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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/05/16


みんなの思い出



オープニング




 会津磐梯山は、会津盆地に暮らす人々にとっては故郷のシンボルとも言える存在だ。
 遠く離れた土地で暮らす殆どの人が、帰省の際に車や列車の窓からその姿を見て「ああ、帰って来た」と実感すると言う。
 その故郷の山が今、真っ赤に燃えていた。

 山腹を覆う帯状の炎は、山全体を抱きかかえる様に幾重にも巻き付いている。
 それはまるで、炎に身を焼かれて悶え苦しむ大蛇の様にも見えた。
 いや、そう見えるだけではない。
 山全体を何重にも取り巻ける程の長大な身体を持つ大蛇が、炎を纏ったその身をくねらせながら山腹を這い回っているのだ。


 久遠ヶ原学園に一報が入る。
「炎に包まれた大蛇、先輩がたの予想が的中しましたね」
 会津地方出身の学園生、中等部二年の東條 香織(とうじょう・かおる)は、机に広げた地図に新たな印を付けた。
 前回の依頼に同行した生徒達が話していた通りだった。
 そうなると、この次に来るのは光か闇。そして最終的に敵が狙うのは、各ポイントのほぼ中心にある会津若松市――
「若松の人らにも、注意しといて貰わんとなんねぇべな」
 小等部六年の安斉 虎之助(あんざい・とらのすけ)が頷く。
 最初に襲われのは鶴ヶ城だが、一度襲われたからもう来ないという保証もない。
 寧ろもう来ないだろうと安心している所を衝かれる怖れもあった。
 それに、城や砦は土地の善し悪しや風水を参考に、建てる場所を決める事が多い。
 天魔がゲートを開く場所も同じ基準で決められるとすれば、城跡などは最適だろう。
「ええ、でもまずは――」
「目の前の事、片付けねばなんねぇな」
 先日から警戒を促していたお陰で、一般人の避難は迅速に行われた様だ。
 もっとも、この時期はスキーも終わり、かといって新緑を楽しむにはまだ早い。
 登山を楽しむ客もそれほど多くないのが幸いだった。
「どうやら、蛇が纏う炎は自然のものではない様ですね」
 魔法的な炎なら、草木に燃え移る心配はない。
 蛇と、それを取り巻くディアボロ達の退治に集中する事が出来そうだ。
「今度のディアボロは七本の尾っぽがあんだど」
 ボスの大蛇と同じく、攻撃は炎が主体の様だ。
 火力は高そうだが、前回とは違って積極的に連携を仕掛けて来る様子はないらしい。
 だが、その代わりに数が多い。
「大蛇の方はこれまでと同じ様に、ある程度のダメージを与えれば地中に消えて行くのでしょうが……」
 狐の方は麓の集落や猪苗代湖の方に下りて行かれると厄介だ。

 どうせこれを片付けても、また何処かに次が現れるのだろう。
 しかし、だからと言って放置する訳にはいかなかった。


 ――――――


「この穴が開けば、残りはあと二つかー」
 子供の姿をした悪魔が、不釣り合いに大きな椅子に腰掛けて足をぶらぶらさせている。
「そしたら、いよいよ本格的に活動開始だね」
 悪魔、レドゥは目の前で直立不動の姿勢をとる配下のヴァニタスに笑いかけた。
 ひとりは黒縁のやぼったい眼鏡をかけた中年男、以号。
 本名を宮本章太郎と言うが、自身は感情を奪われている為、その名に対して何の感慨もない。
 もうひとりは格闘タイプの若い女、呂号。
 こちらは生前の記憶を持たず、自分の本名さえ知らなかった。
「ゲート作りは以号、お前に任せるよ……その時になったらね」
 以号はかつて高校の美術教師だった。
 そのセンスで、さぞかし素晴らしい装飾を施した立派なゲートを作ってくれることだろう。
 戦う事しか能のない呂号がそれを守る。
「それまでは二人とも、適当に遊んでて良いからさ――仕事以外はね」
 彼等の仕事は地脈の調査と、そこに流れる気を必要な場所まで通す事。
 そしてディアボロの戦闘データを取り、より強い個体を作り上げる事。

 遊んでいる暇は、多分なかった。 




リプレイ本文

「以前の報告書を読みましたが、今回は『火』ですか」
 山の麓から頂上付近を見上げ、青戸誠士郎(ja0994)が呟く。
 巨大な炎の帯が何重にも絡み付いている様に見えるそれは、全身に炎を纏った巨大な蛇だ。
「……これだけ大きい相手は、初めてかもしれないのですの」
 橋場 アトリアーナ(ja1403)が少し呆れた様に上を見上げる。
 その隣で、雪室 チルル(ja0220)は嬉しそうに目を輝かせていた。
「でっかい蛇ね! あれをやっつけたらきっと最強よね!」
 デカけりゃ強いと、その思考は至ってシンプルでわかりやすい。
 久々の大物にチルルのテンションは急上昇、一刻も早く対決しようと、自然と足も速くなった。
「山火事には至っていないとのことですが、敵が麓に降りてくるようなことがあれば被害は計り知れません。早急に討伐し、土へ還しましょう」
 思惑はどうあれ、急ぐに越した事はない。
 誠士郎は予め調べておいた登山道に仲間達を誘導した。
 限られた時間のなかで得られた情報は多くはなかったが、多少なりとも調べを付けておけばより早く目的地に到達する事が出来るだろう。
 双眼鏡で確認したところ、蛇は常に前進と後退を繰り返している様で、その頭は右へ行ったり左へ行ったり同じ所には留まっていない。
「ならば、なるべく足場が良さそうな広い場所を選んだ方が良いでしょう」


 やがて山道を駆け上がった一行の目の前に、炎に包まれた巨体が現れた。
「近づいてみるとやっぱり大きいね! あたいの獲物よ!」
 チルルが雪の様に白い剣を抜き放つ。
 だが、相手もそう簡単にボスの所へは通してくれない様だ。
「おっきな狐ぇ! いっぱい出てきたよ!」
 白野 小梅(jb4012)が指差した先から、真っ赤な狐が飛び散る火花の如く跳ねて来る。
「燃える大蛇に七尾の狐、まさしく妖怪退治と言った絵面だな」
 その様子を見て、黒羽 拓海(jb7256)が苦笑いを浮かべた。
 これで蛇の尾から剣でも出れば面白いが……などと冗談を言っている場合ではない。
「人的被害が出ない内に、一匹残らず始末するとしよう」
 幸いと言うか何と言うか、狐達はまるで遊びをねだる子犬の様に集まって来る。
 その動きを見る限り、狙いは撃退士。彼等を無視して麓に降りようとする動きはない様だが。
「……誰か空を飛べる人が敵の位置や大まかな動きを把握して、教えてくれると助かりますの」
「わかった、じゃあボクがそれやるねぇ♪」
 アトリアーナの要請に、小梅が応えた。
「ボク空から蛇さんと遊ぼうと思ってたの。ついでに見ておくね!」
「スマホをハンズフリーにしておきますので、よろしくお願いしますの」
 それに木々を素通りされると厄介だ、阻霊符も使っておいた方が良いだろう。
「一応気休め程度のライトヒールが使えるから、大蛇と遊ぶ子は危なくなったらいらっしゃいな」
 そう言って、Erie Schwagerin(ja9642)は小梅を送り出す。
「本当は殲滅戦が好きなんだけど、そうも言っていられないわよね」
 今回はサポートがメイン――とは言え、余裕があれば遠慮なくやっちゃうけど。
 さあ、このまま一網打尽といこうか。

「数が多いわね……散開される前にある程度潰しましょう」
 エリーは、出会い頭に一発ファイヤーブレイク。
 大蛇には届かないが、距離を詰めている暇はなかった。
「私は後方からの魔法攻撃に徹するから、前衛はお願いねぇ」
「わかりました、ここは俺が」
 誠士郎は三つ首のストレイシオンを召喚、その防御効果を使って味方の盾となる。
「麓に被害を出す訳にはいきませんの」
 混戦になる前に、無差別攻撃で可能な限りの敵を叩き潰す。
 アトリアーナは太陽の様に紅く輝く巨大な球体を狐達の群れにぶち込んだ。
「新しく手に入れたスキル……存分に揮わせてもらいますの」
 吹き飛んだ狐達は、その圧倒的な破壊力の前に一撃で戦闘不能。
 敵が散開する前に、更にもう一撃が別のグループに向けて放たれる。
 その隙に、陽波 飛鳥(ja3599)は敵の残骸を蹴散らしながら、群れを離れようとする狐の前に回り込んだ。
(炎か……負けられない)
 灼熱の焔にも見える黄金の光が飛鳥の身体を包む。
「炎は人を焼く為にあるんじゃない。恵みを与える為にあるのよ」
 だから。
「絶対に通さないわよ、ここから先には」
 ゼルクの糸でその足を薙ぎ払い、動きを止めた所で――
 トドメを刺す必要はなかった。
 その一撃で、狐は毛皮の残骸と化す。
 反撃の間も与えず、一体屠ってはまた一体と、飛鳥は狐を確実に仕留めていった。
 その姿に怖れをなして逃げた先にも、アトリアーナとエリーの範囲攻撃が待っている。
「……全部纏めて、薙ぎ払いますの!」
 宣言通り、紅と黒の波動が狐達を容赦なく蹂躙していく。
「今のところ回復が必要な子はいない? いないわね? じゃあ、いくわよ?」
 エリーは手加減なしの魔法をどーんと!
 それを何とか耐えきっても、幸運はそこまで。
 仲間の影から飛び出した微風(ja8893)が蛍丸で斬り付け、トドメを刺す。
 正直なところ、真っ向勝負で切り伏せる自信はなかった。
(けれど、他の方の補助なら非力なわたしにも……)
 こうして倒しきれなかった敵を追撃したり、敵の様子を観察して弱点を探したり。
 非力を嘆くよりも、今の自分に出来る事を。
「防御力は物理、魔法ともそれほど高くはない様です」
 どちらの攻撃も、当たりさえすれば効く。
 動きは素早く回避率も高い様だが、それ以上に仲間達の技術は高かった。
 そして同様に、微風自身も彼等に引けを取らない技術を持っているのだが――自覚がないのか、それとも自信のなさ故に過小評価しているのだろうか。
 まだ距離が遠いものには、拓海が射撃で牽制しつつ距離を詰めていった。
 刀の間合いで闘気を解放し、弱ったものから確実に仕留めていく。
「動かない蛇よりも山を下りる可能性のある狐の方が厄介だからな」
 包囲が手薄な部分は、チルルの指示で香織と虎之助がカバーしていた。
 自分達が注意を引き付けている間は、麓に降りて行く狐は――
『大丈夫、逃げてる狐さんはいないよぉ』
 小梅から報告が入る。
 今の所は上手く行っている様だ。

「にゃんにゃん! GO!」
 光の翼で上空に舞い上がった小梅は、頭上で大きな箒をクルクルと回した。
 そこから飛び出した黒猫の幻影が、眼下の狐を蹴散らしながら走る。
 チルルは大剣を振り回して追撃を加えながら、その後を追った。
 目指すは大蛇の真っ正面、それを牽制し、皆が狐を片付けるまで味方への攻撃を抑えるのが二人の役目だ。
「おっきな蛇ぃ、みんながぁ狐さんと遊び終わるまでぇ、ボクと遊ぼ♪」
 小梅は大蛇の視界の端を掠めるようにちょろちょろと飛び回る。
「蛇さん、こっちら♪ 手のなるほうへ♪」
 大蛇はうるさい蠅でも払うかの様に、巨大な首をぶるんと振った。
 その反動で身に纏う炎が飛び散り、小さな炎の塊となって地上に降り注ぐ。
 続いて大きく口を開け、息を吸い込んで。
 恐らくそれは、炎弾を吐く合図。
「こらぁ、そんなことしちゃ、メッ!」
 小梅はその開いた口に、すかさずクリスタルダストを打ち込んだ。
 両手に集めた冷気のエネルギーを溜めて、溜めて――前へ突き出す!
「どっかーん!」
 煌めく氷の錐が、一直線に蛇の口に吸い込まれて行く。
 しかし、蛇は平気な顔でそれをバクンと呑み込んでしまった!
「えっ!?」
 予想外の展開に、小梅は暫くそこに浮かんだまま呆然と蛇を見下ろしていた。
 そこに再び炎弾攻撃の予兆が――
「待ちなさい、今度はあたいが相手よ!」
 チルルは大蛇の正面に回り込み、挑発でその注意を引く。
 炎に包まれた大蛇が、その巨大な鎌首を下に向けた。
 半分開いたままの口から喉の奥が見える。そこには真っ赤な炎が迸っていた。
「ほんとにでっかいわね! でも負けないわ!」
 至近距離から放たれた炎弾は、チルルの身体を丸ごと飲み込んでしまう程の大きさだった。
 しかし氷甲を展開したチルルは、それを氷盾で受け止める――いとも易々と。
「さあ、反撃の時間よ!」
 大剣を真正面に突き出すと共に、吹雪の様に白く輝くエネルギーが一直線に放射された。
 蛇はその攻撃を、硬い鱗で弾く様に受け流す。
「さすがに硬いわね!」
 しかし、全く効いていない訳でもない様だ。
 チルルは鱗の隙間に大剣の切っ先を突き刺し、それを剥がしにかかる。
 狐退治が終わるまで、もう少し相手をして貰おうか。

 最初の攻防で撃退士達は狐達を圧倒、今や狐達は大蛇の元へじりじりと後退を始めていた。
 だが下がりつつも、攻撃はやめない。
 数が減った事で範囲攻撃も当てにくくなってきた。
「こうバラバラに動かれたのでは効率が悪いな」
 拓海は雷打蹴で狐達の注意を自分に向け、なるべく多くの狐達を一箇所に集めようと誘導を試みる。
 だが、相手もそう簡単に思い通りには動いてくれない。
 結果的に、誘導弾と熱線の集中攻撃を浴びる事となってしまった。
「誘導性能と追尾時の限界回転半径次第だが――」
 拓海は誘導弾をぎりぎりまで引き付けて、急な動きでそれをかわそうとした。
 すれ違う様に斜め前に飛び出し、誘導弾をやり過ごす。
 だが、それは尚も追尾を続け執拗に追いかけて来た。
 飛鳥もわざと狐に向かって突っ込んで行く様に姿勢を低くして駆け、地面に接触する様な軌道に誘導してみる。
 接地の直前、不意に切り返して横に跳ぶ。
 しかしやはり、誘導弾は目標を見失う事はなかった。
「誘導は、狐が目視で行っている様です」
 微風が言い、挑発で狐達の意識を強引に自分へと向けさせる。
(目立つような言動は苦手ですけれど、今は恥ずかしさは押し殺して頑張る時です……!)
 対象への注目が外れた途端、誘導弾もまた目標を見失ったかの様に迷走を始めた。
 拓海が刀で薙ぎ払うと、それは爆発する事もなく蝋燭の炎が消える様にかき消えた。
 連射は出来ないらしく、微風に目を向けた狐達は尾を広げたまま暫くの間じっと動かずにいた。
 今が攻撃のチャンスだ。
 背後に回ったアトリアーナがバンカーを撃ち込む。
 もう一体は飛鳥がゼルクで絡め取り、紅炎村正で斬る。
 敵の注目を集めた微風の前には、誠士郎が立ち塞がった。
 闘気を解放し、双鉄扇で防御しつつ、ストレイシオンに攻撃を命じる。
 その攻撃は簡単に避けられてしまったが、それはフェイクだ。
 ストレイシオンの影から飛び出した微風は神速の一撃、その尾を斬り落とした。
(コバンザメさんのようで、情けない限りですけれど……)
 しかし、それだって立派な戦略だ。
 微風の挑発に乗らなかった狐達は、追撃を阻止しようと後退しながら熱線を放つ。
 その動きを見て拓海は横っ飛びで回避、距離を詰めて斬る。
 だが、その頭上から――

「蛇の炎弾、来るわ!」
 跳躍と同時に飛鳥が叫んだ。
 いつの間にか、蛇の射程圏内に入り込んでいたのだ。
 その標的を自分に変えさせようとチルルが蛇を挑発。
「こっち向きなさい、その口に特大の吹雪を突っ込んであげるわ!」
 しかし、蛇はそれに乗らなかった。
 頭を振り上げ、大きな口を開ける。
 咄嗟の事に反応が遅れた拓海の前に、マジックシールドを展開した誠士郎が立ち塞がる。
「止められないなら、せめて――!」
 発射の瞬間、チルルは比較的柔らかそうな喉を狙って下から氷砲を放った。
 その衝撃で、炎弾は狙いを外れた。
 巨大な炎は味方である筈の狐達を巻き込んで炸裂する。
 ここに至って、大蛇は自ら不利を感じたのか、或いは誰かの指示があったのか、ゆっくりと後退を始めた。

「あら、逃げるの?」
 エリーが少し楽しそうに笑う。
「あまり狐にばかり時間を割くわけにもいかないし、丁度良いから纏めて片付けちゃおうと思ってたのに」
 勿論、どちらも逃がす訳にはいかない。
 攻撃をやめ、まるで何かに引っ張られる様に逃げて行く大蛇、狐達は庇護を求める様にその周囲に纏い付いていた。
「でも逃がさないんだよ♪」
 小梅は蛇の頭の後ろに回り込み、ひたすら黒猫の幻影を放ち続ける。
「にゃんにゃんバリバリ引っ掻いちゃえ〜!」
 箒からぴょーんと飛び出ては、蛇の頭を踏んづけて行く猫達。
 それを追いながら顎の下に潜り込んだ拓海は、纏う炎に焼かれない様に用心しつつ一閃。
 同じ場所を狙って、エリーが魔法攻撃を執拗に撃ち込んだ。
 蛇は苦しげに身をよじる。
 少しでも弱らせて後退の動きを鈍らせようと、微風は追いかけながら封砲を放った。
 狐達も巻き込んだその攻撃を受け、飛鳥は大蛇の胴体に飛び付き紅炎村正で斬り、捲る。
 それはチルルが鱗を剥がした、その場所だった。
 その同じ場所に、拓海が乾坤一擲の一撃を叩き込む。
 後先を考えない攻撃の余波で暫く動けずにいる間、微風がスマッシュを打ち込んでその傷口を更に広げる。
 大蛇が動きを止めた。
「これで、トドメだ」
 首の付け根を狙い、拓海が再びの乾坤一擲。
 そして力なく垂れたその頭部に向けて、アトリアーナがバンカーを撃ち込み――

 大蛇は消えた。
 まるで風船の空気が抜ける様に、あっという間に縮んで何処かに消えた。
 後に残された狐は最後まで抵抗したが、大蛇を倒して意気の上がった撃退士達の敵ではなかった。


「……あの大蛇と、この数の七尾狐……それをこうも易々と片付けるとはな」
 少し離れた林の影で、女の声が呟いた。
 男の声がそれに答える。
「なに、こいつらはまだ叩き台だ。尾が一本増える度に格段に強さを増す」
 まだ七尾。
「あと二本増えれば、そうそう負ける事はないだろう」
 もっとも、勝つ必要もないが――と、男は抑揚のない声で言った。
「あの方の最終目的は……」
 と、そこで言葉を切る。
「どうした?」
 女の言葉に、男は空を振り仰いだ。
「近頃のネズミには、羽根が生えている様だ」

 その声を聞いて、小梅は慌てて逃げ出した。

「そいつらが、あのディアボロを?」
 小梅の報告を聞いて、チルルがその指差した方を見る。
「そう言ってたの。もう、どっか行っちゃったけど」
 二人は小梅の姿を見咎めても、何もして来なかった。
「狐さんの尻尾が九本になって、準備ができたら……また、会おうって」
 そう言って、姿を消した。
「やはり何か、大がかりな事を企んでいる様ですね」
 誠士郎が呟く。
 倒した蛇が死体を残さず消えるのも、その企みと何か関係があるのだろう。
 何がどう関係して来るのか、それはわからないが。
「考えたってわかんないんだし、とにかく今は次に備えましょ」
 エリーが肩を竦める。
「ほら、怪我してる子いるんでしょ? 痛くしないから見せてごらんなさい?」
「あたいも救急箱持って来たわよ!」
 応急手当なら任せてと胸を張るチルル。
 お腹が空いているなら、麓の町で何か食べて行くのも良いだろう。



 今は準備を整え、待つしかない。
 その時は――恐らく、そう遠くはないだろう。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
ルーネの花婿・
青戸誠士郎(ja0994)

大学部4年47組 男 バハムートテイマー
無傷のドラゴンスレイヤー・
橋場・R・アトリアーナ(ja1403)

大学部4年163組 女 阿修羅
金焔刀士・
陽波 飛鳥(ja3599)

卒業 女 阿修羅
穏やかなれど確たる・
微風(ja8893)

大学部5年173組 女 ルインズブレイド
災禍祓う紅蓮の魔女・
Erie Schwagerin(ja9642)

大学部2年1組 女 ダアト
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
シスのソウルメイト(仮)・
黒羽 拓海(jb7256)

大学部3年217組 男 阿修羅