「種子島に遊びに行くと聞いて、なの!」
「皆安心して、僕達は良いカマキリだよ!」
白カマふぃの香奈沢 風禰(
jb2286)と、緑のきさカマ私市 琥珀(
jb5268)、種子島(の一部)ではもうすっかりお馴染みとなった(気がする)二人が、子供達の前でカッコイイポーズを取る。
「久しぶりなの! 種子島大好き、カマふぃ、あでゅーなの!」
「久しぶりだね、爽さん! 元気してたかな?」
二人のカマキリに握手を求められた爽は、笑顔でカマを握り返した。
「ありがとう、俺も子供達も元気だよ」
それに今日は、新しい友達も――
「リコさんも久しぶり! なんか大変だったみたいだねぇ?」
「あれ、知ってる子?」
「うん、一緒に雪遊びした仲だよ」
戦った事もあるけれど、それは伏せておこう。
きさカマはリコにも握手を求め、カマふぃは…何故か嘆いている。
「なぜ、四国に現れたなの! 前回迎えに行けなかったなの! リコさん、カマふぃ忘れちゃいやんなの!」
「ごめんね、でも忘れたわけじゃないよ!」
カマふぃのインパクトは絶大だし!
「リコね、いんぼーに巻き込まれたっぽいカンジ?」
あそこは四国じゃなかった気もするけど、まあいいや。
「でも、おかげでトモダチいっぱい出来たんだよ♪」
ほら、あそこ!
「り〜こ〜ちゃん! 元気だった?」
指差した方から、カナリア=ココア(
jb7592)が手を振りながら駆けて来る。
「カナりん、やふー!」
リコも思いきり手を振り返し、再会を祝してハグ&喜びのダンス。
「カナりん水着かわいー」
「リコちゃんもー」
デザインは違うけど、タンキニでお揃いだ。
「なんや、リコもおるん?」
浅茅 いばら(
jb8764)は軽く手を上げ、二人の元へゆっくりと歩いて行く。
種子島で合宿と言うから、何だか面白い事になりそうだとは思っていたけれど。
「一緒に遊ばへ…」
「いーばらーん!」
どかーん!
言い終わる前に、リコの体当たりが炸裂した!
あ、攻撃じゃないよ愛情表現だよ!
「また会えたねっ」
「ああ、せやな…(けほっ」
それは良いけど、降りてくれないかな。
思いっきり押し倒して馬乗りになってるんだけど。
「あ、ごめーん(てへっ」
その様子を見て、Julia Felgenhauer(
jb8170)は思う。
「新しく現れた悪魔の偵察って依頼だったと思うのだけど、いいのかしら?」
どうも近頃、依頼に関する情報が正確さに欠けるのではないだろうか。
「この前に来た時も現れたのはリコで、遊んだだけだったし」
だが、友の姿を見付けたリコが放っておく筈もない。
「ゆりりーん、また遊びに来てくれたんだぁー!」
だっきゅる!
いや、だから遊びに来た訳じゃ…ないとは、言えない気がする。
だってもう、しっかり水着に着替えて準備万端だし。
黒のビキニにショートパンツ、上に羽織った白いパーカーが眩しいね!
と、リコが肩に掛けた小さなバッグから軽快な曲が鳴り響いた。
「あれ、電話…誰だろ?」
登録されていない番号からだ。
試しに出てみると、相手の声が二重に聞こえた。
『あ、もしもしリコさん?』
携帯と、すぐ後ろから――振り向くと、そこには携帯を手にぺこりと頭を下げる音羽 千速(
ja9066)の姿があった。
「…よし、本物。偽物じゃないから大丈夫」
リコの姿を見た千速は、本物かどうか確かめる為に後輩から電話番号を聞いたらしい。
(偽物だったりしたら、大変だもん…!)
でも本物なら心配はいらないだろう。
「そーいえば、種子島は今まで来た事あったけど未だ遊んだ事はなかったよなぁ」
海水浴にバーベキューに、夜はキャンプ?
「リコも一緒に遊ぶやろ?」
改めて問いかけたいばらの言葉に、リコは「もっちろーん!」と頷く。
ふー様はいないけど、友達いっぱい。
と言うかふー様は別格だから、一緒に遊ぶなんて考えられないし。
「うちは『マブダチ』やしな(にまり」
異性の友達なのか、それとも同性の仲良しさんだと思われているのか…その辺りはどうもハッキリしないけれど。
そしてその頃、若菜 白兎(
ja2109)は、隅っこの方できゅぅーっとなっていた。
(わるい天魔の姿が見えないのは良かった、ですけど)
リコは知らない仲ではないけれど、皆と楽しそうに話している所に自分から入って行くのは、かなりハードルが高い。
(知らないお兄さんや、孤児院の子たちといきなり遊ぶのー、と言われても…こ、心の準備が…)
こういうシチュエーションは、すごく苦手だ。
同じ苦手でも天魔退治の仕事なら、頑張れば何とかなるけれど――
しかし置かれたハードルを吹っ飛ばしてタックルをかけて来る、それがリコたんクオリティ。
「うさたんみーっけ!」
一人でぽつんと立っている白兎の姿を見付けたリコは、全力ではぎゅもふ!
「うさたんも一緒に遊ぼうね!」
「はわわっ」
おたおたわたわたしている白兎の腕に、ぽふんと置かれたぬいぐるみ。
「とらねこさん…」
本当はトラで、しかもディアボロだが、その丸っこい姿は可愛い猫にしか見えない。
「こないだ気に入ってくれてたよね♪」
こくりと頷き、白兎はそれをきゅーっと抱き締める。
「じゃ、いこ?」
差し出された手を素直にとって、白兎はリコと一緒に海岸へ走った。
「よし、じゃあ折角だし引率警戒しながら外で遊べるように尽力しようっと!」
千速はまず、リコに確認。
「えーと、リコさん。浮き輪の代わりになるぬいぐるみって作れないかなぁ?」
まだ泳げない子が捕まって泳げるようなのだと良いんだけど。
「んー、作れるけど今はムリ!」
だってディアボロ作るのって色々準備が必要なんだよ?
ならば仕方がない。
千速は変化の術でイルカに変身すると、子供達を背中に乗せて泳ぎ始めた。
「海の上を走る事だって出来るよ!」
元の姿に戻ったら、肩車をして走ってあげるね!
「カマふぃ焼く、なの」
砂浜ではアロマオイルセットのオイルを全身に塗りたくったカマふぃが、バーベキューの網の上でこんがり焼かれていた。
違う、その焼くじゃない。
「きさカマは焼ける、焦げ目が付くか付かない程度にこんがりと焼ける」
いや、やっぱり網の上で焼く方だろうか。
ヤキカマって美味しいの?
「皆も一緒に美味しくなる、なの!」
こんがり焼けたカマふぃは、物珍しそうに近寄って来た子供達にもオイルを塗りつける。
きさカマは逃げる子供達を追いかけたり、一緒に海で遊んだり――
「みんな、海は突然深くなってるから気を付けるんだよー!」
もし危なくなっても大丈夫!
「きさカマは助ける、救助カマキリだから!」
深みに嵌まった子を助け…いや違う、嵌まってるのは自分だ。
爽と二人、オイルを塗られてこんもり埋められている!
「きさカマは砂風呂で疲れを癒すよ!」
って言うか蒸し焼き?
「リコさんもこんがり焼く、なの!」
「えー、でもリコ焼きたくなーい」
ふー様はきっと、色白美少女が好きだと思うんだ!
勝手な妄想だけど!
それを聞いて、いばらが荷物をごそごそ。
リコは帽子も被っていないし、何か陽射しを遮るものが必要だろう。
「ああ、これならええかな」
晴雨兼用傘ー!
「使ったほうがええ、しみになるで。ヴァニタスでもそういうのが気になるお年ごろやろ?」
かく言う本人は帽子に長袖パーカ、紫外線対策はバッチリだ(多分違う
向こうでは、カナリアがまだ海で泳ぐのは危ない小さな子供達を相手にしていた。
「海のお化けに触られてしまうぞ〜!」
だから海の近くに行かない様にね!
水に入らなくても楽しい事は沢山あるから!
「まずは貝殻アートを作りまーす、一緒に作る子は集まってね♪」
集まった子供達と、まずは貝殻を拾う。
「綺麗な貝殻を集めたら、お姉ちゃんが可愛いモノを作るよ♪」
集めた貝殻にくじりで穴をあけ、タコ糸を穴に通して…ネックレスの完成!
「どうかな♪」
「わあ、きれいー!」
女の子達には大好評だ。
「すごいすごい、リコのも作ってー!」
「じゃあ、これは腕輪にしようね♪」
白い貝殻は髪飾りにしようか。
男の子には流木アートが良いかな。
画用紙に絵を描く様に、流木や貝殻を貼り付けて。
「完成したら…今日の思い出に孤児院に飾って欲しい」
「さっ、遊びましょうか」
ユリアはビーチボールを取り出して子供達を誘う。
輪になってトスを繋ぎ、落とした子が負けだ。
「こら、危ないことしちゃ駄目よ?」
至近距離でアタックとか、いくらビーチボールでも痛いから!
白兎はひとりせっせと砂の城を作っていた。
他の子が作る砂場のお山程度のものとはレベルの違う、本格的かつ壮大な力作だ。
勿論、作りながらほんわり皆の様子を気にかける事も忘れない。
「大きな波とかジョーズとか、海には危険がいっぱいなの」
綺麗な砂浜にはガラスの欠片なんて落ちていないけれど、貝殻で怪我する事はあるかもしれないし。
けれど心配した様な事は何も起きず、やがて空から白くて冷たいふわふわの雪が降って来る。
今日は陽射しも強いし気温も高いから、雪は地面に触れた途端に消えてしまう。
しかしリコのぞうさんは頑張った。
やがて狭い範囲ではあるが、砂浜に雪が積もり始める。
「雪合戦しよーぜー!」
思い思いに遊んでいた子供達がそこに集まり――
「これ使い、変な季節にしもやけ作ってもあかんしな」
いばらがこんな事もあろうかと持って来た軍手を皆に配る。
元々はBBQ用に用意したものだけどね!
子どもたちの相手もいつぶりだろうか。
(リコと仲よぉなったんも、子どもがきっかけやったなそういえば)
子供達は砂に埋もれた爽やきさカマに容赦なく雪玉をぶつけ、問答無用で白兎を巻き込み――けれど力作を壊す様な事はしない。
「お城をバックに記念撮影するなの!」
ほんのり雪化粧したお城を前に、カマふぃがシャッターを切った。
遊んだ後はBBQだ。
「ちゃんと牛さんを成仏させてから食べようなの!」
「みんな、お肉になった牛さんに感謝するんだよー!」
カスタネットやシンバル、それにきさカマの鼻歌を伴奏に、カマふぃの「魂浄化の宴@コンサート」開催!
鎮魂の調べに乗せて焼かれるお肉は、あっという間に消えていく。
「自分の分も食べて良い」
どちらかと言うと飲み専門らしいカナリアは、食欲旺盛な子供達に肉を譲ってやっていた。
ユリアもまた、食べる事には余り熱心ではない様だ。
「私? 大丈夫よ。始める前にちょっと摘み食いしちゃったの。内緒よ?」
少し離れたところで見ると笑顔ってまた違って見えるのだとか。
いばらは流石に男の子、実は結構肉食だった。
「ま、ハーフやしなぁ」
多分それは関係ないけど野菜も食べるよ、肉肉野菜肉野菜。
「こら、お肉ばっかりじゃなくて野菜も食べないとだめだぞ」
子供達に注意しながら、千速はバームクーヘン作りに精を出していた。
木の棒にアルミホイルを巻いた心棒にバターを塗って、ホットケーキミックスを溶いてバターと砂糖を加えた生地をかけて…
「甘くした方が美味しいし焦げ目がつき易いって」
ゆっくり回しながら何度もそれを繰り返せば、綺麗な年輪の出来上がりだ。
その一切れを差し出され、白兎はそれはもう幸せそうな笑顔になる。
「お肉より野菜…トウモロコシ、好き」
でも甘いお菓子はもっと好き。
タマネギは苦手だけど。
やがて夜になり、砂浜にはキャンプファイヤーがものごっつファイアー!
その勢いで、カマふぃは花火を持ったまま自分がロケット噴射!
それを回収しようとしたきさカマは、巻き添えにされて一緒に吹っ飛ぶ!
「きさカマ飛ぶーッ!?」
よいこは真似してはいけません。
「あと人に向けては絶対にしちゃ駄目、解った?」
カナリアせんせーとの、お約束。
後は炎を囲んでマイムマイムを踊ったり、いばらはマシュマロを焼いてみたり。
「楽しい♪」
「なんかこういう空間にいるとすごいのんびりできるわぁ」
種子島の夜は更けて、子供達はそろそろおねむの時間。
「わーい、キャンプだキャンプだ」
千速は早速、テントのひとつに転がり込む。
「この平和な一時がずっと続いていくと良いね」
そこでは琥珀と爽がしみじみボーイズトーク――あれ、いばらは?
彼は何故か女子テントに引きずり込まれていたが、違和感ないし別に良いよね(良いのか
「やっと一息つけるわね」
子供達を寝かしつけ、ユリアはほっと一息。
とは言ってもここは種子島、天魔と人が争う紛争地帯だ。
「言葉通りじゃないと分かっていても、やっぱり責任は果たさないと」
眠ってしまう訳にはいかない。
それに、夜はまだまだこれからだった。
女子達は風禰が持って来たミニチュアドールハウスやジグソーパズルセットで遊びつつ、ガールズトークに花を咲かせる。
「あの後、無事に帰ってこれたのね。良かったわ」
「うん、ありがとね。あ、クッキー美味しかったよ!」
「少なかったからお腹の足し程度にしかならなかったと思うけど」
口に合ったなら幸いと、ユリアが微笑む。
「ね、また作ってくれる?」
「ええ」
今度は一緒に作ろうか。
「リコちゃん、リコちゃん! 好きな男性のタイプってどういうタイプ?」
「ふー様!」
カナリアの問いに答えるリコは流石にブレない。
「そういえば私、リコの言うふー様って人を全く知らないのよね」
ユリアが訊ねる。
「どんな人なのかしら?」
「えっとね、目つき悪くて口も悪くて、ヤンデレのブラコン? でもほんとは繊細で優しくて、照れ屋さんでカワイイの!」
乙女フィルタ全開。
「あー、守ってあげたい感じ、みたいな?」
カナリアが頷く。
「リコちゃんだったら良い奥様になると思うよ♪」
「ほんと? うれしー!」
因みに見た目はこんな感じと、リコはバッグに付けた自作のマスコットを見せる。
「リコの作るぬいぐるみは相変わらず可愛いわね。羨ましいわ」
デフォルメされすぎて、本物の姿は想像も付かないけれど。
(がーるずとーく…難易度高いの)
皆の会話を聞きながら、白兎はふにゃーっとなっていた。
と言うか、よいこは既に眠気まっくす。
(ぬいぐるみでぃあぼろさん…)
トラ猫を抱っこして、すやぁ。
だが、夜更かしお姉さん達もそろそろ限界だった。
蚊取り豚をセットして、お休みなさい。
「なあリコ」
隣で寝息を立て始めたリコに、いばらが囁いた。
「あんたはすごーく人間臭い冥魔やと思う。うちもある意味ご同類やからわかるんよ」
解いたピンクの髪をそっと撫でる。
「…うちはあんたのこと信じてる。種子島のあれこれは何かの勘違いて思うし、撃退庁もあんたをほぼ無害としてるて聞いた」
だから。
「…どうか失望させんでな?」
そして翌朝。
きさカマの踊りに合わせてカマふぃが餅花を盛大に振り、種子島の米の豊作を祈願。
後は皆で記念撮影をして、最後にサイン入りのカマぽすをプレゼント!
「ちゃんと見えるところに貼ってなの!」
カマふぃの布教(?)活動に隙はなかった――