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マスター:STANZA
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
形態:
参加人数:25人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/07/25


みんなの思い出



オープニング



 日本の夏は、肝試し。
 そして肝試しと七夕は、一緒に楽しむのが日本の古き良き伝統なのだ。

 ……いや、それがガセネタである事は、去年の時点で薄々気付いてはいた。
 でもガセだって良いじゃない、楽しかったんだもの。


「……という訳で、だな」
 門木章治(jz0029)は言った。
「今年もやるぞ、七夕肝試し」
 去年はぼんやりしていた為に旧暦に合わせた形になってしまった。
 だが、今回はちゃんと七月に。

 念の為に解説しておくと、七夕とは真っ暗な神社の敷地を舞台に繰り広げられる、サバイバルホラーゲームである。
 ただし今回は、サバイバルとホラーの度合いは少し低めに設定してみた。
「……去年は、短冊を付けた笹を祠に奉納するゲームだったが、今年はもう少し簡単にしてみた」
 誰でも気軽に、楽しく遊べるように。
「……真っ暗な中を祠まで歩くのは同じだが……それを、仮装行列にしようと思う」
 何故いきなり仮装行列なんだ。
 今度はハロウィンと混ざってるんじゃないか――そんな声が聞こえる中、門木は説明を続けた。
「……今年は、祠の周囲にある広場にパーティ会場を用意した」
 参加者は予め好きな格好に着替えた上で、スタート地点となる教室を出る。
 目的地は、名も知れぬ神を祀った小さな祠。
 真っ暗な廃墟を抜けた先のどこかに、その祠はある。
「……去年の参加者は道を覚えているかもしれないが、それはそれで構わない」
 今年のメインは、七夕の夜を皆で楽しく過ごす事だ。
 勿論、途中で何か肝を冷やす様なハプニングはあっても良いし、脅かす側に回りたい者がいれば、それも良い。
 ただ静かに、蛍や星を見ながらのんびり歩くのも良いだろう。

 仮装を楽しみ、散策を楽しみ、時にはちょっと肝を冷やしたりしながら、最後はパーティで盛り上がる――
 今年の七夕は、それで行こう。

「……ああ、勿論……短冊に願い事を書くのも忘れずに、な」



リプレイ本文


 その日、ユウ(jb5639)は朝から忙しく動き回っていた。
「折角のパーティですし、皆さんに楽しんで貰えるように少しでもお手伝いがしたいですね」
 という事で、裏方としてパーティ会場の準備を整えたり、食材の買い出しに行ったり、割烹着姿で調理室に籠もって料理を作ったり――

 夕方までには準備万端整えて、他のスタッフと共に先に会場入り。
「皆さん、どんな仮装で来られるのでしょうね」
 到着まで暫し、のんびり待つとしようか。



●だって久遠ヶ原だもの

「七夕ってこういう催しだったっけ…?」
 尼ケ辻 夏藍(jb4509)の知る限り、七夕に仮装行列を行う事はなかった筈だ。
 それとも、時代と共に七夕も変わったのか。
 暫く引き籠もっているうちに、自分は取り残されてしまったのだろうか。

 そんな筈はなかった。

「学園なら、これぐらい変わった七夕がらしいかもね」
 龍崎海(ja0565)が言う様に、ここは久遠ヶ原学園だ。
 学園で行われる各種の行事が、ごく一般的かつ常識的で、何の逸脱もないものだったとしたら、その方が不自然だろう――と、誰もがそう感じる程度には、この学園は普通じゃないのだ。
「こんなたなばたもあるんだね!」
 天駆 翔(jb8432)が言う様に、ここは素直に楽しむが吉だ。
 それにしても、周囲には吸血鬼に雪女、九尾の狐に…┌(┌ ^o^)┐まで。
 ここは「本物」として負けてはいられない。
「とは言っても…私はこの服装自体が…だしね」
 光纏で肌に浮かび上がる鱗の模様を晒せば、後は何の細工も要らないだろう。
 今回も何故か一緒につるむ事になった百目鬼 揺籠(jb8361)も、普段と変わりないそのままの格好だろうが、子供達二人はどんな仮装をするのだろうと見てみれば。
「ガキがこういう時やらねぇでどうするんですか」
 揺籠は渋る紫苑(jb8416)に九尾狐の仮装を半ば押し付ける様に手渡していた。
「お、おれはべつに、このまんまでかまわねぇでさ」
 鬼だし、角あるし。
 でもそこまで熱心に勧めてくれるなら、仕方ないから着てあげても良いけど。
 べっ、べつに喜んでないし、嬉しくもないんだからねっ、嬉しいけど!
 もっふもふの狐の着ぐるみに、本体よりも大きなふっさふさの尻尾が九本、孔雀の羽根の様に扇形に広がって付いている。
 もう一人のお子様、翔は大人達に合わせて何の変哲もない着物姿だ。
「翔サンはそれで良いんですかぃ?」
 ぽんと肩を叩かれ、振り向いた翔の顔はしかし、のっぺらぼう。
 だが驚いたのは、脅かされた揺籠ではなく――
「ぎゃーっ!!」
 紫苑は両手に装備した除霊用リ○ッシュとファブ○ーズをぶしゃーっ!
「テレビもけーたいも、ふとんの中もダメなんでさっ」
 涙目、かつ真剣な顔で除菌剤を構える紫苑。
「紫苑サン、それはバイキンを退治するものであって、除霊の訳には立たねぇですよ」
「ドウメキのにーさん、しらねぇんですかい!?」
 この中に含まれるある成分が除霊に効果的だというのは、もはや常識なのである――ただしネット上で。
 という事は、ほぼ間違いなくただの都市伝説にすぎないのだろう。
 だが紫苑は真剣だった。
(鰯の頭も信心からってぇ言いますし、まァ良いでしょう)
 ところで短冊は?
「かいたよー!」
 翔の願い事は『みんなにたのしいまいにちがありますように』だ。
 紫苑は少しでも空に届けばいいと、ありったけの短冊にありったけの想いを込めて願い事を書く。
 でも中身は内緒、誰にも見せない秘密のお願いだ――もしも嫌な人達に見られてしまったら大変な事になりそうだし。
 揺籠はシンプルに『商売繁盛』と大書して、笹の一番目立ちそうな所へ。
「おや、尼サンは短冊いいんですかぃ? 引き籠り生活捗るように、とか書かねぇで」
 悪戯っぽく笑った揺籠に、夏藍は大人の余裕を見せ付ける。
 自分の分け前を子供達に譲ったのだ。
「私の分まで書くといい」
「え、いいの? やったー! ありがと、アマの兄ちゃん!」
 受け取った翔は紫苑と額を付き合わせ、二人で一緒に願い事を書く。
「こんどはよにんいっしょ、でいいかな?」
「みんなのほうが、よかねぇですかぃ?」
「あ、そっか!」
 その様子に、夏藍はいかにも保護者といった体で目を細める。
「未来のある子達の夢の方が、あの夫婦…織姫と彦星だって叶えがいがあるだろうさ」
 それを聞いて、揺籠は何となく負けた気がしたとかしなかったとか。
 相も変わらず口を開けば言葉の応酬、仲良く喧嘩する二人だが、子供にはそんな複雑なオトナゴコロはわからない。
 本当に仲が悪い様に見えて、心配になった紫苑は貰った短冊に追加で二人の健康を願い、もうひとつ――
「ドウメキのにーさんとカランのにーさんが、ケンカしねぇでなかよくなりますよーに…と」


「仮装行列、ですと…!?」
 親しみを込めてクゥと呼ばれるクアトロシリカ・グラム(jb8124)は、早速用意したモノを氷咲 冴雪(jb9078)の目の前に広げて見せる。
「ふふ、冴雪っちには是非コレを着ていただきたい希望ー!」
 じゃーん!
 胸元をめいっぱい強調した黒基調のパンク風フリフリゴスロリ服ー!
「わたくし、元々雪女ですしこのままでも構わないと思うんですが…」
「Σダメなの!?」
 まさかの拒絶!
「いやーん、着物じゃ露出が低…いえなんでもありません」
 待て、ノーパンに超ミニ着物で、更に胸元を思いきりはだけるという選択肢も…いえなんでもありません。
 しかし、その熱意に押されたのか、それとも物理的に溶かされそうになった故か、冴雪はあっさり前言撤回。
「クゥが着ろと言うなら着替えても宜しくてよ」
「えっ、ホントやったー!」
「ところで、そのひらひらは何の冗談かしら?」
 ゴゴゴゴ…という謎の効果音と共に、体感温度が急降下。
 笑顔とは、実に恐ろしいものですね!
 うん、わかった。諦める。
「じゃああたしは、九尾の狐にするー♪」
 こちらの狐は大人の雰囲気で、せくしーに…見えるように、努力はしてみました。
「わたくしはとりあえず、額に白い三角の布をつけて幽霊になっておきましょうか」
 柳の枝ならぬ笹の葉を持って、肝試しへ。
 しかし、試されるのは一体誰の肝なのか――


「肝試しで仮装行列で七夕ー? 面白そうっ」
 参加したいと言い出したのは、礼野 明日夢(jb5590)と神谷 愛莉(jb5345)の二人だった。
 いや、正確には明日夢が愛莉に巻き込まれたと言うべきか。
 それを聞いて、礼野 智美(ja3600)は小さく溜息を吐いた。
「確かに去年は楽しかったって聞いたけど」
 昨年のイベントに参加したのは、親友と今は夫であるその恋人。らぶらぶの二人で参加したなら、どんなイベントでも楽しく感じることだろう。
「でも行きたい!」
 押しの強い愛莉に言われては、弟も断れない…と言うより、まんざらでもない様子だが。
「二人ともまだ小学生だろう、夜のイベントなんて危険すぎる」
 しかもまだ二年生、普通なら何事にも保護者同伴が必須の年齢だ。
 とは言え、この二人のことだ。駄目だと言ったらこっそり抜け出してでも参加しかねない。
 それならいっそ…
「仕方ないな、俺も一緒に行ってやるよ」
 というわけで。
 智美に着付けをして貰って浴衣に着替えた愛莉は、短冊にせっせと願い事を書いていた。
「えーと、お兄ちゃんを守れるよう強くなれますように。それから、お兄ちゃん盗る人がどっかに行っちゃいますように」
 お兄ちゃんを盗る人というのは愛莉の従兄を指すらしい。
 昔は仲が良かったらしいが、一体何があったのだろう。
 それをちらりと見て、明日夢は苦笑いを浮かべる。
(エリにとって、お兄さんの方がボクよりまだ比重高いんだろうなぁ)
 いつか、もっと強くなったら自分の方を見てくれるだろうか。
「お願い事かぁ…、よし」
 明日夢は短冊に『強くなれますように』と書き込んだ。
(姉さんほどは無理でも、せめてエリを守れる位にはなりたいよなぁ)
 そんな想いを知ってか知らずか、愛莉は短冊を書き続ける。
「あと、新しく来るもふもふともひーちゃん達と同じように仲良くなれますように」
 もうひとつ、大事なお願い。
「お料理がもっとじょうずになりますように…」
 そんな二人の姿を眺めながら、智美は笹の飾り付けに精を出していた。
 書いた短冊は一枚だけ、ただ『強くなりたい』と。
(俺の願い事って、結局は自分が強くならないと駄目だし)
 願いと言うより、誓いと言った方が良いだろうか。


「仮装なら普段着ないような服を着なければいけない訳ですね」
 カノン(jb2648)は使命感に突き動かされていた。
 普段は絶対に着ないものと言えば――
「やはり、これですか」
 手持ちの中から一着を選ぶと、カノンはひとり更衣室へ。
「こんな感じで良いのでしょうか」
 多少の不安はあるものの、迷っている時間はない。
 後から来る皆を脅かす、いや出迎える為に、急いでパーティ会場へ走った。
 道中で脅かして来る有志のスタッフによるお化けも、物陰に潜む┌(┌ ^o^)┐も眼中にない様子で、ひたすら急ぐ。
 だから、カノンは知らなかった。
 門木が今、どんな事になっているのかを――


「門木先生…好き(////」
 レイラ(ja0365)は不動の平常運転だった。
「っと、えと、今年は仮装行列? ですか? しかも女装? ですか??」
 見れば既に、計画は着々と進行している。
 シグリッド=リンドベリ (jb5318)は、レースたっぷりの白いウェディングドレス他一式を手に、キラキラと瞳を輝かせていた。
 そう、思い返せば商店街の皆さんを相手に激白した、あの時。
 お嫁さんにすると言ったシグリッドに、門木は――
「ありがとうってせんせー言ってたのです」
 にっこり笑顔でを差し出すドレスに、アレン・マルドゥーク(jb3190)が真っ先に反応した。
「あら〜そのドレス綺麗ですね〜」
 アレンには、これまで門木を度々渋イケメンにしてきた信頼と実績がある。
 しかし、美女にするのもドレスを着せるのも、これが初めてだ。
「これは素晴らしくやりがいがあるのです〜」
 では早速、更衣室に行きましょうか。
「顔のハリはこう…後ろに引っ張って持ち上げてテープで止める技もあるんですよ〜?」
 それ専用のテープもあるし、耳の後ろや耳たぶの下に貼れば――ほら、これだけで確実に十歳は若返る!
「ハリウッド女優のようなゴージャス美人目指しますか〜」
 身長があるから、大胆かつ華やかに仕立てた方が似合うだろう。
 ファンデは二色使いで小顔効果を狙い、眠そうな目を活かしたセクシーな目元に。
 口紅はグロスも使い艶やかに、口角下側にはコンシーラーを乗せてへの字口をカバー、ヘアマニキュアでキューティクル+明るい緑乗せた髪色にしたら、エクステでドレスに合う髪形に――
 化粧に縁のない者にとっては何の事かさっぱりわからない、魔法の言葉がずらずらと並ぶ。
 言葉だけではなく、実際の作業もまるで魔法の様だった。

 やがて支度を終えて姿を現したのは、陳腐な表現ではあるが絶世の美女としか言い様のない豪華絢爛な花嫁さん。
 シグリッドなど、ぽかんと口を開けたまま言葉もなく固まっている。
 流石は専属美容師、その腕は他の追随を許さなかった。
「元から目鼻立ちのバランスは整っていますし、素材は悪くないのですから〜、それほど難しくはありませんよ〜?」
 などと仰るが、だからといって誰もが化粧で美しくなれるというものでもないだろう。
 下手な化粧で却って素材を台無しにしてしまう例も、少なくないのだし。
 因みにアレン本人は織姫の仮装で、これまた違和感のない美女に仕上がっていた。
 その豪華ツーショットに、はっと我に返ったシグリッドは思わずカメラのシャッターを切る。
 角度を変え、距離を変えて、使い捨てカメラのフィルムを使い切るまで。
 何だかもうこれだけで満足の気分だけれど、イベントはまだまだ始まったばかり。
「それに、せんせーだけに女装をさせるのは何だか申し訳ないのです…!」
 本人わりと何も気にせず楽しんでいる様だが、それはそれとして。
「二度としないつもりでしたがせんせーのドレス姿が見られるなら…!(ぐ」
 白いドレスにロングヘアーのカツラを着けて、可愛い花嫁さんの出来上がりだ。
 一緒に並ぶと花嫁二人、と言うより花嫁とドレスの裾を持つ介添えの少女といった雰囲気だが、それもまた良し。


 その姿を見た砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)の何かに火が点いた。
「これは負けていられないね…!」
 うん、何となくだけどそんな気がしたんだ。
 という訳で、髪を解いて眼鏡を外し、お馴染みのエプロンドレスを着れば、不思議の国のアリスが出来上がる。
 勿論、参考にしたのは本家本元の挿絵の方だ。
 一般に馴染みがあるのは映像化されたものの方だろうが、英国紳士の血を引く者としては、やはり本家を尊重した方が良いかなって。
「うん、でかいアリスだね」
 きっとあれだ、大きくなるケーキをちょっとばかり摘み食いしたんだよ。
 しかし、折角だからアリスの傍にはウサギが欲しいもの。
 誰かウサギの格好をした人はいないだろうか。


「仮装かぁ、確かV兵器の魔装に着ぐるみがあったから、それを使うか」
 海は荷物の中から引っ張り出したうさぎの着ぐるみをON。
 その格好のまま、短冊に願い事を書き始める。
「確か短冊につかう色は五色で、願い事によって色を決めたほうがよかったはず」
 信頼に関する願い事に対応するのは黄色だったか。
『アイテム強化の大失敗が減りますように』
 門木先生主催ならこの願いしかないでしょ。
 さて、書き終わったら笹を持って出発だ。
「他に着ぐるみタイプの人がいるなら、道中一緒に誘ってみようか」
 あ、いたいた。


「藤咲さんまいりますよ〜」
 シュターンと現れたのは、両手に大きなランチボックスを抱え、肩には笹を担いだ黒猫忍者カーディス=キャットフィールド(ja7927)@リビングアーマー(`・ω・´)+
「カーディスさんレッツゴーだよー!!」
 それに応える藤咲千尋(ja8564)はアヒルの着ぐるみを着込み、背中には大きなリュック、手にはランタンという出で立ちだ。
 海が声をかける暇もあらばこそ、二人はあっという間に闇に消えてしまった。


 仕方がない、一人で行こうか。
 ちょっとしょんぼりしながら歩き始めた、その時。
「良かったら一緒に行かない?」
 デカいアリスが声をかけてきた。
「はいこれ、時計ね」
 懐中時計を持てば、ただのウサギも三月ウサギに変身だ。


「仮装行列とはまた…若干時期外れじゃないか?」
 続々と出来上がる皆の仮装を見て、ディートハルト・バイラー(jb0601)は苦笑い。
 しかし、かく言う本人もしっかり化けていた――渋い中年吸血鬼に。
「折角だから楽しませてもらうがね…おいおい似合わないなんて言うなよ、俺だってこの歳で仮装は…少し恥ずかしいんだ」
 大丈夫、似合ってます。
 吸血鬼と言えば若くて美形というイメージが強いが、若造には真似の出来ない大人の色香漂うラスボス感たっぷりの吸血鬼もまた良いものだ。
「ところで、お嬢さんもご同類の様だね」
 ディートハルトは女吸血鬼に扮したレイラに声をかけた。
 当初の予定では門木と一緒に吸血鬼姉妹になる筈だったのだが、その彼は今、花嫁さんになっている。
 まあ、そこはパーティ会場に着いてから、お色直しという形で着替えて貰えば良いだろうけれど――とりあえず今、レイラはフリーだった。
「いや、君の想いは承知しているよ」
 ただ、同じ仮装を選んだ者同士、並んで歩けば絵になると思うのだ。
「そうですね、よろしくお願いします」
 改めて並んでみると「一族の長とその浮気性な若い妻」の様な、何やら退廃的な香りがした…気がする。



●久遠ヶ原流、百鬼夜行

「流石にカドキの子供の頃は見たことないけど、多分こんな感じだよね」
 七ツ狩 ヨル(jb2630)は、夢で見た覚えのある様な朧気な記憶と想像、そして千尋の監修の元、ナーシュきゅんに変身していた。
 フリル付きの白シャツに白靴下、サスペンダーに猫耳ニット帽、そして忘れちゃいけないのが、ぴかぴかの膝小僧が出る短パン。
 そして並んで歩くのは、門木の格好をした蛇蝎神 黒龍(jb3200)だ。
「そういや何度か変装したなぁ」
 こちらはぼさぼさのウィッグに伊達眼鏡をかけ、白衣を羽織れば出来上がりという手軽さだ。
 因みにヨルの衣装も黒さんのお手製、無駄にクオリティが高い(本人談)のは、監修の千尋先生に何度もダメ出しをされたせいか、それともヨルくんへのらう゛故か。
 真っ暗な森の中を、二人は手を繋いで歩く。
 その周囲を、ふわりふわりと飛び回る大きな青白い光――
「ぁ、蛍」
「うん、綺麗やね」
 蛍ちゃう、人魂や!
 しかし二人は全く動じず、楽しそうに歩き続ける。
 と、その頭上からカランという乾いた音と共に何かが降って来た!
「…っ!?」
 目の前にぶら下がったのは、糸が絡まった血塗れの操り人形だった。
 その首がキリキリと回り、ぼとりと落ちる。
『ウケケケケ!』
 転がった首が奇妙な笑い声を発した瞬間、ヨルにスイッチが入った。
 光纏、キラキラブーストパワー・マックスチェンジ!
 どこからともなく聞こえた謎のアナウンスと共に、ヨルは魔女っ娘メイドに変身する! ※効果は撮影上の演出です
 しかし。
「ヨルくん、それただの人形や。よぉ出来とるけどな」
 なーんだ、と安心したその時。
 風を切って、何かが猛スピードで近付いて来る!
 びちゃっ!
 魔女っ娘メイドは、それをシルバートレイでしっかりと受け止め――
「蒟蒻だ」
「七夕には蒟蒻をしきつめて天の川に橋をかけるんだよしってた?」
「え?」
「いや、いえ、嘘ですすみません。でも食べ物粗末はあかんよ?」
「うん」
 蒟蒻は食べ物だって、ヨル覚えた。
「ちゃんと食べないと」
「そう言うやろ思ってな、ちゃんと持って来たで」
 お持ち帰り様のタッパー、じゃーん。
 ついでにヨルくんもお持ち帰りしちゃ…だめ? ですよねー。
 蒟蒻をタッパーに詰めて、保冷バッグに入れて。
「後でおでんでも作ろうなー」
「おでん…暑くない?」
 うん、じゃあ…何か考えておく。


「日常と非日常、現在と過去、現実と夢想……不思議な交差だ」
 そこは廃校舎、特に何も仕掛けられていなくても、暗くなってから踏み込むには勇気の要る場所だ。
 しかし、花見月 レギ(ja9841)とミハイル・エッカート(jb0544)は全く怖れる事なく進んで行く。
 笹を手にしたレギは吸血鬼ハンター、ランタンを持ったミハイルが吸血鬼。
 吸血鬼ハンターと言えば黒衣に黒帽子、背中に長剣のスタイルか、それとも鞭を手にしたマッチョなお兄さんか――レギの場合は前者の方が似合いそうだ。
 ミハイルの方は、伝統的な立ち襟の付いた黒マントの下に赤いベストと黒パンツ、襟元にフリルをあしらった白のドレスシャツという出で立ちだ。
 そして、長く鋭い付け牙。
 宿敵である筈の二人が仲良く歩いているのも不思議と言えば不思議だが、この空間は更なる不思議に満ちている様に感じられた。
「日常から一歩踏み込むだけで、世界はこんなにも面白い」
 突然点滅を始める赤いランプや、どこからともなく聞こえる足音に、笑い声、天井から降って来る骨格標本――
 肝試しのセットとして、校舎内には脅かす為の仕掛けがあちこちに施されている。
 だがそれを抜きにしても、この空間には何かが潜んでいる様な、そんな気配が漂っている。
「本物の幽霊、か?」
 前を歩くミハイルが、少し笑いを含んだ口調で言った。
「だとしても、思ったほど怖くないな。幽霊や死人よりも生きている人間のほうが怖いものだ」
 ミハイルは本業の仕事柄、こういった場所には慣れている様だ。
 人気のない廃墟は、血生臭い仕事を処理するにはもってこいの場所。もしもそこに幽霊がいるとしたら、それは古代の人々の怨霊などではなく、自分が殺した者達の成れの果てかもしれない。
「死人に口なし、だよ。でも、死んで尚、存在を想われるのは……素敵だな」
「詩人だな…ってくすぐったいじゃないか、何するんだよ」
 笹で背中をバサバサされて、振り向いたミハイルはそれを手でぺしっと払い除ける。
「うん。丁度良い長さの得物と、丁度良い高さの背中だったから」
「理由になってないだろう」
「そうかな」
 ばっさばっさ。
 じゃれ合う二人からは、濃厚なホモォの匂いが漂って来る、様な。

 その匂いを、┌(┌ ^o^)┐の鼻が感知しない筈がなかった。
 いや、┌(┌ ^o^)┐に鼻があるのかどうか、それはわからないけれど。
「げへへ…┌(┌ ^o^)┐」
 肝試しと聞いてやってきたエルレーン・バルハザード(ja0889)だったが、今やその目的は完全に明後日の方向へシフトしていた。
 願い事のかなう笹も興味はあったが、今はどちらかというと暴れたい気分だったのだ。
 遁甲の術で気配を消し、壁走りで壁を走り、更には無音歩行で足音もしない。
 ほら、凶悪なΞ┌(┌ ^o^)┐のできあがり★ミ
 お客さんをビビらせまくって、その反応をニヤニヤ楽しもう――と思って廃校舎に来てみればΞ┌(┌ ^o^)┐!
 こんな所に美味しそうなホモォの匂いがΞ┌(┌ ^o^)┐!
 これはもう、人を脅かしてる場合じゃないねΞ┌(┌ ^o^)┐!

「うん、やっぱり…何かいるね」
「ああ、いるな」
 二人の背後、天井の暗がりに、それは貼り付いていた。

 └(v0v┘)┘

 薄い本が厚くなる展開はよ!
 何かきっかけが必要ですか?
 それなら、ほら!

 どーん!

 ミハイルの背中に┌(┌ ^o^)┐が降って来た!
「うわ…っ」
「え、ちょ、ミハ君……?」
 のしっ。
 ミハイルはレギを押し倒しました。
「ミハ君。君、意外と重いな」
「いや、違う、何かが背中に…!」
 呪いか、これは何かの呪いなのか。
 直後、┌(┌ ^o^)┐が鳴いた。
『シリョウシャシーン!』
 呪い(物理)はミハイルの背中からカサカサ降りると、ゴソゴソと懐を探り――
 カメラ忘れた\(^o^)/
 仕方がない、かくなる上はしっかりとこの目に焼き付けよう。

 暫しの後、満足した┌(┌ ^o^)┐はカサカサと去って行った。
「何だったんだろうね、あれ」
 起き上がったレギが、首筋をさすりながらそれを見送る。
「いや、深く考えるな」
 ここは久遠ヶ原だ。
 何かの拍子に取れてしまった付け牙を嵌め直しながら、ミハイルが溜息を吐いた。


 闇の中、背景に溶け込む様に姿を隠す黒猫忍者。
「黒猫忍者たるもの常に修行なのです!(グッ☆」
 カーディスは遁甲、無音歩行、壁走りを駆使して忍軍らしく、木々の生い茂る道なき道をひょいひょい進む。
 星明かりを受けて闇の中から時折浮かび上がるのは、白銀に輝く甲冑と、わさわさ揺れる笹の葉のみ。
 他には何も見えない闇夜の黒猫。
 それはまさしく宙に浮くリビングアーマー、無念の死を遂げた者達の怨嗟が宿ると言われるに相応しい姿だった。
 一方ニンジャならざる千尋は、地上を走ってその後を追う。
 しかしアヒルの着ぐるみを着込んでいるせいか、はたまた背中の荷物のせいか、カーディスとの距離は見る見る離されていった。
「見失っちゃいそう…でもこんな時こそ!」

 \いでよ、小天使のー翼!!/

 アヒルは白鳥になった!(いいえ
 黄色い身体に神々しい翼を広げ、バサッバサッと華麗に飛翔、カーディスを追いかける、が。
「カーディスさん、どこ?」
 高度4mの飛翔は余りにも心許なく、木々の上に出て行く手を見はるかす事も出来なかった。
 勿論、ランタンの明かりが届く範囲にその姿はない。

 もしかして:置いてけぼり
 ついでに :迷子

「いやあああ、一人は怖いいい!!」
 すとんと地上に降りた千尋は、べそべそと泣きべそをかく。
 その目に映る、淡い光。
 遠くの木陰に現れては消え、ゆらゆらと怪しく揺れる。
 それは一人のんびりと蛍狩りを楽しむ北條 茉祐子(jb9584)が手にしたランタンの明かりだった。
 しかし千尋はそれを知らない。
 ぼんやりと淡い光に照らされた、その姿は…人?
 それとも…お、おば、おばおばあぶぅ!
「いやあぁぁぁ!」

 ちひろは ふしぎなおどりを おどった !

 よにんぐみの ようかいが あらわれた !


「笹は自分達で持つかい?」
 出発を前に、夏藍は子供達に問いかけた。
 とは言っても紫苑は除霊材の二刀流で両手が塞がっているし…
「ここは翔君にお願いしようか」
「おう、まかせとけー!」
 翔は綺麗に飾り付けられた笹をばっさばっさと振りながら元気に歩き出す。
「笹は子供達が飾りつけをすると途端に賑やかだね。私達ではこうはいかない」
「そりゃァセンスの問題でしょうよ、一緒にしないでくだせぇ」
 しかし、夏藍は揺籠の挑発をさらりとかわし、提灯を差し出した。
「百目鬼君、提灯持つかい? 其処ら辺にぶつかる音が怪談になってしまうもの」
 君、確か鳥目だったよね。
 肝試しなんだから、それもありかもしれないけれども。
「ええ。尼サン持ったまんまで引き籠られても困りますし」
 売り言葉に買い言葉、まったく仲が良いったら。

 道中で出会ったのは、飛び回る人魂に古井戸から飛び出す幽霊、首なし騎士に、大鎌を持った死神――
「うおーすげー」
 翔は全く怖がらず、寧ろもっと出て来いといった様子でどんどん先へ進んで行く。
「こんどはあっちだー」
 それとは対照的に、紫苑は除霊材の二刀流を捨ててまで揺籠の手をしっかりと握っていた。
「べ、べつにこえぇわけじゃ、ねぇでさ」
 ただ、揺籠が鳥目でよろよろしてるから!(してません
「あぁ、そうだね。君達は勇敢な子達だよ」
 そんな紫苑に、夏藍は優しく言葉をかける。
 だが揺籠は面白がっている様だ。
「こういう遊戯って、『本物』が紛れやすいんですよねぇ…」
 ぶしゃーっ!
 意地悪な大人にはリ○ッシュでお仕置きだ!
「俺は幽霊じゃありませんから、効きゃァしませんよ」
 幽霊にも効かないと思うけどね。
「まぁ俺らも本物って言えば本物なんですけど…翔サンは怖くねぇんですか」
 紫苑がいくらお化けの怖さを力説しても全く動じなかった翔は、今しも脅かしに来た相手に逆襲を試みる所だった。
「わーいわーいひっかかったー!」


 半泣き錯乱気味にふしぎなおどりを踊っていた千尋は、人影に気付いた。
 顔はよく見えないけれど、きっと肝試しの参加者だ。
 助かった!
 そう思って駆け寄り、声をかけようとした、その瞬間。

 くるーり。

 振り返ったその子は、のっぺらぼうだった!
「!!?」
 声にならない叫びを発し、千尋は一目散!
「いまの、だれだったんだろうねー?」
 のっぺらぼうマスクを外しながら、翔は首を傾げる。
 脅かし役じゃないなら、悪い事しちゃった、かも?


 千尋は走った。
 アヒルの短い足と手(羽根)をバタつかせ、転がる様に懸命に走った。
 と、今度はその目の前に――

 リビングアーマーが あらわれた !

「藤咲さん、探しましたよー」
 だがそれは、途中で千尋がいない事に気付いて戻って来たカーディスだった。
「すみません、すぐに気付けば良かったのですがー」
「あぁカーディスさん、刻が見える…」
 虚ろな目で呟く千尋をおんぶして、両手に大きなランチボックス、片方の肩には笹を担ぎ、肘にはランタンを引っかけて――流石の忍者もこれでは素早く動くのは難しそうだ。
 しかし、背を屈めて一歩一歩踏みしめる様にゆっくりと歩くその姿は、揺らめくランタンの明かりに照らされて、世にも恐ろしいものに見えたとか――


「ウラメシヤー┌(┌ ^o^)┐」
 神出鬼没の┌(┌ ^o^)┐は、クゥと冴雪の前にも現れた。
 だがしかし、雪女の冴雪はそれを無表情に見返し、片や九尾のクゥは。
「きゃーっv」
 怖がるフリして抱き付いた!
 もっふもっふ♪
 何処をって、決まってるじゃないですか、ねぇ?
 後ろから伸びる手にもふもふされても、冴雪はやっぱり無表情。
 そのままくるりと振り向いて――
「あら。私にそんなことしてタダで済むとお思い?」
 迎撃してくる氷の眼差しキタコレ…!(きゅん
 ありがとうございます!
 耳たぶを甘噛みされれば、ヘヴン状態でもう何も怖くない。
 置いてけぼりにされても平気…え、うそ、置いてけぼり?
(まあ、セクハラされても困らないんですけれども)
 さっさと歩き去る冴雪は放置の構え。
(相手をしすぎると調子に乗る子ですから)
 しかしクゥはポジティブ勘違い。
「もぉ〜、冴雪っちったら照れ屋さんなんだからっ♪」
 駆け寄って、抱き付いて、もふもふして、氷の眼差しで迎撃されて、ごちそうさまヘヴンからの置いてけぼり、以下エンドレス。
 それはパーティ会場に着くまで、延々と繰り返されるのだった。


(思惑通りに巻き込まれちゃったけど…エリが楽しそうだから良いか)
 甚平の腰に携帯型の蚊取り線香を吊して、ランタンを持った明日夢が先頭に立つ。
 同じく甚平姿の智美に手を引かれた愛莉は笹持ちの係だ。
 あれもこれもと飾り付けた笹はランタンの明かりを受けて、揺らす度にキラキラと色とりどりの輝きを散らしていた。
「重くないか?」
「うん、大丈夫」
 三人はそのまま、少し足場の悪い雑草だらけの道なき道を、鉈で切り開きながら進んで行った。
 途中で何度かお化けに遭遇したが、脅かし役は生徒がやっているのだろうと、愛莉は怖がるそぶりも見せない。
 それどころか、逆にお化けを捕まえようとしたり、捕まえたお化けのチャックを探してみたり。
 しかし学園の、特に廃墟の辺りには、まだ天魔が出る事もある。
(エリが疑わない分、ボクがしっかりしないと)
 明日夢は無邪気に楽しむ愛莉の様子をハラハラドキドキ見守りながら、周囲に気を配っていた。
(でも本当に出て来たとしても、きっと姉さんがあっという間に片付けちゃうんだろうな)
 と、そこに現れたのは…

「コンバンハ┌(┌ ^o^)┐」

 これは何?
「まさか、ディアボロ!?」
 明日夢が鉈を構える、が。
「いや、これは多分…無害だ」
 智美が首を振った。
「妹なら多分、詳しく知っていると思うが」
 そっとしておく分には大丈夫。多分。
「さ、行くぞ」
 スルーだ、スルー。

「イッチャッタ┌(┌ ^o^)┐」

 ちょっと寂しそうな┌(┌ ^o^)┐をその場に置いて、三人は先へ進む。
「あ、川がある」
 と言っても幅も深さも大した事はないけれど。
「エリ裾濡れちゃう…」
 どうしようと迷っていると、身体が急にふわりと浮く。
 あっという間に、明日夢と愛莉は智美の肩に担がれていた。
 二人を肩に乗せたまま、豪快にざぶざぶと川を渡って行く智美は実に頼もしい。
 頼もしすぎて、男としてちょっと情けなくなるレベルではある、けれど。
(あと何年かすれば、ボクだって…)
 多分、きっと。


 紺地にナデシコ柄の浴衣に、臙脂色の帯、狐のお面で顔を隠した茉祐子は、すぐ近くで上がった悲鳴に驚いて、思わずランタンを取り落としそうになった。
 持ち手をしっかりと握り直して、息を整える。
「皆さん、楽しんでいらっしゃる様ですね」
 その原因のひとつが自分であるとはつゆ知らず、茉祐子はお面の下で小さく笑みを漏らした。
「あ、蛍…」
 遠くに点滅する小さな光を見付けて、ランタンの明かりを消す。
 もう一匹が茉祐子を追い抜いて、光の残像を残しながら飛んで行った。
 それを小走りに追いかけて行くと、やがて周囲がぼんやりと明るくなって来る。
「こんなに、たくさん…」
 その光を集めて本を読んだという話も容易に信じられるほど、そこには多くの蛍が集まっていた。

 ♪蛍、蛍火、堕天の星よ。
 誰に恋して空から落ちた?
 恋しい人に、会えたのか?
 蛍、蛍火、堕天の星よ♪

 静かに歩を進めつつ、茉祐子は小さな声で即興の歌を歌う。
 やがて飛び交う蛍の数も減って来た頃――行く手に賑やかな集団が見えて来た。
「折角ですから、今度は皆さんと一緒にあるきましょうか」
 再びランタンに火を灯すと、お面をずらして頭の脇に乗せる。

 賑やかな集団は、まるで一風変わった花嫁行列の様だった。


 ┌(┌ ^o^)┐は暴れ足りなかった。
 何故みんな、この姿を見ても驚いてくれないのか。
 もしや既に見慣れてしまったのか。
 それとも心の準備が完了している為に、ちょっとやそっとでは驚かないのか。
 よろしい、ならば同業他社(お化け役)を襲撃しようではないか。
 彼等は自分が脅かされる側になろうとは、夢にも思うまい!

 というわけで。
 ┌(┌ ^o^)┐は暴れた。
 彼等が待ち伏せている背後に密かに近付いて――

 カサカサ Ξ┌(┌ ^o^)┐

 ┌(^o^┐)┐ Ξ カサカサ

 散々引っかき回して、それ逃げろ! Ξ┌(┌ ^o^)┐
「ホホホホー┌(┌ ^o^)┐サラバヂャ」

 お陰で花嫁行列御一行様が通る頃には、周辺のお化けは一掃されていたそうであります!


「お化け、出ませんね」
 ランタンを持ったシグリッドは、もう片方の手で門木の手を引いて歩く。
 ドレス姿では歩きにくいだろうという配慮の様だが、それなら裾を持って貰った方が良かった気がしないでも…
 いえ、なんでもありません!
 裾は纏めて自分で持ってるし、そうそう踏んづける様な事は――あ、踏んだ。
 転びそうになった門木に引っ張られ、シグリッドも一緒にバランスを崩す。
 しかし、そこに颯爽と現れ救いの手を差し伸べる我らがナイト、ディートハルト!
「おっと、大丈夫かな?」
 頼もしい腕が、花嫁の身体をしっかりと支える。
「暗いからね、足元には気をつけるんだよ…お嬢さん」
 そう言った顔が何やら苦しげなのは、込み上げる笑いを必死に堪えているせいだろうか。

 そんな様子を後ろからにやにやと見物しながら、アリス・ジェンティアンはのんびりと歩いていた。
 自分は大抵の事には驚かない方だし、こういうものは傍観者的な立場で眺めるが最も美味しいと思うのだ、うん。
 隣を歩く海ウサギはランタンと懐中時計を手にひょこひょこと。
 星の輝きは、流石に明るすぎるので…ね。
 前の方にいるシグリッドと、最後尾のここ、明かりはそれくらいで丁度良い。

 ところで、┌(┌ ^o^)┐の活躍のお陰でお化け達はいなくなったが、設置されたトラップはまだ有効だった――特にデロい系。
 一行が林の中に差し掛かった、その時。
「うっ、何この甘ったるい匂い」
 ジェンティアンが鼻を押さえる。
 匂いは木の上の方から漂って来る様だが、見れば枝先から何かが滴り落ちようとしているではないか。
 これは、デロい予感。
 そしてデロいと言えば、この人を置いて他にない。
「きゃあぁぁっ!?」
 ぽたり、どろり、何かがレイラの首筋に入り込んだ!
「うわ、これ蜂蜜だよ」
 ジェンティアンがいかにも嫌そうな声を上げ、木の下から逃げる。
「甘いモノは苦手なんだってばー」



●星に願いを

 カノンは待っていた。
 パーティ会場の門影に隠れ、仮装行列が到着するのをひたすら待っていた。
(折角の催しです、会場到着と同時に異世界に足を踏み入れた気分を味わって頂ければ…)
 という事で、衣装は猫耳フードが可愛いウェアキャットワンピに、ねこのしっぽ。
 本人曰く、化猫風…らしい。
 そして、来ました第一陣。
 一番乗りしたのは――
(門木先生?)
 いや違う、それダウトや。門木に化けた黒さんだから。
 しかしカノンは気付かない。気付けないほど緊張していた。
(この格好、変に思われないでしょうか)
 今更遅い。遅いけれども、とりあえずターゲットを変更して――
「ようこそ、一夜の楽しみの場へ…にゃん♪」
 猫っぽく歓迎を…歓、迎を…、……。
「……ぇ?」
 え?
 今の声、門木に似ていた気がするけれど。
 でも目の前にいるのは美人の花嫁さんで…、…え?
「先、生…?」
 こくり、花嫁さんが頷いた。
 その事実を呑み込むのに、数秒はかかっただろうか。
 何だか色々アレがソレで、ぐるぐるぐる。
 遂には蹲り、頭を抱えて――
「すいません、忘れてぇ…」
 しかし、その瞬間。
「……く…っ、くく、くくくっ」
 花嫁が引きつけを起こした様に肩を震わせ始めた。
「……くく、ぷっ、はは…っ、あはははは…っ」
 笑っている。
 しかも腹を抱えて大爆笑。
「……ご、ごめ…あはは、でも、その、くぅっ」
 どうやら、何かが見事にツボに嵌まった様だ――ギャップ萌えという奴だろうか。
 暫く笑い続け、漸く発作が治まった門木は、目尻に溜まった涙を拭う。
 折角の化粧が流れて酷い事になっているが、気にしない。
「……すまん、何と言うか、その…こんなに笑ったの、子供の頃以来だ」
 一体何がツボったのか、自分でもよくわからない様だが。
「……ありがとうな」
 門木は被っていたヴェールを脱いで、カノンの頭に無造作に被せた。

 さて、丁度良い。
 お色直しといきましょうか、レイラさん。
「わかりました…美しく優雅に生まれ変わらせて差し上げます」
 眼鏡…は、元から外しているから良いとして。
 長髪のウィッグに、今度は少しツリ目になる様にテープを貼って、妖艶な悪女系メイクを施して。
 後は付け牙と、ちょっと古風でスレンダーなドレスにマントを羽織り――
 はい、吸血鬼姉妹の出来上がり!

「門木先生、何て言えばいいか…とてもお綺麗です」
「……ん、ありがとう」
 ユウの言葉に素直に頷く門木@吸血鬼バージョン。
 先程の花嫁バージョンも見事だったが、これもまた何か色々スゴイ。
「すごい…仮装だな。言われないと誰だか分からん」
 ミハイルが目を丸くして、まじまじと見つめる。
 言われても俄には信じ難いが、これはあれか、吸血鬼同士でカップリングとか、すべきなのか。(いいえ

「先生は相変わらず人気者だな」
 その様子を眺めながら、レギは忍び笑いを漏らす。
「……若干…こう、何と言うか。寄せられる愛が激しい気がしなくも(げふん」
 いや、なんでもない。
「まあ、先生が楽しいのなら、良いか」
 ところで、その首筋にある赤い跡は何ですか?
「ああ、これ?」
 パーティ会場の煌々とした明かりの下で、それは嫌でも人目を惹いた。
 その、あれだ、どう見てもキスマークですよね、それ。
 レギはちらりと意味ありげな視線をミハイルに送り、暫く考え込む様に間を置いて…ぽつり。
「……噛まれた」
「なっ…、転んで牙が当たっただけだ!」
 なるほど、わかった。
「……これが、人間の掛け算というものか」
 こくり。
 門木、覚えた。
「違うぞ先生、それは違うからな!」
「うん? ミハ君、何が違うのかな」
 首を傾げるレギの言葉は、本気なのか冗談なのか――


「では、そろそろ始めましょうか」
 皆が顔を揃えたところで、ユウが切り出した。
「お料理も色々と用意してありますから、どうぞご遠慮なく」
「こんやはパーリナイ!」
 紫苑と翔は先を争う様にして、お菓子が山と積まれたテーブルを占拠。
 その脇に、まるで登山家が旗を立てる様に、笹をどーんと立てた。
「このテーブルは、ぼくらがせーふくしたよ!」
 世界征服の、第一歩?

 隣のテーブルには、大量の猫型サンドイッチとプティング(これも猫型)が置かれていた。
 それは勿論、カーディス自慢のお手製。
 どうやら型崩れもなく、無事に運んで来る事が出来た様だ。
「いっぱい作ったのでどうぞ召し上がれー☆」
「揚げパンもあるよ!」
 千尋がリュックに詰めて来たのは、大量の揚げパン。
 入荷が始まったばかりの新商品を朝イチで買い占めて来たらしい。
「購買のラインナップに揚げパンが増えたよ!!」
 みんな食べてー。
 はい、門木先生も…って、先生ドコ?
「揚げパンおいしいよ!! きなこのやつ超オススメ!!」
 記録員の小学校ではココアだったけどね、って訊いてない?
 自分も頬張り幸せ笑顔、実に素晴らしいガチマです。
 そんな彼等のテーブルに立てかけられた笹には、こんな短冊が下がっていた。
『立派な猫になれますように』
『門木先生に装備をぶっ壊されませんように(切実』
 これはカーディスのものだろう。
『強くなれますように』
『揚げパンおいしいです』
 こちらは…二番目のって、願い事?

 その向こうでは、黒龍お手製の冷麺が振る舞われていた。
 星を型抜きした野菜やハムなどを添えて、七夕らしく。
「蒟蒻は、使わないの?」
「ん、それは帰ってからやね」
 生食用なら使えたのだけれど。
 そんな彼等の願い事は――
『皆、幸せに』
 ヨルの短冊には、そう書かれていた。
「俺が今まで出会った人、まだ出会ってない人、それぞれが皆幸せになれたらいい。…色々考えたけど、これが一番かなって」
 ヨル君、ええ子や。
 黒龍の方は、いつもと同じ不動の願い『ずっと傍に』――と、今年はもうひとつ。
 とある悪魔とその友の、旅路が良きものであるように…そして、無事であるように。

『宇宙最強になる!』
 そう書かれているのはクゥの――え、そっちは裏?
 失礼しました、表には『可愛い女子やイケメンと仲良くなれますように☆』と書いてある。
『退屈撃退』
 こちらは冴雪の短冊だ。
「まあ、クゥが一緒なら退屈しそうにありませんけれどもね」

「どんな行事だって歓迎だ、俺はこれさえ…飲めればそれで良い」
 いつもの様に皆から距離を置き、隅の方に座ったディートハルトは、これまたいつもの様に酒瓶を傾ける。
 そんな彼のところにも、ユウはお酌をして回っていた。
「よろしければ、こちらもどうぞ」
 ついでに酒の肴も添えて。
「これはすまないね、ありがとう」
 そんな彼の願い事は――秘密だ。
(叶わない願いを天に託すなんて、笑われてしまっても仕方がない)

 と、そこに早くも門木が現れる。
「もう逃げてきたのか? お嬢さん方がお待ちだろうに」
「……いや、一緒にどうかと思って」
「俺はいい。ただ…」
 ひとつだけ、頼みがある。
「ショウジ、若しも君が泣くような事があれば。その時は一瞬で良いから、俺を思い出してくれると嬉しいんだ」
 それだけでいい。
 もっとも、彼等なら…天さえ持て余す願いでも、叶えてしまうかもしれないが。

「ゴチになります」
 海は所狭しと並べられた料理の数々に、遠慮なく舌鼓を打つ。
「どうぞ、お口に合うと良いのですが」
 自分のテーブルに戻ったユウは、ここでも皆の世話を優先していた。
 料理の減り具合を見ては新しいものを運び、酒飲みにはお酌をし――もう少し楽しんでも良いと思うのだけれど。
「楽しんでいますよ?」
 皆から七夕にまつわる話や星に関する話を聞いたり、星座を教えて貰ったり。
『天も魔も人も全ての者が手を取り合い、ともに笑顔で過ごせますように』
 それが彼女の願い。
『戦争がそろそろ終わりますように』
『全ての家族が仲良く暮らせますように』
 その二つはアレンが書いたものだ。
『大切な妹分が、いつまでも幸せでありますように』
 ジェンティアンは、そう願う。
「僕自身の幸せとかは自分で掴むからいいや」
 持ち込んだ自分専用の唐辛子クッキーを食べながら、おかず系の料理を摘む。
 そのいかにも辛そうな真っ赤な物体を食べてみようとする強者は、どうやらいない様だ。
『日々之精進。日進月歩』
 それはレギの、願いと言うより目標か。
 ミハイルは『強くなりたい』と一言。
 最近妙な迷いが出てきた彼は、強くなれば迷いが吹っ切れそうな気がすると、そう考えた結果だ。
 シグリッドは『先生とずっと一緒に』と書いた短冊をポケットにしまい、もう一枚をそっと飾り付けた。
(…これは自分で頑張るのです)
 それから――
「最近顔色が良くないので心配なのですよ?」
 これで少しは良くなるだろうかと、メンタルケアセットを手渡して――なでなで。
『門木先生が幸せになれますように』
 レイラは必ずリュールを取り戻して見せると、誓いを込めて。

 カノンはまだ、短冊を自分の手元に持っていた。
 そこには『先生達に幸いな結果をもたらせますように』と書かれていたが、飾るのはぎりぎり最後。
(先生が見たら「自分の事を書いてほしい」等仰りそうですし)
 この願いを叶えるのは自分達だが、見守っていて欲しいと願うくらいは良い筈だ。
 そう言えば、門木の願い事は?
「……俺は、いいよ」
 思った通りの答え。
 でも、その後が少し違っていた。
「……俺の願いを叶えてくれるのは、神様じゃない」
 その願いが何なのか、それは教えてくれなかったけれど。


『織姫と彦星が幸せに過ごせますように。雨、降らせたら悲しいです』
 最後に茉祐子が短冊を飾る。
 早くもその願いが叶ったのか、空にははっきりと天の川が見えていた。
 これなら織姫と彦星の逢瀬も叶うことだろう。

 幸せのお裾分けとして、皆の願いもきっと――


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:16人

202号室のお嬢様・
レイラ(ja0365)

大学部5年135組 女 阿修羅
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
┌(┌ ^o^)┐<背徳王・
エルレーン・バルハザード(ja0889)

大学部5年242組 女 鬼道忍軍
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
輝く未来の訪れ願う・
櫟 千尋(ja8564)

大学部4年228組 女 インフィルトレイター
偽りの祈りを暴いて・
花見月 レギ(ja9841)

大学部8年103組 男 ルインズブレイド
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
夢幻に酔う・
ディートハルト・バイラー(jb0601)

大学部9年164組 男 ディバインナイト
夜明けのその先へ・
七ツ狩 ヨル(jb2630)

大学部1年4組 男 ナイトウォーカー
天蛇の片翼・
カノン・エルナシア(jb2648)

大学部6年5組 女 ディバインナイト
Stand by You・
アレン・P・マルドゥーク(jb3190)

大学部6年5組 男 バハムートテイマー
By Your Side・
蛇蝎神 黒龍(jb3200)

大学部6年4組 男 ナイトウォーカー
胡蝶の夢・
尼ケ辻 夏藍(jb4509)

卒業 男 陰陽師
撃退士・
シグリッド=リンドベリ (jb5318)

高等部3年1組 男 バハムートテイマー
リコのトモダチ・
神谷 愛莉(jb5345)

小等部6年1組 女 バハムートテイマー
リコのトモダチ・
礼野 明日夢(jb5590)

小等部6年3組 男 インフィルトレイター
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
クアトロシリカ・グラム(jb8124)

大学部1年256組 女 ルインズブレイド
鳥目百瞳の妖・
百目鬼 揺籠(jb8361)

卒業 男 阿修羅
七花夜の鬼妖・
秋野=桜蓮・紫苑(jb8416)

小等部5年1組 女 ナイトウォーカー
もふもふヒーロー★・
天駆 翔(jb8432)

小等部5年3組 男 バハムートテイマー
撃退士・
氷咲 冴雪(jb9078)

大学部3年124組 女 アカシックレコーダー:タイプB
守り刀・
北條 茉祐子(jb9584)

高等部3年22組 女 アカシックレコーダー:タイプB