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マスター:STANZA
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
形態:
参加人数:19人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/05/30


みんなの思い出



オープニング



 東北地方、某所。
 この町には、恐らく全国でも唯一無二であろう、泥んこ遊び専門のスタジアムがある。

 スタジアムがオープンしたのは去年の九月。
 オープン記念に行われた泥んこサッカーの試合は記憶に新しい……とは、既に言えないほどの月日が流れていた。
 しかし、そのフィールドの特殊性ゆえか、それ以来このスタジアムで試合を行おうというチームは全く、ただのひとつも現れない。

 このスタジアムはかつて、観客席などの設備だけは立派だが、肝心のフィールドに欠陥があるという残念仕様だった。
 雨が降るとすぐに泥んこになり、暫くは競技場として使えなくなってしまうのだ。
 その為、年間を通しての利用が余りにも少なく、当然ながら経営は大赤字。
 ならば、いっそのこと泥んこ競技専門にしてしまえという、斜め上に突っ走った思考が何故か町議会でも承認されてしまった結果生まれたのが、この泥んこスタジアムだった。

 だが、これなら以前の方がまだマシだった。
 それはそうだ、日本中探したって泥んこ競技のチームなど、そうそうあるものではないだろう。


 ――というわけで。
「泥んこ競技の普及と発展の為に、ですね……」
 町の広報担当がやってきたのは、毎度お馴染み久遠ヶ原学園の依頼斡旋所。
「こちらの皆様に、もう一度お願いしたいと思いまして」
 普通の人が普通に泥んこ試合をやっても……まあ、それなりに受ける事は受けるだろう。
 だが、ここはやはり強烈なインパクトが欲しいのだ。
 自分達も何かチームを作って、この泥んこフィールドに立ってみたいと思わせる様な、強烈な吸引力が。
「それには、やはり撃退士の皆さんの超人的かつ抱腹絶倒のパフォーマンスに期待するしかない、と」
 広報担当は、揉み手を隠そうともせずに満面の笑顔を見せた。

 今回の種目は一応、バレーボール。
 一応と言うのは、やはりこれも前回のサッカーと同じく「バレーボールの様なもの」でOKだからだ。
 本来のルールなど知らなくて良いし、守る必要もない。
 知っておくべきルールはただひとつ。
 相手のフィールドにボールを落とせば得点になる――これだけだ。
 普通のバレーボールの様にサーブやアタックで打ち込んでも良いし、ラグビーやアメフトの様に自らボールを抱えたまま泥の中に突っ込んでも良い。
 勿論、飛行や透過も自由だし、それを妨害する為にスキルやアイテムを使うのも自由。
 観客に危険が及ばなければ、武器だって使い放題だ。
 バレエと勘違いしてひたすら踊り続けたって構わない。


 そんなわけで、泥まみれの青春再び。
 参加者、絶賛募集中。



リプレイ本文

●控え室にて

 バレーボールとは、ネット越しにボールを打ち合う球技である。
 通常は1チーム6人、または9人で行われ――

「色々と、細かいルールが多いのですね」
 図書館で借りてきたらしい「バレーボール入門」という本を閉じて、ユウ(jb5639)は軽く溜息をついた。
「試合開始までに、全て覚えきれるでしょうか」
 しかし、ルールに関して不安を覚えているのは彼女ばかりではなかった。
「えぇと…私バレーボールのルールをよくわかってないんだけど…」
 六道 鈴音(ja4192)にとっても、それは未知の世界。
 だが案ずる事はない。
 スタジアムに詰めかけた観衆の誰一人として、まともなバレーボールの試合など期待してはいないのだから。
 いや、寧ろどれだけルールから外れたトンデモな事をしてくれるのだろうと、その方面に期待を膨らませていることだろう。
 ぽんと手を打って、夏木 夕乃(ja9092)が頷いた。
「ルールとかよく分かりませんが、泥まみれにすりゃいいんですね?」
 はい、その通り。
 泥まみれに「する」でも「なる」でも、お好きなように。
「あっ、そのへんテキトーでいいんだ」
 鈴音が安心した様に言った。
「スキルも使っていいの?」
 勿論。
「へぇー…」
 という事は、あんな事やこんな事も?
「大人げないとか言われません?」
 大丈夫です、ここに大人はいません。
「え、でもそこに門木先生が」
 あれは看板です。

 嘘です。

 いや、ちょっと人数が寂しかったから、引っ張り出してみたんだけど。
 蓋を開けてみたら、結構な数の生徒さんが参加してくれてるし。
「……ここは大人しく、見物に回っておくか」
 だが、控え室から出て行こうとした門木の腕を、誰かがしっかりと捕まえた。
「せんせー、逃げちゃダメなのですよー!」
 ぷるぷる揺れるうさみみを着けた、シグリッド=リンドベリ (jb5318)だ。
「人数偏ってますし、せんせーが入ってくれると丁度良いのです」
 それに何より、シグリッド本人が嬉しい。
 どのくらい嬉しいかと言えば、飛び入り参加を聞いた瞬間に門木の分のうさみみを用意しちゃったくらいに。
「せんせーも一緒のチームなのですよー」
 背伸びをしながら、シグリッドは門木の頭にうさみみをセット。
 あらやだどうしよう、似合ってる。

 彼等のチームは「レッドラビット」、頭に着けたうさみみは赤くないけど気にしない。
 もう一方は「ホワイトキャッツ」、三毛や白黒、色とりどりのネコミミが目印だ。
 しかし色なんて飾りだ。どうせ泥で汚れたら色なんてわかんないしね!
 要は敵と味方の区別さえ付けば良いのだし、両者の違いは耳の長さで一目瞭然。
 だから、ねこの着ぐるみにうさみみを着けて「これはウサギだ」と主張しても、何ら問題はないのです。
 そう、彼女――或瀬院 由真(ja1687)の様に。
「チーム名に合わせて見ました(キリッ」
 だって、荷物のどこを探してもねこの着ぐるみしか見当たらなかったんですもの。
 どうやら間違えて持って来てしまったらしい。
 けれど、小は大を兼ねるのです。長さが足りなければ継ぎ足せば良いじゃない。
 よかった。これが逆だったら、うさぎの耳を切る事になっていただろう。
 でも、付け耳は外せば元通り。
「素晴らしいです」

 しかし、そうは言っても何処かしらに色の付いた共通アイテムは欲しいところだ。
「そう思って、皆の分もハチマキ用意したよぉ♪」
 チームの命名者でもある白野 小梅(jb4012)は、相手チームの赤いハチマキまでしっかり用意していた。
 風になびくハチマキって、なんかカッコイイよね。
 泥の中でそこまでのスピードが出せるかどうかは別にして。

 さて皆さん、準備は出来ましたか?
「せんせー、眼鏡は危ないから外しておくのですよー?」
 シグリッドが門木の眼鏡を外してロッカーに仕舞う。
「あとサンダルも脱いだ方が良いと思うのです」
 よし、チェックOK。

 それでは、いざ戦いの場へ!


●選手紹介

 まずはチームラビッ……じゃなかった、レッドラビットから紹介して行こう。
 なに、今回は放送時間も充分にあるし、一人ずつ詳しく紹介したって巻きが入る事は……ない、と思います多分。
 あ、中には数名、希望の表明が間に合わなかった選手もいらっしゃいますが、誠に勝手ながら配属は運営側で決めさせて頂きましたので、あしからずご了承くださいませ。

「これはうさぎです。決して耳の長いネコではありません」
 赤いハチマキを巻いた着ぐるみに身を包み、ヒリュウを連れた由真選手が、泥の中に颯爽と足を踏み入れた。
 ただでさえ着心地が良いとは言えないであろう着ぐるみは、泥の中ではまるで拘束着の様に身体の自由を奪う。
 しかし問題なのは寧ろ、この暑さかもしれない。
 何しろ今日は気持ちの良い洗濯日和、つまり上空には雲ひとつない青空が広がっていた。
 そこから容赦なく照りつける太陽の陽射しは、もはや真夏も同然のパワー全開。
 しかし、中の人は撃退士だ。
 熱中症に負けるなんて事は……ないと、思いたいね!

「ちょっと横ぴんのうさみみ!」
 スチャッっと着けてポーズを取った亀山 淳紅(ja2261)は、19歳の大学生だよ、ほんとだよ!
 年齢の詐称はしておりません。ほら学生証。
 それに、さっき「ここに大人はいません」って言ってたし、そういうコンセプトなら乗っからなきゃね!
 性別だって気にしちゃいけないわ、男だの女だの、そんな細かい事に拘るから、人の本質が見えなくなるのよ?
 ほら、このクリアドレス似合うでしょう?
 パンプスはもう脱げちゃったけど、下着だってちゃんと女性物よ。
 見えない所にもちゃんと気を遣うのは本気の証なの。
 ところでその衣装は、もしかして別の依頼(多分ネタ系の)からうっかり持って来てしまったのでしょうか。
 それともこの為にわざわざ、気合いを入れて用意したものなのでしょうか。
 まあ、理由はどうあれ他に着替えもない様ですので、それを着ていただくしか道はないのですが。

 そうよ、人は見た目で判断しちゃいけないわ。
 人ばかりじゃなく、犬も猫も、ウサギも……そして、お馬さんも。
 赤いハチマキをして、うさみみを着けたお馬さんがいたって良いじゃない。
 それが例え直立二足歩行していたからといって、その魂の本質に何の影響があると言うのでしょう。(多分きっと大ありだと思います
 お馬さん、金鞍 馬頭鬼(ja2735)は、泥んこのフィールドを見渡して思う。
 なんで欠陥を補修しないんだろう――と。
 でも、依頼を全うするのが撃退士の仕事だからね、仕方ないね。
 馬頭鬼は軽く溜息を吐いた。
 ぶふんっ。
 因みに馬の溜息は鼻から出る。多分そんな気がする。

「なんだか気分はれんこんさんですねっ」
 澤口 凪(ja3398)は童心に返って、早くも泥まみれになっていた。
「え、今でも子供です?」
 そういう失礼な事を言う人には、泥団子でお仕置きです!
 でも水分が多すぎてお団子にならないから、こう手で掬ってばしゃーっと!
 自分にもかかっちゃうけど気にしない、学園指定の体操着だから汚れても大丈夫だし。
 そこにうさみみを着ければ、なにか危ない香りがそこはかとなく。

 そしてこちらも体操着で挑戦するのは、滅炎 雷(ja4615)――男の子ですけどね。
「泥んこってかなり変わってるけど全力で頑張っていくよ!」
 胸に輝く赤いウサギのエンブレム、そして頭にはネコミミ。
 いや、ちょっと待って。
 ウサギ組なんだから、そこはうさみみじゃないと!
「えー、でもこれ自前の耳だし」
 でも確か雷くんって人間ですよね?
 え、細かい事は気にするな?
「じゃあ、この上からうさみみを着ければ良いよね?」
 ネコとウサギ、ダブルでオン。
 別に問題はないよね、赤いハチマキも巻いたし。

 音羽 千速(ja9066)は、前回のサッカー大会を経験済みだ。
 その時に、泥の上では水上歩行が向こうである事を身をもって確認している。
 今回はその経験を元に、更なる活躍が多分きっと。

 夕乃は何か敵のフィールドに細工を施している模様。
 なんだろう、泥の中にピンク色をした何かが見え隠れしてるんだけど。
 あれはヒリュウの鼻先?
「企業秘密です! カメラさんは向こうに行って下さい!」
 追い払われてしまいました。

「よーし、負けないぞー!」
 フェイン・ティアラ(jb3994)も泥んこ競技の経験者。
 ここの泥は洗えば落ちるって、ちゃんと知ってる。
 自慢の尻尾がガビガビになっちゃったけど、洗った後にはまるで泥パックをした後の様に毛並みがツヤツヤピカピカになったし。
 だから今日も普段着に素足だ。
「前回のサッカーは勝っても負けても全力でー、だったけど!」
 今回は妹のヤンファ・ティアラ(jb5831)とは別チーム。
 ならば兄として、負けるわけにはいかないのだ。
「全力で負けないのを目標にするよー!」
 え、勝ちに行くんじゃないの?
 全力で負けないって、ある意味なんだかスゴい気もするけれど。
「ん? ルール? だ、大丈夫だよーっ!」
 間違ってたら、きっと誰かが止めてくれるって信じてる。
 寧ろ煽られそうな気もするけれど。
 って言うか誰かヤンファを止めて、なんか怖いこと言ってるから!
「へ? ルール? ばーっと行って、ドーン!! お任せ下さいですのっ」
 ドーン!! ってされるのは、お兄ちゃんだよね、やっぱり、どう考えても。
「おにいちゃん!」
「な、なにっ!?」
 呼びかけられて、ついビクッとしちゃうのは仕方ない。
 だってヤンファ、ぱわふるなんだもの。
 でもお兄ちゃんは負けない。
「こんな日がくるなんて…でも、手抜きはしないんだよー!」
 びしぃっとヤンファへ宣戦布告。
 それを受けて、ぱわふるな妹は泥の中に仁王立ち。
「今日は私の成長ぶりを見せつけたげるのですよっ」
 びしっと指を突き付け返した。
「覚悟するのですよ!」
 あっ、人を指さしちゃいけないのでした!
 これなら良いかな、届かないけどグーパン!
「かかって来るといいのですよっ」
 それを見て、慌てて指を引っ込め遠隔グーパンを返す兄。
 何だか既に負けてる気がするのはきっと気のせい。

「がんばって盛り上げましょうねー!」
 シグリッドはレッドラビットの名付け親、最後にきっちり締めて、これで全員の紹介終わ――
「門木せんせーもチームメイトなのですよ!」
 あ、そうでした。
 オマケ程度の役にも立たないと思いますけど、仲間に入れてやって下さいな。

 これで10人、ポジションは適当……と言うか、そんなものはない。
 キャプテンとかも別に決めなくて良いよね。
 うん、各自それぞれ、好きな様に動くべし。

 さて次はホワイトキャッツの紹介だ。

「東北まで来てしまった…」
 先程の説明で、これが単なる泥遊びである事を知ってしまった鈴音さん。
「泥遊びをするためだけにこんな遠くまで…」
 なんか情熱のベクトルが間違っている気がする。
 けれど、もう後戻りは出来ないのだ。
 って言うか普通に遊んでいるだけでお客さんを楽しませる頃が出来るなら、それはもう全力で遊ぶしかないでしょ。
 鈴音は水着にゴーグルを着け、長い黒髪を頭の上で纏め上げた。
 気合い充分、何でもいらっしゃいませ。

「この感触、ちょっと懐かしいかも」
 木花 小鈴護(ja7205)は農家の子。
 泥に入ると田植えがしたくなるのは、大地と共に生きてきた一族の血が騒ぐせいだろうか。
「泥…稲とかレンコンとか…どうして農地にしないのかな…」
 こんなに広いのに、勿体ない。
 でも、泥んこには人を笑顔にする不思議なパワーがあるのだ。
 最初は嫌がっていた人も、いつの間にか夢中で転げ回っていたりして。
 もしかして、泥んこパワーで世界が平和になるかも?
 だったら遊べる泥んこフィールドも、これはこれで良いかもしれない。
 でもちょっとだけ、すみっこで良いからお米作りたいな!

「お友達が皆赤チームなのです(ぶわっ」
 白いハチマキをきりりと巻いた黒猫忍者カーディス=キャットフィールド(ja7927)は、ひとり寂しくフィールドの隅に佇んでいた。
 皆で楽しく遊ぶ筈だったのに、いつの間にか気が付けばこんなポジションで。
「でも負けない!(グッ☆」
 着替え用の着ぐるみも用意したし!
「全力で逝かせていただきます(もふもふ」
 黒猫忍者の着ぐるみは、もふもふを損なわずに耐水仕様にされた謎の久遠ヶ原クオリティなんだぜ!
 勿論、もふもふは夏毛だよ!
 涼しいよ!(通常の着ぐるみ比・体感温度には個人差があります

「わたしは白チームなのですワ!」
 ミリオール=アステローザ(jb2746)の辞書に、バレーボールという言葉は……さっき書き込んだ。
 ルールはこれから書き込むところだ。
「習うより慣れろ、なのですワ!」
 見よう見まねで、きっと何とかなる、よね!
「頑張るのですワ!」

 小梅は白いハチマキをしっかりと締め直し、オモチャ屋さんで調達したネコミミとネコ尻尾を装着。
 これで身も心も立派なにゃんこだ。
「よぉ〜し、バレーボールがんばっちゃうぞぉ!」

「こ、これは恥ずかしいかも……!?」
 白い猫耳をつけてちょっとテレテレな日ノ宮 雪斗(jb4907)は、スレイプニルのアーテルさんと一緒だ。
 折角だから、アーテルさんにもネコミミ着けてあげようか。
「お揃いならきっと恥ずかしくないですよね!」
 え、いやです? 余計に恥ずかしい? 変なもの着けるなら還ります?
 可愛いと思うんだけどなぁ。
 だめですか。
「なら仕方ないですね、これはロセウスちゃんに着けてあげましょう」
 ヒリュウにネコミミ、きっと似合うと思うんだ。

「れでぃ〜な一撃必殺を決めて、大人と思わせますのですっ」
 ヤンファはさっき紹介したから、もう……良くないですね。
 はい、ちゃんと紹介させていただきますよー。
 うさみみを着け、セーラー服と機関じゅ、じゃなくて日本刀。
 日本刀?
「ダメなのですか?」
 いや構いませんよ、何でもアリだし。
 何に使うのかは、よくわからないけれど。
「勝ちますのですよ、ふぁい おー!」

「泥んことか面白そう☆」
 そこに柚葉(jb5886)とユウが加わって、これで10人――いや、一人足りない?

 名簿にはエルレーン・バルハザード(ja0889)の名前があった。
 しかし、その姿はどこにも見えない。
 どうしたんだろう、棄権かな?

 しかし、エルレーンは既に会場に紛れ込んでいたのだ。
 ただし選手としてではなく――ボールとして。
 彼女も最初は普通にどちらかのチームに入ろうと思っていたのだ。
 しかし。
「( ゜д゜)ハッ!そうだ…!」
 閃いた。
 悪巧みを考えついてしまったのだ!

 というわけで、替えの競技用ボールを入れた籠の底に彼女はいた。
 変化の術で、ボールに変身して。
 ただしそのボールには手足が生えている。
 だって┌(┌ ^o^)┐型だから。
 そしてデカい。
 だって変化の術では小さくなるにも限度があるから。
 そもそも人がボールに化けられるのかという問題もあるが、まあそこはコメディだからね。
 でも質量制限は、いくらコメディでもどうにもならないのです。

 これ絶対バレるだろ。
 バレなきゃおかしいよね。

 でも誰も気付かない。
 気付いても黙ってる、それが久遠ヶ原クオリティ。

 そして彼女は静かに待った。
 カオスの波が会場を包み込む、その時を。


●前半戦

「正々堂々、真剣に自由に試合をして、どろんこになろう!」
 お馬さんの選手宣誓と共に、前半の試合が始まった。

 試合前の挨拶を終えて、選手達がフィールドに散る。
 ある者は翼でひとっ飛び、またある者は泥の中でも身軽に、ごく一部は泥に思いきり足を取られて転びそうになりながら――
「え、自分!?」
 近付くリモコンカメラに気付いた淳紅は、それを追い払う様に手を振った。
「そない期待されても、自分は転んだりせえへんよ」
 え、転ばないの?
「撃退士をナメたらあかん、この程度で足を取られて転ぶと思うたら大間違い――」
 ずべしゃー!
 うん、ひらひらドレスで泥の中を歩いたらそうなるよね、いくら撃退士の身体能力が高くても。
 しかし、これを脱ぐわけにはいかない。
 淳紅はドレスをたくし上げると、その裾をシルクのドロワーズの中にぐいぐい突っ込んだ。
「どや、これなら邪魔にならんやろ!」
 王子様、そんなカボチャぱんつの様な姿でドヤ顔されても。
 しかし見た目はともかく、身軽になった淳紅は颯爽と泥の中を走り去った。

 各選手が位置に着き、試合開始の笛が鳴る。
「いよいよ始まるのですよー」
 シグリッドは少し緊張した様子で、すぐ近くに立つ門木を見た。
 どうやらボールの行方よりも門木の動きの方が気になる様だが――
「え、違いますよ? せんせーが転ばないように見守ってるとかそういうのじゃないです、ほんとです」
 こくりと頷き、ヒリュウのぷーちゃんを呼ぶ。
「防御優先で頑張るのです」
 せんせーがボールに当たらないようにとか、泥団子をぶつけられないようにとか……ちゃんと楽しんでるかなっていうのも気になるし。
 え、試合? 勿論ちゃんと頑張りますよ?

 まずはホワイトキャッツのサーブから――いや、普通のバレーボールならサーブから始まる筈なのだが。
「それじゃあ…」
 最初にボールを持った鈴音は、ラグビーの様にしっかりとボールを抱え込む。
 そして瞬間移動!
 次に姿を現した時、ボールは既に敵陣に叩き付けられていた。
 トライ成功、ホワイトキャッツ開始5秒で1点先制!
「ぺっぺっ…」
 勢い余って口に泥が!
「こんなんでもいいのかな?」
 良いの? じゃあ、もっと本気出しちゃうよ?
 六道冥闇陣でボールを奪いに来た敵の選手を眠らせてしまえ!
「戦いとは、非情なのだよ…」
 しかし、自分でボールを持ったままでいる訳にはいかない。
 連続トライは得点にカウントされないのだ。
「そのボール、私が頂くのですー!」
 黒猫忍者カーディスが手を上げ、泥の上を走ろうとして――ずぶん。
 沈んだ。
「水上歩行で泥の上は走れないんですよ」
 いつの間にか近くに来ていた千速が、自らの体験を語る。
「泥の上に水が張ってある田んぼの様な状態なら大丈夫ですけど」
 こんなドロドロの上では、残念ながら使えないのだ。
 ならば素直に泥の中を進むしかない。
 しかし、いくら防水仕様の夏毛でも着ぐるみは動きにくかった。
 その頭上を翼を持つ者達が軽々と飛び越えて行く。
「こちらにパスですのっ!」
 上空から突っ込んで来たヤンファに、鈴音はボールを投げ上げた。
 しかし、そこに飛び出した雷がダイビングでボールをカット、そのまま頭からボールごと自陣に突っ込むかと思われたが――
「誰か、お願い!」
 接地の直前で投げ上げる!
 それをキャッチした淳紅がトスを上げ、お馬さんがジャンピングアタック!
 ボールはネットを越えて敵陣へ、しかしそこに小鈴護のブロックが決まった!
 ふわりと弾かれたボールは、そのままふらふらと敵陣へ落ちて行く。
 だが。
「バレーボールは本来、体のどの部位でボールを弾いてもいいのだ!」
 着地からすぐに体勢を立て直したお馬さんは、それを逞しい後ろ足――いや、普通に足で蹴り飛ばす。
 蹴られたボールはネットの下を潜って一直線に飛んで行った。
 が、しかしそれはカーディスの真っ正面!
 ――どかんっ!
「ごふぅっ!」
 顔面でがっつりと受け止めたカーディス、着ぐるみの鼻がちょっと潰れたかもしれない。
 ボールは勢いを殺されて真上に跳ね上がった。
「これは、わたしが頂くのですワ!」
 良い具合のトスとなったそのボールを、全身に青光を纏ったミリオールが撃つ!
「百尾彗星あったーっく、なのですワ!」
 因みにボールは撃退士の使用にも耐える特別仕様、攻撃スキルを乗せても大丈夫だ。
 彗星の様な尾を引いてボールは敵陣に突入、そこには相変わらずぼんやりしている門木の姿が!
「せんせー、ぼくに掴まるのですよ!」
 クライムを命じられたヒリュウのぷーちゃんは、シグリッドの身体を一生懸命に持ち上げる。
 走って逃げるのは泥に足を取られるけれど、飛んで逃げれば大丈夫!
「……いや、俺、自分で飛べるから……!」
 そう言えば門木先生は天使でした、稀によく忘れられるけど。
 でも確か、飛行は上手くないんじゃ……?
「せんせー、危ないのです!」
 ほら、飛び上がろうとして転びそうになってるし!
 シグリッドは慌てて門木の背後に飛び降りると、その背中を支えた。
 間一髪、セーフだ。
 しかし、そこに迫る彗星の如きボール!
 だが接地の直前、飛び込んだ凪が激しくスライディングガード!
        ∩∩
 ≡≡≡○⌒っ・x・)っ
 ずばしゃーーーっ!!
 見事に決まったスライディングレシーブ!
 しかし、渾身の一撃を防がれたミリオールは悔しがる様子もない。
「お、おぉ? …何か楽しくなってきましたワ」
 飛び散る泥に、何故かテンションが上がっていく!
「泥んこバレーらしくなってきたのですワ!」
 泥の中からむくりと起き上がる凪。
「あれ、先生どこですかー?」
 多分あれです、そこに大中小と並んだ三つの泥の塊。
 中身は大きい方から門木、シグリッド、ヒリュウ。
 二人と一匹は、スライディングで跳ね上げられた泥を頭からモロに被ったらしい。
 もっとも跳ね上げた凪自身も、泥人形に目だけが付いてる様な有様だけれど。
「先生、今助けますよー」
「……いや、大丈夫だ……」
 凪が声をかけると、一番大きな泥の塊がもぞもぞと動いた。
 泥も滴る良い男(?)は、犬の様にぶるぶると身体を振って泥を跳ね飛ばす。
「……寧ろ、何か吹っ切れた気分だな」
 これだけ潔く泥んこになれば、もう何も怖くない。
 勝負に集中しよう、ボールはまだ生きている。
「このうさぎさんにお任せ下さい!」
 ボールが飛んだのは、ちょうど由真の真上。
 それを受け止めた由真は呼び出したヒリュウにパス、ころころとボール遊びに興じるその姿を敵チームに見せ付けた。
(和気藹々で和ませた所に、隙を狙って突っ込むのですよ……!)
 さあ、今だ! ボールを持ったヒリュウと共に突っ込んでタッチダウン!
 ――という計画でした。
 しかし現実は過酷と言うか無情というか、まあそうなるよね、と言うべきか。
「あ、足が動かないのですよ!?」
 着ぐるみの足は、どっぷりと泥の中に嵌まり込んでビクともしない。
 おまけに中は温度湿度共に急上昇、撃退士でなければ昏倒しているレベルだった。
 泥の中から足を引き抜こうにも、身体が思い通りに動かない。
 焦る由真、そこに飛び込んで来た黒い影! 黒猫忍者のカーディスだ!
 同じ様に着ぐるみを着込んでいても、カーディスの動きは軽やかだった――あくまで着ぐるみ同士の比較ではあるが。
 これはやはり、着ぐるみの性能差なのだろうか。
「ボールは貰って行くのですよー」
 ひょいっと取り上げ、足元に置く。
 ホワイトキャッツ、早くも2点目が入りました!
 由真は燃え尽きた。
 立ったまま、真っ白に……いや、泥が染み込んで真っ黒だけど。
「ふっふっふ。油断大敵ですよ?」
 自分が、ね。
 和気藹々作戦は失敗に終わった。
 だが我々は信じている、由真とヒリュウがこのままでは終わらない事を……!

 カーディスが置いたボールを奪い、夕乃はジャンピングアタックで真っ当に敵陣へと打ち込んだ。
 しかし、その攻撃は真っ当すぎて相手チームに軽々とレシーブされた、と思った?
 その直前、試合前に夕乃が泥の中に埋めた――いや、待機させたヒリュウがその雌伏を解く!
 ずぼっと飛び出した泥団子は、飛んで来るボールに向かって頭突きアタック!
 弾かれたボールは泥の上を転々と転がる。
 レッドラビット、1点返して2対1!

 ミリオールはその転がったボールを拾って上空へ舞い上がろうとするが、そこに再び夕乃のヒリュウによる頭突きアタックが炸裂する!
「でも、負けないのですワ!」
 このボールだけは、何としても敵陣へ!
 吹っ飛ばされながらも投げ上げたボールをヤンファが上空でキャッチ、いざ勝負なのですおにいちゃん!
「燃える魔球、いくのですよっ! 止められるものなら、止めてみるのですっ!!」
 炎陣球、発動!
 観客席からもよく見える様にオーバーアクションで振りかぶって、せーの、ドーン!
 炎を纏ったボールが、ほぼ真上から飛んで来る。
「このボクを超えられるかなー?」
 それを待ち受けるフェインは余裕の笑みを浮かべているが、内心は――いや、きっと心の中でも余裕の笑みを浮かべているに違いない。
 だってお兄ちゃんだもの!
「止めてみせるよーっ!」
 迫り来る火球、フェインは腰を落としてレシーブの構え。
 兄と妹の真剣勝負、横槍を入れる者は誰もいない。
 ――ずどーーーん!
 インパクトの瞬間、もうもうと湧き上がる水蒸気!
 それが晴れた後、フィールドには直径2mほどのクレーターが!(コメディ補正が働いた模様
 水分を失って干からび、ヒビ割れたその中心に大の字になって横たわるのは、干物の様にぺちゃんこになったお兄ちゃんの姿。(コメディ補正が以下略
 だが、そんな姿になって尚、フェインは自陣を守りきった。
 そればかりか――
「紫檀、お客さんが怪我しないように、そのボールを跳ね返すんだよー?」
 決死のレシーブで打ち返されたボールは、観客席に飛び込んで行く。
 しかし、予め客席の前に待機していたストレイシオンの紫檀がそれを見事に跳ね返した!
「おにいちゃん……!」
 なんかすごい。
 ヤンファは、ふらふらと立ち上がり、自分に向かって爽やかな笑顔を向ける兄をじっと見つめた。
 パワーでは圧倒した筈なのに、何故か負けた気がする。
 兄を見る目が、ちょっと変わった……かも?

 紫檀が弾いたボールは、雷が受け止めた。
「僕はサポートに回るから攻撃は頼んだよ!」
 パスを繋いで、アタッカーのお馬さんにボールを回す。
 その渾身のアタックを、ブロッカーの小鈴護が止め――いや、止められない!
「え、何?」
 足が動かない。
 ジャンプに備えて、いつでも動けるように準備していたのに。
 泥の中の動きなら誰にも負けない自信があるのに。
 ふと見ると、足元には血の色をした図形の様な楽譜が展開していた。
 そこから伸びて来るのは、爛れて腐った無数の死者の手。
 顔を上げれば、そこにはニヤリと笑ったカボチャぱんつの王子様が!
 ……いや、ほんと酷い描写でごめんなさいでも反省するけど自重はしない(きりり
 ブロッカーのいないネットの上を、ボールは軽々と越えて行く。
 しかし、空中にはスレイプニルのアーテルさんが待機していた!
「アーテルさんお願いします! ナイスディフェンス的な感じでお願いします!」
 移動力の高い貴方なら打つ瞬間に移動→ガードもワンチャン!
 雪斗の指示で、アーテルさんはマスターガードでボールを弾く!
 その弾いたボールを、下で待ち構えていた雪斗がしっかりキャッチ――
「あっ!!」
 つるん、ぼとっ。
 落ちた。落としてしまった。
 なんということでしょう、折角のガードが水の泡です!
「ああっ、ごめんなさいアーテルさんさん! 待って、行かないでぇぇ!」
 ご主人様に愛想を尽かしたのか、アーテルさんはぷいっと行ってしまった。(召喚時間が切れただけです
 思わぬアクシデントにより、試合は2対2の同点!

「取られたら取り返せば良いのです(きりり」
 素早いリスタートからボールを奪ったカーディスは、ネットを使って二段ジャンプ、高い位置から敵陣に向けてボールを叩き込む。
 しかし、その落下地点を予測して何人もの選手が走り込んで来た。
「そうはさせないのです!」
 カーディスは畳返しと言う名の泥水巻き上げ攻撃でそれを阻止!
 跳ね上がる泥水の壁に遮られ、ボールが見えない!
 しかし夕乃は惑わされなかった。
「あれはただの妨害工作、ボールの軌道自体は変わらない筈です!」
 迷わず狙った位置で身構える。
 しかし!
「小梅ちゃんひっさーつ、横やり二段アターック!」
 横から手を出した小梅の一撃で、その軌道が変わる!
 ボールはそのまま誰もいないフィールドに――いや、そこに走り込んで来る者がいた!
「こういう場所は狙われやすいと思ってたんだ!」
 雷がそれをナイスレシーブ、ふわりと浮き上がった好球をもう一度、お馬さんが打つ!
「好球必打、このボールを見逃して観客を沸かせるプレイなど出来るものか!」
 だが、それは相手にとっても反撃のチャンス。
 お馬さんの腕が振り下ろされる直前、小さな影がボールを掠め取って行った!
 またしても小梅だ!
「えへへぇ、コートに落せばいいんでしょぉ」
 ぽとり。

 ホワイトキャッツ、再びの1点リード。
 そして、ここで前半終了のホイッスルが!!

 前半戦は、まあ何とかバレーボールっぽい形になっていた……気がする。
 しかし後半戦は一体どうなるのか!?

 その前に暫しの休憩とフィールド整備が入ります!


●インターバル

 とりあえず前半の戦いで染みついた泥を洗い流した選手達は、控え室で暫しの休憩をとっていた。
 カーディスは着ぐるみの少し潰れた鼻を修理しつつ、スポーツドリンクとサンドイッチで腹拵え。
 ミリオールは前半で使い切ったスキルを変更し、後半の試合に備える。
「まだまだ、後半はもっと頑張るのですワ」
 そしてシグリッドは整備の人達に混じって、長いホースを持ってフィールドへ。
「ホースで水を撒いて虹を作るのです」
 天気も良いし、お日様は眩しいし、きっと綺麗な虹が出来る。
 でも下からの放水じゃ、ちょっと物足りない気もするし……ちらっ。
「……わかった、手伝う」
 期待の眼差しに応えて、門木はシグリッドを抱えて空に舞い上がった。
「……飛行は苦手だが、これくらいなら何とか……何とか落ちずに頑張れ俺」
「せんせー、頑張るのですよー」
 ふらふらと危なっかしく飛びながら、上空から霧状になった水を撒く。
 まるでドームの天井を作る様に、大きな虹がフィールドの上にかかった。

 水を撒いたおかげで、乾いてヒビ割れていたクレーターも跡形もなく元通り。
 では、そろそろ後半戦を始めよう。


●後半戦

 これまでのあらすじ:
 カボチャの王子様は、ニャーディス君と、お馬の金鞍さん、凪ちゃんを誘って泥んこバレーに参戦しました。
 いろいろあって、バトルしようずって言ってたら赤だ兎だと移動したせいでニャーディス君集中砲火の大ピンチ!(いまここ
 でもピンチの筈なのに、何故か集中攻撃を喰らっているのは王子様の方だった!
「亀山さん! 私の魔球を喰らいなさい!」
 黒猫忍者は影手裏剣で妨害しながら全力投球!
 ボールを取ろうとすれば影手裏剣ストリームに呑まれる事は必至だ。
「さあ、どうしますか!?」
「逃げる!」
 え?
「痛いの嫌やもん」
 いいの、それで?
「取ったら取り返せばええんや!」
 それ、さっきニャーディス君が言ってた台詞!
 ホワイトキャッツ、あっさり1点追加で4対2!
 しかし淳紅は落ちたボールを素早く拾い、ネットの下を潜って敵陣へ!
 それを阻止すべく集まって来るホワイトキャッツの選手達。
「ここは通しませんよ!」
 鈴音がその足元に異界の手を呼び出すが、淳紅はそれを巧みに避けて瞬間移動でワープ!
「かかったな! そっちは残像や!(どやぁあ」
 何も残ってないけどね!
 そして誰もいない所にあたーっく!
 べちっと地面に叩き付け、1点返してここからの逆転劇を刮目して見よ!

 しかし、同じく瞬間移動で追いかけた鈴音がボールを確保、眠りの霧を置き土産にして走る!
「突き放してあげましょう!」
 ネット際でトスを上げ、それを小鈴護が全力アタックwithインパクト!
 その一撃を、雷が緊急防壁で防ぐ。
 しかし跳ね返ったボールはふらふらと上に上がり――さあどっちだ、どっちのフィールドに落ちる!?
「そんなもの、待つ必要はないのです!」
 クライムでヒリュウに掴まり、限界高度で待機していた由真が急降下!
 途中で掻っ攫ったボールを、フライングボディアタックの要領で自分の体ごと敵陣に叩き込む!
「行きますよ。うさぎさんメテオアターック!!」
 それはまさしく隕石の如く。
 大量の泥を跳ね飛ばし、由真はフィールドに突き刺さって同点!

 しかし泥の雨は観客席にまで降り注ぎ、お客さんも一緒に泥まみれだ!
 今のは危険プレイに該当するのでしょうか、選手兼監視員の馬頭鬼さん?
「いや、大丈夫でしょう」
 お客さんも多少の泥ハネは覚悟の上、ほら、あれだよ、イルカショーで盛大に水を被る様なもの!
「しかし今後は客席へのレインコートの配布などを工夫する必要があるでしょう」
 なるほど、的確なアドバイスをありがとうございました!

 さあし合いは振り出しに戻ってボールはホワイトキャッツから!
 上がったトスを雪斗のヒリュウ、ロセウスちゃんがキャッチ!
「ナイスキャッチですよ!」
 そのままチャージラッシュでシュート!
「いっけーロセウスちゃん!」
 ボールを抱えたまま、ロセウスちゃんは敵陣目掛けて体当たり!
 しかし、それをも一匹のヒリュウ、シグリッドのぷーちゃんが受け止めたって言うか正面衝突!
 両者、クラクラ目を回してフラフラよろけ、元いた世界に仲良く還って行く。
「ぼくよりもなんだかぷーちゃんが頑張ってる気がするのです…」
 それは多分きっと気のせいじゃないと思います。
 って言うか今回はヒリュウの皆さんにMVPを差し上げたい気分。
「頑張ってくれたぷーちゃんの為にも、今度はぼくが頑張るのですよ……!」
 弾かれたボールをキャッチして、シグリッドはストレイシオンさん(名前はまだない)を呼んだ。
「そのまま向こうに突っ込むのですよー!」
 クライムで背中に乗って、突進!
 その体当たりを、ミリオールは斥力の網で捕らえてボールを奪取、黒い金属質の触腕群を絡ませて投げる。
 無数の腕に纏い付かれ、隠されたボールは敵陣に向けて一直線!
 しかし、それでもやはり夕乃の目は誤魔化せなかった。
 正確に落下地点を見極め、必殺の顔面レシーブ!
 飛び散る鼻血と共にトスが上がる。
 しかし、それを再び打ったのはミリオールだ。
 触腕を絡ませ、もう一度ずばーん!
 ホワイトキャッツが1点を加えて再び突き放す!
 弾けて飛び散る泥に、ますます上がるそのテンション!
「んふー、物足りません。少々派手にやらせてもらいますワ!」
 もう充分に派手だと思うんですけど、まだやるんですか?
「今までのはほんの小手調べですワ!」

 立ち上がった夕乃は打ち付けられて泥まみれになったボールで派手に決める…フリをしてジャンプ!
 太陽を背にし、空中でカッと謎のポーズを決めるその姿は眩しくて見えない!
「見えなくていいのです!」
 実は今、こっそりヒリュウとボールをすり替えました。
「いきます、稲妻アターック!!」
 しかし打ったのはダミー、丸まったヒリュウだ!
 本物のボールはこっそりパス!
 受け取った雷はスタンエッジでボールに電気を纏わせ、アタック!
「必殺スタンスマッシュ〜! これなら止められないでしょ!」
 敵陣に突き刺さるカミナリボール!
 突き放されてもすぐに追い付くシーソーゲームに、観客は大興奮だ。

 しかし何故か雷の頭上からは次から次へとボールが降って来る。
「え、何これ!?」
 どうしてボールがこんなに!?
「へっへぇ〜、ボール一個ってぇ、ルールないよねぇ♪」
 犯人は小梅だった。
「ほらほらぁ、どんどん打たないと、どんどん落ちちゃうよぉ?」
 何個あろうとボールはボール、地面に落ちたら1点のルールは変わらない。
 今、小梅がそう決めた。
「そんな、ムチャクチャだよー」
 そう言いながらも、フェインは降り注ぐボールに果敢に飛び付いて行く。
「どれだけ来ようと、この伝説のキーパーが全部止めて見せるのです!」
 いつの間にか伝説になった凪がスライディングでガード!
 狙いなんか適当でも、休まず滑り続ければ身体の何処かにはきっと当たる!
 でも先に謝っておくよ。
「勢いで轢いちゃったらごめんなさい!」
 怒濤のスライディング轢き逃げレシーブで打ち返す!
 それでも届かない所は――
「お馬先輩、お願いします!」
 お馬さんが足で蹴り、ヘディングで頭突きアタック!
「結構やるな」
 ルール無用のカオスにも負けず果敢に打ち返して来るレッドラビットの選手達に敬意を表しつつ、しかし勝負は勝負と小鈴護はコメットで彗星の雨を降らせた。
 ボールと共に降り注ぐ彗星、更にはボールを籠ごと持ち上げた小梅が、敵陣の上空でそれをひっくり返す。
「ボール爆弾だよぉ!」
 絨毯爆撃に、流石のウサギ達も対処が追い付かない!
 そして遂に――

 奴がフィールドに降り立つ、その時が来た。
 ばしゃーん!
 普通のボールに紛れた(つもりの)それは、盛大に泥を跳ね上げて大地に立つ。

 Ξ( ^o^) ボールダヨー

 嘘です。

 それは白い体から伸びた四本の細い足をシャカシャカと動かし、素早くフィールドを駆ける。
 そう、まるで水面を歩くミズスマシの様に……と言うか、どちらかと言えばGの方がイメージに近い気がする。
 走るうちに泥が跳ねて身体を覆えば、それはまさにチャバネGの様で……
 勿論、それには誰も手を出さなかった。出せなかった。
 だって下手に何かしたら呪われそうだし!
 それを良いことに、ボール(自称)はフィールドを縦横無尽に駆け回り無差別攻撃を加え始めた。
 ┌(┌ ^o^)┐すとらっしゅ!
「私のもえは、一回じゃ止まらないッ!」
 ボール(詐称)の残像が現れ、敵味方を問わずに跳ね飛ばす!
 ┌(┌ ^o^)┐すぷらっしゅ!
「はううーっ! もえーっ! もえーっ!!」
 今度は無数のボール(不肖)が現れて突撃するが、それは一体どこへ向かうのか。
 ┌(┌ ^o^)┐ぴあっしんぐ!
 最後は白銀に輝くボール(偽装)が無駄に高い腐女子力を武器に迷走!

 \こっち来んな!/

 恐らく誰もがそう思ったことだろう。
 しかし、逃げるだけでは何も始まらないのだ。
 その前に雄々しくも立ちはだかる雷!
「これで止めて見せるよ!」
 異界の呼び手で拘束――出来ない!
 ┌(┌ ^o^)┐とは、この世の如何なる束縛からも自由な存在なのだ!
 ある意味、羨ましいね!
 だが止められないなら……潰してしまって構わないのだろう?
「うぅーー、そっちがその気ならやってやりますワ!」
 ミリオールはフィールドに向けて黒い金属質の触腕群を撃ち出した。
 無数の触腕が泥を掻き回し、ついでに┌(┌ ^o^)┐もモミクチャにする!
 だが、┌(┌ ^o^)┐はしぶとかった。
 まさしくGの如くにしぶとかった。

 Ξ┌(┌ ^o^)┐カサカサ

 逃亡!

 フィールドに残された謎の軌跡は、┌(┌ ^o^)┐が這った跡だ。
 それは、観客席からは文字の様にも見えたと言う。
 解読した者によれば、そこにはこう書かれていたとかいなかったとか。

『いいじゃない、試合ってのにはトラブルもつきものさ!』

 ┌(┌ ^o^)┐は去り、後にはカオスだけが残された。
「あっ、門木先生!」
 門木の姿を見付けた鈴音は、どさくさ紛れに泥をぶっかけてみる。
「えいっ!」
 べしゃーっ!
「せっかくだからみんなで泥まみれになりましょう!」
 雪合戦ならぬ、泥合戦も良いんじゃない?
 そして始まる泥のぶつけ合い。
「……これ、やっぱりバレーボールじゃないですよね?」
 童心に返り、泥まみれできゃっきゃしている皆を見ながら、由真が呆然と呟く。
 まあ、ボールが増えた辺りから得点のカウントも出来なくなっちゃったし、良いんじゃないかな。
「仕方がありませんね」
 由真は泥と水気で鉛の様に重くなった着ぐるみを脱ぎ、皆の輪の中に飛び込んで行った。


●そして試合はどうなった

「これを喰らうのですよ、影手裏剣・泥!」
 黒猫忍者が無数の泥手裏剣を飛ばす!
 いやもうそれ既にスキルじゃなくて、もふもふの毛皮に付いた泥を遠心力で跳ね飛ばしてるだけなんですけどね!
「なら、こっちは泥のレクイエムやー!」
 泥の中にダイブした淳紅は、カーディスの足に手を伸ばしてセルフ異界の呼び手!
 そこを凪が掘り返して行く!
「えーい、じゅんこー先輩に轢き逃げあたーっく!」
 もう既に、敵も味方もない。
 とにかく誰かを泥んこにする、それが全てだ。
「いきますワ!」
「いっくよぉー!」
「おにいちゃん、今度こそ覚悟するのですっ!」
 ミリオール、小梅、ヤンファ、翼を持った天使の三人娘が上空高く舞い上がり――
「「「とらいあんぐる泥あたーーーっく!!」」」
 どっぱーん!
 それはフェインばかりか多くの仲間を巻き込んで、泥と共に跳ね上げる。
「まるで泥の噴水みたいです!」
 周囲に泥を撒き散らしながら、雪斗は宙に舞った。

 まあ、皆さん楽しそうで何よりです。

 試合?
 引き分けで良いんじゃないかな、多分。



 そして全然バレーボールじゃなかったバレーボールの試合は、大好評のうちに幕を閉じた。
 小鈴護の言う様に、人は泥んこで笑顔になれる。
 自分が泥んこになるのも、泥んこの人を見るのも、どちらも楽しいのだ。
 この分なら、次の試合もきっと客席は大入り満員だろう。

 ただ……泥んこスポーツのプレイヤーは少ない。
 果たして次の試合は開催できるのだろうか。

 泥んこ障害物競走とか、やる方も楽しいと思うんだけどなー。
 そうだ、次の競技はそれにしよう。
 アスレチックコース、作っておくからね!

「やっぱり、田んぼにはしないのか……」
「改修する気もない様ですね」
 それを聞いた小鈴護と馬頭鬼は、思わず互いの顔を見合わせたそうな。

 それはともかく。

 シャワーを浴びてスッキリした選手達は、泥んこスタジアムに別れを告げる。
 次のイベントに呼ばれる、その日まで――


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:10人

┌(┌ ^o^)┐<背徳王・
エルレーン・バルハザード(ja0889)

大学部5年242組 女 鬼道忍軍
揺るがぬ護壁・
橘 由真(ja1687)

大学部7年148組 女 ディバインナイト
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
撃退士・
金鞍 馬頭鬼(ja2735)

大学部6年75組 男 アーティスト
君のために・
桐生 凪(ja3398)

卒業 女 インフィルトレイター
闇の戦慄(自称)・
六道 鈴音(ja4192)

大学部5年7組 女 ダアト
泥んこ☆ばれりぃな・
滅炎 雷(ja4615)

大学部4年7組 男 ダアト
古多万の守り人・
木花 小鈴護(ja7205)

高等部2年22組 男 アストラルヴァンガード
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
リコのトモダチ・
音羽 千速(ja9066)

高等部1年18組 男 鬼道忍軍
撃退士・
夏木 夕乃(ja9092)

大学部1年277組 女 ダアト
ファズラに新たな道を示す・
ミリオール=アステローザ(jb2746)

大学部3年148組 女 陰陽師
桜花の護り・
フェイン・ティアラ(jb3994)

卒業 男 バハムートテイマー
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
温和な召喚士・
日ノ宮 雪斗(jb4907)

大学部4年22組 女 バハムートテイマー
撃退士・
シグリッド=リンドベリ (jb5318)

高等部3年1組 男 バハムートテイマー
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
撃退士・
ヤンファ・ティアラ(jb5831)

中等部3年10組 女 陰陽師
ストロングにバズーカ!・
柚葉(jb5886)

大学部1年213組 女 ナイトウォーカー