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マスター:STANZA
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
形態:
参加人数:25人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/05/12


みんなの思い出



オープニング



 ゴールデンウィークを間近に控えたその日。
 久遠ヶ原人工島のとある海辺に――海賊船が現れた!


 え、なんで海賊船?
 てゆーかあれ本物?
 しかも二隻も?


 二隻の船は、両方とも同じ作りに見える。
 船の事はよくわからないが、何かの映画で見た事がある様な三本マストの帆船だ。
 今、それは全ての帆を畳み、互いに向き合った形で海岸のすぐ近くに停泊している。
 陸地からの距離とその辺りの水深を考えると、恐らく船は水面から上の部分だけが精巧に作られた模型なのだろう。
 よく目を懲らして海中を見れば、船を載せた巨大な台座らしきものが見えるし。

 しかし、肝心なのはこの台座だ。
 それは上に乗せた船をただ支えているだけではない。
 舵輪の操作ひとつで、まるで本物の波に翻弄される様に船を揺らし、船首の向きを変え、僅かではあるが前後左右に移動させる事も出来るのだ。
 そして船は模型とは言え、実際に人を乗せる事が出来る様に作られていた。
 マストに登る事も出来るし、舷側に付いた大砲を撃つ事も出来る――ただし中身は花火やクラッカーだが。
 船内に入れば、船員用の個室から食堂、風呂、トイレ、娯楽室などが実際に使える状態で備えてある。
 そして勿論、(無駄に)豪華な装飾を施した立派な船長室も。

 そんなもの、一体誰が何の為に作ったのだろう。

 犯人――いや提供者は、とある企業の経営者だった。
 彼はその昔、学園の撃退士に命を救って貰った事があると言う。
 その時の恩返しに、ちょっとした娯楽施設を提供したという訳だ。

 ちょっとした、と言う割には莫大な金がかかっていそうに見える。
 それだけの金があるなら経営難の学園に寄付でもしてくれた方が助かると、学校関係者は内心で思っていたに違いない。
 しかし人の善意や感謝の気持ちに注文を付けてはいけないのだ。

 それに生徒達には概ね好評だし。多分。

 何しろ、その船を使えばかなり真に迫った海賊ごっこが出来るのだから。


 という訳で、さっそく遊んでみよう。

 まずはお披露目も兼ねて、ギャラリーを招待しての「お姫様争奪戦」でもやってみようか。
 互いの船に拉致した「お姫様@年齢性別不問」を、どちらが先に助け出す事が出来るかを競うのだ。

 大雑把な基本シナリオはこうだ。
 ・青と赤は共に海賊団で、古くからのライバル関係にある。
 ・彼等は常に、お互いを出し抜こうと競い合っているが、今の所その実力は互角。
 ・今回、青の海賊団は赤の団員(お姫様)を誘拐し、これを人質に全面降伏を迫った。
 ・ところが同じ頃、赤の盗賊団も青の団員(お姫様)を誘拐し以下同文。
 ・交渉は決裂、互いに仲間を取り戻すべく船上での戦いが始まった――

 後は各自で適当にアレンジを加えてくれれば良い。
 チャンバラをしたり、ロープで相手の船に飛び移ってみたり、マストの上での決闘とか……海には人食い鮫がいる、なんて設定を加えても良いだろう。
 撃退士なら超人アクションだって簡単に出来そうだ。
 海岸には大勢の見物人がいるが、彼等の事は余り気にしなくて良い。
 本気で遊べば、それは自然と楽しいショーになる。


 さあ野郎共、錨を上げろ! 帆を張れ!
 海賊の誇りにかけて、我らのお宝を取り返すぞ!



リプレイ本文

●野郎共、配置に付け!

 今、赤と青の二隻の船は互いの船首を突き合わせ、睨み合う様に対峙していた。
 右側に位置する青の海賊船には海よりも濃く青い帆が、左側の船には血潮の様な赤い帆が張られているが――

「船長、青の海賊船の様子がおかしいですね」
 ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)が後部甲板で舵輪を握る船長の耳元で囁く。
 黒い眼帯に白いマントを翻した彼は、とても海賊とは思えない知的で優雅な雰囲気を身に纏っている。
 だが、彼はれっきとした海賊。しかも船長の腹心、最も頼りになる参謀であった。
「な、何がで御座るか参謀殿?」
 赤の船長、静馬 源一(jb2368)は、耳元で感じる吐息にちょっとゾクゾクしながら首を傾げる。
 参謀は船長の上に屈み込むと、その小さな顎をくいっと持ち上げて、顔を横に向けさせた。
「あれをご覧なさい」

 その目の前で、青の海賊船は変貌を遂げた。
 青い帆は黒く変わり、破れて垂れ下がった切れ端が風に揺れる。
 その中央に描かれた巨大なドクロのマークが、淡い光を放っている様に見えた。
 船体も真っ黒、そしてマストの先には人魂の様な青白い光がゆらゆらと揺らめいている。
 甲板の中央では、マストのてっぺんからロープで吊るされた何かが、振り子の様に揺れていた。
 それは、青の船長の白骨死体――

「ゆ、幽霊船で御座るぅぅっ!?」
 赤の船長は、踏み台にしていた木箱の上から転がり落ちた。
 ちょっと待って、そんなの聞いてないよ!
 思わず尻餅を付いたままの格好で全速後退する船長、しかしその背を参謀が受け止めた。
「落ち着いて船長。あれは…」
 くすくすと可笑しそうに笑う参謀の様子に少しムクれながらも、船長はもう一度それを見る。
 息を整え、落ち着いて――

 白骨死体が、ニヤリと笑った。

「拙者もう帰るで御座る! 帰るで御座るぅ!!」
 船長すっかり涙目&パニックでござる。
 しかしそれは勿論、本物の白骨死体でもなければ幽霊船でもない。
「ふっふっふ…赤の小僧には、ちと刺激が強すぎたか」
 青の船長ヴォルガ(jb3968)はロープから首を外し、甲板にふわりと舞い降りた。
 金モールの黒い船長服に、ドクロのマークが付いた海賊の帽子。
 その下にある顔はどう見ても骸骨だが、幽霊でも生ける屍でもない――悪魔だ。
 しかし、生まれついたこのビジュアルを演技に生かさない手はないだろう。
「なんと、ヴォルガ殿で御座ったか…」
 赤の船長は大きな溜息と共に甲板に倒れ込んだ。
「脅かさないで欲しいで御座――あ、自分びびってなどいないで御座るよ! 打ち合わせになかったから、少し驚いただけで御座る!」
 慌てて立ち上がった赤の船長、膝がプルプルしているのは…そう、船が揺れてるからでござる!
 それを見て、骸骨船長は威厳と貫禄たっぷりに笑う。
「我が名はキャプテンヴォルガ…船員諸君! …派手に行こうじゃないか」
 片手のサーベルを高々と掲げ、配下の海賊に命令を下した。
 それに応えて、幽霊船のあちこちから勇ましい声が返って来る。
 負けじと赤の船長も精一杯の声を張り上げた。
「七つの海は自分のもの! 自分のことはしずませんちょーと呼ぶで御座るよ! わーっはっはっは!」
 船長服はちょっとダブついているが、気合いは一人前!
 テンションMAX状態で船首に足をかけてサーベルを振りかざし、叫んでいる彼に死角はない!
「全軍突撃なので御座るー! ひゃっはー!」
 作戦? それを考えるのは参謀の仕事だよね!


●野郎共、突撃だ!

「いえーい! 海賊だ! 無法地帯だヒャッハー!」
「ワクワクが止まらないー」
 幸宮 続(jb9758)とグラサージュ・ブリゼ(jb9587)は、フリフリ袖のシャツの上に丈の長いベストを羽織り、腰を幅広のベルトで締め、頭にはバンダナという、いかにも海賊の手下っぽい衣装に身を包んでいた。
 幽霊船の船首に立った二人は、出陣を前に互いの健闘を祈る。
「同志グラ、かの敵船には我らが姫君が捕われていることは承知の上だろう」
「もっちろーん! 麗しの姫君との噂だよね」
 噂は噂、真実は――その目で確かめるべし。
「この勝負、どちらにも正義などない」
「え、そうなの?」
「しかし、それでこそ我ら海賊の戦いに相応しいと言えるだろう!」
「んん…難しいことは置いといてー、ゴーしてバーンってするよー!」
 考えるより先に突っ込め!
 グラサージュは両手のサーベルを振り回しながら、赤の船に飛び移ろうと陽光の翼で舞い上がる。
「…トゥァ!!」
 続もそれを追って、慌てて飛び上がろうとした――その時。
 ぐるんっ!
 船首が回転し、続の身体はぶん投げられる様に放り出されて明後日の方向に飛んでった。
「ふわあぁ!? 続くん何故そっちに!」
 いけない、捕まえてあげないと!
 しかしグラサージュの両手はサーベルで塞がっている!
「ああっ、なんで私は二刀流なんかに!」
 片方を鞘に収めれば良い、なんて事は思い付かない。
 一度出したものを引っ込めるという考えは、常に前向きな彼女の頭には存在しないのだ。
「そうだ!」
 こうなったら、投げてしまえ!
「えーい!」
 グラサージュの手を離れたサーベルは、赤の船長を目掛けて一直線。

「船長、危ない!」
 それを叩き落としたのは、後ろから飛び出した水夫長の犬乃 さんぽ(ja1272)だった。
「ボクは赤の海賊団のナンバー2、静馬船長の右腕! 船長はボクが守るよ!」
 本当は守るフリして…げふんげふん、なんでもないヨ!
「おぉう、かたじけないで御座るぅ!」
「しかし、ここは危ないですね。後方に下がりましょう」
 参謀が促す。
 しかし船長は頑としてその場を動かなかった。
 それどころか自ら率先して、敵船に乗り込もうとしている。
「自分、骸骨船長に尋常なる一騎打ちを申し込むで御座る! 例え、相手が骨だけで御座ろうと恐るるに足らずなので御座るぞー! ひゃっはー!」
 思いきりビビりまくったのはもう過去のこと。
 だがしかし。
「静馬船長、それは物語のクライマックスに持って来るべき最大のハイライトですよ」
 参謀に襟首を掴まれ、引き戻されてしまった。
「部下を信じ、後方でどっしり構えて待つのも船長たる者の務めです」
 向こうの骸骨船長の様に。
「そうだよ、船長が真っ先にやられちゃったら、その時点でボク達の負けなんだから!」
 って水夫長、なにげに負ける前提で話してませんか。
「とにかく、切り札は最後までとっておくものだよ!」
 大丈夫、船長の見せ場は後でちゃんと作ってあげるから。
 多分。
 何やら波乱の予感がするけどね!

 船首を回した二隻の船は、互いに舷側を並べる形となった。
 号令一下、互いの船に乗り移る戦闘員達。

「海賊と聞いちゃ黙っていられるわけがねぇなぁ」
 のっそりと現れたのは、ジェイド・ベルデマール(ja7488)、本物かと思うほどに海賊姿が板に付いている。
「良いねェ、久々の船だ。お遊びなのが勿体ねぇが、こういうのも悪かぁねぇや」
 芸事の覚えはないから、思った様に演技は出来ないかもしれない。
 しかし彼の場合、演技などしなくても素で充分だった。
「おうおうてめぇら、気合入れてけよ!」
 仲間の背中と言わず尻と言わず手当たり次第に叩いてハッパをかける。
「えっと、このような時はアイアイサー! …で合っているでしょうか?」
 しかし役になりきろうと努力はしているものの、海賊に関する知識に乏しいユウ(jb5639)は今ひとつ乗り切れていない様子。
 そんな彼女に、ジェイドは言った。
「なぁに、海賊に正しいもクソもねぇさ。海賊仲間の掟はあるが、それ以外は全て自由だ、好きな様にやんな」
 正しさとは、己の心にある真っ直ぐでブレず、曲がりも折れもしない太い芯。
 他人の中に基準を求める正しさは、海賊的には胡散臭い紛い物なのだ。
「自分を信じて、自由に楽しみな」
 束縛を嫌い自由を愛する、それこそが海賊。
 清く正しい正統派海賊が言うのだから、間違いはない。
「アイアイサー、です!」
 丁寧な言葉遣いがどうしても抜けない様だが、それはそれで良し。
「じゃ、行くぜ野郎共!」
 全力跳躍で真っ先に相手の船に飛び移ったジェイドの周囲を、敵の守備陣が取り囲む。
 しかし斬込み隊長は怖れず怯まず、それどころか楽しそうに笑った。
「要は襲ってきた連中を落としゃァ良いんだろ?」
 腰に手を当て、サーベルの背でトントンと自分の肩を叩く。
「さあ、派手にやろうぜ?」
 一斉に襲いかかる下っ端どもの剣を打ち払い、足を引っかけて転がし、樽と一緒に蹴り飛ばし、或いはその身体を盾にした後で海にぶん投げ――
 正統派海賊の大立ち回り、とくとご覧あれ!

 無事に続を捕まえたグラサージュは、彼の飛べない豚スキル発動を阻止すべく、ぎゅっと抱き抱えて一緒に飛んだ。
 そうなると必然的に二人の身体は密着する。
 思わず高鳴る乙女の鼓動。バレないようにと祈れば、心臓はますます早鐘を打った。
「え、えっと、もう大丈夫だよね!」
 敵船の上空まで運び、グラサージュは回した腕をそっと解き放つ。
 後は降りるだけなのだから、流石にもう暴走する事は――
 しかし甘かった。
 続の飛べない豚っぷりは彼女の想像を遥かに超え、何故か猛スピードで赤の船体目掛けて特攻を開始!
「駆逐してやる! この船から…、一人残らず!! ――ごふぅ!?」
「続くん!?」
 見事、頭から甲板にメリ込んだ。
「大丈夫!? すぐ引き抜いてあげるからね!」
 しかし、それを取り囲む赤の海賊団!
「ごめん、少しだけ待ってて!」
 先に邪魔者を片付けるから!
 しかし多勢に無勢、グラサージュは手にしたサーベルを弾き飛ばされてしまった。
 丸腰では戦えない。
 と、その目に飛び込んで来たのは――甲板に深々と突き刺さる一本のサーベル。
「あれ、さっき投げたやつ!?」
 横っ飛びでそれに飛び付き、柄に手を掛けて引き抜こうとするが。
 抜けない。
 グラサージュ、危うし!
「待ってろ同志グラ、今、助けに…」
 行きたいんだけど、抜けな――抜けた!
 自力で頑張っていた続は無事に脱出、同時にグラサージュのサーベルも――
「抜けた!」
 と思ったら、手からすっぽ抜けた!
 そして見事、続の頭部にクリーンヒット!
「我が生涯、一片の悔いなし…」
 がくり。


●因縁の対決!

「紫苑サン、そのフック邪魔じゃねぇです?」
 ちょっと心配そうに訊ねる百目鬼 揺籠(jb8361)に、紫苑(jb8416)は左手に嵌めた大きなフックをぶんぶん振って見せた。
「じゃまじゃねーでさ!」
 多分、何かの映画でも見たのだろう。
「かいぞくっていったら、これやんなきゃいけねぇ」
「まぁいいでしょう」
 言い出したら聞かないんだから、この子は。
 百目鬼は諦めた様に軽く溜息を吐くと、紫苑の頭にぽんと手を置いて前を向いた。
「派手に一発、敵を蹴散らしてやりましょうか」
「おう、カランのにーさんが向こうで待ってやすぜ!」
 紫苑は一足先に翼で飛ぶと、敵船に張られた一本のロープを切り落とし、その先を百目鬼に向けて投げた。
「ドウメキのにーさん、そいつでぱーっとひとっとびでさぁ!」
 ぶんぶん手を振り、こっちこっちと合図を送る。
 だかしかし、その間に横たわるのは波打つ海。
(だ、駄目だ、下を見ちゃいけねぇ)
 この海賊、実は泳げない。
 泳げなくても視線は泳ぐ、それはもう自由自在かつハイスピードで。
 しかし、その技術はどう考えても水の中では役に立ちそうになかった。
「どうしたのかな、百目鬼君?」
 向こうの船から、くすくすと楽しそうな声が聞こえる。
 青の海賊、船の守備を担う尼ケ辻 夏藍(jb4509)だ。
「さあ、飛び移って来るが良いよ、私が受け止めてあげようじゃないか…このサーベルで」
 受け止め、そして叩き落とす。
 攻撃は最大の防御って言うよね。
「そのまま海水浴は如何かな? 大丈夫。この時期は水も暖かいよ」
「そっちこそ海に叩き落として、そのまま引き籠らせてやらァッ」
 売り言葉に買い言葉、しかし買ったは良いがこのまま飛び出せば確実に海にドボンだ。
「ドウメキのにーさん、おれがカランのにーさんをひきつけまさぁ!」
 マストに駆け上がった紫苑は、そこから伸びるロープにフックを引っかけて滑空、夏藍の背後から猛スピードで迫る!
「おや、威勢の良いお嬢さんだね」
 サーベルを構えて迎撃態勢に入る夏藍、だが紫苑は言い放った。
「かっこいいかいぞくのおきて、その一! 女をこうげきしねぇことでさー!」
「それはもしかして、反撃禁止という事かな?」
 当ったりー!
 紫苑は滑空しながら片手で長銃の銃身を握って振りかぶる。
 しかしロープの軌道を考えれば、それを避けるのは難しくなかった。
 攻撃が駄目なら逃げれば良いじゃない。
「あーっ!」
 派手に空振った紫苑は、そのまま海へまっしぐら。
「おっと、お嬢さんを濡らしてしまうのは忍びないね」
 慌てて追いかけ、その身体を抱きとめる夏藍だったが。
 その隙に飛び移って来た百目鬼が、夏藍の背中からサーベルを振り下ろした。
「後ろからとは、随分と卑怯な真似をしてくれるものだね?」
「とか言いつつ、しっかり受け止めてンじゃねェか」
 背に回したサーベルの刃で攻撃を受け止めた夏藍は、手首を返してそれを受け流しつつ、百目鬼に向き直った。
 紫苑の背中をそっと叩き、離れるようにと促す。
 ここから先は男の戦いだ。
「男にはゆずれねぇたたかいがあるんでさ…」
 かっこいいポーズ(主観)で仁王立ちしつつ、戦いを見守る紫苑。
 邪魔する無粋な連中には、キツいお仕置きが待ってるぜ!
 気配を殺して背後に回り込み、ターゲットロックオン。
 長銃を振りかぶり、開いた足の間から股間に向けてフルスイング!
 かっキーン!
「へっ、タマもらいやしたぜ(ぺっ」
 二重の意味でな!
 悶絶する名もなきモブ海賊に、紫苑はチンピラ顔で中指を立てた。
 意味は知らないけど、よくガラの悪い人がこんなポーズしてる!(よいこはまねしてはいけません)
 YESシリアルNOシリアス、って言うかシリアスなんて最初からなかった。
 そして仲良し妖怪さん達の戦いは続く。
 サーベルの一撃を受け流した夏藍は空いた片手でカウンターパンチ、しかしそれを掌で受け止めた百目鬼はそのまま相手の手首を捻り上げ、体を入れ替えて背後に回った。
 片腕を封じられた夏藍はしかし、百目鬼の足を思いきり踏んづけ、スネを蹴る。
「ってぇっ!!」
 思わず跳び離れた百目鬼だったが、運悪くそこは甲板の縁。
「さぁ、派手に落ちておくれ」
 とん。
 肩を軽く押されただけで、バランスを崩した百目鬼は海へと真っ逆さま。
 しかし彼は往生際が悪かった。
「道連れにしてやらぁ!」
 夏藍の足にロープを引っかけ、思いきり引っ張るが――
「私は別に、落ちても構わないんだよ?」
 にっこり笑って一緒にどぼーん。
「ドウメキのにーさん!」
 紫苑が慌てて助けに飛び込もうとするが、自分だけさっさと上がって来た夏藍がそれを止めた。
「でも、ど、どら○もんになっちまいやすぜ!?」
 うろうろおろおろする紫苑の耳に、沈みかけた百目鬼の声が。
「それを言うならどざえもんでさ…」
 ぶくぶくぶく。
「大丈夫、そのうち浮かんで来るよ。ぷかーりと、ね」
 それじゃ手遅れな気がするんですけど!
 
 その頃、青の幽霊船ではもう一組の対決が行われていた。
「突撃アルノミネ!」
 王・耀華(jb9525)は突撃の合図と共に敵船にまっしぐら、そこで出会ったのは――
「ム、ソコニ見エルハ我ガ宿命ノライバルアルネ!」
「あら、ニーハオじゃな…っと、違った、今回は長年のライバル設定だったわね!」
 マリア(jb9408)は事前に交わした約束を思い出し、慌てて首を振る。
 そう、普段は店のオーナーと、そこで働く看板娘。
 だが船の上では名も知らぬ、しかし互いに一目置く存在なのだ。
「此処デ会タガ数日振リ。今日コソ決着、着ケルアルネ!!」
 デッキブラシを構え、耀華はぴたりとマリアに視線を据える。
「括目スルアルヨ!」
 れっつ、ダンス!
 そう、これは二人の意地とプライドを賭けた壮絶なダンスバトルなのだ!
 だって武器で斬り合ったりするのって、無粋で野蛮じゃない。
 というわけで、耀華は華麗に舞う。
 デッキブラシを剣にして、ついでに甲板掃除をしながら舞う。
「一石二鳥アル!」
 どや!
「見タカ! ワタシノ華麗ナル舞!」
「ふっ、なかなかやるじゃない。流石アタシが見込んだライバルだわ」
 でも負けない!
「特別に魅せてアゲル。アタシのフロリダ仕込みのショーダンスをっ!」
 何処からともなく流れて来る、激しくも熱いサンバのリズム!
「さぁ、酔うと良いわン。この腰遣いに」
 激しく腰を振り、マリアはキレッキレの踊りを魅せる。
 ダンスバトルは終わらない。
 多分、船に平和が訪れるまで。


●囚われの姫(?)達

「お姫さまという柄ではないのですが、人質になってみたの…」
 華桜りりか(jb6883)は、青の幽霊船に囚われていた。
 見た目は幽霊船だが、外装を弄っただけで船の構造自体は赤の海賊船と変わない。
 今、りりかは謎の美女と共に、船室の一角に閉じ込められていた。
 二人は両手と両足をロープで巻かれ、太い柱に括り付けられている。
 その柱は恐らく、メインマストの基部だろう。
 つまりここは船の最下層、その中央部だ。
「ひどいことするのはやめて!」
 謎の美女が涙ながらに訴えているが、別に酷い事はされていない…と思う。
 縛り方はきつくないし、見張りはいるが武器で脅している訳でもない。
 だが、それでも彼女にとっては耐えがたい苦痛である様だ。
「あの、もし良かったら…この人だけ、でも。ロープを解いてあげて欲しいの…です」
 逃げたりしないからと、りりかは見張りに頼んでみる。
 しかし、その要求は当然ながら受け入れられる筈もなく――

 その時。

 小麦色の肌をした爆乳美女の身体が黒く染まり始めた。
 擬態が解けたのだ。
 その正体はUnknown(jb7615)、黒くてデカくてフリーダム、自称ザコキャラのはぐれ悪魔だ。
「わがはいザコキャラだからつかまったタスケテはよしろ」
 助けろと要求する彼はしかし、既に拘束を解いて威圧感たっぷりに仁王立ちしている。
 元々ロープなど撃退士の力があれば簡単に引きちぎる事が出来るだろうが、そこは空気を読んで素直に助けを待つのが大人の対応というものだろう。
 しかし、彼に人間の常識やら何やらは多分気が向いた時しか通じない。
 あんのうんならしかたない、のだ。
 Unknownは一人でさっさと部屋を出て行く。
 りりかも、青の海賊達も、その後ろ姿をただ黙って見送るしかなかった。

 一方こちらは赤の海賊船。
 囚われているのは姫――ではなく、コックコートを着た料理長だった。
「めいっぱい、楽しむんだー♪」
 九鬼 龍磨(jb8028)は囚われの身である事を気にする風もない。
 と言うか、囚われの身である筈なのに、何故か自由に動き回っている。
「うん、食材はちゃんと揃ってるね」
 船の食料庫をチェックした彼は、自分の監視役である赤の海賊達に命じた。
「じゃあ、まずはジャガイモの皮むきを手伝ってね♪」
 どさりと置かれたイモの山に、赤の海賊達は互いの顔を見合わせる。
 何がどうしてこうなった。
 人質は姫じゃなかったのか。
 いや、料理長を拉致すれば敵の士気も下がるだろうって誰かが。
 誰かって誰だよ責任取れよ!
「はいそこ、喋ってないで手を動かす!」
 キッチンを占拠し、どんどん料理を作り続ける彼の手法は兵糧攻め…いや、逆兵糧攻めと言うべきか。
「僕の後ろに立つと怪我するよ?」
 邪魔をするならセ○ールばりの合気道なアレで容赦無く叩き潰すからね!

 誰か、この人さっさと連れて帰って!
 でないと食料が!
 食料が底を突いてしまいます!


●赤の戦場

 青の海賊団、若杉 英斗(ja4230)はそれはそれは深い溜息を吐いた。
「人質がかわいい女の子だったらやる気も出るんだけど…」
 捕まってるの、料理長だもんなー。
 そりゃ、料理は大事だけど。
 でも男だし。
 男じゃモチベ上がらないよね。
 でもまあ、とりあえず戦う前に自己紹介。
 コレ大事。
「久遠の海は、俺の海。若杉です」
 赤の船に乗り込んだキャプテン若杉の格好は、右目に黒眼帯、赤い裏地の黒マント等、某命を捨てて生きる人のコスプレにも見える。
 適当に剣を振り回しつつ、キャプテンは船室へと向かった。
 しかし、その前に敵の罠が!
「…っ!?」
 船室に通じる階段前の床には、蝋がたっぷりと塗り込まれていたのだ。
 見事に転ぶキャプテン、転んだ拍子にマントが絡まって動きが取れない!
 その頭上から、鉄砲玉と共に勝ち誇った笑い声が降って来る!
「はっはっはー♪ 命が惜しければさっさと投降することだね☆」
 マントの下から漸く顔を出してみれば、そこにはインテリ海賊ジェラルドの姿があった。
「誇り高き海賊が、投降などすると思うか!」
 サーベルを抜き放ち、果敢に挑みかかるキャプテン、迎え撃つジェラルドもサーベルを抜いた。
 剣と剣とが火花を散らす。
 しかしキャプテンの動きには、いつものキレがない。
 だって女の子いないし、それに。
(片目だと…遠近感が…)
 でもコメディーならきっとなんとかなる。
(はやく終わらせて、パーティーに雪崩込むんだ…)
 それだけが心の糧だった。

 その時。

「さぁ…伝説の始まりや!!」
 戦いに乱入したのは、青の海賊ゼロ=シュバイツァー(jb7501)!
 しかし別に、キャプテン若杉の援護に来たわけではない。
 彼はただ暴れたいだけなのだ。
 よって、敵も味方も関係なく、目についた者は全て海に叩き落とす――このハリセンで!
 しかし。
 ちょっと待った、海賊にハリセンって何!
「なんや、なんぞ文句でもあるんか」
 だって言ったじゃない、ここは海賊らしい武器でって!
「海賊がハリセン持ったらあかんのか? つーか寧ろこのミスマッチがギャラリーには受けるんや、黙って見とけ!」
 …まあ、いいか。
「よーし、行くでジェラやん!」
「ふ、大層な威勢だが、この僕に勝てるとでも?」
「勝てる、右手にライトニング左手にソニック、このハリセン二刀流なら!」
 そして始まるハリセン乱舞、しかしジェラルドは強敵だった。
 流石は船長の腹心、切れるのは頭だけではないのだ!
「やるやないか、ジェラやん。だが、俺にはまだ奥の手があるんや!」
 取り出したのは黄金に光り輝く巨大なハリセン!
「この黄金の輝きの前に散れ!」
 闇の翼で舞い上がり、闘気解放と共に上空から叩き付ける!
 しかし、まあ…何と言うか、いくら巨大でもハリセンはハリセン、所謂ネタ武器である。
 音こそ派手で気持ち良いが、その破壊力は決して高いとは言えないどころかぶっちゃけ低い。
「残念だったね、ここから先は一歩も通さないよ?」
 不敵に微笑む参謀ジェラルド。
 しかし!

 既にこっそり通り抜けている者がいた。
 そう、キャプテン若杉である。
 彼は二人が争う隙に船内に侵入、人質の捜索に当たっていたのだ。
「たぶん船室のどこかだよね」
 船長室か、それとも厨房――見付けた、料理長だ。
 何だかすっかり馴染んじゃって、助ける必要もない気がするけど。
「あ、美味そう」
 これはパーティーに出す料理だろうか。
 ちょっと失礼して、味見させてもらいますねー。
 だがしかし。
「つまみ食いとは不届きな! 成敗!」
 料理長はその手を捻り上げ、投げ飛ばす!
 油断していたキャプテン、味方の攻撃に撃沈――
「この船は僕の調理場だ、邪魔するやつは前に出ろー!」
 しませんしません、どうぞ心ゆくまで料理をお楽しみ下さい!

 コック、最強?

 こんな調子だから、彼の救出は必要ないと言うか寧ろ敵が気の毒なレベルだ。
 だが青の海賊団は知らなかったのだ、料理が絡むと豹変し最凶の存在となる彼の本性を。

 だから彼等は、身代わりを送り込んだ。
「ハル…閉じ込められるの、慣れてる、から…」
 その名はハル(jb9524)、れっきとした成人男子だが――なんかドレス着せられてるんですけど。
 しかも似合ってるし、可愛いし、姫と呼ばれて違和感ないし。
 こんな姫ならきっと、キャプテンも張り合いがあった事だろう、残念ながら既にダウンして医務室に運ばれてるけどね!
 だが本人には、自分が身代わりになるという意識は欠片もないらしい。
 故にハルはただ、己の興味の赴くままに、赤の海賊船内をふらふらと彷徨い歩く。
「ハル…何処に居る、の?」
 はい、迷子になりました。

 ロジー・ビィ(jb6232)は、青の突撃隊長だ。
「女だてらだからと言って甘く見て貰っては困りますわ!」
 その行動は少しイカレていると、仲間の間でも評判だった。
 影では恐怖と尊敬の念を込めて、クレイジーロジーと呼ばれているとかいないとか。
「さぁ、皆の者、行きましてよっ!!」
 配下の海賊に号令をかける。
「敵をこてんぱんにして差し上げましょう」
 はいさっさと行って壁になる、モタモタしない!
 そして自分は壁の後ろから敵を挑発、その注目を一身に集めた。
 さあ、あたしが敵の目を引き付けている間に、皆はここを突破して人質の救出に急ぐのです!
 ――なんて、言うと思いまして?
 敵を思いっきり挑発しながら、自分はさっさと壁の後ろに隠れるのですわ!
 そうすればほら、敵の攻撃は全て彼等が身代わりに受けて下さる!
「え? だって…痛そうだったんですもの」
 にっこり微笑むその姿はまさに天使、ただし殺戮の。
 ロジーは倒れた壁を越えて(踏みつけて、とも言う)、赤の海賊船に侵入した。
「さぁ、ここからが本番ですわよ!」
 敵兵役のエキストラをばったばったと薙ぎ倒し、倒したその身体を積み上げて何やらオブジェのようなモノを創り上げていく。
「ほら、海賊にだって芸術性は必要でしょう?」
 満面の笑顔を向けられては、誰も否定など出来る筈もない。
 だって命は惜しいもんね!
 後で危険手当を弾んで貰うという事で手を打とう。
「え? 非人道的だ、って言ったのは誰でして?」
 言ってないよ気のせいだよ、思ったけど口には出してないよ!
「まぁ! アナタもオブジェの仲間入りをしたいのですわね?」
 ころころと笑いながら足取りも軽く近付いて来る、少しどころじゃなくイカレた殺戮の天使。
 それがカメラに記録された、最後の映像だったそうな。

 そのオブジェの影に潜むのは三毛猫のライムとその相棒、九十九(ja1149)――え、逆?
 気にしない気にしない。
 混乱に乗じて船内に潜入した彼等は、得意の忍び足と鍵開けを駆使しながら人質を捜して回る――というのは建前で。
 だって勝敗とか興味ないし、人質の人選から見て苦境に陥っているのは寧ろ敵側である事はほぼ確実だし、だとしたら敵を助ける義理はないわけで。
 だからこれは、個人的な趣味と関心の元に行われる、ただの宝探しなのである。
「海賊船に隠されたお宝なんて、なんだかワクワクしますよねぇ〜」
 船室を片っ端から調べ上げ、奥へ奥へと進む一匹と一人。
 進むにつれて次第に見張りの数が増えて来たのは、重要ブロックに近付いた証拠だろう。
 角を曲がった先に見えた廊下には、数人の見張りの姿があった。
「隠れて進むのは無理そうですねぇ」
 その声に、ライムが動いた。
 九十九のポケットからネズミのオモチャを引っ張り出し、それを転がしながら追いかける!
 カラカラコロコロ、ずだだだだーっ!
「な、何だ!? ネコ!?」
 突如として始まった運動会に、見張りはちょっとしたパニックに。
 その隙に背後のドアに滑り込んだ九十九は――
「…ちっ」
 思わず舌打ち。
 そして何も見なかった事にして、回れ右。
「あ、ちょっと! 待って下さいよ、あなた青の海賊でしょ!?」
 リセットボタンを押しかけた九十九の指を、赤の海賊が止めた。
「人質を助けに来たんですよね!? だったら連れて帰って下さい頼むから!」
 そう、そこは調理室。
 あの料理長が囚われている、いや占拠している部屋だったのだ。
 しかし赤の海賊の涙ながらの懇願にも関わらず、九十九は無情に背を向けた。
 尚も追いすがる敵、しかしそこに襲いかかる投げナイフの嵐!

「ん? 何かあったのかな?」
 くるりと振り向いた料理長の周囲、壁やら調理台やら、至る所にナイフが突き刺さっている。
 が、彼自身は無傷どころか戦いに気付いてさえいない様子で、腰を抜かした赤の海賊達に言った。
「まあいいや、ちょっとスープの味見してくれるかな」
 それと食材が足りなくなったから、青の海賊船から盗って来てくれる?


●青の戦場

 料理人と言えば、赤の海賊も負けてはいない。
 こちらには戦う忍者コックさん、至って普通のもこもこ黒猫忍者カーディス=キャットフィールド(ja7927)がいるのだ!
 今日の彼は春の陽射しを浴びてもこもこUP、お日様の匂いがする。
 ついでに甘いクッキーの匂いも漂って来るのは、懐に忍ばせた大量のクッキー手裏剣のせいだ。
 個別包装はしてあるけれど、密閉じゃないから匂いが漏れるのは仕方ないね!
 お日様とクッキーの匂いを撒き散らしながら、サッシュにカットラスを挟みマスケット銃を背負った黒猫忍者は青の幽霊船に飛び移る。
 黒猫NINJAたるもの単独行動は当然でしょう。
 作戦何それ美味しいの?
 クッキーの方が美味しいよね。
 遁甲を使って気配を消しつつ物陰に潜めば、黒い船体と同化して見えなくなる――筈が。
 お日様とクッキーの匂いが、強烈にその存在をアピールしまくっている!
(仕方がありません、忍ぶのは諦めましょう)
 シノビを捨てた忍者は、敵の前に堂々とその姿を晒した。
 いや、晒す前から敵に囲まれてるけどね!
 黒猫忍者、絶体絶命のピンチ。
 だがしかし、彼には究極の猫の手、いや奥の手があったのだ。
「猫影手裏剣・烈!」
 棒手裏剣の代わりにクッキーを投げる、と見せかけて!
 食べ物を投げてはいけないのです。
 節分などの例外もあるけれど、基本的に食べ物は丁寧に扱うべし。
「これは料理人の、いや人としての基本なのです」
 コクり。
 だから、きちんと手渡しするのだ。
 心を込めて作ったクッキーだから、渡す時も心を込めて、ひとりひとり丁寧に。
 ネコ型やナイフの形、お魚、船、丸くデフォルメされた骸骨…海賊っぽい形をモチーフに前の晩から頑張って作った力作の数々。
「どうぞ、食べて下さい」
 あ、良かったらお茶もありますよ?
 懐柔成功。
 戦わずして勝つ、これが黒猫忍者スタイルなのだ。
「ところで食堂はどこでしょうか〜?」
 食材を敵海賊より救出し、美味しい料理を作るのです!
 きりり。

「姫は何処でありますか!」
 天水沙弥(jb9449)は敵船に乗り込むと、船首目指して突っ走る。
「姫…人質は、船首像に縛り付けられていると、相場が決まっているのであります!」
 邪魔する敵は、容赦なくぶっとば…せる自信はないのであります!
「自分はLVが低く戦闘力は皆無…無念…!」
 しかし、だからといって諦めたらそこが終点なのであります!
 戦闘は肉弾に限らないのであります!
 そう、この世にはジャンケンという素晴らしい勝負法があるではないですかー!
「正々堂々、真っ向勝負なのでありますっ!」
 せーの、じゃーんけーん――ぽんっ!
「勝ったのであります! 悪には、正義の鉄槌なのであります!」
 海賊は悪!
 でもちょっと待って。
「自分も海賊なのであります…正義は何処でありますか!?」
 まさか、正義は死んだのでありますか!?
 いや、そんな筈はない!
「…ま、まあ、正義は自分に! 自分と言う正義の名の下、悪には正義の鉄槌を!」
 さっきジャンケンで勝ったのだって、きっと自分に正義があるから!
 というわけで。
「人質は返して貰うのであります!」
 沙弥は船首像に手をかけて――
 って、違う! それ違うから、人質じゃないから!
 持って帰っちゃダメー!

「人質の姫は必ず救出するよ。レディを取引材料にするなんて許せないからね…」
 赤の海賊ルティス・バルト(jb7567)は、建築士だった。
 勿論、この船を設計したのも彼自身――という設定だ。
 だから幽閉場所の大体の見当も付く。
 ルティスは海賊仲間のユウと協力して、人質の救出に向かった。
 その前に自陣に捕らえられた「姫」も秘密裡に逃がしてやろうかと思ったが…うん、あれはどう見ても姫じゃないね。
 逃げろと言っても絶対に従いそうもないし。
 なので、ここは素直に敵陣に向けて一直線。
 目星を付けた怪しい場所を目指す――
「っと、いくらレディファーストとは言え、レディに先陣を切らせる訳にはいかないね」
 飛び出そうとしたユウを制し、ルティスは自分が先に立つ。
 立ち塞がる敵が女性なら、すかさずウィンクと共に一輪の薔薇を手渡して懐柔だ。
「すまないね、お嬢さん。悪いけどここを通してくれるかな…?」
 手を取って至近距離で見つめられ、甘い声で囁かれれば、大抵の女性は素直に頷いてしまうだろう。
 流石はナンバーワンホスト、プロの技術は半端ない。
 相手が男だったら?
 興味ないね。
 でもちゃんと戦うよ、同行するレディに怪我をさせる訳にはいかないからね。
 ルティスが初手で相手の動きを抑え、続くユウが遠距離から投げナイフや長銃でトドメを刺す――と言っても殺傷能力はないが。
 連射は出来ないから、銃はその場限りの使い捨てだ。
 しかし、その代わりに何丁も背中に背負って、ナイフも体中のあらゆる場所に忍ばせてある。
 そこらに落ちているナイフを回収して再利用するのも海賊流の戦い方だと、調べた本に書いてあった。
「あそこから船内に突入するよ」
「はい」
 二人は樽の影に身を隠し、或いは頭から被って少しずつ動きながら目的地へと近付いて行く。
 最後の難関、扉の前に立った見張りはルティスが被った樽を投げ付けて注意を逸らし、飛び出したユウが薙ぎ払いでドアごと吹っ飛ばした。
 わりと容赦ないね。うん。
 そして部屋に飛び込んだ二人の目に映ったのは――
 すっかり寛いでいる、りりかの姿だった。
「あの、迷惑は掛けなかったでしょうか?」
 念の為にユウが訊ねるが、勿論そんな事はない。
 もう一人の人質に関しては…まあ、その、あれだけれども。
「たたかうなんて出来ないから仲良くしたいの、です」
 見張りに対して友達汁を使ったりりかは、彼等をすっかり手懐けていた。
 お茶とお菓子で楽しく談笑しつつ、まったり寛ぐ。
 勿論、手足のロープはとうに解かれていた。
 つまり、彼女は自由。今ここに留まっているのは、彼女自身の意思だった。
 だから助けが来ても、りりかは動かない。
「さあ姫、船に帰ろうか」
 ルティスがお姫様だっこを申し出ても、丁重にお断り。
 だって彼氏に怒られちゃうし、それに。
 りりかには重大な使命があるのだ。
「あの、お二人にも協力してほしいの、です」
 実は――ごにょごにょ。
「レディの頼みとあらば、断る訳にはいかないね」
 ルティスがウィンクを返す。
「わかりました、それが海賊の流儀なのですね」
 ユウもこくりと頷いた。
 こうなったら覚悟を決めて、最後まで付き合おう。


●反乱の狼煙

 赤の海賊船で迷子になったハルは今、砲台の前に立っていた。
「…なんだろう、これ…」
 なんだか紐が付いてるみたいだけど。
 これを引っ張ったらどうなるんだろう。
 ドキドキしながら引っ張ってみる。
 ――どっかーん!
「…わぁ、凄い音、なんだよ…」
 飛び出したのは紙吹雪だ。
 試しに隣の大砲も撃ってみる。
「…こっちは、花火…?」
 ちょっと楽しくなってきたから、片っ端から撃ってみようか。
 どーん!
 どどーん!
 派手な音と共に飛び出すのは、クラッカーに万国旗、中にお菓子が詰まった砲弾――あ、こっちは水鉄砲だ。
 その時、青の幽霊船からも反撃の砲弾が飛んで来た。
 中身は…え、鳥の餌?

 大砲に取り付いているのはUnknown、だがしかし、彼はすぐに飽きて他の遊びへ興味を移していく。
 爆竹とねずみ花火を炸裂させた所にパチンコ玉を大量投下してみたり、練りからし+わさび+鷹の爪を詰めた竹輪を銃弾代わりにした謎の長銃で誰かの口を狙ってみたり。
 張り切って料理を作ろうとしていたカーディスの目の前で冷蔵庫ごと食材を全部食べて、彼を失意のどん底に突き落としてみたり。
 いや、悪気はないと思うんだけど、多分。
 そして食後のお昼寝タイムは起こすな危険。

 その頃、全ての大砲を撃ち終わったハルは、何とか目的の場所まで辿り着いていた。
 しかし彼がそこで見たものは――荒ぶる料理長の姿。
「何だと、青の船にも食材がない!? なければ陸に上がって調達して来い、僕に料理を作らせろ!」
 えーと、こんな展開は想定してなかったんだけど。
「ハル、どうすれば…いい?」
 じゃあ、とりあえず赤の海賊と一緒に買い出しに行ってくれるかな。
 お目付役という事で!

 何だかおかしな事になってきた。

 そればかりか、何やら不穏な空気が漂い始めた様な――?

「さぁ…作戦を決行するの」
 りりかは立ち上がり、スカートの下に隠した投げナイフと長銃を取り出す。
 今こそ、内部からこの青の海賊団を潰し、黒の海賊団を立ち上げるのだ!
 甲板に駆け上がったりりかは狼煙を上げ、青い帆を黒に――
 あ、そう言えば帆は既に全部真っ黒だったっけ。
 黒地に白の髑髏マークも入ってるし、船長は黒いし…あれ、もしかして反乱の必要なかった?
「いや、りんりん! それは違うで!」
 狼煙の合図を受けて青の船に戻ったゼロが合流する。
「船長を倒さな、この船を乗っ取った事にはならん」
 その言葉に、りりかはこくりと頷いた。
「少しあばれてみるの、ですよ?」
 いざ、船長室へ!

 一方その頃、赤の船でも異変が起きていた。
「…船長、か」
 一等航海士、ヤナギ・エリューナク(ja0006)はラム酒を一口飲むと、忌々しげに呟いた。
「ヤツには勿体無ェ椅子だゼ。その椅子、俺が貰ってやらなくも無ェ」
 手にした瓶を床に叩き付け、吠える。
「もう従順なフリすンのは飽き飽きなンだよ!」
 そんなわけで、反乱だ。下克上だ。
 ヤナギは変化の術で船長に化け、予め用意しておいた少しダブついた船長服を着込む。
 術で化けられるギリギリの範囲だが、大丈夫、何とかなった。
 後は後ろからそーっと近付いて…
(振り向いた後の顔が見てみたいモンだゼ。ま、その前にグーパンチだケドな)
 だがしかし、船長の座を狙っているのは彼だけではなかったのだ。

(赤の船長…は、ボクだ! この船、貰っちゃうよ)
 肩にオウムならぬヒリュウを留まらせた水夫長、さんぽもまた虎視眈々と機会を伺っていたのだ。
 今こそ赤でも青でもない、紫の海賊団の旗揚げだっ!
「さぁ船長、この船の船長の座をかけて、ボクと勝負だ!」
 サーベルを抜き、決闘を挑むさんぽ。
「ボク、ちゃんと船長の弱点知ってるもん、行けっコチコチ音するワニ♪」
 それはどう見ても、甲板でビチビチしている只のストレイシオンだが、静馬船長なら引っかかってくれるって信じてる!
 しかしそれは、ヤナギが化けた偽船長だった!
「面白ェ、お前も船長の座を狙っていたとはな」
 不敵に微笑み、ヤナギもまたサーベルを抜き放つ。
「この際だ、邪魔者はさっさと消えて貰おうか」
 だが、さんぽは怯まない。
 彼にとってもまた、これはライバルを減らすまたとないチャンスなのだ。
「ボクだって負けないよ!」
 さんぽは元ニンジャ、変化の術の弱点は知っている。
「今、その術を解く事は出来ない。何故なら、元の身体にその服は小さすぎるからね!」
 今ここで戻れば、きっと服がパァンするよ!
 慣れない身体で戦うのは、けっこう大変なんだから!
 化けられるギリギリのサイズなら、身体感覚の差違は相当なものだろう。
「ぐ…っ」
 決闘になったら元のサイズに戻り、変化の術を迅雷に換えて細やかに動き回って翻弄するつもりだったのに。
 かといって着替えに戻るのもカッコ悪い気がするし。
 ヤナギ一等航海士、大ピンチ!
「だが…要するにこの姿のまま勝ちゃァ良いンだろ?」
 やってやろうじゃねぇか。
「俺が勝ったら船長の座、確と貰い受けるゼェ」
 ここで勝てるなら、本物の船長にだってきっと勝てる。
 いや、勝つ!
「甲板掃除なンざゴメンだからな」
 勝負に負けたら甲板掃除とイモの皮むき、これ海賊の掟。

 そして本物の船長はと言えば。
「待つで御座る、返すで御座るぅ!」
 宝箱を持って逃げる侵入者を追いかけていた。
 侵入者の正体は九十九とライム、人質を見捨てて逃げた後、とうとう宝物庫に辿り着いたのだ。
 そこにただひとつ、ぽつんと置かれていた宝箱を頂戴して来たのだが。
「それは自分の宝物で御座るぅ!」
 赤の船長の私物と聞いて、箱の中身は大体想像が付いた気がする。
 多分あれだ、本人以外にはその価値が理解しにくいタイプのコレクションとか、そういったものだろう。
 しかし今更素直に返す訳にもいかず、宝箱を持ったまま九十九はひたすら逃げるが――
「ご安心下さい船長、無事に取り返して差し上げますよ」
 赤のインテリ参謀が縮地を発動、あっという間に追い付き、その手から箱を奪い取った!
 だがしかし。
「船長、この箱を返して欲しければ…」
 ニヤリ、参謀は意地の悪い笑みを浮かべる。
「船長の座を明け渡しなさい」
 ここにも居ました、裏切り者。
 この参謀、実は黒の海賊団の一味だったのだ。
 こういうのは楽しんだ者勝ち、だから手段も選ばない!
「船長が可愛いのがいけないのですよ…☆ こうしなければ…手に入らない…」
 さあ、どうなる赤の海賊団!
 どうなる静馬船長!

「ほう、君がこの船を乗っ取ろうと言うのかね」
 場面は変わって、幽霊船の船長室。
 そこでは骸骨船長とハリセンツッコミ隊長が一触即発の状況で睨み合っていた。
「よかろう、では丁重にお相手を差し上げるとしよう…呪われても知らんがね」
 ゆらりと立ち上がった骸骨船長は、サーベルとフックの二刀流。
 対するゼロはハリセン二刀流、どちらが強いかいざ勝負!
「フハハハハハ! 全て俺の手の中や!」
 お宝も美女も、全て手に入れてやる!
 そんなものがあれば、だけどな!


●勝負の行方

 甲板の上では、マリアと耀華のダンスバトルが続いていた。
「それで結局は誰が勝ったのかしら?」
「知ラナイアル、興味ナイアルネ!」
 それよりも、重要なのはこの勝負。
 だが、そろそろ日没も迫り、互いの顔にも疲労の色が濃く見え始めていた。
「…っふ、やるわねぇ、貴女。カワイイだけじゃないのねン。名前は?」
「ヤオファ…仲間ハ、ニーハオ、呼ブアル」
 どちらからともなく踊るのをやめ、二人は互いの技を称え合った。
「そう。アタシはマリアよぉ。ニーハオ、貴女のダンス、とっても美しかったわン」
「ム…マリアノ舞モ素敵アル。流石ワタシノライバルアルネ…!」
 決着はひとまずお預けといこうか。
「取リ合エズ、陸デ酒デモ飲ムアルヨ」
「そうね、今宵は存分に酌み交わしまショ」
 ただし、船上パーティで。

 ほら、準備も出来たみたいだし。

「さあ、これでもくらえー!」
「美味しいクッキーもあるのですよー」
 青と赤の料理人が、仲良くテーブルをセッティング。
「喧嘩の後は宴会と相場が決まっているので御座る!」
 大事な宝箱を抱えた源一が、早速席に着く。
「赤も青も紫も黒も、皆で飲めやさわげの大宴会で御座る! わーっはっはっは!」
「ふむ、船の上でバイキングというのも良かろう」
 その隣にはヴォルガが座った。
「皆でわいわいしようじゃないか」
「皆さん、チョコをどうぞ…なの。おわったらみんなで仲良くなの…」
 りりかが手作りチョコを配って歩く。
「皆お疲れさま! 乾杯しよ、乾杯!」
 グラサージュは皆に飲み物を注いで回った。
 続のグラスには、ちょっと多めに注いでみたりして。
「今日はありがと! また一緒に遊んでね♪」
 キャプテン若杉は、眼帯を外して遠近感の戻った目で会場をキョロキョロ。
(かわいい女海賊はいないかな…)
 探して眺めるだけだけどね!
 目が合ったのは、ハルと沙弥――いや、二人とも男の子だから!
 ヤナギとジェイドは早々と酒を煽っている。
 あ、ライムさんには鶏のササミで良いかな?

 さあさあ、ギャラリーの皆さんも遠慮なく。
 一緒に食べましょう!


 結局のところ一番強いのは、サーベルでもフックでもハリセンでもなく――
 皆のお腹と心を満たす美味しい料理だった、らしい?

 すっかり暗くなった夜空に、大輪の打ち上げ花火が咲く。
 それは、いつの間にか姿を消したUnknownが大砲に詰めていったものだった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:14人

Eternal Flame・
ヤナギ・エリューナク(ja0006)

大学部7年2組 男 鬼道忍軍
万里を翔る音色・
九十九(ja1149)

大学部2年129組 男 インフィルトレイター
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
大海原に覇を唱えし者・
ジェイド・ベルデマール(ja7488)

大学部6年68組 男 ルインズブレイド
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
正義の忍者・
静馬 源一(jb2368)

高等部2年30組 男 鬼道忍軍
遥かな高みを目指す者・
ヴォルガ(jb3968)

大学部8年1組 男 ルインズブレイド
胡蝶の夢・
尼ケ辻 夏藍(jb4509)

卒業 男 陰陽師
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
撃退士・
ロジー・ビィ(jb6232)

大学部8年6組 女 ルインズブレイド
Cherry Blossom・
華桜りりか(jb6883)

卒業 女 陰陽師
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
優しさに潜む影・
ルティス・バルト(jb7567)

大学部6年118組 男 アストラルヴァンガード
久遠ヶ原学園初代大食い王・
Unknown(jb7615)

卒業 男 ナイトウォーカー
圧し折れぬ者・
九鬼 龍磨(jb8028)

卒業 男 ディバインナイト
鳥目百瞳の妖・
百目鬼 揺籠(jb8361)

卒業 男 阿修羅
七花夜の鬼妖・
秋野=桜蓮・紫苑(jb8416)

小等部5年1組 女 ナイトウォーカー
スプリング・インパクト・
マリア(jb9408)

大学部7年46組 男 陰陽師
輝光戦隊ゲキタイジャー・
天水沙弥(jb9449)

大学部2年245組 男 阿修羅
恐ろしい子ッ!・
ハル(jb9524)

大学部3年88組 男 アストラルヴァンガード
有志者事竟成・
王・耀華(jb9525)

大学部2年159組 女 陰陽師
『楽園』華茶会・
グラサージュ・ブリゼ(jb9587)

大学部2年6組 女 アカシックレコーダー:タイプB
阿修羅四天王・
幸宮 続(jb9758)

大学部2年38組 男 阿修羅