――バァン!
「今! でぃばいんないとが熱いと聞いて! やってきました!」
マリス・レイ(
jb8465)は、勢いよく扉を開けて部屋に飛び込んだ。
しかし。
「え? なに? 録画中?」
振り向いた人々から一斉に「しーっ!」と言われ、マリスは改めて室内を見回してみる。
そこではインタビューらしきものが行われていた。
面白そうだから、ちょっと聞いてみようか。
「諸君 私はディバインナイトが好きだ」
のっけから濃い人がいる。
「諸君 私はディバインナイトが大好きだ」
大事な事だから何度でも言っちゃうのは、現時点で最も多くの経験を積んだ騎士、ラグナ・グラウシード(
ja3538)だ。
「そう! 心の底から!(`・ω・´)」
故に彼は、今後も変わる事なく未来永劫ディバインナイトであり続ける。
何があっても専攻を変える事はない。
「ディバインナイトは、かっこいいのだ!」
その決意を受けて、ラグナに注いで豊富な経験を持つ星杜 焔(
ja5378)がしみじみと頷く。
戦闘依頼には数える位しか参加していないが、戦うばかりが撃退士の仕事ではないし、それも貴重な経験だ。
マイクを向けられ、彼は蕩々と淀みなく語り出した。
まるで前もって台本を暗記して来たかの様に!
「一般人だった当時の俺は銀髪碧眼で、それが珍しいのか女の子に話しかけられる事が度々ありました。でも趣味の話につい熱が入っちゃって、お友達にはなれませんでした」
どうしてでしょうね、飛び散る血肉って良いよね萌えるよねって言っただけなのに。
「でもアウルに覚醒して久遠ヶ原学園に入学、専攻をディバインナイトにした俺は紳士的対応を習得したんです。そうしたら執事喫茶やホストクラブの仕事でも大活躍ですよ、今までずっとガテン系ばかりだったのに!」
周囲に紳士的な人物と誤認――いや洗脳、違った外見詐欺?
あ、ここはオフレコで。
「まさかの学生結婚に子供にも恵まれ、彼女いない歴=年齢だったのが嘘のように毎日が幸せです^^」
血は繋がっていないが、そんな事はどうでもいいのだ。
二人の先輩が自信満々に語る様子を、専攻を変えたばかりの桐原 雅(
ja1822)は眩しそうに見つめていた。
その志を訊かれ、雅は答える。
「よく大怪我をする大切な人を、護れるようになりたいと思って」
一通りの事は座学で教わった。
「でも、やっぱり実際に体動かしてみないとしっくりこないもんね」
一人であれこれ悩むより、まずはやってみる事。
幸い、今回はベテランの技を間近に見て学ぶチャンスでもある。
次に、マイクはメリッサ・アンゲルス(
ja1412)に向けられた。
「我は騎士を目指しておる」
何やらとても偉そうな感じで腰に手を当て、堂々と言い放つ。
その目指す騎士により近いのはディバインナイトか、それともアストルヴァンガードか――散々迷った末に決めた今の専攻に悔いはないが。
「この機会にディバインナイトの事をもっと良く知りたいと思ったのだ」
「それは良い心がけだね!」
九鬼 龍磨(
jb8028)が満面の笑みを浮かべながら頷く。
「君の様な生徒の為に、僕達がその魅力を全力で伝えよう!」
ディバはトップスターって柄のジョブじゃあないけど、かっこいいんだから!
これを機に専攻する人が少しでも増えてくれると嬉しいな!
「先輩方、よろしくなのだ!」
メリッサは頭を下げる代わりに、左手を腰に当てたまま、まるで宣誓をするが如くに右手を高々と掲げた。
その姿は既にして立派な騎士の様で――ナリが小さいのは仕方がない、まだ一桁の年齢なのだから。
しかし大切なのは心意気、ましてや本人のイメージ次第で何でも出来るバーチャル世界では、尚更それが重要なのだ。
それを見ていたマリスは目をキラキラ。
「聖なる騎士とかなにそれちょーかっこいい…!」
このちょーかっこいいでぃばいんないとを、今からバーチャル体験するのだ。
「バーチャルとかなんか超わくわくするよね…! 未来のかおりがする!」
やってみたい。
いや、やるしかない!
「でもディバってどんなジョブだっけ?」
マリスは慌てて学園の案内パンフレットを引っ張り出す。
そもそもジョブの差なんて気にした事もなかった系、今のジョブだって何となくその場のノリで決めた気がする。
戦闘だって、とりあえず殴れば良いんだし、殴り負けなければ勝ちだよね――って、違う?
そんな貴方の様な生徒の為に、この企画は生まれたのです。
「そんじゃま、一丁いいとこ見せるとすっかね」
誰かがマリスの手からパンフレットをひょいと取り上げた。
「こんなもんより、俺達の戦いぶりを見た方が参考になるぜ?」
彼もまた高位のディバインナイト、その彼が言うのだから間違いはない。
じゃ、行ってみようか。
●Rec
今、彼等は光り輝く白銀の鎧に身を包んでいた。
しかし重さは感じない、それどころか――
「おお、体が軽いのだ! より素早く守りに行けるという事だな!」
ぴょんぴょんと身軽に跳ねながら、メリッサが感嘆の声を上げる。
それは単にバーチャルだから、ではない。
実際にディバはアスヴァンよりも行動順が早いのだ。
学園を背に、守るべきは逃げ遅れた人々。
いや、人ばかりではない。犬や猫だって守っちゃうよ!
「守り切って、仲間や皆をぎゅーっと、抱きしめたいなぁ…♪」
勿論、自分がいい夢を見るだけではなく、ディバのアピールも忘れずに。
(でもちょっとだけ、ちょっとだけ許されるなら…)
とあるイメージが龍磨の脳裏に浮かぶ。
(こっそり、一瞬だけ、可愛くなってみたい、かな?)
いや待て。
(なしなしなし、今のなし! 何考えてるんだ僕は!?)
龍磨はそれを必死で振り払おうとするが、キューピッドくん28号は無駄に高性能だった。
その思考はばっちり捕捉され――
と、そこに敵が現れた。
それはもう黒い塊にしか見えない程の大軍で。
しかし彼等は一歩も退かない。
「学園に迫る強大な天使と冥魔の混成部隊…それを阻みしは栄えある7人の聖騎士!」
龍磨のナレーションが入った。
でも、あれ?
今なんか8人いた気がするんだけど、気のせいかな。
しかもすっげぇ可愛い美少女が。
それは先程の妄想が具現化したものだが、今はそれを気にしている場合ではなかった。
「雄々しく美しく戦い、皆を守り切るその勇姿をとくとご覧あれ!」
リアルのレベルもスキルも装備も関係ない。
ここでは皆が最強の騎士だ!
「さあ、見せてやろう…我ら神聖騎士の本当の強さを!」
ラグナの声に、それぞれが自分の持ち場に散った。
まずは最前列に立つ者達が敵の目を引き付ける。
「ここはおれがくいとめる、おまえはさきにいけ…! みたいなやつでしょ!」
それはあかんフラグだが、ここでは大丈夫、だってバーチャルだから!
「この学園はあたし(達)が護る…!(きり 」
タウントできらっきらに輝くマリスのオーラはぴんく色!
「でぃばいんないとすごい! 今のあたし(物理的に)輝いてる…!」
続いて雅も普段は隠しているオーラを解放、自らの存在を強烈アピール!
すると、敵の目が一斉に彼等の方を向いた。
だらしなく広がった敵の前線が楔形に収斂する。
鋭く突き刺さる楔の先端を、雅は緊急活性した盾で受け止めた。
「すごい、まるで敵の行動を自在に操ってるみたいだ」
先輩達には当たり前の事かもしれないが、ディバ初体験の雅にとっては新鮮で、感動的でさえあった。
「ここは通さぬ!」
メリッサは不動の構えで仁王立ち、背中に小さな子供達を守る。
攻撃を受け止める事が出来たとしても、押し負ければ彼等も危険に晒されるだろう。
しかし彼女の足は大地に吸い付く様に微動だにしなかった。
「決して弾き飛ばされず前に立って守ってくれる、これは非常に安心感があるな!」
堅実防御で仲間に指示を与えれば、自分だけでなく全体の生存率も上げられる。
「…素晴らしいな!」
その指示を受けて、雅はリジェネレーションで回復しつつ敵集団の猛攻を耐え凌いだ。
大きく広げた自身の光翼で仲間を庇い、ひときわ身体の大きな鬼の一撃も踏みとどまって受け止める。
「もう無敵って気がしてきたよ…!」
「そう、我らは無敵だ!」
シャイニング非モテオーラで煌びやかに輝くラグナは、銀の盾で余裕の防御!
「私は盾…人々を護るための盾! 貴様ら、汚らわしき悪しき天魔の攻撃など通しはしないッ!」
撃退士の本分の一つ、それは護る事。
「笑って、泣いて、愛して憎んで…善悪全てをひっくるめて、学園の、世界の暮らしを護りたい」
だから龍磨は自らの傷を顧みず立ち塞がり続ける、不落の壁になる!
「聖なる騎士はこの程度の攻撃で膝を屈したりしないのよ…!(どやぁ」
マリスも不動と不落の守護者で踏ん張り、耐え抜いた。
学園の敷地内に住む、全ての猫の為に!
しかし、それだけが彼等の魅力だと思われては困る。
「ディバインナイトってのは、護るだけが能じゃないんだぜ」
玲治は味方の壁をすり抜け、光る拳を大きく振りかぶった。
狙うは冥魔、元々CR差が大きい所をオーラで更に広げ、神輝掌を叩き込む!
中ボス級の敵も一撃で吹っ飛ばす、このパワー!
「攻撃の後にも隙なんざねぇぜ」
上げまくったCRもニュートラライズで一瞬にしてクリア、他の敵から反撃を受けても、その攻撃に合わせて腕を交差させて受け止める!
完璧だ。
「それに得意な間合いは近距離ばかりじゃないんだよ〜」
壁の後ろから焔が銃撃を加えた。
聖火で銃の威力を上げる事も出来るし、飛び道具がなくても遠距離攻撃の出来るスキルがある。
壁を回り込んで来た敵をフォース(虹色魔弾)で弾き飛ばして近寄らせない事も出来る。
相手が冥魔なら神輝掌(花祈り)でCRを上げて一気に殲滅だ。
「様々な状況に対応できるよね〜」
ここで反撃を受けると死の淵をさ迷いかねないが、そこで心盾(ニュートラライズ)の出番だ。
更には――
「砕け散れッ、リア充!」
ラグナのフルメタルインパクトが炸裂する!
彼の場合はリア充粉砕撃と成り果てているが、相手がリア充でなくても威力は絶大だった。
そして龍磨は並渦虫(リジェネレーション)で自己回復、防壁陣と庇護の翼で味方をカバーしつつ、ずかずかと威圧感たっぷり敵に歩み寄る。
受け防御から隙を衝いてのフルメタ略が急所に叩き込まれた!
「すごいなーあこがれちゃうなー」
仲間の勇姿に、メリッサは思わず等身大の子供に帰って感嘆の声を上げる。
「しかし我も負けてはおれぬのだ!」
ディバの能力は戦いに関する事ばかりではなかった。
「…! おのれ冥魔め、だが我ら騎士の目は誤魔化せぬぞ!」
冥魔認識があれば、擬態して一般人に紛れ込んだ敵だって、簡単に見破る事が出来るのだ!
発見した敵をフォースで弾き飛ばし、飛ばされたそれは雅が一刀両断!
ディバの魅力はまだまだあるぞ!
これが最大の見せ場!
「我らは他者を敵攻撃から庇うことが出来るのだ!」
ラグナがその身を挺して守ってきた人数は20人を下らず、多くの者がその働きに心からの感謝と賛辞を贈って来た。
しかし残念ながら今までは、どんなに頑張ってもそれが感謝以上の何かに発展する事はなかったのも事実。
多分スキルの名前が「ドMの極み」になっちゃってるのも敗因のひとつなんじゃないかと思う。
だが今は! 今だけは!
「…大丈夫ですか、美しいお嬢さん」
甘い何かが芽生えたって良いじゃない、夢なんだから!
「しかし今は暫しお待ちを」
残りをちゃちゃっと片付けて来ますからね!
他にも小天使の翼とか便利スキルは色々あるけれど、そこはもういいや(酷
ザコを片付けて、さっさとラスボスに突撃だ!
しかし、ここで異変が起きた。
「おかしいな、全然上手くいかない」
雅は首を傾げる。
さっきまでは全てが上手く行っていたのに、いざボス戦となったら何か勝手が違う。
「先輩たちはあんなに立派に戦ってるのに…強敵相手だと、慣れた阿修羅の動きが出ちゃうのがいけないのかな?」
一旦下がって、守りに徹しながら皆の戦い方を観察する事にした。
「先輩の動きをよく見れば、何かヒントが掴めるかな?」
ところが、頼みの先輩達もまた窮地に――
いや、それは打たれ強さをアピールする為の演出だった。
それに、ピンチからの逆転は燃える。
「この程度じゃ俺らは倒れないぜ…」
額から流れる血を舐め取りながら、玲治は不敵な笑みを浮かべた。
敵の攻撃をまともに喰らっても倒れない生命力の高さ、それもディバの強味だ。
そして受けた傷は自分で治す。
「今の内に回復を〜」
代わって前に出た焔は銀の盾に不落の守護者を発動、決して倒れず玲治の復帰を待った。
BS? 効かないね。
その身に寄り添う小さな蝶が、虹色にゆらめく炎を纏った羽根を羽ばたかせると、受けた傷が見る間に癒えて行った。
「そうか、同じスキルでもそれぞれに個性があるんだ」
雅は気が付いた。
大切なのは自分に合った使い方だと。
「ボクの場合は攻撃的防御かな」
阿修羅とディバ、両方の長所を合わせた、自分だけの技。
盾で受け止めるのではなく、こう――
巨大かつ凶悪なボスが繰り出す超強力な攻撃を蹴りで迎え撃ち相殺、相手が体勢を立て直す暇も与えず追撃のフルメタ略!
決まった。
思わずたたらを踏むボスに、仲間達の総攻撃が叩き込まれる。
「聖なる騎士は勝つ!」
メリッサが輝く剣を天に掲げた。
それに呼応して円陣を組んだ仲間達の剣がひとつに合わさる。
我ら、無敵の聖騎士団!
「やばいディバインナイトちょうかっこいいオススメ…!」
マリスは目をきらっきら。
「転職したらモテモテ間違いなしだね…!」
「そう、この私の様にな!」
ラグナは助けた美女(複数)に囲まれて、キスの嵐に酔い痴れていた。
これなら一人くらいお持ち帰り出来るかも?
そしたらめでたく未使用美品が使用済みに、かも? かも?
夢だけどね!
夢だから、でぃばいんないとのかっこいいオーラでにゃんこにだってモテモテ!
夢だから、見上げるほどの甘味の山に突撃しても許される!
「俺の夢は守りきった…」
夢じゃなくても、トーチで焚き火も楽々だよ!
さあBBQだ!
「ディバインナイト、さいこ〜」
食べ終わったら皆で騎士様ごっこして遊ぼうね!
「撃退士は守りこそが本分、と授業で習ったのだ」
やがて現実に戻ったメリッサが、納得した様に頷く。
「守りが本分であるディバインナイトこそ、学園の理念を最も体現した存在なのかも知れぬな」
それはそうと、ずっと気になっていた事が。
「…ところで『ぼっち』とはなんなのだ?」
よいこは知らなくていい事です。
そして後日。
彼等が作り上げたバーチャル世界を再現した映像が公開される事となった。
その評判は上々、これなら専攻者も――増えると良いな。
いや、きっと増えるよ!
――多分。