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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/11/05


みんなの思い出



オープニング



 今年も進級試験の季節がやって来た。
 全ての生徒が新しい学年に進級し、気持ちも新たに学生生活をスタートさせるべく、全力で試験に挑む――
 という訳でもないのが、ここ久遠ヶ原学園。

「……今年も、留年希望者がいるのか……」
 科学室にやって来る生徒達の噂話を適度に聞き流しながら、門木章治(jz0029)は考えた。
 学生にとって、留年とは本来全力で避けるべきペナルティである。
 それに、多くの落伍者を出す事は学園の評価を下げる結果に繋がりかねない為、学園側もどうにかして生徒達を進級させようと躍起になる。
 だから素直に進級する方が、留年よりも遥かに楽で簡単な筈なのだ。

 なのに何故、彼等はそこに留まり続けようとするのか。
 何が彼等を困難な道へと駆り立てるのだろう。

「……今年の試験は、それにするか」



 問題:

 留年(或いは進級)を希望する理由を、情熱を込めて全力で説明せよ。
 レポート提出、面接、実技・実演など、表現手段は問わない。
 個人でも、他の生徒と協力しても良い。
 校内の施設及び備品は自由に使用可。

 注:他の生徒に迷惑をかけないこと。


「……以上、健闘を祈る」



リプレイ本文

 門木が試験会場となった教室のドアを開けると、頭上から黒板消しが落ちて来た――
 なんて事は、ない。
 生徒達は悪戯もせず、真面目にかつ真剣な面持ちで、それぞれの席に座っていた。

 ただ、二つばかり空席がある。
 彼等は学生であると同時に現役の撃退士、何か緊急の出動要請でもあったのだろうか。
「……もしそうなら、無事に戻ってくれれば良いんだが、な」
 これは試験と言うより進路相談に近い、受け損ねても後は本番で頑張れば良いのだ。
 ただ――
「……鏑木愛梨沙(jb3903)と、砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)……二人とも留年希望、か」
 その場合は何をどう頑張れば良いのか――それに、教師としてそこを「頑張れ」と言ってしまって良いのかどうか、よくわからないが。

 では、そろそろ始めようか。
「……学生番号の順に、隣の教室へ」



● レイラ(ja0365)の場合

(留年? 進級? そういえば、もうそんな季節なのですね)
 ぼんやりしていたレイラは、名前を呼ばれて慌てて席を立った。
「……お前は特に、悩む様な事もなさそうだが……?」
 普段の活動状況や昨年までの成績その他が書かれたシートを見て、門木が首を傾げる。
 しかし、乙女心は色々と複雑なのだ。
「留年か進級か、偶には私だって悩んだりします」
 僅かに膨らませた頬に赤味が差す。
 俯き、上目遣いで門木を見るその瞳の奥には、いつもと同じひたむきな想いが隠されて……いない。
 誰の目にも明らかだろう――ただひとり、それを向けられている本人以外には。
 レイラは大きな溜息を吐いた。
「……そんなに、悩んでるのか?」
 違う、そうじゃない。
 レイラはもうひとつ、今度は軽めの溜息を吐く。
「今のままの距離も学園での生活も好きでこの雰囲気もいいのですけれど、やっぱり早く卒業したい……です」
「……そうか。なら、何も問題はないな」
 この学園に「卒業」という制度があるのかどうか、それは疑問だが。
「早く門木先生の横に並べるように頑張って勉強もしていきます」
「……横……教師に、なりたいのか?」
 だからそうじゃないって。
 レイラ、三度の溜息。
「そっ、そういえば門木先生はどのような勉強をされてきましたか?」
 気を取り直して、質問してみる。
「良かったら、教えて頂けると……」
「……勉強……」
 まずは国語辞典を丸暗記して、次に百科事典を丸暗記して、それから図書館の本を片っ端から読破して――
「……今は専門分野の論文やデータベースを読み漁ってるが……」
 お陰で知識だけは豊富だが、相変わらずの人界知らず。
 データを詰め込んだだけで応用が利かないコンピュータの様なものですね。
 従って、この勉強法はお勧め出来ません。
「……まあ、進級希望なら特に問題はないだろう」
 面接終了。
 しかしレイラは、まだ何か言い足りない事がある様で……?
「……何だ?」
「あの、これを」
 差し出したのは手編みのマフラー。
「これからグッと冷え込んできますし、先生は無頓着なところがありますので……」
 この前、門木が人質になると言い出した時、本当は胸が潰れそうなくらい心配だったのだ。
「もっとご自分を大切にしてくださいね」
 ところが、相手は流石の朴念仁。
「……去年も、貰ったよな? それに、お前の方が寒そうだし」
 門木は近頃「おことわり」のスキルを習得した様だ。
 しかし、使い所を間違えている。
 常識と状況から判断するに、そこは素直に有難く頂戴しておく所だろう。
 こんな奴で、本当に申し訳ない……



● 礼野 智美(ja3600)の場合

「お願いします。私はレポートを書いて来ました」
 レポートと言うよりは作文かもしれないが、と言いつつ、智美は原稿用紙を門木の前に置いた。
『私は進級希望です』
 そこには、しっかりとした手書きの文字でそう書かれている。
『卒業・又は退学時点で撃退士をしてなかった場合のため、というのが一番大きな理由です。
 撃退士は学園で撃退士をしている限り、学園の授業費などが免除されますが、途中で道を異なろうとする場合、免除されていたものを一気に請求されます。
 勿論、個人としては撃退士を続ける意思はありますが、撃退士を続ける以上再起不能になる可能性は多分にありえます。
 学園には残れますが、撃退士を続けられない以上何らかの職に就かないと生活は出来ませんし、学費を返さないといけない分ハードルも高いです。
 また、外の場合大抵職に就くには高卒以上の学歴が求められます。
 いざ職につこうとしても留年の為試験を受ける前に資格なしとされる可能性も否定できません。
 通常の企業に勤めようとする場合や専門学校に入学する際、おそらく留年続きというのはよほどの理由(入院が長引いた、等)がない限りは、不真面目な人物と取られてしまうでしょう』
「……そう、なのか?」
 学園内の事にも詳しいとは言えないが、外の世界の事となると無知と言って良いほど世間知らずな天使は、そこまで読んで首を傾げた。
 人間の世界で生きていくのは、思った以上に厳しい事なのかもしれない。
 もしも門木が学園をクビになったら……
 いやいや、今は自分の事よりも生徒の将来だ。
『次の理由として、門限の存在があります』
 これも普段は余り気にしていない部分だが――
『勿論依頼に従事している場合は門限は例外措置となりますが…高等部以下の学年の場合、今までの交遊関係に響く可能性が非常に高いと思われます。
 撃退士を続ける以上、仲間や小隊との交遊は大事にしたいものですが…壊れる時は些細ない気違いから壊れるのが人間関係というものです。
 余りハードルを自分から上げようというのは、かなり不利になると思われます』
 以上。
「……うん、ありがとう」
 ここまでしっかりと考えているなら、進級も問題はないだろう。
「……次は高校二年か。そのまま、真っ直ぐに……頑張れ」
 ただし、頑張りすぎないように。
 危なくなる前に止めてくれる人は、周りに大勢いるとは思うけれど。



● 天羽 伊都(jb2199)の場合

「進級したい、何があっても進級したいよ!」
 教室に入って来るなり、伊都は叫んだ。
「ボクの来年は高校1年という輝かしいデビューが待っているんだ……」
 現在、伊都は中等部三年。
 中学生と高校生では、周囲からの見られ方に雲泥の差がある。
 例えその時点での年齢が同じでも、どんなに大人びて見えても、中学生なら厨房と呼ばれてしまうのだ――中二病を患っているのが高校生の方だったとしても。
「負けられない戦いがここにある。ガムシャラになって戦っていくぜ!」
 そして、ここで差し挟まれる回想シーン。
「思い起こせば今年は戦いの年だったよ……」
 北は仙台で鬼蜘蛛とひたすら相撲試合の日々、静岡では天使連合との泥試合、西に行けば滋賀では本来守るはずの人達と戦い、四国では天使の騎士団とヒヒイロカネの取り合い。
 そして、撃退士の庇護を満足に受けれない地方の小村の実情や、天魔被害者達との交流――
 勉強してる暇なんか、ないと思いませんか……じゃなくて。
「様々な想いがボクに降りかかってはどこか心に重みがかさ張っていくというか積み上がっていくというか……」
 わかる?
 通じてる、先生?
「……うん、大丈夫だ……多分」
 微妙に不安な想いを抱きつつ、伊都は拳を握る。
「ボクはこの先も抗って行かなきゃいけない。そしてまた個人としても学生である今を楽しまないといけないと思うんだ。人生とは闘争の日々、抗って闘って満喫して――」
 伊都はおもむろに教卓の上に立った。
 あ、勿論靴は脱いでますから、ご心配なく。
「ボクはこの世界を救ってみせる!」
 拳を振り上げ、力説。
「そのためには全力で進級して高校デビューを果たすんだからね」
 ――という謎の主張を展開して、伊都は門木の前に座った。
「で……試験問題の答えを教えてもらえますか?」
「……え?」
「あ、ダメですよね……」
「……いや、まだ何も言ってないが」
「じゃあ良いんですか!?」
「……ダメ」
「先生、夜道には気を付けた方が良いですよ……」
 と、冗談(?)は置いといて。
「じゃあ試験対策を! せめて試験対策を教えてもらえますか? 超勉強しますから! ね、いいでしょ? 助けてください!」
 燃える瞳で門木を見つめる伊都。
 これ炎型のカラコンとか入っているのではいだろうか。
「ボクの思春期を全霊でサポートしてください!」
「……いや、まあ……」
 サポートはする、けれど。
 伊都くんの場合、これだけ撃退士としての活動をこなしていれば、学業がどれほど壊滅的でも進級は可能だと思われますが。
 それでも超勉強、する?



● シグリッド=リンドベリ (jb5318)の場合

 いつも通りです。
 おわり。

 ……え、ダメですか?
 ですよねー。

「頑張って卒業してせんせーにお付き合いを申し込むのです」
 門木の目の前に座って、開口一番。
 ほらね、いつも通りでしょ?
 って言うかキミはどうしてここにいるのかな、進級希望なら何の問題もないと思うんだけど。
「せんせーと二人きりになれると聞いて!」
 うん、まあ、間違ってはいないけど、ね。
「せんせーとずっと一緒に居られるように、ぼく頑張って一人前のおとなになるのですよ…!」
「……う、うん……頑張れ」
 何をどう頑張るのか、よくわからないけれど。
「とりあえず学生の間は先生の生活環境の改善をがんばります」
 主に食事の管理ですね!
 という事で、渾身のお弁当を差し出す主夫(仮)。
 中身は小さいおにぎりに、甘い卵焼き、タコさんウインナー、えびとブロッコリーのサラダ、デザートにプリン――
 家庭科の実技という事で、どうですか!
「強くなるのは…すぐにはきっと無理なので」
「……うん、ありがとう。でも今は、試験中だから」
 昼休みにちゃんと食べるけど、食べなくても美味しいのはわかってる。
「……試験は合格、な」
「ありがとうございます! じゃあ…」
 シグリッドは深呼吸をひとつ。
「せんせー、将来ぼくと結婚してください!」
 はぐぎゅー!
「……え? えと……?」
「…やっぱりかわいい女の子じゃないとダメですか?」
 いや、そんな、じっと見つめられても。
 因みにフィンランドは同性婚OKらしい。
 さあ、どうだ!
「……あの、でも……結婚って、ひとりの相手としか……出来ないんだよ、な?」
 重婚とか一夫多妻とか、それは流石にフィンランドでも禁止されていると思うんだけど。
「……ひとりしか選べないのは……その、困る……な」
 みんな好きだし。
 あ、ご承知だとは思いますが、この場合の「好き」は幼稚園児並のレベルです。
 ほんとに、困ったもんですねぇ(他人事



● 神ヶ島 鈴歌(jb9935)の場合

「先生〜レポートの提出に…」
 鈴歌はレモネードについて詳しく研究したレポートを提出しに職員室へ……え、そこじゃない?
「じゃあどこに提出すれば良いんですかぁ〜?」
 隣の教室?
 あ、ほんとだ。
 では気を取り直して、レポートの提出に来ました、けど……
「ぁぅ? 門木先生お疲れですぅ〜?」
 うん、まあ、これで面接五人目だし。
 普通はその程度で疲れる事はない筈なんだけど、その、色々と濃い生徒が多かったものだから、ね。
「良ければレモネードをどうぞぉ〜♪」
「……あぁ、ありがとう」
 いただきます。
「美味しいですかぁ〜?」
「……うん」
 では、実際に飲んで頂いたところで。
「ここでレモネードについて熱く語るですぅ〜!」
 全てはレモネードの為に。
 え、それが進級と何の関係があるのかって?
 まあ、黙って聞いて下さいよ!
「そのレモネードは改良するですけど〜、そもそもレモネードとはレモン果汁に蜂蜜やシロップ、お砂糖等で甘味をつけ冷水で割ったものなのですぅ〜♪」
「……はい」
「レモン果汁には還元作用のあるVCを多く含み美白効果があり、蜂蜜はレモンの酸っぱさを軽減させ甘く飲みやすく、喉越しの良いお飲み物にしてくれると共に、消化も必要なく手早くエネルギーを得ることができるのですぅ〜♪」
 よし、噛まずに言えた!
 ひとまず自分用のレモネードで喉を潤して、続き行きます!
「また……(中略)どんな時でも必要な栄養を補給できて、暑い時は熱中症や脱水予防にもなりますし、寒い時はホットにし冷えた身体を内側から温め風邪対策にもなるのですぅ〜♪」
 そして結論。
「これ程撃退士に適したお飲み物はないと思うですぅ〜!」
 どうです、レモネードの素晴らしさをわかって頂けましたか?
「でも私はまだ知識不足なのですぅ〜」
「……そう、なのか?」
 これで充分だと思うけど。
「この美味しさを多くの方に知ってもらい美味しいレモネードを作る為、私は何が何でも進級して多くの知識を吸収していかねばならないのですぅ〜!」
 ほら、レモネードと進級が繋がった!
「というわけで私はレモネードの為に試験勉強に戻りますねぇ〜♪」
「……え……、あ、はい。頑張って……」
 あと、ごちそうさまでした。





 そして昼休み。
 お弁当を持って突撃する、押しかけ女房(仮)が二人。
 シグリッドとレイラに両脇を挟まれて、これは両手に花なのか、それとも針の筵なのか。
 うん、まあ、ここは三人で仲良くという事で……おかずの分けっこでもしましょうか。
 門木からは美味しいレモネードを提供しますから! ※ 鈴歌さんからの頂き物です

「せんせー、試験の後って忙しいですか?」
 相変わらず給餌をしながら、シグリッドが訊ねる。
「試験終わったらみんなでスイーツ食べに行くのです、せんせーも一緒に行きませんか?」
 追試?
 なにそれおいしいの?
 きっと大丈夫だよね、お弁当っていう袖の下も渡したし! ※試験結果には影響しません
「……うん、迷惑でなければ……」
「迷惑だなんて、そんなことないのですよー」
 スイーツより焼き肉パーティの方が良かった気がしないでもないけれど。
 だって多分、バレンタインのチョコがまだ残ってる筈だから。
「そういえば、どれくらい消費出来たのです…?」
「……まだ、半分くらい……かな。ほぼ毎日、食べてるんだが」
 どんだけ貰ったんだ、この人。
「あと、せんせーは熱いの平気なのです?」
「……猫舌ではない、と思う……」
 ふむ(めもめも

 そんな会話を聞きながら、レイラは別方面からの攻略を思案――した訳では、特にないと思うけれど。
「これが終わったら、科学室のお掃除をさせて頂きますね」
 ついでに服や白衣の洗濯も。
「整理整頓と清潔に保つことは、お仕事を続けていく上でとても大切なことだと思います」
「……はい」
 でも、洗濯はちゃんとしてますよ。
 白衣が薄汚れて見えるかもしれませんが、これは「味」なのです。


 そして、進級試験は無事に終了した。
 現在のところ、進級も留年も、どちらの希望も順当に叶えられそうだが。

 ともあれ、お疲れ様でした。
 後は存分に遊んで下さい――?


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

202号室のお嬢様・
レイラ(ja0365)

大学部5年135組 女 阿修羅
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
黒焔の牙爪・
天羽 伊都(jb2199)

大学部1年128組 男 ルインズブレイド
208号室の渡り鳥・
鏑木愛梨沙(jb3903)

大学部7年162組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
シグリッド=リンドベリ (jb5318)

高等部3年1組 男 バハムートテイマー
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
翠眼に銀の髪、揺らして・
神ヶ島 鈴歌(jb9935)

高等部2年26組 女 阿修羅