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マスター:STANZA
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
形態:
参加人数:25人
サポート:5人
リプレイ完成日時:2014/08/22


みんなの思い出



オープニング



 久遠ヶ原人工島のとある海辺に、二隻の海賊船がある。
 何かの映画で見た事がある様な三本マストの帆船を象ったそれは、水面から上の部分だけが精巧に作られた原寸大の模型だった。
 久遠ヶ原学園の生徒達に楽しんで貰おうと作られたその模型は、リアル海賊ごっこが出来るアトラクションとして人気を呼んでいる。

 そしてこの夏。
 船に改造が加えられた。

 何と、船が巨大なプールに変身したのだ!

 甲板の真ん中には25mプールがひとつと、それよりも浅い子供用のプールがひとつ。
 船首付近にはマストの上から轟々と流れ落ちる滝がある。
 甲板の脇には飛び込み用の板が張り出しており、海で泳ぐ事も出来る様になっていた。
 だが何と言っても目玉になるのは、メインマストから下り落ちる巨大なウォータースライダーだ。
 二隻の船はどちらも同じ構造で、向かい合った互いのメインマストから伸びるスライダーのコースが交差し、複雑に絡み合いながら伸びている。
 全長はそれぞれ200mはあるだろうか。
 コースは開放型で、途中には大ジャンプやウォーターガンで撃つ事によってコースを切り替えられる分岐もある。
 切り替えた先はもう一隻から伸びるコースだったり、そのまま海にポイされたりと、様々だ。
 途中、ウォーターガンで的を狙う射的のミニゲームも出来る。
 因みにスタート地点には、マストに張られた網を登って行く必要がある――自前の翼があれば、それでひとっ飛びも可能だが。

 その他、今までにあった施設……船員用の個室や食堂、風呂、トイレ、娯楽室など、今まであったものは全てそのまま利用出来る。
 甲板にはビーチパラソルやデッキチェアを広げるスペースもあった。
 舷側に付いた大砲は花火の発射装置だ。
 夜になれば、ここから盛大な花火が惜しげもなく打ち上げられる事になっていた。
 事前に登録しておけば、花火にメッセージを付ける事も出来る。


 さあ、この一風変わった海賊船。
 従来通りの海賊ごっこを楽しんでも良し、ただのプールとして利用しても良し。
 グループでも個人でも、好きな様に楽しんでみては如何ですか?



リプレイ本文


 夏は暑い。
 撃退士だって暑いものは暑い。
 そんな中、カノン(jb2648)はひとり戦っていた。
(二度目の夏ですが……やはり暑い……)
 拘束衣じみた黒い服にじりじりと照りつける陽射し。
 集中を乱そうとするかの様に、頭に響く蝉の声。
(しかし、それでもこの服はけじめ。早々脱ぐわけには!)
 大丈夫、撃退士が熱中症で倒れる事はない。
 倒れる事はないけれど――

 あれ、幻覚が見える。
(……門木先生……?)
 いや、本物だ。
 この暑いのに、どこへ行くのだろう。
 しかも一人で。
(いくら学園内とは言え、何処に危険が潜んでいるかもわかりません)
 こっそり後をつけて護衛するべし。

 そして着いた所が海賊船。
 しかもプールに改造されている。
 おまけに見知った顔が大勢。

(こんな所で暑苦しい格好をしていたら他の方も気分が滅入るでしょうね)
 仕方がない、ここはTPOというものを考えて――パイレーツスーツで海賊に変身だ!
(場所に合わせて着替えただけです、えぇ)
 何故それを持っていたのか、なんて突っ込んではいけません、えぇ。


 そんな訳で、プールです。



●SSH

「「われら、せかいせいふくだんー!」」
 船の甲板に駆け上がり、高らかに宣言するちみっこ四人。
 背の順に自己紹介、いきまーす!
「いちばん、キョーカ! なのっ!」
 キョウカ(jb8351)はワンピースタイプの水着、柄は勿論うさぎ柄だ。
 お尻には丸い尻尾も付いてるよ!
「にばん、おれがキャプテンフックことかいぞくしおんちゃんでさー!」
 \べべーん/
 黒いタンキニに可愛い花柄の短パンを重ね、上にはちょっとダブついた船長服。
 パイレーツハットは角にぶっ刺し、斜めに被るのが粋ってモンだぜ!
 今回はお姫様もいるし、リアリティばっちり!
「さんばん、ショウだよー! うみがぼくたちをまっているー!」
 学校指定の海パンに、船長服の様に見える上着は実はライフジャケットだ。
 これなら海に落ちても安心、海賊気分を楽しむぞ!
「ドウメキのにーちゃんも、ほしい?」
「別に、いらねーですよ。海にゃぁ近付きやせんからね」
 水着にパーカを羽織った百目鬼 揺籠(jb8361)は、余裕の表情で首を振る。
 そう、近付かなければ良いのだ。
 プールならまだ何とかなる。多分。足さえ付けば。
「よんばん、だんちょー! すおうひなた! 七つの海はおれたちせかいせいふくだんがせいふくだー!」
 濡れても平気なパイレーツスーツは何かの陰謀で半ズボンタイプだ!
 お膝ぴかぴか! せいぎ! って声が、どっかから聞こえる!
 パイレーツハットは顎にかけるゴム付きで、風でも飛ばされないぞ!
「ほら、うぶかたのおっちゃんも、ちゃんと自こしょーかいしろよなっ」
「そうだよ、おっちゃんもなかまなんだからさー」
 陽向と翔に服を引っ張られ、ゆらりと現れたのは――
「くっくっくっく…」
 黒地に金色蒔絵風の模様付きサーフパンツに黒のビーチサンダル、上には黒いパーカー羽織った、デカくてちょっとコワそうなオジサマだった。
 どう見ても「その筋」の人にしか見えない彼、冲方 久秀(jb5761)はしかし、せかいせいふくだんのれっきとしたメンバーだ。
「くっくっくっく…私はただの保護者だよ、子供達は色々と暴走しがちなお年頃なのでね」
「そんなこと言って、おっちゃんひみつきちでけっこう楽しそうにしてるよな!」
「ね!」
 陽向の言葉に翔が頷き、キョウカはにこにこ、紫苑はニタニタ。
「くっくっくっく…」
 そう言えば揺籠は団員にならないのだろうか。
「まあ、おれらはかんだいですからねぃ、だんいんじゃなくても、いっしょにあそんでやりまさぁ」
「俺はただガキ共がちっと数多いんで、ちょいと見張りに来ただけですよ」
 まあ、どうしてもと言うなら少しくらいは遊んであげても良いけどね!

 無事に名乗りを終えた所で、ちみっこ達は早速プールに突進した。
「ぷーる! なの!」
 走り出したキョウカを、紫苑が慌てて追いかける。
「おひめさま、はしっちゃあぶねーですぜ! おれがエスコートしやすか……っ!」
 \ずべーん/
 はい、お約束。
「ヨーホーヨーホー! いくぜ、しょう! おれにつづけー!」
 陽向はマストから垂れ下がったロープを掴み、それにぶら下がってターザンよろしく滑空から大ジャンプ!
 ばっしゃーん!
 大きな飛沫を上げてプールの真ん中に飛び込んだ。
「くっくっくっく…子供達よ暴れすぎて周囲のものを壊さぬようにな」
 プールサイドで見守る保護者。
 だがその身に纏う空気が保護者っぽくない。
 寧ろこの人から子供達を保護するべきではないのか――そんな風に思われたのだろうか。
 近付いて来た警備員達が久秀に声をかけようとした、その時。
 ちみっこ達が一斉に抗議の声を上げた。
「うぶかたのおっちゃんはフシンシャじゃないぞ!」
「そうだよー、おっちゃんはフシンシャじゃないよー」
「ひさおじたんはいいひとなの!」
 え、そうなの?
 本当に?
 君達、騙されてるんじゃ……?
「だまされてなんか、ねぇでさ」
 仁王立ちした紫苑が鼻を鳴らす。
「うぶかたのおっちゃんはふしんしゃじゃねーですぜww」
 言ってるうちに自分でおかしくなって、笑いながら言葉を継いだ。
「あと、どーめきのにーさんもロリコンじゃねーですwぜww」
 腹を抱えてケラケラ笑いながら、紫苑は揺籠を指差す。
「人を指差すもんじゃねぇですよ? それに俺はロリコンじゃねぇですから」
「おめめのにーた、じぶんでひてーするのはあやしいって、キョーカしってる、なの!」
 でも、ろりこんってなに?
 それを聞いて、ますます笑い転げる紫苑。
 だがここに、揺籠の味方をしてくれる心優しい天使がいた。
「ドウメキのにーちゃんもちがうよー」
 何が違うのかよくわからないけれど、とにかく違う。
 翔くんマジ天使。ハーフだけど。
 その純な瞳と膝小僧にノックアウt……心打たれた警備員達は、どうやら二人は怪しい人物ではないと納得してくれた様だ。
「よかったな、おっちゃん! どーめきのにーちゃんも!」
 陽向がニッコリ笑う。
「でも、おれたちのおかげで助かったんだから、なんかおごってくれよ!」
「キョーカ、あいすがいい、なの!」
 何故そうなる。
「じゃ、こうしやしょう」
 スライダーのミニゲームで勝負だ。
「賞品はねえようですけど、勝ったチームにアイスくれえは奢ってやりますよ?」
「え、一ばんになったらアイスにーさんのおごり?」
 ぼおおおおお!
 紫苑の瞳に、やる気の炎が燃え上がる!
「キョーカはしーたといっしょにやる、なのーっ」
「もちろんでさ、おれはいつでもおひめさまといっしょですぜ」
 もう一組は男の子同士、陽向と翔のペアだ。
「あ、大人は一人ずつな! ハンデな!」
「へいへい、海に落っこちねぇ様に気を付けるんですよ」
 ハンデくらいくれてやると、ひらひらと手を振る揺籠は余裕の表情だ。
「よーし、じゅんばん決めるぞー! じゃーんけーん……」

 ジャンケンでトップの座を勝ち取った陽向は、帽子と海パンだけの身軽な姿になって翔の腕をとり、スライダーの入口まで身軽に登って行く。
 この調子でゲームでもトップに立つのだ!
「しょう、ぜーったい一番になるぞ! がんばろうな!」
「一ばんになるぞーおー!」
 ウオーターガンを手にした二人は、翔を前にしてボードに乗り込んだ。
「うおぉ、すっげースピード!」
「ヒナタ、ヒナタ、なんかやじるしあるよー?」
「しょう、あれをうつんだ!」
「え、どっち?」
「えっと、えっと……!」
「よくわからないけど、やじるしをうてばいいんだよね?」
 えい!
 ピコーンと音がして、右の矢印が点滅する。
 スライダーは大きく右にカーブを描き、そのままの勢いで二人を空中に放り出した!
「あれ? まちがえたかなー」
 どっぼーん!
 二人は海に真っ逆さま。
「くっくっくっく…どうやらこれは不戦敗か?」
「なし! 今のなしだよおっちゃん!」
「もういっかいー」
 助けに来た久秀に、二人は涙目で懇願。
「しょうがねぇですね、もう一回だけですよ?」
 と言いつつ、きっと揺籠はゲームのコースに上手く入れるまでチャレンジさせてくれるって、みんな知ってる。
「よし、こんどこそ行くぞ!」
「おー!」
 スライダーの矢印を、左、右……
「しょう、左だ!」
「わかったー」
 しゅぱーんと撃ってコースを左に変えると、そこにはきらびやかな光のアーチがあった。
 それをくぐると、軽快な音楽と共に果物型の風船が浮かぶエリアに突入する。
「あれをうてば良いんだな! でっかいやつはねらいやすいんだぜ!」
 陽向はスイカとオレンジ狙いだ。
「くらえ、ウルトラスペシャルSSHビーーム!」
 ばしゅーん!
「よーしバンバンうつぞー」
 翔は無理せず、当てられそうな所から堅実に。
「イチゴがあればこうとくてんゲットだー」
 しかしスライダーのスピードは速く、風船はあっという間に後ろに流れて行く。
 最後のイチゴは振り返って撃つ!
 良いの?
「うしろにむけてうっちゃいけないって、かいてなかったよね」
 まあ、そうだね……。

「いちばんめざしてがんばる、なの!」
 紫苑はキョウカをボードの前に乗せ、GO!
「すべるのたのしー、なのーっ!」
 きゃっきゃとはしゃぐキョウカ、でもポイントの切り替えも忘れないでね!
「あいっ!」
 ええと、最初は左だっけ。
「そのちょーしでさ、おひめさま!」
 次は右だとショートカット、でもキョウカはいっぱい滑りたい!
「つぎもひだり、なの!」
 遠回りでも、行き着く先は同じだ。
 ぐるぐる回って三つ目のポイントを左に切り替え、無事にゲームコースへ入った二人はウォーターガンを撃ちまくる。
「あたった! なの!」
 スイカを狙ったのに、何故かイチゴに!
「とんじゃだめなんですかねぃ」
 紫苑はウォーターガンをぶんぶん振り回す。
 が、それは打撃武器ではありません。
「ちぇー」
 ならば的が大きく外しにくいスイカを狙い撃ち!
「しつよりかずうちゃあたりやさ!」
 お菓子だって質より量、駄菓子さいこー!

「さて、大人の本気を見せてやりましょうかね」
 揺籠は颯爽と、スライダーのスタート地点に立つ。
 この時の彼はまだ知らなかった。
 そのゴールが海に一直線である事を。
「あれ、冲方サンは行かねぇんで?」
 ふと芽生えた悪戯心を抑えきれず、揺籠は佇む久秀の背中を押した。
「折角なので遊んd……」
 だが前につんのめって足を滑らせ落ちていくその直前、久秀は揺籠の足首をむんずと引っ掴んだ。
「くっくっくっく…貴殿は死なば諸共という言葉を知っているかね?」
「うわあああぁぁぁ」
 勢い余って組んずほぐれつ、グルグル回って転がりながら、二人はスライダーを滑降する。
「くっくっくっく…」
「ま、まわ、目が回る……っ」
 体中の目が全部グルグルと!
 しかしそれでも揺籠は必死でコースを切り替え、見事ゲームコースへ突入!
 子供相手でも容赦なく勝ちに行く為に、高得点のイチゴを中心に片っ端から狙う――が。
「イチゴ出て来んの少なくねぇですかーーー!?」
 まあ、出現はランダムですから。
 でもちゃんと合計で100点になる様に出て来るのだから、組み合わせの善し悪しも運のうち。
「くっくっくっく…」
 笑いながら流れて行く久秀を尻目に、揺籠はひたすら撃ち続ける。
 見えるのはスイカが6個にオレンジ3個、イチゴが2個。
 だが最後のイチゴは無情にも流れ去り、そして二人も流されて――
 \ざっぱーーーん/
「む? 百目鬼殿? もしや貴殿泳げぬのかね?」
 ぶくぶくごぼごぼ。

 結果は85点でキョウカ・紫苑組の優勝!
 因みに次点は80点の揺籠、陽向・翔組は75点という接戦だった。
「アイスは全員買ってあげますよ、喧嘩されても困りますからね」
 サルベージされた揺籠は、ちみっこ達を連れてプールサイドの売店へ。
「おいこら、負けたチームはツインにすんの禁止でさ」
 だがしかし。
「じゃ、トリプルならいいよねー」
「しょう、あったまいいな!」
「ならおれもトリプルがいいでさ!」
「キョーカも、なの!」
 恐るべし、子供達。



●シューティング・トライアングル

「ほぅ、こいつぁ楽しそうだなぁ」
 麻生 遊夜(ja1838)は海賊船の甲板で連れの二人を待っていた。
「どう? 似合う似合う?」
 先に着替えを済ませた来崎 麻夜(jb0905)は、どきどきしながら遊夜の前でくるりと回って見せる。
 太陽が眩しい…でも負けない!
 ビキニにラッシュガードなら、太陽よりも眩しく輝ける筈!
 続いて現れたヒビキ・ユーヤ(jb9420)は少々慎重派らしく、タンキニの上にパーカーを羽織っていた。
「ん、日焼け防止は、大事」
 こくりと頷き、にこりと笑う。
「で、二人のお目当ては何だ、やっぱりあれか?」
 あれとは、頭上に展開する巨大なスライダー。
「おー、おっきいねぇ」
「滝…スライダー…飛び込み…なるほど」
 麻夜はワクワクしながらそれを見上げ、ユーヤは何かを納得した様にこくりと頷く。
「ミニゲーム…風船撃つ奴? そんなのが、あるみたい」
「良いね、狙ってみるか」
 遊夜にとっては得意分野だ。
「先輩燃えてるねぇ。せっかくだからやってみようかー 」
「だが、一度に滑れるのは2人までらしいぞ?」
「2人まで? じゃ交互にだね!」
「あぃよ、仕方ねぇわな」
 遊夜はケラケラと笑う。
「勝ったらご褒美あるかな?」
 麻夜がクスクス。
 だが、説明を見る限り何もなさそうな雰囲気だ。
「ミニゲーム…賞品は、ないの?」
 普通、ゲームには賞品やご褒美が付き物だろうにと、ユーヤが首を傾げる。
「じゃ、俺に勝てたら…そうだな、一回言うことを聞いてやろう」
 ニヤリと笑った遊夜の言葉に、二人は目を輝かせた。
「何でも、良いの?」
「ああ、俺に出来る事ならな」
 ユーヤの問いに、遊夜は頷く。
 何でもと言っても限度はあるが、この二人が無茶振りをして来ない事は承知していた。
「勝ったら、ユーヤ命令権一枚…楽しみ、本気で行く」
 願いが叶った時の事を想像して、思わずユーヤの頬が緩む。
「これはちょっと、頑張らないと」
 こくり、麻夜が真剣な面持ちで頷いた。
 ルールは簡単、それぞれが遊夜と一緒にゲームコースに入り、風船の撃破数を競うだけだ。
 コースを抜けるまでに、どちらが多くの点を稼げるか――

「射撃は得意ではないけど、頑張ろう」
 こくり、頷いたユーヤがまずは挑戦だ。
 二人乗り用ボードの後ろに遊夜が、前にユーヤが座って滑り出す。
「ふむ、中々の絶景だな!」
 分岐の切り替えは遊夜に任せ、暫しの滑降を楽しんだ後はシューティングの真剣勝負だ。
 スタートの合図と共に、ユーヤはウォーターガンを構える。
 が、狙いを定めているうちに風船が弾け飛ぶ。
 下手に手加減するのも失礼と、本気モードの遊夜が次から次へと撃ち落としているのだ。
「あ、それ私が狙って、それ、も」
 結果、90対0で遊夜の圧勝。
 続いて挑戦した麻夜はかなり善戦したと言えるだろうが、それでも65対35。
 がっくりと肩を落とす二人に、遊夜は言った。
「だったら、二人一緒に挑んでみるか?」
 それで遊夜一人の点数を上回れば、二人の勝ちだ。
「ただしご褒美は二人でひとつだ」
 その言葉に、二人は顔を見合わせる。
 構わない――だって、二人とも願いは同じだから。
「それなら勝てそうな気がするね」
「頑張る」
 先行した遊夜のソロプレイでの点数は95、それを超えるには一つのミスも許されない厳しい戦いだ。
「私は大きい的、マヤは小さい的、お願い」
 ユーヤがスイカを狙う間に麻夜はイチゴやオレンジを撃ち落とし、コース状に現れる風船を次々に消して行く。
 終盤までパーフェクトで進み、やがて最後の一個はオレンジだ。
 二人は一緒に同じ的を狙う。
「せーの!」
 掛け声と同時に、オレンジは弾け飛んだ。

「正直、負けるとは思わなかったぜ」
 だが二人がかりとは言え、負けは負けだ。
「さて、お願いを聞こうか?」
 顔を見合わせた二人は遊夜を挟んで両脇に立つ。
 彼女達が望んだもの、それは……ちゅーさせて貰うこと。
 だって、してもらうのは断られるだるし、おかーさんが怖いし。
 というわけで、両側からほっぺに――
 ちゅ。



●海賊と人魚

「仮装…」
 ギィ・ダインスレイフ(jb2636)は悩んでいた。
 海賊の仮装をしろと言われても、どうすれば良いのだろう。
 濡れるから下は海パンで良いのだろうが、後は……何かそれっぽいアイテムでも用意してみようか。
 というわけで。
「眼帯…借りてみた」
 そして付けてみた。それだけ。
「ヒナは魚?」
「これは人魚って言うんですよ、ギィ先輩」
 陽向 木綿子(jb7926)はほんのり頬を染めながら微笑む。
 ちょっと恥ずかしいけど、これで女の子である事をアピールするのだ。
 ――という事は、普段は女の子だと意識されていない……という事だろうか。
「人魚、というのか」
 ギィは眩しそうに目を細める。
「きらきらして、綺麗だな」
 こくり。
 この反応は、多少は脈があると見て良いのだろうか。
 いや、この衣装は文字通り、鱗の部分がキラキラと輝いている。
 それを文字通りストレートに表現した、ただそれだけの事なのかも……?
 ……深くは考えるまい。
 それよりも、この仮装には重大な欠点があった。
 人魚には足がないのだ。
 つまり、自力で動けない。
「スライダー、やるか?」
 問われて木綿子はこくりと頷くが、実は高い所が苦手だったりする。
 けれどギィ先輩がお姫様抱っこで運んでくれるなら、どうして嫌と言えようか。
「本当に滑るんd……いえ、頑張ります」
 一緒ならきっと何も怖くない!
「コースはギィ先輩の好きな所でいいですよ」
「…ミニゲーム、狙う」
 ボードから落ちない様に木綿子をしっかりと抱きかかえ、滑降スタート――と同時に、ギィの耳はキイィンという甲高い耳鳴りに襲われた。
 いや、違う。
 これは悲鳴だ、ギィの首に思いきりしがみついて背中に爪を立てた木綿子の。
「きゃーーーーーーーーーーっ」
 絶え間なく聞こえる絶叫の中、ギィは冷静かつ正確にボードを操り、分岐点のポイントを切り替えて行く。
 わりとスピード狂なのだろうか。
 やがて辿り着いたミニゲームのコースで、ギィは声をかけてみた。
「…的、狙えるか? ヒナ」
 その声に真っ青な顔を上げた木綿子は、それでも何とか前を向き――
 まだ滑ってますね、ものすごいスピードで。
 スライダーの狭いレールを高速で滑る様子は、まるで空を飛んでいる様にも思えた。
「怖くない、大丈夫」
 ギィはそう声をかけ、木綿子の両手をぎゅっと握った。
 彼にしてみれば、それはただ狙いが定まりやすい様に手を添えただけの事であり、おでこをコツンと当てたのも、手が塞がっていたので撫でる代わりにそうしただけ、なのだが。
 ――きゅんっ。
 その瞬間、木綿子の意識は真っ白になった。



●らきすけは正義!

 蓮城 真緋呂(jb6120)は青のビキニを身に纏い、颯爽とスライダー乗り場に現れた。
「一機君、いくわよ!」
 目指すはミニゲームのルートだ。
 クリアしたところで何の特典もない様だが、ゲーセン部員たるもの、そこにゲームがあるならば挑まねばなるまい。
「真緋呂はスライダー初めてだっけ?」
 米田 一機(jb7387)は真緋呂をボードの前に乗せ、片手でその身体を支え――って、何処をどう支えれば良いのだろう。
「こうかな? これで良い?」
 足で両脇をガードし、腕はウェストに回して。
 拳を握ってグーにしておけば「事故」も起きないよね、きっと。

 勢いよく滑り出した二人は、まず分岐を左へ。
「一機君、次は左ね!」
「わかった」
 ポイントを左に切り替えて、ショートカットの大ジャンプ!
 だが、真緋呂のFカップが思わぬ空気抵抗を生んだのだろうか。
 空中でバランスを崩した二人は、コースを外れそうになる。
 その軌道を修正すべく、一機はコントローラパッドを思いきり掴んで――
(ん? このパッド、ずいぶん柔らかい……)
 もしかしてこれは、真緋呂の胸?
 でも仕方ないよね、これは事故だから!
 お陰で無事に軌道修正も出来たし、コースに戻れたし!
 さあ、気を取り直してミニゲームに挑戦だ!

「ゲーセン部の名にかけて、ミニゲームは当てる!」
 ウォーターガンを両手で構えた真緋呂は、次々と現れる標的を撃ちまくる。
 高速強制スクロールの3Dシューティングだと思えば、こんなの楽勝……らく……くぅっ!
「わーい当てたー♪」
 \(^o^)/
 真緋呂は知らない、自分が撃ち漏らした標的を一機が後ろで撃ち抜いていた事を。
 しかし2Pのお助けプレイもゲーセンではよくある事だ。
 意気揚々とゴールに進み、フィニッシュは空中に放り出されて海へどぼーん。
「やったー!」
「よしっ、パーフェクト!」
「…って、ぇ」
 何だろう、胸の辺りに重力を感じる。
 ふと見れば、高々と突き上げた一機の拳が何かを握り締めている。
 それは青い布きれの様で……
「一機君、何故に私のビキニ持ってるの!?」
 どぼん!
 真緋呂は慌てて海に身体を沈める。
「見ちゃだめ!! 返してー!!」
「あ、うん、ごめ……っ!」
 事故! これも事故だから!
 慌てて返そうとしたその時、意地悪な大波が二人を呑み込んだ。
 ぷかり、波間に揺れて漂う青い布きれ。
 それは潮に乗り風に流され――
「待って! 行かないでー!」



●おひとりさまパラダイス

「海賊船よ、僕は帰ってきたー!」
 船首に立った九鬼 龍磨(jb8028)は、高らかに叫んだ。
 日焼けするとヒリヒリ痛いから、露出はなるべく少なめに。
 水着も膝丈まであるフィットネス用で、日焼けしやすい膝上部分を守る。
 裾周りはがゆるめだから、ぴっちりとキツそうな印象を与えない。
 上はUVカット効果のある半袖ラッシュガードだ。
 しかし、そこまで気を遣っているのに、髪は編み込んで結い上げたアップスタイル……つまり、うなじが直射日光の攻撃に晒されている訳なのですが、そこは?
「んー? ばらけると鬱陶しいからねー」
 日焼け止め?
 知らない子ですね。

「(*´ω`)ノわーい、海賊船だー!」
 よいこのレグルス・グラウシード(ja8064)は、はしゃぎつつもしっかり準備体操。
 シャワーも浴びたし、消毒槽で10数えたし、もう入って良いよね!
「さっそくスライダーに挑戦します!(`・ω・´)」
 しかしスタート地点でウォーターガンを手渡された彼は、かくりと首を傾げる。
「(´・ω・)? これで、何を撃ったらいいんですか」
 レグルス君、取説は読まないタイプらしい。
 そこにルールを解説したパネルがある事にも気付かず、よくわからないままにスタート!
「何か矢印が見えますが、あれは…?」
 首を傾げている間に分岐点を通り過ぎ、レグルスの身体はふわりと宙に浮いた。
 \ばっしゃーん/
 海にポイされた瞬間、閃きが舞い降りる。
「そうか、そういう事なんですね! ヾ(`・ω・´)ノ」
 仕組みを理解したレグルスは、スライダーの虜となった。
「(・∀・)燃えてきました!!」
 何回も海にポイされながらも、また並んで滑って並んで滑って…
 そう、全てのルートを制覇するまで、彼のスライダー道は終わらない!

 そんな彼に熱い視線を向ける、一人の男がいた。
 その名は龍磨、彼もまたスライダーの魅力に取り憑かれた哀れな囚人。
「同士よ、共に修羅の道を歩んではくれまいか!」
「はい、喜んで! O(≧▽≦)O」
 同じ匂いを感じた二人は意気投合、二ケツでスライダー三昧だ!
 全ての組み合わせを試すまで、彼等の戦いは終わらない。
 それを極めても尚、二人は海に投げ出され続けた。
「今の着水は10点満点の7というところかな」
「満点を目指して頑張りましょう! ( ・`ω・´)」



●門木先生と愉快な仲間達

(門木先生と海賊ごっこ……(////)
 さて、レイラ(ja0365)は一体何を妄想したのだろう。
「いえ、門木先生が来年は海に行けるように頑張ります」
 海水浴デビューの為には、多少なりとも泳げるようになって貰わなくては。
 という事で、本日のレイラは水泳教室の先生であります。
 ただしこの先生、際どい水着に頭には海賊風のバンダナという素敵な格好。
 お陰で周囲の男性の視線を一身に集めていた。
 ただし肝心の門木は例によってビクともしないのだが。
 しかしレイラはメゲなかった。
 この程度の事は今までに何度も乗り越えて来たのだ。
 反応が薄い事など承知の上。
「先生はパイレーツハット以外にお持ちでないのですね」
 ならばそれ以外の衣装を見繕って、海賊っぽいコーディネートを。
 今回は無精髭もそのままに、くたびれた感じを残した方が様になるだろうか。

 という事で、擦り切れた船長服に白シャツ、ベスト、パンツにブーツ、肩掛けベルトにはサーベルを吊し、腰のベルトにはレプリカの銃を突っ込み、編み込んだ髪にビーズや何やらジャラジャラ付けて――映画にでも出て来そうな渋い海賊船長の出来上がり。
 ただし、このままでは水には入れない。
 折角のプールなのに、何しに来たんだ……というのは、日陰で涼んでいるカノンも同じか。
 もう一人、ユウ(jb5639)も今のところ水に入るつもりはない様だが。
「以前の海賊ごっこを思い出しますね」
 その時と同じ下っ端海賊の衣装を借りて、ユウはのんびりと皆の様子を眺めていた。
 門木にアタックする知り合いがいれば、暖かく見守る所存。
 ただし酔ったり、悪ふざして周りに迷惑を掛ける者には笑顔でツッコミハリセンが飛びますので、ご注意を。

「しかし、涼しげな見た目とは言い難いな、ショウジ」
 プールサイドで一人酒盛り真っ最中のディートハルト・バイラー(jb0601)が声をかける。
「折角のプールだろう、写真でも撮ったら泳いで来ると良い」
「……ディート、は?」
「俺か?」
 問われて、ディートハルトは「よせよせ」とでも言う様に肩を竦めた。
「プール遊び、なんて歳でもない。皆が楽しくしているのを酒を片手に眺めているさ」
 それってつまり……
「…いつもの事だって? それを言われると弱いな、それだけ楽しく飲めるのさ」
 ディートハルトにとって、門木は酒の肴らしい。
 彼とその仲間達が楽しそうにしている姿を見ているだけで酒が進むのだ。
「……それは、身体に良くないんじゃ……」
 大丈夫だ、問題ない。
「心配なら…そうだな、ショウジ、俺が帽子を預かっておこう」
 ついでに、その暑苦しそうな衣装も。
 パイレーツハットを取り上げたディートハルトはそれを顔に乗せ、デッキチェアに寝転がって少しばかりの一眠り。
 暗くなったら起こして貰おうか。

「せんせー、遊ぶ前に日焼け止め塗るのですよー」
 シグリッド=リンドベリ (jb5318)は、門木の背中にもぺたぺたぬりぬり。
 こうして見ると、自分達の年代とは広さは勿論、筋肉の付き方も違っている。
(やっぱり大人の背中なのです……)
 そしてやはり目に付くのは、右側を縦に走る蛇の様な痣。
 ついつい、指でなぞってみたくなったりして……
「ひゃわっ!?」
 あ。
 もしかしてここ、感じやすかったりするのだろうか。

「わわ…すごいの、です」
 上空で立体交差するスライダーを見上げ、華桜りりか(jb6883)は目を丸くした。
「楽しそうなの…」
 でも、ちょっと怖そう。
 ものすごい悲鳴も聞こえて来るし。
(んぅ…でも章治に…せんせいと一緒なら、平気…かも?)
 どうしよう、声をかけてみようか。
 でもこの格好、笑われたりしないだろうか。
 似合っているだろうか。
 今日のりりかは桜色のフリフリビキニに身を包み、海賊風の膝下まで隠れる様な上着を羽織っていた。
(かつぎはさすがにだめなの、ですね…)
 代わりに海賊帽子をちょっと目深に被ってみる。
(海賊ごっこもたのしそうなの、ですね)
 けれどそうして声をかけそびれているうちに、門木は衣装を脱いで皆と一緒にプールの方へ行ってしまった。
「ぁ、待って…なの」
 慌てて追いかけたりりかは、思いきって声をかけてみた。
「章治せんせい、一緒に遊びましょう…です」
 子供用のプールサイドに腰掛けて、足だけ水に浸けていた門木の脇にちょこんと座る。
 こてんと首を傾げ、にっこりお誘い。
「……お前も、来てたのか」
 こくりと頷いたりりかは、ひょいと立ち上がって門木の前でくるりと回って見せた。
「せっかくだから海賊さん風なの…」
「……ん、可愛いな…似合ってるぞ」
 門木には、お世辞などという高等テクニックは使えない。
 だからそれは、心の底からの紛れもない本音だった。
 嬉しそうに微笑んで、りりかは門木の腕をそっと掴む。
「あれ、乗ってみたいの…」
「……ん?」
 スライダーか。
 確かあれは、最後には海にポイされた様な。
 泳げないけど、大丈夫なのだろうか。
「大丈夫なのですよー、シロちゃんが受け止めてくれるのです」
 こくり、シグリッドが頷いた。
 プールでストレイシオンを喚んだら、多分怒られる。
 でも海ならきっと大丈夫…!

「……えぇと…俺が後ろで、良いんだよな?」
 スライダーのスタート地点、門木に問われたりりかはこくりと頷く。
 やっぱり少し怖いけれど、後ろに座ったら何も見えなくなりそうだし。
「……これは、お前に任せる、な」
 門木はりりかにウォーターガンを握らせ、その身体に腕を回した。
 腕を交差させ、それぞれの手首を自分で握れば、安全バーの様な格好になる。
 大丈夫、触らないから。
 でも密着するのは安全上の配慮という事で、ご了承を。
 二人の乗ったボードは順調に分岐をクリアし、ミニゲームのエリアに突入した。
「思ったより、流れがはやいの…」
 銃の射程は僅かに6m、標的が射程内に入ったと思った瞬間には背後に流れてしまう。
 それでも頑張って、りりかはスイカ三つとオレンジ一個を撃破、スライダーはゴールへと向かう。
 最後に海に向かってポイっと――

「シロちゃん、頑張って受け止めるのですよー!」
 あれ、なんか今「無茶言うな」って顔した?
 それでもシロちゃんは落下地点に泳いで行き、吹っ飛ばされた二人を待ち構える。
 吹っ飛ばされながら、門木は頑張った。
 落下のスピードを少しでも緩めようと翼を広げ、どうにか無事に、シロちゃんの背中に軟着陸。
「ありがとう、なの」
 りりかはストレイシオンの頭をなでなで。
 門木の頭も、撫でて良いかな?

「海賊たるもの泳げなくてはダメですよ」
 プールではレイラ先生が門木を待ち構えていた。
 まずは子供プールで水に慣れるところから。
 顔を水に浸けて、目を開けて、それが出来るようになったらバタ足の練習?
「私が手を引きますから、大丈夫ですよ」
 それで上手く浮かんでいられるようになったら、そっと手を離して――
 ぶくぶくぶくー……
 うん、水泳マスターの道はかなり険しそうだ。

「せんせー、ちょっと休憩しましょー」
 シグリッドはバナナボートをプールに浮かべて門木を誘う。
「万が一落っこちてもシロちゃんが拾ってくれるのですよー」
 ここ、プールだけどね!
「りりかさんもレイラさんも、一緒にどうぞー」
 皆で乗ったらシロちゃんに引っ張って貰おう。
 あれ、今なんかイヤそうな顔した?
 って言うかやっぱりプールでストレイシオンはダメ?
「じゃあぼくが押すのですー」
 シグリッドは後ろに回ってばしゃばしゃ……ぁ、バランス崩れた。
 \ばっしゃーん!/

 プールサイドでは、海賊の格好をしたミハイル・エッカート(jb0544)がドリンクバーを開いていた。
 机の上にはカラフルな液体が並べられ、その脇には商店街の福引きイベントで使われる様なガラガラが置かれている。
 白いテントの布地には「BAR・エッカート」と大書されていた。
「ミハ君は、祭り事はエンジョイするタイプ、だな」
 四分丈の競泳水着にYシャツを羽織った花見月 レギ(ja9841)は、その達筆な文字を見上げてかくりと首を傾げる。
「おう、何か飲んでくか?」
「何があるのかな、見た目からでは想像が付かない、けど」
「まあ試しにひとつやってみろよ」
 言われて、レギは素直にガラガラを回してみる。
 ぽとりとこぼれ落ちたのは青い色の玉だった。
「青か、こいつは海のイメージだ」
 玉と同じ色のドリンクを手渡され、レギはそのグラスを陽にかざしてみる。
 海の底から見上げた青空の様な色。
 なくさないようにと小瓶に詰めて、首から提げたピアスと同じ色だ。
「綺麗な青色だ」
 心なしか微笑ましげな表情で暫く見つめ、飲む。
 甘い。
 舌の感覚が麻痺するほどに甘い。
 それを平然と飲み干し、溜息をひとつ。
「…これは…存外酒気が強い、な。あまり動かないようにしよう」
 脇に置かれたデッキチェアに寝転び、少し気怠げに呟いた。
「しかしミハ君は、挑戦的なのか、単に料理下手なのか。どうしてこんな不思議な味と色ばかりになるんだろう」
 レギが飲んだ青い液体は海のイメージ。
 水色は清流、緑は海賊、赤と黄の二層になったものは花火、明るい緑は人魚のイメージ、そして何とも名状したがたい色をした液体は……?
「半漁人だ」
「…うん、見るからに…美味しくなさそう、だね」
 美味しくないというレベルでは済まない予感がする。
「誰にも当たらない事を祈る、よ」

 ミハイルのバーはなかなか盛況だった。
 その味に顔を綻ばせる者、或いは悶絶する者、身代わりとなって倒れる者もいれば、押し付ける者もいる。
 店の前では様々なドラマが生まれ、消えていった。

 そして暑さがピークに達した午後。
 冷たいドリンクを買い込んだカノンは、物陰から隙を伺っていた。
(先生にも、と思いましたが、やはりここでも人気ですね)
 今、門木はプールサイドの日陰で休んでいる。
 しかしその周囲には常に誰かしらがくっついている状態で――
 これは人が途切れるのを待つしかないだろうか。
 しかし、いつまでも待っていたら氷が溶けてしまう。
(一瞬の隙をついて渡すしか……!)
 傍に誰がいようと、堂々と割り込んで行って構わないと思うのだが……女心は複雑らしい。
 しかし遂に、その時は来た。
 門木の周囲から人影が消えた瞬間、カノンは走る。
 だが、プールサイドは非常に滑りやすいのだ。
 しかもこの状況ではクリティカルが発生するのが世の必定。
 つるんっ!
 滑った。
 トレイに乗せたドリンクが宙を舞う為の準備運動を始める。
 しかし!
「の、飲み物をプールに落とすわけには!」
 必死に庇ったドリンクは、りりかが無事に受け取った。
 だが勢いの付いた身体は急に止まれない。
「先生、危ない!」
 そのまま門木に向かって一直線に突っ込み、庇おうとしたレイラも巻き込んで――
 \ざっぱーん!/

 門木先生にアタック(物理)が成立した瞬間だった。

 そんな様子を、ユウは宣言通りに温かく見守る。
 物理で行くとは予想外だったけれど。



●誕生日の前夜祭

 礼野 智美(ja3600)は、家族や仲間達と共に遊びに来ていた。
 賑やかな年少組の面倒を見ながら、暫しの休養を満喫し――そして夕刻。
「おーい、そろそろ帰るぞー」
 散らばった彼等を呼び集める智美の背に、水屋 優多(ja7279)の声がした。
「このままここで夕ご飯食べてから帰りませんか?」
「いや、調理当番私だしちび達もいるし…」
「皆の事は大丈夫ですよ」
 躊躇う智美に、優多はふわりと笑いかける。
 夕飯の仕込み済んでいるし、子供達は仲間がちゃんと獲れ帰ってくれる。
「明日も午後から依頼に出るんですよね? だから、今日にでもと思って」
「何を?」
「記念日、ですから」
「記念日? …あ。俺の誕生日…明日?」
 こくり、優多が頷く。
「ここのプール、日没後は船内に収容されるんだそうですよ」
 そして、そのスペースは船内レストランの展望デッキに早変わりする。
「席、予約しておきましたから。花火を見ながら食事でもどうですか?」
 にっこり。
 そこまで言われては、智美も断る訳にはいかない。
 気遣ってくれた仲間達に感謝しつつ、恋人の計らいを有難く受ける事となった。

 だが花火にはまだ少し時間がある。
 今のうちに風呂に入って着替えを済ませたら、個室を借りて一休みしておこう。
(相変わらず自分の事には無頓着ですよねぇ)
 風呂上がり、疲れが出たのか居眠りを始めた智美の髪から雫が滴り落ちる。
 洗いっぱなしの髪はドライヤーさえ使わずに、自然に乾くに任せている様だ。
(お姉さんや妹さんの髪の手入れはちゃんとするのに)
 くすりと笑ってタオルを取り出した優多は、智美の髪を軽く叩いて水気を拭いてやる。
 依頼で花火大会を守った話は聞いたけれど、これまで一緒に見る機会はなかった。
「楽しみですね」
 そっと囁いた声は、智美の耳に届いただろうか。



●海賊船で花火を見よう

 スライダーを満喫し、同士と別れた龍磨の姿は今、海賊船の調理室にあった。
「プロの手際と味を勉強して、自分の料理に生かせるよう頑張るのだ」
 メモをとりながらばっちり観察。
 技術とは教わるものではなく、盗むものだと誰かに聞いた。


 そのうちに辺りはすっかり暗くなり、そろそろ花火大会が始まる頃合い。
 BARエッカートは、展望デッキの一角にあるバーカウンターへと移転していた。
 海賊酒場の様な雰囲気に作られたカウンターの奥には、酒瓶がぎっしりと並べられた棚がある。
 その奥にある扉の向こうにはワインセラーがある様だ。
 しかし、そんな本格的な雰囲気の中でも、ミハイルが提供するのは例のナゾドリンクだった。


「くっくっくっく…興味深い。私も一杯もらおう」
 ちみっこのお守りを揺籠に押し付け――いやいや、お守りを買って出てくれた揺籠に感謝しつつ、自由の身になった久秀がふらりと立ち寄る。
 ガラガラを回して出たのは水色の玉。
「清流か。こいつは甘口だぞ」
 コワモテの外見から見て甘いものは苦手そうに見える。
 だが、渡されたグラスの中身は口に合った様だ。
「ほう…悪くないな」
 これだけ種類があるというのに、一杯だけというのも勿体ない話だ。
 よせば良いのに、久秀はお代わりを頼み――ガラガラ、ポン。
 転がり出たのは、赤と緑の色分け玉。
「くっくっくっくっくっくっく…」
 一口飲んだ久秀は、冷や汗をダラダラ流しながら固まった。
 いや、その汗は暑さのせいだろうか。
 何しろそれは、七味唐辛子入りの激辛ドリンクだったのだから。

 ディートハルトもまた、カウンターで明るい緑色をしたグラスを傾けていた。
 グラスには赤いハイビスカスの花が添えられている。
 人魚をイメージしたというそれが何で作られているのかは見当も付かないが、とにかく美味い。
 と、そこに浴衣姿の門木がふらりと現れた。
「よう、先生。今日もモテモテか」
 ミハイルが言う様に、門木の周囲は女の子で埋め尽くされている。
 カノン、ユウ、りりか、それに浴衣姿のレイラとシグリッド……あ、シグ君は男の子ですが。
「ちょいと運試しやっていかないか」
 門木を誘うミハイルに、心配そうな視線を向けたレギも、何となくこっちに混ざりたそうな顔をしている、様な。
「…先生にも、飲ませるのか?」
 大丈夫だろうか。
「いや、止めはしないけれど」
 止めないの!?
「…うん、せめて介抱はしよう、かな」
 大変そうなのを引いたら、ね。
 ガラガラポンと出たのは……ぁ、これあかんやつや。
「せんせー、だめなのです! そんなの飲んだら死んじゃうのですよー!」
 涙目になったシグリッドは、自分の青い激甘ドリンクを差し出す。
「ぼくの半分あげるのです…!」
「大袈裟だな、毒になる様なものは入ってないぞ」
 匂いが異様過ぎて、もはや材料も不明だが……多分。
「…うん、それ自体に毒性がなくても、組み合わせで…っていうのは、あるよね」
 こくり、レギが頷く。
「あたしも試してみるの…」
 辛いのはダメ、と念じながら回した甲斐があったのだろうか、りりかは明るい緑の人魚ドリンクを引き当てた。
「ん……おいしいの」
 ほわんと幸せそうに微笑む。
 ユウは清流をイメージした甘口の水色ドリンク。
「甘くて美味しいですね」
 再チャレンジした門木も同じ水色ドリンクを引き当て、めでたしめでたし。
 と、その髪にディートハルトの手がふわりと伸びる。
 その手は赤いハイビスカスの花を挿し――
「ああ、とても…似合っている」
 肩を震わせながら、ディートハルトは目を細めた。
「いや、本当に。似合っているよ」
 冗談ではなく、ね。
「やっぱり君は、俺を楽しませてくれる」


 智美と優多は、少し前から席についていた。
 静かな会話と冷製パスタを中心にした食事を楽しみながら、花火の開始を待つ。
「あ、始まるみたいですよ?」



『おとーさんのばかぁあああ! ぐれてやるぅうううう!!』
 ぱぁん!
 真っ赤に咲いた大輪の花の周囲に、小さな黄色と薄紫の小花が弾ける。
 メッセージの主は言うまでもないだろう。

「じゃあ、こんなのはどうでしょう…(*´ω`)φ」
 どーん!
『門木先生、お盆だからお盆玉ください(・∀・)!』
 わかったレグルス君。
 君にはお盆に載せたスーパーボールをあげよう!

「門木先生、この調子でどうか、Lv5まで常時くず鉄0を目指して下さい!」
 景気づけに緑の辛口ドリンクを煽った龍磨は、強化改善の礼と更なる要望を告げて、大砲の中へ飛び込んだ。
 どどーん!
 花火と一緒に打ち上がって、落下滞空で小天使の翼!
「普段より高ーい♪」
 にははははー!



「こいつぁ壮大だ、大砲からってのがまた良いな!」
 遊夜が空を見上げる。
「ん、コレが花火…」
 ユーヤが頷くが、人が一緒に打ち上がった今のヤツ、あれは違いますからね!
 ともあれ、後は不思議ドリンクを楽しみつつ、花火を見ながら食事でも。
「どう? ちょっと色っぽく見えるかな?」
 麻夜は頭にバンダナ、下は片方が生足になるズボンの海賊ルックなコスプレだ。
「マヤと対に、してみた…似合う?」
 ユーヤはそれを取り締まる側の、可愛い水兵服だ。
「おお、2人とも似合ってんなー(ぐっ」
 遊夜は海賊っぽい船長服だ。
「俺はどうよ、カッコイイだろー?」
 ケラケラ。
「ユーヤは、何時でも、かっこいいよ?」
 真面目に返され、遊夜は「お、おう」と思わず言葉を詰まらせる。
 その時、特大の花火が間近で上がった。
「ん、やっぱり夜はいいねぇ…」


 浴衣に着替えた真緋呂と一機は、甲板の席で花火を眺めながら食事を楽しんでいた。
 真緋呂は藍色地に芙蓉柄の浴衣が良く似合う。
 と、一機の口元にひょいと手が伸びて来た。
「あ、一機君、ご飯粒ついてる」
 無意識につまんで、ぱくり。
「…えっΣ」
 何? どうかした?
「いや、あの」
 ……はっ!
 なんか今、すごい事した!?
「…ぁ、えっと」
 もだもだ、なんか気まずい。
「あの、ありがとう…?」
「ぅ、うん」
「……ぁ、花火…見ようか」
「そ、そうね!」


「ギィ先輩、さっきはすみません。私、途中で引っかいたりしませんでした?」
「ん…べつに」
 先輩、優しい。
「お詫びに手料理ご馳走しますね」
 トマトとアボガドのカナッペと、ボンゴレビアンコ。
「デザートはチョコバナナケーキです。どうぞ!」
「いつも、美味しい 」
 ――きゅんっ!
 ああ、いけない。そんなこと言われたら、またキュン死してしまう。
「あ! 見て下さい。花火綺麗ですよー!」
 照れ隠しに話題を逸らそうとしてみたものの。
「ヒナ(の手料理が)、好き」
 ああ、もうだめ……!
 さっきは思いきり密着してたし、今度は好きだなんて――
 ぱたり。


「動かない船で幸いだ、いつもより早く酔いが回ってしまうだろうから」
 ディートハルトは酒と花火を楽しみながら、楽しげに過ごす仲間達を眺めていた。
 折角の楽しい時間、酔いつぶれてしまっては勿体無いだろう。
「はいせんせー、あーん?」
 シグリッドは相変わらず給餌に忙しい。
 食事が終われば、今度はレイラがそっと身を寄せてくる。
(門木先生……大好き(////)
 ただし概ね一方通行だが、焦りは禁物。
 今はこうして一緒に花火を見ていられるだけでも。
「想いを込めた花火…とても素晴らしいですね」
 その様子を温かく見守りながら、ユウが微笑む。
 当の門木は落ち着かない様子でそわそわしているが――
「俺は助けないよ」
 無言の訴えに、ディートハルトがくすりと笑った。


 BARエッカートは好評のうちに本日の営業を終了した。
「りりかは手伝いありがとうな」
「お役に立てたなら、嬉しいの」
 各種ドリンクはほぼ完売。
 しかし皆クジ運が良いのか、あのヤバそうな液体だけが大量に残っていた。
「そんなに酷いのか?」
 どれ、試しに飲んでみようか。

 ごくり。

 ……。

 …………。







「ぐぉぉぉ……ドリンクにピーマンペースト入れやがったのは誰だーー!?」


 犯人はこの中に――いる?


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:14人

202号室のお嬢様・
レイラ(ja0365)

大学部5年135組 女 阿修羅
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
希望の守り人・
水屋 優多(ja7279)

大学部2年5組 男 ダアト
『山』守りに徹せし・
レグルス・グラウシード(ja8064)

大学部2年131組 男 アストラルヴァンガード
偽りの祈りを暴いて・
花見月 レギ(ja9841)

大学部8年103組 男 ルインズブレイド
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
夢幻に酔う・
ディートハルト・バイラー(jb0601)

大学部9年164組 男 ディバインナイト
夜闇の眷属・
来崎 麻夜(jb0905)

大学部2年42組 女 ナイトウォーカー
precious memory・
ギィ・ダインスレイフ(jb2636)

大学部5年1組 男 阿修羅
天蛇の片翼・
カノン・エルナシア(jb2648)

大学部6年5組 女 ディバインナイト
撃退士・
シグリッド=リンドベリ (jb5318)

高等部3年1組 男 バハムートテイマー
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
無駄に存在感がある・
冲方 久秀(jb5761)

卒業 男 ルインズブレイド
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
Cherry Blossom・
華桜りりか(jb6883)

卒業 女 陰陽師
あなたへの絆・
米田 一機(jb7387)

大学部3年5組 男 アストラルヴァンガード
陽だまりの君・
陽向 木綿子(jb7926)

大学部1年6組 女 アストラルヴァンガード
圧し折れぬ者・
九鬼 龍磨(jb8028)

卒業 男 ディバインナイト
娘の親友・
キョウカ(jb8351)

小等部5年1組 女 アカシックレコーダー:タイプA
鳥目百瞳の妖・
百目鬼 揺籠(jb8361)

卒業 男 阿修羅
七花夜の鬼妖・
秋野=桜蓮・紫苑(jb8416)

小等部5年1組 女 ナイトウォーカー
おにーちゃんが守る!・
蘇芳 陽向(jb8428)

中等部2年4組 男 ディバインナイト
もふもふヒーロー★・
天駆 翔(jb8432)

小等部5年3組 男 バハムートテイマー
夜闇の眷属・
ヒビキ・ユーヤ(jb9420)

高等部1年30組 女 阿修羅