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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:10人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/07/22


みんなの思い出



オープニング




 ―――ゲート。
 それはこの世界と並行世界をつなぐ人外の装置。そして支配と隷属の象徴でもあり、混沌と搾取を強要する存在でもある。
「いよいよです…トビト様」
 柔らかな微笑を浮かべ、天の川へと静かに祈りを捧げる菫色の天使。たおやかに紡がれる歌声が厳かに魔力を練り上げ、編み込んでゆく。
 草木の薫り、葉擦れの音。そして、陰の狭間に揺れ動くサーバントの群れ。
 新たな災厄が今、静かに花開こうとしていた………。

 ―――数日後、仙台。
「わかった。すぐに手を打つ。お前たちは無理せず監視を続けてくれ」
 偵察部隊からの報告を受け、撃退庁東北支部司令・長月 耀は点けたばかりの煙草を乱暴に揉み消す。机上に広げた地図の一点を注視する表情は、いつに無く険しくなる。
 『白神山地』。
 広大なブナ原生林を有する世界遺産。青き森の地。
「やはり狙いはここか」
 昨冬から続いてきた秋田各地の一連の襲撃。その中で唯一行動を異にしていた秋田北部における冥魔駆逐の動きから、燿は敵の真の狙いがその先にあると推測。結果、彼の地の奥地で鳥海山の軍勢を発見されたのがほんの数十分前のこと。
「いよいよ本格的に喧嘩を売る気か…」
 報告によると、サーバントたちに護られながら儀式を行う権天使ヴィルギニアの姿が確認されている。それが意味するところは、ゲートの展開以外に考えられない。
 青森県下に天界がゲートを構える事は、札幌に本拠地を構える冥魔軍の喉元へと噛み付く様なもの。放っておけば東北で冥魔と天界の全面対決が始まり、昨年の九魔どころの騒ぎではなくなる。
 幸いにして、この様な事態を見越して久遠ヶ原には応援を要請済みだ。燿は報告と正式な依頼をかけるべく、電話へと手を伸ばす。
 と、そこへ出鼻を挫く一報が舞い込んだ。
「し、指令! た、たた、大変です! サーバントの大群が…!」
「なにっ!?」
 仙台近郊に突如現れた天界軍。燿から見ればそれは明らかな陽動であり、戦力を防衛に割かせる為の鳥海山の作戦だとわかる。だが、仙台は東北の中枢都市。万が一にも落とされるわけにはいかない。最悪の場合、東北全体が連鎖的に落ちる可能性もある。
「全職員に緊急通達! 戦力となる者には至急召集をかけろ!」
 矢継ぎ早に指示を飛ばしながら、燿は執務室を駆け出していく。

 東北の長い一日が今、幕を開けた―――。



●ダルドフ支配地域内

「ここも暫く、騒がしくなるやもしれんのぉ」
 食品工場の視察に訪れたダルドフは、出された麦茶を一息に飲み干すと、大きく溜息を吐いた。
「何よそれ、どういう意味?」
 応対に出た工場長の姉崎が、グラスにお代わりを注ぎながら訊ねる。
 近いうちに大規模な侵攻が行われるらしいとの噂は彼女の耳にも届いていたが、自分達に直接関係する事とは思えなかった。
「ここが戦場になるとか、そんな話じゃないでしょうね?」
「それはない、と言いたい所だがのぅ」
 二杯目をちびちびと飲みながら、ダルドフは答える。
 その物言いは、いつになく歯切れが悪かった。
「あんた、そろそろヤバいの?」
 投げ付けた直球に、苦笑いが帰って来る。
「まあ、そんなところかのぅ」
 次の侵攻が成功すれば、まだ暫くは安泰だ。
 だが失敗に終われば、その時は恐らく自分もこの地を追われている事だろう。
 或いは成功しても、場合によっては……
「それは困るわ」
 姉崎が言った。
「あんたがいなくなって、代わりに酷いのが来たらどうすんのよ?」
 統治者が彼だからこそ、住民の多くは現状に甘んじているのだ。
「義理人情もわかんないクソ天使に支配されるなんて、あたしはまっぴらごめんだよ」
 言いながら、冷蔵庫から何かを出して来た。
「あ、これ。新しい試作品なんだけど……どう?」
 見た所、小さなイカを佃煮にしたものらしいが。
「ん……美味い!」
「でしょ!?」
「これは酒が進みそうだのぅ」
「でしょでしょ!? これね、ホタルイカの素干しで作ったのよ」
 生では手に入りにくいので、干物で試してみたらしい。
「よし、あんたが美味いって言うなら大丈夫ね。この調子なら来月から売り出せるかも」
 姉崎は満足げに頷く。
「で、話を戻すけどさ」
「うむ」
「あたしは、あんたの事……まあ、悪くないと思ってる。敵にしては、ね」
 ぶっちゃけてしまえば好感度はかなり高いのだが、一応は敵であるからして、そこは控えめに。
「だから、あんたには死んでほしくない。でも、もし……どうにもならないんだったら」
 ずいっと顔を近付け、もしゃもしゃの顎髭を引っ掴んだ。
「ぬぉっ!?」
「きっちり負けて来て」
 他の天使がこの地を引き継ぐ事のない様に。
 ゲートを破壊して、結界も取っ払って、全てが人類側に戻れる様に。
「でなきゃ、許さないわよ」
 ぎゅうっと引っ張っていた顎髭をふいに放され、ダルドフは思わず後ろに仰け反りそうになった。
「難しい事を、あっさり言いよるわぃ」
 少しじんじんする顎をさすりながら、ダルドフは苦笑いを漏らした。



●仙台襲撃部隊・本陣

 ダルドフは最後尾にどーんと構えていた。
 自ら動く事はせず、ただ何かを待っている。
 それを取り巻くサーバント達も、じっと動かない。

「某を倒したくば、ここまで来るがよい」
 偃月刀の石突きで、足元の地面を突く。
「だが、某は容易く倒されはせぬぞ」

 自分が倒れた後でも支配地域が安全であると保証されない限り。
 自分を倒した後、速やかにゲートを破壊し、支配地域を奪還するとの確約がない限り。
 自分の後を引き継ぐであろう将を迅速に斥け、侵攻を許さぬ覚悟を見せない限り。

「生半可な切れ味の刃なぞ、ナマクラも同然ぞ!」

 来るが良い。
 その刃で全てを断ち切って見せよ。




リプレイ本文

 奥への通路を塞ぐ様に、五匹の鬼蜘蛛が扇形に並んでいた。
 その隙間を塞ぐ、燈狼や燈犬。こちらは本物と幻影が入り交じり、全部で何匹いるのかもわからない。
 この程度軽々と越えて見せろと、そう言われている気がした。



「こないだのリベンジだ、気合い入れていくぜ!」
 獅堂 武(jb0906)がショットガンを構える。
「そう言えば、奴とこの様な戦場で顔を合わせるのは初めてであったか」
 ラドゥ・V・アチェスタ(ja4504)は、純粋にダルドフと剣を交える事を目的に、ここまで来た様だ。
「…ふむ、ともあれ精々楽しませてくれることを願うとしよう」
 それ以外、特に目的と言える様なものはない。
(だが…どうやら、それだけではない者も多い様だな)
 ラドゥは横目で同行者達の様子を伺う。
 紫苑(jb8416)などは、もう戦いが始まる前から今にも爆発しそうな拳を震わせていた。
 口をぎゅっと引き結び、瞳はまっすぐに敵の本陣を見据えている。
 その小さな身体に詰め込まれているのは、怒りか悲しみか――それとも、願いか。
「ほしもかみも、しらんぷり…なら、おれらでひらくしかねぇじゃねぇですかぃ」
 身の丈に余る偃月刀を握り締める。
 その手に、そっと小さな手が重ねられた。
「しーた、しーた。だいじょぶ。キョーカがいっしょ、なの」
 にこっと笑ったキョウカ(jb8351)を見て、紫苑もいくぶん表情を和らげる。
 そうだ、今日は大事な友達が一緒に来てくれている。
 心強い相棒を得て、紫苑は自分の頬をぺちぺち叩いて気合いを入れた。
 今日は絶対に、何が何でも、得意の金的を決めてやる。
 協力してくれる仲間もいるし、その為の作戦もしっかり考えて来た。
 後は、思いの丈をぶつけるだけだ。

「これをもって、戦闘開始と判断する」
 キョウカが阻霊符を発動すると同時に、フラウ(jb2481)が醤油の詰まったビニール袋を敵の群れに投げ付ける。
 マーキング用のカラーボール代わりに用意した「色付爆弾」は、一体の燈狼に当たって弾けた。
 移動時に発生する砂塵や泥はねの有無など、よく観察すれば本体と幻影を見分ける事も出来るだろう。
 しかし近接戦闘の最中にそれを確認する余裕はまずなかった。
「今のうちに目印を付けておくのは有効な手だと愚考する」
 派手な蛍光色が飛び散るボールとは違い、醤油は敵の体色に紛れて見えにくい。
 だがその代わり、香ばしい匂いで接近がわかるという利点もある。多分。
「目印としては、こちらの方が目立つかもしれませんね」
 知楽 琉命(jb5410)が取り出したのは、パック入りの生卵。
 予算内で買えるだけ、近所のコンビニを梯子して買い集めたものだ。
 それを手当たり次第に投げ付ける。
「キョーカも、おてつだいする、なの!」
 琉命の大人買いの影響か、店には卵の在庫が殆どなかったけれど――それでも何とか買い集めて来たキョウカも参戦、敵を黄色に染め上げていく。
 だが、その時。

「くおぉらあぁぁっ!!」

 ドカンと雷が落ちた。
「ぬしら、食い物を粗末にするでない!」
「だ、だるどふたま!?」
 余りの大声に驚いたキョウカは、取り落としそうになった卵でお手玉状態。
 姿は見えないが、まるですぐ傍にいるかの様な迫力だった。
「それだけの卵と醤油があれば、何杯の卵かけご飯が食えると思うておるかぁっ!!」
 そこか。
「そこなのか、貴様」
 ファウスト(jb8866)が気勢を削がれた様に溜息を吐く。
 だが、フラウが次の色付爆弾を遠慮なく投げながら言った。
「これは、こちらの戦意を削ぐ為の策略であると愚考する」
 言葉に惑わされてはいけない。
「いや、あれはきっとホンネやろね」
 蛇蝎神 黒龍(jb3200)が面白そうに小声で呟いた。
 支配下の人々に配る食糧の確保に日々頭を悩ませているであろうダルドフにとっては、看過する事の出来ない重大事なのだろう。
「だが、いちいち幻の相手をしてはいられないのも事実だ」
 それも分かる気はするが、と黒羽 拓海(jb7256)が首を振る。
 幻影の相手に手数を取られては、こちらが消耗するばかりだ。
「そやけど、何でダルドにはこっちの行動がわかるんやろ?」
 ここからでは、まだその姿は見えない。
 向こうにしてもそれは同じだろう。
「きっと、あれでやす」
 紫苑が忌々しげに、空に向かって顎をしゃくった。
 そこには何羽かの鴉が旋回し、或いは枝に止まってじっと戦場を見つめていた。
「あれが、だんなにこっちのようすをつたえてやがるんでさ」
 それはダルドフの目であると同時に、上司の目と耳でもあるのだろう。
 要するに監視カメラの様なものだ。
「さっさとつぶしちまいてぇとこですがねぃ」
 そうしたら、ダルドフが今以上に怪しまれる事にならないだろうか。
 不安そうな紫苑の耳に、独り言の様なラドゥの呟きが聞こえた。
「戦場にいる以上、敵は敵だ。狙われた所で何ら不思議はあるまい」
 もっとも、本人は鴉など眼中にない様子ではあるが。
 ならば――

「てきはたおす、なの」
 紫苑が動く前に、キョウカがヨルムンガルドの引き金を引いた。
 近くの枝に止まっていた一羽がぽとりと落ちる。
 続いて陽光の翼で急上昇した紫苑が、上から叩き付ける様に偃月刀を振り下ろした。
 が、それは虚しく空を切っただけで、勢い余った紫苑の身体はクルクルと前方大回転。
 瞬時に体色を変えて攻撃を避けた鴉は、上方から見下ろしつつ「アホー」と鳴いた――気がする。
 しかし、油断したそれをファウストの魔法書から放たれた雷が貫いた。
「阿呆は貴様だ」
 それは鴉に言った言葉か、それとも。
(断ちたいと願うはダルドフの憂い、そして奴とその娘の間にある障害を――)
 とは言え、武人気質のダルドフの事。
 まずはこちらの力と覚悟を示さなければ納得はしないだろう。
 厄介な男だ、防御も固ければ頭も固い。
 だが、突き崩してやる。頑固な石頭になるには数百年早い。

 三人が空の敵に集中する一方、残る七人はまず狼の数を減らしにかかった。
 混戦になる前に、フラウがコメットを二連発。
 降り注ぐ彗星に当たった幻影は消え去り、後には目印を付けた本物だけが残る。
 その空いた場所を他の敵が埋めないうちに、前衛が斬り込んでいった。
 ラドゥは重圧を受けて動きが鈍ったものは後回しに、軽々と飛び回る狼達に狙いを定めてノスフェラトゥソードに血を吸わせていく。
 落ちて来た鴉にも確実に止めを刺しつつ鬼蜘蛛に接近、攻撃の機会を伺う。
 武は周辺から押し寄せる敵にショットガンを連射、足止めしながら幻影の撃破を狙った。
「適当にバラ撒いときゃ、勝手に当たって消えるだろ!」
 本体に当たればラッキーくらいの感覚で。
 その遥か後方からは、影野 恭弥(ja0018)が一撃必中の狙撃で確実に敵の数を減らしていく。
 狙撃手の強味は敵の射程外から一方的に攻撃が出来る事、そして落ち着いて戦場全体を観察出来る事だ。
 目印がなくても、燈狼の本体を見破る事が出来る。
 射線さえ通れば今すぐにでもダルドフを狙う事さえ出来るだろう。
「だが、まずは邪魔者を減らしてからだな」
 恭弥は狼の頭部を狙って淡々と引き金を引き続ける。
 無粋な横槍が入るのを防ぐ為にも、出来るだけその数を減らしておきたかった。
 と、殺伐とした戦場には不似合いな、清らかなアイリッシュハープの音色が響く。
 だが心を癒す様な美しいその音色に反して、琉命が爪弾く弦からは衝撃波が放たれ、それを浴びた狼達は足を止め、或いは後退のそぶりを見せた。
 その隙を捉えて拓海が黒百合で切り裂き、黒龍が双鈎を振るって蹴散らす。

「からすはかたづけた、なの!」
 キョウカの声に、琉命は念の為に生命探知で周囲を確認する。
 保護色を使う鴉は目視での発見が難しい。
 案の定、何もいる筈がないと思っていた場所に反応があった。
「一羽たりとも、逃がす訳にはいきません」
 畑に点在する木々の上、枝の影にでも隠れているのだろうか。
 琉命は反応のあったその場所に向けてPDWを掃射、止まっていた枝ごと吹っ飛ばした。
「まだ他にもいるかもしれません」
 探知圏外に残っている可能性もあるし、特にダルドフの周囲には注意を払う必要があるだろう。
 全てを確実に排除したと確信が持てるまで、不用意な会話は出来ない。

 それに頷いた黒龍は、口では何か適当な事を言いながら敵に攻撃を仕掛けつつ、意思疎通でダルドフに話しかけた。
『なあ、ダルド。鴉の居場所、知っとったら教えてくれへん? 風に喩るとかでもええねんけど』
 返事はない。
 知らないのか、教える気がないのか――まあ良い、声が届いている事は確かだ。
『ボクらの力だけでアカンと思うなら、キミもコッチ来たらええ。折れて篭絡されてくれ。学園側についてから支配地を取り戻すという手がない訳じゃないやろ』
 反応、なし。
『何人悲しむ貌を見れば義をまげて貰える? 赤子の咳は止めれても涙を止めることは出来へん』
『相変わらず、よう口が回るのぅ』
 漸く返って来た返事には、溜息混じりの様な響きがあった。
『そら悪魔やからね』
『だが、話があるなら某の顔を見て、堂々と語るが良い』
 力なき者に語る資格はないし、その言葉に耳を傾ける気もないと、そういう事だ。

「ならば望み通り、蹴散らしてやろう」
 拓海が黒百合の柄を握り直し、鬼蜘蛛に向かって行く。
 もう迷いはなかった。
「鬼蜘蛛はその体色によって特性が異なるという報告がある」
 フラウの言葉に、武が答える。
「よし、じゃあちっと試してみっかな」
 目の前の茶色っぽい鬼蜘蛛に対し、まずはショットガンを撃ち込んでみる。
 しかし相手は、くるりと向きを変えた瞬間に、自慢の硬い脚でその攻撃を跳ね飛ばした。
「なら、こっちはどうだ!」
 今度は氷晶霊符を取り出し、氷の刃で魔法攻撃。
 すると、今度は側面に生えた四本の脚を隙間なく揃え、盾の様にしてそれをガード。
「どっちが効くのか、これじゃわかんねえな」
 反撃に転じた蜘蛛が、苛立たしげに頭を掻いた武にその顔を向ける。
 一見、何も起きていない様に見えたが――
「糸か!」
 再びショットガンに持ち替えた武は、その見えない糸ごと薙ぎ払う様にその口を撃つ。
 だが、弾幕をものともせずに吐き出された糸は、武の身体にべったりと貼り付いた。
「この色の蜘蛛には、物理攻撃は効きにくいものと推察する」
 武に絡み付いた糸を引き剥がしながら、フラウが仲間に伝える。

「だったら、ゆみでこーげきしてみる、なの!」
 上空に舞い上がったキョウカが、胴体を狙って弓での魔法攻撃。
 しかし物理に強い、イコール魔法に弱いという意味ではない。
 元々硬いものが、得意な属性に対しては更に硬くなるというだけの事で、キョウカの力ではその硬い外皮を突き破る事は出来なかった。
「ならば、これはどうだ」
 ファウストが駆け寄ろうとするが――
「待って下さい」
 琉命が止め、その周囲に火炎放射器を向ける。
 アウルの炎が見えない糸を燃え上がらせ、ついでに次々と集まって来る燈狼を押し返した。
 その炎を突き破る様に走り出て、ファウストはアーススピアを放つ。
 そのままでは弱点の腹には届かないが、脚を狙ってバランスを崩せば、後は仲間が上手くやってくれるだろう。
 片側の脚の下で針の様に尖った土が盛り上がり、弾く。
 僅かに見えた腹に向けて、邪炎のリングに持ち替えた黒龍が黒炎の玉を撃ち込むと、蜘蛛は必死で体勢を立て直そうとするかの様に、浮き上がった片側の脚を闇雲に動かした。
 或いはレート差の開いた攻撃に耐えかね、苦しみ悶えているだけなのか。
 その隙に脚の間を抜けて石火で潜り込んだラドゥが、振り上げた剣で腹を切り裂く。
 上から降りかかるドロリとした体液を避けつつ、もう一撃。
 それを阻止しようと集まって来る狼達を、糸から抜け出した武がショットガンで幻影を消しつつ牽制した。
 残った本体に琉命が卵で目印を付け、それを拓海が斬る。

 その間にも残りの蜘蛛や狼達が波状攻撃を仕掛けて来るが、数歩下がって視野を保ったフラウがその都度的確な指示を出し、或いはスキルでサポートしつつ切り抜けた。
 必要なのは、強い意志と冷静さを以て事に当たり、精神面での強さと示す事。
 同時に人側の強さの根源である「相互協調」も示す事が出来れば、ダルドフの内面に小波のひとつ位は立てる事が出来るだろう。
 僅かでも波が立てば、それを大波に変えるのは難しくない筈だ。

 もう一体の茶系統の蜘蛛を同じ要領で片付け、残るはもう一体。
「おれが、やつのめをひきまさぁ!」
 紫苑はホイッスルを吹き鳴らしながら、蜘蛛の頭上を飛び回り始めた。
 鬼蜘蛛の目に死角は殆どない。
 まるで煩い蠅を投網で捕らえようとするかの様に、紫苑に顔を向けた蜘蛛は糸を吐き出そうと口を開く。
 紫苑が素早く距離を取った瞬間、その数少ない死角である背後に回り込んだ武が、尻に向けて氷の刃を突き刺した。
 不意打ちに驚いたのか、蜘蛛は一瞬動きを止める。
 その隙に狼を蹴散らしながら接近した拓海が脚の付け根に一太刀。
「ここも流石に硬いか」
 だが、スキルは使わない。
(俺の狙いはダルドフのみ。お前の守りたいものを守る為に、たとえ殺す事になるとしても全力で…揺るがぬ覚悟で剣を振るう)
 前座を相手に力を使い果たす様では、また出直して来いと言われかねない。
 拓海は同じ場所を狙い、もう一度斬り付ける。
 それを嫌った蜘蛛が体当たりで跳ね飛ばそうとするが――
 キョウカに炎の烙印を授けられた紫苑が急降下、今にも飛び掛かろうとした蜘蛛の背後から懐に潜り込んだ。
 そのまま胴と脚の接合部を狙って偃月刀を突き上げる。
「クローバーのにーさん、どいてくだせぇーっ!」
 体当たりに向けて力を溜め込んでいた所を思いきりド突かれ、巨大な蜘蛛は何かにつまづいた様に頭から地面に突っ込んだ。
 ちらりと見えた腹に向けて、キョウカが弓を放つ。
「こんどはきいた、なの!」
 更に武が追撃を加えると、蜘蛛は完全に引っ繰り返った。
 こうなればもう、どんな攻撃でも面白い様に決まる。

「なら、黒い方は物理が効くわけか」
 仲間達が連係攻撃で蜘蛛に対処する中、恭弥はひとり黒い蜘蛛に向けて、覚醒「禁忌ノ闇」を乗せた一撃を撃ち込む。
 その攻撃は狙い違わず頭を撃ち抜くが、鬼蜘蛛はその大きさに見合う体力を持ち合わせている様で、一撃では倒れない。
 しかも怒りに任せて暴れ始めた。
 だが、恭弥は慌てず二発目を撃ち込む――今度は通常攻撃で。
 仲間達に向かおうとする攻撃を逸らしつつ、着実にダメージを重ねていく。
 何処から攻撃を受けているのか、それさえわからないままに、蜘蛛は動かなくなった。
 続けてもう一体、周囲を跳ね回る邪魔な狼諸共に片付けて――



 鬼蜘蛛の壁は崩れた。
 後は燈犬達を追い払えば、目標に手が届く。

 キョウカのサポートを受け、武が密集した犬達に向けて炎陣球を叩き込む。
 この向こうにダルドフがいる事は、琉命の生命探知で確認済みだ。
 もふもふの塊を巨大な炎球が焼き払い、幻影を消滅させつつ道を作る。
 出来た道に走り込みながら、もう一発。
 これで本丸まで届く筈――
 しかし、道の先に求める者の姿はなかった。
 消え残った犬の頭上から紫苑が偃月刀を叩き付け、押し返される前に離脱しようとしたその時。
 一瞬、大きな影が陽光を遮る。
「だんな!?」
 影は紫苑を飛び越え、武の目の前に降り立った。
 気付いた時には既に遅く、着地と共に叩き付けられた偃月刀から衝撃波が走る。
「しーた!」
 急降下したキョウカが、紫苑の腕を取って上空へ。
 武は咄嗟に刀印を切って四神結界を張るが、その程度で凌げる様なものではなかった。
 結界に走り込んだ琉命が神の兵士を付与しなければ、意識を刈り取られていたかもしれない。

「それは一度見た技だ」
 後方から冷静に見つめていた恭弥が言う。
「予測は出来ていたという訳か」
 ダルドフは余裕の表情で顎髭を不練った。
「だが、ぬしはそれを仲間には伝えなんだ。ぬしはおのれ一人の力のみで某の刃を折る事が出来るとでも思うておるのか?」
 だが、恭弥は答えない。
 ただ黙って銃口をダルドフに向ける。

「貴方がどんなに強くても関係ない」
 口を開いたのは琉命だった。
「何度叩き伏せられても立ち上がり、勝つまで戦い続ける」
 その言葉通り、治療を終えた武が立ち上がる。
「面白い」
 ダルドフは目を細め、偃月刀を握り直した。
「ならば――参れ!」

 言葉と同時に、燈犬達がダルドフの周囲を取り囲む。
 結界の中に留まっていた武と琉命もその波に呑み込まれる――が、闘刃武舞を発動した武がそれを蹴散らし、琉命と共に包囲の外へ。
 そこからショットガンを連射、幻影を消しながら本体にもダメージを与えていく。
 幻影を消されて戦列から離れようとしたものには、キョウカが上空から卵を投げつけて目印を。

 目印の付いたものを切り伏せつつ、ラドゥは真っ正面からダルドフに突っ込んでいった。
 小細工なしの真っ向勝負だが、躊躇いはない。
 闘気を解放し、真っ直ぐに剣を振り下ろす。
 刃と刃が響き合い、キィンと甲高い音を立てた。
 その音が、まるでダルドフの偃月刀に吸い込まれるかの様に消えて行き、返す刃から倍の速さと威力をもって飛び出して来る。
 サーバント達の血を吸った吸血剣は、ラドゥの手を離れて飛んだ。

 だが、追撃は来ない。
 その隙に背後に回り込んだ拓海が、闘気解放からスキル全部乗せの一撃を叩き込んだのだ。
 それは地面から現れた防護壁で防がれたが、その壁が同時に複数は作れないと見て、キョウカは上空から援護射撃。
「キョーカ、がんばる、だよ?」
 その攻撃を弾き返したダルドフに、再び拓海が迫る。
 反対側からは体勢を立て直したラドゥが、更にはファウストが取り囲む様に迫った。
 この状況なら再び轟砲を使う筈だと踏んだ拓海は、振り上げた偃月刀に自分の刃を叩き付ける。
 暫しの鍔迫り合い、力の押し合いではどう見てもダルドフに分がありそうだが、拓海の目的はここで勝つ事ではなかった。
 相手の力を利用してそれを受け流し、横に回って足を払う。
 僅かにバランスを崩した所に、ラドゥが斬りかかった。
(何かやりたい事があるなら、存分にやるが良い)
 今やダルドフの意識は地上に釘付けされている。
 上空で様子を伺う紫苑は、完全に意識の外になっている様に見えた。

「しーた、がんばって、なの」
 キョウカに風の烙印を授けて貰い、自らもハイドアンドシークで気配を消した紫苑は、素早く地上へ降りた。
 そこらに転がる大きな犬の身体を盾に、影から影へと伝い歩き、距離を詰めたところで一気に駆け抜ける。
 それに気付いた犬や狼達が吠えながら追いかけようとするが、フラウがコメットで牽制し、その足を止めた。
「妨害は無用と心得よ」
 残ったものも武のショットガンや琉命の銃撃で阻まれ、紫苑に近付く事は出来なかった。
 だが、犬達が吠えればダルドフもそちらに注意を向ける。
 振り向こうとした、その時――上空から声がした。
「だんなーっ!」
 キョウカが紫苑の口真似で気を引いてくれたのだ。
 同時に、氷結晶を作り出したキョウカは、それをダルドフの襟元を狙って落とす。
「うぉっ!?」
 冷たい。
 だが、その冷たさを気にしている場合ではなかった。
「思う存分、やって来い」
 大事な顎髭を狙ってファウストの雷が飛ぶ。
 次いでラドゥの剣が、拓海の刀が、畳みかける様に打ち下ろされた。
 それは倒す事を目的にした攻撃とは思えない。
 まるで何か明確な意図を持って妨害しにかかる様で――
「ぬしら、何を企んでおる?」
 その全てをあっさりと跳ね返し、ダルドフは後ろを振り返る。
(拙い、気付かれたか?)
 拓海の視線を受け、飛び込んだ黒龍がテラーエリアを発動、辺りは深い闇に閉ざされた。
 夜の番人で視界を確保し、紫苑はそのまま突っ込んで行く。
 封天人昇で天使の血を抑え、全力疾走からの頭突きをダルドフの股間に――!

 しかし。

「むぅんっ!」
 丸太の如く太くて頑丈な腕が急所をガード、突っ込んで来た紫苑をテラーエリアの外まで吹っ飛ばした。
「ぬしなら、そう来ると思っておったわ」
 危ない危ないと、ダルドフは額の汗を拭いながら、飛ばされて転がった紫苑に歩み寄る。
 何が何でも当ててやるという、その気迫と想いの強さは買う。
 しかし、ここは何としてでも守らなければ――だって、潰されたらおとーさんがおかーさんになっちゃう!(なりません
「惜しかったのぅ」
 差し出された大きな手を無視し、バネ仕掛けの様にぴょんと立ち上がった紫苑は、そのままダルドフの頬にジャンピングアタック!
 ばっちーーーん!
「ぬおぉっ!?」
 効いた。
 これは効いた。
「わかりやすか。おれぁいま、おこってやす。げきオコ(略)ームでさ」
 思いきり叩いたせいで、掌がじんじんと痛む。
 だが、それよりも胸の方が痛かった。
「ばか! だんなのばか! じぶんががんばれば、まもらねばって、そればっか!」
 紫苑はダルドフの肩にその小さな両手を置くと、ゆさゆさと揺さぶった。
 下を向いたまま、精一杯の虚勢を張って。
 顔を上げて、目が合ったら、言葉が涙で押し流されてしまいそうだから。
「だんなも、すきな人にいっぱいいっぱいまもってもらってたんでしょおが…だからこんな強くなったんでしょぉが」
 ゆさ。
「なんで」
 ゆさゆさ。
「なんでじぶんもだれかのまもりてぇモンだって、きづかないんでさ」
「紫苑」
「一生に一どのおねがい、でさ。おかしもおもちゃもテレビも、みんなぜんぶ、がまんしやすから」
 だから。
「となりにいさせて。一しょにたたかわせて。もう、こんなむねがいたいのはやだよ」
 顔を上げる。
 鼻の奥から熱い塊が溢れて迸る。
「おとーさん」
 おとーさん、おとーさん、おとーさん――

「大丈夫です、鴉の反応はありません」
 この会話は聞かれていないだろうかと心配する仲間達に、琉命が答える。
 生命探知で地面から僅かでも浮いた位置にある反応は全て潰した。
 新手が来ない様に目を光らせてもいるし、来たらすぐさま始末する。

「存分に語るが良かろう」
 やりたい事があるのなら止めはしないと、ラドゥ。
 それを遂行できるように手助けもしよう。
 ダルドフを倒しに来た訳ではあるが――まあ、然しながら。
「此度の様に無粋な横槍がいる状態での幕引きは少々ばかり、つまらん」
 監視者の存在然り、こうして助けようとする者達も然り。

「いかなる手段であれ、敵性戦力の無力化がなされるならば、それは否定すべきものではないと愚考する」
 フラウが言った。
 殲滅は手段の一つだが、全てではない。

 上空からキョウカがふわりと舞い降りた。
「しーたのおともだちの、キョーカ、だよ?」
 大事な友達を泣かせてしまった。
 けれど、この涙をこれ以上悲しいものにはしない。
「おともだちをなかせるのは、メッ、なのっ」
 仁王立ちになり、腰に手を当てて、思いきりふんぞり返る。
 そのままダルドフの目の前に、人差し指を突き付けた。
 人を指差してはいけませんと言われているけれど、こういう時はきっと例外として認められる筈だ…と、思う、多分。
「だるどふたま! あとでしーたがかぁいいについて、おはなししたい、なのっ」
 え?
 うん、紫苑は可愛い。そこに異議を唱える者は、ちょっとここに来て座りなさい、ではあるが。
 これはキョウカなりの、堕天への勧誘という事なのだろうか。

 二人の少女を前に困り果てた様子で頭を掻くダルドフを遠巻きに眺め、黒龍は思う。
(情愛というんは、この世で一番残酷な感情やね。氷塊の剣のように、握り締めたままでは溶けて滑り墜ち、振るえば脆く朽ちる――何処で滅ぶか、の違いや)
 ゆっくりと歩み寄り、その脇に立った。
「どや、悪魔の甘言に乗っかる気になったか?」
 ダルドフの視線を感じつつ、黒龍は続ける。
「惑わされてくれてええ、悪は黒の字の名の下に全部飲み込む。自分の義を、自分の枷にせずに頼ってくれ」
「ぬしが一人で呑み込めるほど、小さくはないわ」
 今でこそ支配者として人々を守り、それは被支配者の側からも一定の評価を受けてはいる。
 だがここに至るまでに、どれだけの犠牲を出して来たことか。
「今までダルドに会った奴らは覚悟はしてるはずやし赦してくれる。負けても死ぬな、そう彼らは願った筈や。ボクらと同じように」
 そこで黒龍は意思疎通に切り替えた。
『一生背負うあの子に何が残せる?』
 確かに紫苑は気丈な子かもしれない。
 そして強い。
『でも救済出来るのはダルドだけや。それは忘れなや?』



 だが、ダルドフの心は決まっていた。
 武人として、義に厚き者として、自らの依って立つ所を裏切る訳にはいかないのだ。
 例えそれが信を置くに足りぬものだとしても、明らかに誤った道を進んでいるとしても。
 それに、墜ちればこの力の殆どが失われる。
「某の石頭は生まれつきよ。死んでも治らぬわ」
 傍らで成り行きを見守るファウストにちらりと視線を投げ、ダルドフは偃月刀を握る腕に力を込めた。
 その刃がが深紅の輝きを放ち、正面で祈る様な眼差しを向ける紫苑の頭上に振り上げられる。
「だるどふたま、だめぇっ!」
 キョウカが親友の前に立ちはだかり、身を挺して庇った。
 だがそれが振り下ろされるよりも早く、踏み込んだファウストがスタンエッジを仕掛ける。
 深紅の刃は輝きを失い、主の手を離れた。
「託された以上は、こちらも体を張って護らねばな」
 それが自分なりの覚悟であり、託してくれたダルドフへの礼儀だろう。
 ダルドフも恐らくは、それを試す為にわざと仕掛けたのだ――まったく人が悪い。

 だが、これで投降の意思がない事は明らかになった。
 そう判断した恭弥が、ゆっくりと歩み寄る。
「そいつらは話し合いで解決したかったらしいがあんたも本気らしいな。またあんたが膝を付いたら負けって賭けでもするかい?」
 そう言いながら専門知識で威力の底上げを図りつつ、更に接近しながら自分の指先を爪で傷付けた。
 小さな赤い塊が盛り上がり、滴り落ちる。
 そこに現れた魔方陣から噴出した黒いアウルが、無数の大型犬に姿を変えてダルドフに襲いかかった。
「それも良かろう」
 ダルドフは偃月刀を構え、それを待ち受ける。
 黒犬の姿に紛れて近付いた恭弥はそのままダルドフの背後に回り込んだ。
 だが、いくら気配を消したとは言え、そのままぶつかっては動きが読まれるのは必至。
 咄嗟に飛び出した武が横合いから氷の刃を放った。
「今までの動きを見る限り、魔法には弱い筈だ!」
 それ自体は突如現れた防護壁に防がれてしまったが――隙を作るには充分だった。
 恭弥は滅影を乗せた紅炎村正を縦に一閃。
 その背から赤い飛沫が飛び散る。

 声にならない悲鳴を上げた紫苑が、ぎゅっと目を閉じて身体を強ばらせた。
 その手を握ったキョウカが、ぎゅっと「大丈夫」の想いを込める。
 それに勇気づけられ、恐る恐る目を開けた時には、噴き出していた血もぴたりと止まり、ダルドフは何事もなかった様に拓海に向き直っていた。

「これが、『その刃を研ぎ直せ』というお前の言葉に対して出した俺なりの結論だ、ダルドフ」
 拓海は真っ向からダルドフを見据える。
「俺は最初に語った通りに意志を貫く!」
 闘気を解放し、ありったけのスキルを乗せて休む間もなく打ち込み続けた。
 ダルドフはその全てを悉く受け止める。
 だが、まだだ。
「これが俺の、全力の一刀だ!」
 最後の最後、持てる力と技、覚悟、そして想いの全てを乗せた渾身の一撃。
 インパクトの瞬間、ダルドフは敢えて武器を引いた。
 その身で、全てを受け止める為に。

「…ふ、良い眼になりおったわ」
 切り裂かれた肩口を押さえ、斜めに傾いた身体を偃月刀に預けたダルドフは、満足げな笑みを浮かべた。
「ぬしならば、大切な誰かを悲しませる事も…ないやもしれぬ、のぅ」
 ぐらりと揺れたその身体を、ファウストが支えた。
「気は済んだか」
 聞き分けのない子供に対する様なその問いに、ダルドフは口元を歪めて見せる。
 その端から一筋の赤い筋が流れ、髭を伝って落ちた。
「将が貴様でない方がいっそ迷いなく倒しにいけるわ、全く」
 なまじ好意があるから困るのだ。
 それに、懇意にしている子供が父と慕う者を手にかけたとあっては寝覚めも悪かろう。
「このジジイより先に逝こうなどと思うなよ、若造が」
 たとえ今は無理だとしても。生きてさえいれば、いつかはきっと――

「あんたは捕虜にする」
 恭弥が、その背に銃口を突き付けた。
 止めを刺すつもりはない――大人しく従うならば。

 だが。

「某はまだ、膝を付いてはおらぬぞ」
 ダルドフは素早く身を翻すと、偃月刀の柄で二人を弾き飛ばし、牽制の轟砲を一発。
 その姿を隠す様に、燈犬達が集まって来る。
「紫苑」
 壁の向こうから、静かな声が聞こえた。
「だんなっ」
「この様な男を父と呼んでくれた事、嬉しかったぞ」
「や…っ」
「達者で暮らせ。友達を、大切にな」
「やだ…っ、やだやだやだっ!」
 そんな言葉は聞きたくない。
 まるで今生の別れの様な、そんな言葉は。
「まって、いかないで…おとーさんっ!」
 だが、答えはない。

「案ずるな、あれは死なぬ」
 ラドゥの呟きだけが、その耳に届いた。

「また何時か、戦場で」












 数日後。

「あいつ、まだ戻らないんだ?」
 トビトが、さして興味もなさそうな様子で呟く。
 使徒の様子に変化がない所を見ると、死んだ訳でも、墜ちた訳でもなさそうだが。
 身を隠す事が精一杯の抵抗という訳か。
「まあいいや」
 欠けた戦力は補充すれば良い。
 強いだけの駒なら、いくらでも補充が効く。

「強くて扱いやすい駒なら――いくらでも、ね」



依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: God of Snipe・影野 恭弥(ja0018)
 桜花絢爛・獅堂 武(jb0906)
 コールドアイ・フラウ(jb2481)
 智謀の勇・知楽 琉命(jb5410)
重体: −
面白かった!:8人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
撃退士・
ラドゥ・V・アチェスタ(ja4504)

大学部6年171組 男 阿修羅
桜花絢爛・
獅堂 武(jb0906)

大学部2年159組 男 陰陽師
コールドアイ・
フラウ(jb2481)

大学部3年82組 女 アストラルヴァンガード
By Your Side・
蛇蝎神 黒龍(jb3200)

大学部6年4組 男 ナイトウォーカー
智謀の勇・
知楽 琉命(jb5410)

卒業 女 アストラルヴァンガード
シスのソウルメイト(仮)・
黒羽 拓海(jb7256)

大学部3年217組 男 阿修羅
娘の親友・
キョウカ(jb8351)

小等部5年1組 女 アカシックレコーダー:タイプA
七花夜の鬼妖・
秋野=桜蓮・紫苑(jb8416)

小等部5年1組 女 ナイトウォーカー
託されし時の守護者・
ファウスト(jb8866)

大学部5年4組 男 ダアト