそうだから掘るのですよホリホリ」
ああ、うん。
ごめん、聞く耳なんて最初からなかったね。
掘って下さい、心置きなく存分に。
「おれ、一番でっけぇのほるんでさ!」
自分の背丈よりも大きなシャベルを持って、紫苑はどやぁ立ち。
「はいはい、それは良いですけどねぇ、そんな手荒に掘ったら傷ついちまいま…うわっぷ」
どっさばっさと飛んで来る土を頭から被り、揺籠は渋い顔で文句を言ってみた。
が、紫苑は聞いちゃぁいない。
「あっ、モグラめっけやしたぜ!」
でもサングラスしてないね?
「紫苑サン、そりゃマンガの見過ぎでしょうよ」
それより、芋は?
「あっ!」
「どうしまし…あー、勢い余って真っ二つですかぃ」
でもまあ、切って使う分には問題ないだろうし、何より楽しいならそれが一番だ。
その頃、宇宙センターの食堂では、響が料理の本と睨めっこ。
「難しくなくて、子供が喜ぶモノ…えぇっと…」
香里はスイートポテトを作ると言っていたが、他にも料理やお菓子があった方が良いだろう。
「何か…安納芋ならではの料理があると良いですよね…」
チップス、きんとん、ポタージュ、パン生地に混ぜて焼いても美味しそうだ。
やがて腕いっぱいに芋を抱えた子供達が、どやどやと食堂に入って来る。
「良いさつま芋獲れたんだね。美味しく頂こうね♪」
響は泥だらけになった彼等の頭を優しく撫でて、目一杯褒めた。
「じゃあ、まずは手を綺麗に洗って来てね」
その間に皆の芋も洗っておくから。
香里のスイートポテト体験会は、子供達を5つのグループに分けて行われた。
「大きい子は小さい子を手伝ってあげてね?」
レシピは一番簡単なもので良さそうだ――何しろただ焼くだけでもスイートポテト並の甘さなのだから。
子供達の指導に当たる香里を手伝いながら、響は芋団子を作る。
海岸ではBBQをするそうだから、丸めたものはそこで焼けば良いだろう。
アルフレッドは料理サイトや本で覚えた芋料理を作っていた。
それに、地元の人に教わった芋シチューや芋ご飯、芋を入れた豚汁などなど…
「ちっとでも笑顔になってくれりゃあ、それだけで嬉しいよな」
と、そこに揺籠の良く通る声が響いた。
「あぁ? 初恋の人!?」
「しーっ! 兄さん声でけぇでさっ!」
自分で掘った一番大きな芋を大事に抱えた紫苑が、慌ててその口を塞ごうとする。
もしかして、それはプレゼントか。
「んじゃあ芋そのままよりそれですいーとぽてと? でも作って渡してきた方がいんじゃねェですかね」
「料理できる女の子はモテるってやつでさ」 ※偏見です
「レシピなんてそんなもん、混ぜて焼くだけでしょ」 ※大雑把すぎます
「きんとんの芋餡を焼いただけのモンじゃねぇんですかぃ?」 ※いいえ
大丈夫、作り方ならスマホしゅーってすれば出て来るから、しゅーって。
「しかし洋菓子なんて滅多に作らねェや、何がどう…うン?」
二人であれこれ試行錯誤紆余曲折艱難辛苦七転八倒の末、漸く形になったそれは多分、会心の出来。
だがしかし。
渡すのは…こう、恥ずかしくて。
こう! こう!!
「どーめきの兄さんおねがいわたしてきてぇ!!!(ぴゃー」
「…ガキのくせにいっちょ前に照れやがる」
揺籠は溜息と共に、紫苑の頭にぽふんと手を置いた。
「わかったわかった、せめて手紙位付けなせえよ」
でないと勘違いされそうで、うん。
一方、海岸に残ったゼロは火柱の組み立て中。
「焼き芋するんやったら、この火ぃ使わせたるでぇ?」
大丈夫、火力は強くても芋は悪魔的な何かで焦げないから、多分。
後はBBQの道具をセットして、皆を待つだけだ。
その間にも下拵えを終えた食材や、殆ど出来上がって後は仕上げの一手間を残すのみになった鍋、皆で作ったスイートポテトや芋団子などが、次々に運ばれて来る。
そして皆が集まった夕刻、組み上げた柱に火が入った。
ファイアワークスでどーんと派手に演出する裏で、ライターをカチッとな。
子供達が火傷しないように、火の管理は七夜が行う事になった。
だってゼロさんに任せておいたら、小さな子供達と一緒に楽しむには過激なモノになりそうだし。
なので、それはまたいつか撃退士だけの祭の時にでも、という事で。
「さあ、お芋早速焼いてみましょうです〜♪」
火柱の端、ほどよく炭になった辺りに、七夜が芋を仕込んでいく。
「炭火でじっくり焼くと、ほくほく綺麗な金色焼き芋のできあがりです!」
「今日の七夜ちゃんは先生ですね」
碧は子供達と一緒に期待の眼差しで、七夜の一挙手一投足をじっと見つめる。
「まだかな、まだかな」
同じくじっと見つめる小梅は、待ちきれずにウズウズそわそわ。
炎の中にうっすらと見える芋の影を見る。瞬きもせずに見る。とにかく見る。
「これで焼き芋したらめっちゃ美味しいで」
なんて、いばらの声が聞こえたものだから、とうとう涎が!
「まだかなぁ」
まるでお預けを喰らった犬。
「はい、そろそろ良いですね」
七夜のお許しが出た途端、小梅は間髪を入れずに――
「あっづぅぅぅっ!!」
そりゃね。
「あ、出来たてはすごく熱いですから気を付けて下さいねー?」
約一名、もう手遅れだけど。
七夜は火から取り出した芋をふーふーしてから碧に手渡した。
二つに割ると、とろりとトロけそうな黄色い果肉が目に飛び込んで来る。
「まずはそのままでどうぞですよ〜」
「…ぁ、美味しい…!」
碧の反応に、七夜は大満足。
「そのままでも勿論美味しいですが、バターとカスタードクリームを持ってきましたので、これを付けて食べても美味しいのですよ♪」
「本当ですね、七夜ちゃんすごいです」
世の中にこんなに美味しい食べ物があるなんて知らなかった。
「それに自分たちで作って、みんなで一緒に食べるのは格別に美味しいです。体も心もほくほく温かくなりますね」
「甘いお芋はアイスが美味しいなの!」
「カマふぃアイスと焼きさカマ芋、皆で食べるよ!」
カマふぃときさカマは、特製芋アイスを焼き芋に添えて。
「リコも食べへん? ゼーったい、美味しいで? ほっぺた落っこちるで?」
そう言いながら、いばらは半分に割った芋の片方をリコに手渡す。
「あっまーい!」
「な? …ああ、ほら、行儀よぉ食べんと」
ほっぺに付いたカスを取ってやりながら、いばらは同意を求める様な笑顔を向けた。
「でも美味しいやろ?」
「うん!」
甘くて美味しくて、幸せ。
その甘い幸せに、チョコを付けたらもっと幸せになれそう。
そう考えたのは、勿論りりかだ。
甘い芋に合うように、少しビターなチョコを溶かしてディップ用に準備し、皆にお裾分け。
「良ければ試してみて下さい、です」
リコにも差し出してみる。
「ありがと! ぁ、これもおいしー!」
「よかったの、です」
にっこり笑って、りりかは次にジェンティアンの所へ。
「あぁ、うん、ありがとう。じゃあ少しだけいただこうかな?」
実は甘いモノ超苦手だけど、女の子のオススメを断る訳にはいかない。
笑顔は断じて崩さずに、でも心は今にも泣きそうな曇り空。
最低限のノルマを果たしたら、後はそっと他の子に押付け…献上する方向で!
「あ、こっちのも食べなよ。僕結構食べたし」
嘘じゃない。
一口の甘味は百皿の料理にも匹敵するのだ。
「甘いモンが苦手なら、こいつはどや?」
ゼロが勧めたのは、天ぷら各種。
これなら甘くないし、肴にすれば酒も美味い。
「あ、良いですねぇ」
じゃあ遠慮なく頂こうかな♪
楽しく騒いで夜も更けて、空に満点の星が輝く頃。
「片付けるまでが、ごはんですから…」
響は率先して食器を片付け、きちんと洗って元の場所へ。
今日は皆で孤児院に泊まって、帰りは明日になる。
「明日のごはんは、何にしようかな…」
そして揺籠は。
「ったく、何で俺が渡して来なきゃなんねえんですかねぇ」
その奥ゆかしさの半分位、自分に対しても発揮してくれないものだろうか。
(別に妬いてるわけじゃねェですけど)
ぶつくさ言いながらも、揺籠はちゃんとキューピッド役を果たしてくれた。
手紙には紫苑の花と、お星さまの絵。
何か言葉にしようにも、文面を思い付かなかったらしい。
「伝わりやすかねぃ」
「伝わりますよ」
一生懸命、心を込めて作ったのだから。
ぽんぽんと頭を叩く揺籠に、紫苑は「んっ」と何かを突き出した。
「何ですかぃ?」
「いいから、んっ」
中身はスイートポテト、それと、ちょっとした手紙が入っている。
「帰るまで見ちゃダメですぜ!」
だって「兄さんいつもありがとう」とか、そんなの目の前で読まれたら爆発する!
島の夜空には、数え切れないほどの星が光っていた。
浜辺に座ってそれを見上げる六実は、満足そうな笑みを浮かべる。
これでひとつ、念願が叶った。
まだまだ、叶えたい事は沢山あるけれど――
そして翌朝。
「皆で一列になってー!」
突如始まるカマキリ大名の大名行列。
きさカマがシンバルとカスタネットを賑やかに鳴らし、カマふぃはホイッスルをけたたましく鳴らして行進しつつ、使い捨てカメラで記念撮影。
「したにぃ〜したにぃ〜なの!」
「したにぃ〜! したにぃ〜!」
何だかよくわからないけれど、子供達が楽しそうなら…まあ良いか。
「この笑顔がずっと護れたら良いな」
響が呟く。
そしてレティシアは、帰り際にリコのどらごんに芋のお土産を。
一番おいしいものを食べて貰いたいから、熟成の注意事項もきちんと伝えて。
(リコさんとどらごんさんが、美味しいお芋をもっきゅもっきゅ――)
想像しただけで幸せな気分になれる。
「お兄様、こちらお約束のお品ですわ」
ディアドラがにっこり笑って手渡したのは、例の激写フォトアルバム。
「ちょ・ま!? ぎゃあああああああ!?」
和幸くん、終了のお知らせ…?
種子島は、今日も平和だ。
多分、ごく一部を除いては――