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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/04/22


みんなの思い出



オープニング



 春は出会いと別れの季節。
 そして社会人にとっては異動の季節でもある。
 撃退署に所属する公務員である撃退士達にもまた、この四月に配置換えになった者達がいた。


(あ、オレ死んだ)
 撃退庁東北支部の組織下にある、とある撃退署。
 久遠ヶ原学園を卒業して三年目になるその撃退士は、異動を言い渡された瞬間に確信した。
 彼の異動先は、常に多くの怪我人を出す事で有名な、あの黒田班だったのだ。


「オレの撃退士人生も短かったなぁ……」
 その日の昼時。
 クリームソーダのアイスをストローでつつきながら、食堂の隅で片肘を突いた男は溜息を吐いた。
 隣の席では、これまた浮かない顔をした同僚が自棄食いの様に大盛りの定食をかき込んでいる。
「しょうがねぇだろ、決まっちまったモンは」
 どうやら彼も同じく黒田班への配属が決まったらしい。
「こうなったら腹括って、メシ食いまくって体力付けて、ちょっとやそっとの事じゃ怪我なんぞしねぇ丈夫な身体を作るっきゃねえ!」
 大盛りライスに焼き肉、トンカツ、鶏の唐揚げ、野菜なしという偏ったメニューで丈夫な身体が作れるとは思えないが、それはともかく。
「二人とも災難だったね」
 その向かいでクールにコーヒーを飲む三人目が、他人事の様に笑った。
 いや、確かに彼にとっては他人事なのだが。
「お前は良いよなー、安心安定の朝倉班で」
 羨望の眼差しを向けられ、三人目のクールガイは静かに微笑む。
「でも、知ってるかい? 黒田班は怪我人こそ多いが、今までに死者は一人も出してないって事」
「「え?」」
 向かい側の二人が同時に顔を上げる。
「そうなんだよ、あの人……やたら無能って言われてるけど、不思議と運だけは良いんだ」
 黒田はV兵器の開発以前から撃退士として天魔と戦って来たベテランだ。
 特に撃退士としての技量に優れている訳でもないし、指揮能力に至っては「いない方がマシ」なレベルだ。
 ただ、ろくな対抗手段も持たない頃から前線で戦い、今まで生き延びている、それだけは事実だった。
「まあ、はっきり言って今の組織じゃ戦力にはならないんだけどね。でも、それなりに貢献はしてきた人だから、上の方でもあんまり冷たくする訳にはいかないだろ?」
 本来なら事務方などの後方勤務や、肩書きだけは立派な閑職にでも就かせるべきなのだろう。
 だが本人に一線を退く気はなかった。
 上層部に友人知人が多いのも、長く勤めて来たベテランならではの弊害――いや、強みと言うべきか。
「それで、管内では比較的安全だと思われていたダルドフの支配地域を担当する事になったわけ」
 あの地域はダルドフによる支配も安定し、こちらから手を出さない限りは、ただ監視を続けるだけの簡単な仕事――である筈だった。
「でも、計算が狂った。動かない筈の山が動いちゃったんだよね」
 そして、俺がやらねば誰がやるとなって現在に至る。
「なるほどねぇ」
 すっかり溶けてドロドロになったクリームソーダをすすりながら、男が頷く。
「それだけ聞けば、まあラッキーって気もするけど……」
 とにかく、死ぬ事だけはなさそうだし。
「でも出世コースからは外れてるよな、死なないだけが取り柄のチームなんて」
 別に出世がしたい訳ではないが、手柄は立てたい。
「やっぱ死んだかな、社会的に」
「いや、そうでもないんじゃないか?」
 ズズーッと音を立ててソーダを吸い上げる男に、クールガイが言った。
「ダルドフって奴、変わり種なんだろ?」
 力だけでは折れないと、彼は言った。
 ならば力で及ばない者にもチャンスがあるのではないか。
 寧ろ黒田の様に妙な幸運に恵まれている者にこそ、勝機がありそうな気がする。
「まあ肝心の黒田さんが、僕達や学園生の話に耳を傾けてくれれば、だけどね」
「それが最大の問題だな」
 三人前の肉だけ定食を平らげた同僚が、ゲップと共に吐き出した。


 その頃、黒田は自分のデスクで例の五千人のリストを見返していた。
 リストに載った人々の職業は、何故か建設関係が多い。
 中には同じ工務店の社長から従業員、その家族までが揃って名を連ねたページもあった。
「何だ、これは?」
 呟いた黒田に部下が答える。
「事務所を丸ごと移転した様にも見えますね」
 まるで海外移転か何かの様に。
「ダルドフの支配地域は今、建築ラッシュが起きている様です。仮設住宅でも建てて、また更に人を増やすつもりなのでしょうか」
 それを聞いて、黒田は「うーん」と唸りながら腕を組み、椅子の背もたれに寄りかかった。
「すると、また同じ様に移住希望者を募って来るのか」
「その可能性はあると思いますが……」
 まさか懲りずにまた奇襲をかけるなんて言い出さないだろうな、そう思いながら部下が答える。
 だが流石の黒田も、そこに勝機がない事は理解した様だ。
 一度目は完膚無きまでに叩きのめされ、二度目には更なる圧倒的な威力を見せ付けられ――これで三度目の正直に賭けるなどと言い出したら本物の馬鹿だ。
「どうすれば、奴を倒せる」
 黒田が呟く。
「しかし……倒す必要は、あるのでしょうか?」
「当たり前だ」
 部下の反論に、黒田は迷う気配さえなく言い切った。
「天魔は敵だ。敵は倒すべきもの。それ以外に何があると言うのだ」
「しかし、中には和平交渉に応じる相手も――」
「騙されるな、それが奴等の手だ」
 天使ならばその微笑で人を惑わし、術中に嵌める事などお手の物だ。
 気を許せば付け込まれ、信じれば裏切られる。
 敵とはそういうものだ。
「やはり数で圧倒するしかないか」
 腕を組んだまま黒田が呟く。
 しかし、どれだけの数を揃えればあの化け物を圧倒出来るのか。
 それは見当も付かなかった。


 その日の夜。
 新年度の初顔合わせを終えた黒田班の面々は、早速連れ立って近くの飲み屋に繰り出していた。
「なるほど、対策会議か……」
「ね、一度しっかり話し合った方が良いと思うんですよ。あのバケモノ相手に闇雲に突っ込むだけじゃ無理だと思うし」
 新入りの言葉に、先輩撃退士はしみじみと頷く。
「俺もこの前の怪我が治ったばかりだしな……」
 いくら命に別状はなかったと言っても、痛いのはもう嫌だ。
 それにダルドフが本格的に動き出したら、今度こそ入院だけでは済まないかもしれない。
「ただ、あの人に聞く耳があるかどうか」
 やはりそこが最大の問題だった。
「でもまあ、ダメモトでやってみるか」
 酒の席に誘い出せば、後は勢いでも何でも良い。
 あの石頭を割るのは無理かもしれないが、ほんの少しヒビを入れるくらいは出来るだろう。
 或いは、石にラクガキする様なものでも良い。
「新規配属メンバーとの懇親会とでも言えば、出て来てはくれるだろう」
 後は当たって砕けろだ。
「じゃあオレ、学園の方に連絡入れときますね」
 実際に刃を交えた者の声も聞きたい。
 いや、寧ろそれがメインだ。


 かくして、懇親会という名の戦いの場が設けられる事となった。
 黒田VS学園撃退士。得物は言葉か、はたまた拳か――



リプレイ本文

「あ、黒田のおじさーん!」
 少し遅れて店に入って来た黒田の姿を見付けて、並木坂・マオ(ja0317)は「こっちこっちー」と手招きする。
「こないだの騒動で嫌われてるかもーって思ってたけど。よかったー、嫌われてなかっ…あれ?」
 見れば黒田は渋い顔。
「もしかして嫌われてた?」
「別に、そんな事はないが」
 仏頂面を崩しもせずに、黒田は丁度空いていたマオの隣に腰を下ろした。
「とりあえずビール」
 定番かつ無難な注文にも人柄が表れている、様な。
「はい、ビールですね。お注ぎします」
 早速、或瀬院 由真(ja1687)がビール瓶と栓抜きを手にいそいそと近寄って来る。
「はぁい、お久し振りねー」
 ひらひらと手を振りながら目の前に座ったユグ=ルーインズ(jb4265)は、泡立つグラスにカシス・オレンジの洒落たグラスを軽く合わせた。
「まずは乾杯♪」
 黒田がますます渋い顔になるが、今までの経緯を考えれば無理もない事だろう。
(こちらの話に、耳を傾けてくれればいいが)
 黒羽 拓海(jb7256)は烏龍茶のグラスを手に、内心でそっと溜息を吐く。
 それでもこうして顔を出したという事は、多少の脈はある…と、思いたいのだが。
(ともあれ、まずは謝罪だな)
 拓海は黒田の前に姿勢を正した。
 前回の戦いでは言葉に反して、ダルドフの『刃』を折るどころか刃毀れを付けられたかも怪しいものだった。
 それも含めて戦場での印象は恐らく既に最悪だろうが――
「その、前回の事は…力及ばず、申し訳ありませんでした」
「まったく、その通りだな」
 黒田はビールを一気に飲み干すと、大きな溜息と共に言葉を吐き出した。
「だが、それは俺達も同じ事だ。お前達は寧ろ良くやった」
「あれ、今日は『貴様ら』じゃないんだ?」
 黒田の顔を覗き込む、マオが悪戯っぽく笑う。
「多少は見直して頂けたのでしょうか」
 グラスが空になったのを見て、亀山 絳輝(ja2258)がすかさずお酌にやって来る。
「改めまして、大学部3年の亀山絳輝です! 先日は無礼な発言、申し訳ありませんでした」
 二杯目のビールが泡立つ様子をじーっと見ていたマオが、羨ましそうにぽつり。
「いいなー、アタシも呑んでみたいなー」
「お前はどう見ても未成年だろうが――こら、そこのお前もだ!」
 黒田は梅酒をロックで一杯やっている由真のグラスを取り上げようとするが。
「私は成人ですよ! ほら、学生証に運転免許証!」
「なん、だと…!?」
 そこに書かれた生年月日を二度見してから由真の顔をじーっと見て、もう一度生年月日を確認し…
「偽造だな」
「違いますー!」
 由真、涙目。


 その様子を、普通ならこんな場所には縁が薄いであろう若菜 白兎(ja2109)が隅の方でじーっと見守っていた。
(ん、お酒の匂い…苦手)
 うきゅーっ。
 それに、周りが大人ばかりというのもハードルが高くて尻込みしそうだけれど。
(でも今日は大事なお話しに来たですから、我慢して頑張らないと、なの)
 もう一方の隅では、蛇蝎神 黒龍(jb3200)が皆の話を聞くともなしに聞いている。
 酒を呑みつつ、いつかダルドフに言われた通り、つまみのサラダをちびちびもくもく。
「酒はいい、自分を測るには、自分を知るにはいい(ままならぬ自分を悟るには、そして自分を助けてくれる存在を知るには、いい薬やな)」
 呑まれず、のめり込みすぎなければ、だが。
(と言っても、底を持たないボクにはわからないけれども)
 底なしのザルだからこそ、いざという時にはストッパーにもなれるだろう。
 まあ、この分だとそうそう雰囲気が悪くなる事もなさそうだが。


 それから暫くは、当たり障りのない雑談が続く。
「私は、黒田さんのお話が聴きたいです」
「ドラマの話なら振っても無駄だぞ、TVは殆ど見ないからな」
「あ、いや、そうやなくて」
 あれは忘れて下さいと、絳輝はぷるぷる首を振った。
「なら何だ」
「別に大天使関連やなくても…ご家族のこととか、趣味とか、撃退士になってからの印象深い出来事とか、何でも良いんです」
「そんなもの聞いてどうする」
「私は貴方を知りません。貴方も私達の事を知りません。だから『お話』しませんか?」
 にぱー。
「無理しなくて良い」
 黒田はウィスキーに変えたグラスの中身を一口、喉に送り込む。
「お前達に――部下達にも、好かれていない事くらい知っている。無能と呼ばれてる事も、な」
「そんな事…」
 だが、黒田はそれを遮って続けた。
「だが、それでも俺は…撃退士を辞める気はない。辞めるわけには、いかんのだ。あいつらの敵を取るまではな」
 天魔と戦い、死んでいった仲間達。
「もう、一人もおらんのか?」
「同期も先輩も、殆どな」
 黒龍の問いに、黒田は自嘲気味に笑った。
「皆、俺より優秀だった。俺が生き残ったのは、危険の少ない軽い任務しかこなせない…その程度の能力しかなかったからだ」
 ところが――
「いや、アレは凄かった。悔しいのを通り越して笑っちゃうくらい」
 うんうんと、マオが頷く。
「規格外の強さだったよねー、あのダドルフってオジサン」
 名前間違ってるけど気にしない。
 絶対いつか追いついてみせると、拳をぎゅっと握った。
「まず生半な攻撃では傷付かない頑健さ。加えて遠距離攻撃を弾き、近接攻撃もほぼ防ぎきる全周防壁…更には本人の武技による防御」
 戦いの様子を思い出しながら、拓海がその特徴を並べていく。
「ここから、ダルドフに有効打を与えるには一定以上の攻撃力と技量、もしくは防げない数が必要と思われます」
 いや、必要なのはその両方かもしれない。
「次に偃月刀を叩き付けての衝撃波と、深紅の輝きを放っての一撃。特に後者の威力は驚異的です。これを防ぐには相当の防御力が必要になります。前者も逃げ場の無い全周攻撃で、侮れない威力を持っていいます」
 ただ、地面に叩き付けての攻撃である事から、飛行している対象には当たらない可能性がある事だけは救いか。
「少なくとも、戦うなら衝撃波の一撃で昏倒しない必要があります。それと冷静に弱点を突いてくる部分をどう防ぐかも考えないと」
 おまけに敵地に攻め込むとなれば大量のサーバントも加わる。数だけ揃えて勝てる相手ではない。
 こうして聞いていくと、黒田の特攻が如何に無謀無策であったかが良くわかる。
 だが、彼も同じ様に感じてくれるだろうか。
「今でも自分らに勝ち目があったと、そう思うとるんか?」
「いや」
 黒龍に問われ、流石の黒田も首を振った。
「だが、勝ち目があろうとなかろうと、再び襲撃があれば戦うしかなかろう」
 撃退士が尻尾を巻いて逃げたら、一体誰が人々を護ると言うのか。
「それは、そうやねんけどな」


 その時、隅の方から小さな声が聞こえた。
「あの…わたしは黒田さんのことも、ダルドフさんのこともよく知らないの」
 皆の視線が集まると、白兎は遠慮がちにぺこりと頭を下げる。
「だからわたしみたいな子供が意見する、とかする資格はないのかも、だけど…」
 しかし黒田班では仕事の度に怪我人が多く出ていると聞いて、どうしても何か言わずにはいられなかった。
「わたしは、やっぱり怪我して欲しくないなって思うの」
「怪我を怖れては撃退士など務まらんだろう」
 黒田の言葉に、白兎は慌てて首を振る。
「あ、それはそう、だし…戦うことを避けたり、臆病になってって言ってるわけじゃなくて…」
 ただ、子供の立場から言わせて貰うなら。
「…わたしのお父さんは一般人ですけど、もし撃退士で…いつも怪我して帰ってきてたら、すごく心配で心配で、心がきゅーってなっちゃうと思うの」
 皆に安心を届ける事も、撃退士の仕事のうち。
 それは一般市民に限らない。
「黒田さん自身にも、そして他の班員さんたちにも、心配する家族とかがいる事を忘れないのも大切なんじゃないかな…って」
「黒田さんのお嬢さんも、ちょうど同じくらいの年頃でしたよね」
 囁いた絳輝の声に、黒田は黙って頷く。
「それに、そんな怪我ばかりの班じゃ、班に参加する人たちも安心できない…部隊の士気も高まるはずもないの」
 白兎が続けた。
「リーダーさんと班員さんがしっかり信頼しあってなくちゃ、簡単なはずなことも上手くいかなくなっちゃうの…」
「私もそう思います」
 由真が言った。
「天使打倒を目指す気持ちは理解できます。ですが、部下の気持ちを蔑ろにした状態でそれが成せるとお思いですか?」
 黒田は答えない。
「あなたは確りと部下の事を理解していますか? …数を揃えた所で、そんな調子ではまた負けますよ」
 言いにくい事をはっきり言うのは、そろそろ酔いが回って来たせいだろうか。
「単純に戦力を増やそうとするよりも、信頼できる仲間を作ることの方が、まず大事じゃないかなって…わたしも思うの」
 だから、班員の人たちと、もっと話し合って意見を聞いて欲しい。
「班員さんは単なる戦力じゃなくて、一緒に戦う仲間なの」
 だが、黒田は首を振った。
「あいつらは駒だ」
 そう思わなければ、戦えない。
「無能な指揮官に、仲間は要らん」
 不満を募らせ、怪我をして、さっさと配置換えになれば良いのだ――有能な人間の下に。


「それは詭弁やろ」
 黒龍が言った。
 確かにただの駒なら、いくら傷付いても自分の心が痛む事はないだろう。
 だが、駒と言われた者達はどうなる。
 彼等の心が痛む事はないとでも言うつもりか。
「どうやら、キミには冷静なパートナーをつけた方が良さそうやね」
 一緒に酒を呑み、笑ってくれ、後押しをしてくれる、誰か。
「同期以外にも、そういう相手はおるやろ? おらなんだら、自分の行動を省みるんやな」
 最悪、自分達がその役目を担うしかないのだろうか。
「とにかく、冷静になる事やな。仲間や大切な人を護り想う事を忘れたら何にも勝てない…自分自身にも、な」


「黒田ちゃんさ、はぐれ天魔についてはどう思ってる?」
 ふいに、ユグが訊ねた。
 天魔はこういうものだと、決めつけてはいないだろうか。
「アタシ達だって最初は一般的な天魔だったのよ。初めから例外だったわけじゃないわ」
 ユグも昔は、人は感情の供給源となるだけの弱い生き物としか考えていなかった。
 しかしある日、人が自分よりもさらに弱い人を懸命に助けようとする姿を見てしまった。
「そこから悩んで悩んで…で、結果はご覧の通り」
 だが、同じ物を見てもそう感じない天使も当然いる。
 同じ思いを抱いても、何らかの事情で堕天が叶わない者もいる。
 例えば――
「ダルドフは人を唯の感情供給源とは見ていない。彼なりに人々を護ろうとしてるわ」
 けれど彼の立場では、全面的な協力は出来ない。
「丁度貴方と同じ、色々と抱えた立場だから思う様に動けない。そんな感じじゃないかしら…多分ね」
「うん、確かにそうかも」
 マオが頷く。
「ダドルフさんって、敵対してる天使の人だけど、なんかおチャメで悪い人には見えなかったよね」
 ちゃんとお手紙の返事もくれたし。
「あのね、『強かったね! でも今度は負けないぞ!!』って書いたら、『ぬしもなかなか面白かったぞ!』って。面白いっていうのが、ちょっと引っかかるけど」
 それに、今の状況を良く思っていないようにも見えた。
「あの時『力だけでは勝てない』って言ってたよね、それを素直に受け取って考えてみると、『社会的に勝つ』ってところを目指せってことなのかなって。ほら、勝負に負けて試合で勝つ、みたいな?」
「それを言うなら、試合に負けて勝負に勝つ、だ」
 黒田が頭を抱える。
「そうだっけ? まあいいや、意味は通じたでしょ? とにかく、最終的に天使の人達から街と人々を助け出せば、アタシ達の勝ちなんだから」
「ダルドフは先を託せる相手を待っているのかもしれないな」
 拓海が呟く。
 これまで彼はこちらの意志と力を試すような真似をして来た。前回だって全滅させても良かったのに、それをしなかった。
「俺は奴に意志と、それを貫く力を示す為に倒したいと思う。しかし殺したくはない」
 黒田はどうなのだろう。
 ここまでの話を聞いても尚、考えは変わらないのだろうか。
「結局、天魔も人間と同じ様にいろんな子がいるわけよ。そこは知っといて欲しいかしら」
 黒田がやっている事は、青い林檎の話を聞いても、林檎は赤い物だと決めつけて認めないのと同じ。
 折角情報を集めても、そこでフィルターをかけたら意味がないし、ベストな行動など選び様がない。
「一回ダルドフを天魔だってフィルター外して見てみなさいな」
 ユグは今では悪友となった黒龍と腕を組んで見せた。
「アタシ達だって、堕天前は血で血を洗う関係だったのよ?」
 人生、何があるかわからないものだ。


「黒田さん」
 絳輝が言った。
「剣で解決することを、私は否定できません。剣でしか解決できないことが沢山あることも知ってます。けれど――」
 一息溜めて、続ける。
「…けれど私は、言葉で少しでも剣を交わすことが少なくなれば、それが一番だと思います」
 立場、種族、力量が違っても。
「天使も私達も同じ言葉で感情を通わすことができることを忘れないでください」
 そして、人の子の親ならば。
「…お子さんに、力よりも大切なことがあるんだって、そう言える、かっこいい父親になってほしいです」
 子供は未来を拓くもの。
 ならば大人は、彼等がいつか拓く未来を愛せるように、現在を変えていくもの。
「このままで良いとは、思っていないのですよね?」
「それは、そうだが…」


 そこに言葉を継いだ由真は、完全に出来上がっていた。
「黒田しゃん…しょんなに殴りたいのならー、殴らせてあげるのでしゅ! 表でろーっ」
 言ってない、言ってないよ!?
 しかしヨッパライは聞く耳持たない。
「…準備してくるのれーす」
 よろよろふらふら、外に出た由真はクマーに変身!
「盾殴られ代行、或瀬院クマー! いっくまーしゅ!」
 いや、誰も殴るなんて言ってないから!
「かもん」
 くいっと手招きするクマー。
 だから誰も――
「かかって来ないのれしゅかー、ひきょーものー!」
 いや、そう言われましても。
「撃退士はー、剣だけでなく、盾も持つべきなのれしゅ! 黒田しゃんはー、剣だけのー、のーきんなのれしゅ!」
 やっぱり呑ませるんじゃなかった。
「だるどふさんは、盾も持ってましゅよ? 武具的な意味での盾じゃなくれですね?」
 ヨッパライクマーは、持っていた盾を黒田にずいっと押し付ける。
「盾をもつということー。“守る”ということー。その大切さと意味をよっっく考えるのれしゅ! その為にも、もっと、部下しゃんのいう事…を…すぴー」
 言いたい事だけ言って、立ったまま寝ちゃったんですけど。


「一応、考えてはおく」
 爆睡クマーを座敷に寝かせた黒田は、溜息混じりにそう言った。
 考えてはおくが。
「今はもう少し、お前達の話を聞かせろ」
 若い者と飲み明かすのも悪くない。
 今度は、難しい話は抜きにして――


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

魔に諍う者・
並木坂・マオ(ja0317)

大学部1年286組 女 ナイトウォーカー
揺るがぬ護壁・
橘 由真(ja1687)

大学部7年148組 女 ディバインナイト
祈りの煌めき・
若菜 白兎(ja2109)

中等部1年8組 女 アストラルヴァンガード
いつかまた逢う日まで・
亀山 絳輝(ja2258)

大学部6年83組 女 アストラルヴァンガード
By Your Side・
蛇蝎神 黒龍(jb3200)

大学部6年4組 男 ナイトウォーカー
オネェ系堕天使・
ユグ=ルーインズ(jb4265)

卒業 男 ディバインナイト
シスのソウルメイト(仮)・
黒羽 拓海(jb7256)

大学部3年217組 男 阿修羅