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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/05/21


みんなの思い出



オープニング


 飛んでいるとはいえ、相手の速度は追いつけないほどの物ではなかった。
 車両のアクセルを目一杯踏み込みながら、睨むような目で上空に羽ばたく翼を見遣る。

 悪魔、シマイ・マナフ。

 恒久の聖女との争いの最中、彼女らの後ろ盾となっている悪魔である外奪の呼びかけに応じて撃退士達を襲った悪魔の一人。
 そして、種子島の諍いにもその姿を見たという報告がある。
 先の争いで一通りの決着は着き、そのままシマイは撤退していった。
 だが、その後シマイを発見することが出来た、という報が撃退士達の下に届いたのだ。
 折角見つけることが出来た種子島の首魁をそうやすやすと帰してしまう道理もない。

 幸い、大規模作戦中ということもあり、追撃のための頭数は確保しやすい。
 ここで数に任せて討ち取ってしまうことが出来れば。
 あるいは、殆ど情報のないシマイの戦闘能力について、少しでも情報を得ることが出来れば。
 今後の種子島を攻略するにあたって、大きな利を得られることは間違いがない。

「お、おい。あれ……」

 双眼鏡を覗いていた一人の男子学生が、戸惑ったような声を出す。
 その声に弾かれたように、視線をシマイへ。
 視線の先、シマイは先ほどと同じように翼を広げたまま、悠々と空を駆けている。
 その速度はまるでこちらを誘っているかのように、早過ぎもせず遅過ぎもしない。
 足で走って追跡するのは厳しいだろうが、車を使えば十分追い縋れる、そんな速度。

 ただ、空を駆けるシマイの数が、三人になっていた。

「……は?」

 アクセルを踏み続けていた生徒の口から、実に間の抜けた声が漏れた。
 目の錯覚ではない。先ほどまで上空に一人だけだった筈のシマイの数が、間違いなく増えている。
 まさかそれが動き出すための合図だったという訳ではないのだろうが、三人に増えたシマイが動いた。
 前方、左方、右方、三つの方角目掛けて散開してしまったのだ。

 先程の争いの最中にもシマイは自身のダミーをいつの間にか作り出し、それを使って戦場からの撤退を測ったという報告があったはずだ。
 おそらく、それと同様のことを行ったのだろう。
 双眼鏡でシマイの様子を見ている学生に判別が付くか聞いてみる。予想通り、外見上の区別は付かないという答え。

 少し危険だが、こちらも全体を三つに分けるしか無いだろう。
 各個撃破されてしまう危険性も増してしまうが、目の前に居る人の世の脅威をだからといって諦められる筈もないし、1/3の博打に賭けることもまた分が悪い。

 連絡を取り合い、シマイを追っていた複数の車両がまた、三つに分かれて進んでいく。
 見上げた上空。腹立たしいほど悠々と、シマイ・マナフが空を飛んでいる。

 そのうち一体を追った彼らの目に――天魔に囲まれたピンクのツインテールが映った。


●薔薇のつぼみ


 ヴァニタス、リコ・ロゼの主はシマイ・マナフ――では、ない。
 本当の主は今、リコを放置して……さて、何処に居るのやら。
 リコが無事で居る事からして、まだ生きている事だけは確かだ。
 しかし、それ以外の事はわからない。

「んー、ほーにんシュギっていうの? リコ、ほっぽらかしにされてたから」
 放置され、退屈したリコは、いつも勝手に遊び歩いていた。
 そしてある日、運命の出会いをしてしまったのだ。

 シマイのヴァニタス、八塚楓と。

 それからというもの、リコは楓の追っかけに全てを賭けていた。
 例え振り向いて貰えなくても、良いように利用されているだけの様な気がしていても、関係ない。
 だって好きなんだから。
「好きな人のためにいっしょーけんめーがんばるのは、乙女のキホンでしょ?」
 見返りなんて、いらないのだ。
「ふー様の役にたてるだけでじゅーぶんだよ♪」
 それはまあ、褒めてもらったりすれば天に舞い上がったまま降りられなくなるくらい嬉しいけれど。
「でも、ぜーたくは敵なの」
 欲張ってはいけない。
 だってリコは、バカでアホだから。
 実を言えば、あんまり役に立っているとも思えない。
 撃退士は強い人ばかりで、リコ自慢のぬいぐるみ達もすぐに倒されてしまう。
 けれど。
「誰かが自分のためにがんばってくれるのって……きっと、うれしいよね」
 例え役に立たなくても。

 だからリコは今、ここにいる。
 楓が助けを求めていると、シマイに言われたから。
 たくさん味方が必要なんだよって言われたから、ぬいぐるみもいっぱい用意した。
 カバさんも、犬さんも、カラスさんも、猫さんも……

 なのに――

「ふー様、いない?」
 ここは近畿地方の某所――だったと思う。多分。
「確か、ほうれんそうの近くって……え、ほーらいさん?」
 とにかく、多分その辺り。
 しかし急いで飛んで来てみれば、辺りは冥魔の大軍と撃退士達が入り乱れる大乱闘の真っ最中。
「え? なに? 何が起きてるの? ふー様どこ?」
 右往左往するうちに、誰かの叫ぶ声が聞こえた。
「撤退だ! それぞれ自己責任で勝手に逃げろ!」
「……てったい? って、なんで? 何がどーなってるの?」
 わけがわからない。
 その時、散り散りに逃げる軍勢の中に見知った顔を見付けた。
「シマウマのおじさん!」
 だが、マフラーをなびかせた男は振り向きもしない。
「あ、待って! ねえ、ふー様は!? ふー様どこ!?」
 無事なのだろうか。
 怪我などしていないだろうか。
 確かめようにも戦場は大混乱、その場に留まる事は出来ない。
 リコは慌ててその後を追った。
 楓の消息を聞く為に。
 しかし、あっという間にその姿を見失い、気が付けば――

「ここ、どこ?」
 迷子になっていた。
 傾きかけた陽は山の陰に早々と姿を消し、空はまだ明るいのに辺りは急速に暗さを増して行く。
 しかもその辺りは天使勢のテリトリーらしい。
「あれ、サーバント?」
 夕闇の中に白く輝く獣の姿が見える。
 キツネの様な、イタチの様な――しかし、その尾は長く鋭い刃物の様な、金属の輝きを帯びていた。
「どうしよう、すっごい強そうだよ」
 リコもディアボロを連れてはいる。
 しかし、あの尾に斬り付けられたらあっという間に真っ二つにされそうだった。

 誰か、助けて。

 そこに近付く、大勢の人影。
 逃げた冥魔を追って来た撃退士だ。

 あれは、トモダチ?
 それとも……怖い人達?

 果たして彼等はリコの救いとなるのか。
 敵か味方か、それは両者が接触するまでわからない――




リプレイ本文

「なんや敵がおるな…」
 薄闇の中に争いの気配を感じた浅茅 いばら(jb8764)は、手前の茂みに身を隠した。
 それが襲っているのは――
「あれ? どうしてこんな所に、女の子が?」
 犬乃 さんぽ(ja1272)が首を傾げた。
 しかし、普通の少女ではない。
 彼女を守る様に取り囲んでいる動くぬいぐるみ達は、先の戦いで北の戦場に現れたというディアボロに似ている。
「じゃあ、あの人…天魔なの?」
 若菜 白兎(ja2109)が声を潜めて囁く。
 困っている人がいるなら、助けてあげたい。
 でも、それが天魔だったら?
(なんとなく…なんて理由で助けちゃってもいいのかな?)
 ほんとはすっごく悪い人だったりしたら?
(でもでも、あのぬいぐるみさんたちも悪い子には見えないですし)
 ふにゅ〜っと悩んでいる所に、カナリア=ココア(jb7592)の声が聞こえた。
「どっちでも良いわ。私はとにかく、困ってる人を見捨てるのは嫌」
 情けは人の為ならず、今はダメでも巡り巡っていつか自分にも良い事がある。
(争いの無い天使、悪魔、人間の楽しい世界を実現するために、今は目の前のリコさんを助けたい)
 それに、どうやら白兎の懸念は杞憂の様だ。
「って、あれ種子島のリコがどうしてここに…?」
「何であの子がここにいるのかしら?」
 いばらとJulia Felgenhauer(jb8170)が首を傾げている。
「知ってる子?」
 さんぽの問いに、二人は揃って頷いた。
「島では一緒に雪遊びをしたわ」
 その時の楽しそうな姿を思い出し、ユリアは迷う事なく飛び出して行く。
「そう言う事なら、話は決まりだね」
 微笑んださんぽがそれに続いた。
「タネガシマでは、色々やらかしてるみたいだけど…それとこれとは話は別なんだよ!」
 サラ・U(jb4507)が頷く。
「本当に困ってるなら、助けてあげなきゃ!」
「そうそう、可愛い女の子が困ってるなら、助けてあげるのが男だよね〜ふふっ」
 白桃 佐賀野(jb6761)の位置からリコの顔は見えないが、きっと可愛いに違いないと野生の勘が告げていた。
 皆の様子に、白兎はほっと安堵の息を吐いた。
 悪い子じゃない。
(なら、安心して助けるために動けるの)
 そうと決まれば善は急げだ。

(まあこれもなんかの縁や)
 スマホの録音機能を起動させ、いばらはリコの元へ走った。
「知らん顔でもなし、この場は助太刀させてもらうで」
 リコが悪い奴ではない事はわかっている。
(…それにうちも…ハーフやからな)
 敵か味方かと問うならば、味方だ――少なくとも今この瞬間は。
「リコ!」
 呼ばれて振り向いたその顔は、今にも泣きそうだった。
(いくらヴァニタスと言ったって、迷子になって困ってる女の子を放っておくなんて出来ないもん!)
 リコを庇う様に飛びだしたさんぽは、今にも飛び掛かろうと身構えていた一頭の鎌鼬に、びしっと指を突き付けた。
「悪い魔物達め、ボクが相手だっ!」
 その指を親指に変えて立て、後ろを振り向きにっこりと笑う。
「助けに来たよ」
「え…っ」
 驚いた様子のリコにもう一度微笑を返すと、さんぽは九字を切ってティアマットを召喚した。
「ならば今、ニンジャの神を呼ぶ…出でよニンジャガミ!」
 その姿はリコの連れている「どらごん」よりも余程ドラゴンらしく、そして頼もしく見える。
 サラはその隣で防壁陣を張り、鎌鼬の切れ味鋭い尻尾を弾き返した。
 リコに対して完全に背中を見せたその姿が「キミを助けに来たんだ」というメッセージだ。
「もう、大丈夫なんだよ?」
「…任せて」
 白兎は疑っちゃってごめんなさい、な気持ちもこめて一言。
 カナリアは、くまの着ぐるみを着込んで前に立った。
 不安を和らげ警戒心を解いて貰うには、相手の好きそうなもので興味を惹くのが一番だろう。
「リコのこと、助けてくれるの?」
 でも、なんで?
「ん、困ってるみたいだし、人を助けるの好きだから…気にしないで、良い」
 コクリ、くまさんが頷いた。
「困ったときは、オタガイサマなんだよ!」
 サラも振り向いてにっこり笑う。
「リコ、ぼーっとしとらんで、あんたも手ぇ貸しいや」
「いばらん!」
「久しぶりね。とりあえず何があったか話してくれるかしら?」
「ゆりりん!」
 いばらとユリア、知った顔を見たリコは思わず二人に飛び付きそうになった。
 次々と襲いかかる鎌鼬の邪魔がなければ、そうしていただろう。
「お友達との感動の再会を邪魔するなんて、無粋な通り魔さんだね〜」
 通り魔は逮捕しなくては。
 佐賀野が展開した呪縛陣の結界に囚われた白い影は、ぴたりと動きを止める。
「初めまして、種子島のリコちゃん…だったかな〜?」
 ツインテールが可愛いね!
「何か困ってるみたいだけど、どうしたの? 迷子? そっかー、俺もよくなるんだよ〜親近感!」
 にこにこと上機嫌で喋りまくる佐賀野だったが、しかし。
 呪縛を振り切った狐達が執拗に攻撃を仕掛けて来る。
「あ〜もう、ゆっくりお話くらいさせてよね〜?」
 そんなお願いが通じる相手ではない事は、わかっているが。
「リコ、説明は後や、先にこいつら片付けんと」
 いばらが共闘を申し出る。
「リコ! ディアボロちゃんに手伝ってもらうこと、できる?」
 サラの声に、リコはどらごんに攻撃を命じた。
 魔法の炎が鎌鼬の白い体を包む。
「よ〜し、この調子でぱーっとサーバント倒して帰ろっか〜」
 佐賀野が言った。
 楽しいデートタイムの為に、頑張るよ!

「あ、もし良かったら…とらさんにお手伝いをしてもらいたいの」
 リコの前で盾を構えながら、白兎は星の輝きで辺りを照らす。
「吠えて威嚇してくれると助かるの」
 それに、傍にいて貰えると嬉しい、かな。
「わたしの頑張りがおおはばあっぷ、なので…」
「うん、じゃぁいっくよー!」
 リコはとらさん達に威嚇を命じた。
 彼等が駆けつけた時には既に三頭が倒れていたが、残る二頭が精一杯の唸り声を上げる。
 うにゃあぁぁっ!
 ふしゃあぁっ!
「猫だね」
「うん…可愛い」
 サラとカナリアが思わず顔を見合わて頷く。
 そんな調子だから、効果の程も余り期待は出来なかった。
「でも大丈夫、威嚇ならボクに任せて!」
 さんぽの命令でティアマットが咆哮を上げる。
 それに気を惹かれ、集まって来た敵達をボルケーノで一網打尽、更にはインパクトブロウで薙ぎ払った。
「行けっ、ニンポー影分身!」
 今は敵同士かも知れないけれど、未来永劫ずっと敵だなんて、そんな考えはおかしい。
(それでどんな時も敵と決めつけて殺し合うようなのもう嫌なんだ)
 救えなかった命がひとつ、まだ心の奥に棘となって刺さっていた。
 だからこそ、もう二度と同じ思いはしたくない、させたくない。
「あっつい炎をオミマイするんだよ! くらえー!」
 手にした鞭に銀色の焔を纏わせ、サラは防御から反撃に転じた。
「ムチって相手を捕まえることもできるよね!」
 攻撃を避けようとする鎌鼬の長い尻尾に鞭を絡ませ、動きを鈍らせる。
 あくまでも守るための攻撃だが、攻撃は最大の防御だ。
 サラは絡めたままの鞭に聖火を纏わせ、そこにカナリアが止めの銃撃を叩き込んだ。
 フリーの敵には目隠で靄を生み出し、認識を阻害させた上で剣で斬る。
「敵の攻撃スタイルは…なるほど、すれ違い様に切るようね」
 ユリアは自分の脇を抜けて行こうとする敵の動きに合わせて刃を置いて待ち構え、その尾が届く前に胴体を斬り払った。
 同時に狙われそうな時は自ら前に出て片方をサンダーブレードで牽制、麻痺が効けばそれは後回しでもう片方を捌く。
 効かない場合でも仲間がフォローしてくれた。
 いばらはまだ遠い距離から飛燕を撃ち放ち、高速の衝撃波でその出鼻を挫く。
「あくまで今回の討伐対象はサーバントや、倒す敵を見誤らんようにせんとな」
 友達の友達を傷付けるわけにはいかない。
「レート差はあるけどそれはあっちも同じだし、攻めの守りって感じでやっちゃおう」
 佐賀野は次々に走り込んで来る敵に、超高温のレーザービームを見舞った。
 守りに入れば不利になるが、攻め続けている限りは優位を保てる。
「それなら、攻撃あるのみだよね〜」
 もし攻撃を喰らっても、相手からたっぷり吸い取ってやれば良いのだ。
 それで足りなくてもアストラルヴァンガードの白兎がいる。
「敵は多くて大変ですけど、皆諦めないでーっ」
 敵の攻撃を盾で防ぎ、或いは弾き返して反撃しつつ、癒しの風で仲間の傷を癒していった。

「これが最後の一頭だよ!」
 サラが鞭でその足を払い、そこに仲間達の攻撃が集中する。
「もう、大丈夫なの…」
 生命探知で辺りの気配を調べた白兎が、こくんと頷いた。
「じゃあ、改めて説明してくれるかしら…ロゼさん」
「リコでいいよぉ、トモダチでしょ?」
 嬉しそうに笑うリコに、ユリアは微笑を返した。
「リコ、何があったの?」
 辺りはもうすっかり暗くなっている。
 ユリアは腰に下げたカンテラに灯を入れて、仲間と共に耳を傾けた。
「そう、好きな人を追ってここまできたのね」
 その一途な思いに、女の子達は「わかるわかる」と頷いている。
 が――
「アホか、あんたは!」
 いばらのカミナリが落ちた。
「この辺の敵は種子島よりもうんと手強いんやで。リコかて死ぬのは嫌やろ? ふー様にも会えなくなるんやで? そんなん嫌やろ?」
「うん」
 リコは萎れた葉っぱの様に項垂れる。
 が、ユリアの一言でたちまち浮上。
「でも、素敵なことね。そこまで誰かを好きになれるなんて憧れるわ。それで、その人の何処が好きになったのかしら?」
「あのね、あのね!」
 延々と続く、ふー様自慢。
「でもそれ…カエデって人のコトだよね?」
 それを聞きながら、サラが首を傾げる。
「なんで、ふー様?」
 最初は読み方がわからなかったのだ。
 でも風の字が付いているから、きっと読み方も同じだと思った。
「リコ、バカだから♪」
「ううん、恋愛にバカもアホもないよ」
 カナリアがその手をしっかり握る。
「私、リコさんのこと応援するよ、頑張ってほしいな♪」
「ありがと!」
「あ、そうだ…これあげる♪」
 荷物からUVケアセットを取り出し、耳元で囁いた。
「女の子はお肌も綺麗にしないと。…気になる男性が居るなら、ね♪」
「うん、リコがんばる!」
「頑張らなくても今のままで充分可愛いよ〜」
 佐賀野が言った。
 しかし女子たるもの可愛いだけではダメなのだ。
「ふー様に、きれいだねって言ってほしいから」
 そうしたら、振り向いてくれるだろうか。
「んー、可愛い〜♪」
 カナリアは、リコの頭を撫でる。
「そうだ、今度からリコちゃんって呼んでも良いかな? 駄目?」
「いいよ〜、リコもカナりんって呼ぶね!」
「リコちゃん!」
「カナりん!」
 だきゅーっ! はぐはぐもふもふ。
 ところで、そのふー様の件なんだけど。
「その彼はこの戦場に現れた報告はないし…どういうことかしらね?」
「え? ふー様いないの?」
 首を傾げたユリアの言葉に、リコは泣きそうな顔になる。
「うん、ここにいないみたいだよ?」
「俺も見てないし、楓ちゃんがこっちに来てるって話も聞かないねぇ」
 サラと佐賀野の言葉に、リコはますます泣きそうになった。
「まったく、相変わらずやな」
 その様子を見て、いばらが「やれやれ」と言う様に首を振る。
「そんなん嘘っぱちかもしれんやろ? シマイも言うてたで、楓は留守番や」
「じゃあリコ、だまされてた…?」
「かもしれんな」
 下を向いたまま黙って何事かを考えていたリコは、やがて顔を上げ、笑う。
「そっか、よかった」
 種子島で無事に留守番しているなら一安心だ。
「リコ、バカだからすぐだまされちゃう」
 えへへと笑うその目の端に、涙が滲む。
 それを拭おうと上げた腕に血が滲んでいるのを見たサラは、持っていたベロアのハンカチをそこに巻いてやった。
「傷は治ってるけど、服が汚れちゃってるから」
 こうして隠しておけばオシャレにも見える、かも?
 目に浮かんだ涙の粒が、ますます大きくなる。
「なあリコ」
 いばらが言った。
「バラの花は綺麗に咲いて綺麗に散るって言うけど、あんたはまだつぼみなんやろ?」
 敵なのはもちろんわかっている。
 でも。
「あんたはホンマにふつーの女の子やんな」
 好きな人のために一生懸命だったり、ドジだったり…だから憎めないのだが。
「うちはあんたの友達でいたい。もしもの時は相談に乗れるような間でいたい」
 不安になったら、いつでも電話してくれて良いから。
 一人で悩まなくていいから。
「…うん」
 大きな雫が溢れて落ちた。

「そうか、道に迷ってたんだ、じゃあ分かる所まで一緒に行こうよ」
 さんぽはヒリュウを呼び出し、視覚共有で辺りを偵察しながら歩き出す。
 ところが。
「種子島は〜んん〜〜あっち! だね」
 佐賀野はまるっきり反対方向にリコを引っ張って行った。
「えっ…逆…?」
 方位術を使ったのに、何故?
「方角が分かれば迷子にならないと思って陰陽師になったのに、まったく直んないんだよね〜」
 でも皆に付いて行けば大丈夫。
「行こうリコちゃん!」
 道中、佐賀野はリコの髪やら服やら褒めまくる。
「それにしてもピンクの髪が綺麗だねぇ、お洋服も可愛い〜! どこで買ったの?」
「えっとね、お店で買ったのちょっと手直しとかしてるんだ」
 リボンとか付けたりして。
「へぇ〜、俺も着てみたいな〜。そうだ、今度ゆっくりケーキでも食べに行かない? 人間界って美味しいものいっぱいだよね」
「いいね! あ、そーだ。みんな女の子なんだし、どうせならこのままお泊まり女子会とかしてみたいな♪」
 だがしかし。
「ぼっ、ボク、男だからっ!」
 振り向いたさんぽが赤くなった顔をぶんぶん振る。
「あ、俺も男だよ〜」
「念の為に言うとくけど、うちも男やからな?」
 久遠ヶ原の性別行方不明っぷり、半端ない。



 やがて一行は山を抜け、近くの国道に出た。
「良かった〜♪ これで帰れるね♪」
 カナリアの言葉に、リコは少し寂しそうに頷く。
 その腕に、白兎はずっと抱えていたもふもふのぬいぐるみを名残惜しそうに返した。
「これ、どうぞ」
 ユリアはその手に実習で作ったチョコクッキーの袋を握らせる。
「帰るまでにお腹が空いたら食べて」
 友達の記念だ。
「次に会うときは敵かもしれん」
 別れ際、いばらが言った。
「でも、今日のことは忘れんといて」
 録音したものはリコの性質や危険性の少なさを示す証拠として保存するつもりだ。
「…敵は、やだよ」
 リコが呟く。
「トモダチが、いい」
「うん、トモダチや」

 見送る皆を何度も振り返りながら、リコは去って行った。
「Tchau(またね)リコ! ハンカチはそのまま持って行って? 返してくれるときに、また会えるんだよ!」
「今度あったら、一緒にスイーツ食べにいこ〜ね〜♪」
 サラとカナリアは、その姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。



「ありがと、みんな」
 また、会えると良いな。トモダチのままで――


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
祈りの煌めき・
若菜 白兎(ja2109)

中等部1年8組 女 アストラルヴァンガード
リコのトモダチ・
サラ・U(jb4507)

大学部4年140組 女 ディバインナイト
看板娘(男)・
白桃 佐賀野(jb6761)

大学部3年123組 男 阿修羅
もみもみぺろぺろ・
カナリア=ココア(jb7592)

大学部4年107組 女 鬼道忍軍
リコのトモダチ・
Julia Felgenhauer(jb8170)

大学部4年116組 女 アカシックレコーダー:タイプB
Half of Rose・
浅茅 いばら(jb8764)

高等部3年1組 男 阿修羅