「まぁ! 神様がお怒りに…? それでディアボロが出たのですわね、きっと」
唯・ケインズ(
jc0360)は、どうやら本気で神の怒りだと信じている様だ。
「神様の姿したディアボロ倒して神様鎮めましょう」
音羽 千速(
ja9066)も神事に携わる者が近くにいるだけあって、そう考える事に抵抗はないらしい。
だが、これが誰の仕業だろうと――本当に神の怒りが発現したものであろうと、或いは何処かの悪魔が気紛れに作り出したものであろうとも。
「要するに、デカ豆を退治して、それから踊れば良いんだな?」
エイドリアン(
jc0273)が言う様に、つまりはそういう事だ。
実にシンプルかつ面白そうではないか。
「大丈夫ですわ、唯達がすぐに神様のお怒りを鎮めてみせます」
「ま、しゃーない、此処はうちらがそのデカい枝豆、なんとかしたるさかい」
葛葉アキラ(
jb7705)が言った。
「せやから、皆は踊りの準備して待っといてな」
大丈夫、ちゃんと最後まで付き合うから。
と言うか寧ろそっちが本命?
そして案内に従って畑に向かった一行の前に、それが現れた。
「こんなものを作るなんて、趣味と性格の悪い悪魔ですね」
浪風 悠人(
ja3452)は、そのふざけた姿よりも無神経に畑を踏み荒らす行動に怒りを覚える。
田舎育ちで農業の経験もある彼は、荒らされた田畑の復興が如何に手間のかかる仕事であるか、それを身をもって知っている様だ。
だからこそ、これ以上に被害を広げる訳にはいかない。
「収穫済の畑のうち一番広い所に誘き寄せるのが良いかな」
千速が先頭に立ち、畑に踏み込んで行った。
鞘に閉じ込められたら外から衝撃を加えない限り脱出は不可能、ならば皆一緒に同じ場所で戦う方が良いだろう。
「これくらい広ければ全員で暴れられるかな」
今、枝豆達は収穫直前の畑を踏み荒らそうとしていた。
「枝豆とは言え、料理人として食物の有難味は日頃から想てて欲しいモンやね」
それを見たアキラは早速飛び出して行く。
とりあえず暴れているものの足を止めなければと、呪縛陣の連発で動きを止めた。
「そこ動くんやないで!」
網にかからなかった分は忍法「胡蝶」でフラフラに。
その間に、仲間達が残ったものに対処していった。
「これ以上荒らされない様に、急いでこちらに誘き寄せなければいけませんね」
深森 木葉(
jb1711)が新緑の魔法書を手に間合いを計る。
「でも豆の射程はどのくらいなのかなぁ?」
とりあえず攻撃してみればわかるだろうか。
自分の射程ぎりぎりから、木の葉の刃を飛ばしてみた。
ぼーん!
狙い通り、その攻撃に対して反撃の豆が飛んで来る。
けっこう遠くまで飛ぶ様だが――如何せんスピードもキレもなかった。
ついでに狙いも甘い。
「ふっ、ボールに蠅がとまってるぜ!」
その豆を、矢野 古代(
jb1679)がアルティメットおたまで叩き落とす。
いや、やっぱり一応食材であるからには、調理道具を使った方が良いと思って!
ついでに大きな鍋も持って来れば良かったか。
「へーいへいへい! 塩ゆでになりたい奴からかかってこいよぉ! ビールのおつまみにしてやるぞー! 俺ビール苦手だけど!」
それ以前にディアボロは食べられないけれど。
「飛ばす豆がある間は、近付いて来ない様ですね」
念の為に防壁陣でガードしつつ、枝豆達の様子を観察していた悠人が言った。
ならば――
「遠距離攻撃をさっさと使い切らせましょう」
千速が頷く。
「豆を使い切って、近付いて来ようとした所を纏めて誘い込めば良いって事だな?」
エイドリアンがタウントを準備しつつ、光の翼で中に舞い上がった。
「一生懸命育てた農家さんのためにも、頑張って倒すのですよー!」
シグリッド=リンドベリ (
jb5318)は長大な和弓「鳴神」の弦を引き絞る。
反撃の豆はストレイシオンのシロちゃんにキャッチして貰えば痛くない、多分。
「シロちゃん、よろしくお願いしますねー」
「ほう、名前が付いたのか」
銃に持ち替えて枝豆の本体を撃ちつつ、古代が声をかける。
「はい、valkoinen(ヴァルコイネン)略してシロちゃんです、よろしくお願いします(きり」
え? シロどこにもない? valkoinenはフィンランド語で白なのです。
「なるほど……っとぉ!」
頷きながら、古代は飛んで来た豆を避ける。
弾道の角度と飛距離から、避けても後ろの畑には届かないと判断しての事だ。
「当たったら豆でも痛いじゃないか! まめなダメージは受けない方が良いんだぞ、豆だけに」
\ ま め だ け に な !!! /
何だろう、急に冷たい風が畑を吹き抜けて行った気がするんだけど。
「気のせいだろ?」
はい、そうですね。
「こんなん、攻撃で相殺すればええんや」
アキラは飛んで来る豆を片っ端からワイヤーで切る。
スパスパと切る。
「なんや、えらい柔らかいもんやね」
これなら当たっても痛くない、かも?
「いや、まめに蓄積するダメージを甘く見ない方が良いぞ、豆だけに」
古代さん、まだ言ってらっさる。
しかも大真面目だ――少なくとも、表に出ている表情は。
「唯はまだ経験も浅くて、皆さんのように巧く色んなことは出来ませんけれど…精一杯のことをしますの」
唯は和弓「残月」で枝豆達を狙った。
飛ばして来る豆は屈んで避け、或いは軌道が低ければジャンプで飛び越えながら、まだ鞘の閉じている枝豆を狙っていく。
やがて豆を身体に抱えたものは殆どいなくなった。
「こうなると、今度は鞘封じ使う為に近寄ってくるよね」
千速は得物をヒュームナックルに持ち替えて、それを待ち構える。
光の翼で上空から近付いたエイドリアンは、空から敵の配置を観察し、標的の範囲を決めた。
「2メートルが多数ってことは、そこら辺は影になってそうだな。涼んでるのはいねーだろうけど」
どうやら、これならタウントでごっそり引き付けられそうだ。
その思惑通り、枝豆達はカラッポになった鞘をパカパカと開閉しながら、低空を誘導するエイドリアンの後を追って来る。
途中で気を逸らしたり、付いて来ないものにはウィングクロスボウで牽制し、無理にでも自分に注意を向けさせた。
「ほれほれ、余所見してんじゃねぇぞ?」
エイドリアンに先導された枝豆達は、脇の通路を行儀良く通ってぞろぞろとやって来る。
それでもまだ向こうの畑に残っているものは、スターライトハーツに持ち替えた悠人が走り込み、接近戦を仕掛けた。
作物を踏まない様に気を付けながら、棒の部位を剣状に改造したトンファーで殴りつける。
遠距離からは唯が矢の連射で追い込んでいった。
「頑固に動こうとしない枝豆さんは、このまま倒してしまっても構わないのですわね?」
はい、よろしゅうございます、お嬢様。
それでも言うことを聞かない枝豆には、飛び出したアキラがドーマンセーマンで通せんぼ。
「ここはアカンて言うとるやろ、聞き分けのないやっちゃな!」
そんな奴には鎌鼬でお仕置きだ。
「食の神さんも、そないな行事に託けて、ディアボロ作成されて、きっと怒っとる。さくっと倒してくで!」
行進を続ける枝豆達を見て、木葉が首を傾げる。
「足もないのに、どうやって歩いてるんでしょうね〜?」
良く見れば、どうやら僅かに地面から浮き上がっている様だ。
「飛行能力をお持ちだなんて、さすが神様なのですわ!」
唯が感心した様に声を上げる。
神様ではないし、飛行と呼ぶには余りにも貧弱な飛びっぷりだけれども。
そうしてまんまと誘導された枝豆達は、固まっている間に纏めて塩茹で――じゃなく、悠人が降らせた隕石の雨に当たって穴だらけになっていく。
その範囲から外れたものは、木葉が闘刃武舞で斬り刻んだ。
それでも残ったものは、各人が個別に対処すれば良い。
「豆の神様おっきいのです」
目の前に迫った巨大な枝豆を見上げ、シグリッドは思わずぽかんと口を開けた。
「お友達やシロちゃんくらいあるのです…」
ちょっと羨ましそうに呟く。
でも、シグ君もまだまだ成長期だし、身長も伸びてるし……と言うか、そこまで大きくならなくても良いから、ね?
「シロちゃんなら鞘の中に入りきらないかもしれないのです」
ちょっと試してみたい、な。
「…シロちゃん、入ってみます?」
ほら、何事もやってみなくちゃわからないって言うし。
実験による検証は科学的にも大事な事だって、多分せんせーが言って……なかった気もする、けど。
「だめ、ですか?」
あ、遠慮しときますか、そうですか。
じゃあ代わりにサンダーボルトとインパクトブロウお願いしますねー。
「ボクくらいの大きさだと、もしかして呑み込まれやすいのかな?」
相手の攻撃を封じる効果のある影縛の術や飯綱落としを使いつつ、千速は距離をとりながら銃を撃つ。
鞘を広げて飛び掛かって来たものは疾風で避け、或いは素早く走ってかわし、後ろに回り込んで反撃。
蚕豆のベッドならふかふかで柔らかそうだし、ちょっと寝てみたい気もするけれど――
「枝豆は遠慮したいかな」
「あたしも鞘に閉じ込められるのは嫌なのですよぉ?」
木葉は遠距離からの鎌鼬で、迫り来る鞘を微塵切り。
「ガンガン攻撃してくでェ!!」
鎌鼬を使い切ったアキラは魔法攻撃に切り替えて遠距離から狙い、退路を塞いだエイドリアンがウィングクロスボウで逆流を阻止。
悠人は距離を取って白夜珠から生み出される白銀の刃で攻撃、木葉は反撃に備えて乾坤網をいつでも使えるように準備しながら攻撃を加える。
もっとも、それが必要なほどの痛い攻撃は、殆どなさそうではあったけれど。
それでも隙を衝いて逃げようとするものは、唯が全力跳躍で回り込んで滅光を叩き込む。
ところが、その枝豆はしぶとかった。
大きく鞘を開き、唯の身体に抱き付いて――
ばっくん!
と、される直前。
「……貫通して中の奴が怪我をしたりしないよな?」
無事だと信じて、エイドリアンがその背から矢を射る。
閉じ込め攻撃は未遂に終わり、そこから飛び退いた唯にも怪我はなかった。
「これで止めですわ!」
混沌の矢が突き刺さり、巨大な鞘は裏返しになって倒れた。
「怪我をした人はいますか?」
畑から巨大枝豆の姿が消えた事を確認し、悠人と木葉は仲間達の手当をして回る――が。
「皆さん大丈夫みたいなんですぅ」
奉納の舞までの空き時間を使ってディアボロの死骸を片付け、荒れた畑の手入れや修繕、果ては収穫まで手伝って――
さあ、待ちに待った(?)ずんだ舞いの時間だ。
ずんだ神様が宿ると言われる、注連縄が張られた巨大な枝豆岩に御神酒が供えられる。
その様子を見て、千速は自分の出身地の事を思い返していた。
「人口減少は仕方ないけど…地元みたく祀る家系の人とかいないと神様のお祀りって廃れちゃうのかなぁ」
これを機に、少しでも神事に関心を持つ人が増えてくれれば良いのだけれど。
やがて素朴な楽の音が聞こえて来る。
「奉納の舞いですの? 勿論、参加致しますわ!」
唯はダンスのスキルを活性化、ちょっと気合いを入れて踊ってみる。
「こんな風習、初めて知りましたの。何だかドキドキわくわくですの!」
振り付けは、こう……で、こう?
「わかりましたわ、これで良いのですわね!」
ずん♪ ずん♪ ぁ、ずんだららった、ずんずん♪
え、何だかフォークダンスみたい?
気のせいですわ!
「ぼ、ぼくダンスはあまり得意ではないのですよー…」
シグリッドはちょっと腰が引けているが、それでも頑張って踊りの輪の中へ。
「えと、こ、こう……かな?」
誰か、お手本になりそうな人はいないだろうか。
「任せろ、農家の次男坊的にこういう奉納の踊りは得意だ」
いました、頼もしい人が。
ずん、だ、ずんずんだっ♪
ずん、だ、ずんずんだっ♪
ずん、で腰を前に突出し。
だ、で引き、ずんずんだっで舞う。
結構アグレッシヴな踊りだ――が。
「矢野さん、何だかリズムが違うのですよ……?」
シグリッドも真似して踊ってみるが、明らかに違う。
お手本を見ながら踊るのでワンテンポ遅れている、とかいうレベルの問題ではなく、もう明らかに違う。
「あれ、豊穣の舞ってこういう奴では無かったのか……?」
それでも強引にマイペースで踊りながら、古代は首を傾げた。
「俺の地元ではこうだったんだけどなぁ?」
それは、井の中の蛙が大海を知った瞬間……?
「ずん♪ ずん♪ ぁ、ずんだららった、ずんずん♪ だな?」
エイドリアンはどうやら正しい踊りを覚えた様だ。
「よし、踊るぞ!」
なんだか雄鶏になったような気がしないでもないが、楽しんだもの勝ちだ!
「ぁ、それ。ずん♪ ずん♪」
白の袴に浅縹色の直垂という装束を身に纏い、エイドリアンは踊る。
それはそれは楽しそうに踊る。
例え衣装がネットのコスプレ衣装屋で購入した微妙にチープ感漂うものであったとしても、本人が楽しく踊れば神様はきっと満足してくれるだろう。
「うちの光纏はアメノウズメノミコトや」
アキラは光纏の派手なオーラを纏って軽やかに舞った。
「ほれ、ご加護がありそうやろ?」
確かに、何となく神々しい気がする。
「食の神さんの為や、精一杯頑張らせて貰うで!」
ずん♪ ずん♪ ぁ、ずんだららった、ずんずん♪
ずん♪ ずん♪ ぁ、ずんだららった、ずんずん♪
木葉は巫女装束を纏い、楽しげに舞う。
「神さまに喜んでもらえれば幸いなのですよ〜」
楽しい気分は、神様にもきっと伝わる筈!
鳴子を手にした悠人が舞うのは、出身地の『バサラ』と呼ばれる踊りの振り付けに似せてアレンジしたものだ。
ダンスのスキルも動員して、力強く舞い踊る。
千速の場合は、あくまで基本に忠実に。
かくして、ずんだ神様は大いに満足された――かどうかはわからないが、集落の人々が大いに喜び、そして満足してくれた事は、その後に出された大量のずんだ餅を見ても明らかだった。
美味しく楽しく遠慮なく、撃退士達はそれを頬張る。
「塩茹での枝豆も美味しいですが、甘いずんだもちも美味しいですよね…!」
シグリッドは幸せそうににもぐもぐ。
「頑張ったシロちゃんにもはいあーん」
え、いらない? 美味しいのにー。
「やっぱ、旬のモノは何でも美味しいなぁ…。枝豆も其の儘食べてみたいもんや」
アキラが言えば、すぐさま茹でたての枝豆が出て来るサービスぶり。
勿論お土産に持って帰りたいと言えば、これまた大量の餅がどーんと。
気前良くどどーんと。
家族や友達、皆さんでどうぞ!
そして後日。
地元で発行された新聞の片隅に、彼等の働きぶりを称える記事が掲載された。
談話:矢野 古代さん(35)
「え、なんでこんなの作っちゃったの……?」
「そして俺は思い付きを何で公開してしまったのだろうか……」
「待って、これ新聞に載るの……!?」
そこには困惑を隠せない様子の彼の写真が添えられていたとか――